説明

光電センサの筐体組立方法および光電センサ

【課題】内部にセンシング素子を収納する密閉筐体をなす第1および第2の部材を互いに突き合わせて寸法精度良く接合することのできる筐体組立方法を提供する。
【解決手段】第1の部材としてレーザ光を透過する第1の樹脂材料を用いると共に、第2の部材としてレーザ光を吸収する第2の樹脂材料を用い、これらの部材の各接合面を互いに突き合わせた状態で、第1の部材側からその接合面に向けて該接合面の幅よりも小径のレーザ光を照射し、互いに突き合わせた接合面間に未溶着部分を残しながらその接合面間を溶着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子および受光素子を内部に収納する光電センサの筐体組立方法および光電センサに関する。
【背景技術】
【0002】
光電センサの筐体は、その内部に発光素子と受光素子とを収納するものである。一般的に前記筐体は箱形の第1および第2の部材を互いに突き合わせ、その突き合わせ面を接合して形成される。この場合、様々な使用環境にて当該光電センサの使用を可能とするべく、密閉性の高い筐体を作成することが好ましい。ちなみに第1および第2の部材は同種または異種の樹脂材料からなり、その接合は突き合わせ面を接着して、またはその合わせ目の全周囲を樹脂で覆うように二次成形して、或いは超音波溶着することによって行われる(例えば特許文献1を参照)。尚、光電センサを対象とするものではないが、レーザ光を用いて異種の合成樹脂材料を局所的に溶着する、いわゆるスポット溶着の手法も提唱されている(例えば特許文献2を参照)。
【0003】
またこの種の光電センサにおいては、接合作業に先立ち、内部に収納した発光素子および受光素子にそれぞれ対峙させて設けられるレンズを、前述した樹脂製の第1または第2の部材に一体に予め設けておくことも多い。これ故、第1の部材と第2部材とを互いに突き合わせて接合する際、前記発光素子および受光素子とレンズとの光学的距離を正確に設定することが重要となる。
【特許文献1】特開平11−329182号公報
【特許文献2】特開昭60−214931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら第1の部材と第2の部材とを接着する場合、接着剤の取り扱いが面倒な上、接着剤が硬化するまでに時間が掛かるので生産性が悪いと言う問題がある。また二次成形法を用いて第1の部材と第2の部材とを接合する場合には、二次成型用の金型が必要である上、成型の手順も必要となる等、設備コストや生産性が問題となる。また第1の部材と第2の部材とを互いに突き合わせて超音波溶着する場合には、振動に伴う部材間のずれが生じ易く、また部材の接合面に設けたエネルギダイレクタが溶け残る等の溶着の不十分な箇所が生じることがあり、量産の際に品質が安定しにくい。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、その目的は、樹脂製の第1および第2の部材を互いに突き合わせて接合して光電センサの筐体を作るに際して、量産性に優れた光電センサの筐体組立方法および光電センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するべく本発明は、第1および第2の部材における各接合面を互いに突き合わせて接合して筐体を形成し、前記筐体の内部に発光素子および/または受光素子を収納すると共に、前記第1または第2の部材の上記発光素子および/または受光素子に対向する部位にレンズを設けた光電センサを実現するに好適な容器組立方法に係り、
<a> 前記第1の部材の少なくとも前記接合面の構成部材としてレーザ光を透過し易い第1の樹脂材料を用いると共に、前記第2の部材の少なくとも前記接合面の構成部材として、前記第1の樹脂材料に比べてレーザ光を透過し難い第2の樹脂材料を用い、
<b> 前記第1および第2の部材の各接合面を互いに突き合わせた状態で、前記第1の部材側からその接合面に向けて該接合面の幅よりも小径のレーザ光を照射し、
<c> 互いに突き合わせた前記接合面間に未溶着部分を残しながら前記第1および第2の部材の接合面間を溶着してなることを特徴としている。
【0007】
ちなみに前記第1および第2の部材の少なくとも一方は、一端側を開放した箱形形状を有し、その開放側端面を接合面としたものである。また前記第2の樹脂材料としては、カーボンフィラーを含んだものを用いることによってレーザ光の吸収率を高めることが好ましい。尚、前記第1または第2の部材は上記発光素子および/または受光素子に対向する部位にレンズを一体に形成したものからなるものとしても良い。
【発明の効果】
【0008】
上記方法によれば、筐体を構成する第1および第2の部材の互いに突き合わせた各接合面間に未溶着部分を残しながら前記第1および第2の部材の接合面間を溶着するので、筐体として必要とされる密閉性および組立精度を保ちつつ、生産性に優れた光電センサを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るセンサ装置の筐体組立方法について説明する。
本発明は、筐体を密閉筐体として形成し、この密閉筐体の内部にセンシング素子を収納したセンサ装置、例えば光電センサを製造するのに好適なものであって、特に光電センサの小型化を図る上で有用なものである。
【0010】
具体的にはこの実施形態に係るセンサ装置は、例えば図1に示すように発光素子1と受光素子2を搭載した回路基板3を密閉筐体4の内部に収納して構成されるものである。
ちなみに密閉筐体4は、平板状の底面部の周縁を囲む立ち上がり壁を有し、その一端側を開放した箱形形状の第1の部材5および第2の部材6の各開放端面5a,6aを互いに突き合わせ、その突き合わせ面間を水密に接合することによって形成される。特に第1の部材5は、レーザ光を透過する第1の樹脂材料、例えばPAR(ポリアクリレート)からなり、また第2の部材6はレーザ光を吸収する第2の樹脂材料、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)からなる。
【0011】
尚、この実施形態における第1および第2の部材5,6は、例えば縦幅10mm、横幅5mm、高さが2mm程度の外観形状を有し、底板部および壁部の厚みを0.8mm程度としてその内部に前記回路基板3を収容する空間部を凹状に形成した箱形形状の射出成形品からなる。特に前記第2の部材6の内側には、前述した回路基板3を各方向(幅、奥行き、深さ)に対して位置決めして収容する為のボス(図示せず)が設けられている。これにより、回路基板5は部材6に対して正確な位置に配置され固定される。また第1の部材5にはレンズ5b,5bが一体に形成されている。尚、別体として製造したレンズ5b,5bを第1の部材5に接着することで、これらのを一体化しておくことも可能である。これらのレンズ5b,5bは、前記回路基板3を内部に収納して前記第1および第2の部材5,6の各開放端面5a,6aを互いに突き合わせたとき、回路板3に搭載された発光素子1および受光素子2にそれぞれ対峙して、その光学系を形成するものである。
【0012】
本発明に係るセンサ装置の筐体組立方法は、先ず上述した構造の第1および第2の部材5,6を互いに突き合わせ、図示しない治具を用いて第1および第2の部材5,6に歪みが生じない程度の圧力を加えて上記状態を維持する。次いで前記第1および第2の部材5,6の各開放端面5a,6aを互いに突き合わせた状態で、図2に示すように前記第1の部材5側からその突き合わせ面である開放端面5a,6aに向けて、例えばビーム径を0.1〜0.4mmに絞り込んだ微小径の、波長が800〜1000nmの赤外レーザ光Lを照射し、そのレーザ光の照射部位において第1および第2の部材5,6間を溶着(レーザ溶着)する。特に上記レーザ光Lの照射位置を、いわゆる一筆書きの要領にて前記開放端面5a,6aに沿って移動させることにより、前記各開放端面5a,6a間を、その全周に亘って連続してシーム溶着する。尚、本発明において言うシーム溶着とは、当該センサ装置の筐体を用いて製造されるセンサ装置の使用環境において、例えば周囲の水分等がセンサ装置の内部に侵入することによって当該センサ装置の動作に異常が生じない程度の密閉性を与える溶着であれば十分であることは言うまでも無い。
【0013】
具体的には図3に示すように互いに突き合わせた1および第2の部材5,6の各開放端面(突き合わせ面)5a,6a間に未溶着領域Aを残しながら、微小径のレーザ光Lを照射した部位だけを局部的に溶融させ、これによって第1および第2の部材5,6間を溶着する。第2の部材6の溶融は、第1の部材5を透過したレーザ光のエネルギを吸収して発熱することにより生じ、また第1の部材5の溶融は上記第2の部材6の溶融熱が伝播することによって生起される。レーザ光Lの照射位置が徐々に移動することによってレーザ光が照射されなくなった部位では温度が低下し、溶融した第1および第2の部材5,6の構成材料が互いに混ざり合って硬化し、これによって第1および第2の部材5,6間の溶着が短時間のうちに行われる。未溶着領域Aは、レーザ光Lの軌跡(図1の破線X)の両側に残される。
【0014】
尚、第2の部材6の構成材料として、カーボンフィラーを含むポリカーボネート(PC10)を用いた場合、レーザ光Lの照射部位だけを確実に溶着し得ることが確認できた。ちなみにこの効果は、カーボンフィラーの存在によって前記レーザ光Lの照射部位だけが局部的に温度上昇し、またカーボンフィラーの存在によってレーザ光Lの照射部位からの熱拡散が妨げられて、その周囲(レーザ光の非照射領域)の温度がさほど高くならない結果であると推定される。またレーザ光Lの照射部位だけが局部的に温度上昇すると溶融樹脂が突沸し気泡が発生することがある。このとき未溶着領域Aが存在すれば、気泡の圧力を受けても溶融樹脂が突き合わせ面5a,6aの外部へはみ出すことはなく、良好な溶着状態が保たれる。
【0015】
かくして上述した如くして第1および第2の部材5,6の互いに突き合わせた開放端面5a,6aにレーザ光を照射し、該開放端面5a,6a間に未溶着領域Aを残しながら溶着領域Bを連続して形成し、第1および第2の部材5,6の各開放端面5a,6a間をシーム溶着する本方法によれば、開放端面5a,6a間に未溶着領域Aが残されているので、第1および第2の部材5,6間に、その開放端面5a,6aを互いに突き合わせる為の圧力が加えられていても、第1および第2の部材5,6の溶融によってその加圧方向の位置関係にずれが生じることがない。換言すれば第1および第2の部材5,6の突き合わせ方向の位置関係を維持しながら、該第1および第2の部材5,6を局部的に溶融させて両者を溶着することができる。特にその突き合わせ面の全周に亘って連続してシーム溶着し、その間を気密あるいは水密にシールすることができる。
【0016】
ここで仮に未溶着領域Aが残されず、開放面5a,6aが全幅に亘って溶融したとすると、治具によって加えられた圧力によって溶融樹脂が接合面からはみ出すように変形してしまい、第1および第2の部材5,6間で、その加圧方向の位置関係にずれが生じる虞がある。このような位置ずれはレンズ5bの焦点位置ずれ等、光学性能に悪影響をもたらす虞がある上、外観上も美麗でない。
【0017】
また前記開放面5a,6aが全幅にわたって溶融するほどの強いレーザ光を照射した場合には、レーザ光が持つ大きなエネルギーによって溶融樹脂の温度が局所的に上昇して突沸を生じることがある。この場合、発生した気泡の圧力で溶融樹脂が筐体の内外に飛散する虞がある。すると筐体内に収容されている回路基板の投光素子1および受光素子2やレンズ5bに溶融樹脂の飛沫が付着し、その光学性能を阻害する虞がある。しかも上記溶融樹脂の飛沫の付着は、外観上の美麗さを阻害する。いずれにせよ、未溶着領域Aを残さない溶着方法を採用した場合には製品の製造工程での不良品の発生率が高くなり、製造コストを高める要因となる。
【0018】
尚、本発明は、あくまでも第1および第2の部材5,6を直接突き合わせてなる部分でのシール性を提供するものであり、回路基板3からの信号ケーブル(電線)7の引き出し部分については、レーザ光による溶着方法では十分な密着を得られない。そのため、前述した特許文献2に開示される手法を用いる等して、そのシール性を確保することが必要である。
【0019】
具体的には信号ケーブル(電線)7を通すための孔8は、予め筐体をなす前記第1および第2の部材5,6の接合部分に形成されており、回路基板3に接続した信号ケーブル(電線)7を前記穴8に通した状態で前記第1および第2の部材5,6の接合が行われる。従って穴8と信号ケーブル(電線)7との間に隙間が生じることが否めない。そこで前記孔8と前記信号ケーブル(電線)7との隙間に第3の部材9を充填する等してその隙間を完全に覆い、これによって当該部位でのシール性を確保するようにすれば良い。
【0020】
ところで次表は第1および第2の部材5,6の素材(構成材料)を代えて密閉筐体4を組み立てた際のシール性を検証した結果を示している。ちなみにこの検証は、前述した手法により第1および第2の部材5,6をシーム溶着して組み立てた、構成素材を異にする複数種の密閉筐体4を水中に240時間浸漬し、その後、これを取り出して加熱した後30分放置して冷却したときの前記密閉筐体4の内部の曇り状況を観察することによって行った。
【0021】
【表1】

【0022】
この検証実験においては、第1の部材5の構成材料としてポリアクリレート(PAR)またはポリメタクリル酸メチル(PMMA)を採用し、一方、第2の部材6の構成材料としてポリブチレンテフタレート(PBT)を採用したとき、シール性(水密性)に優れた密閉筐体4を簡易に実現し得ることが確認できた。但し、カーボンフィラーを含む樹脂材料については、その含有割合の違いが及ぼす影響等について更に検証することが必要である。
【0023】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。ここでは光電センサの筐体を例に説明したが、電磁気の近接センサを収納する筐体等にも同様に適用することができる。即ち、筐体の一端面をセンシング基準面として用いるセンサ装置であって、上記センシング基準面と、その内部に収納したセンシング素子との距離・位置関係を正確に規定する必要のあるセンサ装置の全般について本発明を適用可能である。
【0024】
また投光部と受光部を同一のセンサ装置に有する場合であっても、例えば投光部に相対するレンズを容器に形成し、受光部に相対するレンズを設けない、或いは受光素子に密接して設けるような場合であっても、投光部とこれに相対するレンズとの距離・位置関係を正確に規定するために本発明は有用である。これにおいて投光部と受光部の関係を逆にしても同様であることは当然言うまでもない。特に本発明は、いわゆる小型部品を微細加工して製造する上でのレーザ溶着技術として有用である。その他、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係る筐体組立方法を用いて組み立てられる光電センサの構造例を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係る筐体組立方法を用いて組み立てられた筐体の断面構造を示す図。
【図3】筐体を構成する第1の部材と部位2の部材との溶着部分を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0026】
1 発光素子
2 受光素子
3 回路基板
5 第1の部材
5b レンズ
6 第2の部材
7 信号ケーブル(電線)
L レーザ光
A 未溶着領域
B 溶着領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1および第2の部材における各接合面を互いに突き合わせて接合して筐体を形成し、前記筐体の内部に発光素子および/または受光素子を収納すると共に、前記第1または第2の部材の上記発光素子および/または受光素子に対向する部位にレンズを設けた光電センサを製造するに際して、
前記第1の部材の少なくとも前記接合面の構成部材としてレーザ光を透過し易い第1の樹脂材料を用いると共に、前記第2の部材の少なくとも接合面の構成部材として前記第1の樹脂材料に比較してレーザ光を透過し難い第2の樹脂材料を用い、前記第1および第2の部材の各接合面を互いに突き合わせた状態で、前記第1の部材側からその接合面に向けて該接合面の幅よりも小径のレーザ光を照射し、互いに突き合わせた前記接合面間に未溶着部分を残しながら前記第1および第2の部材の接合面間を溶着することを特徴とする光電センサの筐体組立方法。
【請求項2】
前記第1および第2の部材の少なくとも一方は、一端側を開放した箱形形状を有し、その開放側端面を接合面としたものである請求項1に記載の光電センサの筐体組立方法。
【請求項3】
前記第2の樹脂材料は、カーボンフィラーを含んだものである請求項1に記載の光電センサの筐体組立方法。
【請求項4】
前記第1および第2の部材の接合面間を互いにシーム溶着して前記第1および第2の部材によって密閉筐体を形成したことを特徴とする請求項1に記載の光電センサの筐体組立方法。
【請求項5】
第1および第2の部材における各接合面を互いに突き合わせて接合して筐体を形成し、前記筐体の内部に発光素子および/または受光素子を収納すると共に、前記第1または第2の部材の上記発光素子および/または受光素子に対向する部位にレンズを設けた光電センサであって、
前記第1の部材の少なくとも接合面の構成部材はレーザ光を透過し易い第1の樹脂材料からなると共に、前記第2の部材の少なくとも接合面の構成部材はレーザ光を透過し難い第2の樹脂材料からなり、
互いに突き合わせた前記接合面間に未溶着部分を残しながら前記第1および第2の部材の接合面間を溶着して形成したことを特徴とする光電センサ。
【請求項6】
前記発光素子および/または受光素子に通電する電線を有し、この電線を通すための孔は筐体をなす前記第1および第2の部材の接合部分に形成されており、少なくとも前記孔と前記電線との隙間が第3の部材によって完全に覆われていることを特徴とする請求項5に記載の光電センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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