説明

光送信器および光通信システム

【課題】残留強度変調成分が存在する場合であっても良好な伝送特性で信号光を伝送することができる光送信器および光通信システムを提供する。
【解決手段】光送信器10Aは、光源101、光位相変調部102、光強度変調部103、プリディストーション部104、オフセット部105、パイロット信号発生部106、光カプラ107、受光部108およびRF信号発生部109を備える。RF信号発生部109は、N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を光源101または光位相変調部102へ出力する。N個の周波数f〜fのうち最も低い周波数をfminとしたときに、N個の周波数f〜fそれぞれは周波数fminの整数倍である。ただし、Nは2以上の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光を伝送して光通信を行う光通信システム、および、信号光を送出する光送信器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信システムは、信号光を送出する光送信器と、この光送信器から送出された信号光を伝送する光ファイバ伝送路と、この光ファイバ伝送路により伝送されて到達した信号光を受信する光受信器と、を備える。また、光送信器のなかでも外部変調型のものは、連続光を出力する光源と、この光源から出力された光を位相変調して出力する光位相変調部と、この光位相変調部から出力された光を伝送信号で強度変調して出力する光強度変調部と、を備える。光位相変調部は、誘導ブリルアン散乱(SBS)閾値を改善するために、光スペクトル線幅を広げるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】A. Yariv, et al., IEEE Journal of LT, Vol.15, No.3, pp.437-443(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光位相変調部が理想的なものであれば、その光位相変調部は光の位相のみを変調することができる。しかし、実際には光位相変調部から出力された光は残留強度変調(RAM)成分を含む。このような残留強度変調成分を含む信号光を、反射点が存在する光伝送路により伝送させると、その信号光に含まれる残留強度変調成分と伝送信号に因る強度変調成分との間でビートが生じる可能性がある。そして、このようなビートは伝送特性(特にアナログ映像伝送特性)における歪みの原因となる。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、残留強度変調成分が存在する場合であっても良好な伝送特性で信号光を伝送することができる光送信器および光通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光送信器は、(1) N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を出力するRF信号発生部と、(2) 光を出力する光源と、(3) RF信号発生部から出力されたN個の周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて、光源から出力された光を位相変調して出力する光位相変調部と、(4) 光位相変調部から出力された光を伝送信号で強度変調して出力する光強度変調部とを備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る光送信器は、N個の周波数f〜fのうち最も低い周波数をfminとしたときに、N個の周波数f〜fそれぞれが周波数fminの整数倍であることを特徴とする。ただし、Nは2以上の整数である。
【0007】
この光送信器では、RF信号発生部から出力されたN個の周波数f〜fそれぞれのRF信号は、光位相変調部へ供給される。光源から出力された光は、N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて光位相変調部により位相変調され、光強度変調部により伝送信号で強度変調されて、信号光として出力される。N個の周波数f〜fそれぞれが最低周波数fminの整数倍であることにより、スプリアス成分を抑圧することができ、優れた伝送品質で信号光を伝送することができる。
【0008】
或いは、本発明に係る光送信器は、(1) N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を出力するRF信号発生部と、(2) RF信号発生部から出力されたN個の周波数f〜fのうちの周波数fのRF信号に基づいて位相変調した光を出力する光源と、(3) RF信号発生部から出力されたN個の周波数f〜fのうちの周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて、光源から出力された光を位相変調して出力する光位相変調部と、(4) 光位相変調部から出力された光を伝送信号で強度変調して出力する光強度変調部とを備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る光送信器は、N個の周波数f〜fのうち最も低い周波数をfminとしたときに、N個の周波数f〜fそれぞれが周波数fminの整数倍であることを特徴とする。ただし、Nは2以上の整数である。
【0009】
この光送信器では、RF信号発生部から出力されたN個の周波数f〜fそれぞれのRF信号は、光源または光位相変調部へ供給される。周波数fのRF信号に基づいて位相変調されて光源から出力された光は、周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて光位相変調部により位相変調され、光強度変調部により伝送信号で強度変調されて、信号光として出力される。N個の周波数f〜fそれぞれが最低周波数fminの整数倍であることにより、スプリアス成分を抑圧することができ、優れた伝送品質で信号光を伝送することができる。
【0010】
或いは、本発明に係る光送信器は、(1) N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を出力するRF信号発生部と、(2) 光を出力する光源と、(3) RF信号発生部から出力されたN個の周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて、光源から出力された光を位相変調して出力する光位相変調部と、(4) 光位相変調部から出力された光を伝送信号で強度変調して出力する光強度変調部とを備えることを特徴とする。さらに、本発明に係る光送信器は、光位相変調部に入力されるN個の周波数f〜fそれぞれのRF信号のうちの少なくとも1つの周波数のRF信号の歪み成分が−65dB以下であることを特徴とする。ただし、Nは2以上の整数である。また、RF信号発生部が、N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を合波する際に各RF信号の反射を抑制する反射防止素子を含むのが好適である。なお、RF信号の歪み成分を−65dB以下とするには、低歪RF回路を使うか又はBPFを挿入すればよい。反射防止素子としてインピーダンス整合型無反射終端素子が好適に用いられる。
【0011】
この光送信器では、RF信号発生部から出力されたN個の周波数f〜fそれぞれのRF信号は、光位相変調部へ供給される。光源から出力された光は、N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて光位相変調部により位相変調され、光強度変調部により伝送信号で強度変調されて、信号光として出力される。N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号のうちの少なくとも1つの周波数のRF信号の歪み成分が−65dB以下であることにより、スプリアス成分が存在している場合であっても。伝送品質上では問題とならない。
【0012】
本発明に係る光通信システムは、上記の本発明に係る光送信器を備え、この光送信器から出力された信号光を光伝送路により伝送して光通信を行うことを特徴とする。また、光伝送路において信号光の反射率が−40dBより大きい反射点が2点以上存在してもよいし、光伝送路において反射点の間隔が信号光のコヒーレント長以下であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、残留強度変調成分が存在する場合であっても良好な伝送特性で信号光を伝送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る光通信システム1の概略構成図である。
【図2】本実施形態に係る光送信器10の構成図である。
【図3】光位相変調部102が残留強度変調成分を生じる場合であって、位相変調に使用する周波数1.97GHz付近のRF信号が5MHz間隔の歪み成分を有するときにおける、低周波側へのビートの落ち込みの様子を示す図である。
【図4】位相変調用の複数の周波数のRF信号の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
先ず、本発明に係る光通信システムの実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る光通信システム1の概略構成図である。この図に示される光通信システム1は、光送信器10,光受信器20および光ファイバ伝送路30を備える。この光通信システム1では、光送信器10から送出された信号光は、光ファイバ伝送路30により伝送されて光受信器20に到達し、この光受信器20により受信される。
【0017】
図2は、本実施形態に係る光送信器10の構成図である。この図に示される光送信器10は、光源101、光位相変調部102、光強度変調部103、プリディストーション部104、オフセット部105、パイロット信号発生部106、光カプラ107、受光部108およびRF信号発生部109を備える。
【0018】
光源101は、連続光を出力するものであり、一般にレーザダイオードが用いられ、好適には分布帰還型レーザ(DFBレーザ),外部共振型レーザ(ECL)およびファブリペロー型レーザ(FP)などが用いられる。光位相変調部102は、光源101から出力された光を位相変調して出力するものであり、好適にはリチウムナイオベート(LN)導波路が用いられる。光強度変調部103は、光位相変調部102から出力された光を伝送信号で強度変調して出力するものであり、好適には位相制御型や分布結合型などのLN導波路が用いられる。この光強度変調部103から出力された光は、信号光として光ファイバ伝送路30へ送出される。
【0019】
この光強度変調部103は、印加電圧と光透過率との間に一定の関係を有するものであり、電圧が印加されることで光透過率が制御されて、これにより光を強度変調することができる。しかし、光強度変調部103は、一般に、印加電圧と光透過率との間の関係に歪みを有する。そこで、これを補償するためにプリディストーション部104およびオフセット部105が設けられている。すなわち、光強度変調部103における印加電圧と光透過率との間の関係に含まれる歪みを補償するように、プリディストーション部104は伝送信号に歪みを与え、オフセット部105は伝送信号にオフセットを与える。
【0020】
また、オフセット部105が伝送信号に与えるオフセットを決定するために、パイロット信号発生部106,光カプラ107および受光部108が設けられている。すなわち、パイロット信号発生部106は、モニタ用のパイロット信号を光源101に供給して光源101を駆動する。光カプラ107は、そのパイロット信号により駆動された光源101から出力され光位相変調部102および光強度変調部103を経た光の一部を分岐する。受光部108は、その光カプラ107により分岐された光を受光して、当該受光量に応じた電気信号を出力する。そして、オフセット部105は、光カプラ107から出力された電気信号を入力し、その電気信号からパイロット信号を取り出して、フィードバック制御によりオフセットを最適化する。
【0021】
RF信号発生部109は、RF信号(SBS抑圧信号)を光源101または光位相変調部102に供給して、光スペクトル線幅を拡大させる。SBS抑圧信号は、抑圧したいSBS閾値に応じて、トーン信号強度を変化させることが可能である。特に、本実施形態では、RF信号発生部109は、N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を光源101または光位相変調部102へ出力する。N個の周波数f〜fのうち最も低い周波数をfminとしたときに、N個の周波数f〜fそれぞれは周波数fminの整数倍である。ただし、Nは2以上の整数である。
【0022】
ところで、光位相変調部102が理想的なものであれば、その光位相変調部102は光の位相のみを変調することができる。しかし、実際には、光位相変調部102から出力された光は残留強度変調(RAM)成分を含む。この残留強度変調成分は、光位相変調部の内部および表面での光散乱によるエタロン効果、光位相変調部において使用される圧電素子(例えばLN)の圧電応答、圧電素子内部での変調強度の不均一性、ならびに、圧電素子用結晶の光路長や複屈折性、等により生じる。
【0023】
このように光位相変調部102から出力された光が残留強度変調成分を含む場合には、光位相変調部102から出力された光を受光部により光電変換して、この受光部から出力された電気信号をRFスペクトラムアナライザで観測すると、その残留強度変調成分の存在を確認することができる。
【0024】
このような残留強度変調成分を含む信号光を、反射点が存在する光伝送路により伝送させると、図3に示されるように、その信号光に含まれる残留強度変調成分と伝送信号に因る強度変調成分との間でビートが生じる可能性がある。干渉性の高いビートは、光スペクトル線幅の逆数に依存する光のコヒーレンス長に依存して干渉強度が観測されうることとなる。
【0025】
図3は、光位相変調部102が残留強度変調成分を生じる場合であって、位相変調に使用する周波数1.97GHz付近のRF信号が5MHz間隔の歪み成分を有するときにおける、低周波側へのビートの落ち込みの様子を示す図である。このビートの周波数は、伝送信号に因る強度変調成分の周波数の近辺に存在する。したがって、このようなビートは伝送特性(特にアナログ映像伝送特性)における歪みの原因となるため、ビートを低減させることが必要である。
【0026】
RF信号発生部109から光源101または光位相変調部102に供給されるRF信号(SBS抑圧信号)のスプリアス成分を低減させることでも、ビートを低減することは可能である。この場合、スプリアス成分とRF信号とのDURは65dB以上であることが望ましい。ただし、この場合は、伝送信号に因る強度変調成分と同じ周波数を有するビートを取り除くことは困難である。
【0027】
通常、光源101または光位相変調部102に入力される位相変調用のRF信号は、本来は歪み成分を有していない。しかし、SBS抑圧効果を高めるために複数の周波数のRF信号を用いる場合には、RF信号発生部109において複数の周波数のRF信号を合波する際に、図4に示されるように、反射等に因りRF信号にスプリアス成分が生じる場合がある。
【0028】
図4は、位相変調用の複数の周波数のRF信号の関係を示す図である。ここでは、RF信号発生部109が2つの周波数f,fそれぞれのRF信号を出力するものとする。同図(a)に示されるように、一方の周波数fが他方の周波数fの整数倍である場合には、余計なスプリアス成分は生じない。しかし、同図(b)に示されるように、一方の周波数fがf’へずれてしまった場合には、「Δf=|f’−3f|」なる式で表される周波数成分に依存したスプリアス成分が、2つの周波数f,f’それぞれの周りに生じてしまう。
【0029】
そこで、本実施形態に係る光送信器10では、RF信号発生部109から光源101または光位相変調部102へ供給されるN個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を最低周波数fminの整数倍としている。このようにすることにより、図4(a)に示されるように、スプリアス成分を抑圧することができる。なお、Δfが実効的には数十kHz程度以下であれば、伝送品質において特に問題になるレベルとはならない。
【0030】
このような光送信器10を備える光通信システム1(図1)では、光伝送路30において信号光の反射率が−40dBより大きい反射点が2点以上存在する場合であっても、また、光伝送路30において反射点の間隔が信号光のコヒーレント長以下である場合であっても、優れた伝送品質で信号光を伝送することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…光通信システム、10…光送信器、20…光受信器、30…光ファイバ伝送路、101…光源、102…光位相変調部、103…光強度変調部、104…プリディストーション部、105…オフセット部、106…パイロット信号発生部、107…光カプラ、108…受光部、109…RF信号発生部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を出力するRF信号発生部と、
光を出力する光源と、
前記RF信号発生部から出力された前記N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて、前記光源から出力された光を位相変調して出力する光位相変調部と、
前記光位相変調部から出力された光を伝送信号で強度変調して出力する光強度変調部と
を備え、
前記N個の周波数f〜fのうち最も低い周波数をfminとしたときに、前記N個の周波数f〜fそれぞれが周波数fminの整数倍である
ことを特徴とする光送信器(ただし、Nは2以上の整数)。
【請求項2】
N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を出力するRF信号発生部と、
前記RF信号発生部から出力された前記N個の周波数f〜fのうちの周波数fのRF信号に基づいて位相変調した光を出力する光源と、
前記RF信号発生部から出力された前記N個の周波数f〜fのうちの周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて、前記光源から出力された光を位相変調して出力する光位相変調部と、
前記光位相変調部から出力された光を伝送信号で強度変調して出力する光強度変調部と
を備え、
前記N個の周波数f〜fのうち最も低い周波数をfminとしたときに、前記N個の周波数f〜fそれぞれが周波数fminの整数倍である
ことを特徴とする光送信器(ただし、Nは2以上の整数)。
【請求項3】
N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を出力するRF信号発生部と、
光を出力する光源と、
前記RF信号発生部から出力された前記N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号に基づいて、前記光源から出力された光を位相変調して出力する光位相変調部と、
前記光位相変調部から出力された光を伝送信号で強度変調して出力する光強度変調部と
を備え、
前記光位相変調部に入力される前記N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号のうちの少なくとも1つの周波数のRF信号の歪み成分が−65dB以下である
ことを特徴とする光送信器(ただし、Nは2以上の整数)。
【請求項4】
前記RF信号発生部が、前記N個の周波数f〜fそれぞれのRF信号を合波する際に各RF信号の反射を抑制する反射防止素子を含むことを特徴とする請求項3記載の光送信器。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の光送信器を備え、この光送信器から出力された信号光を光伝送路により伝送して光通信を行うことを特徴とする光通信システム。
【請求項6】
前記光伝送路において信号光の反射率が−40dBより大きい反射点が2点以上存在することを特徴とする請求項5記載の光通信システム。
【請求項7】
前記光伝送路において前記反射点の間隔が信号光のコヒーレント長以下であることを特徴とする請求項6記載の光通信システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−258683(P2010−258683A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105260(P2009−105260)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】