説明

光学補償フィルム

【課題】リワーク性に優れるとともに、フィルム同士の接着が無いセルロースアシレートからなる光学補償フィルムを製造する。
【解決手段】光学補償フィルム10は、セルロースアシレートからなり、第1及び第2表面11a,12aよりも内部における含有率が高くなるように厚み方向で可塑剤が偏在する。可塑剤はカルボン酸とジオールとのエステル結合が含まれる繰り返し単位をもつ重合体である。波長550nmの光でのReが0以上100nm以下の範囲、Rthが0以上400nm以下の範囲である。この光学補償フィルム10は、所定条件でけん化処理した後のフィルム面の表面エネルギーが50mN/m以上75mN/m以下の範囲となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学補償フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネルは、クロスニコル配置された一対の偏光板と、これらの間に挟まれ、透過する光の偏光状態を変化させる液晶セルとからなる。個々の偏光板は、偏光膜と、この偏光膜の両面に設けられ偏光膜を保護する保護膜とからなる。そして、液晶セルの光源側と視認側とに配される一対の偏光板のうち視認側の一方に関しては、偏光膜を挟む一対の保護膜のうち、液晶セルから射出される光が入射し偏光膜へと射出する一方の保護膜が光学補償機能をもついわゆる光学補償フィルムとされる。この光学補償フィルムを用いることにより、液晶パネルが組み込まれた液晶ディスプレイ(LCD)の視野角が改善される。
【0003】
光学補償フィルムとしては、セルロースアシレートからなるフィルムが多く使用されている。そして、目的とする光学補償機能を発現するために、溶液製膜方法での製膜工程内あるいは製膜後に、所定の方向に張力を付与するいわゆる延伸処理を実施して、セルロースアシレートからなる光学補償フィルムは製造される。製膜時はもとより延伸処理には適度な可塑性が必要であるので、フィルム中には予め可塑剤を含ませておく必要がある。
【0004】
セルロースアシレートフィルムに用いる可塑剤としては、リン酸エステルであるトリフェニルフォスフェート(TPP)とビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)とが代表的である。これらを可塑剤と用いた場合には、製膜装置や延伸装置で可塑剤がフィルムの表面に析出する、外部へ飛散する等の問題がある。そこで、特許文献1では、セルロースアシレートフィルムを3層構造とし、露出する2つの表層における可塑剤含有量を、2つの表層に挟まれた基層における可塑剤含有量よりも少なくすることが提案されている。なお、特許文献2や特許文献3でも、セルロースアシレートフィルムを複層構造とし、層毎に可塑剤の含有量を定めることが記載されている。
【0005】
しかし、上記の可塑剤を用いた場合にはさらに問題がある。このようなセルロースアシレートフィルムを、光学補償フィルム等の偏光板保護フィルムとして利用すると、湿度の変化によりLCDの表示品位が変動するという問題である。これは、上記の可塑剤を含むセルロースアシレートフィルムのレタデーションが、湿度の変化に応じて可逆的に変化するからである。
【0006】
そこで、特許文献4では、リン酸エステルではない化合物、すなわち非リン酸エステルであって、その中でも所定のエステルを可塑剤として用いることを提案している。これにより、湿度変化によるレタデーションの可逆的変化を抑え、LCDの表示品位が湿度に応じて変動することを抑制する。なお、非リン酸エステルを複層のセルロースアシレートフィルムの可塑剤として使用することは、特許文献5も提案している。
【0007】
また、光学補償フィルムは接着剤を介して液晶セルと貼り合わされるが、貼合失敗時等には、剥ぎ取って再貼合、すなわち貼り直しが図られる。このような再貼合性、いわゆるリワーク性を向上させるために、これまでに様々な提案が為されている。例えば、特許文献6は、tanδに面内での異方性を与えることを提案している。そして、tanδに面内異方性を与えるために、溶液製膜中における溶媒残留量が5〜30%のときに、フィルムの温度を60〜140℃にした状態で、1.01〜2.0倍の延伸倍率となるように幅方向にフィルムを延伸する。また、特許文献7は、フィルムの引っ張り強度ではなくインパクト強度を向上させることを提案している。インパクト強度を向上させるために、製膜時におけるセルロースアシレート分子の熱分解を抑制する。そして、熱分解を抑制するために、セルロースアシレートの再沈殿乾燥工程で、含水率を0.7%未満にしている。特許文献8は、幅方向と長手方向とにおける弾性率が所定の関係とすることを提案している。このために特許文献8では、搬送工程、延伸工程を含めた幅方向の総延伸倍率を、長尺方向の総延伸倍率よりも大きくする。そして、特許文献9は、リワーク性向上のために、吸水弾性率と透湿度を所定範囲にすることを提案している。吸水弾性率と透湿度を所定範囲にするために特許文献9は、可塑剤の含有量を調節することをひとつの方法として挙げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−054936号公報
【特許文献2】特開2001−151902号公報
【特許文献3】特開2006−182865号公報
【特許文献4】特開2007−084692号公報
【特許文献5】特許第4036014号公報
【特許文献6】特開2004−206038号公報
【特許文献7】特開2007−169589号公報
【特許文献8】特開2008−058893号公報
【特許文献9】特開2003−232926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
セルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムないし偏光板保護フィルムとして用いる場合には、これを偏光膜と貼り合わせるに際して、フィルム面を事前にけん化処理し、これにより偏光膜や液晶セルのガラス基板との接着力の強化を図る。ところが、特許文献4,特許文献5所定の可塑剤を用いるセルロースアシレートフィルムは、アルカリによるけん化反応が過度に進みすぎてしまうので、けん化処理を経たセルロースアシレートフィルムは、互いに重ねられたときに接着してしまう他、リワークしようとして液晶セルのガラス基板からこれを剥がすとガラス基板に接着剤が残るなどリワーク性にも欠けるという問題がある。
【0010】
そして、特許文献6〜9は、リワーク性の向上については一定の効果があっても、可塑剤にリン酸エステルを用いており、例えばTPPやBDPが可塑剤として含まれるセルロースアシレートフィルムをLCDの中に用いると、特許文献1〜3記載のセルロースアシレートフィルムと同様に、湿度変化に応じてレタデーションが変動してしまうという問題が残る。また、特許文献6〜9には、非リン酸エステルである各種化合物が、可塑剤として例示されてはいるが、けん化処理が過度に進み過ぎてしまうことによるフィルム同士の接着については考慮されていない。
【0011】
そこで、本発明は、セルロースアシレートからなる光学補償フィルムであり、リワーク性に優れ、アルカリによるけん化反応が過度に進むことがなく、互いに重ねられても接着しない光学補償フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の光学補償フィルムは、セルロースアシレートからなり、フィルム面よりも内部における含有率が高くなるように厚み方向で可塑剤が偏在し、前記可塑剤は、ジカルボン酸とジオールとのエステル結合が含まれる繰り返し単位をもつ重合体であり、下記式(1)により求めるReが波長550nmで0以上100nm以下の範囲、下記式(2)により求めるRthが波長550nmで0以上400nm以下の範囲であり、50℃、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、水洗してから乾燥した後のフィルム面の表面エネルギーが50mN/m以上75mN/m以下の範囲であることを特徴として構成されている。
Re=(nx−ny)×d ・・・(1)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d・・・(2)
(式(1)及び(2)中で、nxはフィルム面内の遅相軸方向での屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzは厚み方向の屈折率、dは厚み(単位;nm)を表す)
【0013】
ジカルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸との少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0014】
脂肪族ジカルボン酸は、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸のうち少なくともいずれかひとつであり、芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸のうち少なくともいずれかひとつであることが好ましい。
【0015】
ジオールは、脂肪族ジオールと芳香族ジオールとの少なくともいずれか一方であることが好ましい。
【0016】
脂肪族ジオールは、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,4−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのうち少なくともいずれかひとつであり、芳香族ジオールは、ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシフノール、ベンゼン−1,4−ジメタノールのうち少なくともいずれかひとつであることが好ましい。
【0017】
可塑剤の分子の末端が、炭素数1以上22以下である脂肪族基、炭素数6以上20以下である芳香族含有基、炭素数1以上22以下の脂肪族カルボニル基、炭素数6以上20以下の芳香族カルボニル基のうち少なくともいずれかひとつであることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光学補償フィルムは、アルカリによるけん化反応が過度に進むことがないのでフィルム同士が重なっても接着することがなく、また、リワーク性にも優れる。また、本発明の光学補償フィルムはLCDの視野角を向上させ、高温高湿下に置かれても偏光度が変化しないので、LCDを高温高湿下に置いてもそのコントラストが低下しない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の光学補償フィルムの断面図である。
【図2】光学補償フィルムの厚み方向における添加剤含有率を示すグラフである。
【図3】光学異方層を設けた光学補償フィルムの光学特性に関する説明図である。
【図4】光学補償フィルムの製造設備の概略図である。
【図5】実施例及び比較例で用いたドープの処方を示す表である。
【図6】実施例及び比較例における条件と評価結果とを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の光学補償フィルムについて、実施形態を挙げて説明する。ただし、本実施形態は、本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0021】
光学補償フィルム10は、ポリマー成分としてのセルロースアシレートからなり、所定量の可塑剤を含む。所定量の可塑剤を含むことにより、後述の延伸工程でセルロースアシレートフィルムを破断させることなく拡幅及び縮幅することができ、LCDの視野角を所望の値に調整することができる、
【0022】
延伸工程での拡幅や縮幅等により、光学補償フィルム10は、波長が550nmの入射光での面内レタデーションReが0以上100nm以下の範囲の所望値とされ、厚み方向レタデーションRth0以上400nm以下の範囲の所望値とされる。これにより、LCDに所期の視野角を発現させる。Reは下記の式(1)により、Rthは下記式(2)により、それぞれ求める値である。なお、式(1)及び式(2)においては、nxはフィルム面内の遅相軸方向での屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzは厚み方向の屈折率、dは厚み(単位;nm)を表す。
Re=(nx−ny)×d ・・・(1)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d・・・(2)
【0023】
光学補償フィルム10は、セルロースアシレートの単位質量に対する可塑剤の質量(以降、可塑剤含有率と称する)が互いに異なるドープの共流延により製造される。可塑剤含有率が相対的に低い一方を第1ドープ、この第1ドープより可塑剤含有率が高い一方を第2ドープとすると、光学補償フィルム10は、第1ドープから形成され露出する第1表層11及び第2表層12と、第2ドープから形成され、第1表層11及び第2表層12の間に形成される中央層13とを備える。ただし、第1ドープと第2ドープとのポリマー成分は互いに同じセルロースアシレートであり、共流延で製造することから、第1表層11と中央層13と第2表層12との各境界面は存在しない。したがって、図1における第1表層11と中央層13との境界線、及び中央層13と第2表層12との境界線は、説明の便宜上示すものであり、観念的なものにすぎない。
【0024】
光学補償フィルム10では、可塑剤が厚み方向で偏在する。可塑剤の偏在を示す図2のグラフにおいて、縦軸は可塑剤の含有率を示し、上方へ向かうほど可塑剤含有率が高いことを意味する。また、横軸は光学補償フィルムの厚み方向である。横軸における第1範囲R1は第1表層11に対応し、第2範囲R2は第2表層12に対応し、第3範囲R3は中央層13に対応する。上記のように可塑剤含有率が高い第1ドープから形成される第1範囲R1と第2範囲R2とは、第2ドープから形成される第3範囲R3よりも可塑剤含有率が高い。このように、光学補償フィルム10では、フィルム面11a,12aよりも内部の可塑剤含有率が高くなるように、厚み方向で可塑剤が偏在する。
【0025】
所定量の可塑剤が上記のように厚み方向で偏在することにより、(1)延伸工程でセルロースアシレートフィルムを破断させることなく拡幅と縮幅とを実施することができるのみならず、(2)可塑剤が製膜過程や延伸過程で装置内に飛散したり、フィルム面に析出することがほとんどなく、(3)けん化処理前の光学補償フィルム10同士が重ねられた場合に接着することがなく、また、(4)けん化処理をしたときにけん化が過度に進むことがないのでリワーク性もよい、という効果がある。
【0026】
厚み方向における可塑剤の偏在の態様、すなわち分布を示すグラフは、図2に示すような厚み方向中央部に関し対象である必要はない。例えば、第1範囲R1と第2範囲R2とにおける添加剤含有率が同じ値である必要はない。また、第3範囲R3における添加剤含有率が一定である必要もない。
【0027】
第1表面11aが偏光膜(図示無し)と貼り合わされる貼合面であるときには、第1表面11aをけん化処理することになる。ただし、けん化処理を一方のフィルム面にのみ施すことは難しく、また可能であるにしてもけん化処理装置の構造を複雑化しなければならいので、第1表面11aと液晶セルのガラス基板に重ねられることがある第2表面12aとの両フィルム面をけん化処理する。そこで、実施するけん化条件でのけん化の進み度合いと、第1範囲R1での添加剤含有率との関係を予め求めておき、この関係に基づいてけん化条件に応じた添加剤含有率を決定することができる。
【0028】
しかし、けん化条件に応じて第1範囲R1での添加剤含有率を決定するのではなく、偏光膜(ポリビニルアルコール(PVA))との接着力とリワーク性とフィルム同士が接着しない程度との目標レベルに応じて第1範囲R1での添加剤含有率を決定する方が好ましい。けん化条件を一定の条件とすることで、光学補償フィルム10の製造ラインの維持管理がより簡易になるからである。
【0029】
そこで、本発明では、50℃に保持された1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に60秒間光学補償フィルム10を浸漬し、その後、この光学補償フィルム10を水で洗浄(水洗)して、これを乾燥するという、一般的に実施される条件でけん化処理を行った場合に第1表面11a及び第2表面12aの表面エネルギーが50mN/m以上75mN/m以下の範囲となるように、第1範囲R1の添加剤含有率を決定する。表面エネルギーがこの範囲であると、偏光膜との接着力とリワーク性とがほぼ両立するレベルになるからである。第1表面11aの表面エネルギーが50mN/m未満であると偏光膜との接着力が小さすぎたり、第2表面12aの表面エネルギーが50mN/m未満であると第2表面12aと接着剤との結合力が弱すぎてガラス基板に接着剤が残ってしまいリワーク性に懸念が残る。一方、75mN/mよりも大きいとフィルム同士を重ねると接着してしまうことがある。なお、表面エネルギーは、純水での接触角を求めてこの接触角から求めることができる。接触角は、市販の接触角測定装置(例えば、CA−A型 協和界面科学社製)で求めることができるし、さらには、測定した接触角から表面エネルギーを求める市販の装置も有るので、これらを利用してよい。
【0030】
[可塑剤]
可塑剤は、ジカルボン酸とジオールとのエステル結合が含まれた繰り返し単位をもつ重合体としてのエステルであり、これはリン酸エステルではない。そして、リン酸エステルであるTPPやBDPは本発明では使用しない。セルロースアシレートフィルムは、適度な透湿性をもつということが、偏光板保護フィルムないし光学補償フィルムとして採用される理由のひとつとして挙げられる。ところが、TPPやBDPを光学補償フィルム10の中に含ませると、高温高湿(例えば、温度が60℃以上、相対湿度が90%RH以上)の雰囲気下で、セルロースアシレートの適度な透湿性ゆえにTPPやBDPが加水分解してフェノールを発生してしまう。偏光膜の多くは、ポリビニルアルコール(PVA)をヨウ素で染色したものであり、フェノールは偏光膜に含まれるヨウ素に対して還元剤として作用し、ヨウ素が還元されてしまう。本発明では、繰り返し単位にジカルボン酸とジオールとのエステル結合が含まれた重合体を可塑剤として用いることにより、ヨウ素を還元させるような物質を生成させず、これにより偏光膜の偏光度の変化を抑止することができる。この結果として、LCDを高温高湿下に置いても、LCDのコントラストを低下させずに、初期のコントラストを保持することができることができる。
【0031】
また、本発明では、所定の繰り返し単位をもつ重合体を可塑剤として用いることにより、フィルム面に可塑剤が析出しにくく、また、可塑剤が外部に飛散しにくい。この効果と、延伸工程における拡幅による破断の防止の効果とは、重合体ではないいわゆる非重合体で、本発明で用いる可塑剤と同程度の数平均分子量をもつモノマーと比べてはるかに大きい。したがって、本発明で用いる可塑剤と同程度の数平均分子量をもつモノマーを可塑剤として用いる場合と比べて、製膜工程での乾燥効率をより高めるように乾燥におけるフィルム温度をより高温に設定することができるとともに、ReやRthをより大きな範囲で制御できるようになる。
【0032】
重合体である可塑剤を、上記のような厚み方向で偏在させることにより、フィルム面での析出及び外部への飛散の防止効果はさらに向上する。
【0033】
可塑剤として用いる上記可塑剤は、光学補償フィルム10の各層11〜13の中でそれぞれ凝集等しないように均一に分散させるために、重合度は300以上2000以下程度のオリゴマーであることが好ましい。オリゴマーであることにより、フィルム面での析出や外部への飛散を防止するとともに、これを各層11〜13の中でそれぞれ均一に分散させることができるのでセルロースアシレートの透明性を損なうことがない。なお、この重合体は、数平均分子量が700以上10000以下の範囲であることがより好ましい。
【0034】
ジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸との少なくともいずれか一方を用いることができる。光学補償フィルム10の可撓性(フレキシビリティ)をより高める場合には脂肪族ジカルボン酸が好ましいし、耐熱性や強度をより高める場合には芳香族ジカルボン酸が好ましい。可撓性や強度を高めると、延伸工程での延伸倍率をより大きく設定することができるので、ReやRthの制御範囲がより広げられる。また、耐熱性をより高めることにより、高温高湿での劣化を防止することができる。
【0035】
脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸とを併用してもよく、併用する場合には、光学補償フィルム10の可撓性、耐熱性、強度の目標レベルに応じて、両者の質量比率を決定するとよい。例えば、芳香族ジカルボン酸のみを用いると、脂肪族ジカルボン酸のみを用いる場合と比べて光学補償フィルム10の耐熱性は向上するが、可撓性が損なわれる場合が多いので、適宜設定した質量比率で両者を併用することにより、耐熱性と可撓性との両方が目標レベルに達した光学補償フィルム10を製造することができる。
【0036】
脂肪族カルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸のうち少なくともいずれかひとつの化合物が好ましい。これらは、各種のジオールとの重合において重合度の制御がしやすいからである。重合度の制御がし易いと、可撓性が目標値に近い光学補償フィルム10をより確実に製造することができる。
【0037】
前記芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸のうち少なくともいずれかひとつの化合物が好ましい。これらもジオールとの重合度の制御が、他の芳香族ジカルボン酸に比べてしやすいという利点がある。
【0038】
ジオールは、脂肪族ジオールと芳香族ジオールとのいずれでもよい。光学補償フィルム10の可撓性(フレキシビリティ)をより高める場合には脂肪族ジオールが好ましいし、耐熱性や強度をより高める場合には芳香族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールと芳香族ジオールとを併用してもよく、併用する場合には、光学補償フィルム10の可撓性と耐熱性との目標レベルに応じて、両者の質量比率を決定するとよい。
【0039】
脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,4−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのうち少なくともいずれかひとつを用いることが好ましい。これらは、上記の各種ジカルボン酸との重合において重合度の制御がしやすいからである。
【0040】
芳香族ジオールとしては、ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシフノール、ベンゼン−1,4−ジメタノールのうち少なくともいずれかひとつが好ましい。これらも上記の各種ジカルボン酸との重合度の制御が、他の芳香族ジオールに比べて容易という利点がある。
【0041】
可塑剤の分子の末端は、炭素数1以上22以下である脂肪族基、炭素数6以上20以下である芳香族含有基、炭素数1以上22以下の脂肪族カルボニル基、炭素数6以上20以下の芳香族カルボニル基の少なくとも一種であることが好ましい。これらはセルロースアシレートとの親和性に優れ、また、これらを使うと、けん化処理に用いるアルカリの液が光学補償フィルムへ過度に浸透してしまうことが抑制されるという利点がある。
【0042】
[セルロースアシレート]
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。Reを0nm以上10nm以下と小さくするためには、A+Bは、2.8以上3.0以下の範囲であることがより好ましく、2.8以上2.9以下の範囲であることがさらに好ましい。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0043】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0044】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0045】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。
【0046】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0047】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0048】
なお、光学フィルム10は、厚みが10μm以上200μm以下の範囲、幅が500mm以上4000mm以下の範囲、長さが100m以上8000m以下の範囲となるように製造する。
【0049】
光学補償フィルム10には、いずれか一方のフィルム面に光学的な異方性をもついわゆる光学異方層が設けられる。図3には、光学異方層16を第2表面12aに設けた場合の光学補償フィルム10を示す。光学異方層16は液晶化合物をガラス基板に挟んだ構成をもつ。ここで、光学異方層16の面内でReが最小である向きをx軸における−(マイナス)側の向きとし、光学異方層16の表面の法線方向をy軸、x軸とy軸とに垂直な方向をz軸とする。図3の矢線(A)は図4のフィルム製造設備で光学補償フィルム10を製造した場合における光学補償フィルム10の長手方向であり、本実施形態ではx軸に一致するものとする。
【0050】
そして、x軸とy軸とを含む平面、すなわちxy平面において、法線方向で求めた光学補償フィルム10のReをRe(0°)と表し、xy平面においてy軸からx軸のプラス方向にθ1(°)傾けた方向における光学補償フィルム10のReをRe(θ1)、マイナス方向にθ2(°)傾けた方向における光学補償フィルム10のReをRe(−θ2)と表す。例えば、xy平面においてy軸からx軸のマイナス方向に50°傾けた方向における光学補償フィルム10のReをRe(−50°)、これに対しx軸のプラス方向に50°傾けた方向における光学補償フィルム10のReをRe(50°)と表すことにする。光学補償フィルム10は、30℃50%RHにおけるRe(0°)が(35±30)nmの範囲であり、同条件下におけるRe(−50°)が(40±35)nmの範囲であり、同条件下におけるRe(50°)が(110±85)nmの範囲である。なお、これらのReに関し(A±B)nmの範囲とは、(A−B)nm以上(A+B)以下の範囲であることを意味する。
【0051】
図4に示すように、光学補償フィルムを製造するフィルム製造設備30は、添加剤含有率が互いに異なる複数のドープを製造するドープ製造部31と、複数のドープから光学補償フィルム10を溶液製膜により製造する溶液製膜部32とからなる。
【0052】
ドープ製造部31では、第1及び第2表層11,12(図1参照)を形成する第1ドープ33と、中央層13(図1参照)を形成する第2ドープ34とをそれぞれつくる。溶液製膜部32は、第1ドープ33と第2ドープ34とからなる流延膜35を形成して溶剤を含んだ状態の湿潤フィルム36として剥がす流延エリア37と、湿潤フィルム36を乾かして光学補償フィルム10とする乾燥エリア38と、光学補償フィルム10を巻き取ってロール状にする巻取エリア39とからなる。
【0053】
ドープ製造部31では、セルロースアシレート41と、可塑剤42と、セルロースアシレート41及び可塑剤42を溶解する溶剤43とを用いる。
【0054】
ドープ製造部31には、可塑剤42を溶剤43に溶解して、可塑剤42の濃度が互いに異なる第1可塑剤液45及び第2可塑剤液46をつくる第1溶解装置47と、セルロースアシレート41を溶剤43に溶解して所定濃度のセルロースアシレート溶液50とする第2溶解装置51とを備える。添加剤濃度が低い一方を第1可塑剤液45とし、高い他方を第2可塑剤液46とする。
【0055】
第2溶解装置51でつくられたセルロースアシレート溶液50は、第1送液ラインL1と第2送液ラインL2との2つの送液ラインで下流へ送られる。第1送液ラインL1と第2送液ラインL2とにおける各流量は、第1送液コントローラ52でそれぞれ調整する。
【0056】
また、第1可塑剤液45は、第1送液ラインL1に接続する第3送液ラインL3で送られ、第1送液ラインL1を流れるセルロースアシレート溶液50にインライン添加される。第2可塑剤液46は、第2送液ラインL2に接続する第4送液ラインL4で送られ、第2送液ラインL2を流れるセルロースアシレート溶液50にインライン添加される。このとき、第3送液ラインL3における第1可塑剤液45の流量は第2送液コントローラ54により、第4送液ラインL4における第2可塑剤液46の流量は第3送液コントローラ55により、それぞれ調整する。
【0057】
以上のように、それぞれ所定の濃度としてあるセルロースアシレート溶液52と第1及び第2可塑剤液46,47との各流量を調整することにより、所定の可塑剤含有率の第1ドープ33と第2ドープ34とをつくることができるとともに、第1表層11と中央層13と第2表層12との各境界がない光学補償フィルム10とすることができる第1ドープ33と第2ドープ34とを製造することができる。
【0058】
第1ドープ33と第2ドープ34とは、それぞれ独立した送液ラインで溶液製膜部32の流延エリア37に案内される。そして、第1ドープ33は2つの送液ラインで流延エリア37に送られる。
【0059】
流延エリア37には、第1ドープ33及び第2ドープ34を流出する流延ダイ56と、この流延ダイ56の下方に配されて連続走行する無端支持体としてのバンド57と、バンド57が周面に巻き掛けられて少なくとも一方が駆動回転することによりバンド57を走行させる2つのバックアップローラ58と、流延膜35をバンド57から剥ぎ取るに際して湿潤フィルム36を支持するローラ59とが備えられている。また、流延ダイ56の上流端面には、独立に案内されてきた第1ドープ33と第2ドープ34を合流させて流延ダイ56に案内するフィードブロック61を設け、バンド57の走行方向における流延ダイ56の上流側には、流延ダイ56からバンド57に渡って形成されるビードよりも上流側のエリアの空気を吸引して減圧する減圧チャンバ62を設けている。なお、フィードブロック61では、第2ドープ34の流れが2つの第1ドープ33の流れに挟まれるように第1ドープ33と第2ドープ34とを合流させる。
【0060】
フィードブロック61で合流した第1ドープ33と第2ドープ34とを、流れが重なった状態で流延ダイ56からバンド57へ流延する。乾燥と冷却との少なくともいずれか一方により、流延膜35をローラでの搬送が可能な程度に硬くし、すなわち自己支持性をもつようにし、この流延膜35をバンド57から剥ぎ取って、乾燥エリア38のテンタ66に案内する。バンド57からテンタ66に至る搬送路の近傍には、湿潤フィルム36の乾燥を進めるために湿潤フィルム36に乾燥空気を吹き付ける送風ダクト67が設けられている。
【0061】
テンタ66には、湿潤フィルム36の側端部を保持する保持手段が、湿潤フィルム36の搬送路の両側に配されている。保持手段としては、湿潤フィルム36を把持するクリップ68が用いられるが、クリップ68に代えて湿潤フィルムを突き刺して保持するピンを用いてもよい。複数のクリップ68は、連続走行する無端のチェーン(図示せず)に備えられてあり、このチェーンの走行路を変位することによりクリップ68の走行軌道を変えることができる。湿潤フィルム36の両側にそれぞれ配されてあるクリップ68とクリップ68との距離を下流側に向かって徐々に拡げるようにチェーンの走行路を設定することにより、湿潤フィルム36の幅を拡げることができる。
【0062】
テンタ66により、湿潤フィルム36を、所定タイミングで所定延伸倍率の拡幅を実施したり、幅を狭める縮幅を実施する。なお、延伸倍率とは、拡幅や縮幅を実施する前の幅をW1、実施した後の幅をW2とするときに、W2/W1で求める値である。この拡幅や縮幅により、Re及びRthを制御する。
【0063】
テンタ66には、湿潤フィルム36に温度調整された乾燥空気を吹き付ける送風ダクト66aが備えられており、この送風により、クリップ68で保持されて搬送されている間の湿潤フィルム36は乾燥が進む。
【0064】
クリップ68での把持を解除された湿潤フィルム36は、テンタ66の下流に備えられる切除装置71に案内される。湿潤フィルム36のクリップ68により把持された把持位置には、把持の跡が残っている。そのため、この把持跡が、光学補償フィルム10となる中央部と分離されるように、切除装置71は、湿潤フィルム36の側端部を連続的にカットする。
【0065】
切除装置71の下流には、両側端部が切除された湿潤フィルム36を周面で支持する複数のローラ73と、乾燥空気を吹き出す送風ダクト(図示せず)とを備える乾燥室74がある。ローラ73の中には、周方向に回転駆動することにより湿潤フィルム36を搬送する駆動ローラが含まれる。送風ダクトには、湿潤フィルム36の幅方向に延びたスリット(図示せず)が搬送方向に複数設けられており、これらのスリットから出される所定温度の乾燥空気により湿潤フィルム36は乾燥されて光学補償フィルム10となる。そして、光学補償フィルム10は、巻取エリア39の巻取装置77でロール状に巻かれる。
【実施例1】
【0066】
以下に、本発明の範囲である実験1〜6を記載する。まず、図5の表に示す処方で、B1〜B3,C1〜C3の6種類のドープをドープ製造部31で製造した。図5の「可塑剤」欄における「重合体」とは、非リン酸エステルであるオリゴマーである。このオリゴマーは、ジカルボン酸とジオールとのエステル結合が含まれる繰り返し単位をもつ。この「重合体」欄の中で「末端OH」とあるのは、重合体である分子の末端が−OHであることを意味し、「末端アシル基」とあるのは、重合体である分子の末端がアシル基であることを意味する。なお、図5における各数値の単位は、質量部である。
【0067】
製造したB1〜B3,C1〜C3の6種類のドープを、図6の表に示す組み合わせで用い、本発明の光学補償フィルム10を製造した。これらを実験1〜6とする。なお、図6の「第1ドープ」とは、第1表層11を形成するための第1ドープ33であり、「第2ドープ」とは第2表層12を形成するための第1ドープ33である。「第2ドープ」からは、中央層13を形成する。
【0068】
各実験1〜6では、テンタ66で表6に示す延伸倍率になるように湿潤フィルム36を拡幅した。
【0069】
得られた各光学補償フィルム10につき、ReとRthを求めた他、けん化処理したものでのリワーク性と、けん化処理前のものでのフィルム同士の接着性との評価とを実施した。各評価方法は以下の通りである。なお、評価結果は、図6の「評価」欄にそれぞれ示す。
【0070】
(1)ReとRth
自動複屈折率計(KOBRA−21ADH、王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの雰囲気下で590nmの波長において3次元複屈折率測定を行い、nx、ny、nzの各屈折率を求める。ReとRthとは、前記式(1)と(2)とにより算出した。ReとRthを所定範囲内とすることで、用途に応じた光学補償フィルムとなる。具体的には、Reが0〜10nmで、Rthが20〜60nmであれば偏光子保護フィルム、Reが20〜60nmで、Rthが60〜200nmであればVA用位相差フィルム、Reが0〜5nmで、Rthが0〜5nmであればIPS用位相差フィルムとして用いることができる。
【0071】
(2)リワーク性
離型処理されたPETフィルム上に形成された厚さ25μmの接着剤を、貼付装置(商品名:ラミパッカー、富士プラスチック機械(株)製)を用いて各光学補償フィルム10にPETフィルムから移し付けた。なお、光学補償フィルム10は、接着剤が付与される前に、予め、50℃、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、水洗してから乾燥という条件でけん化処理をしてある。接着剤がついた光学補償フィルム10から幅25mm、長さ250mmの短冊試験片を切り取った。次に、この試験片を、上述の貼付装置を用いて、水洗・乾燥を行った無アルカリガラス板(品番1737、コーニング製)にその接着剤側を貼り付けた。この試験片を50℃、500kPaで20分間オートクレーブ処理した。次に、70℃で2時間加熱処理し、次いで50℃、48時間恒温槽で保管した後、温度23℃、相対湿度50%条件下で、ガラス板から光学補償フィルム10を300mm/分の速度で180°方向に剥離し、ガラス板の表面を目視で観察し、以下の基準で評価した。この評価結果は図6の「リワーク性」の欄に示す。なお、接着剤は、貼り付け面積(10mm×10mm)の試料を、50℃雰囲気下で、200gの荷重を1時間かけ、室温雰囲気下にて荷重を取り除いたクリープ値が30〜50μmとなるものを用いた。
○:ガラス板の表面に曇りが全く認められない。
△:ガラス板の表面に曇り等が認められるが許容できる程度。
×:ガラス板の表面に接着剤の残りが認められる。
【0072】
(3)フィルム同士の接着の有無
けん化処理をする前の光学補償フィルム10をロール状に一旦巻取り、所定時間放置した後、このフィルムロールから光学補償フィルム10を引き出して、引き出すときにフィルム同士が接着しているか否かを目視で評価した。この評価項目については図6の「接着の有無」の欄に示す。なお、図6に記載の「○」、「×」はそれぞれ以下の意味を表す。
○:接着無し
×:接着有り
【0073】
[比較例]
図5の表に示す処方で、A1〜A3の3種類のドープを製造した。これらと、実施例で製造したドープとを図6の表に示す組み合わせで用いて、光学補償フィルムを製造した。これらを比較実験1〜4とする。図5の「可塑剤」欄で、「リン酸エステル」とは、TPPとBDPとの混合物である。
【0074】
実施例と同様に、得られた光学補償フィルムにつき評価した。評価結果については図6に示す。
【符号の説明】
【0075】
10 光学補償フィルム
11 第1表層
12 第2表層
13 中央層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースアシレートからなり、
フィルム面よりも内部における含有率が高くなるように厚み方向で可塑剤が偏在し、
前記可塑剤は、ジカルボン酸とジオールとのエステル結合が含まれる繰り返し単位をもつ重合体であり、
下記式(1)により求めるReが波長550nmで0以上100nm以下の範囲、下記式(2)により求めるRthが波長550nmで0以上400nm以下の範囲であり、
50℃、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に60秒浸漬した後、水洗してから乾燥した後のフィルム面の表面エネルギーが50mN/m以上75mN/m以下の範囲であることを特徴とする光学補償フィルム。
Re=(nx−ny)×d ・・・(1)
Rth={(nx+ny)/2−nz}×d・・・(2)
(式(1)及び(2)中で、nxはフィルム面内の遅相軸方向での屈折率、nyはフィルム面内の進相軸方向の屈折率、nzは厚み方向の屈折率、dは厚み(単位;nm)を表す)
【請求項2】
前記ジカルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジカルボン酸との少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1記載の光学補償フィルム。
【請求項3】
前記脂肪族ジカルボン酸は、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸のうち少なくともいずれかひとつであり、
前記芳香族ジカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸のうち少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項2記載の光学補償フィルム。
【請求項4】
前記ジオールは、脂肪族ジオールと芳香族ジオールとの少なくともいずれか一方であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の光学補償フィルム。
【請求項5】
前記脂肪族ジオールは、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,4−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールのうち少なくともいずれかひとつであり、
前記芳香族ジオールは、ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシフノール、ベンゼン−1,4−ジメタノールのうち少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項4記載の光学補償フィルム。
【請求項6】
前記可塑剤の分子の末端が、炭素数1以上22以下である脂肪族基、炭素数6以上20以下である芳香族含有基、炭素数1以上22以下の脂肪族カルボニル基、炭素数6以上20以下の芳香族カルボニル基のうち少なくともいずれかひとつであることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の光学補償フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−286603(P2010−286603A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139307(P2009−139307)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】