免疫調節剤として使用される酢酸グラチラマー
種々の疾患、ウイルス感染、又は中毒物質によって引き起こされる肝線維化傷害を治療する方法であって、免疫調節剤として酢酸グラチラマーを使用することを伴う方法。治療対象となる疾患は、肝線維化及び肝細胞癌である。また、炎症性腸疾患の治療における酢酸グラチラマーの使用も開示される。更に、肝線維化、肝細胞癌及び炎症性腸疾患の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法も開示される。
【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、肝線維化の治療における、免疫調節剤、特に酢酸グラチラマー(glatiramer acetate)(コパクソン(Copaxone)[コポリマー−1(Copolymer−1)としても知られている]、Teva社製)の、随意的にIL−2等の他の免疫活性物質と組み合わせた使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
本発明者らは、既に、IL−10によって減弱される肝線維化に、CD8リンパ球サブセットの増加、及びCD4リンパ球サブセットの減少が介在して関与していることを報告している[Safadi,R.ら、Poster #387、AASLD、Boston 2002、Safadi,R.ら、Oral Presentation #610、AASLD、Boston 2002、及びSafadi,R.ら、Gastroenterology、In Press 2004]。ラットインターロイキン10(rIL−10)を肝細胞で分泌するトランスジェニックマウスを作製し、2種の異なる動物モデルにおける、肝線維形成に対するサイトカインの持続的局所的な発現の影響を評価することにより、この問題にアプローチした。rIL−10の抗線維化作用を確認して、このサイトカインのリンパ球サブセットに対する影響を特徴付け、CD8リンパ球の特異的減少を確認した。最終的に、肝傷害を有する動物から単離したCD8リンパ球の線維形成活性を、ナイーブ動物への養子移植により試験した。しかし、NK細胞は、通常、抗原提示を行うCD4細胞及び樹状(CD11c陽性)細胞によって活性化される。マウスでは、NK細胞は、MHCクラスIa分子に特異的である、iKIR(抑制性キラー免疫グロブリン様受容体(inhibitory killing immunoglobulin receptor))及びaKIR(活性化KIR(activation KIR))を共に発現するが、細胞殺傷(killing)は標的細胞上のMHCクラスIaの減少時にのみ起こる。
【0003】
このように、本発明者らが用いた実験モデル(以下で詳述する。)において、NK細胞の抗線維化作用は、活性化HSCの死滅の増加を伴うNK細胞の活性化を介している。In vivoでは、線維形成に有利なCD4減少、及び線維形成に不利なNK細胞活性化という、相反する作用が見られる可能性がある。このような知見は、線維化の免疫介在に関する理解を著しく広め、CD4、CD8及びNKサブセットの操作が、線維化の治療的調節における潜在的オプションであることを示唆するものであり、本発明の基礎をなすものである。
【0004】
肝線維化は、肝臓における結合組織の蓄積の形で現れる。線維化は、原因にかかわらず、肝臓に対する慢性的な傷害の結果である。肝傷害への応答の際に、肝星細胞は分化転換又は活性化して、増殖性のマトリックス産生細胞になり、この細胞が線維化を生じさせる[Van Waes,L.及びLieber,C.S.、Gastroenterology.1977;73:646−650、Schuppan,D.ら、Semin.Liver Dis.2001;21:351−372]。活性化星細胞の主要なマーカーとしては、β−PDGF受容体、マトリックスメタロプロテイナーゼ−2(MMP−2)、細胞間接着分子1(ICAM−1)、及びα平滑筋アクチン(αSMA)が挙げられる[Van Waes及びLieber、1977、id ibid.、Schuppmanら(2001)id ibid.]。星細胞による線維形成は、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ1)[Rojkind,M.ら、Gastroenterology 1979;76:710−719]、結合組織増殖因子(CTGF)[Friedman,S.L.ら、J.Biol.Chem.1989;264:10756−10764]等の線維化誘導性(profibrotic)サイトカイン、及びインターロイキン10、インターフェロンγ(IFNγ)等の抗線維化サイトカイン[McGuire,R.F.ら、Hepatology 1992;15:989−997、Friedman,S.L.、J.Biol.Chem.2000;275:2247−2250、Friedman,S.L.、ed.The Hepatic Stellate Cell.Vol.21.New York:Thieme;2001、Friedman,S.L.、Progress Liver Dis.1996;14:101−130、Gressner,A.M.、J.Hepatol.1995;22:28−36]の活性の反映である。IL−10の抗線維化活性は、培養星細胞の研究により示唆されている。この研究では、IL−10に対する中和抗体がマトリックスの蓄積を減少させ[McGuire,R.F.ら、1992、id ibid.]、実験用の肝炎動物にIL−10を外部投与すると、線維化が減弱し[Friedman,S.L.、(1996)id ibid.、Gressner,A,M.、(1995)id ibid.]、また、IL−10ノックアウトマウスにおいて、中毒性傷害に応答して、しばしば線維化の増大が見られる[Friedman,S.L.及びArthur,M.J.、J.Clin.Invest.1989;84:1780−1785、Gressner,A.M.ら、J.Hepatol.1993;19:117−132]。
【0005】
最近の研究では、サイトカインだけでなく、サイトカインを分泌する炎症細胞、例えば、肝マクロファージ(クッパー細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びCD4陽性ヘルパーT(Th)、CD8陽性サブセット等のリンパ球にも、焦点が当てられている[McGuireら、(1992)id ibid.;Friedman,S.L.(2000)id ibid.]。リンパ球サブセットはまた、Th1優勢及びTh2優勢のいずれかのものに大雑把に分類することができる[Wang,S.C.ら、J.Biol.Chem.1998;273:302−308]。例えば、Th1リンパ球サイトカインであるIFN−γは、強力な抗線維化活性を有する[Wangら(1998)id ibid.、Winwood,P.J.ら、Hepatology 1995;22:304−315]。インターフェロンγ産生Th1細胞のレベルの増加を示すC57BL/6マウスでは、比較的軽度の線維化が見られ、他方、主にTh2応答を示すBALB/cマウスでは、四塩化炭素に応答して重度の線維化が生じる[Wangら(1998)id ibid.、Yu,Q.及びStamenkovic,I.、Genes Dev.2000;14:163−176、Nieto,N.ら、Hepatology 1999;30:987−996]。更に、インターフェロンγ欠損の重症の複合免疫不全(SCID)マウスでは、野生型動物よりも著明な線維化が現れる[Winwoodら(1995)id ibid.]。これらのデータは、肝線維化が、種々の免疫細胞サブセットの応答に影響されること、及び、Th1/Th2サイトカインサブセットが、毒素に対する線維化応答から生じる肝傷害を調節することができることを示唆する。この種の研究が発端となって、マウス及びヒトにおける、線維化の危険性に関連する遺伝子座の探索が開始されている(そのような遺伝子座が、免疫応答を調節する遺伝子をコードしている可能性があるという仮定の下に行われている)[Nieto,N.ら、Hepatology 1999;30:987−996、Svegliati−Baroni,G.ら、Liver 2001;21:1−12]。
【0006】
免疫が介在する、ヒトの肝線維化の制御がますます重要視され、免疫抑制が重要な刺激条件として同定されている。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した患者では、C型肝炎ウイルス(HCV)に同時感染すると、肝傷害の程度と関係なく、線維化の危険性が加速度的に高まる[Bachem,M.G.ら、J.Clin、Chem.Clin.Biochem.1989;27:555−565、Casini,A.ら、Hepatology 1997;25:361−367、Winnock,M.ら、J.Gastroenterol.Hepatol.1995;10:S43−S46]。同様に、肝硬変への進行は、HCVに慢性的に感染した肝移植患者(長期間の免疫抑制治療を必要とする。)において、自然感染の患者に比べて大きく加速し[Casiniら(1997)id ibid.、Winnockら(1995)id ibid.]、また、一部は、急速に進行する線維形成症候群(1年以内に再発性の肝硬変を招く可能性がある。)を発症する。[Gisler,M.L.ら、Science 1996;271:984−987]。
【0007】
線維化は、慢性肝傷害を有するほとんどすべての患者で生じる可逆的な瘢痕化応答である。最終的に、肝線維化は、結節形成及び器官収縮によって特徴付けられる肝硬変を招く。肝硬変の原因にはいくつかあり、先天性、代謝性、炎症性及び中毒性の肝疾患が含まれる。例として、住血吸虫症、特発性の門脈線維症、アルコール、メトトレキサート、イソニアジド、ビタミンA、アミオダロン、慢性のHBV及びHCV、エキノコックス(Echinococcus)、自己免疫性慢性肝炎、慢性受動性うっ血、ウィルソン病、遺伝性ヘモクロマトーシス、α1−アンチトリプシン欠損症、炭水化物代謝障害、原発性胆汁性肝硬変、続発性胆汁性肝硬変、嚢胞性線維症、胆道閉鎖症/新生児肝炎、先天性胆嚢嚢胞、非アルコール性脂肪性肝炎、及び静脈閉塞性疾患が挙げられる。すべて合わせると、標的となる肝線維化集団は、全世界で何千万の患者になる。従って、効果的な抗線維化療法の開発が非常に重要になる。このような療法の目的は、肝傷害部位における活性化肝星細胞(HSC)の蓄積を阻害し、細胞外マトリックスの沈着を予防することにある。このような手法の多くは肝線維化の実験モデルでは有効であるが、ヒトにおける有効性及び安全性はまだ分かっていない。これまで、ヒトにおける抗線維化剤として認められている薬物はない。
【0008】
星細胞活性化のパラダイムから、抗線維化療法の部位/標的を決定するための重要な枠組みが得られる[総説については、Bataller,R.及びBrenner,D.A.、Semin Liver Dis.2001;21:437−452を参照のこと]。このような戦略には、(A)原疾患を治療して、傷害を予防すること、(B)星細胞活性化を刺激するのを避けるために、炎症又は宿主応答を低減させること、(C)星細胞活性化を直接下方制御すること、(D)星細胞の増殖応答、線維形成応答、収縮応答及び/又は炎症誘発応答を無効にすること、(E)星細胞のアポトーシスを刺激すること、並びに(F)マトリックスプロテアーゼを生成する細胞を刺激し、そのインヒビターを減少させ、或いはマトリックスプロテアーゼを直接投与することにより、瘢痕マトリックスの分解を増大させることが含まれる。
【0009】
肝線維化及び肝硬変は、どのような原因から生じたものであっても、肝細胞癌(HCC)の主要な原因となる。HCCは、主に肝硬変の患者に合併症として生じる腫瘍群のうちの1つである。外科的切除、化学塞栓、腫瘍内へのアルコール注入等の対症療法により生存期間が延長されるが、一般に患者の大多数の予後は依然改善されてない[Farmer D.G.ら、Ann.Surg.1994;219:236−247]。HBVが関与するHCCはHBsAgを細胞表面に発現するが、これは、特定の状況下で腫瘍関連抗原として働く可能性がある[Shouval D.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988;85:8276−8280]。
【0010】
サイトカインを用いて培養した肝臓MNCから精製された、CD56陽性T細胞及びNK細胞は、HuH−7 HCC細胞に対して強力な細胞毒性を示し、他方、同様に精製された通常のT細胞は、そのような細胞毒性を示さないが、このことは、硬変肝におけるCD56陽性T細胞及びNK細胞の数の減少が、それらの細胞のHCCに対する感受性に関与している可能性があることを示唆する[Kawarabayashi,N.ら、Hepatology.2000;32(5):962−9]。NK細胞活性は、HCC患者において、コントロール群に比べて有意に低下するが、このことは、HCC患者における肝切除後の再発及び予後を予測するのに、手術前のNK細胞活性が役立つことを示唆する[Taketomi Aら、Cancer.1998;83(1):58−63]。
【0011】
インターロイキン2(IL−2)は、T細胞増殖因子として十分認められている。IL−2は、転移性黒色腫、急性骨髄性白血病、及び転移性腎細胞癌を治療するための有望な免疫療法剤である。高用量のIL−2レジメンが黒色腫及び腎細胞癌の治療において臨床上有利であるが、用量規定毒性が重いため、広範な患者群において、臨床使用が制限されている。低用量のIL−2療法は、黒色腫では、期待外れの臨床的寛解率(clinical response rate)しか得られていない。低用量のIL−2に対する寛解率は、腎細胞癌の方が良かったが、このような反応の質は、高用量IL−2療法の場合と比べて、依然として懸念される。化学療法レジメン(生化学療法)にIL−2を追加すると、転移性黒色腫患者において、全体として最大60%の寛解率が見られたが、これはまだ、生存率の改善が確実になったと解釈されていない。IL−2ベースのレジメンを更に改変した場合、又はIL−2に新たな薬剤を追加した場合に、より良い抗腫瘍応答が生じ、生存率が改善されるかどうかは、まだ確認されていない。
【0012】
IL−2は、切除不能HCCの、有効かつ耐容性が良好な治療剤と考えられている。腎細胞癌及び黒色腫のIL−2による治療は、最初は、毒性の高さ故に、治療関連死亡を伴っていた。但し、IL−2は、適切な状況下であれば、安全に投与することができる。低用量のIL−2は、切除不能肝細胞癌の、有効かつ耐容性が良好な治療剤と考えることができる。肝硬変を基礎とする進行HCCが組織学的に確認されている1組の患者18例(男性14例及び女性4例、年齢中央値66歳、範囲49〜82歳)において、IL−2が長期間、超低用量(増悪するまでは1MIU/d)で持続的に皮下投与された後、中央値19.5か月の経過観察期間が報告された。2例で完全寛解(腫瘍消散(tumor resolution)と定義される。)が観察され(11.1%)(それぞれ35か月及び46か月持続した)、一例で部分寛解(5.5%)が記録された(全寛解率16.6%、95%CI:0〜33.8%)。13例の患者(72.3%、95%CI:61.6〜82.7)で、疾患の安定状態が少なくとも4か月続き、これらの患者のうち一例では、肺転移の完全寛解が得られた。無増悪期間の中央値は15.3か月であった(95%CI:10〜33)。全生存期間の中央値は24.5か月であった(95%CI:12〜43)。2例の患者(11.1%)で治療中に増悪した。毒性は局所的なものにすぎなかった(通常は注射部位の疼痛及び水疱)[Palmieri,G.ら、Am.J.Clin.Oncol.2002;25(3):224−6]。一部の癌患者の治療に、インターロイキン2を用いた腫瘍浸潤リンパ球(TIL)へのEx vivo刺激が用いられており、これが大きな成功を収めている。6例の肝細胞癌(HCC)患者から得られた腫瘍浸潤リンパ球の細胞殺傷活性が、自己単球由来の樹状細胞(DC)を用いて増強された。自己樹状細胞(同じ患者からのもの)は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)及びインターロイキン4(IG−4)の存在下で6日間培養したCD14陽性単球から生成した。これらのプロフェッショナル抗原提示細胞には、全自己肝腫瘍ライセートがパルスされた(pDC)。TILは、pDC又はパルスしていない(unpulsed)DCと共培養された。TILの細胞毒性は、標準の細胞毒性試験において、TILが標的腫瘍細胞K652、Daudi細胞株及び同種HCC細胞を溶解することができるかどうかで評価された。in vitroで培養された標的腫瘍細胞の腫瘍浸潤リンパ球による溶解は不十分であり、T細胞の反応性低下が示された。対照的に、Daudi(9.15%+/−7.5)及び同種HCC(18.2%+/−9.2)の標的腫瘍に対するHCC由来TILの細胞殺傷活性は、pDCで刺激すると、有意に増強することができた(Daudi:38%+/−6.8、同種のHCC:55%+/−10)。K562に対するTILの細胞殺傷活性は、pDCの影響を受けなかった。このように、in vitroにおけるHCC由来TILの低い細胞毒性プロファイルは、腫瘍ライセートをパルスした樹状細胞によって増大させることができる。従って、養子免疫療法で用いると、in vivoで、より効果的である可能性がある[Friedl,J.ら、Cancer Biother Radiopharm.2000;15:477−86]。
【0013】
炎症性腸疾患(IBD)は、胃腸管の一般的な免疫介在性疾患である。Th1炎症性サブタイプとTh2抗炎症性サブタイプの間の免疫応答の不均衡は、このような障害の発生に関与している[Podolsky DK.New Engl J Med.1991;325:928−935、Mizoguchi.A.ら、J Exp Med 1996;183:847−856、Adorini L.ら、Immunol.Today 1997;18:209−211]。実験的大腸炎及びIBD患者のいずれにおいても、上記疾患はTh1媒介性の免疫障害であり、大腸に対する、生涯に渡る炎症応答を引き起こす。IFN−γ等の炎症性サイトカインの分泌については、文献[Strober W.ら、Immunol Today.1997;18:61−64]に記載がある。IL−10等の抗炎症性サイトカインは、Th1媒介性サイトカインの炎症作用を下方制御し、それにより上記疾患を緩和する[Neurath MF.ら、J Exp Med.1996;183:2605−2616、Madsen KL.ら、Gastroenterology.1997;113:151−159、Van Deventer Sander J.ら、Gastroenterology.1997;113:383−389]。
【0014】
IBDの発生には、毒性、伝染性、又は免疫介在性の作用の結果である、特異的な腸粘膜のエピトープの暴露が関与している[Hibi S.ら、Clin Exp Immunol.1983;54:163−168、Das KM.ら、Gastroenterology.1990;98:464−469、Podolsky DK.New Engl J Med.1991;325:928−935、Dasgupta A.ら、Gut.1994;35:1712−1717、Neurath MF.ら、J Exp Med.1995;182:1281−1290]。このような潜在性の抗原は、能動自己免疫による炎症性応答を刺激する[Takahashi F.ら、J Clin Invest.1985;76:311−318、Z’graggen K.ら、Gastroenterology.1997;113:808−816]。IBDを有するヒト、及びTNBSで誘発された実験的大腸炎を有する動物のいずれにおいても、上記疾患はTh1型免疫介在性障害である[Mizoguchi A.ら、J Exp Med.1996;183:847−856、Neurath MF.ら、J Exp Med.1995;182:1281−1290]。炎症を起こした粘膜において刺激された細胞は、IFN−γ及びIL−2の産生量の増加、及びIL−4の産生量の減少を引き起こし、それにより炎症細胞を誘引し、粘膜構造を破壊する。対照的に、IL−10等の抗炎症性サイトカインは、Th1サイトカインの炎症誘発作用を下方制御し、場合により上記疾患を緩和する[Madsen KL.ら、Gastroenterology.1997;113:151−159]。
【0015】
酢酸グラチラマー(Copaxone(登録商標))は、4種のアミノ酸のランダムな混合物からなる合成コポリマーであり、これは、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)に特徴的な、CNSに対する自己免疫応答を改変することができる。この自己免疫反応は、CNSの炎症、及び脱髄を引き起こし、最終的に軸索を消失させる。RRMS患者に対する3種の無作為二重盲検において、酢酸グラチラマーの皮下投与(20mg/日)は、平均再発率、非再発患者の割合、及び磁気共鳴映像法[MRI]スキャンで見られるガドリニウム造影病巣の数から見て、極めて効果的であることが示されている。酢酸グラチラマーはまた、一連のMRI測定を用いた欧州/カナダの研究における評価において、疾患の活動性及び疾患の負担を有意に低減させることも示されている。酢酸グラチラマーで治療されたRRMS患者では、障害が減弱される可能性がはるかに高く、全体的な障害状態は大きく改善された。酢酸グラチラマーは通常、耐容性が良好である。すなわち、最もよく報告されている治療関連有害事象は、局所的な注射部位反応、及び注射後の一過性全身反応であり、いずれの反応も通常、軽度で自己制限的なものであった。酢酸グラチラマーは、インターフェロンβでRRMSを治療された患者で報告されている、インフルエンザ様症候群又は中和抗体を伴わない。利用可能なデータ及び最新の管理ガイドラインに基づくと、酢酸グラチラマーは、RRMS患者の治療のための有用な第一選択薬である[Simpson,D.ら、2002;16(12):825−850、BioDrugs 2003;17(3):207−10]。
【0016】
酢酸グラチラマー(Copaxone、Teva社製)は、実験的自己免疫性脳脊髄炎における樹状細胞の調節を通じて、Th2 CD4細胞の発育を促進し、IL−10の産生を増加させることが報告されている[Copaxone:Vieira,P.L.ら、J.Immunol.2003]。
【0017】
酢酸グラチラマーは、移植片対宿主病を予防し、免疫拒絶の種々の症状を妨げる。皮膚及び甲状腺の移植アッセイの2種の移植系において、酢酸グラチラマー処置は、皮膚移植片の生存期間を延長し、甲状腺移植片の機能的な悪化を阻害した。酢酸グラチラマーは、刺激性の同種細胞と共にin vitroでインキュベートすると、移植片特異的なT細胞株の増殖、並びにそのインターロイキン2及びインターフェロンγの分泌を阻害した。酢酸グラチラマー処置は、移植片に対するTh1応答を阻害し、酢酸グラチラマー及び移植片細胞に応答したTh2のサイトカイン分泌を誘発し、移植片の生存期間及び機能の改善をもたらした[Aharoni,R.ら、Transplantation.2001]。
【0018】
本発明の目的である、肝線維化の治療に有効な薬剤の探索において、本発明者らは、マウスの肝線維形成に対するCopaxoneの影響をin vivoで調査した。
【0019】
更に、これは本発明の別の目的であるが、随意的にIL−2と組み合わせたCopaxoneによる抗線維化免疫調節は、線維化関連HCCに対して拮抗的に作用しうることが示唆されている。
【0020】
別の一態様では、炎症性腸疾患に罹患した患者へのCopaxoneの投与は、新たな治療戦略を生み出す可能性がある。
【0021】
本発明の上記その他の目的は、説明が進むにつれて明らかになる。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、肝線維化を治療する方法であって、それを必要とする個体に免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法に関する。
【0023】
より詳細には、本発明は、肝線維化を治療する方法であって、それを必要とする個体に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤を投与することを含む方法に関する。
【0024】
免疫調節剤としては、酢酸グラチラマーが好ましい。
【0025】
本発明の方法は特に、ヒトの治療に使用されるものである。
【0026】
本発明は更に、肝線維化を治療するための医薬組成物の調製における免疫調節剤、特に肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤の使用に関する。
【0027】
この態様において、本発明は、好ましくは、肝線維化を治療するための医薬組成物の調製における酢酸グラチラマーの使用に関する。
【0028】
更に、本発明は、肝線維化の治療に使用する免疫調節剤、特に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす薬剤、最も好ましくは酢酸グラチラマーに関する。
【0029】
更に別の態様において、本発明は、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こすことにより肝線維化を治療する方法であって、このような治療を必要とする個体に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤を投与することを含む方法に関する。投与すべき免疫調節剤としては、酢酸グラチラマーが好ましい。
【0030】
免疫調節剤は、線維化肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こし、それにより肝線維化を低減させるために使用される。免疫調節剤としては、酢酸グラチラマーが好ましい。
【0031】
更なる一態様において、本発明は、肝線維化の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、(a)被験物質を提供するステップと、(b)線維化を誘発させたモデル動物、及び非線維化モデル動物を提供するステップと、(c)前記被験物質を前記線維化動物及び非線維化動物に投与するステップと、(d)前記動物から肝組織の試料を採取するステップと、(e)前記試料における、CD4:CD8比、NK細胞数、NK aKIR:NK iKIR比、及び線維化組織の面積、並びに少なくとも1種の一般的な線維化パラメータ、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、(f)線維化を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非線維化動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇、及び/又は線維化組織の面積の縮小、及び/又は前記一般的な線維化パラメータの低下が、前記被験物質が肝線維化の治療に有用であることを示す方法に関する。
【0032】
一般的な肝傷害パラメータとしては、AST、ALT、及びIshak傷害スコア(Ishak injury score)が挙げられる。しかし、線維化パラメータは、Ishak線維化スコア(Ishak fibrosis score)、コンピューター(computerized)Bioquant(登録商標)による定量、及びウェスタンブロッティング分析を用いたα平滑筋アクチンの評価である。
【0033】
別の態様において、本発明は、肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つを治療する方法であって、それを必要とする個体に、肝組織又は腸組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす少なくとも1種の免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法に関する。
【0034】
好ましくは、ヒト個体を治療するための免疫調節剤は、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである。
【0035】
より具体的には、肝組織又は腸組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤、望ましくは随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーは、肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つを治療するための医薬組成物の調製に使用することができる。
【0036】
略語:
本願明細書では以下の略語を用いる。
iKIR:抑制性キラー免疫グロブリン様受容体(Inhibitory killing immunoglobulin receptor)
aKIR:活性化キラー免疫グロブリン様受容体(Activation killing immunoglobulin receptor)
NK:ナチュラルキラー細胞
HSC:肝星細胞
I.P.:腹腔内
AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
ALT:アラニントランスアミナーゼ
ECM:細胞外マトリックス
HCC:肝細胞癌
HSC:肝星細胞
【発明の詳細な説明】
【0037】
下記の実施例で示すように、本発明者らが用いた実験モデルにおいて、ナチュラルキラー(NK)細胞の抗線維化作用は、刺激されたHSCの死滅の増加を伴うNK細胞の活性化を介している。すなわち、本発明者らが用いた実験モデルにおいて、NK細胞の抗線維化作用は、活性化HSCの死滅の増加を伴うNK細胞の活性化を介している。In vivoでは、線維形成に有利なCD4減少、及び線維形成に不利なNK細胞活性化という、相反する作用が生じる可能性がある。このような知見は、免疫系の線維化プロセスへの関与に関する理解を著しく広め、CD4、CD8及びNKサブセットの操作が、線維化を調節する治療的アプローチにおける潜在的オプションであることを示唆する。
【0038】
肝線維化の治療及び/又は予防に使用可能な薬剤を見出すことを目的として、本発明者らは、線維化肝組織においてCD4:CD8比を上昇させ、それによりNK細胞数を増加させると、線維化が抑制される可能性があることを提唱した。
【0039】
本研究において、本発明者らは、線維化を誘発させたマウスを、酢酸グラチラマー等の免疫調節剤で治療すると、CD4:CD8比が増大し、いくつかのスコアで測定される疾患状態が改善されることを見出した。
【0040】
下記の実施例、特に図2、図4及び図5に示すように、線維化は、線維化の程度を評価するための一般的なパラメータである、Ishak肝線維化スコアリング及びコンピューターBioquant(登録商標)解析によって測定したところ、すべてのCCl4誘発群で有意に増大した。酢酸グラチラマーで処置した動物では、有意に低いスコアが示された。また、Ishak肝傷害スコアリングにおいても、線維化は、線維化誘発後、すべての線維化群で有意に増大したが、酢酸グラチラマー処置群及びリノマイシン(linomycin)処置群で有意に低くなった。
【0041】
図7で見られるように、CD4:CD8比は、酢酸グラチラマー処置群において、コントロール群(CCl4誘発非処置線維化群)に比べて有意に上昇した。NK細胞の総数も、処置群(酢酸グラチラマー群及びリノリン(linolin)群)で増加した(図8)。更に、処置群では、NK aKIR:NK iKIR比の顕著な変化が観察された(図9)。
【0042】
このように、本発明者らは、免疫調節剤、特に酢酸グラチラマー(コパクソン(Copaxone))は、用いた動物モデルにおいて顕著な抗線維化作用を有することを明らかにした。この作用が、CD4:CD8比の上昇、及びこれによるNK細胞の総数の増加を介していたことが、理論的制約なしに示唆される。これらのNK細胞は、活性化星細胞を抑制するように刺激され、活性化されることによって、線維化を低減させた。
【0043】
このように、本発明は、肝線維化の治療における免疫調節剤、特に酢酸グラチラマーの使用に関する。更に、本発明は、必要な患者に、本発明の免疫調節剤を治療有効量投与することにより肝線維化を治療する方法、及び上記疾患を治療するための上記薬剤を含有する組成物を提供するものである。
【0044】
本発明の免疫調節剤としては、肝組織、特に線維化肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こすことができるものが特に好ましい。
【0045】
薬剤としては、酢酸グラチラマーが最も好ましい。
【0046】
本発明の医薬組成物は、本発明の免疫調節剤、特に酢酸グラチラマーを有効成分として含有し、更に、別の治療剤、及び/又は薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤を随意的に含有してもよい。
【0047】
医薬組成物の調製は当技術分野で周知であり、また、多くの論文及びテキストに記載されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro A.R.ed.、Mack Publishing Co.、Easton、PA、1990、特にpp.1521−1712を参照のこと(当該文献は、参照することにより、本明細書にそのまま組み込まれる)。
【0048】
本発明の医薬組成物の投与、及び用量決定は、適切な医療慣行に従って行うことができる。投与は、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射等、種々の方法で実施することができる。但し、経口投与等、他の投与方法も可能である。
【0049】
本発明の組成物は、遊離型の活性物質を含有し、治療対象の個体に直接投与することができる。或いは、本発明の組成物は、活性分子のサイズに応じて、担体と結合させて投与するのが望ましい。治療製剤は、通常のいかなる投与剤形でも投与することができる。製剤は通常、1種又は複数の許容される担体と共に、少なくとも1種の上述の有効成分を含有する。
【0050】
各担体は、他の成分と適合し、かつ患者に無害であるという意味で、薬学的に、かつ生理学的に許容されるものである必要がある。製剤には、経口、直腸、経鼻、又は非経口(皮下、筋肉内、腹腔内(IP)、静脈内(IV)、及び皮内を含む。)投与に適したものが含まれる。製剤は、好都合なことに単位剤形で提供することができ、また、製薬学の分野で周知のいかなる方法によって調製することもできる。そのような化合物のすべてについて、性質、有効性、供給源、及び投与方法(個体において望ましい効果を生じさせるのに必要な有効量を含む。)は、当技術分野で周知であり、本明細書で更に説明する必要はない。
【0051】
より具体的には、本発明の活性薬剤又はそれを含有する組成物は、経口投与、静脈内投与、非経口投与、経皮投与、皮下投与、腟内投与、鼻腔内投与、粘膜投与、舌下投与、局所投与、及び直腸投与、並びにそれらの任意の組合せから選択される経路によって投与することができる。これらの免疫調節剤又は組成物は、IV注射又はIP注射することが好ましい。
【0052】
注射用に適した薬剤形態としては、無菌の水溶液剤又は分散剤、並びに、無菌の注射用溶液剤又は分散剤を即時調製するための無菌の散剤が挙げられる。いずれの場合も、薬剤形態は、無菌でなければならず、また、容易に注射可能な程度の流動性を有しなければならない。組成物は、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、また、細菌、菌類等の微生物の汚染作用から保護されなければならない。
【0053】
微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等により実現することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含有するのが好ましい。吸収遅延剤を組成物中で用いることにより、注射用組成物の吸収を引き延ばすことができる。
【0054】
無菌の注射用溶液剤の調製は、必要量の活性化合物を、適切な溶媒中に、必要に応じて、上に列挙した他の種々の成分と共に加え、次いで、ろ過滅菌することによって行う。分散剤の調製は、一般に、滅菌した種々の有効成分を、ベースとなる分散媒と、上に列挙したものから選ばれる他の必要な成分と、を含有する無菌のビヒクル中に加えることによって調製する。
【0055】
無菌の注射用溶液剤を調製するための無菌散剤の場合、調製方法としては、予めろ過滅菌した溶液から、有効成分及びその他の所望成分の散剤を生み出す、真空乾燥技術及び凍結乾燥技術が好ましい。
【0056】
本発明の医薬組成物は通常、緩衝剤、及びそのオスモル濃度を調節する薬剤を含有し、更に、当技術分野で知られている1種又は複数の薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は添加剤を随意的に含有する。また、この組成物は、補助的な有効成分を含有してもよい。担体としては、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、植物油等の、溶媒又は分散媒を用いることができる。適正な流動性を維持するには、例えば、レシチン等のコーティング剤を用いたり、必要な粒子サイズを維持したり(分散剤の場合)、界面活性剤を用いたりすればよい。
【0057】
本明細書で用いる「薬学的に許容される担体」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌剤等が含まれる。このような媒体及び薬剤を薬学的に有効な物質のために用いることは、当技術分野で周知である。通常のいかなる媒体又は薬剤も、有効成分と不適合なものでない限り、治療組成物中で用いることが想定されている。
【0058】
用量は、体重、年齢、性別、疾患の重症度、及び耐容性に応じて決まり、主治医によって決定される。ヒトにおける用法は、好ましくは、2年間、1日1回、約15〜約20mgを皮下注射するか、又は1日当たり約5〜約50mgを経口投与することであり、最も好ましくは、2年間、1日1回、20mgを皮下注射することである。
【0059】
本発明はまた、肝障害を治療又は予防する方法であって、本発明の薬剤、又は本発明の医薬組成物、或いはその好ましい実施形態の1つを、それを必要とする患者に投与することを含む方法に関する。
【0060】
本発明はまた、肝臓の障害又は疾患を治療するための治療剤を、このような治療を必要とする患者に投与する方法であって、前記患者に本発明の活性薬剤及び前記治療剤を投与するステップを含む方法に関する。上記治療剤の投与は、本発明の免疫調節剤の投与と同時に行っても、また、その前後いずれに行ってもよい。
【0061】
本発明者らの知見を利用して、肝線維化の治療に使用できる治療剤をスクリーニングすることができる。すなわち、更なる態様において、本発明は、肝線維化の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、(a)被験物質を提供するステップと、(b)線維化を誘発させたモデル動物、及び非線維化モデル動物を提供するステップと、(c)前記被験物質を前記線維化動物及び非線維化動物に投与するステップと、(d)前記動物から肝組織の試料を採取するステップと、(e)前記試料における、CD4:CD8比、NK細胞数、NK aKIR:NK iKIR比、線維化組織の面積、及び一般的な線維化パラメータ、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、(f)線維化を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非線維化動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇、及び/又は線維化組織の面積の縮小、及び/又は前記一般的な線維化パラメータの低下が、前記被験物質が肝線維化の治療に有用であることを示す方法に関する。
【0062】
一般的な線維化パラメータとしては、例えば、Ishak肝線維化スコアリング、コンピューターBioquant(登録商標)解析、及びヒドロキシプロリン(HP)が好ましいが、線維化の改善を示す適切な評価項目であれば、いかなるものを本発明のスクリーニング方法で用いてもよい。AST、ALT、及びIshak傷害スコアは、肝傷害パラメータとして認められている。
【0063】
本発明のスクリーニング方法では、前記コントロール、すなわち非線維化動物の代わりに、又はそれに加えて、肝線維化スコアの基準値を比較のために用いてもよい。
【0064】
また、本発明のスクリーニング方法は、適当な動物モデル及び臨床パラメータを用いた場合にHCC及びIBDの治療に有利な結果を示すことができる免疫調節剤を同定するために用いることもできる。
【0065】
継続的な肝細胞傷害を伴う慢性活動性肝炎は、肝細胞癌(HCC)を発症する危険性を劇的に増大させる。慢性炎症プロセスは、肝臓の細胞の死滅及び再生を伴い、最終的に肝細胞における形質転換変異(transforming mutation)を招く可能性がある。HCC細胞における共通の事象であるウイルスDNAの組込みは、宿主細胞の遺伝子制御を妨害し、悪性化(malignant degeneration)を招く可能性がある。マウスにおいて、HBV感染は、HBV遺伝子の直接的微量注入によって克服することができる。B型肝炎表面抗原(HBsAg)遺伝子が組み込まれ、高レベルで発現すると、肝細胞傷害及びHCCが発現する。また、B型肝炎ウイルスXタンパク質(HBx)遺伝子のみが高レベルで発現すると、肝癌を引き起こす可能性がある。従って、HCCの動物モデルとしては、種々のHBVトランスジェニックマウスを用いることができる。HCVトランスジェニックマウスもHCCの適当なモデルである。
【0066】
肝損傷は、次の病理学的パラメータ:門脈浸潤、肝内転移、肝静脈浸潤、漿膜浸潤、腫瘍被膜の欠如、又は被膜浸潤の存在、をスコア化することによって評価することができる。或いは、チャイルドピューステージ(Child−Pugh stage)、腫瘍の形態及び拡大、血清α−フェトプロテイン(AFP)レベル、及び門脈血栓症パラメータを含むCLIPスコアを考慮することもできる。
【0067】
IBDに関しては、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)の直腸内投与によって誘発された実験的大腸炎の動物モデルが好ましい。大腸損傷は、細胞死、組織崩壊及び浮腫の程度の違いによって明らかとなる。これらのパラメータは、組織固定及びH&E染色の後に測定することができる。組織学的損傷スコア(histological damage score)は、例えば、クーパー(Cooper)の陰窩スコアリング(crypt scoring)の方法によって決定することができる。[Cooperら、Lab.Invest.1993;69:238−249]。
【0068】
In vitroスクリーニング方法も、本発明の範囲内のものとして想定されている。
【0069】
更なる一態様において、本発明は、HCCの治療における酢酸グラチラマーの、随意的にIL−2と組み合わせた使用に関する。上述の通り、肝線維化及び肝硬変は、どのような原因から生じたものであっても、肝細胞癌(HCC)の主要な原因となる。下記の実施例に示すように、CD4/CD8比の減少は線維形成に有利に働くが、NK細胞は、活性化HSCのアポトーシスの増加を介する抗線維化作用を有する。動物モデルでは、酢酸グラチラマー処置の後、NK細胞及びCD4/CD8比が増加し、同時に線維化が低減した。HIV患者において、IL−2処置がCD4数を増加させること、及びNK細胞が抗HCC作用を有することが示唆されたことから、線維化が関与する肝臓腫瘍に対する抗腫瘍免疫応答は、NK細胞誘発及びCD4/CD8比を増大させることによって改善可能であることが提唱される。B型肝炎ウイルス(HBV)が関与するHCCは、HBsAgを細胞表面上に発現する。そして、このHCCは、腫瘍関連抗原として働く可能性がある。提案する治療の詳細は、下記の実施例に示す。随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーは、NK細胞の刺激及び絶対数の増大、及びCD4/CD8比の上昇を介する、HCCに対する十分な抗腫瘍作用を示す可能性がある。各化合物の作用を試験して、それらを組み合わせた処置の、ありうる相乗効果について知ることができる。また、各化合物の作用を試験して、それらの作用が直接的な抗腫瘍作用かどうか、或いはそれらの作用が抗線維化作用を介するものかどうかを確認することができる。いずれの化合物もヒトの臨床において他の適応症に使用されており、安全性及び耐容性が十分認められているので、この研究の結果は、特にHCCに関して、また、一般に他の腫瘍の多くに関しても、新たな治療的アプローチを切り開く可能性がある。
【0070】
本発明のこの態様では、HCCの治療及び/又は予防のための医薬組成物であって、酢酸グラチラマーを含有し、更に、IL−2等の別の免疫調節剤(IL−2に限定されない。)を随意的に含有する医薬組成物も想定されている。酢酸グラチラマーを単独で、又はIL−2と組み合わせて用いて、HCCを治療する方法も包含される。
【0071】
更なる一態様において、本発明は、炎症性腸疾患、主に潰瘍性大腸炎及びクローン病の治療における酢酸グラチラマーの、随意的にIL−2と組み合わせた使用に関する。炎症性腸疾患は主に大腸の炎症性傷害であること、及び酢酸グラチラマーが線維化モデルの肝傷害を低減させたことから、酢酸グラチラマー及びIL−2は、単独で、又は組み合わせることによって、NK細胞の刺激及び絶対数の増大、及びCD4/CD8比の上昇を介する、炎症性腸疾患に対する十分な抗炎症作用を示す可能性がある。各化合物の作用を試験して、それらを組み合わせた処置の、ありうる相乗効果について知ることができる。また、各化合物の作用を試験して、それらの作用が直接的な抗炎症作用かどうかを確認することができる。いずれの化合物もヒトの臨床において他の適応症に使用されており、安全性及び耐容性が十分認められているので、この研究の結果は、特に炎症性腸疾患に関して、また、一般に他の炎症性疾患の多くに関しても、新たな治療的アプローチを切り開く可能性がある。
【0072】
本発明のこの態様では、炎症性腸疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物であって、酢酸グラチラマーを含有し、更に、IL−2等の別の免疫調節剤(IL−2に限定されない。)を随意的に含有する医薬組成物も想定されている。酢酸グラチラマーを単独で、又はIL−2と組み合わせて用いて、炎症性腸疾患を治療する方法も包含される。
【0073】
本明細書を通じて、種々の刊行物が引用される。このような刊行物は、そこで引用された刊行物も含めて、参照することにより、本明細書にそのまま組み込まれる。
【0074】
開示及び説明が行われているが、本発明が、本明細書で開示された特定の実施例、処理ステップ及び材料に限定されるわけではなく、このような処理ステップ及び材料が、いくらか異なるものとなる可能性があることは理解されるはずである。また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等物のみによって限定されるので、本明細書で用いる用語が、特定の実施形態を説明する目的で用いられているにすぎず、限定的なものとして意図されていないことも理解されるはずである。
【0075】
本明細書及び添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容上明確に断っていない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0076】
本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、「comprise(含有する、含む)」という語、及び「comprises」、「comprising」等の変形体は、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、記載した1つの完全体(integer)若しくはステップ、又は完全体若しくはステップの群を包含することを意味すること、及び、他のいかなる完全体若しくはステップ、又は完全体若しくはステップの群も除外することを意味するわけではないことが理解されるはずである。
【0077】
以下の実施例は、本発明の態様を実施する際に本発明者らが用いた技術の代表例である。これらの技術が、本発明を実施するための好ましい実施形態を例示するものであること、及び、当業者が、本明細書の開示に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの改変を行うことが可能であることを認識することは理解されるはずである。
【実施例】
【0078】
(材料)
四塩化炭素(CCl4、Sigma社製、C−5331)、組換えIL−2(rIL−2)、酢酸グラチラマー(Copaxone、Teva社製)。2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS、Sigma Diagnostics社製、セントルイス、米国ミズーリ州)。
【0079】
動物: 次の3群のBALB/cマウス:A)野生型(WT)、B)重症複合免疫不全症(SCID)マウス(B細胞及びT細胞が欠失)、及びC)SCIDベージュ(Beige)(B細胞、T細胞及びNK細胞が欠失)、を用い、これらを第4の非処置WT群と比較した。C57BL/6マウス(野生型及びSCID)も用いた。動物の取扱いは、米国国立衛生研究所のガイドラインに従った。
【0080】
実験計画:
(I)肝線維化におけるNK細胞の役割:
本研究では、次の3群のBALB/cマウス(8週齡、雄):A)野生型(WT)、B)重症複合免疫不全症(SCID)マウス(B細胞及びT細胞が欠失)、及びC)SCIDベージュ(Beige)(B細胞、T細胞及びNK細胞が欠失)、に、四塩化炭素(CCl4)を4週間腹腔内投与することにより肝線維化を誘発させ、これらを第4の非処置WT群と比較した。肝線維化の評価は、肝臓エキスから得たα平滑筋アクチン(α−SMA)のウェスタンブロッティングによって、また、シリウスレッド(Sirius Red)染色した肝組織切片(動物1個体当り36個)をBioquant(登録商標)形態計測システムで分析することによって行った。FACS解析のために、非処置WT動物及びCCl4線維化WT動物から、脾細胞、肝内リンパ球(IHL)及び肝星細胞(HSC)を単離した。
【0081】
(II)肝線維化の免疫療法:
野生型C57Bl/6マウス(8週齡、雄)に、CCl4を6週間IP投与することにより肝線維化を誘発させた。また、最後の2週間に、動物には、200マイクログラム/日のCopaxoneをIP投与し(A群)、又は1mg/mlのLinomycinを飲料水で投与し(B群)、又は生理食塩水で処置し(C群)、ナイーブマウス(D群)と比較した。各群には8匹の動物が含まれた。肝線維化の評価は、Ishak Knodellスコア[Knodell,R.G.ら、Hepatology 1981;1(5):431−5]及びヒドロキシプロリンによって、また、シリウスレッド染色した肝組織切片(動物1個体当り36個)をBioquant(登録商標)形態計測システムで分析することによって行った。FACS解析のために、すべての動物群から脾細胞を単離した。肝線維化と、脾細胞におけるCD4、CD8、NK細胞、iKIR及びaKIRの発現と、の相関関係を評価した。
【0082】
(III)肝細胞癌の免疫療法:
HCC動物モデルにおける脾細胞の再構成に続いて、マウスに、(A)Copaxone、(B)IL−2、又は(C)Copaxone及びIL−2、による処置を2週間行い、或いは(D)追加処置を行わない。これらの処置プロトコールを、肝線維化を誘発させたマウスに適用し、4つの追加群(それぞれ(E)、(F)、(G)及び(H))を設けた。各群は10匹の雄の動物を含む。
【0083】
脾細胞の再構成に続いて、マウスの生存及び腫瘍サイズについて2週間観察する。ケタミン/キシラジンによる麻酔の後、動物を屠殺し、CCl4の最終投与の3日後に、血清、肝臓及び細胞を採取する。血液試料を採取し、HBsAg、抗HBs(下記参照)、及びAFPのレベルを検査するまで−20℃で凍結させる。脾細胞亜集団は、CD4及びCD8、NKマーカー、並びにキラー細胞抑制性受容体(killer inhibitory receptor)及びキラー細胞活性化受容体(killer activation receptor)についてFACS解析する。肝臓は、線維化の重症度について評価する。
【0084】
(IV)炎症性腸疾患の免疫療法:
大腸炎の誘発の後、マウスに、(A)Copaxone、(B)IL−2、又は(C)Copaxone及びIL−2、による処置を12日間行い、或いは(D)追加処置を行わない。各群は10匹の雄の動物を含む。
【0085】
ケタミン/キシラジンによる麻酔の後、動物を屠殺し、12日目に血清及び大腸を採取する。血液試料を採取し、サイトカイン(IL2、IL4、IFNg、IL10及びTGFb)レベルを検査するまで−20℃で凍結させる。脾細胞亜集団は、CD4及びCD8、NKマーカー、並びに抑制性キラー受容体及び活性化キラー受容体についてFACS解析する。大腸は、炎症の重症度について評価する。
【0086】
動物モデル:
肝線維化動物モデル: マウス(8週齡、雄)に、CCl4(コーン油で10%に希釈)を体重1g当たり5マイクロリットル、4〜6週間IP投与することにより肝線維化を誘発させた。
【0087】
HCC動物モデル: B型肝炎ウイルス(HBV)が関与するHCCは、HBsAgを細胞表面上に発現し、腫瘍関連抗原として働く。層流フード(laminar flow hood)内の滅菌ケージ中でレシピエントのBalb/cマウス(Harlan社製、米国)を飼育し、照射済み食品及び無菌酸性水を与える。このマウスを致死量以下の放射線(600cGy)に曝す。放射線照射の24時間後、動物の右肩に107のヒト肝癌細胞Hep3B細胞(HBsAgを発現)を皮下注射する。放射線照射の7日後、胸腺欠損マウスに、骨髄細胞80%及び脾臓細胞20%の混合物を2×106細胞/マウスだけ投与し[Ilan,Y.ら、J.Hepatology、27:170−176、1997]、その後、更に2週間観察する。
【0088】
大腸炎を誘発させた炎症性腸疾患動物モデル: 文献[Trop S、Samsonov D、Gotsman I、Alper R、Diment J及びIlan Y(1999)Hepatology 29:746−755]に記載の通り、50%エタノール100μl中に溶解させたTNBSを1mg/マウスだけ直腸に点滴注入して、TNBS−大腸炎を誘発させた。
【0089】
(方法)
肝臓及び大腸の組織検査: 肝臓の後部3分の1及び直腸S状部大腸を10%ホルマリン中で24時間固定し、次いで、自動組織処理装置(automated tissue processor)でパラフィン包埋した。各動物標本から7ミリメートルの切片を切り出した。各動物切片について、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)染色を行った。
【0090】
肝臓切片(15μm)を飽和ピクリン酸中で、0.1%シリウスレッドF3Bで染色した(いずれもSigma社製)。更に、製造元の使用説明書に従って、DAKOキット(カタログ番号U7033、EPOS社製、モノクローナル)を用いて、α平滑筋アクチンの免疫組織化学検査を実施した。
【0091】
肝線維化の定量: シリウスレッド染色した肝切片(動物1個体当り36個)を分析することにより、相対的線維化面積(肝臓総面積に対する百分率で示す。)を評価した。各領域(field)の像を10倍の倍率で得た後、コンピューターBioquant(登録商標)形態計測システムを用いて分析した。相対的線維化面積を評価するために、測定したコラーゲン面積を正味領域面積で割り、更に100を掛けた。総領域面積から血管腔面積を引いて、最終的な正味線維化面積を算出した。
【0092】
脾細胞の単離: 屠殺時に脾臓を摘出し、70μmナイロンのセルストレーナー(cell strainer)に通して分画した。RBC溶解の後、脾細胞を洗浄し、RPMI1640培地中で懸濁させ、FACS解析まで4℃で保存した。
【0093】
FACS(蛍光標識細胞分取)解析: 脾細胞の分析は、Coulterフローサイトメーター(BECTON DICKINSON社製、米国)を用いた標準の技法に従って、1組の抗体(Ab)を用いた直接免疫蛍光法により行う。要約すると、3×105個の脾細胞を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)又はアロフィコシアニン(APC)に結合したAbと共に、4℃で30分間インキュベートし、3回洗浄し、2%パラホルムアルデヒド含有固定液中で再懸濁させて分析する。脾細胞の染色に用いる抗体は、PE及びFITCがそれぞれ結合したモノクローナル抗マウスCD4及びCD8(BD Biosciences社製)である。ナチュラルキラー(NK)細胞の染色には、APCが結合したラット抗マウスCD49b/Pan−NK細胞モノクローナル抗体を用いる。この抗体により、大多数のNK細胞が同定される。キラー細胞抑制性受容体(iKIR)については、PEが結合したモノクローナルマウス抗マウスLy−49C及びLy49Iを用いる。キラー細胞活性化受容体(aKIR)については、FITCが結合したラット抗マウスLy−49Dモノクローナル抗体を用いた。制御性T細胞の役割を明らかにするために、抗CD25モノクローナル抗体を用いた。リンパ球を同定するために、ペリジニンクロロフィル−αタンパク質(Per−CP)が結合したラット抗マウスCD45(BD Biosciences社製)による染色を用いた。
【0094】
リンパ球サブセットは、CD45陽性細胞に対する百分率で示す。
【0095】
HBsAg、抗HBs、及びα−フェトプロテインを検出するラジオイムノアッセイ: 市販の固相ラジオイムノアッセイ(RIA)(Ausria II及びAusab、Abbott Laboratories社製、ノースシカゴ、米国イリノイ州)により、HBsAg、及びHBsAgに対する抗体を測定する。RIAによる抗HBsの定量分析は、世界保健機関の標準血清を用いて、また、Hollingerの式を利用して行い、データはmIu/mlで示す。(22)。αフェトプロテイン(AFP)は、RIA(AFP、Bridge Serono社製、イタリア)によって測定し、ng/mlで示す。
【0096】
α平滑筋アクチンの免疫ブロッティング: 既に記載した方法[de Waal Malefyt,R.ら、J.Exp.Med.1991;174:915−924]に修正を加えて、肝臓エキス中のα−SMAの免疫ブロッティングを実施する。
【0097】
全肝臓タンパク質抽出物を、肝臓ホモジナイズ緩衝液(50mmol/L Tris−HCl[pH7.6]、0.25%Triton−X100、0.15M NaCl、10mM CaCl2、及びEDTAフリーコンプリートミニプロテアーゼインヒビターカクテル(complete mini EDTA−free protease inhibitor cocktail)(Roche Diagnostics社製、マンハイム、ドイツ))中で調製した。次いで、タンパク質(1レーン当り30μg)を還元条件下、10%SDS−ポリアクリルアミドゲルで分離させた。免疫ブロッティングのために、タンパク質をProtranメンブランに移し、5%脱脂乳含有ブロッキング緩衝液中、4℃で一晩インキュベートした。抗SMAマウスモノクローナル抗体(DAKO社製、カタログ番号M0851)、及びペルオキシダーゼが結合したヤギ抗マウスIgG(P.A.R.I.S.、コンピエーニュ、フランス)、並びに高感度化学発光法(enhanced chemiluminescence)を用いた。
【0098】
統計: 統計的有意差については、スチューデントの検定を用いた。
【0099】
(結果)
(I)肝線維化におけるNK細胞の役割:
相対的線維化面積は、CCl4 WTでは肝臓総面積の2.32%(±1.39)、CCl4 SCIDでは1.11%(±6.4)、CCl4 SCIDベージュでは1.85%(±1.19)、ナイーブWTでは0.3%(±0.37)であった。すべてのCCl4処置群では、コントロールに比べて肝線維化が有意に増大した(P=0.001)。SCIDベージュ群では、SCID群に比べて線維化が有意に増大した(P=0.0001)。すべての群において、相対的線維化はα−SMAの発現と密接な相関関係があった。脾細胞のFACS解析により、WTマウスでは、線維化の後、NK細胞及びCD11c細胞の絶対数、並びにクラスIの提示が有意に変化せず、CD4細胞が26%±5.7から19%±3.8に有意に減少し(P=0.01)、NK細胞におけるaKIR:iKIR比は0.76±0.21から2.79±0.98に有意に上昇する(P=0.003)ことが明らかになった。肝内リンパ球(IHL)の分析でも、類似の結果が得られた。このような知見は、線維化誘発の後、NK細胞が機能的に活性化されることを示唆する。同時に、線維化の後、肝星細胞(HSC)におけるクラスI分子の平均発現量は、81%±15から37%±12に有意に減少した(P=0.001)(基礎値の51%±13に低下)。HSCクラスII陽性分子の発現は変化しなかった。活性化HSCにおけるクラスIの自己認識(self−recognition)マーカーの減少は、活性化NK細胞による殺傷への感受性が増強されたことを反映している。
【0100】
(II)肝線維化の免疫療法:
以下のパラメータを用いて、CCl4処置動物における肝傷害及び肝線維化を測定することにより、免疫療法の効果を評価した。
【0101】
肝傷害の重症度: AST及びALTの血清レベルによって評価した肝傷害は、CCl4を処置したすべての実験群で、ナイーブマウスに比べて高かった。線維化を誘発させた異なる群間では、有意な差が見られなかった(図1)。
【0102】
肝組織の炎症及び壊死の状態を表す肝臓の種々の病理組織学的パラメータの、Ishak傷害スコアによる評価では、群間で差がないことが分かった(図2)。
【0103】
線維化重症度スコア: 線維化の重症度の評価は、種々の群から採取し、H&E染色した肝切片のBioquant解析(図3の例を参照)、及びα平滑筋アクチン(α−SMA)の定量によって評価した。
【0104】
分析面積に対するコラーゲンの百分率により評価した線維化の重症度は、CCl4による線維化誘発の後、Copaxone又はLinolin処置群で有意に低下した(p<0.0001)(図4に示す)。
【0105】
α平滑筋アクチンの量は線維化の程度と相関関係があり、このアクチンは、CCl4動物群で高度に発現し、Copaxone群及びLinolin群で有意に減少した(図5)。
【0106】
リンパ球細胞集団: 脾細胞のFACS解析により、線維化誘発の後、すべての線維化群(A、B及びC)でCD4細胞が有意に減少する(p<0.0005)ことが明らかとなったが、群間では、有意な差が見られなかった(図6)。
【0107】
CD8細胞は、A群において、C群(p<0.05)及びD群(p<0.005)のいずれに比べても有意に減少した(図6)。CD4:CD8比は、線維化の後、C群で有意に低下した(p<0.0003)(図7)。この比は、2つの処置群(A及びB)で有意に上昇したが、ナイーブ動物(D群)よりはなお有意に低かった(それぞれp<0.001及びp<0.016)。A群のCD4/CD8比は、C群よりも有意に高かった(p<0.04)(図7)。
【0108】
線維化の後、NK細胞の総数は変化しなかったが(C群及びD群)、処置群(A及びB)ではいずれも数が増加し、この増加はCopaxone群で有意であった(p<0.002)(図8)。aKIR:iKIR比を計算したが、NK細胞のaKIR及びiKIRについて、合計の値(total reading)及び個別の値(specific reading)を測定した。いずれも同じパターンを示したが、図9で見られるように、線維化の後、すべての群(A、B及びC)で比が有意に上昇したので、後者の方がより特異的であった。A群及びB群では、ナイーブ群(D群)に比べて、NK aKIR:NK iKIRの有意な上昇が見られたが(p<0.0001)、非処置線維化群(C群)と比べると、なお有意に低かった(p<0.05)。
【0109】
肝内リンパ球のFACS解析により、線維化誘発の後、線維化群(A及びC)でCD4細胞が有意に減少する(p<0.000001)ことが明らかとなったが、群間では、有意な変化が見られなかった(図10)。
【0110】
CD8細胞は、A群において、C群に比べて有意に減少したが(p<0.001)、D群よりは有意に高かった(p<4×10−7)(図10)。CD4:CD8比は、線維化の後、C群で有意に低下した(p<3.1×10−10)(図11)。この比は、処置したA群で、C群に比べて有意に上昇したが(p<0.002)、ナイーブ動物(D群)よりはなお有意に低かった(p<4.2×10−10)(図11)。
【0111】
肝内のNK細胞数は、Copaxone群において、線維化C群に比べて有意に増加した(p<0.0001)(図12)。
【0112】
結論: 上記の実験から、Copaxone及びLinomycinは、用いた動物モデルにおいて著しい抗線維化作用を示したことが明らかになる。この作用は、NK細胞の総数を増加させる、CD4:CD8比の上昇を介するものだった。それらのNK細胞は、活性化星細胞を抑制するように活性化され刺激されることによって、線維化を低減させた。この結論は、Ishakスコア法を用いて測定した肝傷害の程度において、Copaxone群(A)及びCCl4群(C)の間で有意な差がないことを示した病理組織学的所見によって強く支持される。従って、Copaxoneは、炎症過程を直接低減させることによって線維化を低減させるのではなく、むしろ、HSCの活性化を抑制することによって線維化を低減させる。
【0113】
(IV)炎症性腸疾患の免疫療法:
大腸炎を誘発させた後、マウスをCopaxoneで処置した。処置群とコントロール群の間で、大腸炎スコアを巨視的に、かつ微視的に比較した。いずれの試験においても、Copaxone処置の結果、組織傷害の顕著な低減が見られた(図13a及び13b)。図14で実証されるように、微視的な改善が特に明らかであった(p<0.03)。
【0114】
脾臓のCD3、CD4及びCD8の細胞集団のFACS解析により、大腸炎を誘発させたCopaxone処置群でCD4細胞数が有意に増加する(p<0.03)ことが明らかとなった(図15)。CD4細胞数の増加は、インターロイキン4(IL−4)分泌細胞ではなく、インターフェロンγ(IFN−γ)分泌細胞の増加を伴う(p<0.02)ものだった(図16)。
【0115】
CD8細胞集団は、大腸炎を誘発させても、Copaxoneで処置しても、影響を受けなかった(図15)。抗原提示細胞(APC)は、Copaxone処置の後減少したように思われる(図17)。
【0116】
測定したサイトカインIFN−γ、IL−4、及びIL−10の血清レベルは、大腸炎を誘発させたCopaxone処置群において、大腸炎を誘発させた非処置群に比べて有意に低下した(それぞれp<0.006、p<0.004、及びp<0.002)(図18)。
【0117】
結論: Copaxoneによる処置を行うと、大腸炎を罹患した動物の組織傷害は、免疫調節状態が変化することにより低減される。Copaxoneの投与は、T細胞CD4集団の構成、並びにTh1及びTh2サイトカインのプロファイルに影響を及ぼした。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】CCl4線維化誘発マウスにおけるAST及びALTの血清レベルを示す図である。CCl4線維化誘発マウスモデルにおいて、AST及びALTの血清レベルを測定して、肝傷害を評価し、治療効果を推定した。[略語: AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ALT:アラニントランスアミナーゼ、Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、u/l:ユニット/リットル]
【図2】CCl4線維化誘発マウスにおける肝傷害スコア及び肝線維化スコアを示す図である。病理学的分析及びBioquant(登録商標)解析により、CCl4で処置したすべての群において、ナイーブ動物に比べて、肝傷害及び肝線維化が有意に増大したことが明らかとなった。Copaxone処置群及びLinomycin処置群では、CCl4線維化誘発非処置群に比べて、線維化の有意な低減が見られた(P値は0.001未満)。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Hep.Inj.Sc.:肝傷害スコア、Inj.Sc.:傷害スコア、Fibr.Sc.:線維化スコア、%fibr.Ar.:肝線維化面積の百分率]
【図3a】ナイーブマウスのシリウスレッドF3B肝切片における肝組織線維化の病理学的検査の結果を示す図である。
【図3b】Copaxoneで処置したCCl4線維化誘発マウスのシリウスレッドF3B肝切片における肝組織線維化の病理学的検査の結果を示す図である。
【図4】CCl4線維化誘発マウスの肝臓病変面積中のコラーゲンの百分率による、肝組織線維化の評価を示す図である。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、%coll.Ar.:肝線維化面積中のコラーゲンの百分率]
【図5】CCl4線維化誘発マウスにおけるαSMAの発現量による、肝組織線維化の評価を示す図である。抗αSMA抗体を用いて、線維化マウス及びコントロールマウスの肝組織試料に対するウェスタンブロッティングを行った。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、αSMA:α平滑筋アクチン、KD:キロダルトン]
【図6】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓CD4及びCD8細胞集団の細胞数を示す図である。発現した脾臓CD4及びCD8細胞数を、脾臓リンパ球集団に対する相対値で示した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、%tot.lymp.:脾臓リンパ球集団に対する百分率]
【図7】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓CD4/CD8細胞集団の細胞数比を示す図である。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、Rat.:比]
【図8】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓NK細胞集団の細胞数を示す図である。NK細胞数を、脾臓CD45細胞集団に対する相対値で評価した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、%CD45:CD45細胞集団に対する百分率]
【図9】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓のNK aKIR:NK iKIR比を示す図である。aKIR、iKIR及び全NK細胞について別々に行った測定の結果から、aKIR:iKIR比を算出した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、NK aKIR:NK iKIR Rat.:NK aKIR:NK iKIR比]
【図10】CCl4線維化誘発マウスにおける肝臓CD4及びCD8細胞集団の細胞数を示す図である。肝臓CD4及びCD8細胞数を、肝臓リンパ球集団に対する相対値で示した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、%lymp.:肝臓リンパ球集団に対する百分率]
【図11】CCl4線維化誘発マウスにおける肝臓CD4/CD8細胞集団の細胞数比を示す図である。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Treat.:処置、Rat.:比]
【図12】CCl4線維化誘発マウスにおける肝臓NK細胞集団の細胞数を示す図である。NK細胞数を、肝臓CD45細胞集団に対する相対値で評価した。[略語: Copax.:Copaxone、%CD45:肝臓CD45細胞集団に対する百分率]
【図13a】大腸炎誘発マウスにおける大腸炎スコアを示す図であり、大腸炎誘発マウスにおける組織傷害の巨視的評価に関するものである。大腸炎誘発マウス及びナイーブコントロールにおいて、Copaxone処置マウス又は非処置マウスと比べて、大腸炎スコアを巨視的に評価した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図13b】大腸炎誘発マウスにおける大腸炎スコアを示す図であり、大腸炎誘発マウスにおける組織傷害の微視的評価に関するものである。大腸炎誘発マウス及びナイーブコントロールにおいて、Copaxone処置マウス又は非処置マウスと比べて、大腸炎スコアを微視的に評価した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図14a】ナイーブマウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図14b】Copaxoneで処置したナイーブマウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図14c】大腸炎誘発マウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図14d】Copaxoneで処置した大腸炎誘発マウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図15】大腸炎誘発マウスにおける脾臓CD3、CD4及びCD8細胞集団の細胞数を示す図である。脾臓CD3、CD4及びCD8細胞数を、脾臓リンパ球集団に対する相対値で示した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ、%CD45:脾臓CD45細胞集団に対する百分率]
【図16】大腸炎誘発マウスにおけるIL−4分泌CD4細胞亜集団及びIFN−γ分泌CD4細胞亜集団の細胞数を示す図である。IL−4分泌CD4細胞亜集団及びIFN−γ分泌CD4細胞亜集団の細胞数を、全CD4細胞集団に対する相対値で評価した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図17】大腸炎誘発マウスにおけるAPC集団の細胞数を示す図である。脾臓の抗原提示細胞数を、脾臓CD45細胞集団に対する相対値で示した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図18】大腸炎誘発マウスにおけるサイトカインIL−4、IL−10及びIFN−γの血清レベルを示す図である。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ、pg/ml:ピコグラム/ミリリットル]
【発明の分野】
【0001】
本発明は、肝線維化の治療における、免疫調節剤、特に酢酸グラチラマー(glatiramer acetate)(コパクソン(Copaxone)[コポリマー−1(Copolymer−1)としても知られている]、Teva社製)の、随意的にIL−2等の他の免疫活性物質と組み合わせた使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
本発明者らは、既に、IL−10によって減弱される肝線維化に、CD8リンパ球サブセットの増加、及びCD4リンパ球サブセットの減少が介在して関与していることを報告している[Safadi,R.ら、Poster #387、AASLD、Boston 2002、Safadi,R.ら、Oral Presentation #610、AASLD、Boston 2002、及びSafadi,R.ら、Gastroenterology、In Press 2004]。ラットインターロイキン10(rIL−10)を肝細胞で分泌するトランスジェニックマウスを作製し、2種の異なる動物モデルにおける、肝線維形成に対するサイトカインの持続的局所的な発現の影響を評価することにより、この問題にアプローチした。rIL−10の抗線維化作用を確認して、このサイトカインのリンパ球サブセットに対する影響を特徴付け、CD8リンパ球の特異的減少を確認した。最終的に、肝傷害を有する動物から単離したCD8リンパ球の線維形成活性を、ナイーブ動物への養子移植により試験した。しかし、NK細胞は、通常、抗原提示を行うCD4細胞及び樹状(CD11c陽性)細胞によって活性化される。マウスでは、NK細胞は、MHCクラスIa分子に特異的である、iKIR(抑制性キラー免疫グロブリン様受容体(inhibitory killing immunoglobulin receptor))及びaKIR(活性化KIR(activation KIR))を共に発現するが、細胞殺傷(killing)は標的細胞上のMHCクラスIaの減少時にのみ起こる。
【0003】
このように、本発明者らが用いた実験モデル(以下で詳述する。)において、NK細胞の抗線維化作用は、活性化HSCの死滅の増加を伴うNK細胞の活性化を介している。In vivoでは、線維形成に有利なCD4減少、及び線維形成に不利なNK細胞活性化という、相反する作用が見られる可能性がある。このような知見は、線維化の免疫介在に関する理解を著しく広め、CD4、CD8及びNKサブセットの操作が、線維化の治療的調節における潜在的オプションであることを示唆するものであり、本発明の基礎をなすものである。
【0004】
肝線維化は、肝臓における結合組織の蓄積の形で現れる。線維化は、原因にかかわらず、肝臓に対する慢性的な傷害の結果である。肝傷害への応答の際に、肝星細胞は分化転換又は活性化して、増殖性のマトリックス産生細胞になり、この細胞が線維化を生じさせる[Van Waes,L.及びLieber,C.S.、Gastroenterology.1977;73:646−650、Schuppan,D.ら、Semin.Liver Dis.2001;21:351−372]。活性化星細胞の主要なマーカーとしては、β−PDGF受容体、マトリックスメタロプロテイナーゼ−2(MMP−2)、細胞間接着分子1(ICAM−1)、及びα平滑筋アクチン(αSMA)が挙げられる[Van Waes及びLieber、1977、id ibid.、Schuppmanら(2001)id ibid.]。星細胞による線維形成は、トランスフォーミング成長因子β(TGFβ1)[Rojkind,M.ら、Gastroenterology 1979;76:710−719]、結合組織増殖因子(CTGF)[Friedman,S.L.ら、J.Biol.Chem.1989;264:10756−10764]等の線維化誘導性(profibrotic)サイトカイン、及びインターロイキン10、インターフェロンγ(IFNγ)等の抗線維化サイトカイン[McGuire,R.F.ら、Hepatology 1992;15:989−997、Friedman,S.L.、J.Biol.Chem.2000;275:2247−2250、Friedman,S.L.、ed.The Hepatic Stellate Cell.Vol.21.New York:Thieme;2001、Friedman,S.L.、Progress Liver Dis.1996;14:101−130、Gressner,A.M.、J.Hepatol.1995;22:28−36]の活性の反映である。IL−10の抗線維化活性は、培養星細胞の研究により示唆されている。この研究では、IL−10に対する中和抗体がマトリックスの蓄積を減少させ[McGuire,R.F.ら、1992、id ibid.]、実験用の肝炎動物にIL−10を外部投与すると、線維化が減弱し[Friedman,S.L.、(1996)id ibid.、Gressner,A,M.、(1995)id ibid.]、また、IL−10ノックアウトマウスにおいて、中毒性傷害に応答して、しばしば線維化の増大が見られる[Friedman,S.L.及びArthur,M.J.、J.Clin.Invest.1989;84:1780−1785、Gressner,A.M.ら、J.Hepatol.1993;19:117−132]。
【0005】
最近の研究では、サイトカインだけでなく、サイトカインを分泌する炎症細胞、例えば、肝マクロファージ(クッパー細胞)、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びCD4陽性ヘルパーT(Th)、CD8陽性サブセット等のリンパ球にも、焦点が当てられている[McGuireら、(1992)id ibid.;Friedman,S.L.(2000)id ibid.]。リンパ球サブセットはまた、Th1優勢及びTh2優勢のいずれかのものに大雑把に分類することができる[Wang,S.C.ら、J.Biol.Chem.1998;273:302−308]。例えば、Th1リンパ球サイトカインであるIFN−γは、強力な抗線維化活性を有する[Wangら(1998)id ibid.、Winwood,P.J.ら、Hepatology 1995;22:304−315]。インターフェロンγ産生Th1細胞のレベルの増加を示すC57BL/6マウスでは、比較的軽度の線維化が見られ、他方、主にTh2応答を示すBALB/cマウスでは、四塩化炭素に応答して重度の線維化が生じる[Wangら(1998)id ibid.、Yu,Q.及びStamenkovic,I.、Genes Dev.2000;14:163−176、Nieto,N.ら、Hepatology 1999;30:987−996]。更に、インターフェロンγ欠損の重症の複合免疫不全(SCID)マウスでは、野生型動物よりも著明な線維化が現れる[Winwoodら(1995)id ibid.]。これらのデータは、肝線維化が、種々の免疫細胞サブセットの応答に影響されること、及び、Th1/Th2サイトカインサブセットが、毒素に対する線維化応答から生じる肝傷害を調節することができることを示唆する。この種の研究が発端となって、マウス及びヒトにおける、線維化の危険性に関連する遺伝子座の探索が開始されている(そのような遺伝子座が、免疫応答を調節する遺伝子をコードしている可能性があるという仮定の下に行われている)[Nieto,N.ら、Hepatology 1999;30:987−996、Svegliati−Baroni,G.ら、Liver 2001;21:1−12]。
【0006】
免疫が介在する、ヒトの肝線維化の制御がますます重要視され、免疫抑制が重要な刺激条件として同定されている。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染した患者では、C型肝炎ウイルス(HCV)に同時感染すると、肝傷害の程度と関係なく、線維化の危険性が加速度的に高まる[Bachem,M.G.ら、J.Clin、Chem.Clin.Biochem.1989;27:555−565、Casini,A.ら、Hepatology 1997;25:361−367、Winnock,M.ら、J.Gastroenterol.Hepatol.1995;10:S43−S46]。同様に、肝硬変への進行は、HCVに慢性的に感染した肝移植患者(長期間の免疫抑制治療を必要とする。)において、自然感染の患者に比べて大きく加速し[Casiniら(1997)id ibid.、Winnockら(1995)id ibid.]、また、一部は、急速に進行する線維形成症候群(1年以内に再発性の肝硬変を招く可能性がある。)を発症する。[Gisler,M.L.ら、Science 1996;271:984−987]。
【0007】
線維化は、慢性肝傷害を有するほとんどすべての患者で生じる可逆的な瘢痕化応答である。最終的に、肝線維化は、結節形成及び器官収縮によって特徴付けられる肝硬変を招く。肝硬変の原因にはいくつかあり、先天性、代謝性、炎症性及び中毒性の肝疾患が含まれる。例として、住血吸虫症、特発性の門脈線維症、アルコール、メトトレキサート、イソニアジド、ビタミンA、アミオダロン、慢性のHBV及びHCV、エキノコックス(Echinococcus)、自己免疫性慢性肝炎、慢性受動性うっ血、ウィルソン病、遺伝性ヘモクロマトーシス、α1−アンチトリプシン欠損症、炭水化物代謝障害、原発性胆汁性肝硬変、続発性胆汁性肝硬変、嚢胞性線維症、胆道閉鎖症/新生児肝炎、先天性胆嚢嚢胞、非アルコール性脂肪性肝炎、及び静脈閉塞性疾患が挙げられる。すべて合わせると、標的となる肝線維化集団は、全世界で何千万の患者になる。従って、効果的な抗線維化療法の開発が非常に重要になる。このような療法の目的は、肝傷害部位における活性化肝星細胞(HSC)の蓄積を阻害し、細胞外マトリックスの沈着を予防することにある。このような手法の多くは肝線維化の実験モデルでは有効であるが、ヒトにおける有効性及び安全性はまだ分かっていない。これまで、ヒトにおける抗線維化剤として認められている薬物はない。
【0008】
星細胞活性化のパラダイムから、抗線維化療法の部位/標的を決定するための重要な枠組みが得られる[総説については、Bataller,R.及びBrenner,D.A.、Semin Liver Dis.2001;21:437−452を参照のこと]。このような戦略には、(A)原疾患を治療して、傷害を予防すること、(B)星細胞活性化を刺激するのを避けるために、炎症又は宿主応答を低減させること、(C)星細胞活性化を直接下方制御すること、(D)星細胞の増殖応答、線維形成応答、収縮応答及び/又は炎症誘発応答を無効にすること、(E)星細胞のアポトーシスを刺激すること、並びに(F)マトリックスプロテアーゼを生成する細胞を刺激し、そのインヒビターを減少させ、或いはマトリックスプロテアーゼを直接投与することにより、瘢痕マトリックスの分解を増大させることが含まれる。
【0009】
肝線維化及び肝硬変は、どのような原因から生じたものであっても、肝細胞癌(HCC)の主要な原因となる。HCCは、主に肝硬変の患者に合併症として生じる腫瘍群のうちの1つである。外科的切除、化学塞栓、腫瘍内へのアルコール注入等の対症療法により生存期間が延長されるが、一般に患者の大多数の予後は依然改善されてない[Farmer D.G.ら、Ann.Surg.1994;219:236−247]。HBVが関与するHCCはHBsAgを細胞表面に発現するが、これは、特定の状況下で腫瘍関連抗原として働く可能性がある[Shouval D.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988;85:8276−8280]。
【0010】
サイトカインを用いて培養した肝臓MNCから精製された、CD56陽性T細胞及びNK細胞は、HuH−7 HCC細胞に対して強力な細胞毒性を示し、他方、同様に精製された通常のT細胞は、そのような細胞毒性を示さないが、このことは、硬変肝におけるCD56陽性T細胞及びNK細胞の数の減少が、それらの細胞のHCCに対する感受性に関与している可能性があることを示唆する[Kawarabayashi,N.ら、Hepatology.2000;32(5):962−9]。NK細胞活性は、HCC患者において、コントロール群に比べて有意に低下するが、このことは、HCC患者における肝切除後の再発及び予後を予測するのに、手術前のNK細胞活性が役立つことを示唆する[Taketomi Aら、Cancer.1998;83(1):58−63]。
【0011】
インターロイキン2(IL−2)は、T細胞増殖因子として十分認められている。IL−2は、転移性黒色腫、急性骨髄性白血病、及び転移性腎細胞癌を治療するための有望な免疫療法剤である。高用量のIL−2レジメンが黒色腫及び腎細胞癌の治療において臨床上有利であるが、用量規定毒性が重いため、広範な患者群において、臨床使用が制限されている。低用量のIL−2療法は、黒色腫では、期待外れの臨床的寛解率(clinical response rate)しか得られていない。低用量のIL−2に対する寛解率は、腎細胞癌の方が良かったが、このような反応の質は、高用量IL−2療法の場合と比べて、依然として懸念される。化学療法レジメン(生化学療法)にIL−2を追加すると、転移性黒色腫患者において、全体として最大60%の寛解率が見られたが、これはまだ、生存率の改善が確実になったと解釈されていない。IL−2ベースのレジメンを更に改変した場合、又はIL−2に新たな薬剤を追加した場合に、より良い抗腫瘍応答が生じ、生存率が改善されるかどうかは、まだ確認されていない。
【0012】
IL−2は、切除不能HCCの、有効かつ耐容性が良好な治療剤と考えられている。腎細胞癌及び黒色腫のIL−2による治療は、最初は、毒性の高さ故に、治療関連死亡を伴っていた。但し、IL−2は、適切な状況下であれば、安全に投与することができる。低用量のIL−2は、切除不能肝細胞癌の、有効かつ耐容性が良好な治療剤と考えることができる。肝硬変を基礎とする進行HCCが組織学的に確認されている1組の患者18例(男性14例及び女性4例、年齢中央値66歳、範囲49〜82歳)において、IL−2が長期間、超低用量(増悪するまでは1MIU/d)で持続的に皮下投与された後、中央値19.5か月の経過観察期間が報告された。2例で完全寛解(腫瘍消散(tumor resolution)と定義される。)が観察され(11.1%)(それぞれ35か月及び46か月持続した)、一例で部分寛解(5.5%)が記録された(全寛解率16.6%、95%CI:0〜33.8%)。13例の患者(72.3%、95%CI:61.6〜82.7)で、疾患の安定状態が少なくとも4か月続き、これらの患者のうち一例では、肺転移の完全寛解が得られた。無増悪期間の中央値は15.3か月であった(95%CI:10〜33)。全生存期間の中央値は24.5か月であった(95%CI:12〜43)。2例の患者(11.1%)で治療中に増悪した。毒性は局所的なものにすぎなかった(通常は注射部位の疼痛及び水疱)[Palmieri,G.ら、Am.J.Clin.Oncol.2002;25(3):224−6]。一部の癌患者の治療に、インターロイキン2を用いた腫瘍浸潤リンパ球(TIL)へのEx vivo刺激が用いられており、これが大きな成功を収めている。6例の肝細胞癌(HCC)患者から得られた腫瘍浸潤リンパ球の細胞殺傷活性が、自己単球由来の樹状細胞(DC)を用いて増強された。自己樹状細胞(同じ患者からのもの)は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)及びインターロイキン4(IG−4)の存在下で6日間培養したCD14陽性単球から生成した。これらのプロフェッショナル抗原提示細胞には、全自己肝腫瘍ライセートがパルスされた(pDC)。TILは、pDC又はパルスしていない(unpulsed)DCと共培養された。TILの細胞毒性は、標準の細胞毒性試験において、TILが標的腫瘍細胞K652、Daudi細胞株及び同種HCC細胞を溶解することができるかどうかで評価された。in vitroで培養された標的腫瘍細胞の腫瘍浸潤リンパ球による溶解は不十分であり、T細胞の反応性低下が示された。対照的に、Daudi(9.15%+/−7.5)及び同種HCC(18.2%+/−9.2)の標的腫瘍に対するHCC由来TILの細胞殺傷活性は、pDCで刺激すると、有意に増強することができた(Daudi:38%+/−6.8、同種のHCC:55%+/−10)。K562に対するTILの細胞殺傷活性は、pDCの影響を受けなかった。このように、in vitroにおけるHCC由来TILの低い細胞毒性プロファイルは、腫瘍ライセートをパルスした樹状細胞によって増大させることができる。従って、養子免疫療法で用いると、in vivoで、より効果的である可能性がある[Friedl,J.ら、Cancer Biother Radiopharm.2000;15:477−86]。
【0013】
炎症性腸疾患(IBD)は、胃腸管の一般的な免疫介在性疾患である。Th1炎症性サブタイプとTh2抗炎症性サブタイプの間の免疫応答の不均衡は、このような障害の発生に関与している[Podolsky DK.New Engl J Med.1991;325:928−935、Mizoguchi.A.ら、J Exp Med 1996;183:847−856、Adorini L.ら、Immunol.Today 1997;18:209−211]。実験的大腸炎及びIBD患者のいずれにおいても、上記疾患はTh1媒介性の免疫障害であり、大腸に対する、生涯に渡る炎症応答を引き起こす。IFN−γ等の炎症性サイトカインの分泌については、文献[Strober W.ら、Immunol Today.1997;18:61−64]に記載がある。IL−10等の抗炎症性サイトカインは、Th1媒介性サイトカインの炎症作用を下方制御し、それにより上記疾患を緩和する[Neurath MF.ら、J Exp Med.1996;183:2605−2616、Madsen KL.ら、Gastroenterology.1997;113:151−159、Van Deventer Sander J.ら、Gastroenterology.1997;113:383−389]。
【0014】
IBDの発生には、毒性、伝染性、又は免疫介在性の作用の結果である、特異的な腸粘膜のエピトープの暴露が関与している[Hibi S.ら、Clin Exp Immunol.1983;54:163−168、Das KM.ら、Gastroenterology.1990;98:464−469、Podolsky DK.New Engl J Med.1991;325:928−935、Dasgupta A.ら、Gut.1994;35:1712−1717、Neurath MF.ら、J Exp Med.1995;182:1281−1290]。このような潜在性の抗原は、能動自己免疫による炎症性応答を刺激する[Takahashi F.ら、J Clin Invest.1985;76:311−318、Z’graggen K.ら、Gastroenterology.1997;113:808−816]。IBDを有するヒト、及びTNBSで誘発された実験的大腸炎を有する動物のいずれにおいても、上記疾患はTh1型免疫介在性障害である[Mizoguchi A.ら、J Exp Med.1996;183:847−856、Neurath MF.ら、J Exp Med.1995;182:1281−1290]。炎症を起こした粘膜において刺激された細胞は、IFN−γ及びIL−2の産生量の増加、及びIL−4の産生量の減少を引き起こし、それにより炎症細胞を誘引し、粘膜構造を破壊する。対照的に、IL−10等の抗炎症性サイトカインは、Th1サイトカインの炎症誘発作用を下方制御し、場合により上記疾患を緩和する[Madsen KL.ら、Gastroenterology.1997;113:151−159]。
【0015】
酢酸グラチラマー(Copaxone(登録商標))は、4種のアミノ酸のランダムな混合物からなる合成コポリマーであり、これは、再発寛解型多発性硬化症(RRMS)に特徴的な、CNSに対する自己免疫応答を改変することができる。この自己免疫反応は、CNSの炎症、及び脱髄を引き起こし、最終的に軸索を消失させる。RRMS患者に対する3種の無作為二重盲検において、酢酸グラチラマーの皮下投与(20mg/日)は、平均再発率、非再発患者の割合、及び磁気共鳴映像法[MRI]スキャンで見られるガドリニウム造影病巣の数から見て、極めて効果的であることが示されている。酢酸グラチラマーはまた、一連のMRI測定を用いた欧州/カナダの研究における評価において、疾患の活動性及び疾患の負担を有意に低減させることも示されている。酢酸グラチラマーで治療されたRRMS患者では、障害が減弱される可能性がはるかに高く、全体的な障害状態は大きく改善された。酢酸グラチラマーは通常、耐容性が良好である。すなわち、最もよく報告されている治療関連有害事象は、局所的な注射部位反応、及び注射後の一過性全身反応であり、いずれの反応も通常、軽度で自己制限的なものであった。酢酸グラチラマーは、インターフェロンβでRRMSを治療された患者で報告されている、インフルエンザ様症候群又は中和抗体を伴わない。利用可能なデータ及び最新の管理ガイドラインに基づくと、酢酸グラチラマーは、RRMS患者の治療のための有用な第一選択薬である[Simpson,D.ら、2002;16(12):825−850、BioDrugs 2003;17(3):207−10]。
【0016】
酢酸グラチラマー(Copaxone、Teva社製)は、実験的自己免疫性脳脊髄炎における樹状細胞の調節を通じて、Th2 CD4細胞の発育を促進し、IL−10の産生を増加させることが報告されている[Copaxone:Vieira,P.L.ら、J.Immunol.2003]。
【0017】
酢酸グラチラマーは、移植片対宿主病を予防し、免疫拒絶の種々の症状を妨げる。皮膚及び甲状腺の移植アッセイの2種の移植系において、酢酸グラチラマー処置は、皮膚移植片の生存期間を延長し、甲状腺移植片の機能的な悪化を阻害した。酢酸グラチラマーは、刺激性の同種細胞と共にin vitroでインキュベートすると、移植片特異的なT細胞株の増殖、並びにそのインターロイキン2及びインターフェロンγの分泌を阻害した。酢酸グラチラマー処置は、移植片に対するTh1応答を阻害し、酢酸グラチラマー及び移植片細胞に応答したTh2のサイトカイン分泌を誘発し、移植片の生存期間及び機能の改善をもたらした[Aharoni,R.ら、Transplantation.2001]。
【0018】
本発明の目的である、肝線維化の治療に有効な薬剤の探索において、本発明者らは、マウスの肝線維形成に対するCopaxoneの影響をin vivoで調査した。
【0019】
更に、これは本発明の別の目的であるが、随意的にIL−2と組み合わせたCopaxoneによる抗線維化免疫調節は、線維化関連HCCに対して拮抗的に作用しうることが示唆されている。
【0020】
別の一態様では、炎症性腸疾患に罹患した患者へのCopaxoneの投与は、新たな治療戦略を生み出す可能性がある。
【0021】
本発明の上記その他の目的は、説明が進むにつれて明らかになる。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、肝線維化を治療する方法であって、それを必要とする個体に免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法に関する。
【0023】
より詳細には、本発明は、肝線維化を治療する方法であって、それを必要とする個体に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤を投与することを含む方法に関する。
【0024】
免疫調節剤としては、酢酸グラチラマーが好ましい。
【0025】
本発明の方法は特に、ヒトの治療に使用されるものである。
【0026】
本発明は更に、肝線維化を治療するための医薬組成物の調製における免疫調節剤、特に肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤の使用に関する。
【0027】
この態様において、本発明は、好ましくは、肝線維化を治療するための医薬組成物の調製における酢酸グラチラマーの使用に関する。
【0028】
更に、本発明は、肝線維化の治療に使用する免疫調節剤、特に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす薬剤、最も好ましくは酢酸グラチラマーに関する。
【0029】
更に別の態様において、本発明は、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こすことにより肝線維化を治療する方法であって、このような治療を必要とする個体に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤を投与することを含む方法に関する。投与すべき免疫調節剤としては、酢酸グラチラマーが好ましい。
【0030】
免疫調節剤は、線維化肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こし、それにより肝線維化を低減させるために使用される。免疫調節剤としては、酢酸グラチラマーが好ましい。
【0031】
更なる一態様において、本発明は、肝線維化の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、(a)被験物質を提供するステップと、(b)線維化を誘発させたモデル動物、及び非線維化モデル動物を提供するステップと、(c)前記被験物質を前記線維化動物及び非線維化動物に投与するステップと、(d)前記動物から肝組織の試料を採取するステップと、(e)前記試料における、CD4:CD8比、NK細胞数、NK aKIR:NK iKIR比、及び線維化組織の面積、並びに少なくとも1種の一般的な線維化パラメータ、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、(f)線維化を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非線維化動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇、及び/又は線維化組織の面積の縮小、及び/又は前記一般的な線維化パラメータの低下が、前記被験物質が肝線維化の治療に有用であることを示す方法に関する。
【0032】
一般的な肝傷害パラメータとしては、AST、ALT、及びIshak傷害スコア(Ishak injury score)が挙げられる。しかし、線維化パラメータは、Ishak線維化スコア(Ishak fibrosis score)、コンピューター(computerized)Bioquant(登録商標)による定量、及びウェスタンブロッティング分析を用いたα平滑筋アクチンの評価である。
【0033】
別の態様において、本発明は、肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つを治療する方法であって、それを必要とする個体に、肝組織又は腸組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす少なくとも1種の免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法に関する。
【0034】
好ましくは、ヒト個体を治療するための免疫調節剤は、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである。
【0035】
より具体的には、肝組織又は腸組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤、望ましくは随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーは、肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つを治療するための医薬組成物の調製に使用することができる。
【0036】
略語:
本願明細書では以下の略語を用いる。
iKIR:抑制性キラー免疫グロブリン様受容体(Inhibitory killing immunoglobulin receptor)
aKIR:活性化キラー免疫グロブリン様受容体(Activation killing immunoglobulin receptor)
NK:ナチュラルキラー細胞
HSC:肝星細胞
I.P.:腹腔内
AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
ALT:アラニントランスアミナーゼ
ECM:細胞外マトリックス
HCC:肝細胞癌
HSC:肝星細胞
【発明の詳細な説明】
【0037】
下記の実施例で示すように、本発明者らが用いた実験モデルにおいて、ナチュラルキラー(NK)細胞の抗線維化作用は、刺激されたHSCの死滅の増加を伴うNK細胞の活性化を介している。すなわち、本発明者らが用いた実験モデルにおいて、NK細胞の抗線維化作用は、活性化HSCの死滅の増加を伴うNK細胞の活性化を介している。In vivoでは、線維形成に有利なCD4減少、及び線維形成に不利なNK細胞活性化という、相反する作用が生じる可能性がある。このような知見は、免疫系の線維化プロセスへの関与に関する理解を著しく広め、CD4、CD8及びNKサブセットの操作が、線維化を調節する治療的アプローチにおける潜在的オプションであることを示唆する。
【0038】
肝線維化の治療及び/又は予防に使用可能な薬剤を見出すことを目的として、本発明者らは、線維化肝組織においてCD4:CD8比を上昇させ、それによりNK細胞数を増加させると、線維化が抑制される可能性があることを提唱した。
【0039】
本研究において、本発明者らは、線維化を誘発させたマウスを、酢酸グラチラマー等の免疫調節剤で治療すると、CD4:CD8比が増大し、いくつかのスコアで測定される疾患状態が改善されることを見出した。
【0040】
下記の実施例、特に図2、図4及び図5に示すように、線維化は、線維化の程度を評価するための一般的なパラメータである、Ishak肝線維化スコアリング及びコンピューターBioquant(登録商標)解析によって測定したところ、すべてのCCl4誘発群で有意に増大した。酢酸グラチラマーで処置した動物では、有意に低いスコアが示された。また、Ishak肝傷害スコアリングにおいても、線維化は、線維化誘発後、すべての線維化群で有意に増大したが、酢酸グラチラマー処置群及びリノマイシン(linomycin)処置群で有意に低くなった。
【0041】
図7で見られるように、CD4:CD8比は、酢酸グラチラマー処置群において、コントロール群(CCl4誘発非処置線維化群)に比べて有意に上昇した。NK細胞の総数も、処置群(酢酸グラチラマー群及びリノリン(linolin)群)で増加した(図8)。更に、処置群では、NK aKIR:NK iKIR比の顕著な変化が観察された(図9)。
【0042】
このように、本発明者らは、免疫調節剤、特に酢酸グラチラマー(コパクソン(Copaxone))は、用いた動物モデルにおいて顕著な抗線維化作用を有することを明らかにした。この作用が、CD4:CD8比の上昇、及びこれによるNK細胞の総数の増加を介していたことが、理論的制約なしに示唆される。これらのNK細胞は、活性化星細胞を抑制するように刺激され、活性化されることによって、線維化を低減させた。
【0043】
このように、本発明は、肝線維化の治療における免疫調節剤、特に酢酸グラチラマーの使用に関する。更に、本発明は、必要な患者に、本発明の免疫調節剤を治療有効量投与することにより肝線維化を治療する方法、及び上記疾患を治療するための上記薬剤を含有する組成物を提供するものである。
【0044】
本発明の免疫調節剤としては、肝組織、特に線維化肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こすことができるものが特に好ましい。
【0045】
薬剤としては、酢酸グラチラマーが最も好ましい。
【0046】
本発明の医薬組成物は、本発明の免疫調節剤、特に酢酸グラチラマーを有効成分として含有し、更に、別の治療剤、及び/又は薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は希釈剤を随意的に含有してもよい。
【0047】
医薬組成物の調製は当技術分野で周知であり、また、多くの論文及びテキストに記載されている。例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Gennaro A.R.ed.、Mack Publishing Co.、Easton、PA、1990、特にpp.1521−1712を参照のこと(当該文献は、参照することにより、本明細書にそのまま組み込まれる)。
【0048】
本発明の医薬組成物の投与、及び用量決定は、適切な医療慣行に従って行うことができる。投与は、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射等、種々の方法で実施することができる。但し、経口投与等、他の投与方法も可能である。
【0049】
本発明の組成物は、遊離型の活性物質を含有し、治療対象の個体に直接投与することができる。或いは、本発明の組成物は、活性分子のサイズに応じて、担体と結合させて投与するのが望ましい。治療製剤は、通常のいかなる投与剤形でも投与することができる。製剤は通常、1種又は複数の許容される担体と共に、少なくとも1種の上述の有効成分を含有する。
【0050】
各担体は、他の成分と適合し、かつ患者に無害であるという意味で、薬学的に、かつ生理学的に許容されるものである必要がある。製剤には、経口、直腸、経鼻、又は非経口(皮下、筋肉内、腹腔内(IP)、静脈内(IV)、及び皮内を含む。)投与に適したものが含まれる。製剤は、好都合なことに単位剤形で提供することができ、また、製薬学の分野で周知のいかなる方法によって調製することもできる。そのような化合物のすべてについて、性質、有効性、供給源、及び投与方法(個体において望ましい効果を生じさせるのに必要な有効量を含む。)は、当技術分野で周知であり、本明細書で更に説明する必要はない。
【0051】
より具体的には、本発明の活性薬剤又はそれを含有する組成物は、経口投与、静脈内投与、非経口投与、経皮投与、皮下投与、腟内投与、鼻腔内投与、粘膜投与、舌下投与、局所投与、及び直腸投与、並びにそれらの任意の組合せから選択される経路によって投与することができる。これらの免疫調節剤又は組成物は、IV注射又はIP注射することが好ましい。
【0052】
注射用に適した薬剤形態としては、無菌の水溶液剤又は分散剤、並びに、無菌の注射用溶液剤又は分散剤を即時調製するための無菌の散剤が挙げられる。いずれの場合も、薬剤形態は、無菌でなければならず、また、容易に注射可能な程度の流動性を有しなければならない。組成物は、製造及び保存の条件下で安定でなければならず、また、細菌、菌類等の微生物の汚染作用から保護されなければならない。
【0053】
微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等により実現することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含有するのが好ましい。吸収遅延剤を組成物中で用いることにより、注射用組成物の吸収を引き延ばすことができる。
【0054】
無菌の注射用溶液剤の調製は、必要量の活性化合物を、適切な溶媒中に、必要に応じて、上に列挙した他の種々の成分と共に加え、次いで、ろ過滅菌することによって行う。分散剤の調製は、一般に、滅菌した種々の有効成分を、ベースとなる分散媒と、上に列挙したものから選ばれる他の必要な成分と、を含有する無菌のビヒクル中に加えることによって調製する。
【0055】
無菌の注射用溶液剤を調製するための無菌散剤の場合、調製方法としては、予めろ過滅菌した溶液から、有効成分及びその他の所望成分の散剤を生み出す、真空乾燥技術及び凍結乾燥技術が好ましい。
【0056】
本発明の医薬組成物は通常、緩衝剤、及びそのオスモル濃度を調節する薬剤を含有し、更に、当技術分野で知られている1種又は複数の薬学的に許容される担体、賦形剤及び/又は添加剤を随意的に含有する。また、この組成物は、補助的な有効成分を含有してもよい。担体としては、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、それらの適当な混合物、植物油等の、溶媒又は分散媒を用いることができる。適正な流動性を維持するには、例えば、レシチン等のコーティング剤を用いたり、必要な粒子サイズを維持したり(分散剤の場合)、界面活性剤を用いたりすればよい。
【0057】
本明細書で用いる「薬学的に許容される担体」には、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤、抗真菌剤等が含まれる。このような媒体及び薬剤を薬学的に有効な物質のために用いることは、当技術分野で周知である。通常のいかなる媒体又は薬剤も、有効成分と不適合なものでない限り、治療組成物中で用いることが想定されている。
【0058】
用量は、体重、年齢、性別、疾患の重症度、及び耐容性に応じて決まり、主治医によって決定される。ヒトにおける用法は、好ましくは、2年間、1日1回、約15〜約20mgを皮下注射するか、又は1日当たり約5〜約50mgを経口投与することであり、最も好ましくは、2年間、1日1回、20mgを皮下注射することである。
【0059】
本発明はまた、肝障害を治療又は予防する方法であって、本発明の薬剤、又は本発明の医薬組成物、或いはその好ましい実施形態の1つを、それを必要とする患者に投与することを含む方法に関する。
【0060】
本発明はまた、肝臓の障害又は疾患を治療するための治療剤を、このような治療を必要とする患者に投与する方法であって、前記患者に本発明の活性薬剤及び前記治療剤を投与するステップを含む方法に関する。上記治療剤の投与は、本発明の免疫調節剤の投与と同時に行っても、また、その前後いずれに行ってもよい。
【0061】
本発明者らの知見を利用して、肝線維化の治療に使用できる治療剤をスクリーニングすることができる。すなわち、更なる態様において、本発明は、肝線維化の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、(a)被験物質を提供するステップと、(b)線維化を誘発させたモデル動物、及び非線維化モデル動物を提供するステップと、(c)前記被験物質を前記線維化動物及び非線維化動物に投与するステップと、(d)前記動物から肝組織の試料を採取するステップと、(e)前記試料における、CD4:CD8比、NK細胞数、NK aKIR:NK iKIR比、線維化組織の面積、及び一般的な線維化パラメータ、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、(f)線維化を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非線維化動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇、及び/又は線維化組織の面積の縮小、及び/又は前記一般的な線維化パラメータの低下が、前記被験物質が肝線維化の治療に有用であることを示す方法に関する。
【0062】
一般的な線維化パラメータとしては、例えば、Ishak肝線維化スコアリング、コンピューターBioquant(登録商標)解析、及びヒドロキシプロリン(HP)が好ましいが、線維化の改善を示す適切な評価項目であれば、いかなるものを本発明のスクリーニング方法で用いてもよい。AST、ALT、及びIshak傷害スコアは、肝傷害パラメータとして認められている。
【0063】
本発明のスクリーニング方法では、前記コントロール、すなわち非線維化動物の代わりに、又はそれに加えて、肝線維化スコアの基準値を比較のために用いてもよい。
【0064】
また、本発明のスクリーニング方法は、適当な動物モデル及び臨床パラメータを用いた場合にHCC及びIBDの治療に有利な結果を示すことができる免疫調節剤を同定するために用いることもできる。
【0065】
継続的な肝細胞傷害を伴う慢性活動性肝炎は、肝細胞癌(HCC)を発症する危険性を劇的に増大させる。慢性炎症プロセスは、肝臓の細胞の死滅及び再生を伴い、最終的に肝細胞における形質転換変異(transforming mutation)を招く可能性がある。HCC細胞における共通の事象であるウイルスDNAの組込みは、宿主細胞の遺伝子制御を妨害し、悪性化(malignant degeneration)を招く可能性がある。マウスにおいて、HBV感染は、HBV遺伝子の直接的微量注入によって克服することができる。B型肝炎表面抗原(HBsAg)遺伝子が組み込まれ、高レベルで発現すると、肝細胞傷害及びHCCが発現する。また、B型肝炎ウイルスXタンパク質(HBx)遺伝子のみが高レベルで発現すると、肝癌を引き起こす可能性がある。従って、HCCの動物モデルとしては、種々のHBVトランスジェニックマウスを用いることができる。HCVトランスジェニックマウスもHCCの適当なモデルである。
【0066】
肝損傷は、次の病理学的パラメータ:門脈浸潤、肝内転移、肝静脈浸潤、漿膜浸潤、腫瘍被膜の欠如、又は被膜浸潤の存在、をスコア化することによって評価することができる。或いは、チャイルドピューステージ(Child−Pugh stage)、腫瘍の形態及び拡大、血清α−フェトプロテイン(AFP)レベル、及び門脈血栓症パラメータを含むCLIPスコアを考慮することもできる。
【0067】
IBDに関しては、トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)の直腸内投与によって誘発された実験的大腸炎の動物モデルが好ましい。大腸損傷は、細胞死、組織崩壊及び浮腫の程度の違いによって明らかとなる。これらのパラメータは、組織固定及びH&E染色の後に測定することができる。組織学的損傷スコア(histological damage score)は、例えば、クーパー(Cooper)の陰窩スコアリング(crypt scoring)の方法によって決定することができる。[Cooperら、Lab.Invest.1993;69:238−249]。
【0068】
In vitroスクリーニング方法も、本発明の範囲内のものとして想定されている。
【0069】
更なる一態様において、本発明は、HCCの治療における酢酸グラチラマーの、随意的にIL−2と組み合わせた使用に関する。上述の通り、肝線維化及び肝硬変は、どのような原因から生じたものであっても、肝細胞癌(HCC)の主要な原因となる。下記の実施例に示すように、CD4/CD8比の減少は線維形成に有利に働くが、NK細胞は、活性化HSCのアポトーシスの増加を介する抗線維化作用を有する。動物モデルでは、酢酸グラチラマー処置の後、NK細胞及びCD4/CD8比が増加し、同時に線維化が低減した。HIV患者において、IL−2処置がCD4数を増加させること、及びNK細胞が抗HCC作用を有することが示唆されたことから、線維化が関与する肝臓腫瘍に対する抗腫瘍免疫応答は、NK細胞誘発及びCD4/CD8比を増大させることによって改善可能であることが提唱される。B型肝炎ウイルス(HBV)が関与するHCCは、HBsAgを細胞表面上に発現する。そして、このHCCは、腫瘍関連抗原として働く可能性がある。提案する治療の詳細は、下記の実施例に示す。随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーは、NK細胞の刺激及び絶対数の増大、及びCD4/CD8比の上昇を介する、HCCに対する十分な抗腫瘍作用を示す可能性がある。各化合物の作用を試験して、それらを組み合わせた処置の、ありうる相乗効果について知ることができる。また、各化合物の作用を試験して、それらの作用が直接的な抗腫瘍作用かどうか、或いはそれらの作用が抗線維化作用を介するものかどうかを確認することができる。いずれの化合物もヒトの臨床において他の適応症に使用されており、安全性及び耐容性が十分認められているので、この研究の結果は、特にHCCに関して、また、一般に他の腫瘍の多くに関しても、新たな治療的アプローチを切り開く可能性がある。
【0070】
本発明のこの態様では、HCCの治療及び/又は予防のための医薬組成物であって、酢酸グラチラマーを含有し、更に、IL−2等の別の免疫調節剤(IL−2に限定されない。)を随意的に含有する医薬組成物も想定されている。酢酸グラチラマーを単独で、又はIL−2と組み合わせて用いて、HCCを治療する方法も包含される。
【0071】
更なる一態様において、本発明は、炎症性腸疾患、主に潰瘍性大腸炎及びクローン病の治療における酢酸グラチラマーの、随意的にIL−2と組み合わせた使用に関する。炎症性腸疾患は主に大腸の炎症性傷害であること、及び酢酸グラチラマーが線維化モデルの肝傷害を低減させたことから、酢酸グラチラマー及びIL−2は、単独で、又は組み合わせることによって、NK細胞の刺激及び絶対数の増大、及びCD4/CD8比の上昇を介する、炎症性腸疾患に対する十分な抗炎症作用を示す可能性がある。各化合物の作用を試験して、それらを組み合わせた処置の、ありうる相乗効果について知ることができる。また、各化合物の作用を試験して、それらの作用が直接的な抗炎症作用かどうかを確認することができる。いずれの化合物もヒトの臨床において他の適応症に使用されており、安全性及び耐容性が十分認められているので、この研究の結果は、特に炎症性腸疾患に関して、また、一般に他の炎症性疾患の多くに関しても、新たな治療的アプローチを切り開く可能性がある。
【0072】
本発明のこの態様では、炎症性腸疾患の治療及び/又は予防のための医薬組成物であって、酢酸グラチラマーを含有し、更に、IL−2等の別の免疫調節剤(IL−2に限定されない。)を随意的に含有する医薬組成物も想定されている。酢酸グラチラマーを単独で、又はIL−2と組み合わせて用いて、炎症性腸疾患を治療する方法も包含される。
【0073】
本明細書を通じて、種々の刊行物が引用される。このような刊行物は、そこで引用された刊行物も含めて、参照することにより、本明細書にそのまま組み込まれる。
【0074】
開示及び説明が行われているが、本発明が、本明細書で開示された特定の実施例、処理ステップ及び材料に限定されるわけではなく、このような処理ステップ及び材料が、いくらか異なるものとなる可能性があることは理解されるはずである。また、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等物のみによって限定されるので、本明細書で用いる用語が、特定の実施形態を説明する目的で用いられているにすぎず、限定的なものとして意図されていないことも理解されるはずである。
【0075】
本明細書及び添付の特許請求の範囲では、単数形「a」、「an」、及び「the」は、内容上明確に断っていない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。
【0076】
本明細書及び添付の特許請求の範囲を通じて、「comprise(含有する、含む)」という語、及び「comprises」、「comprising」等の変形体は、文脈上他の意味に解すべき場合を除いて、記載した1つの完全体(integer)若しくはステップ、又は完全体若しくはステップの群を包含することを意味すること、及び、他のいかなる完全体若しくはステップ、又は完全体若しくはステップの群も除外することを意味するわけではないことが理解されるはずである。
【0077】
以下の実施例は、本発明の態様を実施する際に本発明者らが用いた技術の代表例である。これらの技術が、本発明を実施するための好ましい実施形態を例示するものであること、及び、当業者が、本明細書の開示に照らして、本発明の範囲から逸脱することなく、多くの改変を行うことが可能であることを認識することは理解されるはずである。
【実施例】
【0078】
(材料)
四塩化炭素(CCl4、Sigma社製、C−5331)、組換えIL−2(rIL−2)、酢酸グラチラマー(Copaxone、Teva社製)。2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS、Sigma Diagnostics社製、セントルイス、米国ミズーリ州)。
【0079】
動物: 次の3群のBALB/cマウス:A)野生型(WT)、B)重症複合免疫不全症(SCID)マウス(B細胞及びT細胞が欠失)、及びC)SCIDベージュ(Beige)(B細胞、T細胞及びNK細胞が欠失)、を用い、これらを第4の非処置WT群と比較した。C57BL/6マウス(野生型及びSCID)も用いた。動物の取扱いは、米国国立衛生研究所のガイドラインに従った。
【0080】
実験計画:
(I)肝線維化におけるNK細胞の役割:
本研究では、次の3群のBALB/cマウス(8週齡、雄):A)野生型(WT)、B)重症複合免疫不全症(SCID)マウス(B細胞及びT細胞が欠失)、及びC)SCIDベージュ(Beige)(B細胞、T細胞及びNK細胞が欠失)、に、四塩化炭素(CCl4)を4週間腹腔内投与することにより肝線維化を誘発させ、これらを第4の非処置WT群と比較した。肝線維化の評価は、肝臓エキスから得たα平滑筋アクチン(α−SMA)のウェスタンブロッティングによって、また、シリウスレッド(Sirius Red)染色した肝組織切片(動物1個体当り36個)をBioquant(登録商標)形態計測システムで分析することによって行った。FACS解析のために、非処置WT動物及びCCl4線維化WT動物から、脾細胞、肝内リンパ球(IHL)及び肝星細胞(HSC)を単離した。
【0081】
(II)肝線維化の免疫療法:
野生型C57Bl/6マウス(8週齡、雄)に、CCl4を6週間IP投与することにより肝線維化を誘発させた。また、最後の2週間に、動物には、200マイクログラム/日のCopaxoneをIP投与し(A群)、又は1mg/mlのLinomycinを飲料水で投与し(B群)、又は生理食塩水で処置し(C群)、ナイーブマウス(D群)と比較した。各群には8匹の動物が含まれた。肝線維化の評価は、Ishak Knodellスコア[Knodell,R.G.ら、Hepatology 1981;1(5):431−5]及びヒドロキシプロリンによって、また、シリウスレッド染色した肝組織切片(動物1個体当り36個)をBioquant(登録商標)形態計測システムで分析することによって行った。FACS解析のために、すべての動物群から脾細胞を単離した。肝線維化と、脾細胞におけるCD4、CD8、NK細胞、iKIR及びaKIRの発現と、の相関関係を評価した。
【0082】
(III)肝細胞癌の免疫療法:
HCC動物モデルにおける脾細胞の再構成に続いて、マウスに、(A)Copaxone、(B)IL−2、又は(C)Copaxone及びIL−2、による処置を2週間行い、或いは(D)追加処置を行わない。これらの処置プロトコールを、肝線維化を誘発させたマウスに適用し、4つの追加群(それぞれ(E)、(F)、(G)及び(H))を設けた。各群は10匹の雄の動物を含む。
【0083】
脾細胞の再構成に続いて、マウスの生存及び腫瘍サイズについて2週間観察する。ケタミン/キシラジンによる麻酔の後、動物を屠殺し、CCl4の最終投与の3日後に、血清、肝臓及び細胞を採取する。血液試料を採取し、HBsAg、抗HBs(下記参照)、及びAFPのレベルを検査するまで−20℃で凍結させる。脾細胞亜集団は、CD4及びCD8、NKマーカー、並びにキラー細胞抑制性受容体(killer inhibitory receptor)及びキラー細胞活性化受容体(killer activation receptor)についてFACS解析する。肝臓は、線維化の重症度について評価する。
【0084】
(IV)炎症性腸疾患の免疫療法:
大腸炎の誘発の後、マウスに、(A)Copaxone、(B)IL−2、又は(C)Copaxone及びIL−2、による処置を12日間行い、或いは(D)追加処置を行わない。各群は10匹の雄の動物を含む。
【0085】
ケタミン/キシラジンによる麻酔の後、動物を屠殺し、12日目に血清及び大腸を採取する。血液試料を採取し、サイトカイン(IL2、IL4、IFNg、IL10及びTGFb)レベルを検査するまで−20℃で凍結させる。脾細胞亜集団は、CD4及びCD8、NKマーカー、並びに抑制性キラー受容体及び活性化キラー受容体についてFACS解析する。大腸は、炎症の重症度について評価する。
【0086】
動物モデル:
肝線維化動物モデル: マウス(8週齡、雄)に、CCl4(コーン油で10%に希釈)を体重1g当たり5マイクロリットル、4〜6週間IP投与することにより肝線維化を誘発させた。
【0087】
HCC動物モデル: B型肝炎ウイルス(HBV)が関与するHCCは、HBsAgを細胞表面上に発現し、腫瘍関連抗原として働く。層流フード(laminar flow hood)内の滅菌ケージ中でレシピエントのBalb/cマウス(Harlan社製、米国)を飼育し、照射済み食品及び無菌酸性水を与える。このマウスを致死量以下の放射線(600cGy)に曝す。放射線照射の24時間後、動物の右肩に107のヒト肝癌細胞Hep3B細胞(HBsAgを発現)を皮下注射する。放射線照射の7日後、胸腺欠損マウスに、骨髄細胞80%及び脾臓細胞20%の混合物を2×106細胞/マウスだけ投与し[Ilan,Y.ら、J.Hepatology、27:170−176、1997]、その後、更に2週間観察する。
【0088】
大腸炎を誘発させた炎症性腸疾患動物モデル: 文献[Trop S、Samsonov D、Gotsman I、Alper R、Diment J及びIlan Y(1999)Hepatology 29:746−755]に記載の通り、50%エタノール100μl中に溶解させたTNBSを1mg/マウスだけ直腸に点滴注入して、TNBS−大腸炎を誘発させた。
【0089】
(方法)
肝臓及び大腸の組織検査: 肝臓の後部3分の1及び直腸S状部大腸を10%ホルマリン中で24時間固定し、次いで、自動組織処理装置(automated tissue processor)でパラフィン包埋した。各動物標本から7ミリメートルの切片を切り出した。各動物切片について、ヘマトキシリン−エオジン(H&E)染色を行った。
【0090】
肝臓切片(15μm)を飽和ピクリン酸中で、0.1%シリウスレッドF3Bで染色した(いずれもSigma社製)。更に、製造元の使用説明書に従って、DAKOキット(カタログ番号U7033、EPOS社製、モノクローナル)を用いて、α平滑筋アクチンの免疫組織化学検査を実施した。
【0091】
肝線維化の定量: シリウスレッド染色した肝切片(動物1個体当り36個)を分析することにより、相対的線維化面積(肝臓総面積に対する百分率で示す。)を評価した。各領域(field)の像を10倍の倍率で得た後、コンピューターBioquant(登録商標)形態計測システムを用いて分析した。相対的線維化面積を評価するために、測定したコラーゲン面積を正味領域面積で割り、更に100を掛けた。総領域面積から血管腔面積を引いて、最終的な正味線維化面積を算出した。
【0092】
脾細胞の単離: 屠殺時に脾臓を摘出し、70μmナイロンのセルストレーナー(cell strainer)に通して分画した。RBC溶解の後、脾細胞を洗浄し、RPMI1640培地中で懸濁させ、FACS解析まで4℃で保存した。
【0093】
FACS(蛍光標識細胞分取)解析: 脾細胞の分析は、Coulterフローサイトメーター(BECTON DICKINSON社製、米国)を用いた標準の技法に従って、1組の抗体(Ab)を用いた直接免疫蛍光法により行う。要約すると、3×105個の脾細胞を、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)又はアロフィコシアニン(APC)に結合したAbと共に、4℃で30分間インキュベートし、3回洗浄し、2%パラホルムアルデヒド含有固定液中で再懸濁させて分析する。脾細胞の染色に用いる抗体は、PE及びFITCがそれぞれ結合したモノクローナル抗マウスCD4及びCD8(BD Biosciences社製)である。ナチュラルキラー(NK)細胞の染色には、APCが結合したラット抗マウスCD49b/Pan−NK細胞モノクローナル抗体を用いる。この抗体により、大多数のNK細胞が同定される。キラー細胞抑制性受容体(iKIR)については、PEが結合したモノクローナルマウス抗マウスLy−49C及びLy49Iを用いる。キラー細胞活性化受容体(aKIR)については、FITCが結合したラット抗マウスLy−49Dモノクローナル抗体を用いた。制御性T細胞の役割を明らかにするために、抗CD25モノクローナル抗体を用いた。リンパ球を同定するために、ペリジニンクロロフィル−αタンパク質(Per−CP)が結合したラット抗マウスCD45(BD Biosciences社製)による染色を用いた。
【0094】
リンパ球サブセットは、CD45陽性細胞に対する百分率で示す。
【0095】
HBsAg、抗HBs、及びα−フェトプロテインを検出するラジオイムノアッセイ: 市販の固相ラジオイムノアッセイ(RIA)(Ausria II及びAusab、Abbott Laboratories社製、ノースシカゴ、米国イリノイ州)により、HBsAg、及びHBsAgに対する抗体を測定する。RIAによる抗HBsの定量分析は、世界保健機関の標準血清を用いて、また、Hollingerの式を利用して行い、データはmIu/mlで示す。(22)。αフェトプロテイン(AFP)は、RIA(AFP、Bridge Serono社製、イタリア)によって測定し、ng/mlで示す。
【0096】
α平滑筋アクチンの免疫ブロッティング: 既に記載した方法[de Waal Malefyt,R.ら、J.Exp.Med.1991;174:915−924]に修正を加えて、肝臓エキス中のα−SMAの免疫ブロッティングを実施する。
【0097】
全肝臓タンパク質抽出物を、肝臓ホモジナイズ緩衝液(50mmol/L Tris−HCl[pH7.6]、0.25%Triton−X100、0.15M NaCl、10mM CaCl2、及びEDTAフリーコンプリートミニプロテアーゼインヒビターカクテル(complete mini EDTA−free protease inhibitor cocktail)(Roche Diagnostics社製、マンハイム、ドイツ))中で調製した。次いで、タンパク質(1レーン当り30μg)を還元条件下、10%SDS−ポリアクリルアミドゲルで分離させた。免疫ブロッティングのために、タンパク質をProtranメンブランに移し、5%脱脂乳含有ブロッキング緩衝液中、4℃で一晩インキュベートした。抗SMAマウスモノクローナル抗体(DAKO社製、カタログ番号M0851)、及びペルオキシダーゼが結合したヤギ抗マウスIgG(P.A.R.I.S.、コンピエーニュ、フランス)、並びに高感度化学発光法(enhanced chemiluminescence)を用いた。
【0098】
統計: 統計的有意差については、スチューデントの検定を用いた。
【0099】
(結果)
(I)肝線維化におけるNK細胞の役割:
相対的線維化面積は、CCl4 WTでは肝臓総面積の2.32%(±1.39)、CCl4 SCIDでは1.11%(±6.4)、CCl4 SCIDベージュでは1.85%(±1.19)、ナイーブWTでは0.3%(±0.37)であった。すべてのCCl4処置群では、コントロールに比べて肝線維化が有意に増大した(P=0.001)。SCIDベージュ群では、SCID群に比べて線維化が有意に増大した(P=0.0001)。すべての群において、相対的線維化はα−SMAの発現と密接な相関関係があった。脾細胞のFACS解析により、WTマウスでは、線維化の後、NK細胞及びCD11c細胞の絶対数、並びにクラスIの提示が有意に変化せず、CD4細胞が26%±5.7から19%±3.8に有意に減少し(P=0.01)、NK細胞におけるaKIR:iKIR比は0.76±0.21から2.79±0.98に有意に上昇する(P=0.003)ことが明らかになった。肝内リンパ球(IHL)の分析でも、類似の結果が得られた。このような知見は、線維化誘発の後、NK細胞が機能的に活性化されることを示唆する。同時に、線維化の後、肝星細胞(HSC)におけるクラスI分子の平均発現量は、81%±15から37%±12に有意に減少した(P=0.001)(基礎値の51%±13に低下)。HSCクラスII陽性分子の発現は変化しなかった。活性化HSCにおけるクラスIの自己認識(self−recognition)マーカーの減少は、活性化NK細胞による殺傷への感受性が増強されたことを反映している。
【0100】
(II)肝線維化の免疫療法:
以下のパラメータを用いて、CCl4処置動物における肝傷害及び肝線維化を測定することにより、免疫療法の効果を評価した。
【0101】
肝傷害の重症度: AST及びALTの血清レベルによって評価した肝傷害は、CCl4を処置したすべての実験群で、ナイーブマウスに比べて高かった。線維化を誘発させた異なる群間では、有意な差が見られなかった(図1)。
【0102】
肝組織の炎症及び壊死の状態を表す肝臓の種々の病理組織学的パラメータの、Ishak傷害スコアによる評価では、群間で差がないことが分かった(図2)。
【0103】
線維化重症度スコア: 線維化の重症度の評価は、種々の群から採取し、H&E染色した肝切片のBioquant解析(図3の例を参照)、及びα平滑筋アクチン(α−SMA)の定量によって評価した。
【0104】
分析面積に対するコラーゲンの百分率により評価した線維化の重症度は、CCl4による線維化誘発の後、Copaxone又はLinolin処置群で有意に低下した(p<0.0001)(図4に示す)。
【0105】
α平滑筋アクチンの量は線維化の程度と相関関係があり、このアクチンは、CCl4動物群で高度に発現し、Copaxone群及びLinolin群で有意に減少した(図5)。
【0106】
リンパ球細胞集団: 脾細胞のFACS解析により、線維化誘発の後、すべての線維化群(A、B及びC)でCD4細胞が有意に減少する(p<0.0005)ことが明らかとなったが、群間では、有意な差が見られなかった(図6)。
【0107】
CD8細胞は、A群において、C群(p<0.05)及びD群(p<0.005)のいずれに比べても有意に減少した(図6)。CD4:CD8比は、線維化の後、C群で有意に低下した(p<0.0003)(図7)。この比は、2つの処置群(A及びB)で有意に上昇したが、ナイーブ動物(D群)よりはなお有意に低かった(それぞれp<0.001及びp<0.016)。A群のCD4/CD8比は、C群よりも有意に高かった(p<0.04)(図7)。
【0108】
線維化の後、NK細胞の総数は変化しなかったが(C群及びD群)、処置群(A及びB)ではいずれも数が増加し、この増加はCopaxone群で有意であった(p<0.002)(図8)。aKIR:iKIR比を計算したが、NK細胞のaKIR及びiKIRについて、合計の値(total reading)及び個別の値(specific reading)を測定した。いずれも同じパターンを示したが、図9で見られるように、線維化の後、すべての群(A、B及びC)で比が有意に上昇したので、後者の方がより特異的であった。A群及びB群では、ナイーブ群(D群)に比べて、NK aKIR:NK iKIRの有意な上昇が見られたが(p<0.0001)、非処置線維化群(C群)と比べると、なお有意に低かった(p<0.05)。
【0109】
肝内リンパ球のFACS解析により、線維化誘発の後、線維化群(A及びC)でCD4細胞が有意に減少する(p<0.000001)ことが明らかとなったが、群間では、有意な変化が見られなかった(図10)。
【0110】
CD8細胞は、A群において、C群に比べて有意に減少したが(p<0.001)、D群よりは有意に高かった(p<4×10−7)(図10)。CD4:CD8比は、線維化の後、C群で有意に低下した(p<3.1×10−10)(図11)。この比は、処置したA群で、C群に比べて有意に上昇したが(p<0.002)、ナイーブ動物(D群)よりはなお有意に低かった(p<4.2×10−10)(図11)。
【0111】
肝内のNK細胞数は、Copaxone群において、線維化C群に比べて有意に増加した(p<0.0001)(図12)。
【0112】
結論: 上記の実験から、Copaxone及びLinomycinは、用いた動物モデルにおいて著しい抗線維化作用を示したことが明らかになる。この作用は、NK細胞の総数を増加させる、CD4:CD8比の上昇を介するものだった。それらのNK細胞は、活性化星細胞を抑制するように活性化され刺激されることによって、線維化を低減させた。この結論は、Ishakスコア法を用いて測定した肝傷害の程度において、Copaxone群(A)及びCCl4群(C)の間で有意な差がないことを示した病理組織学的所見によって強く支持される。従って、Copaxoneは、炎症過程を直接低減させることによって線維化を低減させるのではなく、むしろ、HSCの活性化を抑制することによって線維化を低減させる。
【0113】
(IV)炎症性腸疾患の免疫療法:
大腸炎を誘発させた後、マウスをCopaxoneで処置した。処置群とコントロール群の間で、大腸炎スコアを巨視的に、かつ微視的に比較した。いずれの試験においても、Copaxone処置の結果、組織傷害の顕著な低減が見られた(図13a及び13b)。図14で実証されるように、微視的な改善が特に明らかであった(p<0.03)。
【0114】
脾臓のCD3、CD4及びCD8の細胞集団のFACS解析により、大腸炎を誘発させたCopaxone処置群でCD4細胞数が有意に増加する(p<0.03)ことが明らかとなった(図15)。CD4細胞数の増加は、インターロイキン4(IL−4)分泌細胞ではなく、インターフェロンγ(IFN−γ)分泌細胞の増加を伴う(p<0.02)ものだった(図16)。
【0115】
CD8細胞集団は、大腸炎を誘発させても、Copaxoneで処置しても、影響を受けなかった(図15)。抗原提示細胞(APC)は、Copaxone処置の後減少したように思われる(図17)。
【0116】
測定したサイトカインIFN−γ、IL−4、及びIL−10の血清レベルは、大腸炎を誘発させたCopaxone処置群において、大腸炎を誘発させた非処置群に比べて有意に低下した(それぞれp<0.006、p<0.004、及びp<0.002)(図18)。
【0117】
結論: Copaxoneによる処置を行うと、大腸炎を罹患した動物の組織傷害は、免疫調節状態が変化することにより低減される。Copaxoneの投与は、T細胞CD4集団の構成、並びにTh1及びTh2サイトカインのプロファイルに影響を及ぼした。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】CCl4線維化誘発マウスにおけるAST及びALTの血清レベルを示す図である。CCl4線維化誘発マウスモデルにおいて、AST及びALTの血清レベルを測定して、肝傷害を評価し、治療効果を推定した。[略語: AST:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、ALT:アラニントランスアミナーゼ、Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、u/l:ユニット/リットル]
【図2】CCl4線維化誘発マウスにおける肝傷害スコア及び肝線維化スコアを示す図である。病理学的分析及びBioquant(登録商標)解析により、CCl4で処置したすべての群において、ナイーブ動物に比べて、肝傷害及び肝線維化が有意に増大したことが明らかとなった。Copaxone処置群及びLinomycin処置群では、CCl4線維化誘発非処置群に比べて、線維化の有意な低減が見られた(P値は0.001未満)。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Hep.Inj.Sc.:肝傷害スコア、Inj.Sc.:傷害スコア、Fibr.Sc.:線維化スコア、%fibr.Ar.:肝線維化面積の百分率]
【図3a】ナイーブマウスのシリウスレッドF3B肝切片における肝組織線維化の病理学的検査の結果を示す図である。
【図3b】Copaxoneで処置したCCl4線維化誘発マウスのシリウスレッドF3B肝切片における肝組織線維化の病理学的検査の結果を示す図である。
【図4】CCl4線維化誘発マウスの肝臓病変面積中のコラーゲンの百分率による、肝組織線維化の評価を示す図である。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、%coll.Ar.:肝線維化面積中のコラーゲンの百分率]
【図5】CCl4線維化誘発マウスにおけるαSMAの発現量による、肝組織線維化の評価を示す図である。抗αSMA抗体を用いて、線維化マウス及びコントロールマウスの肝組織試料に対するウェスタンブロッティングを行った。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、αSMA:α平滑筋アクチン、KD:キロダルトン]
【図6】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓CD4及びCD8細胞集団の細胞数を示す図である。発現した脾臓CD4及びCD8細胞数を、脾臓リンパ球集団に対する相対値で示した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、%tot.lymp.:脾臓リンパ球集団に対する百分率]
【図7】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓CD4/CD8細胞集団の細胞数比を示す図である。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、Rat.:比]
【図8】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓NK細胞集団の細胞数を示す図である。NK細胞数を、脾臓CD45細胞集団に対する相対値で評価した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、%CD45:CD45細胞集団に対する百分率]
【図9】CCl4線維化誘発マウスにおける脾臓のNK aKIR:NK iKIR比を示す図である。aKIR、iKIR及び全NK細胞について別々に行った測定の結果から、aKIR:iKIR比を算出した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、Treat.:処置、NK aKIR:NK iKIR Rat.:NK aKIR:NK iKIR比]
【図10】CCl4線維化誘発マウスにおける肝臓CD4及びCD8細胞集団の細胞数を示す図である。肝臓CD4及びCD8細胞数を、肝臓リンパ球集団に対する相対値で示した。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Linom.:Linomycin、%lymp.:肝臓リンパ球集団に対する百分率]
【図11】CCl4線維化誘発マウスにおける肝臓CD4/CD8細胞集団の細胞数比を示す図である。[略語: Nai.:ナイーブ、Copax.:Copaxone、Treat.:処置、Rat.:比]
【図12】CCl4線維化誘発マウスにおける肝臓NK細胞集団の細胞数を示す図である。NK細胞数を、肝臓CD45細胞集団に対する相対値で評価した。[略語: Copax.:Copaxone、%CD45:肝臓CD45細胞集団に対する百分率]
【図13a】大腸炎誘発マウスにおける大腸炎スコアを示す図であり、大腸炎誘発マウスにおける組織傷害の巨視的評価に関するものである。大腸炎誘発マウス及びナイーブコントロールにおいて、Copaxone処置マウス又は非処置マウスと比べて、大腸炎スコアを巨視的に評価した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図13b】大腸炎誘発マウスにおける大腸炎スコアを示す図であり、大腸炎誘発マウスにおける組織傷害の微視的評価に関するものである。大腸炎誘発マウス及びナイーブコントロールにおいて、Copaxone処置マウス又は非処置マウスと比べて、大腸炎スコアを微視的に評価した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図14a】ナイーブマウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図14b】Copaxoneで処置したナイーブマウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図14c】大腸炎誘発マウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図14d】Copaxoneで処置した大腸炎誘発マウスにおける大腸の病理学的検査の結果を示す図である。直腸S状部大腸の切片をヘマトキシリン−エオジン染色した。
【図15】大腸炎誘発マウスにおける脾臓CD3、CD4及びCD8細胞集団の細胞数を示す図である。脾臓CD3、CD4及びCD8細胞数を、脾臓リンパ球集団に対する相対値で示した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ、%CD45:脾臓CD45細胞集団に対する百分率]
【図16】大腸炎誘発マウスにおけるIL−4分泌CD4細胞亜集団及びIFN−γ分泌CD4細胞亜集団の細胞数を示す図である。IL−4分泌CD4細胞亜集団及びIFN−γ分泌CD4細胞亜集団の細胞数を、全CD4細胞集団に対する相対値で評価した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図17】大腸炎誘発マウスにおけるAPC集団の細胞数を示す図である。脾臓の抗原提示細胞数を、脾臓CD45細胞集団に対する相対値で示した。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ]
【図18】大腸炎誘発マウスにおけるサイトカインIL−4、IL−10及びIFN−γの血清レベルを示す図である。[略語: Col.:大腸炎、Copax.:Copaxone、Nai.:ナイーブ、pg/ml:ピコグラム/ミリリットル]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝線維化を治療する方法であって、
それを必要とする個体に免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法。
【請求項2】
前記免疫調節剤が、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫調節剤が酢酸グラチラマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記個体がヒト個体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
肝線維化を治療するための医薬組成物の調製における免疫調節剤の使用。
【請求項6】
前記免疫調節剤が、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こすことができる、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記免疫調節剤が酢酸グラチラマーである、請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
肝線維化の治療に使用する免疫調節剤。
【請求項9】
肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項8に記載の免疫調節剤。
【請求項10】
酢酸グラチラマーである、請求項8又は9に記載の免疫調節剤。
【請求項11】
肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす方法であって、
そのような治療を必要とする個体に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤を投与することを含む方法。
【請求項12】
前記免疫調節剤が酢酸グラチラマーである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
肝線維化を治療するための、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
線維化肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こし、それにより肝線維化を低減させるための、免疫調節剤、好ましくは酢酸グラチラマーの使用。
【請求項15】
肝線維化の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、
a.被験物質を提供するステップと、
b.線維化を誘発させたモデル動物、及び非線維化モデル動物を提供するステップと、
c.前記被験物質を前記線維化動物及び非線維化動物に投与するステップと、
d.前記動物から肝組織の試料を採取するステップと、
e.前記試料における、CD4:CD8比、NK細胞数、NK aKIR:NK iKIR比、及び線維化組織の面積、並びに少なくとも1種の一般的な線維化パラメータ、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、
f.線維化を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非線維化動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、
CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇、及び/又は線維化組織の面積の縮小、及び/又は前記一般的な線維化パラメータの低下が、前記被験物質が肝線維化の治療に有用であることを示す方法。
【請求項16】
前記一般的な線維化パラメータが、Ishak線維化スコア、コンピューターBioquant(登録商標)による定量、又はウェスタンブロッティングを用いたα平滑筋アクチンの評価である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
肝細胞癌を治療する方法であって、
それを必要とする個体に、少なくとも1種の免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法。
【請求項18】
肝組織又は腸組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす少なくとも1種の免疫調節剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記免疫調節剤が、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記個体がヒト個体である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
炎症性腸疾患を治療する方法であって、
それを必要とする個体に、少なくとも1種の免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法。
【請求項22】
血清又は腸組織において、CD4細胞数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下を引き起こす少なくとも1種の免疫調節剤を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記免疫調節剤が、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記個体がヒト個体である、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
炎症性腸疾患の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、
a.被験物質を提供するステップと、
b.大腸炎を誘発させたモデル動物、及び非大腸炎モデル動物を提供するステップと、
c.前記被験物質を前記大腸炎動物及び非大腸炎動物に投与するステップと、
d.前記動物から腸組織の試料を採取するステップと、
e.血清又は腸組織における、CD4細胞数、IFN−γ分泌CD4細胞及びIL−4分泌CD4細胞の数、及びIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度、並びに前記試料中の炎症組織の病理組織学的検査、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、
f.大腸炎を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非大腸炎動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、
血清又は腸組織における、CD4細胞の総数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下、及び/又は病理組織学的状態の改善が、前記被験物質が炎症性腸疾患の治療に有用であることを示す方法。
【請求項26】
肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つを治療するための医薬組成物の調製における免疫調節剤の使用。
【請求項27】
前記免疫調節剤が、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記免疫調節剤が、血清又は腸組織において、CD4細胞数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下を引き起こす、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
前記免疫調節剤が、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項26、27又は28に記載の使用。
【請求項30】
肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つの治療に使用する免疫調節剤。
【請求項31】
肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項30に記載の免疫調節剤。
【請求項32】
血清又は腸組織において、CD4細胞数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下を引き起こす、請求項30に記載の免疫調節剤。
【請求項33】
随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項30、31又は32に記載の免疫調節剤。
【請求項1】
肝線維化を治療する方法であって、
それを必要とする個体に免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法。
【請求項2】
前記免疫調節剤が、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫調節剤が酢酸グラチラマーである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記個体がヒト個体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
肝線維化を治療するための医薬組成物の調製における免疫調節剤の使用。
【請求項6】
前記免疫調節剤が、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こすことができる、請求項5に記載の使用。
【請求項7】
前記免疫調節剤が酢酸グラチラマーである、請求項5又は6に記載の使用。
【請求項8】
肝線維化の治療に使用する免疫調節剤。
【請求項9】
肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項8に記載の免疫調節剤。
【請求項10】
酢酸グラチラマーである、請求項8又は9に記載の免疫調節剤。
【請求項11】
肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす方法であって、
そのような治療を必要とする個体に、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす免疫調節剤を投与することを含む方法。
【請求項12】
前記免疫調節剤が酢酸グラチラマーである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
肝線維化を治療するための、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
線維化肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こし、それにより肝線維化を低減させるための、免疫調節剤、好ましくは酢酸グラチラマーの使用。
【請求項15】
肝線維化の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、
a.被験物質を提供するステップと、
b.線維化を誘発させたモデル動物、及び非線維化モデル動物を提供するステップと、
c.前記被験物質を前記線維化動物及び非線維化動物に投与するステップと、
d.前記動物から肝組織の試料を採取するステップと、
e.前記試料における、CD4:CD8比、NK細胞数、NK aKIR:NK iKIR比、及び線維化組織の面積、並びに少なくとも1種の一般的な線維化パラメータ、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、
f.線維化を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非線維化動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、
CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇、及び/又は線維化組織の面積の縮小、及び/又は前記一般的な線維化パラメータの低下が、前記被験物質が肝線維化の治療に有用であることを示す方法。
【請求項16】
前記一般的な線維化パラメータが、Ishak線維化スコア、コンピューターBioquant(登録商標)による定量、又はウェスタンブロッティングを用いたα平滑筋アクチンの評価である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
肝細胞癌を治療する方法であって、
それを必要とする個体に、少なくとも1種の免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法。
【請求項18】
肝組織又は腸組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす少なくとも1種の免疫調節剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記免疫調節剤が、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記個体がヒト個体である、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
炎症性腸疾患を治療する方法であって、
それを必要とする個体に、少なくとも1種の免疫調節剤を治療有効量投与することを含む方法。
【請求項22】
血清又は腸組織において、CD4細胞数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下を引き起こす少なくとも1種の免疫調節剤を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記免疫調節剤が、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記個体がヒト個体である、請求項21〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
炎症性腸疾患の治療に有用な免疫調節剤をスクリーニングする方法であって、
a.被験物質を提供するステップと、
b.大腸炎を誘発させたモデル動物、及び非大腸炎モデル動物を提供するステップと、
c.前記被験物質を前記大腸炎動物及び非大腸炎動物に投与するステップと、
d.前記動物から腸組織の試料を採取するステップと、
e.血清又は腸組織における、CD4細胞数、IFN−γ分泌CD4細胞及びIL−4分泌CD4細胞の数、及びIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度、並びに前記試料中の炎症組織の病理組織学的検査、のうちの少なくとも1つのパラメータを測定するステップと、
f.大腸炎を誘発させた動物から採取した試料について得られた結果を、非大腸炎動物について得られた対応する結果と比較するステップと、を含み、
血清又は腸組織における、CD4細胞の総数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下、及び/又は病理組織学的状態の改善が、前記被験物質が炎症性腸疾患の治療に有用であることを示す方法。
【請求項26】
肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つを治療するための医薬組成物の調製における免疫調節剤の使用。
【請求項27】
前記免疫調節剤が、肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記免疫調節剤が、血清又は腸組織において、CD4細胞数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下を引き起こす、請求項26に記載の使用。
【請求項29】
前記免疫調節剤が、随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項26、27又は28に記載の使用。
【請求項30】
肝細胞癌及び炎症性腸疾患のいずれか1つの治療に使用する免疫調節剤。
【請求項31】
肝組織において、CD4:CD8比の上昇、及び/又はNK細胞数の増加、及び/又はNK aKIR:NK iKIR比の上昇を引き起こす、請求項30に記載の免疫調節剤。
【請求項32】
血清又は腸組織において、CD4細胞数の増加、及び/又はIL−4分泌CD4細胞ではなく、IFN−γ分泌CD4細胞の数の減少、及び/又はIL−4、IL−10及びIFN−γの濃度の低下を引き起こす、請求項30に記載の免疫調節剤。
【請求項33】
随意的にIL−2と組み合わせた酢酸グラチラマーである、請求項30、31又は32に記載の免疫調節剤。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図14d】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2007−505893(P2007−505893A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526807(P2006−526807)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000848
【国際公開番号】WO2005/025596
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(500545311)ハダシット メディカル リサーチ サービシーズ アンド ディベロップメント リミテッド (8)
【出願人】(504320190)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/IL2004/000848
【国際公開番号】WO2005/025596
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(500545311)ハダシット メディカル リサーチ サービシーズ アンド ディベロップメント リミテッド (8)
【出願人】(504320190)
【Fターム(参考)】
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