説明

光阻害免疫能力回復剤及びその製造方法

【課題】 自然界に多量に存在し、容易に入手可能な原料を用いて、強力な光阻害免疫能力回復作用を有し、外用剤として使用し得る新規な光阻害免疫能力回復剤を提供する。
【解決手段】 オゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)からの塩類水溶液による液状抽出物を有効成分とした光阻害免疫能力回復剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線その他の放射線によりそこなわれた皮膚の免疫能力を回復して健常状態の皮膚にするための光阻害免疫能力回復剤及びそれをオゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)を原料として、製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体が有する最も重要な生体防御機能の1つに皮膚免疫機能がある。皮膚は生体の最外層にある器官であり、外部からの物理的、化学的又は生物学的攻撃を最も受けやすく、その被害が内部組織に浸透するのを防ぐための免疫機能を備えている。
【0003】
この皮膚は、角化細胞、ランゲルハンス細胞からなる表皮組織と、樹状細胞、血管内皮細胞、マクロファージなどからなる真皮組織により構成され、その中のランゲルハンス細胞は、外部からの異物としての抗原の進入に対し、それを速やかに処理して、その情報をリンパ節を介してT細胞に伝達し、一連の免疫上の対応をするための重要な役割を果すことが知られている。
【0004】
ところで、皮膚が紫外線のような放射線に長時間暴露されると、細胞が損傷を受け、上記の免疫機能が失われ、皮膚の防御機能が低下する。
このため、失われた皮膚の免疫機能を賦活するための研究が行われ、例えばオゴノリ属に属する海藻より水性溶媒で抽出された物質を有効成分とする免疫賦活剤(特許文献1参照)、紅藻類に属する海藻から酸性多糖を水性溶媒で抽出し、固液分離して得られる抽出液に、該酸性多糖を加水分解する能力を有するβ−アガラーゼを作用させて酸性多糖を低粘性化して得られる溶液、又は上記海藻をβ−アガラーゼを含有する水性溶媒と接触させ、酸性多糖を抽出と同時に低粘性化したのち、固液分離して得られる溶液、又はこれらの溶液の精製液から分離した固形分を有効成分とする免疫賦活剤(特許文献2参照)、ホエータンパク質濃縮物をカラムクロマトグラフィー処理してグリコマクロペプチドに富む画分を得、この画分をさらにゲルろ過、次いでイオン交換クロマトグラフィーで処理することによって得られる免疫賦活物質(特許文献3参照)などが提案されている。
これらの免疫賦活剤は、経口的に投与することにより低下した皮膚免疫機能を復元させるものであるが、このような薬剤の皮膚免疫賦活における作用機序は解明されていないので、これを外用剤としたときに、同じ効果を奏するか否かは全く不明である。
また、外用剤として適用を得る皮膚免疫賦活剤については、グルタチオンと、カロチン類、キサンチン類、フラン類、トコフェロール類、アミノ酸類などとの組合せを含有する皮膚免疫賦活剤が提案されている(特許文献4参照)、効果の点で必ずしも満足し得るものとはいえない。
【0005】
ところで、赤血球凝集素は、各動物の赤血球に対し特異的な挙動を示すので、医療、製薬、生化学分野などにおける検査用試薬や分離用材料として広く用いられている。この赤血球凝集素は、動物由来のものと植物由来のものとに大別されるが、大量に入手しうること、処理しやすいことなどを考慮して、植物由来のものが実用上注目されている。
【0006】
これまで、これらの植物由来の赤血球凝集素としては、陸上植物由来のものとしてタチナタマメからのコンカナバリンA(Con A)や小麦からの小麦胚芽レクチン(WGA)などや(非特許文献1参照)、海洋植物由来のものとしてオゴノリ(Gracilariaverrucosa)からのGVAI、カギイバラノリ(Hypnea japonica)からのHypnin A、B、C及びD(非特許文献2参照)などが知られている。
【0007】
しかしながら、陸上植物由来のものは、凝集活性の高い標品は比較的容易に得ることができるが、単糖類や二糖類のような単純な糖によっても赤血球凝集活性が阻害されるため、認識糖鎖選択性が低いという欠点がある。海洋植物由来のものは、単糖類や二糖類によって赤血球凝集活性が阻害されず、フェツイン、アシアロフェツインのような糖タンパク質によって阻害されるため、認識糖鎖選択性が高いと考えられるが、凝集活性の高い標品を得ることが困難であるという欠点を有する。両者ともイオン強度の変化により凝集活性の制御を行うことができないという欠点をもっている。
また、一般に赤血球凝集素については100℃での熱処理によって、その糖鎖結合能力を喪失するという欠点がある。
【0008】
赤血球凝集素の細胞に対する生物活性の中で、画期的なものとしてリンパ球との反応を挙げることができる。リンパ球を非常に低い濃度の赤血球凝集素とともに培養すると、リンパ球が増殖し、分裂するようになる。このように静止期にあるリンパ球を成長・増殖する状態へと引き金を引く効果はマイトジェン刺激と呼ばれ、異物(抗原)に対する生体の免疫反応の鍵となる重要な現象である。マイトジェン刺激機能は細胞性免疫能力賦活機能の一つであり、赤血球凝集素の自然免疫増強活性の指標となる。
【0009】
マイトジェンとして主に利用される赤血球凝集素はコンカナバリン エイ(Con A)、インゲンマメレクチン ピイ(PHA−P)、インゲンマメレクチン エル(PHA−L)、アメリカヤマゴボウレクチン(PWM)などで、これらをリンパ球とともに48〜72時間培養し、DNAに取り込まれた標識チミジンの増加率を測定することにより検定される。
【0010】
マイトジェン能をもつ赤血球凝集素は細胞の抗原特異性とは無関係に、活性化可能なリンパ球のほとんどを活性化できるため、細胞の増殖による変化を追求したり、研究したりするのが容易である。また赤血球凝集素がTリンパ球に対し、細胞傷害活性を誘導させることも明らかとなっている。誘導されたT細胞の細胞傷害活性は抗原非特異的であることから、様々な正常細胞や悪性化細胞に対して発揮される。
【0011】
このように、赤血球凝集素によるマイトジェン活性化は、使用が容易で簡単なことから、エイズを含む様々な病気の患者の免疫能を判定する手段となっている。また種々の免疫抑制効果や免疫療法の効果を調べる目的にも使われている。さらに最近では、ガンの新しい治療法であるLAK療法におけるリンパ球の分裂促進剤としても注目されている。
【0012】
赤血球凝集素は糖鎖を特異的に認識し、結合する能力を有している。この性質は、マイトジェンとして生体内への直接投与あるいは皮膚へ経皮投与した場合、細胞表層糖鎖を認識し、細胞と結合できるため、糖鎖結合能力を持たないマイトジェンと比べて、細胞表層の糖鎖と結合して細胞表層に接近できるなどして、より効果的にマイトジェンとして機能を発揮することが考えられる。
【0013】
しかし、これらマイトジェン能をもつ赤血球凝集素は、タンパク質が主成分であり、高温(約100℃)での熱処理や40〜50℃でも長時間放置をすると糖結合能力を失ってしまうため、生体内投与に際しての他試薬との併合や、皮膚への塗布のためのクリームや軟膏として使用する際の他成分との併用は制限されるのを免れない。したがって、熱処理後も糖鎖結合能力を保持することができるマイトジェン能をもつ赤血球凝集素が求められており、本発明者らは先にオゴノリ属紅藻類から高活性赤血球凝集素を製造する方法を提案した(特許文献1)。しかしながら、その高活性赤血球凝集素が光阻害免疫能力回復作用のような生理活性を有することは知られていなかった。
【0014】
【非特許文献1】「ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J.Bacteriol.)」、1936年、第32巻、第227−237ページ(特許請求の範囲その他)
【非特許文献2】「ブレタン・オブ・ジャパニーズ・ソサエティ・オブ・サイエンティフィック・フィッシェリイズ(Bul.Jap.soc.sci.Fishe.)」、1981年、第47巻、第1079−1084ページ(特許請求の範囲その他)
【非特許文献3】日本生化学会編「生化学実験講座1」タンパク質の化学I分離精製、東京化学同人発行(1976年)
【特許文献1】特開平5−139988号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開平6−256208号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開平9−12474号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献4】特開平11−292737号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、自然界に多量に存在し、容易に入手可能な原料を用いて、強力な光阻害免疫能力回復作用を有し、外用剤として使用し得る新規な光阻害免疫能力回復剤を提供することを目的としてなされたものである。
ここで、光阻害免疫能力回復剤とは、紫外線その他の放射線の照射によりそこなわれた皮膚器官の免疫機能を回復し、元の免疫能力を有する器官の再生する能力をもつ物質を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、海藻由来の生体高分子物質特に赤血球凝集素の生理活性について、種々研究を重ねた結果、オゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)からの塩類水溶液による液状抽出物が、細胞免疫能力賦活活性を示し、光阻害免疫能力回復剤として有効であることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、オゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)からの塩類水溶液による液状抽出物を有効成分とした光阻害免疫能力回復剤を提供するものである。
この光阻害免疫能力回復剤は、例えば次に示す方法(1)〜(3)により製造される。
【0018】
(1)オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、沈殿として細胞免疫能力賦活活性を示す粗活性画分を回収し、場合により回収した沈殿を溶媒に溶解して溶液とする方法、
(2)オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、生成した沈殿を分離したのち、緩衝液に溶解して細胞免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を調製し、次いでこの溶液を透析膜を介して、細胞性免疫能力賦活活性を示す物質の等電点に調整された透析液と接触させ、低分子不純分を透析液中に移行させて除去すると同時に高分子不純分を含む溶液から生理活性高分子物質を沈殿させて回収する方法、及び
(3)オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、生成した沈殿を分離したのち、緩衝液に溶解して細胞免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を調製し、次いでこの溶液を透析膜を介して、高分子不純分の等電点に調整された透析液と接触させ、低分子不純分を透析液中に移行させて除去すると同時に高分子不純分を沈殿分離して細胞性免疫能力賦活活性を示す溶液を得る方法。
【0019】
そして、このようにして得られる光阻害免疫能力回復剤は、以下に示す点(イ)ないし(リ)のいずれか1つにより特徴付けられている。
(イ)オゴノリ属紅藻類が天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出され、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類であること、
(ロ)オゴノリ属紅藻類が天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出され、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類由来の非成熟性単藻培養株であること、
(ハ)液状抽出物がプロナーゼ処理したヒツジ赤血球を凝集させる性質を有し、かつこの凝集活性が単糖類又は二糖類では阻害されないが、フェツィン又はアシアロフェツィンで阻害されること、
(ニ)液状抽出物がウサギ赤血球に対する凝集活性がイオン強度により変化すること、
(ホ)液状抽出物がヒトリンパ球を幼若化する活性を有すること、
(ヘ)液状抽出物がトリチウムラベルしたチミジンの細胞核への取り込みを促進すること、
(ト)液状抽出物が100℃、10分間の熱処理後も糖鎖結合活性を有すること、
(チ)液状抽出物が糖及びタンパク質を含み、該タンパク質の質量が糖の質量に対し0.4以下であること、
(リ)液状抽出物が球状タンパク質を標準分子量物質として使用するゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、分子量100,000以上に相当する画分に溶出すること。
【0020】
オゴノリ属紅藻類(Gracilarla sp.)から塩類水溶液で抽出される抽出液に、最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度程度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、粗活性画分を沈殿として回収し、沈殿を適当な溶液で溶解し、透析と同時に等電点沈殿処理した透析同時等電点沈殿処理した粗活性画分、又は上記の透析同時等電点沈殿処理の前後で100℃、1〜10分間の熱処理によって夾雑タンパク質を除去した熱処理済みの粗活性画分、又はクロマトグラフィーにより成分を分離し、細胞性免疫能力賦活性特に光免疫抑制された細胞の自己免疫増強・光免疫抑制回復活性を示す画分を捕集することによって得られるクロマト精製活性画分、又はゲル濾過クロマトグラフィーにより分子量100,000以上の画分を分画することによって得られる液状体などの形で用いられる。
【0021】
上記の硫酸アンモニウムの飽和濃度は、「グリーン及びヒューズ(Green,A.A.& Hughes,W.L.)著(1955)「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第1巻、第67〜90ページ」に記載されている[結晶硫酸アンモニウムの添加量と濃度(%飽和)との関係に関する表]に基づいて、規定されるものである。
【0022】
本発明方法における塩類水溶液としては、例えば生理食塩水や、リン酸塩緩衝液、トリス塩酸緩衝液あるいはこれらに塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、2−メルカプトエタノール及びジチオスレイトールから選ばれる少なくとも一種を添加した液などがあり、特に、リン酸塩緩衝液、トリス塩酸緩衝液あるいはこれらに塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸亜鉛及び2−メルカプトエタノールから選ばれる少なくとも1種を添加した液が好ましい。
【0023】
上記で得た液状体は、糖を主成分とする赤血球凝集素を含んでいる。このような糖としては、糖を構成している単糖の中のガラクトースの割合が70〜100%、特には90から100%のものが好ましい。本発明の光阻害免疫能力回復剤として上記液状体を用いる場合、糖のほかに糖の質量に対してタンパク質の質量が0.4以下であるタンパク質を含んでいてもよい。
【0024】
なお、糖の定量は、標準試料としてガラクトースを用いて、フェノール硫酸法によって行い、タンパク質の定量は、標準試料としてウシ血清アルブミンを用いて、ローリー(Lowry)法によって行う。
【0025】
本発明の原料としては、オゴノリ属紅藻類が用いられるが、特にオゴノリ(Gracilaria verrucosa)、ツルシラモ(Gracilaria chorda)、それらの亜種が好ましく、天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出される特徴をもち、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類がより好ましく、天然で成熟体として雌雄配偶対が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出される特徴をもち、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類から作成された非成熟性単藻培養株が最も好ましい。本発明においてオゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)とは、(1)オゴノリ属海藻(Gracilaria sp.)に分類される海藻、あるいは、(2)Gracilariopsis sp.に分類される海藻、あるいは、(3)Gracilariopsis sp.に過去に分類された海藻を含む。
【0026】
例えば、日本産海藻では、オゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)とは、非特許文献「新日本海藻誌日本産海藻類総覧、吉田忠生著、内田老鶴圃発行、1998年」においてオゴノリ目(Gracilariales:グラシラリアレス)オゴノリ科(Gracilariaceae:グラシラリアシー)に分類されている海藻を含む。
これらの紅藻類は、寒海にも存在するが特に暖海に多く、わが国ではほとんどすべての海岸地帯に分布しており、寒天の増量物や刺身のつまなどに用いられている。
【0027】
本発明の光阻害免疫能力回復剤を好適に製造するには、上記の紅藻類原料に(イ)水溶性画分の抽出工程、(ロ)粗活性画分の分取工程、及び、必要に応じて、(ハ)凝集素の精製工程を順次施す。
【0028】
前記各工程について、さらに詳細に説明すると、まず(イ)工程においては、原料の紅藻類に塩類含有水溶液、例えば、生理食塩水や、リン酸塩緩衝液、トリス塩酸緩衝液あるいはこれらに塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、2−メルカプトエタノール及びジチオスレイトールから選ばれる少なくとも一種を添加した液、好ましくは、リン酸塩緩衝液、トリス塩酸緩衝液あるいはこれらに塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸亜鉛及び2−メルカプトエタノールから選ばれる少なくとも1種を添加した液を加えてホモゲナイズしたのち、遠心分離処理し、上澄である粗抽出液を得る。
【0029】
次に(ロ)工程においては、前記(イ)工程で得られた抽出液に、まず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて1段目の塩析を行い、生成した沈殿を遠心分離処理により除去する。この操作で色素などの夾雑物が沈殿画分として除去される。次いで、遠心分離処理で得た上澄に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて2段目の塩析を行い、生成した沈殿を遠心分離処理により分別したのち、この沈殿画分を塩化ナトリウム含有リン酸緩衝液などの緩衝液で再溶解し、所望に応じ、塩化ナトリウム含有リン酸緩衝液などの緩衝液に対する透析等により精製して粗活性画分を得る。この粗活性画分は、光阻害免疫能力回復活性としては高いが、比活性は高くない、すなわち以前夾雑物がのこっている。したがってこの粗活性画分をそのまま本発明の光阻害免疫能力回復剤として用いるのは好ましくない。
【0030】
次いでこの粗活性画分を透析チューブに収納し、蒸留水に二酸化炭素を吹き込んだ透析液あるいは適当なpHの水溶液を透析液として、透析と同時に等電点沈殿処理を行い(以下透析同時等電点沈殿処理という)、沈殿物と可溶性画分を分離することにより粗活性画分よりも単位質量当りの比活性が高い沈殿物である透析同時等電点沈殿処理済みの粗活性画分を回収するか、あるいは可溶性粗活性画分よりも単位質量当りの比活性が高い可溶性画分である透析同時等電点沈殿処理済みの粗活性画分を分離し、捕集する。
【0031】
このときの透析液は等電点沈殿処理するタンパク質など生体高分子の等電点によりpHを選べばよい。透析液としてpH5.5の透析液を調製するには、(1)蒸留水に炭酸ガスを吹き込んでpHを調整する方法、(2)4mMほどの薄い緩衝液の使用等が考えられるが、蒸留水製造装置で蒸留した蒸留水のpHもpH5.5付近なのでそのまま用いることができる。なお、本発明での透析同時等電点沈殿処理は4℃で行う。
【0032】
例えば、オゴノリの光阻害免疫能力回復剤の粗活性画分の硫酸アンモニウム塩析沈殿を精製する手順例を以下に示す。(1)粗活性画分の硫酸アンモニウム塩析沈殿を最少量の緩衝液A[30mM 塩化カリウム、3μM 硫酸亜鉛、1mM 2−メルカプトエタノールを含む25mM Tris−HCl(pH7.6)]に溶解する。(2)粗活性画分再溶解液の硫酸アンモニウム濃度が濃い間は、最初の内は透析液として緩衝作用のない蒸留水は、pHが極端に変化するために使用しない方がよい、そこで、粗活性画分再溶解液約50mlを収容した透析チューブ8本当たり、2.5リットルの緩衝液Aで透析を開始する。透析液の交換は2回/日とする。(3)透析液の硫酸イオンをイオンクロマトで分析し、硫酸アンモニウムの濃度が低下したことを見極めてから、透析液を緩衝液B[0.15mMNaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)]にして透析を2回、緩衝液C[0.015mMNaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)]にして透析を2回した後、透析液をpH5.5の蒸留水にする。
透析チューブは分画分子量8,000の膜を使用した。
【0033】
さらに、所望に応じ、(ロ)工程の最後、あるいは透析同時等電点沈殿処理の前に、粗活性画分あるいは透析同時等電点沈殿処理した粗活性画分を100℃、1〜10分間熱処理し沈殿した夾雑タンパク質を除去することにより、熱処理済みの粗活性画分を得る。以上の操作により、得られた透析同時等電点沈殿処理及び熱処理済みの粗活性画分が得られる。透析同時等電点沈殿処理及び熱処理済みの粗活性画分は、塩析のみで得た粗活性画分に比べて、共雑物が少なく、比活性が高いため、そのまま本発明の光阻害免疫能力回復剤として用いることができる。
【0034】
この透析同時等電点沈殿処理及び熱処理済みの粗活性画分については、所望に応じ、さらに(ハ)工程を行うことができる。(ハ)工程においては、さらには、所望に応じ、前記(ロ)工程で得られた透析同時等電点沈殿処理及び熱処理済みの粗活性画分を、クロマトグラフィーにより成分を分離し、細胞性免疫能力賦活性特に光阻害免疫能力回復活性を示す画分を捕集することによってクロマト精製活性画分を得ることができる。この段階で使用するクロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー又はゲルろ過クロマトグラフィーまたは疎水性相互作用クロマトグラフィーあるいはそれらの組合せを用いるのが有利である。
【0035】
さらにゲルろ過クロマトグラフィーにより分子量100,000以上の画分を分画することによって液状態の光阻害免疫能力回復剤の精製画分・精製評品を得ることができる。
【0036】
ここでいう、分子量10万以上の画分とは、ゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、球状タンパク質を標準分子量物質として用い、溶出画分の分子量を算出した結果が10万以上の分子量に相当する画分をいう。
【0037】
本発明の光阻害免疫能力回復剤を好適に製造するには、マイトジェン能をもつ赤血球凝集素精製標品の0.1ミリリットルをTSKゲルG3000 PWXLカラムに添加し、ゲル濾過クロマトグラフィーにかけ、ゲル濾過クロマトグラフィーカラムから0.1mlずつ溶出画分を集める。この際、標準分子量物質として、チログロブリン(分子量669,000)、フェリチン(分子量440,000)、ウシ血清アルブミン(分子量67,000)、オボアルブミン(分子量43,000)を用いる。その結果、マイトジェン能をもつ赤血球凝集素の溶出した画分を示す凝集活性を有するピークの頂点は分子量5.64×10に相当することが分った。
【発明の効果】
【0038】
本発明の光阻害免疫能力回復剤は、紅藻類由来の新規なものであって、イオン強度により凝集活性が制御でき、認識糖鎖選択性に優れ、細胞性免疫能力賦活など自己免疫増強活性を有し、100℃、10分間の熱処理後も糖結合活性を有するという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、実施例により本発明を実施するための最良の形態を説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0040】
(イ)水溶性画分の抽出工程
ツルシラモ(徳島県吉野川河口域産)を0.15M塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、天日乾燥して乾燥物を得た。この乾燥物100gに0.15M塩化ナトリウム含有100mMリン酸緩衝液(pH6.9)700mlを加えてホモゲナイズしたのち、このホモゲナイズした液を4℃で6時間放置後、遠心分離して上澄である粗抽出液を得た。
【0041】
(ロ)粗活性画分の分別工程
次いで、この粗抽出液に、最終濃度が35%飽和濃度の溶液になるように硫酸アンモニウムを加えて1段目の塩析を行った。硫酸アンモニウムの添加終了後、4℃で1時間放置、生成した沈殿を遠心分離して除去した。この操作で色素などの夾雑物が沈殿画分として除去された。次に、遠心分離で得た上澄に、最終濃度が70%飽和濃度の溶液になるように硫酸アンモニウムを添加し、添加終了後、4℃で一晩放置した。生成した沈殿を遠心分離して分別した。分別した沈殿画分(沈殿状態の粗活性画分)を、最少量の緩衝液A[30mM 塩化カリウム、3μM 硫酸亜鉛、1mM 2−メルカプトエタノールを含む25mM Tris−HCl(pH7.6)]に溶解し、液状の粗活性画分を得た。次いで粗活性画分の一部を0.15M塩化ナトリウム含有100mMリン酸緩衝液(pH6.9)に対して透析し、ウサギ赤血球に対する赤血球凝集活性を測定した結果、256単位であった。ここで、凝集活性の単位は、凝集活性が検出できる試料の最大希釈率の逆数と定義した。
【0042】
次いで、透析同時等電点沈殿処理すなわち粗活性画分の硫酸アンモニウム塩析沈殿を最低量の緩衝液A[30mM 塩化カリウム、3μM 硫酸亜鉛、1mM 2−メルカプトエタノールを含む25mM Tris−HCl(pH7.6)]に溶解して得た液状の粗活性画分を透析チューブに収容し、透析液を適当な時間間隔で変えながら透析と同時に等電点沈殿処理を行った。液状の粗活性画分の硫酸アンモニウム濃度が濃い間は、最初の内は透析液として緩衝作用のない蒸留水溶液は、pHが極端に変化するために使用しない方がよい、そこで、粗活性画分再溶解液約50ミリリットルを収納した透析チューブ8本当たり、2.5リットルの緩衝液Aで透析を開始する。透析液の交換は2回/日とする。透析液の硫酸イオンをイオンクロマトで分析し、硫酸アンモニウムの濃度が低下したことを見極めてから、透析液を緩衝液B[0.15mMNaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)]に変更し透析を2回、さらに緩衝液C[0.015mMNaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)]に変更して透析を2回した後、透析液を蒸留水(pHは約pH5.5)にした。透析チューブは分画分子量8,000の膜を使用した。この操作は4℃の低温室内で行った。
【0043】
透析液を蒸留水(pHは約pH5.5)に変更後、3日後(透析液交換6回)に透析内液の透明度が低下してきた。更に透析を1日(透析液交換2回)続けると透析チューブ内底部に沈殿の蓄積が確認できた。その後透析を1日(透析液交換2回)行った後、透析チューブの上下両端を手で持ち、透析チューブを上下に動かし、沈殿を懸濁させた。懸濁液を遠心分離により、沈殿と可溶性画分に分別した。沈殿を適当な溶媒に溶解して沈殿再溶解画分を得た。沈殿再溶解画分及び可溶性画分について所望の生体高分子の活性を測定する。
このようにして透析同時等電点処理した粗活性画分を得ることができる。
【0044】
上記の透析同時等電点処理した粗活性画分を温度100℃で10分間加熱処理を行い、遠心分離により夾雑タンパク質を除去し、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分を得た。
【0045】
(ハ)凝集素の精製工程
次にこのようにして得られた透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分をTSKgelDEAE−5Pwを用いたイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、ゲルろ過クロマトグラフィーで分子量10万以上の画分を分画し、精製標品を得た。得られた精製標品のウサギ赤血球に対する赤血球凝集活性を示す最小タンパク質濃度は0.438μg/mlであった。以上の結果から、紅藻類由来の赤血球凝集素が、その活性を保持したまま効果的に得られることが分る。
【0046】
精製標品について、ウサギ赤血球に対する凝集活性のイオン強度依存性を試験したところ、0.15M塩化ナトリウム濃度での凝集活性は4096単位であり、一方0.4M塩化ナトリウム濃度での凝集活性は8単位であった。
【0047】
精製標品に100℃、10分間の熱処理を行った後での凝集活性は4096単位であり、熱処理による凝集活性の消失は認められなかった。赤血球凝集素の凝集活性は、赤血球凝集素の糖結合活性の指標の一つであるので、以上の結果から本発明の光阻害免疫能力回復剤の赤血球凝集素への糖結合活性は熱に対して安定なことが分る。
【0048】
精製標品についてマイトジェン活性を調べるために、ヒトリンパ球幼若化試験を行った。リンパ球幼若化試験は、患者や健常人の末梢血リンパ球のDNA合成能を測定、比較するのによく用いられ、一般的な細胞性免疫反応能力を示すと考えられている。測定方法としては、固定染色標本で染色体の出現した細胞数を数える方法、形態学的に観察する方法等もあるが、本例では、H−チミジンの細胞核への取り込みを測定する方法を行った。健常人3名分の検体からのリンパ球を用いて実験した。
【0049】
培養液として、純水100mlに対してRPMI 1640 1.05g、NaHCO0.2g、ペニシリン10000Unit、ストレプトマイシン10mg、ウシ胎児血清10mlの割合で溶解した水溶液を準備し、フィルターで濾過滅菌後、使用量に合わせて小びんにつめ、密栓して−20℃で保存した。
【0050】
比較用マイトジェンとしてインゲンマメレクチンを培養液に溶解して濃度10〜50μg/mlに調製した。滅菌小試験管に分注、密栓して−20℃で保存した。
【0051】
リンパ球の分離は次のように行った。すなわち、ヘパリン添加血液よりフィコール・コンレイ(Ficoll−Conray)法にてリンパ球を分離し、CMF−PBS(pH7.0)で3回洗浄した。分離したリンパ球を培養液1mlに懸濁し、リンパ球数を算定した。次いで培養液で5×10個/mlに調整したリンパ球浮遊液を得た。
【0052】
リンパ球の培養は次のように行った。すなわち、マイクロプレートの各ウェルに、リンパ球浮遊液を200μlずつ分注した。次いでマイトジェン溶液として、精製標品、陽性コントロールとしての比較用マイトジェン、陰性コントロールとしてのリン酸緩衝液(PES)を各ウェルに20μlずっ分注した。次いでCO濃度5%、37℃の空気中、湿潤状態で、3日間培養した。培養終了8時間前にH−チミジンを培養液中の最終濃度が1μCi/mlになるように各ウェルに分注した。
【0053】
活性の測定は次のように行った。すなわち、Labo−MASHを用いて食塩水でウェル内をハーベストしつつ、細胞をグラスファイバーフィルター上に集め、これを連続吸引してフィルター上の細胞を洗浄した(約20秒間、生理食塩水約1.5ml)。次いでグラスフィルター上の細胞固着部を剥離し、カウンティングバイアルに入れた。十分に乾燥させた後、液体シンチレーターとしてトルエンシンチレーター(POPO 0.1g+PPO 5g/リットル トルエン)5mlをディスペンサーを用いて各バイアルに分注し、シンチレーションカウンターにて計測した。結果を1検体あたり3回の測定の平均値として表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
この表から、本発明の光阻害免疫能力回復剤は、従来知られている陸上植物由来の赤血球凝集素よりも高いマイトジェン活性を示すことが分かる。
【実施例2】
【0056】
(イ)水溶性画分の抽出工程
ツルシラモ(徳島県吉野川河口域産)湿質量500gを0.15M塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、−30℃で凍結した。30mM塩化カリウムと3μM硫酸亜鉛、5mM2−メルカプトエタノールを含んだ0.5Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液(pH8.2)を抽出用緩衝液として使用し、細かく粉砕した凍結海藻(ツルシラモ湿質量500g相当)に対し、抽出用緩衝液800mlを加えてホモゲナイズしたのち、このホモゲナイズした液を4℃で6時間放置後、遠心分離して上澄である粗抽出液を得た。
【0057】
(ロ)粗活性画分の分別工程
次いで、この粗抽出液に、最終濃度が35%飽和濃度の溶液になるように硫酸アンモニウムを加えて1段目の塩析を行った。硫酸アンモニウムの添加終了後、4℃で1時間放置、生成した沈殿を遠心分離して除去した。この操作で色素などの夾雑物が沈殿画分として除去された。次に、遠心分離で得た上澄に、最終濃度が70%飽和濃度の溶液になるように硫酸アンモニウムを添加し、添加終了後、4℃で一晩放置した。生成した沈殿を遠心分離して分別した。分別した沈殿画分(沈殿状態の粗活性画分)を、最少量の緩衝液A[30mM 塩化カリウム、3μM 硫酸亜鉛、1mM 2−メルカプトエタノールを含む25mM Tris−HCl(pH7.6)]に溶解し、液状の粗活性画分を得た。次いで粗活性画分の一部を0.15M塩化ナトリウム含有100mMリン酸緩衝液(pH6.9)に対して透析し、ウサギ赤血球に対する赤血球凝集活性を測定した結果、256単位であった。ここで、凝集活性の単位は、凝集活性が検出できる試料の最大希釈率の逆数と定義した。
【0058】
次いで、透析同時等電点沈殿処理を行う。すなわち、粗活性画分の硫酸アンモニウム塩析沈殿を最低量の緩衝液A[30mM 塩化カリウム、3μM 硫酸亜鉛、1mM 2−メルカプトエタノールを含む25mM Tris−HCl(pH7.6)]に溶解して得た液状の粗活性画分を透析チューブに収容し、透析液を適当な時間間隔で変えながら透析と同時に等電点沈殿処理を行った。液状の粗活性画分の硫酸アンモニウム濃度が濃い間は、最初の内は透析液として緩衝作用のない蒸留水は、pHが極端に変化するために使用しない方がよい、そこで、粗活性画分再溶解液約50ミリリットルを収納した透析チューブ8本当たり、2.5リットルの緩衝液Aで透析を開始する。透析液の交換は2回/日とする。透析液の硫酸イオンをイオンクロマトで分析し、硫酸アンモニウムの濃度が低下したことを見極めてから、透析液を緩衝液B[0.15mMNaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)]に変更し透析を2回、さらに緩衝液C[0.015mMNaClを含む10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)]に変更して透析を2回した後、透析液を蒸留水(pHは約pH5.5)にした。
【0059】
透析液を蒸留水蒸留水(pHは約pH5.5)に変更後、3日後(透析液交換6回)に試料液の透明度が低下してきた。更に透析を1日(透析液交換2回)続けると透析チューブ内底部に沈殿の蓄積が確認できた。その後透析を1日(透析液交換2回)行った後、透析チューブの上下両端を手で持ち、透析チューブを上下に動かし、沈殿を懸濁させた。懸濁液を遠心分離により、沈殿と可溶性画分に分別した。沈殿を適当な溶媒に溶解して沈殿再溶解画分を得た。沈殿再溶解画分及び可溶性画分について所望の生体高分子の活性を測定する。このようにして透析同時等電点処理した粗活性画分を得ることができる。
【0060】
透析同時等電点処理した粗活性画分を温度100℃で10分間加熱処理を行い、遠心分離により夾雑タンパク質を除去し、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分を得た。
【0061】
(ハ)凝集素の精製工程
次にこのようにして得られた透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分をTSKgelDEAE−5PWを用いたイオン交換クロマトグラフィーにより分離し、ゲル濾過クロマトグラフィーで分子量10万以上の画分を分画し、精製標品を得た。このようにして得られた精製標品のウサギ赤血球に対する赤血球凝集活性は4096単位であった。以上のことから、本発明の光阻害免疫能力回復剤がその活性を保持したまま得られることが分かる。
【0062】
精製標品について、ウサギ赤血球に対する凝集活性のイオン強度依存性を試験したところ、0.15M塩化ナトリウム濃度での凝集活性は4096単位であり、一方0.4M塩化ナトリウム濃度での凝集活性は8単位であった。
【0063】
精製標品に100℃、10分間の熱処理を行った後での凝集活性は4096単位であり、熱処理による凝集活性の消失は認められなかった。赤血球凝集素の凝集活性は、赤血球凝集素の糖結合活性の指標の一つであるので、以上の結果から本発明の光阻害免疫能力回復剤の赤血球凝集素への糖結合活性は熱に対して安定なことが分る。
【0064】
粗活性画分、透析同時等電点処理した粗活性画分、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分、透析同時等電点沈殿処理せずに熱処理した粗活性画分、精製評品についてマイトジェン活性を測定した。ヒトリンパ球幼若化試験を行った。
【0065】
次に、H−チミジンの取り込みによる、ヒトリンパ球幼若化試験を行って、粗活性画分、透析同時等電点処理した粗活性画分、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分、透析同時等電点沈殿処理せずに熱処理した粗活性画分、精製評品についてのマイトジェン活性を測定した。この場合、すべての細胞培養に要する材料、マイクロプレート、セルハーベスター、グラスファイバーフィルター、カウンティングバイアル、H−チミジン、トルエンシンチレーター(POPO 0.1g+PPO 5g/リットル トルエン)、液体シンチレーションカウンターの準備及びこれらを用いて行う操作はいずれも無菌的に行った。
【0066】
次に、培養液として、純水100mlに対してRPMI 1640 1.05g、NaHCO 0.2g、ペニシリン10000Unit、ストレプトマイシン10mg、ウシ胎児血清10mlの割合で溶解した水溶液を準備し、フィルターで濾過滅菌後、使用量にあわせて小びんにつめ、密栓して−20℃で保存した。この状態で2か月は保存使用可能であった。使用時には使い切るようにし、凍結融解は繰り返さないようにした。
【0067】
リンパ球は、ヘパリン添加血液からフィコール・コンレイ法により分離した。次いでCMF−PBS(pH7.0)で3回洗浄したのち、培養液1mlに懸濁し、リンパ球数を算定した。次いで培養液で5x10個/mlに調整した。
【0068】
リンパ球の培養は、マイクロプレートの各ウェルに、リンパ球浮遊液を200μlずつ分注して行った。
【0069】
次いで、リンパ球の入ったマイクロプレートをクリーンブース内に置いた。3つの実験区により実験を行った。紫外線照射を行わず、30分間クリーンブース内に放置した対照実験区を実験区Aとした。マイクロプレート内のリンパ球に対して上方から紫外線照射を30分間行った実験区を実験区Bとした。マイクロプレート内のリンパ球に対して上方から紫外線照射を16時間行った実験区を実験区Cとした。紫外線照射は次のように行った。マイクロプレートをクロマトビューポータブル暗箱(フナコシ株式会社製)に入れ、暗箱上部取り付けた6ワット・ハンディ型UVランプUVL−56型ブラックレイランプ(フナコシ株式会社製)より、長波長(365nm)の紫外線を照射した。この際の365nmの紫外線強度は、デジタル式UVX RADIOMETER紫外線強度計(フナコシ株式会社製)にMODEL UVX−36センサー(フナコシ株式会社製)を接続して測定した。マイクロプレートの位置での紫外線強度は、0.63mW/cmであった。
【0070】
次いで、それぞれの実験区に対して、マイトジェン溶液として、粗活性画分、透析同時等電点処理した粗活性画分、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分、透析同時等電点沈殿処理せずに熱処理した粗活性画分、精製標品、リン酸緩衝液(PES)を各ウェルに20μlずつ分注した。粗活性画分はじめそれぞれの画分あるいは精製評品は、緩衝液で希釈した希釈液(10倍希釈から320倍希釈)を調製し、実験に供した。粗活性画分はじめそれぞれの画分あるいは精製評品でのH−チミジンの取り込み量(cpm)は、希釈液での測定値に希釈倍率を乗じて原液に換算した値を算出することにより求めた。次いで5%CO含有空気中37℃の湿潤状態で、3日間培養した。培養終了8時間前にH−チミジンを培養液当りの最終濃度が1μCi/mlになるように各ウェルに分注した。
【0071】
活性の測定は次のように行った。Labo−MASH等を用いて食塩水でウェル内をハーベストしつつ、細胞をグラスファイバーフィルター上に集め、これを連続吸引してフィルター上の細胞を洗浄した(約20秒間、生理食塩水約1.5ml)。次いでグラスフィルター上の細胞固着部を剥離し、カウンティングバイアルに入れた。次いで充分乾燥させた後、液体シンチレーター 5mlをディスペンサーを用いて各バイアルに分注し、シンチレーションカウンターにて計測した。実施例1で用いた3人とは別の3人の検体(以下、検体a、b及びcという)からのリンパ球を用いて実験した。ある実験条件での実験数を3回とし、平均は3回の測定の平均値を表に示す。その検体aについての結果を表2、検体bについての結果を表3、検体cについての結果を表4にそれぞれ示す。粗活性画分、透析同時等電点処理した粗活性画分、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分、透析同時等電点沈殿処理せずに熱処理した粗活性画分の比活性については、その検体aについての結果を表5、検体bについての結果を表6、検体cについての結果を表7にそれぞれ示す。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
【表7】

【0078】
表2ないし4の実験区Aから明らかなように、実施例2で得られた粗活性画分及び精製標品からなる本発明の光阻害免疫能力回復剤は、陰性コントロールと比べて、H−チミジンの取り込み量がそれぞれ600倍以上及び3700倍以上と著しく多いので、優れたマイトジェン活性を示すことが分かる。
また、表2ないし4の陰性コントロールの平均値から明らかなように、紫外線を照射すると、H−チミジンの取り込み量、すなわち免疫力が低下することが分かるが、実験区B及びCの結果から明らかなように、本発明の光阻害免疫能力回復剤を添加することにより、紫外線を照射してもH−チミジンの取り込みが促進されることが分かる。
以上の結果から、光阻害免疫機能回復成分の粗活性画分・精製標品を紫外線照射処理によりDNA合成能力(H−チミジンの取り込みなど)など免疫力が低下したヒトリンパ球に対して添加することにより、当該リンパ球のDNA合成能力など免疫力を増強させることができる。また、紫外線照射時間が30分以内であれば、紫外線を照射しなかったヒトリンパ球に光阻害免疫機能回復成分を添加した場合と同等のDNA合成能力まで上昇させることができる。紫外線を16時間照射しても、紫外線を照射しなかったヒトリンパ球に自己免疫増強成分を添加した場合の50%以上のDNA合成能力まで上昇させることができるし、紫外線を照射しなかった陰性コントロールと比較すると、H−チミジンの取り込み量がはるかに多いことが分かる。
【実施例3】
【0079】
(ハ)水溶性画分の抽出工程
オゴノリ属紅藻類として、ツルシラモ(徳島県吉野川河口域産)湿重量500gを使う代わりにツルシラモ(勝浦川河口産)由来の非成熟性単類培養株湿質量500gを原料に用いた以外は、実施例2と同様にして、光阻害免疫能力回復剤の製造を行った。オゴノリ属紅藻類が天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出される特徴をもち、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類である、ツルシラモを徳島県徳島市勝浦側河口の勝浦川の中より採取した。本発明では、このツルシラモをツルシラモ勝浦川河口産という。
【0080】
ツルシラモ(勝浦川河口産)から得られた粗活性画分、透析同時等電点処理した粗活性画分、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分、透析同時等電点沈殿処理せずに熱処理した粗活性画分、精製標品、および陰性コントロールとしてのリン酸緩衝液(PES)について、用いるリンパ球が、実施例2とは異なる別の3人の検体(以下、検体d、e及びfという)からのリンパ球である以外は実施例2と同様にして光阻害免疫能力回復剤の活性測定を行った。
ある実験条件での実験数を3回とし、平均は3回の測定の平均値を示す。その検体dについての結果を表8、検体eについての結果を表9、検体fについての結果を表10にそれぞれ示す。粗活性画分、透析同時等電点処理した粗活性画分、透析同時等電点処理後に熱処理した粗活性画分、透析同時等電点沈殿処理せずに熱処理した粗活性画分の比活性については、その検体dについての結果を表11、検体eについての結果を表12、検体fについての結果を表13にそれぞれ示す。
【0081】
【表8】

【0082】
【表9】

【0083】
【表10】

【0084】
【表11】

【0085】
【表12】

【0086】
【表13】

【0087】
比較例1
実施例1−(ロ)の粗活性画分の分別工程において、硫酸アンモニウム添加による2段階の塩析による分別処理の代わりに、50質量%エタノールによる分別処理[「フィトケミストリー(Phytochemistry)」第27巻、第2063〜2067ページ(1988年)参照]を行った以外は、実施例1と同様にして粗活性画分を得た。この粗活性画分のウサギ赤血球に対する赤血球凝集活性は4単位、比活性は53.4単位/mgプロテイン、活性回収率は5.0%であった。これらの結果を表14に示す。比較のために実施例1の結果も併記した。
【0088】
比較例2
常用の方法[「コンパラティブ・バイオケミストリー・アンド・フィジオロジー(Comp.Biochem.Phisiol.)」第102B巻、第445〜449ページ(1992年)に記載されている方法]に従って、紅藻類由来の赤血球凝集素を得た。得られた粗活性画分の赤血球凝集活性は16単位、比活性は149.5単位/mgプロテイン、活性回収率は19.5%であった。これらの結果を表14に示す。また、精製標品のウサギ赤血球に対する赤血球凝集活性を示す最小タンパク質濃度は32.6μg/mlであり、実施例1の約1/40の比活性に相当した。
【0089】
【表14】

【0090】
比較例3
紅藻類から常用の方法[「コンパラティブ・バイオケミストリー・アンド・フィジオロジー(Comp.Biochem.Phisiol.)」第102B巻、第445〜449ページ(1992年)に記載されている方法]に従って精製した分子量50,000の凝集素について、ウサギ赤血球に対する凝集活性のイオン濃度依存性を検討した。0.15M塩化ナトリウム濃度及び0.4M塩化ナトリウム濃度での凝集活性はともに1024単位であり、凝集活性のイオン強度依存性は見られなかった。これらの結果を表15に示す。比較のために実施例1の結果も併記した。
【0091】
比較例4
Con A[和光純薬(株)製]25mgをリン酸緩衝液100mlに溶解し、ウサギ赤血球凝集活性のイオン濃度依存性を検討した。0.15M塩化ナトリウム濃度及び0.4M塩化ナトリウム濃度での凝集活性はともに64単位であり、凝集活性のイオン強度依存性は見られなかった。これらの結果を表15に示す。
【0092】
【表15】

【0093】
Con Aを100℃、10分間の熱処理を行った後での凝集活性は検出されず、熱処理により凝集活性の消失が認められた。
【0094】
表14から明らかなように、実施例1で得られた粗活性画分からなる本発明の光阻害免疫能力回復剤は、比較例1及び2のものに比べて、凝集活性、比活性、活性回収率がいずれも高く、活性回収率は比較例1の約12倍、比較例2の約3倍、比活性は比較例1の約63倍、比較例2の約23倍である。また、表15から実施例1の精製凝集素は比較例3及び4のものと異なり、ウサギ赤血球に対する凝集活性がイオン強度により制御されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の光阻害免疫能力回復剤は、臨床分野、医療分野、生化学工業分野における治療用、検査用材料など、及び化粧品分野の添加剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)からの塩類水溶液による液状抽出物を有効成分とした光阻害免疫能力回復剤。
【請求項2】
オゴノリ属紅藻類がオゴノリ(Gracilaria verrucosa)又はツルシラモ(Gracilaria chorda)あるいはそれらの亜種である請求項1記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項3】
オゴノリ属紅藻類が天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出される特徴をもち、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類である請求項1又は2記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項4】
オゴノリ属紅藻類が天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出される特徴をもち、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類由来の非成熟性単藻培養株である請求項1又は2記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項5】
液状抽出物がプロナーゼ処理したヒツジ赤血球を凝集させる性質を有し、かつこの凝集活性が単糖類又は二糖類では阻害されないが、フェツイン又はアシアロフェツインで阻害されることで特徴付けられる請求項1ないし4のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項6】
液状抽出物がウサギ赤血球に対する凝集活性がイオン強度により変化することで特徴付けられる請求項1ないし5のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項7】
液状抽出物が細胞性免疫能力賦活活性を有することで特徴付けられる請求項1ないし6のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項8】
液状抽出物がヒトリンパ球を幼若化する活性を有することで特徴付けられる請求項1ないし7のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項9】
液状抽出物がトリチウムラベルしたチミジンの細胞核への取り込みを促進することで特徴付けられる請求項1ないし8のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項10】
液状抽出物が100℃、10分間の熱処理後も糖鎖結合活性を有することで特徴付けられる抽出物である請求項1ないし9のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項11】
液状抽出物が糖及びタンパク質を含み、該タンパク質の質量が糖の質量に対し0.4以下である請求項1ないし10のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項12】
液状抽出物が1〜60質量%の硫酸を含む請求項1ないし11のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項13】
液状抽出物が球状タンパク質を標準分子量物質として使用するゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、分子量100,000以上に相当する画分に溶出することで特徴付けられる請求項1ないし12のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項14】
オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、沈殿として細胞免疫能力賦活活性を示す粗活性画分を回収し、場合により回収した沈殿を溶媒に溶解して溶液とすることを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項15】
オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、生成した沈殿を分離したのち、緩衝液に溶解して細胞免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を調製し、次いでこの溶液を透析膜を介して、細胞性免疫能力賦活活性を示す物質の等電点に調整された透析液と接触させ、低分子不純分を透析液中に移行させて除去すると同時に高分子不純分を含む溶液から生理活性高分子物質を沈殿させて回収することを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項16】
オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、生成した沈殿を分離したのち、緩衝液に溶解して細胞免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を調製し、次いでこの溶液を透析膜を介して、高分子不純分の等電点に調整された透析液と接触させ、低分子不純分を透析液中に移行させて除去すると同時に高分子不純分を沈殿分離して細胞性免疫能力賦活活性を示す溶液を得ることを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項17】
透析液が二酸化炭素でpH調整された蒸留水又は緩衝液である請求項15又は16記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項18】
透析膜が再生セルロースチューブである請求項15ないし17のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項19】
透析膜と接触させるに先立って、細胞性免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を、100℃において、1〜10分間熱して、あらかじめその中の夾雑タンパク質を除去しておく請求項15ないし18のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項20】
請求項15ないし19のいずれかに記載の方法により得られた光阻害免疫能力回復剤をさらにゲルろ過クロマトグラフィーにより精製し、分子量10万以上の画分を捕集することを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項21】
塩類水溶液が塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液である請求項14ないし20のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項22】
塩類水溶液が塩化カリウム、硫酸亜鉛及び2−メルカプトエタノールから選ばれた少なくとも1種を含むトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液である請求項14ないし20のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゴノリ属紅藻類(Gracilaria sp.)からの塩類水溶液による液状抽出物を有効成分とした光阻害免疫能力回復剤。
【請求項2】
オゴノリ属紅藻類がオゴノリ(Gracilaria verrucosa)又はツルシラモ(Gracilaria chorda)あるいはそれらの亜種である請求項1記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項3】
オゴノリ属紅藻類が天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出される特徴をもち、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類である請求項1又は2記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項4】
オゴノリ属紅藻類が天然で成熟体として雌雄配偶体が検出されず、四分胞子体のみの成熟体が検出される特徴をもち、淡水混入天然海水域で繁殖するオゴノリ属紅藻類由来の非成熟性単藻培養株あるいは非成熟性単藻培養株が増殖した藻体である請求項1又は2記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項5】
液状抽出物がプロナーゼ処理したヒツジ赤血球を凝集させる性質を有し、かつこの凝集活性が単糖類又は二糖類では阻害されないが、フェツイン又はアシアロフェツインで阻害されることで特徴付けられる請求項1ないし4のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項6】
液状抽出物がウサギ赤血球に対する凝集活性がイオン強度により変化することで特徴付けられる請求項1ないし5のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項7】
液状抽出物が細胞性免疫能力賦活活性を有することで特徴付けられる請求項1ないし6のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項8】
液状抽出物がヒトリンパ球を幼若化する活性を有することで特徴付けられる請求項1ないし7のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項9】
液状抽出物がトリチウムラベルしたチミジンの細胞核への取り込みを促進することで特徴付けられる請求項1ないし8のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項10】
液状抽出物が100℃、10分間の熱処理後も糖鎖結合活性を有することで特徴付けられる抽出物である請求項1ないし9のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項11】
液状抽出物が糖及びタンパク質を含み、該タンパク質の質量が糖の質量に対し0.4以下である請求項1ないし10のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項12】
液状抽出物が1〜60質量%の硫酸を含む請求項1ないし11のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項13】
液状抽出物が球状タンパク質を標準分子量物質として使用するゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、分子量10万以上に相当する画分に溶出することで特徴付けられる請求項1ないし12のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤。
【請求項14】
オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、沈殿として細胞免疫能力賦活活性を示す粗活性画分を回収し、場合により回収した沈殿を溶媒に溶解して溶液とすることを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項15】
オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、沈殿として細胞性免疫能力賦活活性を示す粗活性画分を回収し、場合により回収した沈殿を溶媒に溶解して溶液とした後で、100℃、10分間の熱処理を行うことにより夾雑物を沈殿させた活性画分を得ることを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項16】
オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、生成した沈殿を分離したのち、緩衝液に溶解して細胞免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を調製し、次いでこの溶液を透析膜を介して、細胞性免疫能力賦活活性を示す物質の等電点に調整された透析液と接触させ、低分子不純分を透析液中に移行させて除去すると同時に高分子不純分を含む溶液から生理活性高分子物質を沈殿させて回収することを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項17】
オゴノリ属紅藻類を塩類水溶液により抽出し、得られた抽出液に、先ず最終濃度20〜40%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第1段目の塩析を行い、沈殿した夾雑物を除去したのち、さらにその抽出液に最終濃度60〜80%飽和濃度になるまで硫酸アンモニウムを加えて第2段目の塩析を行い、生成した沈殿を分離したのち、緩衝液に溶解して細胞免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を調製し、次いでこの溶液を透析膜を介して、高分子不純分の等電点に調整された透析液と接触させ、低分子不純分を透析液中に移行させて除去すると同時に高分子不純分を沈殿分離して細胞性免疫能力賦活活性を示す溶液を得ることを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項18】
透析液が二酸化炭素でpH調整された蒸留水又は緩衝液である請求項1又は1記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項19】
透析膜が再生セルロースチューブである請求項1ないし1のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項20】
透析膜と接触させるに先立って、細胞性免疫能力賦活活性を示す物質と不純分を含む溶液を、100℃において、1〜10分間熱して、あらかじめその中の夾雑タンパク質を除去しておく請求項1ないし1のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項21】
請求項16ないし20のいずれかに記載の方法により得られた光阻害免疫能力回復剤をさらにゲルろ過クロマトグラフィーにより精製し、分子量10万以上の画分を捕集することを特徴とする光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項22】
塩類水溶液が塩化ナトリウムを含むリン酸緩衝液である請求項14ないし2のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。
【請求項23】
塩類水溶液が塩化カリウム、硫酸亜鉛及び2−メルカプトエタノールから選ばれた少なくとも1種を含むトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−塩酸緩衝液である請求項14ないし2のいずれかに記載の光阻害免疫能力回復剤の製造方法。

【公開番号】特開2006−104180(P2006−104180A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318566(P2004−318566)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】