説明

光FMCW後方散乱測定システムの校正

測定精度を向上させる光FMCW後方散乱測定システムを校正する方法を提供する。本方法は、A.受信センサ信号を、振幅部分及び位相角部分によって表現される前記変調周波数fの関数としての複素受信電気信号に変換するステップと、B.前記受信電気信号の変換を行なって、前記センサの前記第1端と前記第2端との間の位置、及び前記第2端よりも先の位置の関数としての後方散乱信号を供給するステップと、C.前記位置の関数としての前記後方散乱信号に基づいて、前記第2端よりも先の前記後方散乱信号を表わす曲線の特性を求めるステップと、D.前記曲線において所定の依存性を示す前記受信電気信号の前記振幅部分、及び前記受信電気信号の前記位相角部分を補正するステップと、E.ステップBを補正済み受信電気信号に基づいて繰り返すステップと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光測定システムのような測定システム、例えば空間分布物理特性をセンサ、例えば光センサによって測定するシステムに関する。
本発明は、特に光FMCW後方散乱測定システムのようなFMCW後方散乱測定システムを校正する方法に関し、当該システムは励起兼分析部、及び伸長センサを備え、当該センサは第1端及び第2端を有し、当該励起兼分析部は周波数変調光信号を変調周波数fで励起し、センサの第1端から受信するセンサ信号を分析するように構成され、当該センサはデータ信号を周波数変調光信号に基づいて捕捉するように構成され、周波数変調光信号から、第1端と第2端との間のセンサ長に沿ったセンサの空間分布測定ポイントの物理パラメータを抽出することができる。
【0002】
本発明は更に、光FMCW後方散乱測定システムのような後方散乱測定システム、及びコンピュータ読み取り可能な媒体に関する。
本発明は、例えば空間分布物理パラメータ、例えば温度、湿度、力の測定を、大規模施設において、例えば道路に沿って、トンネルの中で、地下鉄またはケーブルの中で、産業設備の中で行なうような用途において有用である。
【背景技術】
【0003】
先行技術に関する以下の説明は、本発明の適用領域のうちの一つである、ラマン後方散乱光を利用する分布温度測定に関する。しかしながら、本発明は、後方散乱光を利用しない他の測定システムに適用することができる。本発明が関連する先行技術におけるFMCW後方散乱測定システムの例は欧州特許第1548416号に記載されている。
【0004】
光後方散乱測定システムは、例えば変調レーザ光源と、或る物理量(例えば、温度、力、湿度など)の空間分布測定結果を捕捉するセンサであって、光導波路、例えば光ファイバの形態をとるセンサと、ミキシング素子と、フィルタリング素子と、受信素子(光電変換器を含む)と、信号処理兼計算ユニットと、を備え、信号処理兼計算ユニットは後方散乱信号(群)を変換ならびに分析し、更に注目した物理量の空間分布プロファイルを求める。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光後方散乱測定システムに関する代表的な課題は、測定システム(センサを含む)を確実に校正する手段を提供することである。分布温度プロファイルを測定する先行技術によるFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave:周波数変調連続波)システム、例えば欧州特許第0692705号に記載されているような光周波数領域リフレクトメトリーシステムは手動で校正する必要がある。その理由は、センサ(例えば、光ファイバ)が、センサ長に沿った所定の位置の多数の明確に定義されたホットスポットに曝され、これらのホットスポットに関して、これらの位置での実際の温度が実際のプロファイルから判明されるように校正温度センサによって測定されるからである。
【0006】
複素周波数データ(すなわち、実部及び虚部を含むデータ)の特性に起因して、補正済み周波数データの値は不明確である。
先行技術によるシステムに関する他の問題は、システムが次の項目のうちの一つ以上の項目に起因する測定誤差の誤差要因を含むことである。
【0007】
a)DC誤差:
a1)FMCWによる温度測定法は、例えば光ファイバからのラマン後方散乱光をレーザ変調周波数(f)の関数として測定することにより行なわれる。ファイバ長の関数として表わされるラマン光の後方散乱曲線は、光電検出した信号を逆フーリエ変換した計算値に基づいて描かれる。この逆フーリエ変換アルゴリズムでは、f=0Hzと最大レーザ変調周波数との間の周波数を有する後方散乱信号に対する複素パラメータの測定が必要になる。逆フーリエ変換に関する第1周波数ポイント(DC値)の測定は困難である。その理由は、この値には、光電検出した信号の従前の定常成分が重なるからである。
【0008】
a2)DC値は一定ではない。この値はセンサ特性(例えば、センサとして使用される光導波路の異なる長さや、または異なる規格。図6及び7、及び該当する説明を参照)によって変わる。
【0009】
b)部品の許容誤差及び非線形動作に起因する誤差
FMCWラマン法では、非常に弱いラマン後方散乱光信号(ピコワット範囲にまで低下する)を周波数変調レーザ光の関数として広い周波数帯域(fは、例えば0Hzから最大100MHzまでの範囲とすることができる)に渡って、ファイバを通して測定する必要がある。レーザ光の強度の平均値は一定である。検出される信号が弱いために、光学部品(レーザ、光電検出器、フィルタなど)及び電子部品(アンプ、ミキサ、フィルタなど)の許容誤差が大きな影響を後方散乱曲線、及び結果としての温度曲線の精度に与える。同様に、光学部品及び電子部品の非線形動作によって歪みが周波数データに生じる。その結果、非線形歪みが温度プロファイルに沿って生じ、これにより温度測定システムの精度が低下する。
【0010】
c)異なる測定チャネルの間のクロストークに起因する誤差
異なる測定チャネルの間のクロストークによって、更に別の誤差がランダムノイズとして発生し、更に非線形干渉が温度プロファイルに発生する(例えば、図10及び該当する説明を参照)。
【0011】
d)エージング(ageing)効果に起因する誤差
光学部品及び電子部品のエージング効果によっても、ラマン散乱光検出信号が弱いことに起因する測定機器の精度及び安定性、更には、周波数信号と温度プロファイルとの間の上述したFMCW測定依存性に影響が及ぶ。
【0012】
e)センサラインの変化によって生じる誤差
光センサラインに変化が生じる場合、前に行なわれた校正はもはや有効ではなくなってしまう。これは、周波数データのDC値に影響が及ぶことによって主として生じる。
【0013】
上述の不所望の効果は全て、ラマン温度測定システムの精度及び安定性に影響を与える。これらの効果を除去及び分離することは現在の校正手順では不可能である。その結果、校正手順をシステム精度の変更が通知されるたびに繰り返す必要がある。これは時間の無駄であり、かつコストが嵩む。現在の校正手順の更に別の欠点は、生じる誤差が、結果として得られる測定精度(例えばシステム精度(確度))に大きな影響を与えることである。これは、より高い測定精度を必要とする新規のアプリケーションには現在のシステムでは対応することができないことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、測定精度を向上させる光FMCW後方散乱測定システムのようなFMCW後方散乱測定システムを校正する方法を提供することにある。本発明の別の目的は、自動化に適する校正方法を提供することにある。本発明の別の目的は、測定システムを大量に製造するために適する校正方法を提供することにある。本発明の別の目的は、フィールド測定における使用に適する校正方法を提供することにある。
【0015】
本発明のこれらの目的は、添付の特許請求の範囲に記載され、かつ以下において説明する本発明によって達成される。
本発明は、光FMCW後方散乱測定システムのようなFMCW後方散乱測定システムを校正する方法であって、当該システムは、励起兼分析部及び伸長センサを備え、センサは第1端及び第2端を有し、励起兼分析部は、周波数変調光信号を変調周波数fで励起し、センサの第1端から受信するセンサ信号を分析するように構成され、センサは、データ信号を周波数変調光信号に基づいて捕捉するように構成され、周波数変調光信号から、第1端と第2端との間のセンサ長に沿ったセンサの空間分布測定ポイントの物理パラメータを抽出することができ、当該方法は、A.前記受信したセンサ信号を、振幅部分及び位相角部分によって表現される前記変調周波数fの関数としての複素受信電気信号に変換するステップと、B.前記受信電気信号の変換を行なって、前記センサの第1端と第2端との間の位置、及び前記第2端よりも先の位置の関数としての後方散乱信号を供給するステップと、C.前記位置の関数としての前記後方散乱信号に基づいて、前記第2端よりも先の前記後方散乱信号を表わす曲線の特性を求めるステップと、D.前記曲線において所定の依存性を示す前記受信電気信号の前記振幅部分、及び前記受信電気信号の前記位相角部分を補正するステップと、E.ステップBを補正済み受信電気信号に基づいて繰り返すステップと、を含む。
【0016】
ステップFでは、ステップC,D,Eは所定の基準が満たされるまで適宜繰り返される。
ステップAで「変調周波数fの関数としての受信電気信号」と表現される複素測定信号(周波数データ)と、ステップBで「センサの第1端と第2端との間の位置、及び第2端よりも先の位置の関数としての後方散乱信号」と表現される後方散乱曲線との間では、固有の数学的変換手順、すなわち逆フーリエ変換が行なわれる。数学的変換の高速計算のための実際のツールはそれぞれ、高速フーリエ変換(FFT)、及び逆高速フーリエ変換(IFFT)である。以下の説明では、これらの略語を使用する。後方散乱曲線を解析することにより、複素周波数データの特性についての結論が得られる。
【0017】
複素受信電気信号は、デジタル形式の離散測定ポイントとして、例えばA/D変換(アナログ−デジタル変換)の結果として表わすと便利であり、例えば、適切なデータ記憶媒体(例えば、DSP(デジタル信号プロセッサ)のメモリ)に保存すると便利である。
【0018】
一つの実施形態では、或る測定サイクルに対応する特定の受信電気信号(例えば、ストークス信号または反ストークス信号)に関する1セットよりも多くのセットのデータをメモリに保存する。一つの実施形態では、特定の信号に関する多数の測定サイクルから得られるデータを補正校正が行なわれる前に平均する。
【0019】
一般的に、一つの測定サイクルは、温度プロファイル(または、少なくとも後方散乱曲線)を求めるための全てのステップ(周波数データを測定し、周波数データを補正し、後方散乱曲線を計算し、後方散乱曲線群の比/関係を計算し、温度プロファイルを計算する)から成る。一つの実施形態では、「一つの測定サイクル」という表現は、(レーザ)光源の変調周波数を1回だけ掃引する操作を指すものとする。
【0020】
「データセット」、例えば「周波数データセット」という表現は本明細書においては、一つの測定サイクルにおける所定の信号を表わすデータを指すものとする。「周波数データセット」は、例えばDCから最大変調周波数(例えば、100MHz)までを所定の周波数間隔(例えば、8kHz)で刻んだ範囲の多数の複素周波数データポイントによって定義することができる。
【0021】
繰り返しによって、後方散乱曲線(群)を徐々に細かく補正することができる。一つの実施形態では、繰り返し手順は次のステップを含むことができ、ステップ1では、f=0での複素受信電気信号(DC値)の振幅の増分変化を求め、複素受信電気信号の位相特性全体(位相角φ対変調周波数f)の位相オフセットの増分変化を求める。ステップ2では、後方散乱曲線を再計算する。ステップ3では、所定の基準に従って、ステップ1から続けるか、それとも中止するかについて決定する。一つの実施形態では、補正は、「自動システム校正」と呼ぶ自動コンピュータ制御線形化手順によって行なわれる(以下の第5節を参照)。
【0022】
上記の校正ステップを行なうことにより、測定システムが求めている物理パラメータの精度が確実に高くなる。
任意の補正校正の結果は、システムのメモリに保存すると便利であり、当該結果は、同じタイプの(しかしながら、他の補正係数を用いる)別の補正校正、または別のタイプ(例えば、「DC誤差補正」対「周波数校正」)の別の補正校正の基礎として(後の時点において)使用される。
【0023】
一つの実施形態では、異なるタイプの補正校正の順番は、最良の結果(例えば、測定結果と、理論的な予測結果または実用的に検証される結果とが一致するかどうかという観点から評価される)が得られるように最適化される。
【0024】
「FMCW後方散乱測定システム」という用語は本明細書においては、一つ以上の連続散乱媒体及び/又は一つ以上の反射体によって後方散乱される電磁信号(例えば、マイクロ波周波数、レーダ周波数、または光周波数などの周波数をもつ信号)の周波数変調を利用する周波数変調連続波(FMCW)測定システムを指すものとする。
【0025】
FMCWレーダシステムは、例えばオブジェクトまでの距離、及びオブジェクトの速度を求めるために使用することができる。電気FMCWシステムは、例えば電気ケーブルに沿った温度の空間分布をモニタリングするために使用することができ、これについては欧州特許第1548416号に記載されている。
【0026】
FMCW測定システムでは、センサ媒体に沿った物理値の空間分布を求める操作は、例えば周波数領域のシステム応答をIFFTすることにより行なわれる。IFFTを行なうために、必要となる周波数範囲はDC(0Hz)から上限周波数までの範囲である。測定の精度は最小周波数(DC)の精度によって変わり、最小周波数によって、IFFTを行なった後に結果として得られる信号のベースレベルが指定される。例えば、欧州特許第0692705号及び欧州特許第1548416号に記載されているようなFMCW計測装置はDC(0Hz)よりも大きい下限周波数を有する。
【0027】
従って、本発明の校正手順は、DC(0Hz)での正しい測定値を求めることを目標とし、FMCW測定システム全般に適用することができる。
特定の実施形態では、FMCW後方散乱測定システムは光FMCW後方散乱測定システムである。
【0028】
「光FMCW後方散乱測定システム」という用語は本明細書においては、一つ以上の連続散乱光媒体(通常は光ファイバ)及び/又は一つ以上の光反射体(ファイバ端、プラグ、レンズ、ミラーなどにおけるフレネル反射)によって後方散乱される光ビーム(励起光)の周波数変調を利用する光周波数変調連続波(FMCW)測定システムを指すものとする。後方散乱光は、励起光と同じ波長、及び/又は非線形光学効果に起因する異なる波長の更に別の光と同じ波長を含む。後方散乱光の特性は、連続散乱媒体及び/又は反射体の物理パラメータ(力、歪み、圧力、温度など)、及び/又は化学パラメータ(湿度、腐食、硫黄など)、及び/又は電磁パラメータ(蛍光、放射など)によって変わる。
【0029】
「光FMCW後方散乱測定システム」という用語は、ヘテロダイン測定法(光ヘテロダイン測定法または電気ヘテロダイン測定法)を利用するシステムを含むものとする。
光ヘテロダイン測定法(optical heterodyne measurement technology)を光FMCW後方散乱測定システムに使用することにより、励起信号及び後方散乱信号の混合を、例えばマイケルソン干渉計からの出射光路において行なう。この種類の光FMCW方式は「OFDR方式」または「コヒーレントFMCW方式(coherent FMCW techniques)」とも呼ばれる(例えば、Journal of Lightwave Technology, 第11巻, No.8, 1993年8月に掲載されたユー・グロンビッツァ(U. Glombitza),イー・ブリンクメイヤー(E. Brinkmeyer)による「シングルモード高密度光導波路を特性化するコヒーレント周波数領域反射率測定法」と題する記載を参照)。
【0030】
電気ヘテロダイン測定法(electrical heterodyne measurement technology)を光FMCW後方散乱測定システムに使用することにより、励起信号及び後方散乱信号の混合を、電気受信機モジュールにおいて行なう。この種類の電気FMCW方式は「非コヒーレントOFDR方式(incoherent OFDR techniques)」とも呼ばれる(例えば、The international Society for Optical Engineering, Photonics West, 2003に掲載されたエミール・カラマメドビック(Emir Karamehmedovic),ユー・グロンビッツァ(U. Glombitza)による「非コヒーレント光周波数領域反射率測定法を使用する光ファイバ分布温度検出」と題する記載を参照)。
【0031】
「OFDR」(optical frequency domain reflectometry:光周波数領域反射率測定法)及び「光FMCW後方散乱」という用語は、本出願においては同じ意味に使用される。
【0032】
「前記曲線において所定の依存性を示す前記受信電気信号を補正する」という表現は、本明細書においては、センサの第2端、即ち遠位端よりも先の後方散乱曲線の
1.平均値、及び/又は
2.勾配(傾斜)
によって変わる形で、周波数領域の
3.DC値(f=0)のレベルの絶対値、及び
4.位相特性の位相オフセット
を変更することができることを意味するものとする。
【0033】
一つの実施形態では、周波数変調においては、2つの光信号を混合する(コヒーレントOFDR(周波数領域後方散乱測定法)と表記する)。
一つの実施形態では、レーザの周波数変調においては、異なる周波数のレーザ光の強度を変調する。測定サイクルごとに、レーザ周波数が0Hzと最大周波数、通常100MHzとの間で変化する(チャープされる)。周波数範囲は、光FMCW計測装置の空間分解能に対応するように設定される。異なる周波数ステップのレーザ出力光の強度の平均値は通常、一定である。周波数測定ポイントの数は、ファイバ長によって変わり、周波数間隔はFMCW計測装置の空間分解能によって変わる。
【0034】
「FMCW測定システム(「光FMCW測定システム」のような)を校正する」という表現は本明細書においては、測定システムが誤差の発生源、及び生じ得る規格からのずれを求めることにより所定レベルの精度を満たすようにシステムを確実に適合させ、かつシステムがこのような誤差及び/又はずれを確実に正しく補正するようにシステムを適合させるプロセスを指すものとする。
【0035】
一つの実施形態では、校正は、受信(生)データを周波数領域で補正することにより行なわれる(低い周波数に変換された後方散乱受信電気複素信号対レーザ変調周波数f)。
【0036】
一つの実施形態では、受信センサ信号は、判別可能な第1及び第2部分を含む。「受信信号が判別可能な第1及び第2部分を含む」という表現は本明細書においては、受信信号に基づいて、例えば光から電気への変換のような変換の後に、及び/又は例えば光信号または電気信号に更に信号処理を施した(例えば、フーリエ変換を含む)後に、センサ(例えば、光センサ)の特定部分による影響度を特定することができる操作を指すものとする。例えば、或る長さの光導波路をセンサとして使用する場合、当該用語は、当該長さの導波路からの信号に与える影響度を生成することができ、これによって当該長さに関する物理特性(例えば温度)についての情報を信号に基づいて抽出し、かつ導波路の当該長さを超える領域に関する信号の特性を使用して補正を行なうことができることを指すものと理解し得る。
【0037】
一つの実施形態では、前記センサの前記第1端と前記第2端との間の位置、及び前記第2端よりも先の位置の関数としての後方散乱信号を供給するために行なわれる受信電気信号の変換は逆フーリエ変換である。
【0038】
一つの実施形態では、センサは光導波路である。一つの実施形態では、センサは光ファイバ、例えばシリカガラス光ファイバである。別の構成として、センサは電気ケーブル(例えば、同軸ケーブル)、または他のいずれかの空間分布センサ媒体とすることができる。
【0039】
ステップFにおいて、前記所定の基準が、前記センサの前記第2端よりも先の前記後方散乱信号を、ほぼゼロの勾配を有する直線によって近似されることである場合、更に精度の高い後方散乱信号が供給されるので、抽出される物理パラメータの精度が高くなることが保証される。平均値がほぼ0であると更に有利である。データは「サンプル数」を利用して表示される(直線データで表現される)ことが好ましい。
【0040】
「ほぼゼロ」という表現は本明細書においては、後方散乱データを直線的に表示する場合の0からの平均値の許容差/変位、及びファイバ端よりも先のノイズの傾斜/勾配が非常に小さいので、所定温度のセンサファイバの領域において対数表示される後方散乱曲線が直線状になり、かつセンサファイバに沿った減衰率が一定であり、更にファイバ減衰の理論値に一致する様子を指すものとする。このようにして求めることができる0からの許容変位/許容差の値は、繰り返し方法の収束基準である。これらの基準は他のいずれのセンサファイバにも適用することができる。
【0041】
一つの実施形態では、前記勾配は特定の収束値よりも小さい。一つの実施形態では、前記勾配はほぼゼロであり、例えば標準誤差(samples)で0.5未満か、標準誤差で0.05未満か、標準誤差で0.005未満である。
【0042】
一つの実施形態では、前記所定の基準は、前記第2端よりも先の前記後方散乱信号の一部分か、または全てに関するサンプル群の平均値が特定の収束値よりも小さく、例えばほぼゼロか、標準誤差で0.5未満か、標準誤差で0.05未満であるという基準である。
【0043】
一つの実施形態では、「平均値がほぼ0である」という表現は、ステップDにおけるf=0での受信電気信号の振幅の所定の増分変化に関して、ノイズレベルを表わす平均値であって、センサの第2端よりも先の後方散乱信号の平均値の符号がステップEにおいて再計算される場合に変わる現象を指すものとする。
【0044】
一つの実施形態においては、ステップDにおいて前記受信電気信号の振幅部分を補正することは、振幅データを、0に等しい変調周波数fでの初期補正量ΔH(0)によって補正するサブステップD1を含む。
【0045】
一つの実施形態においては、ステップD1では、前記初期補正量ΔH(0)は、所定の値、例えば推定値に設定される。
一つの実施形態においては、ステップD1では、前記初期補正量ΔH(0)は、後方散乱曲線のノイズの平均値の0からの変位量によって決まる。
【0046】
一の実施形態においては、ステップDにおいて前記受信電気信号の位相角部分を補正することは、f=0近傍での前記変調周波数fの関数としての前記受信電気信号の位相角の初期オフセット値Δφ(0)を求め、次いで、受信電気信号の前記位相角を変調周波数fの関数として表わすデータを前記オフセット値で補正するサブステップD2を含む。
【0047】
一つの実施形態においては、ステップD2では、前記初期オフセット値Δφ(0)は所定の値に設定される。
一つの実施形態においては、ステップD2では、前記初期オフセット値Δφ(0)は、周波数f→0Hzとして位相角データを線形外挿することにより求めることができる。
【0048】
繰り返し線形化手順(以下の説明では、「自動システム校正」と表記される。以下の第5節において更に詳細に説明する)の結果は、
a)ステップD1のDC値補正手順、及び
b)ステップD2の位相オフセット補正手順
に関する補正係数である。
【0049】
このようにして、両方の手順(D1及びD2)の物理的な限界精度が大幅に改善される。ファイバを含む専用システムに固有の誤差の残存部分(残留誤差)は、「自動システム校正」の結果をDC値補正手順、及び位相オフセット補正手順に使用することにより除去される。各測定サイクルの間に実施する必要のあるDC値補正手順及び位相オフセット補正手順とは異なり、「自動システム校正」は、ファイバを含む専用測定システムに対して1回行なうだけで済む。
【0050】
一つの実施形態では、前記ステップA,B,C,D,及び任意のEの校正手順は各測定サイクルにおいて行なわれる。
一つの実施形態においては、「自動システム校正」は、複数の測定サイクルの或る部分、主要部分、または全てにおいて行われる。
【0051】
一つの実施形態においては、ステップDは更に、残留補正係数ΔHres(0)を求めるサブステップD3と、残留オフセット値Δφres(0)を求めるサブステップD4とを含み、両方のサブステップは、サブステップD1における前記初期補正量ΔH(0)、及びサブステップD2における前記初期オフセット値Δφ(0)による補正をそれぞれ行なった後に、前記振幅部分及び前記位相角部分を前記変調周波数fの関数としてそれぞれ表わすデータに基づいて計算される後方散乱データに基づいて行なわれ、サブステップD3では、前記残留補正係数ΔHres(0)の値は、前記センサの前記第2端よりも先の前記後方散乱信号の平均レベルの平均値に基づいて求められ、サブステップD4では、前記残留オフセット値Δφres(0)の値は、前記センサの前記第2端よりも先の前記後方散乱信号の勾配の値に基づいて求められる。
【0052】
一つの実施形態では、前記補正ステップD3及びD4は、5回よりも多くの測定、10回よりも多くの測定、20回よりも多くの測定のような複数回の測定により得られる後方散乱曲線を平均することにより行なわれる。
【0053】
「平均後方散乱曲線」という用語は本明細書においては、例えば空間領域における各ポイントの多数の後方散乱曲線の(線形)平均を指すものとする。
一つの実施形態では、本方法は更にA1及びA2のステップを含み、ステップA1では、f=0近傍の前記変調周波数fの関数としての受信電気信号の位相角のオフセット値を求め、ステップA2では、前記位相角データの補正を前記オフセット値に基づいて行なう。従って、測定物理パラメータプロファイルの精度を更に高くすることができる。
【0054】
ステップA1において、前記オフセット値を、周波数f→0Hzとして位相角データを線形外挿することにより求めることができる場合、確実に手順の実行が容易になり、かつ自動化が実現する。線形外挿された量Δφ(f=0)を全ての位相角対周波数データから減算し(これによって、f=0での位相角の値が0°に設定される)、後方散乱データ及び物理パラメータプロファイルを再計算することにより、物理パラメータデータの精度を向上させることができる。
【0055】
一つの実施形態では、位相補正は、校正手順のDC補正の前に行なわれる、すなわちステップA1及びA2がステップBの前に行なわれる。これは、合成補正の精度が向上するという利点をもたらす。
【0056】
一つの実施形態では、複数の測定チャネルの間のクロストークの補正(以下の第8節を参照)は、DC補正手順及び位相オフセット補正手順の前に行なわれる。「自動システム校正」を実行した後は、手順の順番は任意である。
【0057】
一つの実施形態では、測定システムのセンサ、及び励起兼分析部は一緒に校正される。これによって、特定のセンサ特性から生じる受信周波数データ(だけでなく、励起兼分析部及び測定方法(例えば、数学的変換)全般から生じる受信周波数データ)の補正に与える影響度の大きさを考慮に入れた校正を行なうことができるという利点がもたらされる。
【0058】
特定の実施形態では、校正は、特性が判明している標準光センサのような標準化されたセンサを使用して行なわれる。
前記校正が、センサの光学特性のようなセンサの特性が変化するときに行なわれる場合、センサの長さ、減衰率、化学組成(従って散乱特性)などのようなセンサの特性が確実に校正の対象となる。
【0059】
一つの実施形態では、前記校正は、システムの他の特性が変化した、または変化したと考えられる場合に行なわれる。
一つの実施形態では、前記校正方法は、反ストークス光を表わす信号に対してだけでなくストークス信号に対しても行なわれる。
【0060】
一つの実施形態では、測定システムは、空間分布温度プロファイルを測定するように構成されたラマン後方散乱測定システムである。
一つの実施形態では、センサの長さに沿ったセンサの空間分布測定ポイントの抽出物理パラメータを使用してセンサの長さに沿ったセンサの温度プロファイルを計算する。別の構成として、湿度、腐食、硫黄、圧力、力、放射などのような他のパラメータを計算することができる。
【0061】
一つの実施形態では、測定はラマン後方散乱を利用して行なわれる。別の構成として、測定はレイリー後方散乱を利用して行なうことができる。
一つの実施形態では、受信センサ信号はストークス・ラマン後方散乱信号を含む。一つの実施形態では、受信センサ信号は反ストークス・ラマン後方散乱信号を含む。一つの実施形態では、温度プロファイルの計算はストークス・ラマン後方散乱信号及び反ストークス・ラマン後方散乱信号に基づいて行なわれる。
【0062】
従って、測定システムによって得られるプロファイルは完全に校正され(センサを含む特定の測定システムに関して)、システムに関して考えられる測定不良(DC誤差を含む)は周波数データに含まれる不良データとして、例えばソフトウェア手順により補正することができる。
【0063】
一つの実施形態では、本方法は更に、クロストーク補正手順(以下の第8節を参照)を含み、クロストーク補正手順は、G1.測定システムの複数の測定チャネルの間のクロストークをシステム製造期間において特定の測定手順を使用して求め、クロストークの値を格納するステップと、G2.正常動作の各測定サイクルにおいて、記憶されたクロストークデータを測定複素周波数データから減算するステップと、を含む。
【0064】
一つの実施形態では、ステップG1及びG2は、他の補正校正ステップよりも前に行なわれる。
一つの実施形態では、センサは、測定部に直列に接続することができる基準部を含む。一つの実施形態では、基準部は明確に特性化され、かつ明確に規定された長さを有し、更には明確に規定された温度で適宜格納される光ファイバである。
【0065】
一つの実施形態では、本方法は更に、周波数領域と空間領域との間の理論的な畳み込みを考慮に入れた複数のステップであって、予測複素周波数曲線を数学モデルに基づいて求め、算出された複素周波数関数Sに対する、FMCW後方散乱測定システムの測定データSRMの複素比により構成される複素周波数誤差関数を求めてメモリに保存するステップH1と、次の測定サイクルの最初に、前記測定された周波数データSRMを複素周波数誤差関数で補正するステップH2とを含む複数のステップを備える。
【0066】
一つの実施形態では、ステップG1及びG2は、他の補正校正ステップよりも後に行なわれ、好適には最後の補正校正ステップとして行なわれる。
本発明は更に、光FMCW後方散乱測定システムのようなFMCW後方散乱測定システムに関するものであり、FMCW後方散乱測定システムはコンピュータ読み取り可能な媒体を備え、コンピュータ読み取り可能な媒体はコンピュータ読み取り可能なプログラムコードを格納しており、「発明を実施するための最良な形態」欄に記載され、かつ請求項に記載される校正方法を実行する。
【0067】
「コンピュータ読み取り可能な媒体」という表現は本明細書においては、プログラムコードを格納するいずれかの適切な手段を指すものとし、この手段として、ディスケット(diskette)、CD−ROM、フラッシュメモリ、ハードディスクドライブ、RAMなどを挙げることができる。一つの実施形態では、コンピュータ読み取り可能な媒体は、PC、マイクロプロセッサ(例えばDSP)の一部分であるか、またはPC、マイクロプロセッサと一体化される。
【0068】
本発明は更に、コンピュータ読み取り可能なプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な媒体に関するものであり、プログラムをコンピュータで実行すると、プログラムによって、「発明を実施するための最良の形態」欄に記載され、かつ請求項に記載される校正方法を実行することができる。
【0069】
「コンピュータ」という用語は本明細書においては、プログラムコードを実行するいずれかの適切な処理ユニットを指すものとし、処理ユニットとして、PC、マイクロプロセッサ、DSPなどを挙げることができる。
【0070】
本発明の更に別の目的は、従属請求項に規定され、かつ本発明の詳細な説明から明らかになる実施形態により達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0071】
1.光後方散乱測定システム
図1は光FMCW測定システムの模式図を示し、光FMCW測定システムは励起兼分析ユニット及び光センサを備える。
【0072】
図1aでは、励起兼分析ユニット11を備える光FMCW後方散乱測定システム10は、光センサ13と光学的に相互作用する(矢印12で示すように)ものとして描かれている。図1bでは、測定システム10の励起兼分析ユニット11の光源111は、例えば半導体レーザ(例えば、データ通信光伝送システムの光ファイバアンプに通常使用される波長が980nmのピッグテール型半導体レーザ)のようなレーザを含むものとして示され、この半導体レーザは、周波数変調光信号121を励起して光センサ13(例えば、シリカファイバのような長さLの光ファイバ)の第1端134に送り込み、センサは光源111に対して遠位に位置する第2端132を有する。光源111からの光信号121は、光センサ13に入射する前に適宜変調する(例えば、フィタリングする、及び/又は集光する)ことができる(受光ユニット112内部の破線矢印で示すように)。変調を行なう光学部品(群)(例えば、フィルタ、スプリッタ、レンズなど)は、全体または一部を受光ユニット112の一部分として構成することもできるし、或いは部品群の全体または一部を別の場所に配置することもできる(例えば、一つ以上の個別ユニットとして、またはセンサ13の構成部品として)。光センサ13からの後方散乱光信号122は、受光ユニット112が受信するものとして示され、信号113は受光ユニット112から処理兼分析ユニット114に転送される。(後方散乱)受信光信号122は、周波数変調光信号121に基づくデータ信号を含み、このデータ信号から、センサ13に沿った空間分布測定ポイントの物理パラメータを抽出することができる。測定ポイント131は光センサ13の長さLに渡って分布する。
【0073】
図1cは、例示としての光FMCW後方散乱測定システム10を、ラマン後方散乱を利用する光ファイバ式温度測定システム(optical temperature measurement system)として示している。尚、ここでの校正方法はレイリー散乱による測定方法(例えば、湿度または力の測定(例えば、欧州特許第692705号に記載されているような)や、または適切な大きさの後方散乱信号を供給する他の散乱方式)に使用することもできる。
【0074】
図1cの温度測定システム10は励起兼分析ユニット11を備え、当該ユニットは、光源モジュール111(周波数発生器1113、レーザ1111、及びレーザドライバ1112を含む)と、光受信機112(公知の記号で表されるフィルタ及び光検出器を含む)と、電気受信機兼分析ユニット114(トランスインピーダンス変換器、ミキサ1141、アンプ、バンドパスフィルタ、アナログ−デジタル(A/D)変換器、及び信号処理ユニット1142を含む)と、光ファイバ(光信号12を光ファイバに結合させる、/光ファイバから取り出す入力/出力カプラーを含むことができる)の形態をとる温度センサ13と、を含む。考えられる熱発生源135がセンサ内に示される。測定ユニット11は内部に、温度計算の基準として使用される更に別の長さの光ファイバを有する。この基準光ファイバは、実用上の理由からファイバスプールに巻き付けられ、このスプールは光モジュール112とセンサ13との間に配置される。光スイッチは、例えば光ファイバ13を両端(134及び132)から測定して光ファイバにおける減衰補正量を得るために使用することができる。更に別の選択肢として、光スイッチを使用して幾つかの光ファイバを同じ測定ユニット(励起兼分析部11)で測定する。光は、複数のセンサの各々の第1端134に向けて連続的に送出される必要がある。光スイッチは基準スプールとセンサ13との間に配置することができる。これらの任意の追加の光学部品(基準スプール及び光スイッチ)は図1には示されない。図1のシステムは更に、処理ユニット115及びユーザインターフェース116を備える。種々の機能ブロックの間の接続は矢印で示される。
【0075】
システムは図1cに示す実施形態では、3つのチャネルを備える、すなわち2つの測定チャネル(反ストークスチャネル及びストークスチャネル)の他に、更に一つの基準チャネルを備える。レーザの出力は、測定時間区間内でHF変調器によって開始周波数(例えば0Hz)から終了周波数(例えば100MHz)まで掃引される周波数(図1cではf、他の箇所ではfと表記される)を有する正弦波信号(sinus signal)によって振幅変調される。結果として得られる周波数変調レーザ光121は光モジュール112を通して光導波路13の第1端に結合される。ファイバ13の長さに沿ったあらゆる部分(図1bのポイント群131を参照)によって連続的に後方散乱される光(ラマン光を含む)122に対してスペクトルフィルタリングが光モジュールにおいて行なわれ、そして当該光は電気信号に光検出器を通して変換される。光源モジュール111からの光の一部分は光ファイバの第2(遠位)端132で反射され、そして一部分133が透過する。受信(測定)信号113を増幅し、そして低周波数帯域のスペクトル範囲(LF範囲)でミキシングして、レーザ変調周波数fの関数としての受信(後方散乱)電気信号を供給する。平均LF信号を逆フーリエ変換することにより、2つのラマン後方散乱曲線(反ストークス曲線及びストークス曲線)が得られる。これらの後方散乱曲線の絶対値は、光ファイバの長さに沿ったラマン散乱の強度に比例する。センサケーブルに沿ったファイバ温度は、2つの測定チャネルの信号の振幅の関係(比)として現われる。このようなシステム、及び分布温度、湿度、或いは力プロファイルを測定する当該システムの使用法については、欧州特許第0692705号に記載されており、当該システムはドイツのケルンに本拠を置くリオス テヒノロギー ゲーエムベーハー(LIOS Technology GmbH)社製のコントローラOTS 40PのようなDTSシステム(DTS:distributed temperature sensing:分布温度検出)として市販されている。
【0076】
2.「周波数データ」−>「後方散乱データ」−>「温度プロファイル」
2.1 測定データ
標準化された後方散乱曲線S(z)の計算は、測定複素周波数曲線(例えば、複素データの絶対値及び位相をそれぞれ表わす実部及び虚部を含む)を逆フーリエ変換することにより行なわれる(以下の等式(I)を参照)。変換を行なうために、(複素)データを、開始周波数(例えば0Hz)から終了周波数(例えば100MHz)までのレーザ変調周波数fの関数として測定する必要がある。レーザ変調周波数fにおいて、標準化された位置周波数を表わす変数は、次式(数1)、
【0077】
【数1】

で表される。
【0078】
0Hzでの測定値(DC値と表記する)には問題が生じる。この値は2つの誤差要因が重畳されたものであり、一方はレーザ(変調されていない)の出力パワーの平均値から生じ、他方は光ファイバからの後方散乱ラマン光信号の平均値から生じる。すなわち、一方の要因はセンサには関係なく、他方の要因はセンサに関係する。
【0079】
図2は、分布温度プロファイルを測定するラマン後方散乱測定システムの測定データを示し、図2a(左側)は絶対値を示し、そして図2a(右側)は、反ストークス光及びストークス光の複素受信(周波数をダウンコンバートした電気)信号の位相を周波数領域で示し、図2bはフーリエ変換による信号を空間領域(該当する後方散乱曲線)で示し、図2cは生成分布温度曲線を示す。
【0080】
図2a(左側)は、後方散乱反ストークス信号212及びストークス信号211を0〜8MHzの変調周波数fの関数として表わす複素受信周波数データ信号21の絶対値(単位:dB)を示している。
【0081】
複素周波数データの絶対値は数2のようにして計算される。複素数Z=a+jbの絶対値は、数2により表わされるように、複素関数Zの実部(a)の二乗、及び虚部(b)の二乗の和の平方根である。
【0082】
【数2】

位相は、複素数Zの虚部(b)と実部(a)との間の関係を表わす角度である。
【0083】
図2a(右側)は、後方散乱反ストークス信号及びストークス信号(これらの2つの信号は図示のプロットで判別できない)を0〜8MHzの変調周波数fの関数として表わす複素受信周波数データ信号221の該当する位相22を示している。
【0084】
図2bは、図2a及び2bの複素受信信号に基づいて生成される後方散乱曲線23(ストークス曲線232及び反ストークス曲線231)を示し、図2cは結果として得られる温度プロファイルT(z)24(温度T(℃)対0〜4500mのファイバ長座標z)を示している。
【0085】
2.2 数学的フレームワーク
ラマン後方散乱信号の時間(t)依存強度dP(t)は次式のように表わすことができる。
【0086】
【数3】

上の式では、Rはストークス光または反ストークス光に固有のパラメータをそれぞれ表わし、ζは種々の損失(フィルタ、カプラーなどの損失)を考慮に入れた値であり、ρはラマン後方散乱係数であり、αは光導波路における波長λ(λはレーザ励起光である)での減衰率であり、αは異なるラマン光波長(ストークス光及び反ストークス光)での減衰率であり、Pはレーザ光源の光パワーであり、zは考察対象の光導波路の長さLに沿った空間座標であり、vgrは光の群速度である。
【0087】
該当する各ラマンチャネルの全散乱パワーは、ファイバ長Lに沿った積分を行なうことにより得られる。
レーザの正弦波強度変調を取り入れることにより、励起兼分析ユニットが受信する信号を次式のように表わすことができる。
【0088】
【数4】

上の式において、
【0089】
【数5】

はレーザ光のDC振幅であり、mはレーザの変調深度であり(例えば、図8を参照)、fは変調信号の周波数(本出願の他の箇所ではfと表記される)である。レーザ(励起光)Pの光出力は次式により表わされる。
【0090】
【数6】

該当する各ラマンチャネルの散乱パワーを逆フーリエ積分を使って展開すると次式が得られる。
【0091】
【数7】

上の式では、次式のような関係がある。
【0092】
【数8】

上の式では、PROは、レーザの動作ポイント(m=0)に対応するDC値であり、p(f)はレーザ変調の関数として表わされるラマン光の複素測定信号である。また、
【0093】
【数9】

は複素量または複素関数の実部を表わす。等号の上の「!」は公式がフーリエ積分を使っていることを示すための特殊記号である。ここで、追加のDC部分はf=0での複素量の実部により生成される(Re[p(0)]≠0)。
【0094】
(数1)が標準化された位置周波数を表わす変数として導入される場合、次式(数10)で表される、標準化された検出信号Sが得られる。
【0095】
【数10】

上の式では、次式のような関係がある。
【0096】
【数11】

上の式を逆フーリエ変換すると次式が得られる。
【0097】
【数12】

上記等式(I)はラマン後方散乱曲線を位置の関数として理論的に計算した結果を表わす(例えば、図2bを参照)。ラマン後方散乱曲線は、後方散乱光が光ファイバに沿って強度を変えながら伝搬する様子を示す。
【0098】
3.DC誤差補正
逆フーリエ変換では、
【0099】
【数13】

のDC値のみが必要になる。
【0100】
この値は、特殊な測定手順を使用して求めることができる(下記参照)。DC値はレーザのCW信号の平均値に関連する部分(直接測定することができる)、及び測定チャネルの後方散乱光から生じる部分(直接測定することはできない)から成る。一つの実施形態では、本方法は、部品(例えばレーザダイオード)の経年変化(ageing)、または電子部品の許容誤差から生じる影響をほぼ無くすように構成することができる。これは、異なる個別の測定を行なってDC値を正しい形で計算するためのパラメータを求めることにより行なうことができる。
【0101】
計算方法の数値精度には限度があるため、装置固有の残留誤差が生じる。この誤差は分布温度プロファイルに対して、更に温度校正に対して大きな影響を与える恐れがある。
図3は、DC誤差がラマン後方散乱温度測定システムのストークス信号及び反ストークス信号に与える影響を示し、図3a及び3bは、DC誤差を含む場合(それぞれ左図の31,33)、及びDC誤差を含まない場合(それぞれ右図の32,34)のストークスチャネル31,32、及び反ストークスチャネル33,34をそれぞれ示す。
【0102】
DC誤差が補正された後方散乱曲線(右図)の直線性が、誤差が補正されない曲線(左図)に比べて良くなっている様子が分かる。
ラマン測定検出信号の正しいDC値は、異なる個別の測定を行なってこのDC値を計算するためのパラメータを求めることにより得られる。FMCW(周波数変調連続波)を周波数領域の形式にすることにより、ラマン後方散乱光の位相遅延項をファイバに沿って測定することができる。(IFFTの後の)空間領域では、該当する信号はラマン光のグループ速度項である。レーザ光源の変調特性(固定動作点での異なる周波数による強度変調)に起因して、f=0Hz(DC値)での複素検出信号は更に別の項を含み、この項はラマン後方散乱光の位相遅延項とは関係がない。この項はIFFTには望ましくなく、かつ上述のDC誤差を生じさせる。このDC誤差は非常に大きな影響を及ぼし、かつ後方散乱曲線に変動を生じさせ、更には温度曲線の計算に変動を生じさせる。
【0103】
行なうべき作業は、異なる周波数での上記等式の未知パラメータを求めることである。未知パラメータは、レーザの動作点により生じるDC値に対する影響度(UDC1)、及び周波数をゼロHzに下げる変調により生じるDC値に対する影響度(UDC2)である。異なる方法を使用することができる。一例として、次式が成り立つ。
【0104】
【数14】

上の式では、Uはアナログ−デジタル変換器を通過した後の測定信号の電圧である。電圧Uは光検出器の電流に(すなわち、ラマン後方散乱光の強度に)直接比例する。
【0105】
第1の測定を、基準チャネルのレーザ光源のいずれかの変調周波数(f=f,例えば3KHz)で行なうことにより、レーザの変調深度mを求めることができる(図8参照)。
【0106】
図8は、周波数f=10KHzの基準信号を示している。デジタル信号によって、DC値の計算が可能になり(データサンプルの数で割ったサンプリング値を加算することにより)、かつAC値の計算が可能になる。これらの値に基づいて、変調深度mを生成することができる。
【0107】
f=0の第2ステップでは、DC測定を行ない、DC測定の結果はURaman(f=0)の和となる。
第3の測定をf=f(例えば8KHz)で行なうことにより、UDC1と表記されるDC値を測定する。レーザの動作点により生じるDC値のみが測定される(例えば、電子的に直流結合させる)。
【0108】
最終ステップでは、DC値(UDC2)を次の等式により計算する。
【0109】
【数15】

DC値を補正する上に開示した方法は、非常に高速に実行することができるので、非常に短い期間の測定サイクルで実行することができるという利点がある。
【0110】
DC誤差の影響に関する説明(図3)から、誤差が複素周波数データ及び後方散乱データに影響し、後方散乱曲線の非線形性(光センサ導波路の第2の遠位端よりも先の部分(例えば、図1の134)に含まれる)に観測されることが分かる(例えば図11a,11b,11cを参照)。
【0111】
上に説明した2つの残留誤差を無くす、または除去するために、光導波路の遠位端よりも先の部分に対応する、後方散乱データにおけるノイズの生成過程を、ストークスデータ及び反ストークスデータの両方に関して解析する。
【0112】
理想的な場合においては、誤差を含まない周波数データを使用することにより、導波路の遠位端よりも先の領域を表わす曲線部分に一定のノイズレベルを含む後方散乱曲線が得られる。この領域におけるノイズの経路は理想的には、傾斜/勾配が0の直線によって表わされる必要がある。
【0113】
4.位相誤差補正
以下に、部品の許容誤差及び部品の非線形動作に起因する複素受信周波数データの位相誤差を補正する手順について説明する。
【0114】
図1cの測定システムは3つの個別の測定チャネルを有する。個々のチャネルの電子部品の許容誤差及びエージング効果が異なることにより、対応する信号間に位相差が生じ、これによって、非線形後方散乱曲線が生じ、その結果、ここでも同じようにして、システムが求める必要のある物理パラメータ(この場合は温度)に関して結果として得られるプロファイルに影響が生じる。
【0115】
図4は、部品の許容誤差及び劣化に起因する位相誤差を含む場合(図4a)及び含まない場合(図4b)のラマン後方散乱温度測定システムの測定データを示している。
図4aは(大きな)位相誤差を複素周波数測定データに含む例を示している。参照番号41で示す最も上の図は、複素測定信号411,412(それぞれ反ストークス信号及びストークス信号を測定ポイントの関数として表わしている)の両方の振幅(電圧単位で表記され、光検出信号の強度に比例する)を周波数の関数として示している。中央の図42は、フーリエ変換を行なった後の後方散乱曲線421,422(それぞれ反ストークス曲線及びストークス曲線を表わしている)、すなわち光パワー[dB]対位置[m](すなわち、励起兼分析ユニットからの距離)の測定値を示している。1450nm近傍の曲線のねじれ(kink)423は、ファイバ端近傍の位相誤差に起因する影響を示している。位相誤差によって、変動を持つ非線形動作が、最も下の図43に示す温度[℃]曲線対位置[m]のデータにも生じる。温度上昇が、2000m近傍のピーク431によって示される。
【0116】
ストークスチャネルから得られる該当する位相角[°]曲線対周波数[kHz]が一例として図5aに示され、参照番号51の曲線はグラフ511として拡大されている(図5b)。誤差の影響は、グラフの最初の部分に見つけ出すことができる。線形増加ではなく、位相は位相オフセット(曲線を周波数軸に向けて線形外挿(linear extrapolation)する(例えば、1kHzから6kHzに)ことにより検出することができる)を含む。この位相オフセットが後方散乱曲線の非線形外乱の原因である。
【0117】
図4bは、位相誤差を含む図4aのデータに対応する複素周波数測定データに位相誤差を含まないデータの例を示している。参照番号44で示す最も上の図は同様に、複素測定信号441,442(それぞれ反ストークス信号及びストークス信号を測定ポイントの関数として表わしている)の両方の振幅を周波数の関数として示している。中央の図45は同様に、フーリエ変換を行なった後の後方散乱曲線451,452(それぞれ反ストークス曲線及びストークス曲線を表わしている)を示している。ファイバ端近傍の1450nm近傍の曲線の挙動(参照番号453で示す)は、図4aの該当する曲線とは大きく異なることが分かる。データの位相誤差を補正することによって、最も下の図46の温度[℃]曲線対位置[m]にも示すように、線形動作が生じる。温度上昇が、2000m近傍のピーク461によって示される。図5cは、複素測定信号の該当する位相関数512を周波数の関数として表わす詳細図を示している。位相角曲線がポイント(0,0)を含むことが分かる。
【0118】
図5は、ラマン後方散乱温度測定システムの受信(変換電気)信号の位相関数を示し、図5aは、0〜260kHzの周波数範囲を示し、図5b及び5cはそれぞれ、オフセット誤差を含む場合、及び含まない場合の0〜30kHzの周波数範囲の曲線の詳細を示している。
【0119】
オフセット誤差の絶対位相値は非常に小さい(通常、<1°)。オフセット値は位相関数を低周波数領域において線形近似することによって求めることができる(曲線を線形外挿して、周波数が0Hzに向かい、そして0Hzを通り過ぎるようにして周波数軸と外挿直線との交点を求める)。次のステップでは、負のオフセット値を持つ(可能性がある)位相関数の全体を更に分析する。位相オフセット誤差を求め、当該誤差を補正する操作は、自動システム校正手順に関する記述において上に説明したDSP(デジタル信号処理)ソフトウェアツールのオンライン測定手順の一部分とすることが好ましい。位相角オフセット補正の結果を図4b及び4cに示す。
【0120】
5.自動システム校正手順
センサを校正手順に取り入れると有利である。光導波路の後方散乱特性は複素受信周波数データの生成過程に影響を与えるので、装置(励起兼分析部)に起因する誤差の値は一定にはならない。更に、これらの誤差の値が温度プロファイルに与える影響は異なる。励起兼分析部の校正は、センサの特性が変化する(センサの取り替えに起因する、または励起兼分析部に接続されるセンサの物理特性の変化に起因する)場合には繰り返す必要がある。別の表現をすると、測定システムの再校正は、センサを異なる物理特性(長さ、化学組成、減衰率などを含む)を持つ別のセンサに置き換える場合には(少なくとも)実施する必要がある。
【0121】
本校正手順は、自動化可能な方法、例えばコンピュータ制御による方法を含み、この方法では、複素受信周波数データの位相の残留誤差、及び後方散乱データのDC誤差を雑音直線性のコンセプトに基づいて除去する。
【0122】
後方散乱曲線の直線データ表示における光ファイバ端の後のノイズ信号の観測値(平均値は0に等しく、かつ勾配/傾斜は0に等しい)に基づいて、DC値補正手順(第1周波数ポイントの絶対値を補正する)に関する補正係数、及び位相オフセット補正手順(周波数データの位相特性全体の位相オフセットを取り除く)に関する補正係数は、例えば次の方法において説明される手順で求めることができる。
【0123】
第1ステップでは、検出残留誤差を除去することなくオンライン手順「DC値補正」及び「位相オフセット補正」を使用して、非常に多い回数(例えば20回)の測定を行なう。データは「未補正周波数データアレイ」に書き込まれる。
【0124】
第2ステップでは、第1繰り返しステップにおいて通常値に初期化される上に命名されたオンライン手順の「残留誤差補正係数」を「未補正周波数データアレイ」に適用することにより、「補正済み周波数データアレイ」が得られる。
【0125】
第3ステップでは、IFFTを各周波数データセットに適用して「後方散乱曲線の補正済みアレイ」を生成し、これらの曲線を平均して、特にファイバ端よりも先の領域におけるノイズの絶対値を小さくする。ノイズの絶対値は、例えば標準誤差で20未満にする必要がある。
【0126】
第4ステップでは、ファイバ端よりも先の領域におけるノイズの特性を解析する。「残留誤差補正係数」を変更するためには2つの個別の基準がある。
1.平均後方散乱データの直線表示におけるファイバ端よりも先のノイズの平均値が正である場合、DC値補正手順に関する残留誤差補正係数を小さくする必要があり、負の場合には大きくする必要がある。
【0127】
2.平均後方散乱データの直線表示におけるファイバ端よりも先のノイズの勾配(傾斜)が正である場合、位相オフセット補正手順に関する残留誤差補正係数を小さくする必要があり、負の場合には大きくする必要がある。
【0128】
ステップ2〜4をストークス信号及び反ストークス信号に関して、平均値0の許容偏差の値、及びファイバ端よりも先のノイズの勾配の値(例えば、繰り返し法の収束基準:平均値<0.05標準誤差;勾配<0.005標準誤差)が満たされるまで繰り返す。
【0129】
最終ステップでは、残留誤差補正係数は専用システム(ファイバを含む)に記憶される。オンライン手順「DC値補正」及び「位相オフセット補正」では、これらのシステム固有の係数を更に別の演算において使用する必要がある。
【0130】
上記の繰り返し法「自動システム校正」は、測定システムを大量に自動生産するために適し、かつ試運転のためのフィールド測定、及びエージング効果も抑圧するメンテナンスにおける使用に適する。この繰り返し法によって、DC誤差(図11a,12b,及び12cを参照)、及び位相オフセット誤差(図12d及び12eを参照)が後方散乱曲線の直線性に与える影響を無くす。
【0131】
図11aは、DC誤差を含まない場合の長さが5273mのセンサに関するラマン光の後方散乱曲線を示している。ファイバ端に位置するラマン光は逃げるので、測定機器によって検出することができない。ファイバ端よりも後の信号は、光検出器のノイズ特性に対応するランダムノイズを含む。ランダムノイズを含むことにより、ファイバ端よりも先の全てのファイバ位置で平均値がゼロになるようにゼロ近傍で振幅が変動し、勾配(傾斜)もゼロであることを意味する振幅を有する信号が生じる。図11bは前述同様の後方散乱曲線を単に線形目盛で示したものである。グラフは、ファイバ端よりも先の位置のランダムノイズの挙動を忠実に表わしている。ランダムノイズは距離の線形関数である。
【0132】
DC値または位相オフセット値の計算に小さな誤差が含まれる場合、ランダムノイズは前述のものとは同じ特性を示さない。ノイズは一般的に異なるオフセットを含み、これにより距離に沿って非線形関数が生成される。図11b及び11cは、前述のようにDC誤差を含む同じ状態の後方散乱曲線に関するこれらのノイズ特性を示している。
【0133】
図11dは、位相オフセット誤差(縦軸の「Y軸」は線形目盛になっている)を含む場合の長さが4415mの光ファイバに関する後方散乱曲線のノイズ特性を示し、図11eは、位相オフセット誤差(「Y軸」は線形目盛になっている)を含まない場合の図11dの光ファイバに関する補正済み後方散乱曲線を示している。
【0134】
6.周波数校正
6.1 序論
光学部品及び電子部品の非線形動作によって歪みが周波数データに生じる。その結果、非線形歪みが温度プロファイルにも生じ、これにより温度測定システムの精度が低下する。これらの種類の誤差は、最大±1Kのわずかな非線形オフセットを温度プロファイルに沿って生じさせる。特に、高い温度精度を必要とするセンサ用途では、更に別の校正手順が必要になる。
【0135】
上述の非線形効果によって、非線形性を複素周波数関数の全ての測定ポイントについて評価する必要が生じる。クロストークに起因する加法的誤差とは異なり、非線形効果によって、乗算誤差が全ての複素周波数ポイントに生じる。この種類の乗算誤差関数(multiplicative error function)は、所謂周波数校正によって補正することができる。周波数校正を、光FMCW後方散乱測定システムの校正全体の最終補正シーケンスとすると有利である。
【0136】
図12aは、周波数校正を行わない場合の温度プロファイル、すなわち温度[℃]をファイバ長さのz座標値[m]の関数として示し、外乱がファイバに沿って分布する様子を示している。センサは(ここでは)直列接続される2つの異なる光ファイバから成る。約100mの長さの第1光ファイバ(図12aにおいて「内部基準ファイバ」として示される)は測定システム内に、温度計算のための温度基準として配置される。約3900mの長さの第2光ファイバが実際のセンサファイバであり、このファイバは光プラグを通して測定システムに接続される。センサファイバは20℃の温度の気候実験用チャンバ内に配置される。
【0137】
センサケーブルに沿った温度プロファイルによって、上述の非線形歪みが温度プロファイルに沿って生じていることが判明した。20℃の温度値を有する一定の温度プロファイルではなく、光学部品及び電子部品の非線形動作によって非線形外乱が温度プロファイルに沿って生じる。−1Kの最大誤差はz=1000m近傍の長さ位置に対応し、+1Kの最大誤差はz=3500m近傍の長さ位置に対応する(図13a参照)。
【0138】
図12bは、周波数校正後の同じ上述のファイバの温度プロファイルをファイバ長の関数として示している。グラフは、観測温度値が20℃のセンサケーブルの温度プロファイルを示している。非線形歪みが温度プロファイル(内部基準ファイバを含む)全体に沿って与える影響が補正される。
【0139】
周波数校正方法では、周波数領域と空間領域の間の理論的な畳み込みを考慮に入れる(これについてはフーリエ解析に基づく上の概要説明を参照)。
この数学的フレームワークに基づいて、複素周波数データを計算することができる。重要なのは、例えば特定の標準光ファイバに関連するセンサ特性が判明していることであり、これらのセンサ特性を例えばファイバの測定値から、既に校正されている測定機器を使用して抽出することができることである。
【0140】
6.2 数学的フレームワーク
次の等式はラマン後方散乱曲線を位置の関数として表わし、複素周波数関数を、フーリエ変換を使用することにより求める数学的基礎である。
【0141】
【数16】

ラマン後方散乱曲線の上の等式は、一つの光ファイバの事例を表わしている。ラマン後方散乱係数ρが一定であり、かつ減衰率αPRが光ファイバに沿って一定である状態では、ラマン光の複素周波数関数は次式により表わされる。
【0142】
【数17】

上の式では、Lは光ファイバの長さである。反射率RFRで表わされるフレネル反射に起因する更に別の効果、及び挿入損失ηに起因する更に別の損失は上記等式には含まれない。
【0143】
実用上関連する光ファイバ設定の適切な数学的表現を求める試みでは、特性の光学モデルを拡張する必要がある。校正方法を参照しながら、ファイバ設定を、異なる長さ(L,L)、異なるラマン後方散乱係数(ρR1,ρR2)、及び異なる減衰率(αPR1,αPR2)を有する2つの異なる光ファイバを使用して考える必要がある。光ファイバ接続に関する光プラグの挿入損失はη1−2により表わされる。2つの光ファイバの後方散乱ラマン光の該当する複素周波数関数は次式により与えられる。
【0144】
【数18】

上の式では、次式のような関係がある。
【0145】
【数19】

次の数学モデルでは、第1光ファイバ端でのフレネル反射率(RFR1)、光プラグ接続部でのフレネル反射率(RFR2)、更には光ファイバ設定部の第2端でのフレネル反射率(RFR3)を考慮に入れる。反射特性は次の複素周波数項によって表わすことができる。
【0146】
【数20】

上の式では、次式のような関係がある。
【0147】
【数21】

上述の光ファイバ設定に基づく複素周波数信号に関する完全な表現式は、次式により表わされる後方散乱ラマン反射光の和である。
【0148】
【数22】

これらの項の展開は、光ケーブルのグループ速度モデルに基づいて行なわれる(例えば、G. Grau, W. Freude, “Optische Nachrichtentechnik”, Springer Verlag and H.−G. Unger, “Optische Nachrichtentechnik”, Teil 1 and Teil 2,Huthig−Verlagを参照)。
【0149】
6.3 校正手順
光ファイバ設定部(校正ファイバ)の光学パラメータ(ファイバ長、ラマン後方散乱係数、減衰率、挿入損失、及びフレネル反射率)は、光時間領域反射計(OTDR)を使用する市販の光学機器によって測定することができる(例えば、Erhard Grimm, Walter Nowak, “Lichtwellenleitertechnik”,Huthig−Verlagを参照)。フレネル反射率が与える影響は、リターンロスが小さい光プラグを使用し、光ファイバ端を直角に切断することにより小さくすることができる。
【0150】
光設定部の光学特性についてこのように認識することにより、予測複素周波数曲線を上述の数学モデルによって求めることができる。計算による複素周波数関数Sに対するFMCW後方散乱測定システムの測定データSRMの複素比は、次式により表わされる複素周波数誤差関数となる。
【0151】
【数23】

図13aは、反ストークス受信信号の計算による複素振幅関数を周波数(0〜35MHz)の関数として示している。反ストークス信号の該当する測定信号を図13bに提示する。計算による信号に対する測定信号の複素比は複素周波数誤差関数である。図13cは反ストークス信号の該当する複素誤差関数Sを示している。縦軸(Y軸)は対数目盛[dB]である。
【0152】
測定周波数データと計算による周波数データとの間に結果として生じる偏差は、信号処理ユニット、例えばDSPによって補正することができる。複素周波数誤差関数はメモリに、例えばDSPのメモリに保存する必要がある。(次の)測定の開始時点では、ラマン信号の検出周波数データSRMは複素周波数誤差関数Sを使用して、次式のように複素除算することにより補正することができる。
【0153】
【数24】

周波数校正を行なう結果、非線形歪みがなく、かつ高精度の温度プロファイルが得られる。
【0154】
複素周波数補正の利点は、後方散乱曲線の非線形外乱を防止することができることである。後方散乱プロファイルが高精度である必要のある用途では、複素周波数誤差関数による補正は有利となり得る。2つの複素周波数誤差関数S(ストークス関数及び反ストークス関数)を保存するためには、十分に大きい記憶容量のメモリを、例えばDSPボードに設ける必要がある。
【0155】
複素周波数誤差関数を周波数領域で求める別の方法では、ストークス信号の後方散乱曲線に対する反ストークス信号の後方散乱曲線の関係を表わす誤差関数を空間領域において計算する。
【0156】
図14aは計算(理論)による信号のストークス後方散乱曲線に対する反ストークス後方散乱曲線の関係(すなわち、ポイントごとの比または数値指数)であるSAnti−Stokes(z)/SStokes(z)を示し、図14bは、ストークス後方散乱曲線に対する反ストークス後方散乱曲線の測定による該当する関係を、縦軸の対数目盛でファイバ長座標値[m]の関数として示している。
【0157】
測定及び計算による複素周波数信号関数に基づくストークス後方散乱曲線に対する反ストークス後方散乱曲線の関係の差を図14cに示す。図14cの縦軸目盛は線形目盛であり、横軸目盛はファイバ長座標値[m]である。結果として得られる外乱曲線は光ファイバに沿った温度誤差関数を示している(図12a参照)。関係を表わす誤差関数を使用すると、データ保存に関する要件が複素周波数誤差関数に関する要件よりもずっと緩和されるという利点がある。不具合な点は、非線形歪みがラマン後方散乱曲線に生じることである。
【0158】
7.光センサ
光センサの特性、例えば光コネクタ、可能であればスプライス、コーティング、減衰率、及びファイバの長さなどを含む光ファイバの特性は、測定結果に影響を与える。これらの特性は複素受信周波数データ(例えば、ラマン後方散乱により得られる)に直接影響を与える。理想的には、これらの影響は補正することができ、かつセンサを変更する(新規のセンサ特性が正確に特性化され、かつ明らかになっていると仮定する)ときにこれらの影響によって問題が生じるようなことがあってはならない。実際には、補正の精度が有限であるので、残留誤差が正常な校正手順に含まれ(機器が既知の特性を有する標準のセンサによって校正される場合)、誤差が生成物理特性(例えば、温度プロファイル)に含まれることになる。理想的には、再校正を、別のセンサが励起兼分析ユニットに接続されるたびに実行する必要がある。この操作は長い時間を必要とし、かつ実用的ではない(特に、既に実装されている機器に関して)。
【0159】
これらの問題は、上に概要を説明した(第5節を参照)雑音直線性のコンセプトに基づく自動校正により解決することができる。
図6は長さが100mの導波路センサのラマン反ストークス光の測定値を示し、図6aは後方散乱曲線(対数目盛)を示し、図6bは、フーリエ変換した結果の該当する周波数信号(複素測定信号の振幅関数)を示している。
【0160】
図6aは、長さが100mの導波路センサのラマン反ストークス光の後方散乱曲線(対数目盛)を示している。グラフの第1部分はラマン光がファイバ長に沿って直線的に減衰する様子を示している。ファイバの遠位端から逃げる光は測定機器の光検出器に到達することができない。該当する検出信号はランダムノイズを含み、後方散乱信号に含まれるこのランダムノイズによって、ノイズ帯域がファイバの遠位端よりも先の領域に生じる。フーリエ変換した結果の該当する周波数信号の特性を図6bに示す(複素測定信号の振幅関数)。複素測定信号、及び更に第1測定ポイント(DC値)は、ファイバの長さによって変わることが分かる。これは、センサ(光ファイバ)の光学特性を変える場合にはハードウェア校正ルーチンを繰り返すと有利であることを意味している。
【0161】
図7は、導波路の長さが5000mのセンサのラマン反ストークス光の測定値を示し、図7aは、後方散乱曲線(対数目盛で)をファイバの位置の関数として示し、図7bは振幅関数を周波数の関数として示している。
【0162】
図6b及び7bの該当する周波数グラフを比較することにより、異なるセンサ特性の影響が明らかになる(ここでは、ファイバ長を一例として使用する)。この種類の周波数信号の変化もDC値の測定に影響を与える。これは、DC値が一定関数ではないことを意味し、センサを複素周波数データのDC値の補正に取り入れると有利であることを示している。
【0163】
8.クロストーク校正
図10は、複数の測定チャネルの間のクロストークが、結果として得られる後方散乱曲線(曲線は全て、縦軸のY軸の対数目盛で示される)に与える影響を示し、図10aは、異なるチャネル(反ストークスチャネル及びストークスチャネル)の間のクロストークを示し、図10bは、レーザモジュールから異なる測定チャネルの受光ボードへの「純粋な」クロストークを示している。この場合、光信号は受光ボードの光検出器に達することができない。図10cは、電気クロストークがない場合の測定信号を周波数の関数として示し、図10d及び11eは、クロストーク誤差を含む場合と含まない場合との光ファイバの後方散乱曲線をそれぞれ示している。
【0164】
図10aは、ストークス光及び反ストークス光の測定信号の両方を周波数の関数(振幅関数)として示している。観測される信号は周波数軸に沿って指数関数的に小さくなる必要がある(図7bに示す形状と同様の形状)。18MHzのピーク、及び30MHzのピークはクロストークに起因するものであり、このクロストークによってこれらの測定信号に加法的な重ね合わせが生じる。この種類のクロストークによって更に別の誤差がランダムノイズとして発生し、非線形干渉が温度プロファイルに生じる。後方散乱曲線(図11d)の先頭部分に、発振を観察することができる。この発振はクロストークを補正した後は無くなる。図11eでは、後方散乱曲線は先頭部分ではフラットである。これらの2つのグラフ(図11d及び図11e)を比較すると、140mの位置で更に別の効果が生じることが分かる。小さな落ち込みは光ファイバ接続の挿入損失に対応する。挿入損失が後方散乱に与える影響はクロストーク効果による重ね合わせである。これは、クロストークによって誤差、及び非線形効果が後方散乱曲線に発生し、その影響が温度プロファイルにも及ぶ。
【0165】
この種類の誤差はラマン測定信号とは関係がない。これらの電気的外乱は、レーザモジュールとの光ファイバプラグ接続を開放することにより非常に簡単に測定することができる。従って、レーザ光が光検出器によって受信されることはない。図10dにおける周波数測定値は、異なるチャネルの間のクロストークに起因する上述の誤差信号を示している。
【0166】
図10bは、反ストークス信号とストークス信号との間の複雑なクロストークを周波数の関数として対数目盛で示している。
この複雑なクロストーク信号はDSPシステムに保存することができる。誤差補正は、測定信号(図10a)を純粋なクロストーク信号(図10b)から単に複素減算することにより行なわれる。この演算の結果を図10cに示し、図10cは、電気クロストークが無い状態の測定信号を周波数の関数として示している(対数目盛で)。
【0167】
図10d及び10e(全て対数目盛で表わされる)は、クロストークがある場合(図10d)に対応する後方散乱曲線と無い場合(図10e)に対応する後方散乱曲線とをそれぞれ示している。
【0168】
図11は、DC誤差を含む場合と、位相オフセット誤差が既に除去されていてDC誤差を含まない場合とにおける各々長さが固定の光導波路センサに関する後方散乱曲線を示す。図11a及び11bは、DC誤差を含まない場合における長さが5273mの光ファイバの後方散乱曲線を、それぞれ縦軸の「Y軸」において対数目盛、及び線形目盛で示し、図11cは、DC誤差を含む場合における長さが5273mの光ファイバの後方散乱曲線を対数目盛で示している。
【0169】
9.校正シーケンス
9.1 ハードウェア校正
適切なハードウェア校正手順を開発することにより得られる基本的な考え方は、誤差を分離して誤差要因の補正の実行を可能にするということである。
【0170】
複素周波数曲線における異なる誤差は、次の補正シーケンスに従って並べると便利である。
1.電気クロストークに起因する加法的な周波数誤差
2.部品の許容誤差に起因する位相オフセット誤差
3.逆フーリエ変換公式に関するDC値を高精度で測定する際の問題に起因するDC誤差
4.物理的に限界のある精度に起因する補正ステップ2.及び3.の残留誤差
5.部品の非線形動作に起因する乗法的な周波数誤差
基本的に、他の補正シーケンスを使用することができるが、上述のシーケンスが技術的観点から好ましい。
【0171】
9.2 温度校正
ハードウェア校正の後、次の手順を温度校正とすると有利であり、この温度校正は、光ファイバ特性に基づいて次のシーケンスで行なわれる。
1.ファイバコーティングの温度依存性を求める。
2.温度絶対値を求める。
3.感度を求める。
【0172】
例1
図9は校正手順の好適な組み合わせの例を示している。
一つの実施形態では、校正方法は次のステップを含み、これらのステップは測定システムのDSPにおいてソフトウェアで行なう自動校正手順の一部分である。
【0173】
<ステップ1:クロストーク補正>
クロストークを除去するために、クロストークを特定の測定手順(第8節を参照)によりシステム製造期間において求める。測定の結果は専用システムに記憶される。正常動作の各測定サイクルでは、記憶されたクロストークを測定複素周波数データから減算する。
【0174】
<ステップ2:位相オフセット補正>
位相オフセットは線形近似(第4節を参照)によりシステム製造期間において求めるか、または正常動作の各測定サイクルにおいてオンライン測定値として求める。近似によってわずかな誤差を含み易い結果は、ステップ4が既に行なわれている場合には、ノイズ基準を適用する自動システム校正により求まる第2補正係数によって改善される。
【0175】
<ステップ3:DC値補正>
真のFFT−DC値(第3節を参照)を求める特定の方法としてのDC値補正は、正常動作の各測定サイクルにおいて自動的に(オンラインで)行なわれる。DC補正手順では、ステップ4が既に行なわれている場合には、ノイズ基準を適用する自動システム校正の結果を考慮に入れる。
【0176】
<ステップ4:自動システム校正>
位相オフセット補正及びDC値補正の残留誤差は自動システム校正(第5節を参照)により求めることができる。記載の繰り返し方法において、定義ルールを使用して補正係数を収束基準が満たされるまで変更することにより、後方散乱曲線の線形化が行なわれる。自動システム校正は製造期間において行ない、かつ試運転及びメンテナンスの間に繰り返して異なるファイバ効果またはエージング効果を考慮に入れる必要がある。自動システム校正の結果は更にシステムに記憶され、正常動作の各測定サイクルのステップ2及び3に適用される。
【0177】
<ステップ5:周波数校正>
周波数校正(第6節を参照)では、位相オフセット及びDC値には、理想の結果からずれたゼロヘルツ超の測定周波数における位相特性及び振幅特性が含まれていることを考慮に入れる。補正データは専用システムの製造期間における特定の測定において求めることができ、システムに記憶される。正常動作の各測定サイクルにおいて、このデータは、DC値補正及び位相オフセット補正の後の周波数データに適用される。
【0178】
<ステップ6:温度校正>
補正データ(第9.2節を参照)は、専用システムを製造している間の特定の測定において求めることができ、システムに記憶される。
【0179】
<ステップ7:フィールド校正>
フィールド校正は、ソフトウェア手順のみによるステップ4の繰り返しであり、他のリソースを利用することはない。分析ユニットは、この目的のために開放にする必要はない。再校正を行なう結果、システムがファイバの変化によって変更される場合のDC値に主として影響を与えるフィードバック効果、及び分析ユニットのエージング効果が除去される。
【0180】
例2
上記の「背景技術」欄で説明した先行技術の問題(ポイントa)−e))を参照しながら、次の例では、これらの問題の解決法について説明する。
【0181】
a)DC誤差
a1)求めることが困難なf=0での後方散乱信号の値(DC値)。
a2)センサ特性によって変わるDC値。
【0182】
a1)及びa2)は、測定手順である自動DC補正手順(上記の第3節を参照)によって、後方散乱曲線のノイズ特性に関する基準を適用する自動システム校正(上記の第5節を参照)と呼ばれる線形化手順によって求めることができる補正係数を更に使用して補正される。DC値を正確に求めるために、DC補正手順は線形化手順の結果を使用して残留誤差を除去する。
【0183】
b)光学部品及び電子部品の許容誤差及び非線形動作に起因する誤差
b)は位相オフセット補正手順(部品の許容誤差:上記の第4及び第5節を参照)によって、更には周波数校正手順(部品の非線形動作:上記の第6節を参照)によって補正される。
【0184】
位相オフセット値は、f=0近傍での位相曲線を近似することにより求めることができる。位相変位は補正アルゴリズムへの入力として使用され、補正アルゴリズムでは、オフセット値を複素周波数データ信号の位相曲線全体から減算する。
【0185】
b)は2つのステップで補正される。
1.まず、測定チャネル間の相対位相シフトを、周波数データの位相特性の一定位相誤差として求める。この位相シフトは測定結果の精度に最も大きな影響を与える。このシフトは、位相特性全体に適用される「位相オフセット補正手順」により補正される。この手順は、f=0Hzに対応する測定位相角を近似することにより行なわれる。近似はわずかな誤差を生じ易い(上記の第4節を参照)。残留誤差は、「自動システム校正」と呼ばれる線形化手順(上の第5節を参照)の結果を使用することにより除去される。
2.第2ステップでは、測定周波数>0Hzにおける位相特性及び振幅特性の非線形性を、「周波数校正手順」(上記の第6節を参照)を使用することにより除去する。
【0186】
c)異なる測定チャネルの間のクロストークに起因する誤差
c)はクロストーク補正手順(上記の第8節を参照)によって補正される。
d)電子部品のエージング効果に起因する誤差
d)は、ハードウェア校正(上記の第9.1節を参照)を、変更が為されていると考えられるたびに適宜繰り返すことにより補正される。
【0187】
e)センサラインの変化により発生する誤差
e)は、後方散乱曲線を線形化し、かつノイズ特性に関する基準を適用する自動システム校正(上記の第5節を参照)により補正される。
【0188】
種々の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に制限されず、他の態様(光後方散乱測定法を利用しない態様を含む)に従って特許請求の範囲の思想の範囲において具体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】図a、図b、図cは励起兼分析部及び光センサを備える光FMCW測定システムの模式図を示す。
【図2】分布温度プロファイルを測定するラマン後方散乱測定システムの測定データを示し、図a(左図)は絶対値を示し、そして図a(右図)は、反ストークス光及びストークス光の複素受信(周波数をダウンコンバートした電気)信号の位相を周波数領域で示し、図bはフーリエ変換信号を空間周波数領域(該当する後方散乱曲線)で示し、cは生成分布温度曲線を示す。
【図3】DC誤差がラマン後方散乱温度測定システムのストークス信号及び反ストークス信号に与える影響を示し、図a及びbは、DC誤差を含む場合(左図)及びDC誤差を含まない場合(右図)のストークスチャネル及び反ストークスチャネルをそれぞれ示す。
【図4】ラマン後方散乱温度測定システムの測定データを示し、部品の許容誤差及び劣化に起因する位相誤差を含むデータ(図a)及び含まないデータ(図b)を示す。
【図5】ラマン後方散乱温度測定システムの受信(変換電気)信号の位相関数を示し、図aは、0〜260kHzの周波数範囲を示し、て図b及びcはそれぞれ、オフセット誤差を含む場合、及び含まない場合の0〜30kHzの周波数範囲の曲線の詳細を示す。
【図6】長さが100mの導波路センサのラマン反ストークス光の測定値を示し、図aは後方散乱曲線(対数目盛)を示し、図bは、周波数信号(複素測定信号の振幅の関数)をフーリエ変換した該当する結果を示す。
【図7】導波路の長さが5000mのセンサのラマン反ストークス光の測定値を示し、図aは後方散乱曲線(対数目盛で)をファイバの位置の関数として示し、図bは振幅関数を周波数の関数として示す。
【図8】f=10KHzでの基準信号を一例として示す。
【図9】本発明による校正手順のステップを含む例示としての校正手順を示す。
【図10】複数の測定チャネルの間のクロストークが結果として得られる後方散乱曲線(曲線は全て、縦方向のY軸の対数目盛で示される)に与える影響を示し、図aは、異なるチャネル(反ストークス及びストークス)の間のクロストークを含む測定信号を示し、図bは、異なる測定チャネルのクロストークのみの例を示し、図cは、電気クロストークがない場合の測定信号を周波数の関数として示し、図dは、クロストーク誤差がある場合の光ファイバの後方散乱曲線を示し、図eは、クロストーク誤差がない場合の光ファイバの後方散乱曲線を示す。
【図11】DC誤差を含む場合、及び含まない場合の固定長を有する光導波路センサの後方散乱曲線を示し、図a及びbは、長さが5273mの光ファイバに関するDC誤差を含まない後方散乱曲線を、縦軸の「Y軸」の対数目盛及び線形目盛でそれぞれ示し、図cは、長さが5273mの光ファイバに関するDC誤差を含む後方散乱曲線(Y軸の対数目盛で)を示し、図dは、長さが4415mの光ファイバに関するDC誤差を含む後方散乱曲線(縦軸の「Y軸」の線形目盛で)を示し、図eは、図dの光ファイバに関する位相オフセット誤差を含まない後方散乱曲線(Y軸の線形目盛で)示す。
【図12】図aは、周波数校正を行わない場合の温度プロファイルをファイバ長の関数として示し、図bは、周波数校正を行なった場合の温度プロファイルをファイバ長の関数として示す。
【図13】図aは、反ストークス受信信号の計算複素振幅関数を周波数の関数として示し、図bは、反ストークス信号の複素測定振幅関数を周波数の関数として示し、図cは、反ストークス信号の複素周波数誤差関数を周波数の関数として示す。
【図14】図aは、ストークス後方散乱曲線に対する反ストークス後方散乱曲線の計算上の関係を示し、図bは、ストークス後方散乱曲線に対する反ストークス後方散乱曲線の計算上の関係を示し、図cは、ストークス後方散乱曲線に対する反ストークス後方散乱曲線の関係に基づく誤差関数を示す。
【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図3a】

【図3b】

【図4a】

【図4b】

【図5a】

【図5b】

【図5c】

【図6a】

【図6b】

【図7a】

【図7b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光FMCW後方散乱測定システムを校正する方法であって、該システムは、第1端及び第2端を有する伸長センサと、周波数変調光信号を変調周波数fで励起し、前記センサの第1端から受信するセンサ信号を分析するように構成された励起兼分析部とを備え、前記センサは、データ信号を前記周波数変調光信号に基づいて捕捉するように構成され、前記周波数変調光信号から、前記第1端と前記第2端との間のセンサ長に沿ったセンサの空間分布測定ポイントの物理パラメータを抽出することができ、当該方法は、
A.前記受信したセンサ信号を、振幅部分及び位相角部分によって表現される前記変調周波数fの関数としての複素受信電気信号に変換するステップと、
B.前記受信電気信号の変換を行なって、前記センサの第1端と第2端との間の位置、及び前記第2端よりも先の位置の関数としての後方散乱信号を供給するステップと、
C.前記位置の関数としての前記後方散乱信号に基づいて、前記第2端よりも先の前記後方散乱信号を表わす曲線の特性を求めるステップと、
D.前記曲線において所定の依存性を示す前記受信電気信号の前記振幅部分、及び前記受信電気信号の前記位相角部分を補正するステップと、
E.前記ステップBを補正済み受信電気信号に基づいて繰り返すステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
前記ステップC,D,Eを所定の基準が満たされるまで適宜繰り返すステップFを更に備える、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ステップFにおいて、前記所定の基準は、前記センサの前記第2端よりも先の前記後方散乱信号を表わす前記曲線がほぼ0の勾配を有する直線によって近似されることである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記勾配は、標準誤差(samples)で0.5未満であり、例えば標準誤差で0.05未満、標準誤差で0.005未満である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記所定の基準は、前記第2端よりも先の前記後方散乱信号の一部分または全てに関するサンプル群の平均値が標準誤差で0.5未満であるという基準であり、例えば標準誤差で0.05未満であるという基準である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップDにおいて、前記受信電気信号の前記振幅部分を補正することは、振幅データを、0に等しい前記変調周波数fでの初期補正量ΔH(0)によって補正するサブステップD1を含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップD1において、前記初期補正量ΔH(0)は、所定の値、例えば推定値に設定される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記ステップD1において、前記初期補正量ΔH(0)は、後方散乱曲線におけるノイズの平均値の0からの変位量によって決まる、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
前記ステップDにおいて、前記受信電気信号の前記位相角部分を補正することは、f=0近傍での前記変調周波数fの関数としての受信電気信号の位相角の初期オフセット値Δφ(0)を求め、次いで、受信電気信号の前記位相角を変調周波数fの関数として表わすデータを前記オフセット値で補正するサブステップD2を含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ステップD2において、前記初期オフセット値Δφ(0)は所定の値に設定される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記ステップD2において、前記初期オフセット値Δφ(0)は、f→0Hzとして位相角データを線形外挿することにより求められる、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
前記ステップA,B,C,D,Eの校正手順は各測定サイクルにおいて行なわれる、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記ステップDは更に、
残留補正係数ΔHres(0)を求めるサブステップD3と、残留オフセット値Δφres(0)を求めるサブステップD4とを含み、両方のサブステップは、それぞれ、サブステップD1の前記初期補正量ΔH(0)による補正、及びサブステップD2の前記初期オフセット値Δφ(0)による補正後に、前記振幅部分及び前記位相角部分をそれぞれ表わす前記変調周波数fの関数としてのデータから計算される後方散乱データに基づいて行なわれ、サブステップD3では、前記残留補正係数ΔHres(0)の値は、前記センサの前記第2端よりも先の前記後方散乱信号の平均レベルの平均値に基づいて求められ、サブステップD4では、前記残留オフセット値Δφres(0)の値は、前記センサの前記第2端よりも先の前記後方散乱信号の勾配の値に基づいて求められる、請求項9乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップD3及びD4は、5回よりも多くの測定、10回よりも多くの測定、20回よりも多くの測定のような複数回の測定により得られる後方散乱曲線を平均することにより行なわれる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記校正は、既知の特性を有する標準化された光センサを使用して行なわれる、請求項1乃至14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記校正は、センサの光学特性のような特性が変化する場合か、またはシステムの他の特性が変化した、もしくは変化したと考えられる場合に行なわれる、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項17】
前記測定システムは、空間分布温度プロファイルの測定を行うためのラマン後方散乱測定システムである、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記校正方法は、ストークス信号及び反ストークス信号を表わす信号に対して行なわれる、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
クロストーク補正手順を更に備え、該クロストーク補正手順は、
G1.前記測定システムの複数の測定チャネル間のクロストークをシステム製造期間において特定の測定手順を使用して求め、求めたクロストークの値を格納するステップと、
G2.正常動作の各測定サイクル内で、記憶されたクロストークデータを測定複素周波数データから減算するステップと、
を含む、請求項1乃至18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記ステップG1及びG2は、他の補正校正ステップよりも前に行なわれる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記センサは、測定部に直列に接続することができる基準部を含む、請求項1乃至20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
周波数領域と空間領域との間の理論的な畳み込みを考慮する複数のステップであって、
予測複素周波数曲線を数学モデルに基づいて求め、算出された複素周波数関数Sに対する、FMCW後方散乱測定システムの測定データSRMの複素比により構成される複素周波数誤差関数を求めてメモリに保存するステップH1と、
次の測定サイクルの最初に、前記測定された周波数データSRMを前記複素周波数誤差関数で補正するステップH2と、
を含む複数のステップを更に備える、請求項1乃至21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ステップG1及びG2は、他の補正校正ステップの後に行なわれる、請求項22記載の方法。
【請求項24】
コンピュータ読み取り可能な媒体を備える光FMCW後方散乱測定システムであって、前記コンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータ読み取り可能なプログラムコードを格納しており、請求項1乃至23のいずれか一項に記載の校正方法を実行する、光FMCW後方散乱測定システム。
【請求項25】
コンピュータ読み取り可能なプログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な媒体であって、前記プログラムをコンピュータで実行すると、前記プログラムによって請求項1乃至23のいずれか一項に記載の校正方法を実行することができる、コンピュータ読み取り可能な媒体。

【図8】
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【図9】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図10e】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図11d】
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【図11e】
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【図12a】
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【図12b】
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【図14a】
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【図14b】
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【図14c】
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【公表番号】特表2008−512663(P2008−512663A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530711(P2007−530711)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054418
【国際公開番号】WO2006/027369
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(507077916)ライオス テヒノロギー ゲーエムベーハー (1)
【氏名又は名称原語表記】LIOS TECHNOLOGY GMBH
【Fターム(参考)】