説明

光超音波マイクロフォン

【課題】超音波領域まで音圧計測が可能で高感度な光超音波マイクロフォンを提供する。
【解決手段】本発明の光超音波マイクロフォンは、開口部4から音波を取り込み伝搬させる音響導波路6と、音響導波路6の壁面の少なくとも一部を形成する光音響伝搬媒質2と、LDVヘッド8により構成され、音響導波路6を進行する音波を光音響伝搬媒質2に取り込み、光音響伝搬媒質2内に音波の進行による屈折率変化を高効率で発生させ、LDVヘッド8により光変調として取り出すことにより、極めて広帯域な光超音波マイクロフォンを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を利用したマイクロフォン、特に空気などの気体を伝搬する超音波を受波し、受波した超音波を、光を利用して、電気信号に変換する光超音波マイクロフォンに関する。
【背景技術】
【0002】
音波を収集して電気信号に変換するデバイスとしては、可聴帯域ではダイナミックマイクロフォンや、コンデンサマイクロフォンが広く利用され、超音波領域では圧電センサが広く利用されている。これらのデバイスは、音波が空気の微細な振動であることを利用して、音波を振動板に入射させて、音によって振動板に励起される微細な振動を導電的、静電的、あるいは圧電的に電気信号に変換している。
【0003】
一方で、レーザ光に代表される光を利用して、微細で高速な振動を計測するレーザドプラ振動計(以下、単に「LDV」と呼ぶ。)などの光学システムが広く利用されており、このような装置を利用した音波の収集が試みられている。
【0004】
特許文献1に記載の音圧変換装置では、通常のマイクロフォンにみられる振動板と光三角法による光計測を応用した光マイクロフォンが開示されている。
【0005】
さらに特許文献2には、音場中にレーザ光を直接伝搬させて、音波によって空気中に生じる屈折率変化をLDVにより直接捉えることにより、音圧を計測するレーザドプラマイクロフォンが開示されている。
【0006】
以下、図11を参照して、特許文献2におけるレーザドプラマイクロフォンの構造、動作について説明する。図11において、121はLDV、122、123は一対の反射鏡、124はキュービックミラー、125はレーザ光経路、126は音場、127は演算部である。
【0007】
図11に示された構成において、一対の反射鏡122及び123は平行に配置され、LDV121とキュービックミラー124は一方反射鏡123の上下両端に設けられている。LDV121からは、反射鏡122に向かって適当な角度でレーザ光が照射される。照射されたレーザ光は、反射鏡122及び123において複数回の反射を伴いながらレーザ光経路125に沿って伝搬し、反射鏡123の終端に設けられたキュービックミラー124に達する。キュービックミラー124に入射したレーザ光は、キュービックミラー内部で数回反射した後、キュービックミラー124にレーザ光が入射してきた方向に向かってキュービックミラー124にから放出され、再び、一対の反射鏡122及び123によって複数回反射されながら、レーザ光経路125を逆方向に伝搬してLDV121に到達する。LDV121に達したレーザ光は、LDV121内部で光学的及び電気的な処理を受けるとともに、演算部127によって、振動速度成分が換算される。
【0008】
図11における構成においては、振動する部分が無いので通常は振動速度成分は0である。反射鏡122及び123が作る空間に音波が存在する場合には、音波により空気の密度に粗密が生じる。これらの密度の変化は空気中の屈折率の変化となり、レーザ光の伝搬速度を変化させるため、反射鏡122、123やキュービックミラー124に振動が発生したかのように、音圧に対応した速度成分が計測される。
【0009】
また、本発明者は、特許文献3において、気体中において超音波の屈折を利用して高感度、広帯域に超音波を送受波しうる気体用超音波送受波器に関する発明を開示している。また、非特許文献1において、500kHzの超高周波領域における送受信特性を報告している。
【0010】
図12に、特許文献3及び特許文献4に開示している発明の超音波送受波器の模式図を示す。
【0011】
図12に示すように、特許文献3の発明の超音波送受波器101は、少なくとも超音波振動子102と、超音波振動子102の前面に設けられ、環境流体104と超音波振動子102の間を埋める伝搬媒質部103を有している。105は超音波の進行方向を示している。このような形態の超音波送受波器を、特に、屈折伝搬型超音波送受波器(又は、斜め伝搬型超音波送受波器本体)と呼ぶこととする。
【0012】
ここで、超音波振動子102と伝搬媒質部103の界面を第1表面領域111と定義し、伝搬媒質部103と環境流体104の界面を第2表面領域112として定義する。
【0013】
特許文献3の屈折伝搬型超音波送受波器は、空気などの音響インピーダンスの極めて小さい媒質から、超音波を高い効率で伝搬媒質の伝搬媒質部内に取り込むことで高感度に超音波を送受波することを可能としたものである。
【0014】
通常、気体と固体のように音響インピーダンスの大きく異なる媒質の界面では、殆どの超音波が反射し、高い感度で送波、あるいは受波することが出来ない。このように気体中で高効率の超音波の透過を実現するために、屈折伝搬型超音波送受波器101では、特殊な材料からなる伝搬媒質部103を利用して超音波送受波器101を構成している。伝搬媒質部103には、音速が環境流体104より遅く、密度が環境流体104より大きい特性が必要となり、特許文献3ではこのような材料として、シリカ骨格からなる乾燥ゲル材料を用いている。シリカ乾燥ゲルは、製造プロセスによって様々な音速と密度を持たせることが可能な材料であるが、一例として、密度200kg/m、音速150m/sのように、高効率で超音波を透過しうる伝搬媒質部103の条件を満足する値を取りうる材料である。
【0015】
このような材料を伝搬媒質部103として用いて、図12に示すように伝搬媒質部103の内部における第2表面領域112の法線と超音波伝搬方向のなす角度θと、環境流体104内における超音波伝搬方向とのなす角度θを適切にそれぞれ選択する事によって、第2表面領域112における超音波の反射をほぼ0にして、高い送受波感度を持つ超音波送受波器を実現することができる。また、第2表面領域112における透過効率には音波の周波数が無関係であるため、原理的に広帯域特性を実現し、様々な周波数を高い効率で測定することができる。
【0016】
具体的には、超音波を送波する場合には、超音波振動子102が、図示していない駆動回路により電気信号を与えられて、超音波を発生する。ここで、図12のようにXYZ方向を設定する。超音波振動子102で発生した超音波は、第1表面領域111から第2表面領域112に向かって、伝搬媒質部103をY軸の正方向に伝搬していく。そして、第2表面領域112に達した超音波は、屈折の法則に従って伝搬方向を変えて、超音波伝搬経路105の方向(この場合には、矢印の反対方向)に向けて流体104へ伝搬していく。
【0017】
超音波を受波する場合には、送波の場合と逆に、周囲空間の流体104を伝搬してきた超音波は第2表面領域112に到達すると屈折して伝搬媒質部103に透過し、Y軸の負方向に向かって伝搬媒質部103の内部を伝搬して超音波振動子102に到達する。超音波振動子102に到達した超音波は超音波振動子102を変形させることで電極間に電位差を発生させて、図示していない受波回路により検出される。
【0018】
斜め伝搬型超音波送受波器本体101では、流体104が空気等の音響インピーダンス(材質の音速×材質の密度)の極めて小さい媒質の場合でも、流体104から伝搬媒質部103に超音波が高い効率で入射し、あるいは伝搬媒質部103から流体104へ高い効率で超音波を出射することができる。
【0019】
斜め伝搬型超音波送受波器本体101において、超音波の透過効率を高くするために、超音波の伝搬媒質部103での音速C、超音波の流体104での音速C、伝搬媒質部103の密度ρ、流体104の密度ρは、以下の式(2)を満たすように設定されている。
【0020】
【数1】


また、θはC、C、ρ、ρを用いて以下の式(3)を満たすように設定されている。
【0021】
【数2】


また、θとθの間には、以下の式(4)に示す関係がある。
【0022】
【数3】


特許文献4に示すように、前記式(2)と式(3)と式(4)を満たしたときに、第2表面領域112における超音波の透過効率がほぼ1となる。それにより、高い効率で超音波を送波及び受波できる、斜め伝搬型超音波送受波器本体101としての斜め伝搬型超音波センサを提供することが可能になる。
【0023】
【特許文献1】特開2004−12421号公報
【特許文献2】特開2004−279259号公報
【特許文献3】WO2004/098234号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0139013号明細書
【非特許文献1】「ナノフォーム材料の音響特性と超音波センサへの応用(一般/アコースティックイメージング)(Acoustic Properties of Nanofoam Material and its Applied Ultrasonic Sensors)」橋本 雅彦、永原 英知、杉ノ内 剛彦(HASHIMOTO Masahiko,NAGAHARA Hidetomo,SUGINOUCHI Takehiko)、社団法人 電子情報通信学会発行、電子情報通信学会技術研究報告、Vol.105,No.619、US2005−127(P.29−34)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
特許文献1に開示された光マイクロフォンは、通常のマイクロフォンと同様に振動板の機械共振特性が周波数帯域に大きく影響する。すなわち振動板の機械共振周波数よりも低い周波数では比較的平坦な周波数特性を持つが、共振周波数以上では、急激に感度が低下するためマイクロフォンとしての上限が共振周波数付近までに限定される。このため、振動板を用いる現状のコンデンサマイクロフォンの高域特性は100kHz程度までに制限されており、それ以上の場合には圧電型が用いられる。従って、充分な感度を保持しながら100kHz以上まで帯域特性が伸びた振動板を持つマイクロフォンを構成することは極めて困難である。
【0025】
また、特許文献2において開示されたレーザドプラマイクロフォンは振動板を持たないため、機械共振による高周波域の制限がない。また、使用しているLDVの振動計測における高域限界は1MHzを容易に超える。ところが、空気の音圧に関する屈折率変化が小さいことから、充分な感度を確保するには極めて長い光経路が必要となる。特許文献2に開示された例では、充分なS/Nを得るためには10m以上の光経路長が必要である。従って、対応する測定領域の小型化が極めて困難である。従って、高周波領域では、測定領域内において音波干渉が容易に発生し、正確な音圧の測定が困難となる。この現象は、振動板タイプの場合の機械共振に相当し、「空洞共振」と呼ばれる。すなわち、測定範囲の寸法がマイクロフォンの高域限界を決定し、空気の音速は一般的な振動板の弾性波速度よりも遅いために、測定領域と振動板が同じ面積の場合、高域限界はレーザドプラマイクロフォンの方が低くなる。
【0026】
従来の光マイクロフォンでは、光計測の帯域幅は充分広いものの、利用する機械共振や空洞共振によって高周波帯域が制限され、特に100kHz以上の超高周波領域で動作をさせることが困難であるという課題を有している。
【0027】
また、特許文献3の超音波送受波器101においては、シリカ乾燥ゲルで構成された伝搬媒質部103への音波取り込みに周波数特性が無いため、広い周波数領域において音波が取り込こむことが可能であるが、取り込まれた音波を電気信号に変換するために、圧電セラミックなどの超音波振動子102が必要である。シリカ乾燥ゲル103と圧電セラミック102との音響インピーダンス値は2桁から3桁の違いがあり、シリカ乾燥ゲル103を伝搬して圧電セラミミック102に進入する音波は、シリカ乾燥ゲル103と圧電セラミック102の界面(第1表面領域111)において大部分が反射される。反射された音波は、シリカ乾燥ゲル103内を逆向きに伝搬して一部は空気へ放出されるが、残りはシリカ乾燥ゲル103内の境界(第2表面領域112)で反射を繰り返しながらシリカ乾燥ゲル103内を伝搬して残響となる。
【0028】
この伝搬媒質部103と超音波振動子102の界面(第1表面領域111)における反射現象は、シリカ乾燥ゲルで構成された伝搬媒質部103内に、電気信号への変換のための素子として圧電セラミック102などの音響インピーダンスの異なる物質を配置した構成においては、本質的に避けられない。この反射に伴う残響は、後から到達する音波信号に重畳してS/Nを低下させる要因となり、また不要な共振現象など周波数特性を悪化させるという課題がある。
【0029】
さらに、特許文献3の超音波送受波器101においては、受波感度が低いという課題も有している。以下、この課題の原因について説明する。
【0030】
流体104を伝搬してきた超音波のエネルギー密度は、斜め伝搬型超音波送受波器本体101に受波されるときに低下する。これが受波感度が低い原因である。図12を用いて、受波感度が低い原因を説明する。図12においては、超音波伝搬経路105を実線の矢印で示している。前記したように、斜め伝搬型超音波送受波器本体101が高効率で超音波を受波するためには、式(2)と式(3)と式(4)を満たす必要がある。このとき、流体104を伝搬してくる超音波の経路は、第2表面領域112の法線とのなす角度がθを満たしている。
【0031】
よって、図12では、超音波は、流体104の長さ(L+L+L)の範囲を斜め伝搬型超音波送受波器本体101に向かって伝搬し、さらに超音波の伝搬経路と第2表面領域112の法線とのなす角度がθを満たしているとする。ここで、長さLの範囲とは、超音波の進行方向105に平行な範囲であって、超音波が、第2表面領域112に全く到達しない範囲を意味する。長さLの範囲とは、長さLの範囲に隣接し、かつ、超音波の進行方向105に平行な範囲であって、超音波が、第2表面領域112に全て到達可能な範囲を意味する。長さLの範囲とは、長さLの範囲に隣接し、かつ、超音波の進行方向105に平行な範囲であって、超音波が、第2表面領域112に全て到達しない範囲を意味する。
【0032】
図12に示すように、流体104の長さ(L+L+L)の範囲を伝搬してくる全ての超音波が、斜め伝搬型超音波送受波器本体101に受波されるわけではない。長さLの範囲を伝搬してくる超音波は、第2表面領域112に到達して、斜め伝搬型超音波送受波器本体101に受波される。しかし、長さLの範囲及び長さLの範囲を伝搬してくる超音波は、第2表面領域112に到達することができず、斜め伝搬型超音波送受波器本体101に受波されない。
【0033】
つまり、流体104を伝搬してきた超音波(長さL+L+Lの範囲を伝搬してくる超音波)のうちの一部の超音波(長さLの範囲を伝搬してくる超音波)が、斜め伝搬型超音波送受波器本体101に受波される。
【0034】
そして、流体104の長さLの範囲を伝搬してきた超音波は第2表面領域112を透過し、長さLの範囲の超音波振動子102に検出される。このとき、L<<Lであるために、斜め伝搬型超音波送受波器本体101で受波される超音波は、第2表面領域112で拡散されて超音波振動子102に到達する。従って、超音波が斜め伝搬型超音波送受波器本体101に受波されるときに、そのエネルギー密度が低下する。この超音波が有するエネルギー密度の低下により、斜め伝搬型超音波送受波器本体101の受波感度が低下する。
【0035】
以上の理由により、斜め伝搬型超音波送受波器本体101の受波感度は低いものである。すなわち、第2表面領域112で受波することが可能な超音波の伝搬範囲の長さLが超音波振動子102の長さLより小さいため、斜め伝搬型超音波受波器本体101の受波感度は低いものとなっている。
【0036】
本発明の目的は、前記の課題に鑑みなされたものであり、従来のマイクロフォンの高域限界を大きく越えた超音波領域まで音圧計測が可能で、かつ高感度な光超音波マイクロフォンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0037】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、気体で満たされた周囲の空間に対して音波の受波を行うマイクロフォンであって、
前記周囲の空間から前記音波を取り込む開口部と、前記開口部より取り込んだ前記音波を伝達する音響導波路とを有するとともに、前記音響導波路の少なくとも一部を構成しかつ前記音響導波路からの前記音波と光を伝搬させる光音響伝搬媒質部を保持するベースと、
前記光音響伝搬媒質部に対して前記光を照射する光源と、
前記光源から前記光音響伝搬媒質部内に照射されかつ前記光音響伝搬媒質部を伝搬した前記光を検出し、前記音波による前記光の変調を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果から音圧換算用の出力信号を求める演算部を具備し、
前記光音響伝搬媒質部の光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cが、前記音響導波路を満たす気体の密度ρ及び音速Cとの間において、以下の式を満たす光超音波マイクロフォンを提供する。
【0038】
【数4】


本発明の第8態様によれば、第1の開口を有し、前記第1の開口から入射する音波を音波伝搬方向へ伝搬させる音響導波路を規定する音響導波部材と、
透過面を有し、前記透過面が前記音波の伝搬方向に沿って前記音響導波路の一面を構成するように前記音響導波路に設けられた光音響伝搬媒質部であって、前記音響導波路を伝搬するに従って前記音波の一部が前記透過面からそれぞれ前記伝搬媒質部へ透過し、収束点に収束するように前記透過面が構成され、前記音響導波路に対して配置されている伝搬媒質部と、
前記光音響伝搬媒質部の前記収束点に対して光を照射する光源と、
前記光源から前記光音響伝搬媒質部の前記収束点に照射されかつ前記光音響伝搬媒質部を伝搬した前記光を検出し、前記収束点に収束した前記音波による前記光の変調を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果から音圧換算用の出力信号を求める演算部を具備し、
前記光音響伝搬媒質部は前記透過面と前記収束点との間を満たしている伝搬媒質を含み、
前記音響導波路は環境流体で満たされており、前記光音響伝搬媒質部の光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cが、前記音響導波路を満たす前記環境流体の密度ρ及び音速Cとの間において、
【数5】


の関係を満たし、
前記音響導波路の前記第1の開口から、前記透過面上の前記音波の伝搬方向に沿った任意の点Pまでの前記音響導波路の長さをLakとし、前記任意の点Pから前記収束点までの長さをLnkとしたとき、任意のkに対して、
【数6】


の関係を満たしている光超音波マイクロフォンを提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明の光超音波マイクロフォンによれば、周囲空間の気体を伝搬してくる音波を開口部から音響導波路に取り込み、音響導波路内から光音響伝搬媒質部内を進行する音波を、光を用いて計測することにより、従来の振動板の機械共振などによる限界を大きく超える高周波領域まで測定可能であり、かつ従来の圧電セラミックなどの電気音響変換器による音波の反射の影響を回避して、より高感度で精密な音圧測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明者は、前記のシリカ乾燥ゲルが光学的に透明に近い性質を有していることに着目し、光音響伝搬媒質部の光音響伝搬媒質例えばシリカ乾燥ゲルにおける音圧と屈折率の変化率が空気中における変化率に対して、1桁程度高いことを見出した。音圧による屈折率変化率は、通常固体、液体、気体の順番で大きくなり、通常のバルク材料には見られない極めて特異な性質である。
【0041】
本発明の本質は、気体などの音響インピーダンスの極めて低い物体から固体へと高い効率で超音波を伝搬させることの出来る屈折伝搬型超受波器の界面現象の基本原理を利用するとともに、これらの条件を満たす固体材料が、音波によって極めて大きな屈折率変化を発生させるという現象を使って、極めて高周波領域まで帯域特性が伸びる光超音波マイクロフォンを構成した点にある。
【0042】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下、図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明する前に、本発明の種々の態様について説明する。
【0043】
本発明の第1態様によれば、気体で満たされた周囲の空間に対して音波の受波を行うマイクロフォンであって、
前記周囲の空間から前記音波を取り込む開口部と、前記開口部より取り込んだ前記音波を伝達する音響導波路とを有するとともに、前記音響導波路の少なくとも一部を構成しかつ前記音響導波路からの前記音波と光を伝搬させる光音響伝搬媒質部を保持するベースと、
前記光音響伝搬媒質部に対して前記光を照射する光源と、
前記光源から前記光音響伝搬媒質部内に照射されかつ前記光音響伝搬媒質部を伝搬した前記光を検出し、前記音波による前記光の変調を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果から音圧換算用の出力信号を求める演算部を具備し、
前記光音響伝搬媒質部の光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cが、前記音響導波路を満たす気体の密度ρ及び音速Cとの間において、以下の式を満たす光超音波マイクロフォンを提供する。
【数7】


本発明の第2態様によれば、前記光音響伝搬媒質部は、無機酸化物又は有機高分子の乾燥ゲルから構成されている第1の態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第3態様によれば、前記乾燥ゲルは、密度100kg/m以上、音速300m/s以下の物性を有する第2の態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第4態様によれば、前記乾燥ゲルの固体骨格部は疎水化されている第2又は3の態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第5態様によれば、前記光源がレーザ光源である第1〜4のいずれか1つの態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第6態様によれば、前記光検出手段は、前記レーザ光源からのレーザ光の周波数の変調を検出する第5の態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第7態様によれば、前記光源と前記光検出手段は、レーザドプラ検出手段で兼用するように構成されている第6の態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第8態様によれば、第1の開口を有し、前記第1の開口から入射する音波を音波伝搬方向へ伝搬させる音響導波路を規定する音響導波部材と、
透過面を有し、前記透過面が前記音波の伝搬方向に沿って前記音響導波路の一面を構成するように前記音響導波路に設けられた光音響伝搬媒質部であって、前記音響導波路を伝搬するに従って前記音波の一部が前記透過面からそれぞれ前記光音響伝搬媒質部へ透過し、収束点に収束するように前記透過面が構成され、前記音響導波路に対して配置されている伝搬媒質部と、
前記光音響伝搬媒質部の前記収束点に対して光を照射する光源と、
前記光源から前記光音響伝搬媒質部の前記収束点に照射されかつ前記光音響伝搬媒質部を伝搬した前記光を検出し、前記収束点に収束した前記音波による前記光の変調を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果から音圧換算用の出力信号を求める演算部を具備し、
前記伝搬媒質部は前記透過面と前記収束点との間を満たしている伝搬媒質を含み、
前記音響導波路は環境流体で満たされており、前記光音響伝搬媒質部の光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cが、前記音響導波路を満たす前記環境流体の密度ρ及び音速Cとの間において、
【数8】


の関係を満たし、
前記音響導波路の前記第1の開口から、前記透過面上の前記音波の伝搬方向に沿った任意の点Pまでの前記音響導波路の長さをLakとし、前記任意の点Pから前記収束点までの長さをLnkとしたとき、任意のkに対して、
【数9】


の関係を満たしている光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第9態様によれば、前記音響導波路の前記第1の開口の前端に音響ホーンが接続されている第8の態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第10態様によれば、前記音響導波路の高さ及び幅が、前記マイクロフォンで受波する超音波の波長の1/2以下である第1〜9のいずれか1つの態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第11態様によれば、前記音響導波路の高さが、前記音響導波路の終端側に向かって減少するように前記音響導波路が前記ベースと前記光音響伝搬媒質部とにより構成されている第1〜10のいずれか1つの態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第12態様によれば、前記周囲の気体は空気である第1〜11のいずれか1つの態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
本発明の第13態様によれば、前記光源と前記光検出手段は、レーザドプラ検出手段で兼用するように構成され、
前記音波が前記光音響伝搬媒質部の一面から前記光音響伝搬媒質部内に進入するときの前記音波の音波伝搬方向に対して直交する方向沿いに、前記レーザドプラ検出手段の光軸を配置するとともに、前記レーザドプラ検出手段の光軸沿いでかつ前記レーザドプラ検出手段と対向するように配置されたミラーをさらに備えて、前記レーザドプラ検出手段と前記ミラーとの間でかつ前記光音響伝搬媒質部内で光経路を構成するようにしている、第1〜6のいずれか1つの態様に記載の光超音波マイクロフォンを提供する。
【0044】
以下、図面を参照しながら本発明による超音波送受波器の種々の実施形態を説明する。
【0045】
(第1実施形態)
以下、図1Aから図4を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1A及び図1Bは、本第1実施形態における光超音波マイクロフォン1の構成を示す斜視図及び一部断面正面図である。図1A及び図1Bに示すように、高さ方向をZ方向とし、高さ方向と互いに直交する2方向をXY方向としたXYZ方向を設定する。光超音波マイクロフォン1はY方向沿いに配置され、光超音波マイクロフォン1の厚み方向がX方向となっている。
【0046】
図1A及び図1Bにおいて、光超音波マイクロフォン1は、気体(例えば空気)14で満たされた光超音波マイクロフォン1の周囲の空間に対して音波(例えば超音波)の受波を行うマイクロフォンであって、前記周囲の空間から前記音波を取り込む開口部4と、前記開口部4より取り込んだ前記音波を伝達する音響導波路6とを有するとともに、前記音響導波路6の少なくとも一部を構成しかつ前記音響導波路6からの前記音波と光を伝搬させる光音響伝搬媒質より構成される光音響伝搬媒質部2を保持するベース3と、前記光音響伝搬媒質部2に対して前記光(例えばレーザ光10)を照射する光源8と、前記光源8から前記光音響伝搬媒質部2内に照射されかつ前記光音響伝搬媒質部2を伝搬した前記光を検出し、前記音波による前記光の変調を検出する光検出手段8と、前記光検出手段8の検出結果から音圧換算用の出力信号を求める演算部9を具備し、前記光音響伝搬媒質部2の光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cが、前記音響導波路6を満たす気体の密度ρ及び音速Cとの間において後述する式(6)[ただし、式(6)では、光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cは、それぞれ、密度ρNF及び音速CNFで表されている。]を満たすように構成している。本第1実施形態では、前記光源及び光検出手段の一例として、前記光源及び光検出手段の両方の機能を有する、レーザドプラ検出手段の一例であって、レーザ光に代表される光を利用して微細で高速な振動を計測するレーザドプラ振動計(以下、単に「LDV」と呼ぶ。)を備えて、前記光源及び光検出手段の両方を兼用するとともに、演算部の一例としてLDV演算処理部9を備えている。前記光源及び光検出手段の一例として、レーザドプラ振動計(LDV)で構成するとき、そのレーザ光10の発光及び受光部分をLDVヘッド8aとして、レーザー光源や干渉計を持つ本体部8bから分離させ、LDVヘッド8aのみを、シリカ乾燥ゲル2に対して二次元走査可能としている。
【0047】
LDVヘッド8は、シリカ乾燥ゲル2の表面(厳密には、透明支持板7の表面)であるZY平面に対して、ZY方向にそれぞれ2次元的に移動して2次元走査して計測可能としている。LDVヘッド8を2次元走査させるために、図2に示すように、LDVヘッド移動装置88を備えている。LDVヘッド移動装置88は、例えば、XYステージで構成することができる。
【0048】
前記構成において、光音響伝搬媒質部2、ベース3、及び透明支持板7により、音響導波路6及び開口部4が構成されている。音響導波路6は、開口部4からY方向に音響導波路6の終端部に向かうにつれてZ方向の寸法が徐々に小さくなるように設計されている。このとき、一例として、音響導波路6のX方向の寸法(幅寸法)は、開口部4から終端部まで一定の幅寸法としているが、一定の幅寸法に代えて、幅寸法が徐々に小さくなるようにしてもよい。
【0049】
より具体的には、光音響伝搬媒質部2は、厚みが一定の四角形の平板状部材より構成しており、ベース3の凹部3a内に収納保持されるようにしている。
【0050】
ベース3は大略板状部材より構成し、一方の面には、光音響伝搬媒質部2を収納可能でかつ深さが一定の凹部3aを有している。この凹部3aは、その平面形状を台形とすることにより、音響導波路6の一部(上面)を構成する、ベース3の凹部3aの内面3bが、音響導波路6の一方の開口端部である開口部4からY方向(音響導波路6の長手方向)沿いに音響導波路6の終端部に向かうにつれて、光音響伝搬媒質部2の上面2aに接近するように構成している。このように構成することにより、音響導波路6のZ方向の寸法が、開口部4から音響導波路6の終端部に向かうにつれて徐々に小さくなるように構成している。音響導波路6は、図1Aにおいて、その左右の側面は、ベース3の凹部3aの底面3cと透明支持板7の内面とで構成され、音響導波路6の上面はベース3の凹部3aの側面3bで構成され、音響導波路6の下面は光音響伝搬媒質部2の上面2aで構成されるようにして、大略直方体形状の空間としている。また、ベース3の凹部3aの底面3cは、レーザ光に代表される光を反射可能な鏡面としている。一例として、ベース3は、アルミニウム材、又は、凹部底面3cに反射膜を形成した樹脂材で構成することができる。ベース3の材料としては、通常の金属材料、又は、プラスチック材料で構成可能である。なお、光音響伝搬媒質部2あるいは音響導波路6からこれらの部材に進入する音波は、ほとんど無視できる程度のものである。これは、空気やナノ多孔体に比べて、これらの材料の音響インピーダンスが極めて大きいためのである。
【0051】
透明支持板7は、透光性に優れた透明の薄い板状部材であって、少なくともベース3の凹部3aの全面、好ましくは、ベース3の凹部3aが形成されている面の全面を覆うことにより、ベース3の凹部3aの内に収納する光音響伝搬媒質部2を支持するようにしている。また、透明支持板7は、光音響伝搬媒質部2を支持するのに加えて、レーザ光に代表される光を利用して、微細で高速な振動を計測するレーザドプラ振動計すなわちLDVヘッド8から照射されるレーザ光10が光音響伝搬媒質部2を透過するとともに、光音響伝搬媒質部2を透過したレーザ光10がベース3の凹部3aの底面(鏡面)3cで反射したのち、再び光音響伝搬媒質部2を透過してきた反射レーザー光10の光経路の一部を構成するようにしている。透明支持板7は、通常のガラス材料、又は、アクリルなどの樹脂材料で十分な性能を得ることができる。なお、光音響伝搬媒質部2あるいは音響導波路6からこれらの部材に進入する音波、及び、透明支持板7を通過しての音波漏れは、ほとんど無視できる程度のものである。これは、空気やナノ多孔体に比べて、これらの材料の音響インピーダンスが極めて大きいためのである。
【0052】
従って、ベース3の凹部3aに光音響伝搬媒質部2を収納したのち、透明支持板7でベース3の凹部3a及び光音響伝搬媒質部2を覆うように固定する結果、開口部4のみが外部に開口し、ベース3の凹部3aの他の部分は開口していないように構成している。
【0053】
図1A及び図1Bの構成において、光音響伝搬媒質部2の光音響伝搬媒質の材料の一例として、固体骨格部が疎水化されているシリカ乾燥ゲルを用いる。すなわち、光音響伝搬媒質は、無機酸化物又は有機高分子のナノ多孔体、例えば、シリカナノ多孔体より構成されている。取り扱いのしやすさ及び強度上の観点から、光音響伝搬媒質部2の厚さは少なくとも1mm以上とする。一例として、その大きさは20mmx20mmである。前記シリカ乾燥ゲルは、前記のように、製造プロセスを調整することにより、光音響伝搬媒質部2の光音響伝搬媒質の密度を100kg/m以上とし、光音響伝搬媒質部2の内部での音速を300m/s以下にすることができる。このようなシリカ乾燥ゲルは、周囲環境気体14である空気との関係において、次の式(6)を満たす。
【0054】
【数10】


ここで、前記式(6)において、ρ、C、及びρNF、CNFは、それぞれ、空気の密度と音速、ならびに、シリカ乾燥ゲルの密度と音速を示している。前記式(6)が成り立つ条件下において、空気とシリカ乾燥ゲルとの境界面では、反射係数が0となる屈折角が存在することが特許文献3に示されている。すなわち、これは、空気中から境界面に到達した音波のエネルギーは、損失なくシリカ乾燥ゲルに取り込まれる角度が存在することを意味する。
【0055】
また、前記シリカ乾燥ゲルの固体骨格部は疎水化されており、その密度は500kg/m以下である。この乾燥ゲルは、平均細孔直径が100nm以下のナノ多孔体乾燥ゲル(ナノ多孔質乾燥ゲル)である。
【0056】
なお、無機酸化物の乾燥ゲルの固体骨格部は、少なくとも酸化ケイ素(シリカ)又は酸化アルミニウム(アルミナ)を成分とすることが好ましい。また、有機高分子の乾燥ゲルの固体骨格部は、一般的な熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂により構成することができる。例えば、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール硬化樹脂、ポリアクリルアミド、又は、ポリメタクリル酸メチルなどを用いることができる。
【0057】
光音響伝搬媒質部2を、例えばシリカを主成分とするナノ多孔体乾燥ゲルから形成する場合、その密度ρが200kg/mであれば、音速Cを100m/sから180m/s程度の範囲に設定することができる。周囲空間を満たす流体が空気である場合、空気の密度ρは1.22kg/m、音速Cは340m/sであるので、前記の光音響伝搬媒質部2を採用することにより、ρ<ρ、及び、C<Cの関係を同時に満足させ、かつ、(ρ/ρ)<(C/C)の関係を満足させることができる。
【0058】
前記した構成によれば、空気中を伝搬してきた音波は、音波伝搬方向5に沿って開口部4に入射し、開口部4から音響導波路6内に入射する。音響導波路6を伝搬する音波は、その伝搬に伴って、光音響伝搬媒質部2の上面2aから光音響伝搬媒質部2を構成するシリカ乾燥ゲルの中に進入し音波伝搬方向94(図1B参照)に伝搬する。93は音波伝搬の等位相面(波面)を模擬的に示している。一方、LDVヘッド8からシリカ乾燥ゲル2へ照射されたレーザ光10はシリカ乾燥ゲル2の中を通過し、ベース3の凹部3aの底面3cにより反射され、反射されたレーザ光10は、再び、シリカ乾燥ゲル2の中を通過して、シリカ乾燥ゲル2から射出され、LDVヘッド8によって再び受光される。このとき、レーザ光10がシリカ乾燥ゲル2中を通過する際に、前記進入した音波によりレーザ光10が変調される。このレーザ光10の変調は、シリカ乾燥ゲル2の中での音波の伝搬に伴うシリカ乾燥ゲル2の内部の密度変化及び屈折率変化に起因する。LDVヘッド8から照射されてシリカ乾燥ゲル2を通過しているレーザ光10、又は、一旦シリカ乾燥ゲル2を通過したのちベース3の凹部3aの底面3cにより反射されてシリカ乾燥ゲル2を通過しているレーザ光10が、前記シリカ乾燥ゲル2に進入した音波により変調されるか否かにかかわらず、最終的にシリカ乾燥ゲル2から射出されて、LDVヘッド8によって再び受光され、LDV演算処理部9によって光学的及び電気的に復調される。前記音波により変調されたレーザ光10がLDV演算処理部9によって光学的及び電気的に復調されて、変調された信号として生成される。この変調された信号は、音圧換算用の出力信号の例としてのLDVの計測速度信号(あるいは積分された変位信号)としてLDV演算処理部9から出力され、この出力信号から、LDV演算処理部9に接続された音圧換算用演算部90で、シリカ乾燥ゲル2の内部を伝搬する音波の音圧が換算できる。
【0059】
ここで、シリカ乾燥ゲル2の内部でのレーザ光10による音波計測点においては、音波は、ほぼ完全な進行波となっている。また、通常のLDVヘッド程度のレーザ出力においては、レーザ光による音波の影響は無視できる。また、本第1実施形態にかかる光超音波マイクロフォン1は、従来のマイクロフォンや超音波センサのように振動板や圧電素子などの電気機械変換機構が無い構造であることから、これらの電気機械変換機構による音波反射現象が原因となる残響や不要共振などが無いため、前記光超音波マイクロフォン1では、極めて原音に忠実な音波の計測が可能である。さらに、前記光超音波マイクロフォン1においては、計測点以降の部分については、構造的な制約は無いため、計測点以降の光音響伝搬媒質部2の端部に音波吸収機構や音波散乱機構を構成し、光音響伝搬媒質部2内の不要な音波伝搬を抑制することができる。
【0060】
図2は、本発明第1実施形態における前記光超音波マイクロフォンのX−Z方向の断面図である。以下、図2を参照して、本発明の音圧計測の原理を説明する。図2において、音響導波路6には、図2の紙面の表側から裏側方向に音響平面波が伝搬しているとする。音響平面波は、その一部が光音響伝搬媒質部2であるシリカ乾燥ゲルに取り込まれ、音波伝搬方向21(音波伝搬方向94の下向き成分のみに対応)の方向に伝搬する。音波伝搬方向21は、単純化するため、下向きに示しているが、実際には、空気とシリカ乾燥ゲル2の図2の紙面裏側に向かう成分も併せて持っている。
【0061】
シリカ乾燥ゲル2内を伝搬する音波は、ここでは、パルス上の波束22として濃淡で示してある。波束22の黒い部分は音圧が0の部分で、白い部分は音圧のピーク(正負含む)を示している。波束22の白い部分では、音圧によりシリカ乾燥ゲル2の体積Vの伸縮、すなわち体積変化ΔVが生じている。これらの体積変化ΔVにより、シリカ乾燥ゲル2の屈折率nがΔnだけ変化する。これらの関係は、式(7)となる。
【0062】
【数11】


本発明の第1実施形態においては、前記したように、シリカ乾燥ゲル2の内部で音波は音響平面波として伝搬する。従って前記体積変化ΔVは音波の進行方向の変位のみに限定されるため、式(8)が成立する。
【0063】
【数12】


ここで、lはシリカ乾燥ゲル2において音波に伴う音波伝搬方向の長さ、Δlはシリカ乾燥ゲル2において音波に伴う音波伝搬方向の変位、Sは音波伝搬方向におけるシリカ乾燥ゲル2のひずみを示す。シリカ乾燥ゲル2の内部の音圧Pは、ひずみSとシリカ乾燥ゲル2の弾性定数ENFにより式(9)で表現できる。
【0064】
【数13】


また、弾性定数ENFは、シリカ乾燥ゲル2の密度ρNF、音速CNFより、以下の式(10)により求められる。
【0065】
【数14】


式(6)から式(10)によれば、シリカ乾燥ゲル2の内部の音圧Pは、シリカ乾燥ゲル2の密度ρNF、音速CNF、屈折率n、屈折率変化Δn、ならびに音波とレーザ光10が干渉する距離Lと、計測に使用するLDVヘッド8の変位出力ΔLあるいは、速度出力νによって、式(11)となる。
【0066】
【数15】



従って、出力される速度出力νあるいは変位出力ΔLを用いれば、音圧Pを計測することができる。
【0067】
前記第1実施形態の1つの実施例において、シリカ乾燥ゲル2は密度160kg/m、音速90m/sとした。屈折率はn=1.07である。特許文献3に開示された理論より、空気からの入射角89.5度で反射率は0となり、このときの屈折角は約16度である。前記のように空気からの入射角は境界界面にほぼ平行であるので、音響導波路6に音響平面波を伝搬させた場合には、音響平面波の持つ音圧値と同じ音圧値の音響平面波が、シリカ乾燥ゲル2の内部に伝搬する。第1実施形態の音響導波路6は、開口部4から遠くなるに従い(開口部4から終端部に向かうにつれて)高さが徐々に低く(Z方向の寸法が徐々に小さく)なっている。この効果により、シリカ乾燥ゲル2の内部に音響エネルギーが取り込まれても、音響導波路6の内部での音圧低下が無く、一様な音圧の音響平面波が、シリカ乾燥ゲル2内に伝搬する構造とした。
【0068】
以下、原理評価系の関係から100kHz以下の音波で、原理実証した結果について述べる。計測音波として中心周波数40kHz、駆動信号1波長で広帯域ツィータから放射した場合の結果について示す。中心周波数40kHzを考慮して、音響導波路6の幅と初期高さ(開口部4での高さ)は、共に4mmとした。光音響伝搬媒質部2の一例であるシリカ乾燥ゲルの厚みも4mmである。シリカ乾燥ゲル2を往復するレーザ光10の計測には、波長633nmのHe−Neレーザを使用したヘテロダイン方式のレーザドプラ振動計(LDVヘッド8)を、光源及び光検出手段の一例として用いた。音波による光の変調は、周波数変調である。ベース3にはアルミニウム材を用い、透明支持板7には厚み1mmのアクリル板を使用した。He−Neレーザから照射されるレーザ光10は、透明支持板7のアクリル板を通過した後にシリカ乾燥ゲル2に入射し、ベース3の凹部3aの底面3cによって反射されて、光経路を逆に伝搬してLDVヘッド8に戻る。従って、音波計測用の光経路は、シリカ乾燥ゲル2の厚み4mmの2倍である8mmである。
【0069】
図3は、本発明の第1実施形態における光超音波マイクロフォン1のLDV出力波形(変位振幅計測波形)31の一例を示している。図4のY=8mm、Z=3mmの位置における波形である。図3より、ツィータによる送波音圧が忠実に再現されており、極めて広帯域な音圧計測が可能であることが示された。すなわち、本発明の第1実施形態によれば、従来では困難であった高い周波領域でかつ広帯域な超音波の受波が可能となり、100kHz以上の実効的な帯域を持つ標準マイクロフォンが実現できることになる。
【0070】
図4は、シリカ乾燥ゲル2の内部の音波伝搬を、LDVヘッド8で2次元走査して計測した伝搬時間の結果から、音波伝搬の等位相面(波面)42の状況を示したものである。音波伝搬方向41は設計値とほぼ一致しており、約16度の屈折角でシリカ乾燥ゲル2を平面波として伝搬していることが観察でき、理論設計どおりの動作を確認した。
【0071】
図3の波形31からピーク変位は約22nmである。式(11)から換算される音圧Pは約54.5Pa程度となり、入力換算音圧の38Paよりもやや高めであった。これらは、前記光超音波マイクロフォン1と音圧校正に用いた標準マイクロフォンの回折効果が原因である。前記計測されて換算される音圧と前記入力換算音圧とは、オーダー的には十分に一致しており、前記計測されて換算される音圧を適切に校正することにより、極めて正確な音圧測定が可能である。音圧1Paあたりの屈折率の変化率は、約5.4x10−8であり、空中の屈折率変化(2.0x10−9)や水の屈折率変化(1.5x10−10)と比較して1桁以上大きい。この大きな屈折率の変化率により、音波計測用の光経路長は8mmという極めて短い光経路で音圧計測を可能としている。
【0072】
なお、ここでは、シリカ乾燥ゲル2を光音響伝搬媒質部の一例として用いたが、原理的には、有機乾燥ゲルで式(6)を満たすものであれば使用することができる。その場合には、吸収の少ない波長帯のLDVヘッド8を選択して使用する必要がある。また、透明支持板7としては、使用するレーザ光10に対して吸収の少ないものであればよく、また、ベース3等の構造により、光音響伝搬媒質部2が十分に保持されていれば、透明支持板7は無くてもかまわない。
【0073】
(第2実施形態)
図5Aに、本発明の第2実施形態の光超音波マイクロフォン51の斜視図を示す。以下、第1実施形態と同じ機能、形の構成要素については、同じ番号を用いる。
【0074】
図5Aにおいて、51は光超音波マイクロフォン、52は第1実施形態の光音響伝搬媒質部2と同じ機能を有しかつ光音響伝搬媒質の一例であるシリカ乾燥ゲルより構成される光音響伝搬媒質部、53は第1実施形態のベース3と同じ機能を有するベース、71は音響ホーン(収束部)の開口、55は音波(例えば超音波)の音波伝搬方向、56は第1実施形態の音響導波路6と同じ機能を有する音響導波路60を形成するための音響導波部材、57はシリカ乾燥ゲル52における音波の収束点、58は第1実施形態のレーザ光10と同様なレーザ光を示す。
【0075】
図5Aに示す第2実施形態の光超音波マイクロフォン51の特徴は、音響ホーン及びその開口71を持つことと、シリカ乾燥ゲル52、及び、音響導波路60の形状が曲線形状になっていることである。図5Aでは、理解しやすくするため、シリカ乾燥ゲル52の表面側に位置するベース53の一部を破断させて、シリカ乾燥ゲル52を露出させるように図示しているが、実際には、シリカ乾燥ゲル52の表面は、後述する計測用貫通穴53aを除き、ベース53で全て覆われている。すなわち、シリカ乾燥ゲル52の図5Aの表面及び裏面及び左側面及び底面をベース53で支持しかつ残りの右側面を音響導波部材56で覆って音響導波路60の一部として構成することにより、シリカ乾燥ゲル56はベース53及び音響導波部材56で十分に保持されており、前記第1実施形態の透明支持板7に相当する透明支持体は持たないものである。レーザ光58は、便宜上、空中の経路のみを記載している。LDVヘッド8及びLDV演算処理部9は第1実施形態と同様である。
【0076】
本発明の第2実施形態にかかる光超音波マイクロフォン51は、気体などの音響インピーダンスの極めて小さい環境流体14から固体へ高い効率で音波を伝搬させ、固体に透過した音波を固体内部で収束させることによって音波のエネルギー密度を高めることができ、これにより、音波を高感度で受信することができるものである。
【0077】
環境流体を伝搬する音波は、音響導波部材56の先端に連結された音響ホーンである収束部77の開口部71から入射し、収束部77によって音波の音圧が高められる。収束部77で音圧が高められた音波は、収束部77に連結された音響導波部材56の音響導波路60へ導かれる。音響導波路60は、音波を所定の方向へ伝搬させる。光音響伝搬媒質部の一例であるシリカ乾燥ゲル52は、音響導波部材56に隣接して、音響導波路60の一部を構成するように設けられており、音波が音響導波路60内を伝搬するに従って、音響導波路60に接した界面から少しずつ、音波が光音響伝搬媒質部52へ透過する。このとき、界面において音波の伝搬方向が屈折する。
【0078】
光音響伝搬媒質部52へ透過する音波は、LDVヘッド8が設けられた位置である収束点57へ収束するように伝搬媒質部52内へ入射するため、LDVヘッド8は、光音響伝搬媒質部52へ少しずつ透過しかつ収束点57で収束した音波を、レーザ光58を利用して第1実施形態と同様に検出する。ベース53は伝搬媒質部52を保持するために設けられている。ベース53は実際には、光音響伝搬媒質部52のX方向における手前側及び奥側にも設けられているが、図5Aでは、光音響伝搬媒質部52を示すために省略されている。
【0079】
以下、各部の構造を詳細に説明する。
図5Bは、図5Aに示す光超音波マイクロフォン51の一部を、X方向における収束部77及び音響導波部材56の中央で、YZ平面と平行な平面によって切断した断面図を示している。
【0080】
収束部77は、音響導波部材56の開口(第1の開口)63に接続される端部72及び開口(第2の開口)71を有する内空間70を規定している音響ホーンである。開口71は開口63よりも大きい。開口71から音波伝搬方向55で入射した音波は、内空間70によって伝搬方向が制御されるとともに、圧縮される。このために、内空間70は、開口71から音波の伝搬する伝搬方向gに沿って、伝搬方向gに垂直な断面積aが徐々に小さくなるように構成されている。
【0081】
より好ましくは、断面積aが、開口71から音響導波路60の開口63に向う伝搬方向gに対して指数関数的に減少するよう、内空間70を規定する収束部77の内側面が伝搬方向gに沿って曲面形状を有しているように構成する。収束部77のX方向の幅寸法は一定でもよいし、幅寸法が徐々に小さくなっていてもよい。収束部77のX方向の幅寸法が一定である場合には、Z方向の幅寸法は伝搬方向gに対して指数関数的に減少するように構成するのが好ましい。また、収束部77のX方向の幅寸法及びZ方向の幅寸法を伝搬方向gに対して√eに比例して減少させることにより、断面積aを指数関数的に減少させてもよい。このように断面積aが指数関数的に減少することにより、収束部77での音波の反射を最小に抑えて、位相の乱れなく音波を圧縮し、音圧を高めることができる。
【0082】
収束部77は、例えば、Y方向に100mmの長さを有し、開口71はZ方向及びX方向にそれぞれ50mmの長さを有する正方形状である。また、端部72は、X方向及びZ方向に2mmの長さを有する正方形状である。本第2実施形態では、Z方向及びX方向の2方向に長さを変化させている。ホーン開口71の位置をY方向の原点(0)とした場合、原点からのY方向の位置=0mm/20mm/40mm/60mm/80mm/100mmのそれぞれの位置における内空間70のX方向及びZ方向の長さ(X方向の長さとZ方向の長さとはそれぞれの位置で同一。)は、50.0mm/26.3mm/13.8mm/7.2mm/3.8mm/2.0mmである。
【0083】
上述のサイズを備えた収束部77によれば、収束部77が無い場合に比べて、約10dB程度の音波の音圧上昇の効果が得られる。また、音圧の時間変化となる音圧波形の形状は、開口71と端部72とでの測定結果において、ほとんど変化が見られず、環境流体(例えば空気)14を伝搬する音波を乱すことなく、端部72において音波エネルギーが圧縮されている。
【0084】
収束部77は、例えば、金属である肉厚5mmのアルミニウム板を機械加工により所定の形状に加工することによって構成することができる。内空間70を伝搬する音波がほとんど透過せず、形状の効果によって音波エネルギーの密度を高めることのできる材料であれば、アルミニウム以外の材料によって収束部77を形成してもよい。例えば、樹脂やセラミックなどの材料を用いて収束部77を構成してもよい。また、収束部77はホーン型の外形を有していなくてもよく、内空間70が上述したようなホーン形状を有していればよい。
【0085】
音響導波部材56は、音波を所定の方向へ伝搬させる音響導波路60を規定している。本第2実施形態では、導波路60は、図5Bに示すように、ZY平面において伝搬方向gが曲がっており、ZY平面における幅寸法も位置によって変化している。伝搬方向gはZY平面に対して平行である。導波路60のX方向の幅寸法も一定であり、例えば、2mmである。しかしX方向の幅寸法も変化するように設計することも可能である。
【0086】
音響導波路60は、光音響伝搬媒質部52と接し、光音響伝搬媒質部52との界面により規定される透過面61と、音響導波部材56により規定される導波路外面62とを含んでいる。また、導波路60のX方向の手前側及び奥側も、音響導波部材56により規定されている。
【0087】
以下において詳細に説明するように、音波が導波路60を伝搬するに従って音波の一部が透過面61から光音響伝搬媒質部52へ透過し、導波路60を伝搬する音波のエネルギーが低下する。このため、エネルギーの低下を補うように音波を圧縮するために導波路60の断面積を小さくする。具体的には、透過面61と導波路外面62とは、YZ平面における伝搬方向gに垂直な幅が伝搬方向に対して単調減少するように構成されており、導波路60は導波路終端64において閉塞されている。これにより、導波路60を伝搬する音波のエネルギー密度を一定に保ちながら音波を伝搬媒質部52へ効率的に屈折透過させることができる。
【0088】
前述したように、透過面61は光音響伝搬媒質部52によって規定され、透過面61は光音響伝搬媒質部52へ音波が透過する透過面となる。光音響伝搬媒質部52は、環境流体14よりも音波の伝搬速度が遅いという特徴を備え、伝搬媒質によって構成されている。つまり、伝搬媒質及び環境流体14における音波の音速をC及びCとしたとき、以下の関係の式(12)を満たしている。
【0089】
【数16】

【0090】
このような伝搬媒質としては、無機酸化合物又は有機高分子の乾燥ゲルが挙げられる。無機酸化合物の乾燥ゲルとしては、シリカ乾燥ゲルを用いることが好ましい。シリカ乾燥ゲルは、例えば以下の方法により得られる。
【0091】
まず、テトラエトキシシラン(以下、TEOSと略す。)、エタノール及びアンモニア水を混合した溶液を作製し、これをゲル化させることによって湿潤ゲルを作製する。湿潤ゲルとは、乾燥ゲルの空孔部分に液体が満たされた状態のものを言う。この湿潤ゲルの液体部分を液化炭酸ガスで置換し、炭酸ガスを用いた超臨界乾燥法によって除去することによってシリカ乾燥ゲルが得られる。シリカ乾燥ゲルの密度は、TEOS、エタノール及びアンモニア水の混合比を変えることにより調整でき、音速は密度に応じて変化する。
【0092】
シリカ乾燥ゲルは、酸化ケイ素の微細な多孔質構造からなる材料であり、骨格部分は疎水化されている。空孔及び骨格部分の大きさは数nm程度である。このような構造体の空孔部分に液体が含まれた状態から直接溶媒を乾燥させると、溶媒が揮発する際に毛管現象による大きな力が働き、骨格部分の構造が壊れやすい。この破損を防止するために表面張力の働かない超臨界乾燥法を用いることにより、シリカ骨格部分を壊さずに乾燥ゲル体を得ることができる。
【0093】
以下において詳細に説明するように、光音響伝搬媒質部52の伝搬媒質は、より好ましくは、伝搬媒質及び環境流体14の密度をそれぞれρ及びρとしたとき、以下の条件の式(13)を満足している。
【0094】
【数17】

【0095】
光音響伝搬媒質部52の伝搬媒質は、より好ましくは、100kg/m以上の密度ρ及び300m/s以下の音速Cを有している。
【0096】
本第2実施形態で用いる光音響伝搬媒質部52を構成するシリカ乾燥ゲルの密度ρ及び音速Cは、それぞれ200kg/m及び150m/sである。これらの値は、特許文献1に示した屈折伝搬現象を満たす材料である。なお、空気の密度ρ、音速Cは室温付近で、それぞれ1.12kg/m、340m/sである。
【0097】
また、光音響伝搬媒質部52は、環境流体14から取り込んだ音波を収束点57まで伝搬させる役割を果たすため、内部損失が大きいと、収束点57に到達する音波が弱まってしまう。このため、光音響伝搬媒質部52は、内部損失が少ない材料が好ましい。シリカ乾燥ゲルは、上述の音速及び密度の条件を満たし、内部損失が小さい材料である。
【0098】
このようなシリカ乾燥ゲルは密度が低いことから、機械的強度も低い。このため、取り扱いが困難である。本第2実施形態でも、光音響伝搬媒質部52を支持するためにベース53を設けている。
【0099】
音響導波部材56及びベース53は、例えば、図5C及び図5Dに示す形状によって構成することができる。図5Cに示すように、アルミニウム部材を用いて、導波路外面62を含む導波路60を規定する音響導波部材56を成形する。
【0100】
一方、図5Dに示すように、光音響伝搬媒質部52を保持するベース53を用意する。ベース53によって保持された光音響伝搬媒質部52の露出した面は、透過面61を規定する。例えば、多孔質セラミックスからなるベース53をまず成形し、透過面61を規定する面がフッ素系樹脂などから構成される型にベース53をはめ込み、空間内に湿潤ゲルを導入する。その後、液体部分を液化炭酸ガスで置換し、乾燥させることにより、光音響伝搬媒質部52とベース53とが一体化した部材を得る。
【0101】
図5Dに示されるように光音響伝搬媒質部52を保持したベース53のA及びBの両端部分と、図5Cに示す音響導波部材56のC及びDの両端部分をそれぞれ対応させて、エポキシ樹脂などの接着材などにより接合することによって、光音響伝搬媒質部52によって透過面61が規定された導波路60を構成することができる。
【0102】
次に音響導波部材56が規定する導波路60及び光音響伝搬媒質部52の幾何学的形状と音波の伝搬を詳細に説明する。
図5Eは、導波路60の一部を拡大して示している。図5Eにおいて透過面61、及び導波路外面62を点線で示し、透過面61の任意の点における接線の垂線を一点鎖線で示している。また、音波の伝搬方向を矢印55aで示している。
【0103】
図5Eに示すように、導波路60内を進行する音波は、導波路60の形状に従って進行方向を変化させながら導波路60を満たしている環境流体14中を伝搬していく。このうち、導波路60と光音響伝搬媒質部52との界面である透過面61へ接触する音波の成分は、透過面61の法線に対して角度θで透過面61に入射し、スネルの法則を満足するように、透過面61の法線と一定の角度θをもって光音響伝搬媒質部52へ屈折透過していく。
【0104】
光音響伝搬媒質部52の内部における音波の伝搬方向の角度θは以下の式(14)で示される。ここで、前記式(12)の関係を満たすとき、式(14)によって求められる角度θは正の値となり、光音響伝搬媒質部52内に音波が屈折透過する。
【0105】
【数18】

【0106】
ここで式(14)において、ρ、Cは、それぞれ環境流体の密度及び音速であり、ρ、Cはそれぞれ、光音響伝搬媒質部52の伝搬媒質の密度及び音速である。それぞれの値は上述したとおりである。
【0107】
一方、導波路60と光音響伝搬媒質部52との界面における反射率Rは、下記式(15)で示される。
【0108】
【数19】

【0109】
音響導波路60から光音響伝搬媒質部52へできるだけ高効率で音波を屈折透過させるためには、反射率Rは小さいほうが好ましい。C、C、ρ、ρが前記式(13)を満たす場合、式(15)の分子がゼロとなる角度θ、θが必ず存在する。つまり、反射率Rがゼロとなる。
【0110】
本第2実施形態では、環境流体14及び光音響伝搬媒質部52は、上述した空気及びシリカ乾燥ゲルであり、ρ、C、ρ、Cは上述した値を有する。これらの値を式(14)に代入すると、角度θは約26度となる。このとき、角度θが約89度であれば、反射率Rはほぼゼロとなる。よって、本第2実施形態の条件においては、透過面61の法線に対して、約89度で透過面61に音波が入射することによって、角度θが約26度となる方向へ音波は高い透過効率で光音響伝搬媒質部52の内部へと透過していく。
【0111】
反射率Rがほぼゼロとなる場合の屈折角度θは約26度であり一定であるが、透過面61を曲面にすることによって、透過面61の異なる位置から光音響伝搬媒質部52へ透過した音波を所定の点に向かって伝搬させ、音波を収束させることができる。また、透過面61に沿って導波路60を屈曲させることによって、音波が導波路60を伝搬するに従って、音波の一部を常に一定の角度θで透過面61に入射させることができる。本第2実施形態では、このことを利用して、導波路60を伝搬する音波を少しずつ光音響伝搬媒質部52へ屈折透過させ、光音響伝搬媒質部52内の一点に音波を収束させることによって、高い受波感度を実現する。
【0112】
また、式(14)で示される屈折角度θや式(15)で示される反射率Rは、音波の周波数に依存しないため、伝搬する音波の周波数に関わらず、音波を高い透過効率で光音響伝搬媒質部52へ透過させることができる。従って、本第2実施形態の光超音波マイクロフォン51は、広帯域の音波を高い感度で検出することが可能である。すなわち、本発明の第2実施形態によれば、従来では困難であった高い周波領域でかつ広帯域な超音波の受波が高い感度で可能となり、100kHz以上の実効的な帯域及び高い感度を持つ標準マイクロフォンが実現できることになる。
【0113】
なお、光学レンズの分野において、例えば、日本特許第2731389号は、光導波路の側面から放出される光を収束させる構造を開示している。しかし、一般に光導波路では、クラッド層と導波路との境界で光が反射を繰り返しながら伝搬するのに対し、本第2実施形態の導波路60では音波は導波路60の外面や側面で音波は反射しない。このため、光導波路60では伝搬する光の位相が揃っていないのに対して、本第2実施形態では位相の揃った音波を伝播させることが重要である。このようなことから、光学分野におけるこうした技術は、本第2実施形態とは全く発想の異なる技術といえる。
【0114】
図6Aは、導波路60と光音響伝搬媒質部52を拡大し、音波の伝搬経路を実線の矢印で示した図である。ここで、音波を収束させる収束点57を光音響伝搬媒質部52内に設定する。収束点57には、第1実施形態で説明したように、LDVヘッド8を対向させて、レーザ光58を利用してLDVヘッド8及びLDV演算処理部9で音波を検出するようにしている。
【0115】
図6Aにおいて、透過面61の開口63における点を始点Pとし、透過面61の開口63に近い方から順に点P、P、P、・・・・、Pとする。また、点Pから点Pまでの距離をLa1、点Pから点Pまでの距離をLa2、・・・、点Pn−1から点Pまでの距離をLanとする。さらに、点P、P、・・・・Pと収束点57との距離を、それぞれLn1、Ln2、・・・・、Lnnとする。
【0116】
開口63から入射し、導波路60内を伝搬し、さらに光音響伝搬媒質部52へ屈折透過した音波が、収束点57で集束するためには、以下の式(16)を満たすことが必要である。
【0117】
【数20】

【0118】
光音響伝搬媒質部52内の収束点57に音波が集束するということは、収束点57において音波の位相が揃うということを意味している。すなわち、開口63から、収束点57までの音波の到達時間がどの経路を通った場合も同一であることを意味する。具体的には、式(16)において、最も左の等号の左辺は、音波が環境流体14中を距離La1だけ伝搬し、光音響伝搬媒質部52中を距離Ln1だけ伝搬することによって、収束点57に到達するまでの時間を示している。また、最も左の等号の右辺は、音波が環境流体14中を距離(La1+La2)だけ伝搬し、光音響伝搬媒質部52中を距離Ln2だけ伝搬することによって、収束点57に到達するまでの時間を示している。同様の手順により、各点Pにおいて、導波路60から光音響伝搬媒質部52へ透過した音波が収束点57に到達するまでの時間を、求めることができる。
【0119】
式(16)を一般化し、導波路60の開口63から、透過面61上の音波の伝搬方向に沿った任意の点Pまでの導波路の距離をLakとし、点Pから、光音響伝搬媒質部52中の、点Pとは異なる収束点F(57)までの距離をLnkとしたとき、式(16)は、1からnまでの任意のkに対して、以下の式(17)を満たす条件として表される。
【0120】
【数21】

【0121】
式(17)は、上述したように、透過面61の任意の位置における開口63から収束点57までの所要時間が、どの点を取っても一定であることを示している。言い換えれば、前記式(17)を満たすことにより、光音響伝搬媒質部52内に取り込まれた音波は、音波収束点57に収束することを意味している。図5Aにおける構成において、光音響伝搬媒質部52の音響導波路60側の形状は、式(17)を満たしている。
すなわち、前記したように、図6Aはこの原理を説明する図であり、音響導波路開口63を始点として、光音響伝搬媒質部52の音響導波路60の内側面61の任意の点からシリカ乾燥ゲル52内に進入した音波であっても、式(17)を満たす音響導波路内側面61であれば、音波収束点57に収束する。これは、光音響伝搬媒質部52内で、音波収束点57を中心とした円筒形(部分円筒形)の波面を構成する形状になっているためである。
なお、厳密には、導波路60を伝搬する音波の伝搬距離は、導波路60の中央の経路を用いて算出するのが、より正確であると思われる。しかし、以下で説明するように導波路60の幅寸法は、その長さに比べて十分小さい。このため、上述の近似で実用的には十分な精度を有している。
【0122】
次に、導波路60を規定する透過面61及び導波路外面62の形状の設計を説明する。透過面61及び導波路外面62の形状は、次のようなステップで設計される。
【0123】
まず、導波路60の開口63の大きさから、音波を効率良く光音響伝搬媒質部52に取り込める導波路60の長さが決定される。導波路60の長さより、透過面61が音波を収束する形状として設計される。その後、決定した透過面61の形状と導波路60に必要な幅を考慮して、透過面61の形状が設計される。
【0124】
導波路60の開口63の大きさは、受波する音波の波長の1/2以下であることが好ましい。導波路の幅が伝搬する音波の波長の1/2よりも大きい場合、導波路60の内部で音波が反射し易くなり、音波の伝搬を乱し、正確な音波の測定が困難になるからである。
【0125】
本第2実施形態においては、一例として、周波数80kHzまでの音波の受波を考慮しているため、周波数80kHzの1/2波長である2.1mmより小さい2.0mmとし、開口63は一辺が2.0mmの正方形状を有している。収束部77の端部72は開口63と等しいサイズに設計されている。
【0126】
導波路60の長さは、導波路60内を伝搬する音波のできるだけ大部分が、光音響伝搬媒質部52に屈折透過していくような、十分な長さを備えていることが好ましい。図12を参照して説明したように、屈折伝搬型音波の場合、長さLの範囲を伝搬してきた音波が第2表面領域112を介して光音響伝搬媒質部103の内部へと透過していく。図12の長さL及び長さLは、図6Aに示す導波路60のYZ平面における開口63のZ方向の長さ及び透過面61のYZ平面における長さに対応している。透過面61のYZ平面における長さ、つまり、導波路60における音波の伝搬方向gの長さが十分でなければ、音波を十分に光音響伝搬媒質部52へ透過させることができず、受波感度の低下や、取り込めなかった音波の反射の影響などにより、測定精度が低下するなどの悪影響が発生する。
【0127】
本第2実施形態においては、環境流体14中における光音響伝搬媒質部52の法線と、音波伝搬方向55aのなす角度であるθa(図5E)が、約89.3度であるため、長さLと長さLの比は、約L/L=88となる。このため、理想的には開口63の約90倍以上の長さを導波路60が有していることが好ましい。本第2実施形態では、導波路60の開口63が2mmであり、導波路60の長さを開口63の100倍となる200mmに設定している。
【0128】
このように、開口63及び導波路60の長さが決定され、導波路60の長さに基づいて透過面61の形状が設計され、さらに導波路外面の形状が設計される。
【0129】
以上のように構成される第2実施形態の光超音波マイクロフォン51の導波路60を伝搬する音波が光音響伝搬媒質部52へ透過し、収束点57に収束する過程を計算実験により求めた結果を図6B〜図6Gに示す。図6B〜図6Gでは、音波の位置や位相を分かりやすく表示するため、光超音波マイクロフォン51の導波路60と光音響伝搬媒質部52のみを示している。
【0130】
図6B〜図6Gは、音波が伝播する様子を、時間を追って示しており、図6Bが時間的に一番早く、図6Gが一番遅い状態を示している。図6B〜図6Gに示す導波路60を規定する透過面61及び導波路外面62は、上述した手順によって、収束点57に導波路60を伝搬する音波が収束するように設計されている。導波路60の開口63は上方に位置し、閉塞した終端は下方に位置している。導波路60内は環境流体14、ここでは空気で満たされている。
【0131】
図6Hは、開口63から入射させる音波の波形を示している。音波の中心周波数は約40kHzであり、音波は、約5波長分の長さを有している。図6B〜図6Gにおいて、光音響伝搬媒質部52の内部及び、導波路60の内部の音波の音圧レベルが色の濃淡で示されている。色の濃い部分は大気圧を基準としてより高い音圧を示しており、色の薄い部分は大気圧より低い音圧を示している。同じ色、例えば黒と黒、あるいは白と白との間が40kHz、つまり、音波の1波長に相当する。図6B〜図6Gにおいては、導波路60が非常に狭いため確認が困難であるが、導波路60の内部においては、空気の音速が340m/sであることから、同じ色の間の距離、すなわち、1波長の距離は約8.5mmとなる。一方、光音響伝搬媒質部52の内部においては、光音響伝搬媒質部52を構成する乾燥ゲルの音速が150m/sであることから、同色の間の距離、すなわち、1波長の距離は約3.75mmとなる。
【0132】
図6Bは、開口63より音波の3波長分が導波路60に伝搬し、ちょうど4波目の振幅の山が開口63より導波路60の内部へと伝搬した瞬間を示している。音波の導波路60の内部に伝搬した部分は、導波路60と接している透過面61から光音響伝搬媒質部52へ伝搬している。光音響伝搬媒質部52の内部に濃淡で示されている部分は透過面61から光音響伝搬媒質部52に屈折透過した音波の成分である。
【0133】
図6Cは、図6Bに示す状態から時間的に少し進んだ状態を示しており、導波路60の内部では、音波が導波路60の形状に沿って伝搬している。また、導波路60の内部を伝搬する音波が、徐々に光音響伝搬媒質部52に屈折透過し、光音響伝搬媒質部52内部を伝搬していく状態を示している。図6B及び図6Cに示されるように、黒と白の濃淡で示される音波は、導波路60内のほうが、光音響伝搬媒質部52内に比べて、開口63からより長い距離を伝搬している。これは、導波路60内の環境流体14である空気の音速のほうが、伝搬媒質である乾燥ゲルの音速に比べて速いことを示している。
【0134】
図6Dも同様に、音波の一部が導波路60を伝播するにつれて、光音響伝搬媒質部52に屈折透過し、光音響伝搬媒質部52内部を伝搬していく様子を示している。屈折透過のため、透過面61において黒と白の濃淡で示されるパターンは折り曲がっているが、光音響伝搬媒質部52内においては、黒と白の濃淡で示されるパターンは、きれいな曲線を描きつつある。これは、光音響伝搬媒質部52内を伝搬する音波の位相が揃っていることを示している。
【0135】
図6Eは、導波路60のほぼ終端近傍を伝搬する音波と、光音響伝搬媒質部52の内部で収束点57に向けて徐々に収束しつつある音波の様子を示している。
【0136】
図6Fは、さらに音波の伝搬が進行し、導波路60の内部を伝搬する音波が導波路終端に達し、全て光音響伝搬媒質部52の内部に屈折透過し、光音響伝搬媒質部52の内部を伝搬する音波は、さらに収束点57に向かって収束しつつある様子を示している。
【0137】
図6Gは、光音響伝搬媒質部52の内部を伝搬した音波の最初の波面が、収束点57に到達している。図6Gに示されるように、黒の濃淡がより濃くなっている、これは、収束点57において、音波が収束し、音圧が高められていることを示している。
【0138】
図6B〜図6Gでは具体的な数値は示していないが、実験結果から、導波路60の内部における大気圧からの音波による音圧の変化が約4Paである場合、収束点57付近における大気圧からの音圧の変化は約34Paであることが分った。これは、音波の音圧が8倍以上に高められたことを示しており、本第2実施形態によれば、高い感度で環境流体中の音波を観測することができることが明らかとなった。
【0139】
このように本第2実施形態によれば、音波を屈折させて環境流体14から光音響伝搬媒質部52に透過させることによって、音響インピーダンスの異なる界面での音波の反射を抑制し、高い効率で音波を光音響伝搬媒質部52に透過させることができる。また、環境流体14で満たされた導波路60の一面を構成するように光音響伝搬媒質部52を配置し、導波路60を伝搬するに従って、音波の一部が光音響伝搬媒質部52へ透過し、かつ所定の収束点57に収束するように、導波路60と接している面の形状を設計することにより、少しずつ光音響伝搬媒質部52へ透過した音波の位相を一致させて収束点57に収束させることができる。従って、導波路60の開口63から入射した音波の大部分を利用して音波を収束させることができ、受波した音波の音圧を高めることができる。これにより、高い感度で音波を検出することができる。
【0140】
なお、本第2実施形態の光超音波マイクロフォン51では、導波路60の終端は閉塞している。しかし、導波路60は、その終端を開放してもよい。図6Iに示す第2実施形態の変形例にかかる光超音波マイクロフォン51Aでは、導波路60の終端部64Aが開放されている。導波路60を伝搬する音波のエネルギーが比較的高く、全てのエネルギーを取り込む必要が無い場合は、導波路60を伝搬する音波のうち光音響伝搬媒質部52へ透過しなかった部分が終端で反射して悪影響を与えないように、導波路60から除去することが好ましい。音波受波器103によれば、導波路60の終端64が開放されているため、光音響伝搬媒質部52へ透過しなかった音波を除去することができる。これにより、受波した音波が乱れることなく、目的の音波を正確に検出を行うことができる。この場合導波路60の長さは上述したように開口との関係で定められる好ましい長さよりも短くてもよい。
【0141】
図7は、前記光超音波マイクロフォン51において、シリカ乾燥ゲル52の内部の音波伝搬を、LDVヘッド8で2次元走査して計測した伝搬時間の結果から、音波伝搬の等位相面(波面)72の状況を示したものである。ここでは、光音響伝搬媒質部52の一例として、密度270kg/m、音速145m/sのシリカ乾燥ゲルを使用した。この場合の各点における入射角は89.5度で、屈折角は26度となる。この音速値を基に曲面を設計した。音波伝搬方向71、等位相面72はシリカ乾燥ゲル52を円筒波として音波収束点57に向かって伝搬していることが観察でき、理論設計どおりの動作を確認した。
【0142】
図8は、音波収束点57の付近における光超音波マイクロフォン51のLDV出力波形(振幅計測波形)81の一例を示す図である。第1実施形態と同様に、計測音波として中心周波数40kHz、駆動信号1波長で広帯域ツィータから放射した場合の結果である。中心周波数40kHzを考慮して、音響導波路60の幅と初期高さ(開口部54での高さ)は共に4mmとした。光音響伝搬媒質部52の光音響伝搬媒質の一例であるシリカ乾燥ゲルの厚みも4mmである。光音響伝搬媒質部52を往復するレーザ光58の計測には、波長633nmのHe−Neレーザを使用したヘテロダイン方式のレーザドプラ振動計(LDVヘッド8)を、光源及び光検出手段の一例として用いた。音波による光の変調は、周波数変調である。ベース3にはアルミニウム材を用いている。He−Neレーザから照射されるレーザ光58は、シリカ乾燥ゲル52の表面側に位置するベース53の計測用貫通穴(収束点57に形成された貫通穴)53aを介してシリカ乾燥ゲル52に入射し、シリカ乾燥ゲル52を厚み方向に貫通したのち、光経路を逆に伝搬し、シリカ乾燥ゲル52の裏面側のベース53の内面で反射したのち、再び、シリカ乾燥ゲル52を厚み方向に貫通し、シリカ乾燥ゲル52の表面側に位置する前記ベース53の貫通穴53aから出射して、LDVヘッド8に戻る。従って、音波計測用の光経路は、シリカ乾燥ゲル52の厚み4mmの2倍である8mmである。
【0143】
図8の結果より、第1実施形態と同様に極めて広帯域な受波特性を有していることがわかる。図8の波形81からピーク変位は約5nmである。式(11)から換算される音圧Pは約54.2Pa程度である。音響ホーン終端での入力換算音圧は25Pa程度で2倍程度の収束効果が確認できた。この場合も、前記計測されて換算される音圧と前記入力換算音圧とは、オーダー的には十分に一致しており、前記計測されて換算される音圧を適切に校正することにより、極めて正確な音圧測定が可能である。
【0144】
第2実施形態においては、シリカ乾燥ゲル52の内部で音波を収束させることにより、より高い感度で広帯域受波が可能となる。
【0145】
(第3実施形態)
図9は、本発明の第3実施形態の光超音波マイクロフォン91のYZ断面図を示したものである。図9に示す構成において、図1A及び図1Bに示す第1実施形態との違いは、LDVヘッド8及び光音響伝搬媒質部2の一例としてのシリカ乾燥ゲルの相対的な位置関係が異なることと、ミラー92が存在することである。94はシリカ乾燥ゲル2における音波の音波伝搬方向、93は音波伝搬の等位相面(波面)を模擬的に示している。
【0146】
すなわち、LDVヘッド8は、その光軸が、光音響伝搬媒質部2の厚み方向ではなく、厚み方向と直交する方向沿いとなるように、かつ、ミラー92と対向するように配置されている。好ましくは、図9に示すように、LDVヘッド8の光軸が、矩形の光音響伝搬媒質部2の音響導波路6の一部を形成する上面2aに対して傾斜して配置されている。より詳しくは、音波がこの上面2aから光音響伝搬媒質部2内に進入するときの音波の音波伝搬方向94に対して直交する方向沿いに、LDVヘッド8とミラー92との間で形成される光経路が配置されるようにしている。LDVヘッド8から出射されたレーザ光10は、光音響伝搬媒質部2内入り、光音響伝搬媒質部2内を音波伝搬の等位相面(波面)93沿いに進み、LDVヘッド8と対向して配置されたミラー92で反射され、再び、同じ光経路を進み、光音響伝搬媒質部2内を音波伝搬の等位相面(波面)93沿いに進み、光音響伝搬媒質部2内から出て、LDVヘッド8で受波される。LDVヘッド8は、走査する必要が無く、固定配置されている。
【0147】
第1実施形態における図4に示したように、シリカ乾燥ゲル2内の音波伝搬は平面波状で、直線的な波面42が良好に形成される。第3実施形態ではこの現象を利用したものであって、波面93に平行にレーザ光10を長距離伝搬させる。光は、音波に比較して圧倒的に高速で伝搬するので、時間的な遅れ無しに、光経路長を延長することによって感度を向上させることが可能となる。従って、第3実施形態によれば、一例として、第1実施形態において8mmであった光経路長を45mm程度まで延長することが可能で、音波と光が重なり相互作用が起こる実効経路長を考慮しても、5倍程度の感度向上が可能となる。
【0148】
図10は、本発明の第3実施形態の変形例にかかる光超音波マイクロフォン95を示した、一部透視した状態の斜視図である。図10に示す構成において、図9に示す第3実施形態との違いは、LDVヘッド8及びミラー92とシリカ乾燥ゲル2の相対的な位置関係と、光反射面98、及び光透過窓96、97が設けられていることである。
【0149】
図10の光超音波マイクロフォン95においては、透明支持板7とシリカ乾燥ゲルの光音響伝搬媒質部2との境界面において光反射面98が形成されている。光反射面98は、透明支持板7の一面に、アルミニウムなどの金属を蒸着することで容易に形成できる。レーザ光10は、透明支持板7の一部に設けた光透過窓96及び97によってなされる。なお、図10では、本第3実施形態の動作を説明するため、便宜的に、光反射面98より背面の構造を透視図で表現している。光透過窓96、97は、透明支持板7に金属を蒸着する際に、密着マスクなどを用いて作成することができる。光透過窓96、97は、音波伝搬の等位相面93に沿った方向に配置する。LDVヘッド8及びミラー92はそれぞれ光透過窓96、及び98に配置され、図示していない保持機構によって所定の入射角、反射角を保持している。
【0150】
よって、前記構成によれば、LDVヘッド8から出射したレーザ光10は、光透過窓96を通過して、シリカナノ多孔体の光音響伝搬媒質部2に入射し、シリカナノ多孔体の光音響伝搬媒質部2のベース3との境界面(ベース3の凹部底面3c)及び光反射面98により所定の角度で反射されながら、等位相面93内を伝搬する。例えば、光透過窓96から光音響伝搬媒質部2に入射したレーザ光10は、光音響伝搬媒質部2を透過したのち、ベース3の凹部底面3cで反射し、再び、光音響伝搬媒質部2を透過したのち、光反射面98で反射する。光反射面98で反射した、レーザ光10は、光音響伝搬媒質部2を透過したのち、ベース3の凹部底面3cで反射し、再び、光音響伝搬媒質部2を透過したのち、光反射面98で反射する。これを繰り返すことによって、等位相面93に沿って光音響伝搬媒質部2内をレーザ光10が伝搬したのち、光透過窓97に到達したレーザ光10は、光透過窓97を透過してミラー92により、入射方向へ反射されて、逆方向に伝搬し、光透過窓96を通過して、LDVヘッド8に到達する。レーザ光10の伝搬速度は、シリカナノ多孔体2内の音速より約6桁だけ高速であるので、等位相面94の伝搬方向94での移動は無視できる。光透過窓96,97の間隔をD、シリカナノ多孔体2内でのレーザ光10の反射角をθ、シリカナノ多孔体2の厚みをtとしたとき、式(18)の関係が成立する。ここで、Nは繰り返し回数で、LはLDVヘッド8からミラー92までの片道の光路長である。
【0151】
【数22】


前記式(18)の関係から、例えば、光透過窓96,97の間隔Dを22mm、反射角θを5度、シリカナノ多孔体2の厚みtを4mmとすると、LDVヘッド8からミラー92までの片道の往復繰り返し回数Nは31回になる。このときの片道の光路長L約249mmであるので、全体としての光路長は約500mmとなり、第1実施形態と比較して約60倍の光路長を実現でき、飛躍的な感度向上が可能である。
【0152】
第3実施形態においては、第1実施形態の作用効果に加えて、シリカ乾燥ゲルを伝搬する音波の等位相面の空間的な広がりを利用することによって光路長の拡大を図り、屈折率変化計測の感度を大幅に向上させることができる。
【0153】
なお、前記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0154】
本発明の光超音波マイクロフォンによれば、従来では困難であった高い周波領域でかつ広帯域な超音波の受波が可能となり、100kHz以上の実効的な帯域を持つ標準マイクロフォンが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1A】本発明第1実施形態における光超音波マイクロフォンの斜視図
【図1B】本発明第1実施形態における光超音波マイクロフォンの一部断面正面図
【図2】本発明第1実施形態における光超音波マイクロフォンのX−Z断面図
【図3】本発明第1実施形態における光超音波マイクロフォンのLDV出力波形の一例を示す図
【図4】本発明第1実施形態における光超音波マイクロフォンの光音響伝搬媒質部の音波伝搬の等位相面の計測結果を示す図
【図5A】本発明第2実施形態における光超音波マイクロフォンの斜視図
【図5B】図5Aに示す光超音波マイクロフォンの断面図である。
【図5C】図5Aに示す光超音波マイクロフォンのベースの一部を示す斜視図
【図5D】図5Aに示す光超音波マイクロフォンの音響導波部材の一部を示す斜視図
【図5E】図5Aに示す光超音波マイクロフォンにおける音波の伝搬・屈折を説明する図
【図6A】本発明第2実施形態における光超音波マイクロフォンの音波収束を説明する図
【図6B】図5Aに示す光超音波マイクロフォンにおける音波の伝搬の様子を具体的に示す計算実験結果を示す図
【図6C】図5Aに示す光超音波マイクロフォンにおける音波の伝搬の様子を具体的に示す計算実験結果を示す図
【図6D】図5Aに示す光超音波マイクロフォンにおける音波の伝搬の様子を具体的に示す計算実験結果を示す図
【図6E】図5Aに示す光超音波マイクロフォンにおける音波の伝搬の様子を具体的に示す計算実験結果を示す図
【図6F】図5Aに示す光超音波マイクロフォンにおける音波の伝搬の様子を具体的に示す計算実験結果を示す図
【図6G】図5Aに示す光超音波マイクロフォンにおける音波の伝搬の様子を具体的に示す計算実験結果を示す図
【図6H】図6B〜図6Gに示す実験に用いた音波の波形を示す図
【図6I】本発明による第2実施形態の変形例を示す断面図
【図7】本発明第2実施形態における光超音波マイクロフォンの光音響伝搬媒質部の音波伝搬の等位相面の計測結果を示す図
【図8】本発明第2実施形態における光超音波マイクロフォンのLDV出力波形の一例を示す図
【図9】本発明第3実施形態における光超音波マイクロフォンのYZ断面図
【図10】本発明第3実施形態の変形例における光超音波マイクロフォンの一部透視した状態の斜視図
【図11】特許文献2における従来の超音波送受波器の断面図
【図12】特許文献3における従来の光マイクロフォンの構成図
【符号の説明】
【0156】
1、51、91、95 光超音波マイクロフォン
2、52 光音響伝搬媒質部(乾燥ゲルで構成)
3、53 ベース部
3a ベース部の凹部
3b ベース部の凹部の側面
3c ベース部の凹部の底面
4、54 開口部
5、21、41、55、71、94,105 音波伝搬方向
6、60 音響導波路
7 透明支持板
8 LDVヘッド
9 LDV演算処理部
10、58 レーザ光
14 空気
22 音波(波束)
31、81 振幅計測波形
42、72、93 等位相面
56 音響導波部材
57 音波収束点
61 導波路内面
62 導波路外面
63 導波路開口
64 導波路終端
88 LDVヘッド移動装置
92 ミラー
96,97 光透過窓
98 光反射面
101 超音波送受波器
102 超音波振動子
103 伝搬媒質
104 環境流体
111 第一表面領域
112 第二表面領域
121 LDV
122、123 反射鏡
124 キュービックミラー
125 レーザ光経路
126 音場
127 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体で満たされた周囲の空間に対して音波の受波を行うマイクロフォンであって、
前記周囲の空間から前記音波を取り込む開口部と、前記開口部より取り込んだ前記音波を伝達する音響導波路とを有するとともに、前記音響導波路の少なくとも一部を構成しかつ前記音響導波路からの前記音波と光を伝搬させる光音響伝搬媒質部を保持するベースと、
前記光音響伝搬媒質部に対して前記光を照射する光源と、
前記光源から前記光音響伝搬媒質部内に照射されかつ前記光音響伝搬媒質部を伝搬した前記光を検出し、前記音波による前記光の変調を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果から音圧換算用の出力信号を求める演算部を具備し、
前記光音響伝搬媒質部の光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cが、前記音響導波路を満たす気体の密度ρ及び音速Cとの間において、以下の式を満たす光超音波マイクロフォン。
【数1】

【請求項2】
前記光音響伝搬媒質部は、無機酸化物又は有機高分子の乾燥ゲルから構成されている請求項1に記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項3】
前記乾燥ゲルは、密度100kg/m以上、音速300m/s以下の物性を有する請求項2に記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項4】
前記乾燥ゲルの固体骨格部は疎水化されている請求項2又は3に記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項5】
前記光源がレーザ光源である請求項1〜4のいずれか1つに記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項6】
前記光検出手段は、前記レーザ光源からのレーザ光の周波数の変調を検出する請求項5に記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項7】
前記光源と前記光検出手段は、レーザドプラ検出手段で兼用するように構成されている請求項6に記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項8】
第1の開口を有し、前記第1の開口から入射する音波を音波伝搬方向へ伝搬させる音響導波路を規定する音響導波部材と、
透過面を有し、前記透過面が前記音波の伝搬方向に沿って前記音響導波路の一面を構成するように前記音響導波路に設けられた光音響伝搬媒質部であって、前記音響導波路を伝搬するに従って前記音波の一部が前記透過面からそれぞれ前記光音響伝搬媒質部へ透過し、収束点に収束するように前記透過面が構成され、前記音響導波路に対して配置されている光音響伝搬媒質部と、
前記光音響伝搬媒質部の前記収束点に対して光を照射する光源と、
前記光源から前記光音響伝搬媒質部の前記収束点に照射されかつ前記光音響伝搬媒質部を伝搬した前記光を検出し、前記収束点に収束した前記音波による前記光の変調を検出する光検出手段と、
前記光検出手段の検出結果から音圧換算用の出力信号を求める演算部を具備し、
前記光音響伝搬媒質部は前記透過面と前記収束点との間を満たしている伝搬媒質を含み、
前記音響導波路は環境流体で満たされており、前記光音響伝搬媒質部の光音響伝搬媒質の密度ρ及び音速Cが、前記音響導波路を満たす前記環境流体の密度ρ及び音速Cとの間において、
【数2】


の関係を満たし、
前記音響導波路の前記第1の開口から、前記透過面上の前記音波の伝搬方向に沿った任意の点Pまでの前記音響導波路の長さをLakとし、前記任意の点Pから前記収束点までの長さをLnkとしたとき、任意のkに対して、
【数3】


の関係を満たしている光超音波マイクロフォン。
【請求項9】
前記音響導波路の前記第1の開口の前端に音響ホーンが接続されている請求項8に記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項10】
前記音響導波路の高さ及び幅が、前記マイクロフォンで受波する超音波の波長の1/2以下である請求項1〜9のいずれか1つに記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項11】
前記音響導波路の高さが、前記音響導波路の終端側に向かって減少するように前記音響導波路が前記ベースと前記光音響伝搬媒質部とにより構成されている請求項1〜10のいずれか1つに記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項12】
前記周囲の気体は空気である請求項1〜11のいずれか1つに記載の光超音波マイクロフォン。
【請求項13】
前記光源と前記光検出手段は、レーザドプラ検出手段で兼用するように構成され、
前記音波が前記光音響伝搬媒質部の一面から前記光音響伝搬媒質部内に進入するときの前記音波の音波伝搬方向に対して直交する方向沿いに、前記レーザドプラ検出手段の光軸を配置するとともに、前記レーザドプラ検出手段の光軸沿いでかつ前記レーザドプラ検出手段と対向するように配置されたミラーをさらに備えて、前記レーザドプラ検出手段と前記ミラーとの間でかつ前記光音響伝搬媒質部内で光経路を構成するようにしている、請求項1〜6のいずれか1つに記載の光超音波マイクロフォン。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図6G】
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【図6H】
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【図6I】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−85868(P2009−85868A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−258622(P2007−258622)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】