説明

光記録ディスク

記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満である場合にも、これらの記録マークおよびブランク領域を含む記録マーク列により構成されたデータを、所望のように、記録し、再生することができ、記録容量を大幅に増大させることが可能になる光記録ディスクを提供する。 本発明にかかる光記録ディスクは、基板2と、反射層3と、第三の誘電体層4と、光吸収層5と、第二の誘電体層6と、金属記録層7と、第一の誘電体層8と、光透過層9とが、この順に、積層されて、形成され、光透過層9側から、レーザビームLが照射されたときに、金属記録層7が変形および/または変質して、状態変化領域7aが形成されるとともに、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形および/または変質して、状態変化領域が形成され、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5に、記録マークが形成されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光記録ディスクに関するものであり、さらに詳細には、記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満である場合にも、これらの記録マークおよびブランク領域を含む記録マーク列により構成されたデータを記録し、再生することができ、記録容量を大幅に増大させることができる光記録ディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、デジタルデータを記録するための記録媒体として、CDやDVDに代表される光記録ディスクが広く利用されているが、近年においては、より大容量で、かつ、高いデータ転送レートを有する光記録ディスクの開発が盛んに行われている。
【0003】
こうした光記録ディスクにおいては、データの記録・再生に用いるレーザビームの波長λを小さくするとともに、対物レンズの開口数NAを大きくして、レーザビームのビームスポット径を小さく絞ることにより、光記録ディスクの記録容量の増大が図られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光記録ディスクにおいては、光記録ディスクに記録された記録マークの長さ、および、隣り合う記録マーク間の長さ、すなわち、記録マークが形成されていない領域(以下、「ブランク領域」という。)の長さが解像限界未満になると、光記録ディスクからデータを再生することが不可能になる。
【0005】
解像限界は、レーザビームの波長λと、レーザビームを集束するための対物レンズの開口数NAによって決定され、記録マークとブランク領域との繰り返しの周波数、すなわち、空間周波数が2NA/λ以上の場合に、記録マークおよびブランク領域に記録されたデータの読み取りが不可能になる。
【0006】
したがって、読み取り可能な空間周波数に対応する記録マークおよびブランクの長さは、それぞれ、λ/4NA以上となり、波長λのレーザビームを、開口数NAの対物レンズによって、光記録ディスクの表面に集光させるときは、λ/4NAの長さの記録マークおよびブランク領域が、読み取ることができる最短の記録マークおよびブランク領域となる。
【0007】
このように、データを再生する場合には、データの再生が可能な解像限界が存在し、再生することができる記録マークの長さおよびブランク領域の長さに制限がある。したがって、解像限界未満の長さの記録マークおよびブランク領域を形成して、データを記録しても、記録されたデータを再生することができないので、光記録ディスクに、データを記録するときに形成可能な記録マークの長さおよびブランク領域の長さが必然的に制限されるから、通常は、解像限界未満になるような長さの記録マークおよびブランク領域を形成して、光記録ディスクにデータを記録することはない。
【0008】
したがって、光記録ディスクの記録容量を増大させるためには、データの再生に用いるレーザビームの波長λを短くし、あるいは、対物レンズの開口数NAを大きくすることによって、解像限界を小さくし、より短い記録マークとブランク領域よりなるデータを再生することができるようにすることが要求される。
【0009】
しかしながら、データの再生に用いるレーザビームの波長λを短くし、あるいは、対物レンズの開口数NAを大きくすることには限界があり、したがって、データの再生に用いるレーザビームの波長λを短くし、あるいは、対物レンズの開口数NAを大きくすることによって、解像限界を小さし、光記録ディスクの記録容量を増大させることには限界があった。
【0010】
したがって、本発明の目的は、記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満である場合にも、これらの記録マークおよびブランク領域を含む記録マーク列により構成されたデータを記録し、再生することができ、記録容量を大幅に増大させることができる光記録ディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、本発明のかかる目的を達成するため、鋭意研究を重ねた結果、レーザビームが照射されて、データが記録され、再生されるように構成された光記録ディスクが、熱伝導率が2.0W/(cm・K)以下である金属を主成分として含む金属記録層と、光吸収層とが、少なくとも誘電体層を挟んで形成された積層体を含んでいる場合には、光記録ディスクにレーザビームが照射されたときに、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層のレーザビームが照射された領域が変形および/または変質し、状態変化領域が形成され、記録マークが形成されて、データが記録され、こうして、データが光記録ディスクに記録された場合には、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときにも、レーザビームを光記録ディスクに照射することによって、データが再生可能であることを見出した。
【0012】
本発明はかかる知見に基づくものであり、本発明の前記目的は、レーザビームが照射されて、データが記録され、再生されるように構成された光記録ディスクであって、熱伝導率が2.0W/(cm・K)以下である金属を主成分として含む金属記録層と、光吸収層とが、少なくとも誘電体層を挟んで形成された積層体を含むことを特徴とする光記録ディスクによって達成される。
【0013】
本発明において、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層が変質するとは、金属記録層、金属記録層および金属記録層に隣接する誘電体層あるいは金属記録層、金属記録層に隣接する誘電体層および誘電体層に隣接する光吸収層の屈折率または消衰係数が変化することをいい、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層の変形にともなって、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層が変質する場合ならびに金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層の変質にともなって、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層が変形する場合をも含んでいる。
【0014】
また、本発明において、通常よりも高いパワーのレーザビームを用いて、光記録ディスクに記録されたデータを繰り返して再生するときに、安定した再生信号を得ることができるようにするため、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層のレーザビームが照射された領域が変形することなく、変質して、状態変化領域が形成されて、記録マークが形成される場合には、光記録ディスクに記録されたデータを再生するために、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層の状態変化領域に、通常よりも高いパワーのレーザビームが繰り返して照射されたときでも、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層の状態変化領域が変質した状態を保持するように、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層に、レーザビームを照射して、記録マークを形成するときに、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層のレーザビームが照射された領域が、不可逆的に変質することが好ましい。
【0015】
金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層の変形および/または変質によって、状態変化領域が形成され、記録マークが形成されて、データが記録された場合には、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときでも、データを再生することができるという理由は必ずしも明らかではないが、金属記録層、金属記録層および誘電体層あるいは金属記録層、誘電体層および光吸収層の状態変化領域内に、再生用のレーザビームが照射されることにより、何らかの理由で、解像限界が小さくなったためではないかと推測される。
【0016】
本発明によれば、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときでも、データの再生が可能になるから、光記録ディスクに、より高密度に、データを記録することができ、したが、光記録ディスクの記憶容量を大幅に増大させることが可能となる。
【0017】
本発明者の研究によれば、光記録ディスクにレーザビームが照射されたとき、金属記録層が変形および/または変質するか、金属記録層および金属記録層に隣接する誘電体層が変形および/または変質するか、あるいは、金属記録層、金属記録層に隣接する誘電体層および誘電体層に隣接する光吸収層が変形および/または変質するかは、照射されるレーザビームのパワーに依存するが、少なくとも、金属記録層が変形および/または変質し、金属記録層内に状態変化領域が形成されればよいことが見出されている。
【0018】
したがって、本発明の好ましい実施態様によれば、光記録ディスクは、前記レーザビームが照射されたときに、少なくとも、前記金属記録層が変形および/または変質して、前記金属記録層内に状態変化領域が形成され、前記金属記録層に記録マークが形成されるように構成されている。
【0019】
本発明において、金属記録層が、1nmないし20nmの層厚を有するように形成されることが好ましく、1nmないし10nmの層厚を有するように形成されることがより好ましい。金属記録層の厚さが1nm未満の場合には、金属記録層の変形および/または変質がわずかであるため、明確な状態変化領域を形成することが困難であり、記録したデータを再生することによって、良好なC/N比を有する信号を得ることができない。その一方で、金属記録層の厚さが20nmを超えているときは、金属記録層の熱伝導性が高くなりすぎるため、高い出力のレーザビームを用いないと、金属記録層を変形および/または変質させて、状態変化領域を形成し、記録マークを形成することが困難になり、さらには、金属記録層の光反射率が高くなりすぎるため、光吸収層に、所望の光量のレーザビームを照射することが困難になる。
【0020】
本発明において、好ましくは、金属記録層が、Ti、Sn、Pt、ZnおよびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属またはそれらを含む合金によって構成されている。
【0021】
Ti、Sn、Pt、ZnおよびMgは、現在、利用可能な半導体レーザーの出力範囲で、金属記録層あるいは金属記録層および金属記録層に隣接する誘電体層を変形および/または変質させて、状態変化領域を形成し、記録マークとブランク領域との境界が明瞭になるように、記録マークを形成するのに適した熱伝導率を有している。これに対して、金属記録層の材料として、Agのように、Ti、Sn、Pt、ZnおよびMgよりも熱伝導率が大きい金属を用いた場合には、データを記録する際に、多大な記録パワーが必要になり、また、記録用レーザービームの波長において、吸収を有する誘電体などを用いた場合には、熱伝導率が小さすぎて、データを記録する際に、記録マークを形成する部分に熱が溜まりすぎるため、記録マークとブランク領域との境界が明確でなくなり、とくに、解像限界以下の微小な記録マークを形成するときに、非常に不利である。金属記録層の材料として、熱伝導率が2.0W/(cm・K)以下である金属を主成分として含む金属材料を用いる場合には、解像限界以下の微小な記録マークを、記録マークとブランク領域との境界が明瞭になるように形成し、データを記録することができ、現在、利用可能な半導体レーザーの最大出力範囲内で、所望のように、データを記録することができると考えられる。
【0022】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、光記録ディスクは、前記レーザビームが照射されたときに、前記金属記録層に加えて、前記金属記録層に隣接する前記誘電体層も変形および/または変質し、前記誘電体層内に状態変化領域が形成され、前記金属記録層および前記誘電体層に記録マークが形成されるように構成されている。
【0023】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、レーザビームの照射による金属記録層の変形および/または変質に加えて、誘電体層が変形および/または変質して、誘電体層内にも状態変化領域が形成されるから、金属記録層および誘電体層内に形成された状態変化領域の光学的特性が、金属記録層および誘電体層の変形および/または変質しない領域の光学特性とは大きく異なることになり、こうして形成された記録マークとブランク領域との間の光路差がより大きくなるため、再生信号のC/N比をより一層向上させることができる。
【0024】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、光記録ディスクは、前記レーザビームが照射されたときに、前記金属記録層に加えて、前記金属記録層に隣接する前記誘電体層および前記誘電体層に隣接する前記光吸収層も変形および/または変質し、前記光吸収層内に状態変化領域が形成され、前記金属記録層、前記誘電体層および前記光吸収層に記録マークが形成されるように構成されている。
【0025】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、レーザビームの照射による金属記録層の変形および/または変質に加えて、誘電体層および光吸収層が変形および/または変質して、誘電体層および光吸収層内にも状態変化領域が形成されるから、金属記録層、誘電体層および光吸収層内に形成された状態変化領域の光学的特性が、金属記録層、誘電体層および光吸収層の変形および/または変質しない領域の光学特性とは大きく異なることになり、こうして形成された記録マークとブランク領域との間の光路差がより大きくなるため、再生信号のC/N比をより一層向上させることができる。
【0026】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記光吸収層が、SbおよびTeよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含んでいる。
【0027】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、光の吸収係数が高く、熱伝導率の低い光吸収層を備えた光記録ディスクを実現することができる。
【0028】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記誘電体層が、SiOおよびZnSの混合物によって構成されている。
【0029】
本発明のさらに好ましい実施態様によれば、誘電体層によって、金属記録層および光吸収層を物理的、化学的に保護するが可能になる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満である場合にも、これらの記録マークおよびブランク領域を含む記録マーク列により構成されたデータを記録し、再生することができ、記録容量を大幅に増大させることができる光記録ディスクを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる光記録ディスク1の略断面図である。
【図2】図2は、図1のAで示された部分の略拡大断面図である。
【図3】図3(a)は、データが記録される前の光記録ディスクの一部拡大略断面図であり、図3(b)は、データが記録された後の光記録ディスクの一部拡大略断面図である。
【図4】図4は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる光記録ディスクの略断面図である。
【図5】図5は、図4のAで示された部分の略拡大断面図である。
【図6】図6(a)は、図4および図5に示された光記録ディスクのデータが記録される前の一部拡大略断面図であり、図6(b)は、図4および図5に示された光記録ディスクの一部拡大略断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 光記録ディスク
2 基板
3 第三の誘電体層
4 光吸収層
5 第二の誘電体層
6 金属記録層
7 第一の誘電体層
8 光透過層
9 反射層
10 光記録ディスク
12 光透過性基板
13 厚み調整用の基板
20 レーザビーム
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。
【0034】
図1は、本発明の好ましい実施態様にかかる光記録ディスクの略斜視図であり、図2は、図1に示された光記録ディスクのトラックに沿った断面のうち、Aで示される部分の略拡大断面図である。
【0035】
図2に示されるように、本実施態様にかかる光記録ディスク1は、基板2を備え、基板2上に、反射層3と、第三の誘電体層4と、光吸収層5と、第二の誘電体層6と、金属記録層7と、第一の誘電体層8と、光透過層9とが、この順に、積層されている。
【0036】
本実施態様においては、図2に示されるように、光記録ディスク1は、光透過層9側から、レーザビームLが照射されて、データが記録され、記録されたデータが再生されるように構成されている。レーザビームLは、390nmないし420nmの波長λを有し、開口数NAが0.7ないし0.9の対物レンズ(図示せず)によって、光記録ディスク1に集光される。
【0037】
基板2は、光記録ディスク1に求められる機械的強度を確保するための支持体としての役割を果たす。
【0038】
基板2を形成するための材料は、光記録ディスク1の支持体として機能することができれば、とくに限定されるものではない。基板2は、たとえば、ガラス、セラミックス、樹脂などによって、形成することができる。これらのうち、成形の容易性の観点から、樹脂が好ましく使用される。このような樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性、光学特性などの点から、ポリカーボネート樹脂やオレフィン樹脂がとくに好ましい。
【0039】
基板2の厚さは、とくに限定されるものではないが、現行の光記録ディスクとの互換性の観点から、基板2は、1.0mmないし1.2mmの厚さを有するように形成されることが好ましく、約1.1mmの厚さを有するように形成されることがより好ましい。
【0040】
図2に示されるように、基板2の表面上には、反射層3が形成されている。
【0041】
本実施態様においては、反射層3は、光透過層9を介して、入射したレーザビームLを反射し、再び、光透過層9から出射させる役割を果たす。
【0042】
反射層3を形成するための材料は、レーザビームLを反射することができれば、とくに限定されるものではなく、Au、Ag、Cu、Pt、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Mg、Zn、Ge、Si、Pd、Ndからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を用いて、反射層3を形成することができる。好ましくは、反射層3は、Ag、PdおよびCuを含む貴金属系合金を用いて形成される。
【0043】
反射層3は、たとえば、反射層3の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、基板2の表面上に形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0044】
反射層3の厚さは、とくに限定されるものではなく、厚ければ厚いほど、光記録ディスク1の再生耐久性が向上するが、あまり厚すぎると、光記録ディスク1の生産性が低下するため、反射層3は、5nmないし200nmの厚さを有するように形成されることが好ましく、10nmないし150nmの厚さを有するように形成されることがより好ましい。
【0045】
図2に示されるように、反射層3の表面上には、第三の誘電体層4が形成されている。
【0046】
本実施態様においては、第三の誘電体層4は、反射層3とともに、光吸収層5を、物理的、化学的に保護する機能を有している。
【0047】
第三の誘電体層4を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、たとえば、酸化物、硫化物、窒化物またはこれらの組み合わせを主成分とする誘電体材料によって、第三の誘電体層4を形成することができる。好ましくは、第三の誘電体層4は、Si、Zn、Al、Ta、Ti、Co、Zr、Pb、Ag、Sn、Ca、Ce、V、Cu、Fe、Mgよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、あるいは、これらの複合物によって形成される。これらの中では、ZnSとSiOの混合物が好ましく、その比が80:20であれば、より好ましい。
【0048】
第三の誘電体層4は、たとえば、第三の誘電体層4の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0049】
第三の誘電体層4の厚さは、とくに限定されるものではないが、薄すぎると、保護層としての役割を果たすことができず、厚すぎると、光記録ディスク1の生産性が低下するため、第三の誘電体層4は、1nmないし140nmの厚さを有するように形成されることが好ましく、20nmないし120nmの厚さを有するように形成されることがより好ましい。
【0050】
図2に示されるように、第三の誘電体層4の表面上には、光吸収層5が形成されている。
【0051】
本実施態様において、光吸収層5は、光記録ディスク1に、記録パワーまたは再生パワーに設定されたレーザビームLが照射されたときに、レーザビームLを吸収して、発熱する機能を有している。
【0052】
本実施態様においては、光吸収層5は、光の吸収係数が高く、熱伝導率の低いSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金によって形成されている。
【0053】
光吸収層5に含まれるSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金としては、(SbTe1−a1−b、または{(GeTe)(SbTe1−c1−dで表わされる組成を有するものがとくに好ましい。ここに、元素Mは、SbおよびTeを除く元素を表わし、元素Xは、Sb、TeおよびGeを除く元素を表す。
【0054】
光吸収層5に含まれるSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金が、(SbTe1−a1−bで表される組成を有しているときは、aおよびbは、0≦a≦1、かつ、0≦b≦0.25であることが好ましい。bが0.25を越えているときは、光の吸収係数が光吸収層5に要求される値よりも低くなり、また、熱伝導性が光吸収層5に要求される値よりも低くなり、好ましくない。
【0055】
元素Mは、とくに限定されるものではないが、In、Ag、Au、Bi、Se、Al、Ge、P、H、Si、C、V、W、Ta、Zn、Mn、Ti、Sn、Pb、Pd、N、Oおよび希土類元素(Sc、Yおよびランタノイド)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を主成分として含むことが好ましい。
【0056】
一方、光吸収層5に含まれるSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金が、{(GeTe)(SbTe1−c1−dで表される組成を有しているときは、1/3≦c≦2/3、かつ、0.9≦dに設定することが好ましい。
【0057】
元素Xは、とくに限定されるものではないが、In、Ag、Au、Bi、Se、Al、P、H、Si、C、V、W、Ta、Zn、Mn、Ti、Sn、Pb、Pd、N、Oおよび希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を主成分として含むことが好ましい。
【0058】
390nmないし420nmの波長λを有するレーザビームを用いる場合には、元素Mとしては、Ag、In、Geおよび希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を主成分として含むことが、とくに好ましく、元素Xとしては、Ag、Inおよび希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を主成分として含むことが、とくに好ましい。
【0059】
光吸収層5は、光吸収層5の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、第三の誘電体層4の表面上に形成することができ、気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0060】
光吸収層5は、5nmないし100nmの厚さを有していることが好ましい。光吸収層5の厚さが、5nm未満である場合には、光吸収率が低すぎ、一方、光吸収層5の厚さが、100nmを越えると、後述のように、金属記録層7の変形にともなって、光吸収層5が変形し難くなり、好ましくない。
【0061】
図2に示されるように、光吸収層5の表面上には、第二の誘電体層6が形成されている。
【0062】
本実施態様において、第二の誘電体層6は、第一の誘電体層8とともに、後に詳述する金属記録層7を、物理的、化学的に保護する機能を有している。
【0063】
第二の誘電体層6を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、たとえば、第三の誘電体層4と同様の材料を用いて第二の誘電体層6を形成することができる。
【0064】
第二の誘電体層6は、第二の誘電体層6の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0065】
第二の誘電体層6の厚さは、とくに限定されるものではないが、第三の誘電体層4と同様に、第二の誘電体層6は、5nmないし120nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。
【0066】
図2に示されるように、第二の誘電体層6の表面上には、金属記録層7が形成されている。
【0067】
本実施態様においては、金属記録層7は、光記録ディスク1にデータが記録される際に、記録マークが形成される層である。
【0068】
本実施態様において、金属記録層7は、金属単体またはそれらの合金を主成分として含んでいる。金属記録層7は、非金属元素との不定比化合物を主成分として含んでいてもよいが、金属記録層7が、非金属元素との不定比化合物を主成分として含んでいる場合には、不定比化合物中の金属元素が、元素比で90%以上であることが好ましい。金属記録層7に主成分として含まれる金属としては、熱伝導率が2.0W/(cm・K)以下であることが好ましく、たとえば、Ti、Sn、Pt、ZnおよびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属またはそれらを含む合金が好ましく使用される。
【0069】
金属記録層7は、その構成元素を含むターゲットを用いて、スパッタリング法によって、第二の誘電体層6の表面上に形成することができる。
【0070】
金属記録層7は、1nmないし20nmの厚さを有するように形成されることが好ましく、より好ましくは、1nmないし10nmの厚さを有するように形成される。
【0071】
図2に示されるように、金属記録層7の表面上には、第一の誘電体層8が形成されている。
【0072】
本実施態様において、第一の誘電体層8は、金属記録層7を物理的、化学的に保護する機能を有している。
【0073】
第一の誘電体層8を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、たとえば、第三の誘電体層4と同様の材料を用いて第一の誘電体層8を形成することができる。
【0074】
第一の誘電体層8は、第一の誘電体層8の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0075】
第一の誘電体層8の厚さは、とくに限定されるものではないが、第三の誘電体層4と同様に、第一の誘電体層8は、1nm以上の厚さを有するように形成され、好ましくは、10nm以上の厚さを有するように形成される。
【0076】
図2に示されるように、第一の誘電体層8の表面上には、光透過層9が形成されている。
【0077】
光透過層9は、レーザビームLが透過する層であり、その表面によって、レーザビームLが入射する光入射面を形成されている。
【0078】
光透過層9を形成するための材料は、光学的に透明で、使用されるレーザビームLの波長領域である390nmないし420nmでの光学吸収および反射が少なく、複屈折が小さい材料であれば、とくに限定されるものではない。スピンコーティング法などによって、光透過層9が形成される場合には、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂、熱硬化型樹脂などが、光透過層9を形成するために、好ましく用いられ、紫外線硬化型樹脂、電子線硬化型樹脂が、光透過層9を形成するために、とくに好ましく使用される。
【0079】
光透過層9は、第一の誘電体層8の表面に、光透過性樹脂によって形成されたシートを、接着剤を用いて、接着することによって、形成することもできる。
【0080】
光透過層9の厚さは、とくに限定されるものではないが、スピンコーティング法により、光透過層9を形成する場合には、10μmないし200μmの厚さを有するように形成されることが好ましく、光透過性樹脂によって形成されたシートを、接着剤を用いて、第一の誘電体層8の表面に接着して、光透過層9を形成する場合には、50μmないし150μmの厚さを有するように形成されることが好ましい。
【0081】
以上のように構成された光記録ディスク1には、次のようにして、データが記録され、データが再生される。
【0082】
図3(a)は、データが記録される前の光記録ディスク1の一部拡大略断面図であり、図3(b)は、データが記録された後の光記録ディスク1の一部拡大略断面図である。
【0083】
光記録ディスク1にデータを記録するに際しては、光透過層9側から、光記録ディスク1にレーザビームLが照射される。
【0084】
本実施態様においては、光記録ディスク1にデータをより高い記録密度で記録するため、390nmないし420nmの波長λを有するレーザビームLを、0.7ないし0.9の開口数NAを有する対物レンズによって、光記録ディスク1に集光するように構成されている。
【0085】
レーザビームLのパワーは、記録線速度が高くなるほど、高くなるように決定される。たとえば、記録線速度が4.9m/sの場合、レーザビームLのパワーは、4mWよりも高く、12mW以下に設定される。ここに、レーザビームLのパワーは、光記録ディスク1の表面におけるレーザビームLのパワーとして、定義される。
【0086】
所定のパワーに設定されたレーザビームLが、光記録ディスク1に照射されると、レーザビームLが照射された金属記録層7と光吸収層5の領域が加熱され、金属記録層7自らが吸収したレーザビームLによって生成される熱と、レーザビームLによって、光吸収層5において生成され、金属記録層7に伝達される熱によって、金属記録層7の温度が上昇し、金属記録層7が変形して、図3(b)に示されるように、金属記録層7中に、状態変化領域7aが形成される。
【0087】
同時に、図3(b)に示されるように、金属記録層7が変形するとともに、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形し、金属記録層7中に形成された状態変化領域7aに対応して、第二の誘電体層6および光吸収層5内に、状態変化領域が形成される。
【0088】
こうして、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、形成された状態変化領域は、変形をしていない他の領域とは異なる光学特性を有するため、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、形成された状態変化領域によって、記録マークが形成される。
【0089】
レーザビームは、光記録ディスク1のトラックに沿って、光記録ディスク1に対して、相対的に移動され、同様にして、光記録ディスク1のトラックに沿って、記録マークが形成される。
【0090】
本実施態様においては、こうして形成される記録マークおよび隣り合った記録マーク間のブランク領域の中には、λ/4NAよりも長さが短いものが含まれ、したがって、解像限界未満の記録マーク列が形成される。
【0091】
このようにして、光記録ディスク1に記録マークが形成されて、データが記録される。
【0092】
光記録ディスク1に記録されたデータは、以下のようにして、再生される。
【0093】
光記録ディスク1に記録されたデータを再生するに際しては、まず、390nmないし420nmの波長λを有するレーザビームLが、0.7ないし0.9の開口数NAを有する対物レンズによって、光記録ディスク1に集光される。
【0094】
本実施態様においては、データを再生するために光記録ディスク1に照射されるレーザビームLのパワーは、通常よりも高く、0.5mWないし4mWに設定される。
【0095】
本発明者の研究によれば、こうして、390nmないし420nmの波長λを有するレーザビームLを、0.7ないし0.9の開口数NAを有する対物レンズを用いて、光透過層9側から、光記録ディスク1に集光することによって、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときにも、光記録ディスク1に記録されたデータが再生可能であることが見出されている。
【0096】
金属記録層7の変形によって、金属記録層7内に状態変化領域7aが形成され、金属記録層7の変形に加えて、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、状態変化領域が形成されて、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5内に記録マークが形成され、データが記録された場合に、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときでも、光記録ディスク1に記録されたデータが再生可能である理由は必ずしも明らかではないが、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5内に形成された状態変化領域に、再生用のレーザビームLが照射されることにより、何らかの理由で、解像限界が小さくなったためではないかと推測される。
【0097】
本実施態様においては、金属記録層7は、熱伝導率が比較的低い金属単体またはそれらの合金によって形成されているから、記録感度が良好であり、さらに、光記録ディスク1に記録されたデータを、繰り返し、再生しても、状態変化領域の形状が変化して、記録マークの形状が変化することはなく、また、記録マークが形成された領域以外の領域に、新たに状態変化領域が形成されることもないから、光記録ディスク1の再生耐久性を向上させることが可能になる。
【0098】
本実施態様によれば、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときでも、データの再生が可能になるから、光記録ディスク1に、より高密度に、データを記録することができ、したがって、光記録ディスク1の記憶容量を大幅に増大させることが可能となる。
【0099】
図4は、本発明の別の好ましい実施態様にかかる光記録ディスクの略斜視図であり、図5は、図4に示された光記録ディスクのトラックに沿った断面のうち、Aで示される部分の略拡大断面図である。
【0100】
図4および図5に示されるように、本実施態様にかかる光記録ディスク10は、光透過性基板12を備え、光透過性基板12上に、第一の誘電体層8と、金属記録層7と、第二の誘電体層6と、光吸収層5と、第三の誘電体層4と、厚み調整用の基板13とが、この順に、積層されている。
【0101】
図5に示されるように、本実施態様にかかる光記録ディスク10は、光透過性基板12側から、レーザビームLが照射されて、データが記録され、記録されたデータが再生されるように構成されている。レーザビームLは、630nmないし675nmの波長λを有し、開口数NAが0.59ないし0.66の対物レンズによって、光記録ディスク10に集光される。
【0102】
光透過性基板12は、光記録ディスク10にデータを記録し、あるいは、光記録ディスク10に記録されたデータを再生するときに、レーザビームLが透過する層であり、光記録ディスク10に求められる機械的強度を確保するための支持体としての役割を果たす。光透過性基板12は、ディスク状に形成され、約0.6mmの厚さを有している。
【0103】
また、光透過性基板12は、一方の主面が、レーザビームLが入射する光入射面を構成し、他方の主面に、中心部近傍から外縁部に向けて、グルーブ(図示せず)およびランド(図示せず)が螺旋状に形成されている。グルーブおよびランドは、光記録ディスク10にデータを記録し、あるいは、光記録ディスク10に記録されたデータを再生するために、レーザビームLを金属記録層7に照射するときに、レーザビームLのガイドトラックとして、機能する。
【0104】
光透過性基板12を形成するための材料は、630nmないし675nmの波長λを有するレーザビームLに対して、光透過性を有し、光記録ディスク10の支持体として機能することができれば、とくに限定されるものではなく、たとえば、ガラス、セラミックス、樹脂などによって、形成することができる。これらのうち、成形の容易性の観点から、樹脂が好ましく使用される。このような樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、加工性、光学特性などの点から、ポリカーボネート樹脂やオレフィン樹脂がとくに好ましい。
【0105】
図5に示されるように、光透過性基板12の表面には、第一の誘電体層8が形成されている。
【0106】
本実施態様においては、第一の誘電体層8は、光透過性基板12とともに、金属記録層7を、物理的、化学的に保護する機能を有している。
【0107】
第一の誘電体層8を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、たとえば、酸化物、硫化物、窒化物またはこれらの組み合わせを主成分とする誘電体材料によって、第一の誘電体層8を形成することができる。好ましくは、第一の誘電体層8は、Si、Zn、Al、Ta、Ti、Co、Zr、Pb、Ag、Sn、Ca、Ce、V、Cu、Fe、Mgよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含む酸化物、窒化物、硫化物、フッ化物、あるいは、これらの複合物によって形成される。これらの中では、ZnSとSiOの混合物が好ましく、その比が85:15であれば、より好ましい。
【0108】
第一の誘電体層8は、たとえば、第一の誘電体層8の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0109】
第一の誘電体層8の厚さは、とくに限定されるものではないが、薄すぎると、保護層としての役割を果たすことができず、厚すぎると、光記録ディスク1の生産性が低下するため、第一の誘電体層8は、5nmないし300nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。
【0110】
図5に示されるように、第一の誘電体層8の表面上には、金属記録層7が形成されている。
【0111】
本実施態様においては、金属記録層7は、光記録ディスク1にデータが記録される際に、記録マークが形成される層である。
【0112】
本実施態様において、金属記録層7は、金属単体またはそれらの合金を主成分として含んでいる。金属記録層7は、非金属元素との不定比化合物を主成分として含んでいてもよいが、金属記録層7が、非金属元素との不定比化合物を主成分として含んでいる場合には、不定比化合物中の金属元素が、元素比で90%以上であることが好ましい。金属記録層7に主成分として含まれる金属としては、熱伝導率が2.0W/(cm・K)以下であることが好ましく、たとえば、Ti、Sn、Pt、ZnおよびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属またはそれらを含む合金が好ましく使用される。
【0113】
金属記録層7は、その構成元素を含むターゲットを用いて、スパッタリング法によって、第一の誘電体層8の表面上に形成することができる。
【0114】
金属記録層7は、1nmないし20nmの厚さを有するように形成されることが好ましく、より好ましくは、1nmないし10nmの厚さを有するように形成される。
【0115】
図5に示されるように、金属記録層7の表面上には、第二の誘電体層6が形成されている。
【0116】
本実施態様において、第二の誘電体層6は、金属記録層7とともに、後に詳述する光吸収層5を物理的、化学的に保護する機能を有している。
【0117】
第二の誘電体層6を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、たとえば、第一の誘電体層8と同様の材料を用いて第二の誘電体層6を形成することができる。
【0118】
第二の誘電体層6は、第二の誘電体層6の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0119】
第二の誘電体層6の厚さは、とくに限定されるものではないが、第二の誘電体層6は、5nmないし300nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。
【0120】
図5に示されるように、第二の誘電体層6の表面上には、光吸収層5が形成されている。
【0121】
本実施態様において、光吸収層5は、光記録ディスク1に、記録パワーまたは再生パワーに設定されたレーザビームLが照射されたときに、レーザビームLを吸収して、発熱する機能を有している。
【0122】
本実施態様においては、光吸収層5は、光の吸収係数が高く、熱伝導率の低いSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金によって形成されている。
【0123】
光吸収層5に含まれるSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金としては、(SbTe1−a1−b、または{(GeTe)(SbTe1−c1−dで表わされる組成を有するものがとくに好ましい。ここに、元素Mは、SbおよびTeを除く元素を表わし、元素Xは、Sb、TeおよびGeを除く元素を表す。
【0124】
光吸収層5に含まれるSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金が、(SbTe1−a1−bで表される組成を有しているときは、aおよびbは、0≦a≦1、かつ、0≦b≦0.25であることが好ましい。bが0.25を越えているときは、光の吸収係数が光吸収層5に要求される値よりも低くなり、また、熱伝導性が光吸収層5に要求される値よりも低くなり、好ましくない。
【0125】
元素Mは、とくに限定されるものではないが、In、Ag、Au、Bi、Se、Al、Ge、P、H、Si、C、V、W、Ta、Zn、Mn、Ti、Sn、Pb、Pd、N、Oおよび希土類元素(Sc、Yおよびランタノイド)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を主成分として含むことが好ましい。
【0126】
一方、光吸収層5に含まれるSbおよびTeの少なくとも一方を含む合金が、{(GeTe)(SbTe1−c1−dで表される組成を有しているときは、1/3≦c≦2/3、かつ、0.9≦dに設定することが好ましい。
【0127】
元素Xは、とくに限定されるものではないが、In、Ag、Au、Bi、Se、Al、P、H、Si、C、V、W、Ta、Zn、Mn、Ti、Sn、Pb、Pd、N、Oおよび希土類元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を主成分として含むことが好ましい。
【0128】
光吸収層5は、光吸収層5の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、第二の誘電体層6の表面上に形成することができ、気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0129】
光吸収層5は、5nmないし100nmの厚さを有していることが好ましい。光吸収層5の厚さが、5nm未満である場合には、光吸収率が低すぎ、一方、光吸収層5の厚さが、100nmを越えると、後述のように、金属記録層7の変形にともなって、光吸収層5が変形し難くなり、好ましくない。
【0130】
図5に示されるように、光吸収層5の表面上には、第三の誘電体層4が形成されている。
【0131】
本実施態様において、第三の誘電体層4は、第二の誘電体層6とともに、光吸収層5を、物理的、化学的に保護する機能を有している。
【0132】
第三の誘電体層4を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、たとえば、第一の誘電体層8と同様の材料を用いて第三の誘電体層4を形成することができる。
【0133】
第三の誘電体層4は、第三の誘電体層4の構成元素を含む化学種を用いた気相成長法によって、形成することができる。気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0134】
第三の誘電体層4の厚さは、とくに限定されるものではないが、第三の誘電体層4は、5nmないし300nmの厚さを有するように形成されることが好ましい。
【0135】
図5に示されるように、第三の誘電体層4の表面上には、厚み調整用の基板13が積層されている。
【0136】
厚み調整用の基板13は、光記録ディスク10が、全体として、約1.2mmの厚さを有するようにするために設けられたディスク状の基板であり、光透過性基板12と同様に、約0.6mmの厚さを有するように形成されている。また、厚み調整用の基板13は、光記録ディスク10の剛性を向上させる役割も果たしている。
【0137】
厚み調整用の基板13を形成するための材料は、とくに限定されるものではなく、厚み調整用の基板13は、光透過性基板12と同様に、たとえば、ガラス、セラミックス、樹脂などによって、形成することができる。
【0138】
本実施態様においては、レーザビームLは、厚み調整用の基板13とは反対側に位置する光透過性基板12を介して、金属記録層7に照射されるから、厚み調整用の基板13が、光透過性を有していることは必要ではない。
【0139】
厚み調整用の基板13は、第三の誘電体層4の表面に貼り合わせられて、第三の誘電体層4の表面上に積層される。
【0140】
以上のように構成された光記録ディスク10には、次のようにして、データが記録され、データが再生される。
【0141】
図6(a)は、データが記録される前の光記録ディスク10の一部拡大略断面図であり、図6(b)は、データが記録された後の光記録ディスク10の一部拡大略断面図である。
【0142】
光記録ディスク10にデータを記録するに際しては、光透過性基板12側から、光記録ディスク10にレーザビームLが照射される。
【0143】
本実施態様においては、光記録ディスク10にデータをより高い記録密度で記録するため、630nmないし675nmの波長λを有するレーザビームLを、0.59ないし0.66の開口数NAを有する対物レンズによって、光記録ディスク10に集光するように構成されている。
【0144】
レーザビームLのパワーは、記録時の線速度にも依存するが、線速度が6m/sの場合、4mWより高く、12mW以下に設定される。記録時の線速度が大きくなればなるほどレーザビームLのパワーも大きくする必要がある。ここに、レーザビームLのパワーは、光記録ディスク10の表面におけるレーザビームLのパワーとして、定義される。
【0145】
所定のパワーに設定されたレーザビームLが、光記録ディスク10に照射されると、レーザビームLが照射された金属記録層7と光吸収層5の領域が加熱され、金属記録層7自らが吸収したレーザビームLによって生成される熱と、レーザビームLによって、光吸収層5において生成され、金属記録層7に伝達される熱によって、金属記録層7の温度が上昇し、金属記録層7が変形して、図6(b)に示されるように、金属記録層7中に、状態変化領域7aが形成される。
【0146】
同時に、図6(b)に示されるように、金属記録層7が変形するとともに、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形し、金属記録層7中に形成された状態変化領域7aに対応して、第二の誘電体層6および光吸収層5内に、状態変化領域が形成される。
【0147】
こうして、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、形成された状態変化領域は、変形をしていない他の領域とは異なる光学特性を有するため、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、形成された状態変化領域によって、記録マークが形成される。
【0148】
レーザビームは、光記録ディスク10のトラックに沿って、光記録ディスク10に対して、相対的に移動され、同様にして、光記録ディスク10のトラックに沿って、記録マークが形成される。
【0149】
本実施態様においては、こうして形成される記録マークおよび隣り合った記録マーク間のブランク領域の中には、λ/4NAよりも長さが短いものが含まれ、したがって、解像限界未満の記録マーク列が形成される。
【0150】
このようにして、光記録ディスク10に記録マークが形成されて、データが記録される。
【0151】
光記録ディスク10に記録されたデータは、以下のようにして、再生される。
【0152】
光記録ディスク10に記録されたデータを再生するに際しては、まず、630nmないし675nmの波長λを有するレーザビームLが、0.59ないし0.66の開口数NAを有する対物レンズによって、光記録ディスク10に集光される。
【0153】
本実施態様においては、データを再生するために光記録ディスク10に照射されるレーザビームLのパワーは、通常よりも高く、0.5mWないし4mWに設定される。
【0154】
本発明者の研究によれば、こうして、630nmないし675nmの波長λを有するレーザビームLを、0.59ないし0.66の開口数NAを有する対物レンズを用いて、光透過性基板12側から、光記録ディスク10に集光することによって、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときにも、光記録ディスク10に記録されたデータが再生可能であることが見出されている。
【0155】
金属記録層7の変形によって、金属記録層7内に状態変化領域7aが形成され、金属記録層7の変形に加えて、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、状態変化領域が形成されて、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5内に記録マークが形成され、データが記録された場合に、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときでも、光記録ディスク1に記録されたデータが再生可能である理由は必ずしも明らかではないが、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5内に形成された状態変化領域に、再生用のレーザビームLが照射されることにより、何らかの理由で、解像限界が小さくなったためではないかと推測される。
【0156】
本実施態様においては、金属記録層7は、熱伝導率が比較的低い金属単体またはそれらの合金によって形成されているから、記録感度が良好であり、さらに、光記録ディスク1に記録されたデータを、繰り返し、再生しても、状態変化領域の形状が変化して、記録マークの形状が変化することはなく、また、記録マークが形成された領域以外の領域に、新たに状態変化領域が形成されることもないから、光記録ディスク1の再生耐久性を向上させることが可能になる。
【0157】
本実施態様によれば、記録マーク列を構成する記録マークの長さや、隣り合う記録マーク間のブランク領域の長さが、解像限界未満であるときでも、データの再生が可能になるから、光記録ディスク10に、より高密度に、データを記録することができ、したがって、光記録ディスク10の記憶容量を大幅に増大させることが可能となる。
【実施例】
【0158】
以下、本発明の効果をより明瞭なものとするため、実施例を掲げる。
【0159】
[実施例]
以下のようにして、光記録ディスクサンプル#1を作製した。
【0160】
まず、1.1mmの厚さと120mmの直径を有するポリカーボネート基板をスパッタリング装置にセットし、ポリカーボネート基板上に、Agを主成分(98atm%)とし、他の成分としてPd(1atm%)およびCu(1atm%)を含む厚さ20nmの反射層をスパッタリング法にて形成した。
【0161】
次いで、反射層の表面上に、ZnSとSiOの混合物をターゲットとして、スパッタリング法により、100nmの厚さを有する第三の誘電体層を形成した。
【0162】
ここに、ZnSとSiOの混合物中のZnSとSiOのモル比率は、80:20であった。
【0163】
さらに、第三の誘電体層の表面に、Ag5.9In4.4Sb61.1Te28.6をターゲットとして、スパッタリング法により、20nmの厚さを有する光吸収層を形成した。
【0164】
次いで、光吸収層の表面に、ZnSとSiOの混合物よりなるターゲットを用いて、スパッタリング法により、60nmの厚さを有する第二の誘電体層を形成した。
【0165】
ここに、ZnSとSiOの混合物中のZnSとSiOのモル比率は、80:20であった。
【0166】
さらに、第二の誘電体層上に、0.21W/(cm・K)の熱伝導率を有するTiをターゲットとして、スパッタリング法により、4nmの厚さを有する金属記録層を形成した。
【0167】
次いで、金属記録層の表面に、ZnSとSiOの混合物よりなるターゲットを用いて、スパッタリング法により、70nmの厚さを有する第一の誘電体層を形成した。
【0168】
ここに、ZnSとSiOの混合物中のZnSとSiOのモル比率は、80:20であった。
【0169】
最後に、アクリル系紫外線硬化性樹脂溶液を、第一の誘電体層の表面に、スピンコーティング法によって、塗布して、塗布層を形成し、塗布層に紫外線を照射して、アクリル系紫外線硬化性樹脂を硬化させ、100μmの層厚を有する光透過層を形成した。
【0170】
こうして、光記録ディスクサンプル#1を作製した。
【0171】
次いで、0.611W/(cm・K)の熱伝導率を有するSnをターゲットとして用いて、金属記録層を形成した点を除き、光記録ディスクサンプル#1と同様にして、光記録ディスクサンプル#2を作製した。
【0172】
さらに、0.690W/(cm・K)の熱伝導率を有するPtをターゲットとして用いて、金属記録層を形成した点を除き、光記録ディスクサンプル#1と同様にして、光記録ディスクサンプル#3を作製した。
【0173】
次いで、1.11W/(cm・K)の熱伝導率を有するZnをターゲットとして用いて、金属記録層を形成した点を除き、光記録ディスクサンプル#1と同様にして、光記録ディスクサンプル#4を作製した。
【0174】
さらに、1.51W/(cm・K)の熱伝導率を有するMgをターゲットとして用いて、金属記録層を形成した点を除き、光記録ディスクサンプル#1と同様にして、光記録ディスクサンプル#5を作製した。
【0175】
次いで、比較サンプルとして、2.26W/(cm・K)の熱伝導率を有するAlをターゲットとして用いて、金属記録層を形成した点を除き、光記録ディスクサンプル#1と同様にして、光記録ディスクサンプル#6を作製した。
【0176】
さらに、比較サンプルとして、4.27W/(cm・K)の熱伝導率を有するAgをターゲットとして用いて、金属記録層を形成した点を除き、光記録ディスクサンプル#1と同様にして、光記録ディスクサンプル#7を作製した。
【0177】
次いで、比較サンプルとして、3.98W/(cm・K)の熱伝導率を有するCuをターゲットとして用いて、金属記録層を形成した点を除き、光記録ディスクサンプル#1と同様にして、光記録ディスクサンプル#8を作製した。
【0178】
さらに、光記録ディスクのサンプル#1ないし#8を、それぞれ、光記録媒体評価装置にセットし、波長が405nmの青色レーザビームを、記録用レーザビームとして用い、NA(開口数)が0.85の対物レンズを用いて、レーザビームを、光透過層側から、各光記録ディスクサンプルに集光し、4.9m/秒の記録線速度で、記録マークおよびブランクの長さが、それぞれ、50nm、75nm、80nm、113nm、150nm、188nm、225nm、263nmおよび300nmとなるように、記録マークとブランク領域の繰り返し列を、各光記録ディスクサンプルに形成し、データを記録した。
【0179】
ここに、光記録ディスクのサンプル#1ないし#8に照射したレーザビームの記録パワーPwは、それぞれ、表1に示される値に設定した。
【0180】
データの記録後、同じ光記録媒体評価装置を用いて、光記録ディスクのサンプル#1ないし#8のそれぞれに記録されたデータを再生し、再生信号のC/N比を測定した。
【0181】
ここに、光記録ディスクのサンプル#1ないし#8に照射したレーザビームの再生パワーPrは、それぞれ、表1に示される値に設定した。
【0182】
測定結果は、表1に示されている。
【0183】
【表1】

表1に示されるように、Tiのターゲットを用いて、金属記録層を形成した光記録ディスクサンプル#1においては、解像限界以下の50nm、75nmおよび80nmの長さを有する記録マークおよびブランク領域を、それぞれ形成して、記録したデータを再生した場合でも、再生信号のC/N比は、それぞれ、32.6dB、40.9dBおよび35.0dBであり、十分に高いC/N比の再生信号を得ることができることが判明した。
【0184】
ここに、再生信号のC/N比が35dB以上であれば、市販のリミットイコライザ回路を通して、再生信号のジッターをタイムインターバルアナライザで計測することができ、従来の光記録ディスクシステムを用いて、データの再生が可能である。サンプル#1においては、解像限界以下である75nmの記録マークおよびブランク領域を形成して、記録したデータを再生したときの再生信号のC/N比が40dBに達しているので、75nmを最短マークサイズとした光記録ディスクシステムの構築が可能であると考えられる。
【0185】
一方、表1に示されるように、光記録ディスクサンプル#1においては、解像限界より長い113nm、150nm、188nm、225nm、263nmおよび300nmの長さを有する記録マークおよびブランク領域を形成して、記録したデータを再生した場合おいても、再生信号のC/N比は、それぞれ、52.7dB、57.2dB、58.0dB、53.8dBおよび52.0dBであり、解像限界より長い長さを有する記録マークを形成して、データを記録したときにも、高いC/N比の再生信号を得ることができることが判明した。すなわち、75nmのマークを最短マーク、300nmのマークを最長マークとすれば、現在、実用化されている光記録ディスクシステムと同様に、記録マークの長さに応じて、データを符号化させ、記録し、再生するシステムの構築が可能であり、しかも、従来の倍以上の記録線密度を達成することが可能であることがわかった。
【0186】
さらに、表1に示されるように、Snのターゲットを用いて、金属記録層を形成した光記録ディスクサンプル#2、Ptのターゲットを用いて、金属記録層を形成した光記録ディスクサンプル#3、Znのターゲットを用いて、金属記録層を形成した光記録ディスクサンプル#4およびMgのターゲットを用いて、金属記録層を形成した光記録ディスクサンプル#5においても、解像限界以下の75nm、80nmの長さを有する記録マークおよびブランク領域を形成して、記録したデータを再生した場合に、再生信号のC/N比が、35dB以上であり、十分に高いC/N比の再生信号を得ることができることが判明した。
【0187】
上述したように、リミットイコライザを通して、再生信号のジッターの計測が可能となる再生信号のC/N比は35dB以上であり、これを記録マークの再生が可能か否かの判定ラインとすると、サンプル#2ないし#5のうち、75nmの長さを有する記録マークおよびブランク領域を形成した場合の再生信号のC/N比の最低値は37.3dB、80nmの長さを有する記録マークおよびブランク領域を形成した場合の再生信号のC/N比の最低値は39.7dBであるから、光記録ディスクサンプル#2ないし#5においては、解像限界以下の長さを有する記録マークおよびブランク領域であっても、記録マークおよびブランク領域の長さが75nm以上である場合には、信号を再生可能であることが判明した。
【0188】
さらに、光記録ディスクサンプル#2ないし#5においては、解像限界より長い113nm、150nm、188nm、225nm、263nmおよび300nmの長さを有する記録マークおよびブランク領域を形成して、記録したデータを再生した場合においても、再生信号のC/N比は、いずれも40dB以上であり、解像限界より長い長さを有する記録マークおよびブランク領域を形成して、データを記録したときにも、高いC/N比の再生信号を得ることができることが判明した。
【0189】
ここに、光記録ディスクサンプル#4、#5において、金属記録層の熱伝導率が若干大きいのにもかかわらず、レーザビームの記録パワーが低くて済んでいる理由は明らかでないが、おそらく、金属層が変形し、かつ、誘電体層と反応して、変質していることによるものと推測される。
【0190】
これに対して、表1に示されるように、比較サンプルである光記録ディスクのサンプル#6ないし#8においては、75nmの長さを有する記録マークおよびブランク領域を形成して、データを記録し、データを再生した場合の再生信号のC/N比が最大でも34dBであり、リミットイコライザを用いてもジッターの計測が不可能であり、現状の光記録ディスクシステムにおいて、解像限界以下の記録マークを最短マークとするようなシステムの構築は非常に難しいことがわかった。これは、サンプル#6ないし#8においては、サンプル#1ないし#7に比して、金属記録層の熱伝導性が高いため、レーザビームの記録パワーを表1に示される値に設定し、4.9m/秒の記録線速度で、記録マークを形成する場合には、金属記録層の温度を十分に上昇させることができず、所望のように、記録マークを形成することができなかったためと考えられる。金属記録層の熱伝導性が高いサンプル#6ないし#8においても、記録線速度を遅くすることによって、金属記録層の温度を十分に上昇させることは可能であるが、現在実用化されているレーザビームの最大パワーが12mWであることを考えると、実用的なデータ転送レートで、サンプル#6ないし#8に、所望のように、記録マークを形成して、データを記録することは不可能である。
【0191】
本発明は、以上の実施態様および実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明に包含されるものであることは言うまでもない。
【0192】
たとえば、図4ないし図6に示された実施態様においては、光記録ディスク10は、光透過性基板12上に、第一の誘電体層8と、金属記録層7と、第二の誘電体層6と、光吸収層5と、第三の誘電体層4と、厚み調整用の基板13が、この順に積層されて、構成されているが、光記録ディスク10が、光透過性基板12上に、第一の誘電体層8と、金属記録層7と、第二の誘電体層6と、光吸収層5と、第三の誘電体層4と、厚み調整用の基板13が、この順に積層されて、構成されていることは必ずしも必要でなく、レーザビームLに対する反射率をより向上させるために、第三の誘電体層4と厚み調整用の基板13との間に、反射層が設けられていてもよいし、光記録ディスク10全体の厚さを調整する必要がなければ、厚み調整用の基板13を省略して、光記録ディスク10に要求される剛性が得られる厚さの光透過性基板13を用いてもよい。
【0193】
また、図4ないし図6に示された実施態様においては、630nmないし675nmの波長λを有するレーザビームLと、開口数NAが0.59ないし0.66の対物レンズを用いて、光記録ディスク10にデータを記録し、光記録ディスク10に記録されたデータを再生しているが、405nmの波長λを有するレーザビームLと、開口数NAが0.65の対物レンズを用いて、光記録ディスク10にデータを記録し、光記録ディスク10に記録されたデータを再生するようにしてもよい。
【0194】
さらに、前記実施態様にかかる光記録ディスク1、10においては、レーザビームLの光入射面から、金属記録層7と、第二の誘電体層6と、光吸収層5とが、この順に、積層されているが、レーザビームLの光入射面から、金属記録層7と、第二の誘電体層6と、光吸収層5とが、この順に、積層されていることは必ずしも必要でなく、光記録ディスクが、金属記録層と、光吸収層とが、少なくとも誘電体層を挟んで形成された積層体を有していればよく、たとえば、レーザビームLの光入射面の反対側から、金属記録層7と、第二の誘電体層6と、光吸収層5とが、この順に積層されていてもよく、あるいは、レーザビームLの光入射面または光入射面の反対側から、光吸収層と、誘電体層と、金属記録層と、誘電体層と、光吸収層とが順に積層されていてもよい。
【0195】
また、前記実施態様においては、レーザビームLが照射されたときに、金属記録層7が変形して、金属記録層7内に状態変化領域7aが形成され、同時に、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、第二の誘電体層6および光吸収層5内に状態変化領域が形成され、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5に記録マークが形成されて、データが記録されるように構成されているが、金属記録層7に加えて、第二の誘電体層6および光吸収層5にも状態変化領域が形成され、記録マークが形成されることは必ずしも必要でなく、金属記録層7の変形に加えて、第二の誘電体層6のみが変形し、金属記録層7および第二の誘電体層6に状態変化領域が形成されて、記録マークが形成されるように構成されていてもよく、さらには、金属記録層7のみが変形して、金属記録層7内のみに状態変化領域7aが形成され、記録マークが形成されるように構成されていてもよい。
【0196】
さらに、前記実施態様においては、レーザビームLが照射されたときに、金属記録層7が変形して、状態変化領域7aが形成され、同時に、第二の誘電体層6および光吸収層5が変形して、第二の誘電体層6および光吸収層5内に状態変化領域が形成され、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5に記録マークが形成されて、データが記録されるように構成されているが、レーザビームLが照射されたときに、金属記録層7が変質し、その屈折率または消衰係数が変化して、状態変化領域7aが形成され、金属記録層7に記録マークが形成されるように構成されていてもよく、さらに、金属記録層7の変質に加えて、第二の誘電体層6および光吸収層5も変質して、第二の誘電体層6および光吸収層5内に状態変化領域が形成され、金属記録層7、第二の誘電体層6および光吸収層5に記録マークが形成されるように構成されていてもよい。また、金属記録層7の変形に加えて、第二の誘電体層6あるいは第二の誘電体層6および光吸収層5が変質して、第二の誘電体層6あるいは第二の誘電体層6および光吸収層5に記録マークが形成されるように構成されていてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームが照射されて、データが記録され、再生されるように構成された光記録ディスクであって、
熱伝導率が2.0W/(cm・K)以下である金属を主成分として含む金属記録層と、光吸収層とが、少なくとも誘電体層を挟んで形成された積層体を含むことを特徴とする光記録ディスク。
【請求項2】
前記レーザビームが照射されたときに、少なくとも、前記金属記録層が変形および/または変質して、前記金属記録層内に状態変化領域が形成され、前記金属記録層に記録マークが形成されるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の光記録ディスク。
【請求項3】
前記金属記録層が、1nmないし20nmの厚さを有するように形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の光記録ディスク。
【請求項4】
前記金属記録層が、Ti、Sn、Pt、ZnおよびMgからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属またはそれらを含む合金によって構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の光記録ディスク。
【請求項5】
前記レーザビームが照射されたときに、前記金属記録層に加えて、前記金属記録層に隣接する前記誘電体層も変形および/または変質し、前記誘電体層内に状態変化領域が形成され、前記金属記録層および前記誘電体層に記録マークが形成されるように構成されたことを特徴とする請求項2ないし4のいずれか1項に記載の光記録ディスク。
【請求項6】
前記レーザビームが照射されたときに、前記金属記録層に加えて、前記金属記録層に隣接する前記誘電体層および前記誘電体層に隣接する前記光吸収層も変形および/または変質し、前記光吸収層内に状態変化領域が形成され、前記金属記録層、前記誘電体層および前記光吸収層に記録マークが形成されるように構成されたことを特徴とする請求項2ないし5のいずれか1項に記載の光記録ディスク。
【請求項7】
前記光吸収層が、SbおよびTeよりなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を含んでいることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の光記録ディスク。
【請求項8】
前記誘電体層が、SiOおよびZnSの混合物によって構成されている請求項1ないし7のいずれか1項に記載の光記録ディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/041181
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514998(P2005−514998)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015818
【国際出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】