説明

光学部品およびその製造方法

【課題】薄いレンズに適したガラスの組成を明らかにするとともに、そのガラスを用いて製造したレンズ(光学部品)を提供する。
【解決手段】光学部品としての凹レンズ1は、重量%表示で、B23を20〜22%、La23を30〜40%、ZnOを19〜25%含むガラスでできている。凹レンズ1の中心部の厚さt1は0.5mm以下であるとともに、中心部の厚さt1に対する外径Wの比(W/t1)が24以上である。この凹レンズ1は、プレス成形法によって好適に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DSC(digital still camera)やDVC(digital video camera)用のガラスレンズは、プレス成形法によって製造されている。プレス成形法によれば、非球面形状を有するガラスレンズを安価に製造できる。
【0003】
高い形状精度を有するレンズを製造するために、プレス成形法では、成形型に非常に高い面精度および面粗度が要求されるとともに、ガラスが成形型に融着しないことが重要となる。成形型からのガラス(成形されたレンズ)の離型性を向上させるために、次のような提案がなされている。特許文献1には、易蒸発成分濃度がガラス母体より減少した表層部をガラス母体表面に設けることによって、成形型の面精度と面粗度を高く保つ技術が開示されている。特許文献2には、ガラスプリフォームの表面に炭素膜を形成することによって、成形型へのガラスの融着を防止する技術が開示されている。
【0004】
なお、本明細書中で「融着」とは、ガラスの一部が成形型に付着し残渣として成形型の表面に残る現象、あるいはガラスの成形体(レンズ)が成形型に貼り付く現象のことを指す。薄いレンズの成形では、どちらの現象も起こり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−207728号公報
【特許文献2】特開平8−217468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、DSCやDVCに代表される撮像光学系の小型化に対する要望が益々高まってきている。撮像光学系の小型化のために、レンズの薄肉化を進める必要がある。具体的には、中心部の厚さが0.5mm以下の凹レンズや外周部(コバ部)の厚さが0.5mm以下の凸レンズといった、非常に薄いレンズの量産技術を確立する必要がある。
【0007】
しかし、薄いレンズを従来のプレス成形法で製造するのは非常に難しい。成形時にレンズの薄い部分に荷重が集中的に加わるため、成形型へのガラスの融着が顕在化する。ガラスが成形型に融着すると、完成品としてのレンズの形状精度が悪くなるだけでなく、ガラスの残渣が成形型に付着することによって成形型の面精度が損なわれ、同じ成形型を使用し続けることが困難となる。特許文献1や2に示されている方法は、成形型へのガラスの融着の防ぐのに一定の効果があるが、その効果は依然として不十分である。さらに、特許文献1や2の方法では、様々な前処理が必要となるため、工程数の増加やコストの増加等の問題も出てくる。
【0008】
本発明は、薄いレンズに適したガラスの組成を明らかにするとともに、そのガラスを用いて製造したレンズ(光学部品)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、
重量%表示で、B23を20〜22%、La23を30〜40%、ZnOを19〜25%含むガラスでできており、
中心部の厚さt1が0.5mm以下かつ前記中心部の厚さt1に対する外径Wの比(W/t1)が24以上の凹レンズ、または、外周部の最大厚さが0.5mm以下の凸レンズとして構成された、光学部品を提供する。
【0010】
他の側面において、本発明は、
光学部品を製造するためのガラスでできた予備成形体を成形型内に供給する工程と、
前記成形型を型締めする工程と、
前記予備成形体を加熱および加圧することによって前記成形型の表面形状を前記予備成形体に転写する工程と、
成形された前記光学部品を取り出すために前記成形型を型開きする工程とを含み、
前記ガラスが、重量%表示で、B23を20〜22%、La23を30〜40%、ZnOを19〜25%含み、
前記光学部品は、中心部の厚さt1が0.5mm以下かつ前記中心部の厚さt1に対する外径Wの比(W/t1)が24以上の凹レンズ、または、外周部の最大厚さが0.5mm以下の凸レンズとして構成されている、光学部品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、成形型へのガラスの融着のしやすさと、ガラスの組成との間に相関があることを突き止めた。すなわち、上記範囲の成分を有するガラスを用いることにより、成形型へのガラスの融着を防止でき、薄いレンズをプレス成形法で安定して製造可能となる。本発明によれば、特別な前処理も不要なので、工程数の増加やコストの増加等の問題も生じない。本発明が提供するレンズにより、DSC等の撮像光学系を小型化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る光学部品(凹レンズ)の上面図および断面図
【図2】本発明の他の実施形態に係る光学部品(凸レンズ)の上面図および断面図
【図3】レンズの製造方法を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るレンズ1は、凹面1aおよび凸面1bを有する凹レンズとして構成されている。レンズ1は、いわゆる非球面レンズであるとともに、メニスカス形状を有している。メニスカス形状を有するレンズとは、一方の面が凸で他方の面が凹である三日月型のレンズのことである。メニスカスレンズには、中心部よりも外周部が厚い凹メニスカスレンズと、外周部よりも中心部が厚い凸メニスカスレンズとがある。図1に示すレンズ1は凹メニスカスレンズである。
【0014】
レンズ1は、小型の光学機器に好適なもので、例えば10〜20mmの範囲の外径Wを有する。レンズ1の中心部は、例えば0.1〜0.5mmの範囲の厚さt1を有する。中心部の厚さt1に対する外径Wの比(W/t1)は、例えば24以上である。比(W/t1)の上限に特に制限はないが、例えば200である。
【0015】
図2に示すように、本発明の他の実施形態に係るレンズ2は、2つの凸面2aおよび2bを有する両凸レンズとして構成されている。レンズ2もいわゆる非球面レンズである。レンズ2は、また、薄肉の外周部2c(コバ部)を有している。外周部2cは、レンズ2を光学機器の筐体に固定するために用いられる部分であって、光線の経路とならない部分である。レンズ1と同様に、レンズ2も小型の光学機器に好適なものであり、例えば10〜20mmの範囲の外径Wを有する。レンズ2の外周部2cは、例えば0.1〜0.5mmの範囲の最大厚さt2を有する。
【0016】
次に、レンズ1の製造方法を説明する。本実施形態に係る製造方法では、成形型を用いたプレス成形法(いわゆる精密ガラス成形法)を採用している。まず、レンズ1の製造に用いる予備成形体を準備する。具体的には、所定の組成を有する光学ガラスを研削や研磨によってレンズ1の近似形状に加工することによって予備成形体を得る。
【0017】
薄いレンズをプレス成形法で製造する場合、成形型へのガラスの融着を防止することが重要である。後述する実施例より明らかにされるように、成形型へのガラスの融着のしやすさと、ガラスの組成との間には相関がある。すなわち、重量%表示で、B23を20〜
22%、La23を30〜40%、ZnOを19〜25%含むガラスを使用すれば、成形型へのガラスの融着を効果的に防止できる。
【0018】
また、レンズ1(またはレンズ2)の製造のためのガラスは、例えば、1.79〜1.83の範囲の屈折率(nd)と、39〜43の範囲のアッベ数(νd)とを有している。高い屈折率のガラスは、レンズの薄肉化に有利である。高いアッベ数のガラスによれば、クリアな画像を得ることが可能である。
【0019】
上記要求を満たすガラスの組成の詳細な一例を以下に記す。下記値は重量%で表されている。
【0020】
SiO2:3〜6%、好ましくは5〜6%
23:20〜22%、好ましくは20〜21%
Li2O:0〜2%、好ましくは0〜1%
ZnO:19〜25%、好ましくは20〜24%
ZrO2:3〜5%、好ましくは3〜4%
TiO2:0〜2%、好ましくは0〜1%
Nb25:2〜7%、好ましくは5〜7%
La23:30〜40%、好ましくは34〜40%
Ta23:0〜10%、好ましくは0〜4%
WO3:0〜7%、好ましくは0〜2%
【0021】
次に、図3(a)〜(d)に示すように、予備成形体10をプレス成形する。プレス成形には、上型3、下型4、胴型5、上ヘッド6および下ヘッド7を備えた成形装置を使用できる。成形装置において、上型3の上に上ヘッド6が設けられ、下型4を支持するように下ヘッド7が設けられている。上ヘッド6には、加熱および加圧機構が設けられている(図示省略)。同様に、下ヘッド7にも加熱機構が設けられている。
【0022】
上型3は、凸面部3aと、凸面部3aの周囲の支持部3bとを含む。凸面部3aは予備成形体10の凹面に接する部分であり、支持部3bは予備成形体10の外周部に接する環状部分である。上型3、下型4および胴型5によって成形されたレンズ1が設計通りの光学特性を有するように、上型3および下型4の各表面が所望の精度および形状に加工されている。場合によっては胴型5の表面も所望の精度および形状に加工されている。
【0023】
上型3、下型4および胴型5は、典型的には、WC等の超硬合金でできている。超硬合金は、強度の面で優れているので成形型の材料として好ましい。また、上型3、下型4および胴型5は、ステンレス鋼等の金属でできた基材と、その基材の表面を被覆するめっき層(例えば無電解ニッケルめっき層)とで作られていてもよい。さらに、上型3、下型4および胴型5の表面には、離型性や耐食性の向上を目的とする離型膜が形成されていてもよい。
【0024】
まず、図3(a)に示すように上型3、下型4および胴型5によって構成された成形型内に予備成形体10を供給する。
【0025】
次に、図3(b)に示すように、上ヘッド6を下降させることによって、上型3、下型4および胴型5を型締めする。そして、この状態で上ヘッド6および下ヘッド7の加熱機構を作動させ、予備成形体10を所定温度まで加熱する。この所定温度は、例えば、使用するガラスのガラス転移温度(Tg)または屈伏温度(At)よりも少し高い温度(例えばTgまたはAtよりも20〜40℃高い温度)である。また、予備成形体10が所定温度に到達するのに数分間(例えば5分間)が費やされる程度の昇温速度で加熱を行なうとよい。
【0026】
予備成形体10が所定温度に到達した後、図3(c)に示すように、上ヘッド6をゆっくり下降させることによって上型3に圧力を加える。上ヘッド6からの圧力が上型3を介して予備成形体10に加わり、予備成形体10が徐々に変形する。これにより、上型3および下型4の各表面形状が予備成形体10に転写される。予備成形体10に加えるべき圧力は、例えば50〜300kgfである。
【0027】
予備成形体10がレンズ1の形に変形したら、上ヘッド6による加圧を停止する。そして、その状態を上記所定温度で1分間程度保つ。その後、上ヘッド6および下ヘッド7の加熱機構をオフにし、上ヘッド6を下降させた状態でレンズ1をガラス転移温度まで冷却する。レンズ1にひずみ等の不具合が生じるのを避けるため、数分程度(例えば5分程度)かけて徐冷するのが好ましい。
【0028】
最後に、図3(d)に示すように、成形されたレンズ1を取り出すために、上ヘッド6および上型3を開く。なお、図3(a)〜(d)の各工程は、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気のような不活性雰囲気で行うことができる。不活性雰囲気中での成形は、成形型の酸化を抑制できるため成形型の寿命にとって好ましい。
【0029】
図1を参照して説明した凹メニスカスレンズ1は、一般に、従来の球面レンズや凸メニスカスレンズ等に比べ、凹面1aの傾斜が急峻である。そのため、ガラスが成形型に融着しやすい。したがって、本実施形態のように、融着の生じにくい組成を有するガラスを凹メニスカスレンズの材料として選ぶことが特に有効である。もちろん、そのようなガラスは、凸面を2つ組み合わせたレンズである両凸レンズ(図2)、凹面を2つ組み合わせたレンズである両凹レンズ、片面が平面であるようなレンズである平凸レンズおよび平凹レンズにとっても有意である。
【実施例】
【0030】
表1に示す組成および光学定数を有するガラスを用い、図3を参照して説明したプレス成形法により、図1に示す形状を有する凹メニスカスレンズを製造した。具体的には、各ガラスを用い、中心部の厚さt1を0.9mm、0.7mm、0.5mmおよび0.3mmに設定した4種類の凹メニスカスレンズをそれぞれ連続で20個製造し、成形型へのガラスの融着の有無を調べた。全てのレンズについて、外径Wを14mm、凹面の近似曲率を4mm、凸面の近似曲率を280mmに設定した。プレス成形は、窒素雰囲気中で行った。成形時のガラスの加熱温度は600℃、加圧力は150kgfに設定した。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1において、連続で20個製造したときに、融着が起こらなかった場合の成形評価を丸印、融着が起こったものが1〜3個の場合の成形評価を三角印、融着が起こったものが4個以上の場合の成形評価を×印で表している。
【0033】
ガラスNo.1を使用した場合、中心部の厚さを0.5mm以下と薄くしてもガラスが成形型に融着せず、所望の形状の凹メニスカスレンズを安定して成形できた。ガラスNo.2を使用した場合、中心部の厚さが0.3mmのレンズで若干の融着が生じたが、概ね良好な結果が得られた。これに対し、ガラスNo.3を使用した場合、中心部の厚さが0.7mm以下の領域で成形型へのガラスの融着が相当の割合で発生し、安定した成形を行えなかった。
【0034】
ガラスNo.1〜No.3を用いて凹メニスカスレンズを成形した後の成形型の表面をそれぞれX線光電子分光分析(XPS)で分析したところ、B、LaおよびZnに基づくピークが観察された。つまり、ガラスに含まれているB、LaおよびZnが成形型の表面に存在していた。B、LaおよびZnの存在量は、ガラスNo.1、ガラスNo.2およびガラスNo.3の順番で多かった。このことから、ガラスが適量のB、LaおよびZnを含んでいる場合、これらの成分が成形型の表面に飛散ないし拡散することで離型作用がもたらされ、成形型へのガラスの融着が起こりにくくなると考えられる。
【0035】
以上の結果から、重量%表示で、B23を20〜22%、La23を30〜40%、ZnOを19〜25%含むガラスを使用することで、成形型へのガラスの融着を防止できると言える。B23、La23およびZnOの好ましい含有率は、それぞれ、20〜21%、34〜40%および20〜24%である。なお、これらの成分が多ければ多いほど融着防止効果が高まるようにも思われるが、所望の光学定数を得ることが困難となることや、ガラスの失透を生じさせる可能性がある。具体的には、B23が多すぎると、屈折率を所望の範囲に調整することが困難になる。La23が多すぎると、ガラスが失透しやすくなる。ZnOが多すぎると、屈折率およびアッベ数を所望の範囲に調整することが困難になる。したがって、各成分を上記範囲内とすべきである。そして、このような組成のガラスを用いることで、中心部の厚さt1が0.5mm以下かつ中心部の厚さt1に対する外径Wの比(W/t1)が24以上の凹レンズをプレス成形法により高い歩留まりで製造可能となる。成形型へのガラスの融着を防止できれば、成形型の面精度および面粗度も高く維持できる。これにより、成形型のメンテナンスの回数を減らすことができ、ひいては高い生産性を達成できる。
【0036】
なお、凹レンズと同様の傾向が図2に示す凸レンズを成形する場合にも見られた。すなわち、外周部2cが薄ければ薄いほど、成形型へのガラスの融着が生じやすかったが、ガラスNo.1およびNo.2を使用することで、外周部2cの最大厚さt2が0.5mm以下の凸レンズを安定して成形できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の光学部品(光学レンズ)は、DSC、DVC、携帯電話用カメラ、プロジェクションテレビ、光ピックアップ等の光学機器に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 凹メニスカスレンズ(光学部品)
1a 凹面
1b 凸面
2 両凸レンズ(光学部品)
2a,2b 凸面
2c 外周部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%表示で、B23を20〜22%、La23を30〜40%、ZnOを19〜25%含むガラスでできており、
中心部の厚さt1が0.5mm以下かつ前記中心部の厚さt1に対する外径Wの比(W/t1)が24以上の凹レンズ、または、外周部の最大厚さが0.5mm以下の凸レンズとして構成された、光学部品。
【請求項2】
前記ガラスが、1.79〜1.83の範囲の屈折率(nd)と、39〜43の範囲のアッベ数(νd)とを有する、請求項1に記載の光学部品。
【請求項3】
前記光学部品はプレス成形法によって製造されたものである、請求項1または2に記載の光学部品。
【請求項4】
光学部品を製造するためのガラスでできた予備成形体を成形型内に供給する工程と、
前記成形型を型締めする工程と、
前記予備成形体を加熱および加圧することによって前記成形型の表面形状を前記予備成形体に転写する工程と、
成形された前記光学部品を取り出すために前記成形型を型開きする工程とを含み、
前記ガラスが、重量%表示で、B23を20〜22%、La23を30〜40%、ZnOを19〜25%含み、
前記光学部品は、中心部の厚さt1が0.5mm以下かつ前記中心部の厚さt1に対する外径Wの比(W/t1)が24以上の凹レンズ、または、外周部の最大厚さが0.5mm以下の凸レンズとして構成されている、光学部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−27992(P2011−27992A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173476(P2009−173476)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】