説明

光配向用液晶配向剤およびそれを用いた液晶表示素子

液晶の良好な配向性だけではなく、良好な電気特性を有する液晶配向膜を、光配向法によって得るための液晶配向剤、及び該液晶配向剤を使用する、液晶配向膜のラビング処理に伴う不具合を解消し、信頼性が高く、表示ムラやシール材周辺のしみの発生が起こりにくい液晶表示素子を提供する。
下記式(1)で表されるジアミンを含有するジアミン成分と、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物成分とを、反応重合させることにより得られるポリアミック酸、または該ポリアミック酸から得られるポリイミドの少なくとも一方を含有することを特徴とする光配向用液晶配向剤、およびこの液晶配向剤から光配向法によって得られた液晶配向膜を有する液晶表示素子。


(式中、R〜R10のうち二つは一級アミノ基、残りは水素原子または一級アミノ基以外の一価の有機基であり、それぞれ同じであっても異なっても良い)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光配向法によって液晶配向膜を形成するための光配向用液晶配向剤、およびそれを用いた液晶表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、薄型・軽量を実現する表示デバイスとして、現在広く使用されている。液晶表示素子の表示特性は液晶の配向性、液晶のプレチルト角の大きさ、プレチルト角の安定性、電気特性などに大きく影響されることが知られている。このような液晶表示素子の表示特性を向上する上では、用いる液晶材料だけでなく、その液晶と直に接し、その配向状態を決定づける液晶配向膜が重要となる。
【0003】
現在、液晶配向膜は主にポリアミック酸やポリイミドの樹脂溶液を液晶配向剤として用い、それらを基板に塗布した後、焼成を行い、この塗膜表面をレーヨン布やナイロン布によって圧力をかけてこする、いわゆるラビング処理を行って形成されている。ポリイミドまたはその前駆体であるポリアミック酸から液晶配向膜を得る方法は、樹脂溶液を塗布・焼成するといった簡便なプロセスで耐熱性、耐溶剤性に優れた塗膜を作成することができ、ラビング処理により容易に液晶を配向させることができることから、工業的に広く普及し現在に至っている。
【0004】
しかしながら、現在広く普及している配向方法であるラビング処理の場合、液晶配向膜の削れやごみの付着によって発生する表示欠陥が問題となっている。又、ラビング時に発生する静電気により、TFT(薄膜トランジスタ)素子が破壊され、その結果、表示不良が発生することが問題となっている。さらに近年、基板が大型化することで、均一なラビング処理が施されないことが問題となっている。
【0005】
このようなラビング処理の問題を回避する方法として、基板上に形成された膜に紫外線等を照射し、ラビング処理することなく液晶配向膜を作成する方法(光配向法)が提案されている。
【0006】
この光配向法用の膜材料に関しても様々な提案がされており、例えばポリイミドを用いたものとしては、テトラカルボン酸由来の構造部位に脂環構造を有するポリイミドを用いたものが、液晶分子を均一に且つ安定に配向させることができることが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
一方、液晶配向膜に必要とされる特性としては、液晶の良好な配向性だけではなく、液晶素子としたときの電気特性も重要となる。従来より、ポリイミド系の液晶配向膜の電気特性を改善する手段としては、化合物の添加物によるもの、ポリイミドの原料となる酸二無水物やジアミンの選択によるものなどが提案されている。例えば、ジアミンの選択による例としては、パラフェニレン構造を有するジアミンを用いたポリイミドが、高温における電圧保持率が高いことが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
ところが、紫外線等の照射によって化学変化を起こす光配向法の場合、電気特性に関しては従来のラビング処理による液晶配向膜からは予想されない結果となることが多く、光配向法による液晶配向膜の電気特性は、ラビング処理による液晶配向膜と比較して、一般的に電気特性が劣っている場合が多い。特に、紫外線等によってポリマーの分解を伴う場合は、従来のラビング法と比較して、液晶セル中に不純物イオンの量が増加し、電圧保持率が低下してしまうという問題があった。この電圧保持率の低下は、液晶表示パネルの信頼性の低下、表示ムラの発生、シール剤周辺ムラの発生等の問題を引き起こす原因となる。したがって、光配向法による液晶配向膜の電気特性の改善に関しては、従来のラビング処理による液晶配向膜とは異なる観点で材料の開発を行う必要がある。
【0009】
光配向法用の膜材料の電気特性を改善させる手段としては、共役エノン構造を側鎖に有するポリスチレン誘導体構造単位やマレイミド構造単位を含む重合体により、電気特性の良好な液晶配向膜得ることが提案されている。(例えば、特許文献3参照)。また、重合性マレイミド基を有する単量体よりなる光配向膜用材料を用いることによる、良好な電圧保持率を有する光配向膜も提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
しかしながら、光配向法による液晶配向膜は、ラビング処理による液晶配向膜と比較して、配向膜材料の選択肢が多いとは言えない。特に、現在ラビング処理による液晶配向膜として実績のあるポリイミド系の材料を用いたものに関しては、電気特性の観点で光配向法による液晶配向膜に適した構造の提案はなかった。
【0011】
【特許文献1】特開平9−297313号公報
【特許文献2】特開平5−341291号公報
【特許文献3】特開2000−281724号公報
【特許文献4】特開2002−317013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の事情を鑑みなされたものであって、ラビング処理による液晶配向膜として実績のあるポリイミド系の材料を用いたものに関して、液晶の良好な配向性だけではなく、良好な電気特性、特に電圧保持特性が高く、イオン量が小さく、蓄積電荷が少ないといった特性を有する液晶配向膜を、光配向法によって得るための液晶配向剤を提供することが目的である。また、液晶配向膜のラビング処理に伴う不具合を解消し、信頼性が高く、表示ムラやシール材周辺のしみの発生が起こりにくい液晶表示素子を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、本発明を見いだした。即ち本発明は、以下に示す光配向用液晶配向剤および液晶表示素子である。
1.下記式(1)で表されるジアミンを含有するジアミン成分と、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物成分とを、反応重合させることにより得られるポリアミック酸、または該ポリアミック酸から得られるポリイミドの少なくとも一方を含有することを特徴とする光配向用液晶配向剤。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R〜R10のうち二つは一級アミノ基、残りは水素原子または一級アミノ基以外の一価の有機基であり、それぞれ同じであっても異なっても良い)
2.脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、下記式(2)で示されるテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする、上記1に記載の光配向用液晶配向剤。
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、R11〜R14は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)
3.上記1または2のいずれかに記載の光配向用液晶配向剤を、基板に塗布する工程と、該基板に偏光紫外線を照射する工程とを経て形成される液晶配向膜を有する液晶表示素子。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光配向用液晶配向剤は、電圧保持特性に優れ、イオン量を低下させ、なおかつ蓄積電荷が少ない液晶配向膜を光配向法によって得ることができる。また、本発明の液晶配向剤から得られた光配向法による液晶配向膜を有する液晶表示素子は、液晶配向膜のラビング処理に伴う不具合が解消され、なおかつ優れた電気特性を有している。このため、信頼性が高く、表示ムラやシール材周辺のしみの発生が起こりにくい液晶表示デバイスとすることができ、TN素子、STN素子、TFT液晶素子、更には、横電界型の液晶表示素子、垂直配向型の液晶表示素子などネマティック液晶を用いた種々の方式による表示素子に好適に用いられる。また、使用する液晶を選択することで、強誘電性および反強誘電性の液晶表示素子にも使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明の液晶配向剤は、テトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分とを反応重合させることにより得られるポリアミック酸、または該ポリアミック酸から得られるポリイミドの少なくとも一方を含有するものであるが、偏光紫外線照射による配向性、高い電圧保持特性、少ない電荷蓄積特性を達成させるために、該テトラカルボン酸二無水物成分の少なくとも一部が脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、該ジアミン成分の少なくとも一部が一般式(1)で示されるジアミンであることに特徴がある。
【0020】
本発明の液晶配向剤に用いられる脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1−シクロヘキシルコハク酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は単独でも組み合わせても用いることができる。
【0021】
また、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物のうち、高い電圧保持特性を示し、かつ偏光紫外線照射による優れた液晶配向性を得る上で、下記式(2)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、R11〜R14は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)
で示されるテトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましい。上記式中のR11〜R14は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であるが、水素原子またはメチル基が好ましく、より好ましくは水素原子である。具体的には、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を用いることが好ましく、より好ましくは1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物である。
【0024】
本発明の液晶配向剤に用いられるテトラカルボン酸二無水物成分は、上記の脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物と、その他のテトラカルボン酸二無水物とを組み合わせても用いることができる。その他のテトラカルボン酸二無水物としては、ビシクロ[3,3,0]オクタン−2,4,6,8−テトラカルボン酸二無水物などの脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族テトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、これらのテトラカルボン酸二無水物は、一種類または複数種を、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物と組み合わせて用いることができる。
【0025】
これらその他のテトラカルボン酸二無水物のうち、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物は、電圧保持特性を低下させる傾向はあるものの、液晶の配向性に優れ、蓄積電荷をさらに少なくする効果がある。このため、蓄積電荷をより少なくすることを重視する場合は、これらのテトラカルボン酸二無水物を、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物に組み合わせて用いることは好ましい。
【0026】
本発明の液晶配向剤に用いられるテトラカルボン酸二無水物成分において、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物の好ましい比率は、20〜100モル%であり、より好ましくは50〜100モル%である。脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物の比率を増やすことで、より良好な光配向性が得られ、高い電圧保持特性が得られる。
【0027】
本発明の液晶配向剤に用いられる一般式(1)
【0028】
【化4】

【0029】
(式中、R〜R10のうち二つは一級アミノ基、残りは水素原子または一級アミノ基以外の一価の有機基であり、それぞれ同じであっても異なっても良い)
で表されるジアミンの具体例としては、式(3)で表されるように異なるベンゼン環に一級アミノ基がそれぞれ付いたジアミン、
【0030】
【化5】

【0031】
式(4)で表されるように同じベンゼン環に二つの一級アミノ基が付いたジアミン、
【0032】
【化6】

が挙げられる。また、これらのジアミンのベンゼン環上の水素原子は一級アミノ基以外の一価の有機基で置換されていてもよい。この一価の有機基としては、炭素数1〜20のアルキル基やアルケニル基、シクロアルキル基、フェニル基、ビフェニル基、ターフェニル基、フッ素原子、又はこれらの組み合わせからなる基などが挙げられる。これら一般式(1)で表されるジアミンのうち、テトラカルボン酸二無水物との反応性および配向膜としたときの液晶配向性の観点から4,4’−ジアミノジフェニルアミン、2,4−ジアミノジフェニルアミンが好ましく、最も好ましいのは4,4’−ジアミノジフェニルアミンである。
【0033】
本発明の液晶配向剤に用いられるジアミン成分は、一般式(1)で示されるジアミンを含むことが必須であるが、その他のジアミンと組み合わせて使用することもできる。
【0034】
一般式(1)で示されるジアミンと組み合わせて使用することができるジアミンは特に限定されないが、以下の具体例を挙げられる。脂環式ジアミンの例として、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチルジシクロヘキシルアミン、およびイソホロンジアミンが挙げられる、また、炭素環式芳香族ジアミンの例として、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ジアミノトルエン類(例えば、2,4−ジアミノトルエン)、1,4−ジアミノ−2−メトキシベンゼン、2,5−ジアミノキシレン類、1,3−ジアミノ−4−クロロベンゼン、1,4−ジアミノ−2,5−ジクロロベンゼン、1,3−ジアミノ−4−イソプロピルベンゼン、4,4’−ジアミノジフェニル−2,2’−プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノスチルベン、4,4’−ジアミノスチルベン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジフェニルチオエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ安息香酸フェニルエステル、2,2’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンジル、ビス(4−アミノフェニル)ホスフィンオキシド、ビス(3−アミノフェニル)メチルスルフィンオキシド、ビス(4−アミノフェニル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(4−アミノフェニル)シクロヘキシルホスフィンオキシド、N,N’−ビス(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミン、N,N−ビス(4−アミンフェニル)−N−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル尿素、1,8−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノアントラキノン、ジアミノフルオレン、ビス(4−アミノフェニル)ジエチルシラン、ビス(4−アミノフェニル)ジメチルシラン、ビス(4−アミノフェニル)テトラメチルジシロキサン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0035】
さらに複素環式ジアミン類としては、2,6−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノピリジン、2,4−ジアミノ−s−トリアジン、2,7−ジアミノジベンゾフラン、2,7−ジアミノカルバゾール、3,7−ジアミノフェノチアジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−チアジアゾール、2,4−ジアミノ−6−フェニル−s−トリアジンなどが挙げられる、脂肪族ジアミンの例として、ジアミノメタン、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,3−ジアミノ−2,2−ジメチルプロパン、1,4−ジアミノ−2,2−ジメチルブタン、1,6−ジアミノ−2,5−ジメチルヘキサン、1,7−ジアミノ−2,5−ジメチルヘプタン、1,7−ジアミノ−4,4−ジメチルヘプタン、1,7−ジアミノ−3−メチルヘプタン、1,9−ジアミノ−5−メチルノナン、2,11−ジアミノドデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン等が挙げられる。
【0036】
一般式(1)で示されたジアミンと組み合わせて使用できるジアミンのうち、光配向性の観点から、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミンとジアミノトルエン類(例えば、2,4−ジアミノトルエン)、1,4−ジアミノ−2−メトキシベンゼン、2,5−ジアミノキシレン類等のフェニレンジアミン誘導体が好ましく、最も好ましいものはp−フェニレンジアミンである。良好な光配向性を得るためにp−フェニレンジアミンを用いる場合、好ましい比率は10モル%以上であり、より好ましくは30モル%以上である。
【0037】
また、液晶のプレチルト角を高める目的で、上記ジアミンに長鎖アルキル基、パーフルオロアルキル基、ステロイド骨格基などのチルト角を高める効果が知られている有機基が結合した構造のジアミンを併用してもよい。その具体的な一例を挙げるならば、m−フェニレンジアミンのベンゼン環にエーテル結合を介して長鎖アルキル基が結合した構造を持つ1,3−ジアミノ−4−ドデシルオキシベンゼンなどである。
【0038】
本発明の液晶配向剤に用いられるジアミン成分において、高い電圧保持率を得るために、一般式(1)で表されるジアミンの好ましい比率は10〜100モル%であり、より好ましくは30〜100モル%である。
【0039】
本発明の液晶配向剤に用いられるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分は、有機溶剤中で混合することにより反応してポリアミック酸とすることができ、このポリアミック酸を脱水閉環させることによりポリイミドとすることができる。
【0040】
テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを有機溶媒中で混合させる方法としては、ジアミン成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液を攪拌させ、テトラカルボン酸二無水物成分をそのまま、または有機溶媒に分散あるいは溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸二無水物成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを交互に添加する方法などが挙げられ、本発明においてはこれらのいずれの方法であっても良い。また、テトラカルボン酸二無水物成分またはジアミン成分が複数種の化合物からなる場合は、これら複数種の成分をあらかじめ混合した状態で反応させても良く、個別に順次反応させても良い。
【0041】
テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分を有機溶剤中で反応させる際の温度は、通常0〜150℃、好ましくは5〜100℃、より好ましくは10〜80℃である。温度が高い方が重合反応は早く終了するが、高すぎると高分子量の重合体が得られない場合がある。また、反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が低すぎると高分子量の重合体を得ることが難しくなり、濃度が高すぎると反応液の粘性が高くなり過ぎて均一な攪拌が困難となるので、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、有機溶媒を追加しても構わない。
【0042】
上記反応の際に用いられる有機溶媒は、生成したポリアミック酸が溶解するものであれば特に限定されないが、あえてその具体例を挙げるならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。これらは単独でも、また混合して使用してもよい。さらに、ポリアミック酸を溶解させない溶媒であっても、生成したポリアミック酸が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。また、有機溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリアミック酸を加水分解させる原因となるので、有機溶媒はなるべく脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0043】
ポリアミック酸の重合反応に用いるテトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分の比率は、モル比で1:0.8〜1:1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応と同様に、このモル比が1:1に近いほど得られるポリアミック酸の分子量は大きくなる。ポリアミック酸の分子量は、小さすぎるとそこから得られる塗膜の強度が不十分となる場合があり、逆にポリアミック酸の分子量が大きすぎると、そこから製造される液晶配向剤の粘度が高くなり過ぎて、塗膜形成時の作業性、塗膜の均一性が悪くなる場合がある。従って、本発明の液晶配向剤に用いるポリアミック酸はGPCで測定した重量平均分子量(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド換算)が2000〜250000が好ましく、より好ましくは4000〜200000である。
【0044】
上記のようにして得られたポリアミック酸は、そのまま本発明の液晶配向剤に用いても構わないが、脱水閉環させたポリイミドとしてから用いてもよい。ただし、ポリアミック酸の構造によっては、イミド化反応により不溶化して液晶配向剤に用いることが困難となる場合がある。この場合はポリアミック酸中のアミック酸基全てをイミド化させず、適度な溶解性が保てる範囲でイミド化させたものであっても構わない。
【0045】
ポリアミック酸を脱水閉環させるイミド化反応は、ポリアミック酸の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、ポリアミック酸の溶液に触媒を添加する化学的イミド化が一般的である。なかでも、比較的低温でイミド化反応が進行する化学的イミド化の方が、得られるポリイミドの分子量低下が起こりにくく好ましい。
【0046】
化学的イミド化は、ポリアミック酸を有機溶媒中において、塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌することにより行うことができる。このときの反応温度は−20〜250℃、好ましくは0〜180℃であり、反応時間は1〜100時間で行うことができる。塩基性触媒の量はアミック酸基の0.5〜30モル倍、好ましくは2〜20モル倍であり、酸無水物の量はアミック酸基の1〜50モル倍、好ましくは3〜30モル倍である。塩基性触媒や酸無水物の量が少ないと反応が十分に進行せず、また多すぎると反応終了後に完全に除去することが困難となる。この時に用いる塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができ、中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などを挙げることができる。中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。有機溶媒としては前述したポリアミック酸合成時に用いる溶媒を使用することができる。化学的イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
【0047】
このようにして得られたポリイミド溶液は、添加した触媒が溶液内に残存しているので、本発明の液晶配向剤に用いるためには、ポリイミド溶液を攪拌している貧溶媒に投入し、沈殿回収することが好ましい。ポリイミドの沈殿回収に用いる貧溶媒としては特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼンなどが例示できる。貧溶媒に投入することにより沈殿したポリイミドは濾過・洗浄して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱乾燥してパウダーとすることが出来る。このパウダーを更に良溶媒に溶解して、再沈殿する操作を2〜10回繰り返すと、ポリイミドを精製することもできる。一度の沈殿回収操作では不純物が除ききれないときは、この精製工程を行うことが好ましい。この際の貧溶媒として例えばアルコール類、ケトン類、炭化水素など3種類以上の貧溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
【0048】
また、ポリアミック酸も同様の操作で沈殿回収および精製することもできる。ポリアミック酸の重合に用いた溶媒を本発明の液晶配向剤中に含有させたくない場合や、反応溶液中に未反応のモノマー成分や不純物が存在する場合には、この沈殿回収および精製を行えばよい。
【0049】
本発明の液晶配向剤は、以上のようにして得られた特定構造を有するポリアミック酸または該ポリアミック酸を脱水閉環させたポリイミドの少なくとも一方を含有するものであるが、通常はこれらの樹脂を有機溶媒に溶解させた樹脂溶液の構成が取られる。樹脂溶液とするには、ポリアミック酸またはポリイミドの反応溶液をそのまま用いてもよく、反応液から沈殿回収したものを有機溶媒に再溶解してもよい。
【0050】
この有機溶媒としては、含有される樹脂成分を溶解させるものであれば特に限定されないが、あえてその具体例を挙げるならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、2−ピロリドン、N−エチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等を挙げることができ、これらは1種類でも複数種類を混合して用いても良い。
【0051】
また、単独では樹脂成分を溶解させない溶媒であっても、樹脂成分が析出しない範囲であれば、本発明の液晶配向剤に混合することができる。特に、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどの低表面張力を有する溶媒を適度に混在させることにより、基板への塗布時に塗膜均一性が向上することが知られており、本発明の液晶配向剤においても好適に用いられる。
【0052】
本発明の液晶配向剤の固形分濃度は、形成させようとする液晶配向膜の厚みの設定によって適宜変更することができるが、1〜10重量%とすることが好ましい。1重量%未満では均一で欠陥のない塗膜を形成させることが困難となり、10重量%よりも多いと溶液の保存安定性が悪くなる場合がある。
【0053】
その他、本発明の液晶配向剤には、基板に対する塗膜の密着性を向上させるために、シランカップリング剤などの添加剤を加えてもよく、また2種以上のポリアミック酸やポリイミドを混合したり、他の樹脂成分を添加してもよい。
【0054】
以上のようにして得られた本発明の液晶配向剤は、濾過した後、基板に塗布し、乾燥、焼成して塗膜とすることができ、この塗膜面を偏光した紫外線又電子線を基板面に対して一定方向に照射して光配向処理をすることにより、液晶配向膜として使用されるものである。
【0055】
この際、用いる基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、アクリル基板やポリカーボネート基板などのプラスチック基板などを用いることができる。液晶駆動のためのITO電極などが形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の観点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミ等の光を反射する材料も使用できる。
【0056】
液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法、インクジェット法などが挙げられる。なかでも、生産性の面から工業的には転写印刷法が広く用いられており、本発明の液晶配向剤においても好適に用いられる。
【0057】
液晶配向剤を塗布した後の乾燥の工程は、必ずしも必要とされないが、塗布後〜焼成までの時間が基板ごとに一定していない場合や、塗布後ただちに焼成されない場合には、乾燥工程を含める方が好ましい。この乾燥は、基板の搬送等により塗膜形状が変形しない程度に溶媒が蒸発していれば良く、その乾燥手段については特に限定されない。具体例を挙げるならば、50〜150℃、好ましくは80〜120℃のホットプレート上で、0.5〜30分、好ましくは1〜5分乾燥させる方法がとられる。
【0058】
液晶配向剤の焼成は、100〜350℃の任意の温度で行うことができるが、好ましくは150℃〜300℃であり、さらに好ましくは200℃〜250℃である。液晶配向剤中にポリアミック酸を含有する場合は、この焼成温度によってポリアミック酸からポリイミドへの転化率が変化するが、本発明の液晶配向剤は、必ずしも100%イミド化させる必要は無い。ただし、液晶セル製造行程で必要とされる、シール剤硬化などの熱処理温度より、10℃以上高い温度で焼成することが好ましい。
【0059】
焼成後の塗膜の厚みは、厚すぎると液晶表示素子の消費電力の面で不利となり、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5〜300nm、好ましくは10〜100nmである。
【0060】
上記のようにして得られたポリイミド膜に、基板に対して一定の方向から偏光板を介して偏光された紫外線を照射する。使用する紫外線の波長としては、一般には100nm〜400nmの範囲の紫外線を使用することができるが、特に好ましくは使用するポリイミドの種類によりフィルター等を介して最適な波長を選択することが好ましい。また、紫外線の照射時間は一般に数秒から数時間の範囲であるが、工業的な生産性や、照射量の増大により電圧保持率の低下を引き起こす可能性を考えると、良好な配向性が得られる必要量を使用するポリイミドの種類により選択することが好ましい。
【0061】
本発明の液晶表示素子は、上記した手法により本発明の液晶配向剤から液晶配向膜付き基板を得た後、公知の方法で液晶セルを作成し、液晶表示素子としたものである。液晶セル作成の一例を挙げるならば、液晶配向膜の形成された1対の基板を、1〜30μm、好ましくは2〜10μmのスペーサーを挟んで、光照射による配向方向が0〜270°の任意の角度となるように設置して周囲をシール剤で固定し、液晶を注入して封止する方法が一般的である。液晶封入の方法については特に制限されず、作製した液晶セル内を減圧にした後液晶を注入する真空法、液晶を滴下した後封止を行う滴下法などが例示できる。
【0062】
このようにして、本発明の光配向用液晶配向剤を用いて作製した液晶表示素子は、優れた電気特性を有しているため、信頼性が高く、表示ムラやシール材周辺のしみの発生が起こりにくい液晶表示デバイスとすることができる。なかでも、TN素子、STN素子、TFT液晶素子、更には、横電界型の液晶表示素子、垂直配向型の液晶表示素子などネマティック液晶を用いた種々の方式による表示素子に好適に用いられる。また、使用する液晶を選択することで、強誘電性および反強誘電性の液晶表示素子にも使用することができる。
【0063】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
本実施例で使用する略号の説明
(テトラカルボン酸二無水物)
CBDA: 1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
1,3DM-CBDA: 1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物
(ジアミン)
4,4'DADPA: 4,4’−ジアミノジフェニルアミン
p−PDA: p−フェニレンジアミン
DDE: 4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
(有機溶媒)
NMP: N−メチル−2−ピロリドン
BCS: ブチルセロソルブ
【0065】
(合成例1)CBDA/4,4’DADPA
テトラカルボン酸二無水物成分としてCBDA 19.61g(0.1mol)、ジアミン成分として4,4'DADPA 19.13g(0.096mol)をNMP 348.6g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Aを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量をGPC―101(Shodex製)で測定した結果、50000(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド換算)であった。さらにこの溶液をポリアミック酸4重量%、NMP76重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0066】
(合成例2)CBDA/4,4’DADPA、CBDA/p-PDA
テトラカルボン酸二無水物成分としてCBDA 19.61g(0.1mol)、ジアミン成分としてp-PDA 10.38g(0.096mol)をNMP 269.9g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Bを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量を合成例1と同様に測定した結果、47000であった。合成例1で得られたポリアミック酸溶液Aとポリアミック酸溶液Bとを、固形分比で1:1になるように混合し、均一な溶液を得た。さらにこの溶液をポリアミック酸4重量%、NMP76重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0067】
(比較合成例1)CBDA/p-PDA
合成例2で得られたポリアミック酸溶液Bを、ポリアミック酸4重量%、NMP76重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、比較のための液晶配向剤とした。
【0068】
(比較合成例2)CBDA/DDE
テトラカルボン酸二無水物成分としてCBDA 19.41g(0.099mol)、ジアミン成分としてDDE 20.02g(0.1mol)をNMP 223.48g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Cを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量を合成例1と同様に測定した結果、65000であった。さらにこの溶液をポリアミック酸4重量%、NMP76重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、比較のための液晶配向剤とした。
【0069】
(実施例1)
合成例1で得られた本発明の液晶配向剤を透明電極付きガラス基板にスピンコートし、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、220℃の熱風循環式オーブンで30分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させた。この塗膜面を偏光板を介して313nmの紫外線を5J/cm2照射し、液晶配向膜付き基板を得た。
【0070】
液晶セルの電気特性を評価するために、上記液晶配向膜付き基板を2枚用意し、その1枚の液晶配向膜面上に4μmのスペーサーを散布した。その上からシール剤を印刷し、もう1枚の基板を液晶配向膜面が向き合い光配向方向が直行するようにして張り合わせた後、シール剤を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、液晶MLC-2003(メルク・ジャパン製)を注入し、注入口を封止し、ツイストネマティック液晶セルを得た。この液晶セルを120℃30分熱処理して、その後室温まで徐冷してセルの観察を行ったところ、配向性は良好であった。
【0071】
電圧保持特性の評価
上記の液晶セルに23℃の温度下で4Vの電圧を60μs間印加し、16.67ms後の電圧を測定して、電圧がどのくらい保持できているかを電圧保持率として計算した。また、90℃の温度下でも同様の測定をした。この結果、23℃における電圧保持率は99.2%、90℃における電圧保持率86.4%であった。
【0072】
イオン密度の評価
上記の液晶セルに23℃の温度下で、「液晶セル・イオン密度測定システム(Version2.0)」((株)東陽テクニカ製)を用い、三角波振幅10V、周波数0.01Hzの条件下でイオン密度を測定した。その結果、イオン密度は110pC/cm2であった。
【0073】
電荷蓄積特性の評価
上記の液晶セルに23℃の温度下で直流3Vの電圧を重畳した30Hz/±3Vの矩形波を60分間印加し、直流3Vを切った直後の液晶セル内に残る残留電圧を光学的フリッカー消去法で測定した。この結果、蓄積電荷は0Vであった。
【0074】
(実施例2)
合成例2で得られた本発明の液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して254nmの紫外線を1J/cm2照射して行った。この結果は後述する表1に示す。
【0075】
(比較例1)
比較合成例2で得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して254nmの紫外線を1J/cm2照射して行った。この結果は後述する表1に示す。
【0076】
(比較例2)
比較合成例2で得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して254nmの紫外線を1J/cm2照射して行った。この結果は後述する表1に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
(合成例3)CBDA/pPDA(0.7)、4,4’DADPA(0.3)
テトラカルボン酸二無水物成分としてCBDA 18.63g(0.095mol)、ジアミン成分としてp-PDA7.57g(0.07mol)及び4,4'DADPA 5.98g(0.03mol)をNMP 289.6g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Dを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量をGPC−101(Shodex製)で測定した結果、28800(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド換算)であった。さらにこの溶液をポリアミック酸6重量%、NMP74重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0079】
(合成例4)CBDA/pPDA(0.5)、4,4’DADPA(0.5)
テトラカルボン酸二無水物成分としてCBDA 18.63g(0.095mol)、ジアミン成分としてp-PDA5.41g(0.05mol)及び4,4'DADPA 9.96g(0.05mol)をNMP 306.0g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Eを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量をGPC―101(Shodex製)で測定した結果、28600(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド換算)であった。さらにこの溶液をポリアミック酸6重量%、NMP74重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0080】
(合成例5)1,3DM-CBDA、CBDA/4,4’DADPA
テトラカルボン酸二無水物成分として1,3DM-CBDA11.21g(0.05mol)及びCBDA 8.82g(0.045mol)、ジアミン成分として4,4'DADPA 19.93g(0.1mol)をNMP 359.6g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Fを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量をGPC―101(Shodex製)で測定した結果、30300(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド換算)であった。さらにこの溶液をポリアミック酸6重量%、NMP74重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0081】
(合成例6)1,3DM-CBDA、CBDA/p-PDA 1,3DM-CBDA、CBDA/DADPA
テトラカルボン酸二無水物成分として1,3DM-CBDA11.21g(0.05mol)及びCBDA 9.02g(0.046mol)、ジアミン成分としてp−PDA 10.81g(0.1mol)をNMP 279.4g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Gを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量をGPC―101(Shodex製)で測定した結果、31300(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド換算)であった。合成例5で得られたポリアミック酸溶液Fとポリアミック酸溶液Gとを、固形分比で1:1になるように混合し、均一な溶液を得た。さらにこの溶液をポリアミック酸6重量%、NMP74重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0082】
(合成例7)CBDA/4,4’DADPA、CBDA/DDE
合成例1で得られたポリアミック酸溶液Aと比較合成例2で得られたポリアミック酸溶液Cとを、固形分比で1:1になるように混合し、均一な溶液を得た。さらにこの溶液をポリアミック酸4重量%、NMP76重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0083】
(合成例8)CBDA/4,4’DADPA、DDE
テトラカルボン酸二無水物成分としてCBDA 18.63g(0.095mol)、ジアミン成分としてDDE10.01g(0.05mol)及び4,4'DADPA 9.96g(0.05mol)をNMP 347.4g中で混合し、室温で5時間反応させてポリアミック酸溶液Hを得た。重合反応は容易かつ均一に進行し、得られたポリアミック酸の重量平均分子量をGPC―101(Shodex製)で測定した結果、28000(ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド換算)であった。さらにこの溶液をポリアミック酸6重量%、NMP74重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、本発明の液晶配向剤を得た。
【0084】
(比較合成例3)1,3DM-CBDA、CBDA/p-PDA
合成例6で得られた溶液Gを、ポリアミック酸6重量%、NMP74重量%、BCS20重量%となるようにNMPとBCSを加え、比較のための液晶配向剤とした。
【0085】
(実施例3)
合成例3で得られた本発明の液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して254nmの紫外線を1J/cm2照射して行った。この結果は後述する表2に示す。
【0086】
(実施例4)
合成例4で得られた本発明の液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して313nmの紫外線を5J/cm2照射して行った。この結果は後述する表2に示す。
【0087】
(実施例5)
合成例5で得られた本発明の液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して313nmの紫外線を2.5J/cm2照射して行った。この結果は後述する表2に示す。
【0088】
(実施例6)
合成例6で得られた本発明の液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して254nmの紫外線を0.5J/cm2照射して行った。この結果は後述する表2に示す。
【0089】
(実施例7)
合成例7で得られた本発明の液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して313nmの紫外線を5J/cm2照射して行った。この結果は後述する表2に示す。
【0090】
(実施例8)
合成例7で得られた本発明の液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して254nmの紫外線を1J/cm2照射して行った。この結果は後述する表2に示す。
【0091】
(比較例3)
比較合成例3で得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様の評価を行った。但し、光照射は偏光板を介して254nmの紫外線を0.5J/cm2照射して行った。この結果は後述する表2に示す。
【0092】
【表2】

【0093】
なお、本出願の優先権主張の基礎となる日本特許願2004−050979号(2004年2月26日に日本特許庁に出願)の全明細書の内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるジアミンを含有するジアミン成分と、脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物成分とを、反応重合させることにより得られるポリアミック酸、または該ポリアミック酸から得られるポリイミドの少なくとも一方を含有することを特徴とする光配向用液晶配向剤。
【化1】

(式中、R〜R10のうち二つは一級アミノ基、残りは水素原子または一級アミノ基以外の一価の有機基であり、それぞれ同じであっても異なっても良い)
【請求項2】
脂環式構造を有するテトラカルボン酸二無水物が、下記式(2)で示されるテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする、請求項1に記載の光配向用液晶配向剤。
【化2】

(式中、R11〜R14は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を示す)
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の光配向用液晶配向剤を、基板に塗布する工程と、該基板に偏光紫外線を照射する工程とを経て形成される液晶配向膜を有する液晶表示素子。

【国際公開番号】WO2005/083504
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510448(P2006−510448)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003033
【国際出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】