説明

光測定用ウェルおよび光測定システム

【課題】 簡易な構造で極めて高い効率で検体から発生した蛍光を集光可能な光測定用ウェル等を提供する。
【解決手段】 ウェル1は、コア3およびクラッド5からなる光ファイバにより構成される。光ファイバとしては、例えばプラスチックファイバを用いることができる。光の照射側である端面には、穴7が設けられる。穴7は、検体が入れられる部位である。穴7はコア3に形成される。すなわち、穴7の径はコア3の径よりも小さい。穴7が形成される端面の穴以外の部位には、反射膜9が設けられる。反射膜としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブなどの物質を蒸着などによって形成すればよい。穴7および反射膜9が形成される側と反対側の端面が光を集光するための集光面11となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体から励起される蛍光を測定するために用いられる、検体を保持するための光測定用ウェルおよびこれを用いられる光測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生物のDNA、タンパク質、細胞等の検体の分析を行う方法として、検体の種類毎に特異的蛍光を付し、これに光を照射することで発光する蛍光を定量的に測定することで、検体の分析を行う方法がある。
【0003】
例えば、検体が試料室であるウェルに入れられ、検体に対して上部または側方より蛍光物質を励起するRGBレーザやLED(Light Emitting Diode)を照射することで、ウェル内で発光する蛍光を光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube)や光ダイオード(PD:Photodiode)などで測定することで、検体の分析が行われる。
【0004】
特に、近年は、複数のウェルが設けられ、複数のウェルのそれぞれに検体が入れられ、これらを順次、自動で計測することで、より多くの検体を効率良く測定することが要求される。
【0005】
このような測定装置としては、たとえば以下のようなものがある。測定を行う検体を入れたウェル部を所定の位置に停止させ、マイクロプレートのウェル部の上方より直接励起光を入射させるとともに、このウェル部の上方より直接、検体より生じた蛍光の観測を行うように光学系を配置することで、検体からの蛍光を測定器によって測定する。(特許文献1)。また、光を検体に照射する照射部と、検体からの蛍光および反射光を受光する受光部を同一のファイバで行う方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−311603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された計測装置では、励起側偏光子および蛍光側偏光子は、ウェル部の上方に固定される。また、複数の検体を効率良く測定するためには、ウェル部を励起側偏光子および蛍光側偏光子に対して相対的に移動させる必要がある。したがって、ウェル内の検体と、検体から発生する蛍光を受光する蛍光側偏光子との間には所定の距離が必要となる。
【0008】
図10は、従来の光測定装置の模式図である。なお、図10においては簡単のため、照射と受光を一つのファイバで行う例を示す。図10(a)に示すように、照射・受光部101は、ウェル100の上方に固定される。照射・受光部101は、ウェル100内の検体103に対して上方からまっすぐに光を照射する(図中矢印K方向)。
【0009】
励起光が照射された検体103からは、検体に応じた蛍光が発生する。図10(b)は、検体103から蛍光(および反射光)の発生する状態を示す模式図である。検体103から発生する蛍光は、検体中心105を中心に全方向に(検体中心105を中心とする球体を仮定した場合の球面方向に対して)略均一に発生する(図中矢印M方向)。
【0010】
この際、例えば照射・受光部101の受光面と検体中心105との距離をLとすると、仮想受光面107(半径Lの球体の表面積)は、4πLで表わされる。すなわち、ウェル100での反射等を無視すれば、検体103から発生した蛍光は、4πLの表面積を有する仮想受光面107の表面全体に均一に到達する。
【0011】
ここで、照射・受光部101の受光面の面積をaとすれば、実際に発生した蛍光の内、受光できる蛍光の量は、全体の4πLの面積の内、面積aの受光可能領域109(図中におけるハッチング部)のみとなる。すなわち、それ以外の方向に進んだ蛍光は、受光されることなく散逸する。
【0012】
ここで、ファイバ径を2mmΦとし、距離Lを10mmとする。すると、仮想受光面107の全表面積(4×π×10)は、1257mm程度となる。また、受光面の面積は(π×2.5)は、約20mm程度となる。したがって、発生した蛍光に対して、20/1257=約1.6%程度となる。
【0013】
このように、従来の光測定装置においては、実際に生じた蛍光のほとんどが外部に漏れ出しており、発生した蛍光の内、わずかしか受光することができない。すなわち、蛍光を受光する効率が極めて悪い。このため、少ない蛍光からでも感度良く測定することが可能なように、より感度の良い光測定器等の開発が進められている。しかし、このような特殊な光測定器を使用すると、装置のコストが高くなり、また、より高い設置精度等が要求される。
【0014】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、簡易な構造で極めて高い効率で検体から発生した蛍光を集光可能な光測定用ウェル等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達するために第1の発明は、光測定用のウェルであって、コアとクラッドからなる光ファイバ、あるいは中心部と外周部とが、中心部の屈折率が外周部の屈折率より高い異なる材料で構成され、中心部と外周部が光ファイバと同様の屈折率差を有し、光を中心部に閉じ込めて、光を透過して伝送可能な材料から構成される光伝送媒体のコア部に対し、前記光伝送媒体の一方の端面から前記コア部よりも小さな径の穴が形成され、
前記穴には検体を入れることが可能であり、
前記一方の端面とは逆側の他方の端面に光を伝播することが可能であである。
【0016】
前記一方の端面において前記穴以外の面には反射膜が形成されることが望ましい。前記光ファイバはプラスチックファイバが望ましく、ガラスファイバを使用することもできる。
【0017】
第1の発明によれば、検体を入れるウェルが伝送媒体(光ファイバにより構成されるかあるいは中心部と外周部とが、中心部の屈折率が外周部の屈折率より高い異なる材料で構成され、中心部と外周部が光ファイバと同様の屈折率差を有し、光を中心部に閉じ込めて、光を透過して伝送可能な材料)から構成されれば良く、光ファイバ以外の材料も用いることができる。このため、特殊な部材は不要である。
【0018】
また、光ファイバのコア部に穴を設け、当該穴に検体を入れることが可能である。このため、検体から発生し、ウェル内に分布する蛍光は、当該検体と接触している光ファイバのコア部に結合され、当該蛍光をコア部に封じ込めることができる。ここで、光ファイバを用いる場合のコア部の断面方向の屈折率分布は、コア断面方向に一定であるステップインデックス型でも、コアの周辺部に行くに従って屈折率が徐々に低くなるグレーテッドインデクス型のファイバのいずれも用いることができるが、ファイバコストの点からすると、コア部の屈折率分布の制御が不要なステップインデックス型の方が望ましい。
【0019】
したがって、検体から発生した蛍光が散乱せず、効率良く蛍光を集光することができる。この際、ウェル自体が光ファイバ又は前記光ファイバと同等の屈折率差を有する2材料から構成される材料であるため、光ファイバに封じ込められた蛍光を、直接光ファイバ内に伝播させることができ、集光レンズも不要である。また、蛍光を受光して封じ込める光ファイバをそのまま蛍光の伝送に用いることもできる。
【0020】
また、ウェルの穴が形成される端面において、ウェルの穴以外の部分に反射膜を形成することで、当該端面からの蛍光の漏れを防ぐことができる。このため、蛍光が照射方向に漏れ出すことがなく、より確実に蛍光をウェル(光ファイバのコア部)に封じこめることができる。
【0021】
また、ウェル部分を構成する光ファイバがプラスチックファイバであれば、穴加工が容易であり、比較的大きな穴を形成することができるため、プラスチックである望ましい。
【0022】
ここで、ウェル部分には、トレイのウェル部の設計に合わせた所定寸法の直径の円柱状に成形した透明な樹脂材料を用い、さらにその外周に、それより屈折率の低い透明な樹脂材料をコーティングした部材を用いることができる。外周に樹脂をコーティングする方法としては公知の種々の方法を用いることができる。このような構成であれば、ウエル部分の設計が任意にできる利点がある。本発明では、コア径が比較的小さい問題があるが、光ファイバを用いることも可能である。
【0023】
第2の発明は、コアとクラッドからなる光ファイバ、あるいは中心部と外周部が中心部の屈折率が外周部の屈折率より高い異なる材料で構成され、中心部と外周部が光ファイバと同様の屈折率差を有する光を中心部に閉じ込めて、光を透過して伝送可能な材料から構成される光伝送媒体のコア部に対し、前記光伝送媒体の一方の端面から前記コア部よりも小さな径の穴が形成され、前記穴には検体を入れることが可能であり、前記一方の端面とは逆側の他方の端面に光を伝播することが可能である光測定用ウェルを用い、前記光測定用ウェルの穴に配置された検体に対して、光を照射可能な光照射部と前記光測定用ウェルの穴とは逆側の端面から光を受光する受光部と前記受光部で受光した光をフィルタを介して測定可能な光測定器とを具備することを特徴とする光測定システムである。
【0024】
前記一方の端面において、前記穴以外の面には反射膜が形成されてもよい。前記光測定用ウェルの前記受光部側の端面は、端面が球形に形成され、前記光測定用ウェルの球形部はコネクタを介して受光側光伝送媒体と接続され、前記受光側光伝送媒体が前記フィルタを介して前記光測定器と接続されてもよい。前記受光側光伝送媒体のコア径と、前記光測定用ウェルのコア径とが略同一径であってもよい。
【0025】
複数の前記光測定用ウェルがプレートに配置され、前記プレートを移動させることで、前記照射部によって複数の検体に対して光を照射し、それぞれ発生する蛍光を測定可能であってもよい。
【0026】
前記光照射部は、前記光測定用ウェルの上部に配置され、前記穴の上部から検体に対して光を照射可能であってもよく、前記光照射部は、前記光測定用ウェルの下部に配置され、前記光測定用ウェルの穴とは逆側の端面から、前記ウェルのコアに光を導入し、検体に対して光を照射可能であってもよい。
【0027】
第2の発明によれば、前述したように極めて高い効率で、検体から発生した蛍光を光ファイバまたは前記光ファイバと同等の屈折率差を有する2材料から構成される材料に封じ込めることができ、当該光ファイバの照射側とは反対側から当該蛍光を光測定器によって測定することができる。したがって、照射部と検体との距離を大きくしても、蛍光の集光効率が悪くなることがない。
【0028】
また、ウェルと蛍光の伝送用の光ファイバの寸法を一致させることで、伝送効率を向上させることができ、さらにウェルに光ファイバ自体を使用する場合は、ウェルと光ファイバが一体であるため、集光用のレンズも不要であり、さらに伝送効率が向上するとともに、コンパクトな測定装置を得ることができる。
【0029】
また、ウェルを構成する光ファイバ又は前記光ファイバと同等の屈折率差を有する2材料から構成される材料の照射側とは反対側の端面に球形部を形成し、光コネクタと接続可能とすれば、光を照射する照射部と、光測定器と接続される光ファイバを固定し、ウェルのみを移動させて、複数のウェルの検体を同一の照射部および測定器で光測定を行うことができる。したがって、ウェル毎に光測定器や光フィルタを使用する必要がない。このため、安価な光測定システムを得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、簡易な構造で極めて高い効率で検体から発生した蛍光を集光可能な光測定用ウェル等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】(a)はウェル1の構成を示す図であり、(b)は(a)のS部拡大図。
【図2】ウェル1の構成を示す模式図であり、(a)は正面図、(b)は平面図。
【図3】ウェル1を用いて光測定を行う状態を示す図。
【図4】検体から発生する蛍光の広がりを示す概念図。
【図5】トレイ25に対するウェルの配置を示す平面図。
【図6】トレイ25に設けられたウェルと、光測定器17の位置関係を示す図。
【図7】トレイ25に設けられたウェルと、光測定器17の他の位置関係を示す図。
【図8】トレイ25に設けられたウェルと、光測定器17の他の位置関係を示す図。
【図9】トレイ25に設けられたウェルと、光測定器17の他の位置関係を示す図。
【図10】従来のウェルを示す図で、(a)は正面図、(b)は検体から発生する蛍光の広がりを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明にかかるウェル1を示す図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は図1(b)のS部拡大図である。また、図2は、ウェル1の模式図であり、図2(a)はウェル1を示す正面図、図2(b)は平面図である。ウェル1は、コア3およびクラッド5からなる、例えば光ファイバなどの光伝送媒体で構成される。なお、図2以降の図においては、図2と同様に、ウェル1の穴7等を拡大した模式図で示す。また、以下の説明では、光伝送媒体として光ファイバを用いる例を示す。
【0033】
光ファイバとしては、例えばプラスチックファイバを用いることができる。例えば、クラッド5を低屈折率を有するフッ素系樹脂等で形成し、コア3をポリメチル・メタクリレート樹脂(PMMA)、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン等で形成することができる。この場合、コアの屈折率は1.49であり、コア径としては例えば486μm、クラッド径が500μm程度のものが使用できる。なお、クラッド外径としては500μm、1mm、2mm等のように測定対象に応じて適宜選択することができる。また、プラスチックファイバに代えて、ガラス製ファイバやガラスクラッドファイバを用いることもできる。
【0034】
光の照射側である端面(図2(a)の上側の面)には、穴7が設けられる。穴7は、検体が入れられる部位である。穴7はコア3に形成される。すなわち、穴7の径はコア3の径よりも小さい。例えば、コア外径が486μmの場合に、コア3に150μmの径の穴7(例えば深さ200μm)を形成すればよい。
【0035】
なお、穴7は、光ファイバの端面にドリル等の機械加工で形成してもよく、または、穴形成部以外をマスキングした状態でエッチング等により形成してもよい。すなわち、本発明では穴7の加工方法は問わない。なお、機械加工により穴7を形成した場合には、穴7の内面を研磨することが望ましい。穴7表面での乱反射等を防止するためである。また、穴7の下面は、可能な限り曲面とすることが望ましい。検体からの光を効率良くコアに導入するためである。
【0036】
穴7が形成される端面の穴以外の部位には、反射膜9が設けられることが望ましい。反射膜としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ニオブなどの物質を蒸着などによって形成すればよい。または、反射膜成分を塗布してもよい。反射膜9の形成方法は問わない。
【0037】
穴7および反射膜9が形成される側と反対側の端面が光を集光するための集光面11となる。すなわち、光ファイバであるウェル1内に封じ込められた光は、集光面11に向かって伝送される。集光面11において、光ファイバ内部の光がウェルを構成する光ファイバから出射する。
【0038】
図3は、ウェル1を用いて、検体19の光測定を行う状態を示す図である。ウェル1の穴7には検体19が入れられる。また、ウェル1(光ファイバ)の集光面11側には、フィルタ15を介して光測定器17が設けられる。なお、必要に応じて、集光面11と光測定器17との間に集光レンズを設けてもよい。
【0039】
ウェル1の直上から照射部13によって光を照射すると(図中矢印A)、光が穴7の開口から穴7内部の検体19に照射される。光が照射された検体19からは、検体の種類等に応じた蛍光が発生する(図中矢印B)。検体19から発生する蛍光は、そのまま直接ウェル1である光ファイバ(コア3)に導入される。光ファイバ(コア3)に導入された光は、光ファイバ(コア3)内に封じ込められ、集光面11方向に伝送される。
【0040】
一方、光ファイバ(コア3)に導入された一部の光は、照射方向(図中上方)に向かって光ファイバ(コア3)内で伝送される。しかし、光ファイバ(コア3)の上面には反射膜9が形成されるため、当該光は反射膜9で反射されて、再び光ファイバ(コア3)内部を集光面11方向に伝送される。
【0041】
集光面11側に伝送された光は、照射した光の波長に応じた(照射した光の波長成分を除去可能な)フィルタ15を介して光測定器17に導入される(図中矢印C)。したがって、光測定器17によって蛍光を測定することができる。なお、図3の例では、ウェル1の集光面11がウェル1を保持するトレイの裏面から突出している例を示すが、ウェル1の集光面11をトレイの裏面と同一面としてもよく、または、突出部を別途樹脂等で固定してもよい。
【0042】
図4は、図10と同様に、ウェル1を用いた場合における検体から発生した蛍光の拡散状態を示す図である。ここで、照射部13から検体中心20までの距離をLとする。照射部13から光を検体に照射すると、検体から発生する蛍光は、検体中心20から全方向に略均一に拡散する(図中矢印D)。
【0043】
ここで、照射部13が受光部を兼ねる場合(従来の測定の場合)について考慮すると、検体中心20から発生した蛍光は、半径Lの球体表面である仮想受光面21の表面全体に略均一に到達する。しかしながら、受光可能な蛍光は、前述したように受光部の面積に対応する部位のみとなる。
【0044】
一方、本発明では、一度光ファイバ内部に封じ込められた光は光ファイバの特性から外部に漏れにくいが、穴7の開口部から上方に向かって拡散する蛍光以外は、全て光ファイバのコア3に封じ込められる。また、前述のように、光ファイバの上面方向には反射膜が形成されるため、光ファイバ内部に封じ込められた光は全て光ファイバの集光面側から出光する(図中矢印E)。
【0045】
すなわち、本発明のウェル1を用いることで、仮想受光面21において、穴7の開口から漏れだす光以外の光を全て光ファイバ内に封じ込めることができる。このため、仮想受光面21において、受光可能領域23は、穴7の開口部以外の全ての方向(図中ハッチングで示した領域)となる。したがって、従来と同一の光を照射した場合であっても、従来と比較して、極めて効率良く発生した蛍光を測定することができる。
【0046】
次に、本発明のウェル1の使用例を説明する。図5は、複数のウェル1をトレイ25に縦横に配列させた状態を示す図である。トレイ25上には、複数のウェル1(W11、W12、・・・、Wnm)が配置される。すなわち、一列にm個のウェル1が配置され、これがn段(合計n×m個)配置される。各ウェル1(W)には、あらかじめ検体が配置される。
【0047】
なお、このようにトレイ25に複数のウェルを配置する場合に、例えば以下のようにすればよい。まず、トレイ25に、あらかじめ光ファイバ(ウェル)に対応する径の穴をあけ、それぞれの穴に光ファイバを挿入して接着剤等によって固定する。光ファイバの固定後、必要に応じてトレイ表面を研磨し、トレイ25(光ファイバの端面含む)の表面に蒸着等によって反射膜を形成する。その後、それぞれの光ファイバのコア部に穴を構成する。以上によって複数のウェル1が配置されたトレイ25を得ることができる。なお、ウェルの配置や固定方法はこの方法には限られない。
【0048】
測定を行うには、まず、図5(a)に示すように、トレイ25に対して、照射部13(13a、13b、・・・、13x)が一列に配置される。この際、照射部13は、対応する試料室W11〜W1mの上方にそれぞれ配置される。すなわち、照射部13は、一列に並列される試料室Wの個数と同数だけ一列に配置される。このとき、一列に配置された試料室の数mと、照射部13の数が等しく、m=xとなる。
【0049】
この状態で、それぞれの試料室Wに対して所定の光を照射して、光の照射毎に発生する蛍光を後述する各種の方法で受光する。なお、受光した光は適切な光フィルタを介して検出される。検出された光はコンピュータ等の記憶部等に保存され、必要に応じて既存のデータ等との比較が行われ、表示部や出力部に出力される。
【0050】
一列(W11〜W1m)の測定が終了すると、照射部13は固定されたまま、トレイ25が、照射部39の併設方向とは垂直方向に試料室の設置ピッチ分だけ移動する(図中矢印F方向)。すなわち、それぞれの照射部13の下部には、試料室W21〜W2mが位置する。この状態で、前述と同様に、各試料室の検体の測定を実施する。以上をn回繰り返し、m列×n段の試料室全体についての測定を完了する。
【0051】
また、上記の他、例えば、測定対象とする複数の試料室を、W11〜、W12、・・・、W1(m/2)として、1列の試料室の半分を測定後、試料室を(m/2)だけ行方向に移動して、W1(m/2)+1、W1(m/2)+2、・・・、W1mまで測定して、さらに上記と同様に照射部13の併設方向とは垂直方向に試料室の設置ピッチ分だけ移動して測定を行なうこともできる。このように、一列(W11〜W1m)の測定を2回、3回など複数回に分けて測定を行なうこともできる。
【0052】
次に、検体から発生した蛍光の測定例を説明する。図6は、ウェル1を用いた蛍光の測定状態を示す例である。前述の通り、各ウェル1a、1b、1c・・・は、所定の間隔をあけて複数配列される。それぞれのウェル1a、1b、1cにはそれぞれ検体19a、19b、19cが入れられる。なお、ウェル同士を近接しすぎると、それぞれのウェルで集光されたそれぞれの光が光測定器に導入される際に、隣り合う他の光測定器側に漏れる恐れがある。したがって、ウェル同士は隙間をあけて配置される。
【0053】
図6の例では、トレイ25の下部において、それぞれのウェル1a、1b、1cに対応するそれぞれの集光面11に対して、フィルタ15が配置される。フィルタ15は、それぞれ異なる波長の光を除去するものである。したがって、集光された光から、所望の波長(例えば照射光の波長)を除去することで、照射光に近い波長である蛍光のみを効率良く測定することができる。
【0054】
それぞれのフィルタ15で照射光成分が除去された光(すなわち検体からの蛍光成分のみの光)は、必要に応じて図示を省略したレンズによって集光され、光測定器17に導光される。光測定器17としては、光電子増倍管や光ダイオードを用いることができる。光測定器17で検出された光の強度等を測定・解析することで、所望の検体に関する分析を行うことができる。
【0055】
なお、フィルタ15および光測定器17を固定し、前述したようにトレイ25のみを移動させることで、同一の照射部13と、フィルタ15および光測定器17を用いて、複数のウェル内の検体を順次測定することができる。
【0056】
図7は、他の実施形態を示す図である。図7は、図6とほぼ同様であるが、ウェル1a、1b・・・が形成される光ファイバをそのまま他の場所に設置される光測定器17までの光伝送路として使用する状態を示す図である。それぞれのウェルが小さく、また、ウェル同士の間隔が小さい場合には、各ウェルの下部に光測定器17を配置するスペースがない場合がある。この場合であっても、本実施形態によれば、光の照射部と光の測定部とを離し、光の測定を他の広い部位で行うこともできる。
【0057】
図8は、さらに他の実施形態を示す図である。図8は、図6と同様に、トレイ25にウェル1a、1b・・・が配列される。ここで用いられるウェル1a、1bは、集光面11側の端部が球形状に形成される。各ウェル1a、1bの下部には、コネクタ27およびコネクタ27と接続される光ファイバ29がそれぞれ配置される。
【0058】
図8(a)に示すように、トレイ25は、各ウェル1a、1bと、各ウェルに対応するコネクタ27との位置が一致する位置で、下降する(図中矢印G方向)。この際、コネクタ27は、図示を省略したガイド部(例えば挿入側に拡径するテーパ部)を有し、ウェルの集光面11がまっすぐにコネクタ27に挿入可能である。
【0059】
図8(b)は、各ウェル1a、1bがコネクタ27に接続された状態を示す図である。この状態では、各ウェルを構成する光ファイバのコア3とコネクタ27とが光接続される。各ウェル1a、1bがコネクタ27に接続されると、それぞれのウェル内の検体19a、19bで発生した蛍光は、当該ウェルを構成する光ファイバ内部に封じ込められて、集光面11側でコネクタ27を介して光ファイバ29に導入される。光ファイバ29は他の場所に設置されたフィルタ15介して光測定器17に接続される。したがって、各ウェルで発生した蛍光を、他の場所に配置された光測定器17で測定することができる。
【0060】
図8の例では、コネクタ27、光ファイバ29、フィルタ15および光測定器17を固定した状態でトレイ25のみを移動させて各ウェルの蛍光を測定することができる。なお、この場合には、トレイ25は前述したような水平方向の移動に加え、各ウェル(コア部)とコネクタ27との脱着を行うため、鉛直方向の移動も可能とする必要がある。
【0061】
以上、本発明によれば、検体を入れるウェルが、光を伝送する光ファイバに直接形成されるため、極めて効率良く検体から発生した蛍光を測定することができる。すなわち、ウェル1を用いることで、検体から発生した蛍光の大部分を検体と接触する光ファイバ内に封じ込めることができ、光フィルタおよび光測定器まで光を伝送することができる。
【0062】
また、ウェル1の上面には反射膜が形成されるため、光ファイバ内に封じ込められた光が上方に漏れることを防止することができる。すなわち、本発明にかかるウェルにおいては、発生した蛍光が拡散して漏れるのは穴7の開口からのみとなるため、従来の方法と比較して数十倍の効率で光を測定することができる。したがって、照射部(受光部)と検体との距離によらずに高い効率で光測定が可能である。このため、特殊な高精度な光測定器などは不要である。
【0063】
また、構造が簡易であり、穴7内は研磨等の簡単な処理を行うのみでよい。したがって、より細かなウェルでも適用が可能である。例えば、細胞は10〜20μm程度の大きさであるため、この細胞を検体とする場合には、穴の径は30μm程度でよい。本発明では、光ファイバに穴を形成するのみであるため、穴さえ形成されれば、穴の内部や周囲に特殊な処理を施す必要がない。したがって、製造性や品質のばらつきが生じにくい。
【0064】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、本発明の試料室の行と列は、相互に入れ換えても、その他の構成要件が同一であれば発明は成立するものことは言うまでもない。
【0065】
例えば、上述した説明では、光をウェル1の上方から照射したが、図9に示すように、ウェル1の下面側から光を照射してもよい。図9に示す例では、トレイ25に設けられたウェル1の穴7に検体19が入れられる。
【0066】
光を発光する光源31は、アイソレータ33およびハーフミラー35を介してウェル1の下面(集光面11側)に、光ファイバ29によって光接続される。アイソレータ33は、光源31側からの光のみを透過し、ウェル1側から光源方向への光の通過を遮蔽するものである。
【0067】
ハーフミラー35は、光源31からの光の一部を透過して、ウェル1方向に光を伝送する。光ファイバ29の先端部は、照射部13となり、ウェル1のコア3に光接続される。コア3内部に導入された光は、ウェル1内に閉じ込められ、その一部が検体19に照射される。すなわち、光源31からの照射光が検体19に照射される。尚、アイソレータ33は、戻り光によるノイズが無視できるようであれば、アイソレータ33は省略することも可能である。
【0068】
検体19に照射される光は、検体19によって励起される。検体19によって励起された蛍光は、再びコア3内部に閉じ込められる。したがって、蛍光は集光面11側から出光される。集光面11から出光した蛍光は、ファイバ29に導入される。光ファイバ29に伝送された蛍光は、ハーフミラー35によって一部が反射されてフィルタ15方向へ分光される。フィルタ15では、出射光成分が除去されて、光測定器17に蛍光のみが伝送され、光測定器17によって光が検出される。尚、ウェル部分と光ファイバが一体の場合には、蛍光は光ファイバを伝って、ハーフミラー35に到達する。
【0069】
なお、ハーフミラーに代えて光カプラを用いてもよい。また、ハーフミラーに代えて、ある特定の波長の光のみを反射して、その他の波長を透過する波長選択型ミラー型フィルタを配置してもよい。この場合、当該ミラー型フィルタは、照射光は透過させるが、検体から発生した蛍光のみを光測定器17側に反射させることができる。なお、この場合には、光測定器17の前に別途フィルタ15を用いる必要はない。
【0070】
以上のように、本発明では、光の照射部13が必ずしもウェル1の上部に配置される必要はなく、検体19からの蛍光を、ウェル1内部に閉じ込めることが可能であればよい。このような構成とすることで、ウェルの情報の空間に照射部等が設けられず、ウェルへ検体を入れる作業やウェルの交換等の作業性に優れ、装置(システム)の小型化を達成することができる。
【符号の説明】
【0071】
1、1a、1b、1c………ウェル
3………コア
5………クラッド
7………穴
9………反射膜
11………集光面
13………照射部
15………フィルタ
17………光測定器
19………検体
20………検体中心
21………仮想受光面
23………受光可能領域
25………トレイ
27………コネクタ
29………光ファイバ
31………光源
33………アイソレータ
35………ハーフミラー
100………ウェル
101………照射・受光部
103………検体
105………検体中心
107………仮想受光面
109………受光可能領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光測定用のウェルであって、
コアとクラッドからなる光ファイバ、あるいは中心部と外周部とが、中心部の屈折率が外周部の屈折率より高い異なる材料で構成され、中心部と外周部が光ファイバと同様の屈折率差を有し、光を中心部に閉じ込めて、光を透過して伝送可能な材料から構成される光伝送媒体のコア部に対し、前記光伝送媒体の一方の端面から前記コア部よりも小さな径の穴が形成され、
前記穴には検体を入れることが可能であり、
前記一方の端面とは逆側の他方の端面に光を伝播することが可能であることを特徴とする光測定用ウェル。
【請求項2】
前記一方の端面において、前記穴以外の面には反射膜が形成されることを特徴とする請求項1記載の光測定用ウェル。
【請求項3】
前記光伝送媒体はプラスチックファイバであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光測定用ウェル。
【請求項4】
コアとクラッドからなる光ファイバ、あるいは中心部と外周部とが、中心部の屈折率が外周部の屈折率より高い異なる材料で構成され、中心部と外周部が光ファイバと同様の屈折率差を有し、光を中心部に閉じ込めて、光を透過して伝送可能な材料から構成される光伝送媒体のコア部に対し、前記光伝送媒体の一方の端面から前記コア部よりも小さな径の穴が形成され、前記穴には検体を入れることが可能であり、前記一方の端面とは逆側の他方の端面に光を伝播することが可能である光測定用ウェルを用い、
前記光測定用ウェルの穴に配置された検体に対して、光を照射可能な光照射部と、
前記光測定用ウェルの穴とは逆側の端面から光を受光する受光部と、
前記受光部で受光した光をフィルタを介して測定可能な光測定器と、
を具備することを特徴とする光測定システム。
【請求項5】
前記一方の端面において、前記穴以外の面には反射膜が形成されることを特徴とする請求項4記載の光測定システム。
【請求項6】
前記光測定用ウェルの前記受光部側の端面は、端面が球形に形成され、
前記光測定用ウェルの球形部はコネクタを介して受光側光伝送媒体と接続され、
前記受光側光伝送媒体が前記フィルタを介して前記光測定器と接続されること特徴とする請求項4または請求項5に記載の光測定システム。
【請求項7】
前記受光側光伝送媒体のコア径と、前記光測定用ウェルのコア径とが略同一径であること特徴とする請求項6記載の光測定システム。
【請求項8】
複数の前記光測定用ウェルがプレートに配置され、
前記プレートを移動させることで、前記照射部によって複数の検体に対して光を照射し、それぞれ発生する蛍光を測定可能であること特徴とする請求項4から請求項7のいずれかに記載の光測定システム。
【請求項9】
前記光照射部は、前記光測定用ウェルの上部に配置され、前記穴の上部から検体に対して光を照射可能であることを特徴とする請求項4から請求項8のいずれかに記載の光測定システム。
【請求項10】
前記光照射部は、前記光測定用ウェルの下部に配置され、前記光測定用ウェルの穴とは逆側の端面から、前記ウェルのコアに光を導入し、検体に対して光を照射可能であることを特徴とする請求項4から請求項8のいずれかに記載の光測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172989(P2012−172989A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32063(P2011−32063)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(509133768)株式会社古河電工アドバンストエンジニアリング (7)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】