説明

光断層画像取得装置製造方法

【課題】測定期間中に周辺温度の変動があった場合にも対象物の正確な光断層画像を容易に取得することができる光断層画像取得装置を製造する方法を提供する。
【解決手段】光断層画像取得装置1は、OCTに拠って対象物2の光断層画像を取得するものであって、光源部11、干渉部12、参照光学系13、反射体14、照射光学系15、レンズ16、検出部17および解析部18を備える。本発明の光断層画像取得装置製造方法は、このような光断層画像取得装置1を製造する際に、一本の光ファイバから各々所定長の第1光ファイバおよび第2光ファイバを切り出し、参照光学系13において光を導く光導波路として第1光ファイバを用いるとともに、照射光学系15において光を導く光導波路として第2光ファイバを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光断層画像取得装置を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光コヒーレンストモグラフィ(Optical CoherenceTomography: OCT)に拠る光断層画像取得技術は、光の干渉を用いて対象物の深さ方向の反射量分布を測定することができる。この光断層画像取得技術は、高い空間分解能で対象物の内部の構造を画像化することができることから、近年では生体計測に応用されている。
【0003】
OCTに拠る光断層画像取得装置は、可干渉距離が短い低コヒーレンス光源部(例えばSLD(スーパールミネッセンスダイオード)など)を用い、この光源部から出力される光を干渉部(例えばビームスプリッタ)において2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、第1分岐光を反射体に照射したときに該反射体での反射の際にドップラー周波数シフトを与えられて生じる反射光と、第2分岐光を対象物に照射したときに該対象物で生じる拡散反射光とを干渉部において干渉させ、当該干渉光のヘテロダインビート信号のパワーを検出部により検出し、この検出結果を解析することで対象物の深さ方向の反射情報分布を得る。また、この光断層画像取得装置は、対象物への光照射位置を走査することで、対象物の断層画像を取得することができる。
【0004】
特許文献1に記載されているように、光断層画像取得装置において、第1分岐光および反射光を導く光導波路として第1光ファイバが用いられ、また、第2分岐光および拡散反射光を導く光導波路として第2光ファイバが用いられる場合が多い。
【0005】
検出部から出力される信号Iは下記(1)式で表される。ここで、ωは光周波数である。ωは中心周波数である。S(ω)は、光源部から出力される光のパワースペクトルである。β(ω)は、光ファイバの伝搬定数である。lは、干渉部と対象物との間の照射光学系の光路長である。lは、干渉部と反射体との間の参照光学系の光路長である。この式から判るように、検出部からの出力信号Iは光路長差(l−l)に依存する。
【0006】
【数1】

【0007】
中心周波数ω付近の光周波数ωの光が光ファイバを伝搬する際の伝搬時間δtは下記(2)式で表される。ここで、vは群速度であり、Lはファイバ長である。光ファイバは、光周波数ωによって実効屈折率が異なるので、光周波数ωによって伝搬時間δtが異なる。また、この伝搬時間δtの温度依存性は、光ファイバの伝搬定数βおよびファイバ長Lそれぞれの温度依存性に起因しており、更には、光ファイバの組成や屈折率プロファイルなどの物理特性に依存する。測定期間中に周辺温度の変動があったときに、これに起因して第1光ファイバと第2光ファイバとの間の光路長差(l−l)が変化すると、正確な光断層画像を取得することができない。
【0008】
【数2】

【0009】
そこで、特許文献1に記載された光断層画像取得装置は、第1光ファイバおよび第2光ファイバの周辺温度を測定して、周辺温度の変化に起因して生じる第1光ファイバと第2光ファイバとの間の光路長差の変化を温度測定結果に基づいて補償する。これにより、ヒータやペルチェ素子等の温度制御機器を用いて装置本体の温度を一定に制御することを必要とせず、測定期間中に周辺温度の変動があった場合にも対象物の正確な光断層画像を取得することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−17466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に記載された光断層画像取得装置は、装置全体の温度を一定に制御するための温度制御機器を備える必要がないので、この点では装置の大型化が抑えられ安価に製造され得る。しかし、周辺温度の変化に起因して生じる第1光ファイバと第2光ファイバとの間の光路長差の変化を温度測定結果に基づいて補償することから、その補償のための機構や制御が必要となる。
【0012】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、測定期間中に周辺温度の変動があった場合にも対象物の正確な光断層画像を容易に取得することができる光断層画像取得装置を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光断層画像取得装置製造方法により製造されるべき光断層画像取得装置は、光源部から出力される光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、参照光学系により第1分岐光を反射体に照射するとともに当該照射に伴う反射体からの反射光を受光し、照射光学系により第2分岐光を対象物に照射するとともに当該照射に伴う対象物からの拡散反射光を受光し、これら反射光と拡散反射光とを互いに干渉させて当該干渉光を検出し、この検出の結果を解析して対象物の光断層画像を取得する。本発明の光断層画像取得装置製造方法は、このような光断層画像取得装置を製造する際に、一本の光ファイバから第1光ファイバおよび第2光ファイバを切り出し、参照光学系において第1分岐光および反射光を導く光導波路として第1光ファイバを用いるとともに、照射光学系において第2分岐光および拡散反射光を導く光導波路として第2光ファイバを用いることを特徴とする。
【0014】
本発明の光断層画像取得装置製造方法は、前記光源部として低コヒーレンス光源を用い、参照光学系の光軸方向に反射体を移動可能として、反射体を移動させながら干渉光のパワーを検出することにより対象物の深さ方向の反射情報分布を得るタイムドメイン方式の光断層画像取得装置を製造してもよい。或いは、本発明の光断層画像取得装置製造方法は、前記光源部として広帯域光源を用い、参照光学系に対して反射体を位置固定して、干渉光のスペクトルのフーリエ変換に基づいて対象物の深さ方向の反射情報分布を得るスペクトラルドメイン方式の光断層画像取得装置を製造してもよい。或いは、本発明の光断層画像取得装置製造方法は、前記光源部として波長可変光源を用い、参照光学系に対して反射体を位置固定して、光源部の出力光の波長を掃引しながら干渉光のパワーを検出することにより得た干渉光のスペクトルのフーリエ変換に基づいて対象物の深さ方向の反射情報分布を得るスウェプトソース方式の光断層画像取得装置を製造してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定期間中に周辺温度の変動があった場合にも対象物の正確な光断層画像を容易に取得することができる光断層画像取得装置を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】光断層画像取得装置1の構成を示す図である。
【図2】本実施形態の光断層画像取得装置製造方法により製造された光断層画像取得装置の温度特性を示すグラフである。
【図3】比較例の光断層画像取得装置の温度特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、光断層画像取得装置1の構成を示す図である。光断層画像取得装置1は、OCTに拠って対象物2の光断層画像を取得するものであって、光源部11、干渉部12、参照光学系13、反射体14、照射光学系15、レンズ16、検出部17および解析部18を備える。
【0019】
干渉部12は、光源部11から出力される光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光として、第1分岐光を参照光学系13へ出力するとともに、第2分岐光を照射光学系15へ出力する。また、干渉部12は、参照光学系13を経て到達する光と照射光学系15を経て到達する光とを互いに干渉させて、当該干渉光を検出部17へ出力する。干渉部12としてビームスプリッタや光ファイバカプラ等が用いられる。
【0020】
参照光学系13は、干渉部12から出力される第1分岐光を導いて反射体14へ照射するとともに、当該照射に伴う反射体14からの反射光を干渉部12へ導く。反射体14は、干渉部12から参照光学系13を経て到達する第1分岐光を反射させる。参照光学系13において第1分岐光および反射光を導く光導波路として光ファイバが用いられる。
【0021】
照射光学系15は、干渉部12から出力される第2分岐光を導いて対象物2へ照射するとともに、当該照射に伴う対象物2からの拡散反射光を干渉部12へ導く。レンズ16は、照射光学系15と対象物2との間に設けられている。対象物2は、干渉部12から照射光学系15を経て到達する第2分岐光を深さ方向の各位置において拡散反射させる。対象物2への第2分岐光の照射位置は、深さ方向に垂直な方向に走査される。照射光学系15において第2分岐光および拡散反射光を導く光導波路として光ファイバが用いられる。
【0022】
干渉部12と反射体14との間の参照光学系13の光路長と、干渉部12と対象物2との間の照射光学系15の光路長とは互いに略等しい。また、参照光学系13で用いられる光ファイバの光路長と、照射光学系15で用いられる光ファイバの光路長とは互いに略等しい。
【0023】
検出部17は、干渉部12から出力される干渉光を検出する。解析部18は、検出部17による検出の結果を解析して対象物2の光断層画像を取得する。この求められた対象物2の光断層画像は表示部により表示される。
【0024】
この光断層画像取得装置1は、タイムドメイン(time domain)方式、スペクトラルドメイン(spectral domain)方式およびスウェプトソース(swept source)方式の何れに拠るものであってもよい。
【0025】
タイムドメイン方式の場合、光断層画像取得装置1は、光源部11として低コヒーレンス光源を用い、参照光学系13の光軸方向に反射体14を移動可能として、反射体14を移動させながら干渉光のパワーを検出部17により検出することにより、対象物2の深さ方向の反射情報分布を解析部18により得る。
【0026】
スペクトラルドメイン方式の場合、光断層画像取得装置1は、光源部11として広帯域光源を用い、参照光学系13に対して反射体14を位置固定して、干渉光のスペクトルを検出部17により検出し、この干渉光のスペクトルのフーリエ変換に基づいて対象物2の深さ方向の反射情報分布を解析部18により得る。
【0027】
スウェプトソース方式の場合、光断層画像取得装置1は、光源部11として波長可変光源を用い、参照光学系13に対して反射体14を位置固定して、光源部11の出力光の波長を掃引しながら干渉光のパワーを検出部17により検出し、これにより得た干渉光のスペクトルのフーリエ変換に基づいて対象物2の深さ方向の反射情報分布を解析部18により得る。
【0028】
本実施形態の光断層画像取得装置製造方法は、このような光断層画像取得装置1を製造する方法であって、一本の光ファイバから各々所定長の第1光ファイバおよび第2光ファイバを切り出し、参照光学系13において第1分岐光および反射光を導く光導波路として第1光ファイバを用いるとともに、照射光学系15において第2分岐光および拡散反射光を導く光導波路として第2光ファイバを用いて、光断層画像取得装置1を製造することを特徴とする。
【0029】
「一本の光ファイバ」は、軸方向に一様な構造を有する一つの光ファイバ母材を一定条件で連続的に線引することで製造されたもので、長手方向に一様な光学的特性を有する。したがって、第1光ファイバおよび第2光ファイバそれぞれの光学的特性は互いに等しく、温度変化に因る光路長変化量も互いに等しい。
【0030】
このようにして製造される光断層画像取得装置1は、測定期間中に周辺温度の変動があっても、参照光学系13と照射光学系15との間の光伝搬時間差の変動が小さいので、対象物2の正確な光断層画像を容易に取得することができる。この光断層画像取得装置1は、装置全体の温度を一定に制御するための温度制御機器が不要であるので、装置の大型化が抑えられ安価に製造され得る。また、この光断層画像取得装置1は、特許文献1に記載されたような温度補償のための機構や制御が不要である。
【0031】
図2は、本実施形態の光断層画像取得装置製造方法により製造された光断層画像取得装置の温度特性を示すグラフである。図3は、比較例の光断層画像取得装置の温度特性を示すグラフである。比較例の光断層画像取得装置を製造する際に用いた第1光ファイバおよび第2光ファイバは、一本の光ファイバから切り出されたものではなく、別個の光ファイバ母材を互いに異なる条件で線引することで製造されたものである。図2および図3は、環境温度および信号位置それぞれの経時的変化の様子を示している。
【0032】
ここでは、干渉部12,参照光学系13および照射光学系15を恒温槽内に設置し、光源11および検出部17を槽外に設置して、槽内の温度を1時間に1℃ずつ、5℃刻みで変化させて、信号位置を測定した。信号位置は、照射光学系の光路長と参照光学系の光路長とが互いに一致する位置で時間ゼロにおける位置を基準としてある。
【0033】
比較例(図3)では、温度変動があったときに、第1光ファイバと第2光ファイバとの間の光路長差が大きく変動するので、信号位置も大きく変動している。比較例(図3)と比べると、本実施形態(図2)では、温度変動があったときに、第1光ファイバと第2光ファイバとの間の光路長差の変動が小さく、参照光学系13と照射光学系15との間の光伝搬時間差の変動が小さいので、信号位置の変動が10分の1程度まで小さい。このことから、本実施形態の光断層画像取得装置製造方法により製造された光断層画像取得装置は、測定期間中に周辺温度の変動があっても、対象物2の正確な光断層画像を容易に取得することができる。
【符号の説明】
【0034】
1…光断層画像取得装置、2…対象物、11…光源部、12…干渉部、13…参照光学系、14…反射体、15…照射光学系、16…レンズ、17…検出部、18…解析部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源部から出力される光を2分岐して第1分岐光および第2分岐光とし、参照光学系により前記第1分岐光を反射体に照射するとともに当該照射に伴う前記反射体からの反射光を受光し、照射光学系により前記第2分岐光を対象物に照射するとともに当該照射に伴う前記対象物からの拡散反射光を受光し、これら反射光と拡散反射光とを互いに干渉させて当該干渉光を検出し、この検出の結果を解析して前記対象物の光断層画像を取得する光断層画像取得装置を製造する方法であって、
一本の光ファイバから第1光ファイバおよび第2光ファイバを切り出し、前記参照光学系において前記第1分岐光および前記反射光を導く光導波路として前記第1光ファイバを用いるとともに、前記照射光学系において前記第2分岐光および前記拡散反射光を導く光導波路として前記第2光ファイバを用いて、前記光断層画像取得装置を製造する、
ことを特徴とする光断層画像取得装置製造方法。
【請求項2】
前記光源部として低コヒーレンス光源を用い、前記参照光学系の光軸方向に前記反射体を移動可能として、前記反射体を移動させながら前記干渉光のパワーを検出することにより前記対象物の深さ方向の反射情報分布を得るタイムドメイン方式の光断層画像取得装置を製造する、ことを特徴とする請求項1に記載の光断層画像取得装置製造方法。
【請求項3】
前記光源部として広帯域光源を用い、前記参照光学系に対して前記反射体を位置固定して、前記干渉光のスペクトルのフーリエ変換に基づいて前記対象物の深さ方向の反射情報分布を得るスペクトラルエドメイン方式の光断層画像取得装置を製造する、ことを特徴とする請求項1に記載の光断層画像取得装置製造方法。
【請求項4】
前記光源部として波長可変光源を用い、前記参照光学系に対して前記反射体を位置固定して、前記光源部の出力光の波長を掃引しながら前記干渉光のパワーを検出することにより得た前記干渉光のスペクトルのフーリエ変換に基づいて前記対象物の深さ方向の反射情報分布を得るスウェプトソース方式の光断層画像取得装置を製造する、ことを特徴とする請求項1に記載の光断層画像取得装置製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−242163(P2012−242163A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110383(P2011−110383)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】