説明

光触媒、その製造方法および光触媒を用いた物品

【課題】各種物質に対する吸着特性および分解特性に優れた光触媒を提供する。
【解決手段】本光触媒は、多孔体をチタンアパタイトで被覆してなる。多孔体が珪藻土であることが好ましい。共沈法またはゾルゲル法により本光触媒を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌、殺菌等の機能を有する物品、たとえば、空気清浄機、エアコンディショナーのフィルター、壁紙、カーテン等に使用される、新規な光触媒に関する。なおここで、光触媒とは、紫外線等の光線により、近接する有機化合物や細菌などの有害物質を分解することのできる材料と定義することができる。
【背景技術】
【0002】
光触媒チタンアパタイト(たとえば特許文献1参照。)は各種物質に対し優れた吸着特性を示すことが知られている(たとえば、非特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、チタンアパタイトは、通常粉体の形態をとり、凝集しやすく、活性炭や珪藻土等に比べると体積当たりの吸着特性が低い。従って、空気浄化等の応用では、さらなる吸着特性の向上が必要である。
【特許文献1】特許第3,678,606号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】マサオ・ワカムラ等,「ラングミュア”Langmuir”」,2003年,第19巻,p.3428−3431
【非特許文献2】富士通研究所,”優しい技術講座−光触媒技術”,[online],2004年3月31日更新,2005年10月17日検索,インターネット,http://www.labs.fujitsu.com/jp/gijutsu/catalyst/index.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題を解決し、新規な、各種物質に対する吸着特性および分解特性に優れた光触媒を提供することを目的としている。本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、多孔体をチタンアパタイトで被覆してなる光触媒が提供される。
【0006】
前記多孔体が珪藻土であること、光触媒の表面に細孔が存在すること、前記チタンアパタイトが共沈法により形成されたものであることまたは、前記チタンアパタイトがゾルゲル法により形成されたものであること、光触媒が焼結体またはバインダーとの混合物であること、が好ましい。
【0007】
本発明の他の一態様によれば、多孔体にチタンアパタイトを被覆してなる光触媒の製造方法であって、共沈法によって生成したチタンアパタイトを多孔体上に析出させる光触媒の製造方法が提供される。
【0008】
前記多孔体が珪藻土であること、前記共沈法によるチタンアパタイトの形成中に、前記チタンアパタイトの形成に使用される媒体中に前記多孔体を共存させること、チタンアパタイトを構成するカルシウム、チタン、リンを含む原料をすべて前記媒体中に投入後、チタンアパタイト析出剤の添加完了前に、前記多孔体を前記媒体中に投入すること、100℃以下の系温度で前記共沈法を実施すること、前記多孔体表面に細孔が存在するうちに前記析出を停止させること、系温度の低下および/または固形生成物のろ過により前記析出を停止させること、が好ましい。
【0009】
本発明のさらに他の一態様によれば、多孔体にチタンアパタイトを被覆してなる光触媒の製造方法であって、ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中に多孔体を投入し、当該チタンアパタイトを当該多孔体上に析出させる光触媒の製造方法が提供される。
【0010】
前記多孔体が珪藻土であること、前記ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中における、チタン濃度が、チタンアパタイト換算値で0.001〜0.5重量%の範囲にあること、前記多孔体の投入前に、前記液体を希釈すること、が好ましい。
【0011】
上記の発明態様によれば、各種物質に対する吸着特性および分解特性に優れた光触媒を得ることができる。
【0012】
本発明のさらに他の態様によれば、上記の光触媒を用いた物品であって、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌からなる群から選ばれた少なくとも一つの機能を有する物品および、上記の光触媒の製造方法を使用して製造された光触媒を用いた物品であって、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌からなる群から選ばれた少なくとも一つの機能を有する物品が提供される。
【0013】
これらの発明態様によれば、各種物質に対する吸着機能および分解機能に優れた物品を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、各種物質に対する吸着特性および分解特性に優れた光触媒を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施の形態を図、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0016】
本発明におけるチタンアパタイトとはカルシウムアパタイトの一部をチタンで置換した物質を意味し、光触媒性能を有することが知られている(非特許文献2参照。)。
【0017】
チタンアパタイトは水和物でもよい。チタンアパタイトは、たとえば、Ca10(PO(OH)で表されるカルシウムヒドロキシアパタイトにおけるカルシウムの一部がチタンで置き換わったCaTi(PO(OH)で表される。
【0018】
なお、本発明において使用されるチタンアパタイトにおけるカルシウムとチタンとリンとの相互比率は必ずしも上記組成に完全に合致する必要はなく、たとえば、X線回折で結晶相を調べた結果、アパタイト構造を示す回折パターンが得られ、XPSにより粉体の表面分析を行った結果、チタンアパタイトの金属成分であるCaとTiとが検出でき、光触媒としての機能を発揮するものであれば、本発明に係るチタンアパタイトとして扱うことができる。また、アパタイトはイオン性の強い結晶であり、金属イオンの置換が容易なため、さまざまな元素を含有させることができる。したがって、Ca,Ti以外の元素が含まれていても、アパタイトの結晶構造であり光触媒機能を有していれば、チタンアパタイトとして扱うことができる。
【0019】
チタンアパタイトの光触媒活性は酸化チタンより劣ることが多い。これは、通常、直径が50nm程度の一次粒子が凝集した二次粒子からなる粉体の形態を取り、その比表面積が30m/g程度にとどまるためではないかと考えられている。チタンアパタイトは、粉砕により微粉化を図っても、再凝集により、高い比表面積が得られず、一般的にその光触媒活性を上げることが困難である。なお、本明細書において、「光触媒活性」という場合は、主に分解特性を指すが、吸着特性をも含めて指す場合もある。
【0020】
多孔体(たとえば珪藻土)をチタンアパタイトで被覆してなる光触媒は、光触媒として作用する場合の対象物である各種物質、たとえはアルデヒドに対し、優れた吸着特性および、分解特性を与えることが見出された。なお、アルデヒド以外に、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌の対象物のすべてが「光触媒として作用する場合の対象物」となり得る。
【0021】
通常、珪藻土のような多孔体を何らかの剤で被覆する場合、その細孔内部には被膜が形成されず粒子の表面にのみ被膜が形成されたり、その逆に、細孔内部には被膜が形成されるが、被膜で細孔が埋まってしまうという問題があったが、本発明に係るチタンアパタイトでは、そのような問題を容易に避けることができるためであろうと推察されている。
【0022】
本発明に係る多孔体としては、特に制限はないが、比表面積が大きいものが好ましく、多孔体に光触媒機能を発揮させるため使用される紫外線が透過性を有する場合には、多孔体内部に複雑な多孔のつながりをもつものが好ましい。本発明に係る多孔体としては、活性炭、セラミック多孔体、珪藻土を挙げることができるが、多孔体に光触媒機能を発揮させるため使用される紫外線が透過性を有する点で、特に珪藻土が好ましい。
【0023】
珪藻土は、比表面積が10〜100m/g程度と、通常のセラミック粉体と同等の比表面積を有するが、微粉体の凝集体ではなく複雑な細孔を有する比較的大きな粒子の集合体である。この特異な微構造のため、同じ比表面積でも、水分や各種ガスの吸着特性が優れている。また、珪藻土の主成分はSiOであるため、光触媒活性に有効な350〜400nmの近紫外線に対して透光性を示す。従って、珪藻土の内部におけるチタンアパタイト被覆についても光触媒機能を期待することができる。
【0024】
本発明に係る多孔体に対するチタンアパタイトの被覆の状態については特に制限はない。たとえば、被覆の程度は膜状に多孔体を覆っていても、アイランド状になっており、多孔体の一部がむき出しになっていてもよい。ただし、本発明に係る多孔体にチタンアパタイトを被覆してなる光触媒には、その表面に細孔が存在することが好ましい。すなわち、電子顕微鏡等で観察し場合に細孔として観察される凹部が存在することが好ましい。光触媒作用対象物が多孔構造内部にまで進入でき、光触媒機能を十分発揮させることができるからである。その場合、細孔の内部にまでチタンアパタイトの被覆が及んでいること自体は差し支えなく、むしろ好ましい。
【0025】
なお、光触媒作用対象物が多孔構造内部にまで進入できるという観点からは、細孔は多ければ多い方が好ましいが、一般的にはチタンアパタイトの被覆量と反比例的関係にあるので、実状に合わせて適宜選択することが実際的である。
【0026】
被覆における多孔体とチタンアパタイトとの結合力についても特に制限はない。通常の取扱いにおいて、多孔体からのチタンアパタイトの剥落が多くなければ実用上差し支えないと考えてよい。
【0027】
本発明に係る光触媒の形状は、粉体形状の他、どのようなものでもよく。塊状、シート状、繊維状等の形状を挙げることができる。
【0028】
本発明に係る光触媒は、多孔体とチタンアパタイトとを必須の成分として含むが、本発明の趣旨に反しない限り他の物質が共存していてもよい。そのような共存物質としては、酸化チタン等の他の光触媒機能を有する物質や、通常粉体である光触媒に他の形状を付与するためのバインダーを含めることができる。バインダーには無機バインダーも有機バインダーも含まれる。無機バインダーを含む典型的な場合は、光触媒が焼結体である場合である。有機バインダーを含む典型的な場合は、高温の熱処理を経ずに光触媒に種々の形状を与える場合、すなわち、本発明に係る光触媒がバインダーとの混合物である場合である。本発明に係る光触媒を焼結等の熱処理に付す場合には、チタンアパタイトの結晶構造を破壊しないように注意を払う必要があるが、それ以外には特に制限はない。
【0029】
本発明に係る光触媒は、いわゆる湿式法で作製することができる。湿式法としては、共沈法とゾルゲル法とを挙げることができる。
【0030】
共沈法とは、カルシウムアパタイトを合成する際にチタン化合物を共存させて共沈により、チタンアパタイトを得る方法である。共沈法の具体例としては、硝酸カルシウムとリン酸と硫酸チタンとを媒体である水に投入して、酸性水溶液を得、これにチタンアパタイト析出剤(たとえばアンモニア水)を加えて沈殿物を得る方法を挙げることができる。
【0031】
上記媒体としては水が使用される。使用される水としては、得られた光触媒が所望の性能を有する限りどのようなものでもよいが、反応への外乱を防止する意味からは、イオン交換水や純水が好ましい。酸の影響を防止する意味からは脱炭酸水が好ましい場合もある。
【0032】
ゾルゲル法とは、含水酸化物等のゾルを脱水処理してゲルとし、このゲルを、必要であれば加熱して、粒子、フィルム等の形状に加工する方法であって、通常は無機酸化物が得られるが、本発明に係る場合はチタンアパタイトあるいはその水和物が得られる。
【0033】
いずれの手法においても、一般に、濾過、洗浄、乾燥および熱処理による結晶化後にチタンアパタイトの粉体が得られる。なお、これらの工程以外の工程を含む方法によって得られたチタンアパタイトも、これらの工程以外の工程によって得られたチタンアパタイトも、本発明の範疇に属する。
【0034】
共沈法によって生成したチタンアパタイトを多孔体上に析出させることで、本発明に係る光触媒を得ることができる。より具体的には、共沈法によるチタンアパタイトの形成中に、チタンアパタイトの形成に使用される媒体中に多孔体を共存させるようにするのである。
【0035】
この場合、反応系中でのチタンアパタイトの析出が開始しないうちに多孔体を上記媒体中に投入することが好ましい。より具体的には、チタンアパタイト析出剤の添加前に投入することが好ましい。チタンアパタイト析出剤とは一般に酸性雰囲気である反応系内を塩基性に変え、チタンアパタイトを析出させるための剤であり、塩基性物質を使用できる。上記のアンモニア水が好ましい。なお、チタンアパタイトを構成するカルシウム、チタン、リンを含む原料をすべて媒体中に投入する前は、多孔体を投入しておいてもあまり意味がなく、かえって副反応を惹起する可能性もあり得るので、さらに限定的には、チタンアパタイトを構成するカルシウム、チタン、リンを含む原料をすべて媒体中に投入した後であって、チタンアパタイト析出剤の添加前に多孔体を投入することが好ましい。
【0036】
共沈法におけるチタンアパタイトの生成速度を調整することは、多孔体上へのチタンアパタイトの析出(従ってチタンアパタイトによる多孔体の被覆)速度を調整できるため、光触媒活性を最適化する上で有用である場合が多い。
【0037】
中でも系の温度を調整することは有用である。一般的には系の温度を高めるとチタンアパタイトの析出が促進され、多孔体表面の細孔が埋められたり、チタンアパタイトだけの粒子が析出したりするため、光触媒活性が低下することが多い。従って、100℃以下の系温度で前記共沈法を実施することが好ましい場合が多い。
【0038】
多孔体表面の細孔が埋められることを防止するという観点からは、多孔体表面に細孔が存在するうちに前記析出を停止させる方法が有用である。多孔体表面における細孔の有無は、透過型電子顕微鏡等で容易に観察することができる。析出を停止させる具体的な方法としては、系温度の低下および/または固形生成物のろ過を挙げることができるが、その他の任意の方法であってもよい。たとえば、系温度と多孔体表面における細孔の減少速度との関係を予め透過型電子顕微鏡等で観察しておき、その関係に基づいて、系の温度の低下度合いとそのタイミングを決める方法、一定温度で反応を進め、細孔の減少と反応時間との関係を予め透過型電子顕微鏡等で観察しておき、その関係に基づいて、固形生成物をろ過する時間を決める方法等を例示できる。
【0039】
ゾルゲル法の場合には、ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中に多孔体を投入し、チタンアパタイトを多孔体上に析出させることが考えられる。ここで、「ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイト」はゾル状態のものでもゲル状態のものでも、その混合状態のものでもよいが、チタンアパタイトだけの粒子の生成を抑制するには、ゲル状態のものが少ない条件が好ましい。ゾル状態またはそれ以前の状態で多孔体を添加し、その後ゲル化して多孔体をチタンアパタイトで被覆する方法が最も合理的であり、好ましい。
【0040】
ゾルゲル法においては、多孔体表面の細孔が埋められたり、チタンアパタイトだけの粒子が析出したりするのを防止するには、生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中における、チタン濃度が、チタンアパタイト換算値で0.5重量%以下にあることが好ましいことが判明した。下限については、特に制限はないが、製造効率等の観点からは0.001重量%以上であることが好ましい。
【0041】
また、多孔体の投入前に、生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体を希釈する方法も有用である。このようにすると、希釈前の反応を効率的に行うことができ、かつ、多孔体表面の細孔が埋められたり、チタンアパタイトだけの粒子が析出したりするのを抑制することが可能となる。希釈の時期については特に制限はないが、一般的にはチタンアパタイトのゲル化の前に行えば十分である。
【0042】
上記のようにして得られた光触媒は、種々の物品に、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌からなる群から選ばれた少なくとも一つの機能を付与するために使用することができる。この場合の物品は、これらの機能そのものを使用目的とする物品であっても、主たる用途とは別に、これらの機能も持つようになされた物品であってもよい。前者としては、空気浄化装置、水浄化装置等を挙げることができ、後者としては、光触媒を塗布または充填した部分により、空気浄化、汚れ分解、抗菌、殺菌等の機能を発揮する電化製品(たとえばエアコンディショナー)、カーテン、壁紙等を例示することができる。
【実施例】
【0043】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
以下に、図1の製造フローに沿って、共沈法により、チタンアパタイト被覆珪藻土を製造する場合の順序について説明する。なお、ステップS1〜S6は室温で行った。
【0045】
(1)ステップS1で、脱炭酸ガス処理をした純水を用意し、ステップS2,3で、窒素雰囲気下、この純水に対して0.1モルの硝酸カルシウムと、0.01モルの硫酸チタン溶液を混合し、撹拌した。
【0046】
(2)ステップS4で、この溶液に平均粒径30μmの珪藻土粉体を投入し、撹拌した。
【0047】
(3)次いで、ステップS5で、得られた混合物に0.06モルのリン酸を添加し、さらに、ステップS6で、15モル/Lのアンモニア水を添加してpHを9.00となるように調整し、その後、ステップS7において、系の温度を上げてチタンアパタイトを析出させるため、80℃で2時間エージングした。
【0048】
(4)その後、ステップS8,9で、濾過により得られた固形生成物を回収し、分別した固形生成物を5Lの純水で洗浄し、さらに70℃のドライオーブン中で12時間にわたって乾燥した。
【0049】
(5)その後、ステップS10において、大気中600℃で1時間アニール処理を行った。
【0050】
このようにして得られた粉体(チタンアパタイト被覆珪藻土1)についてX線回折で結晶相を調べた結果、アパタイト構造を示す回折パターンが得られた。また、XPSにより粉体の表面分析を行った結果、チタンアパタイトの金属成分であるCa、Tiおよび、珪藻土の金属成分であるSi、Alのピークが観察された。さらに、BET法により比表面積を評価した所、珪藻土のみの105m/gに対し、87m/gの値が得られた。
【0051】
[実施例2]
以下に、図2の製造フローに沿って、ゾルゲル法により、チタンアパタイト被覆珪藻土を製造する場合の順序について説明する。なお、ステップS21〜S28は室温で行った。
【0052】
(1)ステップS21で、100mLのエタノール(溶媒)を用意し、ステップS22で、硝酸カルシウム4水和物(Ca(NO・4HO,2.125g)を加え、硝酸カルシウムが完全に溶けるまで室温で撹拌した。
【0053】
(2)ステップS23で、この溶液に、五酸化リン(P,0.4258g)を添加して更に2時間撹拌した。
【0054】
(3)ステップS24で、さらに、チタンテトライソプロポキシド(Ti[OCH(CH,0.2842g)を添加し、混合液とした。この混合液を室温で約19時間撹拌して反応させ、アパタイト前駆体組成物である淡黄色のゾルを得た。
【0055】
(4)ステップS25で、さらにこのゾルを10Lのエタノールに添加し、撹拌した。
【0056】
(5)ステップS26で、この溶液に、平均粒径30μmの珪藻土粉体を投入し、ステップS27で、真空脱泡とその後室温で10時間の撹拌を行った。
【0057】
(6)次いで、ステップS28で、固形生成物を濾過、分離し、ステップS29において、150℃で6時間乾燥後、大気中600℃で1時間、アニールし、粉体を得た。
【0058】
このようにして得られた粉体(チタンアパタイト被覆珪藻土2)についてX線回折で結晶相を調べた結果、アパタイト構造を示す回折パターンが得られた。また、XPSにより粉体の表面分析を行った結果、チタンアパタイトの金属成分であるCa、Tiおよび、珪藻土の金属成分であるSi、Alのピークが観察された。さらに、BET法により比表面積を評価した所、珪藻土のみの105m/gに対し、75m/gの値が得られた。
【0059】
実施例1および2で得られたチタンアパタイト被覆珪藻土(すなわち、本発明に係る光触媒)ならびに、その他各種光触媒および吸着剤の粉体試料に対して、アセトアルデヒドガスの光照射下での吸着分解特性を調べた。表1に評価した試料の一覧を示す。
【0060】
【表1】

評価方法は、40体積ppmのアセトアルデヒドを空気中に封入した容器に、上記粉体試料を等量入れ、10mWのブラックライト照射下でのアセトアルデヒド濃度の時間変化をガスクロマトグラフにより測定した。測定した結果を図3に示す。横軸は光照射時間を、縦軸は初期アセトアルデヒド濃度(40体積ppm)に対する割合を示す。たとえば、0.6とは、アセトアルデヒド濃度が40体積ppm×0.6=24体積ppmになったことを意味する。
【0061】
珪藻土や活性炭は初期は急速にアルデヒド濃度が低下するが、その後は低下しなくなる。これは、珪藻土や活性炭が単に吸着能力を有するものであることを意味している。
【0062】
チタンアパタイトまたは酸化チタンのみの場合は、珪藻土や活性炭の場合のように、アルデヒド濃度が低下しなくなる領域は現れなかった(すなわち、アルデヒドの分解性能が発揮された)が、初期のアルデヒド濃度の低下速度は珪藻土や活性炭の場合に較べて小さかった。これは、チタンアパタイトや酸化チタンのみの場合、吸着性能が小さいことを意味するものと考えられる。
【0063】
これに対し、本発明に係るチタンアパタイト被覆珪藻土は、初期のアルデヒド濃度の低下速度も珪藻土や活性炭の場合と同等に大きく(すなわち、吸着性能が珪藻土や活性炭並みに大きく)、その後のアルデヒド濃度の低下速度も十分に大きい(すなわち、アルデヒドの分解性能も大きい)ことが示された。従って、図3より、チタンアパタイト被覆珪藻土が優れた吸着、分解特性を示すことが分かる。
【0064】
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
【0065】
(付記1)
多孔体をチタンアパタイトで被覆してなる光触媒。
【0066】
(付記2)
前記多孔体が珪藻土である、付記1に記載の光触媒。
【0067】
(付記3)
表面に細孔が存在する、付記1または2に記載の光触媒。
【0068】
(付記4)
前記チタンアパタイトが、共沈法またはゾルゲル法により形成されたものである、付記1〜3のいずれかに記載の光触媒。
【0069】
(付記5)
焼結体またはバインダーとの混合物である、付記1〜4のいずれかに記載の光触媒。
【0070】
(付記6)
多孔体にチタンアパタイトを被覆してなる光触媒の製造方法であって、共沈法によって生成したチタンアパタイトを多孔体上に析出させる光触媒の製造方法。
【0071】
(付記7)
前記多孔体が珪藻土である、付記6に記載の光触媒の製造方法。
【0072】
(付記8)
前記共沈法によるチタンアパタイトの形成中に、前記チタンアパタイトの形成に使用される媒体中に前記多孔体を共存させる、付記6または7に記載の光触媒の製造方法。
【0073】
(付記9)
チタンアパタイトを構成するカルシウム、チタン、リンを含む原料をすべて前記媒体中に投入後、チタンアパタイト析出剤の添加完了前に、前記多孔体を前記媒体中に投入する、付記8に記載の光触媒の製造方法。
【0074】
(付記10)
100℃以下の系温度で前記共沈法を実施する、付記6〜9のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
【0075】
(付記11)
前記多孔体表面に細孔が存在するうちに前記析出を停止させる、付記6〜10のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
【0076】
(付記12)
系温度の低下および/または固形生成物のろ過により前記析出を停止させる、付記11に記載の光触媒の製造方法。
【0077】
(付記13)
多孔体にチタンアパタイトを被覆してなる光触媒の製造方法であって、ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中に多孔体を投入し、当該チタンアパタイトを当該多孔体上に析出させる光触媒の製造方法。
【0078】
(付記14)
前記多孔体が珪藻土である、付記13に記載の光触媒の製造方法。
【0079】
(付記15)
前記ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中における、チタン濃度が、チタンアパタイト換算値で0.001〜0.5重量%の範囲にある、付記13または14に記載の光触媒の製造方法。
【0080】
(付記16)
前記多孔体の投入前に、前記液体を希釈する、付記13〜15のいずれかに記載の光触媒の製造方法。
【0081】
(付記17)
付記1〜5のいずれかに記載の光触媒を用いた物品であって、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌からなる群から選ばれた少なくとも一つの機能を有する物品。
【0082】
(付記18)
付記6〜16のいずれかに記載の光触媒の製造方法を使用して製造された光触媒を用いた物品であって、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌からなる群から選ばれた少なくとも一つの機能を有する物品。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】共沈法による製造の順序の一例を示す図である。
【図2】ゾルゲル法による製造の順序の一例を示す図である。
【図3】各種光触媒の触媒活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔体をチタンアパタイトで被覆してなる光触媒。
【請求項2】
前記多孔体が珪藻土である、請求項1に記載の光触媒。
【請求項3】
前記チタンアパタイトが、共沈法またはゾルゲル法により形成されたものである、請求項1または2に記載の光触媒。
【請求項4】
多孔体にチタンアパタイトを被覆してなる光触媒の製造方法であって、共沈法によって生成したチタンアパタイトを多孔体上に析出させる光触媒の製造方法。
【請求項5】
前記共沈法によるチタンアパタイトの形成中に、前記チタンアパタイトの形成に使用される媒体中に前記多孔体を共存させる、請求項4に記載の光触媒の製造方法。
【請求項6】
多孔体にチタンアパタイトを被覆してなる光触媒の製造方法であって、ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中に多孔体を投入し、当該チタンアパタイトを当該多孔体上に析出させる光触媒の製造方法。
【請求項7】
前記ゾルゲル法によって生成したチタンアパタイトまたはその原料またはその中間体を含む液体中における、チタン濃度が、チタンアパタイト換算値で0.001〜0.5重量%の範囲にある、請求項6に記載の光触媒の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載の光触媒を用いた物品であって、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌からなる群から選ばれた少なくとも一つの機能を有する物品。
【請求項9】
請求項4〜7のいずれかに記載の光触媒の製造方法を使用して製造された光触媒を用いた物品であって、空気浄化、水浄化、汚れ分解、抗菌および殺菌からなる群から選ばれた少なくとも一つの機能を有する物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−167784(P2007−167784A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370233(P2005−370233)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】