説明

光学記録媒体用色素

【目的】 塗布溶媒への溶解性及び成膜性に優れ、これを記録層に用いた光学記録媒体を例えばDVDドライブ等に挿入した場合にも、その再生レーザー光(650nm)で記録層色素が反応して記録信号が消失する恐れがなく、青色レーザー光にも対応可能な光学記録媒体の記録層形成用色素を提供すること。
【構成】 下記一般式[1]で表される光学記録媒体の記録層形成用色素。


([1]式中、Arは置換基を有していてもよい芳香環を表し、R1およびR2は各々独立に水素原子または炭素数30以下の有機基を表し、R3およびR4は各々独立に炭素数30以下の有機基を表し、X1〜X3は−2以下の原子価をとることのできる原子を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学記録媒体の記録層に用いるアリールメタン化合物系色素に関するものである。特に、本発明は青色レーザー光対応の光学記録材料に用いる色素に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高密度での情報の記録保存/再生が可能なことから、レーザー光を用いた光学記録媒体、特に光ディスクについての開発が取り進められている。光ディスクの中でも最近注目を集めているものに、書き込み型コンパクトディスク(CD−R)がある。CD−Rは、通常、案内溝を有する円形のプラスチック基板上に、色素を主成分とする記録層、金属反射膜及び保護膜が順次積層された構造をしている。CD−Rへの情報の記録は、レーザー光を照射し、その照射エネルギーが記録層で吸収されることにより、レーザー光照射部分の記録層、反射層又は基板に分解、蒸発、溶解等の熱的変形を生じさせることにより行う方法(ヒートモード)や、レーザー光照射部分の記録層に含まれる色素の構造を可逆的に変化させる方法(フォトンモード)などにより行なわれる。また、記録された情報の再生は、レーザー光照射による熱的変形・色素構造の変化が起きている部分と起きていない部分のレーザー光波長に対する反射率の差を読み取ることにより行われる。従って、光学記録媒体の記録層はレーザー光のエネルギーを効率よく吸収する必要があり、記録層には一般的にレーザー光吸収色素が用いられている。
【0003】
レーザー光吸収色素として有機色素を利用した光学記録媒体は、有機色素溶液を塗布するという簡単な方法で記録層を形成し得るため、安価な光学記録媒体として今後益々普及することが期待されている。
また、近年、記録の高密度化のため、記録に用いるレーザー光の波長を従来の半導体レーザーの発光波長である780nmを中心としたものから、405nm前後以下の青色光領域へと短波長化することが検討されつつある。
【0004】
ところで、CD−Rやデジタル高密度ディスク(DVD−R)など従来の光学記録媒体の記録層に用いられてきた色素化合物の一般的な光学的特徴として、記録レーザー波長域の近傍に高い吸収極大を有し、かつ記録レーザー波長域にわずかに吸収を有することが挙げられる。その理由としては、CD−RおよびDVD−Rなど従来の光学記録媒体では、
吸収極大近傍に存在する高い屈折率が記録前後において変化する性質を利用してディスクの反射率を変化させていたことが挙げられる。
【0005】
ところが、405nm青色レーザーの波長付近に吸収極大を持つ化合物で、405nmレーザー光に対して、CD−RやDVD−Rなど従来の光学記録媒体がその記録レーザー波長に対して要求されるのと同等の光学定数(高い屈折率)を持つものは、ポルフィリン類など一部を除きほとんど存在しない。これは、吸収極大が短波長シフトするに伴い共役構造が減少し、吸光定数が減少するためである。また、ポルフィリン類のような大環状芳香族化合物については、その平面性の高さゆえディスクへのスピンコート塗布に使われる溶媒である2,2,3,3−テトラフルオロプロパノール(TFP)等への溶解性が極めて悪く、これらに溶解させて光学記録媒体を作成した報告は特許文献1など極少数しかない。また、これらの化合物は概して熱分解点が350−400℃以上と極めて高く、化合物の熱分解により記録を行う光学記録媒体に用いることは困難であると考えられる。
【0006】
一方、特許文献2において、レーザー記録波長より長波長領域に吸収極大を有する化合物を熱分解し、共役構造を切断することでより短波長のレーザー記録波長領域に吸収極大をシフトさせ、その吸収率の増大により信号を記録するという新しい記録原理についての記載があるが、特許文献2の発明において用いられる化合物は例えばDVDドライブに用いられる650nmレーザーの波長域付近に大きな吸収を持つことが予想され、該化合物を用いた光学記録媒体を例えばDVDドライブに挿入した場合などに、その再生レーザー光で該化合物が反応してしまい、記録信号が消失する恐れがある。
【特許文献1】特開平11−221964号公報
【特許文献2】特開2004−1375号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、塗布溶媒への溶解性及び成膜性に優れ、これを記録層に用いた光学記録媒体を例えばDVDドライブ等に挿入した場合にも、その再生レーザー光(650nm)で記録層色素が反応して記録信号が消失する恐れがなく、青色レーザー光にも対応可能なアリールメタン化合物系色素を提供することである。本願発明のアリールメタン化合物系色素は、その分解温度から、光学記録媒体の中でも化合物の熱分解により記録を行うヒートモード方式に特に適する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の一般式[I]に示す構造を有する化合物が溶解性及び成膜性に優れ、化合物の熱分解により記録を行う光学記録媒体に適する分解温度を有し、これを記録層に用いた光学記録媒体を例えばDVDドライブに挿入した場合にも、その再生レーザー光(650nm)で記録層色素が反応して記録信号が消失する恐れがなく、かつこれを記録層に用いた光学記録材料が、青色レーザー光で良好に記録できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明の要旨は、下記一般式[1]で表される光学記録媒体の記録層形成用色素に存する。
【0010】
【化1】

【0011】
([1]式中、Arは置換基を有していてもよい芳香環を表し、R1およびR2は各々独立に水素原子または炭素数30以下の有機基を表し、R3およびR4は各々独立に炭素数30以下の有機基を表し、X1〜X3は−2以下の原子価をとることのできる原子を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るヒートモード光学記録媒体の記録層形成用色素は、成膜性、溶解性、熱分解性に優れている。これを記録層に用いれば、例えばDVDドライブに挿入した場合にも、その再生レーザー光(650nm)で記録層色素が反応して記録信号が消失する恐れがなく、かつ青色レーザー光で良好に記録できる安価で成膜性に優れた高密度記録媒体が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるもの
ではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
本発明に係るヒートモード光学記録媒体の記録層形成用色素は下記一般式(1)で表される。
【0014】
【化2】

【0015】
([1]式中、Arは置換基を有していてもよい芳香環を表し、R1およびR2は各々独立に水素原子または炭素数30以下の有機基を表し、R3およびR4は各々独立に炭素数30以下の有機基を表し、X1〜X3は−2以下の原子価をとることのできる原子を表す。)
[1]式中、Arは、置換基を有していても良い芳香環を表す。本発明において芳香環とは、芳香族性を有する環、すなわち(4n+2)π電子系(nは自然数)を有する環を意味する。その骨格構造は、通常、5または6員環の、単環または2〜6縮合環からなる芳香環であり、該芳香環には、芳香族炭化水素、複素芳香族の他、アントラセン環、カルバゾール環、アズレン環のような縮合環も含まれる。骨格構造の具体例としては、5員環単環としてフラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、6員環単環としてベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、縮合環としてナフタレン環、フェナンスレン環、アズレン環、ピレン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾフラン環、カルバゾール環、ジベンゾチオフェン環、アントラセン環等が挙げられる。これらのうち、合成上の理由から単環が好ましく、特にベンゼン環、ピリジン環などの6員環が好ましい。
【0016】
Arは、X1を含む置換基以外に置換基を有していても良い。Arが有する置換基とし
ては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化水素環基、複素環基、アルコキシ基、(ヘテロ)アリールオキシ基、(ヘテロ)アラルキルオキシ基,更に置換基を有していても良いアミノ基、ニトロ基、シアノ基、エステル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。
【0017】
具体的には、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基、5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、アミノ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基、ジュロジニル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基などである。
【0018】
炭素数1〜20のアルキル基の例としては、炭素数1〜10が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基などが挙げられる。
炭素数1〜20のアルケニル基の例としては、炭素数1〜10が好ましく、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、2−メチル−1−プロペニル基、ヘキセニル基、オクテニル基などが挙げられる。
【0019】
炭素数1〜20のアルキニル基の例としては、炭素数1〜10が好ましく、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、2−メチル−1−プロピニル基、ヘキシニル基、オクチニル基などが挙げられる。
炭素数3〜20の炭化水素環基としては、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロヘキセニル基、テトラデカヒドロアントラニル基、フェニル基、アントラニル基、フェナンスリル基、フェロセニル基などが挙げられる。
【0020】
5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基としては、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、カルバゾリル基、キノリニル基、2−ピペリジニル基、2−ピペラジニル基、オクタヒドロキノリニル基などがあげられる。
炭素数1〜9のアルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基などが挙げられる。
【0021】
炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、2−チエニルオキシ基、2−フリルオキシ基、2−キノリルオキシ基などが挙げられる。
炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基の例としては、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基、ナフチルメトキシ基、2−チエニルメトキシ基、2−フリルメトキシ基、2−キノリルメトキシ基などが挙げられる。
炭素数2〜20のアルキルアミノ基の例としては、ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジブチルアミノ基などが挙げられる。
【0022】
炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基の例としては、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ジ(2−チエニル)アミノ基、ジ(2−フリル)アミノ基、フェニル(2−チエニル)アミノ基などが挙げられる。
炭素数1〜6のエステル基の例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基などが挙げられる。
【0023】
ハロゲン原子の例としては、フッ素原子,塩素原子,臭素原子、沃素原子などが挙げられる。
Arが2つ以上の置換基を有する場合、置換基同士が結合して環状構造をなしてもよい。例えば、Arがベンゼン環の場合、該ベンゼン環が有する置換基同士が結合して環状構造を形成している例として以下の一般式(2)の構造が挙げられる。
【0024】
【化3】

【0025】
なお、ArはX1を含む置換基以外にこれらの置換基を有している方が溶解性および膜
性向上の観点から好ましいが、置換基を有していない方が合成上の観点から好ましい。
1は、−2価以下の原子価をとることのできる原子を表し、N、P、As、Sb、O、S、Se、Te等の15〜16族の原子等が挙げられる。このうち、化合物の安定性および毒性の面から16族の原子が好ましく、O、Sが更に好ましく、Oが特に好ましい。また、X1のArに対する置換位置として、R3およびR4が結合している炭素原子の置換
位置を1位としたとき、2n位(nは自然数)である必要があるが、この中でも特に炭素原子とX1が離れた位置にある方が、縮環による化合物の吸収変化を防止できるため好ま
しい。なお、Xが−3以下の原子価をとる原子であるとき、さらに置換基を有していても良い。置換基としては、上記のArが有していても良い置換基の他、ベンゼン環、ピリジン環、チオフェン環、アズレン環などの芳香環が挙げられる。
【0026】
2およびX3は各々独立に15〜16属の原子を表す。具体例としては、N、P、O、S、Seなどが挙げられるが、合成上の観点からはN、Oが好ましく、特にOが好ましい。
一方、化合物の熱特性の観点からはO、Sが好ましく、Oが特に好ましい。なお、X2
びX3が−3以下の原子価をとる原子であるとき、さらに置換基を有していても良い。置
換基としては、上記のArが有していても良い置換基の他、ベンゼン環、ピリジン環、チオフェン環、アズレン環などの芳香環が挙げられる。
【0027】
1およびR2は、各々独立に水素原子または炭素数30以下の有機基を表し、R3およ
びR4は各々独立に炭素数30以下の有機基を表す。その具体例としては、第一に芳香環
として上述のArの具体例として例示されたものが挙げられ、これらの芳香環は上述のArが有していても良い置換基として挙げられたものを置換基として有していてもよい。第二に、非芳香族性基としてアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭化水素環基等が挙げられ、さらに具体的には、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基などが挙げられる。それらの例としては、上述のArが有していても良い置換基として挙げられた炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基、炭素数1〜20のアルキニル基、炭素数3〜20の炭化水素環基などの具体例が相当する。
【0028】
なお、炭素数30以下の有機基の水素原子はさらに5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、アミノ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基、ジュロジニル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基などで置換されていても良い。それら置換基の具体例としては、上述のArが有していても良い置換基として挙げられた5または6員環の単環または2〜6縮合環由来の複素環基、炭素数1〜9のアルコキシ基、炭素数2〜18の(ヘテロ)アリールオキシ基、炭素数3〜18の(ヘテロ)アラルキルオキシ基、アミノ基、炭素数2〜20のアルキルアミノ基、炭素数2〜30の(ヘテロ)アリールアミノ基、ジュロジニル基、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜6のエステル基、ハロゲン原子、水酸基などの具体例が相当する。
【0029】
炭素数30以下の有機基の水素原子が2つ以上置換された場合、置換基同士が結合して環状構造をなしてもよい。例えば、Rがエチル基の場合、該エチル基が有する置換基同士が結合して環状構造を形成している例として以下の一般式(3)の構造が挙げられる。
【0030】
【化4】

【0031】
これらのうち、R1およびR2については化合物の安定性の理由からは芳香環であることが好ましいが、非芳香族性基の方が溶媒への溶解性が向上するという理由から好ましい。また、R3およびR4については化合物の安定性および波長の長波長化の観点からいずれか一方が芳香環であることが好ましく、より好ましくはもう一方の構造が共役を有する構造であり、さらに好ましくは両者とも芳香環であることである。なおR1〜R4のいずれにおいても、炭素数が少ない方が熱分解後の吸光係数の低下防止の面で好ましく、具体的にはR1〜R4の合計炭素数が50以下であることが好ましい。更に、溶媒への溶解性の点から、一般式[1]の化合物は分子量1000以下であることが好ましく、特に800以下であることが好ましい。
【0032】
一般式[1]で表わされる化合物の具体例を以下に例示する。
【0033】
【化5】

【0034】
【化6】

【0035】
【化7】

【0036】
一般式[1]で表わされる化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
一般式[1]で表わされる構造を有する化合物は、たとえば市販のキノメテン化合物に過剰量の酸無水物もしくはカルボン酸クロリド等を反応させることで、合成可能である。
このようにして得られる本発明に係る記録層形成用色素は、塗布溶媒への溶解性に優れ、化合物の熱分解により記録を行う光学記録媒体に適する分解温度を有し、これを記録層に用いた光学記録媒体を例えばDVDドライブに挿入した場合にも、そのレーザー光(650nm)で記録層色素が反応して記録信号が消失する恐れがなく、青色レーザー光に対応可能であるという特徴がある。
【0037】
また、分解温度は、常圧で、通常は150〜350℃の範囲であり、R1の選択により
上限を300℃、下限を200℃とすることも容易である。従って、本発明に係る色素を用いた記録媒体は低いレーザー強度による書き込みが可能であり、かつ車内等に放置しても色素が分解して記録が消失する恐れがない。
また、記録層の形成が容易な点からして本発明に係る色素を用いた記録層を形成する際は、光学記録媒体の記録層の製膜に用いられる溶媒として[0045]段落に列挙する溶媒、例えば、テトラフルオロプロパノール(TFP)、オクタフルオロペンタノール(OFP)に対する溶解性が良好なものを用いるのが好ましい。溶解性が良好であるとは、室温(通常、15〜30℃)で、溶解度が0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、特に好ましくは1重量%以上である(目視で沈殿が無い)ことをいう。
【0038】
本発明に係る色素で記録層を形成するには、真空蒸着法、スパッタリング法、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の一般に行われている薄膜形成法を用いることができる。量産性、コスト面からスピンコート法が好ましい。スピンコート法により記録層を製膜する場合、回転数は500〜5000rpmが好ましく、スピンコート後、必要に応じて、加熱又は溶媒蒸気にさらす等の処理を行ってもよい。記録層の膜厚は、特に限定されないが、通常100Å〜5μm、好ましくは700Å〜3μmである。
【0039】
記録層は製膜性を向上させるためにバインダーを含有していてもよい。バインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ケトン樹脂、ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリビニルブチラール、ポリカーボネート等既知のものが用いられる。記録層に占めるバインダーの割合が高すぎると記録感度が著しく低下するので、バインダーを用いる場合、一般式[1]で表わされる色素が記録層に占める割合は、通常10重量%以上、好ましくは50重量%以上、特に好ましくは90重量%以上となるようにすべきである。
【0040】
また、記録層は、安定性や耐光性向上のための一重項酸素クエンチャーや記録感度向上剤などを含有していてもよい。
一重項酸素クエンチャーとしては、アセチルアセトナート、ビスフェニルジチオール、サリチルアルデヒドオキシム、ビスジチオ−α−ジケトン等と遷移金属とのキレート化合物などが挙げられる。
【0041】
記録感度向上剤としては、遷移金属等の金属が原子、イオン、クラスター等の形で化合物に含まれる金属系化合物等が挙げられ、例えばエチレンジアミン系錯体、アゾメチン系錯体、フェニルヒドロキシアミン系錯体、フェナントロリン系錯体、ジヒドロキシアゾベンゼン系錯体、ジオキシム系錯体、ニトロソアミノフェノール系錯体、ピリジルトリアジン系錯体、アセチルアセトナート系錯体、メタロセン系錯体のような有機金属化合物などが挙げられる。金属原子の種類は特に限定されないが、遷移金属が好ましい。
【0042】
記録層は、本発明の効果を損なわない範囲で一般式[1]で表わされる色素以外の色素を含有していても良い。但し、通常本願色素が50%以上、
一般式[1]で表わされる色素以外の色素としては、記録用のレーザー光波長域に吸収を有し、照射されたレーザー光のエネルギーを吸収して、照射部分の記録層、反射層又は基板に、分解、蒸発、溶解等の熱的変形を伴うピットを形成させるものが好ましい。また、CD−R向けの770〜830nmの範囲から選ばれた波長の近赤外レーザー光やDVD−R向けの620〜690nmの範囲から選ばれた赤色レーザー光での記録に適する色素を併用して、複数の波長域のレーザー光での記録に対応する光学記録材料とすることもできる。このような色素としては、具体的には、含金属アゾ系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、シアニン系色素、アゾ系色素、スクアリリウム系色素、含金属インドアニリン系色素、トリアリールメタン系色素、メロシアニン系色素、アズレニウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素、インドフェノール系色素、キサンテン系色素、オキサジン系色素、ピリリウム系色素等が挙げられる。
【0043】
記録層をドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等により形成する場合には、一般式[1]で表わされる色素、バインダー、一重項酸素クエンチャー、記録感度向上剤及び他の色素等を溶媒に溶解させ、塗布液を作成する。溶媒としては、基板を侵さない溶媒であれば、特に限定されないが、ジアセトンアルコール、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトンアルコール系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、n−ヘキサン、n−オクタン等の鎖状炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、n−ブチルシクロヘキサン、t−ブチルシクロヘキサン、シクロオクタン等の脂環式炭化水素系溶媒、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル系溶媒、テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロブタノール等のパーフルオロアルキルアルコール系溶媒、乳酸メチル、乳酸エチル、イソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル系溶媒等が挙げられる。
【0044】
光学記録媒体の基板としては、ガラスや種々のプラスチックなど、使用するレーザー光に対して透明なものが好ましく用いられる。プラスチックとしては、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ニトロセルロース、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられるが、生産性、コスト、耐吸湿性などの点からポリカーボネート樹脂を射出成形するのが好ましい。
【0045】
通常、基板上には、必要に応じて更に、反射層、保護層、下引き層などの記録層以外の層が設けられ、光学記録媒体として使用される。反射層としては、金、銀、アルミニウム又はそれらの合金のような金属からなるもの等が挙げられるが、550nm以下の波長のレーザー光に対する反射率から、金やアルミニウムより、銀の方が好ましい。金属反射層は、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などによって記録層上に製膜される。ここで、金属反射層と記録層との間に層間の密着力を向上させるため、又は、反射率を高める等の目的で中間層を設けてもよい。反射層の上に形成する保護層の材料としては、例えば、紫外線硬化型樹脂組成物などが挙げられる。
【0046】
更に、接着層を介して2枚の光学記録媒体を貼りあわせ、両面記録型光学記録媒体としてもよいし、記録層を基板の両面に設けてもよいし、片面に設けてもよい。
上述のようにして得られた光学記録媒体への情報の記録は、通常、記録層に0.4〜0.6μm程度に集束したレーザー光を照射することにより行う。記録層がレーザー光のエネルギーを吸収すると、レーザー光照射部分では、分解、発熱、溶融等の熱的変形が起こる。記録された情報の再生は、レーザー光による上記熱的変形が起きている部分と起きていない部分の反射率の差を読み取ることにより行う。
【0047】
高密度記録のためには、使用するレーザー光の波長が短いほど好ましく、特に、波長350nm〜530nmのレーザー光が好ましい。かかるレーザー光の代表例としては、例えば、中心波長405nm、410nmなどの青色レーザー光、中心波長515nmの青緑色の高出力半導体レーザー光が挙げられる。これら以外にも(a)基本発振波長が740〜960nmの連続発振可能な半導体レーザー光、又は(b)半導体レーザー光によって励起されかつ基本発振波長が740〜960nmの連続発振可能な固体レーザー光のいずれかを、第二高調波発生素子(SHG)により波長変換することによって得られる光なども挙げられる。
【0048】
上記のSHGとしては、反射対称性を欠くピエゾ素子であればいかなるものでもよいが、KDP、ADP、BNN、KN、LBO、化合物半導体などが好ましい。第二高調波の具体例としては、基本発振波長が860nmの半導体レーザーの場合は、その倍波の波長430nm、また半導体レーザー励起の固体レーザーの場合は、CrドープしたLiSrAlF6結晶(基本発振波長860nm)からの倍波の波長430nmなどが挙げられる。
【0049】
光学記録材料が有する吸収波長および吸光度のうち好ましいものは、記録に用いるレーザー光の種類に依存する。例えば、405〜410nmを中心波長とする青色レーザーに対して熱分解前後における吸収変化により信号の読み取りを行う場合、吸収の変化度が0.05以上であることが好ましく、0.1以上であることがより好ましいが、以下の実施例に示すように、本発明におけるアリールメタン化合物のうち好ましいものは光学記録材料として好適である。なお、開発が進められつつある350〜530nmを中心波長とする青色レーザー光に対応させるためには、熱分解前もしくは熱分解後いずれかのλmaxが405±70nmの領域にある化合物が好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。 なお、実施例中のプロトンNMRは日
本電子株式会社製核磁気共鳴装置 EX270(270MHz)を用い、重クロロホルム溶媒中で分析した。また、TG分析はエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製示差熱熱重量分析装置 EXSTAR6000 TG-DTAを用い、試料量2.0mg、温度上昇10℃/分、窒素流量0.2L/分、アルミニウムパンの条件で行った。熱分解点は上記TG条件にて化合物重量が5%減少する温度とした。
【0051】
(実施例1)
<トリス(4−アセトキシフェニル)メタノール(化合物A−7)の合成>
パラロゾール酸(50mg)を無水酢酸(1.5ml)およびピリジン(1.5ml)中で6時間撹拌した。溶媒を減圧下で留去した後、残渣に塩化メチレンおよびヘキサンを加えて結晶化させ、白色結晶(35mg、収率43%)を得た。プロトンNMRにより、化合物の生成を確認した。化合物(A−7)は室温でTFPに1重量%溶解し、熱分解点は160℃であった。また、熱分解前後の化合物(A−7)の紫外可視スペクトルを図1に示すが、これにより、該化合物にレーザーにより熱を発生する化合物を混合すれば、記録前後で青色レーザー光波長域である405nmの吸収が増大し、記録が可能であることがあきらかである。
1H NMR(ppm): 2.09(s、1H)、2.30(s、9H)、7.03(d、J=9.0Hz,6H)、7.29(d、J=9.0Hz,6H)。
【0052】
(実施例2)
<トリス(4−ベンゾイルオキシフェニル)メタノール(化合物A−9)の合成>
パラロゾール酸(200mg)のピリジン溶液(3ml)中に、ベンゾイルクロリド(0.5ml)を滴下した後、室温で6時間撹拌した。反応混合物を塩化メチレンで抽出し、水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧下で留去し、塩化メチレンおよびメタノールを用いて結晶化させることで白色結晶(150mg、収率36%)を得た。化合物(A−9)は室温でOFPに1重量%溶解し、熱分解点は220℃であった。また、熱分解前後の化合物(A−9)の紫外可視吸収スペクトルを図2に示すが、これにより、該化合物にレーザーにより熱を発生する化合物を混合すれば記録前後で青色レーザー光波長域である405nmの吸収が増大し、記録が可能であることがあきらかである。
1H NMR(ppm): 2.86(s、1H)、7.21(d、J=9.0Hz,6H)、7.42(d、J=9.0Hz,6H)、7.52(t、9.0Hz,6H)、7.65(t、J=9.0Hz,3H)、8.21(d、J=9.0Hz,6H)。
【0053】
<光学記録媒体の作製>
化合物A−9に、405nmの青色レーザーによって発熱する色素として化合物B−1に示す色素を(A-9の重量):(B-1の重量)=80:20となるように加え、混合した。該混合物をOFPに1重量%溶解させ、濾過によって微細なゴミを取り除いた後に、得られた溶液を直径120mm、厚さ1.2mmの射出成型ポリカーボネート基板上に滴下し、スピンコート法により塗布し、80℃で30分間乾燥することで透明な塗布膜を得た。該塗布膜の可視部吸収スペクトルを図3に示す。上記手法で作製した光学記録媒体に、中心波長404nm、NA=0.85の半導体レーザー光を10mWの出力で照射したところ、良好な記録ピットの形成が確認された。
【0054】
【化8】

【0055】
<比較例1>
化合物B−1単体を、上述された方法と同様の手法でディスク基板に塗布し、光学記録媒体を作成した。この光学記録材料に中心波長404nm、NA=0.85の半導体レーザー光を16mWの強度で照射しても、ピットの形成は確認されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】トリス(4−アセトキシフェノキシ)メタノール(化合物A−7)の熱分解温度(160℃)前後での吸収スペクトルの変化を表す図。
【図2】トリス(4−ベンゾイルオキシフェノキシ)メタノール(化合物A−9)の熱分解温度(220℃)前後での吸収スペクトルの変化を表す図。
【図3】化合物A−9に化合物B−1を25重量%混合した混合物の吸収スペクトルを表す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式[1]で表される光学記録媒体の記録層形成用色素。
【化1】

([1]式中、Arは置換基を有していてもよい芳香環を表し、R1およびR2は各々独立に水素原子または炭素数30以下の有機基を表し、R3およびR4は各々独立に炭素数30以下の有機基を表し、X1〜X3は−2以下の原子価をとることのできる原子を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の記録層形成用色素において、波長が350から530nmのレーザー光で記録するためのものであることを特徴とする記録層形成用色素。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−218695(P2006−218695A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33077(P2005−33077)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】