説明

光触媒合成方法および光触媒前駆体

【課題】 有機・無機化合物に対して高い分解性能を有する光触媒を提供することのできる、光触媒合成方法および光触媒前駆体を提供すること。
【解決手段】 チタンアルコキシド1を、1,3−ブタンジオール等の特定のジオール中で加水分解し(加水分解過程P1)、ついで乾燥固化する(乾燥固化過程P2)ことにより酸化チタン前駆体2を合成し、該酸化チタン前駆体2を加熱処理する(加熱過程P3)ことによって酸化チタン光触媒3を合成することを、主たる構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光触媒合成方法および光触媒前駆体に係り、特に、有機・無機化合物に対して高い分解性能を有する光触媒を提供することのできる、光触媒合成方法および光触媒前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気汚染物質による環境汚染や室内の有害化学物質による健康被害が深刻化している。これらの問題を解決するために酸化チタンを中心とした光触媒を用いた環境浄化に関する研究が盛んに行われている。光触媒は、紫外光の照射によって励起され、表面に正孔と電子を生成する。これらが空気中に存在する水や酸素をスーパーオキサイドに変換して有害化学物質を分解除去する。このような作用を利用して空気清浄機をはじめNOxの分解、防臭、抗菌、防汚のほか親水性を利用するなど様々な研究、特許等出願が行われている。本願発明者らも先に、柱状結晶構造を有する光触媒について開示している(特許文献1)。
【0003】
酸化チタンの光触媒特性を決める要因は、ルチル、アナターゼ、ブルッカイトの結晶構造や粒子径、比表面積および結晶性などがあげられる。これらの因子は、出発原料の溶液組成や焼成温度などの合成条件によって制御することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2003−190810号公報「光触媒材料とその製造方法」
【特許文献2】特開2003−299965号公報「光触媒材料とその製造方法」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、光触媒における結晶性は、光照射により生成した電子や正孔の再結合に影響を与えるとされる。電子や正孔は再結合してしまうと反応が終了してしまうので、酸化チタン表面に吸着した物質と反応せず、光触媒反応は発現しない。結晶の欠陥部位は電子や正孔のトラップサイトとして働くため再結合中心になる。一方、結晶性が良いほど格子欠陥が少ないため、再結合が起こりにくく電子や正孔が多く存在し、光触媒反応が高まると考えられている。以上のことから紫外光の照射によって光触媒に生成した電子や正孔の再結合を防ぎ、光触媒活性に生かすためには酸化チタンの結晶性を高める必要がある。
【0006】
しかし、熱処理によって結晶性を高めようとすれば、温度の上昇にともなって焼結が進行し粒子径が大きくなり、その結果比表面積は減少してしまう。また、相転移温度以上では活性なアナターゼからルチルへ相転移する。このように、結晶性と粒子径に依存する比表面積の関係は熱処理温度によって相反する結果をもたらす。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、上記従来の知見および技術を踏まえた上で、有機・無機化合物に対して高い分解性能を有する光触媒を提供することのできる、光触媒合成方法および光触媒前駆体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者らは、チタンアルコキシドを各種ジオール、アルコール中で加水分解し、その生成物について比表面積や結晶性および光触媒活性について検討した。その結果、特定のジオール中で加水分解を行った場合、その乾燥生成物は、明確な結晶構造を示す前駆体を形成することを解明した。そして、この前駆体を熱処理することによって、酸素欠損状態の高活性酸化チタン光触媒が得られることも解明し、これによって上記課題の解決が可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち、上記課題を解決するための手段として本願で特許請求される発明、もしくは少なくとも開示される発明は、以下のとおりである。
【0009】
(1) チタンアルコキシドをジオール中で加水分解し、ついで乾燥固化することにより酸化チタン前駆体を合成し、該酸化チタン前駆体を加熱処理することによって酸化チタン光触媒を合成することを特徴とする、光触媒合成方法。
(2) 前記チタンアルコキシドは、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムn−ブトキシド、またはチタニウムエトキシドのいずれかであることを特徴とする、(1)に記載の光触媒合成方法。
(3) 前記ジオールは、2つの−OH基が隣接C原子もしくは2個離れたC原子に結合した構造である、もしくは1,2−、1,3−、または2,4−位の位置関係にあることを特徴とする、(1)または(2)に記載の光触媒合成方法。
(4) 前記ジオールは、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールまたは2,4−ペンタンジオールのいずれかであることを特徴とする、(3)に記載の光触媒合成方法。
(5) 前記加熱処理により、XPSで測定されるO/Ti原子比が1.6〜1.7、もしくはXPSで測定される四面体配位Ti/八面体配位Ti比が0.100以上である酸化チタン光触媒が得られることを特徴とする、(4)に記載の光触媒合成方法。
【0010】
(6) 添加する水の量は、水/チタンのモル比が1以上10以下となる量とすることを特徴とする、(1)に記載の光触媒合成方法。
(7) 添加する水の量は、水/チタンのモル比が2以上4以下となる量とすることを特徴とする、(1)に記載の光触媒合成方法。
(8) チタンアルコキシドを水および酸の添加されたジオール中で加水分解し、ついで150℃〜250℃もしくは150℃〜200℃にて乾燥固化することにより得られることを特徴とする、酸化チタン光触媒前駆体。
(9) チタンアルコキシドを水および酸の添加された1,3−ブタンジオール中で加水分解し、ついで150℃〜250℃もしくは150℃〜200℃にて乾燥固化することにより得られる、角柱状の粒子構造を有することを特徴とする、酸化チタン光触媒前駆体。
【0011】
つまり本発明は、有機金属化合物をジオール中で加水分解、乾燥固化することによって、配位結合に基づく酸化チタン前駆体の生成を得、該酸化チタン前駆体の加熱に伴い、配位子を脱離させて、酸素欠陥型の高性能酸化チタン光触媒を得ることを骨子とする。得られる酸化チタンは、粉末状であっても、あるいはまた基板材料に塗布した状態であっても高い光触媒活性を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光触媒合成方法および光触媒前駆体は上述のように構成されるため、これによれば、有機・無機化合物に対して高い分解性能を有する光触媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。
図1は、本発明の光触媒合成方法の構成を示すフロー図である。図示するように本方法の基本は、チタンアルコキシド1をジオール中で加水分解し(加水分解過程P1)、ついで乾燥固化する(乾燥固化過程P2)ことにより酸化チタン前駆体2を合成し、該酸化チタン前駆体2を加熱処理する(加熱過程P3)ことによって酸化チタン光触媒3を合成する、というものである。
【0014】
ここで、チタンアルコキシドとして、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムn−ブトキシド、またはチタニウムエトキシドのいずれかを、特に用いるものとすることもできる。
【0015】
また、ジオールとしては、2つの−OH基が隣接C原子もしくは2個離れたC原子に結合した構造である、もしくは1,2−、1,3−、または2,4−位の位置関係にあるものを用いることが望ましく、たとえば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールまたは2,4−ペンタンジオールの使用は、良好な結果をもたらす。
【0016】
実施例に後述する通り、本発明製法の加水分解過程P1において添加する水の量は、水/チタンのモル比が1以上10以下となる量、もしくはより望ましくは、2以上4以下となる量とすることができる。かかる数値範囲とすることにより、分解性能に優れた光触媒を得ることができる。
【0017】
以上説明した本発明製法を用いることにより、前記加熱処理P3を経て、XPS(X線光電子分光法、ESCA)で測定されるO/Ti原子比が1.6〜1.7、もしくはXPSで測定される四面体配位Ti/八面体配位Ti比が0.100以上である、酸素欠損状態の高活性酸化チタン光触媒を得ることができる。かかる酸素欠陥型の酸化チタンは、安定な構造の前駆体の加熱によって配位子が脱離する際に生成していると考えられる。
【0018】
本発明製法において生成される酸化チタン光触媒前駆体は、チタンアルコキシドを水および硝酸等の酸(硫酸は除く)の添加されたジオール中で加水分解し、ついで150℃〜250℃にて、もしくは150℃〜200℃にて乾燥固化することにより得ることができる。特定のジオール中で加水分解を行った場合、溶媒のジオールとチタンの間にきわめて安定な2座配位結合が生成し、この安定な結合が存在することにより、特に1,3−ブタンジオール溶媒では、他の溶媒に比べてより高温で分解が起こる。しかも、この分解は急激に進行するために、生成する酸化チタン粒子には特異な性質が付与されるものと考えられる。
【0019】
特に1,3−ブタンジオールを用いることによって、乾燥固化を経て自己組織化により、角柱状の粒子構造を有する酸化チタン光触媒前駆体を得ることができる。
【0020】
柱状構造を有する酸化チタン光触媒前駆体を熱処理すると、その形態を維持しながら重量減少にともなって粒子サイズが縮小する。焼成後の酸化チタンは、10〜30nm程度の微細な酸化チタンによって構成されているが、これを高倍率で観察すると、0.35nmのアナターゼ型酸化チタン(101)面に相当する格子縞が認められる。微粒子によって構成される角柱粒子の生成は、前駆体の形状、および急激な熱分解による体積収縮、結晶化によるものであり、したがって、かかる構造の生成には前駆体生成の寄与がきわめて大きい。
【0021】
乾燥固化により明確な結晶構造が現出するが、該過程では、原料溶液を基板材料に塗布して、基板材料に固定化することも、もちろん可能である。
【0022】
実施例に詳述するようにアセトアルデヒドの分解試験では、1,3−ブタンジオール溶媒を用いた粉末試料は、従来の光触媒(Degussa P25)よりも遙かに高活性であることが確認された。また、原料溶液を基板材料に塗布した場合も同様に高い分解性能を示した。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
1.実験方法
1.1 酸化チタン原料溶液の調製
表1に示した溶媒に使用したアルコールおよびジオール類を示した。これらの溶媒に水および硝酸を添加して室温で攪拌したのち、チタンテトライソイソプロポキシドをゆっくり滴下して、室温にて2時間攪拌した。
得られた原料溶液は、200℃で2時間乾燥、500℃で2時間熱処理して酸化チタン粉末とした。
【0024】
【表1】

【0025】
1.2 酸化チタンの評価方法
酸化チタンおよび前駆体の結晶構造はX線回折法により評価した。粒子構造は走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡で観察、また前駆体の熱処理に伴う変化を示差熱天秤・質量分析同時測定装置で測定した。比表面積および細孔分布については窒素吸着法で、さらに酸化チタンの化学状態解析にX線光電子分光法(XPS)を用いた。各機器の概要は下記の通りである。
走査型電子顕微鏡 日立製作所:S-5000
透過型電子顕微鏡 日本電子: JEM-2010
示差熱天秤・質量分析同時測定装置 リガク:Thermo Plus 2 Series Thermo Mass(TG-DTA-MS)
XPS装置 日本電子(株):JPS9000SX
X線回折装置 リガク: RAD-IIC
【0026】
2.結果および考察
2.1 酸化チタン前駆体の結晶構造
図2−1にアルコールを溶媒に用いた原料溶液を150℃で乾燥して得た粉末試料のX線回折図を示した。いずれの試料も明確な回折パターンは認められず非晶質状態である。
【0027】
図2−2に示したようにジオールを溶媒に用いた場合は、しかし、溶媒の種類によって結晶構造が大きく変化した。ジオールのOH基が、1,2-、1,3−および2,4-位の位置関係にある場合には低角度側に、明確な回折ピークが認められる。しかしこれ以外のOH基の位置関係、1,4-、1,5-または2,3−位では乾燥生成物に回折パターンは認められず非晶質状態だった。
【0028】
乾燥生成物を500℃で熱処理した試料では、溶媒の種類にかかわらずいずれもアナターゼ型の酸化チタンが生成しており、溶媒によってはわずかにルチルの生成が認められた。このことから、特定のジオール中で加水分解を行うことによって、明確な結晶構造を示す酸化チタン前駆体が生成することがわかった。
【0029】
2.2 酸化チタンの粒子形状
図3に1,3−ブタンジオール、エチレングリコール、及び水中で加水後、乾燥、500℃熱処理した酸化チタン粉末の走査型電子顕微鏡写真を示した。(a)の1,3−ブタンジオールを溶媒に用いて150℃で乾燥した酸化チタン前駆体は、長さが数μmに達する柱状の粒子構造がみられた。これを500℃で処理した(b)では、熱処理に伴う体積収縮は認められるが柱状の粒子構造は保たれていた。
【0030】
また、エチレングリコール中で加水分解を行った(c)では、数十μmの比較的大きな塊状の粒子が観察された。チタニウムテトライソプロポキソドを直接水中に滴下して加水分解した(d)では数百nm程度の微細な球状粒子の集合体として存在している。このように加水分解に用いる溶媒の種類によって前駆体および、熱処理生成物の粒子形状は大きく異なる。
【0031】
図4に、図3の1,3−ブタンジオール中で加水分解、500℃熱処理した試料について透過型電子顕微鏡で粒子の微細構造を観察した。図4(a)に示したように柱状粒子は、10〜30nm程度の微細な酸化チタンによって構成されている。この粒子をさらに高倍率で観察したところ(b)、0.35nmのアナターゼ型酸化チタン(101)面に相当する格子縞が観察された。従って柱状粒子の酸化チタンは、10〜30nmの結晶性の高い酸化チタン微粒子の集合体であることがわかった。
【0032】
2.3 酸化チタン前駆体の熱処理に伴う構造変化
図5に各種溶媒中で加水分解後、乾燥した酸化チタン前駆体について示差熱天秤-質量分析同時測定システム(TG−DTA MASS)を用いて測定した結果を示した。測定条件は、10%O/Heバランスを100ml/min流通させながら10℃/minで昇温させて分析した。(a)の1,3−ブタンジオールを溶媒に用いた試料では、300℃付近までは質量の減少は認められず、346℃のシャープな発熱ピークに伴って大幅な質量の減少が、また483℃の発熱ピーク後にもわずかな質量の減少がみられた。はじめの質量の減少は、酸化チタン前駆体が分解して、アナターゼ型の酸化チタンが生成、483℃でルチル相に相転移して結晶中に存在するカーボンが脱離した結果、質量が減少しているものと考えられる。なお、500℃における質量減少は67%であった。
【0033】
また、MASSスペクトルにおいては、346℃、および483℃で配位子の脱離、燃焼に伴うCOの生成がみられる。(b)には、XRDで明確な回折パターンを示しているエチレングリコールを溶媒に用いた乾燥生成物のTG−DTAを示した。TGでは100℃付近でわずかな減少が認められ、307℃の発熱ピークを境にTGはおよそ40%減少している。さらに500℃付近で再度TGは減少し、およそ50%の質量減を示した。 (b)は(a)の1,3−ブタンジオール溶媒に比べて、300℃付近のTG減少量は少なく、DTAの発熱ピークに関しても幅広いことから、緩やかに分解・燃焼が進行しているものと考えられる。
【0034】
このことから、1,3−ブタンジオール溶媒から得られる前駆体は、配位結合がエチレングリコールに比べて強固で熱的にも安定であるために、346℃で急激に分解することがわかった。
【0035】
図6に各種溶媒を用いて合成した原料溶液について乾燥、焼成したときの質量の減少率を表した。溶液の混合、乾燥の過程でチタンアルコキシドと溶媒に配位結合など強い相互作用が生じれば、質量の減少量はより少ないことが予想される。
【0036】
500℃焼成後の試料では、溶媒の種類に関わらずおよそ97%の質量減少率を示している。しかし、乾燥生成物では、質量の減少率に大きな差がみられる。なかでも1,3−ブタンジオールがもっとも質量減少量が少ない。原料溶液中のチタンと1,3−ブタンジオールの配位結合により生成する前駆体がもしアセチルアセトナートなどに類似の構造を示す(CHCHOCHCHO)TiOならば質量減少量は、チタンの量から計算した結果と非常によく一致する。さらに、この前駆体が、完全に酸化してTiOを生じると67%の質量減少量ととなり、TGの結果とよく一致する。このようにTG−DTA、XRD、および原料溶液の乾燥焼成時の質量変化は前駆体の生成を示唆している。
【0037】
2.4 酸化チタンの比表面積および細孔径分布
図7に各種溶媒から得られた酸化チタンの比表面積および細孔径分布を示した。プロパノール溶媒では、比表面積7m/gと非常に低い値を示している。一方、ジオール系では、30から60m/g程度の比表面積を示しており、溶媒種によって細孔径分布が大きく異なっている。アルコールを溶媒に用いた試料では、ほとんど比表面積を示していないのに対して、ジオールを溶媒に用いた場合、ジオールの種類によって細孔径分布が異なっている。特に1,3−ブタンジオールでは、150Åと500Åに二つの細孔分布のピークを示している。前者のピークは図4のTEMにみられる酸化チタン微粒子間に存在する空隙。後者は、図3(a)の酸化チタン前駆体を加熱、熱収縮によって生成する図3(b)の粒子構造に起因していると考えられる。
【0038】
急激な熱分解による体積収縮によって前駆体は結晶化が進行し図4のTEM写真にみられる微細な球状の粒子を生成する。67%にも及ぶ大幅な質量の減少を伴う収縮の際、柱状粒子の内部には、比較的大きな細孔が中空状に形成され、これが500から1000Åの幅広い細孔分布として観察されていると考えられる。このように前駆体の生成は、粒子形態のみならず酸化チタンの細孔径分布にも大きく影響している。
【0039】
2.5 酸化チタンの光触媒活性
表2に各種溶媒を用いて合成した酸化チタンの光触媒活性を示した。なお、添加した水量についてはHO/Ti mol比2と4について測定した。光触媒の活性は20lのガラス製容器内に75mm角の石英ガラス濾紙を設置、その表面に0.1gの酸化チタンを分散させて測定した。温度25℃、湿度50%に調湿後、アセトアルデヒド20ppmを注入し、365nmの紫外光を照射しながら濃度変化をマルチガスモニターで分析した。
【0040】
アルコール溶媒では、いずれの試料も分解は非常に緩慢で長時間を要した。また、その比表面積は、ジオール類に比べて低い値であった。
【0041】
ジオールを用いた場合、特に1,3−ブタンジオール溶媒では分解速度が非常に高速であった。市販の粉末触媒Degussa P25で20から1ppmまで分解に28分を要するのに対し1,3−ブタンジオール溶媒を用いた試料では23分と非常に高い分解性能を示している。ジオール類を用いた試料はいずれも比表面積が比較的高い。ブタンジオールの場合、水酸基の位置によって分解速度は大きく変化するのに対して、比表面積の値はさほど大きなものではなく、光触媒の活性決定には、後述するように、比表面積以外の要因が含まれていると考えられる。
【0042】
【表2】

【0043】
なお、表2では、アセトアルデヒド分解速度は濃度が20ppmから1ppmまで減少する時間で表した。また、分解に長時間を要するものは1時間の濃度減少量(ppm/h)で表した。
【0044】
さらに、原料溶液に添加する水の量について検討した。
表3に示したように、水/チタンのモル比を水無添加の0から100倍モルまで変化させて活性について評価した。その結果、水無添加では、活性が著しく低下するのに対して、モル比2から4付近ではきわめて高活性であった。また、水の添加量の増加に伴い、アセトアルデヒド分解速度は低下している。このことから、加水分解に要する水の添加量が光触媒の活性を決定づける上できわめて重要であることがわかった。
【0045】
【表3】

*表3では、アセトアルデヒド分解速度は濃度が20ppmから1ppmまで減少する時間で表した。なお分解に長時間を要するものは1時間の濃度減少量(ppm/h)で表した。
【0046】
図8に、表3の水/チタンモル比で合成した溶液を乾燥した試料についてXRDを測定した。図示されるように、モル比30までは、前駆体特有の回折パターンが観察され、水量の増加に伴ってその強度が低下していた。また、モル比100では、前駆体の回折パターンは認められずアモルファス状態であった。したがって、前駆体の結晶性を決定する上で加水分解に要する水量が、大きく寄与しており、これが光触媒活性に大きく影響しているといえる。
【0047】
2.6 角柱酸化チタンの化学状態
酸化チタンの化学結合状態を調べるためにTi、O、CについてXPSを用いてナロースキャン法で測定を行った。測定に用いた試料は1,3−ブタンジオール溶媒から得られた前駆体を空気中300〜600℃で熱処理して得られた粉末を用いた。また、比較として溶媒にエタノールを用いて調製したTiO(Sg−g:500℃2h焼成, アナターゼ, 比表面積42.8m/g)及び、市販TiO(CS−300:堺化学社製アナターゼ 比表面積76.9m/g)を用いた。各試料約50mgを一軸加圧によりペレット成型し、XPS測定を行った。
【0048】
表4に、XPS測定から得られたTi2p,O1sスペクトルの面積比からO/ Ti比(原子比)及び、Ti2pスペクトルから四面体配位Tiの存在割合を算出した結果を示した。Sg−g及び市販TiOのO/ Ti比は1.9程の値を示すのに対し、1,3−ブタンジオール溶媒から得られた試料はいずれも1.6〜1.7と低い値を示している。また、四面体配位Tiの割合も市販TiOのそれに比べて比較的大きいことから、1,3−ブタンジオール溶媒から得られた試料は通常のTiOに比べ、酸素配位の不飽和な部分が多く存在すると考えられる。
【0049】
【表4】

【0050】
3.結論
チタンアルコキシドを1,3−ブタンジオールをはじめとする特定のジオール中で加水分解、乾燥固化すると配位結合に基づく酸化チタン前駆体が生成する。この前駆体は溶媒の種類によってその粒子形態や結晶構造が大きく異なる。特に1,3−ブタンジオール溶媒では、柱状の粒子構造の前駆体が生成し熱処理によって、その粒子形態を維持しながら体積収縮が起こる。350℃付近で酸化チタン前駆体は、急激に分解してアナターゼ型酸化チタンに変化する。急激な配位子の脱離によって大幅な体積減少を伴う結晶化が進行するために、柱状粒子の表面には10から30nmの酸化チタン粒子が生成、また、急激な体積収縮に伴って柱状粒子の内部は空洞化し、粒子は中空構造になっている。
【0051】
前駆体の生成には、加水分解に用いる水の量も大きく寄与している。特にHO/Tiモル比が2から4付近が、もっとも光触媒活性が高い。さらに、柱状の酸化チタンの化学状態はXPSの測定よりO/Ti比が通常に比べて低い1.6程度であることがわかった。このように、粒子のミクロ、マクロ構造がきわめて特異な酸化チタンは、ジオールとチタンアルコキシドの配位結合による前駆体の生成によるものである。
【0052】
さらに、柱状の粒子構造示す酸化チタンは、他の方法で合成したものに比べて、はるかに高い光触媒活性を示しており、高活性酸化チタンDegussa P25よりも優れた光触媒性能を示している。これは前述の酸化チタンの粒子構造や酸素欠陥に起因するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の光触媒合成方法および光触媒前駆体によれば、有機・無機化合物に対して高い分解性能を有する光触媒を提供することができる。したがって、光触媒のあらゆる応用分野において、利用価値が高い発明である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の光触媒合成方法の構成を示すフロー図である。
【図2−1】アルコールを溶媒に用いた原料溶液を150℃で乾燥して得た粉末試料のX線回折図を示すグラフである。
【図2−2】ジオールを溶媒に用いた原料溶液を150℃で乾燥して得た粉末試料のX線回折図を示すグラフである。
【図3】1,3−ブタンジオール、エチレングリコール、及び水中で加水後、乾燥、500℃熱処理した酸化チタン粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】図3の1,3−ブタンジオール中で加水分解、500℃熱処理した試料についての透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】各種溶媒中で加水分解後、乾燥した酸化チタン前駆体について示差熱天秤-質量分析同時測定システム(TG−DTA MASS)を用いて測定した結果を示すグラフである。
【図6】各種溶媒を用いて合成した原料溶液について乾燥、焼成したときの質量の減少率を表すグラフである。
【図7】各種溶媒から得られた酸化チタンの比表面積および細孔径分布を示すグラフである。
【図8】表3の水/チタンモル比で合成した溶液を乾燥した試料についてXRDを測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1…チタンアルコキシド
2…酸化チタン前駆体
3…酸化チタン光触媒
P1…加水分解過程
P2…乾燥固化過程
P3…加熱過程


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンアルコキシドをジオール中で加水分解し、ついで乾燥固化することにより酸化チタン前駆体を合成し、該酸化チタン前駆体を加熱処理することによって酸化チタン光触媒を合成することを特徴とする、光触媒合成方法。
【請求項2】
前記チタンアルコキシドは、チタニウムテトライソプロポキシド、チタニウムn−ブトキシド、またはチタニウムエトキシドのいずれかであることを特徴とする、請求項1に記載の光触媒合成方法。
【請求項3】
前記ジオールは、2つの−OH基が隣接C原子もしくは2個離れたC原子に結合した構造である、もしくは1,2−、1,3−、または2,4−位の位置関係にあることを特徴とする、請求項1または2に記載の光触媒合成方法。
【請求項4】
前記ジオールは、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオールまたは2,4−ペンタンジオールのいずれかであることを特徴とする、請求項3に記載の光触媒合成方法。
【請求項5】
前記加熱処理により、XPSで測定されるO/Ti原子比が1.6〜1.7、もしくはXPSで測定される四面体配位Ti/八面体配位Ti比が0.100以上である酸化チタン光触媒が得られることを特徴とする、請求項4に記載の光触媒合成方法。
【請求項6】
添加する水の量は、水/チタンのモル比が1以上10以下となる量とすることを特徴とする、請求項1に記載の光触媒合成方法。
【請求項7】
添加する水の量は、水/チタンのモル比が2以上4以下となる量とすることを特徴とする、請求項1に記載の光触媒合成方法。
【請求項8】
チタンアルコキシドを水および酸の添加されたジオール中で加水分解し、ついで150℃〜250℃もしくは150℃〜200℃にて乾燥固化することにより得られることを特徴とする、酸化チタン光触媒前駆体。
【請求項9】
チタンアルコキシドを水および酸の添加された1,3−ブタンジオール中で加水分解し、ついで150℃〜250℃もしくは150℃〜200℃にて乾燥固化することにより得られる、角柱状の粒子構造を有することを特徴とする、酸化チタン光触媒前駆体。


【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−224000(P2006−224000A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−41419(P2005−41419)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(591269712)アンデス電気株式会社 (33)
【Fターム(参考)】