説明

光触媒シート及びその製造方法

【課題】
触媒シートに光触媒となるアナターゼ型酸化チタンを強固に担持させると共に剥がれを防止し、さらに、光触媒に接する機会を増大させて、光触媒による浄化処理効率を向上させる。
【解決手段】
チタン箔(1)の片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して表裏を貫通する多数の微細流路(2)を形成することにより、当該チタン箔(1)を非周期性海綿構造とし、その表面に陽極酸化処理を施した後、加熱処理を施して酸化チタンベース(3)を形成し、当該酸化チタンベース(3)にアナターゼ型酸化チタン粒子(4)を焼き付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒となるアナターゼ型酸化チタン粒子が担持された光触媒シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アナターゼ型の酸化チタンは光触媒として知られており、紫外線照射によりヒドロキシラジカル(・OH)などの活性種や正孔が生成し、これによって有機物が分解されるため、脱臭効果や殺菌効果が得られ、空気清浄機などに応用されている。
【0003】
図7は光触媒を利用した従来の流体浄化装置である(特許文献1参照)。
流体浄化装置31は、ケース32内部に備えた励起光源33の周囲を囲うように光触媒構造体34が配されている。
その光触媒構造体34は、直径の異なる円筒触媒35がスペーサ(図示せず)を介して所定の間隔で同心的に配され、各円筒触媒35は、金属メッシュの全表面に光触媒を担持させて形成されている。
これによれば、円筒触媒35を同心状に配した三重構造の光触媒構造体34を用いることによって、光触媒構造体34の有効表面積が増加し、かつ、通過する流体に乱流が生じるため、流体中の臭気物質との接触割合が大きくなって、臭気物質を短時間で効率よく酸化分解できることが記載されている。
【0004】
しかしながら、光触媒となるアナターゼ型の酸化チタンを一般の金属メッシュや金属網目体にコーティングさせようとしても、酸化チタンは結合強度が弱く、担体となる金属表面に形成した酸化チタン膜が剥がれやすいため、製品寿命が短く、有害臭気成分を効率的に分解することができないという問題がある。
【0005】
特に、円筒触媒35は、表面積を増やすために細いワイヤを細かく編んだ金属メッシュが用いられるが、そのような金属メッシュで形成された円筒触媒35は手で軽く握るだけで簡単に凹んでしまう程度に機械的強度が低いため、組み立てが困難なだけでなく、光触媒構造体34に組み立てた後も取り扱い難い。そして、その外周面を握ることにより表面が撓んでしまうと、広範囲にわたって酸化チタン膜が簡単に剥がれ落ちてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−276558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、光触媒となるアナターゼ型酸化チタンを強固に担持させると共に剥がれを防止し、さらに、光触媒に接する機会を増大させて、光触媒による浄化処理効率を格段に向上させることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明に係る光触媒シートは、アナターゼ型酸化チタン粒子を担持した光触媒シートであって、片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して表裏を貫通する多数の微細流路が形成された非周期性海綿構造を有するチタン箔の表面に、陽極酸化皮膜による酸化チタンベースが形成され、当該酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子が焼き付けられたことを特徴としている。
この光触媒シートは、チタン箔の片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して当該チタン箔を表裏を貫通する多数の微細流路が形成された非周期性海綿構造とし、当該チタン箔に陽極酸化処理を施した後、加熱処理を施してその表面に酸化チタンベースを形成し、当該酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付け製造される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、材料としてチタン箔を用いているので、フレキシブルなシート状に形成することができ、紫外線空気清浄機の仕様に応じて任意の形状に折り曲げたり巻回したりすることができる。
また、エッチング処理が施されて非周期性海綿構造に形成されているので、チタン箔の表裏を貫通する多数の微細流路が形成され、単純なワイヤメッシュやパンチングメタルなどに比して比評面積を大きくすることができる。
特に、チタン箔の両面からエッチング処理を施すことにより非周期性海綿構造を形成すれば、そのパターンに周期性がないことから、チタン箔の表側と裏側から異なるパターンの孔が形成される。その結果、チタン箔の厚さ方向に複雑な形状のラビリンス流路が形成されるので、自然に存在する海綿構造体と同様、比表面積が著しく大きくなる。
【0010】
また、チタン箔の表面に形成された陽極酸化皮膜による酸化チタンベースに、アナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて光触媒層が形成されている。
陽極酸化皮膜による酸化チタンベースと光触媒層は、酸化チタン同士が結合することとなり、その結合性が極めて強く、光触媒層が剥がれ難い。
【0011】
さらに、エッチング処理により微細流路を形成したことにより表面が複雑な凹凸形状をなし、陽極酸化皮膜でなる酸化チタンベースはミクロンオーダーの微細なひび割れを生ずるため、その上に光触媒層が強固に結合するだけでなく、表面積が増え、処理効率が格段に向上する。また、UV光を照射したときに光触媒層の表面及び酸化チタンベースとの界面で乱反射/光散乱が起き、UV光を効率よく利用できる。
さらにまた、チタン箔を使用したことで光触媒シート自体を軽量に形成することができることから設計の自由度が大きくなり、耐熱性、耐薬品にも優れるため、過酷な使用条件の下でも使用に耐え得る。
このようにシート状に形成されているので、光源の配置によっては両面照射することもでき、多層化することも可能であり、その場合、光触媒効果もより向上することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る光触媒シートの一例を示す説明図。
【図2】その製造方法の概略を示す説明図。
【図3】その光触媒シートを用いた空気清浄機の例を示す説明図。
【図4】本発明に係る他の実施例を示す説明図。
【図5】その光触媒シートを用いた空気清浄機の例を示す説明図。
【図6】実験結果を示すグラフ。
【図7】従来装置を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、チタン箔に光触媒となるアナターゼ型酸化チタンを強固に担持させると共に剥がれを防止し、さらに、光触媒に接する機会を増大させて、光触媒による浄化処理効率を格段に向上させるという目的を達成するために、チタン箔の片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して表裏を貫通する多数の微細流路を形成して、当該チタン箔を非周期性海綿構造とし、その表面に陽極酸化処理を施して酸化チタンベースを形成し、当該酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けて成る。
【実施例1】
【0014】
図1に示す光触媒シートS1は、片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して表裏を貫通する多数の微細流路2が形成された非周期性海綿構造を有するチタン箔1の表面に、陽極酸化皮膜による酸化チタンベース3が形成され、当該酸化チタンベース3にアナターゼ型酸化チタン粒子4を焼き付けた光触媒層5が形成されている。
【0015】
図2はその光触媒シートS1の製造方法を示す説明図である。
まず、チタン箔1に微細流路2を形成するエッチング処理を行う。エッチング処理は、純チタンを圧延して形成したチタン箔1の表裏両面にフォトレジスト剤6を塗布する塗布工程(図2(a))と、レジスト剤6の上から非周期的パターンが形成されたマスキングフィルム7、7を重ねて露光する露光工程(図2(b))と、露光後、レジスト剤の感光していない部分を洗浄して感光した部分をチタン箔表面に残す洗浄工程(図2(c))と、レジスト剤6で非周期網目パターンがマスキングされたチタン箔1をエッチング液に浸漬し、表裏両面からチタン箔1の厚さの半分まで浸食させることにより表裏を貫通する多数の微細流路2…を形成する浸漬工程(図2(d))からなる。
【0016】
このように、チタン箔1の両面からエッチング処理を施せば、そのマスキングパターンに周期性がないことから、チタン箔の表側と裏側から異なるパターンの孔が形成される。その結果、図1に示すように、チタン箔1の厚さ方向に複雑なラビリンス状の微細流路2が形成され、単純なメッシュ構造よりも比表面積が著しく大きくなる。
なお、光触媒シートS1の空隙率(エッチング処理後の重量/エッチング処理前の重量)は20%程度である。
また、その表面を拡大観察すると、この時点では、図2(e)に示すように、概ねフラットな状態となっている。
【0017】
次いで、その表面に酸化チタンベース3を形成する陽極酸化処理を行う。
陽極酸化処理は、リン酸浴(例えばリン酸3%水溶液)中で、陽極となるチタン箔1と陰極との間に所定電圧を印加して行われ、その結果、図2(f)に示すように、チタン箔1の表面が酸化されて陽極酸化皮膜が形成される。
このとき、酸化皮膜は、チタン箔1の表裏両面だけでなく、微細流路2の内壁面などリン酸浴に曝されている全表面に形成される。
その後、このチタン箔1を大気中で550℃、3時間加熱する加熱処理を施し、陽極酸化皮膜が加熱された酸化チタンベース3が形成される。
その表面を拡大観察すると、エッチング処理した時点でフラットだった表面に、陽極酸化処理及び加熱処理によるひび割れ8が多数出現する。
【0018】
なお、チタンを陽極酸化処理した場合、その酸化皮膜の厚さに応じて光の干渉により異なる色が発色し、厚さ70nm程度で紫色、150nm程度で緑色、200nm程度でピンク色を呈することが知られている。
本例では、厚さ70〜150nmの皮膜を形成した。
【0019】
そして最後に、アナターゼ型酸化チタン粒子4を担持させる焼き付け処理を行う。
表面に酸化チタンベース3が形成されたチタン箔1を、アナターゼ型酸化チタン粒子4を分散したスラリー中にディッピングした後、これを550℃で焼き付けると、図2(g)に示すように、チタン箔1の表裏両面及び微細流路2の内壁面に光触媒層5が形成される。
【0020】
酸化チタンベース3と光触媒層5は、酸化チタン同士が結合することになるので、その結合性が極めて強くなり、その結果、光触媒層5が剥がれ難くなる。
【0021】
さらに、エッチング処理により微細流路2を形成したことにより表面が複雑な凹凸形状をなし、陽極酸化皮膜でなる酸化チタンベース3はミクロンオーダーの微細なひび割れ8を生ずるため、その上に光触媒層5が強固に結合するだけでなく、表面積が増え、処理効率が格段に向上する。また、UV光を照射したときに光触媒層5の表面及び酸化チタンベース3との界面で乱反射/光散乱が起き、UV光を効率よく利用できる。
さらにまた、チタン箔を使用したことで光触媒シート自体を軽量に形成することができることから設計の自由度が大きくなり、耐熱性、耐薬品にも優れるため、過酷な使用条件の下でも使用に耐え得る。
【0022】
そして、図3に示すように、このように製造された光触媒シートS1を円筒状に巻いて、その中心に紫外線光源9を配した光触媒ユニットU1とし、これを、空気清浄機の処理チャンバ10内を流れる空気流に曝すように配して使用することができる。
さらに、光触媒シート1は、シート状に形成されているので、光源の配置によっては両面照射することもでき、多層化することも可能であり、その場合、光触媒効果もより向上することが期待できる。
【実施例2】
【0023】
本例の光触媒シートS2は、図4に示すように、一方向に沿って連続する起伏が折曲形成された波板状に形成されている。
この光触媒シートS2も、実施例1の光触媒シートと同様、片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して表裏を貫通する多数の微細流路2が形成された非周期性海綿構造を有するチタン箔1に陽極酸化処理及び加熱処理を施して、その全表面に陽極酸化皮膜による酸化チタンベース3を形成し、当該酸化チタンベース3にアナターゼ型酸化チタン粒子4を焼き付けた光触媒層5が形成されている。
【0024】
また、本例では、光触媒シートS2を波板状に形成するため、陽極酸化処理を施した後、加熱処理を施す前に、プレス加工により波板状に形成する成形処理を施してチタン箔1の長手方向に沿って連続する起伏を折曲形成している。
この成形加工は、エッチング処理後、酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付ける焼き付け処理の前であればよく、例えば、エッチング処理後、陽極酸化処理の前にプレス加工をしても良い。
【0025】
そして、図5に示すように、このように製造された光触媒シートS2を円筒状に巻いて、その中心に紫外線光源9を配した光触媒ユニットU2とし、これを、空気清浄機の処理チャンバ10内を流れる空気流に曝すように配して使用することができる。
【0026】
図6は、このように形成した光触媒シートS2の空気浄化性能を確認した実験結果を示す。
実験では、容積1mの密閉空間内に、光触媒シートS2を二重に巻きつけた光触媒ユニットUを置き、中心に波長254nmの紫外線光源を配して、この光触媒ユニットUに対し風速5.5m/sの風を吹き付けながら、その密閉空間内の所定濃度のアセトアルデヒドの濃度変化を経時的に測定した。
比較例として、陽極酸化処理を行わないことを除き、同一条件で形成した光触媒シートScを二重に巻きつけた光触媒ユニットUcを形成し、同一条件で実験を行った。
そして、これらの実験結果より、夫々のアセトアルデヒドの分解速度定数kを算出した。
なお、紫外線透過率は、いずれも12%であった。
【0027】
実験結果より算出された分解速度定数は、陽極酸化処理を行わない光触媒シートScを用いたタイプがk=2.60であるのに対し、本発明に係る光触媒シートS2を用いたタイプはk=3.58と、今までに例を見ない抜群の処理能力を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、医療施設、工場、住宅、オフィスの空気を浄化する空気清浄機や、水を浄化する浄水器の用途に適用し得る。
【符号の説明】
【0029】
S1、S2 光触媒シート
1 チタン箔
2 微細流路
3 酸化チタンベース
4 アナターゼ型酸化チタン粒子
5 光触媒層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナターゼ型酸化チタン粒子を担持した光触媒シートであって、
片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して表裏を貫通する多数の微細流路が形成された非周期性海綿構造を有するチタン箔の表面に、陽極酸化皮膜による酸化チタンベースが形成され、当該酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子が焼き付けられたことを特徴とする光触媒シート。
【請求項2】
酸化チタンベースが形成された前記チタン箔の一方向に沿って連続する起伏が折曲形成されると共に、その酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子が焼き付けられた請求項1記載の光触媒シート。
【請求項3】
アナターゼ型酸化チタン粒子を担持した光触媒シートの製造方法であって、
チタン箔の片面又は両面から非周期的パターンによるエッチング処理を施して当該チタン箔を表裏を貫通する多数の微細流路が形成された非周期性海綿構造とし、
当該チタン箔に陽極酸化処理を施した後、加熱処理を施してその表面に酸化チタンベースを形成し、
当該酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付けることを特徴とする光触媒シートの製造方法。
【請求項4】
前記エッチング処理後、酸化チタンベースにアナターゼ型酸化チタン粒子を焼き付ける前に、当該チタン箔の一方向に沿って連続する起伏を折曲形成した請求項3記載の光触媒シートの製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−183240(P2011−183240A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47773(P2010−47773)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(506308633)ユーヴィックス株式会社 (11)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【出願人】(593150601)株式会社ホリエ (2)
【Fターム(参考)】