説明

光電気化学太陽電池

本発明は、色鮮やかな絵模様や文字を表示することができる光電気化学太陽電池とその用途を提供することを課題とし、沃素系酸化還元電解質を用いる光電気化学太陽電池において、波長550nmにおける電解質層の光透過率が85%以上である光電気化学太陽電池と、斯かる光電気化学太陽電池を複数配設してなり、その複数の光電気化学太陽電池における半導体電極の色の違いによって所望の絵模様、文字などを表示する太陽電池集合体とを提供することによって前記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は光電気化学太陽電池に関するものであり、とりわけ、半導体電極の色の違いを利用して絵模様、文字などを表示する光電気化学太陽電池に関する。
【背景技術】
エコロジー重点文明が喧伝される昨今、太陽光発電が火力発電や原子力発電に代わるクリーンな発電手段としてにわかに脚光を浴びるようになった。半導体を光照射すると起電力が生じるという太陽光発電の原理は古くから知られ、この原理を利用する太陽電池として、すでに、単結晶シリコン太陽電池、多結晶シリコン太陽電池、アモルファス太陽電池、化合物半導体太陽電池、無機太陽電池、有機太陽電池、光電気化学太陽電池(湿式太陽電池)などが考案されている。これらの太陽電池は、周知のとおり、その一部が実用化され、起電力は小さくても、軽量にして長寿命な電源として携帯機器や一般家庭などにおける簡易発電手段として急速に普及しつつある。
太陽電池の開発における焦眉の急は、火力発電をはじめとする既存の発電手段を代替するに足る発電コストの低減、特に、モジュールの大面積化と低廉化である。上記した太陽電池のうちで、光電気化学太陽電池は、半導体を酸化還元電解質へ接触させるだけで接合が形成でき、しかも、多結晶材料を用いても比較的高い光電変換効率が期待できるなどの理由により、潜在的に優れた太陽電池であると考えられている(例えば、浜川圭弘、桑野幸徳編、「太陽エネルギー工学」、株式会社培風館、1994年5月20日発行、209乃至210頁などを参照)。ところが、光電気化学太陽電池を構成する主要な部材の一つである半導体電極は、通常、吸光能を有する有機色素化合物によって光増感され、その結果として、光電気化学太陽電池は、他の太陽電池とは違って、半導体電極へ担持されている有機色素化合物の色がセル容器を透かして見えることとなり、適用分野によっては、その色が用途を制限するという問題があった。
半導体電極の色が透かして見えるという光電気化学太陽電池の欠点を利点に転じる試みの一つとして、複数の光電気化学太陽電池を適宜配設することによって、半導体電極の色の違いにより所望の絵模様、文字などを表示することができるカラー太陽電池が提案されている(例えば、特開2002−75472号公報、特開2002−164563号公報などを参照)。斯かる太陽電池は、発電機能を具備する表示手段として、例えば、社屋などにおいて、社名や社標を表示する手段として潜在的な用途を有すると考えられるけれども、従来の光電気化学太陽電池は、セル容器を透かして見える半導体電極の色がくすみ易く、色鮮やかな表示を得るのが難しいという問題があった。
斯かる状況に鑑み、この発明の課題とするところは、色鮮やかな絵模様、文字などを表示することができる光電気化学太陽電池とその用途を提供することにある。
【発明の開示】
この課題を解決すべく、本発明者が、沃素系酸化還元電解質を用いる光電気化学太陽電池において、視認性が高い波長550nm付近における電解質層の光透過率に着目して鋭意研究したところ、波長550nmにおける電解質層の光透過率が85%以上である光電気化学太陽電池は、実用上支障のない光電変換効率を維持しつつ、セル容器を透かして見える半導体電極が色鮮やかで、発電機能を具備する表示手段として、絵模様、文字などによる表示を必要とする多種多様の場面において有利に用い得ることを見出した。
すなわち、この発明は、沃素系酸化還元電解質を用いる光電気化学太陽電池において、波長550nmにおける電解質層の光透過率が85%以上である光電気化学太陽電池を提供することによって前記課題を解決するものである。
さらに、この発明は、斯かる光電気化学太陽電池を複数配設してなり、その複数の光電気化学太陽電池における半導体電極の色の違いによって所望の絵模様、文字などを表示する太陽電池集合体を提供することによって前記課題を解決するものである。
波長550nmにおける光透過率が85%以上である電解質層は、従来、光電気化学太陽電池において一般的に採用されていたものと比較すると、沃素系酸化還元電解質の濃度が著しく低い。電子移動の担い手である沃素系酸化還元電解質がさように低濃度の電解質層であっても、光電気化学太陽電池において、実用上支障のない光電変換特性を発揮し得るということ自体、予想に反した、全く意外な発見であった。
【図面の簡単な説明】
第1図は、この発明による光電気化学太陽電池の1例の模式図である。
第2図は、この発明による太陽電池集合体の1例の模式図である。
【符号の説明】
1………………………………半導体電極
2………………………………対極
1a、2a……………………基板
1b、2b……………………電気伝導層
3………………………………電解質層
4a、4b……………………光反射防止層
5a、5b……………………封止具
6a、6b、6c、6d……光電気化学太陽電池
7a、7b、7c……………ワイヤ
8………………………………支持部材
【発明を実施するための最良の形態】
この発明でいう光電気化学太陽電池とは、半導体電極と、対極と、電解質層と、それらを収容する一部又は全体が透明なセル容器を含んでなる太陽電池を意味する。この発明は、光電気化学太陽電池の形状、構造について特に制限を設けるものではないけれども、その主要な用途が太陽電池モジュール、太陽電池アレイなどの太陽電池集合体であることに鑑み、全体として嵩高くならない、通常、パネル状に形成されたものが用いられる。好ましい光電気化学太陽電池としては、全体として薄く構成でき、しかも、光電変換効率が高い点で、同じ出願人による特願2002−131521号明細書(発明の名称「光増感組成物」)や特願2002−296857号明細書(発明の名称「半導体電極」)に開示されたものが挙げられる。
図1はこの発明による光電気化学太陽電池の1例を示す模式図であり、図1において、1は半導体電極であり、斯かる半導体電極1は、例えば、基板1aの一側へ透明な電気伝導性材料を層状に付着させて電気伝導層1bとし、さらに、その電気伝導層1bへ密着させて、化合物半導体を層状に付着させることによって半導体層1cを形成した後、その半導体層1cへ有機色素化合物を主体とする光増感剤を担持させることによって得ることができる。
基板1aは、全可視領域において実質的に透明な、例えば、アルミノ珪酸塩ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、バリウム珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラスなどのガラスか、あるいは、アラミド、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリイミド、ポリウレタン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリメチルアクリレート、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、弗素系樹脂、メラミン系樹脂などのプラスチック、さらには、アルミナ、シリコン、石英、炭化珪素などのセラミックをはじめとする基板材料を板状、シート状、フィルム状又はネット状に形成したものが用いられ、必要に応じて、これらの基板材料は積層して用いられる。好ましい基板材料としては、例えば、アルミノ珪酸塩ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、石英ガラス、硼珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラスなどの、アルカリ含量、熱膨張係数がともに小さく、表面が平滑で傷がなく、研磨し易いフォトマスク用ガラスや、隣接する電気伝導膜との親和性に優れ、水分を透過し難い、例えば、アラミド系、エポキシ系、フェノール系、ポリアリレート系、ポリイミド系、ポリエステル系、芳香族ポリエーテル系、ポリオレフィン系、メラミン系及び弗素系のプラスチックが挙げられ、シリコンなどのセラミック材料は透明な基板材料と組み合わせて用いられる。ソーダ石灰ガラスなどのアルカリ含量が大きいガラスを用いる場合には、例えば、表面へシリカなどによる膜を形成する予処理をしておくのが望ましい。
電気電導層1bは、電気的に低抵抗率であって、しかも、全可視領域に亙って光透過率が大きい金属若しくは電気伝導性材料の1又は複数を、例えば、真空蒸着、スパッタリング、化学蒸着(CVD)、原子層エピタクシー(ALE)、塗布、浸漬などの方法により、基板1aの一側へ厚さ10nm以上、好ましくは、50nm以上の層状に付着させることによって形成される。電気伝導層1bにおける金属及び電気伝導性材料としては、例えば、金、白金、アルミニウム、ニッケルなどの金属、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、弗素若しくはアンチモンを微量混入させた酸化錫(以下、「NESA」と略記する。)、錫を微量混入させた酸化インジウム(以下、「ITO」と略記する。)などの金属酸化物、さらには、アニリン、チオフェン、ピロールなどを反復単位とする電気伝導性オリゴマー及び電気伝導性ポリマーなどが挙げられ、このうち、NESAを薄膜状に塗布したものが好ましい。
半導体層1cは、通常、平均粒子径5乃至500nmの多孔質構造を有する半導体のナノ粒子を含んでなる水性懸濁液を調製し、これを、塗布などの方法により、電気伝導層1bに対して0.1乃至100μm、好ましくは、1乃至50μmの厚さに付着させた後、焼結することによって形成することができる。半導体層1cを構成する半導体の具体例としては、斯界において汎用される化合物半導体一般、とりわけ、酸化セリウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化タングステン、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化インジウム、酸化錫、酸化ビスマスなどの金属酸化物、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸ナトリウムなどの複合金属酸化物、沃化錫、沃化銅、臭化銅などの金属ハロゲン化合物、硫化亜鉛、硫化チタン、硫化インジウム、硫化ビスマス、硫化カドミウム、硫化ジルコニウム、硫化タンタル、硫化銀、硫化銅、硫化錫、硫化タングステン、硫化モリブデンなどの金属硫化物、セレン化カドミウム、セレン化ジルコニウム、セレン化亜鉛、セレン化チタン、セレン化インジウム、セレン化タングステン、セレン化モリブデン、セレン化ビスマス、テルル化カドミウム、テルル化タングステン、テルル化モリブデン、テルル化亜鉛、テルル化ビスマスなどのカルコゲニド化合物が挙げられ、必要に応じて、これらは組み合わせて用いられる。特に、同じ出願人による特開2001−357899号公報に記載された、粒度分布において複数のピークを有する半導体粒子群からなる化合物半導体は、この発明による半導体電極において極めて有用である。なお、これらの半導体は単なる例示であって、この発明で用いる半導体は決してこれらに限定されてはならず、発明の目的を逸脱しない範囲で、p型半導体及びn型半導体のうちから適宜のものを選択すればよい。また、半導体のナノ粒子を含んでなる懸濁液を調製するに当たって、半導体層における多孔質構造の表面積を増大させる目的で、例えば、分子量5,000乃至500,000ダルトンのポリエチレングリコールなどの水溶性合成高分子物質や、プルラン、エルシナンなどの水溶性天然高分子物質を半導体に対して5乃至50質量%、好ましくは、10乃至30質量%添加するのが望ましい。
斯くして得られる半導体電極1を光増感するには、例えば、吸光能を有する1又は複数の有機色素化合物を濃度0.01mMから飽和濃度、好ましくは、0.1乃至0.5mMになるように適宜溶剤に溶解し、その溶液に半導体電極1を浸漬するか、あるいは、その溶液を半導体電極1における半導体層1cへ塗布した状態で、周囲温度か周囲温度を上回る温度で1分間以上、好ましくは、1乃至24時間静置した後、溶剤を蒸散させ、半導体電極1をして有機色素化合物を担持せしめる。
光増感剤の主体となる有機色素化合物の種類については、それが負に荷電し得る原子団を有し、正又は負に荷電し得る原子団同士の相互作用などによって、半導体電極1における半導体層1cへ担持させ得るものであって、かつ、半導体層1cを実質的に光増感し得るものであるかぎり、特に制限がない。個々の有機色素化合物としては、斯界において光増感剤として用いられる、例えば、アクリジン系、アザアヌレン系、アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、インダンスレン系、オキサジン系、キサンテン系、クマリン系、ジオキサジン系、チアジン系、チオインジゴ系、テトラポルフィラジン系、トリフェニルメタン系、トリフェノチアジン系、ナフトキノン系、フタロシアニン系、ベンゾキノン系、ベンゾピラン系、ベンゾフラノン系、ポリメチン系、ポルフィリン系、ローダミン系の有機色素化合物が挙げられ、必要に応じて、これらは組み合わせて用いられる。好ましい有機色素化合物としては、例えば、カルボキシ基、スルホ基、フェノール性ヒドロキシ基などの負に荷電し得る原子団を有するクマリン系の有機色素化合物や、オキソノール色素、シアニン色素、スチリル色素、メロシアニン色素、ロダニン色素をはじめとするポリメチン系の有機色素化合物が挙げられ、とりわけ、同じ出願人による特願2002−131521号明細書(発明の名称「光増感組成物」)に開示されたクマリン系及びポリメチン系の有機色素化合物が特に好ましい。
溶剤としては、蒸散し易く、有機色素化合物が実質的に溶解するものであるかぎり、特に制限がない。個々の溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリルなどのニトリル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類などが挙げられ、必要に応じて、これらは組み合わせて用いられる。これらの溶剤のうち、有機色素化合物が溶解し易く、しかも、蒸散させ易い点で、メタノール、エタノールなどのアルコール類、アセトニトリルなどのニトリル類及びこれらの混液が好ましい。
図1における2は対極であり、通常、半導体電極1におけると同様の基板2aの一側へ、例えば、真空蒸着、化学蒸着、スパッタリング、原子層エピタクシー、塗布、浸漬などの汎用の方法により、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、白金、銅、銀、金、亜鉛、アルミニウム、錫などの金属か、あるいは、炭素若しくは半導体電極1におけると同様の半導体を厚さ0.1nm以上、好ましくは、10nm以上、より好ましくは、100nm以上の層状に付着せしめて電気伝導層2bを形成することによって得ることができる。
この発明の光電気化学太陽電池は、斯くして得られた半導体電極1と対極2とをセル容器中の電解質層へそれぞれ浸漬せしめることによって得ることができる。図1における3はその電解質層であり、通常、有機溶剤又はイオン性液体を主体に構成され、これに沃素と、必要に応じて、例えば、沃化イミダゾリウム誘導体、沃化リチウム、沃化カリウム、沃化テトラアルキルアンモニウム塩などの沃素化合物とが沃素系酸化還元電解質として添加される。添加する沃素系酸化還元電解質の量は、波長550nmにおける電解質層の光透過率が、沃素系酸化還元電解質を添加しない対照の85%以上、好ましくは、90乃至99%になるように設定される。波長550nmにおける電解質層の光透過率が85%を下回ると、セル容器を透かして見える半導体電極の色がくすみ、色鮮やかな表示が得られ難くなり、また、半導体電極を構成する半導体や光増感剤の種類によっては、光透過率が99%を超えると、光電変換効率が実用上の支障を招来するレベルにまで低下することがあるので、通常、上記の範囲で加減するのが望ましい。
電解質層3を構成するための有機溶剤としては、取扱い易く、安定であって、沃素系酸化還元電解質を実質的に溶解させるものであるかぎり、特に制限がない。斯かる溶剤の具体例としては、例えば、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、スクシノニトリルなどのニトリル類、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどのエステル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチル燐酸トリアミドなどのアミド類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6などのエーテル類、ピリジンなどのアミン類、ニトロメタンなどのニトロ化合物、ジメチルスルホキシドなどの含硫化合物が挙げられ、必要に応じて、これらは組み合わせて用いられる。
電解質層3を構成するためのイオン性液体としては、斯界において汎用される、例えば、イミダゾリウム塩、オキサゾリウム塩、スルホニウム塩、チアゾリウム塩、トリアゾリウム塩、ピラゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピリダジウム塩、ピリミジウム塩、ホスホニウム塩などが挙げられる。イオン性液体における対イオンとしては、例えば、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン、沃素三量体(I)、硫酸イオン、硝酸イオン、四硼素酸イオン、六弗アンチモン酸イオン、六弗燐酸イオンなどの無機陽イオン、チオシアン酸イオン、トリス(トリフルオロメタンスルホン)カーバイドイオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオンなどの有機陰イオンが挙げられ、このうち、沃素イオン及び沃素三量体イオンが好ましい。
特に好ましいイオン性液体は、一般式1で表されるイミダゾリウム塩を主体とするものであって、一般式1において、R及びRは互いに同じか異なる脂肪族炭化水素基を表す。R及びRにおける脂肪族炭化水素基としては、炭素数1乃至20の、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基などが挙げられ、このうち、炭素数1乃至10のメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、3−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2−ペンテニル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、5−メチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが好ましい。なお、一般式1におけるXは、上述したごとき対イオンである。
一般式1:

この発明による光電気化学太陽電池においては、必要に応じて、半導体電極1と対極2との物理的接触を防ぐためにスペーサーを設けることを妨げない。スペーサーの材質としては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルポリアクリレート、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチックや、石英、ガラス、ソーダ石灰ガラス、アルミノ珪酸塩ガラス、アルミノ硼珪酸ガラス、硼珪酸ガラス、バリウム珪酸ガラス、バリウム硼珪酸ガラスなどのガラス、石英、陶器などのセラミックをはじめとする非電気伝導性材料が挙げられ、これを単用するか適宜組み合わせて厚さ1μm以上、好ましくは、10乃至50μmの膜状、フィルム状又はシート状に形成する。なお、光電気化学太陽電池において、半導体電極1、対極2などを収容するセル容器がそれらの物理的接触を妨げる構造を有している場合には、スペーサーを省略することができる。
さらに、この発明による光電気化学太陽電池においては、必要に応じて、例えば、図1に見られるがごとく、大気と基板1a、2aとの屈折率の違いによる基板1a、2aの表面における光反射を防止する目的で、例えば、弗化マグネシウムや氷晶石を主体とする光反射防止層4a、4bや、使用環境における劣化を最小限に抑えるべく、光電気化学太陽電池の一部又は全体を、例えば、封止ガラスや金属キャップなどの封止具5a、5bにより封止するか、あるいは、防湿塗料を塗布したり、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂などによる保護膜で覆うのが望ましい。
この発明の光電気化学太陽電池の使用方法について説明すると、この発明の光電気化学太陽電池は、通常、複数の電池ユニットを組み合わせてなる、例えば、太陽電池モジュール、太陽電池アレイなどの太陽電池集合体として用いられる。斯かる太陽電池集合体は、この発明による複数の光電気化学太陽電池を互いに直列又は並列に接続しながら、複数の光電気化学太陽電池が、全体として、個々の光電気化学太陽電池における半導体電極の色の違いによって所望の絵、模様、図形、文字、記号などを表示するように配設することによって得ることができる。
図2は、この発明による太陽電池集合体の1例を示す模式図である。図2に示す太陽電池集合体において、6a、6b、6c、6dはこの発明の光電気化学太陽電池であり、ワイヤ7a、7b、7cにより互いに直列に接続した状態で、それぞれ、例えば、強化ガラス、強化プラスチックなどの物理的に強靭な非電気伝導性材料による支持部材8の一側へ光電気化学太陽電池6a、6b、6c、6dにおける対極側を対向させて配設されている。個々の光電気化学太陽電池における半導体電極の色の違いにより絵模様、文字などを表示するには、例えば、光電気化学太陽電池6a、6b、6c、6dの平面形状を正方形、長方形、菱形、台形、三角形、円形などに形成する一方、表示しようとする絵模様、文字などに応じて、半導体電極が、例えば、紫色、青色、緑色、黄色、赤色、黒色に見えるものを適宜選択し、光電気化学太陽電池6a、6b、6c、6dなどが、全体として、半導体電極の色の違いによって所望の絵、模様、図形、文字、記号、あるいは、それらの組合わせを表示するように縦横に配設する。光電気化学太陽電池6a、6b、6c、6dの大きさとしては、表示しようとする絵模様、文字などの内容、種類、大きさ、精度などを勘案しながら、例えば、光電気化学太陽電池の形状が方形である場合、その1辺の長さを1mm乃至1m程度にする。
図2に示すがごとき太陽電池集合体は、この発明による複数の光電気化学太陽電池を縦列及び/又は横列に配設し、それらの電極端同士をワイヤ7a、7b、7cなどにより互いに直列又は並列に適宜接続した状態で、必要に応じて、エチレンビニルアセテートシート、弗化ビニルシートなどによる防湿シートで覆い、減圧下で加熱してラミネートした後、汎用のアルミニウム枠などへ取り付け、太陽電池モジュールとすることもできる。この場合、各太陽電池モジュールを構成する光電気化学太陽電池における半導体電極の色はモジュール内で同じであっても異なっていてもよい。半導体電極の色がモジュール内で同じである場合には、複数のモジュールを縦列及び/又は横列に配設してなる、例えば、太陽電池アレイの形態にある太陽電池集合体が、全体として、所望の絵模様、文字などを表示することとなるのは言うまでもない。光電気化学太陽電池同士を直列に接続するか並列に接続するかにもよるけれども、太陽電池集合体の安定動作という点で、同様の開放電圧や短絡電流を有するもの同士を組み合わせるのが望ましい。太陽電池集合体の出力が、例えば、1kWを超える場合、保守などの観点から、集合体を複数のブロックに分離し、各ブロックごとに遮断器や逆流防止ダイオードを介挿するのが望ましい。
既述のとおり、この発明による光電気化学太陽電池とその集合体は、発電機能を具備する表示手段として、絵模様、文字などによる表示を必要とする多種多様の場面において有利に用いることができる。例えば、事業所などにおいては、この発明による太陽電池集合体を社屋の外壁や窓ガラスに取り付けて、社名や社標、キャッチフレーズなどを表示することができ、発生した電力は事業所で消費する電力の一部に充てることができる。車輌や船舶などにおいては、太陽電池集合体を側壁、天井壁、窓などへ取り付けることによって、所属や船名、船籍などを表示することができ、発生した電力は、例えば、指示器や表示灯などへ充てることができる。電気・機械器具などにおいては、キャビネットなどへ取り付けることによって、イラストや器具の型式などを表示することができ、発生した電力は、例えば、メモリー用のバックアップ電源として利用することができる。この発明の太陽電池集合体を、従来公知の太陽電池におけると同様に、例えば、架台などへ取り付けて屋外で用いる場合、太陽電池集合体が、例えば、エコロジーに関連する標語などを表示するようにしてもよい。
以下、この発明の実施の形態につき、実施例に基づいて説明する。
実施例1:半導体電極
常法により、表面をシリカ処理したソーダ石灰ガラス製の基板1a(厚さ1.8mm、長さ1cm、幅1cm)の一側へNESAを蒸着して厚さ100nmの電気伝導層1bを形成した。引き続き、平均粒子径23nmのチタンのナノ粒子と平均粒子径12nmの酸化チタンのナノ粒子とを質量比4:1の割合で混合し、20質量%のポリエチレングリコール水溶液に懸濁させ、電気伝導層1bへ厚さ0.1nmの厚さになるように塗布し、乾燥させた後、450℃で30分間焼結して半導体電極を得た。
別途、化学式1で表されるポリメチン系の有機色素化合物(吸収極大波長570nm)か、化学式2で表されるポリメチン系の有機色素化合物(吸収極大波長586nm)か、あるいは、化学式2で表されるポリメチン系の有機色素化合物と化学式3で表されるクマリン系の有機色素化合物(吸収極大波長421nm)との混合物(モル比1:4)を、それぞれ、有機色素化合物の濃度が全体として2×10−4Mになるようにメタノールへ溶解させた後、得られたそれぞれの溶液へ上記で得られた半導体電極を10時間浸漬した。その後、半導体電極を取り出し、室温下で放置してメタノールを蒸散させることによって、光増感された3種類の半導体電極を得た。
化学式1:

化学式2:

化学式3:

実施例2:光電気化学太陽電池
実施例1の方法により得た3種類の半導体電極のいずれかと、実施例1の半導体電極におけると同様のガラス製基板の一側へ、常法により、ITO電極及び白金をこの順序で蒸着して厚さ100nmの電気伝導層を有する対極を形成し、さらに、半導体電極及び対極における電気伝導層を有しない側へ弗化マグネシウムによる反射防止層を設け、一部開口部を除いて封止具へ固定した後、一般式1で表されるイオン性液体としてのN−メチル−N’−ブチルイミダゾリウムアイオダイドと、沃素系酸化還元電解質としての沃素との混合物(沃素単独の濃度が1.87質量%)を半導体電極と対極との間隙へ注入して電解質層(波長550nmにおける光透過率が90%)とした。その後、開口部を封止具により封止し、光増感剤としての有機色素化合物を半導体電極へ担持せしめた光電気化学太陽電池を得た。
斯くして得られた光電気化学太陽電池と、別途、沃素濃度を16質量%まで高めることによって、波長550nmにおける電解質層の光透過率を80%にした以外は上記と同様にして作製した光電気化学太陽電池につき、セル容器の一部を構成する半導体電極側の基板を透かして見える半導体電極の色を肉眼観察した。その結果、後者の光電気化学太陽電池においては、半導体電極がくすんで見えたのに対して、波長550nmにおける電解質層の光透過率が90%である前者の光電気化学太陽電池においては、半導体電極がセル容器を透かして色鮮やかに見えた。この事実は、半導体電極がセル容器を透かして色鮮やかに見えるようにするためには、電解質層における光透過率を80%を超えるレベル、詳細には、85%以上、好ましくは、90%以上にすることが肝要であることを物語っている。
実施例3:光電気化学太陽電池の光電変換特性
実施例2の方法により得た、波長550nmにおける電解質層の光透過率が90%である3種類の光電気化学太陽電池につき、光源として、キセノンランプとバンドパスフィルターとを組み合わせた汎用のソーラーシミュレーター(エアマス1.5、照度96,500lux、輻射エネルギー密度97mW/cm)を用い、常法にしたがって光電変換特性を調べた。結果を表1に示す。

表1の結果に見られるとおり、試験に供した光電気化学太陽電池は、いずれも、可視領域において良好な光電変換特性を発揮し、しかも、開放電圧及び短絡電流がよく揃い、セル容器を透かして見える半導体電極も色鮮やかであった。
実施例4:太陽電池集合体
実施例2の方法により作製した光電気化学太陽電池を用いて太陽電池集合体を作製した。
すなわち、実施例2の方法により作製した、波長550nmにおける電解質層の光透過率が90%である3種類の光電気化学太陽電池を合計77個とり、電極導出端同士を互いに直列接続しながら、半導体電極の色が、全体として、アルファベットによる文字列「HB」を表すように、汎用のエチレンビニルアセテートシートを介挿した状態で、強化ガラス製の支持部材8の一側へ縦横に配設した(1列当り11個で7列)。配色としては、文字「H」及び「B」が、それぞれ、緑色及び青色に、文字列「HB」の背景が赤色に見えるようにした。その後、太陽電池集合体における支持部材8側の面とは反対側の面に対して、エチレンビニルアセテートシートと弗化ビニルシートとをこの順序で載置した後、常法にしたがって、減圧下で加熱することによって集合体全体をラミネートした。
晴天の日を選んで、本例の太陽電池集合体を屋外へ持ち出し、光電変換特性を調べたところ、所期の起電力が安定して得られた。しかも、「HB」の文字列は色鮮やかで、離れた位置からも明確に視認することができた。光電変換特性にも優れた本例の太陽電池集合体は、発電機能を具備する表示手段として、屋内外において有利に用いることができる。
実施例5:光電気化学太陽電池
沃素45mM、沃化リチウム30mM、ジメチルヘキシルイミダゾリウムアイオダイド330mM及び4−tert−ブチルピリジン100mMを含有するアセトニトリル溶液により構成される電解質層(波長550nmにおける光透過率が95%)を用いた以外は、実施例2におけると同様にして3種類の光電気化学太陽電池を作製した。
本例の光電気化学太陽電池は、いずれも、良好な光電変換特性を発揮し、しかも、セル容器の一部を構成する半導体電極側の基板を透かして、半導体電極が色鮮やかな青色、緑色又は赤色に見えた。
実施例6:太陽電池集合体
実施例5の方法により作製した3種類の光電気化学太陽電池を用いた以外は実施例3におけると同様にして太陽電池集合体を作製した。
晴天の日を選んで、本例の太陽電池集合体を屋外へ持ち出し、光電変換特性を調べたところ、所期の起電力が安定して得られた。しかも、「HB」の文字列は、いずれも、色鮮やかで、離れた位置からも明確に視認することができた。光電変換特性にも優れた本例の太陽電池集合体は、発電機能を具備する表示手段として、屋内外において有利に用いることができる。
【産業上の利用の可能性】
以上説明したとおり、この発明による光電気化学太陽電池及び太陽電池集合体は、発電機能を具備する表示手段として、例えば、事業所、車輌、船舶、電気・機械器具など、絵模様、文字などによる表示を必要とする多種多様の場面において有利に用いることができる。
斯くも顕著な効果を奏するこの発明は、斯界に貢献すること誠に多大な、意義のある発明であると言える。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
沃素系酸化還元電解質を用いる光電気化学太陽電池において、波長550nmにおける電解質層の光透過率が85%以上である光電気化学太陽電池。
【請求項2】
請求の範囲第1項に記載の光電気化学太陽電池を複数配設してなり、その複数の光電気化学太陽電池における半導体電極の色の違いによって所望の絵模様、文字などを表示する太陽電池集合体。

【国際公開番号】WO2004/055934
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【発行日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−560614(P2004−560614)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015732
【国際出願日】平成15年12月9日(2003.12.9)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】