説明

光触媒活性を有する機能性繊維

【課題】光触媒活性を有する金属酸化物の光触媒機能を十分活用でき、消臭性、抗菌性、抗黴性、防汚性など、種々の機能を有する機能性繊維を提供する。
【解決手段】多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であって、かつ、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が緻密層に含有されていることを特徴とする機能性繊維。好ましくは繊維の細孔表面積が10〜40m/gの範囲、金属酸化物微粒子が酸化チタン、金属酸化物微粒子の粒子径が10〜100nmである機能性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性を有する機能性繊維に関する。さらに、詳細には、光触媒活性を十分活用でき、消臭性、抗菌・抗黴性、防汚性などさまざまな機能を有する機能性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸化チタン等の光触媒活性を有する金属化合物が注目を集めており、消臭、抗菌、抗黴、防汚など種々の用途への応用が提案されている。かかる光触媒活性を有する金属化合物を含有せしめた繊維製品も提案されている。しかしながら、光触媒活性を有する金属化合物は、母体となる繊維自体を劣化させる、あるいは繊維中に含有されたものは、その機能を発現できないなどの問題があり、光触媒活性を十分活用できる繊維は未だに得られていないのが現状である。
【0003】
例えば、消臭機能を例にとってみると、従来の光触媒活性を有さないものであれば、吸着剤を繊維に担持させた消臭性繊維、あるいはミクロボイドを有する活性炭繊維などが提案されている。これらの繊維は悪臭成分を吸着剤やミクロボイド内に吸着しているため、飽和吸着量を超えると悪臭を除去できなくなるという問題を有している。
【0004】
そこで近年、酸化チタン等の光触媒活性を有する金属酸化物等を繊維に含有せしめた消臭性繊維が提案されている。例えば、特許文献1には、光触媒と吸着剤を含有してなる消臭性繊維が開示されており、芯部より鞘部の光触媒濃度が高い芯鞘型の構造を有する繊維が好ましいとしている。かかる繊維によると、悪臭成分は光触媒により分解されるため、飽和吸着量を超えると悪臭を除去できなくなるという問題は解消される。しかしながら、かかる芯鞘構造の繊維では、繊維表面にしか悪臭成分が吸着しないため吸着能力に乏しく、従って光触媒機能を有効に利用しているとは言い難い。
【0005】
光触媒機能を活用するため、多孔質繊維中に光触媒活性を有する金属酸化物等を含有させるという提案もある(例えば、特許文献2)。 この方法によると、繊維の表面積が増え、表層部に存在する金属酸化物が増えるため、光触媒機能を有効に利用することができるように思えるが、紡績加工性(静電気発生)、染色性(発色性)等に難点があり、さらに、表層部の金属酸化物微粒子は、紡績、染色等の工程、あるいは洗濯等で容易に脱落してしまうため、やはり十分な消臭効果が得られないという問題がある。
【0006】
一方、光触媒は母体である繊維自体も分解してしまうため、繊維が変色したり、強度が低下するという問題もある。そのため、特許文献3においては、酸化チタンと酸化ケイ素を含有する複合金属酸化微粒子を用いている。かかる微粒子を用いることによって、繊維の変色や強度低下をある程度抑えることができている。しかしながら、かかる特殊な微粒子を用いることによって、コストが高くなること、また消臭能力に対しては該微粒子の量が多いほうが好ましく、量を増やすと依然として、繊維が変色したり強度が低下したりするという問題がある。
【特許文献1】特開平8−284011号公報
【特許文献2】特開平10−57816号公報
【特許文献3】特開2004−162245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、光触媒機能を十分活用できる機能性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、以下に示す本発明に到達した。
【0009】
(1)多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であって、かつ、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が緻密層に含有されていることを特徴とする機能性繊維。
(2)繊維の細孔表面積が10〜40m/gの範囲であることを特徴とする(1)記載の機能性繊維。
(3)金属酸化物微粒子が酸化チタンであることを特徴とする(1)または(2)に記載の機能性繊維。
(4)金属酸化物微粒子の粒子径が10〜100nmの範囲であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の機能性繊維。
(5)繊維の母体100重量部に対して、金属酸化物微粒子が1〜10重量部含有されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の機能性繊維。
(6)アクリロニトリル系重合体からなる多層構造繊維であることを特徴とする請求項(1)〜(5)のいずれかに記載の機能性繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明の機能性繊維は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維の緻密層に含有されているため、紡績性、染色性などの加工性に優れており、かつ光触媒機能が有効に活用できる。そのため、さまざまな種類の悪臭を効果的に分解して消臭することができ、さらに、抗菌性、抗黴性、防汚性など、種々の機能を有していることから、多様な用途に応用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。まず、本発明において、母体となる繊維は、多孔質層と緻密層が繊維断面方向に交互に配列した多層構造繊維である。多層構造繊維の層数としては、一層の多孔質層と一層の緻密層からなる二層以上の多層構造を有するものであり、三層以上の場合は、かかる多孔質層と緻密層が交互に配列している必要がある。
さらに、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子は緻密層側に含有されている必要がある。緻密層側に含有されていれば、多孔質層側にも含有されていても構わないが、多孔質層側の微粒子は脱落しやすいため、また、緻密層側に含有されていれば十分な機能が得られるため、コストの面からも緻密層側にのみ含有せしめる方が好ましい。
【0012】
本発明において母体となる繊維は多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であるが、該繊維の細孔表面積は10〜40m/gの範囲であることが好ましく、更に好ましくは20〜40m/gの範囲である。該繊維の細孔表面積が10m/g未満の場合は、悪臭成分の吸着面積が小さくなるなど、光触媒機能を十分活用できない場合がある。また、40m/gを超える場合には紡績性(静電気)、染色性(発色性)等の加工性に難を生ずる可能性がある。
【0013】
光触媒活性を有する金属酸化物微粒子は、紫外線照射によりその表面で電子と正孔が発生し、周囲の水や酸素から強力な酸化力を有する活性酸素を発生させる物質である。具体的には、Se、Ge、Si、Ti、Zn、Cu、Al、Sn、Ga、In、P、As、Sb、C、Cd、S、Te、Ni、Fe、Co、Ag、Mo、Sr、W、Cr、Ba、Pb等の酸化物などの化合物であって水に不溶のものが挙げられる。これらの中でも酸化チタン、酸化亜鉛及び酸化タングステンから選ばれる1種を単独で又は2種以上を組み合わせたものが好適であり、さらに、安全性や価格の面から酸化チタンを用いるのが好ましい。
【0014】
また、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、平均一次粒子径として10〜100nmの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは15〜50nm、より好ましくは15〜30nmの範囲である。無論、平均一次粒子径が小さいほど光触媒としての活性は高いわけであるが、平均一次粒子径が10nm未満の場合、繊維に含有させる際の取り扱い性(粉塵)、及び分散性(凝集性)に問題を生ずる可能性がある。一方、平均一次粒子径が100nmを超える場合には、十分な機能が得られない可能性がある。
【0015】
光触媒活性を有する金属酸化物微粒子の量は、必要とされる消臭性、抗菌・抗黴性、防汚性等の能力に応じて広い範囲から選択できる。該微粒子の量が少ないと、必要な能力が得られない場合があり、また多すぎると能力としては優れているものの、母体繊維を劣化させたり、繊維の物性を損なう恐れがあるため、繊維の母体100重量部に対して1〜10重量部であることが好ましく、より好ましくは1.5〜5重量部である。
【0016】
上述したように本発明の機能性繊維は、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であり、同種あるいは異種の重合体からなる所謂複合繊維である。かかる重合体は、繊維を形成しうるものであれば、単独重合体でも共重合体でもよく、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン系繊維、エチレン−ビニルアルコール系共重合体繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリウレタン繊維、アクリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリクラール繊維、フッ素系繊維、蛋白−アクリロニトリル共重合体系繊維、ポリグリコール酸繊維、フェノール樹脂繊維などの合成繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維を形成する重合体が例示される。中でも、アクリロニトリル系重合体からなるアクリル系繊維は、光触媒活性に対し耐性が高いことから、本発明繊維の母体繊維として最も好適なものである。
【0017】
多層構造繊維を得るための手段としては、それ自体公知の複合繊維の製造方法(サイドバイサイド型、ランダム複合型)から任意に選択出来るが、好ましくは特公昭59−7802号公報記載のような2成分の紡糸原液を任意のエレメント数を設置した登録商標名Kenics Mixer(米国ケニックス社製)、ISG Mixerを通過させた後、口金導入孔の分流板で複合流を導き吐出するいわゆるランダム複合型を採用することによって本発明の目的を有利に達成することが出来る。
【0018】
また、本発明の機能性繊維は、多孔質層と緻密層を有することが必要である。かかる構造の繊維は、公知の多孔質繊維を製造する方法と、通常の緻密繊維を製造する技術を組み合わせることによって得ることができる。例えば多孔質層側の紡糸原液に母体繊維となる重合体と相溶性の低い重合体を添加し、相分離によりキャピラリー状の多孔質構造を得る方法、非揮発性溶媒を多孔質層側の紡糸原液に添加し、紡糸後に該溶媒を抽出することにより多孔質構造を得る方法、また、製造工程中の膨潤ゲルトウに水溶性化合物を充填し、乾燥、後処理の後で充填物を溶出させ多孔質を得る方法、あるいは緻密化条件の異なる同種又は異種の重合体を用い、一方の重合体のみが緻密化する条件で処理を行う方法等を挙げることができる。
【0019】
以下に、本発明の機能性繊維の製法の一例として、アクリロニトリル含有量の異なる2種類の重合体を用いたアクリル系繊維の製法について詳述する。まず、ポリアクリロニトリル系重合体としては、単独重合体、公知のモノマーとの共重合体を用いることができるが、混在して繊維を構成する2種類の重合体共にアクリロニトリル(以下、ANともいう)比率が60重量%以上、より好ましくは80重量%以上であることが望ましい。また2種類の重合体のアクリロニトリル含有量の差は、同じ紡糸条件で、一方を多孔質層、他方を緻密層とするためには、それぞれの緻密化条件にある程度の差が必要となるため、その差が1重量%以上、好ましくは2重量%以上であるものが好ましい。
【0020】
共重合に用いられるコモノマーとしては重合性不飽和ビニル化合物など、アクリロニトリルと共重合するものであれば特に制限はなく、例えばアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、メタクリロニトリル、アクリルアミド、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデン、スチレン、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸塩、アリルスルホン酸塩、メタリルスルホン酸塩、エチレン、プロピレン等を使用することができる。
【0021】
以上のような2種類のアクリロニトリル系重合体を混在させ繊維を形成させる方法としては、2種類のアクリロニトリル系重合体をそれぞれ単独にポリアクリロニトリルの溶剤に溶解した後、その重合体溶液を特定の紡糸装置・口金に導きサイドバイサイド型とする方法、2種類の重合体溶液を原液多層形成装置を通して紡糸口金に導きランダム複合型とする方法などが挙げられる。中でもランダム複合型が2層を超える多層構造の繊維が得られるため推奨される。なお、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子は、緻密層側の重合体溶液に添加、あるいは重合体に添加して紡糸原液を作成する。
【0022】
かかるランダム複合型のアクリル系繊維の製造は、例えば以下のようにして行われる。まず、それぞれの重合体を溶剤に溶解して2種の紡糸原液(a,b)とする。この2種の原液a,bは原液多層形成装置に導かれる。かかる装置の例としてはスタティックミキサーである登録商標名Kenics
mixer,あるいはISG mixer等が挙げられるが、該装置は原液を通過させることにより供給側の原液層数の2〜10倍の原液層数として出口側から送出するものである。かかる装置を複数段使用することで形成される原液の層数は自由に設定できる。
【0023】
原液多層形成装置の出口側には紡糸口金を装着する。a,b,a,b‥‥の如くにn層に形成された原液がホール数Hを持つ紡糸口金に供給される場合、紡出孔1ホールに供給される原液層数は平均的にはn/H0.5に比例する。比例係数は原液多層形成装置や紡糸口金の形状(紡出孔の配置)、該口金の取り付け方向等の装置条件に依存するので、1本の繊維の断面に要求される層の数に応じてこれらの条件を適合させるのである。
【0024】
紡糸口金から吐出された紡糸原液は凝固、水洗、延伸の各工程を経て、続いて湿熱処理を行う。この際、一方が緻密層、他方が多孔質層となるように、凝固条件、湿熱処理条件を設定する。なおここでいう湿熱処理とは、飽和水蒸気や過熱水蒸気の雰囲気下で加熱を行う処理を意味する。その後、多孔質層が緻密化しない温度で乾燥することにより、本発明にかかる機能性繊維が得られる。
【0025】
なお、AN含有率が同じであっても、例えば一方のAN系重合体のコモノマーを親水性のものとし、他方を疎水性のものとするように、異なるコモノマーを用いることによって、本発明の機能性繊維を得ることができる。
【0026】
かくして得られる本発明の機能性繊維は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維の緻密層に含有されている。そのため、多孔質層に空気中の悪臭成分や菌などが吸着され、該多孔質層に接する緻密層の光触媒活性を有する金属酸化物により分解されることによって、優れた機能を有するものと考えられる。さらに、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が、緻密層に含有されているため、該微粒子の染色時の脱落を抑えることができ、また優れた洗濯耐久性を有している。加えて、多孔質層のみの繊維の場合に惹起される静電気の発生による紡績性の悪化や染色性の悪化も抑えることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に記載の%あるいは部は、特に断りのない限り重量%あるいは重量部である。また、実施例及び比較例中で用いた評価試験の方法は以下の通りである。
【0028】
(消臭性能評価)
試料綿0.1gを1.5L容のテドラーバッグ(登録商標)に入れ、初期濃度50体積ppmになるようにアセトアルデヒドガスを入れて密閉した。反射板付ブラックライト蛍光ランプ(松下電器産業株式会社製、20ワット形FL20S・BLB)2本を平行に取り付けた光源を用い、テドラーバッグ(登録商標)から20〜30cmの距離で紫外線を照射した。紫外線強度は、紫外線強度計を用いて0.25mW/cmの条件となるように、光源からの距離を調整した。20時間紫外線を照射後、アセトアルデヒド検知管でテドラーバッグ(登録商標)中の残留アセトアルデヒドガス濃度を測定し、次式に従いガス残消臭率(%)を算出した。
ガス消臭率(%)=〔(初期濃度−残留ガス濃度)/初期濃度〕×100
同様の方法で、アンモニアガス初期濃度300体積ppm、酢酸ガス初期濃度100体積ppm、硫化水素ガス初期濃度15体積ppm、トリメチルアミンガス初期濃度80体積ppmの条件で各残留ガス濃度を測定し、各々のガス消臭率(%)を上記と同様にして算出した。
【0029】
(抗菌性試験)
試験株:黄色葡萄状球菌Stapylococcus aureus
ATCC 6538P
試験方法:繊維製品衛生加工協議会(SEK)で定める方法により、滅菌試料布に試験菌のブイヨン懸濁液を注加し、密閉容器中で37℃、18時間紫外線を照射(180〜200μW/cm)しながら培養し、培養後の生菌数を計測し、植菌数Aに対する同様の試験による標準布の菌数Bと試料布の菌数Cから、静菌活性値=(logB−logA)−(logC−logA)の式で求める静菌活性値を用いる。一般に静菌活性値が2.2以上であれば抗菌性能があると見なされるが3.0以上が好ましい。なお、試料布は、洗濯耐久性を評価するため、洗濯10回後の物を用いた。洗濯方法は以下のとおりである。
【0030】
(洗濯方法)
洗濯条件JIS−L−0213の103法(家庭用洗濯機用)に従い、洗剤として第一工業製薬(株)製モノゲンユニを使用して洗濯を繰り返す(10回)。
【0031】
(細孔表面積評価)
繊維10mgを短繊維状にカットし、島津製作所製MICROMERITICS Auto Pore IVにて水銀圧4.14×10−2〜4.14×10MPaまで評価した。得られる細孔表面積(A1)は繊維間空隙を含むため、次式により繊維間空隙分(A2)を減じたものを繊維の細孔表面積とした。
繊維の細孔表面積=A1−A2
A1:水銀圧4.14×10−2〜4.14×10MPaの細孔表面積
A2:水銀圧4.14×10−2〜1.38MPaの細孔表面積
【0032】
(多層化層数評価)
繊維200本を引き揃え蝋で固めた後、ライカ社製ミクロトーム2065を用い繊維断面方向に厚さ50nmの薄片試料を作成した。作成した薄片試料をNikon社製光学顕微鏡AFX−IIにて観察、繊維一本当りの層数を数え、200本の平均層数を多層化層数とした。なお、薄片試料を染料等で薄く色づけするとより容易に層数を数えることが出来る。
【0033】
(実施例1)
アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が90重量%のアクリロニトリル共重合体からなる紡糸原液(I)及び、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が88重量%のアクリロニトリル共重合体と平均一次粒子径15nmの酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製TK522)からなる紡糸原液(II)をISG Mixer(理論原液層数432)に1:1の割合で供給して多層化混合し、紡出孔29221ホールを有する紡糸口金を介して湿式紡糸に供した。ここで、アクリロニトリル系共重合体の溶媒としては、ロダン酸ソーダ水溶液を用いた。また、酸化チタン微粒子は紡糸原液(II)のアクリロニトリル重合体100重量部に対して、5重量%となるよう調整した。
凝固液には12重量%濃度のロダン酸ソーダ水溶液を1.5℃で用いた。次いで水洗、熱延伸を施し、得られた繊維を乾燥することなく弛緩状態で115℃のスチーム処理を行い、さらに110℃で15分間乾燥し、ランダム複合型のアクリル繊維である本発明の機能性繊維を得た。更に得られた機能性繊維をCIBA GEIGY社製Maxilon Blue GRL300を用い常法に従って染色し評価用機能性繊維を得た。
【0034】
実施例1で得られた評価用機能性繊維について、各悪臭成分に対するガス消臭率を評価したところ、アセトアルデヒドガス、アンモニアガス、酢酸ガス、硫化水素ガス、トリメチルアミンガスの全てにおいて、消臭率100%であった。なお、細孔表面積、多層化層数は表1に示した。
【0035】
表1の結果からも明らかなように、実施例1に係わる消臭性繊維は、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が、多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維の緻密層に含有されているため、光触媒機能を有効に活用し、さまざまな種類の悪臭を効果的に分解して消臭することができる。
【0036】
(比較例1)
実施例1の紡糸原液(II)に代えて、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が88重量%のアクリロニトリル共重合体からなる紡糸原液(III)を用いた以外は、実施例1と同一の方法で評価用繊維を得た。
【0037】
(比較例2)
実施例1で用いた紡糸原液(I)に代えて、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、メタリルスルホン酸ソーダからなるアクリロニトリル含有率が90重量%のアクリロニトリル共重合体と平均一次粒子径15nmの酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製TK522)からなる紡糸原液(IV)を用い、また、実施例1で用いた紡糸原液(II)に代えて、紡糸原液(III)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用繊維を得た。なお、酸化チタン微粒子は紡糸原液(IV)のアクリロニトリル重合体100重量部に対して、5重量%となるよう調整した。
【0038】
(比較例3)
実施例1で用いた紡糸原液(I)に代えて、紡糸原液(II)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用繊維を得た。
【0039】
(比較例4)
比較例2で用いた紡糸原液(II)に代えて、紡糸原液(IV)を用いる他は、比較例2と同一の方法で繊維の作成を試みたが、十分な熱延伸が出来ず脆い繊維しか得られなかったため、評価用繊維を得ることが出来なかった。
【0040】
実施例1、比較例1〜3で得られた各繊維について、アセトアルデヒドガス消臭率、細孔表面積、及び多層化層数を評価し、その結果を表1に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
表1の結果からも明らかなように、比較例1では光触媒活性を有する酸化チタン微粒子が繊維に含有されていないため、十分な消臭性能が得られなかった。比較例2では光触媒活性を有する酸化チタン微粒子を多孔質層に含有させているため、染色時に微粒子が脱落してしまい十分な消臭性能が得られなかった。また、比較例3では全体が緻密層であるため悪臭成分の吸着能力に乏しく十分な消臭性能が得られなかった。
【0043】
(実施例2)
凝固液として12重量%濃度のロダン酸ソーダを5℃で用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用の機能性繊維を得た。
【0044】
(実施例3)
実施例1で用いたテイカ株式会社製酸化チタンTK522に代えて、平均一次粒子径5nmの酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製酸化チタンAMT100)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用の機能性繊維を得た。
【0045】
(実施例4)
実施例1で用いたテイカ株式会社製酸化チタンTK522に代えて、平均一次粒子径30nmの酸化チタン微粒子(テイカ株式会社製酸化チタンAMT600)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用の機能性繊維を得た。
【0046】
(実施例5)
実施例1で用いた紡糸原液(II)に代えて、酸化チタン微粒子が紡糸原液(II)中のアクリロニトリル共重合体100重量部に対して、1重量部となるように調整した紡糸原液(V)を用いる他は、実施例1と同一の方法で評価用の機能性繊維を得た。
【0047】
実施例2〜5で得られた評価用の機能性繊維についてアセトアルデヒドガス消臭率を評価し、その結果を表1に併記した。
【0048】
表の結果からも明らかなように、実施例2〜5の機能性繊維は比較例1〜3のものに比べて、良好なアセトアルデヒドガス消臭率を示した。ただし、実施例2の機能性繊維は紡績時カーディング等で静電気が発生しやすく、紡績等の加工性に劣るものであったが、消臭性能は優れており、加工時の温湿度、もしくは、混率等の適正化により十分実用可能なものであった。また、実施例3の機能性繊維を作成するにあたっては、酸化チタン微粒子の水分散液を作成する際、酸化チタン微粒子が粉塵となりやすく防塵マスク等の装着が必要であり、また、酸化チタン微粒子が一次粒子にまで分散しにくく分散にかなりの時間が必要であるなど作業性、生産性に若干の問題はあるものの、優れた消臭性能を有していた。
【0049】
(実施例6)
実施例1で得られた機能性繊維を通常の3.3dtexアクリロニトリル繊維(東洋紡績(株)エクスラン K8−3.3)と50重量%対50重量%の比率で常法に従って混紡し、メートル番手48番手双糸の紡績糸を作製し、12ゲージ2プライで天竺の編地に形成した。かかる編地を試料布として抗菌性を評価したところ、静菌活性値は4.6と、優れた抗菌性を示した。
【0050】
(実施例7)
実施例2で得られた機能性繊維を通常の3.3dtexアクリロニトリル繊維(東洋紡績(株)エクスラン K8−3.3)と40重量%対60重量%の比率で常法に従って混紡し、メートル番手48番手双糸の紡績糸を作製し、12ゲージ2プライで天竺の編地に形成した。かかる編地を試料布として抗菌性を評価したところ、静菌活性値は4.6と、優れた抗菌性を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質層と緻密層が交互に配列した多層構造繊維であって、かつ、光触媒活性を有する金属酸化物微粒子が緻密層に含有されていることを特徴とする機能性繊維。
【請求項2】
繊維の細孔表面積が10〜40m/gの範囲であることを特徴とする請求項1記載の機能性繊維。
【請求項3】
金属酸化物微粒子が酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2に記載の機能性繊維。
【請求項4】
金属酸化物微粒子の粒子径が10〜100nmの範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の機能性繊維。
【請求項5】
繊維の母体100重量部に対して、金属酸化物微粒子が1〜10重量部含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の機能性繊維。
【請求項6】
アクリロニトリル系重合体からなる多層構造繊維であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の機能性繊維。

【公開番号】特開2006−104605(P2006−104605A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−291378(P2004−291378)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】