説明

光情報記録媒体用記録層、及び光情報記録媒体

【課題】記録特性の優れた光情報記録媒体用記録層、およびその記録層を備えた光情報記録媒体を提供すること。
【解決手段】レーザー光の照射により記録が行われる記録層であって、Mn酸化物を含み、前記記録層に含まれる酸化物を構成する全金属元素中に占めるMnの原子比が80原子%以下であると共に、金属Mnを含まないことに要旨を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光情報記録媒体用の記録層、及び光情報記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光情報記録媒体(光ディスク)は、CD、DVD、BDといった光ディスクに代表され、記録再生方式により、再生専用型、追記型および書換え型の3種類に大別される。このうち追記型の光ディスクの記録方式は、主に、記録層を相変化させる相変化方式、複数の記録層を反応させる層間反応方式、記録層を構成する化合物を分解させる分解方式、記録層に孔やピットなどの記録マークを局所的に形成させる孔開け方式に大別される。
【0003】
前記相変化方式では、記録層の結晶化による光学特性の変化を利用した材料が、記録層の材料として提案されている。例えば特許文献1では、Te−O−M(Mは金属元素、半金属元素及び半導体元素から選ばれる少なくとも1種の元素)を含む記録層が提案され、特許文献2ではSbおよびTeを含む記録層が提案されている。
【0004】
前記層間反応方式の光情報記録媒体の記録層としては、例えば特許文献3に、第一記録層をIn−O−(Ni、Mn、Mo)を含む合金からなるものとし、かつ第二記録層をSe及び/又はTe元素、O(酸素)、及びTi、Pd、Zrの中から選ばれた一つの元素を含む合金からなるものとした記録層が提案されている。また特許文献4では、第一記録層:In主成分とする金属、第二記録層:5B族または6B族に属する少なくとも1種類の元素を含む、酸化物以外の金属あるいは非金属を積層して、加熱による反応または合金化により記録を行うことが提案されている。
【0005】
前記記録層を構成する化合物を分解する分解方式の記録層として、例えば特許文献5には、窒化物を主成分とした記録層が示されており、該窒化物を加熱により分解することで記録を行う材料や、有機色素材料が検討されている。
【0006】
前記孔開け方式の記録層としては、低融点金属材料からなるものが検討されている。例えば特許文献6では、Sn合金に3B族、4B族、5B族の元素を添加した合金からなるものが提案されている。また特許文献7では、Niおよび/またはCoを1〜50原子%の範囲で含有するSn基合金からなる記録層が提案されている。更に特許文献8には、Coを20〜65原子%含有するIn合金、さらにこれにSn、Bi、Ge、Siから選ばれる1種類以上の元素を19原子%以下含有するIn合金からなる記録層が示されている。また特許文献9には、Pd、Ag、Oからなり、これらPd、Ag、Oの原子数の比率が所定範囲内に制御された記録層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−135568号公報
【特許文献2】特開2003−331461号公報
【特許文献3】特開2003−326848号公報
【特許文献4】特許第3499724号公報
【特許文献5】国際公開第2003/101750号パンフレット
【特許文献6】特開2002−225433号公報
【特許文献7】特開2007−196683号公報
【特許文献8】特許第4110194号公報
【特許文献9】特開2005−238516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光情報記録媒体に求められる要求特性には、書き込みレーザー光の入射によって、記録信号が再生に十分な信号振幅を有すること(高変調度であること)、および信号強度が高いこと(高C/N比であること)や、劣化や環境劣化が生じ難い高い耐久性が求められる。C/N比とは、Carrier to Noise ratioの意味で、読み取り時の信号とバックグラウンドのノイズ出力レベルの比である。
【0009】
上記従来技術として開示されている記録材料は、これらの要求特性を記録材料単体で満たすことが難しかった。
【0010】
相変化方式では、記録層単独での反射率が低いため、光ディスク状態での反射率を高めるべく反射膜が必要であり、かつ変調度を増加させるため、記録層の上下にZnS−SiO2などの誘電体層(誘電膜)を設ける必要があり、光ディスクを構成する層数が多くなり、生産性が悪かった。層間反応方式でも複数の記録層が必要であることから、光ディスクを構成する層数が多くなり、生産性が悪かった。
【0011】
分解方式では、記録層として、有機色素材料を用いた光情報記録媒体が広く用いられているが、青色レーザーや青紫色レーザーのような短波長(400nm付近)の可視光線を吸収しにくいため、良好な記録情報が得られず、記録密度を向上させることができなかった。また有機色素材料を用いた光情報記録媒体は、日光などの光による劣化や長期保存による劣化を抑制することは困難であった。
【0012】
これに対し前記孔開け方式は、記録層自体の反射率が高く、且つ、大きな変調度も確保できるため、光ディスクを構成する層の数を低減できるが、より高い記録感度を達成するにあたっては、更なる検討が必要である。
【0013】
本発明はこの様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、光ディスクの層数を低減しながら上記要求特性を満たして、光情報記録媒体の生産性を高めることのできる光情報記録媒体用記録層と、該記録層を備えた光情報記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決し得た本発明は、レーザー光の照射により記録が行われる記録層であって、Mn酸化物を含み、前記記録層に含まれる酸化物を構成する全金属元素中に占めるMnの原子比が80原子%以下であると共に、金属Mnを含まないことに要旨を有する光情報記録媒体用記録層である。
【0015】
更に、In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含むことも好ましい実施態様である。
【0016】
本発明は、上記光情報記録媒体用記録層を備えている点に特徴を有する光情報記録媒体も含まれる。
【0017】
更に、前記光情報記録媒体用記録層の上および/または下に誘電体層が積層されたものである光情報記録媒体も本発明の好ましい実施形態である。
【0018】
本発明の前記光記録情報媒体は、金属層を含まないことが好ましい。
【0019】
また前記光情報記録媒体は、複数の前記光情報記録媒体用記録層を有すると共に、前記複数の光情報記録媒体用記録層の層間に透明中間層を有することも好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、実用的な記録レーザーパワーでの記録感度に優れた光情報記録媒体用記録層(特に、追記型光情報記録媒体用記録層)、および該記録層を備えた光情報記録媒体(特に、追記型光情報記録媒体)を提供することができる。
【0021】
尚、本明細書において、「記録感度に優れる」とは、後記する実施例の欄で詳述する通り、記録層へのレーザー光(書き込みレーザー光)の照射によって、比較的低い記録レーザーパワー、おおむね5〜15mWであっても、高いC/N比および高変調度を実現できることを意味する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1で作製した光情報記録媒体の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、書き込みレーザー光の照射によって記録感度に優れた追記型光情報記録媒体用記録層を実現すべく鋭意検討を行った。その結果、従来の記録層とは異なる材料、すなわち、Mn酸化物を含む記録層か、好ましくは、Mn酸化物と;In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物と、を含む記録層を用いれば、所期の目的が達成されることを見出した。上記記録層にレーザー光を照射すると、Mn酸化物がレーザー光により加熱され、分解して酸素(O2ガス)を放出し、レーザー照射された部分に気泡が生成するようになる。その結果、膜形状が変化し、マークが形成される。このようなレーザー照射に伴う気泡生成による不可逆的な記録方式を用いれば、従来よりも記録感度が高められることを見出し、本発明を完成した。
【0024】
本発明の記録層による記録方式では、レーザー照射前の記録層の構造はアモルファスであり、レーザー照射後もアモルファスである点で、アモルファスがレーザー照射により結晶に変化することを利用した相変化方式と相違する。
【0025】
本発明の記録層が記録感度に優れている理由として、レーザー照射により気泡が発生し、マーク形成が行われた部分では、気泡の発生していない部分(すなわち、マークを形成していない部分)と比べて透過率が増加(即ち、反射率が低下)することで、変調度を大きくすることができたと考えられる。
【0026】
また、本発明のようにMn酸化物を記録層中に含有することにより、Mn酸化物を含有しない記録層と比較して、膜の光吸収率を大きくすることができるため、書き込み光のレーザーのエネルギーを効率よく熱エネルギーへと変換することができる。更に本発明では、記録層に含まれる酸化物を構成する全金属元素(好ましくは、Mnと;In、Zn、Sn、およびCuよりなる群から選択される少なくとも一種の元素)中に占めるMn量の比(原子比)を適切に制御しているため、記録に必要なレーザーパワーを制御することもできる。その結果、本発明によれば、実用的な記録レーザーのパワー(おおむね、5〜15mW)で上記酸化Mnの分解が促進されて、記録感度を向上させることができる。
【0027】
なお、本発明の記録層は、金属Mnを含まない。これは金属Mnが記録層に含まれていると、金属Mnの酸化や分解が進行してしまい、耐久性が低下するからである。したがって、本発明の記録層は、金属Mnを含まないとすることで、記録層の環境劣化による長期信頼性低下を抑制できる。本発明者らの検討結果によれば、上記Mn量の比(原子比)を適切に制御しているため、後記する実施例に示すように、良好な特性が得られた。
【0028】
以下、本発明に係る記録層の構成を詳細に説明する。本明細書では、説明の便宜上、In、Zn、Sn、およびCuよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を、X群元素と呼ぶ場合がある。
【0029】
前述したように本発明の記録層は、レーザー光の照射により記録が行われる記録層であって、Mn酸化物を含むところに特徴がある。好ましくは本発明の記録層は、Mn酸化物と;In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含んでいる。上記したように記録層には、金属Mnを含まない。
【0030】
本発明の記録層はMn酸化物を含む。Mn酸化物の形態は通常存在し得るものであれば特に限定されない。Mn酸化物としては、MnO、Mn34、Mn23、MnO2などのようにMnと酸素(O)とから構成される酸化物のほか、上記記録層に含まれ得る他の元素(X群元素=In、Zn、Sn、Cuの少なくとも一種)との複合酸化物(X−Mnx−Oy)が挙げられる。
【0031】
本発明の記録層には上記Mn酸化物を含むと共に、記録層に含まれる酸化物を構成する全金属元素中に占めるMnの原子比が80原子%以下であることが必要である。Mnが80原子%を超えて含まれていると、レーザー照射による気泡が良好に形成されず、記録信号が得られない。
【0032】
本発明の記録層は、Mn酸化物の他に、In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含んでいても良い。これらの酸化物は、膜屈折率の制御や、記録感度(変調度やC/N比)の制御に有用である。In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物の形態も通常存在し得るものであれば特に限定されず、例えば、In酸化物について、In23など、Zn酸化物について、ZnOなど、Sn酸化物について、SnOもしくはSnO2など、Cu酸化物について、CuO、Cu2Oなどが例示される。本発明では上記酸化物の少なくとも一種を含んでいればよく、In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物をそれぞれ単独で含有しても良いし、2種以上の酸化物を含有してもよい。これらのうち好ましい酸化物はIn酸化物である。
【0033】
なお、記録層中に上記選択酸化物であるIn酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、Cu酸化物を含むときは、これらの金属元素(すなわち、金属In、金属Zn、金属Sn、金属Cu)は含まないことが望ましい。これらの金属元素は、他の酸化物から酸素を奪って酸化することがあるが、そのような場合、記録層の特性に影響を及ぼすからである。
【0034】
記録感度に優れた記録層を得るためには、本発明の記録層を構成する酸化物(Mn酸化物と;好ましくはIn酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物)を構成する金属元素(Mnと、X群元素)中に占めるMn量の原子比(下式で表わされる、以下、「Mn比」と略記する場合がある。)が、10原子%以上であることが好ましい。
【0035】
Mn量(原子%)
={[Mn]/([Mn]+[In]+[Zn]+[Sn]+[Cu])}×100
式中、[Mn]、[In]、[Zn]、[Sn]、および[Cu]はそれぞれ、
本発明の記録層に含まれるMn量(原子%)、In量(原子%)、
Zn量(原子%)、Sn量(原子%)、Cu量(原子%)を意味する。
なお、記録層中にIn、Zn、Sn、Cuを含まないときは、それぞれ0原子%
として計算する。
【0036】
ここで、Mn比が10原子%未満になると、レーザー照射時に分解する酸化Mnが少ないため、放出される酸素量が十分でなく、生成する気泡が少なくなり、結果として信号強度(C/N比)が小さくなる。また記録層が2層以上存在する多層光ディスクでは、レーザー入射面から最も遠い記録層はある程度の透過率が要求される。Mn比が10原子%未満になると記録層の光吸収率も小さくなるため、記録に必要なレーザーパワーが大きくなり好ましくない。Mn比は、好ましくは10原子%以上、より好ましくは12原子%以上、更に好ましくは15原子%以上である。
【0037】
ところで、Mn比は酸化Mnが多いと変調度が小さくなるため、80原子%以下、好ましくは70原子%以下、より好ましくは60原子%以下である。
【0038】
本発明の記録層は、上記の通りMn酸化物を含み、作製時に不可避的に混入する不可避的不純物が含まれ得る。また好ましくは本発明の記録層は、Mn酸化物と;In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物とを含み、作製時に不可避的に混入する不可避的不純物が含まれ得る。
【0039】
上記記録層の好ましい膜厚は、記録層の上および/または下に誘電体層等の他の層を挿入する場合と、これら他の層を有しない場合とで相違する。光情報記録媒体の構造によっても相違するが、主に記録層を単層で使用する場合(誘電体層を設けない場合)には、記録層の膜厚を10〜60nmとすることが好ましい。記録層の膜厚が薄すぎると、分解されるMn量が少なくなるため、記録による十分な反射率変化が得られにくいからである。より好ましくは20nm以上、特に好ましくは30nm以上である。一方、記録層の膜厚が厚すぎると、膜の形成に時間がかかり、生産性が低下すると共に、記録に必要なレーザーパワーが大きくなる。より好ましくは50nm以下、更に好ましくは45nm以下である。また記録層の上および/または下に誘電体層を設ける場合には、記録層の膜厚を2〜50nmとすることが好ましく、より好ましくは3nm以上、更に好ましくは5nm以上、より更に好ましくは10nm以上であって、より好ましくは40nm以下、更に好ましくは15nm以下である。
【0040】
本発明の記録層は、上記の通り、Mn酸化物(特定の割合のMn)を含み、好ましくは、Mn酸化物と;In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含むものであるが、この様な形態の記録層を得るには、スパッタリング法で記録層を形成することが好ましい。スパッタリング法によれば、ディスク面内での膜厚分布均一性も確保できるため好ましい。
【0041】
上記酸化物を含む記録層をスパッタリング法で形成するには、反応性スパッタリングを行い、スパッタリング条件としてガス流量を調整して行なうことが好ましい。特に、Ar(アルゴン)流量に対する酸素流量の比を0.5倍以上とすることが好ましく、より好ましくは1.0倍以上である。また、Ar流量に対する酸素流量の比は5.0倍以下であることが好ましい。スパッタリング法におけるその他の条件は特に限定されず、汎用される方法を採用することができ、ガス圧を例えば0.1〜1.0Paの範囲、スパッタ電力を例えば0.5〜20W/cm2の範囲に制御すれば良い。
【0042】
前記スパッタリング法で用いるスパッタリングターゲット(以下、単に「ターゲット」ということがある)としては、Mn酸化物を含み、残部:不可避的不純物であるターゲットが挙げられる。
【0043】
好ましいターゲットは、(A)Mn酸化物と;In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含み、残部:不可避的不純物であるターゲットである。あるいは上記(A)のターゲットの代わりに、(B)Mn金属ターゲットと;In、Zn、Sn、およびCuよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する金属ターゲットと、を用い、これらを同時放電させて多元スパッタリングを行っても良い。更に(C)金属と酸化物の混合ターゲットを用いてもよい。金属元素は、酸素を導入することによって酸化物となる。
【0044】
上記(A)〜(C)のスパッタリングターゲットに含まれるMn原子と;In原子、Zn原子、Sn原子、およびCu原子よりなる群から選択される少なくとも一種の原子(実際に含まれている原子)の合計に対するMn原子の比率が10〜80原子%であるスパッタリングターゲットを用いることもできる。
【0045】
なお、上記(A)及び(C)のスパッタリングターゲットとしては、特に、Mnの金属粉末またはMn酸化物の粉末と;In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物または金属の粉末を混合し、焼結させたものを用いることが、生産性や形成された薄膜の組成の面内均一性や厚み制御の点で好ましい。上記スパッタリングターゲットの製造に当たり、微量ながら不純物がスパッタリングターゲット中に混入することがある。しかし、本発明のスパッタリングターゲットの成分組成は、それら不可避に混入してくる微量成分まで規定するものではなく、本発明の上記特性が阻害されない限り、それら不可避不純物の微量混入は許容される。
【0046】
本発明の光情報記録媒体は、上記記録層を備えている点に特徴を有しており、Mnの酸化物が分解して発生するO2ガスの効果によってマークが形成される。
【0047】
本発明では、上記記録層以外の構成は特に限定されず、光情報記録媒体の分野に公知の構成を採用することができる。
【0048】
本発明の光情報記録媒体は、上記記録層、更には記録層の上および/または下(少なくとも片面)に誘電体層を積層したものを備えることにより、従来、反射率を向上させるために必要とされていた金属層(Ag、Au、Cu、Al、Ni、Cr、Ti等の金属の層やそれらの合金の層)の形成を省略することができる。上記した様に本発明の記録層は、高い反射率、変化率を有しているため、特に反射層を設けなくても十分に信号再生が可能である。
【0049】
また上記記録層の上および/または下に誘電体層を設けることによって、信号強度を高めることができ、信号特性を更に改善できる。これはレーザー照射によって記録層が分解されて発生した酸素の逃散を防止することで、反射率の低下を抑制でき、記録層として必要な反射率を確保できるからである。
【0050】
上記誘電体層の種類としては公知のものが挙げられ、例えば、Si、Al、In、Zn、Zr、Ti、Nb、Ta、Cr、Snなどの酸化物、Si、Al、In、Ge、Cr、Nb、Mo、Tiなどの窒化物、Zn硫化物、Cr、Si、Al、Ti、Zr、Taなどの炭化物、Mg、Ca、Laなどのフッ化物、或いはそれらの混合物などが例示される。生産性や記録感度の向上などを考慮すると、In23の使用が好ましい。
【0051】
上記誘電体層の膜厚は、おおむね、2〜30nmであることが好ましい。誘電体層の膜厚が薄すぎると、発生したO2ガスのカバー性が十分でなく記録感度が低下する。一方、誘電体層の膜厚が厚すぎると、光の干渉により、積層膜(記録層+誘電体層)全体として吸収が低下するため、必要となる書き込みレーザーパワーが高くなると共に、マーク形成時の形態変化(気泡の生成)が起こり難くなるため、記録感度が低下する。このような事情を考慮すると、誘電体層を記録層の下層(レーザー非入射側)に設けるときの好ましい膜厚は、おおむね、3〜15nmであり、記録層の上層(レーザー入射側)に設けるときの好ましい膜厚は、おおむね、2〜30nmである。
【0052】
また、光情報記録媒体(光ディスク)として、その構造が、レーザーのガイド用の溝が刻まれた基板上に記録層が積層され、更にその上に光透過層を積層したものが挙げられる。
【0053】
例えば、前記基板の素材としては、ポリカーボネート樹脂、ノルボルネン系樹脂、環状オレフィン系共重合体、非晶質ポリオレフィンなどが挙げられる。また、前記光透過層としては、ポリカーボネートや紫外線硬化樹脂を用いることができる。光透過層の材質としては記録再生を行うレーザーに対して高い透過率を持ち、光吸収率が小さいことが好ましい。前記基板の厚さは、例えば0.5〜1.2mmとすることが挙げられる。また前記光透過層の厚さは、例えば0.1〜1.2mmとすることが挙げられる。
【0054】
本発明の記録層は記録特性に優れているが、記録層の耐久性向上または記録特性の更なる向上のため、記録層の上層および/または下層に、酸化物層、窒化物層、硫化物層などを設けてもよい。これらの層を積層することにより、記録層の耐久性を改善できると共に、記録特性をさらに高めることができる。
【0055】
なお、上記では、記録層および光透過層がそれぞれ1層ずつ形成された1層光ディスクを示しているが、これに限定されず、記録層および光透過層が複数積層された2層以上の光ディスクであってもよい。
【0056】
前記2層以上の光ディスクの場合、記録層と必要に応じて積層される光学調整層や誘電体層からなる記録層群と別の記録層群との間に、例えば紫外線硬化樹脂またはポリカーボネートなどの透明樹脂等からなる透明中間層を有していてもよい。透明中間層を設けることによって、多層記録のために深方向にレーザーの焦点をすることができる。
【0057】
本発明の特徴は、前述した記録層、好ましくは記録層の上および/または下に誘電体層を設けた積層膜を採用した点にあり、記録層以外の基板や光透過層、更には、透明中間層などの形成方法については特に限定されず、通常行われている方法で形成して、光情報記録媒体を製造すればよい。
【0058】
光情報記録媒体としてCD、DVD、またはBDが挙げられ、例えば波長が約380nmから450nm、好ましくは約405nmの青色レーザー光を記録層に照射し、データの記録および再生を行うことが可能なBD−Rが具体例として挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
本実施例では、Mn酸化物と、In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、及びCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種から構成される記録層を用い、記録層に含まれるMn元素の比率やX群元素との組み合わせが、記録特性などに及ぼす影響を調べた。
【0061】
(1)光ディスクの作製
本実施例に用いた光ディスクの構成の概略模式図を図1に示す。図1に示すように、光ディスクは、ポリカーボネート基板1の上に誘電体層2、Mn酸化物含有記録層3、誘電体層4、光透過層5が順次積層された構造を有している。
【0062】
上記光ディスクの作製方法は以下のとおりである。
【0063】
ディスク基板として、ポリカーボネート基板1(厚さ:1.1mm、直径:120mm、トラックピッチ:0.32μm、溝深さ:約25nm)を用い、基板1の上に、DCマグネトロンスパッタリング法により、表1記載の下側誘電体層2、表1に示すようにMn比の異なる記録層3、表1記載の上側誘電体層4を順次形成した。記録層3の膜厚は40nmとし、記録層の上・下にそれぞれ積層された誘電体層2、4の厚さは、上・下ともに10nmである。
【0064】
記録層形成のためのスパッタリングは、以下のようにして行なった。このときのスパッタリング条件は、Ar流量:10sccm、かつ酸素流量:10sccm、ガス圧:0.2Pa、DCスパッタリングパワー:100〜200W、基板温度:室温とした。
【0065】
表1のNo.1、2について、純Mnターゲットを使用した。
表1のNo.3〜7について、純Mnと純Cuの2種類のターゲットを利用し、多元スパッタ法により成膜することによってMn比を変化させた。同様に表1のNo.8〜12、15、16については、純Mnと純Inの2種類のターゲット、No.13については、純Mnと純Snの2種類のターゲット、No.14については、純Mnと純Znの2種類のターゲットを利用した。
【0066】
誘電体層2、4には、スパッタリングターゲットを用い、Ar流量:10sccm、かつ酸素流量:10sccm、ガス圧:0.2Pa、DCスパッタリングパワー:100〜200W、基板温度:室温とし、表1の成分組成の誘電体層を形成した(スパッタリングターゲットは表1の成分組成となる公知のものであって、No.2、4〜14はIn、No.15はSnO、No.16はZnO)。
【0067】
次いで、誘電体層4の上に、紫外線硬化性樹脂(日本化薬社製「BRD−864」)をスピンコートした後、紫外線を照射して膜厚約0.1mmの光透過層を成膜し、光ディスクを得た。
【0068】
記録層の成分組成は、上記と同一条件で記録層単層膜(誘電体層なし)を成膜し、当該記録層単層膜についてICP発光分析法を用いて分析を行なった。
【0069】
(XPS分析)
表1の各試料について、記録層中に含まれるMn及びIn、Zn、Sn、Cu等の状態をXPS法により分析した。具体的には、physical Electronics社製X線光電子分光装置Quantera SXMを用い、最表面の広域光電子スペクトルによる定性分析を実施した。その後、Arスパッタにより表面から深さ方向にエッチングし、一定深さ毎に膜の構成元素と最表面で検出された元素の狭域光電子スペクトルを測定した。各深さで得られた狭域光電子スペクトルの面積強度比と相対感度係数から深さ方向組成分布(原子%)を算出した。また、各元素のモンタージュスペクトルのピーク位置から結合状態を推定した。その結果、No.3〜16の各試料について、記録層中にMnやX群原子が金属として存在していないことを確認した(記録層3はNo.1、2を除き、全てMn酸化物を含み、金属Mnを含んでおらず、更にNo.3〜16はX群元素の酸化物を含むものである)。
【0070】
誘電体層2、4についても上記と同様に分析を行った。
【0071】
(2)光ディスクの評価
作製した光ディスクの初期記録特性(記録レーザーのパワー、C/N比、変調度)を、以下のように評価した。
【0072】
まず、パルステック工業社製「ODU−1000」)の光ディスク評価装置(記録レーザー中心波長:405nm、NA(開口数):0.85)を用いて再生・記録レーザーを照射し、光ディスクの読込、記録を行った。線速度は4.92m/sとして評価した。
【0073】
変調度(C/N比が最大となる点での変調度)について、横河電機株式会社製デジタルオシロスコープ「DL1640」を用いて記録部分の最大反射率と最小反射率を測定し、下式に基づいて算出した。
変調度(比)=(最大反射率−最小反射率)/(最大反射率)
【0074】
C/N比について、ADVANTEST社製R3131Aスペクトラム・アナライザーを用いて、最も高いC/N比が得られる記録パワーを測定した。詳細には、0.60μmのマーク(Blu−ray Diskの8Tに相当)を繰り返し記録し、再生レーザーパワー0.3mWでの信号読み取り時の4.12MHz周波数成分の信号強度(キャリアC/dB)と、その前後の周波数成分の信号強度(ノイズ N/dB)を測定し、C/N比を算出した。
【0075】
これらの結果を表1に併記する。表1には、最も高いC/N比が得られた時点での記録レーザーのパワー(記録パワー)と、当該最も高いC/N比を記載している。
【0076】
本実施例では、変調度(比)が0.4以上、C/N比が43以上のものを記録感度に優れているとした。
【0077】
【表1】

【0078】
表1より次のように考察できる。まず、本発明の規定を満たすNo.4〜16の記録層は変調度、及びC/N比の両方が良好であった。すなわち、良好な記録特性を発揮することが確認された。
【0079】
No.1、2は記録層が酸化Mnのみで(100%)構成されている比較例であって、No.2は記録層の上下に誘電体層を設けた例である。そしてNo.1、2ではいずれも記録できなかったため、C/N比、変調度について測定できなかった。
【0080】
また、No.3は誘電体層を形成しない例であり、一方、No.4〜16は、記録層の上下に誘電体層を形成した例である。No.3に対して誘電体層を形成したNo.5では、C/N比が向上し、変調度も4倍程度向上した。よって、記録層の上下に誘電体層を設けることにより、より高い変調度が得られることがわかった。その理由は、記録レーザー光が入力してMn酸化物が分解される際、誘電体層中に発生したO2を閉じ込めることにより、形態変化によるマーク形成がし易くなるためと考えられる。
【0081】
また、記録層の組成をMn酸化物とIn酸化物ではなく、Mn酸化物と、SnまたはZnの酸化物の記録層(No.13、14)を用いたときも、Mn酸化物とIn酸化物を含む記録層(No.10)と同様に、良好な変調度、及びC/N比が得られた。またSn酸化物、Zn酸化物の誘電体層(No.15、16)を用いたときも、No.10(In酸化物の誘電体層)と同様に、良好な変調度、及びC/N比が得られた。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
2、4 誘電体層
3 記録層
5 光透過層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光の照射により記録が行われる記録層であって、
Mn酸化物を含み、前記記録層に含まれる酸化物を構成する全金属元素中に占めるMnの原子比が80原子%以下であると共に、金属Mnを含まないことを特徴とする光情報記録媒体用記録層。
【請求項2】
更に、In酸化物、Zn酸化物、Sn酸化物、およびCu酸化物よりなる群から選択される少なくとも一種の酸化物を含むものである請求項1に記載の光情報記録媒体用記録層。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光情報記録媒体用記録層を備えていることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項4】
前記光情報記録媒体用記録層の上および/または下に誘電体層が積層されたものである請求項3に記載の光情報記録媒体。
【請求項5】
前記光記録情報媒体は金属層を含まないものである請求項3または4に記載の光情報記録媒体。
【請求項6】
前記光情報記録媒体は複数の前記光情報記録媒体用記録層を有すると共に、前記複数の光情報記録媒体用記録層の層間に透明中間層を有するものである請求項3〜5のいずれかに記載の光情報記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2012−139876(P2012−139876A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293266(P2010−293266)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】