説明

免疫障害を治療する方法

本発明は、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡、糖尿病、および多発性硬化症などのB細胞仲介性免疫障害の治療に関する。特に本発明は、形質細胞前駆体表面で発現する膜結合遊離軽鎖に結合する抗体を使用した、B細胞仲介性免疫障害の治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己免疫疾患、炎症性疾患、および敗血症などのB細胞仲介性免疫障害の治療に関する。特に本発明は、膜結合遊離軽鎖に結合する抗体を使用したB細胞仲介性免疫障害の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
自己構成要素の認識異常は、組織損傷そして、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡、シェーグレン症候群、および多発性硬化症などの自己免疫疾患をもたらすので、「自己」構成要素を「非自己」構成要素から識別する免疫系の能力は重要である(Browning,2006)。
【0003】
T細胞は数十年間にわたり自己免疫疾患研究の焦点であるが、リンパ腫治療法としてのB細胞除去抗体リツキシマブの開発は、免疫障害におけるB細胞の役割を研究するためのツールを提供している(Browning,2006)。リツキシマブは強力なB細胞溶解性キメラ型IgG1 CD20特異的モノクローナル抗体であり、それは主に抗体依存細胞仲介性細胞毒性(ADCC)によってB細胞を死滅させる。リツキシマブの標的は、前B細胞段階から前形質細胞段階にかけて発現されるCD20である(Edwards and Cambridge,2006)。抗CD20抗体の注射に続いて、末梢の抗体被覆B細胞は非常に低いレベルまで迅速に死滅し、約6〜12ヶ月にわたって低レベルのままである(Browning,2006)。
【0004】
リツキシマブによるB細胞除去の反復するサイクルは、IgGでは3.5GL−1程度に低く、IgMでは検出不能なレベルに至る総免疫グロブリンの減少と関連付けられ得て、それは実施し得るB細胞除去回数を制限するかもしれない(Edwards and Cambridge、2006)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Benatti et al.(1989)Eur J Biochem,183:465−470.
【非特許文献2】Beychok(1979)Cells of Immunoglobulin Synthesis,Academic Press,New York,p69.
【非特許文献3】Bird et al.(1988)Science,242:423−426.
【非特許文献4】Boux,HA. et al.(1983)J Exp Med.158:1769.
【非特許文献5】Bradwell et al.(2001)Clin.Chem.47:673−680.
【非特許文献6】Browning(2006)Nat Rev Drug Discovery,5:564−576.
【非特許文献7】Cepok et al.(2005)Brain,128:1667.
【非特許文献8】Chow et al.(1990)J Biol Chem,265:8670−8674.
【非特許文献9】Edwards and Cambridge(2006)Nat Rev Immunol,6:394−403.
【非特許文献10】Goodnow et al.(1985)J.Immunol.135:1276
【非特許文献11】Greenwood et al.(1993)Eur J Immunol,23:1098−1104.
【非特許文献12】Habuka et al.(1989)J Biol Chem,264:6629−6637.
【非特許文献13】Ho et al.(1991)BBA,1088:311−314.
【非特許文献14】Hofmann K, et al.(1982)Biochemistry 21:978−84.
【非特許文献15】Huston et al.(1988)Proc Natl Acad Sci.USA,85:5879−5883.
【非特許文献16】Islam et al.(1990)Agricultural Biological Chem,54:1343−1345.
【非特許文献17】Jego et al.(1999)Blood,94:701.
【非特許文献18】Jones et al.(1986)Nature,321,522−525.
【非特許文献19】Kung et al.(1990)Agric Biol Chem,54:3301−3318.
【非特許文献20】Manz et al.(1997)Nature,388:133−134.
【非特許文献21】Morrison et al.(1984)Proc Natl Acad Sci USA,81:6851−6855.
【非特許文献22】Schmidt et al.(1991)J Biol Chem.266:18025−33.
【非特許文献23】Shapiro−Shelef et al.(2005)Nature Reviews Immunology,5:230−242.
【非特許文献24】Siegall et al.(1989)J Biol Chem 264:14256−14261.
【非特許文献25】Sun et al.(1986)Hybridoma 5 Suppl 1:517−20.
【非特許文献26】Urlaub and Chasin(1980)Proc Natl Acad Sci USA.77:4216−4220.
【非特許文献27】Walker et al.(1985)Adv Exp Med Biol,186:833−841.
【非特許文献28】William et al.(2005).J Immunol,174:6879−6887.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
B細胞仲介性免疫障害を治療する新しい方法に対する必要性が、なおもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、膜結合遊離軽鎖(mFLC)が形質細胞前駆体上で発現されることを今や確認した。形質細胞前駆体上のmFLCは、B細胞仲介性免疫障害の治療または予防のための標的を提供する。
【0008】
本発明者らによって提案される治療法は、B細胞仲介性免疫障害を患っている対象において形質細胞前駆体を除去するためのmFLCに特異的に結合する抗体の投与に基づく。この治療標的の1つの利点は、それが正常なB細胞上に存在しないことである。
【0009】
したがって本発明は、対象においてB細胞仲介性免疫障害を治療または予防する方法を提供し、方法は、膜結合遊離軽鎖(mFLC)に結合する有効量の抗体を対象に投与するステップを含んでなる。
【0010】
好ましい実施態様では、抗体が、例えば形質芽球などの形質細胞前駆体上のmFLCに結合する。
【0011】
一実施態様では、形質芽球はマーカーCD27、CD38、およびCD45について陽性である。特定の一実施態様では、形質芽球はマーカーIgDについて陰性である。
【0012】
別の好ましい実施態様では、抗体がmFLCに特異的に結合する。
【0013】
一実施態様では、対象に投与される抗体は、細胞毒性部分または生物反応修飾物質に共役する。非限定的例として、細胞毒性部分は、細胞毒物または細菌または植物起源の酵素的に活性な毒素(ゲロニンなど)、またはこのような毒素の酵素的に活性な断片(「A鎖」)であってもよい。酵素的に活性な毒素およびその断片が好ましく、ゲロニン、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、(緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)からの)菌体外毒素A鎖、リシンA鎖、アブリンA鎖、モデシンA鎖、αサルシン、シナアブラギリ(Aleurites fordii)タンパク質、ナデシコタンパク質、ヨウシュヤマゴボウ(Phytoiacca americana)タンパク質(PAPI、PAPII、およびPAP−S)、ツルレイシ(Momordica charantia)阻害物質、クルシン、クロチン、サボンソウ(Saponaria officinalis)阻害物質、ミトギリン、レストリクトシン、フェノマイシン、およびエノマイシンによって例示される。細胞毒性部分はまた、放射性薬剤であってもよい。特に細胞毒性部分は、例えばイットリウム−90(90Y)、インジウム−111(111In)、ヨウ素−131(131I)または銅−67(67Cu)などの放射性核種であってもよい。好ましくは細胞毒性部分は、毒素、化学療法剤、または放射性薬剤である。
【0014】
mFLCに結合する抗体と共役し、本発明で使用されてもよい生物反応修飾物質としては、IL−2およびインターフェロン(α、βまたはγ)などのリンフォカインおよびサイトカインが挙げられるが、これに限定されるものではない。これらの生物反応修飾物質は、細胞に対して様々な効果を有する。これらの影響としては、直接作用による細胞死滅増大、ならびに宿主防衛仲介過程の増大による細胞死滅増大が挙げられる。mFLCに結合する抗体のこれら生物反応修飾物質への共役は、形質細胞前駆体内の選択的局在化を可能にし、ひいては非標的細胞の毒性につながる非特異的効果を抑制する。生物反応修飾物質は、好ましくはリンフォカイン、サイトカインまたはインターフェロンである。
【0015】
別の実施態様では、細胞毒性部分は細胞毒性ポリペプチドをコードする核酸分子である。
【0016】
あらゆる適切なmFLCに結合する抗体を本発明の方法で使用してもよいが、一実施態様では、抗体はKMAまたはLMAに結合する。特定の一実施態様では、抗体はKMAに結合する。
【0017】
一実施態様では、mFLCに結合する抗体はK121様抗体である。好ましくは、K121様抗体は配列番号1に記載のVH領域および配列番号2に記載のVL領域を含んでなり、またはκ骨髄腫抗原(KMA)への結合について、配列番号1に記載のVH領域および配列番号2に記載のVL領域を有する抗体と競合する。
【0018】
一実施態様では、本発明の方法によって治療されるB細胞仲介性障害は自己免疫疾患である。特定の一実施態様では、自己免疫疾患は、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡、糖尿病、および多発性硬化症から選択される。
【0019】
本発明は、有効量のmFLCに結合する抗体を対象に投与するステップを含んでなる、対象において形質細胞前駆体の成長を阻害するか、または死滅させる方法をさらに提供する。一例として形質細胞前駆体の阻害または死滅は、アポトーシスによって、または対象の免疫細胞によって(抗体依存細胞仲介性細胞毒性(ADCC)などによって)、および/または抗体依存性の細胞の食作用によって達成されてもよい。
【0020】
本発明はまた、細胞毒性部分または生物学的修飾因子と共役するmFLCに結合する抗体を投与することで、対象において形質細胞前駆体を阻害しまたは死滅させる方法も提供する。
【0021】
好ましくは、細胞毒性部分は、毒素、化学療法剤、または放射性薬剤である。
【0022】
一実施態様では、細胞毒性部分は、細胞毒性ポリペプチドをコードする核酸分子である。
【0023】
別の実施態様では、生物反応修飾物質は、リンフォカイン、サイトカインまたはインターフェロンである。
【0024】
本発明は、mFLCに結合する抗体を対象に投与するステップと、抗体を対象内で細胞に結合させるステップと、抗体の位置を対象内で判定するステップを含んでなる、対象において形質細胞前駆体を局在化する方法をさらに提供する。
【0025】
一実施態様では、抗体は検出可能に標識される。
【0026】
好ましくは、本発明の方法で使用される抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体である。
【0027】
本発明は、B細胞仲介性免疫障害を治療する薬剤を製造するためのmFLCに結合する抗体の使用をさらに提供する。
【0028】
本発明は、
(i)対象から造血性前駆細胞集団を取り出すステップと、
(ii)細胞集団をmFLCに結合する抗体で処置するステップと、
(iii)ステップ(ii)からの処置済み細胞集団を対象に移植するステップと
を含んでなる、対象において自己造血細胞を移植する方法をさらに提供する。
【0029】
前駆細胞集団をmFLCに結合する抗体で処置するステップは、好ましくは、抗体と集団中に存在する形質細胞前駆体との結合に十分な条件下で、細胞集団をmFLCに結合する抗体に接触させて、形質細胞前駆体の成長を阻害するか、または死滅させることを伴う。
【0030】
一実施態様では、方法は、mFLCに結合する抗体を対象中に静脈点滴するステップをさらに含んでなる。
【0031】
さらに別の実施態様では、自家移植する方法は、細胞減少療法の最中または後に対象に対して実施される。
【0032】
なおもさらに好ましい実施態様では、mFLCに結合する抗体は固体担体に結合する。
【0033】
明らかになるように、本発明の一態様の好ましい徴群および特徴は、本発明の多数のその他の態様にも当てはまる。
【0034】
本明細書全体を通じて、「含んでなる(comprise)」という用語、または「含んでなる(comprises)」または「含んでなる(comprising)」などのバリエーションは、言及される要素、整数または工程、または要素群、整数群または工程群の包含を暗示するが、あらゆるその他の要素、整数または工程、または要素群、整数群または工程群を排除しないものと理解される。
【0035】
本発明は、以下の非限定的例を手段として添付図に言及して、下文中で説明される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】IL−21、抗CD40、および抗IgM活性化B細胞(CD19+)上でのKMA発現。IL−21、抗CD40、および抗IgMの存在下で、末梢B細胞が活性化された。6日目に細胞を収集し、次にKMA、IgD、CD27、およびCD38について染色した。ゲート1.=CD38low、ゲート2.=CD38+、およびゲート3.=CD38++。
【図2】SAC活性化形質芽球上でのKMA発現。末梢B細胞はIL−21、抗CD40、および抗IgMの存在下で活性化された。6日目に、細胞を収集し、次にKMA、IgD、CD27、およびCD38について染色した。ゲート1.=CD38low、ゲート2.=CD38+、およびゲート3.=CD38++。
【図3】KMAはCD38++CD45+未成熟形質細胞上で発現される。扁桃由来単核細胞をKMA、CD19、CD38、CD45、およびSYTOX Greenについて染色した。図3aは、ViableB細胞は、CD19およびSYTOX green染色の欠如によってゲート制御した。次に細胞をCD38発現によってゲート制御した。ゲート1.=CD38low、ゲート2.=CD38+、およびゲート3.=CD38++。図3bは、細胞をKMA、CD38、CD45およびSYTOX greenについて染色した。生存細胞をCD38++発現によってゲート制御し、KMAおよびCD45陽性について分析した。
【図4】形質芽球によるKMA発現細胞の同定およびIHCによる形質細胞形態学。正常な組織からの未固定切片をFITC標識MDX1097で染色し、マウス抗FITC2次抗体、次に抗マウスペルオキシダーゼがそれに続いた。切片を色原体基質で発色させた。パネル1=扁桃切片、パネル2=唾液腺、およびパネル3=末梢血。矢印はKMA+細胞を表す。
【図5】KMAはIL−21、抗CD40、および抗IgM活性化形質芽球上で発現される。末梢B細胞をIL−21、抗CD40、および抗IgMの存在下で活性化した。6日目に細胞を収集し、KMA、CD27、CD38、CD45、および表面IgD(図示せず)について染色した。図5aは、収集細胞の散乱プロフィールである。全ての引き続く分析はライブゲート(ゲート2)内で実施された。図5bは、ゲート制御集団のCD27およびCD38プロフィールを示す。図5cは、パネル(b)で着色される集団内の(アイソタイプ対照との比較で)KMA陽性細胞の百分率を示す。ゲート3=CD38+/−CD27−、ゲート4=CD38+/−CD27+、およびゲート5=CD38++CD27++。KMAは、APC標識MDX−1097を使用して検出され、アイソタイプ対照はAPC標識ヒトIgG1抗体であった。提示される結果は、5つの独立した実験を表す。
【図6】LMAは、IL−21、抗CD40、および抗IgM活性化形質芽球上で発現される。末梢B細胞は、IL−21、抗CD40、および抗IgMの存在下で活性化された。6日目に細胞を収集し、LMA、CD27、CD38、CD45、および表面IgD(図示せず)について染色した。図6aは、収集された細胞の散乱プロフィールである。引き続く全ての分析は、ライブゲート(ゲート1)中で実施した。図6bは、ゲート制御集団のCD27およびCD38プロフィールを示す。図6cは、パネル(b)で着色される集団内の(アイソタイプ対照との比較で)LMAについて陽性の細胞百分率を示す。ゲート2=CD38+/−CD27−、ゲート3=CD38+/−CD27+、およびゲート4=CD38++CD27++。LMAはAPC標識4G7を使用して検出され、アイソタイプ対照はAPC標識マウスIgG1抗体であった。示された結果は、独立した5つの実験を表す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
一般技術および選択された定義
特に断りのない限り、本明細書で使用される全ての技術および科学用語は、(例えば免疫学、免疫組織化学、細胞培養、分子遺伝学、タンパク質化学、および生化学分野の)当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有するものとする。
【0038】
特に断りのない限り、本発明で利用される組み換えタンパク質技術、細胞培養技術、および免疫学的技術は、当業者に良く知られている標準操作手順である。このような技術については、J.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning,John Wiley and Sons(1984)、J.Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd edn,Cold Spring Harbour Laboratory Press(2001)、T.A.Brown(editor),Essential Molecular Biology:A Practical Approach,Volumes 1 and 2,IRL Press(1991)、D.M.Glover and B.D.Hames(editors),DNA Cloning:A Practical Approach,Volumes 1−4,IRL Press(1995および1996)、およびF.M.Ausubel et al.(editors),Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience(1988,現在に至るまでの全てのアップデートを含む)、Ed Harlow and David Lane(editors),Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbour Laboratory,(1988)、およびJ.E.Coligan et al.(editors)Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(現在に至るまでの全てのアップデートを含む)などの参考文献全体を通じて記載され説明される。
【0039】
「膜結合遊離軽鎖」とは、未変性免疫グロブリンと結合していない、膜結合軽鎖を意味する。膜結合軽鎖は、膜結合κ軽鎖および/または膜結合λ軽鎖を含んでなってもよい。
【0040】
本明細書での用法では、「形質細胞前駆体」という用語は、長寿抗体分泌形質細胞の活性化増殖中前駆体と同様の特徴を有する細胞を指す。形質細胞前駆体は、プロB細胞、前B細胞、未成熟B細胞、ナイーブB細胞、ナイーブ活性化B細胞、胚中心B細胞、ポスト胚中心B細胞、記憶B細胞、および形質芽球を含む。
【0041】
細胞が所与のマーカーについて「陽性」であると言及される場合、それは細胞表面にマーカーが存在する程度によって、そのマーカーの低(+、loまたはdim)または高(++、bright、bri)発現細胞のどちらであってもよく、該用語は細胞の色選別処理過程で使用される蛍光またはその他の色の強度に関する。高低の区別は、選別される特定の細胞集団上で使用されるマーカーの文脈で理解される。本明細書で細胞が、特定のマーカーについて「陰性」であると言及される場合、それはマーカーが細胞によって全く発現されないことを意味しない。それは細胞によって比較的非常に低いレベルでマーカーが発現されて、検出可能に標識された場合、非常に低いシグナルを発生するかもしれないことを意味する。
【0042】
本明細書での用法では、「治療する(treating)」、「治療する(treat)」または「治療(treatment)」という用語は、B細胞仲介性免疫障害の発症または進行を低下させるかまたは遅延させ、またはB細胞仲介性免疫障害の少なくとも1つの症状を軽減させるかまたは排除するのに十分な、本明細書に記載される抗体の治療的有効量を投与することを含む。
【0043】
膜結合遊離軽鎖に結合する抗体
本発明者らは今や初めて、膜結合遊離軽鎖が形質細胞前駆体表面で発現されることを示した。mFLCに対する抗体は、ADCC、補体依存性溶解、抗体依存性の細胞の食作用、およびアポトーシスなどの機序を通じて、形質細胞前駆体を死滅させることができ、したがってB細胞仲介性免疫障害に対する効果的な治療薬であろう。さらにmFLC対する抗体は、細胞毒を形質細胞前駆体に直接送達するのに使用し得る。
【0044】
必須ではないが、抗体はmFLCに特異的に結合してもよい。「特異的に結合する」という語句は、特定の条件下で抗体がmFLCに結合し、その他のタンパク質または炭水化物に顕著な量で結合しないことを意味する。mFLCに特異的に結合する抗体は、未変性免疫グロブリンに付随する軽鎖と結合しないことが好ましい。mFLCへの特異結合は、このような条件下では、その特異性について選択される抗体を必要とするかもしれない。多様な免疫測定様式を使用して、mFLCと特異的に免疫反応性の抗体を選択してもよい。例えば固相ELISA免疫測定法は、タンパク質または炭水化物と特異的に免疫反応性の抗体を選択するのに慣例的に使用される。特異的免疫反応性を判定するのに使用し得る免疫測定様式および条件の説明については、Harlow and Lane(1988)Antibodies,a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Publications,New Yorkを参照されたい。
【0045】
「抗体」という用語は、本明細書での用法では、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、二重抗体、三重抗体、ヘテロ共役抗体、未変性分子ならびにその断片をはじめとするキメラ抗体、およびその他の抗体様分子を含む。抗体は、例えばVHまたはVL領域のどちらかを含む領域抗体、重鎖可変部の二量体(VHH、ラクダ科動物で述べられるような)、軽鎖可変部の二量体(VLL)、直接にまたはリンカーを通じて結合していてもよい軽鎖(VL)と重鎖(VH)可変部のみを含有するFv断片、または重鎖可変部とCH1領域を含有するFd断片をはじめとするが、これに限定されるものではない、多様な形態の変異を含む。共に結合して一本鎖抗体を形成する重鎖および軽鎖の可変部から成るscFv、(Bird et al.,1988;Huston et al.,1988)、そして二重抗体および三重抗体などのscFvのオリゴマーもまた、「抗体」という用語に包含される。可変部と定常部の一部とを含有するFab、(Fab’)、およびFabFc断片などの抗体断片もまた包含される。相補性決定領域(CDR)グラフト抗体断片および抗体断片オリゴマーもまた、包含される。Fvの重鎖および軽鎖構成要素は同一抗体または異なる抗体に由来してもよく、それによってキメラFv領域を生じてもよい。抗体は、動物(例えばマウス、ウサギまたはラット)由来、またはヒト由来であってもよく、またはキメラ(Morrison et al.,1984)でもまたはヒト化(Jones et al.,1986)されていてもよく、英国特許出願第8707252号明細書で公開されている。本明細書での用法では「抗体」という用語は、これらの様々な形態を含む。本明細書で提供されるガイドライン、そして上述の参考文献およびHarlow & Lane,Antibodies:a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,(1988)などの出版物に記載される当業者に良く知られている方法を使用して、本発明の方法で使用するための抗体は容易に作成し得る。
【0046】
mFLC結合抗体は、可変軽鎖(V)と可変重鎖(V)鎖を含んでなるFv領域であってもよく、その中で軽鎖および重鎖は直接にまたはリンカーを通じて結合していてもよい。本明細書での用法では、リンカーとは軽鎖および重鎖に共有結合して、その中でそれらが目的とするエピトープと特異的に結合できるような立体配座を達成できるように、2本の鎖の間に十分な間隔と可撓性を提供する分子を指す。融合ポリペプチドのIg部分の内在性構成要素として発現されてもよいことから、タンパク質リンカーが特に好ましい。
【0047】
別の実施態様では、組換え的に生成された一本鎖scFv抗体、好ましくはヒト化scFvが本発明の方法で使用される。
【0048】
モノクローナル抗体
mFLCエピトープに対するモノクローナル抗体は、当業者によって容易に作成され得る。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作成する一般方法は、良く知られている。細胞融合によって、またBリンパ球の発がん性DNAによる直接形質移入またはエプスタイン・バーウイルスによる形質転換などのその他の技術によって、不死の抗体産生細胞系統を作り出し得る。mFLCエピトープに対して作成されたモノクローナル抗体のパネルは、様々な特性について、すなわちアイソタイプおよびエピトープ親和性についてスクリーンし得る。
【0049】
動物由来モノクローナル抗体は、直接生体内および生体外免疫療法の双方で使用し得る。しかし例えばマウス由来モノクローナル抗体を治療薬としてヒトで使用する場合、患者はヒト抗マウス抗体を産生することが観察されている。したがって動物由来モノクローナル抗体は治療のためには、特に長期使用では好ましくない。しかし確立された遺伝子操作技術を用いて、動物由来部分およびヒト由来部分を有するキメラまたはヒト化抗体を作り出すことが可能である。動物は、例えばマウスや、またはラットなどのその他の齧歯類であり得る。
【0050】
キメラ抗体の可変部が例えばマウス由来であって、定常部がヒト由来であれば、キメラ抗体は「純粋」マウス由来モノクローナル抗体よりも一般に免疫原性が低い。「純粋」マウス由来抗体が不適切であると判明した場合、これらのキメラ抗体は治療用途により良く適するであろう。
【0051】
当業者は、キメラ抗体を作成する方法を利用できる。例えば別々のプラスミド中で免疫グロブリン軽鎖と免疫グロブリン重鎖を使用して、例えば軽鎖および重鎖を別々に発現し得る。次にこれらを精製して生体外で完全な抗体にアセンブリーし得る。このようなアセンブリーを達成する方法については、記載されている(例えばSun et al.,1986を参照されたい)。このようなDNAコンストラクトは、ヒト定常部をコードするDNAに結合している抗mFLC抗体の軽鎖または重鎖の可変部について機能的に再配列された遺伝子をコードするDNAを含んでなってもよい。骨髄腫などのリンパ球様細胞、または軽鎖および重鎖のためのDNAコンストラクトで形質移入されたハイブリドーマは、抗体鎖を発現させてアセンブリーし得る。
【0052】
減少した単離軽鎖および重鎖からのIgG抗体形成の生体外反応パラメーターについては、記載されている(例えばBeychok,1979を参照されたい)。重鎖および軽鎖の細胞内会合および結合を達成して完全なH2L2 IgG抗体を得る、同一細胞中での軽鎖および重鎖の同時発現もまた可能である。このような同時発現は、同一宿主細胞中の同一または異なるプラスミドを使用して達成し得る。
【0053】
ヒト化の方法/技術
本発明の別の好ましい実施態様では、抗mFLC抗体はヒト化され、すなわち分子モデル化技術によって生成される抗体は、例えばラット、ウサギまたはマウスの親抗体の可変部に帰属される結合親和力の損失はわずかまたは皆無でありながら、抗体のヒト含有量が最大化される。
【0054】
抗体は、欧州特許出願公開第A−0239400号明細書に従って、所望のCDRをヒトフレームワークにグラフトすることによりヒト化してもよい。したがって所望の再構成抗体をコードするDNA配列は、CDRを再構成することが所望されるヒトDNAから出発して作成し得る。所望のCDRを含有する動物由来可変領域アミノ酸配列は、選択されたヒト抗体可変領域配列と比較される。ヒト可変部を動物由来CDRに組み込むために、動物中の対応する残基に変更する必要があるヒト可変領域中の残基をマークする。ヒト配列中で置換され、それに添加され、またはそれからから除去される必要がある残基もまた、あるかもしれない。
【0055】
ヒト可変領域フレームワークを変異誘発するのに使用し得るオリゴヌクレオチドは合成されて、所望の残基を含有する。これらのオリゴヌクレオチドは、あらゆる都合のよいサイズであり得る。常態では利用できる特定の合成機の能力のみによって、長さが制限される。オリゴヌクレオチド指定生体外変異誘発の方法については、良く知られている。
【0056】
代案としては、ヒト化は、国際公開第92/07075号パンフレットの組み換えポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を使用して達成されてもよい。この方法を使用して、ヒト抗体のフレームワーク領域の間でCDRをスプライスしてもよい。一般に国際公開第92/07075号パンフレットの技術は、2つのヒトフレームワーク領域、ABおよびCD、および供与体CDRによって置換されるそれらの間のCDRを含んでなるテンプレートを使用して実施し得る。プライマーAおよびBはフレームワーク領域ABを増幅するのに使用され、プライマーCおよびDはフレームワーク領域CDを増幅するのに使用される。しかしプライマーBおよびCは、それぞれそれらの5’末端に、供与体のCDR配列の全部または少なくとも一部に相当する追加的配列もまた含有する。プライマーBおよびCは、PCRを実施できるようにする条件下で、それらの5’末端の相互のアニーリングを可能にするのに十分な長さが重なり合う。したがって増幅された領域ABおよびCDは、重複する延長部分で遺伝子スプライシングを受けて、単一反応中でヒト化生成物を生じてもよい。
【0057】
抗体を再構成する変異誘発反応に続いて、変異誘発されたDNAを軽鎖または重鎖定常部をコードする適切なDNAに結合させて発現ベクターにクローンし、好ましくは哺乳類細胞である宿主細胞に形質移入させ得る。これらの過程は、通例の様式で実施し得る。したがって再構成抗体は、
(a)少なくともIg重鎖または軽鎖の可変領域をコードするDNA配列と作動的に連結する、適切なプロモーターを含む第1の複製可能な発現ベクターを調製するステップと;
(b)少なくとも相補的Ig軽鎖または重鎖の可変領域をそれぞれコードするDNA配列と作動的に連結する適切なプロモーターを組む第2の複製可能な発現ベクターを調製するステップと;
(c)第1のまたは双方の調製されたベクターを用いて細胞系を形質転換するステップと;
(d)前記形質転換された細胞系を培養して、前記改変抗体を生成するステップと
を含んでなる方法によって調製されてもよく、可変領域は、ヒト抗体からのフレームワーク領域と、本発明のヒト化抗体に必要とされるCDRとを含んでなる。
【0058】
好ましくは、ステップ(a)のDNA配列は、ヒト抗体鎖の可変領域と、各定常領域の双方をコードする。ヒト化抗体はあらゆる適切な組み換え発現系を使用して調製し得る。形質転換されて改変抗体を産生する細胞系は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系または不死化哺乳類細胞系であってもよく、それは有利には骨髄腫、ハイブリドーマ、トリオーマまたはクアドローマ細胞系などのリンパ系起源である。細胞系はまた、エプスタイン・バーウイルスなどのウィルスを用いた形質転換によって不死化された、B細胞などの正常なリンパ球様細胞を含んでなってもよい。最も好ましくは、不死化された細胞系は骨髄腫細胞系またはその誘導体である。
【0059】
抗体発現のために使用されるCHO細胞は、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)欠乏性であって、成長のためにチミジンとヒポキサンチンに依存してもよい(Urlaub and Chasin,1980)。親dhfrCHO細胞系に、抗体をコードするDNAおよびdhfr遺伝子を形質移入し、それによってdhfr陽性表現型のCHO細胞形質転換体を選択できるようにする。選択はチミジンおよびヒポキサンチンを欠く培地上でコロニーを培養することで実施され、チミジンおよびヒポキサンチンの不在は非形質転換細胞が成長するのを妨げ、形質転換細胞が葉酸経路を再利用し、ひいては選択システムをバイパスすることを妨げる。これらの形質転換体は、関心のある形質移入DNAとdhfrをコードするDNAの同時組み込みにより、関心のあるDNAを通常低濃度で発現する。抗体をコードするDNAの発現レベルは、メトトレキサート(MTX)を使用した増幅によって増大されてもよい。この薬剤は酵素dhfrの直接阻害剤であり、これらの条件を乗り切るためにdhfr遺伝子のコピー数を十分に増幅する抵抗性コロニーを単離できるようにする。dhfrをコードするDNA配列と抗体をコードするDNA配列は、元の形質転換体中で密接に連関しているので、通常同時増幅があり、ひいては所望の抗体の発現の増大がある。
【0060】
CHOまたは骨髄腫細胞と共に使用される別の好ましい発現系は、国際公開第87/04462号パンフレットに記載されるグルタミンシンセターゼ(GS)増幅系である。このシステムは、酵素GSをコードするDNAによる、そして所望の抗体をコードするDNAによる細胞の形質移入を伴う。次にグルタミンを含まない培地中で成長し、したがってGSをコードするDNAが組み込まれたと想定される細胞が選択される。次にメチオニンスルホキシミン(Msx)を使用して、これらの選択されたクローンの酵素GSを阻害する。細胞は生き残るためにGSをコードするDNAを増幅させ、抗体をコードするDNAが同時に増幅する。
【0061】
ヒト化抗体を生成するのに使用される細胞系は好ましくは哺乳類細胞系であるが、細菌細胞系または酵母細胞系などのあらゆるその他の適切な細胞系を代案として使用してもよい。特に大腸菌(E.coli)由来細菌株を使用し得ることが想定される。得られた抗体は機能性について検査される。機能性が失われていれば、ステップ(2)に戻って抗体のフレームワークを変更する必要がある。
【0062】
発現されたら、抗体全体、それらの二量体、個々の軽鎖および重鎖、またはその他の免疫グロブリン形態を回収して、硫酸アンモニウム沈殿、親和性カラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動法などをはじめとする技術分野の標準操作手順に従って精製し得る(一般に、Scopes,R.,Protein Purification,Springer−Verlag,N.Y.(1982)を参照されたい)。医薬用途では、少なくとも約90〜95%均質な実質的に純粋な免疫グロブリンが好ましく、98〜99%以上の均質性がより好ましい。必要に応じて部分的にまたは均質性に精製したら、次にヒト化抗体を治療的に使用してもよく、またはアッセイ手順、免疫蛍光染色などの開発実施において使用してもよい。(一般に、Immunological Methods,Vols.I and II,Lefkovits and Pernis,eds.,Academic Press,New York,N.Y.(1979および1981)を参照されたい)。
【0063】
Greenwoodら(1993)によって実施された研究は、免疫グロブリン分子の定常部を操作することによって、ヒトエフェクター細胞による抗体のFc領域の認識を最適化し得ることを実証した。これは所望の特異性がある抗体の可変部遺伝子と、ヒト対象において効果的なADCCを実証する、例えばIgG1およびIgG3アイソタイプなどの免疫グロブリンアイソタイプをコードするヒト定常部遺伝子とを融合させることで達成し得る。(Greenwood and Clark(1993)Protein Engineering of Antibody Molecules for Prophylactic and Therapeutic Applications in Man.Edited by Mike Clark,published by Academic Titles.Section II 85−113)。得られるmFLCに対するキメラまたはヒト化抗体は、特にADCCを誘発するのに効果的なはずである。
【0064】
mFLCに対する、完全なヒト可変部がある抗体はまた、抗原投与に応えてこのような抗体を産生するように改変されているが、その内在性遺伝子座は無能にされている遺伝子導入動物に、抗原を投与することで調製してもよい。引き続き様々な操作を実施して、抗体それ自体またはその類似体のどちらかを入手してもよい(例えば米国特許第6,075,181号明細書を参照されたい)。
【0065】
抗体またはその断片をコードする遺伝子の調製
抗体をコードする遺伝子、軽鎖および重鎖遺伝子の双方、または例えば一本鎖Fv領域などのその一部は、ハイブリドーマ細胞系からクローンされてもよい。それらは全て、同じ一般的ストラテジーを使用してクローンされてもよい。典型的に、例えばプライマーとしてランダム六量体を使用して、ハイブリドーマ細胞から抽出されたポリ(A)mRNAが逆転写される。Fv領域では、VおよびV領域が2つのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって別々に増幅される。重鎖配列は、それぞれ抗mFLC重鎖のアミノ末端タンパク質配列に従って設計された5’末端プライマー、およびコンセンサス免疫グロブリン定常部配列に従った3’末端プライマーを使用して増幅されてもよい(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest.5th edition.U.S.Department of Health and Human Services,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。軽鎖Fv領域は、抗mFLC軽鎖のアミノ末端タンパク質配列に従って設計された5’末端プライマーをプライマーC−κと組み合わせて使用して、増幅される。当業者は、多数の適切なプライマーを用いてFv領域を得てもよいことを認識するであろう。
【0066】
PCR産物を適切なクローニングベクターにサブクローニングする。DNA限定酵素による正確な大きさの挿入断片を含むクローンを同定する。次にクローニング部位に隣接する配列決定プライマーを使用して、二本鎖プラスミドDNAから重鎖または軽鎖コード領域のヌクレオチド配列を決定してもよい。DNAの配列決定を容易にするために、市販のキット(例えばUnited States Biochemical Corp.、Cleveland、Ohio、USAからのSequenase(登録商標)キット)を使用してもよい。Fv領域をコードするDNAは、例えばPCRおよびLCRなどの増幅技術をはじめとするあらゆる適切な方法によって調製されてもよい。
【0067】
化学合成からは一本鎖オリゴヌクレオチドが生じる。これは、相補的配列とのハイブリダイゼーションによって、または一本鎖をテンプレートとして使用するDNAポリメラーゼを用いた重合によって、二本鎖DNAに変換してもよい。一本鎖Fv領域全体を化学合成することも可能であるが、多くの短い配列(約100〜150塩基)を合成し、その後これらを連結することが好ましい。
【0068】
代案としては、サブ配列をクローニングし、適切な制限酵素を使用して適切な部分配列を切断してもよい。次に断片を連結して、所望のDNA配列を生成してもよい。
【0069】
Fv可変軽鎖DNAおよび可変重鎖DNAが得られたら、当業者に良く知られている技術を使用して、直接またはペプチドリンカーをコードするDNA配列を介して、配列を共に連結してもよい。一態様では、重鎖および軽鎖領域は、重鎖Fvドメインのカルボキシ末端から始まって軽鎖Fvドメインのアミノ末端で終了する可動性のペプチドリンカー(例えば、(GlySer))によって連結される。配列全体が、一本鎖抗原結合タンパク質の形態のFvドメインをコードする。
【0070】
抗KMA抗体
一実施態様では、mFLCに結合する抗体は抗KMA抗体である。例えば抗体は、K121またはaK121様抗体であってもよい。K121は、ヒト遊離κ軽鎖と、κ−タイプ骨髄腫細胞の表面に発現する抗原とを特異的に認識するマウスのモノクローナル抗体(mAb)である。この抗原は、κ骨髄腫抗原またはKMAと呼ばれている(Boux,HA. et al.,1983)。KMAは、細胞膜上のアクチンと非共有結合した状態で発現される遊離κ軽鎖からなることが確立されている(Goodnow et al.,1985)。
【0071】
本明細書で使用する場合、「K121様抗体」という語句は、配列番号1に記載のVH領域および配列番号2に記載のVL領域を含んでなる抗体;またはκ骨髄腫抗原(KMA)への結合について配列番号1に記載のVH領域を有する抗体および配列番号2に記載のVL領域と競合する抗体を指す。
【0072】
K121様抗体は、HMy2細胞上のKMAとの結合においてK121(またはK121のキメラまたはヒト化形態)と競合するそれらの能力によって同定されてもよい。この手順では、確立された手順を使用してK121をビオチンと共役させてもよい(Hofmann et al.,1982)。次にK121様抗体をHMy2細胞上のKMAへのビオチン化K121の結合と競合するそれらの能力によって評価する。HMy2細胞へのビオチン化K121の結合は、K121分子上のビオチンに結合するフルオレセイン標識ストレプトアビジンの添加によって評価してもよい。次に細胞の蛍光染色をフローサイトメトリーによって定量化し、K121様抗体の競合効果を競合物不在下で得られる蛍光レベルの百分率として表す。
【0073】
抗LMA抗体
本発明の一実施態様では、mFLCに結合する抗体は抗LMA抗体である。本明細書で使用する場合、「LMA」という用語は、λ−タイプ免疫グロブリンに由来する軽鎖に相当するあらゆる遊離λ軽鎖を包含する。したがって本用語は、それらの可変部配列が異なり得る一連のλ軽鎖ポリペプチドを包含する。
【0074】
抗LMA抗体は当業者に知られている。例えばLMAに対する抗体は、多発性骨髄腫を診断する試験において血清または尿中の遊離λ軽鎖を検出するのに使用されている(Bradwell et al.,2001)。しかしLMAは患者においてB細胞仲介性免疫障害を治療するための標的としては、今日まで使用されていない。
【0075】
適切な抗LMA抗体の例としては、3D12(製品番号ab1944;AbCam Ltd,Cambridge,UK)、CBL317(Cymbus Biotechnology Ltd,UK)、4G7(製品番号ab54380;AbCam Ltd)、ME−154(製品番号ab9245;AbCam Ltd)、26D(製品番号CBL317;Chemicon Australia Pty Ltd,Victoria,Australia)または2G9(製品番号CBL109;Chemicon Australia Pty Ltd)が挙げられる。
【0076】
細胞毒性部分
本発明で使用するための適切な細胞毒性部分としては、細菌または植物毒素などの作用物質;例えばシクロホスファミド(CTX;cytoxan)、クロランブシル(CHL;leukeran)、シスプラチン(CisP;CDDP;platinol)、ブスルファン(myleran)、メルファラン、カルムスチン(BCNU)、ストレプトゾトシン、トリエチレンメラミン(TEM)、マイトマイシンC、およびその他のアルキル化剤などの薬剤;メトトレキサート(MTX)、エトポシド(VP−16;vepesid)、6−メルカプトプリン(6MP)、6−チオグアニン(6TG)、シタラビン(Ara−C)、5−フルオロウラシル(5FU)、ダカルバジン(DTIC)、2−クロロデオキシアデノシン(2−CdA)、およびその他の代謝拮抗薬;アクチノマイシンD、ドキソルビシン(DXR;adriamycin)、ダウノルビシン(daunomycin)、ブレオマイシン、ミトラマイシンをはじめとする抗生物質ならびにその他の抗生物質;ビンクリスチン(VCR)、ビンブラスチンなどのアルカロイド;ならびにデキサメタゾン(DEX;decadron)などの細胞分裂阻害剤グルココルチコイド、およびプレドニゾンなどのコルチコステロイド、ヒドロキシ尿素などのヌクレオチド酵素阻害剤などをはじめとするその他の抗がん剤が挙げられるがこれに限定されるものではない。
【0077】
当業者は、良く知られている技術によって抗体と共役させて送達し患部組を織特異的に破壊し得る、多数のその他の放射性同位体および化学細胞毒物があることを理解するであろう。例えばBlattlerらに付与された米国特許第4,542,225号明細書を参照されたい。光活性化毒素の例としては、ジヒドロピリジンおよびω−コノトキシン(Schmidt et al.,1991)が挙げられる。使用できる造影剤および細胞毒性試薬の例としては、125I、131I、111In、123I、99mTc、32P、H、および14C;フルオレセインやローダミンなどの蛍光性標識、およびルシフェリンなどの化学発光物質が挙げられる。当該技術分野で知られている技術を使用して、このような試薬で抗体を標識し得る。例えば抗体の放射標識に関する技術については、Wenzel and Meares,Radioimmunoimaging and Radioimmunotherapy,Elsevier,N.Y.(1983)を参照されたい(Colcher et al.,1986;”Order,Analysis,Results and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy”,in Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy,Baldwin et al.(eds),pp.303−16(Academic Press 1985)もまた参照されたい)。
【0078】
一例では、リンカー−キレート剤チウキセタンが、安定したチオ尿素共有結合によってmFLCに結合する抗体に共役し、インジウム−111またはイットリウム−90のための高親和性キレート化部位を提供する。
【0079】
本発明の治療的な組成物中に細胞毒物をコードするDNA分子が存在する場合、DNAは好ましくは細菌または植物毒素であるポリペプチドをコードする。これらのポリペプチドとしては、天然または改変シュードモナス(Pseudomonas)菌体外毒素(PE)、ジフテリア毒素(DT)、リシン、アブリン、ゲロニン、モモルジンII、志賀および志賀様毒素a−鎖などの細菌RIP、ルフィン(Islam et al.,1990)、a−トリコサンチン(Chow et al.,1990)、モモルジンI(Ho et al.,1991)、Mirabilis抗ウィルス性タンパク質(Habuka et al.,1989)、アメリカヤマゴボウ抗ウィルスタンパク質(Kung et al.,1990)、byodin 2(米国特許第5,597,569号明細書)、ガポリン(Benatti et al.,1989)などのポリペプチド、ならびにそれらの遺伝子操作変異体が挙げられるが、これに限定されるものではない。天然PEおよびDTは、典型的に肝臓毒性を通じて死をもたらす高度に毒性の化合物である。好ましくは、PEおよびDTは、例えばPEのIa領域およびDTのB鎖などの毒素の天然標的構成要素を除去する形態に改変される。当業者は本発明が特定の細胞毒物に限定されるものではないことを理解するであろう。
【0080】
「シュードモナス(Pseudomonas)菌体外毒素」(PE)という用語は、本明細書での用法では改変されている全長天然(天然)PEまたはPEを指す。このような改変としては、領域Iaの除去、領域IIおよびIIIにおける様々なアミノ酸欠失、単一アミノ酸置換(例えば位置590および606におけるLysのGlnによる置換)、およびカルボキシル末端における1つ以上の配列の付加が挙げられるが、これに限定されるものではない(Siegall et al.,1989を参照されたい)。したがって例えばPE38は、アミノ酸253〜364および381〜613から構成されるトランケート型シュードモナス(Pseudomonas)菌体外毒素を指す。PEの天然C−末端であるREDLK(残基609〜613)は、配列KDEL、REDLによって置換されていてもよく、Lys−590およびLys−606は、それぞれGlnに変異していてもよい。
【0081】
「ジフテリア毒素」(DT)という用語は、本明細書での用法では、全長天然DTまたは改変DTを指す。改変は典型的にB鎖中の標的領域の除去を含み、さらに具体的にはB鎖のカルボキシル領域のトランケーションを伴う。
【0082】
治療法
本発明の方法は、自己免疫障害、炎症性疾患、および敗血症などのB細胞仲介性免疫障害の治療または予防に有用である。当業者は、B細胞仲介性免疫障害がB細胞悪性腫瘍を含まないことを理解するであろう。
【0083】
本発明の方法で治療してもよい自己免疫障害としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、糖尿病、多発性硬化症、クローン病、免疫血小板減少性紫斑病、尋常性天疱瘡、自己免疫蕁麻疹、セリアック病、疱疹状皮膚炎、急性リウマチ熱、グレーブス病、重症筋無力症、シェーグレン症候群、グッドパスチャー症候群、溶連菌感染後糸球体腎炎、接触性皮膚炎、自己免疫甲状腺炎、橋本甲状腺炎、アジソン病、自己免疫溶血性貧血、悪性貧血、抗好中球細胞質抗体(ANCA)によって引き起こされる脈管炎、結節性多発動脈炎、自己免疫肝炎、および原発性胆汁性肝硬変が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0084】
一態様では、本発明の方法は、改変なしに抗体または結合断片を利用して、形質細胞前駆体の表面mFLCへの抗体または断片の原位置結合に依存して、免疫攻撃を刺激する。例えばその中で抗原結合部位が例えばIgGlなどのヒトFc領域に結合するキメラ抗体を使用して、抗体依存性仲介細胞毒性または補体仲介細胞毒性を促進してもよい。
【0085】
本発明の別の態様では、細胞毒物または生物反応修飾物質がそれに結合する、mFLCに結合する抗体などのmFLC結合部分を使用して治療法を実施してもよい。得られるコンジュゲートの形質細胞前駆体への結合は、細胞の成長を阻害しまたは死滅させる。
【0086】
当業者によって理解されるように、B細胞仲介性免疫障害患者のいくらかは、血液循環内に有意水準の遊離λ軽鎖を有するかもしれない。抗mFLC抗体はこれらの遊離軽鎖と反応するので、対象の体液中のそれらの存在は治療効率を低下させるかもしれない。したがって本発明の一実施態様では、治療方法は、抗mFLC抗体の投与に先だって対象を処置し、対象の体液(例えば血液)中に循環する遊離λ軽鎖レベルを低下させるステップをさらに含んでなる。この追加的処置ステップは、例えば血漿交換療法を伴ってもよい。当業者には知られているように、血漿交換療法は、細胞分離器として知られている装置によって血液細胞から血漿を除去する工程である。分離器は、血液を高速で回転させて細胞を流体から分離させるか、または血漿のみが通過できる小孔のあるメンブレンを通して血液を通過させるかのどちらかによって機能する。細胞は対象に戻される一方、遊離軽鎖を含有する血漿は廃棄され、別の流体によって置換される。処置の間、血液が凝固しないようにする薬剤(例えば抗凝固剤)を静脈を通じて投与してもよい。
【0087】
例えば抗mFLC抗体の使用を伴う関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡、糖尿病、および多発性硬化症などのB細胞仲介性免疫障害を治療する方法は、単独で、またはその他の既知の治療法の補助として、実施してもよいことが理解されるであろう。
【0088】
本発明のさらなる実施においては、患者に再導入する前に、抗mFLC抗体を使用して、骨髄などの患者サンプルから形質細胞前駆体を除去してもよい。非限定的な一例では、抗体をビーズなどのマトリックスに付着させる。これは、抗体またはそれらの結合断片を含んでなる、親和性マトリックスを調製するいくつかの良く知られている方法のいずれによって達成されてもよい。次にマトリックスに付着した抗体または結合断片との抗原/抗体相互作用を通じて、サンプル中の形質細胞前駆体の結合を促進する条件下で、マトリックスを含有するカラム上の細胞の通過などによって、患者サンプルをマトリックスに曝露させる。サンプル中の形質細胞前駆体がマトリックスに付着する一方、カラム溶出物、すなわち非付着細胞集団は形質細胞前駆体が枯渇している。手順の有効性は、下述するような検出可能に標識された抗体の使用などによって、残留形質細胞前駆体について細胞を調べることでモニターしてもよい。手順を反復しまたは修正して、有効性を増大させもよい。
【0089】
診断用アッセイおよびキット
mFLCに結合する抗体はまた、遊離軽鎖を発現する形質細胞前駆体を検出する、生体外および生体内の双方における診断用途のためにも有用である。生体外診断法としては、細胞の免疫組織学的検出が挙げられる。免疫組織化学的技術は、mFLCに結合する抗体がある組織標本などの生物学的標本を染色し、次に抗原抗体複合体として、その抗原と複合体形成した抗体の存在を検出することを伴う。このような標本との抗原抗体複合体の形成は、組織中における遊離軽鎖を発現する形質細胞前駆体の存在を示唆する。標本上の抗体の検出は、例えば免疫ペルオキシダーゼ染色技術、またはアビジン−ビオチン技術、または免疫蛍光技術のような免疫酵素などの技術分野で知られている技術を使用して達成し得る。(例えばCiocca et al.,”Immunohistochemical Techniques Using Monoclonal Antibodies”,Methods Enzymol,121:562−79,1986、およびKimball,(ed),Introduction to Immunology(2.sub.nd Ed),pp.113−117(MacmillanPub.Co.,1986)を参照されたい)。
【0090】
適切な標識は、当業者に良く知られている。「標識」という用語は、本明細書での用法では、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的、または化学的手段によって検出可能な組成物を指す。例えば有用な標識としては、32P、14C、125I、H、および35Sなどの放射性分子、フルオレセインまたはローダミンなどの蛍光染料、高電子密度試薬、イソチオシアネート、発色団、(一般にELISAで使用されるような)酵素、ルシフェラーゼなどの発光酵素などが挙げられる。
【0091】
このような標識抗体を例えば抗原の組織学的局在化のため、ELISAのため、細胞選別のため、および抗原、および抗原がある細胞を検出および/または定量化するその他の免疫学的技術のために、使用してもよい。上述のように、このような標識される抗体、またはその断片の特定の用途は、移植、特に自己骨髄移植に先だって、骨髄組織からの形質細胞前駆体除去の有効性を判定することにある。
【0092】
本発明はまた、上述されるような抗mFLC抗体を使用した、B細胞仲介性免疫障害の造影法も対象とする。方法は、本明細書に記載されるような、放射性核種などの検出可能な部分への共役がある、またはない抗体の投与または輸液を伴う。投与または輸液の後、抗体または抗体断片は形質細胞前駆体に結合し、その後抗体の位置が検出される。放射性核種で標識したものなどの検出可能に標識された抗体では、イメージング装置を使用して体内の作用因子の位置を同定してもよい。未標識の抗体の使用では、抗体の位置を示し、したがって適切に検出されてもよい第2の検出可能な試薬を投与してもよい。これらの方法はその他の抗体のために使用されており、当業者は体内の抗体または断片の位置をイメージングするためのこれらの様々な方法を十分に知っている。
【0093】
本発明はまた、研究または診断目的のためのキットを包含する。キットは典型的に、抗mFLC抗体を含有する1つ以上の容器を含む。抗mFLC抗体は標識で誘導体化してもよく、または代案としてはそれを二次標識に結合して引き続く検出を提供してもよい。上述のようにこのような標識としては、放射性標識、蛍光性標識、酵素標識、すなわちホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)などが挙げられる。キットはまた、適切な二次標識(例えばヒツジ抗マウス−HRPなど)を含んでもよい。キットはまた、融合ポリペプチドの結合、非特異結合抗体の除去、および結合標識の検出を容易にする様々な試薬を含んでもよい。このような試薬については当業者に良く知られている。
【0094】
本発明のさらなる態様では、固体担体に結合する抗mFLC抗体を含んでなる、組成物が提供される。本発明で使用するための固体担体は、結合のための反応条件に対して不活性である。本発明で使用するための固相担体は、そこにモノクローナル抗体またはその結合パートナーを付着させるために、反応性基または活性化基を有さねばならない。別の実施態様では、固相担体は、炭水化物ポリマーSEPHAROSE.RTM.、SEPHADEX.RTM.、またはアガロースなどの有用なクロマトグラフィー担体であってもよい。本明細書での用法では、固相担体は、特定タイプの担体に限定されない。むしろ多数の担体が利用でき、当業者に知られている。固相担体としては、例えばシリカゲル、樹脂、誘導体化プラスチックフィルム、ガラスビーズ、綿、プラスチックビーズ、アルミナゲル、磁性ビーズ、(ニトロセルロース、セルロース、ナイロン、およびグラスウールをはじめとするが、これに限定されるものではない)メンブレン、プラスチックおよびガラス皿またはウェルなどが挙げられる。
【0095】
上述の研究および診断用キットを使用する方法は一般に良く知られており、一般にキット使用のための取扱説明書で提供される。
【実施例】
【0096】
実施例1.正常なヒト末梢血B細胞の体外活性化
1.IL−21、抗CD40、および抗IgMの併用、または2.ホルマリン固定黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)細菌(SAC)の2つの異なるプロトコルを使用して、B細胞に由来するCD19+末梢血を生体外で活性化した。
【0097】
IL−21、抗CD40、および抗IgMによる精製B細胞の活性化は、それらの表面にKMAを発現するものをはじめとする形質細胞を発生させる(KMAはmKap[K121]反応性によって定義される)。フローサイトメトリーによるKMA発現細胞の表現型分析は、それらが表面IgD−、CD27++、およびCD38++(図1)によって定義される形質細胞のサブセットであることを明らかにした。これらのKMA+/IgD−/CD27++/CD38++は、全CD38++B細胞のおよそ12%に相当する。対照的にSACによる刺激は、いかなる形質細胞も生じなかった。しかしKMA発現は、CD27++およびCD38low形質芽球(CD38low集団のおよそ10%)ならびにCD27+/++およびCD38+形質芽球(CD38+集団のおよそ14%;図2)の2つの異なる集団で見られた。
【0098】
実施例2.正常なヒトリンパ系B細胞におけるKMAの生体内発現
生体外活性化系で得られた結果を考えて、発明者らは類似タイプの細胞が生体内でKMAを発現するかどうかを判定した。FACSによって、ヒト扁桃からの単核細胞をB細胞マーカーCD19、CD38、およびCD45と共に、KMA発現について分析した。
【0099】
発明者らは、CD38++形質細胞画分中にKMA発現細胞の小集団(アイソタイプ対照をおよそ7.8%超える;図3a、ゲート3)を発見した。興味深いことに、これらの細胞はまた、未成熟形質細胞表現型(図3b)の代表であるCD45も発現する。
【0100】
KMA発現細胞のフローサイトメトリー評価に加えて、正常な組織に対する免疫組織化学的(IHC)研究を実施した。正常な供与者からの凍結保存未固定組織切片をFITC標識MDX1097(mKap可変領域を含んでなるヒト−マウスキメラ抗体)で染色し、マウス抗FITC二次抗体およびヤギ抗マウスペルオキシダーゼがそれに続いた。スライドを色原体基質で処理し、発現について分析した。
【0101】
MDX1097による正常なヒト組織のIHC染色は、扁桃および唾液腺中に、形質細胞および形質芽球の形態(すなわち大きな細胞質と丸い核がある細胞)がある少数のKMA陽性細胞を明らかにした。染色は、KMAとして細胞膜上、および細胞内の双方で観察され、これらの細胞が遊離κLCの大きなプールを含有することが示唆された。正常な末梢血中にはいかなるKMA発現細胞も観察されず、以前の結果が確認された(図4;Walker et al.,1985)。
【0102】
実施例3.活性化末梢血B細胞上におけるKMAおよびLMA発現
CD19+末梢血B細胞をAustralian Red Crossから得られた供血者サンプルから単離した。末梢血単核細胞(PBMC)を単離する密度勾配遠心分離に続いて、磁性MicroBeadsとMACS分離システムまたはautoMACS Pro装置(Miltenyi Biotec、Germany)を使用して、CD19+細胞を精製した。IL−21(1μg/mL;Invitrogen、USA)、抗CD40抗体(10μg/mL;R & D Systems、USA)、および抗IgM抗体(50μg/mL;Sigma−Aldrich、USA)抗体を含有する培地内において、37℃、5%COで6〜7日間培養してCD19+細胞を活性化した。
【0103】
IL−21、抗CD40、および抗IgMによるCD19+末梢血B細胞の活性化は、KMA+およびLMA+細胞の発生をもたらした。KMAおよびLMA発現細胞の表現型はCD27++、CD38++、CD45+、およびIgD−であり、したがって晩期形質芽球(late plasmablast)のサブセット上のKMA発現を示す以前の結果が確認された(CD45発現については以前調査していない)。
【0104】
本研究ではKMAが、CD38++/CD27++/CD45+集団の6〜60%に観察された、活性化CD19+B細胞のサブセットのおよそ14%でのKMA発現を示す以前の証拠が裏付けられた。LMAの発現については以前調査されておらず、我々は生体外活性化CD19+細胞上のLMAの存在/不在を調べることを希望した。本研究は、CD27++、CD38++、CD45++、およびIgD−細胞の10〜20%がLMAを発現したことを実証した。得られた結果の要約を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
考察
表現型および形態学的分析は、KMAおよびLMAが未成熟形質細胞の正常な形質芽球のサブセット上でmFLCとして発現されることを実証した。これらの細胞型は、抗体分泌細胞の機能的にユニークな亜集団に相当する(Shapiro−Shelef et al.,2005)。
【0107】
正常な免疫応答中に、初期抗体産生の大半は形質芽球および未成熟形質細胞によって占められる。やがてにこれらの細胞は終末的に成熟形質細胞に分化し、それは迅速な細胞死を経て、または骨髄に移行して骨髄微小環境からの生存指示により長寿命が持続する(Manz et al.,1997)。
【0108】
数多くの研究が、様々な自己免疫病理における形質芽球および形質細胞役割を分析している。形質芽球および未成熟形質細胞はどちらも自己抗体源ならびに成熟形質細胞前駆体であるので、それらは多数の自己免疫疾患における主要エフェクター細胞型の一部であると見なされる。例えば多発性硬化症、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡、シェーグレン症候群、糖尿病、および反応性形質細胞増加症において、形質芽球および未成熟形質細胞の関与が示されている(Cepok et al.,2005;William et al.,2005;およびJego et al.,1999)。これらの細胞型上でKMAおよびLMAがmFLCとして特異的に発現されることを考えれば、KMAおよびLMAは様々な自己免疫状態を治療するための魅力的な治療標的に相当する。
【0109】
実施例4.mFLCに結合する抗体によって仲介される直接細胞傷害活性
4.1増殖アッセイ
細胞成長に適した培地および条件で、mFLCに結合する様々な濃度の抗体と共に、細胞をインキュベートする。一例として、5%ウシ胎仔血清添加RPMI 1640培地中において、37℃で1時間〜4日間の様々な期間にわたり細胞と共に抗体をインキュベートしてもよい。細胞単独と比較した抗体処置細胞の増殖状態は、細胞集団の代謝健康を測定する試薬を使用して測定される。このような1つの試薬はMTS溶液(Promega、USA)であり、それは代謝的に活性の細胞によってホルマザンに転換される。この転換には490nmでの吸光度発生が伴っており、それは吸光度読み取り機器を使用して測定し得る。
【0110】
4.2アポトーシスアッセイ
細胞成長に適した培地および条件で、様々な濃度の抗体と共に細胞をインキュベートする。例えば、5%ウシ胎仔血清添加RPMI 1640培地中において37℃で4時間にわたり、細胞を様々な濃度の抗体と共にインキュベートする。細胞単独と比較した抗体処置細胞のアポトーシスの状態をアネキシン−V−FITC(フルオレセインイソチオシアネート)またはヨウ化プロピジウム(PI)試薬およびフローサイトメトリーを使用して調査する。アネキシン−Vは負に帯電したリン脂質ホスファチジルセリン(PS)に結合し、それはアポトーシス初期段階において、細胞膜の細胞質側から細胞表面側の単分子層に再分配される。壊死細胞はPIによって検出される。フローサイトメトリーはPIおよびFITC蛍光を測定できるようにし、したがってアポトーシスおよび壊死細胞を識別できるようにする。
【0111】
4.3抗体架橋
上述したような細胞成長に適した培地および条件で、様々な濃度の抗体および架橋試薬と共に細胞をインキュベートする。架橋試薬は抗体調製品であり、それは細胞を標的とするのに使用される抗体に結合する。例えば抗KMAまたは抗LMA抗体がヒトIgG1であれば、架橋抗体はヒトIgG1に対して特異的なポリクローナル調製品である。抗体架橋は、抗体の直接細胞毒性効果を増強することが知られている。上述の増殖およびアポトーシスアッセイ法を使用して、標的細胞増殖に対する抗体架橋の影響を測定する。
【0112】
実施例5.mFLCに結合する抗体による細胞仲介性の細胞傷害活性
5.1抗体依存性細胞傷害(ADCC)
ADCCアッセイで使用されるエフェクター細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)調製品、またはPMBC調製品中に含有されるナチュラルキラー(NK)細胞または単球などの特異的細胞集団のどちらかである。PBMCsはFicoll密度勾配を使用して血液から単離される。血液をFicollに重ねて勾配を遠心分離し、PBMCを勾配境界面から収集する。
【0113】
磁性標識抗体調製品(Miltenyi Biotec、Germany)を使用して、特異的細胞集団を上記のように作成されたPBMC調製品から単離し、望まれない細胞を除去する。例えば非NK細胞をPMBC調製品から除去する磁性標識抗体カクテルを使用して、NK細胞を単離する。磁性標識細胞は保持されて(autoMACS Pro装置、Miltenyi Biotec、Germany)NK細胞が収集される。
【0114】
ADCCアッセイでは、様々な濃度の抗体で被覆されたエフェクターおよび標的細胞を様々なエフェクター:標的細胞比率で混合し、混合物を細胞成長に適した適切な培地および条件下でインキュベートする。例えば混合物は、10%ウシ胎仔血清添加RPMI中で37℃で16時間にわたりインキュベートしてもよい。アッセイ終点では、細胞溶解の程度が測定される。例えばCytoTox−ONE Homogenous Membrane Integrity Assay Kit(Promega、USA)を使用して、放出された細胞内乳酸脱水素酵素(LDH)のレベルを細胞溶解の指標として測定する。
【0115】
5.2抗体依存細胞の食作用(ADCP)
ADCDアッセイでは、食作用エフェクター細胞を生体外で発生させる。磁性標識抗体カクテルおよびautoMACS Pro装置(Miltenyi Biotec、Germany)の使用によって、非単球細胞を除去することで、PMBC調製品を使用して単球を単離する。精製された単球は、単球をマクロファージに培養して分化させるのに適した培地内で生体外培養される。
【0116】
マクロファージの接着を支持して共焦点顕微鏡を使用した細胞相互作用の研究に適する、培養チャンバー内にマクロファージを播種する。標的細胞をpH感応性であるpHRodo(Invitrogen、USA)などの蛍光染料で染色し、様々な濃度の抗体で被覆してマクロファージを含有するチャンバーに入れた。酸性pHに曝露すると、pHRodo染料の蛍光スペクトルは変化する。細胞混合物を適切な条件下でインキュベートする。例えば細胞混合物は、10%ウシ胎仔血清添加RPMI 1640中において37℃で2時間にわたりインキュベートしてもよい。アッセイ終点では非結合細胞が洗浄されて、マクロファージ表面のみで発現するマーカーに対して特異的なマクロファージは蛍光性抱合型抗体で染色される。最後に、共焦点顕微鏡を使用して細胞を分析する。
【0117】
マクロファージは、それらの細胞膜の特異的標識に起因する蛍光を通じて同定される。標的細胞を貪食したマクロファージは、それらの膜の染色に加えて、細胞の酸性エンドソーム内のpHRodo染料によって与えられる蛍光を有するであろう。貪食作用は、特定数の顕微鏡視野中で、細胞総数と食細胞数を計測することで測定される。
【0118】
5.3補体依存性細胞毒性(CDC)
標的細胞は、細胞成長をサポートする条件下において、補体(精製補体またはヒト血清含有補体のどちらか)および抗体の存在下でインキュベートする。例えば標的細胞は、10%ウシ胎仔血清添加RPMI中で、補体および抗体の存在下、37℃で30分〜12時間にわたりインキュベートしてもよい。アッセイ終点で、細胞の溶解程度または細胞の代謝状態(細胞成長を反映する)を測定する。細胞溶解は、上の5.1節に記載される方法を使用して測定される。細胞の代謝状態はAlamar Blue(Invitrogen、USA)などの試薬を使用して測定される。Alamar Blueの添加後、補体および抗体処置細胞混合物中で検出される蛍光は、生存細胞数に比例する。
【0119】
本明細書で考察および/または引用した全ての出版物はその内容全体を本明細書に援用する。
【0120】
広義に説明される本発明の範囲を逸脱することなく、特定の実施態様で示されるような多数の変更および/または修正を本発明に加えてもよいことが、当業者によって理解されるであろう。したがって本実施態様は全ての点で例証的と見なされ、制限的でない。
【0121】
本明細書に含まれるあらゆる文献、行為、材料、装置、物品などの考察は、本発明に文脈を提供することのみを目的とする。これらの事項のいずれかまたは全てが、先行技術ベースの一部を形成し、または本明細書の各特許請求項の優先日の前に存在した本発明関連分野の一般常識であると認めるものではない。
【0122】
参考文献
Benatti et al.(1989)Eur J Biochem,183:465−470.
Beychok(1979)Cells of Immunoglobulin Synthesis,Academic Press,New York,p69.
Bird et al.(1988)Science,242:423−426.
Boux,HA. et al.(1983)J Exp Med.158:1769.
Bradwell et al.(2001)Clin.Chem.47:673−680.
Browning(2006)Nat Rev Drug Discovery,5:564−576.
Cepok et al.(2005)Brain,128:1667.
Chow et al.(1990)J Biol Chem,265:8670−8674.
Edwards and Cambridge(2006)Nat Rev Immunol,6:394−403.
Goodnow et al.(1985)J.Immunol.135:1276
Greenwood et al.(1993)Eur J Immunol,23:1098−1104.
Habuka et al.(1989)J Biol Chem,264:6629−6637.
Ho et al.(1991)BBA,1088:311−314.
Hofmann K, et al.(1982)Biochemistry 21:978−84.
Huston et al.(1988)Proc Natl Acad Sci.USA,85:5879−5883.
Islam et al.(1990)Agricultural Biological Chem,54:1343−1345.
Jego et al.(1999)Blood,94:701.
Jones et al.(1986)Nature,321,522−525.
Kung et al.(1990)Agric Biol Chem,54:3301−3318.
Manz et al.(1997)Nature,388:133−134.
Morrison et al.(1984)Proc Natl Acad Sci USA,81:6851−6855.
Schmidt et al.(1991)J Biol Chem.266:18025−33.
Shapiro−Shelef et al.(2005)Nature Reviews Immunology,5:230−242.
Siegall et al.(1989)J Biol Chem 264:14256−14261.
Sun et al.(1986)Hybridoma 5 Suppl 1:517−20.
Urlaub and Chasin(1980)Proc Natl Acad Sci USA.77:4216−4220.
Walker et al.(1985)Adv Exp Med Biol,186:833−841.
William et al.(2005).J Immunol,174:6879−6887.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜結合遊離軽鎖(mFLC)に結合する有効量の抗体を対象に投与するステップを含んでなる、前記対象においてB細胞仲介性免疫障害を治療または予防する方法。
【請求項2】
前記抗体が形質細胞前駆体上のmFLCに結合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗体が細胞毒性部分または生物反応修飾物質に共役する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞毒性部分が、毒素、化学療法剤、または放射性薬剤である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞毒性部分が、細胞毒性ポリペプチドをコードする核酸分子である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記生物反応修飾物質が、リンフォカイン、サイトカインまたはインターフェロンである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記抗体がKMAまたはLMAに結合する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体がKMAに結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗体がK121様抗体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗体が、配列番号1に記載のVH領域および配列番号2に記載のVL領域を含んでなり、またはκ骨髄腫抗原(KMA)への結合について、前記配列番号1に記載のVH領域および前記配列番号2に記載のVL領域を有する抗体と競合する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抗体がLMAに結合する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記B細胞仲介性免疫障害が自己免疫疾患である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記自己免疫疾患が、関節リウマチ、全身性紅斑性狼瘡、糖尿病、および多発性硬化症から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
有効量のmFLCに結合する抗体を対象に投与するステップを含んでなる、前記対象において形質細胞前駆体の成長を阻害するか、または死滅させる方法。
【請求項15】
前記抗体が、細胞毒性部分または生物反応修飾物質に共役する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞毒性部分が、毒素、化学療法剤、または放射性薬剤である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞毒性部分が、細胞毒性ポリペプチドをコードする核酸分子である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記生物反応修飾物質が、リンフォカイン、サイトカインまたはインターフェロンである、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
mFLCに結合する抗体を対象に投与するステップと、前記抗体を前記対象内の細胞に結合させるステップと、前記抗体の位置を前記対象内で判定するステップを含んでなる、前記対象において形質細胞前駆体を局在化させる方法。
【請求項20】
前記抗体が検出可能に標識される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記mFLCに結合する抗体が、キメラ抗体またはヒト化抗体である、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
B細胞仲介性免疫障害を治療する薬剤を製造するためのFLCに結合する抗体の使用。
【請求項23】
(i)対象から造血性前駆細胞集団を取り出すステップと、
(ii)前記細胞集団をmFLCに結合する抗体で処置するステップと、
(iii)ステップ(ii)からの前記処置済み細胞集団を前記対象に移植するステップと
を含んでなる、前記対象において自己造血細胞を移植する方法。
【請求項24】
mFLCに結合する抗体を前記対象に静脈点滴するステップをさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
自家移植する方法が、細胞減少療法の最中または後に前記対象に対して実施される、請求項24または請求項25に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2012−522811(P2012−522811A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503833(P2012−503833)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000394
【国際公開番号】WO2010/115238
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(504008346)イミューン システム セラピューティクス リミテッド (2)
【Fターム(参考)】