説明

光硬化性樹脂の成形方法

【課題】光硬化性樹脂を用いたレプリカ成形において成形タクトタイムを短縮しつつ形状精度を向上すること。
【解決手段】光硬化性樹脂の成形方法は、金型20に充填した光硬化性樹脂に光を照射して光硬化性樹脂を金型20の形状に倣うように光硬化させるようになっており、高圧水銀ランプ24による光の照射エネルギを異にした複数の光硬化工程からなり、複数の光硬化工程の内、光硬化性樹脂の最大反応率が1%乃至30%の間にあるとき、少なくとも1回の光硬化工程における光照射エネルギを、当該光硬化工程より前の光硬化工程の光照射エネルギよりも小さくするようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光硬化性樹脂を用いて光学素子をレプリカ成形するときの光硬化性樹脂の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性樹脂を用いた光学素子には、回折光学素子や非球面レンズやピックアップレンズなどがある。これらの光学素子の成形方法として代表的なのがレプリカ成形方法である。レプリカ成形方法は、微細形状をした型に樹脂を滴下し基板を用いて充填する工程、光を照射して樹脂を光硬化させる工程、及び型から樹脂と基板とを一体にして離型する工程から成り立っている。
【0003】
この光硬化性樹脂を用いたレプリカ成形方法において、形状転写性を向上させるのに、特許文献1のように、樹脂を光硬化するとき、照射する光の波長を長い波長から短い波長に切り替えて行う方法がある。
【0004】
また、特許文献2のように予めゲル化してから樹脂を型に充填するレプリカ成形方法も提案されている。
【0005】
さらに、成形のタクトタイムを短縮する方法としては、特許文献3のように型上での照射強度をより強くする方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−181003号公報
【特許文献2】特開平07−068568号公報
【特許文献3】特開平10−309726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、成形される樹脂層の光学形状部の厚みとベース部厚みとの比(肉厚比)が大きい素子は、転写性を向上するため、成形のタクトタイムが長くなる傾向にある。その一方で製造コストのコストダウンが求められている。そのため、成形タクトタイムを短縮しつつ成形の精度を向上させる必要がある。
【0008】
この課題に対し、特許文献1のように長い波長から短い波長に切り替えるだけで成形の精度を向上させることができるが、タクトタイムを短縮することができないどころか、逆にタクトタイムが長くなるという課題がある。
【0009】
また、特許文献2のように予めゲル化してから型に充填するレプリカ成形方法においても、成形の精度を向上させることができるが、タクトタイムを短縮することができない。
【0010】
さらに、特許文献3のように型上での光の照射強度を強くする方法は、転写性が低下するという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は、成形タクトタイムを短縮しつつ成形の精度を向上させることができる光硬化性樹脂の成形方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光硬化性樹脂の成形方法は、金型に充填した光硬化性樹脂に光を照射して光硬化性樹脂を前記金型の形状に倣うように光硬化させるようになっており、光の照射エネルギを異にした複数の光硬化工程からなり、前記複数の光硬化工程の内、光硬化性樹脂の最大反応率が1%乃至30%の間にあるとき、少なくとも1回の光硬化工程における光照射エネルギを、当該光硬化工程より前の光硬化工程の光照射エネルギよりも小さくする、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光硬化性樹脂の成形方法は、成形のタクトタイムの短縮と形状精度の向上とを両立することが出来る。すなわち、樹脂の最大反応率が1%未満であると、十分な成形のタクトタイム短縮効果が得られない。しかし、樹脂の最大反応率が1%乃至30%の間であると、樹脂層はゲル状態であり、樹脂の硬化収縮分を流動によって補うことが出来る。従って大きい光照射エネルギを与えても形状に影響が少ない。しかし、樹脂層の最大反応率が30%を越えた場合、樹脂の流動がなくなっていき、樹脂の硬化収縮分を流動によって補えなくなり形状精度が低下する。
【0014】
このように、本発明の成形方法によれば、成形のタクトタイムの短縮と形状精度の向上を両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1、第2実施形態及び第1、第2実施例の成形方法において成形する微粒子分散紫外線硬化樹脂の内部透過率のグラフであり、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示している。
【図2】本発明の第1、第2実施形態及び第1、第2実施例の成形方法において成形された回折光学素子の模式図である。
【図3】本発明の第1、第2実施形態における成形方法を説明するための成形工程図である。
【図4】本発明の第1実施例における成形方法を説明するための成形工程図である。
【図5】本発明の第1実施例の成形方法における第1照射工程において、照射時間を変えたときの各数値の表である。
【図6】本発明の第2実施例における成形方法を説明するための成形工程図である。
【図7】本発明の第2実施例の成形方法における第2照射工程において、照射時間を変えたときの各数値の表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の光学素子をレプリカ成形するときの光硬化性樹脂の成形方法を説明する。
【0017】
[第1実施形態]
第1実施形態は、光硬化性樹脂を用いて図2に示すような格子高さH、ベース膜厚Tの回折光学素子12を成形する方法である。この回折光学素子は、撮像系のレンズとして用いるため、素子の透過率を少しでも良くするためベース膜厚Tを薄くする必要がある。そのため、格子高さHとベース膜厚Tとの比が大きく、非常に肉厚比が高い。そのため、従来の成形方法では、形状の転写性が低下しやすく、光照射中に金型から樹脂層が剥離するいわゆるヒケが発生しやすい。
【0018】
図3に基づいて、本発明の第1実施形態における光硬化性樹脂の成形方法を説明する。
【0019】
まず、光硬化性樹脂21を、図3(A)のように同心円状に格子が切削加工された金型20に滴下し、図3(B)のように基板ガラス23によって金型20に充填する。このとき、必要に応じて基板ガラス23に荷重を加え、樹脂層21Aを金型20に押し付ける。このように、金型に押し付けられて、金型の形状になった光硬化性樹脂を樹脂層と言い、符号を21Aとする。
【0020】
基板ガラス23の樹脂層21Aが接する面23aには、シランカップリング剤が薄く均等に塗布してある。このため、樹脂層21Aを金型20から離すとき、基板ガラス23と樹脂層21Aとは、一体の状態で金型20から離れやすくなっている。また、金型20の成形に寄与しない部分(非有効部)の全周には、基板ガラス23を受け止めて、金型20と基板ガラス23との間隔を均一にする土手22を形成してある。金型20と基板ガラス23との間隔が均一であることによって、樹脂21のベース膜厚Tは、均等に形成される。
【0021】
次に、図3(C)のように、基板ガラス23側から高圧水銀ランプ24の光を、樹脂層21Aに照射して、樹脂層21Aを硬化させ、反応率を1%以上30%以下のゲル状態にする第1照射工程(第1光硬化工程)を行った。このとき、必要に応じて、基板ガラス23または金型20に荷重を加えて、樹脂層21Aを加圧してもよい。
【0022】
次に、図3(D)のように、第1照射工程に比べて照射エネルギを小さくした高圧水銀ランプ24の光を、樹脂層21Aに照射する第2照射工程(第2光硬化工程)を行った。このときの反応率は、樹脂層21Aが金型20から離れる(離型できる)程度以上である40%以上とする。このとき、必要に応じて、基板ガラス23または金型20に荷重を加えて、樹脂層21Aを加圧してもよい。荷重は、樹脂層21Aがゲル状になって、弾性率が高くなっているため、第1照射工程で加えた荷重より増やすことで光硬化性樹脂の膜厚Tを均一に保つことができる。
【0023】
その後、一体になっている基板ガラス23と硬化した樹脂層21Aは、金型20から離す離型工程によって分離されて、図3(E)、すなわち図2のような回折光学素子12となる。
【0024】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態における光硬化性樹脂の成形方法を説明する。
【0025】
第2実施形態の成形方法は、第1実施形態の成形方法における第2照射工程と離型工程との間に、第3、第4の照射工程を行うことにおいて、第1実施形態の成形方法と異なっている。
【0026】
第3照射工程は、樹脂層の反応率が40%乃至90%において、第2照射工程に比べて照射エネルギを大きくして樹脂層21Aに光を照射するものである。第4照射工程は、第3照射工程に比べ照射エネルギを大きくして樹脂層21Aに光を照射するものである。
【0027】
すなわち、第2実施形態の光硬化性樹脂の成形方法は、第1実施形態の成形方法において、複数の光硬化工程の内、少なくとも1回の光硬化工程における光照射エネルギを、当該光硬化工程より前の光硬化工程の光照射エネルギよりも大きくするようになっている。但し、光硬化性樹脂の最大反応率が40%乃至90%の間にあるとき、光照射エネルギを大きくする。
【0028】
このように、第1、第2実施形態における成形方法は、金型20に充填した光硬化性樹脂に光を照射して光硬化性樹脂を金型20の形状に倣うように光硬化させて、回折光学素子12が得られるようになっている。
【0029】
次に、本発明の実施例における成形方法を図4乃至図7に基づいて詳細に説明する。なお、本成形方法は、図2に示すような回折光学素子12をレプリカ成形する方法である。
【0030】
(第1実施例)
使用する光硬化性樹脂は、微粒子分散光硬化性樹脂であり、フッ素系光硬化性樹脂にナノサイズのITO(酸化インジウムスズ)微粒子を分散させたものである。光硬化性樹脂の10μmにおける内部透過率のグラフを図1に示す。図1に示すように、高圧水銀ランプ34の波長が550nmにおける微粒子分散光硬化性樹脂の内部透過率は、約88%である。そのため、樹脂層31Aを、光学素子、特に撮像系の光学素子に用いるには、透過率をできるだけ高くする必要があり、樹脂層31Aは、薄膜に成形されることが求められている。
【0031】
したがって、本発明の成形方法は、内部透過率約88%の光硬化性樹脂を用いて図2のような格子高さHが約11μm、ベース膜厚Tが約2μmの回折光学素子12を成形するものとする。この場合、格子高さHとベース膜厚Tとの比が約5.5であり、肉厚比が高く、形状の転写性が低い。このため、高圧水銀ランプ34の光を照射中に金型30から光硬化性樹脂が剥離するいわゆるヒケが発生しやすい。しかし、本成形方法は、ヒケの発生を少なくすることができる。
【0032】
まず、光硬化性樹脂31を、図4(A)のように同心円状に格子が切削加工された金型30に滴下し、図4(B)のように基板ガラス33によって金型30に充填する。このとき、必要に応じて基板ガラス33に荷重を加え、樹脂層31Aを金型30に押し付ける。このように、金型に押し付けられて、金型の形状になった光硬化性樹脂を樹脂層と言い、符号を31Aとする。
【0033】
基板ガラス33の樹脂層31Aが接する面33aには、シランカップリング剤が薄く均等に塗布してある。このため、樹脂層31Aを金型30から離すとき、基板ガラス33と樹脂層31Aとは、一体の状態で金型30から離れやすくなっている。また、金型30の成形に寄与しない部分(非有効部)の全周には、基板ガラス33を受け止めて、金型30と基板ガラス33との間隔を均一にする土手32を形成してある。金型30と基板ガラス33との間隔が均一であることによって、樹脂31のベース膜厚Tは、均等に形成される。樹脂層31Aが基板ガラス33によって金型30に押し付けられるとき、基板ガラス33には、約20kgfの押圧力を加えている。
【0034】
次に、図4(C)のように基板ガラス33側から高圧水銀ランプ34の光を、樹脂層31Aに照射して、樹脂層31Aを硬化させる。それには、まず、400nm以下の光をカットするフィルター35を基板ガラス33上の任意の位置に設置する。そして、基板ガラス33と樹脂層31Aが接する位置での光の照度が405nmの波長において30mW/cmになるように高圧水銀ランプ34の照度を調整して、160sec間、光を樹脂層31Aに照射する第1照射工程を行った。この間、樹脂層31Aに、基板ガラス33側から約20kgfの荷重が加わっている。
【0035】
このとき、図5に示すように、樹脂層31Aの最大の反応率は約5%であり、樹脂層31Aは、ゲル状態であり、金型30からの樹脂層31Aのヒケを確認されなかった。
【0036】
次に、図4(D)のように、第1工程に比べ照射エネルギを小さくするため、405nmの波長において15mW/cmになるように高圧水銀ランプ34の照度を調整して、1000sec間、光を樹脂層31Aに照射する第2照射工程を行った。この間、樹脂層31Aには、基板ガラス33側から約300kgfの荷重が加わっている。
【0037】
このとき、樹脂層31Aの反応率は約50%であり、樹脂層31Aは、ゲルと固体との中間的状態であったが、金型からの樹脂層31Aのヒケを確認されなかった。
【0038】
その後、一体になっている基板ガラス33と硬化した樹脂層31Aは、金型30から離す離型工程によって分離されて、図4(E)、すなわち図2のような回折光学素子12となる。
【0039】
最後に、より一層、樹脂層31Aの反応を促進するためと、応力を緩和させるため、光照度を365nmの波長において15mW/cmに調整された高圧水銀ランプ34によって、真空中で、1000sec間、樹脂層31Aに光を照射する真空照射工程を行った。その後、樹脂層31Aは、80度で72時間のアニール処理をされる。
【0040】
以上の複数の工程を経て、図2のように成形された回折光学素子12の格子高さHを測定したところ、金型30の格子高さを基準として転写率は93.5%であった。
【0041】
図5は、第1実施例における第1照射工程において、照射時間を変えることで、樹脂層31Aの最大反応率を変化させ、あとは同様な方法で回折光学素子をレプリカ成形した場合の表である。図5の表によると、樹脂層31Aの最大反応率が1%未満では、時間短縮の効果が少ない。また、樹脂層の最大反応率が40%付近の領域では、金型からの光硬化性樹脂のヒケを確認されはじめ、光硬化性樹脂の最大反応率が40%を超えた領域では、金型からの樹脂層のヒケの深さが100nm以上であることが確認された。このことから、樹脂層最大反応率が1%乃至30%の間が、転写率を高くして、かつヒケを少なくすることができることが判明した。
【0042】
以上、説明したように、第1実施例の光硬化性樹脂の成形方法は、成形のタクトタイムの短縮と形状精度の向上を両立することが出来る。図5の表によると、樹脂の最大反応率が1%未満であると、十分な成形のタクトタイム短縮効果が得られない。しかし、樹脂の最大反応率が1%乃至30%の間であると、樹脂層はゲル状態であり、樹脂の硬化収縮分を流動によって補うことが出来る。従って大きい光照射エネルギを与えても形状に影響が少ない。しかし、樹脂層の最大反応率が30%を越えた場合、樹脂の流動がなくなっていき、樹脂の硬化収縮分を流動によって補えなくなり形状精度が低下する。
【0043】
また、第1実施例における成形方法は、成形のタクトタイムの大幅な短縮ができるという効果を、光硬化性樹脂に微粒子を分散させてあるので、樹脂の透過率が下がり成形のタクトタイムが延びて、より一層際立てることができる。
【0044】
(第2実施例)
第2実施例の成形方法も、図2に示す回折光学素子12をレプリカ成形するものとする。
【0045】
本成形方法に使用する金型、樹脂及び基板ガラスは、第1実施例の成形方法で使用した金型、樹脂及び基板ガラスと同じものである。
【0046】
まず、光硬化性樹脂41を、図6(A)のように同心円状に格子が切削加工された金型40に滴下し、図6(B)のように基板ガラス43によって金型40に充填する。このとき、必要に応じて基板ガラス43に荷重を加え、樹脂層41Aを金型40に押し付ける。このように、金型に押し付けられて、金型の形状になった光硬化性樹脂を樹脂層と言い、符号を41Aとする。
【0047】
基板ガラス43の樹脂層41Aが接する面43aには、シランカップリング剤が薄く均等に塗布してある。このため、樹脂層41Aを金型40から離すとき、基板ガラス43と樹脂層41Aとは、一体の状態で金型40から離れやすくなっている。また、金型40の成形に寄与しない部分(非有効部)の全周には、基板ガラス43を受け止めて、金型40と基板ガラス43との間隔を均一にする土手32を形成してある。金型40と基板ガラス43との間隔が均一であることによって、樹脂41のベース膜厚Tは、均等に形成される。樹脂層41Aが基板ガラス43によって金型40に押し付けられるとき、基板ガラス43には、約20kgfの押圧力を加えている。
【0048】
次に、図6(C)のように基板ガラス43側から高圧水銀ランプ44の光を、樹脂層41Aに照射して、樹脂層41Aを硬化させる。それには、まず、400nm以下の光をカットするフィルター45を基板ガラス43上の任意の位置に設置する。そして、基板ガラス43と樹脂層41Aが接する位置での光の照度が405nmの波長において30mW/cmになるように高圧水銀ランプ44の照度を調整して、160sec間、光を樹脂層41Aに照射する第1照射工程を行った。この間、樹脂層41Aに、基板ガラス43側から約20kgfの荷重が加わっている。
【0049】
このとき、樹脂層41Aの最大の反応率は約5%であり、樹脂層41Aは、ゲル状態であり、金型40からの樹脂層41Aのヒケを確認されなかった。
【0050】
次に、図6(D)のように、第1工程に比べ照射エネルギを小さくするため、405nmの波長において15mW/cmになるように高圧水銀ランプ44の照度を調整して、1000sec間、光を樹脂層41Aに照射する第2照射工程を行った。この間、樹脂層41Aに、基板ガラス43側から約300kgfの荷重が加わっている。
【0051】
このとき、図7に示すように、樹脂層41Aの最大の反応率は約50%であり、樹脂層41Aは、ゲルと固体との中間的状態であったが、金型からの樹脂層41Aのヒケを確認されなかった。
【0052】
次に図6(E)のように第2照射工程に比べ照射エネルギを大きくするため照度が405nmの波長において30mW/cmになるように高圧水銀ランプ44の照度を調整して、200sec間、樹脂層41Aに光を照射する第3照射工程を行った。この間、樹脂層41Aに、基板ガラス43側から約300kgfの荷重が加わっている。このとき、樹脂層41Aの最大反応率は約60%であって、ゲルと固体の中間的状態であったが金型からの樹脂層41Aのヒケは確認されなかった。
【0053】
次に、図6(F)のように第3照射工程に比べ照射エネルギを大きくするため、400nm以下の光をカットするフィルター45を取り除く。そして、光照度が365nmの波長において1.5mW/cmになるように高圧水銀ランプ44の照度を調整し、100sec間、樹脂層41Aに光を照射する第4照射工程を行った。この間、樹脂層41Aに、基板ガラス43側から約300kgfの荷重が加わっている。
【0054】
このとき、樹脂層41Aの反応率は80%であり、樹脂層41Aは、固体状態であったが金型40からの樹脂層41Aのヒケを確認されなかった。
【0055】
次に、基板ガラス43と硬化した樹脂層41Aを一体として金型40から離型する離型工程を行った。この結果、樹脂層41Aは、図6(G)、すなわち図2に示すような回折光学素子12となる。
【0056】
最後に、より一層、樹脂層41Aの反応を促進するためと、応力を緩和させるため、光照度を365nmの波長において15mW/cmに調整された高圧水銀ランプ44によって、真空中で、1000sec間、樹脂層41Aに光を照射する真空照射工程を行った。その後、樹脂層41Aは、80度で72時間のアニール処理をされる。
【0057】
図6(G)、すなわち図2に示すように成形した回折光学素子12の格子高さHを測定したところ、金型40の格子高さHを基準として転写率は93.8%であった。
【0058】
このように、第1実施例における第2照射工程と離型工程との間に第2照射工程より照射エネルギを大きくする第3照射工程や第3照射工程より照射エネルギを大きくする第4照射工程を入れると、金型上での樹脂の硬化が進み、より転写性の向上につながる。
【0059】
図7は、第2実施例における第2照射工程において、照射時間を変えることで、樹脂層41Aの反応率を変化させ、あとは同様な方法で回折光学素子をレプリカ成形した場合の表である。図7の表によると、樹脂層41Aの反応率が40%付近の領域では、金型からの樹脂層のヒケが確認されはじめ、樹脂層の反応率が40%以下の領域では、金型からの樹脂層のヒケの深さが100nm以上であることが確認された。この結果、撮像系のレンズとしては使用できないレベルであることが分かった。このことから、樹脂層の反応率が40%以上の領域で、照射エネルギを大きくすることで、成形のタクトタイムを短縮すると成形形状の向上が両立することができることが分かった。また、照射時間を延ばしても、反応率は照射だけでは90%を超えにくいことも分かった。このため、樹脂層の反応率が40%乃至90%において、第3照射工程を開始することが最も効果的であることが分かった。
【0060】
このように、第2実施例における成形方法によると、成形のタクトタイムの更なる短縮と形状精度の向上を両立することが出来る。ここで、最も樹脂層の形状精度が低下するのは樹脂がゲル状態から固体状態にかわる領域である。そのため、樹脂層全体が固体状態になったのちに、光照射エネルギを大きくしても形状精度が低下しにくくなる。そのため、最小反応率が40%乃至90%において、少なくとも1回光照射エネルギを大きくすることで成形のタクトタイムの更なる短縮につながる。
【0061】
また、第2実施例における成形方法は、成形のタクトタイムの大幅な短縮ができるという効果を、光硬化性樹脂に微粒子を分散させてあるので、樹脂の透過率が下がり成形のタクトタイムが延びて、より一層際立てることができる。
【符号の説明】
【0062】
H:回折光学素子の格子高さ、T:回折光学素子のベース厚、12:回折光学素子、23,33,43;ガラス基板、20,30,40:金型、21,31,41:光硬化性樹脂、22,32,42:土手、23,33,43:基板ガラス、24,34,44:高圧水銀ランプ、35,45:400nm以下の光の波長をカットするフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型に充填した光硬化性樹脂に光を照射して光硬化性樹脂を前記金型の形状に倣うように光硬化させる光硬化性樹脂の成形方法において、
光の照射エネルギを異にした複数の光硬化工程からなり、
前記複数の光硬化工程の内、光硬化性樹脂の最大反応率が1%乃至30%の間にあるとき、少なくとも1回の光硬化工程における光照射エネルギを、当該光硬化工程より前の光硬化工程の光照射エネルギよりも小さくする、
ことを特徴とする光硬化性樹脂の成形方法。
【請求項2】
前記複数の光硬化工程の内、光硬化性樹脂の最大反応率が40%乃至90%の間にあるとき、少なくとも1回の光硬化工程における光照射エネルギを、当該光硬化工程より前の光硬化工程の光照射エネルギよりも大きくする、
ことを特徴とする請求項1に記載の光硬化性樹脂の成形方法。
【請求項3】
前記光硬化性樹脂は微粒子分散光硬化性樹脂である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光硬化性樹脂の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−126077(P2012−126077A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−281480(P2010−281480)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】