光学部品およびその製造方法
【課題】防眩層による基材の被覆率を高くすることができる光学部品の製造方法を提供する。
【解決手段】インクを吐出するための複数のノズルを有するインクジェット装置を用いて基材上に防眩層を形成する。防眩層の形成は、ドット成形工程を複数回繰り返すことによって行う。ドット成形工程とは、複数のノズルのうちから使用するノズルを選択しながら基材上にインクを吐出させて当該基材上にランダムな配置でドット2a(または2b)を形成し、その後にドットを硬化させる工程である。
【解決手段】インクを吐出するための複数のノズルを有するインクジェット装置を用いて基材上に防眩層を形成する。防眩層の形成は、ドット成形工程を複数回繰り返すことによって行う。ドット成形工程とは、複数のノズルのうちから使用するノズルを選択しながら基材上にインクを吐出させて当該基材上にランダムな配置でドット2a(または2b)を形成し、その後にドットを硬化させる工程である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイや光学デバイスに用いられる、防眩層を有する光学部品およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭においてもオフィスにおいても映像機器や情報機器、携帯機器の利用が急拡大している。それぞれの機器にはディスプレイが装着されており、最近の傾向としてそれらの画面サイズの大型化や高画質化が進展している。大型化や高画質化にともなって、より見やすくなるよう視認性の改善が求められ、一般的には反射防止層や防眩層が形成された光学フィルムをディスプレイ前面に貼り付けている。特に外光の映り込み防止には防眩層が有効で、いろいろなタイプの防眩層が検討されている。
【0003】
防眩層はその表面に適切なサイズやピッチで凹凸が付与されたものであり、その形成方法としては、転写やエンボス加工によるものと、微粒子を塗布液に添加しダイコート法やスピンコート法、ディップコート法などのウェットプロセスによるものとが実用化されている。転写やエンボス加工による防眩層の形成は、ロールの製作やメンテナンスにコストがかかる、生産性に劣る、微細な凹凸構造を形成することは極めて困難である、という課題を有する。ウェットプロセスによる防眩層の形成は、コストや量産性では優れているものの、所望の突起部を効果的に形成するためには塗布むらを発生させることなく微粒子を適切に分散させなければならず、大面積にわたりそれを実現することはきわめて困難であるという課題を有する。
【0004】
最近、ウェットプロセスの一種であるインクジェット法により防眩層を形成することも検討され始めている。このインクジェット法は、基材上に着弾させたインクをそのまま硬化させることにより突起を形成するものである。例えば、特許文献1には、インクジェット装置を用いて基材上にランダムな配置でドットを形成し、このドットを硬化させることにより防眩層を形成することが記載されている。そして、特許文献1には、ドットをランダムに配置する方法として、インクジェット装置のヘッド部分に振動を与える方法と、任意のノズルからインクを吐出させる方法とが開示されている。
【特許文献1】特開2004−151642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェット装置のヘッド部分に振動を与える方法では、ヘッド部分から吐出されたインクが近い位置に落ちて隣り合うドット同士が混じりあってしまい、微細な突起だけでなく大きく扁平な突起が形成されることがある。このように大きく扁平な突起が形成されると、その部分における防眩性が低下する。これに対し、任意のノズルからインクを吐出させる方法では、隣り合うドット同士が混じりあうことがないものの、基材上でドットをランダムに配置するために複数のノズルのうちのある程度離れた位置のノズルを使用する必要があるため、ドットの分布密度が小さくなって防眩層による基材の被覆率をあまり高くすることができない。そして、このように被覆率があまり高くない光学部品では、基材の表面による反射の影響が大きく、映り込みをあまり抑えられない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、防眩層による基材の被覆率を高くすることができる光学部品の製造方法およびこの製造方法によって得られる光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、インクを吐出するための複数のノズルを有するインクジェット装置を用いて基材上に防眩層を形成することにより光学部品を製造する方法であって、前記複数のノズルのうちから使用するノズルを選択しながら前記基材上に前記インクを吐出させて当該基材上にランダムな配置でドットを形成した後に前記ドットを硬化させるドット成形工程を複数回繰り返すことにより前記防眩層を形成する光学部品の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、基材と、この基材上に形成された防眩層とを備え、前記防眩層は、前記基材上にランダムに配置された、同一の防眩性付与組成物からなる複数のドットで構成されており、これらのドットのうちの少なくとも一部のドット同士は、断面において稜線が重なりかつ頂点が独立した状態で互いに重なり合っている光学部品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記の方法によれば、ドット成形工程を複数回繰り返すことにより、ランダムなドットパターンが重ね合わされるようになるため、防眩層による基材の被覆率を向上させることができる。しかも、一旦ドットを硬化させた後に再度ドットを形成するので、先に形成したドットと後に形成したドットが混じりあうことなくそれぞれが突起を形成するようになり、大きく扁平な突起が形成されることがない。すなわち、本発明によれば、多数の微細突起を有する防眩層によって高い被覆率で基材が覆われた光学部品を得ることができる。そして、このような光学部品であれば、映り込みを効果的に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照しながら説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る製造方法によって製造される光学部品の一例を示す断面図である。図1において、光学部品は、基材1と防眩層2から構成されている。基材1は、透明なものであり、厚さ1〜3mmの強化ガラスや、厚さ50〜200μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、アクリル、ポリイミドなどのプラスチックフィルムである。この上に形成された防眩層2は、インクジェット方式で形成された防眩性付与組成物からなるものである。防眩性付与組成物は、詳しくは後述するが、セルロースエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱硬化樹脂、またはアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂などの紫外線硬化樹脂からなる。なお、プラスチックフィルムの場合はガラスに比べ硬度が低く耐擦傷性に劣るため、基材1と防眩層2の間には高硬度の熱硬化型の樹脂や紫外線硬化型の樹脂などのハードコート層を設ける場合もある。
【0012】
インクジェット方式による防眩層2の形成は、防眩性付与組成物をインクとして採用したインクジェット装置を用いて基材1上にヘッドアセンブリからインクを吐出して塗布し、さらにこれを硬化させることにより行う。ヘッドアセンブリは複数個のヘッドモジュールから構成され、さらにヘッドモジュールは複数個のヘッドセルの集合体から構成されている。図2は、本実施形態および後述する各実施形態で用いるヘッドセルの模式図を示す。ヘッドセルAはヘッドモジュールの、さらにはヘッドアセンブリの基本構成要素である。ヘッドセルAは、SUSからなる圧力室隔壁3、圧力室隔壁3の上に配置されたピエゾアクチュエーターB、圧力室隔壁3の下に配置されたノズル板4から構成されている。
【0013】
ピエゾアクチュエーターBは、ピエゾ素子5が電極6で挟まれた構造を有している。ノズル板4の材質はSUSであり、吐出面側の表面には撥水処理が施されていて、ここには直径20μm〜30μmのノズル7が開けられている。圧力室Cは圧力室隔壁3とピエゾアクチュエーターBに囲まれた部分である。
【0014】
まず、防眩性付与組成物からなるインク8が圧力室Cに導入される。圧力室Cの上に配置されているピエゾ素子5に電極6から電圧を印加することにより、圧力室C内のインク8に圧力をかけ、ノズル7からインク8を微小液滴9として吐出させる。このとき、ピエゾ素子5にかける振動周波数やパルス数、そのパルス波形を調整することにより、さらには、ノズル形状などの最適化を図ることにより、ノズル7から吐出する液滴のサイズを直径10〜100μmに制御する。このようにしてインクジェット方式では微小ノズルから微小液滴として防眩性付与組成物からなるインクを吐出して基材上に着弾させてドットを形成し、そのドットを硬化させることにより凹凸構造を形成する。すなわち、ドットがそのまま突起となって、多数の突起を有する防眩層2が形成される。着弾したドットの径は一般に液滴の径より大きくなり、また、小さい液滴からは小さいドットが、大きい液滴からは大きいドットが形成される。また、同じ液滴の径でも基材温度や溶剤の含有量などでドットの径が変化するので、インク材料やプロセス条件を最適化する。隣り合う突起の平均中心間距離は20〜120μm、各突起の高さは0.1〜5μm、防眩層2による基材1の被服率は35〜100%が好ましい。各ドットはドットに反射された光同士の干渉による干渉縞の発生を防ぐためにランダムに配置することが求められる。これはランダムなパターンデータ(例えば、要素が0と1からなり、その並びがランダムな行列状のデータ)をパーソナルコンピューターで作成し、それを吐出のオンオフ信号に変換してヘッドアセンブリに送信し、最終的には各ヘッドセルAのピエゾアクチュエーターBにオンオフ信号に基づく電圧を印加することによって基材上にパターンデータと同様のランダムな配置でドットを形成することができる。
【0015】
本実施形態では材料の選択性の広さからピエゾ方式を採用しているが、インクを加熱して気泡を発生させる、いわゆるバブルジェット(登録商標)方式や、サーマル方式も用いることができる。
【0016】
図3は、図2のヘッドセルAが複数連なったヘッドモジュールDの模式図を示す。これはヘッドモジュールDを吐出面側からみた概略図である。図ではノズル板4とノズル7のみが示されているが、その裏側には圧力室CやピエゾアクチュエーターBがそれぞれのノズル7に対応して形成されている。ヘッドモジュールDは、例えば幅が1.5cm、長さが4.5cmの長方形状の形状を有している。ヘッドモジュールDには、その長手方向に40μmのピッチPで一列に並ぶように、直径20μmのノズル7が500個形成されている。インクを吐出させるノズル7を適宜選択することにより、最狭40μmピッチからその整数倍のピッチで微小液滴を吐出できる。図4は、図3のヘッドモジュールDを複数有するヘッドアセンブリEの模式図を示す。ヘッドアセンブリEでは、広い面積の塗布に対応させるためにヘッドモジュールDが複数個千鳥状に配置されていて、ノズル7が所定方向(以下、「Y方向」という。)にピッチPで連続的に直線状に配列されている。本実施形態では50cmの幅で塗布するために25個のヘッドモジュールDからなるヘッドアセンブリEを採用している。ただし、モジュール数はこれに限定されるものではなく基材の幅に応じて決定すればよい。
【0017】
次に、該インクジェット方式による光学部品の製造方法について詳細に説明する。この製造方法は、同じ防眩性付与組成物をインクとして用いてドット成形工程を複数回繰り返すことを特徴とする。ここで、ドット成形工程とは、複数のノズル7のうちから使用するノズル7を選択しながら基材1上にインクを吐出させて当該基材1上にランダムな配置でドットを形成し、その後にドットを硬化させる一連の工程をいう。なお、基材1上へのインクの吐出は、基材1を搬送しながら行う。
【0018】
図5は、図4のヘッドアセンブリEを用いて基材1上にインクを吐出させる仕方を示す。例えば25個のヘッドモジュールDからなるヘッドアセンブリEを備えるインクジェット装置は温湿度やクリーン度が管理された部屋に置かれている。特に、防眩性付与組成物であるインクの粘度は周囲温度に強く影響を受け、それにより基材1上に形成されるドットの形状が変化するために、インクジェット装置、特にヘッド部や材料供給部は温度変化が±2℃以内に収まるように厳密に管理する。基材1はサイズが縦50cm、横85cmで厚さ3mmの強化ガラスである。基材はこれに限定されるものではなくPET、TAC、アクリルなどのプラスチックフィルムでもよい。また、サイズや厚み形状もこれに限定されるものではなく目的やデバイスに応じて決定する。基材1の表面は、事前に前の工程で紫外線の照射や放電ガスとの接触を通じて洗浄されている。このことにより基材と防眩層の接着強度が確保できる。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の基材1の表面処理をしている。この表面処理された基材1の上にインクジェット方式で防眩性付与組成物からなるインクを吐出していく。
【0019】
防眩性付与組成物は、重合性有機化合物、有機溶剤、添加剤から構成されている。重合性有機化合物は、ビニル基、アリル基などの不飽和結合を有しラジカル重合で硬化する化合物やシロキサンなどのカチオン重合で硬化する化合物などである。本実施形態では紫外線硬化樹脂であるシリコーン樹脂を用いているが、熱硬化樹脂でも硬化温度が基材の物性に影響を与えない範囲であるなら使用可能である。有機溶剤は、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他有機溶媒の中から適宜選択し、あるいはこれらを混合したものを用いる。一般には溶剤を加えるとドットのサイズや高さを調整できる範囲が拡大する。本実施形態ではエタノール、イソプロピルアルコール、ダイアセトンアルコール、酢酸カルビトール、乳酸メチル、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、デカリンなどから吐出性やドットサイズを考慮して適宜選択している。重合性有機化合物の中には溶剤を加えなくても粘度が低いものがあるが、このときは吐出ができるのであれば、特に溶剤を加えることはしなくてもよい。添加剤は、主に硬化触媒である。このような防眩性付与組成物からなるインクは、例えば粘度3〜15mPa・s、表面張力20〜40dyne/cmであり、インクジェット方式で安定に塗布できるような材料構成や配合比となっている。
【0020】
次に、防眩性付与組成物のインクジェット方式による塗布条件について説明する。ヘッドモジュールの吐出面と基材の間の距離は例えば約0.8mmであり、この間で球状の液滴が形成される。液滴はおよそ直径が20μmでその容積は3〜4pLが好適である。発生した液滴による塗布は、ヘッドアセンブリEと基材1を平行に配置し、ヘッドアセンブリEを固定し、基材をY方向と直交する方向(以下、「X方向」という。)の一方(図5では左側)に移動して行う。これにより、図5に示すように、基材1のヘッドアセンブリEの下を通過した部分の所定領域1a中に液滴による塗布が行われる。なお、所定領域1a内において、液滴の塗布によるドット成形工程は複数回行われる。
【0021】
まず最初に、着弾する液適の基材上でのドットサイズからドットピッチを決定する。ドットサイズは、溶剤の種類や量、基材の表面処理や温度によって変化するため、予め確認しておく。ドットサイズの確認は、基材1を停止してワンショット信号で一滴吐出し、硬化させて光学顕微鏡で観察すればよい。例えば、直径が30〜35μm、65〜75μm、140〜150μmのドットが形成されるように、基材の表面処理ならびに溶剤の種類および量を選定しておいてもよい。
【0022】
ドットピッチにはX方向のピッチとY方向のピッチの2種類がある。Y方向のドットピッチはヘッドモジュールのノズルのうちのどのノズルから吐出を行うかを特定して調整する。すなわちノズルのピッチPを40μmとした場合、Y方向のドットピッチは、全てのノズルから吐出させると40μmとなり、一つおきに吐出させると80μm、二つおきに吐出させると120μm、三つおきに吐出させると160μmとなる。このようにノズルのピッチPの整数倍のドットピッチを実現できる。ドットピッチがドットサイズに近づいたりドットサイズ以下になったりすると、隣接するドットが合体して大きなドットになるので、これを避けるためにドットピッチとドットサイズの間に余裕をもたせてドット同士が接触しないようにすることが好ましい。ただし、あまり余裕を持たせすぎると被覆率が低下し、それにともなって防眩効果が低下するので最適な範囲を求めるようにする。例えば、Y方向のドットピッチを、ドットサイズが30〜35μmのときは40μm、ドットサイズが65〜75μmのときは80μm、ドットサイズが140〜150μmのときは160μmとする。そして、決定したドットピッチが実現できるように、ピッチPの一定倍の間隔で並ぶノズルを使用するノズルとして特定する。例えば、Y方向のドットピッチが40μmのときは、ピッチPの1倍の間隔で並ぶノズル、すなわち全てのノズルを使用するノズルとして特定し、Y方向のドットピッチが80μmのときは、ピッチPの2倍の間隔で並ぶノズルを使用するノズルとして特定する。同様に、Y方向のドットピッチが160μmのときは、ピッチPの4倍の間隔で並ぶノズルを使用するノズルとして特定する。
【0023】
X方向のドットピッチは、Y方向のドットピッチと基本的には同じ長さとする。すなわち、Y方向のドットピッチが40μmの場合はX方向のドットピッチも40μmとする。X方向のドットピッチは、吐出間隔と基材搬送速度で調整する。すなわち吐出間隔を500μsecと一定にすると基材搬送速度を8cm/sec、16cm/sec、24cm/sec、32cm/secとすることでそれぞれ40μm、80μm、120μm、160μmのドットピッチが得られる。あるいは、基材搬送速度を32cm/secと一定にすると吐出間隔を125μsec、250μsec、375μsec、500μsecとすることで40μm、80μm、120μm、160μmのドットピッチが得られる。
【0024】
X方向およびY方向のドットピッチを決定し、使用するノズルを特定した後は、特定したノズルが任意に選択されるように、前述したパーソナルコンピューターでランダムなパターンデータを作成する。すなわち、行列状のパターンデータの列数は、特定したノズル(ピッチPの一定倍の間隔で並ぶノズル)の数と一致している。なお、パターンデータの行数は、基材1の大きさによって決められる。連続したインクの吐出は複数回行うので、パターンデータはその回数分作成する。以下、ドットサイズが65〜75μmでドットピッチが80μmの場合を中心に、図6(a)および(b)を参照して説明する。図中の直線は、ドットピッチを示している。各回の吐出では作成されたパターンデータに基づいて特定したノズルのうちから任意に選択したノズルからインクが吐出される。図6(a)は1回目の吐出により形成されるドットパターンを示しており、ドット2aがランダムに配置される。図6(b)は2回目の吐出により形成されるドットパターンを示しており、1回目とは違うパターンでドット2bがランダムに配置される。
【0025】
吐出1回目、吐出2回目のそれぞれの被覆率は20〜30%である。図7および図8は同じ基材上で吐出1回目と吐出2回目を繰り返した場合を示す。このときは1回目に形成されたドット2aと後に形成されたドット2bとが重なり合うところもでてくるが、2回目に形成されたドット2bによって1回目に形成されたドット2aの隙間が埋められるようになる。このために、例えば重なり代を5%とみれば、防眩層による基材の被覆率は35〜55%に上昇する。すなわち、本製造方法により得られる光学部品では、少なくとも一部のドット同士が断面において稜線が重なりかつ頂点が独立した状態で互いに重なり合っている。吐出をさらに繰り返すと被覆率が100%まで段々と上がっていくことはいうまでもないが、繰り返しの回数は求められる性能で決める。例えば、ドット成形工程を3回繰り返せば、被覆率は50〜80%となり、ドット成形工程を4回繰り返せば、被覆率は65〜100%となる。
【0026】
各吐出の後は毎回、乾燥、硬化を行う。ドット中の溶剤を蒸発させるためには、熱風を吹きかける、ヒーターで加熱する、赤外線ランプなどの輻射熱を利用するなどの方法が挙げられる。溶剤の特性に合わせて上記の乾燥方法を単独で、あるいは組み合わせて行い、また、熱のかけ方もドット側から、あるいは裏側から、あるいは両方からと最適な条件で行う。本実施形態では、室温で1分間放置する自然乾燥を行った。ただ、高沸点溶剤の比率が多い場合は50〜100℃のオーブンに1〜3分入れて乾燥させている。
【0027】
乾燥後、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、キセノンランプなどを有する紫外線硬化装置で形成されたドットを硬化させる。このときの照射時間は3〜10秒で、積算光量は200〜1500mJ/cm2である。この条件下ではドットは十分硬化し、基材にしっかりと密着する。
【0028】
以上の工程を経て防眩用の光学部品は完成する。本実施形態では、ドットの直径が30〜35μm、65〜75μm、140〜150μmとなるように、基材の表面処理ならびに溶剤の種類および量を選定し、これらの3種類の条件化で上述したようにしてドット成形工程を2回繰り返して光学部品を製造した。得られた光学部品に対して、JIS K7105−1981にある「プラスチックの光学的特性試験方法」に記載されている方法(透過および反射の光を移動する光学くしを通して測定)によって、透過光の測定により得られる像鮮明度および反射光の測定により得られる映り込み度(鮮鋭性や視認性)の評価を行った。その結果を図11中に点cで示す。なお、点cは、ドットの直径を65〜75μmとしたときのものであるが、ドットの直径を30〜35μm、140〜150μmとしたときも略同じ位置にプロットできたのでこれらを省略する。
【0029】
ドット成形工程を1回だけ行った光学部品では、図11中に点bで示すように、基材単体の光学特性(点a)に対して、透過の像鮮明度をほとんど低下させることなく映り込み度(反射の像鮮明度)を下げることができた。さらに本実施形態の製造方法によりドット成形工程を2回繰り返して製造した光学部品では、被覆率向上によると思われる効果が出て、さらに映り込み度を下げることができた。
【0030】
この方式では、ガラス基材上に防眩層を直接形成することができ、コストダウンできるメリットもある。一方、フィルムやシート上にも形成することができるが、その場合は粘着剤でフィルムやシートをガラス基材に接着させる必要がある。
【0031】
(実施形態2)
実施形態2の製造方法は、防眩層の上にさらにインクジェット装置を用いて低屈折率層を形成するものであり、図9はこの製造方法により製造される光学部品の断面図である。図9において基材1は実施形態1と同様の材質である。この上に防眩層2が、さらにその上に低屈折率層11が積層されていて、この2層により防眩性反射防止効果を得ている。それぞれの層はそれぞれの層に対応した2種類の材料組成物、すなわち防眩性付与組成物と低屈折率層形成用組成物が個々にインクジェット方式で塗布された後に硬化されることにより形成される。
【0032】
次に、この2層構造の防眩性反射防止膜の作製について説明する。最初の防眩層2の形成に関しては、実施の形態1と同様であり、防眩性付与組成物からなるインクをインクジェット方式で吐出し硬化させていく際の材料組成やプロセスは実施形態1と共通するためその詳細は割愛する。ここでは低屈折率層11の形成について説明する。
【0033】
ここで用いる低屈折率層形成用組成物は重合性有機化合物、低屈折微粒子、有機溶剤、添加剤から構成されている。低反射率を実現するためには、屈折率が低い低屈折微粒子を用いること、重合性有機化合物はできるだけ少なくすることが重要である。重合性有機化合物、すなわちバインダーは、ビニル基、アリル基などの不飽和結合を有しラジカル重合で硬化する化合物やシロキサンなどのカチオン重合で硬化する化合物などである。本実施例では紫外線硬化樹脂であるシリコーン樹脂を用いているが、熱硬化樹脂でも硬化温度が基材の物性に影響を与えない範囲であるなら使用可能である。低屈折微粒子は、中空球状シリカ、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなどの無機微粒子やフッ素系樹脂からなる有機微粒子であり、その粒径は10〜100nm、屈折率は1.35〜1.45である。本実施形態では屈折率が1.35〜1.40のフッ素系樹脂の有機微粒子を用いている。200nmより大きな粒子を使用した場合はノズルで目詰まりが発生しやすい傾向にあることから上記の範囲が適切である。このほかフッ素をもつ架橋構造を有するポリマーをバインダー兼低屈折材料として用いることも何ら問題はない。有機溶剤は、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他有機溶媒の中から適宜選択し、あるいはこれらを混合したものを用いる。本実施形態ではエタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコールを混合したものを用いている。添加剤は硬化触媒や界面活性剤、表面張力調整剤などである。
【0034】
該微粒子とバインダーの比率は微粒子1質量部に対して、バインダーが0.5〜2質量部である。バインダー量を増やすと硬化後の基材との接着性はよくなるが、一方、低屈折率層の屈折率が低下するためそれらのバランスを考慮して決める。有機溶剤が重量比で92〜96%と最も高く、その他の材料、すなわち、重合性有機化合物、低屈折微粒子、添加剤を合わせたものは残りの4〜8%である。このように低濃度の設計をしているのは、その他の材料の質量比率を上げていくとノズルでの目詰まりが発生しやすくなることが1つの理由であり、もう1つの理由は、低濃度の場合は比較的厚い膜での塗布となり、膜厚の制御性や管理が容易となるためである。このように作製された低屈折率層形成用組成物からなるインクは、例えば粘度3〜15mPa・s、表面張力20〜40dyne/cmであり、インクジェット方式で安定に塗布できるような材料構成や配合比となっている。金属アルコキシド材料からなる反射防止組成物を用いてゾルゲル法によって低屈折率層を形成してもよいが、このときには反応に200〜300℃と高温が必要とされるため使用できる基材に制限がある。
【0035】
次に、インクジェット方式による低屈折率層形成用組成物の塗布条件について説明する。塗布は図5の防眩層形成のための塗布と同様に行う。すなわち、温湿度やクリーン度が管理された部屋に置かれている例えば25個のヘッドモジュールからなるヘッドアセンブリEを有するインクジェット装置を用い、特に、精密な膜厚管理のために、実施形態1と同様、ヘッドや材料供給系は温度変化が±2℃以内に収まるように管理する。基材1には、すでに防眩層2が形成されており、その後、防眩層2と低屈折率層11の接着性を改善するために、紫外線の照射や放電ガスとの接触で表面を洗浄する。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の防眩層2の表面処理をしている。
【0036】
この表面処理された防眩層2の上に低屈折率相形成用組成物からなるインクをインクジェット方式で形成していく。ヘッドモジュールの吐出面と基材の距離は例えば約0.8mmであり、この間で球状の液滴が形成される。液滴はおよそ直径が30μmでその容積は15pLが好適である。発生した液滴による塗布はヘッドアセンブリEと基材1は平行に配置し、ヘッドアセンブリEを固定し、基材をX方向の一方に移動しておこなう。低屈折率層11は連続した膜となるように着弾したドットがつながる条件を求める。そのためには、まず最初に、基材1を停止させてワンショット信号で一滴吐出し、硬化させて光学顕微鏡で観察しドットサイズを求める。次に、液滴を着弾させるドットピッチ、すなわち走行方向(X方向)とヘッド方向(Y方向)のドットピッチを決める。このとき、ドットサイズ以下のドットピッチに設定することにより連続した膜が得られる。本実施形態の低屈折率層形成用組成物からなるインクでは、ドットサイズは100〜200μmであり、Y方向のドットピッチはノズル間隔で決定されるが、上記条件より40μmか80μmを採用し、X方向のドットピッチは上記条件を満足する1μm〜100μmの中から管理しやすい条件を選ぶ。X方向のドットピッチは吐出間隔と基材搬送速度で一義的に決めることができ、例えば、ドットピッチを4.8μmにするには、吐出間隔は80μsec、基材搬送速度は6cm/secとなる。
【0037】
塗布厚みは1〜10μmであり、その厚みはX方向やY方向のドットピッチやアクチュエーターの駆動パルス数や駆動電圧で調整できる。本実施形態では塗布厚は2〜5μmが中心であり、硬化後の厚みでは70〜120nm、いわゆる光学膜厚(光学膜厚とは、層の屈折率とnと膜厚dとの積により定義される量である)でλ/4近傍となるように調整している。
【0038】
塗布後は塗布膜の乾燥、硬化を行う。塗布膜中の溶剤を蒸発させるためには、熱風を吹きかける、ヒーターで加熱する、赤外線ランプなどの輻射熱を利用するなどの方法が挙げられる。溶剤の特性に合わせて上記の乾燥方法を単独で、あるいは組み合わせて行い、また、熱のかけ方も塗膜面側から、あるいは裏側から、あるいは両方からと最適化な条件で行う。本実施形態では急激な乾燥による塗布むらを避けるため、室温で1分間放置する自然乾燥を行った。ただ、高沸点溶剤の比率が多い場合は50〜100℃のオーブンに1〜3分入れて乾燥させている。
【0039】
乾燥後、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、キセノンランプなどを有する紫外線硬化装置で塗布膜を硬化させる。このとき照射時間は3〜10秒で、積算光量は200〜1500mJ/cm2である。この条件下では塗布膜は十分硬化し、防眩層のついた基材にしっかりと密着する。
【0040】
以上の工程を経て防眩性反射防止膜を有する光学部品は完成する。完成した光学部品の膜強度は鉛筆硬度で3H、低屈折率層の屈折率は1.35〜1.40であった。実施形態1と同様に像鮮明度および移り込み度(鮮鋭性や視認性)を評価した。その結果を図11中に点dで示す。基材単体の光学特性(点a)に対して、その上に防眩層と低屈折率層を形成した光学部品の光学特性(点d)は、透過の像鮮明度を低下させることなく映り込み度が改善され、さらに実施形態1よりもいっそう低減させることができた。また、3波長蛍光灯での観察においても、広い面積において干渉縞が見られないことを確認した。
【0041】
また、実施形態2では、インクジェット装置を用いて低屈折率層11を形成しているので、光学部品をシンプルな装置で連続生産することができる。
【0042】
(実施形態3)
よりいっそう反射率を低減させるためには多層構造とし、各層の屈折率や膜厚を最適化し、表面反射光と界面反射光を干渉、打ち消しあわせることが有効であることは一般に知られている。実施形態3の製造方法は、防眩層の上にさらにインクジェット装置を用いて2層の反射防止膜を積層するものであり、図10はこの製造方法により製造される光学部品の断面図である。図10において基材1は実施形態1と同様の材質である。この上に防眩層2が、さらにその上には高屈折率層12と低屈折率層11が積層されていて、この3層により防眩性反射防止効果を得ている。それぞれの膜はそれぞれの膜に対応した3種類の材料組成物、すなわち防眩性付与組成物、高屈折率層形成用組成物と低屈折率層形成用組成物が個々にインクジェット方式で塗布された後に硬化されることにより形成される。
【0043】
次に、3層構造の防眩性反射防止膜の作製について説明する。最初の防眩層2の形成に関しては、実施形態1と同様であり、防眩性付与組成物からなるインクをインクジェット方式で吐出し硬化させていく際の材料組成やプロセスは実施形態1と共通するためその詳細は割愛する。ここでは高屈折率層12の形成について説明する。ここで用いる高屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、高屈折微粒子、有機溶剤、添加剤から構成されている。低反射を実現するためには、高屈折率層12は屈折率が高いほうがよく、そのためにはより高い屈折率の微粒子を用いること、また、重合性有機化合物はできるだけ少なくすることが重要である。重合性有機化合物は、いわゆるバインダーであり高屈折微粒子材料と相性のよいものを選択するが、一般的にはビニル基、アリル基などの不飽和結合を有しラジカル重合で硬化する化合物やシロキサンなどのカチオン重合で硬化する化合物などである。本実施形態では紫外線硬化樹脂であるシリコーン樹脂を用いているが、熱硬化樹脂でも硬化温度が基材の物性に影響を与えない範囲であるなら使用可能である。高屈折微粒子は、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化スズ、ITOなどの無機微粒子であり、その粒径は10〜100nm、屈折率は1.65〜2.20である。本実施形態では屈折率が1.80〜2.20の二酸化チタンの無機微粒子を用いている。200nmより大きな粒子を使用した場合はノズルで目詰まりが発生しやすい傾向にあり、実施形態2と同様避けたほうがよい。有機溶剤は、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他有機溶媒の中から適宜選択し、あるいはこれらを混合したものを用いる。本実施形態ではエタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコールの混合したものを用いている。添加剤は硬化触媒や界面活性剤、表面張力調整剤などである。該微粒子とバインダーの比率は微粒子1質量部に対して、バインダーが0.5〜2質量部である。バインダー量を増やすと硬化後の基材との接着性はよくなるが、一方、高屈折率層の屈折率が低下するためそれらのバランスを考慮して決める。有機溶剤が質量比で92〜96%と最も高く、その他の材料、すなわち、重合性有機化合物、高屈折微粒子、添加剤を合わせたものは残りの4〜8%である。このように低濃度の設計をしているのは、その他の材料の質量比率を上げていくとインクジェットヘッドでの目詰まりが発生しやすい傾向にあることが1つの理由であり、もう1つの理由は、低濃度の場合は比較的厚い膜での塗布となり、膜厚の制御性や管理が容易となるためである。このように作製された高屈折率層形成用組成物からなるインクは、例えば粘度3〜15mPa・s、表面張力20〜40dyne/cmであり、インクジェット方式で安定に塗布できるような材料構成や配合比となっている。
【0044】
次に、インクジェット方式による高屈折率層形成用組成物の塗布条件について説明する。塗布は図5の防眩層形成のための塗布と同様に行う。すなわち、温湿度やクリーン度が管理された部屋に置かれている例えば25個のヘッドモジュールからなるヘッドアセンブリEを有するインクジェット装置を用い、特に、精密な膜厚管理のために、実施形態1,2と同様、ヘッドや材料供給系は温度変化が±2℃以内に収まるように管理する。基材1には、すでに防眩層2が形成されており、その後、防眩層2と高屈折率層12の接着性を改善するために、紫外線の照射や放電ガスとの接触で表面を洗浄する。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の防眩層2の表面処理をしている。この表面処理された防眩層2の上に高屈折組成物のインク材料をインクジェット方式で形成していく。ヘッドモジュールの吐出面と基材の距離は例えば約0.8mmであり、この間で球状の液滴が形成される。液滴はおよそ直径が30μmでその容積は15pLが好適である。発生した液滴による塗布はヘッドアセンブリEと基材1は平行に配置し、ヘッドアセンブリEを固定し、基材をX方向の一方に移動しておこなう。高屈折率層12は連続した膜となるようにドットがつながる条件を求める。そのためには、まず最初に、基材1を停止させてワンショット信号で一滴吐出し、硬化させて光学顕微鏡で観察しドットサイズを求める。次に、液滴を着弾させるドットピッチ、すなわち走行方向(X方向)とヘッド方向(Y方向)のドットピッチを決める。このとき、ドットサイズ以下のドットピッチに設定することにより連続した膜が得られる。本実施形態の高屈折率層形成用率組成物からなるインクでは、ドットサイズは100〜200μmであり、Y方向のドットピッチはメズル間隔で決定されるが、上記条件より40μmか80μmを採用し、X方向のドットピッチは上記条件を満足する1μm〜100μmの中から管理しやすい条件を選ぶ。X方向のドットピッチは吐出間隔と基材搬送速度で一義的に決めることができ、例えば、ドットピッチを4.8μmにするには、吐出間隔は80μsec、基材搬送速度は6cm/secとなる。
【0045】
塗布厚みは1〜10μmであり、その厚みはX方向やY方向のドットピッチやアクチュエーターの駆動パルス数や駆動電圧で調整できる。本実施形態では塗布厚は2〜5μmが中心であり、硬化後の厚みでは60〜90nm、いわゆる光学膜厚(光学膜厚とは、層の屈折率とnと膜厚dとの積により定義される量である)でλ/4近傍となるように調整している。
【0046】
塗布後は塗布膜の乾燥、硬化を行う。塗布膜中の溶剤を蒸発させるためには、熱風を吹きかける、ヒーターで加熱する、赤外線ランプなどの輻射熱を利用するなどの方法が挙げられる。溶剤の特性に合わせて上記の乾燥方法を単独で、あるいは組み合わせて行い、また、熱のかけ方も塗膜面側から、あるいは裏側から、あるいは両方からと最適化な条件で行う。本実施形態では急激な乾燥による塗布むらを避けるため、室温で1分間放置する自然乾燥を行った。ただ、高沸点溶剤の比率が多い場合は50〜100℃のオーブンに1〜3分入れて乾燥させている。
【0047】
乾燥後、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、キセノンランプなどを有する紫外線硬化装置で塗布膜を硬化させる。このとき照射時間は3〜10秒で、積算光量は200〜1500mJ/cm2である。この条件下では塗布膜は十分硬化し、防眩層のついた基材にしっかりと密着する。硬化後の高屈折率層は、膜強度は鉛筆硬度で3H、屈折率は1.65〜1.80であった。
【0048】
次に、この上に低屈折率層11を形成するが、その前に低屈折率層11との接着性を改善するために、高屈折率層12の表面を紫外線の照射や放電ガスとの接触で表面を洗浄する。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の基材の表面処理をしている。
【0049】
この表面処理された高屈折率層12の上に低屈折率層形成用組成物からなるインクをインクジェット方式で塗布していく。このときの材料組成やプロセスは実施形態2と共通するためその詳細は割愛する。塗布された低屈折率層形成用組成物(塗布膜)の乾燥や硬化も実施形態2と同様であり、これにより3層目である低屈折率層11が形成される。
【0050】
以上の工程を経て防眩性反射防止膜を有する光学部品は完成する。実施形態1,2と同様に像鮮明度および映り込み度(鮮鋭性や視認性)を評価した。その結果を図11中に点eで示す。基材の光学特性(点a)に対して、その上に防眩層、高屈折率層、および低屈折率層を形成したものの光学特性(点e)は、透過の像鮮明度を低下させることなく映り込み度が改善され、実施形態2よりもよりいっそう低減させることができた。また、3波長蛍光灯での観察においても、広い面積において干渉縞が見られないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、光学干渉ムラのないすぐれた視認性、鮮鋭性を有する防眩性光学部品が得られること、また、大気中での防眩層の形成が可能なシンプルで小型な生産設備でよいためにダイコート法などよりも工程が簡略化され、生産のタクトが短縮されて高スループットが実現でき、結果的には低コストで製造できることから、本発明は光学部品の製造にはきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態1に係る製造方法により製造される光学部品の断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る製造方法に用いるインクジェット装置のヘッドセルの模式図である。
【図3】図2のヘッドセルが複数連なったヘッドモジュールの模式図である。
【図4】図3のヘッドモジュールを複数有するヘッドアセンブリの模式図である。
【図5】図4のヘッドアセンブリを用いて基材上にインクを吐出させる仕方を示す説明図である。
【図6】(a)は1回目のインクの吐出により形成されるドットパターンを示す図、(b)は2回目のインクの吐出により形成されるドットパターンを示す図である。
【図7】図6(a)と図6(b)を重ね合わせたときのドットパターンを示す図である。
【図8】ドット成形工程を2回繰り返して製造された光学部品の断面図である。
【図9】本発明の実施形態2に係る製造方法により製造される光学部品の断面図である。
【図10】本発明の実施形態3に係る製造方法により製造される光学部品の断面図である。
【図11】光学部品の光学特性を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 基材
2 防眩層
2a,2b ドット
3 圧力室隔壁
4 ノズル板
5 ピエゾ素子
6 電極
7 ノズル
8 インク
9 液滴
11 低屈折率層
12 高屈折率層
A ヘッドセル
B ピエゾアクチュエーター
C 圧力室
D ヘッドモジュール
E ヘッドアセンブリ
P ピッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスプレイや光学デバイスに用いられる、防眩層を有する光学部品およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭においてもオフィスにおいても映像機器や情報機器、携帯機器の利用が急拡大している。それぞれの機器にはディスプレイが装着されており、最近の傾向としてそれらの画面サイズの大型化や高画質化が進展している。大型化や高画質化にともなって、より見やすくなるよう視認性の改善が求められ、一般的には反射防止層や防眩層が形成された光学フィルムをディスプレイ前面に貼り付けている。特に外光の映り込み防止には防眩層が有効で、いろいろなタイプの防眩層が検討されている。
【0003】
防眩層はその表面に適切なサイズやピッチで凹凸が付与されたものであり、その形成方法としては、転写やエンボス加工によるものと、微粒子を塗布液に添加しダイコート法やスピンコート法、ディップコート法などのウェットプロセスによるものとが実用化されている。転写やエンボス加工による防眩層の形成は、ロールの製作やメンテナンスにコストがかかる、生産性に劣る、微細な凹凸構造を形成することは極めて困難である、という課題を有する。ウェットプロセスによる防眩層の形成は、コストや量産性では優れているものの、所望の突起部を効果的に形成するためには塗布むらを発生させることなく微粒子を適切に分散させなければならず、大面積にわたりそれを実現することはきわめて困難であるという課題を有する。
【0004】
最近、ウェットプロセスの一種であるインクジェット法により防眩層を形成することも検討され始めている。このインクジェット法は、基材上に着弾させたインクをそのまま硬化させることにより突起を形成するものである。例えば、特許文献1には、インクジェット装置を用いて基材上にランダムな配置でドットを形成し、このドットを硬化させることにより防眩層を形成することが記載されている。そして、特許文献1には、ドットをランダムに配置する方法として、インクジェット装置のヘッド部分に振動を与える方法と、任意のノズルからインクを吐出させる方法とが開示されている。
【特許文献1】特開2004−151642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェット装置のヘッド部分に振動を与える方法では、ヘッド部分から吐出されたインクが近い位置に落ちて隣り合うドット同士が混じりあってしまい、微細な突起だけでなく大きく扁平な突起が形成されることがある。このように大きく扁平な突起が形成されると、その部分における防眩性が低下する。これに対し、任意のノズルからインクを吐出させる方法では、隣り合うドット同士が混じりあうことがないものの、基材上でドットをランダムに配置するために複数のノズルのうちのある程度離れた位置のノズルを使用する必要があるため、ドットの分布密度が小さくなって防眩層による基材の被覆率をあまり高くすることができない。そして、このように被覆率があまり高くない光学部品では、基材の表面による反射の影響が大きく、映り込みをあまり抑えられない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、防眩層による基材の被覆率を高くすることができる光学部品の製造方法およびこの製造方法によって得られる光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、インクを吐出するための複数のノズルを有するインクジェット装置を用いて基材上に防眩層を形成することにより光学部品を製造する方法であって、前記複数のノズルのうちから使用するノズルを選択しながら前記基材上に前記インクを吐出させて当該基材上にランダムな配置でドットを形成した後に前記ドットを硬化させるドット成形工程を複数回繰り返すことにより前記防眩層を形成する光学部品の製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、基材と、この基材上に形成された防眩層とを備え、前記防眩層は、前記基材上にランダムに配置された、同一の防眩性付与組成物からなる複数のドットで構成されており、これらのドットのうちの少なくとも一部のドット同士は、断面において稜線が重なりかつ頂点が独立した状態で互いに重なり合っている光学部品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記の方法によれば、ドット成形工程を複数回繰り返すことにより、ランダムなドットパターンが重ね合わされるようになるため、防眩層による基材の被覆率を向上させることができる。しかも、一旦ドットを硬化させた後に再度ドットを形成するので、先に形成したドットと後に形成したドットが混じりあうことなくそれぞれが突起を形成するようになり、大きく扁平な突起が形成されることがない。すなわち、本発明によれば、多数の微細突起を有する防眩層によって高い被覆率で基材が覆われた光学部品を得ることができる。そして、このような光学部品であれば、映り込みを効果的に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照しながら説明する。
【0011】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る製造方法によって製造される光学部品の一例を示す断面図である。図1において、光学部品は、基材1と防眩層2から構成されている。基材1は、透明なものであり、厚さ1〜3mmの強化ガラスや、厚さ50〜200μmのPET(ポリエチレンテレフタレート)、TAC(トリアセチルセルロース)、アクリル、ポリイミドなどのプラスチックフィルムである。この上に形成された防眩層2は、インクジェット方式で形成された防眩性付与組成物からなるものである。防眩性付与組成物は、詳しくは後述するが、セルロースエステル樹脂やポリカーボネート樹脂などの熱硬化樹脂、またはアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂などの紫外線硬化樹脂からなる。なお、プラスチックフィルムの場合はガラスに比べ硬度が低く耐擦傷性に劣るため、基材1と防眩層2の間には高硬度の熱硬化型の樹脂や紫外線硬化型の樹脂などのハードコート層を設ける場合もある。
【0012】
インクジェット方式による防眩層2の形成は、防眩性付与組成物をインクとして採用したインクジェット装置を用いて基材1上にヘッドアセンブリからインクを吐出して塗布し、さらにこれを硬化させることにより行う。ヘッドアセンブリは複数個のヘッドモジュールから構成され、さらにヘッドモジュールは複数個のヘッドセルの集合体から構成されている。図2は、本実施形態および後述する各実施形態で用いるヘッドセルの模式図を示す。ヘッドセルAはヘッドモジュールの、さらにはヘッドアセンブリの基本構成要素である。ヘッドセルAは、SUSからなる圧力室隔壁3、圧力室隔壁3の上に配置されたピエゾアクチュエーターB、圧力室隔壁3の下に配置されたノズル板4から構成されている。
【0013】
ピエゾアクチュエーターBは、ピエゾ素子5が電極6で挟まれた構造を有している。ノズル板4の材質はSUSであり、吐出面側の表面には撥水処理が施されていて、ここには直径20μm〜30μmのノズル7が開けられている。圧力室Cは圧力室隔壁3とピエゾアクチュエーターBに囲まれた部分である。
【0014】
まず、防眩性付与組成物からなるインク8が圧力室Cに導入される。圧力室Cの上に配置されているピエゾ素子5に電極6から電圧を印加することにより、圧力室C内のインク8に圧力をかけ、ノズル7からインク8を微小液滴9として吐出させる。このとき、ピエゾ素子5にかける振動周波数やパルス数、そのパルス波形を調整することにより、さらには、ノズル形状などの最適化を図ることにより、ノズル7から吐出する液滴のサイズを直径10〜100μmに制御する。このようにしてインクジェット方式では微小ノズルから微小液滴として防眩性付与組成物からなるインクを吐出して基材上に着弾させてドットを形成し、そのドットを硬化させることにより凹凸構造を形成する。すなわち、ドットがそのまま突起となって、多数の突起を有する防眩層2が形成される。着弾したドットの径は一般に液滴の径より大きくなり、また、小さい液滴からは小さいドットが、大きい液滴からは大きいドットが形成される。また、同じ液滴の径でも基材温度や溶剤の含有量などでドットの径が変化するので、インク材料やプロセス条件を最適化する。隣り合う突起の平均中心間距離は20〜120μm、各突起の高さは0.1〜5μm、防眩層2による基材1の被服率は35〜100%が好ましい。各ドットはドットに反射された光同士の干渉による干渉縞の発生を防ぐためにランダムに配置することが求められる。これはランダムなパターンデータ(例えば、要素が0と1からなり、その並びがランダムな行列状のデータ)をパーソナルコンピューターで作成し、それを吐出のオンオフ信号に変換してヘッドアセンブリに送信し、最終的には各ヘッドセルAのピエゾアクチュエーターBにオンオフ信号に基づく電圧を印加することによって基材上にパターンデータと同様のランダムな配置でドットを形成することができる。
【0015】
本実施形態では材料の選択性の広さからピエゾ方式を採用しているが、インクを加熱して気泡を発生させる、いわゆるバブルジェット(登録商標)方式や、サーマル方式も用いることができる。
【0016】
図3は、図2のヘッドセルAが複数連なったヘッドモジュールDの模式図を示す。これはヘッドモジュールDを吐出面側からみた概略図である。図ではノズル板4とノズル7のみが示されているが、その裏側には圧力室CやピエゾアクチュエーターBがそれぞれのノズル7に対応して形成されている。ヘッドモジュールDは、例えば幅が1.5cm、長さが4.5cmの長方形状の形状を有している。ヘッドモジュールDには、その長手方向に40μmのピッチPで一列に並ぶように、直径20μmのノズル7が500個形成されている。インクを吐出させるノズル7を適宜選択することにより、最狭40μmピッチからその整数倍のピッチで微小液滴を吐出できる。図4は、図3のヘッドモジュールDを複数有するヘッドアセンブリEの模式図を示す。ヘッドアセンブリEでは、広い面積の塗布に対応させるためにヘッドモジュールDが複数個千鳥状に配置されていて、ノズル7が所定方向(以下、「Y方向」という。)にピッチPで連続的に直線状に配列されている。本実施形態では50cmの幅で塗布するために25個のヘッドモジュールDからなるヘッドアセンブリEを採用している。ただし、モジュール数はこれに限定されるものではなく基材の幅に応じて決定すればよい。
【0017】
次に、該インクジェット方式による光学部品の製造方法について詳細に説明する。この製造方法は、同じ防眩性付与組成物をインクとして用いてドット成形工程を複数回繰り返すことを特徴とする。ここで、ドット成形工程とは、複数のノズル7のうちから使用するノズル7を選択しながら基材1上にインクを吐出させて当該基材1上にランダムな配置でドットを形成し、その後にドットを硬化させる一連の工程をいう。なお、基材1上へのインクの吐出は、基材1を搬送しながら行う。
【0018】
図5は、図4のヘッドアセンブリEを用いて基材1上にインクを吐出させる仕方を示す。例えば25個のヘッドモジュールDからなるヘッドアセンブリEを備えるインクジェット装置は温湿度やクリーン度が管理された部屋に置かれている。特に、防眩性付与組成物であるインクの粘度は周囲温度に強く影響を受け、それにより基材1上に形成されるドットの形状が変化するために、インクジェット装置、特にヘッド部や材料供給部は温度変化が±2℃以内に収まるように厳密に管理する。基材1はサイズが縦50cm、横85cmで厚さ3mmの強化ガラスである。基材はこれに限定されるものではなくPET、TAC、アクリルなどのプラスチックフィルムでもよい。また、サイズや厚み形状もこれに限定されるものではなく目的やデバイスに応じて決定する。基材1の表面は、事前に前の工程で紫外線の照射や放電ガスとの接触を通じて洗浄されている。このことにより基材と防眩層の接着強度が確保できる。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の基材1の表面処理をしている。この表面処理された基材1の上にインクジェット方式で防眩性付与組成物からなるインクを吐出していく。
【0019】
防眩性付与組成物は、重合性有機化合物、有機溶剤、添加剤から構成されている。重合性有機化合物は、ビニル基、アリル基などの不飽和結合を有しラジカル重合で硬化する化合物やシロキサンなどのカチオン重合で硬化する化合物などである。本実施形態では紫外線硬化樹脂であるシリコーン樹脂を用いているが、熱硬化樹脂でも硬化温度が基材の物性に影響を与えない範囲であるなら使用可能である。有機溶剤は、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他有機溶媒の中から適宜選択し、あるいはこれらを混合したものを用いる。一般には溶剤を加えるとドットのサイズや高さを調整できる範囲が拡大する。本実施形態ではエタノール、イソプロピルアルコール、ダイアセトンアルコール、酢酸カルビトール、乳酸メチル、PGME(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、デカリンなどから吐出性やドットサイズを考慮して適宜選択している。重合性有機化合物の中には溶剤を加えなくても粘度が低いものがあるが、このときは吐出ができるのであれば、特に溶剤を加えることはしなくてもよい。添加剤は、主に硬化触媒である。このような防眩性付与組成物からなるインクは、例えば粘度3〜15mPa・s、表面張力20〜40dyne/cmであり、インクジェット方式で安定に塗布できるような材料構成や配合比となっている。
【0020】
次に、防眩性付与組成物のインクジェット方式による塗布条件について説明する。ヘッドモジュールの吐出面と基材の間の距離は例えば約0.8mmであり、この間で球状の液滴が形成される。液滴はおよそ直径が20μmでその容積は3〜4pLが好適である。発生した液滴による塗布は、ヘッドアセンブリEと基材1を平行に配置し、ヘッドアセンブリEを固定し、基材をY方向と直交する方向(以下、「X方向」という。)の一方(図5では左側)に移動して行う。これにより、図5に示すように、基材1のヘッドアセンブリEの下を通過した部分の所定領域1a中に液滴による塗布が行われる。なお、所定領域1a内において、液滴の塗布によるドット成形工程は複数回行われる。
【0021】
まず最初に、着弾する液適の基材上でのドットサイズからドットピッチを決定する。ドットサイズは、溶剤の種類や量、基材の表面処理や温度によって変化するため、予め確認しておく。ドットサイズの確認は、基材1を停止してワンショット信号で一滴吐出し、硬化させて光学顕微鏡で観察すればよい。例えば、直径が30〜35μm、65〜75μm、140〜150μmのドットが形成されるように、基材の表面処理ならびに溶剤の種類および量を選定しておいてもよい。
【0022】
ドットピッチにはX方向のピッチとY方向のピッチの2種類がある。Y方向のドットピッチはヘッドモジュールのノズルのうちのどのノズルから吐出を行うかを特定して調整する。すなわちノズルのピッチPを40μmとした場合、Y方向のドットピッチは、全てのノズルから吐出させると40μmとなり、一つおきに吐出させると80μm、二つおきに吐出させると120μm、三つおきに吐出させると160μmとなる。このようにノズルのピッチPの整数倍のドットピッチを実現できる。ドットピッチがドットサイズに近づいたりドットサイズ以下になったりすると、隣接するドットが合体して大きなドットになるので、これを避けるためにドットピッチとドットサイズの間に余裕をもたせてドット同士が接触しないようにすることが好ましい。ただし、あまり余裕を持たせすぎると被覆率が低下し、それにともなって防眩効果が低下するので最適な範囲を求めるようにする。例えば、Y方向のドットピッチを、ドットサイズが30〜35μmのときは40μm、ドットサイズが65〜75μmのときは80μm、ドットサイズが140〜150μmのときは160μmとする。そして、決定したドットピッチが実現できるように、ピッチPの一定倍の間隔で並ぶノズルを使用するノズルとして特定する。例えば、Y方向のドットピッチが40μmのときは、ピッチPの1倍の間隔で並ぶノズル、すなわち全てのノズルを使用するノズルとして特定し、Y方向のドットピッチが80μmのときは、ピッチPの2倍の間隔で並ぶノズルを使用するノズルとして特定する。同様に、Y方向のドットピッチが160μmのときは、ピッチPの4倍の間隔で並ぶノズルを使用するノズルとして特定する。
【0023】
X方向のドットピッチは、Y方向のドットピッチと基本的には同じ長さとする。すなわち、Y方向のドットピッチが40μmの場合はX方向のドットピッチも40μmとする。X方向のドットピッチは、吐出間隔と基材搬送速度で調整する。すなわち吐出間隔を500μsecと一定にすると基材搬送速度を8cm/sec、16cm/sec、24cm/sec、32cm/secとすることでそれぞれ40μm、80μm、120μm、160μmのドットピッチが得られる。あるいは、基材搬送速度を32cm/secと一定にすると吐出間隔を125μsec、250μsec、375μsec、500μsecとすることで40μm、80μm、120μm、160μmのドットピッチが得られる。
【0024】
X方向およびY方向のドットピッチを決定し、使用するノズルを特定した後は、特定したノズルが任意に選択されるように、前述したパーソナルコンピューターでランダムなパターンデータを作成する。すなわち、行列状のパターンデータの列数は、特定したノズル(ピッチPの一定倍の間隔で並ぶノズル)の数と一致している。なお、パターンデータの行数は、基材1の大きさによって決められる。連続したインクの吐出は複数回行うので、パターンデータはその回数分作成する。以下、ドットサイズが65〜75μmでドットピッチが80μmの場合を中心に、図6(a)および(b)を参照して説明する。図中の直線は、ドットピッチを示している。各回の吐出では作成されたパターンデータに基づいて特定したノズルのうちから任意に選択したノズルからインクが吐出される。図6(a)は1回目の吐出により形成されるドットパターンを示しており、ドット2aがランダムに配置される。図6(b)は2回目の吐出により形成されるドットパターンを示しており、1回目とは違うパターンでドット2bがランダムに配置される。
【0025】
吐出1回目、吐出2回目のそれぞれの被覆率は20〜30%である。図7および図8は同じ基材上で吐出1回目と吐出2回目を繰り返した場合を示す。このときは1回目に形成されたドット2aと後に形成されたドット2bとが重なり合うところもでてくるが、2回目に形成されたドット2bによって1回目に形成されたドット2aの隙間が埋められるようになる。このために、例えば重なり代を5%とみれば、防眩層による基材の被覆率は35〜55%に上昇する。すなわち、本製造方法により得られる光学部品では、少なくとも一部のドット同士が断面において稜線が重なりかつ頂点が独立した状態で互いに重なり合っている。吐出をさらに繰り返すと被覆率が100%まで段々と上がっていくことはいうまでもないが、繰り返しの回数は求められる性能で決める。例えば、ドット成形工程を3回繰り返せば、被覆率は50〜80%となり、ドット成形工程を4回繰り返せば、被覆率は65〜100%となる。
【0026】
各吐出の後は毎回、乾燥、硬化を行う。ドット中の溶剤を蒸発させるためには、熱風を吹きかける、ヒーターで加熱する、赤外線ランプなどの輻射熱を利用するなどの方法が挙げられる。溶剤の特性に合わせて上記の乾燥方法を単独で、あるいは組み合わせて行い、また、熱のかけ方もドット側から、あるいは裏側から、あるいは両方からと最適な条件で行う。本実施形態では、室温で1分間放置する自然乾燥を行った。ただ、高沸点溶剤の比率が多い場合は50〜100℃のオーブンに1〜3分入れて乾燥させている。
【0027】
乾燥後、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、キセノンランプなどを有する紫外線硬化装置で形成されたドットを硬化させる。このときの照射時間は3〜10秒で、積算光量は200〜1500mJ/cm2である。この条件下ではドットは十分硬化し、基材にしっかりと密着する。
【0028】
以上の工程を経て防眩用の光学部品は完成する。本実施形態では、ドットの直径が30〜35μm、65〜75μm、140〜150μmとなるように、基材の表面処理ならびに溶剤の種類および量を選定し、これらの3種類の条件化で上述したようにしてドット成形工程を2回繰り返して光学部品を製造した。得られた光学部品に対して、JIS K7105−1981にある「プラスチックの光学的特性試験方法」に記載されている方法(透過および反射の光を移動する光学くしを通して測定)によって、透過光の測定により得られる像鮮明度および反射光の測定により得られる映り込み度(鮮鋭性や視認性)の評価を行った。その結果を図11中に点cで示す。なお、点cは、ドットの直径を65〜75μmとしたときのものであるが、ドットの直径を30〜35μm、140〜150μmとしたときも略同じ位置にプロットできたのでこれらを省略する。
【0029】
ドット成形工程を1回だけ行った光学部品では、図11中に点bで示すように、基材単体の光学特性(点a)に対して、透過の像鮮明度をほとんど低下させることなく映り込み度(反射の像鮮明度)を下げることができた。さらに本実施形態の製造方法によりドット成形工程を2回繰り返して製造した光学部品では、被覆率向上によると思われる効果が出て、さらに映り込み度を下げることができた。
【0030】
この方式では、ガラス基材上に防眩層を直接形成することができ、コストダウンできるメリットもある。一方、フィルムやシート上にも形成することができるが、その場合は粘着剤でフィルムやシートをガラス基材に接着させる必要がある。
【0031】
(実施形態2)
実施形態2の製造方法は、防眩層の上にさらにインクジェット装置を用いて低屈折率層を形成するものであり、図9はこの製造方法により製造される光学部品の断面図である。図9において基材1は実施形態1と同様の材質である。この上に防眩層2が、さらにその上に低屈折率層11が積層されていて、この2層により防眩性反射防止効果を得ている。それぞれの層はそれぞれの層に対応した2種類の材料組成物、すなわち防眩性付与組成物と低屈折率層形成用組成物が個々にインクジェット方式で塗布された後に硬化されることにより形成される。
【0032】
次に、この2層構造の防眩性反射防止膜の作製について説明する。最初の防眩層2の形成に関しては、実施の形態1と同様であり、防眩性付与組成物からなるインクをインクジェット方式で吐出し硬化させていく際の材料組成やプロセスは実施形態1と共通するためその詳細は割愛する。ここでは低屈折率層11の形成について説明する。
【0033】
ここで用いる低屈折率層形成用組成物は重合性有機化合物、低屈折微粒子、有機溶剤、添加剤から構成されている。低反射率を実現するためには、屈折率が低い低屈折微粒子を用いること、重合性有機化合物はできるだけ少なくすることが重要である。重合性有機化合物、すなわちバインダーは、ビニル基、アリル基などの不飽和結合を有しラジカル重合で硬化する化合物やシロキサンなどのカチオン重合で硬化する化合物などである。本実施例では紫外線硬化樹脂であるシリコーン樹脂を用いているが、熱硬化樹脂でも硬化温度が基材の物性に影響を与えない範囲であるなら使用可能である。低屈折微粒子は、中空球状シリカ、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなどの無機微粒子やフッ素系樹脂からなる有機微粒子であり、その粒径は10〜100nm、屈折率は1.35〜1.45である。本実施形態では屈折率が1.35〜1.40のフッ素系樹脂の有機微粒子を用いている。200nmより大きな粒子を使用した場合はノズルで目詰まりが発生しやすい傾向にあることから上記の範囲が適切である。このほかフッ素をもつ架橋構造を有するポリマーをバインダー兼低屈折材料として用いることも何ら問題はない。有機溶剤は、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他有機溶媒の中から適宜選択し、あるいはこれらを混合したものを用いる。本実施形態ではエタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコールを混合したものを用いている。添加剤は硬化触媒や界面活性剤、表面張力調整剤などである。
【0034】
該微粒子とバインダーの比率は微粒子1質量部に対して、バインダーが0.5〜2質量部である。バインダー量を増やすと硬化後の基材との接着性はよくなるが、一方、低屈折率層の屈折率が低下するためそれらのバランスを考慮して決める。有機溶剤が重量比で92〜96%と最も高く、その他の材料、すなわち、重合性有機化合物、低屈折微粒子、添加剤を合わせたものは残りの4〜8%である。このように低濃度の設計をしているのは、その他の材料の質量比率を上げていくとノズルでの目詰まりが発生しやすくなることが1つの理由であり、もう1つの理由は、低濃度の場合は比較的厚い膜での塗布となり、膜厚の制御性や管理が容易となるためである。このように作製された低屈折率層形成用組成物からなるインクは、例えば粘度3〜15mPa・s、表面張力20〜40dyne/cmであり、インクジェット方式で安定に塗布できるような材料構成や配合比となっている。金属アルコキシド材料からなる反射防止組成物を用いてゾルゲル法によって低屈折率層を形成してもよいが、このときには反応に200〜300℃と高温が必要とされるため使用できる基材に制限がある。
【0035】
次に、インクジェット方式による低屈折率層形成用組成物の塗布条件について説明する。塗布は図5の防眩層形成のための塗布と同様に行う。すなわち、温湿度やクリーン度が管理された部屋に置かれている例えば25個のヘッドモジュールからなるヘッドアセンブリEを有するインクジェット装置を用い、特に、精密な膜厚管理のために、実施形態1と同様、ヘッドや材料供給系は温度変化が±2℃以内に収まるように管理する。基材1には、すでに防眩層2が形成されており、その後、防眩層2と低屈折率層11の接着性を改善するために、紫外線の照射や放電ガスとの接触で表面を洗浄する。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の防眩層2の表面処理をしている。
【0036】
この表面処理された防眩層2の上に低屈折率相形成用組成物からなるインクをインクジェット方式で形成していく。ヘッドモジュールの吐出面と基材の距離は例えば約0.8mmであり、この間で球状の液滴が形成される。液滴はおよそ直径が30μmでその容積は15pLが好適である。発生した液滴による塗布はヘッドアセンブリEと基材1は平行に配置し、ヘッドアセンブリEを固定し、基材をX方向の一方に移動しておこなう。低屈折率層11は連続した膜となるように着弾したドットがつながる条件を求める。そのためには、まず最初に、基材1を停止させてワンショット信号で一滴吐出し、硬化させて光学顕微鏡で観察しドットサイズを求める。次に、液滴を着弾させるドットピッチ、すなわち走行方向(X方向)とヘッド方向(Y方向)のドットピッチを決める。このとき、ドットサイズ以下のドットピッチに設定することにより連続した膜が得られる。本実施形態の低屈折率層形成用組成物からなるインクでは、ドットサイズは100〜200μmであり、Y方向のドットピッチはノズル間隔で決定されるが、上記条件より40μmか80μmを採用し、X方向のドットピッチは上記条件を満足する1μm〜100μmの中から管理しやすい条件を選ぶ。X方向のドットピッチは吐出間隔と基材搬送速度で一義的に決めることができ、例えば、ドットピッチを4.8μmにするには、吐出間隔は80μsec、基材搬送速度は6cm/secとなる。
【0037】
塗布厚みは1〜10μmであり、その厚みはX方向やY方向のドットピッチやアクチュエーターの駆動パルス数や駆動電圧で調整できる。本実施形態では塗布厚は2〜5μmが中心であり、硬化後の厚みでは70〜120nm、いわゆる光学膜厚(光学膜厚とは、層の屈折率とnと膜厚dとの積により定義される量である)でλ/4近傍となるように調整している。
【0038】
塗布後は塗布膜の乾燥、硬化を行う。塗布膜中の溶剤を蒸発させるためには、熱風を吹きかける、ヒーターで加熱する、赤外線ランプなどの輻射熱を利用するなどの方法が挙げられる。溶剤の特性に合わせて上記の乾燥方法を単独で、あるいは組み合わせて行い、また、熱のかけ方も塗膜面側から、あるいは裏側から、あるいは両方からと最適化な条件で行う。本実施形態では急激な乾燥による塗布むらを避けるため、室温で1分間放置する自然乾燥を行った。ただ、高沸点溶剤の比率が多い場合は50〜100℃のオーブンに1〜3分入れて乾燥させている。
【0039】
乾燥後、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、キセノンランプなどを有する紫外線硬化装置で塗布膜を硬化させる。このとき照射時間は3〜10秒で、積算光量は200〜1500mJ/cm2である。この条件下では塗布膜は十分硬化し、防眩層のついた基材にしっかりと密着する。
【0040】
以上の工程を経て防眩性反射防止膜を有する光学部品は完成する。完成した光学部品の膜強度は鉛筆硬度で3H、低屈折率層の屈折率は1.35〜1.40であった。実施形態1と同様に像鮮明度および移り込み度(鮮鋭性や視認性)を評価した。その結果を図11中に点dで示す。基材単体の光学特性(点a)に対して、その上に防眩層と低屈折率層を形成した光学部品の光学特性(点d)は、透過の像鮮明度を低下させることなく映り込み度が改善され、さらに実施形態1よりもいっそう低減させることができた。また、3波長蛍光灯での観察においても、広い面積において干渉縞が見られないことを確認した。
【0041】
また、実施形態2では、インクジェット装置を用いて低屈折率層11を形成しているので、光学部品をシンプルな装置で連続生産することができる。
【0042】
(実施形態3)
よりいっそう反射率を低減させるためには多層構造とし、各層の屈折率や膜厚を最適化し、表面反射光と界面反射光を干渉、打ち消しあわせることが有効であることは一般に知られている。実施形態3の製造方法は、防眩層の上にさらにインクジェット装置を用いて2層の反射防止膜を積層するものであり、図10はこの製造方法により製造される光学部品の断面図である。図10において基材1は実施形態1と同様の材質である。この上に防眩層2が、さらにその上には高屈折率層12と低屈折率層11が積層されていて、この3層により防眩性反射防止効果を得ている。それぞれの膜はそれぞれの膜に対応した3種類の材料組成物、すなわち防眩性付与組成物、高屈折率層形成用組成物と低屈折率層形成用組成物が個々にインクジェット方式で塗布された後に硬化されることにより形成される。
【0043】
次に、3層構造の防眩性反射防止膜の作製について説明する。最初の防眩層2の形成に関しては、実施形態1と同様であり、防眩性付与組成物からなるインクをインクジェット方式で吐出し硬化させていく際の材料組成やプロセスは実施形態1と共通するためその詳細は割愛する。ここでは高屈折率層12の形成について説明する。ここで用いる高屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、高屈折微粒子、有機溶剤、添加剤から構成されている。低反射を実現するためには、高屈折率層12は屈折率が高いほうがよく、そのためにはより高い屈折率の微粒子を用いること、また、重合性有機化合物はできるだけ少なくすることが重要である。重合性有機化合物は、いわゆるバインダーであり高屈折微粒子材料と相性のよいものを選択するが、一般的にはビニル基、アリル基などの不飽和結合を有しラジカル重合で硬化する化合物やシロキサンなどのカチオン重合で硬化する化合物などである。本実施形態では紫外線硬化樹脂であるシリコーン樹脂を用いているが、熱硬化樹脂でも硬化温度が基材の物性に影響を与えない範囲であるなら使用可能である。高屈折微粒子は、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化スズ、ITOなどの無機微粒子であり、その粒径は10〜100nm、屈折率は1.65〜2.20である。本実施形態では屈折率が1.80〜2.20の二酸化チタンの無機微粒子を用いている。200nmより大きな粒子を使用した場合はノズルで目詰まりが発生しやすい傾向にあり、実施形態2と同様避けたほうがよい。有機溶剤は、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他有機溶媒の中から適宜選択し、あるいはこれらを混合したものを用いる。本実施形態ではエタノール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ダイアセトンアルコールの混合したものを用いている。添加剤は硬化触媒や界面活性剤、表面張力調整剤などである。該微粒子とバインダーの比率は微粒子1質量部に対して、バインダーが0.5〜2質量部である。バインダー量を増やすと硬化後の基材との接着性はよくなるが、一方、高屈折率層の屈折率が低下するためそれらのバランスを考慮して決める。有機溶剤が質量比で92〜96%と最も高く、その他の材料、すなわち、重合性有機化合物、高屈折微粒子、添加剤を合わせたものは残りの4〜8%である。このように低濃度の設計をしているのは、その他の材料の質量比率を上げていくとインクジェットヘッドでの目詰まりが発生しやすい傾向にあることが1つの理由であり、もう1つの理由は、低濃度の場合は比較的厚い膜での塗布となり、膜厚の制御性や管理が容易となるためである。このように作製された高屈折率層形成用組成物からなるインクは、例えば粘度3〜15mPa・s、表面張力20〜40dyne/cmであり、インクジェット方式で安定に塗布できるような材料構成や配合比となっている。
【0044】
次に、インクジェット方式による高屈折率層形成用組成物の塗布条件について説明する。塗布は図5の防眩層形成のための塗布と同様に行う。すなわち、温湿度やクリーン度が管理された部屋に置かれている例えば25個のヘッドモジュールからなるヘッドアセンブリEを有するインクジェット装置を用い、特に、精密な膜厚管理のために、実施形態1,2と同様、ヘッドや材料供給系は温度変化が±2℃以内に収まるように管理する。基材1には、すでに防眩層2が形成されており、その後、防眩層2と高屈折率層12の接着性を改善するために、紫外線の照射や放電ガスとの接触で表面を洗浄する。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の防眩層2の表面処理をしている。この表面処理された防眩層2の上に高屈折組成物のインク材料をインクジェット方式で形成していく。ヘッドモジュールの吐出面と基材の距離は例えば約0.8mmであり、この間で球状の液滴が形成される。液滴はおよそ直径が30μmでその容積は15pLが好適である。発生した液滴による塗布はヘッドアセンブリEと基材1は平行に配置し、ヘッドアセンブリEを固定し、基材をX方向の一方に移動しておこなう。高屈折率層12は連続した膜となるようにドットがつながる条件を求める。そのためには、まず最初に、基材1を停止させてワンショット信号で一滴吐出し、硬化させて光学顕微鏡で観察しドットサイズを求める。次に、液滴を着弾させるドットピッチ、すなわち走行方向(X方向)とヘッド方向(Y方向)のドットピッチを決める。このとき、ドットサイズ以下のドットピッチに設定することにより連続した膜が得られる。本実施形態の高屈折率層形成用率組成物からなるインクでは、ドットサイズは100〜200μmであり、Y方向のドットピッチはメズル間隔で決定されるが、上記条件より40μmか80μmを採用し、X方向のドットピッチは上記条件を満足する1μm〜100μmの中から管理しやすい条件を選ぶ。X方向のドットピッチは吐出間隔と基材搬送速度で一義的に決めることができ、例えば、ドットピッチを4.8μmにするには、吐出間隔は80μsec、基材搬送速度は6cm/secとなる。
【0045】
塗布厚みは1〜10μmであり、その厚みはX方向やY方向のドットピッチやアクチュエーターの駆動パルス数や駆動電圧で調整できる。本実施形態では塗布厚は2〜5μmが中心であり、硬化後の厚みでは60〜90nm、いわゆる光学膜厚(光学膜厚とは、層の屈折率とnと膜厚dとの積により定義される量である)でλ/4近傍となるように調整している。
【0046】
塗布後は塗布膜の乾燥、硬化を行う。塗布膜中の溶剤を蒸発させるためには、熱風を吹きかける、ヒーターで加熱する、赤外線ランプなどの輻射熱を利用するなどの方法が挙げられる。溶剤の特性に合わせて上記の乾燥方法を単独で、あるいは組み合わせて行い、また、熱のかけ方も塗膜面側から、あるいは裏側から、あるいは両方からと最適化な条件で行う。本実施形態では急激な乾燥による塗布むらを避けるため、室温で1分間放置する自然乾燥を行った。ただ、高沸点溶剤の比率が多い場合は50〜100℃のオーブンに1〜3分入れて乾燥させている。
【0047】
乾燥後、高圧水銀ランプやメタルハライドランプ、キセノンランプなどを有する紫外線硬化装置で塗布膜を硬化させる。このとき照射時間は3〜10秒で、積算光量は200〜1500mJ/cm2である。この条件下では塗布膜は十分硬化し、防眩層のついた基材にしっかりと密着する。硬化後の高屈折率層は、膜強度は鉛筆硬度で3H、屈折率は1.65〜1.80であった。
【0048】
次に、この上に低屈折率層11を形成するが、その前に低屈折率層11との接着性を改善するために、高屈折率層12の表面を紫外線の照射や放電ガスとの接触で表面を洗浄する。本実施形態では185nmや254nmの短波長紫外線を利用した表面改質装置を用いて1〜2分間の基材の表面処理をしている。
【0049】
この表面処理された高屈折率層12の上に低屈折率層形成用組成物からなるインクをインクジェット方式で塗布していく。このときの材料組成やプロセスは実施形態2と共通するためその詳細は割愛する。塗布された低屈折率層形成用組成物(塗布膜)の乾燥や硬化も実施形態2と同様であり、これにより3層目である低屈折率層11が形成される。
【0050】
以上の工程を経て防眩性反射防止膜を有する光学部品は完成する。実施形態1,2と同様に像鮮明度および映り込み度(鮮鋭性や視認性)を評価した。その結果を図11中に点eで示す。基材の光学特性(点a)に対して、その上に防眩層、高屈折率層、および低屈折率層を形成したものの光学特性(点e)は、透過の像鮮明度を低下させることなく映り込み度が改善され、実施形態2よりもよりいっそう低減させることができた。また、3波長蛍光灯での観察においても、広い面積において干渉縞が見られないことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、光学干渉ムラのないすぐれた視認性、鮮鋭性を有する防眩性光学部品が得られること、また、大気中での防眩層の形成が可能なシンプルで小型な生産設備でよいためにダイコート法などよりも工程が簡略化され、生産のタクトが短縮されて高スループットが実現でき、結果的には低コストで製造できることから、本発明は光学部品の製造にはきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態1に係る製造方法により製造される光学部品の断面図である。
【図2】本発明の実施形態1に係る製造方法に用いるインクジェット装置のヘッドセルの模式図である。
【図3】図2のヘッドセルが複数連なったヘッドモジュールの模式図である。
【図4】図3のヘッドモジュールを複数有するヘッドアセンブリの模式図である。
【図5】図4のヘッドアセンブリを用いて基材上にインクを吐出させる仕方を示す説明図である。
【図6】(a)は1回目のインクの吐出により形成されるドットパターンを示す図、(b)は2回目のインクの吐出により形成されるドットパターンを示す図である。
【図7】図6(a)と図6(b)を重ね合わせたときのドットパターンを示す図である。
【図8】ドット成形工程を2回繰り返して製造された光学部品の断面図である。
【図9】本発明の実施形態2に係る製造方法により製造される光学部品の断面図である。
【図10】本発明の実施形態3に係る製造方法により製造される光学部品の断面図である。
【図11】光学部品の光学特性を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1 基材
2 防眩層
2a,2b ドット
3 圧力室隔壁
4 ノズル板
5 ピエゾ素子
6 電極
7 ノズル
8 インク
9 液滴
11 低屈折率層
12 高屈折率層
A ヘッドセル
B ピエゾアクチュエーター
C 圧力室
D ヘッドモジュール
E ヘッドアセンブリ
P ピッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するための複数のノズルを有するインクジェット装置を用いて基材上に防眩層を形成することにより光学部品を製造する方法であって、
前記複数のノズルのうちから使用するノズルを選択しながら前記基材上に前記インクを吐出させて当該基材上にランダムな配置でドットを形成した後に前記ドットを硬化させるドット成形工程を複数回繰り返すことにより前記防眩層を形成する光学部品の製造方法。
【請求項2】
前記複数のノズルは、所定のピッチで配列されており、前記ドット成形工程では、前記複数のノズルのうちから前記ピッチの一定倍の間隔で並ぶノズルを特定し、この特定したノズルのうちから任意に選択したノズルから前記インクを吐出させる請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記インクは、重合性有機化合物、有機溶剤、添加剤を含む防眩性付与組成物である請求項1または2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記重合性有機化合物は、紫外線硬化樹脂であり、前記ドット成形工程では、前記ドットに紫外線を照射して当該ドットを硬化させる請求項3に記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記防眩層の上に、インクジェット装置を用いて低屈折率層形成用組成物からなる低屈折率層を形成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
前記低屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、低屈折微粒子、有機溶剤、添加剤を含む請求項5に記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記重合性有機化合物は、紫外線硬化樹脂である請求項6に記載の光学部品の製造方法。
【請求項8】
前記防眩層の上に、インクジェット装置を用いて高屈折率層形成用組成物からなる高屈折率層を形成し、さらにこの高屈折率層の上に、インクジェット装置を用いて低屈折率層形成用組成物からなる低屈折率層を形成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項9】
前記高屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、高屈折微粒子、有機溶剤、添加剤を含み、前記低屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、低屈折微粒子、有機溶剤、添加剤を含む請求項8に記載の光学部品の製造方法。
【請求項10】
前記高屈折率層形成用組成物の前記重合性有機化合物および前記高屈折率層形成用組成物の前記重合性有機化合物は、紫外線硬化樹脂である請求項9に記載の光学部品の製造方法。
【請求項11】
基材と、この基材上に形成された防眩層とを備え、
前記防眩層は、前記基材上にランダムに配置された、同一の防眩性付与組成物からなる複数のドットで構成されており、これらのドットのうちの少なくとも一部のドット同士は、断面において稜線が重なりかつ頂点が独立した状態で互いに重なり合っている光学部品。
【請求項12】
前記防眩層による前記基材の被覆率は、35%以上100%以下である請求項11に記載の光学部品。
【請求項13】
前記防眩層の上に形成された低屈折率層をさらに備える請求項11または12に記載の光学部品。
【請求項14】
前記防眩層の上に形成された高屈折率層と、この高屈折率層の上に形成された低屈折率層とをさらに備える請求項11または12に記載の光学部品。
【請求項1】
インクを吐出するための複数のノズルを有するインクジェット装置を用いて基材上に防眩層を形成することにより光学部品を製造する方法であって、
前記複数のノズルのうちから使用するノズルを選択しながら前記基材上に前記インクを吐出させて当該基材上にランダムな配置でドットを形成した後に前記ドットを硬化させるドット成形工程を複数回繰り返すことにより前記防眩層を形成する光学部品の製造方法。
【請求項2】
前記複数のノズルは、所定のピッチで配列されており、前記ドット成形工程では、前記複数のノズルのうちから前記ピッチの一定倍の間隔で並ぶノズルを特定し、この特定したノズルのうちから任意に選択したノズルから前記インクを吐出させる請求項1に記載の光学部品の製造方法。
【請求項3】
前記インクは、重合性有機化合物、有機溶剤、添加剤を含む防眩性付与組成物である請求項1または2に記載の光学部品の製造方法。
【請求項4】
前記重合性有機化合物は、紫外線硬化樹脂であり、前記ドット成形工程では、前記ドットに紫外線を照射して当該ドットを硬化させる請求項3に記載の光学部品の製造方法。
【請求項5】
前記防眩層の上に、インクジェット装置を用いて低屈折率層形成用組成物からなる低屈折率層を形成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項6】
前記低屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、低屈折微粒子、有機溶剤、添加剤を含む請求項5に記載の光学部品の製造方法。
【請求項7】
前記重合性有機化合物は、紫外線硬化樹脂である請求項6に記載の光学部品の製造方法。
【請求項8】
前記防眩層の上に、インクジェット装置を用いて高屈折率層形成用組成物からなる高屈折率層を形成し、さらにこの高屈折率層の上に、インクジェット装置を用いて低屈折率層形成用組成物からなる低屈折率層を形成する請求項1〜4のいずれか一項に記載の光学部品の製造方法。
【請求項9】
前記高屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、高屈折微粒子、有機溶剤、添加剤を含み、前記低屈折率層形成用組成物は、重合性有機化合物、低屈折微粒子、有機溶剤、添加剤を含む請求項8に記載の光学部品の製造方法。
【請求項10】
前記高屈折率層形成用組成物の前記重合性有機化合物および前記高屈折率層形成用組成物の前記重合性有機化合物は、紫外線硬化樹脂である請求項9に記載の光学部品の製造方法。
【請求項11】
基材と、この基材上に形成された防眩層とを備え、
前記防眩層は、前記基材上にランダムに配置された、同一の防眩性付与組成物からなる複数のドットで構成されており、これらのドットのうちの少なくとも一部のドット同士は、断面において稜線が重なりかつ頂点が独立した状態で互いに重なり合っている光学部品。
【請求項12】
前記防眩層による前記基材の被覆率は、35%以上100%以下である請求項11に記載の光学部品。
【請求項13】
前記防眩層の上に形成された低屈折率層をさらに備える請求項11または12に記載の光学部品。
【請求項14】
前記防眩層の上に形成された高屈折率層と、この高屈折率層の上に形成された低屈折率層とをさらに備える請求項11または12に記載の光学部品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−139465(P2009−139465A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313376(P2007−313376)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]