説明

光沢インクジェット記録用紙の製造方法

【課題】記録濃度等のインクジェット記録適性に優れ、光沢ある優れた外観とプリンタ給紙時の耐搬送傷性を有し、かつ生産性に優れた光沢インクジェット記録用紙を提供する。
【解決手段】紙支持体上に、又は支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、予めアルカリ性溶液を塗工する前処理工程、アミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理された非晶質シリカと、ポリビニルアルコール系樹脂、ホウ酸を含むインク定着層形成用塗液を塗工するインク定着層を形成する工程、及びアニオン性コロイダルシリカを含有する塗液を塗工後、キャスト仕上する光沢発現層を形成する工程と、を有する光沢インクジェット記録用紙の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光沢インクジェット記録用紙に関し、詳しくは記録濃度等のインクジェット記録適性に優れ、光沢ある優れた外観とプリンタ給紙時の耐搬送傷性を有し、かつ生産性に優れた光沢インクジェット記録用紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細なノズルから射出したインクの液滴を被記録用紙表面上に付着させて画像を形成させるインクジェット記録方式は、記録時の騒音が少ないこと、高速記録が可能であること、フルカラー画像の形成が容易であること及び記録コストが他の印刷方式に比べて安価であるという利点がある。このため、端末プリンタ、ファクシミリ、プロッタ、或いは帳票印刷等で広く利用されている。
近年では、インクジェットプリンタの高精細化・高速化の改良により、デジタルカメラ等による写真画像の出力を目的とする一般家庭ユーザへの普及が進んでいる。写真画像を出力されたインクジェット記録用紙の品質を銀塩方式の写真に近づけるために、インクジェット記録用紙には、優れた表面光沢・外観とともに、発色の鮮明さ、色の濃さ(深み)、精細さなど高い画質が求められる。
【0003】
インクジェット記録用紙の表面に光沢を付与する方法としては、印刷用顔料塗工紙の光沢付与する方法と同様の、塗工した塗料が乾燥してからスーパーカレンダやグロスカレンダによって表面を平滑化するカレンダ仕上げする方法や、塗工面が湿潤状態又は再湿潤状態である間に、加熱されたキャストドラムに圧接・乾燥して光沢発現するキャスト仕上げする方法が知られており、特にキャスト仕上げは、光沢を有する美しい表面を形成する方法として好適である。
【0004】
記録画像の発色性や深みを付与するには、インク定着層及び光沢発現層を透明にすることが好ましい。インク定着層には、染料定着剤としてカチオン性樹脂が一般に使用されるが、インク定着層の透明性を上げるために、分子量の小さいカチオン性樹脂を使用すると、印字耐水性が劣るという課題がある。一方、分子量の大きいカチオン性樹脂を使用すると、インク定着層の透明性が低下するという課題がある。
キャスト仕上げの塗料に広く使われる材料はアニオン性で安定なものが多いため、光沢発現層は一般的にアニオン性である。定着層にカチオン性樹脂を用いた場合、定着層の無機成分であるシリカと、有機成分であるカチオン性樹脂の結合力は弱いため、連続生産により、カチオン性樹脂がアニオン性である光沢発現層に溶出し、光沢発現層の透明性を損なわれるという問題がある。
【0005】
また、キャスト仕上げにおいては、キャストドラム等の塗工乾燥装置から記録用紙を安定して剥離させる性能、即ち離型性は重要な性能である。記録用紙がスムーズに離型せず、塗工層の一部がキャストドラム等の塗工装置上に堆積して、キャストドラムを汚染すると、連続的なキャスト仕上げができなくなる。この場合、塗工を一旦中断して塗工装置から汚れを除去する作業が必要となり生産性が著しく低下するという問題を生じる。一方、離型性が不良の場合、ドラム表面から用紙を剥離することが困難になり、甚だしい場合は用紙が破れて操業ができなくなることもある。それ故、キャスト仕上げを行う光沢発現層においては優れた離型性を実現することは重要な課題である。
【0006】
更に、離型性とは別の重要な課題に、ドラム曇りがある。キャストドラムを用いて連続的に記録用紙を製造していると、キャストドラム表面に、次第に汚れが付着して、ドラム表面に曇りを生じることがある。このドラム曇りが甚だしいと、用紙表面は清浄なキャストドラム面を写し取ることができず、用紙表面の光沢度が不安定になり光沢度が低下する。離型性とドラム曇りの解消は、必ずしも両立するものではなく異なる課題である。即ち、ドラム曇りが良好でも離型性が劣ると用紙はキャストドラムから剥がれなくなり、甚だしい場合は用紙が破れて操業できなくなることや、逆に、離型性に優れていてもドラム曇りが劣り、用紙の光沢度が低下し外観が劣ることがある。したがって、離型性とドラム曇りの両方を満足させることが重要である。離型性やドラム曇りの改善には離型剤と呼ばれる各種の材料等が使用される。印刷用のキャスト塗被紙のようにキャスト塗料がアニオン性の場合は使用可能な材料の幅が広く、公知公用の材料を適宜、組合わせてこのような課題を解決してきたが、カチオン性の場合は使用できる材料が限られており、離型剤のみの効果によって課題を解決するには困難が伴う。
【0007】
一方、インクジェットプリンタの一般家庭ユーザへの普及に伴い、プリンタの設置効率の向上が求められている。設置面積を小さくする解決策の一つとして、プリンタ下部の給紙トレイに記録面を下向きに記録用紙を置き、裏面からピックアップした該記録用紙をプリンタ内部で反転させ、記録面を上向きに送りながら印刷する給紙方法が採用されている。この給紙方式は、記録用紙がプリンタ内部で反転する様子をアルファベットの「C」の字に例えてC型給紙方式等と呼ばれることがある。これに対して、従来の、プリンタ背面からの給紙方法はJ型給紙方式等と呼称され、区別されている。
C型給紙方式のプリンタは、プリンタ内部の狭い給紙経路内で記録用紙を反転させる必要があり、この反転の際に、インクジェット記録用紙は記録面に折り割れが生じ易い。特に、光沢性を有するインクジェット記録用紙の場合には、このような搬送傷(折り割れ)が発生し易く、また目立つので問題である。
【0008】
特許文献1では、紙支持体上に、又は支持体上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、非晶質シリカ、バインダーと、該バインダーの架橋剤を有するインク定着層、及びカチオン性に修飾されたコロイダルシリカを主体とし、キャスト仕上げする光沢発現層を設けた光沢インクジェット記録用紙が記載されている。しかしながら、この光沢インクジェット記録材料はドラム曇りが発生し易く、離型性も劣るものであり、安定して記録用紙を製造することができなかった。また、C型給紙方式のプリンタで記録を行った場合、搬送傷が目立つものでもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−142748 請求項1,3,4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、鮮明な画像の印字が可能で、良好な白紙光沢性を有するとともに、プリンタ給紙時にも傷が付き難いという優れたな記録適性を具備し、なおかつ製造時においても離型性が良好で、ドラム曇りも発生せず生産性に優れた光沢インクジェット記録用紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、インク定着層と光沢発現層を有する層構成のインクジェット記録用紙で、インク定着層を形成する前に、予めアルカリ性溶液を塗工する前処理工程を設け、インク定着層はアミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理された非晶質シリカと、ポリビニルアルコール系樹脂、ホウ酸を含む塗液を用い、更に、光沢発現層には、カチオン性コロイダルシリカを用いず、アニオン性のコロイダルシリカを用いることにより、達成できることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。即ち、本発明は、
(1)透気性基材上に、又は透気性基材上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、
予めアルカリ性溶液を塗工する前処理工程、
アミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理された非晶質シリカと、ポリビニルアルコール系樹脂、ホウ酸を含むインク定着層形成用塗液を塗工するインク定着層形成工程、及び、
アニオン性コロイダルシリカを含有する塗液を塗工後、キャスト仕上げする光沢発現層形成工程と、
を有する光沢インクジェット記録用紙の製造方法。
(2)シランカップリング剤がアミノ基を有するエトキシシラン化合物である(1)記載の光沢インクジェット記録用紙の製造方法。
(3)非晶質シリカが気相法シリカである(1)又は(2)に記載の光沢インクジェット記録用紙の製造方法。
(4)アルカリ性溶液が、エタノールアミン類及び/又はアルカリ土類金属の塩を含有する、(1)〜(3)のいずれか一に記載の光沢インクジェット記録用紙の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のインクジェット記録用紙の製造方法によると、光沢を有し、鮮明な画像の印字が可能で、良好な白紙光沢性を有するとともに、プリンタ給紙時の耐搬送傷性を具備し、なおかつ製造時においても離型性が良好で、ドラム曇りも発生せず生産性に優れたインクジェット記録用紙を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<基材>
本発明の光沢インクジェット記録用紙に用いられる基材は、透気性基材であれば特に限定するものではない。透気性基材とは、製造時のキャスト仕上げの際に、湿潤状態である光沢発現層の水分が、基材を通って裏面より蒸発できる程度のものであれば使用可能である。例えば、紙基材、透気性を有する樹脂フィルム又はシート材を使用することが好ましい。中でも、優れた透気性、記録用紙としての取り扱い易さ、及び廃棄の容易さ等の面から紙基材を使用することが好ましい。紙基材としては、本発明の効果を損なわない範囲で、通常使用される公知の紙基材を用いることができ、例えば、上質紙、アート紙、コート紙、キャスト塗被紙、クラフト紙、バライタ紙、板紙、含浸紙、蒸着紙が挙げられる。
なお、透気度の目安としては、王研式透気度(日本TAPPI No.5)で10〜2000秒が好ましく、10〜1000秒がより好ましい。この透気度が10秒未満であると、インク定着層用の塗液が透気性基材(例えば紙基材)に過剰に浸透する虞があり、2000秒を超えると、キャストドラムに圧接仕上げする際に、操業性が低下する虞がある。
【0014】
〔紙基材〕
紙基材を構成する基紙(紙基材がアート紙のように塗工層を有する場合、塗工層を有さない紙部分、紙基材が塗工層を有さない場合は、紙基材そのもの)は、木材パルプを主成分とし、必要に応じて填料、各種助剤等が添加されている。木材パルプとしては、各種化学パルプ、機械パルプ、再生パルプ等を使用することができる。特に、針葉樹及び広葉樹のクラフトパルプ、或いはこれらクラフトパルプを漂白した針葉樹晒クラフトパルプ(NBKPと称す)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKPと称す)が好ましい。また、これらのパルプにおいて、その漂白工程で塩素の影響を取り除いた塩素フリーパルプ、例えば、パルプ漂白に塩素そのものを使わずに塩素化合物を使うECF(Elemental Chlorine Free)パルプ、パルプ漂白に塩素元素が一切入っていない漂白剤を用いるTCF(Total Chlorine Free)パルプ等を用いることは好ましい。
【0015】
これらのパルプは、紙力、抄紙適性等を調整するために、叩解機により叩解度を調整でき、その叩解度(フリーネス(CSF:Canadian Standard Freeness))は特に限定しないが、250〜550ml(JIS−P8121)が好ましい。
基紙に添加される填料は、例えば、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、焼成カオリン、合成ゼオライト、シリカ、酸化チタン、タルク等が好ましく用いられる。中でも軽質炭酸カルシウム、焼成カオリン、合成ゼオライトは多孔質のためインクジェットプリンタから吐出されたインク中の溶媒を吸収する能力に優れているために好ましく、その中でも、軽質炭酸カルシウムは白色度が高い基紙が得られ、インクジェット記録用紙の光沢感も高まるので好ましい。基紙の填料の含有率(灰分)は、1〜20質量%程度が好ましい。この範囲であれば、平滑度、透気度、紙力や剛性のバランスがとれ、光沢度や写像性、剛性のバランスに優れた光沢インクジェット記録用紙が得られやすくなる。
【0016】
基紙に添加される助剤としては、サイズ剤、定着剤、紙力増強剤、カチオン化剤、歩留り向上剤、染料、蛍光増白剤等が挙げられる。上記サイズ剤としては、公知のサイズ剤が、例えば、強化ロジン、アルケニル無水コハク酸等が用いられる。また、このサイズ剤の定着剤として硫酸バンド、定着歩留まり向上剤として澱粉等がサイズ剤に併用されて用いられる。なお、抄紙方法としては、酸性抄紙或いは中性抄紙、長網抄紙機或いは丸網抄紙機、単層抄き或いは多層抄きなど、適宜選択し製造できる。
【0017】
基紙には、サイズプレス処理しても良い。サイズプレスの目的は、サイズ度のコントロール、紙力の増強、平滑化等であり、サイズプレス液にはそれぞれの目的に合わせて澱粉類、ポリビニルアルコール類、サイズ剤、各種顔料等、公知公用の材料が使用される。基紙のステキヒトサイズ度(JIS−P8122)は1〜300秒程度が好ましく、4〜200秒がより好ましい。サイズ度が1秒未満であると、塗工時に皺が発生する等操業上問題となる虞があり、300秒を越えるとインク吸収性が低下する虞があり、かつ印字後のカールやコックリング(吸収ジワ)が著しくなる虞があり好ましくない。
【0018】
基紙の坪量は、特に限定されないが、20〜400g/m程度が好ましい。基紙の厚さは、特に限定されないが、用途に応じて20μm〜500μmの範囲で適宜選択される。
【0019】
〔下塗り層〕
本発明は、透気性基材上に設けられた1層のインク定着層と、そのインク定着層上に設けられ、この記録用紙の最表部を形成する光沢発現層の少なくとも2層の塗工層を有する。このインク定着層は、1層に限られず、必要に応じて2層以上設けてもよい。また、必要に応じて、透気性基材とインク定着層の間に、下塗り層を設けてもよい。
下塗り層は、インク定着層の機能を補う目的で設けることができる。例えば、インク溶媒を吸収する目的で下塗り層を設けることにより、インクの着色成分と溶媒成分をいち早く分離することができる。例えば、インク溶媒を基材に浸透させない目的で下塗り層を設けることにより、インク溶媒が紙基材への浸透することによるコックリングを防ぐことができる。勿論、インク溶媒を基材に浸透させない下塗り層上に、インク溶媒を吸収する下塗り層を積層することもできる。なお、下塗り層を設けた状態においても、透気性を有する必要があるので、樹脂のラミネート層などは除かれる。
【0020】
どちらの下塗り層においても、顔料と接着剤を含有する塗工層である。顔料としては、カオリン(含クレー)、雲母、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、非晶質シリカ(含コロイダルシリカ)、酸化アルミニウム、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等が挙げられ、単独或いは併用で用いられる。接着剤としては、インクジェット記録用紙用の公知の接着剤を使用することができ、水分散系接着剤、水溶性接着剤を単独、併用とも可能である。
【0021】
インク溶媒を吸収する目的の下塗り層の場合、顔料として、非晶質シリカ、酸化アルミニウム、アルミノシリケート、炭酸カルシウムを用いることが好ましく、特に湿式法シリカを用いることが好ましい。接着剤については、特に限定するものではないが、過剰に用いるとインク溶媒の吸収性が損なわれるため、顔料100質量部に対して7〜50質量部程度である。
一方、インク溶媒を基材に浸透させない目的の下塗り層の場合、顔料としては、雲母、カオリン(含クレー)、炭酸カルシウム、スメクタイト、合成スメクタイトなどを用いることが好ましく、特に雲母、カオリン(含むクレー)を用いることが好ましい。接着剤としては、水分散系接着剤を用いることが、インク溶媒の浸透を抑制する効果が高いので、好ましく、顔料100質量部に対して50〜500質量部程度である。
【0022】
下塗り層には、さらに、一般塗工紙の製造において使用される分散剤、増粘剤、消泡剤、帯電防止剤、防腐剤等の各種助剤が適宜添加される。また、下塗り層中に、蛍光染料、着色剤を添加することもできる。また、インク定着層のひび割れを防止するため、架橋剤を配合することもできる。
下塗り層を形成するための塗工装置としては、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、カーテンコータおよびダイコータ等の各種塗工装置が挙げられる。
【0023】
<前処理工程>
本発明は、透気性基材上に、又は透気性基材上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、
予めアルカリ性溶液を塗工する前処理工程を有する。
塗工されるアルカリ性溶液は、25℃におけるpHが9.0以上であることが好ましく、10.0以上であることがより好ましい。溶液のpHが9.0以上であると、インク定着層のひび割れ抑制効果が高くなる。なお、pHの上限は規定しないが、pHは、13.0以下であることが、溶液が容易に調整できるので好ましい。
【0024】
アルカリ性溶液の溶媒としては、水又は水に有機溶剤が少量添加された水系溶媒が挙げられる。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル等のエーテルが挙げられる。
有機溶剤を含有する場合、その含有量は20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。有機溶剤の含有量が前記上限値以下であれば、pHを容易に調整できる。
【0025】
アルカリ性溶液のpHを9.0以上にするには、上記溶媒にアルカリ性物質を添加すれば良い。アルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩、アンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のエチルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン類等が挙げられる。
アルカリ性物質の中でも、インクジェット記録用紙の白紙の保存性の点から、エタノールアミン類、アルカリ土類金属の塩が好ましく、特にエタノールアミン類はアルカリ土類金属の塩よりも水に溶けやすいため、ひび割れを防ぐ効果が優れるので好ましい。
【0026】
アルカリ性溶液には、顔料、接着剤が含まれても良い。顔料および接着剤としては、インク定着層に含まれる顔料、接着剤と同様のものを使用することができる。
アルカリ性溶液における顔料の含有量としては、インク定着層の剥離防止の点から、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち顔料を含まない)ことが特に好ましい。
アルカリ性溶液における接着剤の含有量は、アルカリ性物質や水酸イオンの定着層への移動のしやすさの点から、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%である(すなわち接着剤を含まない)ことが特に好ましい。
なお、アルカリ性溶液には、濡れ剤、消泡剤、粘度調整剤、蛍光増白剤や着色剤等の添加物を配合しても良い。
【0027】
アルカリ性溶液を塗工するための塗工装置としては、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、カーテンコータおよびダイコータ等の各種塗工装置が挙げられる。
アルカリ性溶液の乾燥固形分塗工量は0.3〜5g/m2であることが好ましく、0.5〜3g/m2であることがより好ましい。塗工量が前記下限値以上であればインク定着層のひび割れをより防止でき、塗工量が前記上限値以下であれば塗工速度の低下を防止できる。
アルカリ性溶液は塗工後、乾燥することが好ましい。アルカリ性溶液を乾燥すれば、インク定着層形成用塗液を塗工した際に、ポリビニルアルコールの架橋を支持体側から容易に進ませることができる。アルカリ性溶液を塗工した後の乾燥方法としては特に限定されず、例えば、熱風による加熱乾燥、赤外線照射(近赤外線、遠赤外線も含む)等による輻射熱乾燥等を適用できる。中でも、輻射熱により乾燥する方法は、粘度の低い溶液を均一に乾燥することができるので好ましい。
【0028】
特に、本発明において好ましく使用されるアルカリ性物質は、前記のとおりエタノールアミン類であるが、エタノールアミン類は常温で液体のため、アルカリ性溶液を塗工、乾燥した後も、使用する支持体がインク溶媒の吸収性を抑制した支持体やインク溶媒を吸収しない支持体であるから、支持体表面に液体で留まることになる。したがって、アルカリ性溶液にあまりに強い熱風を当てて乾燥すると、エタノールアミン類が支持体表面でさざなみ立った様になり、均一に塗工できなくなる場合がある。アルカリ性物質が不均一であると、その上に設けるインク定着層のひび割れも不均一となり、外観や記録適性も不均一となる虞がある。したがって、本発明において、アルカリ性溶液の乾燥には、輻射熱により乾燥を用いるのが、より好ましい。
【0029】
<インク定着層形成工程>
インク定着層形成工程では、前記前処理された透気性基材上又は下塗り層上に、アミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理された非晶質シリカと、ポリビニルアルコール系樹脂、ホウ酸を含むインク定着層形成用塗液を塗工する。
【0030】
〔非晶質シリカ〕
インク定着層用の顔料としては、カオリン(含クレー)、炭酸カルシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナ水和物、ゼオライト、セピオライト、スメクタイト、合成スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、ハイドロタルサイト、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等が例示されるが、本発明では、記録適性、光沢性に優れる非晶質シリカを使用する。
非晶質シリカとしては、気相法、湿式法(沈降法、ゲル法)、メソポーラスシリカなどが挙げられる。中でも、気相法シリカを用いることが好ましい。気相法シリカは、原料となる四塩化珪素の純度を蒸留により比較的高くすることができ、さらにクローズドシステムにより四塩化珪素を気相中で燃焼加水分解して製造可能なため、製造工程においても不純物の混入を防ぐことが可能である。このため、湿式法シリカ等と比べ、優れた透明性を得るために用いることが好ましい。インク定着層に、純度の高い気相法シリカを用いることにより、インクジェット記録用紙の光沢性が向上し、また記録すると印字濃度が高い記録像を得ることができる。
上記非晶質シリカは、アミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理したものを使用する。
【0031】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤は、水分により加水分解されてシラノールとなり、部分的に縮合してオリゴマー状態となる。続いて、非晶質シリカ表面に水素結合的に吸着し、その後、乾燥処理により、脱水縮合反応して強固な化学結合となる。
本発明で用いるシランカップリング剤は、アミノ基または4級カチオン基を含有する。これにより、インク定着剤としての機能を有し、且つ、シランカップリング剤のシラノール基により非晶質シリカを結合しているため、インクを固着し易く、インクジェット記録適性を高めることができる。
また、シランカップリング剤は、非晶質シリカと強固な化学結合するため、光沢発現層に溶出しにくく、安定して連続生産が可能である。
【0032】
シランカップリング剤としては、例えば、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−トリエトキシシリル−N−(α,γ−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−β−アミノエチル−γ−アミノプロピルトリエトキシシランの塩酸塩、オクタデシルジメチル−(γ−トリメトキシシリルプロピル)−アンモニウムクロライド等が挙げられる。中でも、非晶質シリカとの反応性が良好であることから、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく用いられ、特にアミノ基を有するエトキシシラン化合物が好ましく、とりわけγ−アミノプロピルトリエトキシシランは鮮明な画像が得られるため好ましい。これらシランカップリング剤は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
シランカップリング剤を含む水溶液のpHについて、pHを7未満に調整し、好ましくはpHを5以下に調整し、より好ましくはpHを3以下に調整する。なお、pHの下限値は、実質的に0以上とされる。pHを7未満に調整することにより、アミノ基または4級カチオン基を含有するシランカップリング剤のカチオン性が強まり、非晶質シリカとの反応性が向上する。
水溶液中のシランカップリング剤の濃度は、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。1質量%未満であると、非晶質シリカを分散し難くなり、且つインク定着能力が得られにくい。30質量%を超えると、シランカップリング剤が過剰となりインク吸収を阻害し、またコスト面でも不利である。
pHを調整する薬剤は、特に限定されるものではないが、コスト面で有利なことから、無機酸が好ましく用いられ、中でも塩酸、硝酸、硫酸(通常、0.01〜10Nの水溶液を用いる。)がより好ましく用いられる。また、pHを調整する薬剤は、製造設備の腐食防止の観点から、有機酸を用いてもよく、中でも酢酸、乳酸が好ましく用いられる。
【0034】
アミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理した非晶質シリカは、平均粒子径が10nm〜1μm程度の微細二次粒子顔料が使用でき、10nm〜800nmの微細二次粒子顔料が好ましく、10nm〜500nmの微細二次粒子顔料がより好ましく用いられる。この粒子径が10nm未満では、インク吸収性が低下するおそれがあり、1μmを超えると、インク定着層の透明性が劣り、印字濃度が著しく低下するおそれがあり、また、平滑性も損なわれるため、高い光沢性を得るために上層の光沢発現層の塗工量を多くする必要があり、結果として、インク吸収性の低下や生産性の低下に繋がるという懸念点がある。
【0035】
ここで言う平均粒子径とは、動的光散乱法に基づく装置を使用して測定した粒子径分布のメジアン径であり、本発明者らは「動的光散乱式粒径分布測定装置LB−500型(株式会社堀場製作所製)」を使用したが、測定原理が同じであれば、装置のモデルが異なっても、ほぼ同じ値が得られる。
【0036】
なお、インク定着層には、顔料としてアミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理された非晶質シリカを用いるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の顔料を併用することができる。
【0037】
〔ポリビニルアルコール系樹脂〕
ポリビニルアルコール系樹脂は、上記非晶質シリカを透気性基材又は下塗り層に接着するバインダーとして使用する。
インク定着層用の公知のバインダーとしては、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等のビニル系樹脂等の水分散系接着剤、カゼイン、大豆蛋白、ゼラチン、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、キチン、キトサン等の各種多糖類、ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、水性ポリウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂等の水溶性接着剤が知られているが、本発明はとしては、記録適性と表面強度のバランスからポリビニルアルコール系樹脂を使用する。なお、本発明の効果を阻害しない範囲で、他のバインダーを併用することもできる。
【0038】
ポリビニルアルコール系樹脂は、そのケン化度の相違により性状が異なり、目的に応じてそのケン化度を選択することが好ましい。ケン化度が95%以上、より好ましくは98%以上のポリビニルアルコールを使用すると、インク定着層の強度が強くなるとともに、塗液調製時に泡立ちなども起こらず、製造時の作業性が非常に良好である。また、ケン化度が75〜90%の部分ケン化ポリビニルアルコールを使用すると、インク定着層の可撓性に優れ、その折り割れ防止に非常に効果的である。これらケン化度の異なるポリビニルアルコールは、その目的に応じて、それぞれ単独で用いても、併用して用いても良い。
【0039】
また、上記ポリビニルアルコール系樹脂は、その重合度が3000以上であることが好ましく、3500〜5000であることが特に好ましい。重合度が3000未満であると、インク定着層の強度が弱いと共に、ひび割れが発生しやすく、かつ断裁時に紙粉が発生する虞があり、5000を超えると、十分なインク吸収性が得られにくいとともに、溶液粘度が高く塗液調整におけるハンドリング面が困難となる虞がある。
【0040】
インク定着層のポリビニルアルコール系樹脂を含むバインターの配合量は、非晶質シリカを含む顔料100質量部に対して7〜50質量部であることが好ましく、10〜40質量部であることがより好ましい。この配合量が、7質量部未満であると、塗膜強度が十分でない虞があり、50質量部を超えると、インクの吸収性を損なう虞がある。
【0041】
〔カチオン性樹脂〕
通常、インクジェット記録用紙において、インクジェット記録用インク中の染料色素を定着する作用を有し、これにより印字画像に耐水性を付与することができるカチオン性樹脂が使用される。
【0042】
カチオン性樹脂としては、例えば、(イ)ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、(ロ)第2級又は第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、又はそれらのアクリルアミドの共重合体、(ハ)ポリビニルアミン及びポリビニルアミジン類、(ニ)ジシアンジアミド−ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン性化合物、(ホ)ジシアンジアミド−ポリエチレンアミン共重合体に代表されるポリアミン系カチオン性化合物、(へ)エピクロルヒドリン−ジメチルアミン共重合体、(ト)ジアリルジメチルアンモニウム−SO重縮合体、(チ)ジアリルアミン塩−SO重縮合体、(リ)ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、(ヌ)アリルアミン塩の共重合体、(ル)ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合体、(オ)アクリルアミド−ジアリルアミン共重合体、(ワ)5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂等が挙げられる。
【0043】
本発明では、インク定着層に、顔料としてアミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理された非晶質シリカを使用しているため、カチオン性樹脂の使用は任意である。記録物の耐水性等の所望の効果を得るため、適宜カチオン性樹脂を配合することができる。
【0044】
〔ホウ酸〕
インク定着層には、前記ポリビニルアルコール系接着剤と架橋することによりインク定着層のひび割れを抑制する架橋剤を含有する。架橋剤としては、各種公知の架橋剤、ゲル化剤がある。ポリビニルアルコールに対する架橋性を有する化合物としては、グリオキザールなどのアルデヒド系架橋剤、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどのエポキシ系架橋剤、ビスビニルスルホニルメチルエーテルなどのビニル系架橋剤、ホウ酸およびホウ砂などのホウ素含有化合物、グリシジル化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物、クロム化合物等などが例示できる。
【0045】
本発明では、以下の理由で、架橋剤としてホウ酸を使用する。一般にホウ酸は、オルトホウ酸とも呼ばれている。ホウ酸(HBO)は、そのままの形ではポリビニルアルコールと反応せず、ホウ酸イオン([HBO)の形になってポリビニルアルコールと反応し、架橋する。ホウ酸は酸性領域ではホウ酸イオンにならず、アルカリの存在下でホウ酸イオンとなる。したがって、インク定着層形成用塗液にポリビニルアルコールとホウ酸を共存させても、そのままでは架橋反応を起こさず、塗液がゲル化することはない。
【0046】
本発明は、インク定着層形成用塗液を、前処理工程により設けられたアルカリ性物質を含む塗工層の上に塗工することにより、アルカリ性物質がインク定着層形成用塗液に浸透し、ホウ酸がイオン化されて活性化する。そのため、インク定着層形成用塗液を塗工した直後に速やかに架橋を開始させることができ、水分があまり蒸発していない状態のときに、ポリビニルアルコールの分子鎖同士が拘束され、体積変化が起こりにくい状態になってから多くの水分を蒸発させることができる。よって、本発明の製造方法では、乾燥時の水分蒸発に伴う体積変化を抑制できるため、歪を小さくでき、インク定着層のひび割れを防止できると考えられる。
【0047】
本発明の製造方法では、インク定着層形成用塗液中に配合したホウ酸のほぼ全量が活性化されるため、活性化されるホウ酸の量が変動しにくい。そのため、インク定着層形成用塗液に含まれるホウ酸の量のみによってインク定着層の架橋の程度を容易に調整できる。したがって、過剰な架橋や不十分な架橋を容易に防止することができる。そして、過剰な架橋を防止することでインク定着層の柔軟性を確保できるため、インクジェット記録用紙をC型給紙方式のプリンタで記録を行っても記録面に折り割れが発生し難くなる。また、不十分な架橋を防止することで、実用性の高いインク定着層になる。
【0048】
ホウ酸の含有量は、ポリビニルアルコールの重合度や乾燥条件にもよるが、対ポリビニルアルコールあたり5〜20部であることが好ましく、7〜15部であることがより好ましい。含有量が5部未満の場合、ポリビニルアルコールの架橋、ゲル化の速度が遅くなるために塗工速度を下げたり乾燥を穏やかにしたりする必要があり、生産性が劣ることとなりやすい。逆に15部を超えると架橋、ゲル化の速度が速くなり生産性には優れるがインク定着層が硬く脆くなりやすく、品質上の問題を起こす虞がある。
【0049】
〔その他添加剤〕
インク定着層には、必要に応じて分散剤、増粘剤(流動変性剤)、消泡剤、耐水化剤(印刷適性向上剤)、帯電防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、保存性改良剤、蛍光増白剤、および着色剤等の各種添加剤を適宜添加できる。また、更にインクの定着性を高め耐水性を向上させるために、単体のカチオン性化合物を配合してもよい。
【0050】
〔インク定着層の製造〕
インク定着層形成用塗液の25℃におけるpHは3.0以上であることが好ましく、かつ、5.0以下であることが好ましい。インク定着層形成用塗液のpHが前記下限値以上であれば、インク定着層形成用塗液を塗工した後、ホウ酸が活性化しやすく、より速やかにポリビニルアルコールを架橋させることができる。一方、インク定着層形成用塗液のpHが前記上限値以下であれば、塗工前のインク定着層形成用塗液に含まれるホウ酸の活性化を抑制でき、増粘を防止できるため、塗工欠陥を防ぐことができる。
インク定着層形成用塗液のpHを3.0以上、5.0以下にするためには、インク定着層形成用塗液に、水素イオン濃度に変化を与えるような成分(例えばカチオン性化合物等)の添加量を調整すれば良い。例えば、カチオン性化合物の添加量を多くする程、pHは低くなる。また、pHの低い成分の添加量を少なくするまたは添加しないことにより、pHの低下を抑制しても良い。
【0051】
インク定着層形成用塗液の乾燥固形分塗工量は2〜100g/m2であることが好ましく、5〜50g/m2であることがより好ましい。塗工量が前記下限値以上であれば、インク定着層のインク吸収性が十分なものとなり、塗工量が前記上限値以下であれば、定着層のひび割れをより防止できる。
インク定着層は、2層以上形成することもでき、このように2層以上で構成する場合は、それぞれの層を構成するシリカや接着剤は同じでも良いし、異なっていても構わない。また、同一の層内に2種類以上のシリカや接着剤を混合しても良いし、それらを組み合わせて使用しても良い。インク定着層を形成するための塗工装置としては、ブレードコータ、エアーナイフコータ、ロールコータ、バーコータ、グラビアコータ、ロッドブレードコータ、リップコータ、カーテンコータおよびダイコータ等の各種塗工装置が挙げられるが、前計量タイプのダイコータ等は用紙表面で計量されて戻ってくる塗液がないため、pH調整層に接触したインク定着層塗液との混合による不用意な増粘を心配する必要がなく、好ましい。
インク定着層形成用塗液を塗工した後の乾燥方法としては特に限定されず、例えば、熱風による加熱乾燥、赤外線照射による輻射熱乾燥等を適用できる。インク定着層形成工程により形成したインク定着層には、必要に応じて、スーパーカレンダ、ブラシ掛け等の平滑化処理を施しても良い。
【0052】
<光沢発現層形成工程>
光沢発現層形成工程では、前記インク定着層上に、アニオン性コロイダルシリカを含有する塗液を塗工後、キャスト仕上げする。
【0053】
〔アニオン性コロイダルシリカ〕
一般に、光沢発現層で使用される顔料は、コロイド状粒子を使用する。コロイド状粒子とは、水中に懸濁分散してコロイド状をなしている無機粒子或いは有機粒子を指し、コロイド状粒子を含有することにより、均一で高い光沢性を得ることができる。コロイド状粒子としてが、例えば、コロイダルシリカ、ベーマイト、擬ベーマイト等のアルミナゾルやコロイダルアルミナ、カチオン性アルミニウム酸化物又はその水和物、或いは特公昭47−26959号公報に開示されているようなコロイド状シリカ粒子表面をアルミナコーティングした粒子、等の無機粒子、ポリスチレン、メチルメタクリレート、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステル共重合体、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン等の有機粒子が挙げられる。
【0054】
本発明では、その中でもアニオン性コロイダルシリカを使用する。コロイダルシリカは屈折率が低いため高い記録濃度が得られやすく、アニオン性コロイダルシリカを用いることにより、ドラム曇りや離型性という生産性の問題を解決することができる。
コロイダルシリカの粒子径は、5〜300nm程度が好ましく、7〜100nmがより好ましい。形状は、球状、繭状、数珠状等あり、特に限定するものではなく、併用することもできる。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の顔料を併用することもできる。
【0055】
〔接着剤〕
アニオン性コロイダルシリカは、自着性能を有するものもあるので、接着剤は必ずしも必要とするものではないが、使用時の光沢発現層の剥がれ、粉落ちを防ぐため、光沢発現層中にはコロイダルシリカをインク定着層上に固定する目的で接着剤を配合することが好ましい。
光沢発現層中には、コロイド状粒子等をインク定着層上に固着させる目的で、接着剤を含有する。
接着剤としては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂等のビニル系樹脂等の水分散系接着剤、カゼイン、大豆蛋白、ゼラチン、合成蛋白等の蛋白質類、澱粉や酸化澱粉等の各種澱粉類、キチン、キトサン等の各種多糖類、ポリビニルアルコール、カチオン性ポリビニルアルコール、シリル変性ポリビニルアルコール等の変性ポリビニルアルコールを含むポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロース等のセルロース誘導体、水性ポリウレタン樹脂、水性ポリエステル樹脂等の水溶性接着剤が公知であり、使用できる。これらの中でも、ポリビニルアルコールやカゼイン、アニオン系の接着剤が、インクの吸収を阻害し難く、透明性を損なわず、高い光沢が得られやすいので好ましい。
【0056】
接着剤の配合量は、アニオン性コロイダルシリカ100質量部に対し1〜50質量部、より好ましくは10〜30質量部の範囲で調節される。接着剤の配合量が1質量部より少ないと、光沢発現層の固着力が弱くなり、塗工層の欠落が発生する虞があり、50質量部を越えると、インク吸収性が低下し、所望のインクジェット記録適性が得られなくなる虞があり、好ましくない。
【0057】
〔離型剤〕
光沢発現層は、キャスト紙上げ、即ち、光沢発現層用塗液を塗工し、該塗工面が湿潤状態にある間に、塗工面を加熱した鏡面ロールに圧接し、乾燥した後、鏡面ドラムより剥離される。塗工面と鏡面ドラムの剥離をスムーズに行なうために、塗液に離型剤を配合することが好ましい。
離型剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等の高級脂肪酸アミド、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等のポリオレフィンワックス類、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、オレイン酸カリウム、オレイン酸アンモミウム等の高級脂肪酸アルカリ塩類、レシチン、シリコーンオイル、シリコーンワックス等のシリコーン化合物、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素化合物が挙げられる。
【0058】
離型剤の配合量は、顔料100質量部に対し0.1〜50質量部、好ましくは0.3〜30質量部、より好ましくは0.5〜20質量部の範囲で調節される。ここで配合量が少ないと、離型性改善の効果が得られにくく、多いと逆に光沢が低下したり、インクのハジキや記録濃度の低下が生じたりする場合がある。
【0059】
〔その他添加剤〕
光沢発現層を形成するための塗工組成物中には、白色度、粘度、流動性等を調節するために、一般の印刷用塗工紙やインクジェット用紙に使用されている顔料、消泡剤、着色剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、防腐剤及び分散剤、増粘剤等の各種助剤が適宜添加される。
光沢発現層用塗液を塗工する方法としては、各種公知の塗工方法を採用することができ、例えば、ブレード、ブラシコータ、チャンプレックスコータ、バーコータ、グラビアコータ等の塗工装置を適宜使用するとよい。
【0060】
光沢発現層の乾燥塗工量は、光沢性や印字濃度の品質と、インク吸収性のバランスから0.1〜5g/m程度が好ましく、より好ましくは0.3〜3g/mである。このような少ない塗工量で、高い光沢性は十分得られる。乾燥塗工量が0.1g/m未満の場合、光沢性や印字濃度が十分得られず、一方、過剰な塗工量ではインク吸収性の悪化による画像鮮明性の低下や、乾燥負荷の増大による生産性の悪化等をきたす虞がある。
【0061】
〔キャスト仕上げ〕
上記光沢発現層は、上記成分を含む塗液を塗工して乾燥した後、キャスト仕上げを行なう。
一般にキャスト仕上げとは、塗工層を、鏡面を有するキャストドラム(鏡面仕上げした金属、プラスチック、ガラス等のドラム)、鏡面仕上げした金属板、プラスチックシートやフィルム、ガラス板等に圧接して乾燥し、鏡面を塗工層上に写し取ることにより、平滑で光沢のある塗工層表面を得ることである。
この中で加熱したキャストドラムを利用するキャスト仕上げにより光沢を発現させる方法は、
(イ)光沢発現層用塗液を基材上に塗工して、該塗液が湿潤状態にある間に加熱されたキャストドラムに圧接、乾燥して仕上げる方法(ウェットキャスト法)、
(ロ)基材上に塗工した最表塗工層を一旦乾燥後、その最表塗工層を再湿潤させて、加熱されたキャストドラムに圧接、乾燥して仕上げる方法(リウェットキャスト法)、
(ハ)基材上の最表塗工層をゲル化してゲル状塗工層とし、加熱されたキャストドラムに圧接、乾燥して仕上げる方法(ゲル化キャスト法)、
(二)加熱されたキャストドラムに直接最表塗工層用塗液を塗工し、乾燥させてキャストドラム上に該最表塗工層を形成した後、基材上に上記キャストドラムを圧接し、上記最表塗工層を転移させて仕上げる方法(プレキャスト法)、
が挙げられる。
これらのキャスト仕上げにおいては、加熱されたキャストドラムの温度は例えば50〜150℃、好ましくは70〜120℃である。
【0062】
更に、キャスト仕上げとして、フィルム転写方式を採用することもできる。
フィルム転写方式とは、
(イ)上記の最表塗工層用塗液を基材上に塗工して、該塗液が湿潤状態にある間に平滑なフィルムやシートを重ね、乾燥した後、平滑なフィルムやシートを剥離して仕上げる方法、
(ロ)平滑なフィルムやシート上に最表塗工層用塗液を塗工して、貼り合せようとする基材面をある程度湿潤状態にした状態で、その基材面に圧接し、乾燥した後平滑なフィルムやシートを剥離して仕上げる方法、である。
フィルム転写法に比べ、加熱したキャストドラムを用いるキャスト法のほうが、表面平滑性に優れる傾向があり、かつ生産性やコストの点で有利である場合が多い。
【0063】
キャスト仕上げは、上記いずれの方法を用いても良いが、本実施の形態のインクジェット記録用紙では、上記のインク定着層用塗液を透気性基材上又は下塗り層上に形成されたアルカリ性溶液の塗工面に塗工、乾燥し、このインク定着層上に光沢発現層用塗液を塗工した後、直ちに加熱された鏡面金属ドラムに圧接、乾燥して仕上げるウェットキャスト法を用いることが好ましい。例えば、インク定着層を形成したシートをキャストドラムに圧接する際のニップ部で光沢発現層用塗液を塗工すると、光沢発現層用塗液中の水が吸収性に富んだインク定着層に浸透する影響を防ぐことができ好ましい。このウェットキャスト法では、均一な塗工層が形成されやすく、印字濃度が高く、光沢の優れた光沢発現層が得られ易い。
【0064】
<裏面層>
本発明では、上記の光沢発現層等を設けていない基材のもう一方の面側である裏面に、写真の風合いやインクジェット記録用紙のカール防止及び搬送性などの改良のために、裏面層を設けてもよい。裏面層には、特に限定するものではないが、顔料とバインダー系(例えば、コロイダルシリカとアクリル系エマルション型バインダー等)、有機エマルジョン系(例えば、シリコーン系エマルジョン型バインダー、アクリル系エマルジョン型バインダー等)、親水性・疎水性の接着剤系(例えば、澱粉やポリビニルアルコールの塗膜)、ラミネート(例えば、ポリエチレン等)等からなるものが挙げられる。
【0065】
更に、裏面にインクジェット記録用紙や他の記録体を貼り合わせて両面記録用紙としたり、裏面に粘着剤層を形成してラベルとしたり、磁気カードやICカードの表面に貼り合わせてカードとしたりなど、公知の手段を施すことができる。
【実施例】
【0066】
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。また、以下に示す実施例及び比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り、それぞれ水を除く固形分の「質量部」及び「質量%」を示す。
【0067】
[非晶質シリカA:アミノ基を含むシランカップリング剤により処理されたもの]
平均粒子径1.0μmの気相法シリカ(日本アエロジル社製、商品名:エアロジルA300、平均一次粒子径 約8nm)を用い、ホモミキサにより分散した後、平均粒子径が50nmになるまで高速流衝突型ホモジナイザーで粉砕分散し、10質量%のシリカの水分散液を調製した。
前記10質量%水分散液100質量部に、γ−アミノプロピルメトキシシラン(信越化学(株)製、商品名:KBM−903)5部、乳酸2部を添加し、高速流衝突型ホモジナイザーで更に分散し、平均粒子径が0.10μmのシリカ−カチオン性化合物の10質量%水分散液を調製した。
【0068】
[非晶質シリカB:4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤により処理されたもの]
平均粒子径1.0μmの気相法シリカ(日本アエロジル社製、商品名:エアロジルA300、平均一次粒子径 約8nm)を用い、ホモミキサにより分散した後、平均粒子径が50nmになるまで高速流衝突型ホモジナイザーで粉砕分散し、10質量%のシリカの水分散液を調製した。
前記10質量%水分散液100質量部に、オクタデシルジメチル−γ−トリメトキシシリルアンモニウムクロライド(東レ・ダウコーニングシリコーン(株)製、商品名:AY43−021)5部、乳酸2部を添加し、高速流衝突型ホモジナイザーで更に分散し、平均粒子径が0.10μmのシリカ−カチオン性化合物の10質量%水分散液を調製した。
【0069】
[非晶質シリカC:カチオン性樹脂により処理されたもの]
平均粒子径1.0μmの気相法シリカ(日本アエロジル社製、商品名:エアロジルA300、平均一次粒子径 約8nm)を用い、ホモミキサにより分散した後、平均粒子径が50nmになるまで高速流衝突型ホモジナイザーで粉砕分散し、10質量%のシリカの水分散液を調製した。
前記10質量%水分散液100質量部に、5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂(ハイモ(株)製、商品名:ハイマックスSC700M、分子量3万)10質量部を添加し、高速流衝突型ホモジナイザーで更に分散し、平均粒子径が0.10μmのシリカ−カチオン性化合物の10質量%水分散液を調製した。
【0070】
[非晶質シリカD:カチオン性樹脂により処理されたもの]
平均粒子径1.0μmの気相法シリカ(日本アエロジル社製、商品名:エアロジルA300、平均一次粒子径 約8nm)を用い、ホモミキサにより分散した後、平均粒子径が50nmになるまで高速流衝突型ホモジナイザーで粉砕分散し、10質量%のシリカの水分散液を調製した。
前記10質量%水分散液100質量部に、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド−アクリルアミド共重合体(商品名:PAS−J−81、日東紡績(株)製)10質量部を添加し、高速流衝突型ホモジナイザーで更に分散し、平均粒子径が0.10μmのシリカ−カチオン性化合物の10質量%水分散液を調製した。
【0071】
<実施例1>
[透気性基材の製造]
木材パルプ(LBKP;ろ水度400mlCSF)100質量部、焼成カオリン(商品名:アンシレックス)5質量部、市販サイズ剤0.05質量部、硫酸バンド1.5質量部、湿潤紙力剤0.5質量部、澱粉0.75質量部よりなる製紙材料を使用し、長網抄紙機にて坪量180g/mの紙基材(透気性基材)を製造した。
【0072】
[前処理工程]
得られた紙基材に、下記アルカリ性溶液を乾燥後の塗工量が1.5g/m2となるように塗工し、IRヒーターで乾燥した。
「アルカリ性溶液の調製」
水にジエタノールアミン(キシダ化学(株)製、試薬)100部、濡れ剤(ライオン(株)製、商品名:レオックス2160C)0.2部、消泡剤(サンノプコ(株)製、商品名:ノプコ1407K)0.05部を添加・分散し、固形分濃度12%のアルカリ性溶液Aを調製した。このアルカリ性溶液のpHは10.5だった。
【0073】
[インク定着層形成工程]
下記インク定着層形成用塗液Aを乾燥後の塗工量が18g/m2となるように塗工・乾燥し、インク定着層を形成した。
【0074】
「インク定着層形成用塗液Aの調製」
前記非晶質シリカA100部に、ホウ酸(キシダ化学(株)製、試薬)を2部、接着剤としてPVA((株)クラレ製、商品名:PVA−145、重合度4500、ケン化度99%)を20部、濡れ材(花王(株)製、商品名:エマルゲン709)を0.5部、消泡剤(サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777)を0.05部を混合・攪拌し、固形分濃度12%のインク定着層形成用塗液Aを調製した。このインク定着層形成用塗液のpHは3.5だった。
【0075】
[光沢発現層形成工程]
下記光沢発現層塗液Aを、上記インク定着層面に、キャストドラムのニップ部で塗工した後、表面温度が95℃の鏡面ドラムに直ちに圧接して乾燥し、剥離させて光沢インクジェット記録用紙を作製した。このときの光沢発現層の乾燥塗工量は1g/mであった。
「光沢発現層塗液Aの調製」
水にアニオン性コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名:スノーテックス20L、平均粒子径:45nm、1次粒子)100部、接着剤としてアクリル系樹脂(ニチゴー・モビニール(株)製、商品名:モビニール5400)15部、カゼイン(日成共益(株)製、商品名:アラシッド)5部、水分散性離型剤としてポリエチレンエマルジョン(サンノプコ(株)製、商品名:ノプコートPEM−17)10部、水溶性物質としてステアリン酸アンモニウム(日新化学研究所(株)製、商品名:DEF−116T)5部を添加・混合し、固形分濃度5%の光沢発現層用塗液Aを調製した。
【0076】
実施例2
実施例1の「インク定着層形成用塗液Aの調製」において、前記非晶質シリカAを前記非晶質シリカBに変更した以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。
【0077】
実施例3
実施例1において、アルカリ性溶液のジエタノールアミンをモノエタノールアミン(キシダ化学(株)製、試薬)に変更した以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。このアルカリ性溶液のpHは11.5だった。
【0078】
実施例4
実施例1において、アルカリ性溶液のジエタノールアミンを水酸化カルシウム(キシダ化学(株)製、試薬)とし、濃度を1%に変更した以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。このアルカリ性溶液のpHは12.0だった。
【0079】
実施例5
実施例1において、アルカリ性溶液のジエタノールアミンを水酸化ナトリウム(キシダ化学(株)製、試薬)とし、濃度を1%に変更した以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。このアルカリ性溶液のpHは12.5だった。
【0080】
比較例1
実施例1において、「前処理工程」を省略した以外は、実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。
【0081】
比較例2
実施例1の「インク定着層形成用塗液Aの調製」において、前記非晶質シリカAに代えて前記非晶質シリカCを用いた以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。
【0082】
比較例3
実施例1の「インク定着層形成用塗液Aの調製」において、前記非晶質シリカAに代えて前記非晶質シリカDを用いた以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。
【0083】
比較例4
下記の光沢発現層形成工程を用いた以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。
[光沢発現層形成工程]
下記光沢発現層塗液Bを、上記インク定着層面に、キャストドラムのニップ部で塗工した後、表面温度が95℃の鏡面ドラムに直ちに圧接して乾燥し、剥離させて光沢インクジェット記録用紙を作製した。このときの光沢発現層の乾燥塗工量は1g/mであった。
「光沢発現層塗液Bの調製」
水にカチオン性コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名:スノーテックスAKL、平均粒子径45nm、1次粒子)100部、接着剤としてカチオン性ウレタン系樹脂(第一工業製薬(株)製、商品名:スーパーフレックス650)15部、水分散性離型剤としてカチオン性ポリエチレンエマルジョン(センカ(株)製、商品名:ソフェールC)15部、を添加・混合し、固形分濃度5%の光沢発現層用塗液Bを調製した。
【0084】
比較例5
下記の光沢発現層形成工程を用いた以外は実施例1と同様にして光沢インクジェット記録用紙を作製した。
[光沢発現層形成工程]
下記光沢発現層塗液Cを、上記インク定着層面に、エアーナイフコータで塗工し、乾燥した後、表面温度が95℃のカレンダー装置でカレンダー処理して光沢インクジェット記録用紙を作製した。このときの光沢発現層の乾燥塗工量は1g/mであった。
「光沢発現層塗液Cの調製」
水にアニオン性コロイダルシリカ(日産化学(株)製、商品名:スノーテックス20L、平均粒子径45nm、1次粒子)100部、接着剤としてアクリル系樹脂(ニチゴー・モビニール(株)製、商品名:モビニール5400)15部、カゼイン(日成共益(株)製、商品名:アラシッド)5部を添加・混合し、固形分濃度5%の光沢発現層用塗液Cを調製した。
【0085】
比較例6
実施例1と同様にして、支持体を得、下記硼砂液を乾燥後の塗工量が1.5g/m2となるように塗工し、IRヒーターで乾燥し、更に、下記インク定着層形成用塗液Bを乾燥後の塗工量が18g/m2となるように塗工・乾燥し、インク定着層を形成した。次いで、実施例1と同様にして光沢発現層を形成し、光沢インクジェット記録用紙を作製した。
「硼砂液の調製」
水に硼砂(シオノギ製薬(株)製、商品名:硼砂)100部と濡れ剤(ライオン(株)製、商品名:レオックス2160C)0.05部を混合・攪拌し、固形分濃度4%の架橋剤溶液を調製した。この塗液のpHは12.0だった。
「インク定着層形成用塗液Bの調製」
非晶質シリカA100部に、接着剤としてPVA((株)クラレ製、商品名:PVA−145、重合度4500、ケン化度99%)10部、消泡剤(サンノプコ(株)製、商品名:SNデフォーマー777)0.1部を混合・攪拌し、固形分濃度12%のインク定着層塗液を調製した。
【0086】
<評価方法>
光沢インクジェット記録用紙の記録画像の鮮明性、プリンタ給紙時の耐傷性、光沢性、及び生産性について、下記に示す方法で評価し、その結果を表1に示した。
なお、記録画像の鮮明性の評価は、記録画像の色濃度を測定することにより行った。
インクジェットプリンタには、CANON社製、商標:iP−4200、印字モード:光沢紙、標準、マッチングしないモードを用いた。
【0087】
「記録画像の鮮明性(印字濃度)」
光沢インクジェット記録用紙に黒色インクでベタ印字し、その色濃度をマクベス反射濃度計(モデル:Gretag Macbeth RD−19、マクベス社製)で測定した。
【0088】
「プリンタ給紙時の耐傷性(耐折り割れ性)」
光沢インクジェット記録用紙をプリンタiP4200下部の給紙トレイに印刷面を下向きにセットし、プリンタ内部で記録用紙を回転させて印刷面を上向きにしてから印刷する給紙方法(C型給紙)により、記録用紙全面に、黒ベタでの印字を行った後、印字部表面の傷を目視で観察した。
5:折り割れは全く見られない。
4:折り割れは少し見られるが、実用上問題ないレベル。
3:折り割れがやや多いが、実用上問題ないレベル。
2:折り割れが多く、実用上問題のあるレベル。
1:折り割れが非常に多く、実用に耐えないレベル。
【0089】
「光沢度」
20度鏡面光沢度の評価は、記録用紙表面を、JIS−P8741に準拠して、村上色彩技術研究所製デジタル光沢計(GM−26D)を用い、入反射角度20度で測定した。
【0090】
「ドラム曇り」
光沢インクジェット記録用紙の最表層を塗工・凝固処理した後、表面温度95℃に加熱したキャストドラムに圧着し、10秒後にキャストドラムからインクジェット記録用紙を剥がし、鏡面表面にインクジェット記録用紙の塗工層の残留があるかどうかを下記の基準で評価した。
5:ドラム表面に残留物は全く無い。
4:ドラム表面に残留物はほとんど無い。
3:ドラム表面に残留物がやや認められるが、通常に生産できる。
2:ドラム表面に残留物が多く見られる。
1:ドラム表面に残留物が極めて多く付着し、ドラム表面の光沢が失われている。
【0091】
「離型性」
光沢インクジェット記録用紙の光沢発現層を塗工・凝固処理した後、表面温度95℃に加熱したキャストドラムに圧着し、10秒後にキャストドラムから光沢インクジェット記録用紙を剥がす速度でキャストコーターを運転し、1,000m塗工して離型の様子を観察し、下記の基準で評価した。
5:離型はまったく問題なく、極めて順調に操業できた。
4:離型はやや強制的にドラム表面から剥離する状態だったが、順調に操業できた。
3:離型は強制的にドラム表面から剥離する状態だったが、用紙表面に対するダメージなく操業できた。
2:離型は強制的にドラム表面から剥離する状態であり、用紙表面に対する若干のダメージが認められた。
1:ドラム表面から塗工層が剥離せずにドラム表面に残る、いわゆるドラムピックが発生し、1,000mの操業ができなかった。
【0092】
【表1】

【0093】
表1から明らかなように、本実施例の光沢インクジェット記録用紙は記録濃度が高く、プリンタのC型給紙時の折り割れが生じにくく、生産性にも優れている。これに対し、比較例は、いずれかの評価項目で少なくとも実用上問題となるレベルと評価されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、生産性に優れた光沢タイプのインクジェット記録用紙を提供するものであり、例えば、写真画質の記録を行うインク吐出の早い染料インク系インクジェットプリンタや顔料インク系インクジェットプリンタの出力用紙として利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透気性基材上に、又は透気性基材上に形成された少なくとも1層の下塗り層上に、
予めアルカリ性溶液を塗工する前処理工程、
アミノ基又は4級アンモニウム基を含むシランカップリング剤で処理された非晶質シリカと、ポリビニルアルコール系樹脂、ホウ酸を含むインク定着層形成用塗液を塗工するインク定着層形成工程、及び、
アニオン性コロイダルシリカを含有する塗液を塗工後、キャスト仕上げする光沢発現層形成工程と、
を有する光沢インクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項2】
シランカップリング剤がアミノ基を有するエトキシシラン化合物である請求項1記載の光沢インクジェット記録用紙の製造方法。
【請求項3】
非晶質シリカが気相法シリカである請求項1又は2に記載の光沢インクジェット記録用紙の製造方法
【請求項4】
アルカリ性溶液が、エタノールアミン類及び/又はアルカリ土類金属の塩を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光沢インクジェット記録用紙の製造方法。

【公開番号】特開2012−200891(P2012−200891A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64779(P2011−64779)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】