説明

光触媒膜形成用塗布剤

【課題】高濃度の光触媒体を含んでいても膜が脆くなることなく、光照射したときに優れた光触媒作用を示す光触媒膜を形成できる光触媒膜形成用塗布剤を提供する。
【解決手段】(A)水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物を過酸化水素水と混合して得られるペルオキソチタン酸水溶液、及び(B)光触媒粉末を含有する塗布剤であって、光触媒粉末(B)が、ペルオキソチタン酸水溶液(A)の一部と光触媒粉末(B)とを固形分重量比で1/200〜10/100の割合で混合し加熱して、光触媒粉末表面に反応性ヒドロキシチタン基が予め形成されているものであることを特徴とする光触媒膜形成用塗布剤。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高濃度の光触媒体を含んでいても膜が脆くなることなく、光照射したときに優れた光触媒作用を示す光触媒膜を形成できる光触媒膜形成用塗布剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体に紫外線を照射すると強い還元作用を持つ電子と強い酸化作用を持つ正孔が生成し、半導体に接触した分子種を酸化還元作用により分解する。このような作用を光触媒作用と呼び、近年、この光触媒作用を利用する方策が種々提案されている。具体的には、大気中のNOxの分解、汚れ防止、居住空間や作業空間での悪臭物質やカビ等の分解除去、あるいは水中の有機溶剤や農薬、界面活性剤等の環境汚染物質の分解除去などへの応用である。このような光触媒作用を有する物質として酸化チタンが注目され、酸化チタンからなる光触媒体が市販されている。また近年、紫外線領域を利用する光触媒体だけでなく、可視光線を照射することにより高い光触媒作用を示す光触媒体についても種々検討がなされている。
【0003】
このような光触媒作用は、光触媒体との接触表面で得られるものなので、基材面に光触媒膜を形成する場合には、その機能を最大限に発揮させるために、バインダー成分中に非常に高濃度で光触媒体を含有させる必要があるが、通常の有機のバインダー成分では膜が脆くなるなど皮膜物性が不十分となり、長期の耐久性が得られなかった。そこで本出願人は、耐光性を有するペルオキソチタン酸などをバインダー成分とすることを提案している(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−144543号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記ペルオキソチタン酸などをバインダー成分とする場合には、長期の耐光性には優れるが、皮膜物性や塗布液の貯蔵安定性が十分とはいえなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記問題が解消され、高濃度の光触媒体を含んでいても膜が脆くなることなく、光を照射したときに優れた光触媒作用を示す光触媒膜を形成できる光触媒膜形成用塗布剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は、
1.(A)水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物を過酸化水素水と混合して得られるペルオキソチタン酸水溶液、及び(B)光触媒粉末であって、光触媒粉末(B)が、ペルオキソチタン酸水溶液(A)の一部と光触媒粉末(B)とを固形分重量比で1/200〜10/100の割合で混合し加熱して、光触媒粉末表面に反応性ヒドロキシチタン酸基が予め形成されているものであることを特徴とする光触媒膜形成用塗布剤、
2.ペルオキソチタン酸水溶液(A)が、水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物と過酸化水素水とを、前者100重量部に対して後者が過酸化水素換算で1〜10,00重量部の割合で混合してなる請求項1記載の光触媒膜形成用塗布剤。
3.ペルオキソチタン酸水溶液(A)と光触媒粉末(B)とを、固形分重量比で100/10〜100/500の割合で含有する1項記載の光触媒膜形成用塗布剤、
4.基材面に、1ないし4のいずれか1項記載の光触媒膜形成用塗布剤を塗布、乾燥して、バインダーであるペルオキソチタン酸と光触媒粉末(B)の粒子表面の少なくとも一部を反応せしめて一体化した光触媒膜の形成方法、
5.基材面に、4項記載の光触媒膜を形成してなる物品、
に関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明においてペルオキソチタン酸水溶液(A)は、水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物を過酸化水素水と混合して得られる。
上記加水分解性チタン化合物としては、特に一般式(I)
Ti(OR) (I)
(式中、Rは同一又は異なって、炭素数1〜5のアルキル基を示す。)で表されるテトラアルコキシチタンが好ましい。また水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物の低縮合物としては、縮合度2〜30程度のものが好ましい。
【0009】
上記ペルオキソチタン酸水溶液(A)において、水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物と過酸化水素水とは、前者が100重量部に対して、後者が過酸化水素換算で1〜1,000重量部、好ましくは10〜200重量部の割合で混合することが好適である。後者が過酸化水素換算で1重量部未満になると安定で均一な水溶液が得られず、また長期貯蔵が困難となり、一方1,000重量部を越えると酸素分圧が高くなり、発泡性が強くなって貯蔵不安定になるなので好ましくない。
【0010】
過酸化水素水の過酸化水素濃度は、特に限定されないが、3〜30重量%の範囲内であることが取り扱い易さの点から好ましい。
【0011】
上記水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物と過酸化水素水との混合は、通常、1〜70℃程度で10分〜20時間程度攪拌下に行なうことが望ましく、混合の際には必要に応じて、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−イソプロパノールなどのアルコール系;エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルコールエーテル系等の水可溶性有機溶剤を使用することもできる。
【0012】
上記ペルオキソチタン酸水溶液(A)は、水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物を過酸化水素水と混合させることにより、前者が水で加水分解されて水酸基含有チタン化合物を生成し、次いでこの水酸基含有チタン化合物に過酸化水素が直ちに配位してペルオキソチタン酸を形成することにより得られるものと推察される。このペルオキソチタン酸水溶液(A)は、室温域で安定性が高く長期の保存に耐える。
【0013】
上記ペルオキソチタン酸水溶液(A)には、必要に応じてアセトアニリド、フェナセチン及びオキシキノリンから選ばれる少なくとも1種の化合物を貯蔵安定性向上のために添加しても良い。該化合物の添加量は、(A)の固形分100重量部に対して、0.01〜20重量部、特に0.2〜2.0重量部の範囲内であるのが好ましい。
【0014】
本発明において光触媒粉末(B)としては、紫外光及び/又は可視光を吸収して光触媒作用を発現し得るものであれば特に制限なく従来公知の光触媒粉末が使用可能であり、例えば酸化チタン、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、チタン酸ストロンチウム、酸化チタン−酸化ジルコニウム複合酸化物及び酸化珪素−酸化チタン複合酸化物等の酸化物半導体等が挙げられ、これら酸化物半導体の表面にバナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)のうちの少なくとも1種の金属化合物が担持されたものも挙げられ、これらは単独で又は2種以上混合して使用でき、特に酸化チタンを主成分とする粉末が好適である。
【0015】
酸化チタンを主成分とする粉末としては、アナタ−ゼ型、ルチル型、ブルッカイト型のいずれかであり、必要に応じて表面にCr、Ru、V、Nb、Fe、Ni、Cu、 Mg、Ag、Mn、Pd、Ptの群から選ばれる少なくとも1種以上の金属微粒子を担持あるいは含有させた酸化チタン;表面に塩化白金化合物などのハロゲン化白金化合物を担持あるいは含有させた酸化チタン;或いは安定酸素欠陥を有する酸化チタンで、電子スピン共鳴スペクトルによる計測(420nm以上の波長域の光照射下で測定した場合)においてg値が2.004〜2.007である主シグナルと、gが1.985〜1.986、及びg値が2.024である2つの副シグナルが観測される酸化チタンなどが挙げられる。
【0016】
本発明において上記光触媒粉末(B)は、前述のペルオキソチタン酸水溶液(A)の一部と該光触媒粉末(B)とを固形分重量比で1/200〜10/100、好ましくは1/100〜5/100の割合で混合し加熱して、光触媒粉末表面に反応性ヒドロキシチタン基を予め形成させておくことが必須である。加熱条件としては、40〜250℃で24〜1時間程度行なうことが望ましい。これによって皮膜形成後、乾燥によって光触媒粉末表面の反応性ヒドロキシチタン基とバインダ−のペルオキソチタン酸の縮合反応が進行し、強固な一体化した皮膜を形成できるという効果を奏するものである。さらに光触媒粉末表面はペルオキソ基という親水性で立体障害性の官能基を有するので、反応性ヒドロキシチタン基を保護し、塗液においては貯蔵安定性を飛躍的に向上させることができる。
【0017】
本発明では、ペルオキソチタン酸水溶液(A)と上記の通り処理された光触媒粉末(B)とを、固形分重量比で100/10〜100/500、好ましくは100/50〜100/300の割合で含有することが好適である。この範囲を外れて(A)成分が少ない((B)成分が多い)と得られる被膜が脆く、光触媒粉末(B)が逸脱しやすくなり、結局は長期光触媒性能が維持できなくなり、一方(A)成分が多い((B)成分が少ない)と粉末表面で起きる光触媒反応を阻害してしまうので好ましくない。
【0018】
上記ペルオキソチタン酸水溶液(A)と光触媒粉末(B)との混合は、該(B)成分の分散粒径が10nm〜10μm、好ましくは10nm〜1μm程度となるように分散処理を行なうことが表面積確保の点から望ましい。
【0019】
本発明の光触媒膜形成用塗布剤は、上記(A)及び(B)成分を含有するものであり、さらに必要に応じて各種添加物を含有することができ、例えば有機酸及び/又はその塩を貯蔵安定性の点から添加しても良い。有機酸としては、例えば、酢酸、シュウ酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等の有機カルボン酸;メタンスルフォン酸、エタンスルフォン酸、p−ベンゼンスルフォン酸等の有機スルフォン酸;2−アミノ−エタンスルフィン酸、p−トルエンスルフィン酸等の有機スルフィン酸;ニトロメタン、ニトロエタン、ニトロプロピオン酸、ニトロカテコール、2−ニトロレソルシノール、ニトロ安息香酸等の有機ニトロ化合物;フェノール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、サリチル酸、没食子酸、安息香酸、チオフェノール、2−アミノチオフェノール、4−エチルチオフェノール等のフェノール類;1−ヒドロキシメタン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1、1−ジホスホン酸、ニトリロ(アミノ)トリメチレンホスホン酸、ニトリロ(アミノ)トリエチレンホスホン酸、ニトリロ(アミノ)トリプロピレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラエチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラプロピレンホスホン酸、N,N−ビス(2−ホスホエチル)ヒドロキシアミン、N,N−ビス(2−ホスホメチル)ヒドロキシアミン、2−ヒドロキシエチルホスホン酸ジメチルエーテルの加水分解物、2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等の有機リン酸化合物が挙げられる。
【0020】
また、有機酸の塩としては、上記有機酸にアルカリ化合物を加えることにより形成される有機酸の塩を使用することができる。該アルカリ化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウム等を含有する有機又は無機アルカリ化合物が挙げられる。
【0021】
有機酸又は有機酸塩としては、水に溶解性のあるものを使用することが好ましく、特に、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸等のヒドロキシカルボン酸;1−ヒドロキシメタン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1、1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1、1−ジホスホン酸等のヒドロキシル基含有有機亜リン酸;2−ヒドロキシホスホノ酢酸、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸等のカルボキシル基含有有機亜リン酸及びこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することが、塗布剤の貯蔵安定性等に優れた効果を発揮することから、好ましい。
【0022】
本発明塗布剤に、上記有機酸及び/又は有機酸塩を含有させる場合の添加量は、通常、(A)の固形分100重量部に対して、1〜400重量部程度の範囲、特に10〜200重量部程度の範囲であるのが好ましい。
【0023】
本発明塗布剤には、さらに必要に応じて、アンモニア、有機塩基性化合物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物等の塩基性中和剤を含有することができる。有機塩基性化合物としては、例えば、ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノ−ル、トリエチルアミン、モルホリンが、又アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0024】
本発明塗布剤には、さらに必要に応じて、例えば、増粘剤、有機溶剤、界面活性剤、防菌剤、防錆剤、潤滑剤、消泡剤、レベリング剤、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等を挙げることができる。着色顔料としては、例えばベンガラや着色ガラスフリット粉末等、体質顔料としては、例えばマイカ、タルク、シリカ、微粉シリカ、バリタ、クレー等を挙げることができる。
【0025】
本発明の光触媒膜形成用塗布剤は、基材面に塗布、乾燥することで、バインダーであるペルオキソチタン酸と光触媒粉末(B)の粒子表面の少なくとも一部が反応して一体化した光触媒膜を形成することができる。特に両成分の一体化のためには、加熱することが望ましく、例えば40℃〜250℃好ましくは80〜200℃の加熱乾燥、マイクロ波加熱、マイクロ波誘導加熱等が望ましい。
【0026】
形成される光触媒膜の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常、0.001〜20μm程度であるのが好ましく、0.1〜15μmの範囲であるのがより好ましい。また、通常、1回の塗布で、剥離し難い付着性に優れた厚さ1μm以上という厚膜の均一で緻密な酸化チタン多孔質膜を形成できる。勿論、必要に応じて、複数回塗布しても良い。
【0027】
基材面への塗布は、特に限定されず、公知の塗装方法によれば良い。塗装方法としては、例えば、印刷塗装、ナイフコーター塗装、ドクターブレード塗装、浸漬塗装、シャワー塗装、スプレー塗装、ロール塗装、電着塗装等の各種塗装方法を採用することができる。また基材面への含浸としてもよい。
【0028】
上記基材としては、例えば、金属、陶磁器、プラスチックス、繊維、ガラス、コンクリート等のあらゆる素材のものを使用できる。光触媒作用により分解性のプラスチックス、繊維等の素材に対しては、光触媒作用からの絶縁性の処理皮膜、例えばシリケ−ト等の珪酸塩やペルオキソチタン酸等を用いて素材面に予め塗布ないし含浸処理を施してこれらの皮膜を形成しておくことができる。また、基材の形状としても、板状、球状、直方体状、円筒形状等のいずれの形状でも良い。更に、基材として、多孔体、粉体等を用いて、多孔体の内部処理や表面処理、粉体の表面処理を行なうことも可能である。多孔体としては、例えば、発泡体、ハニカム構造体、コルゲート構造体等を挙げることができる。また、粉体としては、例えば、マイカ、タルク、シリカ、硫酸バリウム、クレー等の体質顔料、着色を意図した、弁柄、コバルトブル−、着色ガラスフリット顔料等の着色顔料を挙げることができる。
具体的な基材面としては、建築建造物の内外面、窓ガラス面、カーテン、道路の防護壁やトンネルの内壁、車両の内装面や窓ガラス、ミラー面などが挙げられる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。尚、「部」及び「%」はいずれも重量基準である。
【0030】
ペルオキソチタン酸水溶液(A)の作成
作成例1
テトラiso−プロポキシチタン10部とiso−プロパノール10部の混合物を、30%過酸化水素水10部と脱イオン水100部の混合物中に20℃で1時間かけて超音波撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し黄色透明の少し粘性のあるペルオキソチタン酸水溶液を得た。これを水で希釈して固形分濃度3%のペルオキソチタン酸水溶液▲1▼とした。
【0031】
作成例2
テトラ−n−ブトキシチタン10部とiso−プロパノール10部の混合物を、30%過酸化水素水20部と脱イオン水100部の混合物中に20℃で1時間かけて超音波撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し黄色透明の少し粘性のあるペルオキソチタン酸水溶液を得た。これを水で希釈して固形分濃度1%のペルオキソチタン酸水溶液▲2▼とした。
【0032】
作成例3
テトラエトキシチタン10部とメトキシエタノール15部の混合物を、30%過酸化水素水20部と脱イオン水100部の混合物中に20℃で1時間かけて超音波撹拌しながら滴下した。その後25℃で2時間熟成し黄色透明の少し粘性のあるペルオキソチタン酸水溶液を得た。これを水で希釈して固形分濃度2%のペルオキソチタン酸水溶液▲3▼とした。
【0033】
光触媒膜形成用塗布剤の作成及び評価
実施例1
上記作成例1で得た固形分濃度3%のペルオキソチタン酸水溶液▲1▼20部に、「MPT−621」(石原産業社製、可視光応答型光触媒酸化チタン)7部およびアルミナビ−ズを加え、2時間振とう分散した後、150℃・30分の条件で加熱処理した。
【0034】
次いでこの中に、固形分濃度3%のペルオキソチタン酸水溶液▲1▼80部を加え、15分振とうした後に溶液とビ−ズを分離排出し、光触媒膜形成用塗布剤(I)を得た。
【0035】
上記塗液(I)を、アルミニウム基材(49.5mm*100mm*3.0mm)に乾燥膜厚が2μmになるようにエアスプレ−法にて塗布し、170℃×30分加熱乾燥させて成膜した。この被膜の鉛筆硬度は5Hであった。
【0036】
また成膜後、NOx分解率を測定した。NOx分解率の評価には、島津製作所(株)製環境試験機「環境大気測定用窒素酸化物計CLAD-1000」を用いて、NO濃度2ppmの標準ガスで校正したNOxガス(NOガス濃度1ppm)を2L/min流し、AM1.5のハロゲン100W人口太陽灯を照射しながらNOxガスの分解率を評価した。その結果、NOx分解率81%を得た。
同様に、発泡アルミニウムを基材に用いて上記塗液(I)を成膜し、NOxガスの分解率を評価したところ、見かけの表面積が増大する効果により、NOx分解率98%以上を達成できた。
実施例2
作成例2で得た固形分濃度1%のペルオキソチタン酸水溶液▲2▼25部に、「NTB−200」(昭和電工社製、ブルッカイト型光触媒酸化チタン、2.5%水分散ゾル)100部を加え、振とうした後、80℃・4時間の条件で加熱処理した。次いでこの中に、固形分濃度1%のペルオキソチタン酸水溶液▲2▼75部、アセトアニリド0.001部を加えて30分間振とうした後、光触媒膜形成用塗布剤(II)を得た。
【0037】
この塗液(II)を、ITO透明導電ガラス基材(50*100mm*2mm)に乾燥膜厚が0.1μmになるようにエアスプレ−法にて塗布し、150℃×30分加熱乾燥させて成膜後、1%メチレンブル−水溶液に10分間含浸させて、メチレンブル−を吸着させた。残余色素をろ紙に吸い取らせて除去し、青色に汚染させた評価基板を得た。27W蛍光灯スタンド(距離30cm)を照射しながらメチレンブル−の光分解性を評価した。その結果、30時間でメチレンブル−が分解した。
この光触媒塗膜は光線透過率が95%で透明性があり、ITO導電膜の電磁波反射により、32デシベルのシ−ルド特性が得られた。これにより携帯電話の受発信制御が可能である。
【0038】
同様に、両面ITOスパッタ導電ガラスを基材に用いて上記塗液(II)を塗布し成膜したところ、45デシベルのシールド特性が得られた。これにより無線LANの情報漏洩を防止可能である。
実施例3
上記作成例3で得た固形分濃度2%のペルオキソチタン酸水溶液▲3▼20部に、「ナノピュアDR35PT30」(大研化学工業社製、ナノ粒子白金担持ルチル型酸化チタン光触媒)3部、タルク0.5部、赤弁柄0.1部、およびアルミナビ−ズを加え、2時間振とう分散した後、90℃・6時間の条件で加熱処理した。
【0039】
次いでこの中に、上記固形分濃度1%のペルオキソチタン酸水溶液▲3▼80部および10%過酸化水素水10部、ブチルセロソルブ0.2部を加え、15分振とうした後に溶液とビ−ズを分離排出し、光触媒膜形成用塗布剤(III)を得た。
【0040】
予めプラズマ処理により表面親水化処理を施したPETフィルム(50mm*50mm*0.1mm)表面に、上記固形分濃度1%のペルオキソチタン酸水溶液▲2▼を乾燥膜厚が0.2μmになるように塗布し、120℃×10分間加熱乾燥させた後、その上に上記で得た塗液(III)を乾燥膜厚が1μmになるようにロ−ルコ−タ−法にて塗布し、180℃×1分加熱乾燥させて、多孔質可視光光触媒フィルムを得た。このフィルムを500mlのガラス容器に入れ、27W蛍光灯スタンド(距離30cm)で照射しながら、アセトアルデヒド300ppmを含むエア−を循環させながら、10分おきにガスを抜き取り、ガスクロマトグラフィ−によりアルデヒド濃度を測定した。その結果、12時間でアセトアルデヒド濃度が1ppm以下になり、アルデヒドの光分解能を確認することが出来た。
実施例4
作成例1で得た固形分濃度3%のペルオキソチタン酸水溶液▲1▼20部に、「AMT−600」(テイカ社製、アナターゼ型酸化チタン)7部およびアルミナビ−ズを加え、2時間振とう分散した後、150℃・30分間の条件で加熱処理した。
【0041】
次いでこの中に、上記固形分濃度3%のペルオキソチタン酸水溶液80部を加え、15分振とうした後に溶液とビ−ズを分離排出し、光触媒膜形成用塗液(IV)を得た。
【0042】
この塗液(VI)を、アルミ基材(49.5mm*100mm*3.0mm)に乾燥膜厚が2μmになるようにエアスプレ−法にて塗布し、170℃×30分加熱乾燥させて成膜した。この皮膜は、鉛筆高度が5Hであった。また、がくしん式磨耗試験機にて荷重200gで繰り返し20回磨耗試験を行い、異常がないことを確認した。
また成膜後、NOx分解能を測定した。NOx分解率の評価には島津製作所(株)製環境試験機を用い、NO濃度2ppmの標準ガスで校正したNOxガス(NOガス濃度1ppm)を2L/min流し、紫外線強度:0.8mW/cmのブラックライトで紫外線を照射しながらNOxガスの分解率を評価した。その結果、NOx分解率87%であった。
【0043】
比較例1
固形分濃度3%のアナタ−ゼ型酸化チタンゾル水溶液20部に、「MPT−621」(石原産業社製、可視光応答型光触媒酸化チタン)7部およびアルミナビ−ズを加え、2時間振とう分散し、さらに固形分濃度3%のアナタ−ゼ型酸化チタンゾル水溶液80部を加え、15分振とうした後に溶液とビ−ズを分離排出し、光触媒膜形成用塗液(V)を得た。
【0044】
この塗液(V)を、アルミ基材(49.5mm*100mm*3.0mm)に乾燥膜厚が2μmになるようにエアスプレ−法にて塗布し、170℃×30分加熱乾燥させたが、膜が脆く、振動や基材を傾けると皮膜が剥がれ落ち、評価に供し得なかった。
比較例2
作成例1で得た固形分濃度3%のペルオキソチタン酸水溶液▲1▼100部に、「AMT−600」(テイカ社製、アナターゼ型酸化チタン)7部およびアルミナビ−ズを加え、2時間振とう分散した後に溶液とビ−ズを分離排出し、光触媒膜形成用塗液(VI)を得た。
【0045】
この塗液(VI)を、アルミ基材(49.5mm*100mm*3.0mm)に乾燥膜厚が2μmになるようにエアスプレ−法にて塗布し、170℃×30分加熱乾燥させて成膜した。この皮膜は、鉛筆高度が2Bであった。また、がくしん式磨耗試験機にて荷重200gで繰り返し20回磨耗試験を行なったところ、アルミ面が露出した。また成膜後、NOx分解能を測定した。NOx分解率の評価には島津製作所(株)製環境試験機を用い、NO濃度2ppmの標準ガスで校正したNOxガス(NOガス濃度1ppm)を2L/min流し、紫外線強度:0.8mW/cmのブラックライトで紫外線を照射したところ、NOx分解率87%であった。
【0046】
【発明の効果】
本発明では、バインダ−であるペルオキソチタン酸水溶液がチタンと酸素が主成分であるため、特に加熱等により皮膜化した場合、その純度が高く、堅ろうな無機皮膜を形成し得る。また、この皮膜は光触媒反応により生成するラジカルにより光分解等の悪影響を受けない利点がある。さらに、光触媒粉末に対し予めバインダ−であるペルオキソチタン酸水溶液によるヒドロキシチタン酸層を形成しておくため、塗布後の加熱乾燥時にバインダ−であるペルオキソチタン酸に光触媒粉末の表面とが反応し、一体化した強固な無機コンポジット皮膜となると推測される。
【0047】
特に本発明においては、光触媒酸化チタン粉末の含有量が臨界濃度CPVC(Critical Pigment Volume Concentration)を超えても、上記バインダ−と粉末の一体化によって堅ろうな皮膜となり得る。得られる皮膜は、チタンと酸素の結合エネルギーが光触媒の反応エネルギーよりも大きく、光触媒作用によって劣化を受けない耐光性に優れた膜となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物を過酸化水素水と混合して得られるペルオキソチタン酸水溶液、及び(B)光触媒粉末を含有する塗布剤であって、光触媒粉末(B)が、ペルオキソチタン酸水溶液(A)の一部と光触媒粉末(B)とを固形分重量比で1/200〜10/100の割合で混合し加熱して、光触媒粉末表面に反応性ヒドロキシチタン基が予め形成されているものであることを特徴とする光触媒膜形成用塗布剤。
【請求項2】
ペルオキソチタン酸水溶液(A)が、水酸化チタン化合物もしくは加水分解性チタン化合物及び/又はそれらの低縮合物と過酸化水素水とを、前者100重量部に対して後者が過酸化水素換算で1〜10,00重量部の割合で混合してなる請求項1記載の光触媒膜形成用塗布剤。
【請求項3】
ペルオキソチタン酸水溶液(A)と光触媒粉末(B)とを、固形分重量比で100/10〜100/500の割合で含有する請求項1記載の光触媒膜形成用塗布剤。
【請求項4】
基材面に、請求項1ないし3のいずれか1項記載の光触媒膜形成用塗布剤を塗布、乾燥して、バインダーであるペルオキソチタン酸と光触媒粉末(B)の粒子表面の少なくとも一部を反応せしめて一体化した光触媒膜の形成方法。
【請求項5】
基材面に、請求項4記載の光触媒膜を形成してなる物品。

【公開番号】特開2006−182791(P2006−182791A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−32895(P2003−32895)
【出願日】平成15年2月10日(2003.2.10)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】