説明

光造形装置

【課題】粘性の高い光硬化性樹脂を用いた場合であっても、スキージに付着した未硬化の光硬化性樹脂が剥落して平坦性を劣化させることが無い、光造形装置を提供する。
【解決手段】光硬化性樹脂層11の一部を、レーザ光で露光、硬化させながら積層することで、立体造形物を形成する光造形装置であって、光造形装置は、光硬化性樹脂8を満たした造形槽9と、この造形槽9内に上下自在に配置された基台10と、造形槽9の上方に配置されて、光硬化性樹脂8の表面に当接して水平に移動させることで、基台10上に平坦な光硬化性樹脂層11を形成するスキージ12と、光硬化性樹脂層11の一部にレーザ光を照射して硬化させるレーザ光源と、スキージ12に付着した光硬化性樹脂8を除去する除去機構13とを備え、スキージ12は造形槽9を越えて往復移動し、その移動端部に配置された除去機構13でスキージ12に付着した余分な光硬化性樹脂を除去する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂層をレーザ光で露光、硬化させることで立体造形物を形成する光造形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
三次元CADのデータより、短時間で立体の形状モデルを形成する方法として、光硬化性樹脂を用いた光造形装置が知られている。図7に示すごとく、従来の光造形装置は、光硬化性樹脂1を満たした造形槽2と、この造形槽2内に配置した昇降可能な基台3と、造形槽2の上方に配置されて、水平移動可能なスキージ4と、光硬化性樹脂1を露光して硬化させるレーザ光源5とから主に構成されている。
【0003】
まず初めに、基台3上の光硬化性樹脂1に、スキージ4を当接させて水平に移動させることで、基台3上に平坦な光硬化性樹脂層6を形成する。次に、レーザ光源5からレーザ光をこの光硬化性樹脂層6上に照射することで硬化させる。このとき、レーザ光源5は、作製する形状モデルの三次元CADデータを記憶した制御装置7に接続されており、レーザ光を各断面のCADデータに基づいて走査することで、各断面における層状の形状モデルを形成する。そして、上記を繰り返して、層状の形状モデルを積層することで立体の形状モデルを形成するものである。
【0004】
なお、この出願の発明に関する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2000−218705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来例では、光硬化性樹脂層6の表面をスキージ4で平坦化させる際、必ずスキージ4の移動方向前面に余分な光硬化性樹脂1を掻き取りながら端部まで移動させる。そのため、端部で反対方向に移動させて、スキージ4の背面で再度光硬化性樹脂層6を平坦化させる際に、この前面に付着した光硬化性樹脂1が落下することで、平坦性が劣化するという課題があった。
【0006】
そこで本発明は、光硬化性樹脂層を高い精度で平坦化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、光硬化性樹脂層の一部を、レーザ光で露光、硬化させながら積層することで、立体造形物を形成する光造形装置であって、前記光造形装置は、光硬化性樹脂を満たした造形槽と、この造形槽内に上下自在に配置された基台と、前記造形槽の上方に配置されて、前記光硬化性樹脂の表面に当接して水平に移動させることで、前記基台上に平坦な光硬化性樹脂層を形成するスキージと、前記光硬化性樹脂層の一部にレーザ光を照射して硬化させるレーザ光源と、前記スキージに付着した光硬化性樹脂を除去する除去機構とを備え、前記スキージは造形槽を越えて往復移動し、その移動端部に配置された前記除去機構でスキージに付着した余分な光硬化性樹脂を除去するので、スキージの移動端部で、付着した余分な光硬化性樹脂を確実に取り除くことができ、その結果、余分な光硬化性樹脂の落下の無い、平坦な光硬化性樹脂層を形成することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る光造形装置によれば、光硬化性樹脂層を往復移動させることで平坦化するスキージにおいて、その移動端部に、先端部が下方に向いた庇状の弾性体で構成される除去機構を設ける。そのため、移動端部でスキージを弾性体に当接させてさらに押し込むことで、弾性体を撓ませるとともに、この弾性体の先端をスキージの先端に向けて摺動させるので、付着した余分な光硬化性樹脂を確実に掻き取ることができ、その結果、余分な光硬化性樹脂の落下の無い、平坦な光硬化性樹脂層を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の一実施の形態について図を用いて説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態を説明する光造形装置の主要部の斜視図である。
【0011】
本実施の形態における光造形装置は、光硬化性樹脂8を満たすための造形槽9と、この造形槽9内に配置した上下方向に昇降可能な基台10と、造形槽9の上方に配置され、基台10上に供給された光硬化性樹脂8の表面を水平に移動することで、平坦な光硬化性樹脂層11を形成するスキージ12と、このスキージ12が移動する造形槽9の両端部9a(図2)に配置された除去機構13とから構成されている。
【0012】
スキージ12は、光硬化性樹脂8を掻き取るためのブレード14と、このブレード14を固定して支持するブラケット15とから構成される。尚、ブレード14の材料は、通常は剛性の高い薄い鋼板等を使用することで、スキージ12の水平移動に伴うブレード14の撓みと、光硬化性樹脂8がブレード14の底面部に付着することを防止して、一定の厚みの光硬化性樹脂層11を基台10上に形成することができるものである。
【0013】
また、スキージ12は、ブラケット15に固定された移動機構により水平方向(x方向)に往復移動可能であり、この移動機構によりスキージ12を水平移動させることで、基台10上に供給された光硬化性樹脂8を、その表面に当接させたブレード14で平坦化して一定の厚みの光硬化性樹脂層11を形成する。そして、半導体レーザやHe−Cdなどのレーザ発振源、走査ミラーなどから構成されるレーザ光源(図示せず)から、レーザ光をこの光硬化性樹脂層11に照射することで、照射部の光硬化性樹脂8を硬化させる。レーザ光源は、作製する形状モデルの三次元CADデータより生成された断面データ(z方向に薄くスライスした形状データ)に基づき、制御装置で走査ミラーを走査することで、各断面における形状モデルを作製する。基台10は、上下方向(z方向)に昇降可能な機構を備えており、一層の形状モデルを作製後に、一定量下降して再度レーザ光の照射を繰り返すことで、各層の形状モデルすなわち断面形状を積層して、短期間で立体の形状モデルを作製するものである。尚、各層の厚み、すなわち基台10の下降量は、通常50ミクロンから100ミクロン程度の範囲で設定するが、要求される形状モデルの精度により適宜設定する。
【0014】
本実施の形態における光造形装置の特徴は、ブレード14に付着した余分な光硬化性樹脂を取り除く除去機構を、スキージ12が往復移動するその移動端(両端部)に設けたことである。特に、試作金型用途など耐熱性や高い剛性が要求される光造形では、エポキシ基材にフィラーを含有させた高粘度の光硬化性樹脂8が用いられる。このフィラー含有タイプの光硬化性樹脂8は、ブレード14の前面に掻き上げられて付着すると、その粘度の高さから自重で落下せず、そのまま残存する。この残存した光硬化性樹脂8が、スキージ12を逆方向に移動させたときに落下することで、光硬化性樹脂層11の平坦性が劣化する。本実施の形態では、スキージ12の移動端に除去機構13を設けて、付着した余分な光硬化性樹脂8を確実に掻き取り除去することで、付着した光硬化性樹脂8の落下を防止するものである。
【0015】
次に除去機構13の詳細を、図2を用いて説明する。
【0016】
図2は、図1における光造形装置のA−AA断面図である。
【0017】
本実施の形態の除去機構13は、基台10を挟んだ造形槽9の両端部9aに設けられ、板状の弾性体16と調整ポスト17とから構成されている。板状の弾性体16は、一端16aを下方に向けて、他端部16bを調整ポスト17に挟持して固定することで庇状としている。この弾性体16の一端16aに、ブレード14の前面14aを当接させて、さらに押し込むことで、この板状の弾性体16を撓ませるとともに、その先端16aをブレード14に沿わせて下方に摺動させることで、ブレード14の前面14aに付着した余分な光硬化性樹脂8を確実に掻き取り、除去するものである。弾性体16の材料は、必ずブレード14の材料よりも弾性率の小さい材料を選択する。こうすることで、ブレード14を当接させて押し込んだときに、弾性体16が下方に撓みながらブレード14の前面14aに沿わせることができるので、ブレード14の形状によらず、確実に弾性体16を沿わせることができる。さらに、弾性体16の材料をブレード14よりも硬度の低い材料を用いることで、当接時にブレード14を傷つけることなく光硬化性樹脂8を掻き取ることができる。尚、掻き取られた余分な光硬化性樹脂8は、造形槽9へ回収される。
【0018】
次に、この除去機構13による掻き取り動作の詳細を説明する。
【0019】
図3〜図6は、本実施の形態における光硬化性樹脂8の除去動作を説明する工程の側面図をそれぞれ示している。
【0020】
まず初めに図3に示すごとく、基台10上に供給された光硬化性樹脂8の表面にブレード14の先端を当接させながらスキージ12を水平方向(x方向)に移動させることで、平坦な光硬化性樹脂層11を形成する。このとき、基台10上には、形成する光硬化性樹脂層11の厚みよりも若干厚い光硬化性樹脂8が供給されるので、余分な光硬化性樹脂8aがブレード14の前面14aに掻き取られることとなる。
【0021】
次に図4に示すごとく、造形槽9の端部9aに配置された除去機構13まで、基台10を越えてスキージ12をさらに水平移動させた後、基台上の光硬化性樹脂層11を、三次元CADデータに基づき生成された断面データに則りレーザ光を露光させて硬化させる。一方スキージ12は、ブレード14の前面14aに掻き取られた余分な光硬化性樹脂8aを付着させた状態で、造形槽9の端部9aに配置した除去機構13へ当接させる。除去機構13は、上述したように、板状の弾性体16の先端部16aを下方に向けて、他端16bを挟持して固定した庇状としたものである。尚、この先端部16aの高さは、前面14aで掻き取られた余分な光硬化性樹脂8aよりも高くなるようにして、さらに取り付け角度Bを必ず鋭角にして調整ポスト17に取り付けられている。
【0022】
次に図5に示すごとく、さらにスキージ12を水平移動させることにより、ブレード14の前面14aを板状の弾性体16に押し込む。このようにブレード14を弾性体16に押し込むことで、弾性体16の少なくとも先端部16aは撓み、前面14aに沿って摺動して付着した余分な光硬化性樹脂8aを掻き取り、除去する。このとき、スキージ12の移動量すなわちブレード14の押し込み量は、当接させて撓んだ弾性体16の少なくとも先端部16aが、ブレード14の先端を必ず越えるように設定する。こうすることで、底面部も含めて、ブレード14に付着している余分な光硬化性樹脂8aを確実に除去できるものである。さらに、取り付け角度Bを鋭角とすることにより、余分な光硬化性樹脂8aを弾性体16の裏面側16cに掻き取って集めることができるので、ブレード14を反転させて急に弾性体16から離脱させた場合であっても、弾性体16の跳ね上がりで掻き取った光硬化性樹脂8aが基台10上などへ飛散することを防止することができる。尚、先端部16aを、刃状の鋭角な先端角度を有する形状とすることで、より確実に裏面側16cに余分な光硬化性樹脂8aを掻き取り集めることができる。
【0023】
最後に図6に示すごとく、基台10を一定量降下させて新たな光硬化性樹脂8を供給した後、スキージ12を反対方向に水平移動させて再度平坦化させる。このとき、弾性体16の裏面側16cに付着した光硬化性樹脂8aは、ブレード14を離脱させたときの跳ね上がりなどにより、造形槽9内に落下して回収される。尚、本実施の形態では、一端での除去動作について説明したが、他端においても同様の除去機構13が配置されており、同様に余分な光硬化性樹脂8aの除去が行われるものである。
【0024】
上述したように、本発明の光造形装置は、光硬化性樹脂8を平坦化した後のブレード14から、その移動端部において必ず付着した余分な光硬化性樹脂8aを掻き取り除去するので、平坦化した光硬化性樹脂層11上に未硬化あるいは余分な光硬化性樹脂8aが落下することがなく、その結果、造形物の形成精度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明に係る光造形装置によれば、光硬化性樹脂層を往復移動させることで平坦化するスキージにおいて、その移動端部に、先端部が下方に向いた庇状の弾性体で構成される除去機構を設ける。そのため、移動端部でスキージを弾性体に当接させてさらに押し込むことで、弾性体を撓ませるとともに、この弾性体の先端をスキージの先端に向けて摺動させるので、付着した余分な光硬化性樹脂を確実に掻き取ることができ、その結果、余分な光硬化性樹脂の落下の無い、平坦な光硬化性樹脂層を形成することができるので、光硬化性樹脂層をレーザ光で露光、硬化させることで立体造形物を形成する光造形装置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施の形態における光造形装置の要部斜視図
【図2】図1に示す光造形装置のA−AA断面図
【図3】本発明の光造形装置の除去動作を説明する側面図
【図4】本発明の光造形装置の除去動作を説明する側面図
【図5】本発明の光造形装置の除去動作を説明する側面図
【図6】本発明の光造形装置の除去動作を説明する側面図
【図7】従来の光造形装置を説明する断面図
【符号の説明】
【0027】
8 光硬化性樹脂
9 造形槽
10 基台
11 光硬化性樹脂層
12 スキージ
13 除去機構
16 弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性樹脂層の一部を、レーザ光で露光、硬化させながら積層することで、立体造形物を形成する光造形装置であって、前記光造形装置は、光硬化性樹脂を満たした造形槽と、この造形槽内に上下自在に配置された基台と、前記造形槽の上方に配置されて、前記光硬化性樹脂の表面に当接して水平に移動させることで、前記基台上に平坦な光硬化性樹脂層を形成するスキージと、前記光硬化性樹脂層の一部にレーザ光を照射して硬化させるレーザ光源と、前記スキージに付着した光硬化性樹脂を除去する除去機構とを備え、前記スキージは造形槽を越えて往復移動し、その移動端部に配置された前記除去機構でスキージに付着した余分な光硬化性樹脂を除去する光造形装置。
【請求項2】
除去機構は、庇状に斜め下方にせり出した弾性体からなり、スキージを前記弾性体へ当接させた後さらに押し込むことで、前記弾性体を撓ませるとともに、この弾性体の先端を前記スキージ上に摺動させて、付着した余分な光硬化性樹脂をかき取り除去する請求項1に記載の光造形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−137251(P2008−137251A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325185(P2006−325185)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】