説明

光触媒の活性化装置およびそれを用いた光触媒の活性化方法

【課題】粉状、粒状、棒状または繊維状などの立体的な対象物中あるいはその表面に担持された光触媒を満遍なく活性化する装置およびそれを用いた光触媒の活性化方法を提供する。
【解決手段】(A)振とう機、(B)該振とう機上に設置された曲面を有する、活性化対象物を振とうするための振とう容器、(C)光触媒作用を有する化合物を構成材料の一成分として含有する活性化対象物を挿入するための、光触媒作用の活性化に必要とされる励起光を透過する材料で構成された回転可能な形状の活性化対象物収納容器および(D)該振とう機上部に設けられた、活性化対象物に励起光を照射するための光照射体よりなる光触媒活性化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒の活性化装置およびそれを用いた光触媒の活性化方法に関する。さらに詳しくは、粉状、粒状、棒状または繊維状などの立体的な対象物の表面に担持された光触媒の活性化装置およびそれを用いた光触媒の活性化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光触媒は、現象的に光を吸収して、そのエネルギーによって光を吸収しない化学物質の反応を触媒するものであり、例えば固体の酸化物半導体(TiO2、ZnOなど)上で起こる酸素の吸着・脱離、N2Oの分解、酸素の同位体交換、COの酸化、ブテンの異性化などが挙げられる。かかる性質を利用して、現在、種々の物に光触媒が用いられており、それによる浄化作用が期待されている。
【0003】
しかるに、光触媒作用を十分に発揮させるためには、光触媒自体に光が照射されることが必須であるが、粉状、粒状、棒状または繊維状などの立体的な対象物については一方向からの光照射では十分な触媒作用を発揮できないという問題がある。
【0004】
かかる問題は、これらの光触媒作用を有する化合物を構成材料の一成分として含有する物の評価方法においても同様である。すなわち、表面に光触媒を有する平面状の物に担持等された光触媒作用の評価には、非特許文献1に示される如く一方向から評価対象物に光を照射すればよく、これにより該評価対象物表面は照射された励起光で光触媒作用が発現することで、溶液中に含まれる有機物が評価対象物表面に接触した場合には、有機物は二酸化炭素と水とに分解され、また評価対象物表面に溶液中に懸濁している菌体などが接触した場合には、該菌体が死滅することで、前者は光触媒作用による防汚効果、後者は光触媒作用による抗菌効果を評価することができる。
【非特許文献1】光触媒製品技術協議会会則・諸規定および試験法、光触媒能評価試験表I、(2005年6月)光触媒製品技術協議会発行48〜49頁
【0005】
しかるに、かかる方法では、粉状、粒状、棒状または繊維状などの立体的な評価対象物に対しては、光照射が全体的に満遍なく及ばないため、その表面に担持された光触媒を十分に活性化して、その作用を的確に評価することは困難である。このような不都合を回避するためには、光源を増やす、または非特許文献2に示される如く鏡などを使用して一つの光源より発せられる光を反射させて評価対象物表面に照射する方法などが提案されているが、いずれも光を評価対象物表面に満遍なく照射するものではなく、光触媒作用の的確な評価といった観点からは不十分なものであった。
【非特許文献2】工業材料 Vol.49,No.7(2001)、日刊工業新聞社発行、60〜64頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、粉状、粒状、棒状または繊維状などの立体的な対象物中あるいはその表面に担持された光触媒を満遍なく活性化する装置およびそれを用いた光触媒の活性化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、(A)振とう機、(B)該振とう機上に設置された曲面を有する、活性化対象物を振とうするための振とう容器、(C)光触媒作用を有する化合物を構成材料の一成分として含有する活性化対象物を挿入するための、光触媒作用の活性化に必要とされる励起光を透過する材料で構成された回転可能な形状の活性化対象物収納容器および(D)該振とう機上部に設けられた、活性化対象物に励起光を照射するための光照射体よりなる光触媒活性化装置およびかかる光触媒活性化装置を用い、光触媒活性化対象物を活性化対象物収納容器に収納した後、該収納容器を振とう機上の振とう容器にセットし、振とう機を振とうさせることにより収納容器を回転させた状態で、光照射体によって収納容器に対して少なくとも1方向から励起光の照射が行われる光触媒の活性化方法によって達成される。
【0008】
また、活性化対象物として光触媒作用評価対象物を用い、収納容器に光触媒作用評価対象物とともに光触媒作用評価用溶液を導入することにより、上記光触媒活性化装置は、光触媒作用評価装置として使用される。すなわち、光触媒作用評価対象物を光触媒作用評価用溶液とともに収納容器に収納した後、該収納容器を振とう機上の振とう容器にセットし、振とう機を振とうさせることにより収納容器を回転させた状態で、光照射体によって収納容器に対して少なくとも1方向から励起光の照射を行い、光触媒作用評価用溶液の変化を測定することにより、光触媒作用を評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る光触媒活性化装置を用いた場合には、粉状、粒状、棒状または繊維状などの立体的な対象物中に含まれる光触媒を満遍なく活性化することが可能であり、これらの光触媒作用を有する化合物を構成材料の一成分として含有する物の光触媒作用の評価方法にも有効に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、「光触媒」とは、光の吸収により励起して活性化状態となり、該光触媒の表面に接触した有機物等に対し強力な酸化・還元作用を発揮する化合物をいい、「光触媒作用」とはそのような酸化・還元作用をいい、「光触媒作用を有する化合物」とは、このような「光触媒作用」を有する化合物を意味する。
【0011】
(A)振とう機
振とう機としては、振とう容器が前後に反復運動する反復振動式振とう機、振とう容器が回転運動する回転振動式振とう機などが用いられるが、収納容器の形状によって適宜使い分けられる。すなわち収納容器が円筒形の場合には、反復振動式振とう機が、収納容器が球状の場合には、これらのいずれもが用いられる。これらの振とう速度については、収納容器が破壊されず、また上部開口型の振とう容器を用いた場合にあっては、収納容器が飛び出ない程度の速度が選択される。
【0012】
(B)振とう容器
振とう容器は、活性化(評価)対象物を収めた収納容器を反復運動させるために振とう機上の振とう板に取り付けられるものであり、収納容器が反復運動できる曲面を有していれば、その形状は特に限定はされないが、例えば収納容器が反復運動できるサイズの湾曲面状型容器、円筒状型容器、半球状型容器、球状型容器などが用いられる。
【0013】
振とう容器に用いられる材質としては、振とう容器上部に開口部を有しないものについては、少なくともその上部が励起光が透過できる材質のものである必要がある。一方、いずれの形状についても、好ましくは少なくとも容器の下部部分について、励起光を反射する材質のものを用いることができ、これによって照射された励起光を有効に活性化(評価)対象物に照射することができる。この場合、励起光の反射は該容器の構成材料により行なわれても、内壁に被覆された材料により行なわれてもよく、いずれの場合も、表面は鏡面であることが好ましい。
【0014】
(C)収納容器
収納容器としては、その形状が振とう機上で回転可能な形状、好ましくは球形、円筒形などのものが用いられ、その材質は、光触媒作用の発現に必要な波長の光を透過するもの、例えば紫外線領域であれば水晶、可視光に近い紫外線領域から可視光領域であれば水晶以外にもガラスなどが使用される。ガラスを用いる場合には、例えば種々のサイズのガラス管が利用可能であり、採血のためのガラス製の毛細管なども使用することができる。さらに、ポリスチレンなどのプラスチック類を構成材料とする容器であっても良い。容器のサイズは特に限定はされないが、振とう機の大きさや光触媒作用を有する化合物を構成材料の一成分として含有する活性化(評価)対象物の形状やサイズ、評価用液の撹拌効率などを考慮して適宜選択される。
【0015】
光触媒作用を有する化合物を構成材料の一成分として含有する活性化(評価)対象物としては、その形状が、粉状、粒状、棒状または繊維状などの対象物が挙げられる。光触媒作用を有する化合物としては、光触媒作用を有し、かつ非有機系化合物である金属酸化物を用いることが好ましく、このような金属酸化物としては特に限定されないが、例えば酸化チタン、二酸化チタン、酸化亜鉛、銀系酸化チタン、三酸化タングステン、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、酸化スズなどが挙げられ、好ましくは酸化チタンが用いられる。また、二酸化チタンと他の金属酸化物とから生成する塩、例えばチタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウムなども、金属酸化物として用いられる。
【0016】
(D)光照射体
光照射体としては、目的とする光触媒を活性化することが可能な波長を有する光を少なくとも1方向、好ましくは振とう機上部より照射可能なものが用いられる。すなわち、光触媒の種類によって光源は替わるため、適宜波長が選択される。最も一般的に使用されている光触媒の励起光の光源としては、ブラックライト蛍光ランプ(波長310〜400nm)が挙げられ、例えば光強度が1mW/cm2で20〜25℃の条件下で照射が行われる。
【0017】
光としては、紫外線および/または可視光線が挙げられ、これらの入射によって、光触媒作用を有する化合物上で光触媒作用が起こり、それにより滅菌やタンパク質でできたキャプシドやエンベロープをもつウィルスの分解、表面に付着した汚れの分解などの自浄作用を得ることができる。
【0018】
以上の構成よりなる光触媒活性化装置を用い、光触媒活性化対象物を活性化対象物収納容器に収納した後、該収納容器を振とう機上の振とう容器にセットし、振とう機を振とうさせることにより収納容器を回転させた状態で、光照射体によって収納容器に対して少なくとも1方向から励起光の照射を行うことにより光触媒を活性化することができる。
【0019】
光触媒作用評価装置
また、以上の構成よりなる光触媒活性化装置において、活性化対象物として光触媒作用評価対象物を用い、収納容器に光触媒作用評価対象物とともに光触媒作用評価用溶液を導入することにより、上記光触媒活性化装置は、光触媒作用評価装置として使用される。すなわち、光触媒作用評価対象物を光触媒作用評価用溶液とともに収納容器に収納した後、該収納容器を振とう機上の振とう容器にセットし、振とう機を振とうさせることにより収納容器を回転させた状態で、光照射体によって収納容器に対して少なくとも1方向から励起光の照射を行い、光触媒作用評価用溶液の変化を測定することにより、光触媒作用を評価することが可能となる。
【0020】
光触媒作用としては、光触媒作用を有する化合物を含有する対象物の抗菌作用や自浄作用などが知られている。従って、上記評価装置では、光触媒作用評価用溶液として抗菌作用を評価するための溶液または自浄作用を評価するための溶液が用いられる。抗菌作用を評価する評価用溶液としては、培養後の生菌、例えば大腸菌MG1665、大腸菌IFO3301などの大腸菌K-12株を懸濁させた溶液が挙げられ、これは、数時間の光照射後における菌体数の減少量を測定することで抗菌作用が評価可能である。また、自浄作用を評価する評価用溶液としては、例えばメチレンブルー水溶液(濃度10mg/L)が挙げられ、これは1時間の光照射に伴う脱色の程度を測定することで自浄作用が評価できる。
【0021】
光触媒作用評価用溶液としては、好ましくは粘度の高いものが使用される。粘度の高い評価用溶液の使用は、例えば粒状の評価対象物や棒状の評価対象物を評価する場合、摩擦による光触媒の離脱を防ぐ場合に有効な手段となる。また、棒状の評価対象物の場合は使用する円筒形容器の蓋に円筒の内壁との接触を防ぐように固定することもできる。この場合、該容器の蓋は、粘土のようなシーリング材やキャップ式の蓋の内側に該シーリング材を貼り付けたものなどが用いられる。
【0022】
以下、図を用いて光触媒作用評価装置について、詳細に説明する。
【0023】
図1〜3は、収納容器への評価対象物および評価用溶液のセット例を示しており、評価対象物が図1では棒状であり、図2では粒状であり、図3では繊維状である場合を示す。各図aは、評価対象物1〜3が、下端を蓋18で栓をした円筒17に挿入される前の状態を、各図bは評価対象物1〜3が円筒17内に挿入された後、評価用溶液16が円筒17の2/3程度の高さ迄導入される様子を示している。ここで使用される円筒17については、光触媒を活性化可能な励起光を透過するものであって、外壁に傷がつきにくいガラスや硬質プラスチックなどの材質が好ましい。これらの使用により、外壁についた傷による光の乱反射を防ぐことができ、効率的に励起光を内部へと透過することができる。また、評価用溶液の量については、特に限定されず、光触媒作用の評価を的確に行なえる液量、例えば円筒形収納容器容積の1/5以上であれば足りる。さらに、評価用溶液の粘度については、特に限定はされないが、光触媒の剥離を防ぐ必要がある場合は粘度を高めに調製したものを使用してもよい。
【0024】
各図cは、円筒17の上端に、下端と同様の蓋18で栓をする様子を、各図dは、評価対象物および評価用溶液を内包する円筒形収納容器4の完成形を示している。ここで、評価対象物の形態によっては、評価対象物を蓋18によって固定することもでき、これにより評価対象物の表面に担持された光触媒と円筒形収納容器内壁との接触を防ぐことが可能となるため、摩擦による光触媒の脱離を防ぐことが可能となる。
【0025】
なお、図2の態様にあっては、粒状評価対象物2のみならず、粉状または懸濁状態にある評価対象物への応用も可能である。
【0026】
図4〜5は、収納容器への評価対象物および評価用溶液の他のセット例を示しており、図1〜3とは異なり収納容器が球状となっている。評価対象物が図4では粒状であり、図5では繊維状である場合を示す。各図aは、評価対象物2〜3が、中空半球状の収納容器下部20に挿入され、評価用液注入口を有する同形状の収納容器上部19を嵌合させる様子が示されている。中空半球状上部の同下部への嵌合は、ネジ式であっても、凹凸によるはめ込み方式であってもよく、さらに例えばパッキンなどを使用して液漏れを防ぐことが好ましい。各図bは評価用溶液16を評価用溶液注入口21から球形収納容器5内に導入する様子を、各図cは、回転運動しても内包物が外に漏れ出すことがないようにするための蓋18がセットされる様子を、さらに各図dは完成した球形収納容器5の例を示す。中空半球上部および下部についての材質については、図1〜3で用いられた円筒と同質のものが用いられ、また評価用溶液の量および粘度についても、図1〜3で述べた通りである。
【0027】
図6は円筒形収納容器、湾曲面状体型振とう容器および反復式振とう機よりなる光触媒活性化装置の一例を示す。1分間に前後に30 〜 200 回振とうする反復式振とう機10の上部に設けられた振とう台12には、振とう容器を固定するための固定具23、23が設けられており、かかる固定具間に、湾曲面状型振とう容器6が設置されている。この湾曲面状型振とう容器6は、図1〜3で例示した円筒形収納容器4が曲面を往復することにより回転するためのスロープ25とガイド24から構成されている。該ガイド24は、図に例示した円筒形収納容器4を用いる場合には外して使用することも可能であるが、収納容器として球形収納容器を用いる場合には、振とう容器6からの収納容器の脱落を防ぐために必要とされる。また、湾曲面状型振とう容器6の材質については、特に限定はされないが、好ましくは内壁に反射材を配置させることで、上方から照射される励起光14を反射させることができるため、光触媒を一層効率的に活性化することができるので、評価時間の短縮を図ることが出来る。
【0028】
図7は、図6で示した光触媒活性化装置を用いて、評価対象物の光触媒を活性化する様子を示している。この図では、光触媒活性化装置上部に励起光の光源13が配置され、そこから照射された励起光14が、反復式振とう機10の上部に置かれた反復回転運動中の円筒形収納容器4に連続的に照射される。この反復式振とう機10による反復運動は、振とう調節ダイアル15によって調節され、振とう台12上に固定されている湾曲面状型振とう容器6に直接伝わるが、その湾曲面状型振とう容器6内に収まっている円筒形収納容器4は湾曲面状型振とう容器6のスロープ25によって、反復時の動きの切替しによる衝撃を和らげ、連続的で円滑な回転動を円筒形収納容器4に与える働きをもっているところに特徴がある。これにより、評価対象物が立体的であっても全体に満遍なく励起光が照射されることになるとともに、円筒形収納容器4の内部は撹拌状態にある評価用溶液と常に接触できるため、極めて効率よく光触媒作用を評価することができる。
【0029】
図8は、図7で示した湾曲面状型振とう容器6の代わりに円筒型振とう容器7を用いて図4〜5で例示した球形収納容器5内の評価対象物の光触媒を活性化する様子を示している。ここに示されている円筒型振とう容器7は、図7で示した振とう容器とは異なり、開口部が存在しないため、過度の振とうによる収納容器の飛び出しを防止することができるとともに、上半部が励起光14を透過する材質であり、また下半部が励起光14を反射する材質22でできているために光触媒作用を効率よく発現できるものとなっている。このような装置で使用できる収納容器としては、図で示した球形5のものだけでなく、図1〜3で示したような円筒形の収納容器4を使用してもよい。
【0030】
図9は、図7で示した湾曲面状型振とう容器6の代わりに球型振とう容器8を用いて図4〜5で例示した球形収納容器5内の評価対象物の光触媒を活性化する様子を示している。ここに示されている球型振とう容器8は、上半部および下半部ともに励起光14を透過する材質でできているが、図8で示した振とう容器と同様に、下半部に励起光14の反射材22を設けて、光触媒作用を効率よく発現できるようにすることもできるし、収納容器についても、図で示した球形5のものだけでなく、図1〜3で示したような円筒形の収納容器4を使用することもできる。
【0031】
図10は、図7で示した反復式振とう機の代わりに回転式振とう機11を用い、また湾曲面状型振とう容器6の代わりに半球型振とう容器9を固定して球形収納容器5内の評価対象物の光触媒を活性化する様子を示している。回転式振とう機を用いる場合には、反復式振とう機よりも、回転運動を連続するため、一方向の運動が連続で行われ、反復による収納容器内の攪拌が穏やかに行われるので、摩擦による光触媒の離脱を防ぎたい場合に有効であるといった特徴がある。なお、ここに示されている半球型振とう容器9は励起光14を反射する材質でできている。
【実施例】
【0032】
本発明方法による光触媒の活性化について実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に制限されるものではない。
【0033】
実施例
0.36×24.5mmの穿刺針(ファセットテクノロジーズ社製品CL-CRV 28G:SUS304 Medical gradeステンレススチール製)の表面に、DCマグネトロンスパッタ(ビースパッタ社製品)を用いて、アルゴンガス65〜68ccm、酸素ガス32〜35ccm、出力0.9〜1kW、チタンターゲットと針試料との間隔100mm、スパッタリング時間80分間の条件下で厚さ3000〜3500Åの二酸化チタン(TiO2)膜を成膜し、二酸化チタン被膜穿刺針を得た。その後、二酸化チタン被膜を300℃で15分間アニーリングすることにより光触媒能を発揮させるために必要な二酸化チタンの結晶化処理を施した。
【0034】
得られた二酸化チタン被膜穿刺針を、片端をシーラントで栓をした滅菌済みの毛細管(内径0.45mm、外径0.89mm、容量5μl)に挿入し、さらに菌液2μl導入し、毛細管の上端をシーラントで栓をした。なお、菌液は次のようにして調製された。
【0035】
大腸菌MG1665を6時間、37℃、190rpmの条件下、2mlのLB培地で前培養した後、培養液1mlを100mlのLB培地に植菌してO.D.660が0.5〜0.6になるまで37℃、170rpmの条件下で約3時間本培養を行った。本培養後の培養液は生理食塩水(0.85% NaCl)で500倍に希釈して、抗菌効果試験に使用された。
【0036】
二酸化チタン被膜穿刺針および菌液が内包された毛細管は、湾曲面状振とう容器内で振とう機(日伸理科製品NA-201)を用いて170rpmの条件下で連続的に反復運動を行いつつ、ハンディーUVランプ(アズワン社製品LUV-16)を用いて波長365 nm、光強度0.5mW/cm2量のブラックライトが45分間照射された。
【0037】
紫外線照射後、毛細管内の菌液2μlを生理食塩水1mlで洗い流し、全量を約1mlとしたもののうち100μlを用いてLB寒天培地上に植菌した。培養は一晩、37℃の条件下で行なわれた。培養後、発生したコロニー数を生菌数として測定した。コロニー数の測定は同一の培養液を用いた5サンプルを1セットとし、これを3セット実施した。合計15サンプルの平均コロニー数は、10.8個であった。また、測定に使用する前の生菌数の値から、その平均生存割合(%)を算出したところ、2.3%であった。
【0038】
比較例1
実施例において、ブラックライトによる照射が行われなかったところ、平均コロニー数は、63個であり、また平均生存割合は13.3%であった。
【0039】
比較例2
実施例において、穿刺針の二酸化チタン被膜が行われなかったところ、平均コロニー数は、141個であり、また平均生存割合は29.7%であった。
【0040】
比較例3
実施例において、穿刺針の二酸化チタン被膜が行われず、ブラックライトによる照射も行われなかったところ、平均コロニー数は、211個であり、また平均生存割合は44.5%であった。
【0041】
以上の結果に示されるように、ブラックライトを45分間照射した二酸化チタン被覆穿刺針(実施例)についての大腸菌の生存率(コロニー数)は、ブラックライトを照射しない比較例1のコロニー数に対して17%であった。一方、二酸化チタンを被膜していない穿刺針(比較例2)では、ブラックライトを照射しない比較例3のコロニー数に対して約68%もの大腸菌が生存し、二酸化チタンを被膜したサンプルと比較すると顕著な違いが見られた。
【0042】
比較例4
実施例において、反復運動が行われず、5サンプルについてコロニー数の測定を行ったところ、反復運動が行われた実施例のコロニー数と比較して約2倍の数のコロニーが確認された。
【0043】
比較例4の結果に示されるように、立体的な対象物中に含まれる光触媒の活性化に際して、光触媒活性化対象物を活性化対象物収納容器に収納して該収納容器の振とうを行い、該収納容器を回転させることにより、収納容器の振とうを行わない場合と比べて光触媒の活性化に顕著な違いがみられ、光触媒の活性化における収納容器の振とうの重要性が示された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の円筒形の収納容器への棒状評価対象物および評価用溶液の一充填例を示す図である。
【図2】本発明の円筒形の収納容器への粒状評価対象物および評価用溶液の一充填例を示す図である。
【図3】本発明の円筒形の収納容器への繊維状評価対象物および評価用溶液の一充填例を示す図である。
【図4】本発明の球形の収納容器への粒状評価対象物および評価用溶液の一充填例を示す図である。
【図5】本発明の球形の収納容器への繊維状評価対象物および評価用溶液の一充填例を示す図である。
【図6】本発明の円筒形の収納容器、湾曲面状型振とう容器および反復式振とう機の一構成例を示す。
【図7】本発明の湾曲面状型振とう容器および反復式振とう機を組み合わせた円筒形の収納容器の評価の一例を示す。
【図8】本発明の円筒型振とう容器および反復式振とう機を組み合わせた球形の収納容器の評価の一例を示す。
【図9】本発明の球型振とう容器および反復式振とう機を組み合わせた球形の収納容器の評価の一例を示す。
【図10】本発明の半球型振とう容器および回転式振とう機を組み合わせた球形の収納容器の評価の一例を示す。
【符号の説明】
【0045】
1 棒状評価対象物
2 粒状評価対象物
3 繊維状評価対象物
4 円筒形収納容器
5 球形収納容器
6 湾曲面状型振とう容器
7 円筒型振とう容器
8 球型振とう容器
9 半球型振とう容器
10 反復式振とう機
11 回転式振とう機
12 振とう台
13 励起光源
14 励起光
15 振とう調節ダイアル
16 評価用溶液
17 円筒
18 蓋
19 中空半球上部
20 中空半球下部
21 評価用液注入口
22 反射材
23 固定具
24 ガイド
25 スロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)振とう機、(B)該振とう機上に設置された曲面を有する、活性化対象物を振とうするための振とう容器、(C)光触媒作用を有する化合物を構成材料の一成分として含有する活性化対象物を挿入するための、光触媒作用の活性化に必要とされる励起光を透過する材料で構成された回転可能な形状の活性化対象物収納容器および(D)該振とう機上部に設けられた、活性化対象物に励起光を照射するための光照射体よりなる光触媒活性化装置。
【請求項2】
振とう機が、反復振動式振とう機または回転振動式振とう機である請求項1記載の光触媒活性化装置。
【請求項3】
振とう容器が、湾曲面状型、円筒状型、球型または半球型である請求項1記載の光触媒活性化装置。
【請求項4】
振とう容器の少なくとも一部分に、励起光の反射材が設けられた請求項1記載の光触媒活性化装置。
【請求項5】
活性化対象物収納容器の形状が、球形または円筒形である請求項1記載の光触媒活性化装置。
【請求項6】
活性化対象物の形状が、粉状、粒状、棒状または繊維状である請求項1記載の光触媒活性化装置。
【請求項7】
活性化対象物が光触媒作用評価対象物であるとともに、収納容器に光触媒作用評価用溶液がさらに導入されることにより、光触媒作用評価装置として用いられる請求項1乃至5のいずれかに記載の光触媒活性化装置。
【請求項8】
光触媒作用評価用溶液が、抗菌作用を評価するための溶液または自浄作用を評価するための溶液である請求項7記載の光触媒作用評価装置。
【請求項9】
抗菌作用を評価するための溶液が、生菌を懸濁させた溶液である請求項8記載の光触媒作用評価装置。
【請求項10】
生菌が、大腸菌である請求項9記載の光触媒作用評価装置。
【請求項11】
大腸菌が、大腸菌K12株である請求項10記載の光触媒作用評価装置。
【請求項12】
大腸菌K12株が、大腸菌MG1665である請求項11記載の光触媒作用評価装置。
【請求項13】
請求項1乃至6のいずれかに記載の光触媒活性化装置を用い、光触媒活性化対象物を活性化対象物収納容器に収納した後、該収納容器を振とう機上の振とう容器にセットし、振とう機を振とうさせることにより収納容器を回転させた状態で、光照射体によって収納容器に対して少なくとも1方向から励起光の照射が行われることを特徴とする光触媒の活性化方法。
【請求項14】
請求項7乃至12のいずれかに記載の光触媒作用評価装置を用い、光触媒作用評価対象物を光触媒作用評価用溶液とともに収納容器に収納した後、該収納容器を振とう機上の振とう容器にセットし、振とう機を振とうさせることにより収納容器を回転させた状態で、光照射体によって収納容器に対して少なくとも1方向から励起光の照射を行い、光触媒作用評価用溶液の変化を測定することを特徴とする光触媒作用の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−61807(P2007−61807A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22005(P2006−22005)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】