説明

光送信器

【課題】低速動作(APCの帯域上限を低く)しつつ、発光応答時間を短縮可能な光送信器を提供すること。
【解決手段】光送信器1は、LD2を駆動する駆動電流を制御してLD2の光出力の強度を一定にするAPC回路と、LD2の光出力を遮断するためのTx_Disable信号が解除された際に、パルス状のブースト信号を出力するブースト回路10と、を備え、APC回路は、Tx_Disable信号に基づいて駆動電流を遮断又は供給するように制御し、ブースト回路10から出力されたブースト信号に基づいて駆動電流の大きさを増加させるように補正することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光通信に使用されるレーザダイオード(以下、「LD」ともいう)を駆動するための駆動回路の構成としては、下記特許文献1〜3に記載のものがある。
【0003】
下記の特許文献1には、シャットダウン信号に応答してレーザダイオードが発光を開始する際に、モジュールの温度に応じて光出力の目標値を最適な値とし、シャットダウン解除時に段階的に光出力の目標値を上げていくことで、APC(Auto-Power Control)の目標値として温度毎に最適な値を選択することにより、シャットダウンのデアサート時間を短くする光送信器が記載されている。
【0004】
下記の特許文献2には、発光素子と、受光素子と、電圧信号に変換する変換器と、モニタ平均化電圧を出力する第1のLPF(Low Path Filter)と、基準電圧を生成する電圧源と、第1のLPFの応答速度より遅い応答速度を有し光出力設定電圧を出力する第2のLPFと、光出力制御回路と、駆動電流を制御する第1電流源と、バイアス電流を制御する第2の電流源と、駆動電流のオン/オフ制御を行う変調器とを備える光送信器が記載されている。この光送信器によれば、APC制御部のオペアンプ(光出力制御回路)の入力にローパスフィルタを設けることにより、APCの目標値が光出力モニタ値の平均化電圧より高くなることを防止することで、光出力の過発光を防止できる。
【0005】
下記の特許文献3には、LDを駆動する電流出力型の出力段の入力側に駆動信号補正部を設け、発光波形が矩形波に近づくように補正を行なうレーザ駆動装置が記載されている。このレーザ駆動装置は、発光パターンに応じたタイミングの1つを基準チャネルCHとし、基準チャネルCHの開始エッジを起点とする遅延時間、パルス幅の補正タイミングパルスを生成する。そしてレーザ駆動装置は、補正タイミングパルスのアクティブ期間には通常レベルに補正量を注入して出力段に入力し、補正タイミングパルスのインアクティブ期間には通常レベルのみを出力段に入力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−191309号公報
【特許文献2】特開2001−274754号公報
【特許文献3】特開2010−258262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3に記載の駆動回路を、低域のデータ信号の周波数帯域(以下、「信号帯域」という。)を通す必要がある光リンクに対して用いる場合、APCの帯域を低くする必要がある。APCの帯域を低くすることによりAPCのループ時定数が大きくなるため、光リンクの電源を投入してから実際に光が出力されるまでの時間(発光応答時間)がMSA(Multi-Source Agreement)規定を満たさなくなってしまう。一方、MSA規定を満たすためにAPCのループ時定数を小さくすると、光リンクが低速動作できなくなってしまう。すなわち、低速動作時の信号周波数がAPCのループ時定数により決まるカットオフ周波数を下回る場合に、通信信号がAPC回路を通過してしまい、信号のパターンに連動して信号の平均出力強度が変動してしまう。
【0008】
そこで本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、低速動作を可能に(APCの帯域上限を低く)しつつ、発光制御時の応答時間を短縮可能な光送信器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る光送信器は、レーザダイオードを駆動する駆動電流を制御してレーザダイオードの光出力の強度を一定にするAPC回路と、レーザダイオードの光出力を遮断するためのシャットダウン信号が解除された際に、パルス状のブースト信号を出力するブースト回路と、を備え、APC回路は、シャットダウン信号に基づいて駆動電流を遮断又は供給するように制御し、ブースト回路から出力されたブースト信号に基づいて駆動電流の大きさを増加させるように補正することを特徴とする。
【0010】
このような光送信器によれば、シャットダウン信号が解除された際に、ブースト回路がパルス状のブースト信号を出力し、APC回路がブースト信号に基づいて駆動電流の大きさを増加させるように補正することにより、シャットダウン解除時におけるレーザダイオードの光出力の立ち上がりを早めることができる。このため、APC回路のループ時定数を小さくすることなく、シャットダウン解除時のレーザダイオードの発光応答時間を短縮することが可能となる。
【0011】
ブースト回路は、環境温度に基づいて設定される設定信号をシャットダウン信号に基づいて遮断又は供給するスイッチ回路と、スイッチ回路によって供給される設定信号を微分して得られるパルス信号をブースト信号として出力する微分回路と、を備えてもよい。この場合、シャットダウン信号に基づいて供給される設定信号を微分し、微分によって得られたパルス信号をブースト信号とすることにより、シャットダウン信号がデアサートされた際の駆動電流を大きくすることができる。これにより、レーザダイオードの光出力の立ち上がりを早めることが可能となる。また、環境温度に基づいて設定される設定信号を微分し、微分によって得られる信号をブースト信号とすることにより、ブースト信号のピークレベルを環境温度毎に調整することができる。これにより、レーザダイオードの光出力が過多になったり、足りなかったりすることを抑制できる。
【0012】
APC回路は、レーザダイオードの光出力の強度に基づいて設定されるモニタ信号とレーザダイオードの光出力の強度を一定にするために設定される目標基準信号とが入力され、モニタ信号と目標基準信号との差分に基づいて駆動電流を制御する電流制御信号を出力するオペアンプを備えてもよい。この場合、モニタ信号と目標基準信号との差分に応じてレーザダイオードの駆動電流を制御することができ、モニタ信号の電圧が目標基準信号の電圧に近づくようにレーザダイオードの光出力を制御することが可能となる。
【0013】
APC回路は、ブースト信号を電流制御信号に重畳してもよい。この場合、シャットダウン解除時のレーザダイオードの駆動電流の大きさを補正することができ、APC回路のループ時定数を小さくすることなく、シャットダウン解除時のレーザダイオードの発光応答時間を短縮することが可能となる。
【0014】
APC回路は、ブースト信号を目標基準信号に重畳してもよい。この場合、シャットダウン解除時のレーザダイオードの駆動電流の大きさを補正することができ、APC回路のループ時定数を小さくすることなく、シャットダウン解除時のレーザダイオードの発光応答時間を短縮することが可能となる。
【0015】
ブースト回路は、線形的に減少するブースト信号を出力してもよい。この場合、ブースト信号の時間的変化を、光出力が増加する特性を反転した形状に近似して、線形的に減少させることにより、目標の光出力からは多少変動するものの、その変動が光出力の規格内であればブースト信号印加後の光出力は安定したとみなすことができる。このため、レーザダイオードの発光応答時間を短くすることができる。
【0016】
ブースト回路は、指数関数的に減少するブースト信号を出力してもよい。光出力の増加特性は指数関数的なカーブを示すことから、ブースト信号の時間的変化を、光出力が増加する特性を反転した形状に近似して、指数関数的に減少させることにより、ブースト信号印加後の光出力を安定させることができる。このため、レーザダイオードの発光応答時間を短くすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低速動作を可能にしつつ発光応答時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る光送信器の概略構成図である。
【図2】シャットダウン解除時のタイミング図である。
【図3】APC回路のループ時定数と信号帯域との関係を示す図である。
【図4】図1のLDのI−L特性を示す図である。
【図5】図1のLDの動作温度とブースト信号のピークレベルとの関係の一例を示す図である。
【図6】図1の光送信器の回路構成の一例を示す図である。
【図7】一般的な電気−光の信号変換機能を有する光送信器の概略構成図である。
【図8】図1の光送信器のシャットダウン解除時のタイミング図である。
【図9】第2実施形態に係る光送信器の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一又は相当要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る光送信器の構成概略図である。図1に示すように、光送信器1は、光通信において用いられ、データ信号に応じた光信号を生成するための装置であって、LD2と、LDドライバ3と、モニタPD(フォトダイオード)4と、I−V変換器5と、オペアンプ6と、ブースト回路10と、温度センサ12と、LUT格納部13と、を備えている。まず、LD2、LDドライバ3、モニタPD4、I−V変換器5及びオペアンプ6の構成要素について説明する。
【0021】
LD2は、LDドライバ3から駆動電流を受けて光信号を生成する。駆動電流には、バイアス電流及び変調電流が含まれる。変調電流のオン/オフは、光送信器1の外部からLDドライバ3に入力されるデータ信号に応じて制御される。バイアス電流の大きさは、LDドライバ3に入力される電流制御信号の電圧Vapcに応じて定められる。モニタPD4は、LD2の出力光をモニタし、その光出力の強度に応じてモニタ電流Ipdを生成する。モニタPD4には、I−V変換器5が接続されている。このI−V変換器5は、PD4から出力されたモニタ電流Ipdをモニタ電圧Vpdに変換し、モニタ電圧Vpd(モニタ値)を有するモニタ信号として出力する。
【0022】
オペアンプ6は、差動増幅器であって、目標光出力電圧Vを有する目標基準信号が非反転入力端子に入力され、I−V変換器5によって出力されたモニタ信号が反転入力端子に入力される。この目標光出力電圧Vは、LD2の光出力の強度を一定にするために設定される目標値であって、不図示の制御回路からDAC(Digital Analog Converter)7を介して入力される。オペアンプ6は、入力された目標基準信号の目標光出力電圧Vとモニタ信号のモニタ電圧Vpdとの差分に応じた電圧Vapcを有する電流制御信号をLDドライバ3に出力して、LD2に目標光出力を生成させるための駆動電流(バイアス電流)をLDドライバ3に生成させる。このLDドライバ3、モニタPD4、I−V変換器5及びオペアンプ6によって、APC回路が構成されている。
【0023】
光送信器1は、LD2の光出力を遮断制御するシャットダウン機能を有している。このシャットダウン機能は、Tx_Disable信号(シャットダウン信号)がアサート(有効:LowからHighに移行)された場合にLD2の光出力を遮断し、Tx_Disable信号がデアサート(解除:HighからLowに移行)された場合にシャットダウンが解除され、LD2の光出力を開始する機能である。Tx_Disable信号は、オペアンプ6、LDドライバ3及びブースト回路10に供給される。
【0024】
図2は、シャットダウン解除時のタイミング図である。ここで、シャットダウン解除から光が出力されるまでの間の時間(発光応答時間;tON)は、MSAにて1msと規定されている。Tx_Disable信号がデアサートされてから発光指令がLDドライバ3まで到達する間に介在するIC(不図示)の応答時間等により、ディレイが必然的に生じる。このディレイを考慮すると、LD2が発光を開始してから規定の光出力値まで達するまでの時間は1msよりも短くする必要がある。例えはディレイ時間が0.8msであれば、規定の1msを満たすためにはAPC回路の応答時間は0.2msに抑える必要がある。このAPC回路の応答時間は、APC回路のループ時定数によって決まる。
【0025】
図3は、APC回路のループ時定数と信号帯域との関係を示す図である。APC回路の帯域は、LD2から出力される光信号の変調周波数及びその信号パターンから算出される最も低い周波数成分が通過しないように設定される必要がある。具体的に説明すると、例えば62.5MHz(ビットレートで125Mbps)の変調周波数であり、信号パターンとしてPRBS20を用いる場合、信号の帯域が最も低くなるベースラインの周波数は、(62.5MHz)/(220−1)=59.6Hz(分母は全て1ビットの場合を除外することを意味する)となる。APC回路の帯域がこの値以上となると、APC回路はLD2を駆動するためのデータ信号の1/0に応答してしまう。この場合、APC回路は光出力の強度を一定にする方向に動作するので、出力光の消光比が小さくなってしまう。従って、APC回路の帯域は59.6Hz以下とする必要がある。
【0026】
一方で、APC回路の帯域を59.6Hz以下とすると、APC回路のループ時定数は1/(59.6Hz)=16.8ms以上となってしまうため、MSAの規定を満たさない。このように、125Mbps程度の遅いビットレートで通信する場合、tONを決めるためのAPC回路の帯域と、低周波数の信号パターンが通過しないようにするためのAPC回路の帯域とが両立しないことがある。
【0027】
図1に示すように、光送信器1は、APC回路の帯域を信号帯域に対して十分遅いループ時定数としながらtONの規格を満たすため、ブースト回路10を備えている。ブースト回路10は、Tx_Disable信号に基づいてパルス状のブースト信号を生成する。具体的に説明すると、ブースト回路10は、Tx_Disable信号がデアサートされると、パルス状のブースト信号を生成する。そして、ブースト回路10は、ブースト信号をオペアンプ6から出力される電流制御信号に重畳する。これにより、オペアンプ6の出力電圧Vapcにブースト信号の電圧Vが重畳される。その結果、APC回路のループ時定数の制限によりLD2の光出力強度が定常状態より不足している時間(発光応答時間)内に、光出力を増加させることができ、tONを短くすることが可能となる。
【0028】
ブースト回路10は、例えばTx_Disable信号に応じた波形を積分及び微分することにより、APC回路のループ時定数により光出力が増加するカーブを反転した形のパルス信号であるブースト信号を生成する。これにより、APC回路の出力が十分立ち上がった時点では、ブースト信号が無くなるので、LD2は、光出力が定常状態を越えて過発光することはない。
【0029】
また、光送信器1は、温度センサ12及びLUT格納部13をさらに備えている。温度センサ12は、光送信器1の環境温度(LD2の動作温度)をモニタし、環境温度を示す信号をLUT格納部13に出力する。LUT格納部13は、LD2の温度特性(I−L特性)に基づいて作成されたLUT(Look Up Table)を格納している。LUT格納部13は、温度センサ12によってモニタした温度に対応する値をLUTを参照して取得し、取得した値をブースト回路10に出力する。
【0030】
図4は、LD2のI−L特性を示す図である。図4に示すように、レーザダイオードから一定の強度の光出力を得るために必要な駆動電流は、低温では小さく、高温では大きい。また、その駆動電流の値は、個々のレーザダイオード毎に異なる。このため、ブースト信号は、図4に示すI−L特性に従って、LD2の動作温度毎に変更されるのが好ましい。図5は、LD2の動作温度とブースト信号のピークレベルとの関係の一例を示す図である。一般に、光出力を一定にするためのレーザダイオードの駆動電流は、動作温度に対して累乗的に変化する。よって、LUT格納部13は、図5に示す関係に従って設定されたLUTに基づき、ブースト回路10から出力されるブースト信号のピークレベルを決めるための値を出力する。このように、温度センサ12及びLUT格納部13を備えることによって、ブースト回路10により生成されたパルス信号のピークレベル(パルス高)を、LD2の動作温度毎に調整することができ、光出力が過多及び過小になることを抑制できる。
【0031】
図6は、光送信器1の回路構成の一例を示す図である。図6に示すように、光送信器1は、LD2と、LDドライバ3と、モニタPD4と、I−V変換器5と、オペアンプ6と、ブースト回路10と、温度センサ12と、LUT格納部13と、DAC14とを備えている。LD2は、アノードが電源電圧Vccに接続され、カソードがLDドライバ3に接続されている。LDドライバ3は、オペアンプ31と、NPN型トランジスタ32と、抵抗器33とを備えている。オペアンプ31は、オペアンプ6の出力及びブースト回路10の出力と、NPN型トランジスタ32のエミッタ端子とがそれぞれ2つの入力端子に接続され、出力端子にNPN型トランジスタ32のベース端子が接続されている。NPN型トランジスタ32のエミッタ端子は、抵抗器33を介してグラウンドGNDに接続され、NPN型トランジスタ32のコレクタ端子は、LD2のカソードに接続されている。LDドライバ3は、オペアンプ6及びブースト回路10からの信号に応じてLD2の駆動電流を制御する。
【0032】
モニタPD4は、カソードが電源電圧Vccに接続され、アノードがI−V変換器5に接続されている。I−V変換器5は、モニタPD4のアノードとグラウンドGNDとの間に設けられた抵抗器51で構成されている。モニタPD4によってLD2の出力光の強度に応じたモニタ電流Ipdが生成されると、抵抗器51の両端子間に電位差が生じ、モニタ電圧Vpdを有するモニタ信号が出力される。オペアンプ6は、非反転入力端子と反転入力端子と出力端子を有し、非反転入力端子には抵抗器62を介して目標光出力電圧Vを有する目標基準信号Power_Targetが入力され、反転入力端子にはI−V変換器5の出力であるモニタ信号が入力される。オペアンプ6は、各入力端子に入力された信号の電圧値を比較して、その差分に基づいた電圧Vapcを有する電流制御信号を出力端子から出力する。
【0033】
温度センサ12は、光送信器1の環境温度をモニタし、環境温度を示す信号をLUT格納部13に出力する。LUT格納部13は、LUTを参照して温度センサ12によりモニタした環境温度に対応する値をDAC14に出力する。DAC14は、LUT格納部13から出力された値をアナログ信号であるピーク設定信号に変換して、ブースト回路10に出力する。ブースト回路10は、スイッチ回路15と、積分回路16と、ボルテージフォロワ回路17と、微分回路18とを備えている。スイッチ回路15は、DAC14から出力されたピーク設定信号が入力される端子とグラウンドGNDに接続される端子とをTx_Disable信号に応じて切り替えて出力端子と接続する回路である。スイッチ回路15は、Tx_Disable信号がアサート(Highレベル)されている場合、グラウンドGNDに接続されている端子と出力端子とを接続し、Tx_Disable信号がデアサート(Lowレベル)されている場合、ピーク設定信号が入力される端子と出力端子とを接続する。スイッチ回路15の出力端子は、積分回路16に接続されている。
【0034】
積分回路16は、抵抗器16a及びコンデンサ16bを備え、スイッチ回路15の出力端子から供給される信号を積分して、ボルテージフォロワ回路17に出力する回路である。ボルテージフォロワ回路17は、オペアンプ17aを備えている。オペアンプ17aの非反転入力端子に積分回路16の出力端子が接続され、オペアンプ17aの反転入力端子にオペアンプ17aの出力端子が接続されている。オペアンプ17aの出力端子は、微分回路18に接続されている。微分回路18は、コンデンサ18a及び抵抗器18bを備え、ボルテージフォロワ回路17から供給される信号を微分して、オペアンプ6から出力される電流制御信号に重畳する回路である。
【0035】
このブースト回路10では、Tx_Disable信号がデアサートされると、スイッチ回路15によってピーク設定信号が出力され、このピーク設定信号に基づいて、積分回路16、ボルテージフォロワ回路17及び微分回路18によって所望の波形に成形されたブースト信号が出力される。そして、ブースト回路10から出力されたブースト信号は、オペアンプ6から出力される電流制御信号に重畳される。
【0036】
次に、光送信器1の作用効果について説明する。図7は、光伝送装置内で用いられる、一般的な電気−光の信号変換機能を有する光送信器(光モジュール)100の概略構成図である。光送信器100において、光の平均出力強度はAPC回路によって制御されている。またAPC回路にはTx_Disable信号が供給され、この信号によって発光指令を行い、光出力を遮断制御することができる。上述したように、Tx_Disable信号解除を光送信器100が受け取ってから実際に光が出力されるまでの時間tONは、MSAで規定されている。また、近年マルチレート対応と呼ばれる、一つの光モジュールで、固定の伝送レートではなく複数の伝送レートでの通信を行う要請がある。その要請に応えるため、複数の伝送レートで伝送される信号のうち最も低い周波数成分の信号においてもAPC回路による平均光出力強度の変動が無いように、APC回路の帯域上限を低く設定する必要がある。APC回路の応答周波数の上限が最も低い伝送レートでの周波数成分に影響を与える場合(あるいは、APC回路が最も低い伝送レートに応答してしまう場合)には、光出力のON/OFF(消光比)についてAPC回路が作用し、その差(消光比)が小さくなってしまう。しかし、APC回路のループ時定数を大きくし、APC回路の帯域上限を低くすると、Tx_Disable信号に対する応答時間tONも遅くなってしまう。一方でtONは、上述したようにMSAよってその最大値が決められており、二つの状況を満足することが困難である。
【0037】
図8の(a)はTx_Disable信号のタイミング図、(b)は光送信器100のLDの光出力強度を示す図、(c)はブースト信号のタイミング図、(d)は光送信器1のLD2の光出力強度を示す図である。図8の(a)及び(b)に示すように、光送信器100では、Tx_Disable信号がデアサートされると、APC回路のループ時定数等に基づく時間が経過した後にLDの光出力が開始される。
【0038】
図8の(a)及び(c)に示すように、光送信器1では、Tx_Disable信号がデアサートされると、ブースト回路10によってパルス状のブースト信号が出力される。このブースト信号は、Tx_Disable信号がデアサートされた時点で急峻に立ち上がり、オペアンプ6から出力される電流制御信号の立ち上りと反比例して立ち下がるパルス状の信号である。このブースト信号がオペアンプ6から出力される電流制御信号に重畳されることにより、図8の(d)に示すように、LD2の光出力は急峻に立ち上がり、定常値となる。
【0039】
このように、ブースト信号とオペアンプ6から出力される電流制御信号とを重畳した信号により、APC回路のループ時定数の影響を受ける期間ではLD2の駆動電流を大きく設定してLD2の光出力の立ち上がりを早くし、その後駆動電流の設定を定常状態とすることでLD2の光出力の強度を定常値とする。その結果、APC回路のループ時定数を小さくすることなくtONを短くすることができる。
【0040】
また、APC回路の影響を伝送帯城に与えないようにAPC帯域を低くしてAPC回路のループ時定数を遅くせざるを得ない回路であっても、光送信器1によれば、Tx_Disable信号に応じた波形を積分及び微分して得られるブースト信号をオペアンプ6から出力される電流制御信号に重畳することによって、tONの規定を満たすような光出力の立ち上がり波形に補正することができる。
【0041】
[第2実施形態]
図9は、第2実施形態に係る光送信器の構成概略図である。図9に示すように、光送信器1Aは、光送信器1と比較して、ブースト回路10の出力がオペアンプ6の非反転入力に接続されている点が異なる。すなわち、光送信器1Aは、ブースト回路10から出力されるブースト信号を目標基準信号Power_Targetに重畳する。
【0042】
オペアンプ6は、ブースト信号が重畳された目標基準信号Power_Targetの電圧VtaとI−V変換器5から出力されたモニタ信号のモニタ電圧Vpdとの差分に応じた電圧VapcをLDドライバ3に出力して、LD2に目標光出力を生成させるための駆動電流(バイアス電流)をLDドライバ3に生成させる。ここで、ブースト信号は、図8の(c)に示すように、Tx_Disable信号がデアサートされた時点で急峻に立ち上がり、オペアンプ6から出力される電流制御信号の立ち上りと反比例して立ち下がるパルス信号である。このブースト信号が目標基準信号Power_Targetに重畳されることにより、図8の(d)に示すように、LD2の光出力は急峻に立ち上がり、その後定常値となる。
【0043】
このように、ブースト信号と目標基準信号Power_Targetとを重畳した信号により、APC回路のループ時定数の影響を受ける期間では駆動電流を大きく設定してLD2の光出力の立ち上がりを早くし、その後駆動電流の設定を定常状態とすることでLD2の光出力の強度を定常値とする。このため、APC回路のループ時定数の制限によりLD2の光出力強度が定常状態より不足している時間(発光応答時間)内に、光出力を増加させることができる。その結果、APC回路のループ時定数を小さくすることなくtONを短くすることが可能となる。
【0044】
なお、本発明に係る光送信器は上記実施形態に記載したものに限定されない。例えば、第1実施形態では、目標基準信号Power_Targetの電圧値を一定値である目標光出力電圧Vとしているが、シャットダウン解除時において、目標光出力電圧Vより大きい電圧Vboostから1ms未満の所定の時間(例えば0.2ms)で目標光出力電圧Vになるように、線形的に減少する信号、又は、指数関数的に減少する信号としてもよい。この場合、電圧Vboostの値は、指数関数的に減少する場合の方が線形的に減少する場合よりも大きく設定することが可能である(但し、指数の肩値という他のパラメータを考慮する必要がある)。また、電圧Vboostの大きさは上記実施形態と同様に各温度で予め決定しておく。この目標基準信号Power_Targetの電圧値の加減は、目標基準信号Power_Targetを出力する制御回路によって、デジタル的になされてもよい。
【0045】
すなわち、上記第2実施形態では、目標基準信号Power_Targetにブースト信号を重畳することにより、目標基準信号Power_Targetをアナログ的に加減しているが、目標基準信号Power_Targetを出力する制御回路が、Tx_Disable信号がデアサートされた際に、目標基準信号Power_Targetをデジタル的に加減してもよい。具体的に説明すると、制御回路は、Tx_Disable信号がデアサートされると、1ms未満の所定の時間(例えば0.2ms)で0になるように線形的に減少するブースト信号、又は、指数関数的に減少するブースト信号をデジタル的に生成してもよい。そして、制御回路は、このブースト信号を一定値Vに重畳して目標基準信号Power_Targetとして出力する。この場合、ブースト信号の減少の挙動を設定する自由度を高めることができる。
【0046】
また、上記第1実施形態では、電流制御信号にブースト信号を重畳することにより、LDドライバ3に供給される電流制御信号をアナログ的に加減しているが、ブースト回路10が、電流制御信号をデジタル的に加減してもよい。具体的に説明すると、ブースト回路10は、Tx_Disable信号がデアサートされると、1ms未満の所定の時間(例えば0.2ms)で0になるように線形的に減少するブースト信号、又は、指数関数的に減少するブースト信号をデジタル的に生成し、このブースト信号を出力してもよい。この場合も、ブースト信号の減少の挙動を設定する自由度を高めることができる。
【0047】
なお、図8の(b)に示すように、光出力は指数関数的に増加する。したがって、ブースト信号の時間的変化を、光出力が増加する特性を反転した形状に近似して、指数関数的に減少させることにより、ブースト信号印加後の光出力を安定させることができる。また、ブースト信号の時間的変化を、光出力が増加する特性を反転した形状に近似して、線形的に減少させることにより、目標の光出力からは多少変動するものの、その変動が光出力の規格内であればブースト信号印加後の光出力は安定したとみなすことができる。このため、LD2の発光応答時間を短くすることができる。
【0048】
また、上記第1及び第2実施形態では、DAC7から供給される目標基準信号Power_Targetの電圧値を一定値としているが、これに代えて、DAC7の入力側に温度センサ12及びLUT格納部13を設け、LD2の駆動温度に応じた値としてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1,1A…光送信器、2…LD(レーザダイオード)、3…LDドライバ、4…モニタPD、5…I−V変換器5、6…オペアンプ、10…ブースト回路、15…スイッチ回路、18…微分回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザダイオードを駆動する駆動電流を制御して前記レーザダイオードの光出力の強度を一定にするAPC回路と、
前記レーザダイオードの光出力を遮断するためのシャットダウン信号が解除された際に、パルス状のブースト信号を出力するブースト回路と、
を備え、
前記APC回路は、前記シャットダウン信号に基づいて前記駆動電流を遮断又は供給するように制御し、前記ブースト回路から出力された前記ブースト信号に基づいて前記駆動電流の大きさを増加させるように補正することを特徴とする光送信器。
【請求項2】
前記ブースト回路は、環境温度に基づいて設定される設定信号を前記シャットダウン信号に基づいて遮断又は供給するスイッチ回路と、前記スイッチ回路によって供給される前記設定信号を微分して得られるパルス信号を前記ブースト信号として出力する微分回路と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の光送信器。
【請求項3】
前記APC回路は、前記レーザダイオードの光出力の強度に基づいて設定されるモニタ信号と前記レーザダイオードの光出力の強度を一定にするために設定される目標基準信号とが入力され、前記モニタ信号と前記目標基準信号との差分に基づいて前記駆動電流を制御する電流制御信号を出力するオペアンプを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の光送信器。
【請求項4】
前記APC回路は、前記ブースト信号を前記電流制御信号に重畳することを特徴とする請求項3に記載の光送信器。
【請求項5】
前記APC回路は、前記ブースト信号を前記目標基準信号に重畳することを特徴とする請求項3に記載の光送信器。
【請求項6】
前記ブースト回路は、線形的に減少するブースト信号を出力することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光送信器。
【請求項7】
前記ブースト回路は、指数関数的に減少するブースト信号を出力することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の光送信器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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