説明

光干渉繊維の溶融紡糸方法及びその溶融紡糸口金

【課題】フィラメント内部に形成する交互積層体の積層厚みを変化させて可視光範囲での発色波長を変化させても、フィラメント断面のアスペクト比を変化させないマルチフィラメントヤーンからなる光干渉繊維の溶融紡糸方法を提供する。
【解決手段】吐出スリット部分の断面積を変えることなく、幅方向と厚み方向の形状を変化させることにより積層部周りを囲む、保護層部の幅方向、厚み方向の比率を変化させることにより、フィラメント断面のアスペクト比を変化させずに様々なピーク波長を得ることを特徴とした溶融紡糸口金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の異なる少なくとも2種のポリマーを交互に積層した交互積層体が繊維軸に沿って形成された偏平な横断面を有するフィラメントによって光学干渉機能が付与された光干渉繊維を溶融紡糸するための溶融紡糸方法とその溶融紡糸口金に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の可視領域の波長を有する光による反射あるいは干渉作用によって発色させる多層薄膜構造を有する光干渉繊維が注目されている。このような光干渉繊維としては、例えば、繊維基材上に透明金属化合物を薄膜蒸着させた構造のもの、あるいは光学的屈折率が互いに異なる2種のポリマーを交互に積層して薄膜多層状の交互積層体を光学干渉繊維として成形した構造のものなどが知られている。
【0003】
特に、前者の繊維基材上に透明金属化合物を薄膜蒸着させた構造のものは使用時の耐剥離性が悪い。これに対して、後者の光学干渉繊維では、互いに親和性が高い2種以上のポリマーが交互に貼り合わされて形成された繊維そのものが光干渉性を有するのであるから、使用時の耐剥離性が格段に優れている。
【0004】
以上に説明した光学干渉繊維は、図2(a)及び(b)に例示したように、基本的には2種以上のポリマーによって形成された薄膜多層の交互積層体13,13'が繊維軸に沿って形成された構造を有している。なお、このような光学干渉繊維の実施態様としては、交互積層体13,13'のみで繊維が形成されたものと、交互積層体13,13'の周りに保護層14を覆った構造のもの(図2に例示したものと同じタイプ)とがある。しかしながら、交互積層体13,13'のみの構造の場合は、積層ポリマー間で層間剥離が生じやすい等の品質上の問題が生じる可能性が高い。
【0005】
そこで、図2(a)及び(b)に例示したように、交互積層体13,13'に作用する外部から影響を極力抑制するために、交互積層体13,13'の保護を目的としてその周りを保護層14で囲繞して交互積層体13,13'を保護することが行なわれる。なお、このように保護層14を含む繊維構造体とする場合には、交互積層体13,13'を安定して形成させるために、交互積層体13,13'を形成するための2種類のポリマーと保護層14を形成させるポリマーとが必要となる。このため、3種類のポリマー、すなわち、交互積層体13,13'を形成させるためのA成分ポリマーとB成分ポリマー、そして、保護層14を形成させるためのC成分ポリマーを一定量比率でそれぞれ定量計量しながら紡糸口金に供給して複合繊維として吐出することが望ましい。
【0006】
以上に説明したような理由から、光学干渉繊維を溶融紡糸するための口金構造として、交互積層体13,13'を形成させるA成分ポリマーとB成分ポリマー、保護層14を形成させるポリマーCを受け入れて複合繊維を形成する複合繊維用溶融紡糸設備が必要となる。なお、保護層14を形成させるポリマーとして、交互積層体13,13'を形成させるA成分ポリマーあるいはB成分ポリマーの何れかを使用するか、あるいは、これらの何れとも異なる別種類のC成分ポリマーを使用しても構わない。
【0007】
しかしながら、汎用設備として使われている複合繊維用の溶融紡糸設備は2種類のポリマーからなる複合繊維を溶融紡糸するための紡糸設備(以下、本明細書において「2元紡糸機」とも言うことにする)が主流となっている。そこで、このような汎用設備を使用して、2種類のポリマーによって薄膜層を交互に積層させた交互積層体13,13'を形成すると共に、この交互積層体13,13'を保護するために形成した保護層14とからなる複合フィラメントを製造することが行なわれている。
このような場合に、安定した積層厚みを有する交互積層体13,13'を有する複合マルチフィラメントヤーンを溶融紡糸しようとすると、以下に述べるような問題が生じる。
【0008】
すなわち、交互積層体13,13'を交互に構成する各薄膜層の厚みを狙い通りの寸法で形成させるために、複雑な構造の紡糸口金を極めて加工精度良く製作することが要求されるのである。しかし、光干渉繊維以外の従来の紡糸口金では、このような極めて高精度の加工が要求されなかったため、その要求に十分に応えられるものではない。そのために、各薄膜層間からの波長の揃った反射光によって生じる干渉光によって生じる優れた光干渉効果を発現する光学干渉性複合高分子繊維を得ることができなかった。
【0009】
そこで、2種類のポリマーからなる交互積層体13,13'を狙った通りの厚みで安定して形成させることができ、これによって、波長の揃った反射光による優れた光干渉効果を発現する光学干渉性複合高分子繊維を得ることができる溶融紡糸用口金が必要となる。このような溶融紡糸用口金は、従来より各種検討がなされてきており、例えば特許文献1〜3などにおいて提案されている。
【0010】
しかしながら、これらの光学干渉機能を有する複合高分子繊維を溶融紡糸するための紡糸口金に関しては、2種類のポリマーからなる交互積層体13,13'を均一に構成するために必要とされる機能を有する口金専用に特化されている。更に、紡糸口金の製作寸法仕様は高発色にするための特定の発色波長の可視光線をピーク波長として持つマルチフィラメントヤーンを用いて布地などに織編するために適したフィラメント特性を保つように高精密な寸法精度を有する設計となっていることに変わりはない。
【0011】
ここで、光干渉繊維の発色特性を変化させるためのパラメータについて考察すると、交互積層体13,13'を構成する薄膜層の積層数と積層厚み、交互積層体13,13'のポリマー特性などが挙げられる。このうち、フィラメント特性を同じにするための溶融紡糸用口金に要求される仕様としては、ポリマーの種類と、更にフィラメントの太さも変えないという前提条件の下で、異なる発色波長ピークを持った光干渉繊維を溶融紡糸しようと考えると、交互積層体13,13'を構成する薄膜層の積層厚みを調整することでしか対応することができない。
【0012】
しかしながら、交互積層体13,13'の積層厚み、すなわち、そのアスペクト比(c/d)を変更するとなると、フィラメント断面の縦方向長さ(a)と横方向長さ(b)との比(a/b)で定義されるアスペクト比も影響を受けて変わってしまうため、フィラメント自体の伸長度、強度、風合い、嵩高性能等の特性に違いが生じてしまう。
【0013】
そこで、特定の仕様に特化した光干渉繊維の溶融紡糸用口金を用いて、発色波長を変化させた際にも、そのフィラメント特性や発色強度特性などのフィラメント特性を損なわない光干渉繊維の溶融紡糸方法が、特許文献4に提案されいる。確かに、この特許文献4に提案された紡糸口金を使用すれば、可視光のピーク波長が470〜650nmの範囲においてフィラメント特性に変化を与えることなく発色波長ピークを変えることが可能である。
【0014】
しかしながら、可視光のピーク波長が360〜780nmの範囲にまで調整可能な紡糸口金にまで適用範囲を拡大しようとすると、交互積層体13,13'の積層厚み、すなわち、そのアスペクト比(c/d)を理論上2倍変化させる必要が生じるという問題がある。しかも、このような場合に、可視光のピーク波長の範囲内において交互積層体13,13'の積層厚み、すなわち、そのアスペクト比(c/d)を変化させても、フィラメント自体の特性を変化させないために、図2(a)及び(b)に示した様に、フィラメント断面のアスペクト比(扁平率)である(a/b)は一定にしておく必要がある。
【0015】
それにもかかわらず、従来技術のように交互積層体13,13'の積層厚み、すなわち、そのアスペクト比(c/d)をただ変化させると、この変化に対応させてフィラメント断面自体のアスペクト比(a/b)を一定にすることができなくなり、フィラメント特性としてみた場合、その伸長度、強度、風合い、嵩高性能等の違いが発生してしまうという問題を回避することができない。
【0016】
【特許文献1】特開平11−1817号公報
【特許文献2】特開平11−1818号公報
【特許文献3】特開平11−1819号公報
【特許文献4】特開2008−111205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上に述べた従来技術が有する問題に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、「光学的屈折率が互いに異なる2種類のポリマーからなる薄膜層をフィラメント内部に交互に積層して形成した交互積層体の積層厚みを変化させ、その結果として可視光範囲に入る発色波長を幅広く変化させたとしても、交互積層体の積層厚みを変化させたにもかかわらず、フィラメント断面自体のアスペクト比は変化しないマルチフィラメントヤーンを溶融紡糸することにができ、これによって、フィラメント特性や発色特性を積層厚みの変化によっても損なわない光干渉繊維の溶融紡糸方法とその溶融紡糸口金」を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
ここに、前記の課題を解決するための本発明の「光干渉繊維の溶融紡糸方法」として、「 光学的屈折率の異なる2種のポリマーからなる薄膜層が交互に繊維軸方向に沿って積層されて形成され交互積層体と、前記交互積層体の周りを囲繞する保護層とからなる偏平断面形状を有する光干渉フィラメントで構成されるマルチフィラメントヤーンを紡出する紡糸口金が、(1) 前記交互積層体を形成する交互積層流を上流部で形成する交互積層流を形成する流路と、(2) 前記交互積層流の積層方向長さとこれと直行する反積層方向長さとの比である縦横比を前記吐出孔への交互積層流の流入直前で決定する流路と、(3) 縦横比が決定された後の前記交互積層流の周りを囲繞する保護層流を合流させる合流流路と、(4) 前記2種のポリマーの何れか一方のポリマーを保護層流として分岐させる流路と、(5) 前記交互積層流と前記保護層流とを芯鞘流として吐出する矩形の流路断面を有する吐出孔とを備え、
前記紡糸口金に設ける前記吐出孔の形状と流路断面積を変えることなく前記吐出孔から吐出させる前記2種のポリマー量を合計した全体体積流量を一定にする一方で、前記2種のポリマーの体積流量比率を変化させ、前記交互積層流を吐出孔の直前で前記合流流から合流させることにより、得られるフィラメント断面のアスペクト比を変化させずに前記交互積層体のアスペクト比を変化させた光干渉繊維を得ることを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸方法」が提供される。
【0019】
このとき、前記溶融紡糸方法によって得られた光干渉マルチフィラメントヤーンを同一条件で延伸した光干渉繊維の発色波長であるピーク波長が少なくとも360〜780nmの可視光範囲に入ることを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸方法とすることが好ましい。
【0020】
また、本発明の光干渉繊維の溶融紡糸口金として、「光学的屈折率の異なる2種のポリマーからなる薄膜層が交互に繊維軸方向に沿って積層されて形成され交互積層体と、前記交互積層体の周りを囲繞する保護層とからなる偏平断面形状を有する光干渉フィラメントで構成されるマルチフィラメントヤーンを紡出する紡糸口金が、(1) 前記交互積層体を形成する交互積層流を上流部で形成する交互積層流を形成する流路と、(2) 前記交互積層流の積層方向長さとこれと直行する反積層方向長さとの比である縦横比を前記吐出孔への交互積層流の流入直前で決定する流路と、(3) 縦横比が決定された後の前記交互積層流の周りを囲繞する保護層流を合流させる合流流路と、(4) 前記2種のポリマーの何れか一方のポリマーを保護層流として分岐させる流路と、(5) 前記交互積層流と前記保護層流とを芯鞘流として吐出する矩形の流路断面を有する吐出孔とを備え、前記合流流路の溝深さを前記交互積層体流の積層方向とこれと直交する反積層方向とにおいて異ならせたことを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸口金」が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、光学的屈折率が互いに異なる2種類のポリマーからなる薄膜層をフィラメント内部に交互に積層して形成した交互積層体の積層厚みを変化させ、その結果として可視光範囲の発色波長を変化させても、交互積層体の積層厚みを変化させたにもかかわらず、フィラメント断面自体のアスペクト比は変化しないマルチフィラメントヤーンを溶融紡糸することを可能とした。その結果、広い可視光範囲の発色波長をピークとして持つ光干渉繊維をフィラメント特性や発色特性を損なうことなく安定して溶融紡糸できるという極めて顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明に係る「光干渉繊維の溶融紡糸口金(以下、単に“口金”とも言う)」の構造は、図1に例示したように構成されている。なお、この口金構造の詳細については、前掲の特許文献1〜3に詳細に開示されているので、ここではその詳細説明を省略する。
【0023】
ここで、前記図1において、各参照符号について説明すると、1:第1口金板、2:第2口金板、3:第3口金板、4:第4口金板、5:A成分ポリマーの導入孔、6:B成分ポリマーの導入孔、7:開孔列、8:積層合流流路、9:漏斗状流路、10:保護層ポリマーの分岐流路、11:保護層ポリマーの合流流路、そして、12:吐出孔をそれぞれ表している。なお、図1の実施態様において、本発明の口金は、第1口金板1、第2口金板2、第3口金板3、及び第4口金板4の順で上下に積層されて構成されており、これらはそれぞれメタルタッチでポリマーシールされている。
【0024】
本発明において、既に説明済みの図2(a)及び(b)に例示した交互積層体13,13'と保護層14を形成させるために使用する、屈折率が異なる2種のポリマーとその性状は、光干渉性を示すポリマーであれば特に限定することはなく、例えば前掲の特許文献1〜3に開示されているものを好適に使用することができる。
【0025】
ただし、以下の実施形態においては、単なる便宜上の問題から、一方のポリマー(A成分ポリマー)として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸が0.9モル%共重合された、固有粘度0.57のポリエチレンテレフタレート系ポリエステルを用い、他方のポリマー(B成分ポリマー)として、固有粘度1.20のナイロン6を用いた例に基づき説明する。何故ならば、本発明は、光学干渉繊維を溶融紡糸する紡糸口金に関するものであって、この紡糸口金で溶融紡糸する場合の作用効果を説明するためには具体的な例示が必要であるからである。なお、前記前記2種類のA成分ポリマーとB成分ポリマーの容積比を4:1として2台のギヤポンプを使用して最終的にそれぞれ独立に「光干渉繊維の溶融紡糸口金」へ連続的に定量計量しながら供給した。
【0026】
図1に例示した本発明の「光干渉繊維の溶融紡糸口金」は、既に説明したように繊維軸方向に沿って形成された交互積層体13,13'と保護層14からなる光干渉繊維を紡出するためのものである。その際、交互積層体13,13'は、一方の薄膜層がA成分ポリマーから形成され、他方の薄膜層はB成分ポリマーから形成され、これらの薄膜層が交互に積層されて形成されている。なお、図1の口金では、保護層14もA成分ポリマーから形成された実施形態であって、2種類のポリマーを使用する汎用の2元紡糸機を使用する場合に好適な実施形態である。
【0027】
このとき、前述のA成分ポリマーは、口金の一部を構成する第1口金板1に穿設された導入孔5から導入され、その一部のポリマーは保護層14を形成するために分岐流路10へ分岐する。そして、その余のA成分ポリマーは、B成分ポリマーとで交互積層体13,13'となるための交互積層体流を形成する開孔列7の上部入口側へと分岐して流れる。
【0028】
次に、前述のB成分ポリマーは、口金の一部を構成する第1口金板1に穿設された導入孔6から導入され、全てのB成分ポリマーが第2口金板2に設けられた開口列7の直下部へと流入する。このようにして、開孔列7の下部に形成された第3口金板3の積層合流流路8において、各開孔列7から流出するA成分ポリマーの周りをB成分ポリマーが囲繞しながら各開口列7の出口からそれぞれ流れ出たA成分ポリマーとB成分ポリマーとが合流する。
【0029】
次いで、このように合流したA成分ポリマーとB成分ポリマーとは、上下方向に狭隘な間隙を形成する積層合流流路8を図示の矢印方向へ水平に流れることによって交互積層流が形成される。以上の説明からも明らかなように、図2に例示した交互積層体13,13'を構成する薄膜層の数は、前記開口列7の開口の数によって決定されることを付言しておく。
【0030】
以上に説明したように、A成分ポリマー流とB成分ポリマー流とからなる交互積層流が形成されると、この交互積層流は流路断面が方形を有する漏斗状流路9を流下し、この流下の過程で交互積層流の縦横比(アスペクト比)が徐々に変更されて所定の形状に調整され、最終的に吐出孔12へと流入する。このとき、保護層ポリマー(本例では、A成分ポリマー)が吐出孔12へと流入する直前の交互積層流の周りを囲繞しながら合流流路11から合流する。
【0031】
そして、交互積層流の周りを囲繞した状態で保護層ポリマー(A成分ポリマー)も同時に第4口金板に設けられた合流流路11から吐出孔12へと流入して、芯鞘流を形成しながら第4口金板4に穿設された複数の吐出孔12からマルチフィラメントとして紡出される。このようにして、繊維軸方向に沿って形成された交互積層体13,13'の周りを保護層14が取囲んだ光干渉繊維が紡出されるのである。
【0032】
以上に説明した本発明の口金において、本発明の一つの特徴は、吐出孔12の流路断面形状を矩形にしたことである。このように、吐出孔12の流路断面形状を矩形にすることによって、光干渉繊維のフィラメント断面積を変えることなく交互積層体13,13'の積層方向長さ(c)とこれに直交する反積層方向長さ(d)との比、すなわち、すなわち、アスペクト比(c/d)を変化させても、フィラメントの扁平な断面形状、すなわち、すなわち、アスペクト比(a/b)を一定に保つことができる。
【0033】
何故ならば、保護層14を形成するための保護層ポリマー(A成分ポリマー)流は吐出孔12に入る直前で交互積層流を囲繞するように合流するので、合流以前に形成された交互積層体流の形状はそのまま維持され、吐出孔12に入る際に保護層流だけが自由に変形して交互積層体の周りを取囲むからである。なお、紡出される光干渉フィラメントの断面形状は、吐出孔12の形状によって決まるため、交互積層体流の縦横比(アスペクト比)の設計変更が行なわれたとしても、交互積層体流を囲繞する保護層ポリマー流の吐出孔12への流入がこれに合わせて自動的に調整されて、吐出孔12の断面形状はそのまま維持される。
【0034】
したがって、交互積層体13,13'の積層方向長さとこれと直交する反積層方向長さを所定のアスペクト比に調整することによって、A成分ポリマー由来の薄膜層の膜厚とB成分ポリマー由来の薄膜層の膜厚とを調整することにより、これら膜厚に起因するピーク反射波長を変更したとしてもフィラメントの断面形状を一定に保つことができる。
【0035】
このとき、吐出孔12の流路断面形状を矩形にする効果は、保護層ポリマーの合流流路11の溝深さを、交互積層体流の積層方向とこれと直交する反積層方向とにおいて、その溝深さを変えることによっても得られるが、加工コスト及び実際に紡糸する口金の管理面において、前者の方が優れている。なお、吐出孔の断面積を変化させても同様の効果は得られるが、吐出孔12から吐出されるポリマーの吐出線速度が変わることになり、これに伴って、他の紡糸条件を変える必要が生じる可能性があるため望ましくない。
【0036】
ここで、以上に説明した口金から得られた光干渉繊維のその後の製糸条件について簡単に付言すると、例えば、前述のようにして紡糸したマルチフィラメントヤーンを、一旦巻き取ることなく引き続いて、例えば、延伸倍率:3.4倍、延伸温度(供給ローラの表面温度):90℃、セット温度(延伸ローラの表面温度):180℃の条件下で直接紡糸を行い、例えば120デシテックス、12フィラメントの積層断面を有する光干渉繊維を糸条パッケージとして巻き取ったものである。また、更に例示するならば、得られたフィラメントの内部には30層の交互積層体が形成されており、ピーク波長は460nm、その断面形態はアスペクト比(扁平率)a/bが3.5の扁平形状とするものである。
【0037】
以下、様々な使用を有する口金を用いて溶融紡糸し、前述のような方法で最終的に巻き取った光干渉繊維について、その実験結果について説明する。
【0038】
[実験例1]
2種のA成分ポリマー量とB成分ポリマー量とを合計した全体体積流量を35cc/分と一定にする一方で、交互積層体の形成部と保護層の形成部とへ分岐して流れるA成分ポリマーの各流入比率、及びA成分ポリマーとB成分ポリマーとのギヤポンプからの吐出比を様々に変更した。また、吐出孔の流路断面形状を縦0.15mm×横1.0mmの矩形にして、その流路断面積を変えることなく積層方向とこれと直交する反積層方向の形状を様々に変化させて交互積層数が30層の光干渉繊維を口金温度280℃、引取速度1000m/分で紡糸して前述のような延伸条件で製糸して、フィラメントのピーク波長が360〜780nmになるように条件をふった。そのうちフィラメント断面のアスペクト比(扁平率)a/bが3.4〜3.6の範囲に収めたフィラメントのピーク波長(発色波長)の調整可能な範囲を表1に記す。
【0039】
[実験例2]
実験例1の条件に加えて、さらに保護層ポリマーの合流流路11の溝深さを、積層方向とこれと直交する反積層方向とにおいて、その溝深さをそれぞれ別々に変化させて紡糸して、フィラメントのピーク波長が360〜780nmになるように水準をふった。そのうちフィラメント断面の扁平率を3.4〜3.6の範囲に収まったフィラメントのピーク波長範囲を表1に記す。
【0040】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る光干渉繊維用複合紡糸口金の一実施形態を模式的に例示した一部破断した斜視図である。
【図2】本発明に係る、光干渉繊維の内部構造を模式的に例示したフィラメント断面である。
【符号の説明】
【0042】
1:第1口金板
2:第2口金板
3:第3口金板
4:第4口金板
5:ポリマーA導入孔
6:ポリマーB導入孔
7:開孔列
8:積層合流流路
9:漏斗状流路
10:保護層ポリマー分岐流路
11:保護層ポリマー合流流路
12:吐出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学的屈折率の異なる2種のポリマーからなる薄膜層が交互に繊維軸方向に沿って積層されて形成され交互積層体と、前記交互積層体の周りを囲繞する保護層とからなる偏平断面形状を有する光干渉フィラメントで構成されるマルチフィラメントヤーンを紡出する紡糸口金が、(1) 前記交互積層体を形成する交互積層流を上流部で形成する交互積層流を形成する流路と、(2) 前記交互積層流の積層方向長さとこれと直行する反積層方向長さとの比である縦横比を前記吐出孔への交互積層流の流入直前で決定する流路と、(3) 縦横比が決定された後の前記交互積層流の周りを囲繞する保護層流を合流させる合流流路と、(4) 前記2種のポリマーの何れか一方のポリマーを保護層流として分岐させる流路と、(5) 前記交互積層流と前記保護層流とを芯鞘流として吐出する矩形の流路断面を有する吐出孔とを備え、
前記紡糸口金に設ける前記吐出孔の形状と流路断面積を変えることなく前記吐出孔から吐出させる前記2種のポリマー量を合計した全体体積流量を一定にする一方で、前記2種のポリマーの体積流量比率を変化させ、前記交互積層流を吐出孔の直前で前記合流流から合流させることにより、得られるフィラメント断面のアスペクト比を変化させずに前記交互積層体のアスペクト比を変化させた光干渉繊維を得ることを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶融紡糸方法によって得られた光干渉マルチフィラメントヤーンを同一条件で延伸した光干渉繊維の発色波長であるピーク波長が少なくとも360〜780nmの可視光範囲に入ることを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸方法。
【請求項3】
光学的屈折率の異なる2種のポリマーからなる薄膜層が交互に繊維軸方向に沿って積層されて形成され交互積層体と、前記交互積層体の周りを囲繞する保護層とからなる偏平断面形状を有する光干渉フィラメントで構成されるマルチフィラメントヤーンを紡出する紡糸口金が、(1) 前記交互積層体を形成する交互積層流を上流部で形成する交互積層流を形成する流路と、(2) 前記交互積層流の積層方向長さとこれと直行する反積層方向長さとの比である縦横比を前記吐出孔への交互積層流の流入直前で決定する流路と、(3) 縦横比が決定された後の前記交互積層流の周りを囲繞する保護層流を合流させる合流流路と、(4) 前記2種のポリマーの何れか一方のポリマーを保護層流として分岐させる流路と、(5) 前記交互積層流と前記保護層流とを芯鞘流として吐出する矩形の流路断面を有する吐出孔とを備え、前記合流流路の溝深さを前記交互積層体流の積層方向とこれと直交する反積層方向とにおいて異ならせたことを特徴とする光干渉繊維の溶融紡糸口金。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−150703(P2010−150703A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330119(P2008−330119)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】