光電場増強デバイス
【課題】ラマン散乱光をより高い感度で検出し得る光電場増強デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】光電場増強デバイス1を、表面に透明な微細凹凸構造22を備えてなる透明基板10と、その表面の微細凹凸構造22の表面に形成された金属膜24とを備えてなるものとし、励起光L1の照射および検出光L2の検出を金属膜24の表面側あるいは透明基板10の裏面側のいずれからでも行うことができるものとする。
【解決手段】光電場増強デバイス1を、表面に透明な微細凹凸構造22を備えてなる透明基板10と、その表面の微細凹凸構造22の表面に形成された金属膜24とを備えてなるものとし、励起光L1の照射および検出光L2の検出を金属膜24の表面側あるいは透明基板10の裏面側のいずれからでも行うことができるものとする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局在プラズモンを誘起しうる微細な金属凹凸構造を備えた光電場増強デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面における局在プラズモン共鳴現象による電場増強効果を利用したセンサデバイスやラマン分光用デバイス等の電場増強デバイスが知られている。ラマン分光法は、物質に単波長光を照射して得られる散乱光を分光して、ラマン散乱光のスペクトル(ラマンスペクトル)を得る方法であり、物質の同定等に利用されている。
【0003】
ラマン分光法には、微弱なラマン散乱光を増強するために、表面増強ラマン(SERS)と呼ばれる、局在プラズモン共鳴によって増強された光電場を利用したラマン分光法がある(非特許文献1参照)。これは、金属体、特に表面にナノオーダの凹凸を有する金属体に物質を接触させた状態で光を照射すると、局在プラズモン共鳴による光電場増強が生じ、金属体表面に接触された試料のラマン散乱光強度が増強されるという原理を利用するものである。被検体を担持する担体(基板)として、表面に金属凹凸構造を備えた基板を用いることにより表面増強ラマン分光法を実施することができる。
【0004】
表面に金属微細凹凸構造を備えた基板としては、Si基板の表面に凹凸を設け、その凹凸面に金属膜を形成した基板が主に用いられている(特許文献1から3参照)。
【0005】
また、Al基板の表面を陽極酸化して一部を金属酸化物層(Al2O3)とし、陽極酸化の過程で金属酸化物層内部に自然形成され、金属酸化物層の表面において開口した複数の微細孔内に、金属が充填された基板も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−514286号公報
【特許文献2】特許第4347801号公報
【特許文献3】特開2006−145230号公報
【特許文献4】特開2005−172569号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Optics Express Vol.17, No.21 18556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4等に開示されている従来の光電場増強基板は、SiあるいはAlなどの不透明な基板表面に微細凹凸構造を形成し、その微細凹凸構造表面に金属膜を形成した、あるいは、凹部に金属を埋め込んだ構成である。また、特許文献4にはガラス基板のような透明基板を用いる例が挙げられているが、微細凹凸構造自体はシリコンあるいはゲルマニウムなどの不透明な材料から構成されている。
【0009】
従来のラマン分光装置においては、サンプル表面側からラマン散乱光を検出するよう構成されている。しかしながら、細胞などのμmオーダー以上のサンプルを被検体とする場合、サンプル自身がラマン散乱光に対する遮蔽体となり、微弱なラマン光を高いS/Nで受光するのは困難であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラマン散乱光をより高い感度で検出し得る光電場増強デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に透明な微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該表面の微細凹凸構造表面に形成された金属膜とを備え、
該金属膜が形成された前記微細凹凸構造に照射された光により、前記金属膜の表面に誘起された局在プラズモンの電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、前記金属膜は微細凹凸構造表面に形成されており、この金属膜表面は透明な微細凹凸構造に応じた微細凹凸構造を有する。金属膜表面の微細凹凸構造が、光の照射を受けて局在プラズモンを生じうるものであればよい。なお、局在プラズモンを生じうる微細凹凸構造とは、一般に、凹凸構造をなす凸部および凹部の平均的な大きさと平均的なピッチが光の波長よりも小さい凹凸構造である。
【0013】
特には、凹凸の平均的なピッチおよび凸部の頂点と凹部の底部間の距離(深さ)が200nm以下であることが好ましい。
【0014】
凹凸の平均的なピッチは、SEM(走査型電子顕微鏡)で微細凹凸構造の表面画像を撮影し、画像処理をして2値化し、統計的処理によって求めるものとする。
【0015】
凹凸の平均的な深さは、AFM(原子間力顕微鏡)により表面形状を測定して統計的処理によって求めるものとする。
【0016】
ここで透明とは、前記微細凹凸構造に照射される光、および該光により被検体から生じる光に対し、透過率が50%以上であることをいうものとする。なお、これらの光に対して、透過率は75%以上、さらには90%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の光電場増強デバイスにおいて、前記透明基板は、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する、該透明基板本体とは異なる物質により構成された微細凹凸構造層とからなるものとすることできる。
【0018】
特に、前記微細凹凸構造層は、ベーマイトにより好適に形成することができる。
【0019】
金属膜は、前記光の照射を受けて局在プラズモンを生じる金属からなるものであればよいが、Au、Ag、Cu、Al、Pt、およびこれらを主成分とする合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなるものであることが好ましい。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0020】
前記金属膜の膜厚は、10〜100nmであることが好ましい。
【0021】
前記透明基板の裏面に、反射防止膜として機能する透明な第2の微細凹凸構造を備えてなるものとすることができる。
【0022】
このとき、前記第2の微細凹凸構造は、ベーマイトにより構成された微細凹凸構造層により構成することが好ましい。
【0023】
本発明の光電場増強デバイスは、前記透明基板の前記金属膜上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えた試料セルとすることができる。
【0024】
また、さらには、前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなるフローセル型の試料セルとしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に透明な微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該表面の微細凹凸構造表面に形成された金属膜とを備えており、透明な微細凹凸構造上の金属膜が設けられて、金属膜自体が凹凸状に形成されているため、この金属膜に光が照射されると、金属膜の表面に局在プラズモンを効果的に誘起することができ、この局在プラズモンによる光電場増強効果を生じさせることができる。また、この光電場増強デバイス上に被検体を配して、該被検体が配置された領域に光が照射されることにより被検体から生じる光は光電場増強効果により増強されたものとなり、高感度に光を検出することが可能となる。
【0026】
特に、本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属膜の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光(励起光)を照射することができ、また、この光の照射により被検体から生じた光(検出光)についても、金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。被検体の種類、サイズ等に応じて、より感度よく検出することができるように、励起光の照射、検出光の検出を金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれから行うか自由に選択することができる。すなわち、本発明の光電場増強デバイスを用いれば、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0027】
また、本発明の光電場増強デバイスにおいて、透明基板を、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた微細凹凸構造を構成する、透明基板本体とは異なる物質により構成された微細凹凸構造層とからなるものとして、微細凹凸構造層をベーマイトにより形成するものとすれば、面内均一性の高い微細凹凸構造を非常に簡単な作製方法で得ることができるので、製造コストを従来のデバイスと比較して格段に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図
【図1B】図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図
【図2】光電場増強基板の作製方法を示す各工程における断面図
【図3】ベーマイト層表面のSEM画像
【図4A】光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板2を示す斜視図
【図4B】図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図
【図5】ベーマイト層の光反射率の波長依存性を示す図
【図6A】光電場増強デバイスの第3の実施形態に係る光電場増強試料セル3を示す平面図
【図6B】図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図
【図7】光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図8】増強ラマン分光装置の設計変更例を示す概略図
【図9】光電場増強試料セル3を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図10】実施例の測定サンプルの作製工程を示す模式断面図
【図11】測定サンプルにおけるラマン散乱光の測定箇所を示す図
【図12】測定サンプルについて得られたラマンシフトスペクトル分布を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の光電場増強デバイスの実施形態について説明する。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0030】
(第1の実施形態)
図1Aは、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図であり、図1Bは、図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図である。
【0031】
図1Aおよび図1Bに示すように、光電場増強基板1は、表面に微細凹凸構造22を備えた透明基板10と、その微細凹凸構造22表面に形成された金属膜24とからなる。金属膜24が微細凹凸構造22に沿って形成されて金属の微細凹凸構造を構成するものとなり、表面に金属微細凹凸構造を備えた、局在プラズモン共鳴による光電増強効果を得ることが可能な光電場増強デバイスとして機能するものとなっている。
【0032】
この光電場増強基板1は、金属膜24が形成された微細凹凸構造22(金属微細凹凸構造)に照射された光(以下において、励起光とする。)により、局在プラズモン共鳴が誘起され、この局在プラズモン共鳴により金属膜24の表面に増強された光電場を生じさせるものである。
【0033】
微細凹凸構造22は、この微細凹凸構造22表面に金属膜24が形成されて構成される金属微細構造の表面における凹凸の凸部の平均的な大きさおよび平均ピッチが励起光の波長より短いものとなる程度の微細な凹凸構造であるが、金属微細凹凸構造の表面に局在プラズモンを生じさせうるものであればよい。特には、微細凹凸構造22は、凸部頂点から隣接する凹部の底部までの平均深さが200nm以下、凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の平均ピッチが200nm以下であることが望ましい。
【0034】
本実施の形態においては、透明基板10は、ガラス等からなる透明基板本体11と、本体11とは異なる材料からなり微細凹凸構造22を構成するベーマイト層(以下において、ベーマイト層22もしくは微細凹凸構造層22とする。)とからなる。
【0035】
金属膜24は、励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じうる金属からなるものであればよいが、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、およびこれらを主成分とする合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなるものである。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0036】
金属膜24の膜厚は、微細凹凸構造層22の表面に形成されたときに、金属微細凹凸構造として励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じうる凹凸形状を維持することができる程度の厚みであれば特に制限はないが、10〜100nmであることが好ましい。
【0037】
上記実施形態において、透明基板10における微細凹凸構造層22は、ベーマイトにより構成されるものとしたが、ベーマイト以外の透明な材料により構成されていてもよい。例えば、アルミニウム基体に対して、陽極酸化処理を施してその上層部に多数の微細孔を有する陽極酸化アルミナを作製し、陽極酸化されていないアルミニウム部分を除去した陽極酸化アルミナ層を微細凹凸構造層22とし、これをガラス等の透明基板本体11上に固定して透明基板10を構成することもできる。
【0038】
また、微細凹凸構造は透明基板本体と異なる材料により構成されたもののみならず、透明基板本体の表面を加工することにより基板本体と同一の材料により構成されていてもよい。例えば、ガラス基板の表面をリソグラフィーとドライエッチング処理することにより、表面に微細凹凸構造を形成したものを透明基板として用いてもよい。
【0039】
なお、形成方法が容易であることから、微細凹凸構造22はベーマイトにより構成することが最も好ましい。
【0040】
図2を用いて、本実施形態に係る光電場増強基板1の作製方法について説明する。
【0041】
板状の透明基板本体11を用意する。透明基板本体11は純水洗浄する。
その後、基板本体11の表面にスパッタ法によりアルミニウム20を数十nm程度成膜する。
その後、純水を沸騰させた中に、アルミニウム20付き透明基板本体11を浸水させ、数分(5分程度)後に取り出す。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20は透明化し、微細凹凸構造を構成するベーマイト層22となる。
このベーマイト層22上に金属膜24を蒸着させる。
以上の処理により光電場増強基板1を作製することができる。
【0042】
なお、図3は、透明基板本体(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に50nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えてなる透明基板のベーマイト層表面をSEM(日立製S4100)にて撮影したSEM画像である。図3中に白く観察されるのが凸部、灰色に観察されるのが凹部である。凹凸のパターンは不規則であるが、全面に一様に形成されており、微細凹凸構造の面内均一性は高い。
【0043】
(第2の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板について説明する。図4Aは、本実施形態の光電場増強基板2を示す斜視図であり、図4Bは、図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図である。
【0044】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態の光電場増強基板1の裏面側に、透明な第2の微細凹凸構造層28を備えたものである。
【0045】
この第2の微細凹凸構造層28は、透明基板10の表面側に設けられた第1の微細凹凸構造層22と同様であり、ベーマイト層により構成することができる。この裏面側の微細凹凸構造層28は、光が照射された際に反射防止膜として機能する。
【0046】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態光電場増強基板1の作製方法において、透明基板の表面のみならず裏面にもアルミニウムを成膜し、その後、煮沸処理することにより得ることができる。純水中での煮沸処理により表裏のアルミニウムがベーマイトとなり、表裏面に同様の微細凹凸構造22、28を有するものとすることができる。
【0047】
なお、図5は、透明基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に50nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えた基板に対してベーマイト層表面側から、表面に垂直な方向から光を入射した場合の反射率を示したものである。本例の場合では650nm近傍の波長に対し、0.1%程度の反射率を達成している。最も反射率の低くなる波長は、例えば、最初にスパッタ形成するアルミニウムの厚みを変化させることにより干渉を制御することで調整することができる。
【0048】
(第3の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第3の実施形態係る試料セルについて説明する。図6Aは、第3の実施形態の光電場増強試料セル3を示す平面図、図6Bは、図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図である。
【0049】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、透明基板本体31とその表面に設けられた透明な微細凹凸構造32と、該微細凹凸構造32上に設けられた金属膜34とからなる光電場増強基板30と、その金属膜34上に液体試料を保持する液体試料保持部材35を備えている。
【0050】
光電場増強基板30は、第1の実施形態の光電場増強基板1とほぼ同様の構成をしている。すなわち、微細凹凸構造32および金属膜34は、図1Bに示されている第1の光電場増強デバイス1の微細凹凸構造22および金属膜24と同様であり、その構成物質および形成方法も同様である。
【0051】
液体試料保持部材35は、例えば、金属膜34上に液体試料を保持し、液体試料の流路36aを形成するスペーサ部36と、試料を注入する注入口(流入口)38aおよび流路36aを流下した液体試料を排出する排出口(流出口)38bを備えたガラス板などの透明な上板38とから構成することができる。
【0052】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、光電場増強基板30を第1の実施形態の基板1と同様の方法で作製した後に、スペーサ部36および上板を接着することにより得ることができる。
【0053】
なお、スペーサ部36と上板38は一体的に成型されてなるものであってもよい。あるいは、スペーサ部36は透明基板本体31と一体的に成型されてなるものであってもよい。
【0054】
上記実施形態においては、流入口および流出口を備えた流路状の試料セル(フローセル)型の光電場増強デバイスについて説明したが、液体を流入出させることができるセルではなく、単に金属膜上に液体試料を保持するだけの光電場増強試料セルとしてもよい。
【0055】
また、光電場増強基板30の金属膜34が設けられている領域の裏面には、第2の実施形態の光電場増強基板2と同様に、反射防止膜として機能する第2の透明な微細凹凸構造層を備えるようにしてもよい。
【0056】
上記各実施形態で説明した本発明の光電場増強デバイスは、該デバイスの金属微細凹凸構造上に被検体を配置し、該被検体の配置箇所に対して励起光を照射し、その励起光の照射により被検体から生じた光を検出する測定方法および装置に好適に用いることができる。例えば、増強ラマン分光法、蛍光検出法などに適応することができ、増強ラマン分光法におけるラマン増強デバイスとして用いることができ、蛍光検出法における蛍光増強デバイスとして用いることができる。また、ラマン散乱光、蛍光のみならず、励起光の照射を受けた被検体から生じるレーリー散乱光、ミー散乱光、あるいは第2高調波などの検出においても、本発明の光電場増強デバイスを用いることにより、局在プラズモン共鳴に伴う増強された光電場により、増強された光を検出することができる。
【0057】
(ラマン分光法およびラマン分光装置)
以下に、上述の本発明の光電場増強基板1を用いた測定方法の例として、ラマン分光法およびラマン分光装置について説明する。
【0058】
図7は、上述の第1の実施形態に係る光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図である。
【0059】
図7に示すように、ラマン分光装置100は、上述の光電場増強基板1と、励起光L1を光電場増強基板1へ照射する励起光照射部140と、被検体Sから発せられ光電場増強基板の作用により増強されたラマン散乱光L2を検出するための光検出部150とを備えている。
【0060】
励起光照射部140は、励起光L1を射出する半導体レーザ141と、この半導体レーザ141から射出された光L1を基板1側へ反射するミラー142と、該ミラー142により反射された励起光L1を透過し、該励起光L1の照射により被検体Sから生じ増強されたラマン散乱光L2を含む基板1側からの光を光検出部150側へ反射するハーフミラー144と、ハーフミラー144を透過した励起光L1を光電場増強基板1の被検体Sが載置された領域に集光するレンズ146とを備えている。
【0061】
光検出部150は、ハーフミラー144により反射されてきた光のうち励起光L1を吸収し、それ以外の光を透過するノッチフィルタ151と、ノイズ光を除去するためのピンホール152を備えたピンホール板153と、被検体Sから発せられ、レンズ146およびノッチフィルタ151を透過した増強ラマン散乱光L2を、ピンホール152へ集光するためのレンズ154と、ピンホール152を通ったラマン散乱光を平行光化するレンズ156と、増強ラマン散乱光を検出する分光器158とを備えている。
【0062】
上述のラマン分光装置100を用いて、被検体Sのラマンスペクトルを測定するラマン分光方法について説明する。
【0063】
光照射部140の半導体レーザ141から励起光L1が射出され、励起光L1はミラー142で基板1側に反射され、ハーフミラー144を透過してレンズ146で集光されて、光電場増強基板1上に照射される。
【0064】
励起光L1の照射により、光電場増強基板1の金属微細凹凸構造においては局在プラズモン共鳴が誘起され、金属膜24表面に増強された光電場が生じる。この増強光電場により増強された、被検体Sから発せられたラマン散乱光L2は、レンズ146を透過して、ハーフミラー144で分光器158側に反射される。なお、このとき、光電場増強基板1で反射された励起光L1もハーフミラー144により反射されて分光器158側に反射されるが、励起光L1はノッチフィルタ151でカットされる。一方、励起光とは波長が異なる光はノッチフィルタ151を透過し、レンズ154で集光され、ピンホール152を通り、再度レンズ156により平行光化され、分光器158へ入射する。なお、ラマン分光装置においては、レーリー散乱光(あるいはミー散乱光)などは、その波長が励起光L1と同じであるため、ノッチフィルタ151でカットされ、分光器158へ入射することはない。ラマン散乱光L2は、分光器158に入射してラマンスペクトル測定がなされる。
【0065】
本実施形態のラマン分光装置100は、上記実施形態の光電場増強基板1を用いて構成されたものであり、効果的にラマン増強が行われているのでデータ信頼性が高く、データ再現性が良好な高精度のラマン分光測定を実施できる。光電場増強基板1の表面凹凸構造の面内均一性が高いので、同一試料に対して、光照射箇所を変えて測定を実施しても、再現性のよいデータが得られる。したがって、同一試料に対して、光照射箇所を変えて複数のデータを取り、データの信頼性を上げることも可能である。
【0066】
本実施形態のラマン分光装置100のように、光電場増強基板1の裏面から検出する構成とすることにより、被検体が細胞のような大きなサンプルである場合に、金属膜と被検体との界面で最も強く生じる増強ラマン散乱光が被検体自身により遮蔽されることなく透明基板の裏面側から検出することができる。なお、本発明者らは、透明基板の裏面側から増強ラマン散乱光を金属膜による影響なく検出することができることを確認している(後記実施例参照。)。
【0067】
上述の実施形態のラマン分光装置100は、光電場増強デバイス1の試料保持面(表面)とは逆側(デバイスの裏面)から励起光を入射すると共にラマン散乱光を検出するよう構成されているが、図8に設計変更例のラマン分光装置110を示すように、従来の装置と同様に、金属膜24の表面側(試料保持面)から励起光L1を入射し、かつラマン散乱光L2を検出するように構成してもよい。
【0068】
さらには、励起光照射部と、光検出部とのいずれか一方を金属膜24の表面側に配置し、他方を基板1の裏面側に配置する構成としてもよい。
【0069】
このように、本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属膜の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光を照射することができ、また、この光の照射により試料から生じた光についても、金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。そのため、被検体の種類、サイズ等に応じて、励起光の照射、検出光の検出を金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも行うことができるので、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0070】
図9は、上述の第3の実施形態の光電場増強デバイス3であるフローセルを備えたラマン分光装置120の概略構成を示す模式図である。
【0071】
図9に示すラマン分光装置120は、光電場増強基板1に代えてフローセル型の光電場増強試料セル3を備えた点で図7に示すラマン分光装置100と異なる。このようなフローセル型の光電場増強デバイスを備えることにより、被検体として液体試料を流下させつつラマン分光を測定することができる。
【0072】
なお、フローセル型のデバイス3の測定においても、金属膜表面側から励起光を入射し、金属膜表面側からラマン散乱光を検出する構成としてもよい。しかしながら、液体試料を流下させつつラマン散乱光を測定する際には、液体試料のラマン散乱光に対する透過率および吸収率が、液体試料の移動に伴い変動してしまう恐れがあることから、図9に示すように、基板30の裏面側からラマン散乱光を検出する構成とすることが好ましい。
【0073】
既述の通り、本発明の光電場増強デバイスは、プラズモン増強蛍光検出装置に適用することができる。その場合にも、光電場増強デバイスの金属膜上に被検体を載置し、この被検体側から励起光を照射し、被検体側から増強された蛍光を検出してもよいし、透明基板裏面側から励起光を照射し、該裏面側から蛍光を検出するようにしてもよい。あるいは被検体側から励起光を照射し、透明基板裏面側から蛍光を検出するよう構成してもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態である光電場増強基板1の具体的な作製例および測定用サンプルを用いてラマン分光測定を行った結果を説明する。
【0075】
「光電場増強基板の作製方法」
透明基板本体11として、ガラス基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)を用いた。
純水で超音波洗浄(45kHz、3分)による基板洗浄を行った。
洗浄後のガラス基板11にスパッタ装置(キャノンアネルバ社製)を用いてアルミニウム20を50nm積層した。なお、表面形状測定器(TENCOR社製)を用いて、アルミニウム厚みを測定し、厚みは50nm(±10%)であることを確認した。
【0076】
その後、容器の中に純水を用意して、ホットプレート上に載置して、純水を沸騰させた。
沸騰水の中にアルミニウム20付きガラス基板11を浸水させて、5分間経過後に取り出した。この際、アルミニウム20付きガラス基板11を沸騰水に浸水させて1−2分程度でアルミニウムが透明化したことを確認した。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20はベーマイト層22となった。このベーマイト層22の表面を、SEM(日立製S4100)にて観察した結果は既述の図3に示した通りである。
最後に、ベーマイト層22の表面に金属膜24としてAuを40nm程度蒸着した。
【0077】
「ラマン散乱光の測定」
上記方法で作製した光電場増強基板上に被検体として色素(ローダミン6G)を固定した測定サンプルを用い、基板の表裏からラマン散乱光を測定した。
【0078】
(測定サンプルの作製方法)
図10を参照して測定サンプルの作製方法を説明する。
【0079】
上記光電場増強基板1の作製方法において、透明な微細凹凸構造層上に金属膜を蒸着形成する際に、透明基板の周縁にマスクをし、蒸着後にマスクを除去して作製した光電場増強基板を用いた。したがって、測定サンプル用の光電場増強基板においては、マスクされていた領域には金属膜が形成されていない。
【0080】
まず、図10左図に示すように、光電場増強基板1の、金膜24が形成されている領域および形成されていない領域に色素(ローダミンR6G)を含む溶液(R6G/エタノール:10mM)40を滴下した。
その後乾燥させることにより、図10右図に示すように、光電場増強基板1上の、金属膜24が形成されている領域および形成されていない領域に色素41が固着した測定サンプルを得た。
【0081】
(ラマン散乱光の測定方法)
この測定サンプルについて、図11に示す、ベーマイト表面側B_a、金膜表面側Au_a、金膜裏面側Au_b、金膜上の色素表面側SAu_a、金膜上の色素裏面側SAu_b、ベーマイト上の色素表面側S_a、ベーマイト上の色素裏面側S_bの計7つの測定箇所に対し、励起光を照射してそれぞれラマン散乱光を測定した。
【0082】
ラマン散乱光は、顕微ラマン分光装置(Raman5)を用いて検出した。例えば、金膜上の色素表面側の測定とは、金膜上の色素表面側から励起光を照射し、該金膜上の色素表面側からラマン散乱光を検出したものである。励起光としては、ピーク波長785nmのレーザ光を用い、倍率20倍で観測した。
【0083】
(測定結果)
図12は、顕微ラマン分光装置により検出された各箇所からのラマンシフトスペクトル分布を示すグラフである。
【0084】
ベーマイト表面側B_a、ベーマイト上に固着された色素表面側S_aおよび裏面側S_bからの検出では、ラマン散乱光による信号はほとんど検出されなかった。このように、金膜が備えられていない部分における信号は表裏共に極めて低いことが分かる。
【0085】
また、金膜上に色素が固着された箇所については、表面側SAu_aからの検出および裏面側SAu_bからの検出についていずれも高い強度のスペクトルが得られたが、いずれもバックグランドが高い。図中において、バックグランドと考えられる部分を破線で示している。このバックグラウンドを差し引いた信号が純粋なラマンシフト信号であると考えられる。ラマンシフト信号自体は、金膜上に色素表裏側SAu_a、SAu_bでほぼ同様箇所に同等の強度で検出された。
【0086】
従来、ラマン測定において、基板の裏面側からラマン信号を検出した例は皆無であり、本発明者は、本発明の光電場増強デバイスを用いた上記のラマン測定により、基板の裏面側からラマン信号を検出することができることを見出した。
【0087】
この測定結果から、金属微細凹凸構造に照射された光により生じる局在プラズモンにより増強された光電場が試料と相互作用を生じ、またさらに金属微細凹凸構造とラマン散乱光による何らかの相互作用により、裏面側からも表面側と同等程度の信号を得ることができたものと本発明者は推測している。
【0088】
本実施例においては、測定用サンプルにおいて被検体として乾燥して固着させた色素を用いており、被検体の厚みが非常に薄いものであったため、金膜上の色素表裏側での信号強度はほぼ同等であったが、細胞のような1μmオーダーの厚みを有する試料についてのラマン分光を行う場合などは、増強効果の高い金膜と試料との界面近傍における信号を裏面側から検出した方が有利であると考えられる。
【0089】
このような、基板の裏面側からのラマン信号の検出は、基板本体および微細凹凸構造が共に透明な透明基板を備えた本発明の光電場増強デバイスにより初めて達成することができたものである。従来の不透明な基板上に凹凸が備えられた構造や、透明基板上に凹凸が不透明な材料で形成されている構造の光電場増強基板では、ラマン光を基板の裏面側から検出することは困難である。
【0090】
従来は、金属凹凸構造の表面に生じた増強された光電場により増強されたラマン光を、基板の裏面側から検出できるとは考えられていなかったため、そもそも基板および凹凸構造を透明な材料により構成するという発想自体がなく、基板本体および微細凹凸構造全体を透明な材料から構成した増強ラマンデバイス(光電場増強基板)は皆無であった。
【0091】
以上の通り、本発明の光電場増強デバイスは、表面に透明な凹凸構造を備えた透明基板上に金属膜が形成されてなるものであり、透明基板の金属膜側からのみならず、透明基板の裏面から信号光を検出することが可能であるため、非常に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1、2 光電場増強基板(光電場増強デバイス)
3 光電場増強試料セル(光電場増強デバイス)
10 透明基板
11、31 透明基板本体
20 アルミニウム
22、32 微細凹凸構造(ベーマイト層)
24、34 金属膜
35 液体試料保持部材
100、110、120 ラマン分光装置
140 励起光照射部
150 光検出部
【技術分野】
【0001】
本発明は、局在プラズモンを誘起しうる微細な金属凹凸構造を備えた光電場増強デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属表面における局在プラズモン共鳴現象による電場増強効果を利用したセンサデバイスやラマン分光用デバイス等の電場増強デバイスが知られている。ラマン分光法は、物質に単波長光を照射して得られる散乱光を分光して、ラマン散乱光のスペクトル(ラマンスペクトル)を得る方法であり、物質の同定等に利用されている。
【0003】
ラマン分光法には、微弱なラマン散乱光を増強するために、表面増強ラマン(SERS)と呼ばれる、局在プラズモン共鳴によって増強された光電場を利用したラマン分光法がある(非特許文献1参照)。これは、金属体、特に表面にナノオーダの凹凸を有する金属体に物質を接触させた状態で光を照射すると、局在プラズモン共鳴による光電場増強が生じ、金属体表面に接触された試料のラマン散乱光強度が増強されるという原理を利用するものである。被検体を担持する担体(基板)として、表面に金属凹凸構造を備えた基板を用いることにより表面増強ラマン分光法を実施することができる。
【0004】
表面に金属微細凹凸構造を備えた基板としては、Si基板の表面に凹凸を設け、その凹凸面に金属膜を形成した基板が主に用いられている(特許文献1から3参照)。
【0005】
また、Al基板の表面を陽極酸化して一部を金属酸化物層(Al2O3)とし、陽極酸化の過程で金属酸化物層内部に自然形成され、金属酸化物層の表面において開口した複数の微細孔内に、金属が充填された基板も提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−514286号公報
【特許文献2】特許第4347801号公報
【特許文献3】特開2006−145230号公報
【特許文献4】特開2005−172569号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Optics Express Vol.17, No.21 18556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜4等に開示されている従来の光電場増強基板は、SiあるいはAlなどの不透明な基板表面に微細凹凸構造を形成し、その微細凹凸構造表面に金属膜を形成した、あるいは、凹部に金属を埋め込んだ構成である。また、特許文献4にはガラス基板のような透明基板を用いる例が挙げられているが、微細凹凸構造自体はシリコンあるいはゲルマニウムなどの不透明な材料から構成されている。
【0009】
従来のラマン分光装置においては、サンプル表面側からラマン散乱光を検出するよう構成されている。しかしながら、細胞などのμmオーダー以上のサンプルを被検体とする場合、サンプル自身がラマン散乱光に対する遮蔽体となり、微弱なラマン光を高いS/Nで受光するのは困難であった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、ラマン散乱光をより高い感度で検出し得る光電場増強デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に透明な微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該表面の微細凹凸構造表面に形成された金属膜とを備え、
該金属膜が形成された前記微細凹凸構造に照射された光により、前記金属膜の表面に誘起された局在プラズモンの電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、前記金属膜は微細凹凸構造表面に形成されており、この金属膜表面は透明な微細凹凸構造に応じた微細凹凸構造を有する。金属膜表面の微細凹凸構造が、光の照射を受けて局在プラズモンを生じうるものであればよい。なお、局在プラズモンを生じうる微細凹凸構造とは、一般に、凹凸構造をなす凸部および凹部の平均的な大きさと平均的なピッチが光の波長よりも小さい凹凸構造である。
【0013】
特には、凹凸の平均的なピッチおよび凸部の頂点と凹部の底部間の距離(深さ)が200nm以下であることが好ましい。
【0014】
凹凸の平均的なピッチは、SEM(走査型電子顕微鏡)で微細凹凸構造の表面画像を撮影し、画像処理をして2値化し、統計的処理によって求めるものとする。
【0015】
凹凸の平均的な深さは、AFM(原子間力顕微鏡)により表面形状を測定して統計的処理によって求めるものとする。
【0016】
ここで透明とは、前記微細凹凸構造に照射される光、および該光により被検体から生じる光に対し、透過率が50%以上であることをいうものとする。なお、これらの光に対して、透過率は75%以上、さらには90%以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の光電場増強デバイスにおいて、前記透明基板は、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する、該透明基板本体とは異なる物質により構成された微細凹凸構造層とからなるものとすることできる。
【0018】
特に、前記微細凹凸構造層は、ベーマイトにより好適に形成することができる。
【0019】
金属膜は、前記光の照射を受けて局在プラズモンを生じる金属からなるものであればよいが、Au、Ag、Cu、Al、Pt、およびこれらを主成分とする合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなるものであることが好ましい。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0020】
前記金属膜の膜厚は、10〜100nmであることが好ましい。
【0021】
前記透明基板の裏面に、反射防止膜として機能する透明な第2の微細凹凸構造を備えてなるものとすることができる。
【0022】
このとき、前記第2の微細凹凸構造は、ベーマイトにより構成された微細凹凸構造層により構成することが好ましい。
【0023】
本発明の光電場増強デバイスは、前記透明基板の前記金属膜上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えた試料セルとすることができる。
【0024】
また、さらには、前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなるフローセル型の試料セルとしてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明の光電場増強デバイスは、表面に透明な微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該表面の微細凹凸構造表面に形成された金属膜とを備えており、透明な微細凹凸構造上の金属膜が設けられて、金属膜自体が凹凸状に形成されているため、この金属膜に光が照射されると、金属膜の表面に局在プラズモンを効果的に誘起することができ、この局在プラズモンによる光電場増強効果を生じさせることができる。また、この光電場増強デバイス上に被検体を配して、該被検体が配置された領域に光が照射されることにより被検体から生じる光は光電場増強効果により増強されたものとなり、高感度に光を検出することが可能となる。
【0026】
特に、本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属膜の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光(励起光)を照射することができ、また、この光の照射により被検体から生じた光(検出光)についても、金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。被検体の種類、サイズ等に応じて、より感度よく検出することができるように、励起光の照射、検出光の検出を金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれから行うか自由に選択することができる。すなわち、本発明の光電場増強デバイスを用いれば、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0027】
また、本発明の光電場増強デバイスにおいて、透明基板を、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた微細凹凸構造を構成する、透明基板本体とは異なる物質により構成された微細凹凸構造層とからなるものとして、微細凹凸構造層をベーマイトにより形成するものとすれば、面内均一性の高い微細凹凸構造を非常に簡単な作製方法で得ることができるので、製造コストを従来のデバイスと比較して格段に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1A】光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図
【図1B】図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図
【図2】光電場増強基板の作製方法を示す各工程における断面図
【図3】ベーマイト層表面のSEM画像
【図4A】光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板2を示す斜視図
【図4B】図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図
【図5】ベーマイト層の光反射率の波長依存性を示す図
【図6A】光電場増強デバイスの第3の実施形態に係る光電場増強試料セル3を示す平面図
【図6B】図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図
【図7】光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図8】増強ラマン分光装置の設計変更例を示す概略図
【図9】光電場増強試料セル3を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図
【図10】実施例の測定サンプルの作製工程を示す模式断面図
【図11】測定サンプルにおけるラマン散乱光の測定箇所を示す図
【図12】測定サンプルについて得られたラマンシフトスペクトル分布を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の光電場増強デバイスの実施形態について説明する。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0030】
(第1の実施形態)
図1Aは、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態に係る光電場増強基板1を示す斜視図であり、図1Bは、図1Aに示した光電場増強基板1の側面の一部IBの拡大図である。
【0031】
図1Aおよび図1Bに示すように、光電場増強基板1は、表面に微細凹凸構造22を備えた透明基板10と、その微細凹凸構造22表面に形成された金属膜24とからなる。金属膜24が微細凹凸構造22に沿って形成されて金属の微細凹凸構造を構成するものとなり、表面に金属微細凹凸構造を備えた、局在プラズモン共鳴による光電増強効果を得ることが可能な光電場増強デバイスとして機能するものとなっている。
【0032】
この光電場増強基板1は、金属膜24が形成された微細凹凸構造22(金属微細凹凸構造)に照射された光(以下において、励起光とする。)により、局在プラズモン共鳴が誘起され、この局在プラズモン共鳴により金属膜24の表面に増強された光電場を生じさせるものである。
【0033】
微細凹凸構造22は、この微細凹凸構造22表面に金属膜24が形成されて構成される金属微細構造の表面における凹凸の凸部の平均的な大きさおよび平均ピッチが励起光の波長より短いものとなる程度の微細な凹凸構造であるが、金属微細凹凸構造の表面に局在プラズモンを生じさせうるものであればよい。特には、微細凹凸構造22は、凸部頂点から隣接する凹部の底部までの平均深さが200nm以下、凹部を隔てた最隣接凸部の頂点同士の平均ピッチが200nm以下であることが望ましい。
【0034】
本実施の形態においては、透明基板10は、ガラス等からなる透明基板本体11と、本体11とは異なる材料からなり微細凹凸構造22を構成するベーマイト層(以下において、ベーマイト層22もしくは微細凹凸構造層22とする。)とからなる。
【0035】
金属膜24は、励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じうる金属からなるものであればよいが、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Pt、およびこれらを主成分とする合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属からなるものである。特には、AuあるいはAgが好ましい。
【0036】
金属膜24の膜厚は、微細凹凸構造層22の表面に形成されたときに、金属微細凹凸構造として励起光の照射を受けて局在プラズモンを生じうる凹凸形状を維持することができる程度の厚みであれば特に制限はないが、10〜100nmであることが好ましい。
【0037】
上記実施形態において、透明基板10における微細凹凸構造層22は、ベーマイトにより構成されるものとしたが、ベーマイト以外の透明な材料により構成されていてもよい。例えば、アルミニウム基体に対して、陽極酸化処理を施してその上層部に多数の微細孔を有する陽極酸化アルミナを作製し、陽極酸化されていないアルミニウム部分を除去した陽極酸化アルミナ層を微細凹凸構造層22とし、これをガラス等の透明基板本体11上に固定して透明基板10を構成することもできる。
【0038】
また、微細凹凸構造は透明基板本体と異なる材料により構成されたもののみならず、透明基板本体の表面を加工することにより基板本体と同一の材料により構成されていてもよい。例えば、ガラス基板の表面をリソグラフィーとドライエッチング処理することにより、表面に微細凹凸構造を形成したものを透明基板として用いてもよい。
【0039】
なお、形成方法が容易であることから、微細凹凸構造22はベーマイトにより構成することが最も好ましい。
【0040】
図2を用いて、本実施形態に係る光電場増強基板1の作製方法について説明する。
【0041】
板状の透明基板本体11を用意する。透明基板本体11は純水洗浄する。
その後、基板本体11の表面にスパッタ法によりアルミニウム20を数十nm程度成膜する。
その後、純水を沸騰させた中に、アルミニウム20付き透明基板本体11を浸水させ、数分(5分程度)後に取り出す。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20は透明化し、微細凹凸構造を構成するベーマイト層22となる。
このベーマイト層22上に金属膜24を蒸着させる。
以上の処理により光電場増強基板1を作製することができる。
【0042】
なお、図3は、透明基板本体(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に50nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えてなる透明基板のベーマイト層表面をSEM(日立製S4100)にて撮影したSEM画像である。図3中に白く観察されるのが凸部、灰色に観察されるのが凹部である。凹凸のパターンは不規則であるが、全面に一様に形成されており、微細凹凸構造の面内均一性は高い。
【0043】
(第2の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第2の実施形態に係る光電場増強基板について説明する。図4Aは、本実施形態の光電場増強基板2を示す斜視図であり、図4Bは、図4Aに示した光電場増強基板2の側面下部の一部IVBの拡大図である。
【0044】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態の光電場増強基板1の裏面側に、透明な第2の微細凹凸構造層28を備えたものである。
【0045】
この第2の微細凹凸構造層28は、透明基板10の表面側に設けられた第1の微細凹凸構造層22と同様であり、ベーマイト層により構成することができる。この裏面側の微細凹凸構造層28は、光が照射された際に反射防止膜として機能する。
【0046】
本実施形態の光電場増強基板2は、第1の実施形態光電場増強基板1の作製方法において、透明基板の表面のみならず裏面にもアルミニウムを成膜し、その後、煮沸処理することにより得ることができる。純水中での煮沸処理により表裏のアルミニウムがベーマイトとなり、表裏面に同様の微細凹凸構造22、28を有するものとすることができる。
【0047】
なお、図5は、透明基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)上に50nmのアルミニウムをスパッタ成膜した後に、5分間煮沸処理して形成されたベーマイト層を備えた基板に対してベーマイト層表面側から、表面に垂直な方向から光を入射した場合の反射率を示したものである。本例の場合では650nm近傍の波長に対し、0.1%程度の反射率を達成している。最も反射率の低くなる波長は、例えば、最初にスパッタ形成するアルミニウムの厚みを変化させることにより干渉を制御することで調整することができる。
【0048】
(第3の実施形態)
本発明の光電場増強デバイスの第3の実施形態係る試料セルについて説明する。図6Aは、第3の実施形態の光電場増強試料セル3を示す平面図、図6Bは、図6Aに示した光電場増強試料セル3のVIB−VIB断面図である。
【0049】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、透明基板本体31とその表面に設けられた透明な微細凹凸構造32と、該微細凹凸構造32上に設けられた金属膜34とからなる光電場増強基板30と、その金属膜34上に液体試料を保持する液体試料保持部材35を備えている。
【0050】
光電場増強基板30は、第1の実施形態の光電場増強基板1とほぼ同様の構成をしている。すなわち、微細凹凸構造32および金属膜34は、図1Bに示されている第1の光電場増強デバイス1の微細凹凸構造22および金属膜24と同様であり、その構成物質および形成方法も同様である。
【0051】
液体試料保持部材35は、例えば、金属膜34上に液体試料を保持し、液体試料の流路36aを形成するスペーサ部36と、試料を注入する注入口(流入口)38aおよび流路36aを流下した液体試料を排出する排出口(流出口)38bを備えたガラス板などの透明な上板38とから構成することができる。
【0052】
本実施形態の光電場増強試料セル3は、光電場増強基板30を第1の実施形態の基板1と同様の方法で作製した後に、スペーサ部36および上板を接着することにより得ることができる。
【0053】
なお、スペーサ部36と上板38は一体的に成型されてなるものであってもよい。あるいは、スペーサ部36は透明基板本体31と一体的に成型されてなるものであってもよい。
【0054】
上記実施形態においては、流入口および流出口を備えた流路状の試料セル(フローセル)型の光電場増強デバイスについて説明したが、液体を流入出させることができるセルではなく、単に金属膜上に液体試料を保持するだけの光電場増強試料セルとしてもよい。
【0055】
また、光電場増強基板30の金属膜34が設けられている領域の裏面には、第2の実施形態の光電場増強基板2と同様に、反射防止膜として機能する第2の透明な微細凹凸構造層を備えるようにしてもよい。
【0056】
上記各実施形態で説明した本発明の光電場増強デバイスは、該デバイスの金属微細凹凸構造上に被検体を配置し、該被検体の配置箇所に対して励起光を照射し、その励起光の照射により被検体から生じた光を検出する測定方法および装置に好適に用いることができる。例えば、増強ラマン分光法、蛍光検出法などに適応することができ、増強ラマン分光法におけるラマン増強デバイスとして用いることができ、蛍光検出法における蛍光増強デバイスとして用いることができる。また、ラマン散乱光、蛍光のみならず、励起光の照射を受けた被検体から生じるレーリー散乱光、ミー散乱光、あるいは第2高調波などの検出においても、本発明の光電場増強デバイスを用いることにより、局在プラズモン共鳴に伴う増強された光電場により、増強された光を検出することができる。
【0057】
(ラマン分光法およびラマン分光装置)
以下に、上述の本発明の光電場増強基板1を用いた測定方法の例として、ラマン分光法およびラマン分光装置について説明する。
【0058】
図7は、上述の第1の実施形態に係る光電場増強基板1を備えた増強ラマン分光装置の構成を示す概略図である。
【0059】
図7に示すように、ラマン分光装置100は、上述の光電場増強基板1と、励起光L1を光電場増強基板1へ照射する励起光照射部140と、被検体Sから発せられ光電場増強基板の作用により増強されたラマン散乱光L2を検出するための光検出部150とを備えている。
【0060】
励起光照射部140は、励起光L1を射出する半導体レーザ141と、この半導体レーザ141から射出された光L1を基板1側へ反射するミラー142と、該ミラー142により反射された励起光L1を透過し、該励起光L1の照射により被検体Sから生じ増強されたラマン散乱光L2を含む基板1側からの光を光検出部150側へ反射するハーフミラー144と、ハーフミラー144を透過した励起光L1を光電場増強基板1の被検体Sが載置された領域に集光するレンズ146とを備えている。
【0061】
光検出部150は、ハーフミラー144により反射されてきた光のうち励起光L1を吸収し、それ以外の光を透過するノッチフィルタ151と、ノイズ光を除去するためのピンホール152を備えたピンホール板153と、被検体Sから発せられ、レンズ146およびノッチフィルタ151を透過した増強ラマン散乱光L2を、ピンホール152へ集光するためのレンズ154と、ピンホール152を通ったラマン散乱光を平行光化するレンズ156と、増強ラマン散乱光を検出する分光器158とを備えている。
【0062】
上述のラマン分光装置100を用いて、被検体Sのラマンスペクトルを測定するラマン分光方法について説明する。
【0063】
光照射部140の半導体レーザ141から励起光L1が射出され、励起光L1はミラー142で基板1側に反射され、ハーフミラー144を透過してレンズ146で集光されて、光電場増強基板1上に照射される。
【0064】
励起光L1の照射により、光電場増強基板1の金属微細凹凸構造においては局在プラズモン共鳴が誘起され、金属膜24表面に増強された光電場が生じる。この増強光電場により増強された、被検体Sから発せられたラマン散乱光L2は、レンズ146を透過して、ハーフミラー144で分光器158側に反射される。なお、このとき、光電場増強基板1で反射された励起光L1もハーフミラー144により反射されて分光器158側に反射されるが、励起光L1はノッチフィルタ151でカットされる。一方、励起光とは波長が異なる光はノッチフィルタ151を透過し、レンズ154で集光され、ピンホール152を通り、再度レンズ156により平行光化され、分光器158へ入射する。なお、ラマン分光装置においては、レーリー散乱光(あるいはミー散乱光)などは、その波長が励起光L1と同じであるため、ノッチフィルタ151でカットされ、分光器158へ入射することはない。ラマン散乱光L2は、分光器158に入射してラマンスペクトル測定がなされる。
【0065】
本実施形態のラマン分光装置100は、上記実施形態の光電場増強基板1を用いて構成されたものであり、効果的にラマン増強が行われているのでデータ信頼性が高く、データ再現性が良好な高精度のラマン分光測定を実施できる。光電場増強基板1の表面凹凸構造の面内均一性が高いので、同一試料に対して、光照射箇所を変えて測定を実施しても、再現性のよいデータが得られる。したがって、同一試料に対して、光照射箇所を変えて複数のデータを取り、データの信頼性を上げることも可能である。
【0066】
本実施形態のラマン分光装置100のように、光電場増強基板1の裏面から検出する構成とすることにより、被検体が細胞のような大きなサンプルである場合に、金属膜と被検体との界面で最も強く生じる増強ラマン散乱光が被検体自身により遮蔽されることなく透明基板の裏面側から検出することができる。なお、本発明者らは、透明基板の裏面側から増強ラマン散乱光を金属膜による影響なく検出することができることを確認している(後記実施例参照。)。
【0067】
上述の実施形態のラマン分光装置100は、光電場増強デバイス1の試料保持面(表面)とは逆側(デバイスの裏面)から励起光を入射すると共にラマン散乱光を検出するよう構成されているが、図8に設計変更例のラマン分光装置110を示すように、従来の装置と同様に、金属膜24の表面側(試料保持面)から励起光L1を入射し、かつラマン散乱光L2を検出するように構成してもよい。
【0068】
さらには、励起光照射部と、光検出部とのいずれか一方を金属膜24の表面側に配置し、他方を基板1の裏面側に配置する構成としてもよい。
【0069】
このように、本発明の光電場増強デバイスは、透明基板を用いているので、金属膜の表面側、あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも光を照射することができ、また、この光の照射により試料から生じた光についても、金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも検出することができる。そのため、被検体の種類、サイズ等に応じて、励起光の照射、検出光の検出を金属膜の表面側あるいは透明基板の裏面側のいずれからでも行うことができるので、測定における自由度が高く、より高いS/Nで検出することが可能となる。
【0070】
図9は、上述の第3の実施形態の光電場増強デバイス3であるフローセルを備えたラマン分光装置120の概略構成を示す模式図である。
【0071】
図9に示すラマン分光装置120は、光電場増強基板1に代えてフローセル型の光電場増強試料セル3を備えた点で図7に示すラマン分光装置100と異なる。このようなフローセル型の光電場増強デバイスを備えることにより、被検体として液体試料を流下させつつラマン分光を測定することができる。
【0072】
なお、フローセル型のデバイス3の測定においても、金属膜表面側から励起光を入射し、金属膜表面側からラマン散乱光を検出する構成としてもよい。しかしながら、液体試料を流下させつつラマン散乱光を測定する際には、液体試料のラマン散乱光に対する透過率および吸収率が、液体試料の移動に伴い変動してしまう恐れがあることから、図9に示すように、基板30の裏面側からラマン散乱光を検出する構成とすることが好ましい。
【0073】
既述の通り、本発明の光電場増強デバイスは、プラズモン増強蛍光検出装置に適用することができる。その場合にも、光電場増強デバイスの金属膜上に被検体を載置し、この被検体側から励起光を照射し、被検体側から増強された蛍光を検出してもよいし、透明基板裏面側から励起光を照射し、該裏面側から蛍光を検出するようにしてもよい。あるいは被検体側から励起光を照射し、透明基板裏面側から蛍光を検出するよう構成してもよい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の光電場増強デバイスの第1の実施形態である光電場増強基板1の具体的な作製例および測定用サンプルを用いてラマン分光測定を行った結果を説明する。
【0075】
「光電場増強基板の作製方法」
透明基板本体11として、ガラス基板(BK−7;コーニング社製Eagle2000)を用いた。
純水で超音波洗浄(45kHz、3分)による基板洗浄を行った。
洗浄後のガラス基板11にスパッタ装置(キャノンアネルバ社製)を用いてアルミニウム20を50nm積層した。なお、表面形状測定器(TENCOR社製)を用いて、アルミニウム厚みを測定し、厚みは50nm(±10%)であることを確認した。
【0076】
その後、容器の中に純水を用意して、ホットプレート上に載置して、純水を沸騰させた。
沸騰水の中にアルミニウム20付きガラス基板11を浸水させて、5分間経過後に取り出した。この際、アルミニウム20付きガラス基板11を沸騰水に浸水させて1−2分程度でアルミニウムが透明化したことを確認した。この煮沸処理(ベーマイト処理)により、アルミニウム20はベーマイト層22となった。このベーマイト層22の表面を、SEM(日立製S4100)にて観察した結果は既述の図3に示した通りである。
最後に、ベーマイト層22の表面に金属膜24としてAuを40nm程度蒸着した。
【0077】
「ラマン散乱光の測定」
上記方法で作製した光電場増強基板上に被検体として色素(ローダミン6G)を固定した測定サンプルを用い、基板の表裏からラマン散乱光を測定した。
【0078】
(測定サンプルの作製方法)
図10を参照して測定サンプルの作製方法を説明する。
【0079】
上記光電場増強基板1の作製方法において、透明な微細凹凸構造層上に金属膜を蒸着形成する際に、透明基板の周縁にマスクをし、蒸着後にマスクを除去して作製した光電場増強基板を用いた。したがって、測定サンプル用の光電場増強基板においては、マスクされていた領域には金属膜が形成されていない。
【0080】
まず、図10左図に示すように、光電場増強基板1の、金膜24が形成されている領域および形成されていない領域に色素(ローダミンR6G)を含む溶液(R6G/エタノール:10mM)40を滴下した。
その後乾燥させることにより、図10右図に示すように、光電場増強基板1上の、金属膜24が形成されている領域および形成されていない領域に色素41が固着した測定サンプルを得た。
【0081】
(ラマン散乱光の測定方法)
この測定サンプルについて、図11に示す、ベーマイト表面側B_a、金膜表面側Au_a、金膜裏面側Au_b、金膜上の色素表面側SAu_a、金膜上の色素裏面側SAu_b、ベーマイト上の色素表面側S_a、ベーマイト上の色素裏面側S_bの計7つの測定箇所に対し、励起光を照射してそれぞれラマン散乱光を測定した。
【0082】
ラマン散乱光は、顕微ラマン分光装置(Raman5)を用いて検出した。例えば、金膜上の色素表面側の測定とは、金膜上の色素表面側から励起光を照射し、該金膜上の色素表面側からラマン散乱光を検出したものである。励起光としては、ピーク波長785nmのレーザ光を用い、倍率20倍で観測した。
【0083】
(測定結果)
図12は、顕微ラマン分光装置により検出された各箇所からのラマンシフトスペクトル分布を示すグラフである。
【0084】
ベーマイト表面側B_a、ベーマイト上に固着された色素表面側S_aおよび裏面側S_bからの検出では、ラマン散乱光による信号はほとんど検出されなかった。このように、金膜が備えられていない部分における信号は表裏共に極めて低いことが分かる。
【0085】
また、金膜上に色素が固着された箇所については、表面側SAu_aからの検出および裏面側SAu_bからの検出についていずれも高い強度のスペクトルが得られたが、いずれもバックグランドが高い。図中において、バックグランドと考えられる部分を破線で示している。このバックグラウンドを差し引いた信号が純粋なラマンシフト信号であると考えられる。ラマンシフト信号自体は、金膜上に色素表裏側SAu_a、SAu_bでほぼ同様箇所に同等の強度で検出された。
【0086】
従来、ラマン測定において、基板の裏面側からラマン信号を検出した例は皆無であり、本発明者は、本発明の光電場増強デバイスを用いた上記のラマン測定により、基板の裏面側からラマン信号を検出することができることを見出した。
【0087】
この測定結果から、金属微細凹凸構造に照射された光により生じる局在プラズモンにより増強された光電場が試料と相互作用を生じ、またさらに金属微細凹凸構造とラマン散乱光による何らかの相互作用により、裏面側からも表面側と同等程度の信号を得ることができたものと本発明者は推測している。
【0088】
本実施例においては、測定用サンプルにおいて被検体として乾燥して固着させた色素を用いており、被検体の厚みが非常に薄いものであったため、金膜上の色素表裏側での信号強度はほぼ同等であったが、細胞のような1μmオーダーの厚みを有する試料についてのラマン分光を行う場合などは、増強効果の高い金膜と試料との界面近傍における信号を裏面側から検出した方が有利であると考えられる。
【0089】
このような、基板の裏面側からのラマン信号の検出は、基板本体および微細凹凸構造が共に透明な透明基板を備えた本発明の光電場増強デバイスにより初めて達成することができたものである。従来の不透明な基板上に凹凸が備えられた構造や、透明基板上に凹凸が不透明な材料で形成されている構造の光電場増強基板では、ラマン光を基板の裏面側から検出することは困難である。
【0090】
従来は、金属凹凸構造の表面に生じた増強された光電場により増強されたラマン光を、基板の裏面側から検出できるとは考えられていなかったため、そもそも基板および凹凸構造を透明な材料により構成するという発想自体がなく、基板本体および微細凹凸構造全体を透明な材料から構成した増強ラマンデバイス(光電場増強基板)は皆無であった。
【0091】
以上の通り、本発明の光電場増強デバイスは、表面に透明な凹凸構造を備えた透明基板上に金属膜が形成されてなるものであり、透明基板の金属膜側からのみならず、透明基板の裏面から信号光を検出することが可能であるため、非常に有用である。
【符号の説明】
【0092】
1、2 光電場増強基板(光電場増強デバイス)
3 光電場増強試料セル(光電場増強デバイス)
10 透明基板
11、31 透明基板本体
20 アルミニウム
22、32 微細凹凸構造(ベーマイト層)
24、34 金属膜
35 液体試料保持部材
100、110、120 ラマン分光装置
140 励起光照射部
150 光検出部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に透明な微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該表面の微細凹凸構造表面に形成された金属膜とを備え、
該金属膜が形成された前記微細凹凸構造に照射された光により、前記金属膜の表面に誘起された局在プラズモンの光電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とする光電場増強デバイス。
【請求項2】
前記透明基板が、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する、該透明基板本体とは異なる物質により構成された微細凹凸構造層とからなるものであることを特徴とする請求項1記載の光電場増強デバイス。
【請求項3】
前記微細凹凸構造層が、ベーマイトからなるものであることを特徴とする請求項2記載の光電場増強デバイス。
【請求項4】
前記金属膜の膜厚が10〜100nmであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項5】
前記透明基板の裏面に、反射防止膜として機能する透明な第2の微細凹凸構造を備えてなることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項6】
前記第2の微細凹凸構造が、ベーマイトにより構成された微細凹凸構造層により構成されたものであることを特徴とする請求項5記載の光電場増強デバイス。
【請求項7】
前記透明基板の前記金属膜上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えたことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項8】
前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなることを特徴とする請求項7記載の光電場増強デバイス。
【請求項1】
表面に透明な微細凹凸構造を備えてなる透明基板と、該表面の微細凹凸構造表面に形成された金属膜とを備え、
該金属膜が形成された前記微細凹凸構造に照射された光により、前記金属膜の表面に誘起された局在プラズモンの光電場増強効果によって、該表面に増強された光電場を生ぜしめるものであることを特徴とする光電場増強デバイス。
【請求項2】
前記透明基板が、透明基板本体と、該透明基板本体の表面に備えられた前記微細凹凸構造を構成する、該透明基板本体とは異なる物質により構成された微細凹凸構造層とからなるものであることを特徴とする請求項1記載の光電場増強デバイス。
【請求項3】
前記微細凹凸構造層が、ベーマイトからなるものであることを特徴とする請求項2記載の光電場増強デバイス。
【請求項4】
前記金属膜の膜厚が10〜100nmであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項5】
前記透明基板の裏面に、反射防止膜として機能する透明な第2の微細凹凸構造を備えてなることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項6】
前記第2の微細凹凸構造が、ベーマイトにより構成された微細凹凸構造層により構成されたものであることを特徴とする請求項5記載の光電場増強デバイス。
【請求項7】
前記透明基板の前記金属膜上に液体試料を保持するための液体試料保持部材を備えたことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載の光電場増強デバイス。
【請求項8】
前記液体試料保持部材が、液体の流入部および流出部を備えてなることを特徴とする請求項7記載の光電場増強デバイス。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図1B】
【図2】
【図4A】
【図4B】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【公開番号】特開2012−63293(P2012−63293A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208983(P2010−208983)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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