説明

免疫療法剤

本発明は、少なくとも1つの脂肪酸が少なくとも1つの二重結合を有する、1つまたは複数のC11〜C24脂肪酸を有する1,2,3-プロパントリオールのエステルである化合物に関する。化合物は、慢性炎症性障害の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの脂肪酸が少なくとも1つの二重結合を有する、1つまたは複数のC11〜C24脂肪酸を有する1,2,3-プロパントリオールのエステルである化合物を提供する。この化合物を慢性炎症性障害の治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
免疫系は、非常に選択的でかつかなり限定的な様式で攻撃に反応する。Tヘルパーリンパ球は、中心的役割を果たし、かつTヘルパー1(Th1)またはTh2の発達のどちらかを支持することによって、それらは特定のサイトカインの放出によって免疫学的反応全体を調整する。Th1反応が優勢であり、防御を媒介する場合に、ならびにTh2反応が優先的に発達する場合の蠕虫感染時に、この分枝(dichotomy)は、細胞内の細菌またはウイルスへの曝露に続く特定の事象である(Abbas A K et al.、Nature(1996)、387,787-793;Mosmann T R et al.、Imm Rev(1991)123、209-229)。Th1反応は、インターロイキン2(IL-2)およびγインターフェロン(IFN-γ)の生成を伴う。これらのサイトカインは特異的抗体のサブクラスを動かし(drive)、マクロファージの活性化およびCD8細胞毒性Tリンパ球の産生により細胞免疫反応を亢進する。Th2反応は、IL-4、IL-5およびIL-13の増加が特徴である。これらのサイトカインは、IgEレベルの増加を刺激し、好酸球増加症および粘液分泌を誘発し、アレルギー性炎症と関連する。
【0003】
当初、Th1およびTh2の反応が互いに効率的に調節すると考えられた(Mosmann T R et al.、Imm Res(1991)10、183-188)。しかしながら、疫学研究からおよび多数のインビボモデルからの証拠は、Th1およびTh2の細胞の相互拮抗作用に
に疑いを投げかけた(Rook G A et al.、Immunol Today(2000)、21、508-508;Rook et al.、Springer Sem Immunopathol.(2004)25:237-255)。Th1エフェクター細胞は、インビボでTh2媒介アレルギー性反応のスイッチをうまく切るというよりも、さらなる免疫病理に貢献する場合がある(Hansen G et al.、J Clin Invest(1999)、103、175-183)。最近のヒトの臨床試験では、喘息患者へのIL-12の投与は、好酸球の総数の減少により示唆されるようにTh2反応規模を縮小したが、アレルゲンに対する後期喘息反応を減少できなかった(Bryan S A et al.、Lancet(2000)、356、2149-2153)。実験的アレルギー性脳炎(EAE)のようなTh1媒介状態(Lafaille J J et al.、J Exp Med(1997)、186、307-312)および非肥満糖尿病(NOD)マウスの糖尿病(Pakala S V et al.、J Exp Med(1997)、186、299-306)において、混合型Th2反応は、炎症を軽減するというよりも病状を突然引き起こす(Lafaille et al. 1997;Pakala et al.、1997)。さらに、主にTh1から主にTh2への免疫反応の切り換えの結果、同程度に危険な病状であるが、単に異なる疾病を生じる場合がある(Genain C P et al.、Science(1996)、274、2054-2057)。Th1からTh2への部分的切り換えを生じたヒト化抗CD52mAbによるヒトの多発性硬化症の治療試験において、疾患は、実際は明白な改善がなく変化し、かつ自己免疫甲状腺疾患が発生し、改変された疾患に重ね合わされた(Coles A J et al.、Lancet(1999)、354、1691-1695)。
【0004】
これらの矛盾のために、研究は、これらの反応がもはや必要のない状況下で、Th1およびTh2の両反応をうまく調節する役割を担う細胞を同定することに焦点を絞った。多くの候補が樹状細胞の特有なサブセット(Chan, C et al.、Transplant Proc(2004)、36、561S-569S)、制御性マクロファージ(Mochida-Nishimura, K et al.、Cell Immunol(2001)、214、81-88)および制御性Tリンパ球(Treg)のいくつかのサブセット(Read, SおよびPowrie, F、Curr Opin Immunol(2001)、13、644-649)を含むことが示唆された。後者のグループは、特に大変魅力ある。免疫調節のメカニズムは、mRNA発現ならびにインターロイキン10(IL-10)および/またはトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)(Fukaura H et al.、J Clin Invest(1996)、98、70-77;ReadおよびPowrie、2001、Groux et al.、Nature(1997)389:737-742)の生成が特徴である。これらのサイトカインの生成、および特に、CTLA-4のような阻害シグナルの発現に加えて免疫調節の特徴と考えられるIL-10は、Th1およびTh2の細胞増殖を妨げることによって免疫調節を媒介する(ReadおよびPowrie、2001)。その上、それらは共通の抗原、アレルゲンまたは自身に対する不要な免疫反応を制御することによって周辺の寛容性を維持する(Cottrez et al.、J Immunol(2000)、165、4848-4853;ReadおよびPowrie、2001)。
【0005】
アレルギー、腸管・腸疾患およびいくつかの自己免疫異常を含む多数のヒトの疾患の病因は、欠陥のある免疫調節についての直接的な結果である。たとえば、これは、IPEX(immune dysregulation, polyendocrinopathy, enteropathy, X-linked syndrome)としてまたは XLAAD(X-linked autoimmunity-allergic dysregulation syndrome)として公知である男性の珍しいX連鎖遺伝障害、および「スカフィー(Scurfy)」と呼ばれる変異体マウスにおける同等の症候群の研究の結果として明らかとなった。スカフィーマウス(Brunkow, M et al.、Nat Genet(2001)、27、68-73)においておよびIPEX/XLAAD患者において、転写因子Foxp3の変異(Wildin, R S et al.、Nat Genet(2001)、27、18-20)は、Tregの発達を損なう(Fontenot, J D et al.、2003;Hori, S et al.、2003)。時折致命的である病状は、アレルギー、自己免疫および炎症性腸疾患(IBD)の構成部分を有する。これらは、人口のかなりのパーセンテージがかかっている慢性炎症性障害の主な3つのクラスである。
【0006】
ここ数十年間で劇的に増加しているアレルギーは、空気アレルゲン、または皮膚におけるもしくは消化管内のアレルゲンに対する過度の免疫反応の結果である。臨床的アレルギーを引き起こすアレルゲンに対する即時爆発性Th2媒介反応は、元来蠕虫に反応するために進化した。疾患は、好酸球、IgEおよびわずかなアレルゲン濃度に対する粘液分泌の増加が特徴である。これらの不適当な反応を、IL-10分泌性Tregにより制御することができる(Cottrez F et al.、2000)。従って、免疫調節メカニズムが動物におけるおよび人におけるアレルギー反応のスイッチを切るために必要とされるということが現在受け入れられている。何人かの患者において高用量のアレルゲンを用いた免疫療法は、うまく効き、IL-10生成の増加および免疫調節メカニズムの活動の増大を伴う(Francis J N et al.、J Allergy Clin Immunol(2003)、111、1255-1261;Nouri-Aria K T et al.、J Allergy Clin Immunol(2002)、109、S171(abs 105)。
【0007】
自己免疫疾患は、自身の組織を攻撃する宿主免疫系の結果として生じる。それは、胸腺において選択されるT細胞レパートリーの固有の反自己能力の調節の失敗である。最も無力な人の自己免疫疾患のいくつかはTh1媒介性であり、頻度が増加している。例には多発性硬化症および1型糖尿病が含まれる。全身性エリテマトーデスおよび全身性硬化症のような他のものは、大部分がTh2細胞により媒介される。種々様々な器官特異的自己免疫障害を、Treg発現TGF-βおよびIL-10 mRNAにより制御することができる(Seddon BおよびMason D.、Immunol Today(2000)、21、95-99)。それらは、Th1媒介性(Cavani A et al.、J Invest Dermatol(2000)、114、295-302)およびTh2媒介性(Bridoux F et al.、J Exp Med(1997)、185、1769-1775)の自己免疫の両方を阻害することができる。実験条件下で、TGF-βを分泌するように操作されたTregは、Th2およびTh1の媒介性反応の両方を下方制御する(Thorbecke G J et al.、Cytokine Growth Factor Rev(2000)、11、89-96)。
【0008】
最新の証拠より、IBD(クローン病および潰瘍性大腸炎)が食物または微生物のような消化管内容物に対する免疫反応を阻害する免疫調節メカニズムの失敗の結果であると示唆される(Boismenu RおよびChen Y、J Leukoc Biol(2000)、67、267-278)。例えば、IL-10を欠失する(遺伝子ノックアウト)マウスにおいて、および適切なTreg(CD4+CD45RB)なしでエフェクターT細胞(CD4+CD45RB)を受容する重症複合免疫不全(SCID)のマウスにおいてもまたIBDが生じる(Asseman CおよびPowrie F、Gut(1998)、42、157-158)に概説)。TregがIL-10によってIBDにおける炎症過程を止めるというみごとな証拠がある(Singh B et al.、Immunol Rev (2001)、182、190-200)。このサイトカインは、動物モデル(Van Montfrans C et al.、Gastroenterology(2002)、123、1865-1876)および人(Braat H et al.、Expert Opin Biol Ther(2003)、3、725-731)におけるIBD治療として臨床試験にかけられている。サイトカインのIL-10ファミリーのその他のメンバー(IL-19、IL-20、IL-22、IL-24、IL-26、IL-28およびIL-29を含む)もまた含むことができる。
【0009】
本発明者らは、世界の裕福な先進領域において、以下の慢性炎症性障害の同様な3つのグループで大規模でかつ同時に増加していると考えている;1)アレルギー(Bach, J F、N Engl J Med(2002)、347、911-920)、2)炎症性腸疾患(例えばクローン病および潰瘍性大腸炎)(Weinstock J V et al.、Gut(2004)53、7-9)、および3)自己免疫(例えば、1型糖尿病および多発性硬化症)(Bach、2002)。アレルギーと1型糖尿病の増加は、ヨーロッパ内外の両方で正確に相互に関係している(Stene L CおよびNafstad P(2001)、Lancet 357、607)。疾患がTh1細胞(1型糖尿病、多発性硬化症、クローン病(Elliott D E et al.、Faseb J(2000)、14、1848-1855)またはTh2細胞(アレルギー)により媒介されようとされまいと、同時に増加が起こっている。現在、先進国において根本的な問題が免疫調節メカニズムについての役に立たない活性化であるという一般的な一致がある。IL-10生成のようなTreg機能障害に責任がある場合がある。これは、一定の微生物に対する曝露の変化に起因する場合がある(Rook G A et al.、Springer Semin Immunopathol(2004)、25、237-255)。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、脂肪酸ならびに脂肪酸のモノエステル、ジエステル、トリエステルの特定のグループと1,2,3-プロパントリオールとが慢性炎症性障害の治療に有効であることを見出した。
【0011】
本発明は、少なくとも1つの脂肪酸が少なくとも1つの二重結合を有する、1つまたは複数のC11〜C24脂肪酸を有する1,2,3-プロパントリオールのエステルである化合物を提供する。化合物は、以下の一般式を有する。

式中、R1、R2およびR3が、同一でもまたは異なってもよく、かつHまたはC11〜C24脂肪酸の残基のどちらかであり、R1、R2およびR3の少なくとも1つがH以外であり、かつ脂肪酸の少なくとも1つが少なくとも1つの二重結合を有する。
【0012】
脂肪酸は、適切にはC11〜C24脂肪酸、例えばC11、C12、C14、C16、C18、C20、C22またはC24、好ましくはC11〜C20脂肪酸、より好ましくはC11〜C16脂肪酸、特にはC11またはC12脂肪酸である。脂肪酸は、好ましくは分子中に1つの二重結合を有する。脂肪酸の二重結合は、適切にはC10〜C11位に存在する。二重結合はシスまたはトランスであってもよく、好ましくはシスである。
【0013】
化合物は、モノエステル、ジエステルまたはトリエステルのいずれかであり、好ましくはトリエステルである。化合物がモノエステルである場合、エステル化は、1位および2位に、好ましくは1位に存在することができる。エステルがジエステルである場合、エステル化は1位および2位に、または1位および3位に、好ましくは1位および3位に生じることができる。
【0014】
本発明の化合物は、好ましくは1,2,3-プロパントリオールとヘキサデセン酸(10Z)のトリエステルである。
【0015】
本発明はまた、慢性炎症性障害の治療用薬剤の調製において、上記で定義された化合物の使用も提供する。本発明は、遊離脂肪酸単独でもまた有効であることを見出し、本発明はさらに、慢性炎症性障害の治療用薬剤の調製において少なくとも1つのC10〜11二重結合を有するC1124脂肪酸の使用を提供する。脂肪酸は、好ましくはC1116、より好ましくはヘキサデセン酸(10Z)である。
【0016】
慢性炎症性障害は、アレルギー障害、自己免疫疾患および炎症性腸疾患を含むことができる。
【0017】
アレルギー障害の例は、喘息、湿疹、枯草熱、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーを含む。自己免疫疾患の例は、多発性硬化症、I型糖尿病、乾癬、リウマチ様関節炎、全身性硬化症および全身性エリテマトーデスを含むことができる。炎症性腸疾患(IBD)の例は、クローン病および潰瘍性大腸炎を含むことができる。
【0018】
本発明の化合物は、図表により実施例1に定義されている過程によって作製することができる。
【0019】
本明細書および添付の特許請求の範囲の全体を通して、「含む(comprise)」および「含む(include)」という語、ならびに「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」および「含む(including)」のような語尾変化の語は、包括して解釈されるべきである。すなわち、これらの語は、文脈が許す場合、具体的に説明されていないその他の要素または整数についての可能な包含を示唆すると意図されている。
【0020】
上記に定義される本発明の化合物または遊離脂肪酸は、薬剤の調製に使用されることができる。薬剤は、薬学分野においてありきたりであるような、標準的な薬学的に許容される担体および/または賦形剤をさらに含むことができる。例えば、本発明の化合物または定義された遊離脂肪酸は、超音波のような物理的破砕によって、例えば生理緩衝液、等張の食塩水または水中で懸濁状態にすることができる。または、それを、脂質および/または糖脂質が結合する、安定な担体タンパク質、例えば脂質不含有ヒト血清アルブミン存在下で超音波により懸濁状態にし、安定な溶液を提供することができる。
【0021】
または、本発明の化合物または上記で定義された遊離脂肪酸は、適切な担体分子、例えばコレステロールと組合せた後で遅延放出ペレットとして製剤化されることができる。脂質または糖脂質に連結される適切な糖は、脂質および/または糖脂質として同様に製剤化されることができる。脂質または糖脂質に連結されていない適切な糖は、例えば、注射のための生理的な食塩水または水に溶解することができる。製剤のまさにその性質は、投与される予定の特定の物質および所望の投与経路を含むいくつかの因子に依存すると考えられる。製剤の適切な型は、開示の全体が参照により本明細書に含まれる、Remington's Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Company、Eastern Pennsylvania、第17編 1985で十分に説明される。
【0022】
上記に定義される本発明の化合物または遊離脂肪酸を含む薬学的組成物はまた、アジュバント、保存剤、安定剤などのような成分もさらに含む。それは、その他の治療剤をさらに含むことができる。無菌および発熱物質なしの形態で、例えば、注射可能液として;使用前に水を加えてもとに戻される無菌の凍結乾燥された形態で;または無菌の遅延放出ペレットとして提供されることができる。薬学的組成物は、等張液として提供されてもよい。それは単位剤形で提供されることができる。
【0023】
上記で定義される本発明の化合物または遊離脂肪酸を含む薬剤は、経口、口内、肛門もしくは局部経路による腸内またはなどの非経口の経路によって、皮下、皮内、静脈内、筋肉内もしくは皮下注射によって、気道への噴霧剤によって、またはその他の適当な投与経路によって投与されてもよい。特に好ましい投与経路は、経口経路または皮下もしくは筋肉内注射、皮内および局部によるものである。医師は、任意の特定の患者に対して必要とされる投与経路を決定することができると考えられる。
【0024】
本発明の化合物または上記に定義される遊離脂肪酸の治療的有効量が患者に投与される。様々なパラメータによって、特に使用される物質;年齢、治療される患者の体重および健康状態;投与経路:および必要な処方計画に応じて、投与量を決定することができる。医師は、任意の特定の患者に対しての必要とされる投与経路および投与量を決定することができると考えられる。複数回用量が与えられてもよい。典型的な単一の用量は、特定の脂質、糖脂質および/または糖調製品の活性、治療される対象の年齢、体重および健康状態、アレルギーの種類および重篤度ならびに投与の頻度および経路に応じて、約0.005〜1.0mg/kgであり、好ましくは約0.01〜0.5mg/kg、より好ましくは約0.03〜0.3mg/kgである。
【0025】
本発明は添付の図面によって説明される。
【0026】
本発明は、以下の実施例と関連して説明され、これは例示するだけのものであり、限定するものではないと意図されている。
【0027】
実施例
以下のモデルは、試験に用いられた。
【0028】
アレルギー性肺炎症モデル
本発明の化合物を評価するために、本発明者らは、アレルギー性肺炎症の実験モデルを開発した。このモデルは、以下で用いられ、本発明の化合物の効果を評価し、かつ比較試験を行う。
【0029】
使用のプロトコール
治療有効性を試験するための2つのプロトコールは本発明者らによって最適化された。予防プロトコールは、後で感作したマウスにおけるアレルギー性肺炎症の症状の現れを予防するための治療能を測定するために設計されている。治療プロトコールは、感作したマウスにおいてアレルギー性肺炎症の症状を治療するための治療能を測定するために設計されている。
【0030】
予防プロトコールでは、Balb/c雌マウス(7〜8週齢、体重17〜20g)は、食塩水または緩衝液、つまり食塩水中0.001% FFAアルブミン(陽性対照として)またはマイコバクテリアの脂質画分(寄託番号NCTC 11659の下でNational Collection of Type Culturesにおいて寄託された試料より採取される)で処置される。処置の3週間後にすべてのマウスは10μgオボアルブミン(OVA)およびAlum(Servaにより提供されるAlumの100μl調製品、Alu-Gel-S懸濁液)により腹腔内に感作される。感作を12日後に繰り返す。19日目にマウスをOVA(50μl食塩水中0.5μg)を用いて気管内に投与する。気管内抗原投与を2日後に繰り返す。最後の投与の24時間後または48時間後に、実験を終了する。
【0031】
治療プロトコールではマウスを0日目と12日目にOVAおよびAlumで感作する。21日目にマウスを適宜処置する。マウスを42日目と54日目に再感作する。61日目と63日目にマウスをOVAを用いて気管内に投与し、24時間後または48時間後に実験を終了する。この治療プロトコールは、ヒト患者における状態とより密接に模倣しており、処置前のアレルギー状態を確立している。
【0032】
いくつかの実験において、陽性対照群の少数のマウスを食塩水のみを用いて気管内に投与し、アレルギー症状の発現のない感作したマウス(陰性対照)の肺を浸潤している細胞のバックグランドレベルを測定する。
【0033】
試料採取
多数の終了点を日常的に査定する。マウスを血清分析のために心臓穿刺により出血させ、血液を採取する。肺は0.3mlのペニシリン/ストレプトマイシン含有無菌RPMIで3回洗浄する。洗浄液を採取し、回収した細胞を計測する。洗浄液 50μlまたは100μlをサイトスピンに使用し、染色し(ライト・ギムザ染色)、メタノールで固定し、対象となる特定の細胞集団(好酸球、好中球および単球/マクロファージ)の形態学同定に使用する。残りの液は回転で下に落とし(spin down)、ELISAによるサイトカイン測定用に上清を保存する。脾臓を処置群ごとにプールし、脾細胞の単一細胞懸濁液を得て、特異的抗原性の刺激用にOVAおよびポリクローナルT細胞刺激用に抗CD-3とともに培養物中に置く。上清を採取し、ELISAによるサイトカイン測定用に保存する。
【0034】
実施例1
脂質単離
液体中に保存したマイコバクテリア(NCTC11659)細胞(200gのペースト)を石油エーテル440mL、メタノール400mL、0.3%塩化ナトリウム水溶液40mLを用いて穏やかに撹拌して一晩抽出した。次に、混合物をそのままにしておき、上部の有機石油エーテル上清を注意深く吸引することによって分離した。下部の水相を上記のように石油エーテル(400mL)を用いて再び抽出した。石油エーテル抽出物を混ぜ合わせ、乾燥させ極性脂質を得た。次に、下部の水相を穏やかに撹拌してクロロホルム/メタノール/水(90:100:30;520mL)を用いて一晩抽出した。得られた脂質抽出物を減圧濾過により分離し、残りのバイオマスを2回穏やかに撹拌してクロロホルム/メタノール/水(50:100:40;170mL)を用いて一晩抽出した。3つの極性脂質抽出物を混ぜ合わせ、クロロホルム(290mL)および0.3%塩化ナトリウム水溶液(290mL)を添加した。
【0035】
混合物全部を簡単に振盪し、液を澄ませておき、上部の相を注意深く取り除き捨てた。下部の有機相を乾燥し極性脂質を得た。極性脂質を最小量のクロロホルム(20mL)に再懸濁し、冷アセトン(1.5L)に添加し、一晩4℃に置いた。得られた沈殿物を遠心分離によりアセトン可溶脂質(220mg)から分離し、1.4.8と名付け、さらにクロロホルム中のメタノール量を増加させることを用いてカラムクロマトグラフィーを使用して分画して7つの脂質画分を産生した。これらは以下に記載のようにそれらの免疫学的可能性についてスクリーニングした。多数の画分は興味深いと考えられたが、画分、1.4.8.2(82mg)をさらに分析した。得られた画分は、5%エタノール性モリブドリン酸で噴霧後、熱線銃で軽く焦がした後に、溶出剤としてクロロホルムを用いた薄層クロマトグラフィー(TLC)により純粋であると考えられた。NMR実験、1H、13C、2D COSYおよび1H/13C HMBC NMRおよびGC-MSの分析の組合せにより、この脂質の構造は完全に決定された。
【0036】
TAGの合成
TAGへの合成経路は、Besra et al.、Chem. Phys. Lipids(1993)、66、23-34の方法に基づいており、以下の概略図において説明する。アセチレン型カルボン酸および無水メタノール中のトリメチルシリルクロリド(0.1当量)を室温で12時間混合した。反応は、蒸発乾固し、TLCおよび1H/13C-NMR分析により確認された純粋なカルボン酸メチルエステル生成物を得て(スキーム1、段階1)、さらに精製することなく次の段階に直接用いた。
【0037】
カルボン酸メチルエステルをジエチルエーテルに溶解し、2当量の水素化アルミニウムリチウムを添加し、反応物を4時間室温で撹拌した。反応を氷酢酸で停止し、アセチレン型アルコール生成物(段階2)をジエチルエーテルおよび水で抽出した。エーテル層を回収し、水で洗浄し、次に鹹水で洗浄し、その後乾燥濃縮した。段階2からの生成物をフラッシュクロマトグラフィーにより精製し、1H/13C-NMRにより特徴づけた。
【0038】
HMPA中のアセチレン型アルコール(段階2からの生成物)(1当量)の水溶液に、n-ブチルリチウム(2当量)を30分間にわたって窒素下0℃で添加した。反応物を0℃で20分間撹拌した。1-ヨードペンタン(1.4当量)を添加し、反応混合物を周囲温度まで暖めた状態のまま、20時間撹拌した。反応を飽和塩化アンモニウム水溶液の添加によって停止させ、段階3からの生成物をジエチルエーテルで抽出した。
【0039】
生成物を濃縮し、フラッシュカラムクロマトグラフィーにより精製し、TLCによりモニターし、1H/13C-NMRにより特徴づけた。固体ベンゼン中のLindlar触媒懸濁液を水素ガスで飽和し、10℃まで冷却した。次にベンゼン中の段階3からの生成物とキノリンの水溶液を窒素流下で添加した。反応混合物を1時間10℃で撹拌した。反応混合物を濾過、濃縮し、オレフィン生成物(段階4)を石油エーテル-酢酸エチル勾配を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製し、TLCによりモニターし、1H/13C-NMRにより特徴付けた。
【0040】
ジクロロメタン(1容量)中のオレフィン生成物の水溶液をジメチルホルムアミド(DMF、10容量)中重クロム酸ピリジニウム(4当量)撹拌溶液に添加した。反応混合物を2日間室温で撹拌した。水を添加し、得られた酸(段階5)をジクロロメタンへ抽出し、鹹水で洗浄し、濃縮した。生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製し、MSおよび1H/13C-NMRにより特徴付けた。
【0041】
酸をジクロロメタン/DMFに溶解し、塩化オキサリルを添加し、反応混合物を室温で1時間撹拌した。反応混合物を蒸発させ、粗酸塩化物(段階6)を次の段階において用いた。
【0042】
ピリジン中グリセロール(1当量)を酸塩化物(3.3.当量)に添加し、反応混合物を一晩撹拌した状態にしておいた。ジクロロメタンおよび水を反応混合物に添加し、有機相中の生成物を回収し、濃縮した。クロロホルム中メタノールを増加させることを用いて、合成TAGをカラムクロマトグラフィーにより精製し、TLCによりモニターし、MS、および1H/13C-NMR分析により特徴付けた。
【0043】
特有の1H/13C NMRシグナルには、

が含まれた。
【0044】
合成トリアシルグリセロールのエレクトロスプレー質量分析により823においてナトリウム(sodiated)分子イオンを得た。
【0045】
スキーム1
TAG(段階1〜7)の合成の概略図


【0046】
実施例2
C16シス11,12-TAGは、実施例1において説明されるスキーム1に従って調製された。反応を以下のように説明することができる。

【0047】
実施例3
その他のTAGは、実施例1において説明されるスキーム1を用いて以下のように調製される。

【0048】
実施例4
混成のC16およびC18の脂質鎖を含むFFAならびにTAGの調製品による処置の比較
オボアルブミンおよびalumによる感作後、オボアルブミンを用いるアレルギーマウスの気管内投与は、気管支肺胞洗浄(BAL)液中の回収された細胞の数によって測定された肺における相当な細胞流入を誘導する。食塩水を用いて投与されたアレルギーマウスは肺炎症の症状を示さないため、この細胞浸潤物は、アレルゲン投与に起因する。本発明者らは、特定の脂質調製品を用いた処置がアレルゲン投与されたアレルギーマウスの肺において炎症性浸潤物を減少できるかどうか調べた。本発明者らは、混成のC16およびC18の脂質鎖を含むFFAまたはTAGの調製品のどちらかによる処置が緩衝液で処置したマウスと比較して全細胞浸潤物の有意な縮小を誘導することを見出した(図1)。FFAとTAGの両調製品が活性を有することは図1の結果から明らかである。
【0049】
実施例5
合成化合物であるSRP312fおよびSRP312tによる処置の比較
以前に調べられたFFAおよびTAGの調製品(実施例4参照のこと)は、C16鎖および10〜11位において珍しい二重結合が特徴である特有の脂質を含む。次に、天然に存在する相対物と同様のこの特徴を有する合成により生成されたC16は、マウスモデルにおける肺のアレルギー性炎症の症状を改善するかどうか決定するために試験した。本発明者らは、C16:1 10-11 FFA(SRP312f)およびC16:1 10-11 TAG(SRP312t)を比較した。マウスをalum中のオボアルブミンで感作し、SRP312fおよびSRP312tで処置した。アレルギーマウスを次にオボアルブミンを用いて気管内投与し、続いて起こる肺炎症を量化した。本発明者らは、SRP312tおよびより少ない程度にSRP312fの両方がアレルゲン投与されたアレルギーマウスにおける全細胞浸潤物を縮小することを見出した(図2A参照のこと)。
【0050】
アレルギー性肺炎症は、好酸球、好中球、リンパ球および単球/マクロファージの多量流入に関連する。本発明者らは、SRP312fおよびSRP312tで処置したマウスが、BAL液中の回収された好酸球数の有意な低下を示すことを見出した。好酸球増加症の減少は、炎症部位における好中球増加または単球もしくはマクロファージの増加という結果にはならなかった(図2B参照のこと)。これらの結果から、SRP312fおよびSRP312tによるアレルギーマウスの処置がアレルゲン投与後の細胞の炎症の重篤度を有意に低下させることが示唆された。
【0051】
本発明者らは、BAL液中のIL-5およびIL-10のレベルを測定し、炎症部位におけるサイトカイン環境を決定した。本発明者らは、IL-5レベルがSRP312fおよびSRP312tによる処置後に低下するが、IL-10が増加することを見出した(図2C参照のこと)。これにより、サイトカイン環境が免疫調節に偏らせることが示唆される。
【0052】
実施例6
合成化合物SRP312tの様々な用量による処置の比較
本発明者らは、SRP312tの様々な処置用量の治療効果を比較した。マウスをalum中のオボアルブミンで感作し、5μg、1μgまたは0.1μgのSRP312tにより処置した。次にアレルギーマウスを気管内にオボアルブミンを用いて投与し、続いて起こる肺炎症を量化した。本発明者らは、1μgという低い単回用量がアレルゲン投与されたアレルギーマウスの肺における全細胞浸潤物を有意に縮小できることを見出した(図3)。
【0053】
実施例7
化合物SRP312tの様々な合成変種による処置の比較
鎖の長さ
SRP312tは、10〜11位における珍しい二重結合が特徴となるC16:1である。多数の合成変種は、10〜11位に二重結合を保ちながら鎖の長さの重要性を決定するために生成された。本発明者らは、2つの合成変種C11:1 10-11およびC18:1 10-11がSRP312tの治療性質を維持するかどうか比較した。マウスをalum中のオボアルブミンで感作し、これらの合成変種で処置した。次にアレルギーマウスにオボアルブミンを用いて投与し、続いて起こる肺炎症を量化した。本発明者らは、C11:1 10-11およびより少ない程度にC18:1 10-11がアレルゲン投与されたアレルギーマウスにおける全細胞浸潤物を縮小することを見出した(図4A)。
【0054】
結合位置
SRP312tは、10〜11位において珍しい二重結合が特徴となるC16:1である。多数の変種は、合成により生成され、または商業的に得て、二重結合の位置の重要性を決定した。本発明者らは、市販されている脂質(C18:1 9-10)が、 SRP312tの治療性質を維持するかどうか比較した。マウスをalum中のオボアルブミンで感作し、この化合物で処置した。次にアレルギーマウスにオボアルブミンを用いて投与し、続いて起こる肺炎症を量化した。本発明者らは、C18:1 9-10による処置をアレルゲン投与されたアレルギーマウスにおける全細胞浸潤物を縮小できないことを見出した(図4B)。
【0055】
本発明の化合物における結合の重要性を評価するために、上記のように合成化合物(C16:1 11-12)を調製した。この化合物の活性を、SRP 312t(C16:1 10-11)と比較した。マウスをalum中のオボアルブミンで感作し、SRP 312tおよびC16:1 11-12で処置した。次にアレルギーマウスにオボアルブミンを用いて投与し、続いて起こる肺炎症を量化した。C16:1 11-12による処置は、アレルゲン投与されたアレルギーマウスにおける全細胞浸潤物を縮小できなかった(図4C)。
【0056】
シス対トランス
シスからトランスへの分子形態の変化がSRP312tの活性に影響を及ぼすか決定するために、本発明者らは、SRP312t(シス)と合成変種C16:1 10-11 トランス を比較した。マウスをalum中のオボアルブミンで感作し、2つの化合物で処置した。次にアレルギーマウスにオボアルブミンを用いて投与し、続いて起こる肺炎症を量化した。SRP312tを受けたものは大幅な縮小を示したが、どちらの群も全細胞浸潤物の縮小を示した(図4D)。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】対照、混成のC16およびC18の脂肪鎖を含む遊離脂肪酸(FFA)およびトリアシルグリセリド(TAG)を用いた投与後の全細胞浸潤物についての結果を示す。
【図2A】対照、C16:1 10-11 FFA(SRP312f)およびC16:1 10-11 TAG(SRP312t)を用いた投与後の全細胞浸潤物についての結果を示す。
【図2B】対照、SRP312fおよびSRP312tを用いた投与後の好酸球、好中球および単球細胞/マクロファージのレベルを示す。
【図2C】対照、SRP312fおよびSRP312tを用いた投与後のBAL液中のIL-5およびIL-10のレベルを示す。
【図3】様々な用量のSRP312t投与時の全細胞浸潤物についての結果を比較する。
【図4A】対照、SRP312t、C11:1 10-11およびC18:1 10-11の投与時の全細胞浸潤物についての結果を示す。
【図4B】対照およびC18:1 9-10 TAGの投与時の全細胞浸潤物についての結果を比較する。
【図4C】SRP312tおよびC16:1 11-12の投与時の全細胞浸潤物についての結果を比較する。
【図4D】SRP312tおよびC16:1 10-11の投与時の全細胞浸潤物についての結果を比較する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの脂肪酸が少なくとも1つの二重結合を持つ、1つまたは複数のC11〜C24脂肪酸を有する1,2,3-プロパントリオールのエステルである化合物。
【請求項2】
エステルがモノエステル、ジエステル、またはトリエステルである、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
ジエステルまたはトリエステルであり、かつ脂肪酸が同一である、請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
二重結合がシスである、前記請求項のいずれか一項記載の化合物。
【請求項5】
脂肪酸の少なくとも1つにおける二重結合が脂肪酸におけるC10〜C11位にある、前記請求項のいずれか一項記載の化合物。
【請求項6】
ヘキサデセン酸(10Z)を有する1,2,3-プロパントリオールのトリエステルである、前記請求項のいずれか一項記載の化合物。
【請求項7】
治療における使用のための請求項1〜6のいずれか一項記載の化合物。
【請求項8】
慢性炎症性障害の治療用薬剤の調製における請求項1〜6のいずれか一項記載の化合物。
【請求項9】
慢性炎症性障害の治療用薬剤の調製における少なくとも1つのC10〜C11二重結合を有するC11〜24脂肪酸の使用。
【請求項10】
脂肪酸がC11〜16である、請求項9記載の使用。
【請求項11】
脂肪酸がヘキサデセン酸(10Z)である、請求項9または10記載の使用。
【請求項12】
慢性炎症性障害がアレルギー疾患、自己免疫疾患または炎症性腸疾患から選択される、請求項8〜11のいずれか一項記載の使用。
【請求項13】
アレルギー疾患が喘息、湿疹、枯草熱およびいくつかの食物不耐症である、請求項12記載の使用。
【請求項14】
自己免疫疾患が多発性硬化症、I型糖尿病、乾癬、リューマチ性関節炎、全身性硬化症および全身性エリテマトーデスから選択される、請求項12記載の使用。
【請求項15】
炎症性腸疾患がクローン病または潰瘍性大腸炎である、請求項12記載の使用。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【公表番号】特表2008−520638(P2008−520638A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542106(P2007−542106)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004478
【国際公開番号】WO2006/054110
【国際公開日】平成18年5月26日(2006.5.26)
【出願人】(507166128)スタンフォード ルック リミテッド (1)
【Fターム(参考)】