説明

光走査装置

【課題】光量損失を抑えつつ、拡散素子としてのDSM液晶の配向変化速度に依存することなく高速でスペックルパターンを変動させて人感のスペックルノイズを低減する。
【解決手段】本光走査装置は、走査投影装置11に入射される前のレーザ光Lが透過する第1液晶素子7と、第2液晶素子9とを備え、第1液晶素子は第2液晶素子の配向変化速度より速い速度、好ましくは2倍以上速い速度で出射レーザ光を、(90度)異なる2つの偏光方向に切換える強誘電性液晶(FLC)等の液晶で、第2液晶素子は駆動電圧の印加により液晶分子が乱流を起こして時間的に液晶分子の配向がランダムに変化する動的散乱モード(DSM)液晶とされる。第2液晶素子により多様なスペックルパターンを生成するとともに、第1液晶素子によってスペックルパターンを高速に変動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光源からの光を投影面に走査して画像を表示させる光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光源からの光を投影面に走査して画像を表示させる光走査装置において、スペックルノイズによる画質の劣化が一つの問題となっている。
コヒーレントの高いレーザ光をスクリーンに照射すると、スクリーン表面の微細な凹凸等の形状の影響により反射したレーザ光が干渉しあうことによってスペックルノイズと呼ばれる干渉パターンが発生し、画質を劣化させてしまう。
従来、レーザ光を回転する拡散素子を透過させてからスクリーンに照射することで、スクリーン上に形成される干渉パターンを人の目によって検出されない速度で変化させて、スペックルノイズが消失したように見せ、鮮明な画像が観察されるようにする技術がある(特許文献1)。かかる従来技術によれば、拡散素子を機械的に運動させるため、拡散素子の運動のための空間を要し、装置の小型化が困難である。
これに比較して装置の小型化が可能になる技術としては、拡散素子として液晶素子を適用し、液晶素子に電圧を印加して液晶素子による拡散度を時間的に変化させることにより、同様のスペックルノイズ低減効果を得ようとする技術がある。この場合、液晶素子としては、時間的に液晶分子の配向がランダムに変化し、散乱状態が逐次変化する動的散乱モード液晶(DSM(Dynamic Scattering Mode)液晶)が利用される。
【0003】
しかし、DSM液晶は散乱状態の変化速度が遅いためスペックルノイズの低減効果が不十分となることがある。
このため特許文献2では、レーザ光が複数のDSM液晶を通過する構成とし、一のDSM液晶で散乱させた光をさらに他のDSM液晶で散乱させたり、透過させたりすることにより、スペックルパターンをランダムに高速変動させて人感のスペックルノイズを低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−208089号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/116935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、複数のDSM液晶を通過させて複数回散乱させる場合には次のような問題がある。
レーザ光が通過するDSM液晶の数を増やすと、スペックルパターンの変動を高速化することができるが、その高速化はDSM液晶の配向変化速度に依存する。
また、散乱状態に駆動されたDSM液晶は不透明であり光の透過率が低くなるので、レーザ光を散乱させるDSM液晶の数を増加させるほど、スペックルパターンの変動を高速化することができる反面、光量損失が増加し投影された画像の輝度を低下させる。
【0006】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、光量損失を抑えつつ、拡散素子としてのDSM液晶の配向変化速度に依存することなく高速でスペックルパターンを変動させて人感のスペックルノイズを低減できる光走査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、画像信号に基づき順次変調されるレーザ光を走査投影装置により投影面上に走査して前記画像信号に基づく画像を表示する光走査装置において、
前記走査投影装置に入射される前の前記レーザ光が透過する第1液晶素子と、
前記走査投影装置に入射される前の前記レーザ光が、前記第1液晶素子を透過する前後のうちいずれか一方又は双方において透過する第2液晶素子とを備え、
前記第1液晶素子は、前記第2液晶素子の配向変化速度より速い速度で、出射レーザ光を異なる2つの偏光方向に切換え、
前記第2液晶素子は、駆動電圧の印加により液晶分子が乱流を起こして時間的に液晶分子の配向がランダムに変化する動的散乱モード液晶とされた光走査装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記第1液晶素子は、前記第2液晶素子の配向変化速度より2倍以上速い速度で、出射レーザ光を異なる2つの偏光方向に切換える請求項1に記載の光走査装置である。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記第1液晶素子は、強誘電性液晶とされる請求項1又は請求項2に記載の光走査装置である。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記異なる2つの偏光方向が互いに90度異なる方向である請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載の光走査装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第2液晶素子により多様なスペックルパターンを生成するとともに、第1液晶素子によって第2液晶素子単独よりもスペックルパターンを高速に変動させる。そのため第2液晶素子(拡散素子としてのDSM液晶)の応答速度に依存することなく高速でスペックルパターンを変動させて人感のスペックルノイズを低減でき、複数のDSM液晶により散乱させる場合よりも総合的に光量損失を小さく抑えることができ、レーザ光を高効率に利用することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る光走査装置の構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る第1液晶素子の動作を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る第2液晶素子の動作を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る光走査装置のスペックルノイズ低減作用を説明するための模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る光走査装置のスペックルノイズ低減作用を説明するための模式図である。
【図6】本発明例及び比較例によるスペックルノイズ低減効果を比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0014】
図1に示すように本実施形態の光走査装置は、いわゆるレーザ走査型プロジェクタで、コントローラ1と、レーザ装置2,3,4と、ダイクロックミラー5,6と、第1液晶素子7と、レンズ8と、第2液晶素子9と、レンズ10と、走査投影装置11とを備える。
レーザ装置2は赤色、レーザ装置3は緑色、レーザ装置4は青色のレーザ光線をそれぞれ出射する。
各色のレーザ装置2,3,4から出射したレーザ光線は、ダイクロックミラー5,6を介して1本のレーザ光線Lとなる。この1本の光線Lは、その後、第1液晶素子7、レンズ8、第2液晶素子9、レンズ10の順で透過し、走査投影装置11に入射する。走査投影装置11は、入射したレーザ光線を反射するミラーを備え、レーザ光線を投影面に照射するとともに、ミラーを2軸方向に回動することにより、主走査方向及び副走査方向に走査して、画像を投影する。
【0015】
コントローラ1はこれら各部を制御して画像信号に基づいた投影面上での画像の表示を実現する。コントローラ1は画像信号に基づき、各色のレーザ装置2,3,4を制御して画素ごとの各色の階調に応じて出射量を順次変調制御するとともに、このレーザ光制御にタイミングを合わせて走査投影装置11を制御し、投影面に画像を表示する。
【0016】
さらにコントローラ1は、スペックルノイズの低減のために、第1液晶素子7及び第2液晶素子9を制御する。
第1液晶素子7は、図2に示すように透過するレーザ光線に最大位相差πを与える。第1液晶素子7としては、高速応答が可能な液晶、例えば、強誘電性液晶(FLC)が適用される。
本実施形態においては第1液晶素子7として強誘電性液晶を用いる。この場合、図2に示すように液晶分子71の移動量(コーン角)θ1が45[deg]となる液晶を用い、液晶素子71のラビング方向72と、入射レーザ光の偏光比の高い偏光方向73とのなす角θ2が22.5[deg]となるように配置する。
さらに、リタデーションR(=Δnd Δn:屈折率異方性,d:液晶層厚)がλ/2にできる限り近くなる液晶材料と液晶層厚dを選択することが好ましい。
コントローラ1の制御に従って第1液晶素子7に駆動電圧が印加される。第1液晶素子7に印加される駆動電圧の−Vから+Vの変化により、図2(b)に示すように。液晶分子71の配向がθ1だけ変化し、入射レーザ光の偏光方向73に対して出射レーザ光の偏光方向74が90度変化する。第1液晶素子7は、コントローラ1の制御によって駆動されて、図2(a)に示す状態と、図2(b)に示す状態とを交互に繰り返す。これにより第1液晶素子7は、第2液晶素子9の配向変化速度より速い速度で、出射レーザ光を90度異なる2つの偏光方向に切換える。
第1液晶素子7の駆動電圧は、液晶層厚d、自発分極Psによって決定され、閾値電圧以上の電圧とされる。また第1液晶素子7の駆動電圧の周波数は、第2液晶素子9の配向変化速度より2倍以上速い速度で、出射レーザ光を異なる2つの偏光方向に切換えることができる周波数とする。
【0017】
本実施形態において第2液晶素子9は、図3に示すように駆動電圧の印加により液晶分子が乱流を起こして時間的に液晶分子の配向がランダムに変化する動的散乱モード液晶である。
図3に示すように第2液晶素子9は、ガラス基板91と、ITO膜92と、配向膜93とを備える一対の基板90,90の間に液晶層を封止した構成をとる。図3(b)に示すように液晶分子94は、電圧無負荷時には、基板90に対して水平に配向して静止しているが、図3(a)に示すように駆動電圧の印加により乱流を起こし、時間的に液晶分子94の配向はランダムに変化する。図3(a)に示す乱流状態とされた第2液晶素子9を透過するレーザ光は液晶分子94の作用により散乱し、透過する時間によってレーザ光の偏光方向はランダムに変化することとなる。
(導電率)>10−10[S/cm]となる負の誘電異方性を持つ液晶(Δε<0)を基板に対して第2液晶素子9の基板90に対して水平に配向させる。
第2液晶素子9は、入射するレーザ光の偏光方向に対してラビング方向を平行又は垂直に配置される。駆動電圧は、基板90に対して垂直方向に印加される。また、リタデーションRがnλ/2 (但し、n=1,2,3・・・)にできる限り近くなる液晶材料と液晶層厚dを選択することが好ましい。駆動電圧の周波数等は液晶層内に液晶分子94の乱流が発生する値とする。
【0018】
図4(a)及び図5(a)(b)においては、第1液晶素子7は図2(a)に示す配向状態にあり、図4(b)においては第1液晶素子7は図2(b)に示す配向状態にある。図4(a)(b)及び図5(a)(b)において第2液晶素子9は液晶素子が乱流を起こして散乱状態に駆動されている。 したがって、図4(a)及び図5(a)(b)の場合、レーザ光線Lは偏光方向を変えずに第1液晶素子7を透過し、レンズ8により集光されて第2液晶素子9に入射する。
図4(b) の場合、レーザ光線Lは第1液晶素子7により偏光方向を90度変えられて第1液晶素子7から出射し、レンズ8に集光されて第2液晶素子9に入射する。
いずれの場合も、第2液晶素子9に入射したレーザ光線Lは、第2液晶素子9でその乱流状態に応じてそれぞれ散乱されて散乱光A,B,C,Dとして出射し、レンズ10に集光されて走査投影装置11に入射する。
【0019】
第1液晶素子7は、図4(a)に示す状態と、図4(b)に示す状態とを相互に上述した速度で高速に切替える。
例えば図5に示すように、時間が経過しても第1液晶素子7の配向が切換らない場合について考える。この場合においても、時間の経過により第2液晶素子9での散乱状態が変化するので、異なる時間においては異なる散乱光C,Dが第2液晶素子9から出射する。そのため、スペックルパターンが変動して、スペックルノイズが軽減される。しかし、スペックルパターンの変動速度は第2液晶素子9の配向変化速度に依存する。
図4に示すように第1液晶素子7の配向を高速に反復して切替えることにより、散乱光Aから散乱光Bへの変化は、第1液晶素子7の切替速度に応じて高速に変化する。第1液晶素子7の配向の切替えを繰り返すことに加え、第2液晶素子9による散乱状態が時間の経過とともにランダムに変化していくので、スペックルパターンを高速でランダムに変化させることができる。
これにより、第2液晶素子9単独よりもスペックルパターンを高速に変動させることができるのは勿論のこと、DSM液晶の応答速度に依存することなく第1液晶素子(FLC)7の切替速度に応じて高速でスペックルパターンを変動させて人感のスペックルノイズを低減でき、複数のDSM液晶により散乱させる場合よりも総合的に光量損失を小さく抑えることができ、レーザ光を高効率に利用することができる。
【0020】
図6は、以上の本発明の実施形態に従って第1液晶素子7にFLC素子、第2液晶素子9にDSM液晶素子を適用した本発明例1と、3つの比較例1,2,3とについて、スペックルノイズ低減効果を比較するグラフである。レーザ光線Lが透過する液晶素子として、比較例1は本発明例1と同じ条件のDSM液晶素子を1つのみを適用した場合、比較例2は本発明例1と同じ条件のFLC素子を1つのみを適用した場合、比較例3は本発明例1と同じ条件のDSM液晶素子をレーザ光線Lに対して直列に2つ適用した場合である。
図6のグラフにおいて横軸のシャッタースピードは、スペックルパターンの積分時間あるいは合成時間に相当している。人の目が感知できる時間は30(ms)以上といわれる。比較例1のシャッタースピード1(ms)におけるスペックルノイズの理論値を100%としている。
この結果を比較すると、DSM液晶素子単体の比較例1ではシャッタースピードの増加に伴ってスペックルノイズは低減し、FLC素子単体の比較例2ではシャッタースピードに拘わらずスペックルノイズは74%程度に低減する。DSM液晶素子を2つ適用した比較例3では比較例1に対しグラフの傾斜が大きくなり、視認領域において大きなスペックルノイズ低減効果が得られる。本発明例1では、比較例2のレベルからシャッタースピードの増加に伴ってスペックルノイズは低減し視認領域において大きなスペックルノイズ低減効果が得られる。33(ms)以上になると比較例3が最も効果があるが、FLC素子に対してDSM液晶素子の光透過率が低いため、比較例3では2つのDSM液晶素子を合わせた光量損失が約60%、本発明例では、1つのFLC素子と1つのDSM液晶素子を合わせた光量損失が約40%と計算できた。しがって、本発明によれば、光量損失を小さく抑えてレーザ光を高効率に利用しつつ、DSM液晶の応答速度に依存することなくスペックルパターン変化の高速化を追求できるとわかった。
【0021】
なお、以上の実施形態においては、レーザ光線Lの進行方向に沿って第2液晶素子9を第1液晶素子7の後に配置したが、第2液晶素子9を第1液晶素子7の前に配置しても、同様の効果が得られる。また、第2液晶素子9を第1液晶素子7の前後双方に配置してもよい。
【符号の説明】
【0022】
1 コントローラ
2,3,4 レーザ装置
5,6 ダイクロックミラー
7 第1液晶素子
8 レンズ
9 第2液晶素子
10 レンズ
11 走査投影装置
L レーザ光線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像信号に基づき順次変調されるレーザ光を走査投影装置により投影面上に走査して前記画像信号に基づく画像を表示する光走査装置において、
前記走査投影装置に入射される前の前記レーザ光が透過する第1液晶素子と、
前記走査投影装置に入射される前の前記レーザ光が、前記第1液晶素子を透過する前後のうちいずれか一方又は双方において透過する第2液晶素子とを備え、
前記第1液晶素子は、前記第2液晶素子の配向変化速度より速い速度で、出射レーザ光を異なる2つの偏光方向に切換え、
前記第2液晶素子は、駆動電圧の印加により液晶分子が乱流を起こして時間的に液晶分子の配向がランダムに変化する動的散乱モード液晶とされた光走査装置。
【請求項2】
前記第1液晶素子は、前記第2液晶素子の配向変化速度より2倍以上速い速度で、出射レーザ光を異なる2つの偏光方向に切換える請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記第1液晶素子は、強誘電性液晶とされる請求項1又は請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記異なる2つの偏光方向が互いに90度異なる方向である請求項1から請求項3のうちいずれか一に記載の光走査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−73368(P2012−73368A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217553(P2010−217553)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【出願人】(505303059)株式会社船井電機新応用技術研究所 (108)
【出願人】(000125370)学校法人東京理科大学 (27)
【Fターム(参考)】