説明

光触媒体の製造方法および光触媒体

【課題】耐久性および光触媒効率が高く基材選択の自由度が高い光触媒体を簡易かつ低コストに製造する方法を提供する。
【解決手段】光触媒体を製造する方法であって、粒子径が0.01mm〜5.00mmであるチタン粉または該チタン粉を酸化性雰囲気下チタンの溶融温度未満の温度で予備焼成処理した予備焼成粉を基材上に分散し、次いで、酸化性雰囲気下、チタンの溶融温度未満の温度で焼成処理することにより、チタン粉の粒状酸化物が基材表面に分散固着された光触媒体を得ることを特徴とする光触媒体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒体の製造方法および光触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化チタンを用いた光触媒は、非常に多岐の分野に亘って用途開発が行われるようになっており、水の分解による水素の発生、酸化還元反応を利用した有機化合物の合成、排ガス処理、空気清浄、防臭、殺菌、抗菌、水処理、照明機器等の汚れ防止等、多くの用途の開発が行われている。
【0003】
光触媒を基材上に塗布してなる光触媒体は、通常、基材の劣化を抑制する保護膜を基材上に形成した後、該保護膜上に光触媒を分散塗布し、さらに光触媒の剥離を抑制する密着膜を形成することにより作製されている。
【0004】
上記密着膜は、光触媒の基材からの剥離を効果的に抑制することができるが、処理対象と光触媒との直接接触が阻害されるために、触媒機能を十分に発揮させ難いという課題を有している。
【0005】
また、密着膜は合成樹脂で構成される場合が多いため、例えば、光触媒体が外壁材等の外装材である場合、密着膜が風雨に直接さらされて表面が劣化したり剥離することにより、光触媒が大気に直接暴露して劣化するため、光触媒機能が発揮されなくなるという課題が存在している。このような場合、低層建築物からなる通常の民家等であればメンテナンスも比較的容易に行うことができるが、高層建築物に施工した場合には、メンテナンスが困難であり、何れにしても相当のメンテナンスコストを必要とする。
【0006】
上記技術課題を解決するため、タイル素地に釉薬層を塗布した後、その上からゾル状の酸化チタンを吹付け、次いでタイル素地全体を高温で焼成して溶融一体化する方法が報告されている(特許文献1(特開2000−189807号公報)参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の方法は、酸化チタンゾルの一部が釉薬層に埋没してしまい光触媒機能を十分に発揮することができないという技術課題が存在している。
【0008】
また、チタン板の表面を陽極酸化して光触媒層を形成したり、チタン板の表面に陽極酸化膜を形成した後さらに光触媒層を形成した光触媒体の製造方法が報告されている(特許文献2(特開2000−271493号公報)および特許文献3(特開平10−121266号公報)参照)。
【0009】
しかしながら、特許文献2および特許文献3記載の方法は、チタン板の全面に酸化膜や光触媒層を設けることを前提とする方法であるため、基材としてチタン板以外のものを用いる場合や、基材面の一部にのみ光触媒機能を付与したい場合には適当でない。また、特に特許文献3記載の方法においては、光触媒層とともに基材にも高価なチタンを用いる必要があることから、得られる光触媒体が非常に高額になってしまうという技術課題が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−189807号公報
【特許文献2】特開2000−271493号公報
【特許文献3】特開平10−121266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような状況下、本発明は、耐久性および光触媒効率が高く基材選択の自由度が高い光触媒体を簡易かつ低コストに製造する方法および光触媒体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記技術課題を解決すべく、本発明者等が鋭意検討したところ、粒子径が0.01mm〜5.00mmであるチタン粉または該チタン粉を酸化性雰囲気下チタンの溶融温度未満の温度で予備焼成処理した予備焼成粉を基材上に分散し、次いで、酸化性雰囲気下、チタンの溶融温度未満の温度で焼成処理して、チタン粉の粒状酸化物が基材表面に分散固着された光触媒体を製造することにより、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)光触媒体を製造する方法であって、
粒子径が0.01mm〜5.00mmであるチタン粉または該チタン粉を酸化性雰囲気下チタンの溶融温度未満の温度で予備焼成処理した予備焼成粉を基材上に分散し、次いで、
酸化性雰囲気下、チタンの溶融温度未満の温度で焼成処理することにより、
チタン粉の粒状酸化物が基材表面に分散固着された光触媒体を得る
ことを特徴とする光触媒体の製造方法、
(2)前記予備焼成処理または焼成処理を1100℃〜1300℃で行う上記(1)に記載の光触媒体の製造方法、
(3)前記チタン粉がスポンジチタン粉を含むものである上記(1)または(2)に記載の光触媒体の製造方法、
(4)前記チタン粉の嵩密度が1g/cm以下である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒体の製造方法、
(5)前記基材がセラミック、ガラスまたは金属で構成されてなるものである上記(1)〜(4)のいずれかに記載の光触媒体の製造方法、および
(6)チタン粉の粒状酸化物が基材表面に分散固着されてなることを特徴とする光触媒体、
(7)前記チタン粉の粒状酸化物が表面に酸化物層または酸化物層および窒化物層からなる表面層を有するものである上記(6)に記載の光触媒体、
(8)前記表面層の厚さが、10μm〜500μmの範囲にある上記(7)に記載の光触媒体、
(9)前記チタン粉が、粒子径0.01mm〜5.00mm、比表面積1m/g〜5m/g、細孔径1μm〜100μmである上記(7)または(8)に記載の光触媒体、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐久性および光触媒効率が高く基材選択の自由度が高い光触媒体を簡易かつ低コストに製造する方法および光触媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例における焼成方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
先ず、本発明の光触媒体の製造方法について説明する。
【0017】
本発明の光触媒体の製造方法は、粒子径が0.05mm〜3.00mmであるチタン粉または該チタン粉を酸化性雰囲気下チタンの溶融温度未満の温度で予備焼成処理した予備焼成粉を基材上に分散し、次いで、酸化性雰囲気下、チタンの溶融温度未満の温度で焼成処理することにより、チタン粉の粒状焼成物が基材表面に分散固着された光触媒体を得ることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の方法において、チタン粉としては、クロール法で製造されるスポンジチタン粉のような不定形の微粒粉や、金属インゴットを切削することにより製造されるビビリ粉や、更にはアトマイズ法により製造されるアトマイズ粉のような球状粉等を挙げることができ、これ等のチタン粉のうちスポンジチタン粉を用いることが好ましい。スポンジチタンは、比表面積が大きくスポンジチタンを構成する個々の金属チタンの一次粒子の表面に酸化膜を形成することができるため、粉体内部まで酸化膜を形成することができ、被処理物との接触面積を増大させて、優れた光触媒機能を有する光触媒体を形成することができる。
【0019】
チタン粉の嵩密度は、1g/cm以下であることが好ましく、0.5g/cm以下であることがより好ましい。このように、嵩密度の小さい、いわゆる空隙率の大きいチタン粉を原料とすることで、個々のチタン粉の内部まで酸化膜を形成することができ、表面積を増大させることができるため、光触媒機能も効果的に発現させることができる。
【0020】
チタン粉の純度は、2N(99%)以上あるいは3N(99.9%)以上であることが適当であり、上記純度を有することにより、焼成条件を制御して容易に所望の発色を呈することができる。
【0021】
本発明の方法においては、前記チタン粉として、クロール法により塊状スポンジチタンを製造した後、その表面を構成するチタン純度の低い金属粉を用いることもでき、この場合、従来は規格外品とされていたチタン粉を有効に活用することができる。
【0022】
本発明の方法において、チタン粉の粒子径は、0.01〜5.00mmであり、0.50〜3.00mmであることがより好ましい。
【0023】
なお、本出願書類において、粒子径範囲は、金属粉を樹脂に埋め込み、300個の金属粉の断面を電子顕微鏡で観察することにより各粒子径を特定し、その上限値と下限値により規定することができる。
【0024】
本発明の方法において、チタン粉の細孔径は、1〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
【0025】
本出願書類において、細孔径範囲は、金属粉を樹脂に埋め込み、200個の金属粉の断面を電子顕微鏡で観察することにより各細孔径を特定し、その上限値と下限値により規定することができる。
【0026】
本発明の方法において、チタン粉の比表面積は、1〜5m/gであることが好ましく、2〜4m/gであることがより好ましい。
【0027】
本出願書類において、比表面積は、BET法により求めることができる。
【0028】
本発明の方法においては、上記チタン粉に代えてまたは上記チタン粉とともに、上記チタン粉を酸化性雰囲気下チタンの溶融温度未満の温度で予備焼成処理した予備焼成粉を用いてもよい。
【0029】
予備焼成時における酸化性雰囲気や予備焼成温度等の予備焼成条件は、後述する焼成処理時の雰囲気や温度等の焼成条件と同様であることが好ましい。
【0030】
上記チタン粉に代えてまたは上記チタン粉とともに予備焼成粉を用いることにより、後述する焼成工程において、基材の焼成、チタン粉の焼成および粒状酸化物の固着を容易に制御することができる。
【0031】
本発明の方法において、基材は、セラミック、ガラスまたは金属で構成されてなるものであることが好ましい。
【0032】
基材の形状は特に制限されないが、例えば、平板形状を挙げることができる。
【0033】
基材がセラミックで構成されてなるものである場合、該基材として具体的には、坏土をプレス成形したタイル素材を挙げることができる。
【0034】
上記坏土としては、SiO、Al、MgO、CaO等を含むものであることが好ましく、具体的には、SiO50〜70質量%、Al20〜30質量%、MgO 0.1〜5.0質量%、CaO1〜10質量%を含むものを挙げることができ、SiO55〜65質量%、Al20〜25質量%、MgO 0.5〜3.0質量%、CaO 1.5〜6.0質量%を含むものであることがより適当である。
【0035】
上記タイル素材としては、坏土にバインダーを加えた粘土状物をプレス成形したものであってもよい。
【0036】
バインダーとしては、例えば、アルカリシリケート、アルキルシリケート有機金属化合物、金属リン酸化合物等を懸濁させた溶液等を挙げることができる。
【0037】
また、坏土とバインダーを混合する手段としては、例えば、V型混合器やヘンシェルミキサーを挙げることができる。
【0038】
粘土状物中に占める坏土の割合は、乾燥基準で、90〜95質量%であることが好ましい。
【0039】
上記坏土または粘土状物をプレス成形してタイル(セラミックからなる基材)を作製する。プレス成形は、例えば、上下一対の成形型を有するプレス成形機において、下型の成形面上に上記坏土または粘土状物を充填した後、上型を下降させまたは下型を上昇させることにより、室温下、0.05〜0.1MPaの押圧力にて5〜15秒間押圧することにより行うことができる。
【0040】
本発明の方法において、基材がタイル素材等の平板状のものである場合、その寸法は、例えば、縦100〜300mm、横100〜300mm、厚さ5〜20mm程度であることが適当である。
【0041】
本発明の方法において、上記チタン粉または該チタン粉の予備焼成粉は基材上に分散される。
【0042】
上記チタン粉または該チタン粉の予備焼成粉は、例えば、タイル素材上に規則的又は不規則的に散布することによって分散することができ、具体的には、振動フィーダー等の原料排出口をタイル素材の上方空間部にてランダムに移動さる方法や、あるいは、金属粉を混合機より空気輸送により旋回式ノズルから大気中に放出させる方法等により分散することが好ましい。
【0043】
本発明の方法においては、チタン粉または該チタン粉の予備焼成粉の分散に先立って基材の表面に予め釉薬を塗布しておいてもよい。予め釉薬を塗布しておくことで、チタン粉や予備焼成粉を適確に分散配置することができる。上記釉薬としては、例えば、粘土、長石、陶石、カオリン、ベントナイト、珪砂、石灰石、シリカ、焼タルク、酸化アルミナ、籾灰、藁灰、ジルコン、亜鉛華、ガラスフリット等を挙げることができる。
【0044】
チタン粉または該チタン粉の予備焼成粉の分散量は、目的に応じて適宜調整することができ、例えば、平板状基材の何れかの主表面において、10cm×10cmあたり0.1〜10g分散することが好ましく、0.1〜8g分散することがより好ましく、0.1〜5g分散することがさらに好ましい。
【0045】
本発明の方法においては、チタン粉または該チタン粉の予備焼成粉が分散された基材を、酸化性雰囲気下、チタンの溶融温度未満の温度で焼成する。
【0046】
酸化性雰囲気としては、酸素ガス雰囲気、大気雰囲気等を挙げることができ、酸化性雰囲気が酸素ガス雰囲気である場合、雰囲気中の酸素ガスの分圧は0.01〜0.1MPaであることが好ましく、0.03〜0.1MPaであることがより好ましく、0.05〜0.1MPaであることがさらに好ましい。雰囲気中の酸素ガスの分圧を上記範囲にすることにより、チタン粉の表面に形成される酸化物層の厚みを制御することができる。
【0047】
本発明の方法において、光触媒体に所望の色彩を施したい場合には、酸化性雰囲気中に若干の窒素ガスを添加してもよい。雰囲気中に窒素ガスを添加することで、表面に窒化物層と酸化物層の両者を形成したチタン粉の粒状酸化物(粒状焼成物)を形成させることができ、上記窒化物層が金色の発色を呈し、上記酸化物層が赤色あるは青色の発色を呈することから、消費者の趣向に応じて着色された光触媒体を提供することができる。本発明の方法においては、チタン粉または該チタン粉を酸化性雰囲気下で焼成した予備焼成粉を焼成処理するが、上記着色を目的とする場合は、さらに上記チタン粉を窒素雰囲気下で焼成した予備焼成物を加えた上で焼成処理してもよい。
【0048】
焼成温度は1100〜1300℃であることが好ましく、1000〜1300℃であることがより好ましく、1100〜1200℃であることがさらに好ましい。
【0049】
本発明の方法においては、焼成温度をチタンの溶融温度未満(チタンの融点が1668℃であることから、通常1668℃未満)とすることにより、タイル素材上に分散させたチタン粉または該チタン粉の予備焼成物を溶融させることなく、粒子形状を保持したまま、基材素地上に固着することができる。
【0050】
焼成時間は、1〜5時間であることが好ましく、2〜4時間であることがより好ましい。
【0051】
本発明の方法においては、上記焼成によって、基材の焼成処理、チタン粉または予備焼成物の焼成処理および基材素地への固着を同時に行うことができることから、簡便かつ低コストに光触媒体を作製することができる。
【0052】
また、本発明の方法においては、基材の焼成処理とチタン粉または予備焼成物の焼成処理とを同時に行うことにより、焼成物が基材に強固に結合した耐久性の高い光触媒体を得ることができる。さらに、本発明の方法においては、基材の焼成処理とチタン粉の焼成処理とを同時に行うことによって、比較的幅広い基材にチタン粉の焼成酸化物を固着することができ、基材選択の自由度を高めることができる。
【0053】
本発明の方法は、以下に説明する本発明の光触媒体を製造する方法として好適である。
【0054】
次に、本発明の光触媒体について説明する。
【0055】
本発明の光触媒体は、チタン粉の粒状酸化物(粒状のチタン粉の焼成酸化物)が基材表面に分散固着されてなることを特徴とするものである。
【0056】
本発明の光触媒体において、チタン粉や、基材や、所望により用いられる釉薬や、製造方法等の詳細は、上記本発明の方法の説明で述べたとおりである。
【0057】
本発明の光触媒体において、チタン粉の粒子径は、0.01〜5.00mmであることが好ましく、0.50〜3.00mmであることがより好ましい。
【0058】
また、本発明の光触媒体において、チタン粉の細孔径は、1〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましい。
【0059】
本発明の光触媒体において、チタン粉の比表面積は、1〜5m/gであることが好ましく、2〜4m/gであることがより好ましい。
【0060】
本発明の光触媒体において、チタン粉の粒状酸化物は、表面に酸化物層または酸化物層および窒化物層からなる表面層を有するものであることが好ましい。
【0061】
本発明の光触媒体において、基材表面に分散固着されてなるチタン粉の粒状酸化物は、表面層の厚さが10〜500μmであることが好ましく、100〜500μmであることがより好ましい。表面層の厚さが100〜500μmであることにより、光触媒機能を効果的に発現させることができる。また、チタン粉の粒状酸化物において、表面の酸化物層厚さは10〜500μmであることが好ましい。
【0062】
なお、上記表面層や酸化物層の厚さは、チタン粉の粒状酸化物を樹脂に埋め込み、これを電子顕微鏡で観察すると供に、前記粒状酸化物の表面近傍における酸素濃度あるいは窒素濃度分布を調査することにより測定することができる。
【0063】
本発明の光触媒体において、基材表面に分散固着されてなる粒状酸化物は、粒子径が0.01〜5.00mmであることが好ましく、0.05〜3.00mmであることがより好ましい。
【0064】
本発明の光触媒体においては、チタン粉の焼成酸化物が粒状であることにより、光触媒体表面に多数の微細な凸部が形成される。この凸部の高さは、0.005〜2.50mmであることが好ましい。
【0065】
このように、焼成酸化物が基材表面から突出して凸部を形成することにより、光触媒機能を発揮するチタン酸化物の表面積(被処理物との接触面積)を増大させることができることから、高効率に光触媒機能を発揮することができる。なお、上記凸部の高さは、シックネスゲージにより測定することができる。
【0066】
本発明の光触媒体は、耐久性および光触媒効率が高く基材選択の自由度が高いことから、屋内のみならず屋外の建築材として好適に使用することができ、例えば、病院や学校あるいはホール等の公共施設の外壁や床材等に使用することができる。
【実施例】
【0067】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の例により何ら制限されるものではない。
【0068】
(実施例1)
(1)タイル素材の作製
SiO60質量%、Al25質量%、MgO 2質量%、CaO 5質量%、その他成分8質量%を含む、粒子径が10〜20μmの坏土300gを、上下一対の成形型を有するプレス成形機の下型上に添加して、常温下0.08MPaの押圧力にて15秒間プレス成形することにより、縦100mm、横100mm、厚さ10mmの平板状タイル素材を作製した。
(2)チタン粉の分散
図1の左側に概略的に示すように、(1)で得たタイル素材2上に、スポンジチタンの微粒粉(粒子径0.05mm〜2.00mm、純度3N)を、タイル10cm×10cmの表面積あたり0.1g不規則に散布することにより、上記チタン粉を分散させた。
(3)焼成処理
図1の右側に概略的に示すように、(2)で得た微粒粉分散タイル素材を、図1に示す加熱炉4内の台6上に設けられた容器5内に載置し、ガス供給ノズル7から空気を導入して加熱炉4内を空気雰囲気(酸素分圧0.02MPa)にした後、室温から1200℃まで昇温し、そのまま1時間保持して焼成することにより、アイボリー色のタイル地表面に藤色を呈する粒状のチタン粉焼成酸化物が不規則的に分散固着されてなる光触媒体(縦100mm、横100mm、厚さ10mm)を得た。
【0069】
着色判断は、「目視」で行なった。また、前記光触媒体は、タイル素地と一部が溶着していることが確認された。
【0070】
このようにして、基材であるタイル素材とチタン粉とを同時に焼成することにより、タイル地の形成とチタン粉の焼成酸化と焼成酸化物のタイル地への固着とを同時に行い、光触媒体を簡便かつ低コストに作製することができた。
【0071】
(実施例2)
実施例1(3)において、ガス供給ノズル7から加熱炉4内に空気を供給する代わりに、窒素ガス50容量%と酸素ガス50容量%とを含む混合ガスを供給した以外は、実施例1と同様にしてアイボリー色のタイル地表面に、金色を呈する粒状のチタン粉焼成窒化物と紫色を呈する粒状のチタン粉焼成酸化物が不規則的に分散固着されてなる光触媒体(縦100mm、横100mm、厚さ10mm)を得た。
【0072】
このようにして、基材であるタイル素材とチタン粉とを同時に焼成することにより、タイル地の形成とチタン粉の焼成酸化と焼成酸化物のタイル地への固着とを同時に行い、光触媒体を簡便かつ低コストに作製することができた。
【0073】
(実施例3)
(1)タイル素材の作製
実施例1(1)と同様にして平板状タイル素材を作製した。
(2)チタン粉およびチタン粉の予備焼成物の分散
(i)スポンジチタンの微粒粉(粒子径0.05mm〜2.00mm、純度3N)を、大気炉で450℃で3時間焼成することにより、表面が酸化膜で覆われた予備焼成粉を得た。
(ii)スポンジチタンの微粒粉(粒子径0.05mm〜1mm、純度3N)を、窒素ガス雰囲気下1200℃で3時間焼成することにより、表面が金色の窒化膜で覆われた予備焼成粉を得た。
(iii)上記(i)で得た表面が酸化膜で覆われた予備焼成粉と上記(ii)で得た表面が窒化膜で覆われた予備焼成粉とを重量比にて1:9になるように混合して予備焼成物混合粉を得、さらに、得られた予備焼成物混合粉とスポンジチタンの微粒粉(粒子径0.05mm〜1mm、純度3N)とを重量比9:1になるように混合して分散用混合粉を得た。
この分散用混合粉を、図1の左側に概略的に示すように、(1)で得たタイル素材2上に、タイル10cm×10cmの表面積あたり3g不規則に散布することにより、上記チタン粉およびチタン粉の予備焼成粉を分散させた。
(3)焼成処理
図1の右側に概略的に示すように、(2)で得たチタン粉およびチタン粉の予備焼成粉分散タイル素材を、図1に示す加熱炉4内の台6上に設けられた容器5内に載置し、ガス供給ノズル7から空気を導入して加熱炉4内を空気雰囲気(酸素分圧0.02MPa)にした後、室温から1200℃まで昇温し、そのまま1時間保持して焼成することにより、アイボリー色のタイル地表面に金色等を呈するチタン粉の焼成窒素化物と藤色等を呈する粒状のチタン粉焼成酸化物が不規則的に分散固着されてなる光触媒体(縦100mm、横100mm、厚さ10mm)を得た。
【0074】
着色判断は、「目視」で行なった。また、前記光触媒体は、タイル素地と一部が溶着していることが確認された。
【0075】
このようにして、基材であるタイル素材とチタン粉とを同時に焼成することにより、タイル地の形成とチタン粉の焼成酸化と焼成酸化物のタイル地への固着とを同時に行い、光触媒体を簡便かつ低コストに作製することができた。
【0076】
上記(2)で得られた分散用混合粉をタイル素材上に分散させることなく上記(3)と同条件にて焼成した後、得られた焼成粉を樹脂に埋め込み、その断面を電子顕微鏡で観察して、300個のチタン粉の粒子径を求めるとともに、ランダムに50視野を選択して、前記チタン粉の断面に検出される200個のチタン粉の細孔径を測定した。また、上記電子顕微鏡観察を行うとともに焼成粉の半径方向に係る酸素濃度勾配を測定して酸化物層の厚みを特定し、さらに、上記チタン粉の比表面積をBET法により求めた。その結果、チタン粉の粒子径は1.3〜2.5mmの範囲にあり、チタン粉の細孔径は1μm〜10μmの範囲にあり、比表面積は、2m/g〜4m/gの範囲にあり、チタン粉表面に形成された酸化物層厚みは、10μm〜100μmの範囲にあった。
【0077】
(実施例4)
実施例3(3)において、ガス供給ノズル7から加熱炉4内に空気を供給する代わりに、窒素ガス50容量%と酸素ガス50容量%とを含む混合ガスを供給した以外は、実施例3と同様にしてアイボリー色のタイル地表面に金色等を呈するチタン粉の焼成窒素化物の割合が増加されてなる光触媒体(縦100mm、横100mm、厚さ10mm)を得た。
【0078】
このようにして、基材であるタイル素材とチタン粉とを同時に焼成することにより、タイル地の形成とチタン粉の焼成酸化と焼成酸化物のタイル地への固着とを同時に行い、光触媒体を簡便かつ低コストに作製することができた。
【0079】
(有機物の分解試験)
実施例1〜実施例4で得られた光触媒体において、以下に示す方法により、アセトアルデヒドガスの分解性を測定することにより有機物の分解特性を評価した。また、比較のために、実施例1(1)で用いたタイル素材と全く同じタイル素材を用いて、チタン粉を分散させずに空気雰囲気(酸素分圧0.02MPa)で1時間焼成したタイルをブランクとして測定した。
【0080】
<アセトアルデヒドガスの分解性評価方法>
各光触媒体およびタイルを1cm×1cmの大きさに切断して紫外光に24時間照射した後、3Lのテドラーバッグに入れ、アセトアルデヒドガスを初期濃度で100ppm含む空気1Lを封入した。テドラーバッグを暗所で5時間静置して吸着平衡を取った後に、テドラーバッグ中のアセトアルデヒド濃度と二酸化炭素濃度をガスモニタ装置(INNOVA社製 光音響ガスモニタ)で測定した。次いで、光源として蛍光灯を用いて24時間光照射した後、テドラーバッグ内のアセトアルデヒドガス濃度及び生成した二酸化炭素濃度を、ガスモニタ(INNOVA社製 光音響ガスモニタ)により測定した。二酸化炭素ガス濃度は、24時間光照射前後における濃度増加で評価した。結果を表1に示す。
【0081】
【表1】

【0082】
(抗菌性試験)
実施例1〜実施例4で得られた光触媒体において、以下に示す方法により、大腸菌の死滅試験を行うことにより抗菌性を評価した。また、比較のために、実施例1(1)で用いたタイル素材と全く同じタイル素材を用いて、チタン粉を分散させずに空気雰囲気(酸素分圧0.02MPa)で1時間焼成したタイルをブランクとして測定した。
【0083】
<抗菌性の評価方法>
各光触媒体およびタイルを1cm×1cmの大きさに切断して試験体とし、各試験体に対し、大腸菌(E Coli IFO 3301)を6×10cfu/mL含む溶液0.1mLを滴下し、蛍光灯を24時間照射後の菌数を測定した。結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例1〜実施例4より、本発明においては、基材であるタイル素材とチタン粉とを同時に焼成することにより、タイル地の形成とチタン粉の焼成酸化と焼成酸化物のタイル地への固着とを同時に行い、光触媒体を簡便かつ低コストに作製できことが分かる。また、得られた光触媒体は、タイル素地を焼成しつつ焼成酸化物をタイル地へ強固に固着したものであるため耐久性が高く、焼成酸化物を粒状に固着して表面積を高めたものであるため、表1および表2に示すように、光触媒効率が向上されてなるものであることが分かる。また、このように、本発明においては、基材の焼成と焼成酸化物の固着を同時に行うことにより、チタン粉の焼成酸化物を種々の基材に固着し得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、耐久性および光触媒効率が高く基材選択の自由度が高い光触媒体を簡易かつ低コストに製造する方法および光触媒体を提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 チタン粉
2 タイル素材
4 加熱炉
5 容器
6 台
7 ガス供給ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒体を製造する方法であって、
粒子径が0.01mm〜5.00mmであるチタン粉または該チタン粉を酸化性雰囲気下チタンの溶融温度未満の温度で予備焼成処理した予備焼成粉を基材上に分散し、次いで、
酸化性雰囲気下、チタンの溶融温度未満の温度で焼成処理することにより、
チタン粉の粒状酸化物が基材表面に分散固着された光触媒体を得る
ことを特徴とする光触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記予備焼成処理または焼成処理を1100℃〜1300℃で行う請求項1に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項3】
前記チタン粉がスポンジチタン粉を含むものである請求項1または請求項2に記載の光触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記チタン粉の嵩密度が1g/cm以下である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の光触媒体の製造方法。
【請求項5】
前記基材がセラミック、ガラスまたは金属で構成されてなるものである請求項1〜請求項4のいずれかに記載の光触媒体の製造方法。
【請求項6】
チタン粉の粒状酸化物が基材表面に分散固着されてなることを特徴とする光触媒体。
【請求項7】
前記チタン粉の粒状酸化物が表面に酸化物層または酸化物層および窒化物層からなる表面層を有するものである請求項6に記載の光触媒体。
【請求項8】
前記表面層の厚さが、10μm〜500μmの範囲にある請求項7に記載の光触媒体。
【請求項9】
前記チタン粉が、粒子径0.01mm〜5.00mm、比表面積1m/g〜5m/g、細孔径1μm〜100μmである請求項7または請求項8に記載の光触媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−98293(P2011−98293A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254787(P2009−254787)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】