説明

光学部品のレーザ溶着構造及び光ピックアップの製造方法

【課題】
レーザ溶着方式において、溶着部の界面の密着性を向上させることで剥離を抑止し、光学部品の位置ずれを低減することで、光ピックアップ装置の歩留りと信頼性が向上する。
【解決手段】
光学部品が保持部材に溶着されている光ピックアップ装置の製造方法において、光学部品を保持部材に接触させる工程と、光学部品を通して保持部材の光学部品と接触した領域にレーザ光を照射する工程と、照射により保持部材を溶融させて光学部品に溶着させる工程とを含み、レーザ光照射前には、光学部品の溶着を行う部分の表面粗さが、この部分に接触する部分の保持部材の表面粗さよりも大きいことにより、溶融した保持部材が光学部品表面の凹凸に入り込んで接着強度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクドライブ装置において光ディスクの記録・再生を行う光ピックアップ装置に係り、また、光学部品の固定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
CD、DVD、Blu−rayディスク(いずれも登録商標)の光ディスクの記録・再生に用いられる光ピックアップ装置は、レーザダイオードなどの発光素子からの出射光を各種レンズ、プリズム、ミラー等を介して対物レンズに導き、光ディスク上で集光させた後に、光ディスクからの戻り光を対物レンズ及び各種レンズ、ミラー等を介してフォトダイオードで受光し光電気信号に変換する構成になっている。
【0003】
この構成の中で、各種レンズ等の光学部品は、ピックアップケースの光路上の所定位置に配置し固定されるが、光学部品にはサブミクロン程度の高い固定精度が要求される。最も多く用いられている固定方法は、光学部品を冶具によって位置決めし、紫外線硬化型接着剤を所定の位置に塗布し、紫外線を照射することで固定する方法である。しかし、紫外線硬化型接着剤による固定では、接着剤の塗布位置・量のばらつきによって理想的な形状にならず、光学部品の長期的な位置ずれが起こりやすく、光ピックアップ装置の信頼性が低下しやすいという問題がある。また、接着剤の安定化や完全硬化のために、アニール時間や紫外線の照射時間を長くせねばならず、生産性の点でも問題があった。
【0004】
そこで接着剤による固定方式の代替技術として、光学部品の位置安定性や生産性を向上させるため、レーザ光により光学部品をケースに溶着する固定方式が提案されている。本レーザ溶着技術は、光学部品の固定のみならず、産業界において、様々な部品の固定に用いられている。レーザ溶着において、溶着面積を確保するため、レーザ光源もしくは固定冶具を走査させながら線上や円上に溶着する方法が一般的に用いられている。通常、光ピックアップに最も多く使用されているレンズ材は非結晶性樹脂のシクロオレフィン系樹脂であり、光ピックアップケースに多く使われている樹脂は結晶性樹脂のPPS(ポリフェニレンサルファイド)である。これらの樹脂の構成でレーザ溶着を行った場合、互いの溶解度パラメータ差が大きいことから相溶性が低く、密着性の確保が課題となる。また、PPS樹脂は、剛性を上げる為に、ガラスフィラーを添加するため、線膨張係数が小さくなる傾向にある。そのため、レーザ溶着時つまり樹脂の加熱状態から急冷時に、レンズ材と光ピックアップケース材には非常に大きな線膨張係数差に応じたストレスが発生する。その結果、急冷時に、界面の一部に剥離が生じることが多々あった。さらに、信頼性試験、例えば熱応力の影響が最も大きい熱衝撃試験に投入した時にも、溶着部の界面から剥離の発生・進行が確認されている。
【0005】
したがって、光学部品の位置安定性の向上及び短タクト生産などのレーザ溶着のメリットを活かすためにも、溶着強度の確保つまり界面の密着性の向上が必須となる。
【0006】
特許文献1には、非透過樹脂側に嵌合凸部、透過樹脂側に嵌合凹部を設けた状態で、嵌合凸部の外面全体と嵌合凹部の内面全体を含む面とをレーザ溶着することにより、接合面により多くのレーザ光を到達、吸収させて接合強度を向上させることが記載されている。
【0007】
特許文献2には、レンズとハウジングとをレーザ溶着によって接合するに際して、レーザ溶着時にレンズとハウジングが確実に接触するように、溶着部分に微細な凹凸を形成することで確実な接触状態を保ったまま接合する方法が記載されている。
【0008】
特許文献3には、マイクロチップの接合に関して、チップ基板の流路溝の内面以外の表面における粗さは、表面に形成されているSiO膜の膜厚以上とし、流路溝が形成されている面を内側にしてチップを重ね、超音波印加することで接合する方法が記載されている。
【0009】
特許文献4には、レーザ溶着するに際して、吸収性樹脂と透過性樹脂と接する側に三角形・四角形・台形からなる突条を設け、加圧することで、初期面積を向上させ、隙間を低減でき、エアの巻き込みによるボイド等の欠陥のない強固な接合面を得られることが記載されている。
【0010】
特許文献5には、光ピックアップにて、レーザ溶着によってピックアップケースに光学部品を接着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−67208号公報
【特許文献2】特開2005−339989号公報
【特許文献3】特開2008−232885号公報
【特許文献4】特開2008−302700号公報
【特許文献5】特開2009−116966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献1、4で開示されている技術では、成形品の寸法公差を考慮すると、加圧が十分に可能な部品以外は不可能であり、レンズのような光学部品へ行った場合、歪による収差の発生が問題となる。また、特に特許文献4の技術では、成形品の寸法公差の影響から、加圧時にずれが発生し、精度良く溶着部を形成することは困難である。
【0013】
上記特許文献2で開示されている技術では、微細な凹凸の高さが10〜500μmと比較的大きく、微細な凹凸を潰すことで、密着性が良くなるという方法であり、加圧が十分にできる場合のみに有効となる。そのため、本方法も光ピックアップなどの小型でかつ収差特性の厳しい光学部品には適用不可能である。
【0014】
上記特許文献3で開示されている技術では、微細な凹凸の粗さがRa 5〜25μmと比較的大きく、また、溶着方法も超音波であり、歪の観点で光学部品への適用は不可能である。
【0015】
本発明の目的は、光学部品材である非結晶性樹脂のレーザ溶着面の少なくとも一部に微細な凹凸を形成し、ピックアップケース材である結晶性樹脂よりも粗さを大きくした上で、微小な加圧状態でレーザ溶着することにより、溶着部の剥離の抑止と環境変化による光学部品の位置ずれを抜本的に低減し、歩留りと信頼性の高い光ピックアップ装置及び光学部品のレーザ溶着構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、光学部品が保持部材に溶着されている光ピックアップ装置の製造方法において、光学部品を保持部材に接触させる工程と、光学部品を通して保持部材の光学部品と接触した領域にレーザ光を照射する工程と、照射により保持部材を溶融させて光学部品に溶着させる工程とを含み、レーザ光照射前には、光学部品の溶着を行う部分の表面粗さが、部分に接触する部分の保持部材の表面粗さよりも大きいことを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、光学部品が保持部材に溶着されている光ピックアップ装置において、光学部品と保持部材との溶着部分は、その周辺部分の粗さが中央部分の粗さよりも大きいことを特徴とする。

【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、レーザ溶着方式において、溶着部の界面の密着性を向上させることで剥離を抑止し、光学部品の位置ずれを低減することで、光ピックアップ装置の歩留りと信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例にかかるピックアップ装置10における光学部品1とピックアップケース2の溶着固定の一実施例を示す平面図である。
【図2】図1の光学部品のおけるZ方向(ピックアップの高さ方向)から見たときの平面図である。
【図3】本発明の一実施例にかかる、非結晶性樹脂からなる光学部品1の突起1c平坦部の粗さをパラメータとした時の溶着強度比較図である。
【図4】本発明の一実施例にかかる、結晶性樹脂からなるピックアップケース2の溶着面2aの粗さをパラメータとした時の溶着強度比較図である。
【図5】本発明の他の実施例にかかるピックアップ装置10における光学部品1の形態を示す平面図である。
【図6】本発明の他の実施例にかかる光学部品1のZ方向から見たときの溶着面を示す平面図である。
【図7】本発明の他の実施例にかかるピックアップ装置10における光学部品1とピックアップケース2の溶着固定を示す平面図である。
【図8】本発明の一実施例にかかる光ピックアップ装置10において、光学部品1とピックアップケース2の組み立てを示す図である。
【図9】本発明の一実施例による光ピックアップ装置10の一例を示す外観図である。
【図10】本発明の一実施例にかかる光ピックアップ装置10を組み込んだ光ディスクドライブ装置20の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図9は、本発明による光ピックアップ装置10の一例を示す外観図である。ここで、検出レンズ1−1、補助レンズ1−2、対物レンズ1−3は固定対象となる光学部品1であり、ピックアップケース2にレーザ溶着にて固定する。11はアクチュエータ部、12はハーフミラー、13はプリズム、14はレーザダイオード、15はフォトダイオードである。
【0021】
図10は、光ピックアップ装置10を組み込んだ光ディスクドライブ装置20の一例を示す図である。17は金属カバー、21はスピンドルモータ、22はドライブカバーである。
【0022】
図8は、光ピックアップ装置10において、光学部品1とピックアップケース2の組み立てを示す図であり、光学部品1を収納部に挿入前後の状態を示している。この時、レーザ溶着では密着性を確保するとために、加圧することが必須となるが、光学部品に対して大きな加圧力が加わった場合、光学部品の収差が問題となる。そのため、加圧力は0.3MPa以下とすることが必須となる。
【0023】
挿入前において、光学部品1は例えばY方向(光軸方向)にレンズ面1aを有し、ピックアップケース2との溶着用にX方向に突起部1cを設けている。
【0024】
光学部品1は、これ以外にも、例えばグレーティングレンズ、カップリングレンズなどがレーザ溶着の適用対象となる。これらのレンズは、透明性、収差特性を優先するために、シクロオレフィン系樹脂、PMMA(メタクリル酸メチル)、フルオレン系ポリエステル、ポリカーボネートなどを材料とした非結晶性樹脂によって構成される。一方、ピックアップケース2は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、液晶ポリマーなどの融点や耐熱性が高く、レーザ光を吸収する黒色もしくは灰色からなる結晶性の樹脂によって構成される。
【0025】
なお、非結晶性樹脂からなる光学部品1は成形により製造されるため、ゲート部3は必然的に残存する。そのため、ゲート部3が高さ方向の障害にならない場合は、光ピックアップ装置10の下面側(Z方向)に設けるのが良い。一方、高さ制限が厳しい場合には、突起部1cと同じく光学部品1の側面側(X方向)において突起部1cを避けた位置に設けるのが良い。
【0026】
挿入後において、光学部品1とピックアップケース2の固定は、加圧した状態で、光学部品1の突起部1cに対し上方向(Z方向)からレーザ光を照射して溶着固定する。レーザ溶着の条件は、溶着材料のレーザ照射波長における透過・吸収率、熱伝導率、相溶性を考慮した上で、レーザのスポットサイズ、パワー、照射時間、加圧力を決定する。レーザ溶着に用いる光源は、樹脂の透過率の観点から、半導体レーザやYAGレーザを含めた赤外領域のレーザが好ましい。レーザ光源の強度分布は、ガウシアン、トップハット型、リング型など付属するレンズによって様々な強度分布にすることが可能であるが、溶着状態を均一にしやすいという点で、トップハット型もしくは中央部の強度が最大値の50%以上となるリング型の強度分布を用いた光源を使用することが望ましい。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明のピックアップ装置10における光学部品1とピックアップケース2のレーザ溶着固定の一実施例を示す平面図である。今回示した光学部品1は光軸方向(Y軸方向)にレンズ面1a,1bを有し、X方向の両端にはピックアップケース面に対して、突起部1cを有し、突起部1cのピックアップケース2の密着面には微細な凹凸部1eが形成した状態となっている。1dは光軸の通るレンズ中心位置である。図2は、光学部品1のZ方向からの平面図である。
【0028】
光学部品1をピックアップケース2に対してレーザ溶着する場合、光学部品1を冶具によってチャッキングもしくは吸着し、突起部1cの平坦面をピックアップケース2の平坦面に押し当てた状態(加圧状態)で、突起部1cを介し、Z方向からレーザ光を走査しながら照射を行う。
【0029】
しかしながら、上記示したような非結晶性樹脂からなる光学部品1と結晶性樹脂からなる光ピックアップケース2の組合せの場合、互いの相溶性が低く、また、レーザ溶着時つまり樹脂の加熱状態から急冷時に、非常に大きな線膨張係数差に応じたストレスが発生するため、界面の一部に剥離が生じることが多々あった。さらに、信頼性試験、例えば最も熱応力が加わる熱衝撃試験に投入した時にも、溶着部4の界面から剥離の発生・進行が確認されている。
【0030】
レーザ溶着においては、密着性の確保がその溶着強度や信頼性に大きく関係する。そのため、通常は、互いの密着する部分は鏡面仕上げにすることが多い。成形の観点では、非結晶性樹脂の方が結晶性樹脂よりも寸法精度が良く成形可能であり、鏡面仕上げにした場合は、非結晶性樹脂の方が結晶性樹脂よりも粗さが小さくなるのが一般的である。
【0031】
本実施例では、非結晶性樹脂である光学部品1の突起部1cの平坦部に微細な凹凸1eを形成し、結晶性樹脂であるピックアップケース2の溶着面2aの粗さよりも大きくしたことを特徴とする。このように光学部品1の平坦部の微細な凹凸1e面の粗さを大きくする方法は、成形時のシボ処理やブラスト処理などを使用すると良い。また、光学部品1に形成する微細な凹凸1eの粗さは入射するレーザの波長以上にする必要がある。波長と同程度にした場合、その界面で急激な光の吸収が起き、レーザ溶着には不向きな構成となる。
【0032】
以上示した光学部品1の突起1cの平坦部に微細な凹凸1eを形成し、レーザ溶着することにより、レーザ照射時に結晶性樹脂からなるピックアップケース2が溶融・軟化そして熱膨張し、光学部品1の突起部1cの微細な凹凸1e部の界面に密着する。その結果、従来の溶着に比べ、アンカー効果の影響が加わり、界面の強度が向上する。図3には、光学部品1の突起部1dの平坦部に全体に微細な凹凸1eを形成し、その粗さをパラメータとした時の溶着強度の比較結果を示す。図3は、光学部品1の突起部1dの平坦部の粗さを鏡面仕上げ(Ra 0.16μm)、ピックアップケース2の溶着面2aの粗さを鏡面仕上げ(Ra 0.25μm)とした時の値との相対値で示しており、光学部品1の材料としては、非結晶性樹脂のシクロオレフィン樹脂を、ピックアップケース2の材料としては、結晶性樹脂のPPSを用いている。非結晶性樹脂である光学部品1の表面粗さRaを約1.0〜2.0μmにした場合には、溶着強度相対値が1を超え、光学部品1を鏡面仕上げしたときよりも接着強度が向上していることがわかる。また、表面粗さRaを3.6にした場合には、鏡面仕上げの場合よりも接着強度が落ちている。このように、光学部品1の突起部1cの平坦部の粗さRaを、鏡面仕上げしたときより大きく且つ3μm以下になるようにすることにより、鏡面仕上げ同士でレーザ溶着した場合よりも強度の向上が確認されている。また、この時、非結晶性樹脂であるシクロオレフィン樹脂の粗さRaを1.81μm、結晶性樹脂であるPPSの粗さRaを3.46とした場合は、鏡面仕上げ同士に比べて、強度低下が確認されている。
【0033】
一方、ピックアップケース2の材料として使われる結晶性樹脂PPSの溶着面2aの粗さをパラメータとした時の溶着強度の比較結果を図4に示す。図4に関しても、鏡面仕上げ同士を基準(溶着強度相対値:1)としている。ピックアップケース2の溶着面2aの粗さが増すにつれ、溶着強度は低下していることがわかる。このように、結晶性樹脂であるPPSの粗さRaを大きくしても強度向上が起こらないことがわかっている。これは、特に入射するレーザ強度の小さい部分に対応する溶着端部分は、軟化そして熱膨張のみで密着することが多く、この部分は粗さがあった場合、完全な密着が起こらないことが影響している。
【0034】
したがって、粗さを付加して密着性を向上させる場合は、非結晶樹脂側に微細な凹凸1eによる粗さを設け、結晶性樹脂側は鏡面仕上げにすることが最も有効な手段ことを見出せた。
【0035】
また、レーザ溶着において、溶融・軟化そして熱膨張時に結晶性樹脂が非結晶性樹脂に濡れることを考慮すると、非結晶性樹脂の表面自由エネルギー≧結晶性樹脂の表面自由エネルギーとなることが必要となる。特に、光学部品1の材料はシクロオレフィン系樹脂が多く使われ、構造上、極性基を持たないため、表面自由エネルギー非常に小さく、結晶性樹脂が濡れにくい。そこで、光学部品1の突起部1dには、微細な凹凸1eを形成することに加え、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理のいずれかの表面改質処理を行い、光学部品1の溶着面の表面自由エネルギーを向上させた上で、レーザ溶着を行うことが望ましい。
【実施例2】
【0036】
図5は、本発明のピックアップ装置10における光学部品1の別の形態を示す平面図である。このように、突起1cに対して光軸1dに平行な面で光学部品1を溶着する場合にも適用可能である。また、光学部品1を実装する面積の関係上、レーザ溶着するための突起1cを設けられない場合は、レンズ面以外の平行度が確保されている部分1fを用いても良い。
【実施例3】
【0037】
図6は、本実施例の光学部品1の突起部1cの中で、溶着部の端部分に対応する部分1hに微細な凹凸1eを形成し、その粗さを溶着部の中心部1iよりも大きした光学部品1の平面図である。レーザ溶着において、入射するレーザの強度分布は、ガウシアン、フラット型、リング型など様々な形状があるが、パワーや樹脂の熱伝導率に応じて、レーザの強度の小さい端の部分にまで溶着されることがある。特に、レーザ強度分布において、強度が大きい部分に対応する溶着部4は、ピックアップケース2を形成する結晶性樹脂は溶融・流動し、光学部品1の非結晶性樹脂に密着するため、溶着前の成形時に互いが鏡面同士の場合でも、溶着後のレーザ強度の大きい部分の溶着部4は凹凸が形成されることが多い。一方で、レーザの強度の小さい端の部分は、軟化した状態で非結晶性樹脂に密着する。そのため、溶着部4の端近辺に微細な凹凸1eを形成し、その粗さを大きくし、溶着部4の中央付近は鏡面仕上げなどで表面粗さを端近辺よりも小さくしても強度の向上には有効な手段となる。
【実施例4】
【0038】
図7は、ピックアップ装置10における光学部品1とピックアップケース2のレーザ溶着固定の他の実施例を示す構造図である。レーザ溶着において、レーザを線上に走査した場合、レーザ照射の終端部分は過溶着になりやすく、空孔の発生することが多々ある。また、一見溶着後に正常に溶着されている場合でも、端部分には過大な残留応力も発生しているため、信頼性試験時に端部分からの剥離が発生することが確認されている。そこで、図7のように、光学部品1の溶着部4のレーザ走査方向の終端部分に、傾斜部1gを設け、溶着フィレット4aを形成させ、加えて、フィレット4a部に対応する傾斜部1gにも微細な凹凸を形成しておくことにより、強度向上と応力緩和の両立を図ることが可能となる。この時、成形精度にも依存するが、ピックアップケース2の溶着端部4付近に傾斜を設けておくこともフィレット4aの形成には有効な手段となる。このフィレット部4aは、結晶性樹脂からなるピックアップケース2へのレーザ入射による急激な熱膨張とアウトガスの複合要因で形成される。微細な凹凸は、軟化した状態のフィレット4aに密着するため、ピックアップケースの溶着面よりも表面粗さが大きくすることが望ましい。また、溶着前に光学部品とピックアップケースを密着させたときに、傾斜部1gは密着しない位置にあり、凹凸を大きくしても密着性を悪化させない。そのため、傾斜部の凹凸を光学部品1の他の溶着部分の凹凸よりも表面粗さよりも大きくしてもよい。
【0039】
なお、ピックアップケース本実施例では傾斜部としたが、レーザ溶着面よりも引き込んで低く窪んでいれば、傾斜部以外の溝や切欠きなどでもよい。なお、光学部品1の突起1cの斜面1gとピックアップケース2との距離は50μm以下とすることが望ましい。また、図7では、フィレット4aを形成する部分は、レーザ走査方向(レーザ溶着部分の長手方向)の終端のみとしたが、必ずしもレーザ走査の終端のみに限らなくても良い。
【0040】
実施例として、これまで光ピックアップ装置10を例に説明したが、本構造は、光ピックアップ装置10用の光学部品1のみならず、携帯電話やデジタルカメラなど光学部品を使用する製品及び光学部品以外のレーザを透過可能な部品を用いたレーザ溶着構造全般にも有効である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
近年、光ピックアップ装置の小型・薄型化と共に、各種規格の光ディスク媒体への高速記録が要求されている。これら規格を1台の光ピックアップ装置で満足させようとした場合、設計マージンが小さくなると共に、光学部品の固定には更なる高精度化が必須になる。以上述べた各実施例を用いれば、従来の接着剤のみによる固定方法に比べ、光学部品の位置ずれを大幅に低減し、生産性も飛躍的に向上することが可能となる。また、溶着強度の向上により、溶着時や信頼性における剥離を抑えることができ、レーザ溶着のメリットを十分に活かせることが可能となる。従って、本発明は、光ピックアップ装置及び光ディスクドライブ装置の高信頼化、低コスト化の実現に大きく寄与する。
【符号の説明】
【0042】
1…光学部品、1a,1b…レンズ面、1c…突起部、1d…レンズ中心位置、1e…微細な凹凸部、1f…レンズ面以外の平坦部、1g…傾斜部、1h…溶着部の端部、1i…溶着部の中央部、1−1…検出レンズ、1−2…補助レンズ、1−3…対物レンズ、2…ピックアップケース、3…ゲート部、4…レーザ溶着部、4a…溶着のフィレット、10…光ピックアップ装置、11…アクチュエータ部、12…ハーフミラー、13…プリズム、14…レーザダイオード、15…フォトダイオード、16…光ピックアップ用金属カバー、20…光ディスクドライブ装置、21…スピンドルモータ、22…ドライブカバー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピックアップケースと、
光素子と、
光学部品とを備え、
前記光学部品は、保持部材に溶着されている光ピックアップ装置の製造方法において、
前記光学部品を前記保持部材に接触させる工程と、
前記光学部品を通して前記保持部材の前記光学部品と接触した領域にレーザ光を照射する工程と、
前記照射により前記保持部材を溶融させて前記光学部品に溶着させる工程とを含み、
前記レーザ光照射前には、前記光学部品の溶着を行う部分の表面粗さが、前記部分に接触する部分の保持部材の表面粗さよりも大きいことを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学部品は、レンズであり、
前記保持部材は、前記ピックアップケースであることを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記光学部品の表面粗さは、前記レーザの波長よりも大きいことを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記保持部材の表面は、鏡面仕上げされており、
前記光学部品の表面は、鏡面仕上げがされていないことを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項5】
請求項1において、
前記光学部品の表面粗さは、3.0μm以下であることを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記光学部品の表面粗さは、1.0〜2.0μmであることを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項7】
請求項1において、
前記光学部品は、非結晶性樹脂であり、
前記保持部材は、結晶性樹脂であることを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、
前記結晶性樹脂からなる保持部材の表面自由エネルギーが前記非結晶性樹脂からなる光学部品の表面自由エネルギーよりも小さい樹脂構成でレーザ溶着したことを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項9】
請求項1において、
前記溶着工程前に、前記光学部品の溶着する部分に、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理のいずれかの処理を行うことを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項10】
請求項1において、
前記溶着前では、前記光学部品の溶着させる部分の中央部は、表面粗さがその周囲の部分よりも小さいことを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項11】
請求項1において、
前記光学部品は、その溶着部分のレーザ走査方向の端部に、溶着部分の他の位置よりも引き込んだ部分を有することを特徴とする光ピックアップ装置の製造方法。
【請求項12】
ピックアップケースと、
光素子と、
光学部品とを備え、
前記光学部品は、保持部材に溶着されている光ピックアップ装置において、
前記光学部品と前記保持部材との溶着部分は、その周辺部分の粗さが中央部分の粗さよりも大きいことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項13】
請求項12において、
前記光学部品は、レンズであり、
前記保持部材は、前記ピックアップケースであることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項14】
請求項12において、
前記光学部品は、非結晶性樹脂であり、
前記保持部材は、結晶性樹脂であることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項15】
請求項12において、
前記保持部材の溶着された面は、鏡面仕上げがされており、
前記光学部品の溶着された面は、鏡面仕上げがされていないことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項16】
請求項14において、
前記結晶性樹脂からなる保持部材の表面自由エネルギーが、前記非結晶性樹脂からなる光学部品の表面自由エネルギーよりも小さいことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項17】
請求項12において、
前記光学部品の溶着する部分に、UVオゾン処理、プラズマ処理、コロナ処理のいずれかの処理が行われていることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項18】
請求項12において、
前記光学部品は、前記溶着部分の長手方向の端部に、他の部分よりも引き込んだ部分を有し、
当該引き込んだ部分では、前記保持部材のフィレットが形成されて溶着されていることを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項19】
第一の部材が第二の部材に溶着されている溶着構造の製造方法において、
前記第一の部材はレーザ光を透過可能であり、前記第二の部材はレーザ光を透過せず、
前記第一の部材を前記第二の部材に接触させる工程と、
前記第一の部材を通して前記第二の部材の前記第一の部材に接触した領域にレーザ光を照射する工程と、
前記照射により前記第二の部材を溶融させて前記第一の部材に溶着させる工程とを含み、
前記レーザ光照射前には、前記第一の部材の溶着を行う部分の表面粗さが、前記部分に接触する部分の第二の部材の表面粗さよりも大きいことを特徴とする溶着構造の製造方法。
【請求項20】
第一の部材が第二の部材に溶着されている溶着構造において、
前記第一の部材はレーザ光を透過可能であり、前記第二の部材はレーザ光を透過せず、
前記第一の部材と前記第二の部材との溶着部分は、その周辺部分の粗さが中央部分の粗さよりも大きいことを特徴とする溶着構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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