説明

光干渉型振動センサ及びその製造方法

【課題】 先端にハーフミラー膜が形成された光ファイバーと、当該ハーフミラー膜と対向する側に全反射膜が形成された振動子部を有する構造の光干渉型振動センサにおいて、測定精度を向上し得る構造を提供するとともに、製造工程の簡略化を図る。
【解決手段】 シリコン基板に中央部から一定の距離を有する位置から、周縁部から一定の距離を有する位置へ設けられた複数のスリットを形成して振動子部6を作製し、表面に全反射ミラー膜5を形成する。振動子部6の全反射ミラー膜5と反対の側には支持部を設ける。光ファイバー1はフェルール3の光ファイバー挿通孔2挿入して、挿入された側の端面をフェルール3の端面に一致させ、フェルール3の当該端面全体にハーフミラー膜4を形成し、全反射ミラー膜5とハーフミラー膜との間隔を確保するためにスペーサ8を挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動センサに関わり、特に片方の端面にハーフミラーを取り付けた光ファイバーと、前記のハーフミラーと対向する側に全反射ミラーが設けられた振動子部を有する光干渉型振動センサとその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
振動センサには様々な形式のものがあり、振動の検出方法の主なものとして、静電容量の変化を利用したもの、圧電材料を利用したもの、光学式のものなどが挙げられる。その中で、光学式のものには、光ファイバーを介して導出される出射光と反射光の干渉を利用した、光干渉型振動センサがある。光干渉型振動センサは、電磁気的な干渉を受けず長距離の信号伝送が可能で、小型化が容易であるという利点を有する。
【0003】
従来の光干渉型振動センサの一例として、特許文献1に開示されている、本発明者らが開発した光干渉型振動センサがある。図3は、当該光干渉型振動センサの断面図である。図3において、15は光ファイバー、16は接着剤、17は光ファイバー挿通孔、18はSOI基板下層シリコン、19はSOI基板中間絶縁SiO層、20はSOI基板上層シリコン、21は保護部材、22はハーフミラー膜、23は全反射ミラー膜、24は導電性膜、25は振動子部である。
【0004】
図3に示した光干渉型振動センサの動作原理は、光ファイバー15の端面から射出される光の一部がハーフミラー膜22によって反射され、ハーフミラー膜22を通過した光が全反射ミラー膜23によって反射されるので、二つの反射光の干渉が生じるが、ハーフミラー膜22と全反射ミラー膜23の距離が変化すると、干渉光の強度が変化するというものである。つまり、全反射ミラー膜23が設けられた振動子部25の変位の状態を検出することができる。
【0005】
また、図3に構造を示した光干渉型振動センサは、素材としてSOI(Silicon on Insulator)基板を用い、SOI基板上層シリコン20には、図における下側に段差を形成した後、錘となる部分及び梁となる部分を形成することによって振動子部25を形成し、SOI基板下層シリコン18には、光ファイバー15を挿通するための光ファイバー挿通孔17を形成し、SOI基板中間絶縁SiO層19の一部を除去することにより振動子部25とSOI基板下層シリコン18との間に空間を形成するとともに、光ファイバー挿入孔17を通して振動子25の表面に全反射ミラー膜23を形成し、端面にハーフミラー膜22を形成した光ファイバー15を挿通して接着剤16で固定した構造で、SOI基板上層シリコン20の側には、表面に導電性膜24を有する保護部材21を接合している。
【0006】

この光干渉型振動センサにおいては、SOIを用いることにより、前記のような構造を得るために、ドライエッチングあるいはウェットエッチングなどを組み合わせた方法が適用できる。つまり、MEMS(メムス;Micro Electro Mechanical Systems)と称される手法が適用できるので、小型で高精度のものを大量に製造できる利点がある。
【0007】
しかしながら、図3に示した構造の光干渉センサでは、接着剤16の熱膨張率が他の部材よりも大きいため、温度変化に伴うハーフミラー膜22と全反射ミラー膜23との距離の変化が大きく、測定精度に向上の余地がある。また、エッチング工程を省くことにより製造コストを低減できる可能性がある。
【0008】
【特許文献1】特許第4153464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の課題は、前記のような構造の光干渉型振動センサにおいて、測定精度を向上し得る構造を提供するとともに、製造工程の簡略化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の課題解決のため、必要な機能を得るために既存の製品を適用することや、製造工程を見直した結果なされたものである。
【0011】
即ち、本発明は、中央部から一定の距離を有する位置から、周縁部から一定の距離を有する位置へ設けられた複数のスリットを有するシリコン基板からなる振動子部と、前記振動子部の中央に設けられた全反射ミラーと、前記全反射ミラーが設けられた側とは反対側に設けられた支持部材とを有するセンサチップと、中央部に貫通孔を有する部材と、前記貫通孔に挿通され、挿通された側の端面が前記部材の一方の端面の位置に配された光ファイバーと、前記部材の前記一方の端面に設けられたハーフミラーとを有する光ファイバー固定部材と、前記全反射ミラーと前記ハーフミラーとを対向させた状態で一定の距離を確保するためのスペーサを有することを特徴とする光干渉型振動センサである。
【0012】
また、本発明は、前記振動子部が、前記シリコン基板の所要の位置のエッチングによる除去により形成されることを特徴とする、前記の光干渉型振動センサの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による光干渉型振動センサは、その構造的な特徴から、次のような利点を有する。
(1)光ファイバー固定部材は、市販のフェルールなどに光ファイバー挿通することで得られるので、図3に示したような光ファイバー挿入孔17の加工が不要となる。
(2)別途にスペーサを組み込むので、図3におけるSOI基板中間絶縁SiO層の除去工程が不要となる。
(3)センサチップと光ファイバー固定部材を組み立てて封入するパッケージが容易に得られる。
(4)振動子部の形成には、従来のシリコン基板のエッチングによる方法がそのまま適用できるので、高精度にものが大量に得られる。
【0014】
従って、従来よりも高精度の光干渉型振動センサを、従来よりも簡略された工程で得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明による光干渉型振動センサの実施の形態について、図を参照しながら具体的に説明する。
【0016】
図1は本発明の光干渉型振動センサの一例を示す断面図である。図1において、1は光ファイバー、2は光ファイバー挿通孔、3はフェルール、4はハーフミラー膜、5は全反射ミラー膜、6は振動子部、7は支持部材、8はスペーサ、9及び10はパッケージ用部材、11はOリングである。
【0017】
また、図2は、図1における全反射ミラー膜5、振動子部6、支持部材部材7の詳細を示す図で、図2(a)は平面図、図2(b)はAA断面図である。図2において、12はSOI基板中間絶縁SiO層、13はスリット、14は梁である。
【0018】
ここに示した振動子部6は、素材としてSOI基板にエッチングを施して得られる。つまり、まずSOI基板下層シリコンとSOI基板中間絶縁SiO層12をエッチングで除去し、残った部分を支持部材7とする。さらにエッチングにより、SOI基板上層シリコンに、中央部から一定の距離を有する位置から周縁部から一定の距離を有する位置へ設けられた複数のスリット13を形成する。
【0019】
これによって、中央部から周縁部に延在する梁14が形成され、中央部が図2(b)における上下方向に変位する振動子部6が得られる。つまり、図3に示した従来例と同様に、MEMSの手法により、高精度のものを大量に得ることができる。
【0020】
また、SOI基板中間絶縁層SiO層が除去され、振動子部分に可動スペースが確保できるならば、支持部材7はエッチングする必要は無い。これにより振動子部6と支持部材7の間のスペース間のエアーダンピングにより、振動センサの周波数特性を調整することができる。
【0021】
また、光ファイバー1を挿通固定する部材として、市販のフェルールをそのまま用いることができるので、図3に示した従来例の場合のように、SOI基板に貫通孔を形成する工程を省略することができるばかりでなく、固定に用いる接着剤(図示せず)は、光ファイバー挿通孔2の図1における上側の開口部の部分から、光ファイバー1と光ファイバー挿通孔2との間の空隙に少量注入するだけ十分なので、接着剤の熱膨張の影響は、無視し得る程度になる。
【0022】
また、ハーフミラー膜4を光ファイバー1とフェルール3の端面の全面に形成するので、ファイバー端面のみに形成する場合に比較して形成工程の簡略化が可能になるので、製造コスト低減に寄与できる。スペーサ8についても同様であり、金属箔を打ち抜いたものなどが使用可能であり、製造コスト低減に寄与できるとともに、これを用いることで、ハーフミラー膜4と全反射ミラー膜5の距離の設定が容易になる。なお、スペーサ8の外径をパッケージ用部材9の内径とほぼ同じとすることにより、位置決めを容易にできる。スペーサ8は振動子部6の上面とフェルール3の下面の片面あるいは両面にあらかじめ接合などで作りこんでおくと組立を簡略化することができる。
【0023】
さらに、パッケージ用部材9、10としては、図1に示したように、2分割した部材をネジ止めで組立固定することも可能であるが、機械的な固定であれば、嵌合やかしめでもよい。また、図1に示したように内周に溝を設け、Oリングを嵌合することで、防水機能を付与できる。
【0024】
以上に説明したように、本発明によれば、従来よりも簡略な製造工程により、信頼性が向上した高精度の光干渉型振動センサを得ることができる。従って本発明が光干渉型振動センサの普及に寄与するところには極めて大きいものがある。
【0025】
なお、本発明は、前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る、各種変形、修正を含む本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。例えば前記の実施の形態においては、振動子部6の素材として、SOI基板を用いる例を挙げたが、シリコン基板に直接エッチングを施し、別途に作製した支持部材を接合したものも本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の光干渉型振動センサの一例を示す断面図
【図2】全反射ミラー膜5、振動子部6、支持部材部材7の詳細を示す図で、図2(a)は平面図、図2(b)はAA断面図
【図3】従来の光干渉型振動センサの一例の断面図
【符号の説明】
【0027】
1,15 光ファイバー
2,17 光ファイバー挿通孔
3 フェルール
4,22 ハーフミラー膜
5,23 全反射ミラー膜
6,25 振動子部
7 支持部材
8 スペーサ
9,10 パッケージ用部材
11 Oリング
12,19 SOI基板中間絶縁SiO
13 スリット
14 梁
16 接着剤
18 SOI基板下層シリコン
20 SOI基板上層シリコン
21 保護部材
24 導電性膜




【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部から一定の距離を有する位置から、周縁部から一定の距離を有する位置へ設けられた複数のスリットを有するシリコン基板からなる振動子部と、前記振動子部の中央に設けられた全反射ミラーと、前記全反射ミラーが設けられた側とは反対側に設けられた支持部材とを有するセンサチップと、中央部に貫通孔を有する部材と、前記貫通孔に挿通され、挿通された側の端面が前記部材の一方の端面の位置に配された光ファイバーと、前記部材の前記一方の端面に設けられたハーフミラーとを有する光ファイバー固定部材と、前記全反射ミラーと前記ハーフミラーとを対向させた状態で一定の距離を確保するためのスペーサを有することを特徴とする光干渉型振動センサ。
【請求項2】
前記振動子部は、前記シリコン基板の所要の位置のエッチングによる除去により形成することを特徴とする、請求項1に記載の光干渉型振動センサの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−151504(P2010−151504A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−327731(P2008−327731)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(302000081)株式会社メムス・コア (19)
【Fターム(参考)】