説明

光情報記録媒体

【課題】トラッキングに用いるための凹部を有する層での記録再生光の反射を抑制することができる光情報記録媒体を提供する。
【解決手段】光情報記録媒体10は、複数の記録層11と、当該複数の記録層11の間に設けられる中間層12とを備えている。光情報記録媒体10は、記録再生光(光)の入射側から見て、複数の記録層11よりも奥側の任意の層(基板13)にトラッキングに用いるための凹部13Aを有している。凹部13Aの深さDは、記録再生光の波長をλ、当該凹部13A内に満たされた層(中間層12N)の屈折率をnとして、λ/4nである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の記録層と、複数の記録層の間に設けられた中間層とを備える光情報記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多層に情報を記録するため、複数の記録層と、複数の記録層の間に設けられた中間層とを備える光情報記録媒体が研究されている。このような光情報記録媒体として、特許文献1には、基板にガイドトラック(トラッキングに用いるための凹部)を有するガイド面を形成し、このガイド面の上にスペーサ層(中間層)や記録層を設けた構成が記載されている。また、特許文献1には、トラッキングと記録再生を異なる光(ガイドビームと走査ビーム)で行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−293659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたような構成の光情報記録媒体に対し、トラッキングと記録再生を異なる光で行う場合、記録層を通過した記録再生光の一部が、トラッキング光と同様に、ガイド面で反射する可能性があった。ガイド面で反射した記録再生光は、再生の対象とする記録層で反射した記録再生光や、ガイド面で反射したトラッキング光などと干渉するおそれがある。例えば、ガイド面で反射した記録再生光が、再生の対象とする記録層で反射した記録再生光と干渉すると、再生信号にノイズを発生させるおそれがある。
【0005】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、トラッキングに用いるための凹部を有する層からの記録再生光の反射を抑制することができる光情報記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した目的を達成するための本発明は、複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、記録再生光の入射側から見て、前記複数の記録層よりも奥側の任意の層にトラッキングに用いるための凹部を有し、前記凹部の深さは、記録再生光の波長をλ、当該凹部内に満たされた層の屈折率をnとして、λ/4nであることを特徴とする。
【0007】
このような光情報記録媒体によれば、凹部の深さが、記録再生光の波長をλ、当該凹部内に満たされた層の屈折率をnとして、λ/4nであるので、凹部の底面で反射した記録再生光は、前記任意の層(凹部を有する層)の表面(凸面)で反射した記録再生光に対して、位相がλ/2ずれることとなる。その結果、凹部の底面で反射した記録再生光と、凹部を有する層の凸面で反射した記録再生光とは、互いに打ち消し合うことになるので、結果として、凹部を有する層からの記録再生光の反射を抑制することが可能となる。
【0008】
ここで、記録再生光とは、光情報記録媒体に情報を記録するときに照射される記録光と、光情報記録媒体に記録された情報を再生する(読み出す)ときに照射される再生光の少なくとも一方を指すものとする。
【0009】
前記した光情報記録媒体は、前記凹部による凹凸表面を覆うように設けられ、トラッキング光を反射する反射層を備えていてもよい。
【0010】
これによれば、トラッキング光を良好に反射させることができる。なお、念のために述べておくと、本発明において、記録再生光の波長とトラッキング光の波長は互いに異なっている。
【0011】
また、前記した各光情報記録媒体は、前記凹部を有する層と当該凹部を有する層に最も近い記録層との間に設けられ、記録再生光の吸収率がトラッキング光の吸収率よりも大きい吸収層を備えていてもよい。
【0012】
これによれば、凹部を有する層に最も近い記録層を通過して凹部を有する層に向かう記録再生光や、凹部を有する層で反射した記録再生光を吸収して低減することができるので、凹部を有する層から記録再生光の入射側への記録再生光の戻りを抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、トラッキングに用いるための凹部の深さが、記録再生光の波長をλ、当該凹部内に満たされた層の屈折率をnとして、λ/4nであるので、凹部を有する層からの記録再生光の反射を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係る光情報記録媒体の構成を示す図である。
【図2】凹部の深さと戻り光量およびプッシュプルとの関係を示すグラフである。
【図3】第2実施形態に係る光情報記録媒体の構成を示す図である。
【図4】変形例に係る光情報記録媒体の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
次に、本発明の第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、光情報記録媒体10は、複数の記録層11と、複数の中間層12と、基板13と、反射層14と、カバー層15とを主に備えて構成されている。
【0016】
記録層11は、情報が光学的に記録される感光材料を含む層であり、所定の間隔をあけて複数設けられている。本発明において、記録層11の材料は、多層の光情報記録媒体10に適する限り特に限定されない。例えば、記録層11の材料は、記録光の照射により、屈折率、光吸収率、蛍光強度、中間層12との界面の形状などが変化するものを用いることができる。具体的には、例えば、記録光を1光子吸収または多光子吸収する色素と、当該色素が分散され、色素が記録光を吸収することで発生する熱により屈折率や形状などが変化するバインダー(樹脂)とを含む材料を用いることができる。
【0017】
記録層11の厚さは、特に限定されないが、記録層11の層数をなるべく多くするため、5μm以下であるのが望ましい。また、記録層11の層数は、2層以上であれば特に限定されないが、光情報記録媒体10の記憶容量を大きくするためには層数は多い方が望ましく、例えば、10層以上であるのが望ましい。
【0018】
中間層12は、複数の記録層11(記録層11と記録層11)の間、および、記録再生光の入射側(図1の上側)から見て最も奥側に設けられた記録層11(11N)と基板13(反射層14)の間にそれぞれ設けられている。この中間層12は、複数の記録層11の間で層間クロストーク(隣接する記録層11間の信号の混じり合い)が生じないように、記録層11間の間隔を所定量あけるために設けられている。
【0019】
本発明において、中間層12の材料は、記録再生光の照射により変化しない材料であれば、多層の光情報記録媒体10に適する限り特に限定されない。また、中間層12の材料は、記録再生光やトラッキング光(トラッキング用の照射光)の損失を最小限にするため、記録再生光やトラッキング光に対して透明であることが望ましい。ここでの透明とは、記録再生光やトラッキング光の吸収率が1%以下であることをいう。
【0020】
中間層12の厚さは、特に限定されないが、少なくとも複数の記録層11の間に設けられた中間層12の厚さは、層間クロストークを防止するため、3μm以上であるのが望ましい。
【0021】
基板13は、記録層11や中間層12を支持するための支持体であり、記録再生光(光)の入射側から見て最も奥側に設けられている。本実施形態において、基板13は、ポリカーボネートなどの樹脂から形成されており、円板状をなしている。
【0022】
基板13の記録再生光の入射側の面(図示上側の面)には、溝やピット(穴)などからなる、トラッキングに用いるための凹部13Aが形成されている。さらに述べると、凹部13Aは、基板13を平面視して渦巻き状に形成されている。このような凹部13Aを有する本実施形態の基板13は、記録再生光の入射側から見て、複数の記録層11よりも奥側に設けられた任意の層(凹部を有する層)の一例である。なお、本実施形態において、トラッキングに用いるための凹部13A(溝やピット)は、基板13にのみ形成されており、各記録層11などには形成されていない。
【0023】
また、基板13には、凹部13Aによる凹凸表面を覆うように反射層14が、スパッタリングなどの公知の方法により設けられている。
【0024】
反射層14が設けられた基板13の凹部13Aの深さDは、記録再生光の波長をλ、当該凹部13A内に満たされた層、具体的には、基板13(反射層14)に隣接する中間層12Nの屈折率をnとして、λ/4nである。一例として、記録再生光の波長を405nm、中間層12Nの屈折率を1.5とすれば、凹部13Aの深さDは、67.5nmである。
【0025】
凹部13Aは、公知の方法、例えば、基板13となる樹脂板の成形時に、基板13に形成される凹凸面の形状を反転させた凹凸面を有するスタンパを型に用いて、凹凸面を転写することなどにより形成することができる。また、凹部13Aの深さDは、例えば、前記したスタンパをエッチングなどで成形する場合は、スタンパ成形時のエッチング時間を変えることで調整することができる。
【0026】
基板13の厚さは、記録層11や中間層12などを十分な強度で支持しつつ、前記したような凹部13Aを形成可能な厚さであれば特に限定されないが、例えば、100μm以上であるのが望ましい。
【0027】
反射層14は、トラッキング光を反射するための層であり、基板13の凹凸表面に蒸着されたアルミニウムの薄膜などからなる。このような反射層14を有することで、トラッキング光を良好に反射させることができる。
【0028】
カバー層15は、記録層11や中間層12を保護するための層であり、記録再生光やトラッキング光を透過可能な材料から形成されている。このカバー層15は、数十μm〜数mmの適宜な厚さで設けられる。
【0029】
以上説明した光情報記録媒体10によれば、凹部13Aの深さDが、記録再生光の波長をλ、中間層12Nの屈折率をnとして、λ/4nであるので、凹部13Aの底面(グルーブ)で反射した記録再生光は、基板13の凸面(ランド)で反射した記録再生光に対して、位相がλ/2ずれることとなる。その結果、グルーブで反射した記録再生光と、ランドで反射した記録再生光とは、互いに打ち消し合うことになるので、結果として、基板13からの記録再生光の反射を抑制することができる。
【0030】
例えば、記録再生光の波長λを405nm、トラッキング光の波長λ’を660nm、中間層12Nの屈折率nを1.5としたとき、図2に示すように、記録再生光の戻り光量(戻り光量405nm)は、凹部13Aの深さDがλ/4n、すなわち、67.5nmのとき、ほぼ0となるので、基板13からの記録再生光の反射が抑制されていることがわかる。ちなみに、同様の原理で、トラッキング光の戻り光量(戻り光量660nm)は、凹部の深さがλ’/4n(=110nm)のとき、ほぼ0となっている。
【0031】
このように、凹部13Aの深さDがλ/4nであることで、基板13からの記録再生光の反射を抑制することができるので、基板13で反射した記録再生光が、再生の対象とする記録層11で反射した記録再生光や、基板13(反射層14)で反射したトラッキング光などと干渉することを抑制できる。その結果、例えば、再生信号のノイズを低減させることができるので、再生信号の品質を向上させることが可能となる。
【0032】
なお、図2に示す、トラッキング光のプッシュプル(プッシュプル660nm)は、トラッキング光の凹部13Aによる回折光を2分割のフォトディテクタで検出したときの各フォトディテクタの検出出力の差信号であり、この値(絶対値)が大きいほどトラッキング制御が容易であることを意味している。そして、通常、トラッキングに用いるための溝やピットの深さは、プッシュプルの強度(絶対値)が大きくなるように設定することが望ましい。
【0033】
図2において、プッシュプルの強度が最大となるのは、凹部の深さが55nm(=λ’/8n)のときであるが、本発明では、凹部13Aの深さDは67.5nm(=λ/4n)に設定されることとなる。深さDが67.5nmのとき、プッシュプルの強度は、深さが55nmのときよりも若干小さくなるが、プッシュプル自体は得られるので、トラッキング制御を行う上で問題はない。
【0034】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態では、前記した第1実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付して、その説明を省略することとする。
【0035】
図3に示すように、本実施形態の光情報記録媒体10は、基板13(凹部13Aを有する層)と基板13に最も近い記録層11Nとの間に吸収層16を備えている。
【0036】
吸収層16は、記録再生光の吸収率がトラッキング光の吸収率よりも大きい材料から形成されている。一例として、記録再生光の波長を405nm、トラッキング光の波長を660nmとして、吸収層16は、波長405nmの吸光度が0.5以上であり、波長660nmの吸光度が0.1以下である色素を含む材料から形成することができる。なお、405nm付近に吸収ピークを有し、660nmに吸収を持たない色素としては、例えば、Kayaset Yellow 2G(日本化薬株式会社製)やVALIFAST Yellow 1101(オリエント化学工業株式会社製)などを挙げることができる。
【0037】
このような吸収層16を設けることで、記録層11Nを通過して基板13に向かう記録再生光や、基板13で反射した記録再生光を吸収して低減することができるので、基板13から記録再生光の入射側(カバー層15側)への記録再生光の戻りを抑制することができる。
【0038】
なお、本実施形態では、吸収層16を帯状に設けたが、本発明はこれに限定されず、例えば、図1に示した構成において、中間層12Nの代わりに、吸収層を凹部13A内を満たすように設けてもよい。この場合、凹部13Aの深さD(=λ/4n)を規定する屈折率nは、吸収層の屈折率となる。また、吸収層を反射層14(基板13)の凹凸形状に沿って凹凸状に設けてもよい。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。具体的な構成については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0040】
前記実施形態では、凹部13Aによる凹凸表面(基板13)に反射層14を設けたが、本発明はこれに限定されず、例えば、前記実施形態の基板13など、凹部を有する層自身が高い反射率を有する材質であれば、反射層を設けない構成としてもよい。また、反射層を設けずに、凹部を有する層と、凹部を有する層の凹凸表面に隣接する層との屈折率差を大きくしてもよい。
【0041】
前記実施形態では、凹部を有する層として、基板13を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図4に示すように、記録層11Nと凹部を有しない基板13の間に、凹部を有する層(サーボ信号層17)を別に設けてもよい。
【0042】
なお、前記実施形態では、基板13(凹部を有する層)の記録再生光の入射側の面(上面)に溝やピットを形成し、この溝やピットを本発明でいうところの「凹部」としたが、これに限定されるものではない。例えば、図4に示すように、基板13とは別に凹部を有する層(サーボ信号層17)を備える構成においては、サーボ信号層17の記録再生光の入射側の面とは反対側の面(下面)に溝17Bを形成してもよい。この場合、上側から入射される記録再生光にとっては、サーボ信号層17の下面で下側に向けて突出する凸部17Cの内側が、本発明でいうところの「凹部」(凹部17A)となる。このとき、凹部17Aの深さD(=λ/4n)を規定する屈折率nは、凹部17A内に満たされた層、すなわち、サーボ信号層17の屈折率となる。
【0043】
前記実施形態では、凹部を有する層(基板13)の凸面(表面)に隣接する層と、凹部内に満たされた層とが同一の層(中間層12N)であったが、本発明はこれに限定されず、異なる層であってもよい。この場合、凹部の深さ(=λ/4n)を規定する屈折率nは、凹部内に満たされた層の屈折率となる。
【0044】
前記実施形態では、樹脂から形成された基板13を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、ガラスや金属、半導体などから形成されていてもよい。
【0045】
前記実施形態では、記録層11の上にカバー層15を形成したが、本発明はこれに限定されず、例えば、中間層12の上にカバー層15を形成してもよい。
【符号の説明】
【0046】
10 光情報記録媒体
11 記録層
11N 記録層
12 中間層
12N 中間層
13 基板
13A 凹部
14 反射層
15 カバー層
16 吸収層
D 深さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録層と、当該複数の記録層の間に設けられる中間層とを備えた光情報記録媒体であって、
記録再生光の入射側から見て、前記複数の記録層よりも奥側の任意の層にトラッキングに用いるための凹部を有し、
前記凹部の深さは、記録再生光の波長をλ、当該凹部内に満たされた層の屈折率をnとして、λ/4nであることを特徴とする光情報記録媒体。
【請求項2】
前記凹部による凹凸表面を覆うように設けられ、トラッキング光を反射する反射層を備えたことを特徴とする請求項1に記載の光情報記録媒体。
【請求項3】
前記凹部を有する層と当該凹部を有する層に最も近い記録層との間に設けられ、記録再生光の吸収率がトラッキング光の吸収率よりも大きい吸収層を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光情報記録媒体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−64285(P2012−64285A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−209489(P2010−209489)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】