説明

光弾性係数の温度依存性が小さい光学フィルム

【課題】常温における光弾性係数の絶対値が小さく、光弾性係数の温度依存性の小さい光学フィルムを提供すること。
【解決手段】スチレン系化合物単位を10質量%を超えて含むアクリル−スチレン系共重合体又はこれを含む樹脂組成物よりなる光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、すなわち、光学素子として用いるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイの大型化に伴い、液晶を光学補償する位相差フィルムや偏向板保護フィルム等の光学フィルムの大型化も必要となってきている。
しかし、光学フィルムを大型化すると、外力の偏りが生じるため、光学フィルムが外力による複屈折変化を生じやすい材料からなる場合、複屈折の分布が生じ、コントラストが不均一となるという問題がある。外力による複屈折変化の生じやすさは、光弾性係数の絶対値によって表されるところ、現在位相差フィルムとして一般的に用いられているポリカーボネートフイルムやトリアセチルセルロース(TAC)フィルムは、光弾性係数の絶対値が大きく、これに代わる光弾性係数の絶対値の小さい光学フィルムが切望されている。
【0003】
さらに、ナノインプリントやTiO2蒸着といった特殊加工を施す光学フィルムや、屋外で使用されるモバイル用ゲーム機、電子ペーパー、カーナビゲーションシステム等のディスプレイ装置用光学フィルム等、用途が広がるのに伴い、光学フィルムは高温下で加工・使用されるようになり、光弾性係数の絶対値が小さいことだけでなく、光弾性係数の温度依存性が小さいことも求められるようになっている。
【0004】
光弾性係数の絶対値の小さい材料としては、メタクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)やアモルファスポリオレフィン(APO)が知られている(非特許文献1参照)。
また、TACフィルムの代りに、光弾性係数の小さい熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂フィルムを偏光子の保護層として使用することが提案されている(特許文献2、3)。
【0005】
【非特許文献1】化学総説、No.39、1998(学会出版センター発行)
【特許文献1】特開2003−207637号公報
【特許文献2】特開2003−232930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に開示されている材料でもまだ外力による複屈折変化が大きく、十分な光学特性を有しているとは言えない。
また、上記特許文献1、2に開示されているノルボルネン系樹脂フィルムを単に偏光子の保護層として使用したものは、耐擦傷性、反射防止性、密着性において不十分な点があり、額縁故障、色むら、輝点欠損などが生じることがあった。更には、光弾性係数の温度依存性についても満足するものが得られていない。
本発明は、常温における光弾性係数の絶対値が小さく、しかも、光弾性係数の温度依存性の小さい光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意研究を行った結果、光学フィルムを構成する材料として、特定の組成のアクリル−スチレン系共重合体を含む樹脂組成物を用いることにより、光学フィルムの常温における光弾性係数の絶対値と光弾性係数の温度依存性を小さくすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
請求項1の発明においては、スチレン系化合物単位を10質量%を超えて含むアクリル−スチレン系共重合体又はこれを含む樹脂組成物よりなる光学フィルムを提供する。
【0009】
請求項2の発明においては、前記アクリル−スチレン系共重合体が、五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位を、合計で5〜30質量%含有する請求項1に記載の光学フィルムを提供する。
【0010】
請求項3の発明においては、前記アクリル−スチレン系共重合体が、式1で表される五員環化合物単位及び/又は式2で表される六員環化合物単位を、合計で5〜30質量%含有する請求項1に記載の光学フィルムを提供する。
【0011】
【化1】

【0012】
式中、R1、R2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0013】
【化2】

【0014】
式中、R3、R4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0015】
請求項4の発明においては、25℃における光弾性係数の絶対値が5.0×10-12[/Pa]未満で、かつ、以下の式を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルムを提供する。
|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|<0.6
(式中、CR25℃は25℃における光弾性係数であり、CR100℃は100℃における光弾性係数である。)
【0016】
請求項5の発明においては、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルムからなる偏光板保護フィルムを提供する。
【0017】
請求項6の発明においては、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルムからなる位相差フィルムを提供する。
【0018】
請求項7の発明においては、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルムからなる車載用ナビゲーションシステムのディスプレイ装置用光学フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、常温での光弾性係数の絶対値が小さく、かつ、光弾性係数の温度依存性が小さい光学フィルムを提供することが可能となる。
そのため、本発明によれば、高温加工や、高温下での使用に好適な光学フィルムを提供することができる。
また、本発明によれば、100μm以下程度の薄膜に成形した場合において、耐折強度特性と光学特性とのバランスが良好で、取り扱い性が良い光学フィルムが得られるため、上記、高温環境下に加えて利用環境裕度が広い実用的に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々変形して実施することができる。
【0021】
本実施の形態における光学フィルムは、スチレン系化合物単位が10質量%を超えるアクリル−スチレン系共重合体又はこれを含む樹脂組成物からなる。
本実施の形態において、アクリル−スチレン系共重合体とは、少なくともアクリル系化合物単位とスチレン系化合物単位とを単量体単位として含む共重合体をいう。
【0022】
本実施の形態において、アクリル系化合物単位とは、メタクリル酸、アクリル酸、又はこれらの誘導体に由来する単位をいい、このような単位を導入するための好ましい単量体の具体例として、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが挙げられる。
【0023】
メタクリル酸エステルの具体例としては、例えば、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸t−ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2,2,2−トリフルオロエチルなどが挙げられ、代表的なものはメタクリル酸メチルである。
アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニルなどが挙げられる。
【0024】
アクリル系化合物単位は一種又は二種以上組み合わせて使用することもできる。
アクリル系化合物単位の含有量は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、30質量%以上70質量%以下がさらに好ましく、35質量%以上65質量%以下が最も好ましい。20質量%以上であると、機械的強度を良好に保ち、80質量%以下であると、吸水性を低くすることができる。
また、メタクリル酸単位を含有する場合は、2質量%以上であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以上10質量%以下であることが最も好ましい。
【0025】
本実施の形態において、スチレン系化合物単位とは、その構造中にスチレン骨格を有する化合物に由来する単位をいい、このような単位を導入するための好ましい単量体の具体例として、芳香族ビニル化合物やイソプロペニル芳香族化合物等が挙げられる。
【0026】
芳香族ビニル化合物としては、スチレンのほか、例えば、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、о−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン類;1,1−ジフェニルエチレン等が挙げられ、代表的なものはスチレンである。
イソプロペニル芳香族化合物としては、例えば、イソプロペニルベンセン(α−メチルスチレン)、イソプロペニルトルエン、イソプロペニルエチルベンゼン、イソプロペニルプロピルベンゼン、イソプロペニルブチルベンゼン、イソプロペニルペンチルベンゼン、イソプロペニルヘキシルベンゼン、イソプロペニルオクチルベンゼン等のアルキル置換イソプロペニルベンゼン類等が挙げられ、好ましくはイソプロペニルベンゼンである。
【0027】
スチレン系化合物単位は、一種又は二種以上組み合わせて使用することもできる。
スチレン系化合物単位の含有量は、25℃における光弾性係数の絶対値を5.0×10-12/Pa未満にするためには10質量%を超える必要があり、12質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
本実施の形態において用いられるアクリル−スチレン系共重合体は、五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位を、合計で5〜30質量%含有することが好ましい。
【0029】
ここで、五員環化合物単位、六員環化合物単位とは、その構造中に五員環又は六員環を有する単位をいい、その構造中に五員環又は六員環を有していれば、いかなる単位であってもよい。
例えば、無水マレイン酸、無水グルタル酸などの不飽和ジカルボン酸無水物等から誘導される単位;不飽和ラクトン等から誘導されるラクトン環構造単位;N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等から誘導されるマレイミド単位等が挙げられる。
また、五員環又は六員環は、単位間環化や単位内環化反応により生成した環構造であってもよい。
【0030】
特に、五員環化合物単位としては、下記の式(1)で表される五員環化合物単位が好ましく、六員環化合物単位としては、下記の式(2)で表される六員環化合物単位が好ましい。
【0031】
【化3】

【0032】
式中、R1、R2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0033】
【化4】

【0034】
式中、R3、R4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【0035】
アクリル−スチレン系共重合体中の、五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位の共重合割合を合計で5質量%以上とすることにより、共重合体の熱安定性が向上し、さらに光弾性係数の温度依存性を小さくすることができる。
また、アクリル−スチレン系共重合体中の五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位の共重合割合を合計で30質量%以下とすることにより、共重合体の溶融粘度が低くなり、これを含む樹脂組成物のフィルム成形性が良好となる。アクリル−スチレン系共重合体中の五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位の共重合割合は、合計で7〜30質量%であることがより好ましく、10〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0036】
光学フィルムのガラス転移温度(Tg)は、高温加工や高温環境下での使用に適するように高温における光弾性係数の絶対値を小さくするという観点からは、120℃以上であることが好ましく、125℃以上であることが更に好ましく、130℃以上であることが最も好ましいが、Tgを120℃以上にする方法の一つとして、五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位を5質量%以上含有することが有効であり、7質量%以上が更に好ましく、10質量%以上が最も好ましい。
なお、光学フィルムのガラス転移温度(Tg)は、示差走査型熱量分析装置(DSC)によって求めることができる。
【0037】
本実施の形態において、アクリル−スチレン系共重合体は、アクリル系化合物単位、スチレン系化合物単位、五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位以外の重合単位を含んでいてもよいが、その共重合割合は20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0038】
本実施の形態における光学フィルムは、25℃における光弾性係数の絶対値が5.0×10-12/Pa未満である。
なお、「光弾性係数」とは、外力による複屈折の変化の生じやすさを表す係数で、下式により定義されるものとする。
R[/Pa]=Δn/σR
ここで、σRは伸張応力[Pa]、Δnは応力付加時の複屈折であり、Δnは下式により定義される。
Δn=n1−n2
ここで、n1は伸張方向と平行な方向の屈折率、n2は伸張方向と垂直な方向の屈折率である。
光弾性係数の値がゼロに近いほど外力による複屈折の変化が小さいことを示している。光弾性係数の絶対値は3.0×10-12/Pa以下であることが好ましく、1.0×10-12/Pa以下であることがより好ましい。
【0039】
また、本実施の形態における光学フィルムは、|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|(CR100℃:100℃における光弾性係数、CR25℃:25℃における光弾性係数)で定義される値が0.6未満であることが必要である。
|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|で定義される値がこの範囲であれば、高温加工時や高温使用環境下においても優れた光学特性を維持し、高温加工を施したり、高温で使用されたりする光学フィルムとして好適に用いることができる。
|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|で定義される値は0.5以下であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましい。
【0040】
本実施の形態で用いるアクリル−スチレン系共重合体を製造する方法としては、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。中でも、光学用途としては不都合な微小異物の混入を低減することが可能であるため、懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が好ましい。
【0041】
溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調製した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
重合反応に用いられる開始剤としては、ラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、アゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物を用いることができる。
特に、90℃以上の高温下で重合を行う場合には、溶液重合が一般的であるので、開始剤としては、10時間半減期温度が80℃以上で、かつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤などを用いることが好ましい。具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は、例えば、全体のモノマー100質量%に対して、0.005〜5質量%の範囲で用いることが好ましい。
【0042】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤としては、ラジカル重合において一般に用いられる任意のものが使用でき、例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。
収率・性能向上を目的として、重合条件を調整することが好ましい。このような重合条件の調整としては、例えば、重合時の熱履歴を抑えるために熱処理時間を短くすること、重合時に重合系内に存在する酸素量を低減すること、低分子量物の脱揮時の真空度を高くすること、重合体に熱安定剤を加える等である。
【0043】
また、アクリル−スチレン系共重合体に五員環又は六員環化合物単位を導入する方法に限定はなく、例えば、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、無水マレイン酸等の不飽和環状化合物を単量体成分として用い、これを他の単量体成分と共重合させることにより導入することもできるし、不飽和モノ又はジカルボン酸単量体及び、必要に応じて不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体と、その他の単量体成分とを重合させ、共重合体とした後、かかる共重合体を適当な触媒の存在下あるいは非存在下で加熱し、脱アルコール及び/又は脱水による単位間又は単位内環化反応を行わせることにより導入することもできる。この場合、共重合体を加熱することにより、典型的には、一単位の不飽和ジカルボン酸単位又は二単位の不飽和モノカルボン酸単位から脱水して、あるいは隣接する不飽和モノカルボン酸単位と不飽和モノカルボン酸アルキルエステル単位からアルコールが脱離して、一単位の五又は六員環構造の酸無水物単位が生成される。
【0044】
五員環又は六員環構造の酸無水物単位を生成するための不飽和カルボン酸単量体としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、桂皮酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル等が挙げられる。
五員環又は六員環構造の酸無水物単位を含む共重合体は、例えば特公平02−26641号、特開2006−266543号、特開2006−274069号、特開2006−274071号、特開2006−283013公報、特開2005−162835公報に記載の方法を参照して、組成比を決定し、製造、評価することができる。
【0045】
アクリル−スチレン系共重合体は、ブロックポリマーであってもランダムポリマーであってもよいが、耐熱性や剛性やリサイクル性の点では、統計的ランダムポリマーであることが好ましい。
アクリル−スチレン系共重合体の分子量分布範囲は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.6〜4.0の範囲にあることが好ましい。より好ましくは、1.7〜3.7であり、更に好ましくは1.8〜3.5の範囲である。共重合体のMw/Mnが、1.6より小さいと、該共重合体を含む樹脂組成物のフィルム加工性と機械物性のバランスが悪くなる。一方、共重合体のMw/Mnが4.0より大きくなると、該共重合体を含む樹脂組成物の溶融流動性が悪くなり、加工性が悪くなる。
【0046】
共重合体のMw/Mnの制御方法としては、例えば、連続重合法により共重合体を製造する場合には、反応器内の撹拌羽根の回転数を制御することにより1.6〜2.3の範囲の共重合体を得ることができる。また、リビング重合体の成長末端に多官能基を有する化合物を添加することによってMw/Mnを2.0〜4.0の間に制御することができる。また、高分子量体成分を反応器に追加添加し、これにより分子量分布を変化させることによってMw/Mnを2.0〜4.0の間に制御できる。
ここで、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって求めた値のことである。
【0047】
本実施の形態において、アクリル−スチレン系共重合体のGPCにより測定した重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5万〜50万であり、より好ましくは10〜35万、更に好ましくは15〜30万である。重量平均分子量を50万以下とすることで、押出し延伸加工を行うのに十分な流動性が得られ、溶融押出、延伸成膜が大きな支障がなく行える。また、重量平均分子量を5万以上とすることで、延伸安定性が得られ、これから製造されるフィルムに十分な配向度を与えることができる。
【0048】
また、本実施の形態においては、光学フィルムを構成する樹脂組成物に、アクリル−スチレン系共重合体の他に、本発明の目的を損なわない範囲で他の重合体を混合することができる。このような、重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂;ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂;およびフェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられ、これらの少なくとも1種以上をさらに添加することができる。
アクリル−スチレン系共重合体以外の重合体は、光学フィルムを構成する樹脂組成物中の重合体の総量を100質量部としたときに、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。
【0049】
さらに、光学フィルムを構成する樹脂組成物には、本実施の形態の効果を損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。
このような添加剤としては、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。例えば、無機充填剤、酸化鉄等の顔料;ステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤;離型剤;パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;難燃剤;帯電防止剤;有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤;着色剤;その他添加剤或いはこれらの混合物等が挙げられる。
これらの添加剤の含有量は、光学フィルムを構成する樹脂組成物を基準として、10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは5質量%以下である。
【0050】
アクリル−スチレン系共重合体又はこれを含有する樹脂組成物から本発明の光学フィルムを製造する方法としては、例えば、溶融押し出し成形、キャスト成形、インフレーション成形等の手法が挙げられる。
例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、原反フィルムを溶融押し出し成形し、得られた原反フィルムを、機械的流れ方向(MD方向)に縦一軸延伸する方法、機械的流れ方向に直行する方向(TD方向)に横一軸延伸する方法等によって一軸延伸フィルムを製造することができ、また、原反フィルムをロール延伸とテンター延伸の逐次二軸延伸法、テンター延伸による同時二軸延伸法、チューブラー延伸による二軸延伸法等によって二軸延伸することにより二軸延伸フィルムを製造することができる。
【0051】
本実施の形態における光学フィルムには、例えば、反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理等の表面機能化処理をすることもできる。
本実施の形態における光学フィルムの膜厚は、120μm以下が好ましい。より好ましくは100μm以下、更に好ましくは80μm以下、最も好ましくは60μm以下から40μm以上である。
120μmより膜厚が厚くなると、フィルム強度が低くなり、耐折強度が悪くなるおそれがある。40μmより薄い場合、高温使用時に熱変形の影響を受けやすくなる。また、一般的に液晶ディスプレイの薄型化により、光学補償フィルムの厚さとしては、100μm以下が求められている。
ここでの耐折強度とは、JIS P 8115(国際標準化機構:ISO5626)に従って求めた耐折回数をLogでとった値をいう。好ましくは、この値が0.5以上、より好ましくは1.0以上である。耐折強度が0.5以上であると、フィルムを筐体に組み込んだりする時や、取り扱い時にぶつけるなどの衝撃を受けた場合でも割れてしまうことがない。
【実施例】
【0052】
以下、実施例と比較例を挙げてより具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
(A)評価
実施例で用いた評価法を説明する。
(1)ガラス転移温度(Tg)測定
DSC−7型(パーキン・エルマー社製)を用い、室温から200℃までの昇温測定において、昇温速度20℃/分で原反フィルムサンプル重量8.0〜10mgのTgを測定した。
(2)光弾性係数(CR)の測定
測定光の経路に引張装置(井元製作所製)を配置し、試験片に伸張応力をかけながらその複屈折をRets−RFI(大塚電子製)を用いて測定した。伸張時の歪速度は0.3%/分(チャック間:30mm、チャック移動速度0.1mm/分)、試験片幅は10mmとした。試験片の0〜0.5%の歪範囲における複屈折の絶対値(|Δn|)をy軸、伸張応力(σR)をx軸としてプロットし、最小二乗近似により線形領域の直線の傾きを求め、光弾性係数(|CR|)を計算した。
なお、光弾性係数の測定は小型恒温槽の中で行い、25℃下、40℃下、60℃下、80℃下、100℃下における各々の光弾性係数を測定した。
(3)膜厚測定
シックネスゲージ(ミツトヨ株式会社製)を用いてフィルムの厚さ(μm)を測定した。
(4)耐折強度の測定
長さ110nm×幅15mmに裁断したサンプルを、JIS P 8115(国際標準化機構:ISO5626)に従って、MD方向に垂直な方向の耐折回数を測定し、その平均値を示した。下記に試験条件を記載する。
試験条件 試験機:MIT耐揉試験機(株式会社東洋精機製作所製)
荷重:2.45N(=250g)
折り曲げ角度:±135°
折り曲げ速度:175cpm
試験片つかみ具
先端半径:R=0.38mm
開き:0.25mm
当該耐折試験の結果は、耐折強度をもって表示する。
耐折強度は次の式で算出される。
耐折強度=Log n
(式中、nは、試験片が損傷(折れ破壊)にいたる試験回数を示す。)
【0054】
(B)用いた原材料
(I)共重合体(メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体)の調製
特公昭63−1964号公報に記載の方法で、メタクリル酸メチル単量体、スチレン単量体、無水マレイン酸単量体を用いて、メタクリル酸メチル−スチレン−無水マレイン酸共重合体を得た。
この重合体の中和滴定、IRスペクトル、C13NMRによる組成分析結果は、メタクリル酸メチル単位72質量%、スチレン単位16質量%、無水マレイン酸単位12質量%の共重合体であった。得られた共重合体のメルトフローレート値(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は、1.8g/10分であり、Tg=128℃であった。
(II)共重合体(メタクリル酸メチル−α−メチルスチレン−メタクリル酸−六員環酸無水物)の調製
メチルメタクリレート48質量%、α−メチルスチレン6質量%、メタクリル酸6質量%、t−ブタノール40質量%、1,1−ジ−tert−ブチルパ−オキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン500ppm、n−オクチルメルカプタン200ppmからなる混合液を調製し、これを0.5L/hrの速度で連続して内容量2Lのジャケット付き、完全混合反応器に供給して、125℃の温度で重合を行った。さらに、重合液を260℃に設定した高温脱気装置へ連続して供給し、2時間滞留、脱気環化させ未反応物の除去及び六員環無水物の生成を行った。この重合体の中和滴定、IRスペクトル、C13NMRによる組成分析結果は、メタクリル酸メチル単位80質量%、α−メチルスチレン単位11質量%、式2で表される六員環化合物単位6質量%、メタクリル酸単位3質量%であった。得られた共重合体のメルトフローレート値(ASTM−D1238;230℃、3.8kg荷重)は、1.9g/10分であり、Tg=132℃であった。
【0055】
(III)ポリスチレン(PS)
比較例に用いるポリスチレンとして、PSジャパン(株)製GPPSを用いた。
(IV)ポリメタクリル酸メチル(PMMA)
比較例に用いるポリメタクリル酸メチルとして、旭化成ケミカルズ(株)製80N(メルトフローレート値(ASTM−D1238準拠):2.0g/10分、屈折率:1.49)のポリマーペレットを用いた。
(V)トリアセチルセルロース(TAC)フィルム
比較例3の光学フィルムとして、トリアセチルセルロースフィルム(富士写真フィルム株式会社製トリアセチルセルロースフィルム(80μm))を用いた。
(VI)シクロオレフィン系(COP)フィルム
比較例4の光学フィルムとして、シクロオレフィン系フィルム(日本ゼオン株式会社製のゼオノアフィルム(ZF−14))を用いた。
【0056】
〔実施例1、2、比較例1〜4〕
テクノベル製Tダイ装着押出機(KZW15TW−25MG−NH型,幅150mmTダイ装着,リップ厚0.5mm)のホッパーに(I)〜(IV)の各樹脂ペレットを投入し、押出機のシリンダー内樹脂温度、Tダイの温度を調整し、押出成形をすることにより実施例1、2、比較例1、2の原反フィルムを得た。各原反フィルムを構成する共重合体の組成、各原反フィルムのTg、及び押出し成形条件を、下記表1に示す。
なお、比較例3、4は、上記のように市販品を使用した。
【0057】
各原反フィルムの、25℃、40℃、60℃、80℃、100℃における光弾性係数、及び、|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|(CR100℃:100℃における光弾性係数、CR25℃:25℃における光弾性係数)の値を下記表1に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1、2、比較例1〜4のいずれにおいても、フィルムの膜厚を100μm以下にとして特性評価を行った。
実施例1、2のフィルムは、25℃における光弾性係数の絶対値が5.0×10-12/Pa未満、|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|で定義される値が0.6未満であり、常温における光弾性係数の絶対値が小さく、光弾性係数の温度依存性も小さかった。
また、耐折強度については、実施例1、2はいずれも0.5以上の値が得られ、光学補償フィルムとして、実用上の取り扱いが良好であることが分かった。
【0060】
これに対して、比較例1のスチレン単独の重合体フィルムは、25℃における光弾性係数の絶対値が大きく、|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|の値が0.6以上であって、光弾性係数の温度依存性が大きかった。
また、一般的な光学材料である比較例2のメタクリル酸メチル単独の重合体フィルムは、25℃における光弾性係数の絶対値は小さいものの、|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|の値が0.6以上であり、光弾性係数の温度依存性が大きかった。
また、比較例1、2は、いずれも上記耐折強度の値が0.5未満であり、光学補償フィルムとしての実用上、取り扱いにくいことが分かった。
さらに、別の一般的な光学材料である比較例3のトリアセチルセルロースフィルムは、Tgが高く、これにより、|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|の値は0.6未満であるものの、25℃における光弾性係数の絶対値は大きかった。
比較例4のシクロオレフィン系フィルムは、25℃における光弾性係数の絶対値は小さかったが、Tgが高いにもかかわらず、|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|の値が大きく、光弾性係数の温度依存性が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の光学フィルムは、高温加工を施すことや高温使用環境下で使用することに適しているので、例えば、ナノインプリントやTiO2蒸着といった特殊加工を施す光学フィルムや、屋外で使用されるモバイル用ゲーム機、電子ペーパー、ナビゲーションシステム等のディスプレイ装置用の光学フィルムとして、産業上の利用可能性がある。特に、夏場の車内の温度上昇は著しいため、車載用ナビゲーションシステムのディスプレイ装置学に光弾性係数の温度依存性の大きい光学フィルムを用いると、額縁光漏れ等の問題が生じるが、本発明の光弾性係数の温度依存性が小さい光学フィルムを使用すると、額縁光漏れを防止でき、視認性を維持することができる。
また、本発明の光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いられる偏光板保護フィルム、1/4波長板、1/2波長板等の位相差板、視野角制御フィルム等の液晶光学補償フィルム、ディスプレイ前面板、ディスプレイ基盤、レンズ等として、産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系化合物単位を10質量%を超えて含むアクリル−スチレン系共重合体又はこれを含む樹脂組成物よりなる光学フィルム。
【請求項2】
前記アクリル−スチレン系共重合体が、五員環化合物単位及び/又は六員環化合物単位を、合計で5〜30質量%含有する請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
前記アクリル−スチレン系共重合体が、式1で表される五員環化合物単位及び/又は式2で表される六員環化合物単位を、合計で5〜30質量%含有する請求項1に記載の光学フィルム。
【化1】

式中、R1、R2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【化2】

式中、R3、R4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基を表す。
【請求項4】
25℃における光弾性係数の絶対値が5.0×10-12[/Pa]未満で、かつ、以下の式を満たす請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学フィルム。
|(CR100℃−CR25℃)|/|CR100℃|<0.6
(式中、CR25℃は25℃における光弾性係数であり、CR100℃は100℃における光弾性係数である。)
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルムからなる偏光板保護フィルム。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルムからなる位相差フィルム。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学フィルムからなる車載用ナビゲーションシステムのディスプレイ装置用光学フィルム。

【公開番号】特開2009−3445(P2009−3445A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134284(P2008−134284)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】