説明

光電変換素子及びその製造方法

【課題】膜厚が厚くなった場合でも、高いエネルギーもしくは長い加工時間を低減して、スループットの低下を防止し、同時に効率の低下を防止することが可能な光電変換素子及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、絶縁性基板101の少なくとも一面に電極103を設けた後、第1の分離溝105を形成し、その後に第1の分離溝105の上に少なくとも1組のn層、i層、p層もしくはp層、i層、n層の光電変換層107をこの順に積層した後、透明電極層108を形成し、その後に透明電極層108を分離する第2の分離溝109を形成してなる光電変換素子の製造方法であって、第2の分離溝109が第1の分離溝105の内側に位置し、かつ第2の分離溝109が絶縁性基板101まで到達していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微結晶シリコン太陽電池に用いられる光電変換素子及びその製造方法に係り、特に光電変換素子の分離構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、薄膜太陽電池の分野では微結晶シリコン太陽電池が注目を集めている。微結晶シリコン太陽電池は、結晶のものと比べて大面積のものが一括で作製でき、直列接続構造を作り高電圧を得やすいという特徴を有している。この特徴を生かすためには、光電変換層の分離、パターニングの技術が重要である。
【0003】
従来のパターニングの構造としては、例えば、フィルム基板太陽電池に適用している特許文献1(特開2004-356331号公報)に示されるものがある。かかる技術においては、図2に示すように、基板101側の電極103の分離溝209aと、その内側に位置し、透明電極108と光電変換層107を分離する分離溝209bが、基板101まで到達するような分離溝209となっている。なお、図2における符号102は、電極103,104及び基板101を貫通する貫通孔である。
【0004】
また、他のパターニング構造としては、例えば特許文献2(特開2000-353817号公報)に示されるものがある。かかる技術では、透明電極と光電変換層とを分離する分離溝が形成されている。また、特許文献3(特開平9-260695号公報)等には、基板に接する電極の分離溝と、それと平行して、電極を分離しない分離溝が設けられているものがある。
【特許文献1】特開2004-356331号公報
【特許文献2】特開2000-353817号公報
【特許文献3】特開平9-260695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に示すパターニングラインの構造では、半導体層が微結晶シリコンの場合のように厚い場合に、レーザーにより分離溝を形成するためには薄い膜の場合と比べて高いエネルギーもしくは長い加工時間が必要となるなどして、光電変換素子の単位時間当たりの処理能力(スループット)が低下することになる。
【0006】
また、特許文献2の構造では、透明電極と光電変換層とを分離する分離溝が形成されているが、基板の一面に電極を設けた後に、第1の分離溝を設けることは開示されていない。また、かかる技術においては、分離溝の下に裏面電極が存在している。そのため、透明電極と裏面電極がショートする可能性があり、不安定な構造となっている。
さらに、特許文献3の構造では、ここでは詳細には記載しないが、隣り合う単位太陽電池間の接続は容易ではあるが、パターニングを行う際に分離溝端部が結晶化し、前記基板に接して形成される電極と透明電極とが導通することにより単位太陽電池がショートして効率が低下しやすいという問題がある。
【0007】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、膜厚が厚くなった場合でも、高いエネルギーもしくは長い加工時間を低減して、スループットの低下を防止し、同時に効率の低下を防止することが可能な光電変換素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、絶縁性基板の少なくとも一面に電極を設けた後、第1の分離溝を形成し、その後に前記第1の分離溝の上に少なくとも1組のn層、i層、p層もしくはp層、i層、n層の光電変換層をこの順に積層した後、透明電極層を形成し、その後に前記透明電極層を分離する第2の分離溝を形成してなる光電変換素子の製造方法であって、前記第2の分離溝が前記第1の分離溝の内側に位置し、かつ前記第2の分離溝が前記絶縁性基板まで到達していない。
【0009】
かかる発明においては、次のような構成及び手順を有することが好ましい。
(1)前記光電変換素子で、少なくとも1組のi層が微結晶シリコン系薄膜から構成されている。
(2)前記絶縁性基板がフィルム基板から構成されている。
(3)前記第2の分離溝が、前記少なくとも1層のi層の一部を残している。
【0010】
また、本発明は、絶縁性基板の少なくとも一面に電極を設け、該電極に第1の分離溝を穿設し、該第1の分離溝の上に光電変換層を積層して、その上に透明電極層を形成し、該透明電極層を分離する第2の分離溝を形成してなる光電変換素子において、前記第2の分離溝を前記第1の分離溝の内側に設けるとともに、前記第2の分離溝を前記透明電極層を貫通して前記光電変換層の途中位置までカットして設けている。
【0011】
かかる発明においては、次のような構成を有することが好ましい。
(1)前記光電変換層の下部の電極に前記第1の分離溝を設けるとともに、前記第2の分離溝を前記透明電極層を通して前記光電変換層の途中位置までカットして設け、前記第1の分離溝と前記第2の分離溝とを同一軸線上に配置している。
(2)前記第1の分離溝と前記第2の分離溝との間の距離を、前記第2の分離溝と下部の電極との間の抵抗が、これら分離溝によって分離された、各光電変換素子の並列抵抗成分の略10倍以上となるように設定している。
【発明の効果】
【0012】
上述の如く、本発明に係る光電変換素子の製造方法は、絶縁性基板の少なくとも一面に電極を設けた後、第1の分離溝を形成し、その後に前記第1の分離溝の上に少なくとも1組のn層、i層、p層もしくはp層、i層、n層の光電変換層をこの順に積層した後、透明電極層を形成し、その後に前記透明電極層を分離する第2の分離溝を形成してなり、前記第2の分離溝が前記第1の分離溝の内側に位置し、かつ前記第2の分離溝が前記絶縁性基板まで到達していないので、分離溝をすべて分離する場合に比べて、パターニングを行うレーザーの強度が4Wで走査速度を例えば200〜500mm/sと速くすることができ、膜厚が厚くなった場合でも、高いエネルギーもしくは長い加工時間を低減することが可能となり、製造プロセスのスループットを向上させることができる。
したがって、本発明の製造方法によれば、パターニング端部の結晶化による導通の影響を抑制しながら、パターニング時のスループットの低下を抑えることができる。
【0013】
また、本発明において、前記光電変換素子で、少なくとも1組のi層が微結晶シリコン系薄膜から構成されているものを用い、かつ最表面がi層であると、結晶化部分の導通を減らすことが可能となり、かつ、分離溝を基板まで到達させる場合と比べて分離に必要な膜厚の違いが大きくなるため、スループット向上の効果が大きい。
【0014】
かかる発明において、前記絶縁性基板がフィルム基板から構成されているものを用いると、基板の凹凸のためにパターニングの深さが変わり、基板へのダメージを低減することができるので、効果が大きい。
【0015】
また、本発明に係る光電変換素子は、絶縁性基板の少なくとも一面に電極を設け、該電極に第1の分離溝を穿設し、該第1の分離溝の上に光電変換層を積層して、その上に透明電極層を形成し、該透明電極層を分離する第2の分離溝を形成してなり、前記第2の分離溝を前記第1の分離溝の内側に設けるとともに、前記第2の分離溝を前記透明電極層を貫通して前記光電変換層の途中位置までカットして設けているので、上記製造方法の発明と同様の効果を得ることができる。
しかも、かかる発明において、前記光電変換層の下部の電極に前記第1の分離溝を設けるとともに、前記第2の分離溝を前記透明電極層を通して前記光電変換層の途中位置までカットして設け、前記第1の分離溝と第2の分離溝とを同一軸線上に配置しているので、第2の分離溝の下に第1の分離溝があり、裏面電極が存在しないことになる。
また、本発明において、前記第1の分離溝と前記第2の分離溝との間の距離を、前記第2の分離溝と下部の電極との間の抵抗が、これら分離溝によって分離された、各光電変換素子の並列抵抗成分の略10倍以上となるように設定しているので、透明電極と裏面電極の間のショートによる特性低下を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る光電変換素子及びその製造方法について、図面を参照しながら、その実施形態に基づき詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る光電変換素子とその製造方法のプロセスを順を追って示している。
まず、図1(a)に示すように、絶縁性の基板101を貫通する貫通孔102を具備した当該基板101上に電極層103,104を設ける。この基板101としては、ポリイミド系のフィルムを用いたが、他にPEN、PEI、PETなどを用いることもできる。また、他にはガラスなどの絶縁性の基板を用いることもできる。
【0018】
その後、図1(b)に示すように、その電極層103と電極層104とを分離するための第1の分離溝105をレーザースクライプで設ける。この第1の分離溝105は幅を200μmとした。
次いで、図1(c)に示すように、上記貫通孔102と異なる、貫通孔(図示せず)を形成し、しかる後、電極層103上に光電変換層107を形成する。この光電変換層107としては、略2.5μm厚の、アモルファスシリコン(a−Si)と微結晶シリコン(μc-Si)太陽電池を積層したタンデム構造が用いられている。
【0019】
最後に、図1(d)に示すように、ITOからなる透明電極層108を前記図示しない貫通孔を外して形成し、その後に第1の分離溝105の内側に、透明電極層108と光電変換層107の略500nm程度の厚さを除去する第2の分離溝109を設けた。この第2の分離溝109の幅は50μm程度である。
かかる第2の分離溝109を、透明電極層108を通して光電変換層107の途中位置までカットして設ける(残り厚さをSで示している)。
また、第1の分離溝105と第2の分離溝109とは、同一軸線C上となるように配置している。すなわち、第2の分離溝109の下に第1の分離溝105が同一軸線C上で配置され、裏面電極103が存在しない。しかも、第1の分離溝105と第2の分離溝109との間の距離は、第2の分離溝109と下部の電極層103との間の抵抗が、これら分離溝105,109によって分離された、各光電変換素子の並列抵抗成分の略10倍以上となるように設定されている。したがって、透明電極層108と裏面電極103の間のショートによる特性低下は抑制されることになる。
【0020】
ここで、前記電極層103,104を金属電極とし、最後に透明電極層108を設けたが、逆に電極層を透明電極層とし、最後に設ける電極を金属電極としてもよいし、金属電極は金属と透明電極との複合層としてもよい。また両方の電極を共に透明電極としてもよい。
また、それぞれの第1の分離溝105と第2の分離溝109の幅、位置関係も、パターニングによる分離溝端部や、分離溝の残存部分の結晶化の仕方や、その位置の制御性にもるが、分離溝端部間の距離が20μm以上あり、更に分離溝105、109の幅が30μm以上あるように構成すれば、ほぼ導通の影響を無視することが可能となる。
さらに、第2の分離溝109は、深さを略500nm程度とすることが適当であるが、分離を行う電極が除去できれば、この深さに限定されない。
【0021】
以上の方法により、分離溝105,109をすべて分離する場合では、パターニングを行うレーザーの強度が4Wで走査速度を10〜30mm/sとする必要があったが、200〜500mm/sと速くすることができ、製造プロセスのスループットを向上させることができる。
特にこの方法は、光電変換層107が微結晶シリコンのように厚い場合に、高い効果が得られる。また、基板101がフィルム基板である場合には、基板101を平坦に保持してパターニングを行うことが難しく、平坦な場合と斜めになっている場合には実効的にレーザーのパワーが異なる。そのため、平坦な部分で基板101に対して与えるダメージが大きくなりやすいので、本実施形態の効果は大きい。
また更に残す部分に含まれるi層の厚さが厚くなれば、スループット向上の効果が、基板まで分離する場合と比べて大きくなり、i層の内部で分離溝の深さを制御し、導電性を抑制しやすい。
【実施例】
【0022】
厚さ50μmのポリイミド基板101に貫通孔102を空けた後に、両面に電極103,104を設け、更にその後に幅200μmの幅の第1の分離溝105を、レーザースクライプによって作製した。レーザーはパルス出力2Wで、YAGレーザーの第2高調波を用いた。
また、上記基板101を貫通する貫通孔102を設け、その後に第1の分離溝105側の1面に基板101側からn層、i層、p層の微結晶層を順に積層して、膜厚が2〜4μmの微結晶シリコン太陽電池を形成した。
【0023】
さらに、その上に微結晶n層、厚さ200〜400nmのa-Si太陽電池を形成した後、最後にITOからなる厚さ60〜80nmの透明電極108、そしてその基板101の反対側に金属電極103を形成した。その後に透明電極108側から、第1の分離溝105の内側の略中心部分に幅50μmの第2の分離溝109を設け、更に基板101の反対側から第2の分離溝109と外れた位置に分離溝を設けた(貫通孔同士、前記基板の反対側から設ける分離溝などの位置関係は特許文献1などと同じものとする。)。
上記第2の分離溝109の形成時におけるレーザーの走引速度は200〜500mm/sとし、その深さは100〜500nmとした。
【0024】
[比較例1]
上記実施例と同様にして太陽電池を構成した。ただし、第2の分離溝109形成用のレーザーの走引速度を10〜30mm/sとし、図2の従来例と同様に、分離溝を基板101まで到達させた。得られた太陽電池の変換効率及びシャント抵抗は、実施例とほぼ変化しなかった。
上記例に示されるように、本発明の実施形態においては、分離溝の深さを浅くすることで、変換効率及びシャント抵抗はほぼ変わらずに、走引速度がほぼ1桁違うようにすることにより、スループットを大幅に向上させることができた。
【0025】
[比較例2]
上記実施例と同様にして太陽電池を構成した。ただし、第1の分離溝105の幅を変えて第1の分離溝105の端部と第2の分離溝109の端部の距離を変えた。太陽電池の変換効率の比に対する、前記距離によって生じる抵抗成分と、この抵抗成分が十分に大きい際の太陽電池の抵抗成分の比の関係を図3に示した。
この図に示されるように、比が10倍以上では効率の変化は小さいが、それ以下では大きくなっており、抵抗成分を大きくすることで効率の低下を抑制できた。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変更及び変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)、(b)、(c)、(d)は本発明の実施形態にかかる光電変換素子及びその製造方法のプロセスを順を追って示す構成図である。
【図2】従来の光電変換素子を示す構成図である。
【図3】抵抗成分の変化に対する光電変換素子の特性を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
101 基板
102 貫通孔
103 電極層
104 電極層
105 第1の分離溝
107 光電変換層
108 透明電極層
109 第2の分離溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板の少なくとも一面に電極を設けた後、第1の分離溝を形成し、その後に前記第1の分離溝の上に少なくとも1組のn層、i層、p層もしくはp層、i層、n層の光電変換層をこの順に積層した後、透明電極層を形成し、その後に前記透明電極層を分離する第2の分離溝を形成してなる光電変換素子の製造方法であって、前記第2の分離溝が前記第1の分離溝の内側に位置し、かつ前記第2の分離溝が前記絶縁性基板まで到達していないことを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
前記光電変換素子で、少なくとも1組のi層が微結晶シリコン系薄膜から構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁性基板がフィルム基板から構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
前記第2の分離溝が、前記少なくとも1層のi層の一部を残していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
絶縁性基板の少なくとも一面に電極を設け、該電極に第1の分離溝を穿設し、該第1の分離溝の上に光電変換層を積層して、その上に透明電極層を形成し、該透明電極層を分離する第2の分離溝を形成してなる光電変換素子において、前記第2の分離溝を前記第1の分離溝の内側に設けるとともに、前記第2の分離溝を前記透明電極層を貫通して前記光電変換層の途中位置までカットして設けていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項6】
前記光電変換層の下部の電極に前記第1の分離溝を設けるとともに、前記第2の分離溝を前記透明電極層を通して前記光電変換層の途中位置までカットして設け、前記第1の分離溝と前記第2の分離溝とを同一軸線上に配置していることを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第1の分離溝と前記第2の分離溝との間の距離を、前記第2の分離溝と下部の電極との間の抵抗が、これら分離溝によって分離された、各光電変換素子の並列抵抗成分の略10倍以上となるように設定していることを特徴とする請求項5または6に記載の光電変換素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−67883(P2010−67883A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234485(P2008−234485)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】