説明

光電変換素子、及び光化学電池

【課題】 高い光電変換効率を有する光電変換素子、及び光化学電池を提供する。
【解決手段】 本発明の光電変換素子は、一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体色素(但し、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、Xは対イオンであり、nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表し、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子である。)と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物と、半導体微粒子を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子、及びそれを用いた光化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池はクリーンな再生型エネルギー源として大きく期待されており、単結晶シリコン系、多結晶シリコン系、アモルファスシリコン系の太陽電池やテルル化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物からなる太陽電池の実用化をめざした研究がなされている。しかし、家庭用電源として普及させるためには、いずれの電池も製造コストが高いことや原材料の確保が困難なことやリサイクルの問題、また大面積化が困難であるなど克服しなければならない多くの問題を抱えている。そこで、大面積化や低価格化を目指し有機材料を用いた太陽電池が提案されてきたが、いずれも変換効率が1%程度と実用化にはほど遠いものであった。
【0003】
こうした状況の中、1991年にグレッツェルらによりNatureに色素によって増感された半導体微粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこの太陽電池の作製に必要な材料および製造技術が開示された。(例えば、Nature、第353巻、737頁、1991年(非特許文献1)、特開平1−220380号公報(特許文献1)など)。この電池はルテニウム色素によって増感された多孔質チタニア薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この太陽電池の利点は、安価な材料を高純度に精製する必要がなく用いられるため、安価な光電変換素子として提供できること、さらに用いられる色素の吸収がブロードであり、広い可視光の波長域にわたって太陽光を電気に変換できることである。しかしながら実用化のためにはさらなる変換効率の向上が必要であり、より高い吸光係数を有し、より高波長域まで光を吸収する色素の開発が望まれている。
【0004】
本出願人による特開2003−261536号公報(特許文献2)には、光電変換素子として有用な金属錯体色素であるジピリジル配位子含有金属単核錯体が開示されている。
【0005】
また、色素増感太陽電池の最新技術(株式会社シーエムシー、2001年5月25日発行、117頁)(非特許文献2)には、多核β−ジケトナート錯体色素が開示されている。
【0006】
また、特開2004−359677号公報(特許文献3)には、光などの活性光線のエネルギーを受けて電子を取り出す光電変換機能の優れた新規な複核錯体として、複数の金属と複数の配位子を有し、その複数の金属に配位する橋かけ配位子(BL)が複素共役環を有する配位構造と複素共役環を有しない配位構造を有する複核錯体が開示されている。
【0007】
さらに、WO2006/038587(特許文献4)には、高い光電変換効率を有する光電変換素子が得られる金属錯体色素として、複素共役環を有する配位構造を有する二核金属錯体が開示されている。
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特開2003−261536号公報
【特許文献3】特開2004−359677号公報
【特許文献4】WO2006/038587
【非特許文献1】Nature、第353巻、737頁、1991年
【非特許文献2】色素増感太陽電池の最新技術(株式会社シーエムシー、2001年5月25日発行、117頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高い光電変換効率を有する光電変換素子、及び光化学電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の事項に関する。
【0010】
1. 下記一般式(1)で示される非対称な二核金属錯体色素と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)と、半導体微粒子を含むことを特徴とする光電変換素子。
【0011】
【化1】

(式中、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、Xは対イオンであり、nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表し、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子であり、Lが半導体微粒子に固定され得る置換基を有する。)
2. 前記二核金属錯体色素が、主に(LにLUMOが分布する構造であることを特徴とする上記1記載の光電変換素子。
【0012】
3. 前記ステロイド系化合物が、コール酸、デオキシコール酸およびケノデオキシコール酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記1または2記載の光電変換素子。
【0013】
4. 前記半導体微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
【0014】
5. 前記二核金属錯体色素と前記ステロイド系化合物とが半導体微粒子に吸着していることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の光電変換素子。
【0015】
6. 導電性支持体上に、前記二核金属錯体色素と前記ステロイド系化合物とが吸着している半導体微粒子を含む半導体層が形成されていることを特徴とする上記5記載の光電変換素子。
【0016】
7. 上記1〜6のいずれかに記載の光電変換素子を備えることを特徴とする光化学電池。
【0017】
8. 電極として上記1〜6のいずれかに記載の光電変換素子と対極とを有し、その間に電解質層を有することを特徴とする光化学電池。
【0018】
9. 上記一般式(1)で示される非対称な二核金属錯体色素と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)とを含む溶液に半導体微粒子を浸漬する工程を有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【0019】
10. 導電性支持体上に、半導体微粒子を含む半導体層を形成する工程と、
この半導体層を上記一般式(1)で示される非対称な二核金属錯体色素と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)とを含む溶液に浸漬する工程と
を有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【0020】
11. 前記二核金属錯体色素とステロイド系化合物とを含む溶液が、二核金属錯体色素1モルに対してステロイド系化合物を0.1〜15モル含有することを特徴とする上記9または10記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光電変換素子は、上記一般式(1)で示される二核金属錯体色素と共に、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)が半導体微粒子に吸着しているものである。この光電変換素子を用いた光化学電池は、ステロイド系化合物を含まないものと比べて、高い初期光電変換効率が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の光電変換素子は、上記一般式(1)で示される非対称な二核金属錯体色素と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)と、半導体微粒子を含む。
【0023】
まず、本発明において用いる二核金属錯体色素について説明する。
【0024】
本発明の一般式:(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体において、M及びMは、遷移金属であり、好ましくは第VIII族〜第XI族の遷移金属であり、具体的には、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)または鉄(Fe)が好ましい。中でも、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)が好ましく、ルテニウム(Ru)が特に好ましい。
【0025】
及びMは、同一金属でも異なった金属であってもよい。
【0026】
及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であり、好ましくは二座もしくは三座もしくは四座配位可能なキレート型配位子、さらに好ましくは二座配位可能なキレート型配位子である。具体的には、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジニル)キノリンまたは2,2’−ビキノリンなどの誘導体などが挙げられる。LとLは、異なるものである。また、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよい。
【0027】
また、Lは、半導体微粒子に固定され得る置換基を少なくとも一つ有している。
【0028】
の半導体微粒子に固定され得る置換基としては、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)、水酸基(−OH)、硫酸基(−SOH)、燐酸基(−PO)、ニトロ基(−NO)などが挙げられる。中でも、カルボキシル基(−COOH)が好ましい。カルボキシル基の水素は、テトラブチルアンモニウムなどの4級アンモニウム、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンなどのカチオンで交換されていてもよい。また、水素は脱離していてもよい。
【0029】
さらに、Lは、半導体微粒子に固定され得る置換基以外の置換基を有しても、有してなくてもよい。このような置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0030】
また、本発明の二核金属錯体色素においては、Lは、主に(L部分にLUMOが分布するような配位子であることが好ましい。「主に(L部分にLUMOが分布する」とは、(L部分よりも(L部分にLUMOが多く分布していることを意味する。主に(Lが太陽光などの光照射により電子が励起するLUMOを有する構造であることによって、この二核金属錯体により増感された半導体微粒子を含む光電変換素子を用いて光化学電池を製造したときに、電解質から光電変換素子(負極)へのスムーズな電子移動を起こすことができ、効率のよい光化学電池を構成することができる。
【0031】
LUMOの算出は、ソフトウェアはCeriusあるいはMaterial Studioを用いた。その方法は、DMolモジュールを用いてDFT(密度汎関数法)によって金属錯体の構造最適化を行った。そのときの交換相関関数は特に限定はしないがVWN法またはBLYP法が好適に用いられる。基底関数は特に限定はしないがDNPが好適に用いられる。
【0032】
エネルギー状態計算は得られた構造を用い、交換相関関数としては特に限定はしないがBLYP,PBEが用いられ、基底関数系としては特に限定はしないがDNPが好適に用いられる。
【0033】
としては、下式(L−A)で表される配位子が挙げられる。
【0034】
【化2】

【0035】
式中、−COOHのHは脱離していてもよく、R、R、R、R、R及びRは水素原子、アルコキシ基または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0036】
〜Rは好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0037】
また、RとR、RとR、RとRが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0038】
〜Rは水素原子であることが特に好ましい。
【0039】
の具体例としては、下式(L−1)〜(L−4)で表される配位子が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
【化3】

2,2’−ビピリジン−4,4’−ジカルボン酸(Hdcbpy)
【0041】
【化4】

1,10−フェナントロリン−4,7−ジカルボン酸(Hdcphen)
【0042】
【化5】

2−(2−(4−カルボキシピリジル))−4−カルボキシキノリン(Hdcpq)
【0043】
【化6】

2,2’−ビキノリン−4,4’−ジカルボン酸(Hdcbiq)
【0044】
但し、式(L−1)〜(L−4)中の複素環およびベンゼン環は置換基を有していてもよく、また、−COOHのHは脱離していてもよい。置換基としては、メチル基、エチル基などの炭素数6以下のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基などの炭素数6以下のアルコキシ基などが挙げられる。
【0045】
前述の通り、Lは、多座配位可能なキレート型配位子であり、好ましくは二座もしくは三座もしくは四座配位可能なキレート型配位子、さらに好ましくは二座配位可能なキレート型配位子である。具体的には、2,2’−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、2−(2−ピリジニル)キノリンまたは2,2’−ビキノリンなどの誘導体などが挙げられる。
【0046】
は、置換基を有しても、有してなくてもよい。Lの置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アリール基(フェニル基、トリル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)、および水酸基(−OH)などが挙げられる。特に、電子供与性を示す基が好ましい。
【0047】
としては、下式(L−A)で表される配位子が挙げられる。
【0048】
【化7】

【0049】
式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18は水素原子、アルコキシ基、水酸基または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0050】
11〜R18は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0051】
また、R11〜R18の隣接する二つ、またはR11とR18が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0052】
11〜R18は水素原子またはメチル基であることが特に好ましい。また、R11とR18が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(メチル基などの置換基を有していてもよい)を形成しており、R12〜R17は水素原子またはメチル基、より好ましくは水素原子であることも特に好ましい。
【0053】
の具体例としては、下式(L−1)〜(L−4)で表される配位子が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
【化8】

2,2’−ビピリジン(bpy)
【0055】
【化9】

1,10−フェナントロリン(phen)
【0056】
【化10】

2−(2−ピリジニル)キノリン(pq)
【0057】
【化11】

2,2’−ビキノリン(biq)
【0058】
但し、式(L−1)〜(L−4)中の複素環およびベンゼン環は置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基、メチル基などの置換基を有していてもよいフェニル基、水酸基などが挙げられる。
【0059】
BLは架橋配位子であって、ヘテロ原子を含む環状構造を有するものである。そして、この環状構造(複素共役環)に含まれるヘテロ原子がM及びMに配位する配位原子である。ヘテロ原子としては、窒素、酸素、硫黄、燐などが挙げられる。
【0060】
BLは、四座配位子であることが好ましく、さらに好ましくはアニオン性である。また、BLは、環状構造(複素共役環)上に置換基を有しても、有しなくてもよい。
【0061】
BLとしては、下式(BL−A)で表されるものが挙げられる。
【0062】
【化12】

【0063】
式中、R31、R32及びR33は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成しており、R34、R35及びR36は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0064】
31〜R36は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0065】
また、R31〜R36の隣接する二つが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0066】
31〜R36は水素原子またはメチル基であることが特に好ましく、R31〜R36は水素原子であることがさらに好ましい。
【0067】
また、BLとしては、下式(BL−B)で表されるものも挙げられる。
【0068】
【化13】

【0069】
式中、R41及びR42は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成しており、R43及びR44は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0070】
41〜R44は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0071】
また、R41とR42、R43とR44が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0072】
41〜R44は水素原子またはメチル基であることが特に好ましく、R41〜R44は水素原子であることがさらに好ましい。また、R41とR42、R43とR44が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(メチル基などの置換基を有していてもよい)を形成していることも特に好ましい。
【0073】
上式(BL−B)で表されるものの中では、下式(BL−C)で表されるものが好ましい。
【0074】
【化14】

【0075】
式中、R51、R52、R53及びR54は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成しており、R55、R56、R57及びR58は水素原子または置換もしくは無置換の炭化水素基を表すか、または、これらの二つ以上が一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に置換もしくは無置換の芳香族炭化水素環または置換もしくは無置換の脂肪族炭化水素環を形成している。
【0076】
51〜R58は好ましくは水素原子、アルキル基、アルコキシ基であり、水素原子、アルキル基であることがより好ましい。アルキル基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メチル基、エチル基がより好ましい。また、アルコキシ基としては、炭素数6以下のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基がより好ましい。
【0077】
また、R51〜R58の隣接する二つが一緒になってそれらが結合する炭素原子と共に6員の芳香族炭化水素環(置換基を有していてもよい)を形成していることも好ましい。芳香族炭化水素環の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基など)などが挙げられる。
【0078】
51〜R58は水素原子またはメチル基であることが特に好ましく、R51〜R58は水素原子であることがさらに好ましい。
【0079】
BLの具体例としては、下式(BL−1)〜(BL−4)で表されるものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
【化15】

2,2’−ビピリミジン(bpm)
【0081】
【化16】

テトラチアフルバレン(TTF)
【0082】
【化17】

2,2’−ビイミダゾラト(BiIm)
【0083】
【化18】

2,2’−ビベンズイミダゾラト(BiBzIm)
【0084】
但し、式(BL−1)〜(BL−4)中の複素環およびベンゼン環は置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数6以下のアルキル基、炭素数6以下のアルコキシ基などが挙げられ、また、式(BL−4)中のベンゼン環上の隣接する二つの炭素原子が一緒になって新たなベンゼン環(置換基を有していてもよい)を形成していてもよい。
【0085】
光電変換素子に用いる金属錯体色素である場合、BLが上式(BL−3)、または(BL−4)で表される配位子であることが好ましい。
【0086】
また、(L(BL)M(L(X)は、水または有機溶媒を結晶溶媒として含んでいてもよい。有機溶媒としては、DMSO、アセトニトリル、DMF、DMAC、メタノールなどが挙げられる。尚、結晶溶媒の数は特に規定されない。
【0087】
Xは対イオンであり、錯体[(L(BL)M(L]がカチオンであれば対イオンはアニオン、錯体[(L(BL)M(L]がアニオンであれば対イオンはカチオンである。ここにnは、錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表す。
【0088】
Xの具体例として、対イオンがアニオンの場合、ヘキサフルオロリン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフェニルホウ酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、チオシアン酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、および塩化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオンなどが挙げられる。
【0089】
Xの具体例として、対イオンがカチオンの場合、アンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオン、およびプロトンなどが挙げられる。
【0090】
金属錯体色素としては、特に、Lが上式(L−1)で表される配位子(−COOHのHが脱離しているもの、複素環およびベンゼン環がさらに置換基を有しているものも含む)であり、Lが上式(L−1)または(L−2)で表される配位子(複素環およびベンゼン環が置換基を有しているものも含む)であり、BLが上式(BL−3)または(BL−4)で表される配位子(複素環およびベンゼン環が置換基を有しているものも含む)であり、M及びMがルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)または鉄(Fe)であるものが好ましい。
【0091】
本発明の(L(BL)M(L(X)で示される非対称な二核金属錯体の具体例としては、下式(D−1)〜(D−16)で表されるものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、式(D−1)〜(D−16)中の−COOHのHは脱離していてもよい。
【0092】
【化19】

[(Hdcbpy)Ru(BiIm)Ru(bpy)](ClO
【0093】
【化20】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiIm)Ru(bpy)](PF
【0094】
【化21】

[(Hdcbiq)(Hdcbiq)Ru(BiIm)Ru(bpy)](PF
【0095】
【化22】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](PF
【0096】
【化23】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](BF
【0097】
【化24】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](BPh
【0098】
【化25】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](OSOCF
【0099】
【化26】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](ClO
【0100】
【化27】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](NO
【0101】
【化28】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](I)
【0102】
【化29】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(phen)](PF
【0103】
【化30】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(biq)](PF
【0104】
【化31】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(dmbpy)](PF
【0105】
【化32】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(TMBiBzIm)Ru(bpy)](PF
【0106】
【化33】

[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Os(bpy)](PF
【0107】
【化34】

[(Hdcbpy)Ru(bpm)Ru(bpy)](PF6
【0108】
本発明において用いる金属錯体色素は、公知の方法、例えばWO2006/038587、Inorganic Chemistry、第17巻、第9号、第2660〜2666頁、1978年、Journal of the American Chemical Society、第115巻、第6382〜6390頁、1993年等の文献中に引用された方法を参考にして製造することができる。
【0109】
本発明の金属錯体(L(BL)M(L(X)は、例えば、次のようにして二つの単核金属錯体(LClと(BL)M(Lを合成し、これらを反応させることにより合成することができる。
【0110】
が上式(L−1)であり、MがRuである単核金属錯体(LCl(MC−1)は次の合成スキームに従って合成することができる。
【0111】
【化35】

【0112】
上式において、Lがカルボキシル基以外の置換基を有するもの、MがRu以外の遷移金属であるものも同様にして合成することができる。
【0113】
また、Lが上式(L−4)であり、MがRuである単核金属錯体(LCl(MC−2)は次の合成スキームに従って合成することができる。
【0114】
【化36】

【0115】
上式において、Lがカルボキシル基以外の置換基を有するもの、MがRu以外の遷移金属であるものも同様にして合成することができる。
【0116】
一方、単核金属錯体(BL)M(Lは次の合成スキームに従って合成することができる。
【0117】
【化37】

【0118】
スキーム中のHBLはBL中の二つのヘテロ原子(窒素原子など)がプロトン化された状態を示す。
【0119】
尚、BLが上式(BL−1)〜(BL−4)で表されるもの(置換基を有しているものも含む)、Lが上式(L−1)〜(L−4)で表されるもの(置換基を有しているものも含む)は何れも、この合成スキームに従って合成することができる。但し、BLが上式(BL−1)で表されるもの(置換基を有しているものも含む)については、後段の塩基による反応工程は不要で、M(LClとBLを反応させると(BL)M(Lが得られる。
【0120】
この反応において使用する塩基はナトリウムを含まない塩基、例えばカリウム、マグネシウム、カルシウムまたは鉄を含む塩基、あるいは有機塩基であることが好ましく、特にリチウムを含む塩基が好ましい。中でも、リチウムのアルコキシドが好ましく、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシドがさらに好ましく、リチウムメトキシドが特に好ましい。塩基の使用量は適宜決めることができる。
【0121】
このようにして合成した(LCl(MC)と(BL)M(L(MC)を次の合成スキームに従って反応させ、(L(BL)M(L(X)を合成することができる。
【0122】
【化38】

【0123】
この反応において使用する塩基はナトリウムを含まない塩基、例えばカリウム、マグネシウム、カルシウムまたは鉄を含む塩基、あるいは有機塩基であることが好ましく、特にリチウムを含む塩基が好ましい。中でも、リチウムの水酸化物およびリチウムのアルコキシドが好ましく、水酸化リチウム、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシドがさらに好ましく、水酸化リチウムが特に好ましい。塩基の使用量は適宜決めることができる。
【0124】
塩基の存在下で(LCl(MC)と(BL)M(L(MC)を反応させた後、酸(HX)を加えて(L(BL)M(L(X)で示される二核金属錯体を単離させる。このとき、必要に応じて溶液を冷却する。また、酸を加える前または同時に、硝酸リチウムなどのリチウムを含む塩(LiX)を加えてもよい。
【0125】
また、本発明では、初期光電変換効率の点から、二核金属錯体を単離させるときのpHを2.5を超えて、好ましくは2.7以上に調整することが好ましい。pHは2.8以上が好ましく、得られる光化学電池の耐久性の点からは、pHは3.3以上が好ましく、3.5以上がより好ましく、3.7以上が特に好ましく、3.8以上がさらに好ましい。また、半導体微粒子に本発明の二核金属錯体色素を十分に担持させるためには、pHは5以下が好ましく、4.5以下がより好ましく、4.2以下が特に好ましい。
【0126】
また、本発明では、適当なpHで単離させて(L(BL)M(L(X)で示される二核金属錯体を得た後、これを水に懸濁させ、塩基を加えてpHを10程度に調整して再溶解させ、この溶液に酸を加えてpHを上記の範囲にし、(L(BL)M(L(X)で示される二核金属錯体を単離させることもできる。
【0127】
本発明では、上記の金属錯体を金属錯体色素として用い、この金属錯体色素により増感された半導体微粒子を用いて光化学電池を製造する。
【0128】
本発明においては、上記一般式(1)で示される二核金属錯体色素と共に、ステロイド系化合物を用いる。ステロイド系化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0129】
本発明において用いるステロイド系化合物は、下記式(A)で示されるステロイド骨格を有し、且つカルボキシル基を持つものである。
【0130】
【化39】

【0131】
但し、式(A)で示されるステロイド骨格は、例えば炭素数1〜10程度の置換もしくは無置換の炭化水素基(側鎖)や、水酸基(−OH)などの置換基を有していてもよい。また、ステロイド骨格中に不飽和結合を含んでいてもよい。
【0132】
カルボキシル基で置換される位置はステロイド骨格のどの位置であってもよいし、側鎖がカルボキシル基を有していてもよい。カルボキシル基(−COOH)のプロトンは、ナトリウムイオンなどの1価のカチオンで交換されていてもよい。
【0133】
本発明において用いるステロイド系化合物としては、下記式(A−1)で示される構造を有するものが好ましい。
【0134】
【化40】

【0135】
中でも、下記式(A−2)で示されるコール酸、下記式(A−3)で示されるデオキシコール酸、下記式(A−4)で示されるケノデオキシコール酸が好ましく、ケノデオキシコール酸が特に好ましい。
【0136】
【化41】

【0137】
【化42】

【0138】
【化43】

【0139】
本発明の光電変換素子は、上記のような二核金属錯体色素とステロイド系化合物と半導体微粒子を含むものである。二核金属錯体色素とステロイド系化合物とは半導体微粒子表面に吸着されており、半導体微粒子は金属錯体色素により増感されている。
【0140】
より具体的には、本発明の光電変換素子は、上記の金属錯体色素により増感された半導体微粒子を導電性支持体(電極)上に固定したものである。
【0141】
導電性電極は、透明基板上に形成された透明電極であることが好ましい。導電剤としては、金、銀、銅、白金、パラジウムなどの金属、錫をドープした酸化インジウム(ITO)に代表される酸化インジウム系化合物、フッ素をドープした酸化錫(FTO)に代表される酸化錫系化合物、酸化亜鉛系化合物などが挙げられる。
【0142】
半導体微粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫などが挙げられる。また、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化バナジウムや、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウムなどの複合酸化物半導体、カドミウムまたはビスマスの硫化物、カドミウムのセレン化物またはテルル化物、ガリウムのリン化物またはヒ素化物なども挙げられる。半導体微粒子としては、酸化物が好ましく、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫、およびこれらのいずれか1種以上を含む混合物が特に好ましい。
【0143】
半導体微粒子の一次粒子径は特に限定されないが、通常、1〜5000nm、好ましくは2〜500nm、特に好ましくは5〜300nmである。
【0144】
半導体微粒子に二核金属錯体色素とステロイド系化合物とを吸着させる方法としては、導電性支持体上に半導体微粒子を含む半導体層(半導体微粒子膜)を形成した後、これを二核金属錯体色素とステロイド系化合物とを含む溶液に浸漬する方法が挙げられる。半導体層は、導電性支持体上に半導体微粒子のペーストを塗布し、加熱焼成して形成することができる。そして、色素溶液に浸漬後、この半導体層が形成された導電性支持体を洗浄、乾燥する。
【0145】
色素溶液の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン等の尿素類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類が挙げられるが、好ましくはイソプロピルアルコールやt−ブタノール、アセトニトリルが用いられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0146】
溶液中の色素の濃度は適宜決めることができるが、短時間で色素を吸着させることができるので高濃度の方が好ましく、飽和溶液であることが好ましい。
【0147】
溶液中のステロイド系化合物の濃度は、二核金属錯体色素1モルに対して0.1〜15モルであることが好ましく、2〜12モルであることがより好ましい。ステロイド系化合物の含有量が上記の範囲内である時に、より高い光電変換効率が得られる。しかも、高い光電変換効率を保ちながら色素の吸着量を少なくすることができる。
【0148】
色素を吸着させる際の温度は、通常、0〜80℃とすればよく、好ましくは20〜40℃である。色素を吸着させる時間(色素溶液に浸漬する時間)は適宜決めることができ、例えば4〜10時間、好ましくは5〜8時間程度である。吸着時間がこれより長くなってくると、色素の吸着量は余り変わらなくなる一方で、光電変換効率が低下してくることがある。
【0149】
二核金属錯体色素とステロイド系化合物とを含む溶液に浸漬する代わりに、二核金属錯体色素の溶液に浸漬し、次いでステロイド系化合物の溶液に浸漬する、あるいは、ステロイド系化合物の溶液に浸漬し、次いで二核金属錯体色素の溶液に浸漬することもできる。
【0150】
本発明の光化学電池は、上記のような本発明の光電変換素子を用いたものである。より具体的には、電極として上記の本発明の光電変換素子と対極とを有し、その間に電解質層を有するものである。本発明の光電変換素子を用いた電極と対極の少なくとも片方は透明電極である。
【0151】
対極は光電変換素子と組み合わせて光化学電池としたときに正極として作用するものである。対極としては、上記導電性電極と同様に導電層を有する基板を用いることもできるが、金属板そのものを使用すれば、基板は必ずしも必要ではない。対極に用いる導電剤としては、白金や炭素などの金属、フッ素をドープした酸化錫などの導電性金属酸化物が挙げられる。
【0152】
電解質(酸化還元対)としては特に限定されず、公知のものをいずれも用いることができる。例えば、ヨウ素とヨウ化物(例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム等の金属ヨウ化物、またはヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化ピリジニウム、ヨウ化イミダゾリウム等の4級アンモニウム化合物のヨウ化物)の組み合わせ、臭素と臭化物の組み合わせ、塩素と塩化物の組み合わせ、アルキルビオローゲンとその還元体の組み合わせ、キノン/ハイドロキノン、鉄(II)イオン/鉄(III)イオン、銅(I)イオン/銅(II)イオン、マンガン(II)イオン/マンガン(III)イオン、コバルトイオン(II)/コバルトイオン(III)等の遷移金属イオン対、フェロシアン/フェリシアン、四塩化コバルト(II)/四塩化コバルト(III)、四臭化コバルト(II)/四臭化コバルト(III)、六塩化イリジウム(II)/六塩化イリジウム(III)、六シアノ化ルテニウム(II)/六シアノ化ルテニウム(III)、六塩化ロジウム(II)/六塩化ロジウム(III)、六塩化レニウム(III)/六塩化レニウム(IV)、六塩化レニウム(IV)/六塩化レニウム(V)、六塩化オスミウム(III)/六塩化オスミウム(IV)、六塩化オスミウム(IV)/六塩化オスミウム(V)等の錯イオンの組み合わせ、コバルト、鉄、ルテニウム、マンガン、ニッケル、レニウムといった遷移金属とビピリジンやその誘導体、ターピリジンやその誘導体、フェナントロリンやその誘導体といった複素共役環及びその誘導体で形成されているような錯体類、フェロセン/フェロセニウムイオン、コバルトセン/コバルトセニウムイオン、ルテノセン/ルテノセウムイオンといったシクロペンタジエン及びその誘導体と金属の錯体類、ポルフィリン系化合物類等が使用できる。好ましい電解質は、ヨウ素とヨウ化リチウムや4級アンモニウム化合物のヨウ化物とを組み合わせた電解質である。電解質の状態は、有機溶媒に溶解した液体であっても、溶融塩、ポリマーマトリックスに含浸漬したいわゆるゲル電解質や、固体電解質であってもよい。
【0153】
本発明の光化学電池は、従来から適用されている方法によって製造することができる。
【0154】
例えば、前述のように、透明電極上に酸化物等の半導体微粒子のペーストを塗布し、加熱焼成し半導体微粒子の薄膜を作製する。半導体微粒子の薄膜がチタニアの場合、温度450℃、反応時間30分で焼成する。この薄膜の付いた透明電極を色素溶液(本発明の二核金属錯体色素とステロイド系化合物とを含む溶液)に浸漬し、色素を担持して光電変換素子を作製する。さらにこの光電変換素子と対極として白金あるいは炭素を蒸着した透明電極を合わせ、その間に電解質溶液を入れることにより本発明の光化学電池を製造することができる。
【実施例】
【0155】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0156】
(参考例1)
二核金属錯体色素[(Hdcbpy)(Hdcbpy)Ru(BiBzIm)Ru(bpy)](PF)(D−4)の合成
1.単核金属錯体(Hdcbpy)RuCl(MC−1)の合成
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに、市販のRuCl・3HO(2.53g,9.68mmol)、Hdcbpy(4.50g,18.4mmol)、およびN,N−ジメチルホルムアミドを300ml加え、2.45GHzのマイクロ波照射下45分間還流した。放冷後ろ過し、得られたろ液を減圧乾固した。得られた残留物をアセトン/ジエチルエーテル(1:4)で洗浄後、2mol/l塩酸300mlを加え、20分間超音波攪拌、さらに超音波攪拌を止め2時間攪拌した。攪拌終了後、不溶物をろ取し、2mol/l塩酸、アセトン/ジエチルエーテル(1:4)およびジエチルエーテルで洗浄した。真空乾燥後、5.75gのMC−1を得た。
【0157】
【化44】

【0158】
2.単核金属錯体(BiBzIm)Ru(bpy)(MC−2)の合成
窒素雰囲気下、300ml三口フラスコに、Ru(bpy)Cl(4.02g,7.7mmol)、Inorg.Chem.,34,5979(1995)を参照して合成した2,2’−ビベンズイミダゾール(BiBzImH)(2.18g,9.3mmol)、およびエチレングリコールを100ml加え、2.45GHzのマイクロ波照射下5分間還流した。放冷後、10%のリチウムメトキシドメタノール溶液を35ml加え、60℃で10分間2.45GHzのマイクロ波を照射した。放冷後、200mlの水を加え、攪拌し、析出物をろ過した。析出物を水、冷メタノール、およびジエチルエーテルで洗浄、真空乾燥後、MC−2を5.7708g得た。さらに、この析出物5.77gを窒素下でメタノール200mlに加え、さらにここへ10%のリチウムメトキシドメタノール溶液を10ml加え、1時間還流した。放冷後、析出物をろ過し、冷メタノール、水、およびジエチルエーテルで洗浄、真空乾燥後、MC−2を5.02g得た。
【0159】
【化45】

【0160】
3.D−4の合成
窒素雰囲気下、500ml三口フラスコに、MC−1(1.50g,2.16mmol)、およびエタノール/水(1:1)を300ml加え、1mol/l水酸化ナトリウム水溶液を8.7ml滴下し溶解させた。この溶液にMC−2(1.55g,2.27mmol)を加え、2.45GHzのマイクロ波照射下30分間還流した。放冷後、微量の不溶解物をろ別後、ろ液のエタノールを減圧留去した。得られた懸濁液をろ過し、ろ液に0.5mol/lヘキサフルオロリン酸水溶液をpH2.8になるまで滴下した。一晩4℃で冷却後、析出した錯体をろ取し、pH2.8ヘキサフルオロリン酸水溶液、アセトン/ジエチルエーテル(4:1)、およびジエチルエーテルで洗浄した。真空乾燥後、二核金属錯体色素(D−4)を2.61g得た。
【0161】
(実施例1)
1.多孔質チタニア電極の作製
触媒化成製のチタニアペーストPST−18NRを透明層に、PST−400Cを拡散層に用い、旭硝子株式会社製透明導電性ガラス電極上にスクリーン印刷機を用いて塗布した。得られた膜を25℃、60%の雰囲気下で5分間エージングし、このエージングした膜を450℃で30分間焼成した。冷却した膜に対し、同じ作業を所定の厚みになるまで繰り返し、16mmの多孔質チタニア電極を作製した。
【0162】
2.色素を吸着した多孔質チタニア電極の作製
ケノデオキシコール酸(CDCA)を所定量加えた、二核金属錯体色素(D−4)の飽和色素溶液(溶媒:t−ブタノール/アセトニトリルの1:1混合溶媒)に多孔質チタニア電極を30℃で所定の時間浸漬し、乾燥して色素吸着多孔質チタニア電極を得た。
【0163】
3.光化学電池の作製
以上のようにして得られた色素吸着多孔質チタニア電極と白金板(対極)を重ね合わせた。次に、電解質溶液(3−メトキシプロピオニトリルにヨウ化リチウム、ヨウ素、4−t−ブチルピリジン、および1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムアイオダイドをそれぞれ0.1、0.05、0.5、および0.6mol/lとなるように溶解したもの)を両電極の隙間に毛細管現象を利用して染み込ませることにより光化学電池を作製した。図3に本実施例で作製した光化学電池の構造を示す。
【0164】
4.変換効率の測定
得られた光化学電池の光電変換効率を英弘精機株式会社製のソーラーシュミレーターを用い、100mW/cmの擬似太陽光を照射し測定した。
【0165】
5.色素吸着量の測定
色素吸着多孔質チタニア電極の色素吸着量を次のようにして測定した。
【0166】
色素吸着多孔質チタニア電極を0.01mol/l水酸化ナトリウムのエタノール/水(1:1)溶液に一晩浸漬することにより色素を脱着させた。そして、この脱着液の吸収スペクトルを日本分光社製V−570を用いて測定し、その測定結果から1cm当たりの色素吸着量を算出した。
【0167】
図1に、吸着時間(色素溶液に浸漬する時間)20時間で、ケノデオキシコール酸の添加量が異なるものの変換効率と色素吸着量の測定結果を示す。図2に、ケノデオキシコール酸の添加量が色素1モルに対して2モル(ケノデオキシコール酸/色素のモル比が2)で、吸着時間が異なるものの変換効率と色素吸着量の測定結果を示す。
【0168】
図1の結果から、ケノデオキシコール酸の添加により光電変換効率が高くなり、光化学電池の性能が向上することは明らかである。また、図2の結果から分かるように、吸着時間7時間で最高の光電変換効率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0169】
以上のように、本発明によれば、高い光電変換効率を有する光電変換素子、及び光化学電池を得ることができる。しかも、高い光電変換効率を保ちながら、用いる色素の量を少なくすることができ、色素を吸着させる時間も短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0170】
【図1】図1は、ケノデオキシコール酸の添加量(ケノデオキシコール酸と色素のモル比)に対する光電変換効率と色素吸着量の変化を示した図である。
【図2】図2は、色素の吸着時間に対する光電変換効率と色素吸着量の変化を示した図である。
【図3】図3は、本発明で作製した光化学電池の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0171】
(1)ガラス
(2)透明導電層
(3)白金層
(4)電解液
(5)色素吸着多孔質酸化物半導体膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される非対称な二核金属錯体色素と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)と、半導体微粒子を含むことを特徴とする光電変換素子。
【化1】

(式中、M及びMは、遷移金属であって、同一でも異なっていてもよく、L及びLは、多座配位可能なキレート型配位子であって、LとLは異なるものであり、二つのLは異なるものであってもよく、二つのLも異なるものであってもよく、Xは対イオンであり、nは錯体の電荷を中和するのに必要な対イオンの数を表し、BLはヘテロ原子を含む環状構造を少なくとも二つ有する架橋配位子であって、M及びMに配位する配位原子がこの環状構造に含まれるヘテロ原子であり、Lが半導体微粒子に固定され得る置換基を有する。)
【請求項2】
前記二核金属錯体色素が、主に(LにLUMOが分布する構造であることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記ステロイド系化合物が、コール酸、デオキシコール酸およびケノデオキシコール酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記半導体微粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、または酸化錫であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記二核金属錯体色素と前記ステロイド系化合物とが半導体微粒子に吸着していることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子。
【請求項6】
導電性支持体上に、前記二核金属錯体色素と前記ステロイド系化合物とが吸着している半導体微粒子を含む半導体層が形成されていることを特徴とする請求項5記載の光電変換素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の光電変換素子を備えることを特徴とする光化学電池。
【請求項8】
電極として請求項1〜6のいずれかに記載の光電変換素子と対極とを有し、その間に電解質層を有することを特徴とする光化学電池。
【請求項9】
上記一般式(1)で示される非対称な二核金属錯体色素と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)とを含む溶液に半導体微粒子を浸漬する工程を有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
導電性支持体上に、半導体微粒子を含む半導体層を形成する工程と、
この半導体層を上記一般式(1)で示される非対称な二核金属錯体色素と、ステロイド骨格を有し、カルボキシル基を持つステロイド系化合物(但し、カルボキシル基(−COOH)のプロトンは1価のカチオンで置換されていてもよい。)とを含む溶液に浸漬する工程と
を有することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記二核金属錯体色素とステロイド系化合物とを含む溶液が、二核金属錯体色素1モルに対してステロイド系化合物を0.1〜15モル含有することを特徴とする請求項9または10記載の光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−129652(P2009−129652A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302043(P2007−302043)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】