説明

光触媒による酸化分解方法及び水浄化装置

【課題】光触媒機能を向上させることができる光触媒による酸化分解方法及び水浄化装置を提供する。
【解決手段】金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層を用いて酸化分解を行うに際し、前記光触媒層に電位を与えた状態とする。光触媒層としては、炭素がドープされた炭素ドープ酸化チタン層や炭素ドープチタン合金酸化物層であり、このような光触媒層は、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物、酸化チタンなどからなる基体の表面を、炭素、酸素を含む化学種が表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成できる。このようにして形成された光触媒層は、緻密な層で基体と一体化しており、基体との電気的コンダクタンスが良好である。これにより、電位を与える際の過電圧を抑制し、エネルギー損失を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒、特に、金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層からなる光触媒の酸化分解力を向上させる光触媒による酸化分解方法及び水浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光触媒機能を呈する物質として二酸化チタンTiO2(本明細書、特許請求の範囲においては、単に、酸化チタンという)が知られている。また、このような光触媒機能により防臭、抗菌、防曇や防汚の効果が得られる光触媒製品を製造する場合、一般的には、酸化チタンゾルをスプレーコーティング、スピンコーティング、ディッピング等により基体上に付与して成膜している。
【0003】
また、酸化チタンを光触媒として機能させるためには波長が400nm以下の紫外線が必要であるが、光触媒機能を向上させるため、又は可視光により光触媒機能を発揮させるために、他元素をドープした酸化チタン光触媒が種々検討され、酸化チタンの酸素サイトを窒素等の原子やアニオンXで置換してなるチタン化合物、酸化チタンの結晶の格子間に窒素等の原子またはアニオンXをドーピングしてなるチタン化合物、あるいは酸化チタン結晶の多結晶集合体の粒界に窒素等の原子またはアニオンXを配してなるチタン化合物Ti−O−Xからなる光触媒が提案されている(特許文献1〜4等参照)が、実用化にはさらに特性を向上させる必要がある。
【0004】
一方、本出願人は、特殊な製造方法により製造された炭素ドープ酸化チタン、炭素ドーム酸化ハフニウム、炭素ドープ酸化ジルコニウムが可視光にも応答する光触媒機能を具備することを知見し、先に出願した(特許文献5〜8など参照)。
【0005】
しかしながら、実用化に向けては、光触媒機能をできるだけ向上させたいという要望があるのは勿論である。
【0006】
【特許文献1】特開2001−205103号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2001−205094号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−95976号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】国際公開第01/10553号パンフレット(請求の範囲)
【特許文献5】特許3948738号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特許4010558号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開2007−270316号公報(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2007−270318号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑み、光触媒機能を向上させることができる光触媒による酸化分解方法及び水浄化装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決する第1の態様は、金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層を用いて酸化分解を行うに際し、前記光触媒層に電位を与えた状態とすることを特徴とする光触媒による酸化分解方法にある。
【0009】
かかる第1の態様では、金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層に電位を与えた状態で酸化分解を行うことにより酸化分解力を向上させることができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層に光源より紫外乃至可視光を照射することを特徴とする光触媒による酸化分解方法にある。
【0011】
かかる第2の態様では、光源より紫外乃至可視光を照射することにより、光触媒層の光触媒機能を確実に機能させることができる。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層を被処理水中に浸漬し、被処理水の浄化を行うことを特徴とする光触媒による酸化分解方法にある。
【0013】
かかる第3の態様では、被処理水の浄化を効率よく行うことができる。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記金属が、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、およびこれらを主体とする合金から選択される少なくとも一種であることを特徴とする光触媒による酸化分解方法にある。
【0015】
かかる第4の態様では、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、およびこれらを主体とする合金から選択される少なくとも一種である金属製基体の表面の光触媒層により、酸化分解を効率よく行うことができる。
【0016】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層中の炭素が、金属−炭素結合の状態で含有されていることを特徴とする光触媒による酸化分解方法にある。
【0017】
かかる第5の態様では、光触媒層中に含有されている炭素が金属−炭素結合の状態で含有されているので、光触媒層の耐久性及び光触媒機能がより向上したものとなる。
【0018】
本発明の第6の態様は、第4又は5の態様に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層が、前記金属製基体の表面を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成されたものであることを特徴とする光触媒による酸化分解方法にある。
【0019】
かかる第6の態様では、所定加熱処理により、金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層をより確実に製造することができる。
【0020】
本発明の第7の態様は、被処理水を浄化する水浄化装置であって、被処理水を少なくとも一時的に保持する処理容器と、金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなり且つ前記処理容器中に保持された被処理水と接触するように配置された光触媒層と、前記光触媒層に電位を与える電源とを具備することを特徴とする水浄化装置にある。
【0021】
かかる第7の態様では、金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層に電位を与えた状態で被処理水を処理することにより、含有される不純物等を効率的に酸化分解することができ、被処理水を確実に浄化することができる。
【0022】
本発明の第8の態様は、第7の態様に記載の水浄化装置において、前記光触媒層に紫外乃至可視光を照射する光源をさらに具備することを特徴とする水浄化装置にある。
【0023】
かかる第8の態様では、光源より紫外乃至可視光を照射することにより、光触媒層の光触媒機能を確実に機能させることができ、浄化をより確実に行うことができる。
【0024】
本発明の第9の態様は、第7又は8の態様に記載の水浄化装置において、前記処理容器が、被処理水を導入する導入口と、処理された処理水を排出する排出口とを具備することを特徴とする水浄化装置にある。
【0025】
かかる第9の態様では、被処理水を処理容器の導入口から導入し、排出口から排出することができ、効率的に被処理水を浄化することができる。
【0026】
本発明の第10の態様は、第9の態様に記載の水浄化装置において、前記処理容器中に被処理水を連続的に導入する手段を具備することを特徴とする水浄化装置にある。
【0027】
かかる第10の態様では、処理容器中に被処理水を連続的に導入することにより、多量の被処理水を連続的に浄化することができ、また、循環処理することにより浄化率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明で用いる金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層は、上述した特許文献5〜7などに記載されたものであり、詳細な説明は省略するが、以下に簡単に説明する。
【0029】
かかる光触媒層としては、炭素がドープされた炭素ドープ酸化チタン層又は炭素ドープチタン合金酸化物層、炭素がドープされた炭素ドープ酸化ジルコニウム層又は炭素ドープジルコニウム合金酸化物層、炭素がドープされた炭素ドープ酸化ハフニウム層又は炭素ドープハフニウム合金酸化物層などを挙げるこことができる。このような光触媒層は、例えば、少なくとも表面層がチタン、チタン合金、チタン合金酸化物、酸化チタン、ジルコニウム、ジルコニウム合金、ジルコニウム合金酸化物、酸化ジルコニウム、ハフニウム、ハフニウム合金、ハフニウム合金酸化物、酸化ハフニウムなどからなる基体の表面を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成できる。かかる光触媒層は、セラミックの溶射により形成されたコーティング層とは異なり、緻密な層であり、基体と一体的となっており、基体との電気的コンダクタンスが良好である。これにより、電位を与える際の過電圧を抑制し、エネルギー損失を低減できるという利点がある。
【0030】
また、かかる光触媒層は、炭素が金属(M)−C結合した状態でドープされているのが好ましい。すなわち、光触媒層において炭素が金属酸化物Mの酸素を置換するようにドープされているのであり、M−C結合が生成されている。このようにM−C結合が存在することにより、耐久性が著しく向上し、光触媒としての特性が向上する。
【0031】
なお、基体の形状については、使用する用途によって選定することができ、板状、線又は棒状などを挙げることができる。また、表面積を増加させるような形状、例えば、表面に多数のフィンを有する形状であってもよく、また、電位が印加できる状態が確保できれば、粉末状であってもよい。
【0032】
さらに、光触媒層は、例えば、特許4010558号公報に記載されるように、酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる微細柱が林立している層が露出しているか又は薄膜上に酸化チタン又はチタン合金酸化物からなる多数の連続した狭幅突起部及び該突起部上に林立している微細柱が露出しており、該突起部、例えば該微細柱、該狭幅突起部が炭素ドープされているようなものとしてもよい。この場合には、表面積がさらに著しく大きくできるという利点がある。
【0033】
本発明の光触媒層は、例えば、上述したような基体の表面を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成できる。
【0034】
ここで、炭素、酸素を含む化学種が表面に供給される雰囲気下で加熱処理するとは、例えば、炭素及び酸素を含む化合物を含むガス(炭素原子と酸素原子がガス雰囲気中に存在していればよく、炭素を含む化合物を含むと共に酸素を含むガス、炭素及び酸素の両者を含む化合物を含むと共に必要に応じて酸素を含むガスなどをいう)の燃焼炎を用いて加熱処理すること、又はこのような燃焼炎の雰囲気ガスを表面に供給しながら必要に応じて加熱処理することである。すなわち、炭素、酸素を含む化学種、すなわち、活性化された炭素原子又は炭素原子を含む原子団、活性化された酸素又は酸素原子を含む原子団、炭素及び酸素を含む原子団などが表面に供給される状態で加熱処理をすればよく、好適には燃焼炎を用いて直接表面を加熱処理するか、燃焼炎の雰囲気ガスを表面に供給しながら加熱処理することにより、表面を酸化しつつ炭化するという複雑な表面改質を実現し、炭素を表面にドープして炭素ドープ酸化金属層を形成する。
【0035】
具体的には、基体の表面にガスの燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理しても、そのような基体の表面を燃焼ガスの雰囲気中で加熱処理してもよく、この加熱処理は例えば炉内で実施することができる。燃焼炎を直接当てて高温で加熱処理する場合には、上記のようなガスを炉内で燃焼させ、その燃焼炎を該基体の表面に当てればよい。燃焼ガス雰囲気中で加熱処理する場合には、上記のようなガスを炉内で燃焼させ、その高温の燃焼ガス雰囲気を利用する。
【0036】
このような光触媒層の好ましい形成方法としては、炭素、酸素を含む化合物を含む燃焼ガス、例えば、アルコール系化合物、炭化水素などを含むガスの燃焼炎を用いて加熱処理するのが望ましい。
【0037】
このような燃焼炎を用いて加熱処理して本発明の光触媒層を得る場合、特に、炭化水素、好ましくは不飽和結合を含む炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを、主成分とするガスの燃焼炎、特に還元炎を利用することが望ましい。炭化水素含有量が少ない燃料を用いる場合には、炭素のドープ量が不十分であったり、皆無であったりし、その結果として硬度が不十分となる。
【0038】
ここで、炭化水素を主成分とするガスとは、炭化水素、好ましくは不飽和炭化水素、特にアセチレンを、少なくとも30容量%、好ましくは少なくとも50容量%含有するガスを意味し、例えば、アセチレンを30容量%以上、好ましくは50容量%以上含有し、適宜、空気、水素、酸素等を混合したガスを意味する。このような多機能材の製造においては、炭化水素を主成分とするガスがアセチレンを50容量%以上含有することが好ましく、炭化水素がアセチレン100%であることが最も好ましい。不飽和炭化水素、特に三重結合を有するアセチレンを用いた場合には、その燃焼の過程で、特に還元炎部分で、不飽和結合部分が分解して中間的なラジカル物質が形成され、このラジカル物質は活性が強いので炭素ドープが生じ易いと考えられる。
【0039】
なお、このように燃焼炎を用いて光触媒層を製造する場合、加熱処理する基体の表面層が金属(合金を含む)である場合には、該金属を酸化する酸素が必要であり、その分だけ空気又は酸素を含んでいる必要がある。
【0040】
このような光触媒層は、紫外乃至可視光、すなわち、紫外線、可視光、又は紫外線及び可視光の作用により光触媒機能を発揮するが、本発明では、光触媒層に電位を与えた状態とすることにより、本来の酸化分解力を著しく向上させた状態で光触媒として機能させるものである。なお、光触媒層は、紫外乃至可視光の他、さらに短波長の放射線にも応答するものであり、放射線照射により光触媒機能を発揮させるようにしてもよい。
【0041】
ここで、光触媒層に電位を与えた状態とは、光触媒層又は光触媒層を表面に有する基体に正の電圧を印加した状態とすることである。このように光触媒層に電位を与えた状態とすると、分極により電荷分離効率が向上するため、光触媒層の酸化分解力が著しく向上する。
【0042】
また、このように光触媒層を分極した状態で使用するので、電極過電圧が変化した場合であっても、分極電圧を正に大きくすることで、光触媒特性を同じ効率に制御することができるという機能を有する。
【0043】
本発明方法は、光触媒層を分極した状態で使用するため、気相での酸化分解にも適用でき、例えば、気相中の有機物除去などに適用できるが、液相での酸化分解に適用するのが好適である。
【0044】
また、本発明方法による酸化分解を行う場合、光触媒層を自然光が当たる環境下に載置してもよいが、安定的に且つ効率的に酸化分解を行うために、光触媒層に光源より紫外乃至可視光を照射するようにするのが好ましい。
【0045】
また、本発明方法は、上述したように液相、すなわち、水中での酸化分解を行うのに好適であるので、水の浄化の他、液相中の有機物の分解除去などに適用して好適である。
【0046】
さらに、本発明で用いる光触媒層は、耐久性(高硬度、耐スクラッチ性、耐磨耗性、耐薬品性、耐熱性)に優れるものであるという利点があるので、このような特性を生かして種々の用途に適用できるものである。
【0047】
以下、本発明方法により被処理水を処理する水浄化装置の一例を説明する。図1には本実施形態に係る水浄化装置の概略平面図及びそのA−A′線断面図を示す。
【0048】
図1に示すように、この水浄化装置は、被処理水を一時的に保持する金属製で円筒形状の処理容器1を具備する。処理容器1は、被処理水を導入する導入口2と、処理された処理水を排出する排出口3とを具備し、導入口2から被処理水を導入し、排出口3から処理水を排出するようになっている。かかる処理容器1中には光触媒4が配置されている。光触媒4は、金属板からなる基体を螺旋形状とし、その金属製基体の表面に炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層が設けられたものであり、処理容器1の中央部に固定されており、導入口2から導入された被処理水が接触するように配置されている。
【0049】
ここで、光触媒4には、直流電源5の正極が接続され、直流電源5の負極は処理容器1に接続されている。これにより、光触媒4の光触媒層に電位が与えられた状態とし、分極させることができるようになっている。
【0050】
なお、光触媒4の形態は上述したものに限定されず、金属板ではなく、金属棒を用いたものでよく、さらには、金属板を螺旋以外の形状に加工したものであってもよい。また、金属板は、金属粒子を焼結したものであってもよく、何れにしても、光触媒層が表面に有効に設けられているものであればよい。
【0051】
また、処理容器1内の光触媒4の周囲には、図示は4つの光源6が設けられている。かかる光源6は、光触媒4に紫外乃至可視光を照射するものであり、これにより、光触媒4の光触媒層を有効に光触媒として機能させることができる。
【0052】
なお、かかる水浄化装置では、処理容器1を金属製として、直流電源5の負極を処理容器1に接続したが、処理容器1内に別途負極を設けて直流電源5の負極を接続するようにしてもよい。この場合、処理容器1は金属製でなくてもよいことはいうまでもない。
【0053】
また、処理容器1中の被処理水と光触媒4との接触効率を高めるために、導入口2付近に乱流を起こさせる部材を設けたり、被処理水の流路を触媒面に流体が衝突するように工夫したり、被処理水の攪拌手段を設けたりしてもよい。
【0054】
さらに、処理容器1内に光源6を配置したが、処理容器1を透明素材で形成できる場合には、処理容器1の外側に光源6を配置してもよい。
【0055】
かかる水浄化装置によれば、導入口2から被処理水を導入し、光触媒4に電位を与え、且つ光源6から紫外乃至可視光を照射した状態とすることにより、光触媒4に接触した被処理水中の不純物等が酸化分解され、被処理水を浄化して処理水として排出口3から排出することができる。
【0056】
このような被処理水の浄化処理は、バッチ方式で行ってもよいし、被処理水を連続的に通水する連続処理で行ってもよく、さらには、循環経路を設けて被処理水を処理容器1内に複数回導入する循環方式としてもよい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実際に試験した結果を実施例及び比較例として説明する。
(実施例1)
試験材として、JIS 1種チタン板32mm×64mm×t0.4mmの片面にアセチレン(流量5NL/min)の燃焼火炎を300秒触れさせて、表面をカーボンドープ酸化チタンからなる光触媒層とした。裏面および端面はエポキシ樹脂(ニチバン株式会社 アラルダイトラピッド)でシーリングを行った。これにより電極面積は30mm×43mmとなる。
【0058】
この試験片を50mLの水溶液中に浸漬した。この溶液は、電解質として硫酸ナトリウム(NaSO、和光純薬株式会社、試薬特級)が0.05M、被分解物としてメチレンブルーが10μM(和光純薬株式会社 メチレンブルー3水和物)を含有するものである。
【0059】
試験片に電圧を印加して分極させながら、メチレンブルーの退色試験を実施した。なお、メチレンブルーの退色試験は、光触媒の酸化分解による水浄化効果として一般的に用いられている。
【0060】
紫外光の照射には東芝ライテック株式会社製 UVランプEDF15BLBを用いた。紫外線強度は、約3mW/cmであった(株式会社カスタム製 UVA−365で計測)。
【0061】
光触媒層の分極にはボルタンメトリーとして北斗電工株式会社製 HSV−100を使用した。分極電位は0.6V vs.SSEである。
【0062】
また、比較対象として、カーボンドープ酸化チタンの代わりに白金板を用いた。
【0063】
図2に試験結果(メチレンブルーの退色速度)を示す。縦軸はメチレンブルーの濃度であり、横軸は経過時間である。0時間は紫外線照射開始および分極開始時刻を示す。メチレンブルー濃度は分光光度計(株式会社島津製作所 UV−1650PC)を用いて計測した。
【0064】
図2より、紫外線照射のみおよび分極のみではメチレンブルーの退色速度が低いことが分かる。一方、紫外線を照射しながら、分極を実施することにより退色速度が著しく向上している。これは分極により電荷分離効率が向上したためと考えられる。すなわち、光照射で発生した励起電子と正孔との再結合が抑制され、それぞれ還元反応および酸化反応に効率的に利用できるためであると考えられる。
【0065】
比較のために、白金電極に紫外線を照射し、同時に分極を行ったが、光触媒としては機能せず、メチレンブルーは殆ど退色しないことが判明した。
【0066】
この結果、光触媒層に対しては分極と紫外線照射の双方が相乗的に作用し、メチレンブルーの分解を促進していることが分かった。
【0067】
(実施例2)
実施例1で用いた光触媒層を、日本金属工業株式会社製の光触媒Type−B(比較材)と比較した。試験面の面積や端部シール法、溶液などの条件は全て同一として比較した。
【0068】
メチレンブルーの耐食性試験結果を図3に示す。
【0069】
比較材を分極した場合では、メチレンブルーの濃度が減少していない。紫外線照射時には比較材では顕著なメチレンブルー退色性能が得られた。紫外線照射と同時に分極を行ったが、分極による相乗効果は得られなかった。
【0070】
一方、実施例の光触媒層では、紫外線照射と同時に分極を行うことで比較材より高いメチレンブルー退色性能が得られた。比較材のように一般的な光触媒は酸化チタン粉末のコーティング材をディッピングやスプレー、ディッピングによりコーティングする方法であり、バインダーが母材との電気的コンダクタンスが低下する。一方、実施例で使用した光触媒層はチタンまたはチタン合金を酸化と炭化を同時に行う手法で形成したもものである。バインダーを介していないことと、光触媒の皮膜と母材(基体)とのコンダクタンスが良好であることが、分極による相乗効果をもたらしていると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】一実施形態に係る水浄化装置の概略平面図及び断面図である。
【図2】実施例1のメチレンブルー退色試験の結果を示すグラフである。
【図3】実施例2のメチレンブルー退色試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0072】
1 処理容器
4 光触媒
5 直流電源
6 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなる光触媒層を用いて酸化分解を行うに際し、前記光触媒層に電位を与えた状態とすることを特徴とする光触媒による酸化分解方法。
【請求項2】
請求項1に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層に光源より紫外乃至可視光を照射することを特徴とする光触媒による酸化分解方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層を被処理水中に浸漬し、被処理水の浄化を行うことを特徴とする光触媒による酸化分解方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記金属が、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、およびこれらを主体とする合金から選択される少なくとも一種であることを特徴とする光触媒による酸化分解方法。
【請求項5】
請求項4に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層中の炭素が、金属−炭素結合の状態で含有されていることを特徴とする光触媒による酸化分解方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の光触媒による酸化分解方法において、前記光触媒層が、前記金属製基体の表面を、炭素、酸素を含む化学種が当該表面に供給される雰囲気下で加熱処理することにより形成されたものであることを特徴とする光触媒による酸化分解方法。
【請求項7】
被処理水を浄化する水浄化装置であって、被処理水を少なくとも一時的に保持する処理容器と、金属製基体の表面に設けられた炭素ドープ金属酸化物層からなり且つ前記処理容器中に保持された被処理水と接触するように配置された光触媒層と、前記光触媒層に電位を与える電源とを具備することを特徴とする水浄化装置。
【請求項8】
請求項7に記載の水浄化装置において、前記光触媒層に紫外乃至可視光を照射する光源をさらに具備することを特徴とする水浄化装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の水浄化装置において、前記処理容器が、被処理水を導入する導入口と、処理された処理水を排出する排出口とを具備することを特徴とする水浄化装置。
【請求項10】
請求項9に記載の水浄化装置において、前記処理容器中に被処理水を連続的に導入する手段を具備することを特徴とする水浄化装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−219958(P2009−219958A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64968(P2008−64968)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】