説明

免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導するポリペプチドをコードする染色体DNA

【課題】 哺乳類由来の宿主細胞に導入すると、免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導するポリペプチドを効率的に発現するDNAを提供する。
【解決手段】 特定のアミノ酸配列を有し、免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導するポリペプチドをコードする染色体DNAと、その染色体DNAを哺乳類由来の宿主細胞に導入してなる形質転換体と、その形質転換体を培養する工程と、培養物から当該ポリペプチドを採取する工程を含んでなるポリペプチドの製造方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は染色体DNA、とりわけ、免疫担当細胞においてインターフェロン−γ(以下、「IFN−γ」と略記する。)の産生を誘導するポリペプチドをコードする染色体DNAに関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドの単離と、そのポリペプチドをコードするcDNAのクローニングに成功し、特許文献1及び特許文献2に開示した。このポリペプチドは有用な生理活性蛋白質であるIFN−γの産生を誘導する性質と、キラー細胞による細胞障害性を増強したり、キラー細胞の生成を誘導する性質を兼備しているので、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗腫瘍剤、免疫疾患剤などとして広範な用途が期待されている。
【0003】
ところで、ヒト細胞においては、遺伝子の発現により生成したポリペプチドは細胞内酵素によるプロセッシングを受け、ポリペプチドの一部が切断されたり、糖鎖が付加したりすると言われている。医薬品に配合するポリペプチドとしては、ヒト細胞におけると同様のプロセッシングを受けたものが望ましいところ、特許文献3に記載されているように、ヒト細胞株は一般に当該ポリペプチドの産生量が少ないという問題がある。したがって、現時点で当該ポリペプチドを大量に入手しようとすると、組換えDNA技術を適用せざるを得ない。組換えDNA技術を適用しつつ、ポリペプチドにヒト細胞におけると同様なプロセッシングを受けさせるには、宿主に哺乳類由来の細胞を用いることとなる。
【0004】
【特許文献1】特開平8−27189号公報
【特許文献2】特開平8−193098号公報
【特許文献3】特開平9−289896号公報(特願平8−269105号明細書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
斯かる状況に鑑み、この発明の第一の課題は、哺乳類由来の宿主細胞に導入したときに、当該ポリペプチドの産生を効率的に発現するDNAを提供することにある。
【0006】
さらに、この発明の第二の課題は、斯かるDNAを導入してなる形質転換体を提供することにある。
【0007】
加えて、この発明の第三の課題は、斯かる形質転換体を用いるポリペプチドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記諸課題を解決すべく鋭意研究したところ、当該ポリペプチドをコードする染色体DNAは、哺乳類由来の宿主細胞に導入すると、当該ポリペプチドを効率的に発現することを見出した。しかも、この染色体DNAを哺乳類由来の宿主細胞で発現させて得られるポリペプチドは、当該ポリペプチドをコードするcDNAを大腸菌で発現させて得られるポリペプチドに比較して、生理活性が有意に高いことを見出した。
【0009】
すなわち、この発明は上記第一の課題を、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列(ただし、符合「Xaa」を付して示したアミノ酸は、イソロイシン又はトレオニンを表すものとする。)又はそのアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を有し、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドをコードする染色体DNAにより解決するものである。
【0010】
さらに、この発明は上記第二の課題を、この染色体DNAを哺乳類由来の宿主細胞に導入してなる形質転換体により解決するものである。
【0011】
加えて、この発明は上記第三の課題を、この形質転換体を培養する工程と、培養物から免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドを採取する工程を含んでなるポリペプチドの製造方法により解決するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態につき説明するが、前述のとおり、この発明は、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列又はそのアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする染色体DNAの発見と、その染色体DNAが哺乳類由来の宿主細胞に導入したときに、生理活性の高いポリペプチドを効率的に発現するという知見に基づくものである。この発明の染色体DNAは、通常、2個以上のエクソンを含んでなり、そのうちの1個又は2個以上のエクソンは配列表における配列番号2に示す塩基配列の一部又は全部を有する。斯かるエクソンの具体例としては、例えば、配列表における配列番号3及び4に示す塩基配列のものが挙げられる。ヒトに由来する染色体DNAは、それ以外に、例えば、配列表における配列番号5乃至7に示す塩基配列のエクソンを含んでなることがある。この発明の染色体DNAは、哺乳類の染色体DNAに由来するものであるが故に、哺乳類の染色体DNAに特徴的なイントロンを含んでなる。イントロンは、通常、2個以上存在し、個々のイントロンとしては、例えば、配列表における配列番号8乃至12に示す塩基配列のものが挙げられる。
【0013】
この発明の染色体DNAのさらに具体的な例としては、例えば、配列表における配列番号13及び14に示す塩基配列及びその塩基配列に相補的な塩基配列を有するものが挙げられる。配列表における配列番号13に示す塩基配列も、配列番号14に示す塩基配列も本質的に変わるところはなく、例えば、配列番号14に示す塩基配列はその第15,607乃至15,685番目、第17,057乃至17,068番目及び20,452乃至20,468番目にリーダーペプチドをコードする領域を、第20,469乃至20,586番目、第21,921乃至22,054番目及び第26,828乃至27,046番目に配列表における配列番号1に当該ポリペプチドをコードする領域を、そして、第15,686乃至17,056番目、第17,069乃至20,451番目、第20,587乃至21,920番目及び第22,055乃至26,827番目にイントロンに相当する領域をそれぞれ含んでなる。なお、配列表における配列番号13に示す塩基配列の染色体DNAは、哺乳類由来の宿主細胞中で当該ポリペプチドを発現させるのに好適である。
【0014】
ところで、斯界においては、一般に、あるポリペプチドをコードするDNAを宿主中で発現させるに際し、そのDNAの発現効率を改善したり、あるいは、ポリペプチドそのものの物性を改善する目的で、DNAにおける塩基の1個又は2個以上を他の塩基で置換したり、DNAに適宜のプロモーターやエンハンサーを連結することがある。この発明の染色体DNAにおいても斯かる改変は当然あり得ることであり、具体的には、最終的に得られるポリペプチドの生理活性を実質的に変更しない範囲で、例えば、配列表における配列番号3乃至14に示す塩基配列における塩基の1個又は2個以上を他の塩基で置換したり、配列番号3、4、5、6、7、13及び14に示す塩基配列における5´末端及び/又は3´末端の非翻訳領域やリーダーペプチドに相当する領域を切除したり、あるいは、配列番号13に示す塩基配列の一端又は両端に適宜オリゴヌクレオチドを連結した場合であっても、当然、この発明の染色体DNAに包含されることは言うまでもない。
【0015】
この発明でいう染色体DNAとは、上記のごとき塩基配列を含んでなる染色体由来のDNA全般を包含するものとし、それが元の生体から一旦単離されたものであるかぎり、その出所・由来は問わない。この発明の染色体DNAを得るには、例えば、配列表における配列番号2乃至14に示す塩基配列に基づき化学合成するか、あるいは、ヒトの染色体DNAから単離する。ヒトの染色体DNAから単離するには、常法にしたがってヒト細胞から染色体DNAを分離する一方、配列表における配列番号2に示す塩基配列の一部又は全部を有するオリゴヌクレオチドを化学合成し、これをプローブ又はプライマーにして染色体DNAを検索し、顕著な会合を示すDNAを採取する。いずれにしても、この発明の染色体DNAは、一旦これを入手すれば、常法にしたがって自律複製可能なベクターとの組換えDNAを作製し、この組換えDNAを微生物や動物由来の適宜宿主に導入して培養するか、あるいは、PCR法を適用すれば、無限に複製可能である。
【0016】
この発明の染色体DNAは、哺乳類由来の宿主細胞に導入すると、生理活性の高いポリペプチドを効率的に発現するので、組換えDNA技術による当該ポリペプチドの製造に極めて有用である。この発明は特定の染色体DNAを用いるポリペプチドの製造方法をも提供するものであり、この発明の製造方法は、当該染色体DNAを哺乳類由来の宿主細胞に導入してなる形質転換体を培養する工程と、培養物から免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドを採取する工程を含んでなる。
【0017】
この発明によるポリペプチドの製造方法について説明すると、当該染色体DNAは、通常、組換えDNAの形態で宿主細胞に導入される。組換えDNAはこの発明の染色体DNAと自律複製可能なベクターを含んでなり、染色体DNAさえ入手できれば、通常一般の組換えDNA技術により比較的容易に調製することができる。この発明の染色体DNAを挿入可能なベクターとしては、例えば、pcD、pcDL−SRα、pKY4、pCDM8、pCEV4、pME18Sなどのプラスミドベクターが挙げられる。自律複製可能なベクターは、通常、プロモーター、エンハンサー、複製起点、転写終結部位、スプライシング配列及び/又は選択マーカーなどの、この発明の染色体DNAが個々の宿主細胞において発現するための適宜塩基配列をさらに含んでなる。なお、プロモーターとして、例えば、熱ショック蛋白質プロモーターや、あるいは、同じ特許出願人が特開平7−163368号公報に開示したインターフェロン−αプロモーターを用いるときには、形質転換体における当該染色体DNAの発現を外部刺激により人為的に制御できることとなる。
【0018】
斯かるベクターにこの発明の染色体DNAを挿入するには、斯界において慣用の方法が用いられる。具体的には、まず、この発明の染色体DNAを含む遺伝子と自律複製可能なベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断し、つぎに、生成したDNA断片とベクター断片を連結する。遺伝子及びベクターの切断にヌクレオチドに特異的に作用する制限酵素、とりわけ、AccI、BamHI、BglI、BstXI、EcoRI、HindIII、NotI、PstI、SacI、SalI、SmaI、SpeI、XbaI、XhoIなどを用いれば、DNA断片とベクター断片を連結するのが容易となる。DNA断片とベクター断片を連結するには、必要に応じて、両者をアニーリングした後、生体内又は生体外でDNAリガーゼを作用させればよい。斯くして得られる組換えDNAは、微生物や動物由来の宿主において無限に複製可能である。
【0019】
宿主細胞としては、例えば、3T3細胞、C127細胞、CHO細胞、CV−1細胞、COS細胞、HeLa細胞、MOP細胞及びそれらの変異株を始めとする、斯界において宿主として慣用されるヒト、サル、マウス及びハムスター由来の上皮系細胞、間質系細胞及び造血系細胞であっても、当該ポリペプチドを本来的に産生するヒトのリンパ芽球、リンパ球、単芽球、単球、骨髄芽球、骨髄球、顆粒球、マクロファージなどの造血系細胞や、例えば、肺癌、大腸癌、結腸癌などの固形腫瘍由来の上皮系細胞や間質系細胞であってもよい。後者の造血系細胞の具体例としては、例えば、ジュン・ミノワダ『キャンサー・レビュー(Cancer Review)』、第10巻、1乃至18頁(1988年)などに記載されている骨髄性白血病、前骨髄性白血病、単球性白血病、成人T細胞白血病及びヘアリー細胞白血病を含む白血病又はリンパ腫由来のHBL−38細胞、HL−60細胞(ATCC CCL240)、K−562細胞(ATCC CCL243)、KG−1細胞(ATCC CCL246)、Mo細胞(ATCC CRL8066)、THP−1細胞(ATCC TIB202)、U−937細胞(ATCC CRL1593)などの白血病細胞株及びそれらの変異株が挙げられる。これらの白血病細胞及び変異株は当該ポリペプチドをプロセッシングする性質が顕著なので、宿主細胞として用いると、生理活性の高いポリペプチドが容易に得られる特徴がある。
【0020】
斯かる宿主細胞にこの発明の染色体DNAを導入するには、例えば、公知のDEAE−デキストラン法、燐酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、さらには、レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルスなどによるウイルス感染法などを用いればよい。形質転換体から当該ポリペプチドを産生するクローンを選択するには、コロニーハイブリダイゼーション法を適用するか、形質転換体を培養培地で培養し、当該ポリペプチドの産生が観察されたクローンを選択すればよい。なお、哺乳類由来の宿主細胞を用いる組換えDNA技術については、例えば、黒木登志夫、谷口克、押村光雄編集、『実験医学別冊細胞工学ハンドブック』、1992年、羊土社発行や横田崇、新井賢一編集、『実験医学別冊バイオマニュアルシリーズ3 遺伝子クローニング実験法』、1993年、羊土社発行などに詳述されている。
【0021】
斯くして得られる形質転換体は、培養培地で培養すると、細胞内外に当該ポリペプチドを分泌する。培養培地としては、哺乳類由来の細胞を培養するための慣用の培養培地を用いればよく、斯かる培養培地は、通常、緩衝水を基材とし、これにナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、燐イオン、塩素イオンなどの無機イオンと、細胞の代謝能力に応じた微量元素、炭素源、窒素源、アミノ酸、ビタミンなどを加え、必要に応じて、さらに血清、ホルモン、細胞成長因子、細胞接着因子などを含有せしめて構成される。個々の培養培地としては、例えば、199培地、DMEM培地、Ham’s F12培地、IMDM培地、MCDB104培地、MCDB153培地、MEM培地、RD培地、RITC80−7培地、RPMI−1630培地、RPMI−1640培地、WAJC404培地などが挙げられる。斯かる培養培地に形質転換体を約1×10乃至1×10個/ml、望ましくは、約1×10乃至1×10個/ml接種し、必要に応じて新鮮な培養培地と取替えながら、温度37℃前後で1日乃至1週間、望ましくは、2乃至4日間浮遊培養又は単層培養すると、当該ポリペプチドを含む培養物が得られる。形質転換体の種類や培養条件にもよるが、斯くして得られる培養物は、通常、当該ポリペプチドを約1乃至100μg/ml含む。
【0022】
このようにして得られた培養物はIFN−γ誘導剤としてそのまま用いられることもあるが、通常は使用に先立ち、必要に応じて、超音波、細胞溶解酵素及び/又は界面活性剤により細胞を破砕した後、濾過、遠心分離などにより当該ポリペプチドを細胞又は細胞破砕物から分離し、精製する。精製には細胞又は細胞破砕物を除去した培養物に、例えば、塩析、透析、濾過、濃縮、分別沈澱、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、等電点クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル電気泳動、等電点電気泳動などの生理活性蛋白質を精製するための斯界における慣用の方法が適用され、必要に応じて、これらは適宜組合せて適用される。そして、最終使用形態に応じて、精製ポリペプチドを濃縮・凍結乾燥して液状又は固状にすればよい。なお、同じ特許出願人による特開平8−231598号公報に開示されたモノクローナル抗体は当該ポリペプチドの精製に極めて有用であり、このモノクローナル抗体を用いるイムノアフィニティークロマトグラフィーによるときには、高純度の当該ポリペプチドを最少のコストと労力で得ることができる。
【0023】
前述のとおり、この発明の方法により得られるポリペプチドは、有用な生理活性蛋白質であるIFN−γの産生を誘導する性質と、キラー細胞の細胞障害性を増強したり、キラー細胞の生成を誘導する性質を兼備するので、IFN−γ及び/又はキラー細胞に感受性を有する各種疾患の治療・予防に著効を発揮する。さらに、この発明の方法により得られるポリペプチドは強力なIFN−γ誘導能を有することから、一般に少量で所期のIFN−γを産生でき、また、毒性が極めて低いことから、多量投与しても重篤な副作用を惹起することがない。したがって、この発明の方法により得られるポリペプチドは、使用に際して用量を厳密に管理しなくても、所望のIFN−γ産生を迅速に誘導できる利点がある。なお、当該ポリペプチドの感受性疾患剤としての用途は、同じ特許出願人による特開平9−157180号公報(特願平8−28722号明細書)に詳述されている。
【0024】
ところで、この発明の染色体DNAは、いわゆる、「遺伝子療法」にも有用である。すなわち、通常の遺伝子療法においては、この発明の染色体DNAを、例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルスなどのウイルス由来のベクターに挿入するか、カチオニックリポソームや膜融合型リポソームなどのリポソームに包埋し、この状態で、IFN−γ及び/又はキラー細胞に感受性を有する疾患に罹患した患者に直接注入するか、あるいは、患者からリンパ球を採取し、生体外で導入した後、患者に自家移植するのである。また、養子免疫遺伝子療法においては、効果細胞にこの発明の染色体DNAを通常の遺伝子療法の場合と同様にして導入すると、腫瘍細胞に対する効果細胞の細胞障害性が高まり、養子免疫療法を強化することができる。さらに、腫瘍ワクチン遺伝子療法においては、患者から摘出した腫瘍細胞にこの発明の染色体DNAを通常の遺伝子療法の場合と同様にして導入し、生体外で一定数に達するまで増殖させた後、患者に自家移植するのである。移植された腫瘍細胞は患者体内においてワクチンとして作用し、強力且つ抗原特異的な抗腫瘍免疫を発揮する。斯くして、この発明の染色体DNAは、ウイルス疾患、細菌感染症、悪性腫瘍及び免疫疾患を始めとする各種疾患の遺伝子療法に著効を発揮することとなる。なお、これらの遺伝子療法を実施するための一般的手順は、例えば、島田隆、斎藤泉、小澤敬也編集、『実験医学別冊バイオマニュアルUPシリーズ 遺伝子治療の基礎技術』、1996年、羊土社発行に詳述されている。
【0025】
以下、実施例に基づきこの発明を説明するが、そこで用いられる手法は斯界において慣用のものであり、例えば、黒木登志夫、谷口克、押村光雄編集、『実験医学別冊細胞工学ハンドブック』、1992年、羊土社発行や横田崇、新井賢一編集、『実験医学別冊バイオマニュアルシリーズ3 遺伝子クローニング実験法』、1993年、羊土社発行などにも詳述されている。
【実施例1】
【0026】
<染色体DNAのクローニングと塩基配列の決定>
【0027】
<実施例1−1:部分塩基配列の決定>
クローンテック製ヒト胎盤由来のゲノムDNAライブラリー『PromoterFinder DNA PvuII Library』を5ngとり、これに10×Tth PCR反応溶液を5μl、25mM酢酸マグネシウムを2.2μl、そして、2.5mM dNTP混液を4μlそれぞれ加え、さらに、2単位/μlのrTth DNAポリメラーゼXLと2.2μg/μlのTth Start Antibodyの4:1の混液を1μl、アダプタープライマーとして5´−CCATCCTAATACGACTCACTATAGGGC−3´で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを10ピコモル、そして、アンチセンスプライマーとして配列表における配列番号2に示す塩基配列の第88乃至115番目の配列に基づき化学合成した5´−TTCCTCTTCCCGAAGCTGTGTAGACTGC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを10ピコモルそれぞれ加え、滅菌蒸留水で全量を50μlとした。この混合物を94℃で1分間インキュベートした後、先ず、94℃で25秒間、72℃で4分間でインキュベートするサイクルを7回繰返して反応させ、次に、94℃で25秒間、67℃で4分間インキュベートするサイクルを32回繰返してPCR反応させた。
【0028】
滅菌蒸留水で反応物を100倍希釈した後、その1μlをとり、これに10×Tth PCR反応溶液を5μl、25mM酢酸マグネシウムを2.2μl、そして、2.5mM dNTP混液を4μlそれぞれ加え、さらに、2単位/μlのrTth DNAポリメラーゼXLと2.2μg/μlのTth Start Antibodyの4:1の混液を1μl、ネステッドアダプタープライマーとして5´−CTATAGGGCACGCGTGGT−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを10ピコモル、アンチセンスプライマーとして上記と同様にして化学合成した5´−TTCCTCTTCCCGAAGCTGTGTAGACTGC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクオチドを10ピコモルそれぞれ加え、滅菌蒸留水で50μlとした。この混合物を94℃で1分間インキュベートした後、先ず、94℃で25秒間、72℃で4分間インキュベートするサイクルを5回繰返して反応させ、次に、94℃で25秒間、67℃で4分間インキュベートするサイクルを22回繰返してPCR反応させて当該染色体DNAにおけるDNA断片の一つを増幅した。なお、染色体DNAライブラリー及びPCR反応試薬としては、主として、クローンテック製『PromoterFinder DNA Walking Kits』を用いた。
【0029】
このようにして得たPCR反応物を適量とり、これにノバジーン製プラスミドベクター『pT7 Blue(R)』を50ngとT4 DNAリガーゼの適量を加え、さらに、100mM ATPを最終濃度1mMまで加えた後、16℃で18時間インキュベートしてプラスミドベクターにDNA断片を挿入した。得られた組換えDNAをコンピテントセル法により大腸菌JM109株に導入して形質転換体とし、これをアンピシリンを50μg/ml含むL−ブロス培地(pH7.2)に接種し、37℃で18時間培養した後、培養物から菌体を分離し、通常のアルカリ−SDS法により組換えDNAを採取した。ジデオキシ法により調べたところ、この組換えDNAは、配列表における配列番号14に示す塩基配列の第5,150乃至6,709番目に相当する塩基配列のDNA断片を含んでいた。
【0030】
<実施例1−2:部分塩基配列の決定>
実施例1−1における第一回目のPCR反応において、アンチセンスプライマーとして、実施例1−1で得たDNA断片の塩基配列に基づき化学合成した5´−GTAAGTTTTCACCTTCCAACTGTAGAGTCC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた以外は同様にしてPCR反応させた。
【0031】
滅菌蒸留水で反応物を100倍希釈した後、その1μlをとり、これをアンチセンスプライマーとして、実施例1−1で得たDNA断片の塩基配列に基づき化学合成した5´−GGGATCAAGTAGTGATCAGAAGCAGCACAC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた以外は実施例1−1における第二回目のPCR反応と同様に反応させて当該染色体DNAにおける別のDNA断片を増幅した。
【0032】
このDNA断片を実施例1−1と同様にプラスミドベクターに挿入して組換えDNAとし、これを大腸菌で複製した後、採取し、分析したところ、本例の組換えDNAは、配列表における配列番号14に示す塩基配列の第1乃至5,228番目に相当する塩基配列のDNA断片を含んでいた。
【0033】
<実施例1−3:部分塩基配列の決定>
クローンテック製ヒト胎盤由来のゲノムDNAを0.5μgとり、これに10×LA PCR反応溶液を5μlと2.5mM dNTP混液を8μlそれぞれ加え、さらに、5単位/μl TAKARA LA Taqポリメラーゼと1.1μg/μl TaqStart Antibodyの1:1の混液を1μl、センスプライマーとして配列表における配列番号2に示す塩基配列の第46乃至75番目の配列に基づき化学合成した5´−CCTGGCTGCCAACTCTGGCTGCTAAAGCGG−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを10ピコモル、アンチセンスプライマーとして配列表における配列番号2に示す塩基配列の第210乃至242番目の配列に基づき化学合成した5´−GTATTGTCAATAAATTTCATTGCCACAAAGTTG−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを10ピコモルそれぞれ加え、滅菌蒸留水で全量を50μlとした。この混合物を94℃で1分間インキュベートした後、先ず、98℃で20秒間、72℃で10分間インキュベートするサイクルを5回繰返して反応させ、次に、98℃で20秒間、68℃で10分間インキュベートするサイクルをサイクルを重ねるたびに時間を5秒ずつ延長しながら、25回繰返しPCR反応させ、その後、72℃でさらに10分間反応させて当該染色体DNAにおけるさらに別のDNA断片を増幅した。なお、PCR反応試薬としては、主として、宝酒造製『TAKARA LA PCR Kit Version 2』を用いた。
【0034】
このDNA断片を実施例1−1と同様にプラスミドベクターに挿入して組換えDNAとし、これを大腸菌で複製した後、採取し、分析したところ、本例の組換えDNAは、配列表における配列番号14に示す塩基配列の第6,640乃至15,671番目に相当する塩基配列のDNA断片を含んでいた。
【0035】
<実施例1−4:部分塩基配列の決定>
実施例1−3におけるPCR反応において、センスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第175乃至207番目の配列に基づき化学合成した5´−AAGATGGCTGCTGAACCAGTAGAAGACAATTGC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを、また、アンチセンスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第334乃至360番目の配列に基づき化学合成した5´−TCCTTGGTCAATGAAGAGAACTTGGTC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用い、さらに、PCR反応のサイクルを、先ず、94℃で1分間インキュベートした後、98℃で20秒間、68℃で3分間のサイクルを30回繰返して反応させ、次に、72℃で10分間のサイクルを1回だけ反応させた以外は同様にして当該染色体DNAにおけるさらに別のDNA断片を増幅した。
【0036】
このDNA断片を実施例1−1と同様にプラスミドベクターに挿入して組換えDNAとし、これを大腸菌で複製した後、採取し、分析したところ、本例の組換えDNAは、配列表における配列番号14に示す塩基配列の第15,604乃至20,543番目に相当する塩基配列のDNA断片を含んでいた。
【0037】
<実施例1−5:部分塩基配列の決定>
実施例1−4におけるPCR反応において、センスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第273乃至305番目の配列に基づき化学合成した5´−CCTGGAATCAGATTACTTTGGCAAGCTTGAATC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを、また、アンチセンスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第500乃至531番目の配列に基づき化学合成した5´−GGAAATAATTTTGTTCTCACAGGAGAGAGTTG−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた以外は同様にして当該染色体DNAにおけるさらに別のDNA断片を増幅した。
【0038】
このDNA断片を実施例1−1と同様にプラスミドベクターに挿入して組換えDNAとし、これを大腸菌で複製した後、採取し、分析したところ、本例の組換えDNAは、配列表における配列番号14に示す塩基配列の第20,456乃至22,048番目に相当する塩基配列のDNA断片を含んでいた。
【0039】
<実施例1−6:部分塩基配列の決定>
実施例1−4におけるPCR反応において、センスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第449乃至479番目の配列に基づき化学合成した5´−GCCAGCCTAGAGGTATGGCTGTAACTATCTC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを、また、アンチセンスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第745乃至777番目の配列に基づき化学合成した5´−GGCATGAAATTTTAATAGCTAGTCTTCGTTTTG−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた以外は同様にして当該染色体DNAにおけるさらに別のDNA断片を増幅した。
【0040】
このDNA断片を実施例1−1と同様にプラスミドベクターに挿入して組換えDNAとし、これを大腸菌で複製した後、採取し、分析したところ、本例の組換えDNAは、配列表における配列番号14に示す塩基配列の第21,996乃至27,067番目に相当する塩基配列のDNA断片を含んでいた。
【0041】
<実施例1−7:部分塩基配列の決定>
実施例1−2における第一回目のPCR反応において、センスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第575乃至604番目の配列に基づき化学合成した5´−GTGACATCATATTCTTTCAGAGAAGTGTCC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた以外は同様にしてPCR反応させた。
【0042】
滅菌蒸留水で反応物を100倍希釈した後、その1μlをとり、これをセンスプライマーとして、配列表における配列番号2に示す塩基配列の第624乃至654番目の配列に基づき化学合成した5´−GCAATTTGAATCTTCATCATACGAAGGATAC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた以外は実施例1−2における第二回目のPCR反応と同様にして当該染色体DNAにおけるさらに別のDNA断片を増幅した。
【0043】
このDNA断片を実施例1−1と同様にしてプラスミドベクターに挿入して組換えDNAとし、これを大腸菌で複製した後、採取し、分析したところ、本例の組換えDNAは、配列表における配列番号14に示す塩基配列の第26,914乃至28,994番目に相当する塩基配列のDNA断片を含んでいた。
【0044】
<実施例1−8:全塩基配列の決定>
同じ特許出願人が特開平8−193098号公報に開示したように、当該ポリペプチドをコードすることがすでに判明している配列表における配列番号2に示す塩基配列と、実施例1−1乃至1−7により、この発明で初めて明らかになった部分塩基配列をそれぞれ比較したところ、当該染色体DNAは、ヒトにおいて、配列表における配列番号14に示す塩基配列を含んでなることが判明した。配列番号2に示す塩基配列が僅か471塩基対からなるのに対して、配列番号14に示す塩基配列は28,994塩基対と甚だ大きく、このことは、配列番号14に示す塩基配列が真核細胞に特有のイントロンを含むことを示唆している。
【0045】
そこで、配列表における配列番号14に示す塩基配列において、配列番号2に示す塩基配列の一部、すなわち、エクソンがどの領域に位置しているか、さらには、イントロンに固有の供与部位であるGTと受容部位であるAGがどの領域に位置しているかを調べた。その結果、配列番号14に示す塩基配列は少なくとも5種類のイントロンを含んでなり、個々のイントロンの塩基配列は配列番号14に示す塩基配列の5´末端から3´末端に向かって、配列表における配列番号10、11、12、8、9に示す塩基配列の順序で位置していることが判明した。したがって、それらのイントロンにおける隣接するイントロン間に位置する配列はエクソンということになり、個々のエクソンは配列表における配列番号14に示す塩基配列の5´末端から3´末端に向かって、配列表における配列番号5、6、3、4、7に示す塩基配列の順序で位置していることになる。なお、配列番号7に示す塩基配列は、エクソン以外に、3´末端の非翻訳領域を含んでいる。
【0046】
以上の考察に基づき決定した配列の特徴を、配列表における配列番号14に併記した。なお、同じ特許出願人が特願平8−269105号明細書に開示したように、当該ポリペプチドは、ヒト細胞において、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列に見られるように、N末端にメチオニンではなく、チロシンを有するポリペプチドとして産生される。このことは、当該ポリペプチドをコードするヒトの染色体DNAにおいては、当該ポリペプチドをコードする領域の5´末端側にリーダーペプチド領域が連結していることを示唆している。そこで、配列表における配列番号14に示す塩基配列においては、その第20,469乃至20,471番目のTACの5´末端側に位置するアミノ酸36個をリーダーペプチドとして記載している。
【実施例2】
【0047】
<発現用組換えDNA pBGHuGFの調製>
実施例1−4の方法により得た3ng/50μl DNA断片を0.06ngと実施例1−5の方法により得たDNA断片を0.02ngとり、10×LA PCR反応溶液を5μl、2.5mM dNTP混液を8μlそれぞれ加え、さらに、5単位/μl TAKARA LA Taqポリメラーゼと1.1μg/μl TaqStart Antibodyの1:1の混液を1μl、センスプライマーとして実施例1−4のDNA断片の塩基配列に基づき化学合成した5´−TCCGAAGCTTAAGATGGCTGCTGAACCAGTA−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを10ピコモルと、アンチセンスプライマーとして、実施例1−5のDNA断片の塩基配列に基づき化学合成した5´−GGAAATAATTTTGTTCTCACAGGAGAGAGTTG−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを10ピコモルそれぞれ加え、滅菌蒸留水で全量を50μlとした。混液を94℃で1分間インキュベートした後、先ず、98℃で20秒間、72℃で7分間インキュベートするサイクルを5回繰返し、次に、98℃で20秒間、68℃で7分間インキュベートするサイクルを25回繰返してPCR反応させた。そして、反応物を常法にしたがって制限酵素HindIII及びSphIにより切断し、HindIII切断部位とSphI切断部位を両端に有する約5,900塩基対のDNA断片を得た。
【0048】
別途、実施例1−5の方法により得たDNA断片を0.02ngと実施例1−6の方法により得たDNA断片を0.06ngそれぞれとり、これに実施例1−6のDNA断片の塩基配列に基づき化学合成した5´−ATGTAGCGGCCGCGGCATGAAATTTTAATAGCTAGTC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドをアンチセンスプライマーとして、また、センスプライマーとして、実施例1−5のDNA断片の塩基配列に基づき化学合成した5´−CCTGGAATCAGATTACTTTGGCAAGCTTGAATC−3´で表される塩基配列のオリゴヌクレオチドを用いた以外は上記と同様にPCR反応させた。そして、反応物を常法にしたがって制限酵素NotI及びSphIにより切断し、NotI切断部位とSphI切断部位を両端に有する約5,600塩基対の別のDNA断片を得た。
【0049】
次に、常法にしたがって、サイトメガロウイルスプロモーターを含んでなるインビトロジェン製プラスミドベクターpRc/CMVを制限酵素HindIIIとNotIで切断し、得られた約5,500塩基対のベクター断片に上記で得られた約5,900塩基対のDNA断片と約5,600塩基対のDNA断片をそれぞれ加え、T4 DNAリガーゼを作用させて2種類のDNA断片をプラスミドベクターpRc/CMVに挿入した。得られた組換えDNAを用い、実施例1−1と同様にして大腸菌JM109株を形質転換した後、コロニーハイブリダイゼーション法によりプラスミドベクターpRC/CMVが導入された形質転換体のコロニーを選別した。この組換えDNAは『pBGHuGF』と命名され、この組換えDNAにおいては、図1に示すように、当該ポリペプチドをコードする染色体DNAである配列表における配列番号13に示す塩基配列のDNAが制限酵素HindIIIによる切断部位の下流に連結されていた。
【実施例3】
【0050】
<CHO細胞を宿主とする形質転換体の調製>
常法にしたがって、チャイニーズ・ハムスター卵巣由来のCHO−K1細胞(ATCC CCL61)を10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したHam’s F12培地(pH7.2)に接種し、増殖させた。増殖細胞を採取し、燐酸緩衝食塩水(以下、「PBS」と略記する。)で洗浄した後、細胞密度1×10個/mlになるようにPBSに浮遊させた。
【0051】
次に、実施例2の方法により得た組換えDNA pBGHuGFを10μgとり、上記細胞浮遊液の0.8mlとともにキュベットにとり、10分間氷冷した。キュベットをバイオラッド製エレクトロポレーション装置『ジーンパルサー』に装着し、放電パルスを1回印加した後、ただちにキュベットを取外し、10分間氷冷した。細胞浮遊液をキュベットから取出し、10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したHam’s F12培地(pH7.2)に接種し、5% CO雰囲気下、37℃で3日間培養した後、培養培地にG−418を最終濃度400μg/mlになるように加え、同じ条件でさらに3週間培養した。生成した100個余りのコロニーから48個を選別し、その一部を400μg/ml G−418を含み、10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したHam’s F12培地(pH7.2)を分注しておいた培養プレートに接種し、上記と同様に1週間培養した。その後、培養プレートの各ウェルに5.1mM塩化マグネシウム、0.5%(w/v)デオキシコール酸ナトリウム、1%(w/v)ノニデットP−40、10μg/mlアプロチニン及び0.1%(w/v)SDSをそれぞれ含む10mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.5)を加えて細胞を溶解した。
【0052】
細胞溶解物をそれぞれ50μlとり、グリセロールを1ml加え、37℃で1時間インキュベートした後、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により細胞溶解物中のポリペプチドを分離した。次に、分離したポリペプチドを常法にしたがってニトロセルロース膜に移取り、別途調製した、同じ出願人による特開平8−231598号公報に開示されたハイブリドーマH−1株の培養上清に1時間浸漬した後、0.05%(v/v)ツイーン20を含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で洗浄して過剰のモノクローナル抗体を除去した。そして、ニトロセルロース膜を西洋ワサビ由来のパーオキシダーゼで標識したウサギ由来の抗マウスイムノグロブリン抗体を含むPBSに1時間浸漬した後、0.05%(v/v)ツイーン20を含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で洗浄し、0.005%(v/v)過酸化水素と0.3mg/mlジアミノベンジジンを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)に浸漬して発色させた。その発色状況に基づき、当該ポリペプチドの産生能が高い形質転換体のクローンを選別し、『BGHuGF』と命名した。
【実施例4】
【0053】
<形質転換体によるポリペプチドの製造と理化学的性質>
【0054】
<実施例4−1:形質転換体によるポリペプチドの製造>
実施例3の方法により得られた形質転換体BGHuGFを400μg/ml G−418を含み、10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したHam’s F12培地(pH7.2)に接種し、5% CO雰囲気下、37℃で1週間培養して増殖させた。増殖細胞を採取し、PBSで洗浄した後、マシュー・ジェー・コスラら『プロシーディングス・オブ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシーズ・ユー・エス・エー(Proceedings of The National Academy of The Sciences of The USA)』、第86巻、5,227乃至5,231頁(1989年)に記載された方法に準じて10mM塩化カリウム、0.1mMエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩を含む10倍容の氷冷20mMヘペス緩衝液(pH7.4)で洗浄し、3倍容の新鮮な同一緩衝液中、氷冷下で20分間静置し、−80℃で凍結した後、解凍して細胞を破砕し、破砕物を遠心分離し、上清を採取した。
【0055】
別途、ヒト急性単球性白血病由来のTHP−1細胞(ATCC TIB202)を同様に培養し、破砕し、遠心分離して得られた上清の適量を上記で得られた形質転換体BGHuGFの上清に加え、37℃で3時間インキュベートして反応させた。反応物をあらかじめ10mM燐酸緩衝液(pH6.6)により平衡化しておいたファルマシア製イオン交換クロマトグラフィー用ゲル『DEAE−セファロース』のカラムに負加し、カラムを10mM燐酸緩衝液(pH6.6)で洗浄した後、塩化ナトリウム濃度が0Mから0.5Mまで段階的に上昇する10mM燐酸緩衝液(pH6.6)を通液し、塩化ナトリウム濃度が0.2M付近で溶出した画分を採取した。この画分を10mM燐酸緩衝液(pH6.8)に対して透析した後、あらかじめ10mM燐酸緩衝液(pH6.8)により平衡化しておいたトーソー製イオン交換クロマトグラフィー用ゲル『DEAE 5PW』のカラムに負加し、0Mから0.5Mに直線的に上昇する塩化ナトリウムの濃度勾配下、カラムに10mM燐酸緩衝液(pH6.8)を通液し、塩化ナトリウム濃度が0.2乃至0.3M付近で溶出した画分を採取した。
【0056】
この新たに得られた画分を合一し、PBSに対して透析する一方、同じ特許出願人による特開平8−231598号公報に記載された方法にしたがってモノクローナル抗体を用いるイムノアフィニティークロマトグラフィー用ゲルを調製し、これをプラスチック製円筒管内部にカラム状に充填し、PBSで洗浄した後、上記透析内液をカラムに負加した。カラムに100mMグリシン−塩酸緩衝液(pH2.5)を通液し、得られる溶出画分から免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドを含む画分を採取し、滅菌蒸留水に対して透析し、膜濾過により濃縮した後、凍結乾燥して精製ポリペプチドの固状物を培養物1l当り15mgの収率で得た。
【0057】
<参考例:大腸菌での発現>
同じ特許出願人による特開平8−193098号公報に開示され、宿主としての大腸菌に配列表の配列番号2に示す塩基配列を含むcDNAを導入してなる形質転換体pKHuGFをアンピシリンを50μg/ml含むT−ブロス培地(pH7.2)に接種し、37℃で18時間通気攪拌培養した。遠心分離により培養物から菌体を採取し、139mM塩化ナトリウム/7mM燐酸水素ナトリウム/3mM燐酸水素二ナトリウム混液(pH7.2)に浮遊させ、常法にしたがって超音波を印加して菌体を破砕した。破砕物を遠心分離し、上清を実施例4−1の方法に準じて精製したところ、精製ポリペプチドの固状物が培養物1l当り5mgの収率で得られた。
【0058】
ポリペプチドの収量に着目して本参考例と実施例4−1を比較すると、当該ポリペプチドをコードする染色体DNAを哺乳類由来の宿主細胞に導入してなる形質転換体を用いると、培養物単位量当りのポリペプチド産生が著しく高まることを示している。
【0059】
<実施例4−2:ポリペプチドの理化学的性質>
【0060】
<実施例4−2(a):生理作用>
ヘパリン加注射器により健常者から血液を採取し、血清無含有のRPMI−1640培地(pH7.4)により2倍希釈した。血液をファルマシア製フィコール上に重層し、遠心分離して採取したリンパ球を10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI−1640培地(pH7.4)により洗浄した後、新鮮な同一培地を細胞密度5×10個/mlになるように浮遊させ、96ウェルマイクロプレートに0.15ml/ウェルずつ分注した。
【0061】
別途、実施例4−1の方法により得たポリペプチドを10%(v/v)ウシ胎児血清を補足したRPMI−1640培地(pH7.4)により適宜濃度に希釈して上記マイクロプレートに0.05ml/ウェルずつ分注し、2.5μg/mlコンカナバリンAを含む新鮮な同一培地を0.05ml/ウェル加えた後、5% COインキュベーター中、37℃で24時間培養した。培養後、各ウェルから培養上清を0.1mlずつ採取し、通常の酵素免疫測定法によりIFN−γを測定した。同時に、実施例4−1の方法により得たポリペプチドに代えて参考例の方法により得たポリペプチドを用いる系と、ポリペプチドを省略する系を設け、両系を上記と同様に処置して対照とした。結果を表1に示す。なお、表1中のIFN−γは、米国国立衛生研究所(NIH)から入手したIFN−γ標準品(Gg23−901−530)に基づき国際単位(IU)に換算して表示されている。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の結果は、当該ポリペプチドを作用させると、免疫担当細胞としてのリンパ球がIFN−γを産生したことを示している。
【0064】
さらに注目すべきは、実施例4−1の方法により得たポリペプチドは、参考例の方法により得たポリペプチドと比較して、免疫担当細胞におけるIFN−γの産生が高いことである。このことと、参考例で述べたポリペプチド産生の違いを併せ考えると、同じアミノ酸配列をコードするという観点からみると実質的に同一のDNAと見做し得る場合であっても、そのDNAがcDNAであって、これを宿主微生物に導入してなる形質転換体と、この発明の染色体DNAを哺乳類由来の宿主細胞に導入してなる形質転換体とでは、DNAの発現効率のみならず、宿主内酵素によるDNA発現後の修飾などにより、生理作用の有意に相違するポリペプチドが産生すると推定される。
【0065】
<実施例4−2(b):分子量>
実施例4−1の方法により得たポリペプチドをユー・ケー・レムリが『ネイチャー(Nature)』、第227巻、680乃至685頁(1970年)に報告している方法に準じて、還元剤としての2%(w/v)ジチオトレイトール存在下でSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動したところ、分子量約18,000乃至19,500ダルトンに相当する位置にIFN−γ誘導能ある蛋白質の主バンドが観察された。なお、このときの分子量マーカーは、ウシ血清アルブミン(67,000ダルトン)、オボアルブミン(45,000ダルトン)、カーボニックアンヒドロラーゼ(30,000ダルトン)、大豆トリプシンインヒビター(20,100ダルトン)及びα−ラクトアルブミン(14,000ダルトン)であった。
【0066】
<実施例4−2(c):N末端アミノ酸配列>
パーキン・エルマー製プロテイン・シーケンサー『473A型』を用い、常法にしたがって分析したところ、実施例4−1の方法により得たポリペプチドは、そのN末端に配列表における配列番号15に示すアミノ酸配列を有していた。
【0067】
この結果と、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動において分子量約18,000乃至19,500ダルトンに相当する位置に主たるバンドを示すという知見、さらには、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列から計算される分子量が18,199ダルトンであることを総合的に判断すると、実施例4−1の方法により得たポリペプチドは配列表における配列番号6に示すアミノ酸配列を有すると結論される。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、この発明は、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドをコードする染色体DNAの発見に基づくものである。この発明の染色体DNAは、哺乳類由来の宿主細胞に導入すると、当該ポリペプチドを効率的に発現する。しかも、そのポリペプチドは、cDNAを大腸菌で発現させて得られるポリペプチドと比較して、生理活性が高い特徴がある。したがって、この発明の染色体DNAは、組換えDNA技術により、免疫担当細胞においてIFN−γの産生を誘導するポリペプチドを製造するのに極めて有用である。なお、この発明の染色体DNAは、ウイルス性疾患、細菌感染症、悪性腫瘍及び免疫疾患を始めとする種々の疾患の遺伝子療法にも有用である。
【0069】
この発明は斯くも顕著な効果を奏する発明であり、斯界に貢献すること誠に多大な、意義のある発明であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明の染色体DNAを含む組換えDNAの制限酵素切断部位を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
Hind III 制限酵素Hind IIIの切断部位
HuIGIF この発明による染色体DNA

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表における配列番号13に示す塩基配列を含有する染色体DNAを適宜のベクターに組み込み、それを哺乳類由来の適宜の宿主細胞に導入して得られる形質転換細胞を培養して培養物を得る工程と、当該培養物を破砕して抽出上清液を得る工程と、当該抽出上清液から、配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列を含有し、かつ、免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導するポリペプチドを採取する工程とを含んでなるポリペプチドの製造方法。
【請求項2】
配列表における配列番号13に示す塩基配列を含有する染色体DNAを適宜のベクターに組み込み、それを哺乳類由来の適宜の宿主細胞に導入して得られる形質転換細胞を培養して培養物を得る工程と、当該培養物を破砕して抽出上清液を得る工程と、当該抽出上清液をヒト急性単球性白血病由来の細胞株の抽出上清液に接触させる工程と、得られた混合液から配列表における配列番号1に示すアミノ酸配列を含有し、かつ、免疫担当細胞においてインターフェロン−γの産生を誘導するポリペプチドを採取する工程とを含んでなるポリペプチドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−135606(P2007−135606A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45443(P2007−45443)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【分割の表示】特願平9−187418の分割
【原出願日】平成9年6月27日(1997.6.27)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】