説明

光時分割多重化回路

【課題】波長可変連続レーザを用いずに遅延干渉計を安定化させ、多重化光信号の隣接光パルス間の位相差を安定化させる。
【解決手段】(i)光パルス信号を2つの光信号に分岐する第1ビームスプリッター5と、2つの光信号間に位相差を与える位相変調器6と、2つの光信号間に所定の遅延時間を与える遅延素子17と、2つの光信号を合成して第1及び第2出力ポート3、4に出力する第2ビームスプリッター7を備えた遅延干渉計1と、(ii)位相変調器にバイアス電圧を与える制御部11と、(iii)第1出力ポートから出力される多重化光信号のスペクトルのn次のサイドバンドを取り出す光バンドパスフィルター10を備える。制御部は、光バンドパスフィルターによって取り出された信号成分から取得した誤差信号に基いてバイアス電圧をフィードバック制御する。第2出力ポートから隣接パルス間の位相差が安定化した多重化光信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光時分割多重化回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信技術は大量の情報を高速度で伝送する技術として注目されており、その中でも、光時分割多重化技術は、大容量かつ超高速伝送を実現するものとして、波長多重化技術と共に有望視されている。
【0003】
光時分割多重化技術において使用される光時分割多重化回路の基本構造は、2つのアームに光路差を生じさせた遅延干渉計であるが、超高速通信を達成するためには、光信号に対して正確な遅延を安定して付与することによって、隣接パルス間の位相差を安定化させねばならない。しかし、光の伝播時間は環境温度等の影響によって揺らぐので、光信号に対して正確な遅延を安定的に付与することは難しかった(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そこで、本願の発明者は、遅延干渉計に、光パルスと、これと波長が異なる波長可変連続光レーザとを合成した光信号を入力し、分岐した一方の光信号の光路長を微小変動させ、それに伴う波長可変連続レーザ光に関する遅延手段の出力の変動を測定し、この出力が最大または最小となる位置、または特定の値となる位置で、出力の変動が最小になるように遅延手段の光路差を制御することによって、隣接パルス間の位相差を安定化する方法を提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、この方法は、入力光パルスとの周波数差を精密に制御した連続光レーザを使用するので、複雑かつ煩雑な作業を必要とし、かつコストが高くつくという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3508901号公報
【特許文献2】特開2009−218772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、外部に波長可変連続レーザを用いずに遅延干渉計を安定化させ、それによって、隣接光パルス間の位相差を制御し、安定化させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、(i)1つの入力ポートおよび1つまたは2つの出力ポートと、前記入力ポートに入力された光パルス信号を2つの光信号に分岐する分岐手段と、前記2つの光信号のうちの一方の光信号の光路中に配置され、前記2つの光信号の間に位相差を与える位相変調手段と、前記位相差を与えられた2つの光信号を、所定の遅延時間を与えて合成して多重化光信号とし、前記多重化光信号を前記出力ポートに出力する合成手段と、を備えた遅延干渉計と、(ii)前記遅延干渉計の前記位相変調手段にバイアス電圧を与える制御手段と、(iii)前記遅延干渉計の前記出力ポートから出力される前記多重化光信号のスペクトルのn次のサイドバンド(n=0、±1、±2、・・・)を取り出す光バンドパスフィルターと、を備え、前記制御手段が、さらに、前記光バンドパスフィルターによって取り出された信号成分から前記バイアス電圧に関する誤差信号を取得し、前記誤差信号に基づいて前記バイアス電圧をフィードバック制御することにより、前記遅延干渉計の他方の前記出力ポートから、隣接パルス間の位相差が安定化した前記多重化光信号を出力することを特徴とする光時分割多重化回路を構成したものである。
【0009】
本発明の好ましい実施例によれば、前記制御手段による前記フィードバック制御は、前記遅延干渉計の前記出力ポートから前記光バンドパスフィルターによって取り出された前記n次のサイドバンドのパワーが最大値または最小値となる位置において、前記誤差信号が0になるように前記バイアス電圧を制御することからなっている。
本発明の別の好ましい実施例によれば、前記制御手段は、所定の角周波数の電圧を発生する電源と、前記光バンドパスフィルターの出力信号を受けるフォトダイオードと、前記フォトダイオードの出力信号から前記角周波数の信号成分を取り出して出力するロックインアンプと、前記ロックインアンプの出力と前記電源の出力との差を取り出して前記位相変調手段に与える差動アンプ、または前記ロックインアンプの出力と前記電源の出力との和を取り出して前記位相変調手段に与える加算アンプと、を有している。
【0010】
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記制御手段は、前記位相変調手段に与える前記バイアス電圧にディザリングをかけるようになっている。
本発明のさらに別の好ましい実施例によれば、前記位相変調手段は、前記遅延干渉計における前記一方の光信号の光路中に配置された液晶素子からなっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光バンドパスフィルターによって、遅延干渉計の出力信号のスペクトルのn次のサイドバンドを取り出して位相安定化のための連続光を取得し、この連続光の干渉を利用してフィードバック制御することにより、外部の波長可変連続レーザを用いることなく、簡単かつ低コストで、多重化光信号の隣接パルス間の位相差を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の1実施例による光時分割多重化回路のブロック図である。
【図2】制御部によるフィードバック制御動作を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明の1実施例による光時分割多重化回路のブロック図である。図1に示すように、本発明によれば、図示されない光源から出力された光パルス信号(中心波長λ)を2つの光信号に分岐し、2つの光信号に遅延時間ΔTなる光路差を生じさせて2つの光信号の相互に遅延を与え、それらの2つの光信号を再び合成して多重化光信号を出力する遅延干渉計1が備えられる。
【0014】
遅延干渉計1は、1つの入力ポート2と、第1および第2の出力ポート3、4と、入力ポート2に入力された光パルス信号を第1および第2の分岐光信号に分岐して、第1の分岐光信号を第1の光路OP1に出射し、第2の分岐光信号を第2の光路OP2に出射する第1のビームスプリッター5を備えている。
【0015】
また、第1の光路OP1中には、第1の分岐光信号と第2の分岐光信号の間に位相差を与える位相変調器6が配置される。位相変調器6としては、公知の適当なものが使用可能であるが、この実施例では、液晶素子が使用される。位相変調器6は、制御部11によってバイアス電圧を与えられる。
【0016】
遅延干渉計1は、さらに、第2の光路OP2中に配置され、位相変調器6によって位相差を与えられた第1の分岐信号および第2の分岐光信号間に所定の遅延時間ΔTを与える遅延素子17と、遅延素子17によって遅延時間ΔTを与えられた第1および第2の分岐光信号を合成して多重化光信号とし、この多重化光信号を第1および第2の出力ポート3、4にそれぞれ出力する第2のビームスプリッター7を備えている。なお、図1中、8および9は、それぞれ、光路OP1、OP2の方向を変えるためのミラーである。
【0017】
本発明によれば、また、遅延干渉計1の第1の出力ポート3から出力される多重化光信号のスペクトルのn次のサイドバンド(n=0、±1、±2、・・・)を取り出す光バンドパスフィルター(OBPF)10が備えられる。OBPF10によって取り出された信号成分はパワーが一定の連続光であり、この連続光が、多重化光信号の隣接パルス間の位相差の制御、安定化のために利用される。
【0018】
OBPF10によって取り出された信号成分は制御部11に入力され、制御部11において、入力された信号成分から、位相変調器6のバイアス電圧に関する誤差信号が取得される。そして、制御部11は、この誤差信号に基づいてバイアス電圧をフィードバック制御し、遅延干渉計1の第2の出力ポート4から出力される多重化光信号の隣接パルス間の位相差を安定化させる。
【0019】
この実施例では、遅延干渉計1に2つの出力ポート3、4を設け、第1の出力ポート3から出力される多重化光信号からOBPF10によってフィードバック制御のための信号成分を取り出し、第2の出力ポート4から隣接パルス間の位相差を安定化した多重化光信号を出力するが、その代わりに、遅延干渉計1に単一の出力ポートを設け、この出力ポートから出力される多重化光信号の一部をハーフミラー等によって取り出し、OBPFによって濾波して、フィードバック制御のための信号成分を取り出すようにしてもよい。
【0020】
制御部11は、この実施例では、所定の角周波数ωmの電圧を発生する電源14と、OBPF10によって取り出されたn次のサイドバンドを電気信号に変換するフォトダイオード12と、フォトダイオード12の出力信号から角周波数ωmの信号成分を取り出して出力するロックインアンプ(LIA)13と、LIA13の出力と電源14の出力との差を取り出し、アンプ16を介して位相変調器6に与える差動アンプ15を有している。
【0021】
この場合、差動アンプ15の代わりに加算アンプを使用し、LIA11の出力と電源14の出力との和を取り出し、アンプ16を介して位相変調器6に与える構成としてもよい。
なお、この実施例のように、LIA13によるフィードバック制御を行う場合には、制御の精度を上げるべく、電源14から発生する電圧にディザリングをかけることが好ましい。
【0022】
制御部11の構成はこの実施例に限定されず、OBPF10によって取り出された信号成分から位相変調器6のバイアス電圧に関する誤差信号を取得し、誤差信号に基づいてバイアス電圧をフィードバック制御することにより、遅延干渉計1の第2の出力ポート4から、隣接パルス間の位相差が安定化した多重化光信号を出力することができる構成を有しておれば、どのようなものであってもよい。
【0023】
制御部11によるフィードバック制御は、遅延干渉計1の第1の出力ポート3からOBPF10によって取り出されたn次のサイドバンドのパワーが最大値または最小値となる位置において、誤差信号が0になるように、位相変調器6のバイアス電圧を制御することによってなされる。
【0024】
次に、図2を参照して、この制御部11によるフィードバック制御動作を説明する。図2は、OBPF10によって偶数次のサイドバンドを取り出した場合の、当該OBPF10によって取り出された信号成分と、遅延干渉計1の第2の出力ポート4から出力される多重化光信号との干渉状態を示すグラフである。
【0025】
図2Aのグラフにおいて、縦軸は光のパワーの大きさを表し、横軸は光路差ΔL(=ΔT×c、ただし、ΔTは遅延時間であり、cは光速度である。)を表す。また、実線で描かれた曲線は、第2の出力ポート4から出力される多重化光信号の中心波長λ成分のパワーP(λ)の変化を示し、点線で描かれた曲線は、OBPF10によって取り出された偶数次のサイドバンドのパワーP(λeven)の変化を示す。
このグラフからわかるように、曲線P(λ)と曲線P(λeven)とは互いに反転する関係となっている。
【0026】
図2Aの場合には、P(λeven)が最小となる点Bにおいて、誤差信号が0になるように制御され、第2の出力ポート4から出力される多重化光信号のパルス間位相差が安定化される。すなわち、位相変調器6のバイアス電圧が角周波数ωmが変動すると、それに伴って第1および第2の分岐光信号間の光路差が変動するが、この場合、点Bよりも光路差が少し長い点Cにおいては、光路差が減少する向きにΔLが移動するように、点Aにおいては、光路差が増大する向きにΔLが移動するように制御がなされ、誤差信号が常にゼロとなるように制御される。
このとき、第2の出力ポート4から出力される多重化光信号のλ成分のパワーは最大となり、パルス間位相差φが0であるRZクロック信号が第2の出力ポート4から出力される。
【0027】
また、図2Aのグラフにおいて、P(λeven)が最大となる位置において安定化されると、パルス間位相差φがπであるCS−RZ光クロック信号が、遅延干渉計1の第2の出力ポート4から出力される。
【0028】
図2Bのグラフは、OBPF10によって奇数次のサイドバンドを取り出した場合の、
図2Aに類似のグラフである。この場合には、曲線P(λ)と曲線P(λodd)は同相となって互いに重なり合う。そして、P(λodd)が最小となる位置において安定化されると、パルス間位相差φがπであるCS−RZ光クロック信号が、遅延干渉計1の第2の出力ポート4から出力される一方、P(λodd)が最大となる位置において安定化されると、パルス間位相差φが0であるRZ光クロック信号が、遅延干渉計1の第2の出力ポート4から出力される。
また、2ωm成分の振幅を検出してフィードバック制御した場合には、パルス間位相差φがπ/2の奇数倍に安定化される。
【符号の説明】
【0029】
1 遅延干渉計
2 入力ポート
3 第1の出力ポート
4 第2の出力ポート
5 第1のビームスプリッター
6 位相変調器
7 第2のビームスプリッター
8、9 ミラー
10 光バンドパスフィルター(OBPF)
11 制御部
12 フォトダイオード
13 ロックインアンプ(LIA)
14 電源
15 差動アンプ
16 アンプ
17 遅延素子
OP1 第1の光路
OP2 第2の光路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)1つの入力ポートおよび1つまたは2つの出力ポートと、前記入力ポートに入力された光パルス信号を2つの光信号に分岐する分岐手段と、前記2つの光信号のうちの一方の光信号の光路中に配置され、前記2つの信号間に位相差を与える位相変調手段と、前記位相差を与えられた2つの光信号を、所定の遅延時間を与えて合成して多重化光信号とし、前記多重化光信号を前記出力ポートに出力する合成手段と、を備えた遅延干渉計と、
(ii)前記遅延干渉計の前記位相変調手段にバイアス電圧を与える制御手段と、
(iii)前記遅延干渉計の前記出力ポートから出力される前記多重化光信号のスペクトルのn次のサイドバンド(n=0、±1、±2、・・・)を取り出す光バンドパスフィルターと、を備え、
前記制御手段が、さらに、前記光バンドパスフィルターによって取り出された信号成分から前記バイアス電圧に関する誤差信号を取得し、前記誤差信号に基づいて前記バイアス電圧をフィードバック制御することにより、前記遅延干渉計の他方の前記出力ポートから、隣接パルス間の位相差が安定化した前記多重化光信号を出力することを特徴とする光時分割多重化回路。
【請求項2】
前記制御手段による前記フィードバック制御は、前記遅延干渉計の前記出力ポートから前記光バンドパスフィルターによって取り出された前記n次のサイドバンドのパワーが最大値または最小値となる位置において、前記誤差信号が0になるように前記バイアス電圧を制御することからなっていることを特徴とする請求項1に記載の光時分割多重化回路。
【請求項3】
前記制御手段は、
所定の角周波数の電圧を発生する電源と、
前記光バンドパスフィルターの出力信号を受けるフォトダイオードと、
前記フォトダイオードの出力信号から前記角周波数の信号成分を取り出して出力するロックインアンプと、
前記ロックインアンプの出力と前記電源の出力との差を取り出して前記位相変調手段に与える差動アンプ、または前記ロックインアンプの出力と前記電源の出力との和を取り出して前記位相変調手段に与える加算アンプと、を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光時分割多重化回路。
【請求項4】
前記制御手段は、前記位相変調手段に与える前記バイアス電圧にディザリングをかけるようになっていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光時分割多重化回路。
【請求項5】
前記位相変調手段は、前記遅延干渉計における前記一方の光信号の光路中に配置された液晶素子からなっていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光時分割多重化回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−134898(P2012−134898A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287001(P2010−287001)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (発表1)2010年7月9日 社団法人電子情報通信学会(IEICE)主催の「15▲th▼ Opto Electronics and Communications Conference(OECC2010)」においてスライド(パワーポイント)をもって発表 (刊行物1)2010年7月22日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.110 NO.155」に発表 (刊行物2)2010年8月31日 社団法人電子情報通信学会発行の「EIC電子情報通信学会2010年ソサイエティ大会プログラム」に発表
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】