説明

光触媒シートの処理方法及びシート集合体の製造方法

【課題】 施工直後においても光触媒シートが白色に近い色を呈することが可能な光触媒シートの処理方法を提供する。
【解決手段】 光触媒粉末を含有するフッ素樹脂の分散液を基材に塗布した後に当該基材を焼成することにより製造された光触媒シート1に、太陽光に含まれる紫外線よりも強い紫外線を照射して、当該光触媒シート1を強制的に白くする。または、紫外線を照射する代わりに光触媒シート1を加熱して、当該光触媒シート1を強制的に白くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒シートの処理方法及びその処理方法により処理された複数枚の光触媒シートからなるシート集合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒シートとしては、光触媒粉末を含有するフッ素樹脂の分散液を基材に塗布した後に当該基材を焼成することにより製造されるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この光触媒シートは、製造時の焼成前は白色であるが、焼成によって茶褐色になっている。
【0003】
前記光触媒シートは、テントや膜構造建造物に使用されることがあり、このような場合には、複数枚の光触媒シート同士を連結して大きな面積を有するシート集合体が製造される。前記複数枚の光触媒シート同士を連結するには、各光触媒シートの端部同士を重ね合わせ、その重ね合わせた部分を熱圧着して接合することにより行われる。
【特許文献1】特開平11−47610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光触媒シートは製造後に既に茶褐色になっており、前記光触媒シートの端部同士を熱圧着して接合すると、その接合部がさらに濃い茶褐色となる。
【0005】
膜構造建造物に使用されるシート集合体であれば、施工後の太陽光の照射によってシート集合体の色は全体として茶褐色から白色に変化していくが、茶褐色の色が目立たなくなるまでに数ヶ月(具体的には2〜3ヶ月程度)を要するため、施工直後にはシート集合体を構成する個々の光触媒シートが茶褐色でありかつ接合部がそれよりも濃い茶褐色であるので、外観上見栄えがよくないという問題があった。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、施工直後においても光触媒シートが白色に近い色を呈することが可能な光触媒シートの処理方法を提供すること、及び施工直後においても光触媒シート同士の接合部が白色に近い色を呈することが可能なシート集合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の光触媒シートの処理方法は、基材の少なくとも一方の最表面に光触媒粉末を含有するフッ素樹脂の分散液を塗布した後に当該基材を焼成することにより製造された光触媒シートに、太陽光に含まれる紫外線よりも強い紫外線を照射して、当該光触媒シートを強制的に白くすることを特徴とするものである。
【0008】
この構成によれば、光触媒シートを短時間で白くすることができ、施工の際には既に白くなった光触媒シートを用いることができるので、施工直後の見栄えを向上させることができる。
【0009】
または、紫外線を照射する代わりに、光触媒シートを加熱してもよい。
【0010】
このようにすれば、紫外線を照射するよりも短時間で光触媒シートを白くすることができる。
【0011】
また、予め白さの基準となる基準シートを作製しておき、この基準シートと前記光触媒シートとの色差が所定値以下になるまで光触媒シートに紫外線を照射するまたは光触媒シートを加熱することが好ましい。
【0012】
このようにすれば、光触媒シートを特定の白さよりも簡単に白くすることができる。
【0013】
本発明のシート集合体の製造方法は、前記光触媒シートの処理方法により処理された光触媒シートを複数枚用意し、各光触媒シートの端部同士または端部と中央部とを重ね合わせ、その重ね合わせた部分を熱圧着して接合することにより複数枚の光触媒シートが連結されたシート集合体を製造することを特徴とするものである。
【0014】
この構成によれば、各光触媒シートは予め前記処理方法により処理されて白くなっているので、各光触媒シートの端部同士または端部と中央部とを熱圧着して接合してもその接合部の色は濃い茶褐色になることはなく、白色に近い色を呈するようになる。従って、全体として白色に近い色のシート集合体を用いて施工することができるようになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、施工前から白い光触媒シートまたはシート集合体を用いて施工ができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
本発明の一実施形態に係る光触媒シートの処理方法では、まず図1に示すような長方形状の光触媒シート1を複数枚用意する。
【0018】
前記光触媒シート1は、基材の少なくとも一方の最表面に光触媒粉末を含有するフッ素樹脂の分散液を塗布した後に当該基材を焼成することにより製造されたものである。
【0019】
前記光触媒としては、二酸化チタン、三酸化チタン、酸化亜鉛等を挙げることができる。
【0020】
また、前記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)またはこれらのフッ素樹脂の混合物を挙げることができる。
【0021】
前記基材としては、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維等の無機繊維からなる織物または耐熱性を有する有機系織物や、これら織物にフッ素樹脂等の樹脂をコーティングしたもの等が好適である。
【0022】
そして、前記複数枚の光触媒シート1のうちの1枚にキセノンランプ等で太陽光に含まれる紫外線よりも強い紫外線を照射して、白さの基準となる基準シートを作製する。この基準シート作製工程では、茶褐色が略認められなくなる程度まで紫外線を照射する。なお、前記基準シートは、例えば手の平に乗る程度の大きさであってもよい。
【0023】
次に、他の光触媒シート1を平坦面上に載置し、その上から同じくキセノンランプ等で太陽光に含まれる紫外線よりも強い紫外線を照射して、当該光触媒シート1を強制的に白くする。この紫外線照射工程では、当該紫外線を照射した光触媒シート1と前記基準シートとの色差が所定値以下になるまで紫外線を照射する。
【0024】
ここで、色差ΔEとは、
【0025】
【数1】

【0026】
で表されるものである。この式中のΔL,Δa,Δbは、基準シート及び光触媒シート1のそれぞれの色を表す図2に示す色立体の各座標値L,a,b同士の差である。前記Lは明度を表し、a及びbは色相と呼ばれ、aが+ならば赤、aが−ならば緑、bが+ならば黄、bが−ならば青を表す。なお、これらL,a,bの求め方は日本工業規格JIS-Z-8701に規定されている。
【0027】
そして、この色差ΔEが20以下であれば、基準シートと光触媒シート1との色の違いがあまり目立たなくなるので、色差ΔEが20以下になるまで紫外線を照射することが好ましい。なお、後述するシート集合体2を製造する際には、各光触媒シート1の端部同士を接合する必要があるので、その接合部と前記基準シートとの色差ΔEが20以下となるように各光触媒シート1と基準シートとの色差ΔEを設定して紫外線を照射すればよい。
【0028】
両面に光触媒がコーティングされた光触媒シート1を用いる場合、光触媒シート1の一方の面に紫外線を照射した後は、光触媒シート1を上下反転して、他方の面にも前記基準シートとの色差が所定値以下になるまで紫外線を照射する。もしくは両面同時に照射してもよい。
【0029】
このようにすれば、光触媒シート1を短時間で白くすることができ、施工の際には既に白くなった光触媒シート1を用いることができるので、施工直後の見栄えを向上させることができる。
【0030】
また、光触媒シート1の処理の前に基準シートを作製し、この基準シートとの色差ΔEに基づいて光触媒シート1を処理する時間を決定しているので、光触媒シート1を特定の白さよりも簡単に白くすることができる。
【0031】
なお、前記実施形態では、紫外線を照射して光触媒シート1を強制的に白くしているが、紫外線を照射する代わりに、光触媒シート1をオーブン等に入れて加熱してもよい。
【0032】
このようにすれば、紫外線を照射するよりも短時間で光触媒シート1を白くすることができる。ここで、光触媒シート1は焼成によっては茶褐色になるが加熱によっては白くなるのは、加熱では光触媒シート1をある程度の時間加熱することにより分散液に含有される界面活性剤等の有機物が分解されるが、焼成では時間が短く前記有機物が分解されるまでに至らないからであると考えられる。
【0033】
そして、白色を呈するように処理された光触媒シート1を複数枚用意し、各光触媒シート1の端部1a同士または端部と中央部とを重ね合わせ、その重ね合わせた部分を熱圧着して接合すれば、複数枚の光触媒シート1が連結されたシート集合体2を製造することができる。
【0034】
前記各光触媒シート1は予め前記処理方法により処理されて白くなっているので、前記のように各光触媒シート1の端部1a同士を熱圧着して接合してもその接合部の色は濃い茶褐色になることはなく、白色に近い色を呈するようになる。従って、全体として白色に近い色のシート集合体を用いて施工することができるようになる。
【0035】
また、光触媒シート1が破損した場合に、破損した部分を張り替える際に前記処理方法により処理された光触媒シート1を用いれば、張り替えた部分の色が茶褐色になることを抑制することもできる。
【実施例1】
【0036】
まず、光触媒シート1にキセノンランプで波長が300〜400nmの紫外線を180W/mの強さで200時間照射して基準シートを作製した。
【0037】
次に、複数枚の光触媒シート1(試験片1〜4)を用意し、試験片1には紫外線を照射せず、試験片2には前記基準シートを製作したのと同じ波長及び強さの紫外線を1時間照射し、試験片3には6時間照射し、試験片4には24時間照射して、各試験片と前記基準シートとの色差ΔEを測定した。
【0038】
その後に、それぞれの試験片の端部同士を重ね合わせ、その端部を370℃まで加熱した熱板で70秒間挟み込んで当該端部同士を熱圧着して接合し、その接合部と前記基準シートとの色差ΔEを測定した。
【0039】
前記測定結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
光触媒シート1に紫外線を照射する場合には、前記紫外線を24時間照射すれば接合後の接合部でも基準シートとの色差ΔEが20以下に抑えられた。
【実施例2】
【0042】
基準シートの作製は前記実施例1と同様に行った。
【0043】
次に、複数枚の光触媒シート(試験片5〜8)を用意し、試験片5には何もせず、試験片6をオーブンに投入して380℃の温度で1時間加熱し、試験片7も同様にして4時間加熱し、試験片8も同様にして8時間加熱して、各試験片と前記基準シートとの色差ΔEを測定した。
【0044】
その後に、前記実施例1と同様にそれぞれの試験片の端部同士を接合し、その接合部と前記基準シートとの色差ΔEを測定した。
【0045】
前記測定結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
光触媒シート1を加熱する場合には、前記実施例1のように紫外線を照射するよりも早く光触媒シート1が白くなった。例えば、紫外線を照射した場合は光触媒シート1と基準シートとの色差ΔEが2となるには24時間を要したのに対し、光触媒シート1を加熱した場合は4時間で色差ΔEが2を下回った。
【0048】
また、各試験片の端部同士を接合した場合、その接合部と前記基準シートとの色差ΔEが紫外線を照射するよりも小さく抑えられた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係るシート集合体の正面図である。
【図2】色差を計算するための色立体を表した図である。
【符号の説明】
【0050】
1 光触媒シート
1a 端部
2 シート集合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一方の最表面に光触媒粉末を含有するフッ素樹脂の分散液を塗布した後に当該基材を焼成することにより製造された光触媒シートに、太陽光に含まれる紫外線よりも強い紫外線を照射して、当該光触媒シートを強制的に白くすることを特徴とする光触媒シートの処理方法。
【請求項2】
基材の少なくとも一方の最表面に光触媒粉末を含有するフッ素樹脂の分散液を塗布した後に当該基材を焼成することにより製造された光触媒シートを加熱して、当該光触媒シートを強制的に白くすることを特徴とする光触媒シートの処理方法。
【請求項3】
予め白さの基準となる基準シートを作製しておき、この基準シートと前記光触媒シートとの色差が所定値以下になるまで光触媒シートに紫外線を照射するまたは光触媒シートを加熱することを特徴とする請求項1または2に記載の光触媒シートの処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒シートの処理方法により処理された光触媒シートを複数枚用意し、各光触媒シートの端部同士または端部と中央部とを重ね合わせ、その重ね合わせた部分を熱圧着して接合することにより複数枚の光触媒シートが連結されたシート集合体を製造することを特徴とするシート集合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−239586(P2006−239586A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−59385(P2005−59385)
【出願日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(000204192)太陽工業株式会社 (174)
【Fターム(参考)】