説明

光電変換素子、半導体装置および電子機器

【課題】任意の形状の曲面上に光電変換素子を形成することが可能となるだけでなく、光電変換材料を複雑な化学合成を用いることなく簡単に構成することができ、光電流の双方向性も有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】金属などの導電材料からなる第1の電極11とこの第1の電極11上に固定された亜鉛チトクロムc12と金属などの導電材料からなる第2の電極13とにより光電変換素子を構成する。亜鉛チトクロムc12に光が照射されると素子内部を光電流が流れる。第1の電極11と第2の電極13との間の電位差、亜鉛チトクロムcに照射する光の強度および亜鉛チトクロムcに照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することにより光電流の大きさおよび/または極性を変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光電変換素子、半導体装置および電子機器に関し、特に、光電変換を行う受光部に光電変換および電子伝達タンパク質を用いた光電変換素子、半導体装置および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子としては、従来より、無機半導体を用いたものと有機半導体を用いたものとが知られている。
しかしながら、無機半導体を用いた従来の光電変換素子は、基板として平坦なものを用いなければならず、任意の形状の曲面上に素子を形成することは困難であった。また、有機半導体を用いた従来の光電変換素子は、任意の形状の曲面上に形成することは可能であるものの、有機半導体を得るために複雑な有機合成が必要であった。
【0003】
任意の形状の曲面上に形成することができる可能性を有する光電変換素子として蛍光タンパク質を用いたものがある。これに関し、最近、ナノポーラス酸化チタン(TiO2 )電極に亜鉛チトクロムc(Zn cytochrome c)をランダムに吸着させた試料において、亜鉛チトクロムcへの光照射によって励起された電子がTiO2 の伝導帯に注入されることで光電流が発生することが報告されている(非特許文献1参照。)。
また、金基板上に固定化された鉄チトクロムc(Fe cytochrome c)と緑色蛍光タンパク質(green fluorescent protein,GFP)との二層構造の単分子膜において、光照射によって光電流が発生することが報告されている(非特許文献2参照。)。
なお、金基板上に固定化されたペプチドの単分子膜において、光照射によって光電流が発生することが報告されている(非特許文献3参照。)。この非特許文献3では、互いに光応答性が異なる2種のペプチドを一つの金基板上に硫黄化合物であるジスルフィドの単分子膜を介して固定化することにより、光電流の極性を照射光の波長によって制御している。
また、亜鉛チトクロムcの合成方法が報告されている(非特許文献4参照。)。
また、鉄チトクロムcを単分子吸着させた金電極の作製方法が報告されている(非特許文献5参照。)。
【0004】
【非特許文献1】Emmanuel Topoglidis, Colin J. Campbell, Emilio Palomares, and James R. Durrant, Chem. Commun. 2002, 1518-1519
【非特許文献2】Jeong-Woo Choi and Masamichi Fujihira, Appl. Phys. Lett. 84, 2187-2189 (2004)
【非特許文献3】Shiro Yasutomi, Tomoyuki Morita, Yukio Imanishi, Shunsaku Kimura, Science 304, 1944-1947 (2004)
【非特許文献4】Martin Braun, Stefan Atalick, Dirk M. Guldi, Harald Lanig, Michael Brettreich, Stephan Burghardt, Maria Hatzimarinaki, Elena Ravanelli, Maurizio Prato, Rudi van Eldik, and Andreas Hirsch, Chem. Eur. J. 9 , 3867-3875 (2003)
【非特許文献5】Ryutaro Tanimura, Michael G. Hill, Emanuel Margoliash, Katsumi Niki, Hiroyuki Ohno, and Harry Gray, Electrochem. Solid-State Lett. 5, E67-E70 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1において光電流が観測されるのは、電荷分離機能を有するTiO2 電極に亜鉛チトクロムcを吸着させていることによると考えられるが、TiO2 は抵抗率が極めて高い絶縁体であるため、光電流を外部に有効に取り出すことは困難であり、この構成は光電変換素子に不向きである。
また、非特許文献2においては光電流の検出に走査型トンネル顕微鏡を用いており、光電変換素子の具体的構成については開示されていない。また、光電流に双方向性は見出されていない。
【0006】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、任意の形状の曲面上に光電変換素子を形成することが可能となるだけでなく、光電変換材料を複雑な化学合成を用いることなく簡単に構成することができ、光電流の双方向性も有する光電変換素子、この光電変換素子を用いた半導体装置および電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、走査型トンネル顕微鏡を用いることなく、亜鉛チトクロムcが単分子吸着している金の球状電極とこれに対向する電極とを有する構成において、亜鉛チトクロムcの光励起に伴う光電流の観測に初めて成功した。この場合、球状電極−対向電極間の電位差と球状電極上の亜鉛チトクロムcへの照射光強度とを調節することによって、光電流の極性(流れる方向)と大きさとの両方を制御することが可能であることを見出した。ここで、球状電極−対向電極間の電位差とは、電圧印加によって人為的に作り出すバイアス電圧と、球状電極と対向電極との自然電極電位の差との両方の意味を含む。また、暗電流が定常的に生じている場合、光照射によってこの電流の極性を反転させることが可能であることも見出した。さらに、以上のことは、亜鉛チトクロムc以外の光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質においても同様に成立すると考えられる。
この発明は、本発明者らによる上記の研究結果に基づいてさらに検討を行った結果、案出されたものである。
【0008】
すなわち、上記課題を解決するために、第1の発明は、
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体と導電材料からなる第2の電極とを有することを特徴とする光電変換素子である。
図1AおよびBに亜鉛チトクロムcのリボンモデル図を示す。図1Aはアミノ酸側鎖も示したもの、図1Bはアミノ酸側鎖を省略したものである。この亜鉛チトクロムcの中心にあるポルフィリンには中心金属として亜鉛が配位しており、光吸収や光誘起電子移動反応の中心となるものである。この亜鉛チトクロムcのうちポルフィリンを取り巻くタンパク質部分は絶縁体である。したがって、この亜鉛チトクロムcは、電子移動の反応中心としてのポルフィリンが薄い絶縁体により挟まれた構造を有し、一種の二重トンネル接合素子とみなすことができる。あるいは、この亜鉛チトクロムcは、ポルフィリンの周囲が薄い絶縁体により取り囲まれた構造を有するため、一種の量子ドットとみなすこともでき、この量子ドットを一次元的、二次元的または三次元的に配置することにより量子ドット集合素子を得ることができる。亜鉛チトクロムcは可視光領域にソーレー帯(Soret band)およびQ帯と呼ばれる特徴的な吸収ピークを有し、可視光により光励起することが可能である。
【0009】
亜鉛チトクロムcの誘導体は、亜鉛チトクロムcの骨格のアミノ酸残基が化学修飾されたものである。亜鉛チトクロムcの変異体は、亜鉛チトクロムcの骨格のアミノ酸残基の一部が他のアミノ酸残基に置換されたものである。
亜鉛チトクロムcに対して鉄チトクロムcなどの他の電子伝達タンパク質を一つまたは複数結合させることにより、亜鉛チトクロムcにおいて光励起により発生した電子をこれらの電子伝達タンパク質間を順次トンネル効果により伝達させてその末端まで伝達させることが可能である。この場合、亜鉛チトクロムcに結合した電子伝達タンパク質は配線として働く。亜鉛チトクロムcにDNA配線を接続するようにしてもよい。
【0010】
亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体(以下においては特に断らない限り単に「亜鉛チトクロムc」という)は、電子伝達機能に加えて光電変換機能を有するため、光励起により電子を発生させることができ、この電子を速やかに外部に伝導させることができることにより光電流を得ることができる。
亜鉛チトクロムcは、導電材料からなる第1の電極上に、少なくとも1分子、一般的には単分子膜または多分子膜として固定され、例えば静電的結合や化学結合などにより固定される。基板上に第1の電極を互いに分離して複数設け、これらのそれぞれに一つまたは複数の亜鉛チトクロムcを固定するようにしてもよい。この亜鉛チトクロムcの第1の電極上への固定は直接的に行ってもよいし、例えば硫黄原子などのヘテロ原子を有する有機化合物などからなる中間層を介して間接的に行ってもよい。この中間層としては、亜鉛チトクロムcの光励起により発生した電子が第1の電極に移動した後、この電子が再び亜鉛チトクロムcに戻る現象、すなわち逆電子移動を防止することができるもの、言い換えると整流性を有するものを用いるのが好ましい。このような中間層としては、例えば、硫黄化合物であるジスルフィドの単分子膜が挙げられる(非特許文献3参照。)。第1の電極に用いる導電材料は、この第1の電極上に亜鉛チトクロムcを直接固定する場合にはこの固定化能に優れたものであることが望ましく、中間層を介して固定する場合にはこの中間層の固定化能に優れたものであることが望ましい。具体的には、この導電材料としては、例えば、金属、導電性ガラス、導電性酸化物、導電性高分子などを用いることができる。第1の電極の表面形状は、例えば凹面、凸面、凹凸面などの任意の形状であってよく、いずれの形状の面にも容易に亜鉛チトクロムcを固定することが可能である。第2の電極の導電材料としても、第1の電極に用いる導電材料と同様なものを用いることができる。第1の電極および第2の電極の少なくとも一方を通して光を入射させる場合、これらの第1の電極および第2の電極の少なくとも一方は可視光に対して透明に構成される。
【0011】
この光電変換素子は、亜鉛チトクロムcの光電変換機能および電子伝達機能を損なわない限り、溶液(電解質溶液)中、ドライな環境中のいずれでも動作させることが可能である。電解質溶液中で動作させる場合には、典型的には、第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムcに対して間隔を空けて対向するように第2の電極が設けられ、これらの第1の電極および第2の電極が電解質溶液中に浸漬される。この電解質溶液の電解質(あるいはレドックス種)としては、第1の電極で酸化反応が起こり、第2の電極で還元反応が起こるもの、または、第1の電極で還元反応が起こり、第2の電極で酸化反応が起こるものが用いられる。具体的には、電解質(あるいはレドックス種)としては、例えば、K4 [Fe(CN)6 ]や[Co(NH3 6 ]Cl3 などが用いられる。ドライな環境中で動作させる場合には、典型的には、例えば、亜鉛チトクロムcを吸着しない固体電解質、具体的には例えば寒天やポリアクリルアミドゲルなどの湿潤な固体電解質が、第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムcと第2の電極との間に挟み込まれ、好適にはこの固体電解質の周囲にこの固体電解質の乾燥を防ぐための封止壁が設けられる。これらの場合においては、第1の電極と第2の電極との自然電極電位の差に基づいた極性で、亜鉛チトクロムcからなる受光部で光を受光したときに光電流を得ることができる。
【0012】
この光電変換素子を電解質溶液中で動作させる場合、亜鉛チトクロムcを固定する第1電極の材料として多孔体導電材料を用いることもできる。この多孔体導電材料は比表面積が大きいため、電極全体の表面積を極めて大きくすることができ、この多孔体導電材料の表面に亜鉛チトクロムcを固定することにより、亜鉛チトクロムcを三次元的に高密度に固定することができ、その分多くの光電流を得ることができる。多孔体導電材料は、具体的には、金属材料(金属または合金)や、骨格を強固にした(もろさを改善した)カーボン系材料などを用いることができる。多孔体導電材料として金属材料を用いる場合、例えば、ニッケル、銅、銀、金、ニッケル−クロム合金、ステンレス鋼などの発泡金属あるいは発泡合金は入手しやすい材料の一つである。この多孔体導電材料の多孔率および孔径(孔の最小径)は、亜鉛チトクロムcの大きさを考慮し、好適にはさらに光の入射方向から見て電極の最深部に光が到達することができるように適宜決められるが、孔径は一般的には10nm〜1mm、典型的には10nm〜600μmである。この多孔体導電材料は、孔が全て互いに連通するようにするのが望ましい。
【0013】
この光電変換素子においては、第1の電極と第2の電極との間の電位差、亜鉛チトクロムcに照射する光の強度および亜鉛チトクロムcに照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することにより、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。ここで、第1の電極と第2の電極との間の電位差とは、電圧印加によって人為的に作り出すバイアス電圧と、第1の電極と第2の電極との自然電極電位の差との両方の意味を含む。
この光電変換素子は、例えば光検出器(光センサー)に用いることができ、必要に応じて光電流の増幅回路などを併せて用いることができる。光検出器は光信号の検出などの各種の用途に用いることができ、人工網膜などに応用することも可能である。この光電変換素子は、太陽電池として用いることも可能である。
この光電変換素子は、光電変換を利用する各種の装置や機器などに用いることができ、具体的には、例えば、受光部を有する電子機器などに用いることができる。
【0014】
第2の発明は、
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を有することを特徴とする半導体装置である。
この半導体装置において、光電変換素子は半導体基板上に固定される。この半導体基板上には、典型的には、光電変換素子から取り出される光電流を増幅したりする半導体素子や電子回路などが従来公知の半導体テクノロジーにより形成される。半導体基板は、Siなどの元素半導体からなる半導体基板であっても、GaAsなどの化合物半導体からなる半導体基板であってもよい。この半導体装置は、例えば光電子集積回路装置として構成することができる。この光電子集積回路装置においては、例えば、半導体基板上に光電変換素子に加えて、半導体レーザや発光ダイオードなどの発光素子や電子回路などが形成される。この場合、発光素子からの光を光電変換素子に入射させるようにしてもよい。
この半導体装置の機能や用途は問わないが、具体的には、光検出器、光信号処理装置、撮像素子(MOSイメージセンサー、電荷転送素子(CCD)など)などである。
第2の発明においては、上記以外のことは、その性質に反しない限り、第1の発明に関連して説明したことが成立する。
【0015】
第3の発明は、
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質と導電材料からなる第2の電極とを有することを特徴とする光電変換素子である。
第4の発明は、
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を有することを特徴とする半導体装置である。
【0016】
第3および第4の発明において、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質としては、亜鉛チトクロムcなどのチトクロムcのほか、フェレドキシン、ルブレドキシン、プラストシアニン、アズリン、シュードアズリン、ステラシアニンなどが挙げられる。
第3および第4の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1および第2の発明に関連して説明したことが成立する。
【0017】
第5の発明は、
一つまたは複数の光電変換素子を有する電子機器において、
少なくとも一つの上記光電変換素子として、導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を用いる
ことを特徴とするものである。
【0018】
第6の発明は、
一つまたは複数の光電変換素子を有する電子機器において、
少なくとも一つの上記光電変換素子として、導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を用いる
ことを特徴とするものである。
【0019】
第5および第6の発明による電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、デジタルカメラ、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)などである。
第5および第6の発明においては、上記以外のことについては、その性質に反しない限り、第1〜第4の発明に関連して説明したことが成立する。
【0020】
上述のように構成されたこの発明においては、亜鉛チトクロムcなどの光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質は、ウェットプロセスを用いることにより、曲面などの任意の表面形状の第1の電極上に簡単に固定することができる。また、この光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質は、天然由来のタンパク質を原料として用いることにより、必要な合成反応を最小限に抑えることができ、有機半導体のような複雑な化学合成を用いることなく簡単に得ることができる。さらに、この構成では、第1の電極と第2の電極との間の電位差、亜鉛チトクロムcに照射する光の強度および亜鉛チトクロムcに照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することにより、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、任意の形状の曲面上に光電変換素子を形成することが可能となるだけでなく、光電変換材料として用いられる光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質は複雑な化学合成を用いることなく簡単に構成することができ、光電流の双方向性なども有する新規な光電変換素子およびこの光電変換素子を用いた半導体装置を得ることができ、この光電変換素子を受光部に用いた電子機器を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図2にこの発明の第1の実施形態による光電変換素子を示す。図2に示すように、この光電変換素子においては、導電材料からなる電極11上に、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の単分子膜または多分子膜が、直接的または中間層を介して間接的に固定されている。図2では電極11は平坦な表面形状を有するように描かれているが、電極11の表面形状は任意であり、凹面、凸面、凹凸面などのいずれであってもよい。電極11上に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の単分子膜または多分子膜に対して間隔を空けて対向するように導電材料からなる電極13が設けられている。これらの電極11、13は、容器14中に入れられた電解質溶液15中に浸漬されている。電解質溶液15は、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の機能を損なわないものが用いられる。また、この電解質溶液15の電解質(あるいはレドックス種)は、電極11で酸化反応が起こり、電極13で還元反応が起こるもの、または、電極11で還元反応が起こり、電極13で酸化反応が起こるものが用いられる。
【0023】
この光電変換素子により光電変換を行うには、バイアス電源16により参照電極17に対して電極11にバイアス電圧を印加した状態で、電極11に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12に光を照射する。この光は、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の光励起が可能な波長を有し、通常は可視光である。この場合、電極11に印加するバイアス電圧、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。光電流は端子18a、18bより外部に取り出される。
【0024】
光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12としては、すでに挙げたものを用いることができる。
電極11、13を構成する導電材料は、すでに挙げたものを用いることができ、必要に応じて適宜選ばれるが、具体的には、例えば、金、白金、銀などの金属、ITO(インジウム−スズ複合酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ネサガラス(SnO2 ガラス)などの金属酸化物あるいはガラスなどに代表される無機材料のほか、導電性高分子(ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンスルフィドなど)、テトラチアフルバレン誘導体(TTF、TMTSF、BEDT−TTFなど)を含む電荷移動錯体(例えば、TTF−TCNQなど)などを用いることができる。電極11上に固定された、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の全部またはほぼ全部に光が照射されるようにするために、好適には、これらの電極11、13の少なくとも一方は、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の光励起に用いられる光(通常、可視光)に対して透明な導電性材料、例えばITO、FTO、ネサガラスなどにより構成される。
【0025】
〈実施例〉
1.試料の作製
高純度の金線の一端をバーナーで融かして直径数mmのドロップ状の形状にしたものを電極11に用いた。このドロップ状の金を10−カルボキシ−1−デカンチオール(HS(CH2 10COOH)のエタノール溶液に浸すことによって、HS(CH2 10COOHの自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer,SAM)を中間層としてドロップ状の金表面上に形成した。こうして得られたSAM電極を亜鉛チトクロムcの10mM
Tris−HClバッファー溶液(pH8.0)に浸すことによって、ドロップ状の金表面上にHS(CH2 10COOHと亜鉛チトクロムcとが吸着した二層構造のSAM電極を作製した。以下において、この二層構造のSAM電極を亜鉛チトクロムc電極と呼ぶ。この亜鉛チトクロムc電極を図3に示す。なお、亜鉛チトクロムcの合成は非特許文献4に従った。また、亜鉛チトクロムc電極の作製は非特許文献2における鉄チトクロムc電極の作製方法に倣った。
【0026】
2.測定準備
亜鉛チトクロムc電極の表面に満遍なく単色光を照射することができ、さらに光照射のタイミングをシャッターの開閉によって制御できるような光学実験系を整えた。そして、亜鉛チトクロムc電極を作用極、銀線を参照電極、白金線を対極としてポテンショスタットに接続し、これらの電極を、2.5mM K4 [Fe(CN)6 ]を含む10mMリン酸バッファー水溶液(pH7.0)に浸した。この実験系を図4に示す。図4において、符号21は光源としてのXeランプ(150W)、22はXeランプ21の発光スペクトルのうちの可視光線を効率よく透過して熱線を反射するコールドフィルター(cold filter)、23は集光レンズ、24は光の透過/非透過を制御するシャッター(0.5Hz)、25は集光レンズ、26はシャッター24を通過した光を所望の波長に単色化するモノクロメーター、27は集光レンズ、28は容器、29はK4 [Fe(CN)6 ]を含むリン酸バッファー水溶液、30は作用極としての亜鉛チトクロムc電極、31は参照電極としての銀線、32は対極としての白金線、33はモノクロメーター26で単色化された光を反射するAlミラー、34はポテンショスタットを示す。シャッター24の開閉およびモノクロメーター26により単色化される光の波長はコンピュータ35により制御することができるようになっている。
【0027】
3.光電流の観察
シャッター24を閉じながら亜鉛チトクロムc電極30に銀線31に対して+313mVのバイアス電圧を印加し、その状態のまま60秒間静置した。このとき、暗電流が徐々に減少した。次に、シャッター24を開いて波長380nmの光を1秒間照射し、再びシャッター24を閉じて1秒間休止した。その後、波長381nmの光を1秒間照射し、1秒間休止、波長382nmの光を1秒間照射し1秒間休止、という具合に光の照射と休止とを1秒毎に繰り返しながら光の波長を1nmずつ掃引した。このような間欠的な光照射の過程における電流値の時間変化を計測した結果、照射光のオン/オフに同期するパルス状の電流変化、すなわち光電流が観察された。その結果を図5に示す。
上記の測定によって得られた個々のパルスにおいて、その立ち上がり幅と立ち下がり幅との平均値を求め、これを光電流値とし、各波長における光電流値をプロットして光電流作用スペクトルを得た(図6)。得られた光電流作用スペクトルは亜鉛チトクロムcの吸収スペクトルの相似形であり、このことから、この光電流が亜鉛チトクロムcの光励起に伴うものであることが確認された。
図7は得られた光電流作用スペクトルを入射光の強度を一定として補正したもの、図8は得られた光電流作用スペクトルを入射フォトン数を一定として補正したものを示す。
【0028】
4.光電流の方向および大きさの制御
図9に示すように、亜鉛チトクロムc電極30に印加するバイアス電圧を調節することによって、光電流の極性(流れる方向)と大きさとの両方を制御することが可能であった。
5.光照射による定常電流方向の反転
図10に示すように、亜鉛チトクロムc電極30に印加するバイアス電圧を、暗所にて極めて微弱な負の電流が得られるようなバイアス電圧(ここでは+23mVvs.Ag)に設定したとき、光照射によってこの電流の極性を反転させることが可能であった。
【0029】
以上のように、この第1の実施形態によれば、亜鉛チトクロムcなどの光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12を光電変換材料に用いた新規な光電変換素子を実現することができる。この光電変換素子によれば、電極11に印加するバイアス電圧、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができるので、様々な応用が可能である。この光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12は簡単に合成することができ、有機半導体のような複雑な化学合成が不要であるので、光電変換素子を製造する上で有利である。また、電極11の表面形状を任意に選ぶことができるので、光電変換素子の構造を設計する際の自由度が高い。
【0030】
次に、この発明の第2の実施形態による光電変換素子について説明する。この光電変換素子は、第1の実施形態による光電変換素子と同様に、電解質溶液中で動作させるものである。
図11にこの光電変換素子を示す。図11に示すように、この光電変換素子においては、第1の実施形態による光電変換素子のようにバイアス電源16を用いてバイアス電圧を発生させるのではなく、電極11、13が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用いる。この場合、参照電極17は用いる必要がない。したがって、この光電変換素子は、電極11、13を用いる二電極系である。
上記以外のことは第1の実施形態と同様である。
【0031】
この光電変換素子について、参照電極としての銀線31を用いないことを除いて第1の実施形態で述べた実施例と同様の条件で光電流の測定を行ったところ、得られた光電流作用スペクトルに上記実施例と同様にソーレー帯およびQ帯が観察され、観察された光電流が確かに亜鉛チトクロムcの光励起に伴うものであることが確認された。この二電極系の光電変換素子における状態の遷移および電子の流れを図12に示す。図12中のPは亜鉛チトクロムcを示す。
さらに、参照電極としての銀線31を用いず、かつ対極としての白金線32の代わりにITO基板を用いたことを除いて第1の実施形態で述べた実施例と同様の条件で光電流の測定を行ったところ、得られた光電流作用スペクトルに上記実施例と同様にソーレー帯およびQ帯が観察され、観察された光電流が確かに亜鉛チトクロムcの光励起に伴うものであることが確認された。
この第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0032】
次に、この発明の第3の実施形態による光電変換素子について説明する。第1および第2の実施形態による光電変換素子が溶液中で動作させるものであるのに対し、この光電変換素子はドライな環境中で動作させることができるものである。
図13はこの光電変換素子を示す。図13に示すように、この光電変換素子においては、電極11上に光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の単分子膜または多分子膜が、直接的または中間層を介して間接的に固定されており、この光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の単分子膜または多分子膜と電極13との間に固体電解質19が挟み込まれており、さらに固体電解質19の周囲を取り巻くように、固体電解質19の乾燥を防ぐための封止壁20が設けられている。固体電解質19としては、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の機能を損なわないものが用いられ、具体的には、タンパク質を吸着しない寒天やポリアクリルアミドゲルなどが用いられる。電極11、13の少なくとも一方は、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の光励起に用いられる光に対して透明な導電性材料、例えばITO、FTO、ネサガラスなどにより構成される。
【0033】
この光電変換素子により光電変換を行うには、電極11、13が持つ自然電極電位の差をバイアス電圧として用い、電極11に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12に光を照射する。この光は、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の光励起が可能な波長を有するものである。この場合、電極11、13が持つ自然電極電位の差、照射する光の強度および照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することによって、素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることができる。
上記以外のことは第1の実施形態と同様である。
この第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な利点を得ることができる。
【0034】
次に、この発明の第4の実施形態による光電変換素子について説明する。
この光電変換素子は、電極11の材料に多孔体導電材料を用いることを除いて、第1の実施形態による光電変換素子と同様な構成を有する。
図14はこの多孔体導電材料41の構造を模式的に示す。図14に示すように、この多孔体導電材料41は三次元網目状構造を有し、網目に相当する多数の孔42を有する。この場合、これらの孔42同士は互いに連通しているが、必ずしも全ての孔42同士が連通していなくてもよい。この多孔体導電材料41としては、好適には、発泡金属あるいは発泡合金、例えば発泡ニッケルが用いられる。この多孔体導電材料41の多孔率は一般的には80%以上、より一般的には90%以上であり、孔42の径は、一般的には例えば10nm〜1mm、より一般的には10nm〜600μm、さらに一般的には1〜600μm、典型的には30〜400μm、より典型的には80〜230μmであるが、これに限定されるものではない。
図15に示すように、この多孔体導電材料41の表面に、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の単分子膜または多分子膜を、直接的または中間層を介して間接的に固定する。この状態の多孔体導電材料41の骨格の断面図を図16に示す。
【0035】
この第4の実施形態によれば、発泡金属あるいは発泡合金などからなる多孔体導電材料41は、孔42の径が十分に大きく、粗な三次元網目状構造を有しながら、高強度でしかも高い導電性を有し、必要十分な表面積を得ることができる。このため、電極11をこの多孔体導電材料41を用いて構成し、この多孔体導電材料41の表面に光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の単分子膜または多分子膜を固定することにより、この光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12を三次元的に高密度に固定化することでができるので、第1の実施形態と同様な利点に加えて、光電変換素子の光電変換効率の大幅な向上を図ることができるという利点を得ることが可能である。
【0036】
次に、この発明の第5の実施形態による光検出器について説明する。
図17はこの光検出器を示す回路図である。図17に示すように、この光検出器は、第1〜第4の実施形態のいずれかによる光電変換素子からなるフォトダイオード51と、このフォトダイオード51の出力を増幅するための単一電子トランジスタ52とにより構成されている。単一電子トランジスタ52はドレイン側の微小トンネル接合J1 とソース側の微小トンネル接合J2 とにより構成されている。これらの微小トンネル接合J1 、J2 の容量をそれぞれC1 、C2 とする。例えば、フォトダイオード51の電極13は負荷抵抗RL を介して接地されており、その電極11はフォトダイオード52をバイアスするための正電圧VPDを供給する正極電源に接続されている。一方、単一電子トランジスタ52のソースは接地されており、そのドレインは出力抵抗Rout を介して正電圧Vccを供給する正極電源に接続されている。そして、フォトダイオード51の電極13と単一電子トランジスタ52のゲートとが容量Cg を介して互いに接続されている。
【0037】
上述のように構成されたこの光検出器においては、フォトダイオード51に光が照射されて光電流が流れたときに負荷抵抗RL の両端に発生する電圧により容量Cg が充電され、この容量Cg を介して単一電子トランジスタ52のゲートにゲート電圧Vg が印加される。そして、この容量Cg に蓄積された電荷量の変化ΔQ=Cg ΔVg を測定することによりゲート電圧Vg の変化ΔVg を測定する。ここで、フォトダイオード51の出力を増幅するために用いられている単一電子トランジスタ52は、従来のトランジスタの例えば100万倍もの感度で、容量Cg に蓄積された電荷量の変化ΔQ=Cg ΔVg を測定することができることができるものである。すなわち、単一電子トランジスタ52は微小なゲート電圧Vg の変化ΔVg を測定することができるため、負荷抵抗RL の値を小さくすることができる。これによって、光検出器の大幅な高感度化および高速化を図ることができる。また、単一電子トランジスタ52側では帯電効果により熱雑音が抑制されるので、増幅回路側で発生する雑音を抑制することができる。さらに、単一電子トランジスタ52はその基本動作において一個の電子のトンネル効果しか用いないので、極めて低消費電力である。
この光検出器においては、上述のようにフォトダイオード51と単一電子トランジスタ52とは容量結合されている。このときの電圧利得はCg /C1 で与えられるため、微小トンネル接合J1 の容量C1 を十分に小さくしておくことにより、この光検出器の次段に接続される素子を駆動するのに十分な大きさの出力電圧Vout を得ることができる。
【0038】
次に、この光検出器の具体的な構造例について説明する。
この例では、単一電子トランジスタ52が金属/絶縁体接合により構成されたものであり、フォトダイオード51が第2の実施形態による光電変換素子により構成されたものである。
図18はこの光検出器の平面図である。また、図19はこの光検出器におけるフォトダイオード51の部分の断面図、図20はこの光検出器における単一電子トランジスタ52の部分の断面図である。
【0039】
図18、図19および図20に示すように、この光検出器においては、例えば半導体基板のような基板61上に、例えばSiO2 膜、SiN膜、ポリイミド膜のような絶縁膜62が設けられている。フォトダイオード51の部分における絶縁膜62には開口62aが設けられている。そして、この開口62aの内部の基板61上に電極11が設けられ、この電極11上に光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の単分子層が直接的または間接的に固定され、その上に電極13が設けられている。この場合、光はこの電極13を透過して受光されるので、この電極13は、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12の光励起に用いられる光に対して透明に構成されている
【0040】
一方、単一電子トランジスタ52の部分においては、絶縁膜62上にソース電極63およびドレイン電極64が互いに対向して設けられている。そして、これらのソース電極63およびドレイン電極64のそれぞれの一端部と部分的に重なるようにゲート電極65が形成されている。ここで、少なくともこのゲート電極65が重なっている部分のソース電極63およびドレイン電極64の表面には例えば膜厚が0.数nm〜数nmの絶縁膜66が形成されており、したがってゲート電極65はこの絶縁膜66を介してソース電極65およびドレイン電極66のそれぞれの一端部と部分的に重なっている。この重なり部の大きさは、典型的には、数100nm×数100nm以下である。この場合、ゲート電極65とソース電極63とが絶縁膜66を介して重なった部分がそれぞれ図15および図16における微小トンネル接合J1 、J2 に対応する。これらのゲート電極65、ソース電極63およびドレイン電極64は、例えばAl、In、Nb、Au、Ptなどの金属からなる。
図示は省略するが、必要に応じて、フォトダイオード51および単一電子トランジスタ52を覆うように全面にパッシベーション膜が設けられる。
【0041】
この場合、フォトダイオード51の電極13の一端部は、単一電子トランジスタ52のゲート電極65と近接している。そして、パッシベーション膜が設けられていない場合には、電極13の一端部とゲート電極65との間に空気層がはさまれた構造のキャパシタが形成され、それによってこの電極13とゲート電極65とが容量結合される。また、パッシベーション膜が設けられる場合には、電極13の一端部とゲート電極65との間にこのパッシベーション膜がはさまれた構造のキャパシタが形成され、それによってこの電極13とゲート電極65とが容量結合される。
以上のように、この第5の実施形態によれば、単一電子トランジスタ52によりフォトダイオード51の出力を増幅するように構成されているので、従来の通常のトランジスタによりフォトダイオードの出力を増幅する従来の一般的な光検出器に比べて、光検出の大幅な高速化、高感度化および低消費電力化を図ることができる。
【0042】
次に、この発明の第6の実施形態によるCCDイメージセンサーを示す。このCCDイメージセンサーは、受光部、垂直レジスタおよび水平レジスタを有するインタライン転送方式のものである。
図21にこのCCDイメージセンサーの受光部およびこの受光部の近傍の垂直レジスタの断面構造を示す。図21に示すように、p型Si基板71(あるいはn型Si基板に形成されたpウエル層)上にゲート絶縁膜72が形成され、このゲート絶縁膜72上に読み出しゲート電極73が形成されている。この読み出しゲート電極73の両側の部分のp型Si基板71中にn型層74および垂直レジスタを構成するn型層75が形成されている。n型層74上の部分のゲート絶縁膜72には開口72aが形成されている。そして、この開口72aの内部のn型層74上に、例えば第3の実施形態による光電変換素子が受光部76として形成されている。このCCDイメージセンサーの上記以外の構成は、従来公知のインタライン転送方式のCCDイメージセンサーの構成と同様である。
【0043】
このCCDイメージセンサーにおいては、光電変換素子の電極13に対して電極11を正の電圧にバイアスしておく。受光部76において光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12に光が入射すると光励起により発生した電子がn型層74に流れ込む。次に、垂直レジスタを構成するn型層75にn型層74より高い電圧を印加した状態で読み出しゲート電極73に正電圧を印加することによりこの読み出しゲート電極73の直下のp型Si基板71にn型チャネルを形成し、このn型チャネルを通してn型層74の電子をn型層75に読み出す。この後、こうして読み出された電荷は垂直レジスタ内を転送され、さらに水平レジスタを転送され、出力端子から撮像された画像に対応する電気信号が取り出される。
この第6の実施形態によれば、受光部76に光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12を用いた新規なCCDイメージセンサーを実現することができる。
【0044】
次に、この発明の第7の実施形態によるインバータ回路を示す。
このインバータ回路を図22に示す。図22に示すように、このインバータ回路においては、第1〜第4の実施形態のいずれかによる光電変換素子と同様な構成の光電変換素子81と負荷抵抗RL とが直列に接続されている。ここで、負荷抵抗RL は電極11と接続されている。負荷抵抗RL の一端に所定の正の電源電圧VDDが印加されるとともに、電極13が接地される。光電変換素子81の光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12に信号光として例えば可視光を照射すると光電変換素子81がオンして光電流が流れることにより電極11からの出力電圧Vout はローレベルとなり、可視光の照射を止めると光電変換素子81がオフして光電流が流れなくなることにより電極11からの出力電圧Vout はハイレベルとなる。
【0045】
このインバータ回路の構造例を図23に示す。図23に示すように、この構造例においては、p型Si基板91(あるいはn型Si基板に形成されたpウエル層)中に負荷抵抗RL として用いられるn型層92が形成されている。p型Si基板91の表面には例えばSiO2 膜のような絶縁膜93が形成されている。この絶縁膜93には、n型層92の一端部および他端部に開口93a、93bが形成されている。開口93aの内部のn型層92上に光電変換素子81が形成されている。開口93bを通じて電極94がn型層92とオーミックコンタクトしている。このp型Si基板91には、必要に応じて、上記のインバータ回路に加えて、出力電圧Vout により駆動される各種の電子回路(増幅回路など)を形成することができる。
この第7の実施形態によれば、光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質12を用いた光電変換素子81と負荷抵抗RL とによりインバータ回路を構成することができることにより、このインバータ回路を用いて論理回路などの各種の回路を構成することができる。
【0046】
以上、この発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】亜鉛チトクロムcの分子構造を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施形態による光電変換素子を示す略線図である。
【図3】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価に用いた亜鉛チトクロムc担持ドロップ状金電極を示す図面代用写真である。
【図4】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価システムを示す略線図である。
【図5】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図6】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図7】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図8】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図9】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図10】この発明の第1の実施形態による光電変換素子の評価結果を示す略線図である。
【図11】この発明の第2の実施形態による光電変換素子を示す略線図である。
【図12】この発明の第2の実施形態による光電変換素子の一つの実施例における状態の遷移および電子の流れを示す略線図である。
【図13】この発明の第3の実施形態による光電変換素子を示す略線図である。
【図14】この発明の第4の実施形態による光電変換素子において亜鉛チトクロムcが固定される電極の材料として用いられる多孔体電極材料を示す略線図である。
【図15】この発明の第4の実施形態による光電変換素子において亜鉛チトクロムcが固定された多孔体電極材料を示す略線図である。
【図16】この発明の第4の実施形態による光電変換素子において亜鉛チトクロムcが固定された多孔体電極材料の骨格を示す断面図である。
【図17】この発明の第5の実施形態による光検出器を示す回路図である。
【図18】この発明の第5の実施形態による光検出器の構造例を示す平面図である。
【図19】この発明の第5の実施形態による光検出器の構造例を示す断面図である。
【図20】この発明の第5の実施形態による光検出器の構造例を示す断面図である。
【図21】この発明の第6の実施形態によるCCDイメージセンサーを示す断面図である。
【図22】この発明の第7の実施形態によるインバータ回路を示す回路図である。
【図23】この発明の第7の実施形態によるインバータ回路の構造例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0048】
11…電極、12…光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質、13…電極、14…容器、15…電解質溶液、16…バイアス電源、17…参照電極、41…多孔体導電材料、42…孔、51…フォトダイオード、52…単一電子トランジスタ、71…p型Si基板、73…読み出しゲート電極、74、75…n型層、76…受光部、81…光電変換素子、91…p型Si基板、92…n型層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体と導電材料からなる第2の電極とを有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
上記亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体の単分子膜または多分子膜が上記第1の電極上に固定されていることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
上記第2の電極は上記第1の電極上に固定された上記亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体に対して間隔を空けて対向するように設けられており、上記第1の電極および上記第2の電極が電解質溶液中に浸漬されていることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項4】
上記第1の電極および上記第2の電極の少なくとも一方は可視光に対して透明であることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項5】
上記第1の電極上に固定された上記亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体と上記第2の電極との間に固体電解質が挟み込まれていることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項6】
上記固体電解質は上記亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体を吸着しないものであることを特徴とする請求項5記載の光電変換素子。
【請求項7】
上記第1の電極と上記第2の電極との間の電位差、上記亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体に照射する光の強度および上記亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体に照射する光の波長のうちの少なくとも一つを調節することにより素子内部を流れる光電流の大きさおよび/または極性を変化させることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項8】
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質と導電材料からなる第2の電極とを有することを特徴とする光電変換素子。
【請求項10】
導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
一つまたは複数の光電変換素子を有する電子機器において、
少なくとも一つの上記光電変換素子として、導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された亜鉛チトクロムc、その誘導体またはその変異体と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を用いる
ことを特徴とする電子機器。
【請求項12】
一つまたは複数の光電変換素子を有する電子機器において、
少なくとも一つの上記光電変換素子として、導電材料からなる第1の電極とこの第1の電極上に固定された光電変換機能を有する、金属を含む電子伝達タンパク質と導電材料からなる第2の電極とを有する光電変換素子を用いる
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−220445(P2007−220445A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38874(P2006−38874)
【出願日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】