説明

免疫調節のためのILT6の使用

本発明は、ヒトにおける免疫応答の調節に関する。より詳細には、本発明は、免疫応答を調節するためのILT6の医学的使用、および、ILT6を含む医薬組成物に関する。
更なる態様においては、本発明は、ILT6を使用した、例えば異種および/または自己抗原に対するヒトの免疫応答を調節するためのヒトの医学的処理に関する。更にその上、本発明は、診断目的のためのILT6の分析、および、その分析のために使用することができる診断用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトにおける免疫応答の調節に関する。より詳細には、本発明は、免疫応答を調節するための化合物の医学的使用、および、前記化合物を含む医薬組成物に関する。
【0002】
更なる態様においては、本発明は、前記化合物を使用した、例えば異種および/または自己抗原に対するヒトの免疫応答を調節するためのヒトの医学的処理に関する。更にその上、本発明は、診断目的のための前記化合物の分析、および、その分析のために、または、前記化合物と交差反応する抗体の分析のために使用することができる診断用組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
免疫系の活性を一般的に抑制することによって、免疫系の望ましくない活性を調節することが知られている。例として、化学療法またはコルチゾンのようなホルモンの医学的投与が用いられている。
【0004】
また、Ig様転写産物(ILT)をコードする少なくとも19の遺伝子を含む、白血球Ig様受容体クラスター(LILR)によってコードされる遺伝子が知られている(Trowsdale et al., Immunol. Rev. 181, 20-38 (2001))。
【0005】
ILTは、様々な免疫細胞によって発現しており、ILT2およびILT4はHLA I分子に結合することが知られている。Chang et al., Nat. Immunol., 3: 237-243(2002)に、ILT3およびILT4の発現が、T細胞における寛容の産生に役割を果たしうることが開示されている。抗原に対する免疫応答の調節は、ILTにより、細胞溶解活性を阻害または活性化することによって、行われる(Dietrich et al., J. Immunol., 166: 2514-2521(2001))。
【0006】
LILRA3またはCD85eとも呼ばれるILT6については、可溶性タンパク質であり、すなわち、膜結合ではないことが見出されている。更にその上、Torkar et al., Eur. J. Immunol., 30: 3655-3662(2000)には、ILT6をコードする遺伝子の7つの5'エキソンが欠如した(6.7kbpセグメントの欠失)個体が、ILT6について存在/不存在の多様性を示すことが開示されている。
【0007】
DNA配列については、ILT6は、ILT2遺伝子とある程度の相同性を有する。ILT6の遺伝子は、19q13に位置し、これは、中枢神経系に影響を及ぼす一般的な脱髄疾患である多発性硬化症(MS)についてのリスク遺伝子を保有することが示されている染色体領域である。MSは、個体の免疫系による中枢神経系の進行性の破壊によって特徴付けられ、この疾患においては、細胞性免疫応答が、非常に重要な役割を果たしている。
【0008】
ILT2は、プロフェッショナルな抗原提示細胞(APC)だけでなく、T細胞およびナチュラルキラー細胞上にも発現している。ILT2は、HLA Iに結合し、受容体として作用する。ILT2は、T細胞の活性を調節し、制御性T細胞と相互作用することによって、免疫寛容の誘導に関与している。例えば、ILT2は、粘膜抗原に対する免疫系の寛容を調節するのに関与している。更にその上、ILT2は、妊娠期間中の母親/胎児の免疫寛容に関与していると推測されている。
【非特許文献1】Trowsdale et al., Immunol. Rev. 181, 20-38 (2001)
【非特許文献2】Chang et al., Nat. Immunol., 3: 237-243(2002)
【非特許文献3】Dietrich et al., J. Immunol., 166: 2514-2521(2001)
【非特許文献4】Torkar et al., Eur. J. Immunol., 30: 3655-3662(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第一の目的は、医学的目的で、例えば医薬組成物において、ヒトの免疫系の活性を調節するのに使用することができる化合物を提供することである。特に、細胞性免疫応答に主に影響を及ぼす化合物を提供することが望ましい。更にその上、免疫系の活性を活性化または抑制するのに使用することができる化合物を提供することが望ましい。この点において、特に、急性免疫応答の一部を形成するT細胞、好ましくは活性化されたT細胞の活性に対して作用する化合物を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ILT6をコードするヒト遺伝子に由来する翻訳産物として得ることができる、ILT6を提供することによって前記の目的を達成する。代替的に、例えば、変異、誘導体化、欠失、および/または、それ自身もしくは他のペプチドとの融合によって得ることができる、ヒトILT6遺伝子産物の機能的誘導体が提供される。
【0011】
本発明者により、可溶性ILTであるILT6が、容量依存的に、細胞性免疫応答を調節することが見出された。詳細には、低濃度の、例えば0.01μg/ml未満のILT6が、in vitroフォーマットで、リンパ球の増殖を活性化するのに対して、0.01μg/mlより高い濃度のILT6は、in vitroで、リンパ球の増殖を阻害することを見出した。
【0012】
ILT6は、ヒトILT6遺伝子に由来するDNA配列から、異種タンパク質発現のための既知の原核および真核発現システムによって産生することができる。哺乳類細胞内でILT6を発現させる場合は、イントロン配列を含むILT6遺伝子の自然的組織化を使用することができるのに対して、原核発現システムまたは酵母もしくは菌類を使用した発現システムについては、イントロン配列を含まないDNA配列、例えば、ILT6遺伝子に由来するプロセッシングを受けた転写産物のcDNAに由来するDNA配列を使用することが好ましい。
【0013】
本発明の前記目的にしたがって、ヒトILT6遺伝子産物だけでなく、自己免疫疾患(例えばMSまたはシューグレン症候群)のような望まない免疫応答の指標に適した、医薬的適用のためのその使用、または、医薬組成物における活性成分としての使用を提供する。更にその上、ヒトにおける、好ましくは、自己免疫疾患(例えばシューグレン症候群)に罹患した患者における、機能的に活性なILT6の濃度の診断的なアッセイ試験を提供する。本発明の更なる実施態様においては、患者に、好ましくは、自己免疫疾患(例えばシューグレン症候群)に罹患した患者に存在する、ILT6と交差反応する抗体の濃度の診断的なアッセイ試験を提供する。
【0014】
本発明者は、ホモ接合ILT6欠損が、MSに罹患した751人の患者においては、7.3%に検出されたが、コントロール群では3.8%のみであることを見出し、多発性硬化症(特に再発寛容型MS)との統計的に顕著な関連性を示したが、一次性進行型MSまたは二次性進行型MSとは関連性を示さなかった。コントロールにおいては、ホモ接合およびヘテロ接合ILT6欠損の分布は、ハーディー‐ワインベルグ平衡と異なることはなかった。
【0015】
多くの自己免疫疾患が多遺伝子性であるので、MS患者におけるILT6の欠損は、いくつかの寄与因子の一つであろう。本発明者は、再発寛容型MSのみとの関連性から判断して、ILT6の欠損のみが、MSの発症の必須条件ではないと推測する。しかしながら、RRMSとILT6欠損の関連性(8.0%)の、PPMSとILT6欠損の関連性(7.0%)およびSPMSとILT6欠損の関連性(5.8%)との差異は、統計学的に顕著ではなく、少数のサンプル数が原因であろう(RRMS、n=451;PPMS、n=129;SPMS、n=154)。従って、現時点では、ILT6欠損が、MSの特定のサブグループについて特徴的であると結論付けることはできない。
【0016】
ILT6の作用についての機構は知られていないにもかかわらず、ILT6は、小さなリガンドに、特にMHC Iに結合する関連ILTのアゴニストとして作用していると推測される。代替的に、ILT6は、抗原と免疫系の細胞との間の可溶性メディエーターとして作用することができるであろう。
【0017】
ILT6は、主に、活性化されたT細胞に対して免疫調節作用を行っていることを示すことができた。たとえば、インターフェロンγによって活性化された単球およびマクロファージは、ILT6の存在によって免疫調節されるが、休止した免疫細胞、例えば休止した単球、B細胞、T細胞またはPBL(peripherial blood lymphocyte:末梢血リンパ球)には顕著な影響を及ぼさない。活性化した免疫細胞の活性を免疫調節する目的のために、ヒトILT6遺伝子配列の翻訳産物を使用することができ、例えば、ヒトILT6についての構造遺伝子から、動物細胞に発現させることができる。代替的に、同一の翻訳産物を、微生物内で、ヒトILT6遺伝子配列に由来する、断続的に続くイントロン配列が欠損した、場合によっては、ILT6タンパク質の産生に使用される微生物において活性であるシグナル配列を加えた、遺伝子配列の翻訳により得ることができる。
【0018】
さらにその上、ILT6の機能的誘導体を、本発明の目的のために使用する。このような機能的誘導体には、例えば、天然のILT6タンパク質の1つまたは複数の領域と、異なるタンパク質またはILT6それ自身との融合タンパク質、および、ILT6タンパク質内の1つのアミノ酸またはアミノ酸領域の変換、欠失または置換が含まれる。他のペプチドとの融合についての例としては、ポリ-ヒスチジンタグのような精製のために有用なタグ、および既知の抗体によって検出されることができる抗原が挙げられる。ヒトILT6タンパク質の機能的誘導体のクローニングおよび発現は、過度の実験を行うことなく、標準的な方法に従って、当業者によって実施することができる。ILT6およびその誘導体の機能的活性は、このタンパク質の免疫調節特性を試験することにより(例えばリンパ球混合アッセイにより)、当業者によって求めることができる。このような機能的試験の例を、実施例3に示す。
【0019】
ILT6が、活性な免疫応答を、すなわち活性化された免疫細胞による急性免疫応答を免疫調節することは、ILT6の特別な利点である。それ故、ILT6は、医学的用途で、例えば、活性な免疫応答を調節するための医薬調製物における活性成分として、例えば、免疫応答の急性期または持続的免疫応答の経過に影響を与えるのに、使用することができる。好ましい実施態様においては、本発明は、必ずしも休止免疫細胞に影響を与えることなく、医学的用途でILT6を使用する。例として、例えば移植患者における移植片対宿主病または宿主対移植片病、または自己免疫疾患を原因とする免疫応答を治療するために、ILT6を使用することができる。自己免疫疾患の例としては、多発性硬化症およびシューグレン症候群を挙げることができ、これらの病気においては、好ましくは病気の急性期に、ILT6を使用して免疫応答を抑制することができる。
【0020】
医学的目的のためのILT6の投与は、適した調合物を使用して、i.m.、s.c.もしくはi.v.または経口的のいずれかで、注入によって実施することができる。
【0021】
体液、例えばヒトから得られた血液サンプルにおけるILT6の存在および濃度は、ヒトの免疫系の状態、例えば急性免疫応答の存在に関連することが見出された。
【0022】
従って、本発明は、更なる態様においては、体液のサンプルにおけるILT6の濃度および/または活性を測定するための診断的アッセイを提供する。ILT6の濃度および/または活性の測定の結果として、人の免疫系の状態を、例えば急性免疫応答の存在または不存在を、求めることができる。個体の更なる兆候または兆しに、分析方法の1つで測定した急性免疫応答の存在または不存在を関連付ける場合、分析方法を使用して、自己免疫疾患(例えばMSまたはシューグレン症候群)の状態または活性を測定することができる。
【0023】
1つの実施態様においては、ILT6に関連した診断試験は、抗体に基づくアッセイにより、体液(例えば血液)のサンプル中のILT6の濃度の分析である。抗体に基づくアッセイについての1つの例は、ILT6に特異的な少なくとも1つのモノクローナルまたはポリクローナル抗体および適した検出システムを使用したELISAフォーマットである。ELISAフォーマットは、非-競合または競合(例えば、体液サンプルに存在するILT6の競合物質として、真核または原核細胞で発現させたILT6タンパク質を使用した競合)とすることができる。他のフォーマットは、ILT6またはその交差反応性誘導体を検出するための、ILT6に対する抗体を使用した、体液サンプルのドットブロットまたはウェスタンブロットである。
【0024】
ILT6に特異的な抗体は、ポリクローナル抗体を含む血清を得るための、様々な実験動物、例えばマウス、ラットおよびウサギの免疫化により得ることができる。モノクローナル抗体は、免疫化した実験動物から単離した脾臓細胞とミエローマ細胞との融合を使用したハイブリドーマ手法によって得ることができる。ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の産生方法の詳細な記載は、「Methods in Enzymology」および「Molecular Cloning, A Laboratory Manual by Sambrook, Maniatis, Fritsch, Cold Spring Harbour」を利用することができる。
【0025】
自己免疫疾患または他の望ましくない免疫応答に罹患したヒトにおけるILT6に対する可能性ある免疫反応を考慮すれば、そして、医学的処置の間に患者に投与するILT6に対する可能性ある免疫反応に関しては、このようなILT6に対する免疫応答の測定のための診断方法および診断用組成物は、本発明の範囲内に含まれる。
【0026】
従って、更なる態様においては、本発明は、ILT6に対する自己抗体、およびILT6を発現していない患者に投与したILT6に対する抗体のための診断試験を提供する。これに関して、ILT6またはその機能的誘導体が、体液サンプル中のILT6と交差反応する抗体の存在および濃度を測定するための免疫学的アッセイにおける使用のために提供される。前記したように、ILT6およびその機能的誘導体は、異種遺伝子発現によって産生することができ、または、代替的に、ペプチド合成により合成的に産生することができる。誘導体は、好ましくは、ILT6に対する自己抗体または抗体と交差反応するエピトープを、単一にまたは反復して含む。
【0027】
診断試験は、ILT6に交差反応する抗体を特異的に吸収する補足タンパク質として、ILT6またはその免疫学的相当物を使用した、ELISA、ブロット、または任意の他の免疫学的アッセイのフォーマットを使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
ここで、本発明を、添付の図面を参照に、より詳細に開示する。図1は、ILT6の濃度に依存した、末梢血単核球細胞の阻害および刺激をそれぞれ示すグラフである。
【0029】
シューグレン症候群については、ILT6欠損は、9%の患者に存在しており、この疾患との関連性は統計的に顕著であった。対照的に、ILT6欠損は、SLEおよび強皮症とは関連していない。
【実施例】
【0030】
(実施例1:ヒトILT6遺伝子のクローニング)
QiaAmp DNA Minikit(Qiagen、Hilden、Germany)を使用して、末梢全血からゲノムDNAを抽出した。PCRプライマー5'CCC CCT GGA GCT CGT GG 3'(配列番号1)および5'GAC AGC AGA TTC TAA AAC AGT G 3'(配列番号2)を使用して、1150塩基対を含む完全なILT6遺伝子を、製造者の取扱説明書に従って、1.5mMのMgCl2、200μMのdNTP、2.5ユニットのTaqポリメラーゼを含む1×PCRバッファー中の10pmolの各プライマー、50ngのゲノムDNAを用いたPCR反応で増幅した。
【0031】
サーモサイクルは、95℃15分間、30サイクルの94℃45秒間、64℃55秒間および72℃55秒間、ならびに最終伸長72℃10分間を使用した。産物を、電気泳動(1.5%アガロース)によって分離し、エチジウムブロマイドを用いて染色しUV下で検出した。
【0032】
配列決定については、TAクローニングキット(Invitrogen、Karlsruhe)を使用したPCR産物を、PCR2.1ベクターへとクローニングした。
【0033】
統計学的分析を、フィッシャーの正確確率を用いて、顕著性として0.05未満の関連性のみに関して実施した。
【0034】
(実施例2:ILT6の産生)
ILT6タンパク質の産生については、既知の方法に従って、ヒトの末梢全血から単離した完全なRNAについてのRT-PCRを使用して、例えば、QIAamp RNA blood mini kit(Qiagen、Hilden、Germany)を使用して、製造者の取扱説明書に従って、ヒトILT6をコードするcDNAを合成した。
【0035】
発現およびその後に続く精製については、イントロン配列が介入していない完全なヒトILT6のエキソンをコードするcDNAを、3'にポリ-ヒスチジンタグをコードする融合配列で得た。これは、その生物学的活性を保持する、ヒトILT6の機能的誘導体の一例である。
【0036】
RT-PCRについては、以下のプライマーを細胞内RNAについて使用した:開始コドンの5'に追加のBamH1部位を含む5'AGG ATC CGC CAT GAC CCC CAT C 3'(配列番号3)および停止コドンの5'にヒスチジンタグをコードして停止コドンの3'にNot1部位を含む5'GCG GCC GCT CAA TGA TGA TGA TGA TGA TGC TCA CCA GCC TTG GAG 3'。得られた遺伝子産物は、以後は、ILT6::poly-Hisと称する。
【0037】
ベクターpCR2.1(Invitrogen)へのPCR産物のライゲーションおよび配列決定後に、融合ペプチドILT6::poly-Hisを、制限酵素部位BamH1およびNot1を使用して発現ベクターpBacPak8(Clontech)へとクローニングした。バキュロウイルスへの伝達後に、培養したSF9細胞へ感染させた。発現のために、細胞を、TNM-FH培地(Hink et al., Nature 226: 466-467(1970)に開示されており、80mlのウシ胎児血清、3.0gのラクトアルブミン水解物、3.0gのYeastolateと組み合わせた900mlのGrace培地を、粉末状成分が溶けるまで激しく攪拌し;必要であれば、1.0NのKOH(pHを上げる)または1.0NのHCH(pHを下げる)の添加によって、pHを6.40-6.45に調整し;必要であれば、無水D-グルコース(浸透圧を上げる)または水(浸透圧を下げる)を用いて浸透圧を360-380 milliosmolに調整して得ることができる(Sigma-Aldrich、product No.T3285で入手可能))で増殖させて、5-6日間37℃、5%CO2雰囲気下で、プラークが形成されるまで感染させることによって誘導する。
【0038】
細胞を回収後に、細胞溶解液から、Hig-tagを利用し、ニッケルキレートカラムクロマトグラフィーを用いて、タンパク質を精製した。ILT6::poly-Hisを、ニッケルキレートカラムから抽出し、免疫調節実験に使用した。
【0039】
(実施例3:免疫系に対するILT6のin vitro活性)
実施例2に従って得られた組み換え産生したILT6::poly-Hisを、リンパ球混合反応における末梢血リンパ球(PBL)の活性を調節するために使用した。リンパ球混合反応は、その添加前に照射された、第二の健康なドナーから得られた20,000 PBLの添加によって刺激した、健康な第一のドナーから得られた100,000 PBLを1ウェル当たり含む。
【0040】
実施例2で得られた組み換えILT6を、最終濃度0.33μg/mlから0.0033μg/mlで添加した。
【0041】
第一のドナーから得られたPBLの増殖をモニターするために、3H-チミジンを72時間後に添加し、試験反応物を96時間で回収した。比較のために、ILT6遺伝子配列をRo遺伝子配列に置き換えて実施例2に従って発現させて精製したタンパク質Roを使用した。
【0042】
図1に、ILT6の添加による、リンパ球混合反応における末梢血単核球の増殖の阻害を示す。3人の異なるドナーの刺激PBLを用いた実験から得られた平均値および標準偏差をプロットする。
【0043】
この結果により、高濃度のILT6、具体的には0.033μg/ml以上の濃度のILT6は、活性化されたPBLの増殖を阻害するのに対して、低濃度のILT6、具体的には0.0033μg/mlより低い濃度のILT6は、その増殖を刺激することが実証された。比較アッセイにおいてRoタンパク質を使用した場合、増殖阻害も活性化も実質的には見いだされなかった。
【0044】
顕微鏡を用いてPBLの形態を調べた場合、PBLの増殖を阻害する濃度のILT6は、PBLに毒性効果をもたらさなかったが、その増殖をむしろ休止させることが検出された。
【0045】
(実施例5:ILT6によるT細胞の直接的な調節)
様々な濃度のILT6を用いて処理したT細胞の細胞内カルシウム濃度をモニターするために、以下のアッセイを使用した:PBLまたはJurkat T細胞を、20μMの可視光-刺激性Ca2+インディケーターfluoro-h fluorochrome(CAS 121714-22-5/グリシン、N-[4-[6-[(アセチルオキシ)メトキシ]-2,7-ジクロロ-3-オキソ-3H-キサンテン-9-イル]-2-[2-[2-[ビス[2-[(アセチルオキシ)メトキシ]-2-オキシエチル]アミノ]-5-メチルフェノキシ]エトキシ]フェニル]-N-[2-[(アセチルオキシ)メトキシ]-2-オキシエチル]-、(アセチルオキシ)メチルエステル(Molecular Probes、c/o Invitrogen、Karlsruhe、Germany、catalog No.F1241)を用いて、30分間37℃で処理し、その後、穏やかにPRMI培地で三回、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で一回洗浄した。ポジティブコントロールとして、10μMのIonomycinを、別々の試験サンプルに加えた。カルシウムの細胞内遊離を、FACScalibur(Becton Dickinson)fluorescence activated cell sorterを用いて、400nmで測定した。
【0046】
ILT6の存在により、カルシウムの細胞内遊離が誘導されたことが見出された。このことにより、ILT6がT細胞に直接作用することが実証された。
【0047】
IFN-γが、MSの急性期に増加したレベルで検出することができたという観察を考慮して、IFN-γによるILT6の産生の直接的な活性化から、ILT6が、自己免疫疾患(例えば多発性硬化症)のような炎症性疾患の経過に生理学的に関与していることを推測することができる。しかしながら、炎症状態の間におけるILT6の増加した産生は、本発明によるILT6の医学的適用を損ねることはない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、ILT6の濃度に依存した、末梢血単核球細胞の阻害および刺激をそれぞれ示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医学的用途のための、ヒトILT6遺伝子の天然の翻訳産物およびその機能的誘導体から選択されるヒトILT6タンパク質。
【請求項2】
前記医学的用途が、自己免疫疾患および望ましくない免疫応答から選択される疾患を対象とする、請求項1に記載のILT6。
【請求項3】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、シューグレン症候群または急性期を有する自己免疫疾患であることを特徴とする、請求項2に記載のILT6。
【請求項4】
前記望ましくない免疫応答が、移植患者における移植片対宿主病または宿主対移植片病であることを特徴とする、請求項2に記載のILT6。
【請求項5】
前記医学的用途が、免疫応答の減少であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載のILT6。
【請求項6】
前記免疫応答が、細胞性免疫応答であることを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載のILT6。
【請求項7】
前記免疫応答が、液性免疫応答であることを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載のILT6。
【請求項8】
真核または原核細胞において発現させた、ヒトILT6遺伝子配列に由来する天然の翻訳産物またはその機能的な誘導体である、請求項1から7のいずれか一項に記載のILT6。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のILT6を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項10】
ヒトから得られた体液サンプル中のILT6の濃度の測定を含むことを特徴とする、ヒトの免疫系の活性化の状態または免疫応答を分析する方法。
【請求項11】
前記ILT6の測定が、抗体に基づくアッセイであることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒトが自己免疫疾患に罹患していることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、シューグレン症候群および急性期を有する自己免疫疾患を含む群から選択されることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項9から13のいずれか一項に記載の方法に適することを特徴とする、ILT6に特異的な抗体。
【請求項15】
体液サンプル中のILT6と交差反応する抗体を測定する方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法で使用するための、ILT6、またはILT6により誘導可能な免疫学的応答性を有するILT6の誘導体。
【請求項17】
リンパ球混合反応における、ヒトから得られた体液サンプル中に含まれるILT6のin vitro活性の測定を含むことを特徴とする、ヒトの免疫系の活性化の状態または免疫応答を分析する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−515781(P2008−515781A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−531607(P2007−531607)
【出願日】平成16年9月15日(2004.9.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052195
【国際公開番号】WO2006/029652
【国際公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(506286582)メディツィニシェ・ホフシューレ・ハノーバー (2)
【出願人】(507082862)
【Fターム(参考)】