説明

免疫化組成物およびアミロイド前駆体タンパク質のβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するための方法

【課題】アミロイド前駆体タンパク質のβ−セレクターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するための方法を提供する。
【解決手段】多重抗原ペプチドシステム(MAPS)のような抗原生成物またはAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるAβPPエピトープを提示する繊維状バクテリオファージを含む免疫化組成物、およびこの免疫化組成物を使用してAβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するための方法からなる。また、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する抗体、およびアミロイドβの形成を阻害するための方法からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、免疫化組成物、およびアミロイド前駆体タンパク質のβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するための方法に関する。本発明はさらに、アミロイド前駆体タンパク質のβ−セクレターゼ切断部位に対して惹起または生成された抗体、および受動免疫化におけるその使用に関する。
【0002】
関連技術の説明
アミロイド前駆体タンパク質およびβ−セクレターゼ:
患者の脳における短いアミロイドペプチドの細胞外沈着は、アルツハイマー病の病因における中心的な事象であると考えられている。アミロイドがADの初期の病因において重要な役割を果たし得ることの証拠は、家族性型のAD(FAD)またはダウン症候群に冒された個体の研究から主に来ている。アミロイドβペプチド(Aβ)の生成は、その前駆体タンパク質、AβPP(アミロイド前駆体タンパク質)における切断の調節されたカスケードを介して生じる。少なくとも3個の酵素がAβPPタンパク質分解を担っており、そしてα、β、およびγ−セクレターゼと仮に命名されている。これらのセクレターゼのうちのいくつかの最近の同定は、これらのセクレターゼがどのようにしてアミロイドペプチド形成を調節しているかの理解における大きな飛躍である。主な治療ゴールの1つは、大きな前駆体タンパク質からAβを産生するセクレターゼの阻害である。プロテアーゼ標的の理論的な特異性および扱いやすさは、血液脳関門を透過するセクレターゼ特異的プロテアーゼ阻害剤を生成することが可能であるはずであることを示唆する。β−セクレターゼ酵素(BACE)の能力の新たな知見を使用して、スクリーニングまたは合理的設計アプローチによって阻害剤を同定する多くの研究が既に進行中である(米国特許5,744,346;5,942,400;6,221,645B1;6,313,268B1;および公開PCT出願WO 00/47618、WO98/21589、およびWO 96/40885)。目下、Aβのさらなる機能の証拠は存在せず、それでこの代謝物の低下についての重大な懸念は存在しない。βおよびγ−セクレターゼの両方は身体中の多くの異なる細胞に存在し、そしてそれらがAβPPに加えて基質を有すると想定することは合理的である。その結果として、これらの酵素の1つの完全な阻害は、特に、おそらく必要とされる慢性的処置条件下で、毒性の問題を生じ得る。mRNAレベルで、BACEは広くヒト脳において発現している。発現は膵臓においても高いが、この組織における酵素活性は低い。AβPP切断のほかに、BACEが他の活性を有するかどうかは知られておらず、それでβ−セクレターゼ阻害剤がどのような毒性を有し得るかを予測するのは早すぎる。
【0003】
アミロイド前駆体タンパク質(AβPP)のタンパク分解プロセシングは、アルツハイマー病における病理およびその後の認知低下の原因であると考えられているアミロイドβ(Aβ)ペプチドを生成する。Aβ形成を開始するために、β−セクレターゼはAβのN端末でAβPPを切断して、APPsβ(約100−kDの可溶性N末端フラグメント)、およびC99(膜結合のままである12−kDのC末端フラグメント)を遊離させる。β−セクレターゼ切断の正確な部位が決定されている(図1)。アミロイドプラークAβはAsp1で開始し、それゆえこの切断部位は大きな関心事である。AβPPの残基671と672との間の、Aβペプチド配列のアミノ末端でのβ−セクレターゼによる切断は、β−切断された可溶性AβPPの生成および細胞外遊離、および対応する細胞会合カルボキシ末端フラグメントを導く。
【0004】
家族性AD家族の1つはβ−セクレターゼの予測切断部位と一致するAβPP中の変異を有することが示された。最初にスウェーデン家系において同定されたこの二重変異は、細胞内にトランスフェクションされた場合に、野生配列に比較してAβペプチドの過剰生産を機構的に生じることが見出され、このことは、これがβ−セクレターゼ酵素のためのより良好な基質であることを示唆している。この予測は最近真実であることが確証されている。早期発症性ADを引き起こす「スウェーデン」家族性AD変異に見出された、APPのP1位でのMetからLeuへの置換は、劇的にβ−セクレターゼ切断を高めるが、多くの他の置換体(例えば、MetからVal)はβ−セクレターゼ切断を減少させる。これらの知見はAβペプチドのN末端を遊離させる切断事象を担うβ−セクレターゼ活性の存在を実証し、そしてプロセスがリソソーム性(当時支持された仮設)ではなく分泌性であることを示した。
【0005】
血液脳関門:
血液脳関門(BBB)(Johansson, 1992; Ermisch, 1992;Schlosshauer, 1993)は、陰イオン性電荷を有する堅固に連結した微小血管内皮細胞の単層によって形成されている。この層は2つの液体含有区画:脳実質の血漿(BP)および細胞外液(ECF)を分離し、そして脳のアストログリア細胞によって囲まれている。BBBの主な機能の1つはBPとECFの間の成分の移行を調節することである。BBBは血液から脳細胞への大部分の薬剤分子の自由通過を制限している。
【0006】
一般に、ペプチド、タンパク質(例えば、酵素、増殖因子およびそれらのコンジュゲート、オリゴヌクレオチド、遺伝子ベクターおよびその他)のような高い極性の大分子はBBBを横断しない。それゆえ、CNSへの乏しい薬物送達は、神経変性障害および神経疾患の処置のためのそのような高分子の適用可能性を制限する。
【0007】
脳への治療剤のいくつかの送達アプローチはBBBを回避する。そのようなアプローチは、くも膜下腔内注射、外科的インプラント(Ommaya, 1984および米国特許5,222,982)および間質内注入(Bobo et al., 1994)を利用する。これらのストラテジーは、脳脊髄液(CSF)または脳実質(ECF)中への直接的投与によって薬剤をCNSに送達する。
【0008】
脳脊髄液を通した中枢神経系への薬物送達は、その発明者の名をとって名付けられた硬膜下に移殖可能なデバイス「オンマヤレザバー(Ommaya reservoir)」によって達成される。レザバーはたいてい、癌における化学療法剤の局在化された術後の送達のために使用される。薬剤はデバイス中に注射され、その後脳の周囲の脳脊髄液中に遊離される。これは露出した脳組織の特定の領域に配向され得、脳組織は次いで薬物を吸着する。薬物は自由に移動しないので、この吸着は制限される。それによってレザバーが腹腔に移植され、そして注射された薬剤が脳の脳室空間にはるばる脳脊髄液(脊椎から取り出されそして脊椎に戻される)によって輸送される、Ayub Ommayaによって開発された改変されたデバイスは、薬剤投与のために使用される。
【0009】
対流増強送達による脳の種々の領域への高分子の拡散は、BBBを回避する投与の別の方法である。この方法は:a)白質中への間質内注入の間に圧勾配を作製して、脳間質を通る流れの増加を生成すること(単純な拡散を補う対流);b)圧勾配を長期間(24時間〜48時間)にわたって維持して、灰白質中への移動化合物(例えば:神経栄養因子、抗体、増殖因子、遺伝子ベクター、酵素など)の放射状の透過を可能にすること;およびc)全身レベルを上回る桁で薬物濃度を増加させることを含む。脳実質中へのその直接的注入を通して、米国特許6,005,004の部位特異的生体分子複合体は、神経細胞またはグリア細胞に薬剤を送達し、必要に応じて、これらの細胞によって保持される。さらに、神経細胞標的化またはインタナリゼーション部分を含む部位特異的複合体は、神経細胞膜を透過し、そして薬剤をインターナライズすることができる。
【0010】
CNSへの薬物送達を改善するための別のストラテジーは、BBBを通っての薬剤吸収(吸着および輸送)および細胞によるその取込みを増加させることによる(Broadwell, 1989; Pardridge et al., 1990;Banks et al., 1992;およびPardridge, edited by Vranic et al., 1991)。BBBを通る脳への薬剤の通過は、薬剤自体の透過性を改善することまたはBBBの特徴を変化させることのいずれかによって増強され得る。従って、薬剤の通過は、化学修飾を通してのその脂質溶解性の増加、および/または陽イオン性担体へのその結合、またはさらにBBBを通して薬剤を輸送できるペプチドベクターへのその共有結合によって促進され得る。ペプチド輸送ベクターはBBB透過処理物化合物としても知られている(米国特許5,268,164)。
【0011】
ファージディスプレイ:
コンビナトリアルファージディスプレイペプチドライブラリーは、タンパク質:タンパク質相互作用を研究するために効果的な手段を提供する。この技術は、その対応する遺伝子青写真に関連したランダムペプチドの非常に大きなコレクションの産生に依存する(Scott et al, 1990;Dower, 1992;Lane et al, 1993;Cortese et al, 1994;Cortese et al, 1995;Cortese et al, 1996)。ランダムペプチドの提示は、M13、fdおよびf1のような繊維状バクテリオファージの外表面上に発現されるキメラタンパク質を構築することによってしばしば達成される。この提示はレパートリーが結合アッセイおよび特殊化されたスクリーニングスキーム(バイオパニングといわれる(Parmley et al, 1988))を受け入れやすくし、所望の結合特性を有するペプチドのアフィニティ単離および同定に導く。このようにして、受容体(Koivunen et al, 1995; Wrighton et al, 1996;Sparks et al, 1994;Rasqualini et al, 1996)、酵素(Matthews et al, 1993;Schmitz et al, 1996)または抗体(Scott et al, 1990;Cwirla et al, 1990;Felici et al, 1991;Luzzago et al, 1993;Hoess et al, 1993;Bonnycastle et al, 1996)に結合するペプチドが効率的に選択されている。
【0012】
繊維状バクテリオファージは、Fエピソームを保有するエシェリキア・コリ(Escherichia coli)細胞に感染する非溶解性、雄性特異的バクテリオファージである(総説については、Model et al, 1988を参照のこと)。繊維状ファージ粒子は、環状一本鎖DNAゲノム(+鎖)を含む長さ900nmおよび厚さ10nmの薄い管状構造として出現する。ファージの生活環は、細菌のF線毛へのファージの結合、それに続く一本鎖DNAゲノムの宿主中への侵入を必要とする。環状一本鎖DNAは宿主複製機構によって認識され、そして相補的第2DNA鎖の合成がファージori(−)構造において開始される。二本鎖DNA複製形態は一本鎖DNA環状ファージゲノムの合成のための鋳型であり、これはori(+)構造において開始する。これらは最終的にビリオン中にパッケージングされ、そしてファージ粒子は、溶解または宿主に対する見かけ上の損傷を引き起こすことなしに細菌から押出される。
【0013】
ペプチドディスプレイシステムは、ファージの2つの構造タンパク質;pIIIタンパク質およびpVIIIタンパク質を活用している。pIIIタンパク質は、5コピー/ファージで存在し、そしてもっぱらビリオンの1つの先端に見出される(Goldsmith et al, 1977)。pIIIタンパク質のN末端ドメインは感染性プロセスに必要とされるノブ様構造を形成する(Gray et al, 1981)。それはF線毛の先端へのファージの吸着、続いて細菌宿主細胞中への一本鎖ファージDNAの透過およびトランスロケーションを可能にする(Holliger et al, 1997)。pIIIタンパク質は広範な改変に対して耐容性を示すことができ、従ってそのN末端においてペプチドを発現させるために使用されている。外来ペプチドは、pIII機能に顕著に影響を及ぼすことなしに、長さ65アミノ酸残基までであり(Bluthner et al, 1996;Kay et al, 1993)、そしていくつかの場合には全長タンパク質ほど大きくさえある(McCafferty et al, 1990;McCafferty et al, 1992)。
【0014】
一本鎖ファージDNAの周囲の円柱状タンパク質エンベロープは、2700コピーの主要コートタンパク質、pVIII(50アミノ酸残基からなるα−ヘリックスサブユニット)から構成される。pVIIIタンパク質自体はらせん状パターンで配置されており、タンパク質のα−ヘリックスはビリオンの長軸に対して浅い角度で配向されている(Marvin et al, 1994)。このタンパク質の一次構造は3個の分離したドメインを含んでいる:(1)酸性アミノ酸が富化されており、そして外部環境に曝露されているN末端部分;(2)(i)ファージ粒子におけるサブユニット:サブユニット相互作用および(ii)宿主細胞における膜貫通機能を担う中央疎水性ドメイン;および(3)C末端においてクラスター形成している、塩基性アミノ酸を含む第3のドメイン(これは、ファージの内側に埋められており、そしてファージ−DNAと会合している)。pVIIIは23アミノ酸リーダーペプチドを含むプレコートタンパク質として合成され、これは細菌の内膜を横切るトランスロケーションの際に切断されて、成熟50残基膜貫通タンパク質を生じる(Sugimoto et al, 1977)。ディスプレイスカフォールドとしてのpVIIIの使用は、それがそのN末端において6残基よりも長くないペプチドの付加に対して耐容性を示すことができるという事実によって妨げられている(Greenwood et al, 1991;Iannolo et al, 1995)。より大きなインサートはファージアセンブリを妨害する。しかし、より大きなペプチドの導入が、組換えペプチド含有pVIIIタンパク質を野生型pVIIIとインビボで混合することによってモザイクファージが産生されるシステムにおいて可能である(Felici et al, 1991; Greenwood et al, 1991;Willis et al, 1993)。これは、ファージ粒子のアセンブリの間の野生型コートタンパク質が散在したファージ表面上での低密度(粒子1個当り数十から数百コピー)でのキメラpVIIIタンパク質の取り込みを可能にする。モザイクファージの生成を可能にする2つの系;Smithによって命名された「タイプ8+8」および「タイプ88」システムが使用されている(Smith, 1993)。
【0015】
「タイプ8+8」システムは、2つの異なる遺伝子単位中に分離して位置している2つのpVIII遺伝子を有することに基づく(Felici et al, 1991; Greenwood et al, 1991; Willis et al, 1993)。組換えpVIII遺伝子は、それ自体の複製起点に加えてファージの複製起点およびパッケージングシグナルを含むプラスミドであるファージミド上に位置する。野生型pVIIIタンパク質は、ファージミド保有細菌をヘルパーファージで重感染することによって供給される。さらに、ヘルパーファージは、ファージミドおよびヘルパーの両方のゲノムをビリオン中にパッケージングするファージの複製およびアセンブリ機構を提供する。それゆえ、2つの型の粒子がそのような細菌によって分泌され(ヘルパーおよびファージミド)、その両方が組換えおよび野生型pVIIIタンパク質の混合物を組み入れる。
【0016】
「タイプ88」システムは、1つの同じ感染性ファージゲノム中に2つのpVIII遺伝子を含むことによって利益を与える。従って、これはヘルパーファージおよび重感染を不必要にする。さらに、1つのみの型のモザイクファージが産生される。
【0017】
ファージゲノムは10個のタンパク質(pI〜pX)をコードしており、その全てが感染性子孫の産生に必須である(Felici et al, 1991)。タンパク質のための遺伝子は2つの非コード領域によって分離された2つのしっかりと詰め込まれた転写単位中に組織化されている(Van Wezenbeek et al, 1980)。「遺伝子間領域」と呼ばれる1つの非コード領域(pIV遺伝子とpII遺伝子との間に位置するとして規定される)は、ファージの(+)および(−)DNA複製起点ならびパッケージングシグナルを含んでおり、カプシド形成の開始を可能にしている。この遺伝子間領域の一部は必須ではない(Kim et al, 1981;Dotto et al, 1984)。さらに、この領域はいくつかの部位での外来DNAの挿入に対して耐容性を示すことができることが見出されている(Messing, 1983;Moses et al, 1980;Zacher et al, 1980)。ファージの第2の非コード領域はpVIII遺伝子とpIII遺伝子との間に位置し、そして、Pluckthunによって例証されるように、これもまた外来組換え遺伝子を組み入れるために使用されている(Krebber et al, 1995)。
【0018】
ファージディスプレイを用いる免疫化:
エピトープからなる小さな合成ペプチドは、一般に、ペプチドの化学合成を必要とし、そしてより大きな担体に結合される必要がある不十分な抗原であり、それらは低親和性の免疫応答を誘発しさえし得る。抗原としてEFRHペプチドのみを提示する繊維状ファージを使用する、抗AβP抗体を惹起するための免疫化手順が、本発明者の研究室において開発された(Frenkel et al., 2000および2001)。繊維状バクテリオファージは、ファージコートタンパク質をコードする遺伝子の5’末端においてランダムオリゴヌクレオチドをクローン化することによって生成されるペプチドの大きなレパートリーのその表面上での「提示」のために近年広範に使用されている(Scott and Smith, 1990;Scott, 1992)。最近報告されたように、繊維状バクテリオファージは、種々の生物学的薬剤中での外来ペプチドの発現および提示のための優れたビヒクルである(Greenwood et al., 1993;Medynski, 1994)。繊維状ファージの投与は、ファージ効果系(phage effects systems)に対する強い免疫応答を誘発する(Willis et al., 1993;Meola et al., 1995)。上記で考察したファージコートタンパク質pIIIおよびpVIIIは、ファージディスプレイのためにしばしば使用されているタンパク質である。特異的ペプチド抗原を得るための組換え繊維状ファージアプローチは、得られる産物が翻訳機構の生物学的忠実度の結果であり、そしてペプチドの固相合成において一般的な70〜94%の純度レベルに供されないので、化学合成を上回る大きな利点を有する。追加の材料を細菌培養物の増殖によって得ることができるので、ファージは抗原の容易に補充可能な供給源を与える。
【0019】
EFRH(配列番号2)エピトープ提示ファージでの免疫化は、短期間で、β−アミロイドの形成を防止し、そしてさらなる毒性効果を最少にすることができる高濃度の高親和性(IgG)抗体を惹起し得る。血清中の抗体のレベルは、ファージ当たりのペプチドコピーの数に関係することが見出された(Frenkel et al., 2000b)。
【0020】
EFRH(配列番号2)ファージ免疫化から生じる抗体は、全体のアミロイドβでの直接的注射によって惹起された抗体に、その免疫学的特性に関して、類似している(表1)。これらの抗体は、全長Aβ−ペプチド(1〜40)を認識し、そして全体のAβペプチドおよび/またはアミロイドβに対し惹起された抗体としての抗凝集特性を示す(Frenkel et al., 2000b, 2001)。繊維状ファージの高い免疫原性は、自己抗原に対する抗体の惹起を可能にする。Aβペプチド配列がヒトにおけるものと同一である、抗原としてのEFRH(配列番号2)ファージでのモルモットの免疫化は、自己抗体の産生を生じた(Frenkel et al., 2001)。
【0021】
表1:アミロイド抗凝集抗体と比較したf88−EFRHに対して惹起された血清抗体のAβ内の種々のペプチドによる競合的阻害
【0022】
【表1】

【0023】
*Frenkel et. al. 1998
**ELISAアッセイによって検出されることができない10−2M未満のIC50値。
【0024】
上記のデータは、自己エピトープを提示する組換えバクテリオファージが、ワクチンとして使用されて、疾患処置のために自己抗体を誘発することができることを実証した。繊維状ファージは通常イー・コリ(E. coli)の研究室株を使用して増殖させられ、そして、天然菌株は異なるかもしれないが、腸中へのファージの送達が天然腸内細菌叢の感染を生じると仮定することは合理的である。本発明者の研究室は、UV不活化ファージがそれらの感染性対応物と同様に免疫原性であることを見出した。pIII免疫化マウスにおいて見出される長く持続する免疫応答を説明し得る、免疫化された動物の腸における長く持続する繊維状ファージの証拠が存在する(Zuercher et al., 2000)。
【0025】
ファージの高い抗原性に起因して、鼻腔内経路(これは、いかなるアジュバントの使用もなしでの免疫化のための最も容易な方法である)によって投与を与えることができる。嗅覚の変化がアルツハイマー病において役割を果たしていることが提唱されているので(Murphy, 1999)、粘膜免疫化は、疾患の局所的病理的影響を防止するための、特異的Aβ IgA抗体の効果的な誘発である。
【0026】
全体のβ−アミロイドに対する、抗凝集β−アミロイド抗体の惹起におけるファージ−EFRH抗原の効力(Solomon and Frenkel, 2000)は以下を示す:
a.ファージの高い免疫原性は、アジュバント投与の必要なしに数週間の短期間での高力価のIgG抗体の産生を可能にする;
b.抗原の自己発現は、長く持続する免疫化を導いた;
c.β−アミロイド形成におけるEFRHエピトープの鍵となる役割およびその高い免疫原性は、全体のβ−アミロイドペプチドを認識する抗凝集抗体を導き、β−アミロイド原繊維の使用の代わりとなった。
【0027】
抗体工学
抗体工学方法は、その生物学的活性を維持しながら、mAbの大きさを最少化する(135〜900kDa)ために適用された(Winter et al., 1994)。これらの技術および大きな抗体遺伝子レパートリーを作製するためのPCR技術の適用は、抗体ファージディスプレイを、単鎖Fv(scFv)抗体の単離と特徴付けのための多用途ツールにしている(Hoogenboom et al., 1998)。scFvsを、さらなる操作のためにファージの表面上に提示させることができ、または可溶性scVs(約25kd)フラグメントとして遊離させてもよい。
【0028】
本発明者の研究室は、親IgM分子と類似の抗凝集特性を示すscFvを加工した(Frenkel et al., 2000a)。scFv構築のために、抗AβP IgM 508ハイブリドーマからの抗体遺伝子をクローン化した。分泌された抗体は、AβP分子に対して、培養PC12細胞に対するその毒性効果の防止において、特異的活性を示した。部位特異的単鎖Fv抗体は、細胞内または細胞外アプローチを介した脳中への治療抗体の標的化に向けた第一段階である。
【0029】
本明細書における任意の文献の引用は、そのような文献が、関係のある従来技術であるか、または本出願の任意の請求項の特許性に重要であると考えられることの承認として意図されない。任意の文献の内容または日付に関する任意の記述は、出願時に出願人に入手可能な情報に基づくものであり、そしてそのような記述の正確さに関する承認を構成するものではない。
【0030】
発明の概要
本発明は、アミロイド前駆体タンパク質(AβPP)のβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発する抗原生成物の免疫化有効量を含む免疫化組成物を提供する。
【0031】
本発明はまた、本発明による免疫化組成物をそれを必要とする対象/患者に投与することを含む、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するための方法を提供する。
【0032】
本発明はさらに、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する抗体の抗原結合部分を含む分子を提供する。本発明によるこの分子を、AβPPのβ−セクレターゼ切断をブロックするための方法において使用することができる。
【0033】
本発明による分子の好ましい実施態様は単鎖抗体であり、これは、繊維状バクテリオファージディスプレイビヒクルの表面上に提示されるときに、本発明によるアミロイドβの形成を阻害するための方法において使用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1はAβPP上のβ−セクレターゼ切断部位周囲のアミノ酸配列(配列番号1)を示し、ここで、切断は、切断部位に基づいて残基0および1と名付けられるMet(M)とAsp(D)との間であり、そして残基0(P位)は通常Metであるが、「スウェーデン」家族性AD変異においてはLeuであることが見出されている。
【図2A】図2A〜2Cは、本発明による8分枝ホモWang樹脂上の多重抗原ペプチド(MAP)の実施態様の模式図を示す。矢印は切断部位を表す。ISEVKMDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はMetである;図2A)、ISEVKLDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はLeuである;図2B)、VKMDAEFRH(配列番号5;図2C)抗原ペプチド配列。
【図2B】図2A〜2Cは、本発明による8分枝ホモWang樹脂上の多重抗原ペプチド(MAP)の実施態様の模式図を示す。矢印は切断部位を表す。ISEVKMDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はMetである;図2A)、ISEVKLDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はLeuである;図2B)、VKMDAEFRH(配列番号5;図2C)抗原ペプチド配列。
【図2C】図2A〜2Cは、本発明による8分枝ホモWang樹脂上の多重抗原ペプチド(MAP)の実施態様の模式図を示す。矢印は切断部位を表す。ISEVKMDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はMetである;図2A)、ISEVKLDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はLeuである;図2B)、VKMDAEFRH(配列番号5;図2C)抗原ペプチド配列。
【図3】図3は、MAP−ISEVKLDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はLeuである)での免疫化後の免疫応答を示すグラフである。
【図4】図4は、ELISAによって測定した場合の48時間後の増殖培地への全アミロイドβペプチド(Aβ)分泌の阻害を示すグラフである。
【図5】図5は、ELISAによって測定した場合の5日間のインキュベーション後のAβ1−42ペプチドの細胞内蓄積の阻害を示すグラフである。
【図6】図6は、本発明による抗β−セクレターゼ切断部位抗体およびβ−セクレターゼ酵素自体に対して惹起されたBACE抗体の核周囲領域における共局在化を示す共焦点顕微鏡観察画像である。
【図7A】図7Aおよび7Bは、抗APP上β−セクレターゼ切断部位抗体および二次抗体で免疫染色した、透過処理細胞(図7A)およびコントロール細胞(図7B)の画像である。
【図7B】図7Aおよび7Bは、抗APP上β−セクレターゼ切断部位抗体および二次抗体で免疫染色した、透過処理細胞(図7A)およびコントロール細胞(図7B)の画像である。
【図8】図8は、非処置マウスと比較しての、抗原で免疫化したトランスジェニックマウスにおけるプラーク数の低下を示すグラフである。
【0035】
発明の詳細な説明
β−セクレターゼ切断は、Aβの遊離N末端を生成し、それゆえ、アミロイド形成の最初の重大な段階と考えられている。「未知の」効果を導き得る、酵素自体を阻害することの可能な問題を回避するために、本発明者は、AβPP上のβ−セクレターゼの切断部位をブロックして、Aβのインビボ形成を阻害し、従ってアルツハイマー病の発達を阻害または防止することができる抗AβPP抗体を生成することによって、AβPPのβ−セクレターゼ切断をブロックするための新規なアプローチを開発した。
【0036】
本発明は、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発する抗原生成物の免疫化有効量を含む、ワクチン(本明細書において免疫化組成物ともいう)、およびAβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するためにこの免疫化組成物を使用する方法に関する。AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するためのこの方法は、本発明による免疫化組成物をそれを必要とする対象/患者に投与することを含む。
【0037】
本発明はさらに、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるAβPPエピトープに結合することができる抗体の少なくとも抗原結合(免疫学的)部分をその表面上に露出しているウイルスディスプレイビヒクルを投与して、AβPPのβ−セクレターゼ切断をブロックすることによってAβの形成を阻害することによる、受動免疫化のための方法に関する。この受動免疫は、用いるディスプレイビヒクルがレシピエント/患者内で複製できる場合、非常に長期のものであり得る。
【0038】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的のために、用語「患者」、「対象」および「レシピエント」は互換的に使用される。それらは予防的、実験的、または治療的のいずれかの処置の目的であるヒトおよび他の哺乳動物を含む。また、用語「アミロイドβペプチド」および「βアミロイドペプチド」は、「β−アミロイドペプチド」、「βAP」、「βA」、および「Aβ」と同義である。これらの用語の全ては、アミロイド前駆体タンパク質(AβPP)に由来するプラーク形成ペプチドを指す。
【0039】
本明細書において使用する用語「処置」は、疾患の進行の実質的な阻害、遅延または逆転、疾患の臨床症状の実質的な寛解または疾患の臨床症状の出現の実質的な防止を含む。
【0040】
用語「免疫応答」またはその相当語句「免疫学的応答」は、レシピエント患者におけるAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるAβPPエピトープに対する有益な体液性(抗体に媒介される)および/または細胞性(抗原特異的T細胞またはその分泌産物によって媒介される)応答の発達を指す。そのような応答は、免疫原の投与によって誘発される能動的応答または抗体の投与によって誘発される受動的応答であることができる。細胞性免疫応答は、クラスIまたはクラスII MHC分子に結合したポリペプチドエピトープの提示によって誘起されて、抗原特異的CD4Tヘルパー細胞および/またはCD8細胞傷害性T細胞を活性化する。応答はまた、単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、アストロサイト、ミクログリア細胞、好酸球、または自然免疫の他の成分の活性化を含み得る。
【0041】
本明細書において使用する「能動免疫」は、抗原の投与によって対象に与えられる任意の免疫を指す。
【0042】
本明細書において使用する「受動免疫」は、抗原の投与なしで対象に与えられる任意の免疫を指す。それゆえ、「受動免疫」は、限定するものではないが、その表面上に提示された抗体の抗原結合/免疫学的部分を含む複製ディスプレイビヒクルのレシピエントへの投与を含む。そのようなビヒクルの複製は能動的であるが、レシピエントの見地からは免疫応答は受動的である。
【0043】
本明細書および添付の特許請求の範囲の目的のために、用語「エピトープ」および「抗原決定基」は、それに対してBおよび/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指すために互換的に使用される。B細胞エピトープは、近接アミノ酸から、またはタンパク質の三次折りたたみによって並置された非近接アミノ酸からの両方で形成され得る。近接アミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒への曝露に際して保持され、一方、三次折りたたみによって形成されるエピトープは、典型的には、変性溶媒での処理に際して失われる。エピトープは、典型的には、特有の空間的立体構造にある、少なくとも3個、より通常は少なくとも5個または8〜10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的立体構造を決定する方法は、例えば、X線結晶解析および2次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed. (1996)を参照のこと。同じエピトープを認識する抗体を、標的抗原への別の抗体の結合をブロックする一方の抗体の能力を示す簡単なイムノアッセイにおいて同定することができる。T細胞は、CD8細胞については約9個のアミノ酸、またはCD4細胞については約13〜15個のアミノ酸の連続的なエピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞を、エピトープに応答しての抗原刺激されたT細胞によるH−チミジン取り込みによって(Burke et al., 1994)、抗原依存死滅によって(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ、Tigges et al.)またはサイトカイン分泌によって決定される、抗原依存性増殖を測定するインビトロアッセイによって同定することができる。
【0044】
AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するために本発明による免疫化組成物において使用される抗原生成物の好ましい実施態様は、(1)β−セクレターゼ切断部位を表す抗原ペプチドがコア分子から放射状に広がる枝に共有結合している、多重ペプチド抗原システム(MAPs)(樹状ポリマーシステム)に構造的に基づく抗原、および(2)その表面上にAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるAβPPエピトープを提示するウイルスディスプレイビヒクルを含む。
【0045】
樹状ポリマーに構造的に基づく本発明の好ましい実施態様において使用される抗原生成物は、普通のポリマーについてよりも高い分子容量単位当たりの官能基濃度によって特徴付けられる。一般に、樹状ポリマーは、少なくとも2個の官能基を有するコア分子から生じる2個以上の同一の枝に基づく。そのようなポリマーは、Denkewalter et al.によって米国特許4,289,872において、そしてTomalia et al.によって米国特許4,599,400および4,507,466を含むいくつかの米国特許において記載されている。このクラスの他のポリマーはEricksonによって米国特許4,515,920において記載されている。それらの構造を中心樹幹およびいくつかの枝を有する樹木として象徴化し得るので、ポリマーはしばしば樹状ポリマーといわれる。しかし、樹木とは異なり、樹状ポリマーにおける枝は全て実質的に同一である。この樹状システムは、多重抗原ペプチドシステム(MAPS)と呼ばれており、これは、少なくとも二官能性である主要単位から構成される樹状コアに共有結合した2個以上の通常同一の抗原分子から構成される抗原/抗原担体の組み合わせのために一般的に使用される名称である。枝における各々の二官能性単位は、追加の成長のための基礎を提供する。多重抗原ペプチドシステムの樹状コアは、リジン分子から構成されることができ、そして抗原全体に高い免疫原性を与える。例えば、リジンはペプチド結合を介してそのアミノ基の各々を通して2個のさらなるリジンに結合される。この第2世代分子は4個の遊離アミノ基を有し、その各々はさらなるリジンに共有結合して、8個の遊離アミノ基を有する第3世代分子を形成することができる。ペプチドはこれらの遊離基の各々に結合して、8価の多重ペプチド抗原を形成し得る(MAP;図2)。プロセスを反復して、分子の第4世代またはより高い世代さえ形成することができる。各世代に従って、遊離アミノ基の数は幾何級数的に増加し、そして2(ここで、nは世代数である)によって表され得る。あるいは、4個の遊離アミノ基を有する第2世代分子を使用して、4価のMAP、すなわち、コアに共有結合した4個のペプチドを有するMAPを形成することができる。例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸(その両方は2個のカルボキシル基および1個のアミノ基を有して、2個の遊離カルボキシル基を有するポリアスパラギン酸またはポリグルタミン酸を生成する)を含む他の多くの分子を使用して、多重抗原ペプチドシステムの樹状コアを形成することができる。
【0046】
本明細書中下記の考察から明らかになるように、本発明の生成物を形成するために使用される担体またはコア分子のいくつかは、それらが通常はポリマーとはみなされないかもしれないような分子量のものである。しかし、それらの基本構造は樹状ポリマーに類似しているので、そのようなものとしてそれらを記載することは好都合である。それゆえ、用語「樹状ポリマー」が、本発明の生成物を定義するために本明細書において時折使用される。この用語は、ポリマーとみなされるために十分に大きな担体分子、および3個ほど少しのモノマーを含み得るものを含む。
【0047】
樹状ポリマーの合成を行うために必要な化学は公知でありそして利用可能である。アミノ酸について、反応すべきでない官能基をブロックし、次いで官能基が反応すべきであることが所望されるときにブロッキング基を除去するための化学は、詳細に多数の特許および技術文献中の論文に記載されている。樹状ポリマーおよびMAP全体を、Merrifield合成におけるように樹脂上で生成させ、次いでポリマーから除去することができる。Tomaliaは、アンモニアまたはエチレンジアミンをコア分子として利用した。この手順において、コア分子はMichael付加によってアクリラートエステルと反応させられ、そしてエステル基は加水分解によって除去される。得られる第1世代分子は、アンモニアの場合に3個の遊離カルボキシル基を、そしてエチレンジアミンを用いる場合に4個の遊離カルボキシル基を含む。Tomaliaは、エチレンジアミンおよび続いて別のアクリルエステルモノマーを用いて樹状ポリマーを伸張し、そして所望の分子量が達成されるまでシークエンスを反復する。しかし、樹状ポリマーの各々の枝を、いくつかの選択される手順のいずれによっても延長できることは、当業者には容易に明らかとなる。例えば、各々の枝を、リジン分子を用いる複数の反応によって伸張することができる。
【0048】
Ericksonは、実質的に任意の所望の分子量のポリペプチドを固体樹脂支持体から成長させる、古典的Merrifield技術を利用した。この技術を樹状ポリマーの調製のために利用するので、樹脂支持体にポリマーを連結する結合分子は3官能性である。官能基の1つは樹脂への結合に関与し、他の2つの官能基はポリマーの成長のための出発点として作用する。ポリマーは、所望の分子量が得られたときに樹脂から除去される。1つの標準的な開裂手順は、液体フッ化水素での0℃での1時間の処理である。別のそしてより満足な手順は、Tam et al (1983)によって記載されるような、フッ化水素とジメチルスルフィドの複合体(HF:DMF)の利用である。この手順は、副反応およびペプチドの損失を大いに最小化する。
【0049】
Denkewalterは、彼のプロセスの1例において、コア分子としてリジンを利用する。コア分子のアミノ基はウレタン基への変換によってブロックされる。カルボキシル基はベンズヒドリルアミンとの反応によってブロックされる。ウレタン基の加水分解は、樹状ポリマーの成長のための出発点として作用する2個の遊離アミノ基を有するリジンのベンズヒドリルアミドを生成する。樹状ポリマーを産生するために利用可能な手順の3つのこの簡潔な概略は、現在の技術の基本原理を当業者に教示するために十分であるはずである。これらはまた、ポリマーの顕著な特徴を当業者に教示し、その最も重要なものの1つは、ポリマーが多数の利用可能な官能基を小さな分子体積中で提供することである。その結果、小さな体積中の高濃度の抗原を、これらの利用可能な官能基に抗原を連結することによってを達成することができる。さらに、得られる分子生成物は、高い割合の抗原を比較的小さな担体上に含む。すなわち、担体に対する抗原の比率は非常に高い。これは、ワクチンのための基礎として使用される従来の生成物とは対照的である。これらの従来の生成物はしばしば多量の担体上の少量の抗原から構成される。
【0050】
抗原担体としての樹状ポリマーの他の重要な特徴は、正確な構造が既知であること;それ自体抗原性であり、組織刺激または他の所望されない反応を生じ得る混入物が存在しないこと;抗原の正確な濃度が既知であること;抗原が担体上で対称に分布していること;および、多価ワクチンが産生され得るように、担体が1個より多くの抗原のための基礎として利用され得ることである。ワクチンのための基礎としてのMAPSの主要な利点は、キーホールリンペットヘモシアニン、破傷風キソイドおよびウシ血清アルブミンのような天然担体を使用する他の系とは異なり、担体としてのMAPSの樹状ポリマーは、その上に抗原が既知の濃度で分散している完全に規定された化学物質であることである。さらに、抗原は、天然担体の場合のように、比較的小さくそして規定されていない分子の割合ではなく、分子の大きな部分を構成する。
【0051】
ワクチン(本明細書において免疫化組成物ともいう)を産生するためにMAPSを用いようとする場合、コア分子は、それが通常の代謝経路に従って身体によって扱われ得るように、リジンのような天然アミノ酸であることが好ましい。しかし、本明細書中下記でより十分に説明するように、天然ではないアミノ酸(α−アミノ酸ではないものでさえ)を用いることができる。コア分子の構築において使用される酸、または任意の他の不斉分子は、D型またはL型のいずれかであることができる。
【0052】
樹状ポリマーをポリアミドポリマーとして本明細書中上記で主に記載したが、本発明の担体が樹状ポリアミドに限定されないことは容易に明らかとなる。少なくとも2個の利用可能な官能基を有する広範な分子の任意のものがコア分子として作用することができる。例えば、プロピレングリコールは、ポリエステル樹状ポリマーのための基礎として作用することができる。コハク酸は、選択されたグリコールまたはアミンと共に、ポリエステルまたはポリアミドを生成するためのコア分子として作用することができる。ジイソシアナートを、ポリウレタンを生成するために使用することができる。重要な点は、これもまた少なくとも2個の利用可能な官能基またはアンカー基を各々の枝上に有するさらなる分子を用いる逐次的スカフォールド型の反応によってそれから同一の枝を生成することができる少なくとも2個の利用可能な官能基を、コア分子が有することである。コア分子が2個の利用可能な官能基を有し、そして各々の後に続く世代が2個の利用可能な官能基を有する最も単純な場合に、それに抗原分子がアンカーされることができるアンカー部位の数は2(ここで、nは世代数である)で表現される。
【0053】
樹状ポリマーの化学のより完全な考察については、Tomalia et al. (1985)、Aharoni et al. (1982)、および以下の米国特許4,289,872;4,558,120;4,376,861;4,568,737;4,507,466;4,587,329;4,515,920;4,599,400;4,517,122;および4,600,535に注意が向けられる。
【0054】
本発明の免疫化組成物において使用される抗原生成物は、現在好ましい実施態様において、同じであってもよくまたは異なっていてもよい抗原分子に共役結合した複数のアンカー部位を有する樹状ポリマーベースを含む多重抗原ペプチドシステムを提供する。ポリマーは、末端官能基を有する分子枝がそれに共有結合している少なくとも2個の官能基を有する中心コア分子を含む。枝上の末端官能基は、抗原分子(本明細書においてペプチド抗原として主に記載される)に共有結合される。
【0055】
選択された抗原は、別に合成されるかまたは他の方法で得られ、そして担体に連結され得る。あるいは、抗原は担体上で合成され得る。例えば、抗原がオリゴペプチドまたは比較的低分子量のポリペプチドであり、そしてポリマー上の利用可能な官能基がアミノ基またはカルボキシル基である場合、抗原を、公知のペプチド合成技術を利用してポリマーの各々の枝を伸張することによって合成することができる。
【0056】
図2A〜2Cは、本発明の実施において用いられ得る樹脂上のMAP樹状ポリマーの3つの実施態様の構造を示す。理解され得るように、それらは第3世代樹状ポリリジン生成物である。例えば、これを、MAPコアを有する8分枝または4分枝Wang樹脂として、いくつかの供給業者(すなわち、Advanced ChemTech,Inc. Louisville, KY)から商業的に得てもよく、またはPamまたはPop樹脂上にポリマーを生成することによる従来の固相技術によって産生してもよい。Mitchell et al, (1978)およびTam et al, (1980)を参照のこと。次いで、ポリマーを、好ましくはHF:DMSを使用して樹脂から開裂する。樹状ポリリジンは、樹脂に最初に連結されたアラニンリンカーから構築された。グリシンのような他のリンカーを用いることができる。勿論、リンカーを省略することができ、または複数のリンカー分子を利用することができる。
【0057】
各末端リジン部分上の利用可能な官能基の各々に直接的に連結された、配列番号1の残基1〜8(ここで、残基6はMetである)(図2A)、配列番号1の残基1〜8(ここで、残基6はLeuである)(図2B)、または配列番号5(図2C)のいずれかを有するペプチド抗原を図2A〜2Cに示す。抗原が比較的短いペプチド(例えば、6〜14残基)である場合、グリシン、アラニンまたはβ−アラニンの単純なトリまたはテトラペプチドのようなリンカーによってポリリジンを伸張することは有用であり得る。しかし、14より多くの残基を有する抗原ペプチドについては、リンカーは通常不要である。
【0058】
好ましくは、末端部分上の利用可能な官能基の各々に結合して、8価のMAPを形成するペプチド抗原は以下の通りである:
(MAP)−ISEVKMDA(配列番号1の残基1〜8、ここで、残基6はMetである)は、正常人におけるAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープを含む;および
(MAP)−ISEVKLDA(配列番号1の残基1〜8、ここで、残基6はLeuである)は、ADのスウェーデン変異におけるAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープを含む。
【0059】
ペプチド抗原は、例えば、MAPコア樹脂である8分枝Wang樹脂(樹脂−β−Ala−Lys−2Lys−4Lys−4 Fmoc)上で合成される(C末端からN末端に成長して)。8分枝Wang樹脂を、供給業者、Advanced ChemTech,Inc., Louisville, MY(www.peptide.com)から得ることができ、そしてそれは、樹木のように分枝した、7個のリジンがそれに結合したβ−アラニンからなる開裂可能部分を有する。枝は、合計8個のFmoc基のための各々2個のEmoc基を有する4個のリジンで終結する。MAPの合成を、供給業者の説明書に従って、または米国特許5,229,490およびTam et al. (1989)に開示されるようないくつかのペプチド合成プロトコルのいずれかに従って行うことができる。
【0060】
本発明の好ましい実施態様を、主に、コア分子としてのリジン上に構築される生成物に適用されるように、便宜上記載している。事実、リジンおよびリジン様分子、例えばオルニチン、ノルリジンおよびアミノアラニンは、それらの入手が比較的容易であり、それらを用いた作業が容易であり、そしてそれらが良好な収量を与えるので、本発明の生成物を構築するために好ましい分子である。そのようなコア分子を以下の一般式によって表すことができる:
【0061】
【化1】

【0062】
[式中、x、yおよびzは0〜10、好ましくは0〜4の整数であり、ただし、それらのうちの少なくとも1つは1であり、そしてアミノ基は同じ炭素原子に結合することができない]。最も好ましい分子において、x、yおよびzの合計は2〜6であり、そしてアミノ基は少なくとも2個のメチレン基によって分離されている。
【0063】
他の好ましいコア分子は、エチレンジアミンおよびより長い鎖を有する同様な分子、例えばプロピレンジアミンおよびブチレンジアミンを含む。そのような分子は以下の一般式によって表され得る:
N−CH−(CH−CH−NH
[式中、nは0〜10、好ましくは0〜3の整数である]。勿論、アンモニアをコア分子として用いることもできる。
【0064】
多数の疾患に対する合成ワクチンの開発は、ワクチンがネイティブなタンパク質に基づく必要はなく、ネイティブなタンパク質の低分子量セグメントに基づいてもよいという認識の故に、大いに加速された。免疫原決定基またはエピトープと通常呼ばれるこれらのセグメントは、例えば、ネイティブなタンパク質抗原の感染性ベクターによる感染に対して防御する抗体の産生を刺激することができる。免疫原決定基はしばしば、簡便に合成することができる低分子量ペプチドである。それらを合成することができない場合、それらをネイティブなタンパク質自体から純粋形態で分離してもよい。本明細書中下記で、これらの抗原性免疫刺激物質を抗原タンパク質という。
【0065】
本発明において使用される主要な実施態様は、AβPP上のβ−セクレターゼ切断部位のエピトープを含む抗原ペプチドのような複数の抗原が、利用可能な官能基に共有結合されている、樹状コア分子またはポリマーを含む抗原生成物として広く定義され得る。抗原またはエピトープは異なっていてもよいが、好ましくは抗原またはエピトープは同じである。
【0066】
より詳細には、本発明において使用される主要な実施態様は、選択された長さの枝がそれに連結されている少なくとも2個の利用可能な官能基を有する中心コア分子である樹状ポリマーベースを含む抗原生成物または担体系として定義され得る。分子の各々の枝は、複数のそれが抗原分子に共有結合している、少なくとも1個の利用可能なアンカー官能基で終結する。
【0067】
樹状ポリマー上の利用可能な末端官能基に共有結合されている抗原ペプチドは、少なくとも1コピーの、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープを含む。1より多いコピー(例えば、2または3コピー)のエピトープが抗原ペプチド上に存在する場合、2〜8アミノ酸残基、好ましくは2〜4残基のスペーサーがエピトープの複数のコピーを分離する。
【0068】
本発明において使用される好ましい実施態様において、エピトープはISEVKMDAまたはISEVKLDA(配列番号1の残基1〜8)である。小さな抗原ペプチド(例えば、6〜12残基を有するもの)のために、8分枝MAP Wang樹脂のような8分枝樹状ポリマー(8個の末端官能基)が好ましい。しかし、より大きなペプチド(約20アミノ酸残基以上の範囲)のためには、4分枝MAP Wang樹脂のような4分枝樹状ポリマーが好ましい。
【0069】
樹状ポリマーの利点は、所望であれば、それが、2個以上の異なる抗原のための担体として作用できることである。例えば、(MAP)−VKMDAEFRH(配列番号5)は、AβPPの2個の異なる重要なエピトープであるβ−セクレターゼMet−Asp切断部位およびAβのEFRH凝集部位の組み合わせを表す。本発明において使用される抗原生成物の1つの実施態様は、その一方は酸加水分解に対して安定であり、他方はアルカリ加水分解に対して安定である、異なるアミノブロッキング基を用いる樹状ポリリジンまたは他の構造的に類似した分子の使用に基づく。これは直交性保護方法によってリジンのアミノ基のいずれもを保護することを可能にする。
【0070】
フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)は、塩基不安定保護基であり、そして酸性脱保護に対して完全に安定である。t−ブトキシカルボニルブロッキング基(Boc)は、塩基性条件下で安定であるが、50%トリフルオロ酢酸のような穏やかに酸性の条件下で安定でない。Boc−lys(Boc)−OH、Boc−lys(Fmoc)−OH、Fmoc−lys(Boc)−OHまたはFmoc−lys(Fmoc)−OHを選択することによって、一組の抗原をリジンのαアミノ基上に、そして別のものをωアミノ基上に配置することが可能である。ペプチド合成の当業者は、多様なブロッキング基および他の樹状ポリマーを使用して同じ型の生成物を達成する方法を容易に考案することができる。
【0071】
MAPSの合成に適用可能ないくつかの一般的観察は当業者の助けとなる。これらは以下のとおりである:
【0072】
1.合成は一般に長いカップリング時間(2〜4時間)を必要とする。
【0073】
2.ジメチルホルムアミドは一般にメチレンジクロリドよりも適切な溶媒である。
【0074】
3.再溶媒和は非常に困難であるので、合成のいずれの段階でもペプチド樹脂を乾燥させべきでない。
【0075】
4.定量的ニンヒドリン法によって、カップリングの完了についてカップリングを厳密にモニターすべきである。
【0076】
5.強酸触媒副反応を回避するためにジメチルスルフィド中のHFまたはTFMSAのいずれかを用いる改良された酸脱保護方法(Tam, et al., 1983および1986)によって、MAPSは樹脂から最も良く開裂される。
【0077】
6.MAPSは樹脂支持体からの開裂後に強く凝集する傾向がある。精製は、p−クレゾールおよびチオクレゾールのような開裂反応の所望されない芳香族添加剤を除去するための、尿素およびメルカプトエタノール中8Mである透析媒質中での塩基性で強変性性の条件下での十分な透析によって最も良くもたらされる。さらなる精製を、所望であれば、高速ゲルパーミエーションまたはイオン交換クロマトグラフィーを使用してもたらすことができる。大部分の場合、MAPSをさらなる精製なしで直接的に使用することができる。
【0078】
本明細書において示しそして考察する構造の多くの変形が可能であることは当業者に明らかである。そのような変形の全てが具体的に本発明の範囲内に含まれる。例えば、米国特許5,229,490(その全体の内容を本明細書に参照により組み入れる)を参照のこと。
【0079】
本発明において使用される抗原生成物は、その利点のうちでアジュバント特性を与える親油性膜アンカー部分を含み得る。MAPのカルボキシル末端における親油性膜アンカー部分は、リポソームまたはミセル形態によるさらなる非共有結合性増幅を可能にする。従って、抗原生成物を含む本発明の免疫化組成物はさらに、より大きな送達効率および同時に低下される投与量のために、リポソーム内の被包を含む、種々のビヒクルを用いて調製され得る。リポソームの調製は当技術分野において周知である。
【0080】
トリパルミトイル−S−グリセリルシステイン(P3C)およびパルミトイルリジン(PL)は、本発明において使用される抗原生成物のために適切な親油性部分の非限定的な例である。エシェリキア・コリ由来のリポアミノ酸であるP3Cは、非毒性アジュバントとして特に首尾よいことが判明しているB細胞マイトジェンである。米国特許5,5,80,563およびDeFoort et al., (1992)(その全体の内容を本明細書に参照により組み入れる)を参照のこと。
【0081】
抗原生成物として本発明において使用されるMAPsは小さな分子体積中で高濃度の抗原を提供するので、多くの場合、本発明のワクチン/免疫化組成物を、アジュバントなしで用い得る。しかし、アジュバントを用いる場合、それは、哺乳動物の免疫原系を刺激するために通常用いられる任意のものから選択され得る。
【0082】
本明細書において使用する用語「アジュバント」は、抗原との組み合わせで投与される場合に抗原に対する免疫応答を増大するが、単独で投与される場合に抗原に対する免疫応答を生じない化合物を指す。アジュバントは、リンパ球動員、Bおよび/またはT細胞の刺激、およびマクロファージの刺激を含むいくつかの機構によって免疫応答を増大することができる。
【0083】
本発明による免疫化組成物において使用される抗原生成物としてのウイルスディスプレイビヒクルは、二本鎖DNAウイルス、一本鎖DNAウイルス、RNAウイルス(+鎖または−鎖)であることができる。好ましくは、ディスプレイビヒクルは、fd、f88、f1、およびM13のような繊維状バクテリオファージである。その線状構造に起因して、繊維状ファージは様々な種類の膜に対する高い透過性を有しており(Scott et al., 1990)そして嗅索をたどって、それは辺縁系を介して海馬領域に到達して、患部を標的化する。クロロホルムでの繊維状ファージの処理は、線状構造を環状構造に変化させ、これは脳へのファージの送達を防止する。
【0084】
fd繊維状ファージは本発明における使用のために特に好ましいファージ配列であるが、全ての繊維状ファージは非常に類似しておりそして同じ遺伝子構成を有していることを理解すべきである(Model et al, 1988)。従って、本発明の原理を、M13、f1およびその他のような繊維状ファージの任意のものに適用することができる。
【0085】
好ましくは、ディスプレイビヒクルは、レシピエントにおいて増殖することができる。従って、例えば、バクテリオファージディスプレイビヒクルは、細菌叢、例えばレシピエントの身体中に備わっているエシェリキア・コリにおいて増殖することができる。あるいは、ディスプレイビヒクルは、インビボ非増殖可能粒子であることができる。天然腸内細菌叢の潜在的感染についての懸念(Delmastro et al., 1997;Willis et al., 1993;およびPoul et al., 1999)が表明されているが、ファージのUV不活化(Delmastro et al., 1997)は、それらがその感染性対応物と同様に免疫原性であることを示した。不失化ファージの使用は、宿主細胞におけるその後の発現のための核中へのファージにコードされるトランスジーンの組み入れを妨げ得(Larocca et al., 1998)、これは重要な実用上の考慮すべき事項である。それゆえ、別の好ましい実施態様によれば、本発明において用いられるディスプレイビヒクルは、複製または非複製のいずれかであり得る。
【0086】
ファージまたはウイルスディスプレイは、ファージまたはウイルスコートタンパク質との融合タンパク質としてのcDNAクローンの発現を含む。発現のために選択されるcDNAが抗原をコードする場合、ファージまたはウイルスは抗原提示ビヒクルとして用いられ得、これは場合によりレシピエント内で複製することができる。
【0087】
ファージまたはウイルスによって提示される抗原を、抗原精製なしで、ワクチン接種のために直接的に使用してもよい。この場合、コートタンパク質の大部分は、ワクチン接種される対象に関して「非自己」であるので、一般免疫応答を刺激するように作用する。抗原−コートタンパク質融合物は、提示されるcDNA遺伝子産物中のエピトープに対する特異的抗体を誘起する。
【0088】
本発明による免疫化組成物において使用される抗原生成物の好ましい実施態様によれば、ディスプレイビヒクルは、レシピエントへのその1010単位の3回の用量の導入後30日未満で、ELISAによって決定される、レシピエント中の抗体の力価が1:50,000より高いように選択される。
【0089】
本発明のワクチン/免疫化組成物は、免疫学的応答を生じるために十分な量の本発明の抗原生成物と一緒に、薬学的に許容され得る担体、賦形剤、アジュバント、または補助剤を含むとして定義され得る。有効量は非常に小さくあり得る。知られているように、それは抗原に従って変動する。本発明のMAPS抗原生成物については、低分子体積中の高濃度の抗原の故に、それは同じ抗原を用いる普通のワクチンについてよりも低い。有効量を構成する量は、ワクチンが最初の処置としてまたは追加免疫処置として意図されるかどうかに依存して変動し得る。
【0090】
本発明の生成物を、使用の直前に薬学的に許容され得る担体を用いて即座に再構成される凍結乾燥またはフリーズドライした粉末として提供することが好都合であり得る。
【0091】
予防的適用において、本発明の免疫化組成物は、生化学的、組織学的および/または行動的な疾患の徴候、疾患の発達の間に呈されるその合併症および中間的病理学的表現型を含む、疾患の発症に対して十分な量で、アルツハイマー病にかかりやすいか、またはそうでなければその危険性がある対象/患者に投与される。アルツハイマー病の既知の遺伝的危険性を有する個体は、この疾患を経験している親類を有するもの、およびその危険性が遺伝的または生化学的マーカーの分析によって決定されるものを含む。アルツハイマー病に向けての危険性の遺伝的マーカーは、APP遺伝子中の変異、特にそれぞれHardy変異およびスウェーデン変異といわれる717位ならびに670および671位における変異を含む。治療的適用において、本発明の免疫化組成物は、アルツハイマー病の発達におけるその合併症および中間的病理学的表現型を含む、アルツハイマー病の徴候(生化学的、組織学的および/または行動的な)を少なくとも部分的に抑えるために十分な量で、アルツハイマー病が疑われるかまたはアルツハイマー病に既に罹患している患者に投与される。AβPPのβ−セクレターゼ切断をブロックし、そしてAβの形成を阻止するために十分な量が、有効投与量として定義される。AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するための方法において、本発明の免疫化組成物は、通常、十分な免疫応答が達成されるまで、いくつかの用量で投与される。典型的には、免疫応答はモニターされ、そして免疫応答が衰え始めれば繰り返しの用量が与えられる。
【0092】
AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を誘発するための本発明の免疫化組成物の有効投与量は、投与の手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるかまたは動物であるか、投与される他の薬物、および処置が予防的であるかまたは治療的であるかを含む、多くの様々な要因に依存して変動する。通常、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物を処置することもできる。安全性および効力を至適化するために、処置投与量を設定する必要がある。免疫原の量は、アジュバントも投与されるかどうかに依存し、アジュバントの非存在下ではより高い投与量が必要とされそうである。患者当たり1〜500μg、より通常には注射当たり5〜500μgが、ヒトの投与のために使用される。時折、注射当たり1〜2mgのより高い投与量が使用される。典型的には、約10、20、50または100μgが、各ヒト注射のために使用される。免疫原の質量は、免疫原全体としての質量に対する免疫原内の免疫原性エピトープの質量比率にも依存する。注射のタイミングは、1日に1回から、1年に1回、10年に1回まで著しく変動し得る。免疫原の用量が与えられる任意の所与の日に、投与量は1μg/患者より多く、通常、アジュバントも投与される場合、10μg/患者より多く、そしてアジュバントの非存在下では10〜100μg/患者より多くあり得る。典型的なレジメンは、6週間の間隔のような時間間隔での、免疫化およびそれに続く追加免疫注射からなる。別のレジメンは、免疫化およびそれに続く1、2および12ヶ月後の追加免疫注射からなる。別のレジメンは、生涯2ヶ月毎の注射を必要とする。あるいは、追加免疫注射は、免疫応答のモニターによって示されるような不規則ベースであることができる。
【0093】
免疫応答を誘発/誘起するための本発明の免疫化組成物は、予防的および/または治療的処置のために、非経口、局所、静脈内、経口、皮下、動脈内、頭蓋内、腹腔内、鼻腔内または筋肉内手段によって投与され得る。免疫原性薬剤の最も典型的な投与経路は皮下であるが、他の経路は同等に有効であり得る。次に最も一般的な経路は筋肉内注射である。この型の注射はたいてい典型的には腕または脚の筋肉において行われる。
【0094】
本発明の免疫化組成物は、時折アジュバントとの組み合せで投与され得る。種々のアジュバントを、免疫応答を誘起するために本発明の抗原生成物と組み合わせて使用することができる。好ましいアジュバントは、応答の質的形態に影響を及ぼす免疫原における立体構造変化を引き起こすことなしに、免疫原に対する固有の応答を増大させる。好ましいアジュバントは、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム、3脱−O−アシル化モノホスホリルリピドA(MPL(商標))を含む(GB 2220211、RIBI ImmunoChem Research Inc., Hamilton, Montana, 現在Corixaの一部、参照)。Stimulon(商標)QS−21は、南アフリカにおいて見出されたQuillaja Saponaria Molina樹木の樹皮から単離されたトリテルペングリコシドまたはサポニンである(Kensil et al., 1995);米国特許第5,057,540(Aquila BioPharmaceuticals, Framingham, MA)参照)。他のアジュバントは、場合によりモノホスホリルリピドAのような免疫刺激剤との組み合わせでの、水中油エマルジョン(例えば、スクアレンまたはピーナツ油)である(Stoute et al., 1997参照)。別のアジュバントはCpGである(WO 98/40100)。あるいは、抗原生成物をアジュバントにカップリングすることができる。しかし、そのようなカップリングは、それに対する免疫応答の性質に影響を及ぼすようにエピトープの立体構造を実質的に変化させるべきではない。アジュバントは、免疫化組成物の成分として、アジュバントの投与の前に、それと同時に、またはその後に、別々に投与される本発明の抗原生成物ともに投与され得る。
【0095】
アジュバントの好ましいクラスは、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムのような、アルミニウム塩(ミョウバン)である。そのようなアジュバントを、MPLまたは3−DMP、QS−21、ポリマーまたはモノマーアミノ酸、例えば、ポリグルタミン酸またはポリリジンのような他の特定の免疫刺激剤有りまたは無しで使用することができる。アジュバントの別のクラスは水中油エマルジョン処方物である。そのようなアジュバントを、ムラミルペプチド(例えば、N−アセチルムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(nor−MDP)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタルニニル−L−アラニン−2−(1’−2’ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(MTP−PE)、N−アセチルグルクサミニル−N−アセチルムラミル−L−Al−D−イソグル−L−Ala−ジパルミトキシプロピルアミド(DTP−DPP)テラミド(theramide)(商標))、または他の細菌細胞壁成分のような他の特定の免疫刺激剤有りまたは無しで使用することができる。水中油エマルジョンは、(a)MF59(WO 90/14837)(5%スクワレン、0.5%Tween 80、および0.5%Span 85を含み(場合により、種々の量のMTP−PEを含み)、Model 110Yミクロ流動化装置(microfluidizer)(Microfluidics, Newton MA)のようなミクロ流動化装置を使用してミクロン未満の粒子に処方される)、(b)SAF(10%スクアレン、0.4%Tween 80、5%pluronicブロックポリマーL121、およびthr−MDPを含み、ミクロン未満のエマルジョンにミクロ流動化されるかまたはより大きな粒子サイズのエマルジョンを生成するようにボルテックスされるかのいずれか)、および(c)Ribi(商標)アジュバントシステム(RAS)(Ribi ImmunoChem, Hamilton, MT)(2%スクアレン、0.2%Tween 80、ならびに5モノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、および細胞壁骨格(CWS)からなる群からの1個以上の細菌細胞壁成分、好ましくはMPL+CWS(Detox(商標))を含む)を含む。好ましいアジュバントの別のクラスは、サポニンアジュバント、例えばStimulon(商標)(QS−21、Aquila, Framingham, MA)またはそれから生成される粒子、例えばISCOMs(免疫刺激複合体)およびISCOMATRIXである。他のアジュバントは、フロイント完全アジュバント(CFA)、フロイント不完全アジュバント(IFA)およびサイトカイン、例えばインターロイキン(IL−1、IL−2、およびIL−12)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)を含む。
【0096】
アジュバントを、単一の組成物として免疫原とともに投与することができ、または免疫原の投与の前に、それと同時にまたはその後に投与することができる。免疫原およびアジュバントを、同じバイアル中に入れそして供給することができ、または別のバイアル中に入れそして使用前に混合することができる。免疫原およびアジュバントは、典型的には、意図される適用を示すラベルとともに容器に入れられる。免疫原およびアジュバントが別々に容器に入れられる場合、容器は、典型的には、使用前の混合のための説明書を含む。アジュバントおよび/または担体の選択は、アジュバントを含む免疫原性処方物の安定性、投与経路、投与スケジュール、ワクチン接種される種についてのアジュバントの効力に依存し、そして、ヒトにおいては、薬学的に許容され得るアジュバントは、関連規制組織によってヒト投与について承認されているかまたは承認可能であるものである。例えば、フロイント完全アジュバントはヒト投与のために適切ではない。ミョウバン、MPLおよびQS−21は好ましい。場合により、2個以上の異なるアジュバントを同時に使用することができる。好ましい組み合わせは、ミョウバンとMPL、ミョウバンとQS−21、MPLとQS−21、ならびにミョウバン、QS−21およびMPL一緒を含む。また、フロイント不完全アジュバントを、場合によりQS−2、およびWPLおよびそれらの全ての組み合せのいずれかとの組み合わせで、使用することができる(Chang et al., 1998)。
【0097】
本発明の抗原生成物はしばしば、活性薬剤、すなわち、抗原生成物、および種々の他の薬学的に許容され得る成分を含む医薬組成物として投与される。Remington's Pharmaceutical Science (15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 1980)を参照のこと。好ましい形態は、意図される投与様式および治療適用に依存する。組成物はまた、所望される処方に依存して、薬学的に許容され得る非毒性の担体または希釈剤(これは、動物またはヒト投与のための医薬組成物を処方するために一般的に使用されるビヒクルとして定義される)を含むことができる。希釈剤は、組み合せたものの生物学的活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理リン酸緩衝食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、およびハンクス液である。さらに、医薬組成物または処方物はまた、他の担体、アジュバント、または補助剤または非毒性、非治療的、非免疫原性の安定化剤などを含んでもよい。
【0098】
医薬組成物はまた、タンパク質、多糖、例えば、キトサン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびコポリマー(例えば、ラテックス官能化sepharose(商標)、アガロース、セルロースなど)、ポリマーアミノ酸、アミノ酸コポリマー、および脂質凝集物(例えば、油滴またはリポソーム)のような、大きな、ゆっくりと代謝される高分子を含むことができる。さらに、これらの担体は、免疫刺激剤(すなわち、アジュバント)として機能することができる。
【0099】
非経口的投与のために、本発明の抗原生成物を、水油(water oil)、生理食塩水、グリセロール、またはエタノールのような無菌液体であることができる薬学的担体を含む生理学的に許容され得る希釈剤中の物質の溶液または懸濁液の注射用投与量として投与することができる。さらに、補助物質、例えば湿潤剤または乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質などが組成物中に存在し得る。医薬組成物の他の成分は、石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えば、ピーナツ油、大豆油、および鉱物油である。一般に、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールは、特に注射用溶液のための、好ましい液体担体である。
【0100】
典型的には、組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかとして、注射剤として調製され;注射前の液体ビヒクル中の溶解、または懸濁、のために適切な固体形態を調製することもできる。調製物を、上記で考察するように、増強されたアジュバント効果のために、リポソームまたは微粒子、例えばポリラクチド、ポリグリコリド、またはコポリマー中に乳化または被包することもできる(Langer, 1990およびHanes, 1997参照)。
【0101】
処置を受け入れられる患者は、アルツハイマー病の危険性があるが症状を示していない個体、および現在症状を示している患者を含む。彼または彼女が十分に長く生きていれば、アルツハイマー病に罹患する危険性は実質的に誰にもある。それゆえ、本発明の抗原生成物を、対象患者のいかなる危険性の評価の必要性もなしに、一般集団に予防的に投与することができる。本発明の方法は、アルツハイマー病の既知の遺伝的危険性を有する個体のために特に有用である。そのような個体は、この疾患を経験している親類を有するもの、およびその危険性が遺伝的または生化学的マーカーの分析によって決定されるものを含む。アルツハイマー病に向けての危険性の遺伝的マーカーは、APP遺伝子中の変異、特にそれぞれHardyおよびスウェーデン家族性AD変異といわれる717位ならびに670および671位における変異を含む。危険性の他のマーカーは、プレセニリン遺伝子、PS1およびPS2、ならびにApoE4における変異、ADの家族歴、高コレステロール血症またはアテローム性動脈硬化症である。アルツハイマー病に現在罹患している個体を、特徴的な認知症、および上記の危険因子の存在から認識することができる。さらに、いくつかの診断試験が、ADを有する個体を同定するために利用可能である。これらは、CSFタウおよびAβ42レベルの測定を含む。上昇したタウおよび減少したAβ42レベルはADの存在を示す。アルツハイマー病に罹患した個体を、ADRDA基準によって診断することもできる。
【0102】
無症候性患者において、処置を任意の年齢(例えば、10、20、30歳)で開始することができる。しかし、通常、患者が40、50、60または70歳に達するまでは処置を開始する必要はない。典型的には、処置は、期間にわたっての複数の投薬を必要とする。処置を、経時的に本発明の抗原生成物に対する抗体、またはB細胞応答をアッセイすることによってモニターすることができる。応答が低下した場合、追加免疫投薬が指示される。潜在的ダウン症候群患者の場合、母親に治療剤を投与することによって出産前に、または誕生直後に、処置を開始することができる。
【0103】
本発明はまた、アルツハイマー病に罹患しているかまたはかかりやすい患者におけるAβPPのβ−セクレターゼ切断部位に対する免疫応答を検出する方法を提供する。この方法は、患者に施される処置過程をモニターするために特に有用である。この方法を使用して、免疫原の投与に応答して産生される抗体をモニターすることによって、症候性患者に対する治療的処置および無症候性患者に対する予防的処置の両方をモニターすることができる。
【0104】
いくつかの方法は、抗原生成物の投与量を投与する前に患者における免疫応答のベースライン値を決定すること、およびこれを処置後の免疫応答についての値と比較することを必要とする。免疫応答の値における有意な増加(すなわち、そのような測定値の平均からの1標準偏差として表現される、同じ試料の繰り返し測定における実験誤差の典型的な限度よりも大きい)は、正の処置成績(すなわち、薬剤の投与が免疫応答を達成したかまたは増大したこと)の合図となる。免疫応答についての値が有意に変化しないか、または減少する場合、負の処置成績が示される。一般に、免疫原性薬剤での初期の過程処置を受けている患者は、連続的な投薬に従って免疫応答の増加を示すことが期待され、これは最終的にプラトーに達する。薬剤の投与は一般に、免疫応答が増加している間継続される。プラトーの到達は、免疫原の投与を中断することができるか、または投与量もしくは頻度において低下させることができることの指標である。
【0105】
他の方法において、免疫応答のコントロール値(すなわち、平均および標準偏差)を、コントロール集団について決定する。典型的には、コントロール集団中の個体は、以前の処置を受けていない。次いで、抗原生成物を投与した後の患者における免疫応答の測定値を、コントロール値と比較する。コントロール値に比較しての有意(例えば、平均から1標準偏差より大きい)な増加は、正の処置成績の合図となる。有意な増加の欠如または減少は、負の処置成績の合図となる。薬剤の投与は一般に、免疫応答がコントロール値に比較して増加している間継続される。上記と同様に、コントロール値に比較してのプラトーの到達は、処置の施行を中断することができるか、または投与量もしくは頻度において低下させることができることの指標である。
【0106】
他の方法において、免疫応答のコントロール値(例えば、平均および標準偏差)を、抗原生成物での処置を受け、そしてその免疫応答が処置に応答してプラトーになった個体のコントロール集団から決定する。患者における免疫応答の測定値を、コントロール値と比較する。患者における測定されたレベルがコントロール値と有意(例えば、1標準偏差より大きい)には異ならない場合、処置を中断することができる。患者におけるレベルがコントロール値より有意に低い場合、薬剤の継続投与は正当化される。患者におけるレベルがコントロール値より下で持続する場合、処置レジメンの変更(例えば、異なるアジュバントの使用)が指示され得る。
【0107】
他の方法において、現在は処置を受けていないが、以前の処置過程を受けた患者を、処置の再開が必要とされるかどうか決定するために、免疫応答についてモニターする。患者における免疫応答の測定値を、以前の処置過程の後に患者において以前に達成された免疫応答の値と比較することができる。以前の測定値と比較しての有意な減少(すなわち、同じ試料の繰り返し測定における誤差の典型的な限度よりも大きい)は、処置を再開できることの指標である。あるいは、患者において測定された値を、処置過程を受けた後に患者の集団において決定されたコントロール値(平均+標準偏差)と比較することができる。あるいは、患者における測定値を、疾患の徴候がないままである予防的に処置された患者の集団、または疾患特徴の寛解を示す治療的に処置された患者の集団におけるコントロール値と比較することができる。これらの場合の全てで、コントロールレベルに比較しての有意(すなわち、標準偏差より大きい)な減少は、患者において処置を再開すべきであることの指標である。
【0108】
分析のための組織試料は、典型的には、患者からの血液、血漿、血清、粘液または脳脊髄液である。試料を、抗原生成物に対する免疫応答の指標について分析する。免疫応答を、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位に特異的に結合する抗体の存在から決定することができる(すなわち、ELISA)。
【0109】
本発明のさらなる態様は、本発明による免疫化組成物中の抗原生成物上に保有されるようなAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるAβPPエピトープに対しして惹起された抗体、およびそのような抗体の抗原結合部分を含む分子を提供する。
【0110】
用語「抗体」を本発明の抗体実施態様に関して使用する場合、これが、インタクトな抗体、例えばポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体(mAb)、ならびにそのタンパク質分解フラグメント、例えばFabまたはF(ab’)2フラグメントを含むことが意図されることを理解すべきである。さらに、抗体の可変領域をコードするDNAを、他の抗体中に挿入して、キメラ抗体を産生するか(例えば、米国特許4,816,567参照)、またはT細胞受容体中に挿入して、同じ広い特異性を有するT細胞を産生することができる(Eshhar, et al, 1990およびGross et al, 1989参照)。単鎖抗体を産生しそして使用することもできる。単鎖抗体は、抗原結合能を有し、そして免疫グロブリン軽および重鎖の可変領域に相同なまたは類似したアミノ酸配列の対を含む、単鎖複合ポリペプチドであることができる(連結したVH−VLまたは単鎖FV)。VHおよびVLの両方が天然のモノクローナル抗体配列をコピーしてもよく、または鎖の一方もしくは両方が米国特許5,091,513(その全体の内容を本明細書に参照により組み入れる)に記載される型のCDR−FR構築物を含んでもよい。軽および重鎖の可変領域に類似した別々のポリペプチドは、ポリペプチドリンカーによって一緒に保持される。そのような単鎖抗体の産生方法(特に、VHおよびVL鎖のポリペプチド構造をコードするDNAが既知である場合)は、例えば米国特許4,946,778、5,091,513および5,096,815(その各々の全体の内容を本明細書に参照により組み入れる)に記載される方法に従って達成され得る。
【0111】
特異的に分子と反応して、それにより分子を抗体に結合することができる場合、抗体は分子に「結合できる」と言われる。用語「エピトープ」は、その抗体によって認識もされることができる、抗体によって結合されることができる任意の分子の部分を指すように意味される。エピトープまたは「抗原決定基」は、通常、アミノ酸または糖側鎖のような分子の化学的に活性な表面配置からなり、そして特定の3次元構造特徴および特定の電荷特徴を有する。
【0112】
ポリクローナル抗体は、抗原で免疫化された動物の血清に由来する抗体分子の不均一な集団である。
【0113】
モノクローナル抗体(mAb)は、特異的抗原に対する抗体の実質的に均一な集団である。mAbは当業者に公知の方法によって得られ得る。例えば、Kohler et al, (1975);米国特許4,376,110;Harlow et al, (1988);およびColligan et al, (2001)(これらの参考文献の全内容を全体に本明細書に参照により組み入れる)を参照のこと。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、およびその任意のサブクラスを含む任意の免疫グロブリンクラスのものであり得る。本発明のmAbを産生するハイブリドーマを、インビトロまたはインビボで培養し得る。高力価のmAbを、インビボ産生によって得ることができ、ここで、個々のハイブリドーマ由来の細胞をプリスタン抗原刺激したBalb/cマウス中に腹腔内注射して、高濃度の所望のmAbを含む腹水を産生させる。アイソタイプIgMまたはIgGのmAbを、そのような腹水から、または培養上清から、当業者に周知のカラムクロマトグラフィー方法を使用して精製し得る。
【0114】
キメラ抗体は、マウスmAb由来の可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有するもののような、その異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。キメラ抗体は主に、適用の間の免疫原性を低下させ、そして産生の収量を増加させるために(例えば、マウスmAbがハイブリドーマからのより高い収量を有するがヒトにおけるより高い免疫原性を有し、その結果、ヒト/マウスキメラまたはヒト化mAbが使用される場合に)使用される。キメラおよびヒト化抗体ならびにそれらの産生のための方法は当技術分野において周知である。例えば、Cabilly et al (1984)、Morrison et al (1984)、Boulianne et al (1984)、Cabilly et al、欧州特許0 125 023 (1984)、Neuberger et al (1985)、Taniguchi et al、欧州特許0 171 496 (1985)、Morrison et al、欧州特許0 173 494 (1986)、Neuberger et al、WO 8601533 (1986)、Kudo et al、欧州特許0 184 187 (1986)、Sahagan et al (1986);Robinson et al、WO 9702671 (1987)、Liu et al (1987)、Sun et al (1987)、Better et al (1988)、およびHarlow et al (1988)。これらの参考文献を本明細書に参照により組み入れる。
【0115】
「抗体の抗原結合部分を含む分子」は、任意のアイソタイプの、そして任意の動物細胞株または微生物によって生成される、またはインビトロで生成される(例えば、組換え抗体を構築するためのファージディスプレイ技術によって)、インタクトな免疫グロブリン分子だけではなく、その抗原結合反応性画分も含むことが意図され、限定するものではないが、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、その重鎖および/または軽鎖の可変部分、およびそのような反応性画分を組み入れたキメラまたは単鎖抗体、またはそのような反応性画分を含む分子の部分により治療部分を送達するように開発された分子を含む。そのような分子は、限定するものではないが、酵素切断、ペプチド合成または組換え技術を含む、任意の公知の技術によって提供され得る。
【0116】
増加する証拠は、嗅覚欠損および中枢嗅覚経路における変性性の変化が、ADの臨床過程の初期に冒されることを示している。さらに、ADに含まれる解剖学的パターンは、嗅覚経路がADの発達における初期段階であり得ることを示唆している。
【0117】
嗅覚受容ニューロンは、鼻腔の上皮裏層に存在する双極細胞である。その軸索は篩板を横切り、そして脳の嗅球における嗅覚経路の最初のシナプスに突出する。鼻粘膜上皮からの嗅覚ニューロンの軸索は1000個の無髄繊維の束を形成する。この立体配置は、それらを、それによってウイルスまたは他の輸送される物質がBBBを横切るCNSへのアクセスを獲得し得るハイウェイにする。
【0118】
ADの初期段階において、BBBは、末梢中を循環している抗体のCNSへの侵入を制限し得る。対照的に、ファージ表面上に提示された、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープに対する抗体の抗原結合部分を有する分子または単鎖抗体は、鼻腔内投与によってCNSへ直接的に送達される潜在力だけでなく、患者におけるAβによる嗅覚の永久的損傷を防止する潜在力も有する。先に示したように、鼻腔内投与(Mathison et al., 1998;Chou et al., 1997およびDraghia et al., 1995)は、ウイルスおよび高分子のCSFまたはCNS中への直接的侵入を可能にする。
【0119】
アデノウイルスベクターのための脳への送達点としての嗅覚受容ニューロンの使用が文献において報告されている。この方法は、報告によれば、見かけの毒性なしで、12日間、脳におけるレポーター遺伝子の発現を引き起こす(Draghia et al., 1995)。
【0120】
従って、本発明による受動免疫化のための方法によれば、AβPPのβ−セクレターゼ切断部位をブロックできる抗体の免疫学的抗原結合部分を提示するビヒクルが、この経路を介して脳に送達される。
【0121】
Aβは、血液脳関門(BBB)を横断する末梢組織中の細胞によって連続的に産生され、特定のニューロン集団における局在化された毒性効果を導くので、そのようなビヒクルの鼻腔内投与はまた、プラークの形成のために利用可能な末梢Aβの量を最少化することによって疾患の進行を防止し得る。
【0122】
抗体のファージまたはウイルスディスプレイは、例えば、抗体可変領域のコード配列をファージまたはウイルスコートタンパク質に融合することによって達成される。この目的のために、抗体産生細胞から単離された可変(V)領域(VおよびV)mRNAをcDNAに逆転写し、そして単鎖Fv(scFv)をコードするように重鎖および軽鎖をランダムにアセンブルする。これらのカセットを、ファージまたはウイルス表面上での発現および提示のためにファージミドのような適切なベクター中に直接的にクローン化する。抗体の遺伝子型と表現型との間のこの連鎖は、固定化または標識された抗原を使用した、抗原特異的ファージまたはウイルス抗体の濃縮を可能にする。関連する抗体を提示するファージまたはウイルスは抗原でコートされた表面上に保持され、一方、非付着性のファージまたはウイルスは洗い流される。さらなる濃縮のために、そして最終的に結合分析のために、結合したファージまたはウイルスを、表面から回収し、適切な宿主細胞中に再感染させ、そして再増殖させることができる。
【0123】
抗体のファージまたはウイルディスプレイの成功は、この提示および濃縮方法の組み合せにかかっている。ファージまたはウイルス抗体遺伝子を、配列決定し、変異させ、そしてスクリーニングして、抗原結合を改善することができる。
【0124】
抗原に対するその特異性および親和性を変化させるように抗体分子の種々の領域をコードする遺伝子を再編成することが可能である。抗体を、さらなる操作のためにファージまたはウイルスの表面上に維持することができ、または可溶性scFv(約25kDa)フラグメントとして遊離させることができる。
【0125】
1990年代初めのその発明以来、抗体ファージディスプレイは、モノクローナル抗体の生成およびその加工に改革をもたらした。これは、抗体が完全にインビトロで作製されることをファージディスプレイが可能にし、免疫系および免疫化手順を迂回し、そして抗体の親和性および特異性のインビトロでの適合化を可能にするからである。それゆえ、最も効率的な新たなワクチン開発ストラテジーはこの技術を用いることが予測される。
【0126】
さらなる特徴をベクターに追加して、その安全性を確実にし、そして/またはその治療効力を増強することができる。そのような特徴は、例えば、抗生物質感受性のような組換えウイルスに感染した細胞に対してネガティブに選択するために使用することができるマーカーを含む。それゆえ、ネガティブ選択は、抗生物質の添加を通して誘導性自殺を提供するので、それによって感染を制御することができる手段である。そのような保護は、例えば、ウイルスベクターまたは組換え配列の変化した形態を生じる変異が現れた場合に、細胞トランスフォーメーションが起こらないことを確実にする。特定の細胞型に発現を限定する特徴も含まれ得る。そのような特徴は、例えば、所望の細胞型に特異的である調節エレメントおよびプロンプターを含む。
【0127】
ウイルスは、多くの場合、宿主防御機構を回避するように進化した、非常に特殊化された感染病原体である。典型的には、ウイルスは、特定の細胞型において感染および伝播する。ウイルスベクターの標的化特異性は、その天然の特異性を利用して、予め決定された細胞型を特異的に標的化し、それにより組換え遺伝子を感染細胞中に導入する。
【0128】
抗体の直接的脳送達は、脳への輸送体として嗅覚ニューロンを使用することによってBBBの横断を克服する。嗅上皮において、一次嗅覚ニューロンの樹状突起は鼻内腔と接触し、そして軸索を介して、これらのニューロンは脳の嗅球にも連結される。嗅上皮と接触したファージは、一次嗅覚ニューロンにおいて取り込まれ、そして嗅球に、そしてさらに脳の他の領域中にさえ輸送され得る。
【0129】
本発明のさらなる態様は、薬学的に許容され得る担体、賦形剤、希釈剤、または補助剤、およびAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープに対する単鎖抗体をその表面上に提示するウイルスディスプレイビヒクルを含む医薬組成物を提供する。
【0130】
ここに本発明を一般的に記載したが、同じことは以下の実施例への参照を通してより容易に理解され、実施例は例証として提供され、そして本発明を限定することを意図しない。
【0131】
実施例
材料および結果
免疫化:
3群のBalb/cマウスに、以下の3つの異なるMAP(8分枝)コンジュゲートペプチドを注射した:ISEVKMDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はMetである)、VKMDAEFRH(配列番号5)およびISEVKLDA(配列番号1の残基1〜8、ここで残基6はLeuである)。ストック溶液(2mg/ml)を以下のように調製した:1000μlの二重蒸留水(DDW)、665μlのフロイントアジュバント(最初の注射の際のフロイント完全アジュバントおよび後の注射の際のフロイント不完全アジュバント)および335μlのペプチドストック溶液。300μlのワクチン接種溶液(免疫化組成物)を各々のマウス中に最初の注入後2週間毎に注射した。MAP−ISEVKLDAに対して惹起された最高の免疫応答を図3に示す。
【0132】
IgG力価定量化のためのELISA手順:
96ウェルELISAプレートを、コーティング緩衝液(0.1M NaCO、pH9.6)中1:500希釈のペプチドストック溶液50μl/ウェルでコートし、そして一晩4℃でインキュベートした。プレートを2×PBS(0.05%TWEEN)および2×PBSで洗浄し、3%ミルク/PBS 180μl/ウェルでブロックし、そして1.5時間37℃でインキュベートした。1%ミルク/PBS中の血清希釈液50μl/ウェルを1時間37℃でインキュベートし、次いで1時間37℃でインキュベートした1%ミルク/PBS中の1:5000希釈液とコンジュゲートしたα−マウス−IgG(H+L)HRP 50μl/ウェルで再び洗浄した。さらなる洗浄はPBS(0.05%TWEEN)を、そして最終的にPBSを含んだ。30mgのOPDおよび5μlの30%Hを含む0.05Mクエン酸緩衝液15mlの50μl/ウェルを用いて反応を行った。反応時間は5〜10分間であり、次いで25μl/ウェルの4M HClの添加によって停止した。
【0133】
細胞株:
細胞培養 − チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、10%ウシ胎仔血清(FCS)および2.5mM L−グルタミンを含むダルベッコ改変イーグル培地(F−12)中で増殖させた。野生型AβPP 751を発現する安定にトランスフェクトされたCHO細胞株を、Lipofectin媒介トランスフェクション(Life Technologies, Inc., Gaithersburg, MD)を使用して発現ベクターpCMV751を用いて生成し、そしてG418耐性によって選択した。次いで、6ウェルプレートに各々のトランスフェクトした細胞株からの2.5×10〜4×10個の細胞を播種した。一晩のインキュベーションの後、無血清培地を各ウェルに添加し、次いで細胞を抗AβPP上β−セクレターゼ切断部位血清の溶液およびコントロールとして非注射マウス血清中でインキュベートし、次いで48時間インキュベートした。培地を各ウェルから採集し、そしてELISAに供した。
【0134】
2部位サンドイッチAβ ELISA:
2部位サンドイッチELISAを使用して、上記血清処理および非処理細胞からのAβの産生および分泌を測定した。モノクローナル抗Aβ抗体266を捕獲抗体として使用した。96ウェルプレートを266(0.1μg/ウェル)および0.1M炭酸緩衝液(0.1M Na2CO3、pH9.6)の溶液でコートし、そして一晩4℃でインキュベートした。プレートを2×PBSt(0.05%TWEEN)および2×PBSで洗浄し、その後180μl/ウェルの3%BSA/PBSでブロックし、そして2.5時間37℃でインキュベートし、次いで上記のように洗浄した。全Aβ用のビオチン化モノクローナル抗Aβ抗体6C6(125ng/ウェル)およびAβ1−42特異的用のビオチン化モノクローナル抗Aβ1−42抗体8G7(25ng/ウェル)(両方とも1%BSA/PBS中)を検出のために使用した。プレートを洗浄し、そしてアビジンコンジュゲートアルカリホスファターゼ(Sigma, St. Louis, MO)(1μg/ウェル)を2時間室温で添加し、次いでそれを3×PBSt(0.05%TWEEN)および4×PBS中で洗浄した。基質p−ニトロフェニルホスフェート(PnPP;Sigma)をレポーター系として使用した。PnPP 30mgを含むジエタノールアミン緩衝液50μl/ウェル(15ml)を用いて反応を行った。PnPP蛍光を405nmの波長で検査した。標準曲線の構築のために、Aβ標準品(1−28)およびAβ標準品(1−42)を、無血清培地または抽出緩衝液中の1%BSAおよびプロテアーゼ阻害剤の存在下で調製した(図4)。図4は、ELISAによって測定した増殖培地への全アミロイドβペプチド(Aβ)分泌の阻害を示す。
【0135】
細胞内Aβ(1−42)の定量化
CHO細胞を各ウェルからセルスクレーパーを使用してその増殖培地中に採集した。採集した培地を3000gで2分間遠心分離し、採集した細胞をPBSで洗浄し、そして2回遠心分離した。細胞を100μlの70%ギ酸中に懸濁し、そして10秒間プローブソニケーターを用いて超音波処理した。溶液を100,000gで20分間4℃で遠心分離して、不溶性物質を除去し;上清を1.9mlの1M TRISを用いて中和した。この溶液の試料をHO中で1:3希釈し、そして上記のように、その300μlをELISAのために添加した。5日間のみインキュベーションの後、ELISAによって測定した場合、Aβ(1−42)蓄積のかなりの阻害が見出された(図5)。
【0136】
細胞中へのBACE(β−セクレターゼ)とのAβPP−血清抗体複合体の共局在化のための共焦点顕微鏡観察:
AβPP 751を過剰発現するCHO細胞を、24時間6ウェルプレート中で増殖させ、3×PBSで洗浄し、そして4%(PBS中)パラホルムアルデヒドを用いて30分間室温で固定した。細胞を、上記のように洗浄し、そして5分間1%BSA/PBS中の0.3%TRITON−100を添加することによって透過処理し、次いで0.5%3×(BSA/PBS)で洗浄した。ウサギ血清1:150との2時間の非特異的結合に続いて、上記のように洗浄した。1:2000希釈の、抗AβPP上β−セクレターゼ切断部位血清またはα−BACE1(β−セクレターゼ酵素自体に対し惹起され、そしてCalbiochem, San Diego, CAによって供給される)を添加し、続いて2時間インキュベートし、上記のように洗浄し、そして以下のように二次抗体に供した:抗AβPP上β−セクレターゼ部位血清用のα−マウス−Cy3および/またはα−BACE1用のα−ウサギ−FITC。図6において、抗AβPP上β−セクレターゼ切断部位抗体およびBACE抗体の共焦点顕微鏡観察は、細胞核周囲領域における共局在化(明るいスポット)を示した。
【0137】
β−セクレターゼ切断部位に対する抗体のインターナリゼーションアッセイのための免疫蛍光顕微鏡観察:
AβPP 751を過剰発現するCHO細胞を、24時間6ウェルプレート中で増殖させた。洗浄後、1:500希釈の抗AβPP上β−セクレターゼ切断部位血清を含む新たな培地を添加した。細胞を、30分間インキュベートし、次いで3×PBSで洗浄し、そして4%(PBS中)パラホルムアルデヒドを用いて30分間室温で固定した。細胞を、上記のように洗浄し、そして1%BSA/PBS中の0.3%TRITON−100を添加することによって、透過処理した細胞に分割し、そして5分間インキュベートした。コントロールとして、非処理細胞を0.5%3×(BSA/PBS)で洗浄した。ブロッキング工程を3%BSAを用いて2時間行い、続いて上記のように洗浄工程を行った。二次抗体を1時間室温で暗所でインキュベートし、その後、それを3×PBSで洗浄し、そしてProLong anti-fadeキット(Molecular Probes, Eugene, OR)を用いてマウントした。図7Aは、固定および透過処理後のインターナライズした抗β−セクレターゼ切断部位AβPP抗体の免疫染色を示す。図7Bはコントロールである。
【0138】
AβPPトランスジェニックマウスにおけるプラーク形成の阻害:
6匹のマウスを上記のように免疫化し、そして3匹のマウスをコントロールとして使用した。免疫化の5ヶ月後に、マウスを屠殺し、そして脳スライスを標準ThSプロトコルプラーク染色に供した。プラーク数を顕微鏡検査下で計数し、そして非処理のマウスに比較しての、抗原で免疫化したトランスジェニックマウスにおけるプラーク数の低下を観察した(図8)。
【0139】
ここに本発明を十分に記載したが、本発明の精神および範囲から逸脱することなしに、そして過度の実験なしに、同じことが、広範な等価なパラメーター、濃度、および条件内で行われ得ることが当業者によって理解される。
【0140】
本発明をその特定の実施態様との関連で記載したが、さらなる改変が可能であることが理解される。本出願は、一般に、本発明の原理に従う、そして本発明が属する技術分野内の公知のまたは慣習的な慣行内に入るような、そして添付の特許請求の範囲において下記のように記載する上記の本質的特徴に適用される得るような本開示からの逸脱を含む、本発明のいかなる変形、使用、または適合をもカバーすることが意図される。
【0141】
本明細書において引用する全ての参考文献(定期刊行物論文および要約を含む)、公開されたまたは対応する米国または外国特許出願、発行された米国または外国特許、あるいは任意の他の参考文献を、引用される参考文献中に示された全てのデータ、表、図、および本文を含めて、全体に本明細書に参照により組み入れる。さらに、本明細書において引用する参考文献内で引用される参考文献の全体の内容も、全体に参照により組み入れる。
【0142】
公知方法工程、従来方法工程、公知方法または従来方法の参照は、本発明のいかなる態様、記載または実施態様が関連技術分野において開示、教示または示唆されることの承認では決してない。
【0143】
特定の実施態様の前記記載は、本発明の一般的性質を、他者が、当技術分野の技術内の知識(本明細書において引用する参考文献の内容を含む)を適用することによって、過度の実験なしに、本発明の一般的概念から逸脱することなしに、そのような特定の実施態様を種々の適用のために容易に改変しそして/または適合させることができるほどに十分に明らかにしている。それゆえ、そのような適合および改変は、本明細書に示す教示および手引きに基づいた、開示した実施態様の等価物の範囲および意味の範囲内であることが意図される。本明細書における語句または用語が記載の目的のためのものであり、そして限定の目的のためのものではないことを理解すべきであり、本明細書の用語または語句は、本明細書に示す教示および手引きを考慮して、当業者の知識と組み合わせて、当業者によって解釈されるべきである。
【0144】
【表2】












【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−セクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(AβPP)の切断を阻害しそしてアミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積を阻害するようにAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープに対する免疫応答を誘発する、抗原ペプチドの免疫化有効量、および薬学的に許容され得る担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、または補助剤を含む、免疫化組成物。
【請求項2】
抗原ペプチドが、配列番号1の残基4〜8、Val Lys Xaa Asp Ala(ここでXaaはMetまたはLeuである)を含む配列番号1の部分を含む、請求項1記載の免疫化組成物。
【請求項3】
抗原ペプチドがディスプレイビヒクルの表面上に提示される、請求項1または2記載の免疫化組成物。
【請求項4】
ディスプレイビヒクルが、コア分子上に構築された、分枝を提供するように少なくとも二官能性である、そしてそれに抗原ペプチドが共有結合によって連結される16個までの末端官能基を含む、樹状ポリマーを含む、請求項3記載の免疫化組成物。
【請求項5】
樹状ポリマーが、それに抗原ペプチドが連結される8個の末端官能基を含む、請求項4記載の免疫化組成物。
【請求項6】
抗原ペプチドが配列番号5、または配列番号1の残基1〜8を含む、請求項2記載の免疫化組成物。
【請求項7】
抗原ペプチドが配列番号1の2つの重複する部分を含み、その各々が配列番号1の残基4〜8(ここでXaaはMetまたはLeuである)を含む、請求項4記載の免疫化組成物。
【請求項8】
2つの重複する部分が同一である、請求項7記載の免疫化組成物。
【請求項9】
コア分子がリジンである、請求項4記載の免疫化組成物。
【請求項10】
樹状ポリマーに連結されたアジュバント特性を有する分子をさらに含む、請求項4記載の免疫化組成物。
【請求項11】
抗原ペプチドがリポソームに被包されている、請求項1または2記載の免疫化組成物。
【請求項12】
抗原ペプチドがウイルスディスプレイビヒクル上に提示される、請求項3記載の免疫化組成物。
【請求項13】
ウイルスディスプレイビヒクルが繊維状バクテリオファージである、請求項12記載の免疫化組成物。
【請求項14】
抗原ペプチドが配列番号5、または配列番号1の残基1〜8を含む、請求項4または12記載の免疫化組成物。
【請求項15】
AβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープに結合しそしてβ−セクレターゼによるAβPPの切断を阻害することができる抗体の抗原結合部分を含む分子。
【請求項16】
モノクローナル抗体または単鎖抗体である、請求項15記載の分子。
【請求項17】
その表面上に請求項16記載の分子を提示する繊維状バクテリオファージディスプレイビヒクルであって、分子が単鎖抗体である、ビヒクル。
【請求項18】
請求項17記載の繊維状バクテリオファージディスプレイビヒクル、および薬学的に許容され得る担体、賦形剤、希釈剤、または補助剤を含む、医薬組成物。
【請求項19】
アミロイドβの形成を阻害するために嗅覚系に投与される、請求項18記載の医薬組成物。
【請求項20】
請求項15記載の分子を含む、AβPPのβ−セクレターゼ切断の阻害およびアミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積の阻害のための医薬組成物。
【請求項21】
β−セクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(AβPP)の切断を阻害しそしてアミロイドβペプチド(Aβ)の蓄積を阻害するようにAβPPのβ−セクレターゼ切断部位にまたがるエピトープに対する免疫応答を誘発することができる、長さ6〜14アミノ酸残基からなる単離された抗原ペプチド。
【請求項22】
配列番号1の残基4〜8、Val Lys Xaa Asp Ala(ここでXaaはMetまたはLeuである)を含む配列番号1の部分を含む、請求項21記載の単離された抗原ペプチド。
【請求項23】
抗原ペプチドが配列番号1の残基1〜8を含む、請求項22記載の単離された抗原ペプチド。
【請求項24】
抗原ペプチドが配列番号5のアミノ酸配列を含む、請求項22記載の単離された抗原ペプチド。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−248197(P2010−248197A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−114047(P2010−114047)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【分割の表示】特願2003−574670(P2003−574670)の分割
【原出願日】平成15年3月4日(2003.3.4)
【出願人】(504335699)ラモト アト テル−アヴィヴ ユニバーシティ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】