説明

光触媒塗料組成物

【課題】防汚効果に優れた光触媒塗料組成物を提供する。
【解決手段】アパタイト被覆酸化チタン微粒子、式(1):
SiOa(OH)b(OR1c(OR2d (1)
(式中、0.8≦a≦1.6、0.3≦b≦1.3、0.2≦c+d≦1.9、b=4−(2a+c+d)、R1はメチル基またはエチル基、R2はR1と異なる有機基)で表されるシロキサン化合物または式(2):
Si(OR14 (2)
(式中、R1はメチル基またはエチル基)で表されるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物からなる、重量平均分子量が1000±200である反応性シリカ微粒子、および水系溶媒からなる光触媒塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒塗料組成物に関し、とりわけ光触媒としてアパタイト被覆酸化チタン微粒子を含有する光触媒塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン光触媒は、電灯や太陽光線に含まれる紫外線によって、有機物や細菌を分解することができるため、防汚、シックハウス対策、院内感染防止、脱臭、抗菌防カビ、大気浄化、水処理、セルフクリーンなどの目的で環境分野に利用されている。酸化チタンは、繊維やプラスチックに練り込むと、繊維やプラスチックが光触媒作用により分解されてしまうため、シリカなどの孔の開いた膜で被覆したり、表面にアパタイトを被覆した形態で用いられている。とくに酸化チタンの表面にアパタイトで被覆したアパタイト被覆酸化チタンは、アパタイトの吸着性能により、有機物や細菌の分解効率を高めることができる。
【0003】
アパタイト被覆酸化チタンの用途の1つとして、防汚塗料があり、すでに汎用されている。たとえば、アルコキシシランやケイ酸塩によるゾル−ゲル法を利用してバインダー機能を付与し、塗料として利用することが一般に行なわれている。しかしながら、このような方法では、塗膜の結合力は優れているが、膜厚を上げすぎると割れてしまい、表面の粗い下地への施工には向かないという問題があった。そのため、塗料の固形分が0.1〜2%と非常に希薄な状態で塗布しなければならなかった。また、シリカ微粒子をバインダーとして用いた場合、微粒子表面に存在するシラノール基が少ないため、塗膜の結合力が小さく、施工後、風雨によってアパタイト被覆酸化チタンが簡単に剥がれ落ちてしまうという問題があった。
【0004】
また、塗料のバインダーとして、シリコーンアクリル樹脂(たとえば、特許文献1参照)や、水酸基または加水分解性基と結合したケイ素原子を含み、シロキサン結合を形成することにより架橋し得る官能基を少なくとも1個有する有機重合体(たとえば、特許文献2参照)を用いることが提案されている。しかしながら、これらの有機基を有するバインダーは、疎水性が大きいため、塗膜に埃などが付着しやすくなり、かえって防汚効果を損なうという問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−64583号公報
【特許文献2】特開2002−47418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、防汚効果に優れた光触媒塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アパタイト被覆酸化チタン微粒子、式(1):
SiOa(OH)b(OR1c(OR2d (1)
(式中、0.8≦a≦1.6、0.3≦b≦1.3、0.2≦c+d≦1.9、b=4−(2a+c+d)、R1はメチル基またはエチル基、R2はR1と異なる有機基)で表されるシロキサン化合物または式(2):
Si(OR14 (2)
(式中、R1はメチル基またはエチル基)で表されるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物からなる、重量平均分子量が1000±200である反応性シリカ微粒子、および水系溶媒からなる光触媒塗料組成物に関する。
【0008】
前記反応性シリカ微粒子は、式(3):
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、nは2〜8の整数)で表わされるメチルシリケートに水と触媒を添加して得られたものであることが好ましい。
【0011】
前記反応性シリカ微粒子の平均粒子径が9±3nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、アパタイト被覆酸化チタン微粒子のバインダーとして、実質的に完全な無機化合物からなるシラノール基を有する反応性シリカ微粒子を用いることによって、塗膜の親水性が大きくなり、優れた防汚効果を得ることができる。また、アルコキシシランやケイ酸塩を用いる場合と比べて、改修時などの凹凸の大きい施工面に対しても、厚く塗布されたときにクラックが入るという恐れがなく、比較的濃い濃度で塗布することができる。さらに、微粒子表面に多くのシラノール基を有するので結合力が大きく、施工後に雨風などによってアパタイト被覆酸化チタン微粒子が簡単に剥がれ落ちることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の光触媒塗料組成物は、アパタイト被覆酸化チタン微粒子、式(1):
SiOa(OH)b(OR1c(OR2d (1)
(式中、0.8≦a≦1.6、0.3≦b≦1.3、0.2≦c+d≦1.9、b=4−(2a+c+d)、R1はメチル基またはエチル基、R2はR1と異なる有機基)で表されるシロキサン化合物または式(2):
Si(OR14 (2)
(式中、R1はメチル基またはエチル基)で表されるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物からなる、重量平均分子量が1000±200である反応性シリカ微粒子、および水系溶媒からなる。
【0014】
アパタイト被覆酸化チタン微粒子は、カルシウムイオンやリン酸イオンなどを溶かした水溶液に酸化チタンを浸し、加熱・撹拌などを行なうことにより、酸化チタンの表面にアパタイトを析出させて得られ、酸化チタン微粒子の表面をアパタイトが金平糖の角状に被覆した形態を有する(特開平10−244166号公報参照)。
【0015】
酸化チタン(二酸化チタン)としては、結晶構造により、ルチル型、ブルッカイト型、アナターゼ型酸化チタンがあるが、光触媒活性が高く、任意の粒子径を有するものを入手できる点で、アナターゼ型酸化チタンが好ましい。
【0016】
アパタイトの被覆量は、前記酸化チタン100重量部に対して、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上である。アパタイトの被覆量が5重量部未満では、アパタイトの吸着能力が劣り、空間または触媒近傍に浮遊している有害物質や汚染物質を取り込んで、酸化チタン粒子表面に移動させることができなくなるだけでなく、光が照射されていないときに、吸着した有害物質を再脱離してしまうため、結果的に光触媒能の発現が充分でなくなる傾向にある。また、アパタイトの被覆量は、酸化チタン100重量部に対して、好ましくは20重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。アパタイトの被覆量が20重量部をこえると酸化チタン粒子の表面をアパタイトの結晶が完全に覆ってしまうため、分解を目的とする物質を酸化チタン表面にまで移動できなくなり、結果的に光触媒能の発現が充分でない傾向にある。
【0017】
アパタイト被覆酸化チタン微粒子の平均1次粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上である。アパタイト被覆酸化チタン微粒子の平均1次粒子径が10nm未満では、塗料製造の第一段階としてホモジナイザーによる1次粒子までの分散処理を行なった後に、再凝集しやすくなり、結果として塗料調整後に粒子径が大きくなるため、比表面積が小さくなり、触媒活性が低下することとなる。また、アパタイト被覆酸化チタン微粒子の平均1次粒子径は、好ましくは250nm以下、より好ましくは100nm以下である。アパタイト被覆酸化チタン微粒子の平均1次粒子径が250nmをこえると、最終的に得られる塗料を塗装した際に、白く着色してしまい、塗装ムラになりやすく、ガラスなどの透明性を要求される被塗物には不向きとなる傾向にある。また、粒子径の増大にともない、塗料中におけるアパタイト被覆酸化チタン微粒子の沈降速度が速くなるため、塗料の貯蔵安定性が劣ってしまう傾向にある。
【0018】
アパタイト被覆酸化チタン微粒子の塗料固形分中の含有量は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは25重量%以上である。アパタイト被覆酸化チタン微粒子の含有量が5重量%未満では、乾燥塗膜表面のアパタイト被覆酸化チタン微粒子の占有面積が充分でなく、目的とする光触媒効果を得るために何回も積層する必要が生じる傾向にある。また、アパタイト被覆酸化チタン微粒子の塗料固形分中の含有量は、好ましくは75重量%以下、より好ましくは50重量%以下である。アパタイト被覆酸化チタン微粒子の含有量が75重量%をこえると、バインダーの含有量が少なすぎるため、アパタイト被覆酸化チタン微粒子同士の結合力や基材への付着力に欠けたものとなる傾向にある。また本来、光触媒反応は、紫外線が直接入射する塗膜表面における反応であり、表面に存在するアパタイト被覆酸化チタンが有効に作用するものであるが、塗膜内部の酸化チタンは、この反応に有効に作用しないため、塗料固形分中にアパタイト被覆酸化チタン微粒子を50重量%をこえて含有しても、光触媒としての効果を向上させにくく、結果とてコスト高になる傾向にある。
【0019】
シラノール基を有する反応性シリカ微粒子の製造方法としては特に限定されないが、アルコキシシランまたはそのオリゴマーに水を添加し、熟成して得られるアルコキシシランの加水分解縮合物からなることが好ましい。アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシランが好ましく、なかでもテトラメトキシシランが加水分解縮合性に優れ、高特性の塗膜が得られる点で、好ましい。
【0020】
シラノール基を有する反応性シリカ微粒子の製造方法として、前記式(1):
SiOa(OH)b(OR1c(OR2d (1)
(式中、0.8≦a≦1.6、0.3≦b≦1.3、0.2≦c+d≦1.9、b=4−(2a+c+d)、R1はメチル基またはエチル基、R2はR1と異なる有機基)で表されるシロキサン化合物を用いる場合は、前記シロキサン化合物に水を添加し、熟成する方法があげられるが、特に限定されるものではない。
【0021】
前記、式(1)のシロキサン化合物は、たとえば、Si(OR14(R1はメチル基またはエチル基)で示されるアルコキシシランを加水分解縮合して、式(3):
【0022】
【化2】

【0023】
(式中、nは2〜8の整数)で表されるオリゴマーとし、続いて水存在下において、R2OHで示されるアルコールを加え、エステル交換と同時にオリゴマーにOH基を生じさせることによって得ることができる。
【0024】
ここで、前記式(1)において、aが0.8未満の場合は、硬化して得られる硬化物が不透明となる傾向にある。また、aが1.6より大きい場合は、塗料溶液の粘度が高く不安定で、ゲル化しやすい傾向にある。bが0.3未満の場合は、塗膜化した際の塗膜の耐沸騰水性に劣り、1.3より大きい場合は、硬化により得られる硬化物が不透明となる傾向にある。c+dが0.2未満では、塗膜化した際、対沸騰水性に劣り、1.9より大きい場合では、硬化して得られる硬化物が不透明となりやすい傾向にある。
【0025】
前記式(1)中、R1はメチル基またはエチル基であり、メチル基の場合では、硬化物の硬度、耐薬品性などの物性が優れたものとなる。R2は、R1と異なる有機基であり、好ましくはR1とエステル交換しうる有機基であればよく、たとえば、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、1−メトキシ−2−エチル基、1−エトキシ−2−プロピル基、1−メトキシ−2−プロピル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、C25OC24OC24−、CH324OC24−、C25OC24−、CH3OC24−などがあげられる。
【0026】
シラノール基を有する反応性シリカ微粒子の製造方法としては、特に式(4):
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、nは2〜8の整数)で表わされるメチルシリケートに水と触媒を添加する方法が、加水分解縮合の工程で脱アルコールがしやすいだけでなく、水媒体中でのシラノール基の安定性の点から好ましい。
【0029】
熟成は、反応終了後、5〜50℃で、1〜24時間、攪拌することにより行う。
【0030】
熟成は、アルコールなどの有機溶媒の存在下に行なうことができる。有機溶媒の存在下で熟成を行うことで、シラノール基を有する反応性シリカ微粒子の貯蔵安定性を高めることができる。
【0031】
また、熟成は、必要に応じて触媒の存在下で行なうことができる。
【0032】
触媒としては、たとえば、N−メチルジエタノールアミンやトリエチルアミンなどの有機アミン、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、酢酸、ギ酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、プロピオン酸、シュウ酸などの有機酸、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水などのアルカリ触媒、有機金属、金属アルコキシド、ジブチルスズラウリレート、ジブチルスズオクチエート、ジブチルスズジアセテートなどの有機スズ化合物、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、チタニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、チタニウムビス(イソプロポキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムテトラキス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(ブトキシ)ビス(アセチルアセトネート)、ジルコニウムビス(イソプロプキシ)ビス(アセチルアセトネート)などの金属キレート化合物、ホウ素ブトキシド、ホウ酸などのホウ素化合物があげられる。なかでも、塗布してからの被膜化が速く、強靭な塗膜が得られる点から有機アミンが好ましく、アルコキシシリル基の加水分解の触媒としても作用し、乾燥時にシラノール基の縮合触媒にもなりうる点から金属キレート化合物が好ましい。
【0033】
以上のようにして得られるシラノール基を有する反応性シリカ微粒子は、平均粒子径が、好ましくは1nm以上、より好ましくは6nm以上である。平均粒子径が1nm未満では、単位体積中に含まれる反応性シリカ微粒子の数が多くなるため、塗装後の乾燥過程において、塗膜が緻密になりすぎ、クラックが発生しやすくなるばかりでなく、酸化チタン粒子との相互作用が大きくなるため、塗料貯蔵中にゲル化を起こすおそれがある。また、該反応性シリカ微粒子の平均粒子径は、たとえば20nm以下であり、好ましくは15nm以下、より好ましくは12nm以下である。平均粒子径が20nmをこえると、反応性シリカ微粒子の1粒子の有するシラノール基が少なくなり、基材との付着力や酸化チタン粒子に対するバインダー機能付与といった反応性に欠けたものとなるため、塗料を構成する樹脂としては不適当である。
【0034】
また、シラノール基を有する反応性シリカ微粒子は、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が、標準ポリスチレン換算で、たとえば1000±200である。重量平均分子量が1200をこえると、生成した反応性微粒子の粒子径が大きくなり、塗料溶液が白濁したり、反応性や貯蔵安定性が低下する傾向がある。また、重量平均分子量が800未満の場合は、加水分解縮合反応が充分でなく、低分子量のオリゴマーが含まれるために、バインダーとしての親水性を低下させてしまう傾向がある。
【0035】
以上のように、シラノール基を有する反応性シリカ微粒子は、その分子量に対して相対的に極めて小さな平均粒子径を有しており、超緻密な構造を有する特異な形態のシリカである。
【0036】
したがって、該反応性シリカ微粒子は、その微粒子表面にシラノール基を多数有することになる。
【0037】
シラノール基を有する反応性シリカ微粒子の市販品としては、たとえば、三菱化学(株)製のMSH−4があげられる。
【0038】
本発明において、シラノール基を有する反応性シリカ微粒子は、塗料のバインダーとして機能する。シラノール基を有する反応性シリカ微粒子を用いると、現在一般に使用されているアルコキシシランやケイ酸塩を用いたときと比べて、改修時などの凹凸の大きい施工面に対しても、厚く塗布されたときにクラックが生じる恐れがなく、比較的濃い濃度で塗布することができる。また、シラノール基を有する反応性シリカ微粒子は、表面に多くのシラノール基を有するため、施工後、風雨などによってアパタイト被覆酸化チタン微粒子が簡単に取れてしまうことがない。
【0039】
また、シラノール基を有する反応性シリカ微粒子は、無色透明な塗膜を形成することができるとともに、塗膜中で微粒子として存在するので、アパタイト被覆酸化チタン微粒子を埋没させることがなく、その触媒性能を妨げることがない。
【0040】
さらに、シラノール基を有する反応性シリカ微粒子は、シリコーンアクリル樹脂などのバインダーと異なり、実質的に完全な無機化合物からなり、さらに表面に多数のシラノール基を有するので、得られる塗膜の親水性が高く、防汚効果を向上させることができる。
【0041】
シラノール基を有する反応性シリカ微粒子の含有量は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは3重量%以上である。該反応性シリカ微粒子の含有量が0.5重量%未満では、該塗料を構成するためのバインダーとしての結合力に劣るものとなり、塗膜に必要な物性、たとえば耐水性や耐スクラッチ性に欠けたものとなる傾向にある。また、塗料貯蔵中において、粒子の沈降が早期に起こるため、貯蔵安定性に欠けたものとなる傾向にある。
【0042】
該反応性シリカ微粒子の含有量は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。該反応性シリカ微粒子の含有量が20重量%をこえると、塗膜表面のシリカ微粒子の占有面積が大きくなりすぎ、結果としてアパタイト被覆酸化チタンの塗膜表面における存在量が充分でなくなるため、光触媒効果に欠けたものとなる傾向にある。また、塗料中における安定性にかけるため、1次粒子の凝集がおこり、結果として反応性微粒子の平均粒子径が大きくなり、バインダーとしての結合力に劣るものとなる傾向にある。
【0043】
前記水系溶媒は、水を主成分として含有する溶媒をいい、30重量%以上の水を含有するものをいう。そのほか、塗装作業性、外観向上などの目的で、アルコール、エーテル、グリコールエーテルなどの水と相溶する有機溶媒を含むことができ、特に限定されるものではない。
【0044】
本発明の光触媒塗料は、さらに必要に応じて分散安定剤、界面活性剤、消泡剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、香料、硬化剤、pH調整剤、防サビ剤、防カビ剤、造膜剤などの添加剤を塗膜の形成初期の親水性が下がらない程度の量を含むことができる。
【0045】
本発明の光触媒塗料組成物は、前記アパテック被覆酸化チタン微粒子およびシラノール基を有する反応性シリカ微粒子を、サンドミル、ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、ペイントシェーカー、超音波分散機、羽根式攪拌機、マグネチックスターラー、高速分散機、乳化機などを用いて水系溶媒中に分散させることによって製造することができる。なかでも、とくに10000rpm以上の高速回転数では、比較的短時間の処理により目的の粒子径まで分散することが可能であり、分散メディアを使用する分散機の欠点であったコンタミネーションが全く無い点から、ホモジナイザーによる分散処理が、塗料の製造上だけでなく、物性上においても好ましい。
【0046】
本発明の光触媒塗料組成物の固形分濃度は、好ましくは3重量%以上、より好ましくは6重量%以上である。固形分濃度が3重量%未満では、塗料製造時に、酸化チタンにシェアがかからず、1次粒子まで分散するのに必要以上に時間がかかる傾向があり、好ましくない。また、光触媒塗料組成物の固形分濃度は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下である。固形分濃度が20重量%をこえると、塗料貯蔵中に酸化チタン粒子の再凝集がおこりやすくなり、結果として塗膜中の酸化チタンの粒子径が大きいものとなるため、光触媒機能の低下をまねくおそれがある。また、3〜20重量%の固形分濃度の塗料の塗装においては、光触媒塗料を数回にわたり塗装して、光触媒の表面存在比を大きくするが、光触媒塗料組成物の固形分濃度が20重量%をこえる場合には、1回の塗布で目的とする塗膜厚さに到達するため、結果として光触媒の表面存在比が低下してしまい、触媒機能がうまく発現しない傾向にある。
【0047】
本発明の光触媒塗料組成物は、基材表面に塗布されたのち、乾燥または硬化されて塗膜を形成することができる。塗布方法としては、刷毛塗り、スポンジ塗り、スプレーコーティング、ロールコーティング、フローコーティング、スピンコーティング、ディップコーティングなどがある。乾燥または硬化は、室温放置、強制乾燥、加熱、紫外線照射などによって実施することができる。
【0048】
本発明の光触媒塗料組成物は、建物建造物内面(内壁、天井、床)の壁紙、カーテン、コンクリート、窓ガラスなどに適用される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0050】
実施例1
丸武産業(株)製のアパテックスラリー(平均粒子径660nmのアパタイト被覆酸化チタン微粒子の7〜8%水性懸濁液)1000gを、150メッシュのろ紙でろ過した。ろ液に、分散安定剤として、サンノプコ(株)製のノプコSN−5040を2.5g添加し、10000rpmで2分間ホモジナイザーで分散処理した。再度150メッシュのろ紙でろ過し、処理液を得た。得られた処理液中の酸化チタン微粒子の平均粒子径は231nmであった。
【0051】
処理液500gに、三菱化学(株)製のMSH−4(シラノール基を有する反応性シリカ微粒子、平均粒子径7.9nm)210gおよび水340gを加え、100rpmで3分間低速攪拌した。そののち、150メッシュのろ紙でろ過し、ろ液を塗料とした。得られた塗料は、チタン3.2重量%、水系溶媒16重量%、固形分6.8重量%であった。なお、平均粒子径は動的光散乱式粒径分布測定装置((株)堀場製作所製、LB−550)を用いて測定した。三菱化学(株)製のMSH−4の特性は以下のとおりである。
【0052】
外観:無色透明液体
構造:
【0053】
【化4】

【0054】
(式中、nは2〜8の整数)で表わされるメチルシリケートの有機アミンを触媒とした加水分解縮合物
有効成分(シリカ換算含有量):16%
主溶媒:水/メタノール(水35重量%)
粘度:2.0±1.0mPa・s
密度:0.90±0.05g/cm3
平均粒子径:7.9nm
重量平均分子量:1000
【0055】
1milのアプリケーターを用いて、表面を#200の耐水ペーパーで研磨したアクリル板に、ウェット時の膜厚が25μmとなるように塗料を塗布した。そののち、室温で1週間乾燥させて試験体とした。
【0056】
比較例1
三菱化学(株)製MSH−4にかえて、三菱レイヨン(株)製MX−2919(アクリル樹脂の45%懸濁液、平均粒子径129nm)67gと水433gを用いたほかは、実施例1と同様にして塗料を調整し、試験体を作成した。
【0057】
比較例2
三菱化学(株)製MSH−4にかえて、JSR(株)製水系グラスカXW−305(シリコンハイブリッドアクリル樹脂の40%水性懸濁液、平均粒子径87nm)75gと、1.5gのブチルセロソルブと水423gの混合物を用いたほかは、実施例1と同様にして塗料を調整し、試験体を作成した。
【0058】
実施例2
実施例1の処理液に、三菱化学(株)製MSH−4、50gおよび三菱レイヨン(株)製MX−2919(平均粒子径129nm)を60gと水390gを加えたほかは実施例1と同様の方法で試験体を作成した。
【0059】
(表面分析)
試験体表面をカーボン蒸着し、走査型電子顕微鏡(日本電子(株)製)を用いて、表面組成像、垂直方向の二次電子像を撮影した。結果を図1〜8に示す。カーボン蒸着は、サンユー電子(株)製のSC−701Cにより、カーボンが約15nmの厚さになるよう行なった。また、走査型電子顕微鏡写真の撮影条件は、組成像(反射電子像)では、加速電圧15kV、倍率は1000倍とした。二次電子像では加速電圧5kV、倍率は5000倍とした。
【0060】
図1は実施例1で得られた塗料試験体の組成像1、図2は実施例1で得られた塗料試験体の二次電子像2、図3は比較例1で得られた塗料試験体の組成像1、図4は比較例1で得られた塗料試験体の二次電子像2、図5は比較例2で得られた塗料試験体の組成像1、図6は比較例2で得られた塗料試験体の二次電子像2、図7は比較例3で得られた塗料試験体の組成像1、図8は比較例3で得られた塗料試験体の二次電子像2を示す。その結果、図1の組成像1と図2の二次電子像2に示すように、実施例1では、表層に酸化チタンの微粒子と考えられる組成が均一に分散して存在すること、表層への粒子の露出が良好であり、塗装表面が緻密であることがわかった。図3、5の組成像1に示すように、比較例1および2では、粒子径の大きいチタン成分および粒子径の小さいチタン成分が共存していると考えられる。また、図6の二次電子像2より、比較例2では、塗膜表面における酸化チタンの露出が少なくなっていることがわかる。実施例2では、図7の組成像1から、酸化チタンの微粒子が均一に分散し、表層への露出状態も良好であり、図2と図8の二次電子像2から、酸化チタン微粒子が塗膜表層に存在することがわかる。
【0061】
(組成分析)
試験体表面をカーボン蒸着し、X線マイクロアナリシス(日本電子(株)製JXA−8900M)を用いて、表層原子定量を行なった。得られた結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1より、実施例1では、比較例1および2に比べて、塗膜表面の酸素原子、ケイ素原子の組成比が多いことから、塗膜表面にシラノール基が存在し親水性を高めていることが分かる。また、リン原子、カルシウム原子の組成比についても、比較例に比べて大きい値となっており、これらはリン酸カルシウム由来の原子であることから、アパタイトの被覆またはフリーのリン酸塩が塗膜表層に存在していることを示唆するものである。チタン原子の組成比は、実施例1では15.30%となっており、アパタイト被覆酸化チタン微粒子が塗膜表層に多数存在することを示す結果である。実施例2においても、リン酸カルシウム由来の原子、チタン原子の組成比が比較例より大きい値となっており、塗膜表層のアパタイト被覆酸化チタン微粒子の存在が多いことがわかる。
【0064】
(塗膜形成初期の親水性)
試験用ガラス板1mm(コーティングスター工業(株)製)に、実施例1、比較例1〜3のコーティング組成物を、岩田スプレーガンW−100−101Gを用いて、圧力5kg/cm2の条件で乾燥塗膜厚さが10μmになるよう塗装したものを試験体とした。
【0065】
接触角測定器(協和界面化学(株)製、CA−X150)を用いて、試験体表面のイオン交換水との接触角を測定した。
【0066】
結果は、実施例1では0°、実施例2では16°、比較例1および2ではそれぞれ、43°、60°であった。この結果より、実施例1および2における初期親水性が優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、実施例1で得られた塗料試験体の組成像である。
【図2】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、実施例1で得られた塗料試験体の二次電子像である。
【図3】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、比較例1で得られた塗料試験体の組成像である。
【図4】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、比較例1で得られた塗料試験体の二次電子像である。
【図5】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、比較例2で得られた塗料試験体の組成像である。
【図6】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、比較例2で得られた塗料試験体の二次電子像である。
【図7】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、実施例2で得られた塗料試験体の組成像である。
【図8】走査型電子顕微鏡を用いて撮影した、実施例2で得られた塗料試験体の二次電子像である。
【符号の説明】
【0068】
1 組成像
2 二次電子像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アパタイト被覆酸化チタン微粒子、式(1):
SiOa(OH)b(OR1c(OR2d (1)
(式中、0.8≦a≦1.6、0.3≦b≦1.3、0.2≦c+d≦1.9、b=4−(2a+c+d)、R1はメチル基またはエチル基、R2はR1と異なる有機基)で表されるシロキサン化合物または式(2):
Si(OR14 (2)
(式中、R1はメチル基またはエチル基)で表されるテトラアルコキシシランの加水分解縮合物からなり、重量平均分子量が1000±200である反応性シリカ微粒子、および水系溶媒からなる光触媒塗料組成物。
【請求項2】
前記反応性シリカ微粒子が、式(3):
【化1】

(式中、nは2〜8の整数)で表わされるメチルシリケートに水と触媒を添加して得られたものである請求項1記載の光触媒塗料組成物。
【請求項3】
前記反応性シリカ微粒子の平均粒子径が9±3nmである請求項1または2記載の光触媒塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−8902(P2006−8902A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190184(P2004−190184)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(591176225)桜宮化学株式会社 (22)
【Fターム(参考)】