光通信設備
【課題】雷撃時に、光ファイバの補強線を通じてユーザ端末などに生じる雷障害を簡単且つ確実に防止する。
【解決手段】光通信設備は、架設された支持線1と、支持線1に並列に配置され且つ情報を伝達する光ファイバ線3と、光ファイバ線3を補強するための補強線4と、光ファイバ線3を支持線1に吊り下げ支持するための複数のハンガー線2とを備える。補強線4は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサ5を介して接地される。複数のハンガー線2は、隣接するもの同士がコンデンサ6を介して接続されて長尺な連接ハンガー線7を形成し、その連接ハンガー線7は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサ8を介して接地される。これにより、雷撃時に、補強線4および連接ハンガー線7のそれぞれが等価的に両端接地となって大地を介した閉回路を形成して補強線4と連接ハンガー線7との間に相互誘導を作用させるとともに、補強線4で並列共振を生じさせる。
【解決手段】光通信設備は、架設された支持線1と、支持線1に並列に配置され且つ情報を伝達する光ファイバ線3と、光ファイバ線3を補強するための補強線4と、光ファイバ線3を支持線1に吊り下げ支持するための複数のハンガー線2とを備える。補強線4は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサ5を介して接地される。複数のハンガー線2は、隣接するもの同士がコンデンサ6を介して接続されて長尺な連接ハンガー線7を形成し、その連接ハンガー線7は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサ8を介して接地される。これにより、雷撃時に、補強線4および連接ハンガー線7のそれぞれが等価的に両端接地となって大地を介した閉回路を形成して補強線4と連接ハンガー線7との間に相互誘導を作用させるとともに、補強線4で並列共振を生じさせる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ線で情報を伝達する光通信設備に関し、詳しくは、雷撃時に、サージ電流が伝搬して雷障害が生じるのを防止する機能を有する光通信設備に関する。
【背景技術】
【0002】
図13に示すように、光通信設備(光通信システム)では、支持柱間の高所に架設された支持線としてのメッセンジャーワイヤ1に、複数のハンガー線2が螺旋状に巻き付けられており、これら各ハンガー線2に情報を伝搬する光ファイバ線3が挿通されている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、光ファイバ線3は、ハンガー線2を介してメッセンジャーワイヤ1に吊り下げ支持されている。
【0003】
このように吊り下げ支持された光ファイバ線3は、光ファイバ線3と並列に配列された補強線4によって補強されている。この補強線4は、スチールなどの金属で形成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−098873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の光通信設備は、送電設備(送電システム)と同様に屋外に設置されることから、悪天候の場合には、直接又は近傍(架空地線や送電線など)に雷撃を受けることがある。
【0006】
しかしながら、光通信設備の場合には、送電設備に比べて雷撃に対する対策が遅れているのが実情であり、雷撃時に光通信設備に接続されたユーザ(情報受信者)の端末が故障するなどの雷障害(閃絡事故)が生じやすい。詳細には、光通信設備やその近傍が雷撃を受けた場合には、メッセンジャーワイヤ1や、補強線4にサージ電圧が印加され、瞬間的に大きなサージ電流が流れる。このとき、図13に示すように、メッセンジャーワイヤ1は、支持柱(電柱など)毎に接地されているので、メッセンジャーワイヤ1に流れるサージ電流は大地へと逃げ、大きな問題となり難い。一方、同図に示すように、補強線4は、接地されていないため、補強線4を流れるサージ電流がユーザ端末などに流れ込んで雷障害を引き起こす可能性が高い。
【0007】
ここで、光通信設備は、主として送電設備に付加的に設けられている場合が多いことから、光通信設備単独で大規模な雷撃防止対策を講じることが事実上困難である。したがって、光通信設備においては、雷撃時に、光ファイバ線3を支持する補強線4にサージ電流が流れるという事態を簡単な構成で防止することが望まれる。
【0008】
以上の実情に鑑み、本発明は、雷撃時に、光ファイバの補強線を通じてユーザ端末などに生じる雷障害を簡単且つ確実に防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために創案された本発明は、架設された支持線と、前記支持線と配列に配置され且つ情報を伝達する光ファイバ線と、前記光ファイバ線を補強するための補強線と、前記光ファイバ線を前記支持線に吊り下げ支持するために、前記支持線と前記光ファイバ線の双方の周囲に巻回される複数のハンガー線とを備えた光通信設備において、前記補強線は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサを介して接地され、前記複数のハンガー線は、隣接するもの同士がコンデンサを介して接続されて長尺な連接ハンガー線を形成し、前記連接ハンガー線は、一端側が直接接地され且つ他端側が直接接地又はコンデンサを介して接地され、雷撃時に、前記補強線および前記連接ハンガー線のそれぞれが等価的に両端接地となって大地を介した閉回路を形成して前記補強線と前記連接ハンガー線との間に相互誘導を作用させるとともに、前記補強線で並列共振(又は反共振)を生じさせるように構成されていることに特徴づけられる。なお、ここでいう「直接接地」とは、コンデンサなどを介さずに導体によって大地に直接的に接地することを意味する(以下、同様)。
【0010】
このような構成によれば、補強線と連接ハンガー線との間の相互誘導により、補強線に並列共振が生じた際の並列共振点におけるインピーダンスを大幅に増大させることができる。そのため、雷撃時にサージ電圧が補強線に印加されても、補強線が高周波帯域において高抵抗体として機能するため、補強線にサージ電流が流れ難くなる。したがって、雷撃時に、補強線に流れるサージ電流によって、ユーザ端末などに雷障害が生じる割合を可及的に低減することができる。しかも、このような作用効果は、補強線および連接ハンガー線の両端を接地し、且つ、所定の場所にコンデンサを介在させるだけで享受し得ることから、大掛かりな構成を要することなく簡単な構成のみで雷障害の防止を図ることが可能となる。
【0011】
ここで、補強線をコンデンサを介して接地したり、各々のハンガー線をコンデンサを介して接続して連接ハンガー線を形成した理由は、通常時(雷撃時以外)に補強線や連接ハンガー線に大地を介した循環電流が流れるのを防止するためである。付言すれば、補強線及び連接ハンガー線は、通常時では、一端側のみが接地された状態となる。そのため、通常時では、大地との間に閉回路が構成されず、大地を介して循環電流が流れるという事態を抑制できる。
【0012】
上記の構成において、前記補強線の並列共振点におけるインピーダンスをZL、前記補強線のサージインピーダンスをZRkとした場合に、ZL≧π2・ZRkなる関係を満たすことが好ましい。
【0013】
このようにすれば、補強線の並列共振点におけるインピーダンスが、補強線のサージインピーダンスに対して十分に大きくなる。そのため、補強線の並列共振点におけるインピーダンスが、上記の関係式を満たす限りにおいては、雷撃時に補強線にサージ電流が流れるという事態を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、簡単な構成で、雷撃時に、光ファイバの補強線に流れるサージ電流を可及的に低減することができる。そのため、雷撃時にユーザ端末などに雷障害が生じるという事態を簡単且つ確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る光通信設備の構成を示す概略図である。
【図2】補強線の一端のみを接地したときの補強線から連接ハンガー線をみたインピーダンス特性を示すグラフの一例である。
【図3】補強線の両端を接地したときの補強線から連接ハンガー線をみたインピーダンス特性を示すグラフの一例である。
【図4】本実施形態に係る光通信設備の等価回路を示す図である。
【図5】補強線から連接ハンガー線をみた等価回路を示す図である。
【図6】並列共振時のインピーダンス特性を示す概念図である。
【図7】低周波から高周波までを重畳させた補強線のサージ応答の等価回路を示す図である。
【図8】(a)及び(b)は、補強線側での矩形パルス波印加時の共振電流を示す概念図である。
【図9】本実施形態に係る光通信設備の等価回路を示す図である。
【図10】並列共振時のインピーダンス特性を示す概念図である。
【図11】並列共振時の矩形近似したインピーダンス特性を示す概念図である。
【図12】台形による積分近似を説明するための概念図である。
【図13】従来の光通信設備の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る光通信設備の構成を示す図である。この光通信設備が、図13に示した従来の光通信設備と相違するところは、補強線4の一端側が直接接地され、他端側がコンデンサ5を介して接地されている点と、隣接するハンガー線2がコンデンサ6を介して接続されて1本の連接ハンガー線7を形成するとともに、この連接ハンガー線7の一端側が直接接地され、他端側がコンデンサ8を介して接地されている点とにある。なお、この実施形態では、直接接地される補強線4及び連接ハンガー線7のそれぞれの一端側が、光ファイバ線3を通じて伝搬される情報を受信するユーザ端末側に位置するようにしている。
【0018】
詳細には、上記の光通信設備では、雷撃時に、補強線4及び連接ハンガー線7に取り付けられているコンデンサ5,6,8は、短絡しているものとみなすことができるため、補強線4及び連接ハンガー線7は等価的に両端接地された状態となる。したがって、雷撃時には、補強線4及び連接ハンガー線7は、大地を介した閉回路をそれぞれ構成する。なお、コンデンサ5,6,8のキャパシタンスは、例えば数百〜数千[PF]に設定される。
【0019】
このように雷撃時に閉回路を構成すると、補強線4及び連接ハンガー線7には、図中の矢印に示すように、それぞれ相反する向きにサージ電流(循環電流)が流れるようになっている。そして、このサージ電流の周波数帯域(詳しくは、サージ電流の波頭が有する周波数成分)において、補強線4において並列共振が生じるように、コンデンサ5,6,8の容量や線路長などが調整されている。
【0020】
さらに、この際、補強線4と連接ハンガー線7との間に、相互誘導が作用するようになっている。この相互誘導により、補強線4に並列共振が生じた際の並列共振点におけるインピーダンスを大幅に増大させることができる。換言すれば、連接ハンガー線7からの相互誘導が補強線4に作用すれば、誘導される起電力によって補強線4に流れるサージ電流が阻止される。そのため、並列共振に伴うインピーダンスの増加と、相互誘導によるサージ電流の阻止効果との相乗効果によって、補強線4の並列共振点における見かけ上のインピーダンスを増大させることができる。そのため、雷撃時にサージ電圧が補強線4に印加されても、補強線4が高周波帯域において高抵抗体として機能するため、補強線4にサージ電流が流れ難くなる。したがって、雷撃時に、補強線4に流れるサージ電流によって、ユーザ端末などに雷障害が生じる割合を可及的に低減することができる。しかも、補強線4および連接ハンガー線7の両端を接地するとともに、コンデンサ5,6,8を介在させるという極めて簡単な構成のみで雷障害を防止できるという利点もある。換言すれば、雷障害を防止するために大掛かりな装置を要しないという利点もある。
【0021】
具体的な一例を挙げると、例えば、補強線4単独のときの並列共振点におけるインピーダンスが、図2に示すように、約2000Ωであるのに対し、連接ハンガー線7からの相互誘導を作用させると、補強線4の並列共振点におけるインピーダンスが、図3に示すように、約3000Ωまで上昇する。この例では、サージ電流の波頭に対する補強線4単独のサージインピーダンスは約300Ωであるが、相互誘導を作用させることで、約3000Ωまで補強線4の並列共振点におけるインピーダンスが上昇することから、サージ電流の抑止効果として約10倍の効果が期待できる。
【0022】
一方、送電設備の配電線で使用される、50Hzや60Hzの商用電源周波数を有する電流に対しては、コンデンサ5,6,8の数百〜数千のキャパシタンスは、数百kΩの高抵抗値となることから、雷撃時以外の通常時においては、補強線4や連接ハンガー線7に不当に電流が流れたとしても、数十μA程度の微弱な循環電流が流れるにとどまる。したがって、保安面においても好ましい状態を維持するこができる。
【0023】
更に、この実施形態では、補強線4の並列共振点におけるインピーダンス(補強線4から連接ハンガー線7をみた場合の並列共振点におけるインピーダンス)をZL、補強線4のサージインピーダンスをZRkとした場合に、
【数1】
なる関係を満たすようになっている。
【0024】
このようにすれば、補強線4の並列共振点におけるインピーダンスZLが、補強線4のサージインピーダンスZRKに対して十分に大きくなる。そのため、ZLが、上記の式(1)を満たす限りにおいては、雷撃時に補強線4にサージ電流が流れるという事態を確実に防止することが可能となる。
【0025】
なお、式(1)を満足するように、コンデンサ5,6,8の容量(C[F])や連接ハンガー線7の線路長に比例するインダクタンス(L[H])が調整される。また、ZLは、可変周波数発信器により信号を印加した状態で、ネットワークアナライザ等を用いて、連接ハンガー線7を含めた補強線4のインピーダンス特性を実測することによって求められる。
【0026】
また、保安性を高める観点からは、後述する図5に示す等価回路における補強線4の合成容量C[F]と、連接ハンガー線7の合成容量C1[F]が、次の関係式を満足するようにすることが好ましい。なお、式中において、商用電源周波数をfS[Hz]、fSに対する補強線4の対地間誘起電圧をET[V]、fSに対する連接ハンガー線7の対地間誘起電圧をEW[V]とする。
【数2】
【0027】
ここで、致死電流の安全限界に関してはダルジール教授の式が知られている。すなわち、この安全限界は、感電時に流れる電流をI[mA]、感電時に電流が流れる時間をt[s]とした場合に、I=165/√tと表される。そのため、例えば感電時間が1秒間である場合には、165mAが人体の安全限界とされている。そして、式(2)は、この関係式に基づいて設定されたものであって、補強線4の末端に接続されたLANシステムなどで作業中の作業者に、比較的長時間(12分間)に亘って循環電流が流れた場合であっても、人体に影響のない安全限界を規定している(6mA≒165/(12分×60)1/2)。
【0028】
更に、ユーザ端末側から500〜600m離れた位置で、補強線4及び連接ハンガー線7を接地すれば、雷サージの影響を十分に低減することができる。換言すれば、このような離間距離で一旦接地すれば、補強線4を流れるサージ電流を低減するのに必要な線路長を十分に確保することができる。従って、補強線4や連接ハンガー線7が、ユーザ端末側から長距離に渡って架設されている場合には、ユーザ端末側から500〜600m離れた位置で一旦接地すれば、ユーザ端末からより離れた位置で補強線4や連接ハンガー線7を別途接地するか否かは任意である。
【0029】
以下、式(1)の関係式が成立する理由を説明する。
【0030】
図4は、補強線4単独の等価回路である。この等価回路において、対地間キャパシタンスをC、インダクタンスをL、周波数をfとすると、リアクタンス(XC,XL1)は次のように表される。なお、r<<XCである。
【数3】
【数4】
【0031】
補強線4単独のサージインピーダンスZRkは、次式で算出される。
【数5】
【0032】
そして、図5に示す補強線4から連接ハンガー線7をみた等価回路において、補強線4から連接ハンガー線7をみた場合のインピーダンスZm、リアクタンスXM、及び並列共振周波数f0は、次のように表される。なお、相互インダクタンスをM、連接ハンガー線7の接地抵抗をRとする。なお、XL1<XMとする。
【数6】
【数7】
【0033】
ここで、図5に示すように、並列共振点ではZmが最大となる。式(7)に示すZmは、XM=XCのときに最大となることから、並列共振点におけるインピーダンスZL(=ZmMAX)は次式で表される。
【数8】
【0034】
そして、共振状態となるのは、式(8)の虚部が0になるときであるから、
【数9】
となる。
【0035】
次に、補強線4単体でのサージ波応答を検討する。図7は、低周波から高周波までを重畳させた補強線4のサージ応答の等価回路を示す。サージの波尾は低周波帯域であるため、この帯域では、図中のインダクタンスLは無視することができる。このときの伝達関数Zl(S)は、
【数10】
となる。
【0036】
単位ステップ電圧1[V]による応答波の低周波帯域の電圧VS’(t)は、次式で表される。
【数11】
【0037】
ただし、α=1/RC、補強線4のt=0のときのインピーダンスをZi[Ω]とすると、
【数12】
となる。なお、時間が十分経過した後のZl(t)は、R[Ω]となる。
【0038】
補強線4単体に矩形パルス波を印加して並列共振が生じさせると、振動波が発生する。このとき、遮断帯域幅(サージインピーダンスZRKを越える周波数帯域)Δに対応した時間幅をaRとして、伝搬末端のコンデンサの対地間の出力応答電圧VS’(t)を算出すると、上述の式(12)のように表される。また、印加電流Il(t)は、共振点で波高値IR[A]まで急増化することと等価であるため、共振点では、矩形パルス波に対応する電圧は、
【数13】
で表される。なお、補強線4のインピーダンスの緩やかな部分(低周波帯域)は、Zl[Ω]とする。
【0039】
図8に示すように、印加電流Il(t)は、波高値IR[A]のステップ波とすると、共振電流IlR(t)は、次のように表される。
【数14】
【0040】
IlR(t)をラプラス変換すると、
【数15】
となる。
【0041】
ラプラス逆変換により、補強線4の末端のコンデンサの端子電圧VS’(t)を求めると、
【数16】
となる。なお、時間が十分経過した後のZl(t)は、R[Ω]となる。
【0042】
また、式(16)に示すVS’(t)は、波頭の高周波数のパルス応答電圧VR’(t)と、波尾の低周波数の応答電圧VF’(t)との重畳と考えられるため、第1項をVR’(t)、第2項をVF’(t)とおく。
【0043】
波頭のパルス波応答電圧VR’(t)は、ラプラス逆変換を用いて、
【数17】
と表される。
【0044】
ここで、f0は共振周波数であり、
【数18】
【0045】
そして、式(17)は次のように2つの積分に分離できる。
【数19】
【0046】
留数定理から、1位の極が存在するだけであるから、この2つの積分から次式が求められる。
【数20】
【0047】
三角関数の加法定理より式(20)は、
【数21】
【0048】
ωRk=2πf0を代入すると、式(21)は、
【数22】
【0049】
一方、波尾の応答電圧VF’(t)は、
【数23】
【0050】
従って、VS(t)は、式(21)及び(23)より、
【数24】
【0051】
ここで、振動波が発生する並列共振帯域の時間幅aRは、共振帯域幅が狭い場合(f1≒f2≒f0)、
【数25】
であるから、
【数26】
となり、
【数27】
となる。
【0052】
一方、補強線4と連接ハンガー線7とを備えた光通信設備における補強線4のコンデンサCの可変周波数応答に対する対地間電圧VS(t)は、図9の等価回路に基づいて、フィルタ理論によって、t>aR/2のときには、次のように導出される。
【数28】
【0053】
式(27)で表されるVS(t)と、式(28)で表されるVS(t)は、等しいので、
次式が成立する。
【数29】
【0054】
次に、連接ハンガー線7が併設されたときの補強線4の対地間電圧VS(t)を、フィルタ理論から算出する。
【0055】
図10に示すように、周波数応答の線路インピーダンスZr(2πf)=V(2πf)/I(2πf)を、周波数特性から波尾に相当する低周波部分Zlと、波頭に相当する高周波部分(並列共振部分)ZLとに分ける。更に、線路インピーダンスZr(2πf)を、実数部ZL(2πf)と虚数部XL(2πf)とに分けると、
【数30】
となる。ただし、この式(30)は、ラプラス演算表示すると、
【数31】
となる。
【0056】
式(30)から、振幅は、
【数32】
となり、位相は、
【数33】
となる。
【0057】
従って、実数部ZL(2πf)は次のように表される。
【数34】
【0058】
ここで、ω=2πf,dω/df=2π,s=j2πfとすると、インパルス応答h(t)は、周波数応答Zr(s)のラプラス逆変換であるので、次式より求まる。
【数35】
【0059】
ZLcos(t・2πf)は偶関数、XLsin(t・2πf)は奇関数で、積分範囲が−∞から+∞であるから、式(35)は、
【数36】
となる。
【0060】
第1項の被積分関数は偶関数、第2項の被積分関数は奇関数であり、因果性により、
【数37】
となる。
【0061】
図10に示したインピーダンス特性を、図11に示すように矩形近似する。すなわち、
【数38】
【0062】
【数39】
で近似すると、図11で示したインピーダンス特性のインパルス応答h(t)は次式で表される。
【数40】
【0063】
式(40)の第1項は、
【数41】
となる。
【0064】
並列共振周波数f0の高周波側をf2、低周波側をf1とし、f1<f<f2の周波数のみが、ZLに急増したとすると、式(40)の第2項h0(t)は、
【数42】
となる。
【0065】
式(40)の第3項は、
【数43】
となる。
【0066】
これら第1項、第2項、第3項を加算すると、式(40)は、
【数44】
と表される。
【0067】
ここで、f1≒f2≒f0とすると、
【数45】
となる。
【0068】
単位電流1[A]に対するステップ応答電圧波形VS(t)は、次のようになる。
【数46】
【数47】
ただし、Si{t}は、正弦積分である。
【0069】
図11のΔ(aR)が狭い並列共振帯では、f1≒f2≒f0とおけるので、式(47)の第2項をVR(t)とおき、t・2πf1=τ、t・2πf2=τとおくと、dτ/dt=2πf0から、
【数48】
となる。
【0070】
図12に示すように、このVR(t)を台形公式で近似計算すると、
【数49】
となる。
【0071】
並列共振帯域幅Δが狭い場合は、f1≒f2≒f0、aR=(f2−f1)/(f1・f2)とおいたので、
【数50】
となる。
【0072】
従って、式(47)は、近似的に、
【数51】
と表される。
【0073】
この式(51)は、単位電流1[A]に対するものであるので、IR[A]の波高値の電流に対しては、
【数52】
となる。このように急峻なステップ応答(インディシアル応答)に対して、aRの電流遮断帯域(並列共振帯域)で、補強線4のコンデンサの対地間電圧VS(t)に正弦波を発生させる。
【0074】
一方、補強線4単体のときのコンデンサの対地間電圧VS’(t)は、L,Cの共振により、急峻なステップ応答に対して正弦波を発生させる。
【0075】
そのため、正弦波(振動波)が発生して波形が確認できる限界は、VS’(t)=VS(t)なる関係を満足するときとなる。そして、この場合、式(27)と式(52)から以下の関係が成立する。
【数53】
【0076】
従って、ZLが、π2・ZRkよりも大きくなれば、すなわち、式(1)の関係式を満たせば、電流遮断量と遮断帯域が大きくなって、補強線4側のサージ電流の進行を確実に抑制可能であることが認識できる。付言すれば、式(1)の関係式を満足すれば、並列共振により、急峻な波頭を有するサージ電流を、並列共振周波数f0[Hz]を中心としたf1[Hz]からf2[Hz]の間の周波数帯域において遮断することができる。そのため、補強線4側のサージ電流が正極方向および負極方向に振動する。そして、このように振動する振動波によって、連接ハンガー線7からの相互誘導による磁気反作用が大きくなるため、補強線4側のサージ電流の進行を確実に抑制可能となる。
【0077】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態において実施することができる。例えば、上記の実施形態では、図1に示したように、ユーザ端末側において、補強線4及び連接ハンガー線7を直接接地する場合を説明したが、補強線4及び連接ハンガー線7のユーザ端末側を、それぞれコンデンサを介して接地するようにしてもよい。また、連接ハンガー線7のユーザ端末と反対側の端部をコンデンサ8を介して接地する場合を説明したが、連接ハンガー線7は、各ハンガー線2をコンデンサ6を介して連接したものであるので、その両端部を直接接地するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 メッセンジャーワイヤ(支持線)
2 ハンガー線
3 光ファイバ線
4 補強線
5,6,8 コンデンサ
7 連接ハンガー線
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ線で情報を伝達する光通信設備に関し、詳しくは、雷撃時に、サージ電流が伝搬して雷障害が生じるのを防止する機能を有する光通信設備に関する。
【背景技術】
【0002】
図13に示すように、光通信設備(光通信システム)では、支持柱間の高所に架設された支持線としてのメッセンジャーワイヤ1に、複数のハンガー線2が螺旋状に巻き付けられており、これら各ハンガー線2に情報を伝搬する光ファイバ線3が挿通されている(例えば、特許文献1を参照)。すなわち、光ファイバ線3は、ハンガー線2を介してメッセンジャーワイヤ1に吊り下げ支持されている。
【0003】
このように吊り下げ支持された光ファイバ線3は、光ファイバ線3と並列に配列された補強線4によって補強されている。この補強線4は、スチールなどの金属で形成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−098873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、この種の光通信設備は、送電設備(送電システム)と同様に屋外に設置されることから、悪天候の場合には、直接又は近傍(架空地線や送電線など)に雷撃を受けることがある。
【0006】
しかしながら、光通信設備の場合には、送電設備に比べて雷撃に対する対策が遅れているのが実情であり、雷撃時に光通信設備に接続されたユーザ(情報受信者)の端末が故障するなどの雷障害(閃絡事故)が生じやすい。詳細には、光通信設備やその近傍が雷撃を受けた場合には、メッセンジャーワイヤ1や、補強線4にサージ電圧が印加され、瞬間的に大きなサージ電流が流れる。このとき、図13に示すように、メッセンジャーワイヤ1は、支持柱(電柱など)毎に接地されているので、メッセンジャーワイヤ1に流れるサージ電流は大地へと逃げ、大きな問題となり難い。一方、同図に示すように、補強線4は、接地されていないため、補強線4を流れるサージ電流がユーザ端末などに流れ込んで雷障害を引き起こす可能性が高い。
【0007】
ここで、光通信設備は、主として送電設備に付加的に設けられている場合が多いことから、光通信設備単独で大規模な雷撃防止対策を講じることが事実上困難である。したがって、光通信設備においては、雷撃時に、光ファイバ線3を支持する補強線4にサージ電流が流れるという事態を簡単な構成で防止することが望まれる。
【0008】
以上の実情に鑑み、本発明は、雷撃時に、光ファイバの補強線を通じてユーザ端末などに生じる雷障害を簡単且つ確実に防止することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために創案された本発明は、架設された支持線と、前記支持線と配列に配置され且つ情報を伝達する光ファイバ線と、前記光ファイバ線を補強するための補強線と、前記光ファイバ線を前記支持線に吊り下げ支持するために、前記支持線と前記光ファイバ線の双方の周囲に巻回される複数のハンガー線とを備えた光通信設備において、前記補強線は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサを介して接地され、前記複数のハンガー線は、隣接するもの同士がコンデンサを介して接続されて長尺な連接ハンガー線を形成し、前記連接ハンガー線は、一端側が直接接地され且つ他端側が直接接地又はコンデンサを介して接地され、雷撃時に、前記補強線および前記連接ハンガー線のそれぞれが等価的に両端接地となって大地を介した閉回路を形成して前記補強線と前記連接ハンガー線との間に相互誘導を作用させるとともに、前記補強線で並列共振(又は反共振)を生じさせるように構成されていることに特徴づけられる。なお、ここでいう「直接接地」とは、コンデンサなどを介さずに導体によって大地に直接的に接地することを意味する(以下、同様)。
【0010】
このような構成によれば、補強線と連接ハンガー線との間の相互誘導により、補強線に並列共振が生じた際の並列共振点におけるインピーダンスを大幅に増大させることができる。そのため、雷撃時にサージ電圧が補強線に印加されても、補強線が高周波帯域において高抵抗体として機能するため、補強線にサージ電流が流れ難くなる。したがって、雷撃時に、補強線に流れるサージ電流によって、ユーザ端末などに雷障害が生じる割合を可及的に低減することができる。しかも、このような作用効果は、補強線および連接ハンガー線の両端を接地し、且つ、所定の場所にコンデンサを介在させるだけで享受し得ることから、大掛かりな構成を要することなく簡単な構成のみで雷障害の防止を図ることが可能となる。
【0011】
ここで、補強線をコンデンサを介して接地したり、各々のハンガー線をコンデンサを介して接続して連接ハンガー線を形成した理由は、通常時(雷撃時以外)に補強線や連接ハンガー線に大地を介した循環電流が流れるのを防止するためである。付言すれば、補強線及び連接ハンガー線は、通常時では、一端側のみが接地された状態となる。そのため、通常時では、大地との間に閉回路が構成されず、大地を介して循環電流が流れるという事態を抑制できる。
【0012】
上記の構成において、前記補強線の並列共振点におけるインピーダンスをZL、前記補強線のサージインピーダンスをZRkとした場合に、ZL≧π2・ZRkなる関係を満たすことが好ましい。
【0013】
このようにすれば、補強線の並列共振点におけるインピーダンスが、補強線のサージインピーダンスに対して十分に大きくなる。そのため、補強線の並列共振点におけるインピーダンスが、上記の関係式を満たす限りにおいては、雷撃時に補強線にサージ電流が流れるという事態を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、簡単な構成で、雷撃時に、光ファイバの補強線に流れるサージ電流を可及的に低減することができる。そのため、雷撃時にユーザ端末などに雷障害が生じるという事態を簡単且つ確実に防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る光通信設備の構成を示す概略図である。
【図2】補強線の一端のみを接地したときの補強線から連接ハンガー線をみたインピーダンス特性を示すグラフの一例である。
【図3】補強線の両端を接地したときの補強線から連接ハンガー線をみたインピーダンス特性を示すグラフの一例である。
【図4】本実施形態に係る光通信設備の等価回路を示す図である。
【図5】補強線から連接ハンガー線をみた等価回路を示す図である。
【図6】並列共振時のインピーダンス特性を示す概念図である。
【図7】低周波から高周波までを重畳させた補強線のサージ応答の等価回路を示す図である。
【図8】(a)及び(b)は、補強線側での矩形パルス波印加時の共振電流を示す概念図である。
【図9】本実施形態に係る光通信設備の等価回路を示す図である。
【図10】並列共振時のインピーダンス特性を示す概念図である。
【図11】並列共振時の矩形近似したインピーダンス特性を示す概念図である。
【図12】台形による積分近似を説明するための概念図である。
【図13】従来の光通信設備の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る光通信設備の構成を示す図である。この光通信設備が、図13に示した従来の光通信設備と相違するところは、補強線4の一端側が直接接地され、他端側がコンデンサ5を介して接地されている点と、隣接するハンガー線2がコンデンサ6を介して接続されて1本の連接ハンガー線7を形成するとともに、この連接ハンガー線7の一端側が直接接地され、他端側がコンデンサ8を介して接地されている点とにある。なお、この実施形態では、直接接地される補強線4及び連接ハンガー線7のそれぞれの一端側が、光ファイバ線3を通じて伝搬される情報を受信するユーザ端末側に位置するようにしている。
【0018】
詳細には、上記の光通信設備では、雷撃時に、補強線4及び連接ハンガー線7に取り付けられているコンデンサ5,6,8は、短絡しているものとみなすことができるため、補強線4及び連接ハンガー線7は等価的に両端接地された状態となる。したがって、雷撃時には、補強線4及び連接ハンガー線7は、大地を介した閉回路をそれぞれ構成する。なお、コンデンサ5,6,8のキャパシタンスは、例えば数百〜数千[PF]に設定される。
【0019】
このように雷撃時に閉回路を構成すると、補強線4及び連接ハンガー線7には、図中の矢印に示すように、それぞれ相反する向きにサージ電流(循環電流)が流れるようになっている。そして、このサージ電流の周波数帯域(詳しくは、サージ電流の波頭が有する周波数成分)において、補強線4において並列共振が生じるように、コンデンサ5,6,8の容量や線路長などが調整されている。
【0020】
さらに、この際、補強線4と連接ハンガー線7との間に、相互誘導が作用するようになっている。この相互誘導により、補強線4に並列共振が生じた際の並列共振点におけるインピーダンスを大幅に増大させることができる。換言すれば、連接ハンガー線7からの相互誘導が補強線4に作用すれば、誘導される起電力によって補強線4に流れるサージ電流が阻止される。そのため、並列共振に伴うインピーダンスの増加と、相互誘導によるサージ電流の阻止効果との相乗効果によって、補強線4の並列共振点における見かけ上のインピーダンスを増大させることができる。そのため、雷撃時にサージ電圧が補強線4に印加されても、補強線4が高周波帯域において高抵抗体として機能するため、補強線4にサージ電流が流れ難くなる。したがって、雷撃時に、補強線4に流れるサージ電流によって、ユーザ端末などに雷障害が生じる割合を可及的に低減することができる。しかも、補強線4および連接ハンガー線7の両端を接地するとともに、コンデンサ5,6,8を介在させるという極めて簡単な構成のみで雷障害を防止できるという利点もある。換言すれば、雷障害を防止するために大掛かりな装置を要しないという利点もある。
【0021】
具体的な一例を挙げると、例えば、補強線4単独のときの並列共振点におけるインピーダンスが、図2に示すように、約2000Ωであるのに対し、連接ハンガー線7からの相互誘導を作用させると、補強線4の並列共振点におけるインピーダンスが、図3に示すように、約3000Ωまで上昇する。この例では、サージ電流の波頭に対する補強線4単独のサージインピーダンスは約300Ωであるが、相互誘導を作用させることで、約3000Ωまで補強線4の並列共振点におけるインピーダンスが上昇することから、サージ電流の抑止効果として約10倍の効果が期待できる。
【0022】
一方、送電設備の配電線で使用される、50Hzや60Hzの商用電源周波数を有する電流に対しては、コンデンサ5,6,8の数百〜数千のキャパシタンスは、数百kΩの高抵抗値となることから、雷撃時以外の通常時においては、補強線4や連接ハンガー線7に不当に電流が流れたとしても、数十μA程度の微弱な循環電流が流れるにとどまる。したがって、保安面においても好ましい状態を維持するこができる。
【0023】
更に、この実施形態では、補強線4の並列共振点におけるインピーダンス(補強線4から連接ハンガー線7をみた場合の並列共振点におけるインピーダンス)をZL、補強線4のサージインピーダンスをZRkとした場合に、
【数1】
なる関係を満たすようになっている。
【0024】
このようにすれば、補強線4の並列共振点におけるインピーダンスZLが、補強線4のサージインピーダンスZRKに対して十分に大きくなる。そのため、ZLが、上記の式(1)を満たす限りにおいては、雷撃時に補強線4にサージ電流が流れるという事態を確実に防止することが可能となる。
【0025】
なお、式(1)を満足するように、コンデンサ5,6,8の容量(C[F])や連接ハンガー線7の線路長に比例するインダクタンス(L[H])が調整される。また、ZLは、可変周波数発信器により信号を印加した状態で、ネットワークアナライザ等を用いて、連接ハンガー線7を含めた補強線4のインピーダンス特性を実測することによって求められる。
【0026】
また、保安性を高める観点からは、後述する図5に示す等価回路における補強線4の合成容量C[F]と、連接ハンガー線7の合成容量C1[F]が、次の関係式を満足するようにすることが好ましい。なお、式中において、商用電源周波数をfS[Hz]、fSに対する補強線4の対地間誘起電圧をET[V]、fSに対する連接ハンガー線7の対地間誘起電圧をEW[V]とする。
【数2】
【0027】
ここで、致死電流の安全限界に関してはダルジール教授の式が知られている。すなわち、この安全限界は、感電時に流れる電流をI[mA]、感電時に電流が流れる時間をt[s]とした場合に、I=165/√tと表される。そのため、例えば感電時間が1秒間である場合には、165mAが人体の安全限界とされている。そして、式(2)は、この関係式に基づいて設定されたものであって、補強線4の末端に接続されたLANシステムなどで作業中の作業者に、比較的長時間(12分間)に亘って循環電流が流れた場合であっても、人体に影響のない安全限界を規定している(6mA≒165/(12分×60)1/2)。
【0028】
更に、ユーザ端末側から500〜600m離れた位置で、補強線4及び連接ハンガー線7を接地すれば、雷サージの影響を十分に低減することができる。換言すれば、このような離間距離で一旦接地すれば、補強線4を流れるサージ電流を低減するのに必要な線路長を十分に確保することができる。従って、補強線4や連接ハンガー線7が、ユーザ端末側から長距離に渡って架設されている場合には、ユーザ端末側から500〜600m離れた位置で一旦接地すれば、ユーザ端末からより離れた位置で補強線4や連接ハンガー線7を別途接地するか否かは任意である。
【0029】
以下、式(1)の関係式が成立する理由を説明する。
【0030】
図4は、補強線4単独の等価回路である。この等価回路において、対地間キャパシタンスをC、インダクタンスをL、周波数をfとすると、リアクタンス(XC,XL1)は次のように表される。なお、r<<XCである。
【数3】
【数4】
【0031】
補強線4単独のサージインピーダンスZRkは、次式で算出される。
【数5】
【0032】
そして、図5に示す補強線4から連接ハンガー線7をみた等価回路において、補強線4から連接ハンガー線7をみた場合のインピーダンスZm、リアクタンスXM、及び並列共振周波数f0は、次のように表される。なお、相互インダクタンスをM、連接ハンガー線7の接地抵抗をRとする。なお、XL1<XMとする。
【数6】
【数7】
【0033】
ここで、図5に示すように、並列共振点ではZmが最大となる。式(7)に示すZmは、XM=XCのときに最大となることから、並列共振点におけるインピーダンスZL(=ZmMAX)は次式で表される。
【数8】
【0034】
そして、共振状態となるのは、式(8)の虚部が0になるときであるから、
【数9】
となる。
【0035】
次に、補強線4単体でのサージ波応答を検討する。図7は、低周波から高周波までを重畳させた補強線4のサージ応答の等価回路を示す。サージの波尾は低周波帯域であるため、この帯域では、図中のインダクタンスLは無視することができる。このときの伝達関数Zl(S)は、
【数10】
となる。
【0036】
単位ステップ電圧1[V]による応答波の低周波帯域の電圧VS’(t)は、次式で表される。
【数11】
【0037】
ただし、α=1/RC、補強線4のt=0のときのインピーダンスをZi[Ω]とすると、
【数12】
となる。なお、時間が十分経過した後のZl(t)は、R[Ω]となる。
【0038】
補強線4単体に矩形パルス波を印加して並列共振が生じさせると、振動波が発生する。このとき、遮断帯域幅(サージインピーダンスZRKを越える周波数帯域)Δに対応した時間幅をaRとして、伝搬末端のコンデンサの対地間の出力応答電圧VS’(t)を算出すると、上述の式(12)のように表される。また、印加電流Il(t)は、共振点で波高値IR[A]まで急増化することと等価であるため、共振点では、矩形パルス波に対応する電圧は、
【数13】
で表される。なお、補強線4のインピーダンスの緩やかな部分(低周波帯域)は、Zl[Ω]とする。
【0039】
図8に示すように、印加電流Il(t)は、波高値IR[A]のステップ波とすると、共振電流IlR(t)は、次のように表される。
【数14】
【0040】
IlR(t)をラプラス変換すると、
【数15】
となる。
【0041】
ラプラス逆変換により、補強線4の末端のコンデンサの端子電圧VS’(t)を求めると、
【数16】
となる。なお、時間が十分経過した後のZl(t)は、R[Ω]となる。
【0042】
また、式(16)に示すVS’(t)は、波頭の高周波数のパルス応答電圧VR’(t)と、波尾の低周波数の応答電圧VF’(t)との重畳と考えられるため、第1項をVR’(t)、第2項をVF’(t)とおく。
【0043】
波頭のパルス波応答電圧VR’(t)は、ラプラス逆変換を用いて、
【数17】
と表される。
【0044】
ここで、f0は共振周波数であり、
【数18】
【0045】
そして、式(17)は次のように2つの積分に分離できる。
【数19】
【0046】
留数定理から、1位の極が存在するだけであるから、この2つの積分から次式が求められる。
【数20】
【0047】
三角関数の加法定理より式(20)は、
【数21】
【0048】
ωRk=2πf0を代入すると、式(21)は、
【数22】
【0049】
一方、波尾の応答電圧VF’(t)は、
【数23】
【0050】
従って、VS(t)は、式(21)及び(23)より、
【数24】
【0051】
ここで、振動波が発生する並列共振帯域の時間幅aRは、共振帯域幅が狭い場合(f1≒f2≒f0)、
【数25】
であるから、
【数26】
となり、
【数27】
となる。
【0052】
一方、補強線4と連接ハンガー線7とを備えた光通信設備における補強線4のコンデンサCの可変周波数応答に対する対地間電圧VS(t)は、図9の等価回路に基づいて、フィルタ理論によって、t>aR/2のときには、次のように導出される。
【数28】
【0053】
式(27)で表されるVS(t)と、式(28)で表されるVS(t)は、等しいので、
次式が成立する。
【数29】
【0054】
次に、連接ハンガー線7が併設されたときの補強線4の対地間電圧VS(t)を、フィルタ理論から算出する。
【0055】
図10に示すように、周波数応答の線路インピーダンスZr(2πf)=V(2πf)/I(2πf)を、周波数特性から波尾に相当する低周波部分Zlと、波頭に相当する高周波部分(並列共振部分)ZLとに分ける。更に、線路インピーダンスZr(2πf)を、実数部ZL(2πf)と虚数部XL(2πf)とに分けると、
【数30】
となる。ただし、この式(30)は、ラプラス演算表示すると、
【数31】
となる。
【0056】
式(30)から、振幅は、
【数32】
となり、位相は、
【数33】
となる。
【0057】
従って、実数部ZL(2πf)は次のように表される。
【数34】
【0058】
ここで、ω=2πf,dω/df=2π,s=j2πfとすると、インパルス応答h(t)は、周波数応答Zr(s)のラプラス逆変換であるので、次式より求まる。
【数35】
【0059】
ZLcos(t・2πf)は偶関数、XLsin(t・2πf)は奇関数で、積分範囲が−∞から+∞であるから、式(35)は、
【数36】
となる。
【0060】
第1項の被積分関数は偶関数、第2項の被積分関数は奇関数であり、因果性により、
【数37】
となる。
【0061】
図10に示したインピーダンス特性を、図11に示すように矩形近似する。すなわち、
【数38】
【0062】
【数39】
で近似すると、図11で示したインピーダンス特性のインパルス応答h(t)は次式で表される。
【数40】
【0063】
式(40)の第1項は、
【数41】
となる。
【0064】
並列共振周波数f0の高周波側をf2、低周波側をf1とし、f1<f<f2の周波数のみが、ZLに急増したとすると、式(40)の第2項h0(t)は、
【数42】
となる。
【0065】
式(40)の第3項は、
【数43】
となる。
【0066】
これら第1項、第2項、第3項を加算すると、式(40)は、
【数44】
と表される。
【0067】
ここで、f1≒f2≒f0とすると、
【数45】
となる。
【0068】
単位電流1[A]に対するステップ応答電圧波形VS(t)は、次のようになる。
【数46】
【数47】
ただし、Si{t}は、正弦積分である。
【0069】
図11のΔ(aR)が狭い並列共振帯では、f1≒f2≒f0とおけるので、式(47)の第2項をVR(t)とおき、t・2πf1=τ、t・2πf2=τとおくと、dτ/dt=2πf0から、
【数48】
となる。
【0070】
図12に示すように、このVR(t)を台形公式で近似計算すると、
【数49】
となる。
【0071】
並列共振帯域幅Δが狭い場合は、f1≒f2≒f0、aR=(f2−f1)/(f1・f2)とおいたので、
【数50】
となる。
【0072】
従って、式(47)は、近似的に、
【数51】
と表される。
【0073】
この式(51)は、単位電流1[A]に対するものであるので、IR[A]の波高値の電流に対しては、
【数52】
となる。このように急峻なステップ応答(インディシアル応答)に対して、aRの電流遮断帯域(並列共振帯域)で、補強線4のコンデンサの対地間電圧VS(t)に正弦波を発生させる。
【0074】
一方、補強線4単体のときのコンデンサの対地間電圧VS’(t)は、L,Cの共振により、急峻なステップ応答に対して正弦波を発生させる。
【0075】
そのため、正弦波(振動波)が発生して波形が確認できる限界は、VS’(t)=VS(t)なる関係を満足するときとなる。そして、この場合、式(27)と式(52)から以下の関係が成立する。
【数53】
【0076】
従って、ZLが、π2・ZRkよりも大きくなれば、すなわち、式(1)の関係式を満たせば、電流遮断量と遮断帯域が大きくなって、補強線4側のサージ電流の進行を確実に抑制可能であることが認識できる。付言すれば、式(1)の関係式を満足すれば、並列共振により、急峻な波頭を有するサージ電流を、並列共振周波数f0[Hz]を中心としたf1[Hz]からf2[Hz]の間の周波数帯域において遮断することができる。そのため、補強線4側のサージ電流が正極方向および負極方向に振動する。そして、このように振動する振動波によって、連接ハンガー線7からの相互誘導による磁気反作用が大きくなるため、補強線4側のサージ電流の進行を確実に抑制可能となる。
【0077】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の形態において実施することができる。例えば、上記の実施形態では、図1に示したように、ユーザ端末側において、補強線4及び連接ハンガー線7を直接接地する場合を説明したが、補強線4及び連接ハンガー線7のユーザ端末側を、それぞれコンデンサを介して接地するようにしてもよい。また、連接ハンガー線7のユーザ端末と反対側の端部をコンデンサ8を介して接地する場合を説明したが、連接ハンガー線7は、各ハンガー線2をコンデンサ6を介して連接したものであるので、その両端部を直接接地するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1 メッセンジャーワイヤ(支持線)
2 ハンガー線
3 光ファイバ線
4 補強線
5,6,8 コンデンサ
7 連接ハンガー線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
架設された支持線と、前記支持線に並列に配置され且つ情報を伝達する光ファイバ線と、前記光ファイバ線を補強するための補強線と、前記光ファイバ線を前記支持線に吊り下げ支持するために、前記支持線と前記光ファイバ線の双方の周囲に巻回される複数のハンガー線とを備えた光通信設備において、
前記補強線は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサを介して接地され、
前記複数のハンガー線は、隣接するもの同士がコンデンサを介して接続されて長尺な連接ハンガー線を形成し、
前記連接ハンガー線は、一端側が直接接地され且つ他端側が直接接地又はコンデンサを介して接地され、
雷撃時に、前記補強線および前記連接ハンガー線のそれぞれが等価的に両端接地となって大地を介した閉回路を形成して前記補強線と前記連接ハンガー線との間に相互誘導を作用させるとともに、前記補強線で並列共振を生じさせるように構成されていることを特徴とする光通信設備。
【請求項2】
前記補強線の並列共振点におけるインピーダンスをZL、前記補強線のサージインピーダンスをZRkとした場合に、
ZL≧π2・ZRk
なる関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光通信設備。
【請求項1】
架設された支持線と、前記支持線に並列に配置され且つ情報を伝達する光ファイバ線と、前記光ファイバ線を補強するための補強線と、前記光ファイバ線を前記支持線に吊り下げ支持するために、前記支持線と前記光ファイバ線の双方の周囲に巻回される複数のハンガー線とを備えた光通信設備において、
前記補強線は、一端側が直接接地され且つ他端側がコンデンサを介して接地され、
前記複数のハンガー線は、隣接するもの同士がコンデンサを介して接続されて長尺な連接ハンガー線を形成し、
前記連接ハンガー線は、一端側が直接接地され且つ他端側が直接接地又はコンデンサを介して接地され、
雷撃時に、前記補強線および前記連接ハンガー線のそれぞれが等価的に両端接地となって大地を介した閉回路を形成して前記補強線と前記連接ハンガー線との間に相互誘導を作用させるとともに、前記補強線で並列共振を生じさせるように構成されていることを特徴とする光通信設備。
【請求項2】
前記補強線の並列共振点におけるインピーダンスをZL、前記補強線のサージインピーダンスをZRkとした場合に、
ZL≧π2・ZRk
なる関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の光通信設備。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−125060(P2012−125060A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273889(P2010−273889)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(300053748)
【出願人】(000221409)東神電気株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(300053748)
【出願人】(000221409)東神電気株式会社 (29)
【Fターム(参考)】
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