説明

光脱離分析装置

【課題】小型の光脱離分析装置を提供すること。
【解決手段】
発生部(1a)内の希ガスにレーザー光(L)を照射してプラズマを発生させて真空紫外域から可視域の光を発生させるレーザー光源装置(6)と、前記光発生部(1a)内に配置され且つ発生した光を分光する分光系(12)、前記光発生部(1a)内に配置され且つ発生した光を反射して前記分光系(12)に集光する反射光学系(11)および前記光発生部(1a)内に配置され且つ前記分光系(12)により分光された単一波長の光を集光して前記試料(S)に照射する集光光学系(13)が一体的に構成された発光分光集光系(11〜17)と、を有する光源装置(D1)と、前記真空チャンバ(D2)内に配置され、光が照射された前記試料(S)から脱離する物質を検出する質量分析計(26)と、を備えた光脱離分析装置(D)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に配置された試料表面に電磁波(光)を照射し、試料表面から光脱離した物質(脱離ガス)を検出して質量分析を行う脱離分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薬品処理や洗浄、蒸着等の複数の工程を経て製造される半導体チップの歩留まりを向上させるためには、半導体チップの分析、評価を行う必要がある。
半導体チップの評価を行うために、半導体試料に電磁波(光)や電子を照射し、試料から脱離する成分を分析する方法として、照射する波長の違いにより昇温脱離分析法や電子遷移誘起脱離法が知られている。
【0003】
昇温脱離分析法は、赤外線を照射することにより、物質が赤外線を吸収し原子レベルでの振動が誘起され、その振動エネルギーが吸着エネルギーを超えたときに起こる脱離現象を観察する方法であり、具体的には、真空チャンバ内に配置された試料としての半導体チップを温度制御しながら加熱して、試料から脱離した微量の脱離ガスを質量分析計で計測して、試料の分析、評価を行う技術である。
このような昇温脱離分析技術として、下記の従来技術(J01)が従来公知である。
(J01)特許文献1(特開平6−273383号公報)記載の技術
特許文献1には、試料を支持する試料ステージの下から赤外線を照射して試料を加熱し、加熱された試料から脱離したガスを質量分析計で検出する技術が記載されている。
【0004】
電子遷移誘起脱離法(DIET:Desorption Induced by Electronic Transitions)は、高い光子エネルギー(極端紫外光以下の短波長光子)の電磁波や電子線を固体試料表面に照射することにより、化学結合に寄与する電子を直接励起して化学結合を切断したときに起こる脱離現象を観察する方法である。
昇温脱離分析法は市販装置が存在しており、半導体やPDPの汚染分析、材料の水素吸蔵量の分析に利用されている。一方、電子遷移誘起脱離法は、現実には、未だ研究レベルを脱しておらず、Spring8に代表される大規模な放射光施設で研究が進められている。
【0005】
電子遷移誘起脱離法を利用して、実験室レベルで分析を行う技術として、下記の従来技術(J02)が公知である。
(J02)特許文献2(特開2004−53314号公報)記載の技術
特許文献2には、水銀ランプやキセノンランプ、エキシマランプ等の紫外線発生装置で発生した紫外線光を、窓材で仕切られた真空容器内の試料に照射し、発生した微量なガスを質量分析計で検出する技術が記載されている。また、特許文献2には、紫外線発生装置で発生した紫外線を分光器に導き、分光された単波長の紫外線を、試料に照射する技術も記載されている。さらに、前記分光器を操作して、照射する波長を連続的に変化させる技術も記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開平6−273383号公報
【特許文献2】特開2004−53314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(従来技術の問題点)
前記従来技術(J01)の昇温脱離分析法では、赤外域の波長の電磁波が照射され、加熱により物質を脱離させていた。この方法では、極微量の脱離成分を分析可能であるものの、試料表面のみならず、試料の内部に拡散した物質も同時に脱離するため、表面のみの汚染分析には困難が伴う。
また、プラズマディスプレイパネル(PDP)の蛍光体の寿命予測や、超寿命化のための基礎研究、或いは、製品の光劣化等の分析、評価、研究を行うために、可視域から紫外域の光を試料に照射して分析を行うことが求められているが、このような分析装置は従来存在しなかった。プロセスルールが微細化されている現在では、分析のためには製造装置と同程度の高精度の光源装置が必要となるが、このような分析装置は従来存在しなかった。分析を行うために製造装置を転用して使用することが考えられるが、製造装置を転用、流用すると、分析のためのコストが非常に高くなるという問題があった。
【0008】
したがって、昇温脱離分析法に替えて電子遷移誘起脱離法を採用することが考えられるが、従来の電子遷移誘起脱離の研究において、実験室レベルでは単波長の電子線を照射する研究しか行われておらず、光を照射する研究は実験室ではなくSPring8のような巨大な放射光施設で行われていた。前記電子遷移誘起脱離を発生させる極端紫外の光を発生させるには、極めて大型の放射光施設、具体的には、SOR(シンクロトロン軌道放射光:Synchrotron Orbital Radiation)が必要であり、実験室レベルでは実現できていなかった。
【0009】
しかしながら、試料表面から脱離する極微量物質の分析、研究には、巨大施設が提供するほどの光の出力を必要としない研究も数多く存在しており、それほど大きな出力はないが、実験室のように手元で実験ができる光励起脱離の分析装置が必要とされている。逆に、SPring8のような大規模の放射光施設で得られるSORを使用すると、光強度が強すぎて試料を破損する恐れもあった。特に、試料表面に照射される光が、所定の単一波長の光に限定されると、実験の自由度等が制限されるため、様々な波長の光を照射可能な分析装置であることが望ましい。
前記従来技術(J02)では、分光器を操作して様々な波長の光を照射できるが、紫外線発生装置と分光器が別体に構成されているため、試料に照射される紫外線のパワーが十分確保できず、光励起脱離による分析を十分行うことができないという問題があった。
【0010】
本発明は前記事情に鑑み、次の記載内容(O01),(O02)を技術的課題とする。
(O01)脱離成分を検出できる小型の光脱離分析装置を提供すること。
(O02)極端紫外域から可視域の広い波長域の光が照射可能な光脱離分析装置を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(本発明)
前記技術的課題を解決するために本発明の光脱離分析装置は、
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内を真空に排気する排気装置と、
前記真空チャンバ内に設置され、試料を保持する試料ホルダと、
前記真空チャンバに窓材を介して接続され且つ希ガスが収容された光発生部と、前記光発生部の希ガスにレーザー光を照射してプラズマを発生させて真空紫外域から可視域の光を発生させるレーザー光源装置と、前記光発生部で発生した光を分光する分光系、前記光発生部で発生した光を反射して前記分光系に集光する反射光学系および前記分光系により分光された単一波長の光を集光して前記試料に照射する集光光学系が一体的に構成された発光分光集光系とを有する光源装置と、
前記真空チャンバ内に配置され、光が照射された前記試料から脱離する物質を検出する質量分析計と、
を備えたことを特徴とする光脱離分析装置。
【0012】
(用語の定義)
なお、本願明細書および特許請求の範囲において、「一体的に構成された発光分光集光系」は、1つの光発生部内に分光系、反射光学系および集光光学系が配置されていることを意味するものとする。
【0013】
(本発明の作用)
前記構成要件を備えた本発明の光脱離分析装置では、排気装置により真空に排気される真空チャンバ内に設置された試料ホルダは、試料を保持する。光源装置のレーザー光源装置は、前記真空チャンバに窓材を介して接続され且つ希ガスが収容された光発生部の希ガスにレーザー光を照射してプラズマを発生させて真空紫外域から可視域の光を発生させる。前記光発生部に配置された反射光学系は、発生した光を反射して前記分光系に集光する。前記反射光学系により、レーザー集光点(プラズマ発生領域)に点光源を形成するようにした場合、分光効率を高めると共に、効率よく分光系に発生光を導くことができる。前記光発生部内に配置された分光系は、発生した光を分光する。前記に光源装置の光発生部内に配置された集光光学系は、前記分光系により分光された単一波長の光を集光して前記試料に照射する。前記真空チャンバ内に配置された質量分析計は、光が照射された前記試料から脱離する物質を検出する。
【0014】
したがって、巨大な施設を必要とせず、実験室レベルで分析、評価が可能な小型で、真空紫外域から可視域の波長の光が照射可能な光脱離分析装置を提供することができる。
また、光発生部、反射光学系、分光系、集光光学系を光源装置内に一体的に配置し、一体として光源装置を構成している。また、光源装置は窓材を介して真空チャンバに接続されている。したがって、光の発生、集光、分光、照射、脱離の検出を一貫して系統的に設計することができるので、光源装置内で発生した光を、効率よく試料に照射することができる。この結果、実験、分析等で使用する上で十分な出力の光を得ることができる。
また、光源装置の集光光学系の集光点を窓材の近傍に形成することもでき、この場合には、窓材を小さくすることも出来るので迷光の侵入を防ぐことも出来る。
【0015】
(発明の形態1)
発明の形態1の光脱離分析装置は、前記本発明において、
アルゴンにより構成された前記希ガス、
を備えたことを特徴とする。
(発明の形態1の作用)
前記構成要件を備えた発明の形態1の光脱離分析装置では、希ガスとしてアルゴンガスを使用するので、真空紫外域から可視域の光を発生させることができる。
【0016】
(発明の形態2)
発明の形態2の光脱離分析装置は、前記本発明または発明の形態1において、
回転軸を中心に回転可能に支持された回折格子により構成された前記分光系と、前記回折格子を回転させる分光系駆動装置と、を有し、前記回折格子を回転させることにより前記集光光学系に異なる波長の光を供給する前記光源装置と、
前記回折格子の駆動を制御して前記試料に照射される光の波長を連続的に変化させる分光系制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
(発明の形態2の作用)
前記構成要件を備えた発明の形態2の光脱離分析装置では、分光系駆動装置は、回転軸を中心に回転可能に支持された回折格子により構成された前記回折格子を回転できる。分光系制御手段は、回折格子の駆動を制御して前記試料に照射される光の波長を連続的に変化させる(波長を走引する)。したがって、試料に照射される光の波長を連続的に変化させることができる。
【0017】
(発明の形態3)
発明の形態3の光脱離分析装置は、前記本発明および発明の形態1、2のいずれかにおいて、
前記試料に照射される光の光路から離れた位置に配置され且つ、前記試料に近接して配置された前記質量分析計と、
前記質量分析計の駆動を制御して前記検出する質量数を連続的に変化させる質量分析計制御手段と、
(発明の形態3の作用)
前記構成要件を備えた発明の形態3の光脱離分析装置では、前記質量分析計は、前記試料に照射される光の光路から離れた位置に配置され且つ、前記試料近傍に配置されて前記試料から脱離した物質を検出する。質量分析計制御手段は、前記質量分析計の駆動を制御して前記検出する質量数を連続的に変化させる(質量数を走引する)。したがって、前記真空チャンバ内の照射光を遮断せず且つ脱離物質が高濃度に飛行する位置で、極微量の脱離物質を高感度で検出することができる。
【0018】
(発明の形態4)
発明の形態4の光脱離分析装置は、前記本発明および発明の形態1〜3のいずれかにおいて、
前記各光学系のF値が相互に一致するように一体的に構成された前記光源装置、
を備えたことを特徴とする。
(発明の形態4の作用)
前記構成要件を備えた発明の形態4の光脱離分析装置では、前記光源装置が一体的に構成されるので少ない光学素子で容易にF値の一致した光学系を構成することが出来るので、効率よく光を試料に照射することができ、且つ、光源装置を小型に構成することが出来る。
【0019】
(発明の形態5)
発明の形態5の光脱離分析装置は、前記本発明および発明の形態1〜4のいずれかにおいて、
前記集光光学系の1次光と2次光が重なる場合に、短波長の2次光を遮断する波長遮断フィルターを有する前記光源装置、
を備えたことを特徴とする。
(発明の形態5の作用)
前記構成要件を備えた発明の形態5の光脱離分析装置では、波長遮断フィルターは、前記集光光学系の1次光と2次光が重なる場合に、短波長の2次光を遮断するので、2次光が試料に照射されることを防止できる。
【0020】
(発明の形態6)
発明の形態6の光脱離分析装置は、前記本発明および発明の形態1〜5のいずれかにおいて、
前記真空チャンバ内で移動可能な前記試料ホルダと、
前記試料ホルダの位置を調整して、前記真空チャンバ内に導入された光の前記試料への入射角を調整する入射角調整装置と、
を備えたことを特徴とする。
(発明の形態6の作用)
前記構成要件を備えた発明の形態6の光脱離分析装置では、入射角調整装置は、前記真空チャンバ内で移動可能な前記試料ホルダの位置を調整して、前記真空チャンバ内に導入された光の前記試料への入射角を調整する。したがって、前記真空チャンバ内に導入された光の前記試料への照射位置と入射角を調整することができる。
【発明の効果】
【0021】
前述の本発明は、下記の効果(E01)〜(E04)を奏する。
(E01)脱離成分を検出できる小型の光脱離分析装置を提供することができる。
(E02)極端紫外域から可視域の広い波長域の光が照射可能な光脱離分析装置を提供することができる。
(E03)小型でありながら高感度の光脱離分析装置を提供することができる。
(E04)波長および質量数のいずれか一方の走引、または両方の同期的または非同期的走引が可能な光脱離分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(実施例)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以後の説明の理解を容易にするために、図面において、前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とし、矢印X,−X,Y,−Y,Z,−Zで示す方向または示す側をそれぞれ、前方、後方、右方、左方、上方、下方、または、前側、後側、右側、左側、上側、下側とする。
また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは紙面の裏から表に向かう矢印を意味し、「○」の中に「×」が記載されたものは紙面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0023】
図1は本発明の実施例1の光脱離分析装置の全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1の光脱離分析装置Dは、光源装置D1と、光源装置D1の下方に配置された真空チャンバD2と、光源装置D1や真空チャンバD2内の部材の制御信号や出力信号の入出力を行って光脱離分析装置D全体の制御を行う全体制御装置D3とを有する。前記全体制御装置D3は、コンピュータ装置により構成された装置本体D3aと、各種情報が表示されるディスプレイD3bと、入力装置D3c(キーボードやマウス)とを有する。
【0024】
前記光源装置D1は、内部に光発生室1aが形成された光源装置本体1を有する。前記光源装置本体1には、光発生室(光発生部)1aを真空状態に排気する第1排気ポンプP1がバルブV1を介して接続されている。また、光源装置本体1には、希ガス(光発生物質)であるアルゴン(Ar)ガスを光発生室1a内に供給する希ガス供給装置(光発生物質供給装置)2がバルブV2を介して接続されている。したがって、第1排気ポンプP1により光発生室1aを真空状態に排気した後、バルブV1を閉じて、希ガス供給装置2によりアルゴンガスを供給することで、光発生室1a内にアルゴンガスを封入することができる。なお、実施例1の光脱離分析装置Dでは、前記光発生室1aに1atm(気圧)のアルゴンガスが封入されるように設定されている。なお、アルゴンガスは封入でもよいが、0.01L/分から数L/分流しながら使用することによって、長時間安定な光発生を実現できる。
【0025】
図2は実施例1の光源装置の光路の説明図である。
図1,図2において、前記光源装置本体1の側壁にはレーザー光導入窓1bが形成されており、レーザー光導入窓1bの外側には、レーザー光Lを照射するレーザー光源装置6と、集光レンズ7とが配置されている。実施例1のレーザー光源装置6は、従来公知のNd:YAGレーザー光源装置により構成されており、照射されたレーザー光Lは集光レンズ7により集光され、レーザー光導入窓1bを通過して、光発生室1a内のプラズマ発生領域8に集光、照射される。プラズマ発生領域8のレーザー光Lの光軸L1の延長線上の光発生室1a内には、プラズマ発生領域8で吸収されず透過したレーザー光Lを吸収する光吸収体9が配置されている。なお、前記集光レンズ7をレーザー光導入窓1bと兼用して、導入窓1bを省略することも可能である。
したがって、プラズマ発生領域8に集光されたレーザー光によって、プラズマ発生領域8のアルゴンガスがプラズマ化され、真空紫外域から可視光域までの光が発生する。なお、アルゴンガスのプラズマ化により真空紫外域から可視光域までの光が発生することは、本願発明者らが発表した文献(Masanori KAKU, Takahiro YAMAMURA, Shoichi KUBODERA and Wataru SASAKI , Vacuum Ultraviolet Emission from a Laser-Produced Plasma , Surface Review and Letters , World Scientific Publishing Company , 2002年 , 第9巻(Vol.9),第1号(No.1), P615−619)に記載されており、従来公知である。
【0026】
図1,図2において、プラズマ発生領域8の右上方には、プラズマ発生領域8で発生した光を反射するための反射光学系としての凹面鏡11が固定支持されている。前記凹面鏡11の左下方のプラズマ発生領域8を挟んだ位置には、凹面鏡11からの光が照射される凹面状の回折格子(分光系)12が配置されている。前記回折格子12とプラズマ発生領域8との間には、使用波長に応じて2次回折光を遮断する波長遮断フィルターF1が配置されている。なお、前記波長遮断フィルターF1は、回折格子12とプラズマ発生領域8との間に挿入されて2次回折光を遮断する光遮断位置と、回折格子12とプラズマ発生領域8との間から離脱した離脱位置との間を移動可能に構成されており、図示しないフィルター制御装置により必要に応じて光遮断位置に移動可能に制御される。
【0027】
前記回折格子12は、回転軸12aを中心に回転可能に構成されており、導入された光を分光して特定の波長の光のみを取り出す。前記回折格子12の回転軸12aには回折格子駆動装置13が接続されており、前記全体制御装置D3からの制御信号に応じて、回折格子12の回転位置を調整して、取り出される光の波長を調整する。なお、実施例1では、前記光の波長は110nm〜360nmの範囲で連続的に走引可能に設定されている。
前記回折格子12の右方には、回折格子12で分光された所望の単一波長以外の波長の光と迷光を除去する第1の絞り16aが配置されている。前記第1の絞り16aの右方には、第1の絞り16aを通過した単一波長光を試料S表面に集光させる集光光学系17が配置されている。前記集光光学系17の下方には、第2の絞り16bが配置されている。前記第2の絞り部材16bの下方には、光源装置本体1の下端開口1cが形成されており、下端開口1cには蛇腹状の接続部材18を介して光導出口形成部材19が支持されている。前記光導出口形成部材19には、光導出口19aが形成されている。
【0028】
なお、実施例1では、反射光学系としての凹面鏡11、回折格子12及び集光光学系17のF値(焦点距離を受光部の大きさ(有効口径)で割った値)が一致するように設計されている。また、実施例1の反射光学系11は、焦点がプラズマ発生領域8に設定されており、プラズマ発生領域8(レーザー集光点)に点光源を形成することにより、分光効率を高めると共に、効率よく分光系に発生光を導く。さらに、回折格子12および集光光学系17の焦点は、それぞれ絞り16a、16bの位置に設定されている。
前記反射光学系(凹面鏡11)、分光系12、絞り16a、16b、集光光学系17等により実施例1の発光分光集光系(11〜17)が構成されている。また、実施例1では、プラズマ発生領域8および発光分光集光系(11〜17)が光発生部1a内に配置されており、一体的に構成されている。
【0029】
図1において、前記真空チャンバD2は、チャンバ本体21を有する。前記真空チャンバD2のチャンバ本体21の上端部には、前記導出口形成部材19に対応したフランジ部D2aが形成されており、フランジ部D2aには光導入口D2bが形成されている。前記フランジ部D2aと前記光導出口19との間には、窓材20が配置されている。したがって、絞り16bを通過した単一波長光は、窓材20を介して真空チャンバD2に導入される。なお、集光系17の集光点を窓材20の位置になるように設計すると窓の大きさで絞り16bを兼用することが出来る。なお、実施例1の窓材20は、真空紫外域(100nm程度〜)から可視域までの波長の光を透過可能なフッ化マグネシウム(MgF)の窓材により構成されている。したがって、実施例1では真空チャンバD2は光発生室1aに窓材20を介して整合的に接続されている。
チャンバ本体21には、第2排気ポンプ(排気装置)P2が接続されており、第2排気ポンプP2によりチャンバ本体21内の試料室21aは超高真空状態に排気される。実施例1では、前記第2排気ポンプP2としてターボ分子ポンプ(TMP:Turbo Molecular Pump)を使用しており、チャンバ本体21内は10−7Pa以下の超高真空に排気される。
【0030】
前記チャンバ本体21の上端部の光導入口D2bの下方には、試料台(試料ホルダ)23が配置されている。試料台23は、チャンバ本体21に支持された固定部23aと、固定部に対して3軸方向に回転可能に支持され且つ上面に試料Sを保持する試料保持部23bとを有する。すなわち、実施例1の試料台23には、3軸回転機構が内蔵されている。前記試料保持部23bは、試料台駆動装置(入射角調整装置)24に接続されており、前記全体制御装置D3からの制御信号に応じて、試料保持部23bの回転位置を調整して、試料Sの位置を調整する。なお、3軸回転機構は従来公知(例えば、特開平05−281161号公報等参照)であり、種々の構成を採用可能である。また、前記試料保持部23bの試料Sは、図示しない試料交換装置(例えば、特開平6−273383号公報に記載のロードロックチャンバを有する試料交換装置等参照)により交換される。
【0031】
前記試料Sの斜め上方には、質量分析計26が支持されている。実施例1の質量分析計26のガス検出部26aは、前記照射光学系22による光の光路から離れた位置で且つ試料Sの近傍位置に近接して配置されている。前記質量分析計26は、全体制御装置D3に接続されており、検出された脱離物質(脱離ガス)の質量数を検出する。なお、質量分析計は、市販の質量分析計を使用可能であるため、詳細な説明は省略する。また、実施例1の質量分析計は、ガス検出部26aの先端部と試料Sとの距離が10cm〜15cm程度に近接させることが望ましい。
なお、実施例1の光源装置D1では、試料Sに照射される光の出力は0.1〜0.2[mW/cmnm]に設定されている。
【0032】
図3は実施例1の全体制御装置の制御部分が備えている各機能をブロック図(機能ブロック図)で示した図である。
図3において、全体制御装置D2の装置本体D3aは、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ハードディスクやROM等に記憶されたプログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)、ならびにクロック発振器等を有している。
前記構成の全体制御装置D3は、前記ハードディスクやROM等に記憶されたプログラム(アプリケーションプログラム)を実行することにより種々の機能を実現することができる。前記全体制御装置D3の測定プログラムPの機能(制御手段)を以下に説明する。
【0033】
図4は実施例1のディスプレイD3bに表示される画像の一例の説明図である。
P1:画像表示手段
画像表示手段P1は、入力装置D3cや質量分析計26から入力された測定結果の信号等に応じて、ディスプレイ(情報表示画面)D3bに画像を表示する。図4において、実施例1の画像表示手段P1は、測定プログラムPが起動されるとメイン画像31をディスプレイD3bに表示し、エラーが発生すればエラー表示をする。図4のメイン画像31は、計測結果が表示される計測結果表示欄32と、試料に照射される光の波長の走引を開始する走引開始波長λ1が入力される走引開始波長入力欄33と、試料に照射される光の波長の走引を終了する走引終了波長λ2が入力される走引終了波長入力欄34と、質量分析計26で測定する質量数の走引を開始する走引開始質量数M1が入力される走引開始質量数入力欄35と、質量分析計26で測定する質量数の走引を終了する走引終了質量数M2が入力される走引終了質量数入力欄36と、光の照射が開始されてから質量分析計での測定を開始するまでの待ち時間(インターバル時間)t1が入力されるインターバル時間入力欄37と、光を照射して脱離したガスの質量数の測定を開始する計測開始アイコン38と、測定プログラムPを終了する終了アイコン39と、試料台23のX軸回りの回転角度が入力されるX軸回転角入力欄41と、試料台23のY軸回りの回転角度が入力されるY軸回転角入力欄42と、試料台23のZ軸回りの回転角度が入力されるZ軸回転角入力欄43と、試料台23の傾斜を実行する実行開始アイコン44とを有する。なお、実施例1では、λ1≦λ2、M1≦M2、t1≧0に設定可能に設計されている。したがって、照射する光の波長を固定して質量数を走引したい場合には、λ1=λ2且つM1<M2とすればよく、質量数を固定して照射する光の波長を走引したい場合には、λ1<λ2且つM1=M2とすればよい。また、インターバル時間は、使用される試料Sにより異なる脱離ガスの発生しやすさ等に応じて、状態が安定するまでの時間を設定可能であり、t1=0(待ち時間無し)とすることも可能である。
【0034】
P2:設定値記憶手段
設定値記憶手段P2は、走引波長(走引開始波長λ1及び走引終了波長λ2)を記憶する走引波長記憶手段P2aと、走引質量数(走引開始質量数M1および走引終了質量数M2)を記憶する走引質量数記憶手段P2bと、インターバル時間t1を記憶するインターバル時間記憶手段P2cと、試料台回転角度(X軸回転角度、Y軸回転角度、Z軸回転角度)を記憶する試料台回転角度記憶手段P2dとを有し、測定で使用される各設定値λ1,λ2,M1,M2,t1等を記憶する。
P3:レーザー光源装置制御手段
レーザー光源装置制御手段P3は、レーザー光源装置6の駆動を制御して、光発生室1aのプラズマ発生領域8へのレーザー光Lの照射を制御する。即ち、光発生室1での光の発生を制御する。
【0035】
P4:分光系制御手段
分光系制御手段P4は、前記分光系駆動装置13を介して分光系(回折格子)12の駆動を制御し、分光される光の波長を調整する。実施例1の分光系制御手段P4は、設定値記憶手段P2に記憶された走引開始波長λ1および走引終了波長λ2に応じて、回折格子12の回転位置を調節して、照射する光の波長を走引開始波長λ1〜走引終了波長λ2の範囲を1nm刻みで波長を走引する(連続的に変化させる)。
P5:質量分析計制御手段
質量分析計制御手段P5は、インターバル時間計時タイマTM1と測定結果記憶手段P5aとを有し、質量分析計26の駆動を制御して、質量分析を行う。実施例1の質量分析計制御手段P5は、設定値記憶手段P2に記憶された走引開始質量数M1および送信終了質量数M2に基づいて、走引開始質量数M1〜走引終了質量数M2の範囲で検出する質量数を走引し(連続的に変化させ)、質量分析計26から送信された測定結果を受信する。
【0036】
TM1:インターバル時間計時タイマ
インターバル時間計時タイマTM1は、設定値記憶手段P2に記憶されたインターバル時間t1がセットされ、インターバル時間t1が経過するとタイムアップする。
P5a:測定結果記憶手段
測定結果記憶手段P5aは、質量分析計26から送信された測定結果を記憶する。
P6:試料台制御手段
試料台制御手段P6は、設定値記憶手段P2に記憶された試料台回転角度に応じて、試料台駆動装置24を介して試料台23を回転(傾斜)させる。
P7:フィルター制御手段
フィルター制御手段P7は、図示しないフィルター制御装置を制御して、波長遮断フィルターF1を光遮断位置と離脱位置との間で移動させる。実施例1のフィルター制御手段P7は、回折格子12で分光後の単波長光の波長が遮断波長(実施例1では200nm)より大きい場合に、遮断波長以下の高次回折光を遮断するために遮断位置に移動するように設定されている。例えば、照射される波長が320nmの場合に、2次回折光である160nmの波長の光を遮断する。
【0037】
(フローチャートの説明)
(メインフローチャートの説明)
図5は実施例1の全体制御装置に組み込まれた測定プログラムのメインフローチャートである。
図5のフローチャートの各ST(ステップ)の処理は、装置本体D3aのハードディスク等に記憶された測定プログラム(アプリケーションプログラム)に従って行われる。また、この処理は全体制御装置D3の他の各種処理と並行してマルチタスクで実行される。
図5に示すフローチャートは全体制御装置D3において、測定プログラムが起動されたときに開始される。
【0038】
図5のST1において、メイン画像31をディスプレイD2bに表示して、ST2に進む。
ST2において、計測開始の入力がされたか否か、即ち、計測開始アイコン38を選択する入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST3に進み、ノー(N)の場合はST4に進む。
ST3において、各設定値(走引開始波長λ1、走引終了波長λ2、走引開始質量数M1、走引終了質量数M2およびインターバル時間t1)が各入力欄33〜37に入力されているか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST4に進み、ノー(N)の場合はST5に進む。
ST4において、未入力の設定値があることを告知するエラー画像をディスプレイD2bに表示する。そしてST2に戻る。
ST5において、各設定値に応じて波長の走引や質量数の走引を行って脱離ガスの質量数の計測を行う計測処理(後述する図6のサブルーチン参照)を実行し、ST2に戻る。
【0039】
ST6において、試料台23の傾斜実行の入力がされたか否か、即ち、傾斜実行アイコン44を選択する入力がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST7に進み、ノー(N)の場合はST8に進む。
ST7において、設定値(各軸回転角度)に応じて試料台23を回転させる(傾斜させる)。そして、ST2に戻る。
ST8において、計測プログラムPを終了する入力がされたか否か、即ち、終了アイコン39を選択する入力がされたか否かを判別する。ノー(N)の場合はST9に進み、イエス(Y)の場合は計測プログラムPを終了する。
ST9において、その他の入力(例えば、各入力欄33〜37および41〜43への入力)がされたか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST10に進み、ノー(N)の場合はST2に戻る。
ST10において、入力に応じてメイン画像31を更新する。そして、ST2に戻る。
【0040】
(計測処理の説明)
図6は実施例1の計測処理のフローチャートであり、図5のST5のサブルーチンの説明図である。
図6のST11において、レーザー光源装置6を駆動し、レーザー光Lの照射を開始する。そして、ST12に進む。
ST12において、設定値記憶手段P2に記憶された走引開始波長λ1に応じて、回折格子12を駆動する。そして、ST13に進む。
ST13において、設定値記憶手段P2に記憶されたインターバル時間t1をインターバル時間計時タイマTM1にセットする。そして、ST14に進む。
ST14において、インターバル時間計時タイマTM1がタイムアップしたか否かを判別する。即ち、インターバル時間t1が経過したか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST15に進み、ノー(N)の場合はST14を繰り返す。
【0041】
ST15において、質量分析計を駆動して、走引開始質量数M1での脱離ガスの質量数の計測を開始する。そして、ST16に進む。
ST16において、現在計測中の質量数が走引終了質量数であるか否かを判別する。ノー(N)の場合はST17に進み、イエス(Y)の場合はST18に進む。
ST17において、質量分析計を制御して、検出する質量数を変更する。実施例1では、計測対象の質量数を1大きくする。そして、ST16に戻る。
ST18において、現在照射されている光の波長が走引終了波長λ2であるか否かを判別する。ノー(N)の場合はST20に進み、ノー(N)の場合はST23に進む。
【0042】
ST19において、回折格子12を駆動して、分光される光の波長(照射される光の波長)を変更する。実施例1では、波長を1nm大きくする。そして、ST20に進む。
ST20において、変更後の波長は遮断波長より大きいか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST21に進み、ノー(N)の場合はST22に進む。
ST21において、波長遮断フィルターF1を遮断位置に移動させる。そして、ST13に戻る。
ST22において、波長遮断フィルターF1を離脱位置に移動させる。そして、ST13に戻る。
ST23において、次の処理(1)、(2)を実行して、計測処理を終了し、図5のメインフローチャートに戻る。
(1)計測結果を計測結果表示欄32に表示する。
(2)各装置(レーザー光源装置6や回折格子12、質量分析計26等)の駆動を停止する。
【0043】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の光脱離分析装置Dでは、レーザー光源装置6から照射されたレーザーにより希ガスがプラズマ化され、光が発生する。発生した光は、反射光学系11により反射され回折格子12で分光され、真空紫外域から可視域のいずれかの単波長の光が真空チャンバD2内の試料Sに照射される。光が照射された試料Sからは、真空チャンバD2内に物質(汚染物質、付着物質等)が光化学反応により分解して脱離し、質量分析計26で脱離した物質の検出できる。したがって、前記回折格子12を所定の位置に保持し、特定の単波長光を試料Sに照射して、質量分析計26の質量数を走引(スキャン)することで(ST15〜ST17参照)、特定の単波長の光を照射した場合における光脱離物質の同定を行うことができる。そして、前記回折格子12を回転駆動して、試料Sに照射される光の波長を順次変更することで(ST12,ST18、ST19参照)、異なる単波長の光を照射した場合における光脱離物質の同定を行うことができる。また、回折格子12は、連続的に回転させることができるので、試料Sに照射される光の波長を連続的に変化させることができる。したがって、光の波長および質量数のいずれか一方または両方を走引して、計測を行うことができる。このため、物質の分解を、照射する光の波長で制御することにより、物質の同定なども可能になる。
【0044】
さらに、実施例1の光脱離分析装置Dでは、光源装置D1の本体1に、プラズマ発生領域8や反射光学系(凹面鏡)11、回折格子12、集光光学系17を一体的、一貫的に設計、配置することにより、プラズマ発生領域8での発光を効率よく取り出し、光脱離のために必要で十分な出力の光を試料Sに照射することができる。すなわち、実施例1の光脱分析装置Dでは、SORに対して集光性や光強度が及ばないが、一貫的に設計、配置することで、実用的な光脱離分析装置を提供することができた。
したがって、光源装置D1としてレーザー励起プラズマ光源装置を使用した実施例1の光脱離分析装置Dにより、試料Sから光脱離した物質(脱離ガス)を検出し、分析、評価することができる。この結果、巨大な放射光施設を必要とせず、実験室レベルで使用可能な小型かつ低コストの光脱離分析装置Dにより、真空紫外域から可視域までの光を使用した光脱離による試料Sの分析等を行うことができる。
このため、例えば、試料としてのプラズマディスプレイパネル(PDP)の蛍光体の寿命予測や、超寿命化のための基礎研究、或いは、製品の光劣化等の分析評価を実験室で行うことができる。特に、出力が強すぎる巨大な放射光施設の光を使用した場合に、出力が強すぎる光により試料Sが破損する恐れも低減することができる。
【0045】
また、実施例1の光脱離分析装置Dでは、回折格子12を制御することで、試料Sに照射する光の波長を連続的に調整することができる。この結果、1台の光脱離分析装置Dで、試料Sに様々な波長の光を照射でき、波長毎の分析、評価等もできる。
さらに、実施例1の光脱離分析装置Dでは、試料台23に3軸回転機構が組み込まれているので、光の試料Sへの入射角を自由に調整でき、脱離ガスに方向性がある場合に、質量分析計26のガス検出部26aで脱離ガスを効率的に検出できる。
また、実施例1の光脱離分析装置Dでは、質量分析計26のガス検出部26aは、前記照射光学系22による光の光路から離れた位置で且つ試料Sの近傍位置に近接して配置されているので、光の影響をほとんど受けずに脱離ガスを検出することができる。
【0046】
さらに、実施例1の光脱離分析装置Dでは、凹面鏡11と集光光学系17のF値が一致しているので、最も効率よく光学系を構成することができる。一般に、F値が小さいほど多くの光を取り込むことができるが、複数の光学系が組み合わされる場合、最も大きいF値(即ち最も暗い光学系)によって全体の明るさが決まってしまう。したがって、実施例1のようにF値を一致させることにより、F値が異なる場合に高価で明るい光学系を使用しても暗い光学系に全体が影響を受けてしまったり、明るい光学系が余分な光を取り込んでしまい試料に単一波長の光を照射する場合に迷光(希望しない光)が照射されたりすることも防止でき、効率が悪くなることを防止できる。
【0047】
さらに、実施例1の光源装置D1では、集光光学系17の集光点が窓材20の近傍に形成されているので、窓材20を小さくすることも出来るので迷光の侵入をさらに低減できる。
また、光学系をそれぞれ独立に設計する場合に比べ、F値を合わせた光学系を一貫して設計することでバランスの良い明るい光学系を構成することができる。特に、実施例1の光源装置D1は、一体的に構成されるので少ない光学素子で容易にF値の一致した光学系を構成することもできる。したがって、実施例1の光源装置D1では、真空紫外領域でしかもSORに比べて微弱な光を扱うので、F値を合わせて効率の良い光学系を設計することにより、光のロスを低減することができ、効率よく光を試料に照射することができる。また、光学素子を減らすことができるので、光源装置D1を小型化でき、製作コストも抑えることができる。
【0048】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H08)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、光源装置D1として、真空チャンバD2に固定支持された据え置き型の光源装置を例示したが、これに限定されず、特定の単波長の光を照射可能な複数の光源装置を交換可能な構成とすることも可能である。したがって、使用目的に合わせてアルゴンエキシマランプ、クリプトンエキシマランプ、キセノンエキシマランプ、低圧水銀ランプ等の光源を、交換することにより複数の波長の光を試料Sに照射するように構成することも可能である。
【0049】
(H02)前記実施例において、分光系は回転可能な回折格子に限定されず、従来公知の任意の分光系を採用可能である。
(H03)前記実施例において、3軸回転機構を内蔵した試料台を採用したがこれに限定されず、固定の試料台や、スライドテーブル等の任意の試料台を採用可能である。また、入射角の調整を試料台の3軸回転機構で行ったが、照射光学系に複数の反射鏡を設け、試料Sへの入射角を照射光学系で調整するように構成することも可能である。
(H04)前記実施例において、試料台(試料ホルダ)23に試料Sを加熱する構成(前記特許文献1等参照)を組み込んで、1台の分析装置で、光による脱離の分析と熱による脱離の分析とを実行可能とすることも可能である。
【0050】
(H05)前記実施例において、波長遮断フィルターFを配置する位置は光学系(11〜17)の光路上の任意の位置に変更可能である。また、フィルターFは、照射される単波長に応じて複数のフィルターFを準備しておき、適切なフィルターを波長遮断位置に移動させるように構成することも可能である。なお、波長遮断フィルターFは設けることが望ましいが、省略することも可能である。
(H06)前記実施例において、光学系11〜17のレンズや絞りの数は、例示した構成に限定されず、3つ以上のレンズとしたり絞りを1つにする等、設計に応じて任意に変更可能である。このとき、F値は合わせることが望ましいが、異なるF値の光学系を組み合わせることも可能である。
【0051】
(H07)前記実施例において、表示画像31は、仕様や設計等に応じて、任意に変更可能である。また、計測結果の表示方法も例示した3次元のグラフに限定されず、任意の形式の表示方法とすることが可能であり、ユーザが表示したいグラフの形式(折れ線グラフ、円グラフ、棒グラフ、散布図等)を設定可能とすることも可能である。
(H08)前記実施例において、波長および質量数のいずれか一方を固定した状態で他方を走引したが、これに限定されず、分析したい内容に応じて波長と質量数の両方を同時に走引させるように設計することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は本発明の実施例1の光脱離分析装置の全体説明図である。
【図2】図2は実施例1の光源装置の光路の説明図である。
【図3】図3は実施例1の全体制御装置の制御部分が備えている各機能をブロック図(機能ブロック図)で示した図である。
【図4】図4は実施例1のディスプレイD3bに表示される画像の一例の説明図である。
【図5】図5は実施例1の全体制御装置に組み込まれた測定プログラムのメインフローチャートである。
【図6】図6は実施例1の計測処理のフローチャートであり、図5のST5のサブルーチンの説明図である。
【符号の説明】
【0053】
1a…光発生部、
6…レーザー光源装置、
11…反射光学系、
12…回折格子、
12a…回転軸、
13…分光系駆動装置、
22…照射光学系、
23…試料ホルダ、
24…ホルダ調整装置、
26…質量分析計。
42a…ガス流入路、
42b…ガス流出路、
43…放電電極、
D…光脱離分析装置、
D1…光源装置、
D2…真空チャンバ、
P2…排気装置、
S…試料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内を真空に排気する排気装置と、
前記真空チャンバ内に設置され、試料を保持する試料ホルダと、
前記真空チャンバに窓材を介して接続され且つ希ガスが収容された光発生部と、前記光発生部の希ガスにレーザー光を照射してプラズマを発生させて真空紫外域から可視域の光を発生させるレーザー光源装置と、前記光発生部で発生した光を分光する分光系、前記光発生部で発生した光を反射して前記分光系に集光する反射光学系および前記分光系により分光された単一波長の光を集光して前記試料に照射する集光光学系が一体的に構成された発光分光集光系とを有する光源装置と、
前記真空チャンバ内に配置され、光が照射された前記試料から脱離する物質を検出する質量分析計と、
を備えたことを特徴とする光脱離分析装置。
【請求項2】
アルゴンにより構成された前記希ガス、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の光脱離分析装置。
【請求項3】
回転軸を中心に回転可能に支持された回折格子により構成された前記分光系と、前記回折格子を回転させる分光系駆動装置と、を有し、前記回折格子を回転させることにより前記集光光学系に異なる波長の光を供給する前記光源装置と、
前記回折格子の駆動を制御して前記試料に照射される光の波長を連続的に変化させる分光系制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の光脱離分析装置。
【請求項4】
前記試料に照射される光の光路から離れた位置に配置され且つ、前記試料に近接して配置された前記質量分析計と、
前記質量分析計の駆動を制御して前記検出する質量数を連続的に変化させる質量分析計制御手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の光脱離分析装置。
【請求項5】
前記各光学系のF値が相互に一致するように一体的に構成された前記光源装置、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の光脱離分析装置。
【請求項6】
前記集光光学系の1次光と2次光が重なる場合に、短波長の2次光を遮断する波長遮断フィルターを有する前記光源装置、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の光脱離分析装置。
【請求項7】
前記真空チャンバ内で移動可能な前記試料ホルダと、
前記試料ホルダの位置を調整して、前記真空チャンバ内に導入された光の前記試料への入射角を調整する入射角調整装置と、
を備えたことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の光脱離分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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