説明

光電気素子、光電気素子の製造方法、及び光増感剤

【課題】高い光電変換効率を有する光電気素子を提供する。
【解決手段】光電気素子は第一の電極と、光増感剤を担持する電子輸送層と、正孔輸送層と、第二の電極とを備え、これらの要素が前記の順番に重ねられている。前記電子輸送層が、下記構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子内に2つ以上有する前駆体が電解重合することにより生成する有機化合物から形成されている。光電気素子は前記有機化合物と、この有機化合物に浸透している電解質溶液とで構成されるゲル層を備える。


(構造式(1)におけるMは、シアノ基、フルオロ基、クロロ基又はブロモ基であり、Aは対アニオンである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を電気エネルギーに変換する光電気素子、この光電気素子の製造方法、及びこの光電気素子を製造するために用いられる光増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光を電気エネルギーに変換する発電素子などの光電気素子において、電子を輸送するための電子輸送層の重要性が高まっている。この電子輸送層には、高い電子輸送特性が必要とされる。また、この電子輸送層において、電荷分離が生じる界面(以下、反応界面という)が充分に大きくなることも重要である。
【0003】
このような電子輸送層は、従来、金属、有機半導体、無機半導体、導電性高分子、導電性カーボンなどから形成されていた。
【0004】
例えばフラーレン、ペリレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ペンタセンなどの電子をキャリアとする有機物から形成される電子輸送層が提案されている。これにより、電子輸送層の電子輸送能力が向上し、光電気素子の光電変換効率が向上しつつある(フラーレンについては非特許文献1、ペリレン誘導体については非特許文献2、ポリフェニレンビニレン誘導体については非特許文献3、ペンタセンについては非特許文献4を、それぞれ参照。)。
【0005】
また、分子素子型太陽電池において、電子供与性分子(ドナー)と電子受容性分子(アクセプター)が化学結合した構造体を基板上に薄膜形成することが報告されている(非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】P.Peumans, Appl. Phys. Lett., 79号, 2001年, 126ページ
【非特許文献2】C.W.Tang, Appl. Phys. Lett., 48号, 1986年, 183頁
【非特許文献3】S.E.Shaheen, Appl. Phys. Lett., 78号, 2001年, 841頁
【非特許文献4】J.H.Schon, Nature (London), 403号, 2000年, 408頁
【非特許文献5】化学工業2001年7月号, 41頁, 「分子太陽電池の展望」今堀博, 福住俊一著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記各非特許文献で報告されている電子輸送層では、電子輸送性能の向上と、反応界面が充分に大きくなることとは、未だ両立されていない。
【0008】
例えば、フラーレンなどから形成される有機系の電子輸送層を備える光電気素子では、電荷分離後に電荷の再結合が起こり易く、このため変換効率が充分ではない。酸化チタンなどから形成される無機系の電子輸送層を備える光電気素子では、充分に大きな反応界面が形成されないこと、並びに開放電圧に影響する電子伝導電位が電子輸送層の構成元素によって一義的に決まってしまうことにより、変換効率が充分ではない。
【0009】
更に、有機系の電子輸送層を構成するフラーレンなどは、分子量が小さいため材料としての安定性が低く、しかも溶媒への溶解性が比較的高くなってしまう。このためフラーレンなどから電子輸送層が形成される場合には、デバイス設計の自由度が低くなってしまう。
【0010】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、電子輸送層が優れた電子輸送特性を発揮すると共にこの電子輸送層による反応界面が充分に大きくなることで、高い光電変換効率を有する光電変換素子、この光電気素子の製造方法、及びこの光電気素子を製造するために用いられる光増感剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光電気素子は、第一の電極と、光増感剤を担持する電子輸送層と、正孔輸送層と、第二の電極とを備えると共に、これらの要素が前記の順番に重ねられ、
前記電子輸送層が、下記構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子内に2つ以上有する前駆体が電解重合することにより生成する有機化合物から形成され、
前記有機化合物と、この有機化合物に浸透している電解質溶液とで構成されるゲル層を備える。
【0012】
【化1】

【0013】
(構造式(1)におけるMは、シアノ基、フルオロ基、クロロ基又はブロモ基であり、Aは対アニオンである。)
本発明に係る光電気素子において、前記前駆体が、前記構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子内に2つ有し、前記有機化合物が直鎖状の重合体であってもよい。
【0014】
本発明に係る光電気素子において、前記有機化合物が、下記構造式(2)で示される化合物と、下記構造式(3)で示される化合物のうち少なくとも一方を含んでもよい。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
本発明に係る光電気素子において、前記前駆体が、前記構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子内に3以上有し、前記有機化合物が架橋構造を有してもよい。
【0018】
本発明において、前記有機化合物が、下記構造式(4)で示される化合物を含んでもよい。
【0019】
【化4】

【0020】
本発明に係る光電気素子において、前記前駆体中の対アニオンが、臭素イオン、塩素イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、及びテトラフルオロホウ酸イオンから選ばれるアニオンであってもよい。
【0021】
本発明に係る光電気素子において、前記有機化合物と前記光増感剤とが化学結合していてもよい。
【0022】
本発明に係る光電気素子の製造方法は、前記光電気素子の製造方法であって、
前記前駆体を含む液体に前記第一の電極を浸漬させ、前記液体と前記第一の電極とを通電させて電解重合により前記第一の電極の表面上に前記有機化合物を析出させる工程を含む。
【0023】
本発明に係る光電気素子の製造方法においては、前記前駆体を含む液体に前記光増感剤を配合し、前記前駆体と前記光増感剤を同時に電解重合してもよい。
【0024】
本発明に係る光電気素子の製造方法においては、前記第一の電極の表面上に前記有機化合物を析出させる前記工程の後、前記光増感剤を含む液体に前記有機化合物を浸漬させることで前記光増感剤を前記有機化合物に反応させてもよい。
【0025】
本発明に係る光増感剤は、前記光電気素子の製造方法に用いられる光増感剤であって、脱離基を1分子内に1つ以上有する。
【0026】
本発明に係る光増感剤は、下記構造式C又はDに示される置換基を有してもよい。
【0027】
【化5】

【0028】
構造式C及びDにおけるRは脱離基を示す。
【0029】
本発明に係る光増感剤は、下記一般式Eで示されるポルフィリン誘導体、分子中に下記式Fで示されるインドリン骨格を備えるインドリン系色素、又は下記一般式Gに示すルテニウム錯体系色素であってもよい。
【0030】
【化6】

【0031】
Rは脱離基を示す。
【0032】
本発明に係る光増感剤においては、前記脱離基がシアノ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基から選択される1種以上であってもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、光電気素子の電子輸送層が優れた電子輸送特性を発揮すると共にこの電子輸送層による反応界面が充分に大きくなることで、光電気素子が高い光電変換効率を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1に、光電気素子1の一例を示す。光電気素子1は、第一の電極2、電子輸送層3、正孔輸送層4、及び第二の電極5を備える。電子輸送層3と正孔輸送層4とは、第一の電極2と第二の電極5との間に挟まれている。すなわち、第一の電極2と、電子輸送層3と、正孔輸送層4と、第二の電極5とが、この順番に重なっている。
【0036】
第一の電極2は、電子輸送層3と電気的に接続されている。この第一の電極2は、光電気素子1の負極として機能し、電子輸送層3から電子を取り出して外部の二次電池やキャパシタなどへ送る機能を発揮する。第一の電極2は、電子輸送層3を保持する機能も有する。
【0037】
第一の電極2は、導電性材料の単独膜から形成されてもよく、第一の基板7の上に積層された導電性材料から形成されてもよい。導電性材料の好ましい例としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;炭素;インジウム−錫複合酸化物、アンチモンがドープされた酸化錫、フッ素がドープされた酸化錫等の導電性の金属酸化物;前記金属や化合物の複合物;前記金属や化合物上に酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムなどがコートされた材料などが挙げられる。尚、本実施形態では電子輸送層3を構成する有機化合物がハロゲンイオンなどに比べて金属を腐食を引き起こしにくいため、第一の電極2は汎用の金属から形成されてもよい。
【0038】
第一の電極2の表面抵抗は低い程よいが、好ましくは表面抵抗が200Ω/□以下、より好ましくは50Ω/□以下である。この表面抵抗の下限に特に制限はないが、通常0.1Ω/□である。
【0039】
第一の電極2は光透過性を有してもよい。この場合、外部からの光がこの第一の電極2を通じて光電気素子1内に入射し得るようになる。第一の電極2が透明であることで光を透過可能であることが好ましい。この場合、第一の電極2は例えば透明導電材料などから形成される。また、第一の電極2が隙間を有することで、第一の電極2が隙間を通じて光を透過可能であってもよい。第一の電極2に形成される隙間としては、例えばスリット状や孔状の隙間が挙げられる。スリット状の隙間の形状は直線状、波線状、格子状などのいかなる形状でもよい。導電性の粒子が配列することで第一の電極2が形成されると共にこの導電性の粒子の間に隙間が形成されてもよい。このような隙間を有する第一の電極2が形成されると、透明導電材料が不要となり、材料コストの削減が可能となる。
【0040】
第一の電極2の光透過率は高い程よい。第一の電極2の光透過率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上である。
【0041】
第一の基板7上に酸化インジウムや酸化スズ、酸化亜鉛などの透明導電性酸化物が堆積することで第一の電極2が形成される場合には、例えば第一の基板7上にスパッタ法や蒸着法などの真空プロセスが採用される。また、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷法などの湿式法が採用されてもよい。
【0042】
第一の電極2の厚みは1〜100nmの範囲であることが好ましい。この場合、第一の電極2の厚みの均一化が容易であると共に、第一の電極2が十分な光透過性を発揮する。
【0043】
第一の電極2は第一の基板7の上に積層して設けられてもよい。この場合、第一の基板7は、光電気素子1の耐久性向上などの観点から、例えばガラス、プラスチックなどの構造材料から形成される。第一の基板7は第一の電極2を支持する機能を発揮する。
【0044】
第一の電極2を通して光電気素子1へ光が入射する場合は、第一の基板7は透光性を有するガラスやシートなどから形成される。この場合、外部からの光を第一の電極2へ導く機能を発揮し、光はまず第一の基板7、第一の電極2を順次通過して光電気素子1内へ入射する。第一の電極2を通して光電気素子1へ光が入射しない場合は、第一の基板7は透光性を有しなくてもよい。
【0045】
第二の電極5は、光電気素子1の正極として機能する。第二の電極5は、例えば第一の電極2の場合と同様の材料から、第一の電極2の場合と同様の方法により形成される。
【0046】
第二の電極5が光電気素子1の正極として効率よく作用するためには、第二の電極5が、正孔輸送層4における電解質の還元体に電子を与える触媒作用を有する素材から形成されることが好ましい。このような素材としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、インジウム等の金属;グラファイト、カーボンナノチューブ、白金を担持したカーボン等の炭素材料;インジウム−錫複合酸化物、アンチモンをドープした酸化錫、フッ素をドープした酸化錫等の導電性の金属酸化物;ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などが、挙げられる。これらの素材のうち、白金、グラファイト、ポリエチレンジオキシチオフェンなどが特に好ましい。
【0047】
第二の電極5は透明であってもよい。この場合、外部からの光がこの第二の電極5を通じて光電気素子1内に入射し得るようになる。
【0048】
更に第一の電極2と第二の電極5が共に透明であれば、外部からの光がこの第一の電極2と第二の電極5の両方を通じて光電気素子1内に入射し得るようになる。この場合、例えば光の反射などによって、外部から第一の基板7と第二の基板8の両方へ向けて光が照射される場合に有効である。
【0049】
第二の電極5は第二の基板8の上に積層して設けられてもよい。第二の基板8は、例えば第一の基板7の場合と同様の材料から形成される。第一の基板7が透光性を有する場合、第二の基板8は透光性を有していても、有していなくてもよい。但し、第一の基板7と第二の基板8の両方からの光の入射が可能となるためには、第二の基板8は透光性を有することが好ましい。第一の基板7が透光性を有さない場合は、第二の基板8は透光性を有することが好ましい。
【0050】
電子輸送層3は、有機高分子等の有機化合物から構成される。この電子輸送層3を構成する有機化合物が、有機化合物の酸化還元部の還元状態を安定化させる電解質溶液によって膨潤することで、ゲル層6が形成されている。ゲル層6内では、有機化合物が立体網目構造をとり、この網目空間内を電解質溶液が満たしている。このゲル層6内の有機化合物が電子輸送層3を構成する。
【0051】
有機化合物は、その分子内に酸化還元部とゲル部位とを有する。酸化還元部は、繰り返し酸化還元が可能な部位、すなわち酸化還元反応において可逆的に酸化体および還元体となる部位である。この酸化還元部は、酸化体と還元体からなる一対の酸化還元系を構成する部位で構成されればよい。酸化還元部の酸化体と還元体は同一電荷を持つことが好ましい。ゲル部位は、電解質溶液を含んで膨潤してゲルとなる部位である。酸化還元部はゲル部位に化学的に結合している。有機化合物の分子内での酸化還元部とゲル部位の位置関係は、特に限定されないが、例えばゲル部位で分子の主鎖などの骨格が形成される場合に、酸化還元部は側鎖として主鎖に結合した構造となる。またゲル部位を形成する分子骨格と酸化還元部を形成する分子骨格が交互に結合した構造であってもよい。このように酸化還元部とゲル部位が有機化合物の同一分子内に存在していると、酸化還元部がゲル層6内で、電子を輸送しやすい位置に保持されやすくなる。ゲル層6のゲルの状態は、例えば、こんにゃく状や、イオン交換膜のような外観形状であることが好ましいが、特に制限されない。
【0052】
ゲル層6内に形成される反応界面の大きさに影響を与える物理指標として、膨潤度がある。膨潤度は、次の式で表される。
【0053】
膨潤度=(ゲルの重量)/(ゲル乾燥体の重量)×100
ゲル乾燥体とは、ゲル層6を乾燥させたものを指す。ゲル層6の乾燥とは、ゲル層6に内包される溶液の除去、特には溶媒の除去を指す。ゲル層6を乾燥させる方法としては、加熱、真空環境中での溶液または溶媒の除去、他の溶媒でのゲル層6に内包される溶液又は溶媒の除去などが挙げられる。
【0054】
他の溶媒でのゲル層6に内包される溶液または溶媒の除去に際しては、内包される溶液または溶媒と親和性が高く、さらに、加熱、真空環境中で除去しやすい溶媒が選択されることが、ゲル層6に内包される溶液または溶媒の効率的な除去のために好ましい。
【0055】
ゲル層6の膨潤度は、110〜3000%であることが好ましく、150〜500%がより好ましい。この膨潤度が110%未満である場合、ゲル層6中での電解質成分が少なくなるために十分に酸化還元部の安定化が行なわれなくなるおそれがある。膨潤度が3000%を超える場合は、ゲル層6中での酸化還元部が少なくなって電子輸送能力が低下するおそれがある。このためいずれの場合も光電気素子1の特性が低下することになる。
【0056】
酸化還元部とゲル部位とを一つの分子中に有する有機化合物は、例えば次の一般式で表される。
【0057】
(Xnj:Y
(Xはゲル部位を示し、Xはゲル部位を形成する化合物のモノマーを示す。ゲル部位は例えばポリマー骨格で形成される。モノマーの重合度nは、n=1〜10万の範囲が好ましい。Yは(Xに結合している酸化還元部を示す。またj,kはそれぞれ1分子中に含まれる(X、Yの数を表す任意の整数であり、いずれも1〜10万の範囲が好ましい。酸化還元部Yはゲル部位(Xを構成するポリマー骨格のいかなる部位に結合していてもよい。
【0058】
有機化合物は、この有機化合物の前駆体となる化合物(以下、単に前駆体という)の電解重合により得られる。前駆体は、下記構造式(1)に示す構造を有する部位を、1分子内に2つ以上有する化合物である。
【0059】
【化7】

【0060】
構造式(1)におけるMは、シアノ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基から選ばれる電解重合性の官能基である。
【0061】
構造式(1)における対アニオンAとしては、例えば臭素イオン、塩素イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、及びテトラフルオロホウ酸イオンから選ばれるアニオンが挙げられる。
【0062】
電解重合法による有機化合物の合成にあたっては、例えば前駆体を含有する溶液に第一の電極2とカウンター電極とが浸漬される、この状態で第一の電極2とカウンター電極との間に電圧が印加されると、電気化学的反応により前駆体が第一の電極2上で重合し、有機化合物が析出する。この電解重合法では、CVDの場合のような高度な設備や技術は必要とされず、それでいて有機化合物が析出する速度が速く、しかも析出した有機化合物は第一の電極2から剥離しにくくなり、更に有機化合物の緻密化及び薄膜化が容易となる。有機化合物が緻密化すると、電子輸送層3内に酸化還元部位が密に配置されることになり、このため電子輸送層3が高い電子輸送性を発揮する。また、電子輸送層3を構成する有機化合物が三次元的に広がることによってこの有機化合物の安定性が高くなる。更にこの有機化合物の溶媒への溶解性が低減し、電解質溶液の溶媒の選択の幅が広がる。
【0063】
このようにして得られる有機化合物は、酸化還元部として、下記構造式(5)に示すビピリジニウム構造単位を有する。このビピリジニウム構造単位は、電解重合により、前駆体の構造式(1)に示す構造を有する部位からMで示される置換基が脱離すると共にこの部位におけるMで示される置換基が脱離した位置同士が結合することで、生成する。このピリジウム構造が単位1電子還元されるとピリジウムカチオンラジカルが生成し、更に1電子還元されるとピリジウムジラジカルが生成する。逆に、ピリジウムジラジカルが1電子酸化されるとピリジウムカチオンラジカルが生成し、更に1電子酸化されると元のピリジウム構造単位に戻る。このように有機化合物は繰り返し安定した酸化還元能を発現する。また、有機化合物が酸化還元時にラジカル状態を経ることによって、非常に速い自己電子交換反応が生じ、有機化合物間で電子が授受されやすくなる。有機化合物の酸化還元時のラジカル状態は例えばESR(電子スピン共鳴)などにより観測される。
【0064】
【化8】

【0065】
前駆体が1分子中に構造式(1)に示す構造を有する部位を複数有すれば、前駆体の電解重合により高分子量の有機化合物が生成し得る。有機化合物の高分子量化のためには、前駆体が、構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子中に2以上、より好ましくは3以上有することが望ましい。
【0066】
前駆体が、構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子中に2つ有する化合物のみである場合には、有機化合物は直鎖状の分子となる。例えば前駆体が、下記構造式(6)に示す化合物である場合には、有機化合物は前記構造式(2)に示す直鎖状の分子となり、前駆体が、下記構造式(7)に示す化合物である場合には、有機化合物は前記構造式(3)に示す直鎖状の分子となる。
【0067】
【化9】

【0068】
【化10】

【0069】
前駆体の少なくとも一部が構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子中に3以上有する化合物である場合には、有機化合物は架橋型ポリマーとなる。例えば前駆体が、下記構造式(8)に示す化合物である場合には、有機化合物は前記構造式(4)に示すような分子となる。
【0070】
【化11】

【0071】
前駆体の電解重合によって生成する有機化合物が、第一の電極2上に堆積することで、電子輸送層3が形成される。電子輸送層3の形成にあたっては、例えばまず前駆体を含有する溶液中に第一の電極2が浸漬される。この状態で電解重合により第一の電極2上で前駆体が重合して有機化合物が生成することで、第一の電極2上に電子輸送層3が形成される。この電解重合時における第一の電極2の電極電位は、前駆体の還元電位よりも低くされる。これにより、第一の電極2上のn型半導体の性質を有する有機化合物内で、電子が移動可能となり、電解重合が進行する。
【0072】
電解重合によって生成する有機化合物は高分子量化するため、前駆体の電解重合により形成される電子輸送層3は高い耐久性を発揮する。また、この電子輸送層3は電解重合を経て形成されることで高密度に形成される。このため、電子輸送層3内における酸化還元部位の密度が高くなり、酸化還元部間の電子の授受がスムーズに行われるようになって、電子輸送層3の電子輸送性が高くなる。
【0073】
電子輸送層3の厚みは、0.01〜100μmの範囲内であることが好ましい。この範囲内であれば、充分な光電変換効果が得られ、また、可視光及び近赤外光に対する透過性が悪化することもないからである。電子輸送層3の厚みは0.5〜50μmであればより好ましく、1〜20μmであれば更に好ましい。
【0074】
電子輸送層3は光増感剤を担持する。これにより、電子輸送層3と光増感剤との間に反応界面が形成され、光電変換効率が向上する。
【0075】
光増感剤としては、公知の材料が用いられる。光増感剤は半導体超微粒子などの無機材料でも、色素、顔料などの有機材料でもよい。光増感剤が効率よく光を吸収して電荷分離が生じるためには、光増感剤が色素(増感色素)であることが好ましい。
【0076】
色素としては、9−フェニルキサンテン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、テトラフェニルメタン系色素、キノン系色素、アゾ系色素、インジゴ系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素など;RuL(HO)タイプのルテニウム−シス−ジアクア−ビピリジル錯体(Lは4,4’−ジカルボキシル−2,2’−ビピリジンを示す。);ルテニウム−トリス(RuL)、ルテニウム−ビス(RuL)、オスニウム−トリス(OsL)、オスニウム−ビス(OsL)などのタイプの遷移金属錯体;亜鉛−テトラ(4−カルボキシフェニル)ポルフィリン;鉄−ヘキサシアニド錯体;フタロシアニンなどが挙げられる。また、例えば「FPD・DSSC・光メモリーと機能性色素の最新技術と材料開発」((株)エヌ・ティー・エス)のDSSCの章にあるような色素が使用されてもよい。
【0077】
また、色素として、下記化学式[化12]に示すテトラ(4-スルホフェニル)ポリフィリンの亜鉛錯体、テトラ(4−スルホフェニル)ポリフィリンのフリーベース、カルボン酸を有するインドリン系有機色素、カルボン酸を有するビピリジンを配位子とするルテニウム錯体、カルボン酸を有するフェナントロリンを配位子とするルテニウム錯体などといった、電離により陰イオンとなる色素が挙げられる。
【0078】
【化12】

【0079】
色素が電子輸送層3上で会合性を有することは、色素が密集して電子輸送層3を覆うことで絶縁体層として機能するという観点から、好ましい。光増感剤が絶縁体層として機能する場合、反応界面における電子の整流性が向上することで、電荷分離後の電子と正孔の再結合が抑制される。更に、電子輸送材料と正孔輸送材料にそれぞれ存在する電子と正孔の再結合点が劇的に低減することで、光電気素子1の変換効率が更に向上する。
【0080】
会合性を有する色素として、下記化学式[化13]で示される色素が挙げられる。具体的には、下記化学式[化14]で示される色素が好ましい。なお、会合性は、有機溶剤などに溶けている色素と電子輸送層3上に担持されている色素の光吸収スペクトルの形状の対比により判別される。色素が会合すると光吸収スペクトルの形状が大きく変化することが知られている。
【0081】
【化13】

【0082】
(但し、X、Xはアルキル基、アルケニル基、アラルキル基、アリール基、ヘテロ環を少なくとも一種類以上を含み、それぞれ置換基を有していてもよい。Xに、例えば、カルボキシル基、スルホニル基、ホスホニル基を有する。)
【0083】
【化14】

【0084】
また、上記光増感剤として用いられる半導体超微粒子として、硫化カドミウム、硫化鉛、硫化銀などの硫化物半導体などが挙げられる。また、半導体超微粒子の粒子径は、電子輸送層3に対して光増感作用を発揮しえる限り特に制限されないが、1〜10nmの範囲であることが好ましい。
【0085】
光増感剤は、適宜の方法により電子輸送層3に担持される。例えば電子輸送層3に、光増感剤を含有する溶液が浸透することで、光増感剤が電子輸送層3に担持される。この溶液の溶媒としては、水、アルコール、トルエン、ジメチルホルムアミドなどが挙げられ、光増感剤を溶解あるは分散可能であれば特に制限はない。このような光増感剤を含有する溶液が、例えばスピンコートなどにより電子輸送層3に塗布されることで、この溶液が電子輸送層3に浸透し、光増感剤が電子輸送層3に担持される。また、光増感剤を含有する溶液中に電子輸送層3が浸漬されることで、この溶液が電子輸送層3に浸透し、光増感剤が電子輸送層3に担持されてもよい。
【0086】
電子輸送層3に担持されている光増感剤の量は、電子輸送層3の平面視面積に対して、1×10−10〜1×10−4mol/cmの範囲内であることが好ましく、特に0.1×10−8〜9.0×10−6mol/cmの範囲が好ましい。この範囲内であれば、経済的且つ充分に光電変換効率向上の効果が発揮される。
【0087】
電子輸送層3を構成する有機化合物と、光増感剤とは、化学結合していてもよい。この有機化合物と光増感剤とが化学結合によって結合していることによって、両者の平均間距離が短くなり、両者間で電荷が移動しやすくなると考えられる。また、両者の電子保持状態が互いに作用しあうことによって、電荷移動遷移が生じること、すなわち光照射によって、光増感剤上での光励起とともに光増感剤から有機化合物への電子移動が生じることが期待される。
【0088】
例えば電解重合により前駆体から有機化合物が生成する際に、同時に前駆体と光増感剤とが電解重合することで、有機化合物と光増感剤とが化学結合し得る。この場合、光増感剤と有機化合物が同時に析出すると共にこの光増感剤と有機化合物との化学結合が生じ、そのため電荷分離界面、すなわち有機化合物と光増感剤との間の反応界面が分子レベルで形成される。そのため反応面積が向上して、光電気素子の短絡電流が向上する。前駆体と光増感剤との電解重合のためには、例えば電解重合法による有機化合物の合成時に、前駆体を含有する溶液中に更に光増感剤が含有される。
【0089】
有機化合物と光増感剤との化学結合のためには、第一の電極の表面上に電解重合などにより有機化合物が析出してから、この有機化合物に光増感剤が反応してもよい。これによって、光増感剤が有機化合物の高分子末端に優先的に結合して有機化合物の表面に光増感剤の層が分子レベルで形成される。この光増感剤の層によって、正孔輸送材料と電子輸送層3との間の逆電子反応が抑制され、そのため光電気素子1の起電圧が向上する。有機化合物と光増感剤との反応のためには、例えば第一の電極の表面上の有機化合物が、光増感剤を含む液体に浸漬される。これにより光増感剤と有機化合物とが反応して、有機化合物と光増感剤との化学結合が生じる。光増感剤と有機化合物との反応にあたっては、光増感剤と有機化合物とを電解重合させてもよい。
【0090】
有機化合物と光増感剤との間に化学結合が生じるためには、光増感剤が脱離基を1分子内に1つ以上有することが好ましい。脱離基は光増感剤の分子が有機化合物或いは前駆体と反応性を有し、反応時に光増感剤の分子から脱離する官能基であり、電解重合性の官能基であることが好ましい。光増感剤の分子がこのような脱離基を有することで、電圧の印加により構造式(1)におけるMで示される置換基と光増感剤の脱離基とが反応し、光増感剤と有機化合物との化学結合が容易に生じ得るようになる。
【0091】
脱離基は、シアノ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基から選択される1種以上であることが好ましい。この場合、脱離基の反応性が高く、電解重合時に光増感剤の分子から脱離しやすくなり、このため電解重合により光増感剤と有機化合物との間の化学結合が特に生じやすくなる。
【0092】
光増感剤の分子が脱離基を有する場合、光増感剤の分子は下記構造式C又はDに示される置換基を有することが好ましい。この構造式C及びDにおけるRは脱離基を示す。構造式C及びDにおけるnは、光増感剤の一分中における構造式C又はDに示される置換基の個数を示し、この個数は下記式に示されるとおり1〜4個の範囲であることが好ましい。
【0093】
【化15】

【0094】
光増感剤の分子がこのような置換基を有すると、電解重合による光増感剤の脱離基と構造式(1)におけるMで示される置換基との反応性が特に高くなり、迅速な反応により光増感剤と有機化合物との間の化学結合が生じ得る。
【0095】
脱離基を有する光増感剤としては、特に下記一般式Eで示されるポルフィリン誘導体、分子中に下記式Fで示されるインドリン骨格を備えるインドリン系色素、及び下記一般式Gに示すルテニウム錯体系色素のうちの少なくとも一種が好ましい。Rは脱離基を示す。これらの光増感剤は、有機化合物との間で電子授受を起こしやすく、このためより高い電荷注入効率が実現される。
【0096】
【化16】

【0097】
インドリン骨格を備えると共に脱離基を有するインドリン系色素の具体例として、下記[化17]及び[化18]に示される化合物が挙げられる。
【0098】
【化17】

【0099】
【化18】

【0100】
[化17]に示される化合物の合成スキームの一例を下記[化19]に示す。
【0101】
【化19】

【0102】
この合成スキームでは、まず4−シアノピリジンとブロモエチルアミン臭素酸塩がエタノール等の溶媒中で沸点還流などにより反応し、合成スキーム中に11で示される中間体が沈殿する。この反応時間は例えば24時間である。この中間体はろ過された後、水/エタノール混合溶媒などに溶解され、更に再結晶される。これにより中間体の黄色透明板状結晶が得られる。続いて、水/THF混合溶媒中で、DMT−MM(4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloriden-Hydrate)などの縮合剤の存在下、中間体と[化14]に示す色素(三菱製紙株式会社製のD131)とが反応することで、合成スキーム中で12に示される光増感剤の濃橙色結晶粉末が生成する。
【0103】
[化18]に示される化合物の合成スキームの一例を下記[化20]に示す。
【0104】
【化20】

【0105】
この合成スキームでは、まずアセトニトリルなどの溶媒中に出発物質である1,3,5−トリスブロモメチルベンゼンと、2当量の4−シアノピリジンが加えられ、これにより得られる混合物が例えば終夜沸点還流されるなどして反応することで、淡黄色沈殿が得られる。この淡黄色沈殿がアセトニトリルで洗浄され、更にろ別された後、ヘキサフルオロりん酸ナトリウム飽和水溶液によってPFとイオン交換されることで、合成スキーム中で3で示される第一の中間体の白色固体が得られる。この第一の中間体とアミノエチルビピリジニウム塩(BPh-、一置換体)とがアセトニトリル中に加えられ、これにより得られた混合物が終夜沸点還流などして反応することで、合成スキーム中で4に示される第二の中間体の橙色固体が得られる。続いて、アセトニトリル/THF混合溶媒中で、DMT−MM(4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloriden-Hydrate)などの縮合剤の存在下、第二の中間体と化学式[化14]に示す色素(三菱製紙株式会社製のD131)とが反応し、反応生成物がエーテル中で沈殿することで、合成スキーム中で2で示される光増感剤([化18]に示される化合物)が得られる。
【0106】
正孔輸送層4は、電解質溶液から形成される。電解質溶液中の電解質としては、支持塩と、酸化体と還元体から酸化還元系構成物質とが挙げられ、これらのうちのいずれか一方であっても、両方であってもよい。
【0107】
支持塩(支持電解質)としては、例えば過塩素酸テトラブチルアンモニウム、六フッ化リン酸テトラエチルアンモニウム、イミダゾリウム塩やピリジニウム塩などのアンモニウム塩、過塩素酸リチウムや四フッ化ホウ素カリウムなどアルカリ金属塩などが挙げられる。
【0108】
酸化還元系構成物質とは、酸化還元反応により可逆的に酸化体および還元体の形で存在する物質を意味する。酸化還元系構成物質としては、酸化還元対を溶媒中に溶解させた溶液、溶融塩のような固体電解質、ヨウ化銅などのp型半導体、トリフェニルアミン等のアミン誘導体、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン等の導電性高分子などが挙げられる。
【0109】
酸化還元系構成物質の具体例としては、例えば、塩素化合物−塩素、ヨウ素化合物−ヨウ素、臭素化合物−臭素、タリウムイオン(III)−タリウムイオン(I)、水銀イオン(II)−水銀イオン(I)、ルテニウムイオン(III)−ルテニウムイオン(II)、銅イオン(II)−銅イオン(I)、鉄イオン(III)−鉄イオン(II)、ニッケルイオン(II)−ニッケルイオン(III)、バナジウムイオン(III)−バナジウムイオン(II)、マンガン酸イオン−過マンガン酸イオンなどが挙げられるが、これらに限定はされない。この場合、これらの酸化還元系構成物質は電子輸送層3内の酸化還元部とは区別されて機能する。
【0110】
正孔輸送層4は、電解質と溶媒を含む電解質溶液から形成されてもよい。溶媒は、酸化還元系構成物質を溶解してイオン伝導性に優れた化合物が好ましい。溶媒としては水性溶媒及び有機溶媒のいずれも使用できるが、構成物質をより安定化するため、有機溶媒が好ましい。例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート化合物、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、γ−ブチロラクトン等のエステル化合物、ジエチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジオキソシラン、テトラヒドロフラン、2−メチル−テトラヒドロフラン等のエーテル化合物、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル化合物、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性化合物などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いることもでき、また、2種類以上を混合して併用することもできる。中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネ−ト化合物、γ―ブチロラクトン、3−メチル−2−オキサゾジリノン、2−メチルピロリドン等の複素環化合物、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、吉草酸ニトリル等のニトリル化合物が好ましい。
【0111】
正孔輸送層4がイオン性液体を含有してもよい。この場合、正孔輸送層4の不揮発性,難燃性などが向上する。イオン性液体としては、公知公例のイオン性液体全般が挙げられるが、例えばイミダゾリウム系、ピリジン系、脂環式アミン系、脂肪族アミン系、アゾニウムアミン系イオン性液体や、欧州特許第718288号明細書、国際公開第95/18456号パンフレット、電気化学第65巻11号923頁(1997年)、J. Electrochem. Soc.143巻,10号,3099頁(1996年)、Inorg. Chem. 35巻,1168頁(1996年)に記載された構造のイオン性液体が挙げられる。
【0112】
また、電解質溶液がゲル化または固定化されていてもよい。正孔輸送層4は、ゲル化された電解質(ゲル化電解質)、あるいは高分子電解質から形成されてもよい。電解質をゲル化するためのゲル化剤としては、ポリマー、ポリマー架橋反応等の手法を利用するゲル化剤、重合性多官能モノマー、オイルゲル化剤などが挙げられる。ゲル化電解質、高分子電解質としては、一般に用いられる物質が適用され得るが、例えばポリフッ化ビニリデンなどのフッ化ビニリデン系重合体、ポリアクリル酸などのアクリル酸系重合体、ポリアクリロニトリルなどのアクリロニトリル系重合体およびポリエチレンオキシドなどのポリエーテル系重合体、構造中にアミド構造を有する化合物などが好ましい。
【0113】
正孔輸送層4は安定ラジカル化合物を含有してもよい。この場合、正孔輸送層4中で正孔が、安定ラジカル化合物の非常に速い電子移動反応によって効率よく第二の電極5まで輸送され、これにより光電気素子1の変換効率が更に向上する。
【0114】
安定ラジカル化合物としては、不対電子を有する化学種、すなわちラジカルを有する化合物であれば特に限定されない。具体的には前述した化合物であれば使用することができる。
【0115】
以上の説明のように構成される光電気素子1では、電子輸送層3が優れた電子輸送性を有し、且つ電子輸送層3における有機化合物と電解質溶液とがゲル層6を構成することで反応界面が大きいことから、この光電気素子1が高い光電変換効率を発揮する。
【0116】
すなわち、光電気素子1に光が照射され、この光が電子輸送層3に達すると、光増感剤が光を吸収して励起し、電荷分離が引き起こされる。励起電子は電子輸送層3に流れ込んで、第一の電極24を経て外部に取り出され、正孔は正孔輸送層4において第二の電極5へ向けて輸送される。このとき、電子輸送層3の有機化合物と電解質溶液がゲル層6を構成することで、電荷分離が生じる反応界面が広くなり、且つ電子輸送層3が優れた電子輸送性を有するため電子と正孔の再結合が抑制され、これにより光電気素子1の光電変換効率が向上するのである。
【実施例】
【0117】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0118】
[実施例1]
(前駆体の調製)
4−シアノピリジン及び1,3,5−(ブロモメチル)−メシチレンを、アセトニトリルに溶解し、不活性雰囲気下で終夜還流しながら、下記反応式で示す反応を進行させた。反応終了後、メタノールで生成物を再結晶精製することで、下記化学式(J-1)で表せられる前駆体を得た。
【0119】
【化21】

【0120】
(素子の作製)
フッ素ドープ酸化スズ膜を有する厚み1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製、10Ω/□)を用意した。このフッ素ドープ酸化スズ膜を第一の電極2とした。
【0121】
水にポリビオロゲン前駆体を0.02Mの濃度、ヨウ化ナトリウムを0.1Mの濃度となるように加えて水溶液を調製した。この水溶液に、第一の電極2を浸漬し、第一の電極2の電極電位を−0.75V(vs.Ag/AgCl)として電解重合を実施することで、第一の電極2上に有機化合物を堆積させた。この有機化合物を4−シアノ−1−メチル−ピリジニウム塩濃度0.02M、NaCl濃度0.1Mの水溶液中に浸漬することで、有機化合物を末端修飾した。これにより、電子輸送層3を形成した。
【0122】
この電子輸送層3が設けられた第一の電極2を作用極、白金ワイヤ電極を対電極、銀/塩化銀電極を参照電極とし、支持電解質溶液として塩化カリウム水溶液を用いて、サイクリックボルタンメトリーにより応答電流を測定した。
【0123】
その結果、参照電極に対する第一の電極2の電極電位が0Vの付近で、電子輸送層3中の有機化合物に由来する安定かつ可逆な酸化還元波が観測され、電子輸送層3中の有機化合物がn型半導体として動作することが確認された。また還元過程における電極反応電子量はラジカルサイト数(第一の電極2上の有機化合物の付着量から算出)より算出した理論反応量とほぼ一致し、有機化合物の定量的な反応が確認された。また、サイクリックボルタンメトリーによる測定を40サイクル繰り返しておこなっても、安定な酸化還元波が観測され、電極としての安定した作動が確認された。
【0124】
電子輸送層3上に、前記化学式[化14]に示す色素(三菱製紙株式会社製のD131)の飽和アセトニトリル溶液をスピンコート法により塗布することで、色素を電子輸送層3に担持させた。
【0125】
フッ素ドープ酸化スズ膜を有する厚み1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製、10Ω/□)を用意し、フッ素ドープ酸化スズ膜上に白金をスパッタ法で堆積させた。これにより、フッ素ドープ酸化スズ膜と白金からなる第二の電極5を形成した。この導電性ガラス基板には、ダイヤモンドドリルにより電解質溶液注入用の孔をあけた。
【0126】
電子輸送層3と、第二の電極5とを対向するように配置し、両者の間の外縁部分に幅1mm、厚み50μmの熱溶融性接着剤(デュポン社製、バイネル)を介在させた。この熱溶融性接着剤を加熱しながら加圧することで、電子輸送層3と第二の電極5とを熱溶融性接着剤を介して接合した。
【0127】
水にOH−TEMPO(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル)を0.5Mの濃度、塩化カリウムを0.5mol/lの濃度で溶解させて、電解質溶液を調製した。この電解質溶液を上記電解質溶液注入用の孔から、電子輸送層3と第二の電極5との間に注入した。これにより電子輸送層3と第二の電極5との間に電解質溶液からなる正孔輸送層4を形成すると共に、この電解質溶液の一部を電子輸送層3の有機化合物に浸透させてゲル層6を形成した。続いて、電解質溶液注入用の孔を紫外線硬化樹脂で封止した。これにより、光電気素子1を得た。
【0128】
この光電気素子1に、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)で200ルクスの光を照射したところ、開回路電圧(OCP)は566mVであった。光電気素子1への光を遮断すると開回路電圧は次第に0mVへと収束した。再び光電気素子1へ光を照射すると開回路電圧は566mVになった。この挙動は繰り返し安定して発現した。
【0129】
また、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)による200ルクスの光照射下において、短絡電流測定を測定したところ、2.3μA/cm程度の光起電流が観測され、光を遮断すると次第に0A/cmへと収束した。さらに再び光照射すると2.3μA/cm程度の光起電流が観測され、この光起電流は繰り返し(40サイクル)安定して発現した。
【0130】
[実施例2〜6]
実施例1において、色素の種類、及び電解質溶液中の電解質の種類を、表1に示すように変更した。表中のD102は三菱製紙株式会社製の下記化学式[化22]に示す色素、D358は三菱製紙株式会社製の下記化学式[化23]に示す色素を示す。Iはヨウ素を示し、この場合、電解質溶液中にはNaI(ヨウ化ナトリウム)を加えた。それ以外は実施例1と同じ条件で、光電気素子1を得た。
【0131】
【化22】

【0132】
【化23】

【0133】
[実施例7]
100mlのアセトニトリルに、10.4g(0.1mol)の4−シアノピリジンと4.3g(0.02mol)のジブロモブタンとを溶解させることで、溶液を調製した。この溶液を不活性雰囲気下で82℃の温度で12時間、沸点還流することで、下記[化24]の反応式で示す反応を進行させた。これにより得られた淡黄色の沈殿物をアセトニトリル洗浄した後、濾別、水及びメタノールを用いた再結晶精製を順次経ることで、下記化学式(J−2)で表せられる前駆体の黄色板状結晶を、60%の収率で得た。
【0134】
前駆体の同定は、1H−NMR、13C−NMR、MS、及び元素分析によりおこなった。その結果は下記の通りである。
【0135】
1H-NMR(D2O), ・δ(ppm): 2.06 (t, CH2, 4H), 4.68 (t, CH2, 4H), 8.36 (d, ・-H ofpyridium CH, 4H), 9.04 (d, ・-H of pyridium CH, 4H). 13C-NMR (D2O), ・δ(ppm):27.3, 61.9, 114.2, 128.5, 131.5, 146.0. MS: m/z = 264.14 [M - 2Br-]+2, calcd for C16H16Br2N4, 424.0, Elem. Anal.(%)Calcd for C16H16Br2N4: C, 45.31; H, 3.80; N, 13.21. Found C, 45.81; H, 3.97; N,13.82.
【0136】
【化24】

【0137】
このようにして得られた前駆体を使用したこと、及び電解質溶液中の電解質としてOH−TEMPOに代えてI(ヨウ素)を使用したこと以外は、実施例1と同じ方法により、光電気素子1を得た。但し、電解重合時の第一の電極2の電極電位は、−0.91V(vs.Ag/AgCl)とした。
【0138】
この光電気素子1について、実施例1と同様に開回路電圧及び短絡電流を測定した。
【0139】
[実施例8]
100mlのアセトニトリルに、10.4g(0.1mol)の4−シアノピリジンと5.2g(0.02mol)のp−ジブロモキシレンとを溶解させることで、溶液を調製した。この溶液を不活性雰囲気下で82℃の温度で12時間、沸点還流することで、下記[化25]の反応式で示す反応を進行させた。これにより得られた淡黄色の沈殿物をアセトニトリル洗浄した後、濾別、水及びメタノールを用いた再結晶精製を順次経ることで、下記化学式(J−3)で表せられる前駆体の淡黄色針状結晶を、70%の収率で得た。
【0140】
前駆体の同定は、1H−NMR、13C−NMR、MS、及び元素分析によりおこなった。その結果は下記の通りである。
【0141】
1H-NMR(D2O), ・δ(ppm): 5.92(t, phenyl CH, 4H), 7.54 (t, CH2, 4H), 8.43(d, ・-H of pyridium CH, 4H), 9.14 (d, ・-Hof pyridium CH, 4H). 13C-NMR (D2O), ・δ(ppm): 66.1, 115.2, 129.7, 131,6 132.6,134.7, 147.0. MS: m/z = 312.14 [M - 2Br-]+2,calcd for C20H16Br2N4, 471.97. Elem. Anal.(%) Calcd for C20H16Br2N4: C, 50.87;H, 3.42; N, 11.87. Found C, 51.02; H, 3.56; N, 11.97.
【0142】
【化25】

【0143】
このようにして得られた前駆体を使用したこと、及び電解質溶液中の電解質としてOH−TEMPOに代えてIを使用したこと以外は、実施例1と同じ方法により、光電気素子1を得た。但し、電解重合時の第一の電極2の電極電位は、−0.84V(vs.Ag/AgCl)とした。
【0144】
この光電気素子1について、実施例1と同様に開回路電圧及び短絡電流を測定した。
【0145】
[実施例9]
実施例1において、第一の電極2上に電子輸送層3を形成した後、色素をスピンコートせず、それに代えて次のような処理をした。まず水/アセトニトリル混合溶媒(質量比1:1)中に[化17]に示す色素を濃度10mM、KClを濃度l0.1Mとなるよう溶解させた。これにより得られた溶液に、第一の電極2と電子輸送層3とを浸漬し、この状態で、第一の電極2を作用極、Pt電極を対極、Ag/AgCl電極を参照極として、作用極と対極との間に、作用極の電極電位が−0.85V(vs.Ag/AgCl)となるように電圧を印加した。これにより、電子輸送層3に光増感剤を担持した。これ以外は、実施例1と同じ方法により、光電気素子1を得た。
【0146】
この光電気素子1について、実施例1と同様に開回路電圧及び短絡電流を測定した。
【0147】
[実施例10]
実施例1において、電子輸送層3を形成する際に、まず、水/アセトニトリル混合溶媒(質量比1:1)中にポリビオロゲン前駆体を0.02Mの濃度、ヨウ化ナトリウムを0.1M、[化17]に示す色素を0.02Mの濃度となるように加えた。これにより得られた溶液に第一の電極2を浸漬し、第一の電極2の電極電位を−0.75V(vs.Ag/AgCl)として電解重合を実施することで、第一の電極2上に有機化合物を堆積させた。この有機化合物を4−シアノ−1−メチル−ピリジニウム塩濃度0.02M、NaCl濃度0.1Mの水溶液中に浸漬することで、有機化合物を末端修飾した。これにより、電子輸送層3を形成した。これ以外は、実施例1と同じ方法により、光電気素子1を得た。
【0148】
この光電気素子1について、実施例1と同様に開回路電圧及び短絡電流を測定した。
【0149】
[実施例11,12]
実施例1において、色素の種類、及び電解質溶液中の電解質の種類を、表1に示すように変更した。表中の[化18]は、上記化学式[化18]に示される色素を示す。この化学式[化18]に示す色素は、上記[化20]に示される合成スキームに従って合成した。それ以外は実施例1と同じ条件で、光電気素子1を得た。
【0150】
この光電気素子1について、実施例1と同様に開回路電圧及び短絡電流を測定した。
【0151】
[比較例1]
実施例1の場合と同じ方法により、化学式J-1で表せられるポリビオロゲン前駆体を得た。このポリビオロゲン前駆体をメタノールに溶解させて溶液を調製し、この溶液をスピンコート法により第一の電極2上に塗布した。しかし、溶液は均一に成膜されなかった。
【0152】
実施例1の場合と同様のサイクリックボルタンメトリーによる測定をおこなったところ、繰り返し安定な酸化還元は行われなかった。
【0153】
[比較例2]
(ガルビモノマーの合成)
まず、4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール(135.8g;0.476mol)にアセトニトリル(270ml)を加え、さらに不活性雰囲気下、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)(106.3g;129.6ml)を加え、70℃で終夜撹拌し、完全に結晶が析出するまで反応させた。これにより析出した白色結晶を濾過し、真空乾燥した後、エタノールを用いて再結晶して精製することによって、(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(150.0g;0.420mol)の白色板状結晶を得た。
【0154】
次に、反応容器内で(4−ブロモ−2,6−ジ−tert−ブチルフェノキシ)トリメチルシラン(9.83g;0.0275mol)を、不活性雰囲気下、テトラヒドロフラン(200ml)に溶解し、調製された溶液をドライアイス/メタノールを用いて−78℃に冷却した。この反応容器内の溶液に1.58Mのn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(15.8ml;0.025mol)を加え、78℃の温度で30分撹拌することでリチオ化した。その後、この溶液に4−ブロモ安息香酸メチル(1.08g;0.005mol、Mw:215.0、TCI)のテトラヒドロフラン(75ml)溶液を添加した後、−78℃〜室温で終夜撹拌した。これにより溶液は黄色から薄黄色を経て、アニオンの発生を示す濃青色へと変化した。次に、反応容器内の溶液に飽和塩化アンモニウム水溶液を、溶液の色が完全に黄色になるまで加えた後、この溶液をエーテル/水で分液抽出することにより黄色粘稠液体状の生成物を得た。
【0155】
次に反応容器内に、前記生成物、THF(10ml)、メタノール(7.5ml)、撹拌子を入れ、溶解後、10N−HCl(1〜2ml)を反応容器内の溶液が赤橙色に変化するまで徐々に加え、30分間、室温で撹拌した。次に溶媒除去、エーテル/水による分液抽出、溶媒除去、カラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/1)による分画、ヘキサンによる再結晶の各操作を経て精製することで、(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.86g;0.0049mol)の橙色結晶を得た。
【0156】
次いで、反応容器内で前記(p−ブロモフェニル)ヒドロガルビノキシル(2.50g;4.33mmol)を、不活性雰囲気下、トルエン(21.6ml;0.2M)に溶解し、この溶液に2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(4.76mg;0.0216mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(0.150g;0.130mmol)、トリ−n−ブチルビニルすず(1.65g;5.20mmol,Mw:317.1,TCI)を素早く加え、100℃で17時間加熱撹拌した。
【0157】
これにより得られた反応生成物をエーテル/水で分液抽出し、溶媒除去した後、フラッシュカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/クロロホルム=1/3)にて分画し、さらにヘキサンで再結晶して精製することによって、p−ヒドロガルビノキシルスチレン(1.54g;2.93mmol)の橙色微結晶を得た。
【0158】
(ガルビモノマーの重合)
上記ガルビモノマーの合成で得られたガルビモノマー(p−ヒドロガルビノキシルスチレン)1gと、テトラエチレングリコールジアクリレート57.7mgと、アゾビスイソブチロニトリル15.1mgを、テトラヒドロフラン2mlに溶解した後、窒素置換し、一晩還流することで、ガルビモノマーを重合させ、ガルビポリマーを得た。このガルビポリマーの数平均分子量は10000であった。
【0159】
(素子の作製)
フッ素ドープ酸化スズ膜を有する厚み1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製、10Ω/□)を用意した。このフッ素ドープ酸化スズ膜を第一の電極2とした。ガルビポリマー22.5mgをクロロホルム4.5mlに溶解して溶液を調製し、この溶液を、第一の電極2上にドロップキャストすることで、厚み100nmに成膜した。次に、過塩素酸テトラブチルアンモニウムの濃度が0.1M、リチウム−t−ブトキシ(Aldrich:CAS1907-33-1)の濃度が0.01Mであるアセトニトリル溶液中に第一の電極2を浸漬した。この状態で第一の電極2を作用極、Pt電極を対極、Ag/AgCl電極を参照極として、作用極の電極電位が1V〜1.5V(vs.Ag/AgCl)の範囲に収まるように作用極と対極との間に電圧を印加した。これにより、ガルビポリマーを電解酸化してラジカルへ誘導し、更に重合させて、第一の電極2上にガルビノキシラジカルポリマーからなる電子輸送層3を形成した。
【0160】
次に、電子輸送層3に、化学構造式を[化14]に示すD131色素のアセトニトリル飽和溶液をスピンコート法により塗布することで、色素を電子輸送層3に担持させた。
【0161】
第一の電極2上の外縁部分で電子輸送層3を削り取り、この第一の電極2上の外縁部分に、電子輸送層3を囲むように、熱溶融性接着剤(三井デュポンポリケミカル製「バイネル」)の封止材を配置した。
【0162】
フッ素ドープ酸化スズ膜を有する厚み1mmの導電性ガラス基板(旭硝子製、10Ω/□)を用意し、フッ素ドープ酸化スズ膜上に白金をスパッタ法で堆積させた。これにより、フッ素ドープ酸化スズ膜と白金からなる第二の電極5を形成した。この導電性ガラス基板には、ダイヤモンドドリルにより電解質溶液注入用の孔をあけた。
【0163】
電子輸送層3と、第二の電極5とを対向するように配置し、両者の間の熱溶融性接着剤を介在させた。この熱溶融性接着剤を加熱しながら加圧することで、電子輸送層3と第二の電極5とを熱溶融性接着剤を介して接合した。
【0164】
アセトニトリルに上記[化14]に示すD131色素を5mmol/lの濃度、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)を0.1mol/lの濃度、N−メチルベンズイミダゾールを1.6mol/lの濃度、過塩素酸リチウムを1mol/lの濃度で溶解させて、電解質溶液を調製した。この電解質溶液を上記電解質溶液注入用の孔から、電子輸送層3と第二の電極5との間に注入した。これにより電子輸送層3と第二の電極5との間に電解質溶液からなる正孔輸送層4を形成すると共に、この電解質溶液の一部を電子輸送層3の有機化合物に浸透させてゲル層6を形成した。続いて、電解質溶液注入用の孔を紫外線硬化樹脂で封止した。これにより、光電気素子1を得た。
【0165】
この光電気素子1について、実施例1と同様に開回路電圧及び短絡電流を測定した。この測定時には、蛍光灯(パナソニック社製「FLR20S・W/M」)による200ルクスの光照射下において、短絡電流測定を測定したところ、0.5μA/cm程度の光起電流が観測され、光を遮断すると次第に0A/cmへと収束した。さらに再び光照射すると0.5μA/cm程度の光起電流が観測され、この光起電流は繰り返し(40サイクル)安定して発現した。
【0166】
[評価]
各実施例及び比較例についての、光電流素子の開回路電圧(Voc)及び短絡電流(Jsc)の測定結果を示す。各実施例及び比較例についての、光電流素子の最大出力(Pmax)も併せて示す。
【0167】
【表1】

【0168】
この結果に表れているとおり、実施例1〜10では短絡電流値が比較例2と較べて大きい。これにより、実施例1〜10では電子輸送層3における電子輸送性が良好であることが確認できる。また、このため、光電気素子1の最大出力も、実施例1〜10では比較例2よりも大きくなっており、実施例1〜10では光電変換効率が高いことが確認できる。実施例11,12でも短絡電流値が比較例2と較べて大きい。これにより、実施例11,12では電子輸送層3における電子輸送性が良好であることが確認できる。また、このため、光電気素子1の最大出力も、実施例11,12では比較例2よりも大きくなっており、実施例11,12では光電変換効率が高いことが確認できる。
【符号の説明】
【0169】
1 光電気素子
2 第一の電極
3 電子輸送層
4 正孔輸送層
5 第二の電極
6 ゲル層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の電極と、光増感剤を担持する電子輸送層と、正孔輸送層と、第二の電極とを備えると共に、これらの要素が前記の順番に重ねられ、
前記電子輸送層が、下記構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子内に2つ以上有する前駆体が電解重合することにより生成する有機化合物から形成され、
前記有機化合物と、この有機化合物に浸透している電解質溶液とで構成されるゲル層を備える光電気素子。
【化1】

(構造式(1)におけるMは、シアノ基、フルオロ基、クロロ基又はブロモ基であり、Aは対アニオンである。)
【請求項2】
前記前駆体が、前記構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子内に2つ有し、前記有機化合物が直鎖状の重合体である請求項1に記載の光電気素子。
【請求項3】
前記有機化合物が、下記構造式(2)で示される化合物と、下記構造式(3)で示される化合物のうち少なくとも一方を含む請求項1又は2に記載の光電気素子。
【化2】

【化3】

【請求項4】
前記前駆体が、前記構造式(1)に示す構造を有する部位を1分子内に3以上有し、前記有機化合物が架橋構造を有する請求項1に記載の光電気素子。
【請求項5】
前記有機化合物が、下記構造式(4)で示される化合物を含む請求項1又は4に記載の光電気素子。
【化4】

【請求項6】
前記前駆体中の対アニオンが、臭素イオン、塩素イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、及びテトラフルオロホウ酸イオンから選ばれるアニオンである請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光電気素子。
【請求項7】
前記有機化合物と前記光増感剤とが化学結合している請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光電気素子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光電気素子の製造方法であって、
前記前駆体を含む液体に前記第一の電極を浸漬した状態で前記液体と前記第一の電極とを通電させて電解重合により前記第一の電極の表面上に前記有機化合物を析出させる工程を含む光電気素子の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体を含む液体に前記光増感剤を配合し、前記前駆体と前記光増感剤を同時に電解重合する請求項8に記載の光電気素子の製造方法。
【請求項10】
前記第一の電極の表面上に前記有機化合物を析出させる前記工程の後、前記光増感剤を含む液体に前記有機化合物を浸漬させることで前記光増感剤を前記有機化合物に反応させることを特徴とする請求項8に記載の光電気素子の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の光電気素子の製造方法に用いられる光増感剤であって、脱離基を1分子内に1つ以上有する光増感剤。
【請求項12】
下記構造式C又はDに示される置換基を有する請求項11に記載の光増感剤。
【化5】

構造式C及びDにおけるRは脱離基を示す。
【請求項13】
下記一般式Eで示されるポルフィリン誘導体、分子中に下記式Fで示されるインドリン骨格を備えるインドリン系色素、又は下記一般式Gに示すルテニウム錯体系色素である請求項11又は12に記載の光増感剤。
【化6】

Rは脱離基を示す
【請求項14】
前記脱離基がシアノ基、フルオロ基、クロロ基及びブロモ基から選択される1種以上である請求項11乃至13のいずれか一項に記載の光増感剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−114063(P2012−114063A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53585(P2011−53585)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 研究成果最適展開支援事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】