説明

免震建物および免震建物の構築方法

【課題】免震効果を低下させることなく、低コストで構築することが可能となる免震建物および免震建物の構築方法を提案する。
【解決手段】平面の少なくとも四つの隅部C,C,…に立設される柱11,11,…の位置に対応して仮設支保部材を配置するとともに、それ以外の柱11,11,…の位置に対応して免震装置31,31,…を配置して免震層30を形成する工程と、仮設支保部材および免震装置31,31,…により柱11,11,…を支持した状態で免震層30より上の躯体の施工を行う工程と、躯体の施工が所定の高さまで進んだ後に仮設支保部材を撤去して、隅部C,C,…に立設された柱11,11,…の下方に絶縁空間を設ける工程とを備える免震建物の構築方法と、これにより構築された免震建物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震建物および免震建物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地震の揺れを上部構造に直接伝えない建物として、基礎と上部構造を切り離した免震建物が知られている。
免震建物では、一般的に、基礎と上部構造の柱下端との間に、積層ゴム支承やすべり支承等の免震装置を介設することで入力加速度を制限し、地震時の水平力を低減させるとともに、上部構造の固有周期を長周期化している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このような免震建物は、免震装置上の上部構造を水平変位可能に支持するように構成されているとともに、基礎の剛性を高めて免震装置に変形を集中させることで、必要な減衰効果や固有周期の制御を行っている。
また、水平方向の変位を許容しつつ、上下方向の変位を制御することで、転倒を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−293945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
建物の高さと幅との比を表すアスペクト比(高さ/幅)が大きい建物の場合は、地震時に建物全体が回転して端部の上下動が大きくなるロッキング振動や転倒モーメントの影響により、免震装置に大きな引張力が作用する。
【0006】
そのため、アスペクト比の大きい建物の場合は、免震装置に引張力を負担するための部材を設けたり、浮き上がりを拘束するローラーを配置したり、転倒防止用積層ゴム体を設置するなど、引張力に対する補強構造を構築する必要があり、この補強構造がコスト低減化の妨げとなっていた。
また、建物本体の柱や基礎にも同様な引張軸力が作用するため、柱や基礎についても、この引張軸力に応じた高耐力構造にする必要がある。
【0007】
一方、杭頭部で免震装置をピン支承して基礎梁を省略したり、平面視で出隅部に位置する柱の直下の基礎を省略したりして基礎の剛性を落とすことで伝達される地震時の水平力を低減させようとする場合があるが、このようにすると、基礎自体の変形が大きくなるおそれがあった。
【0008】
さらに、特許文献1では、四隅に位置する柱の隣の柱の下端部を省略し、軸力を四隅に集中させることで、この位置に配設された免震装置に作用する集中荷重により、地震時の引張力を打ち消す構成が開示されているが、上部構造が複雑となり、その設計や施工に手間がかかるとともにコストが高くなるおそれがあった。
【0009】
本発明は、前記の問題点を解決することを目的とするものであり、免震効果を低下させることなく、低コストで構築することが可能となる免震建物および免震建物の構築方法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために本発明の免震建物は、地震時入力を低減する免震層が所定の階層に設けられた免震建物であって、前記免震層では、当該免震層の直上階の平面の少なくとも四つの隅部に位置する柱の下方に絶縁空間が設けられているとともに、それ以外の柱の下方には免震装置が設置されていることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の免震建物の構築方法は、平面の少なくとも四つの隅部に立設される柱の位置に対応して仮設支保部材を配置するとともに、それ以外の柱の位置に対応して免震装置を配置して免震層を形成する工程と、前記仮設支保部材および前記免震装置により柱を支持した状態で前記免震層より上の躯体の施工を行う工程と、前記躯体の施工が所定の高さまで進んだ後に前記仮設支保部材を撤去して、前記隅部に立設された柱の下方に絶縁空間を設ける工程と、を備えることを特徴としている。
【0012】
かかる免震建物および免震建物の構築方法によれば、建物本体の少なくとも四つの隅部(出隅)の柱の下における免震装置を省略し、隣に位置する免震装置が負担する軸力を大きくすることで免震装置に大きな引張力が作用するのを防止するとともに、コストの低減化を図ることができる。
つまり、隅部では大きな地震力が作用した場合に、浮き上がりや沈み込みを許容し、ロッキング振動に伴なう引張軸力を負担しない構造とすることで、免震効果を低下させることなく、引張軸力に対する補強構造や高耐力構造を省略することを可能としている。
【0013】
また、建物本体の隅部の鉛直荷重は小さいため、その隣に位置する柱の下に配設された免震装置を介して基礎に伝達することで、建物の安定性を維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の免震建物および免震建物の構築方法によれば、ロッキング振動が支配的となることが予想される場合であっても、免震効果を低下させることなく、低コストで構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係る免震建物の概要を示す立面図である。
【図2】図1に示す免震建物の免震層を示す平面図である。
【図3】(a)〜(c)は免震建物の構築方法の各施工段階を示す断面図である。
【図4】(a)および(b)は免震建物の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本実施形態では、図1に示すように、多層階構造の建物本体10と、建物本体10の下方に設けられた基礎20と、建物本体10と基礎20との間に設けられた免震層30と、を備える免震建物1について説明する。
なお、免震建物1の規模や形状等は限定されるものではない。また、免震層30の位置は建物本体10と基礎20との間に限定されるものではない。免震建物1は、地下構造を備える建物であってもよい。
【0017】
建物本体10は、複数の柱11,11,…と、柱11同士の間に横架された梁12,13とを備えている。
【0018】
梁12は、建物本体10の各階層に設けられていて、建物本体10の下端には、柱11同士の下端部をつなぐ、下端梁13が設けられている。
本実施形態では、下端梁13を地表面よりも掘り下げた位置に形成しているが、下端梁13の位置は限定されるものではない。
【0019】
建物本体10は、平面視矩形状を呈している。なお、建物本体10の形状は限定されるものではない。また、建物本体10の階層数も限定されるものではない。
【0020】
基礎20は、図1に示すように、建物本体10の下の地盤G内に形成されており、下端梁13との間に隙間を有して形成されている。
基礎20は、基礎スラブ21と基礎杭22とを備えている。基礎20の構成は、限定されるものではなく、例えば、基礎スラブ21に代えて基礎梁を採用してもよいし、独立基礎を採用してもよい。
【0021】
基礎スラブ21は、下端梁13の下方に形成された版状部材であって、直下に形成された基礎杭22の頭部が固定されている。
本実施形態では、地表面を掘り下げた位置に基礎スラブ21を形成している。
【0022】
本実施形態では、図2に示すように、基礎スラブ21が平面視矩形状に形成されている。なお、基礎スラブ21の形状は矩形状に限定されるものではなく、適宜形成すればよい。また、基礎スラブ21の厚み(高さ)は、免震建物1の規模に応じて適宜設定すればよい。
【0023】
基礎杭22は、図1に示すように、柱11の位置に対応して形成されており、柱11の中心軸の延長線上に形成されている。
なお、柱11と基礎杭22との位置関係は、これに限定されるものではなく、適宜設定すればよい。また、基礎杭22は、先端が支持層に到達させた支持杭であってもよいし、周面摩擦力により支持する摩擦杭であってもよく、基礎杭22の支持形式は限定されるものではない。
【0024】
免震層30は、地震時入力を低減するように、所定の階層(本実施形態では建物本体10と基礎20との間)に形成された隙間に配設された免震装置31を備えて構成されている。
【0025】
免震装置31は、柱11および基礎杭22の軸線上において、柱11(下端梁13)と基礎スラブ21との間に介設されている。
【0026】
図1および図2に示すように、建物本体10(基礎スラブ21)の平面の四隅である隅部(出隅)Cに位置する柱11の軸線上には、免震装置31は介設されておらず、下端梁13と基礎スラブ21との間には絶縁空間が設けられている。すなわち、隅部Cにおいては、建物本体10と基礎20との間で力のやり取りが行われない。一方、絶縁空間が形成された隅部C以外の柱11と基礎スラブ21との間には、免震装置31が介設されている。
【0027】
免震装置31の構成は限定されるものではないが、本実施形態では積層ゴム支承を採用する。また、本実施形態では、隅部Cと隣り合う位置に配置された免震装置31には、鉛プラグ入り積層ゴム支承、高減衰ゴム支承、または、弾性すべり支承等を備えた免震装置31aを配設している。なお、隅部Cの隣に位置する免震装置31の構成は、当該免震装置31の構成は負担する鉛直荷重に応じて適宜設定すればよく、他の位置に配置された免震装置と同じものであってもよい。
【0028】
本実施形態の免震建物の構築方法は、第一躯体構築工程と、免震層形成工程と、第二躯体構築工程と、支保部材撤去工程と、第三躯体構築工程とを備えている。
【0029】
第一躯構築工程は、図3(a)に示すように、免震層30よりも下の躯体を構築する工程である。
本実施形態では、免震層30よりも下の躯体として、地盤G内に基礎20を構築する。なお、免震層30よりも下の躯体は、基礎20に限定されるものではなく、例えば、地下構造や低層階の躯体等であってもよい。
【0030】
まず、地盤を掘り下げて、基礎杭22,22,…を所定の位置に形成する。次に、基礎杭22,22,…の頭部を巻き込んだ状態で基礎スラブ21を形成する。
【0031】
免震層形成工程は、図3(b)に示すように、建物本体10の平面の隅部Cに立設される柱11の位置に対応して仮設支保部材32,32,…を配置するとともに、それ以外の柱11の位置に対応して免震装置31を配置する工程である。
【0032】
免震装置31は、基礎杭22の中心軸の延長線上に配置する。また、本実施形態では、仮設支保部材32の配置とともに、仮設支保部材32の周囲に、ジャッキ(図示省略)を配置しておく。
【0033】
仮設支保部材32は、建物本体10の構築時において、建物本体10の隅部Cを支持する。仮設支保部材32の構成は限定されるものではなく、例えば、形鋼を配設してもよい。
【0034】
第二躯体構築工程は、図3(c)に示すように、基礎20の上方に建物本体10(躯体)を形成する工程である。つまり、仮設支保部材32および免震装置31により柱11を支持した状態で免震層30より上の階の躯体(柱11、梁12、下端梁13等)の施工を行う。
【0035】
柱11は、免震装置31や仮設支保部材32の軸線上(真上)に形成するものとし、各柱11から伝達される鉛直荷重を、免震装置31や仮設支保部材32に支持させる。
梁12および下端梁13は、隣り合う柱11同士をつなぐように形成されている。
【0036】
支保部材撤去工程は、建物本体10(躯体)の構築が所定の位置まで完成した後、隅部Cに配設された仮設支保部材32を撤去する工程である。
なお、「建物本体10の構築が所定の位置まで完成した」ときは、例えば、建物本体10の躯体が所定の高さ(階層)まで完成することで、隅部Cに位置する柱11の鉛直荷重(軸力)を、下端梁13等を介して隅部Cの隣に配設された免震装置31に伝達することが可能な状態となったときをいう。
【0037】
仮設支保部材32の撤去は、予め下端梁13と基礎スラブ21との間に介設されたジャッキにより下端梁13を持ち上げた状態で、仮設支保部材32を抜き出すことにより行う。
【0038】
第三躯体構築工程は、仮設支保部材32の撤去完了後、隅部Cに絶縁空間が形成された状態で引き続き建物本体10(躯体)の施工を行い、免震建物1を完成させる工程である。
なお、例えば低層建物等、所定の軸力が免震装置31に作用した段階で躯体の施工が完了している場合には、第三躯体構築工程は省略してもよい。
【0039】
以上、本実施形態の免震建物1および免震建物の構築方法によれば、鉛直荷重が小さい建物本体10の四隅である隅部Cについて、免震装置31を省略することで、コスト削減を図ることができる。
【0040】
また、ロッキング振動による浮き上がりや沈み込みが発生する建物本体10の隅部Cを、絶縁空間として免震装置31を省略しているため、大きな引張軸力が建物本体10、基礎20に作用することを防止することができる。つまり、隅部Cに絶縁空間を形成してロッキング振動(浮き上がりや沈み込み)を許容しているため、ロッキング振動に対応した補強構造や高耐力構造を構築する必要がなく、施工の手間や費用を削減することができる。
また、ロッキング振動に対応した免震装置31を配設する必要もないため、コストの低減化を図ることができる。
【0041】
隅部C以外の各柱11の下方には、免震装置31が介設されているため、免震効果が低下することもない。
【0042】
隅部Cの鉛直荷重は、隅部Cに位置する柱11の隣に位置する柱11の下方の免震装置31を介して基礎20に伝達されるため、免震建物1の安定性は維持されている。また、隅部Cに位置する柱11の免震装置を省略し、隅部Cの隣に位置する免震装置31が負担する軸力を大きくすることで免震装置31に大きな引張力が作用するのを防止することができる。さらに隅部Cの隣に位置する免震装置31に作用する軸力を大きくすることで、隅部Cにおける浮き上がりを抑制することができる。
【0043】
施工時においては、仮設支保部材32により隅部Cの鉛直荷重を仮受けしているため、施工時の安定性が確保されている。また、建物本体10の完成後、あるいは、建物本体10が所定の位置まで完成した後に仮設支保部材32を撤去すれば、ロッキング振動に伴なう浮き上がりや沈み込みを許容した免震建物1が構成される。
【0044】
以上、本発明について、好適な実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
【0045】
例えば、前記実施形態では、平面視が矩形状の免震建物1について説明したが、免震建物1の形状は、前記の形状に限定されるものではない。つまり、免震建物は、建物の形状に応じて、ロッキング振動に伴なう浮き上がりや沈み込みを許容することが可能となるように、少なくとも四つの隅部の柱11と基礎20との間に介設される免震装置を省略して絶縁空間を設ける構成とすればよい。
【0046】
図4(a)に示すように、平面視した際に、凹部を備える免震建物1aについては、矩形状の場合と同様に、四つの隅部Cについては、免震装置31を省略し(絶縁空間を設け)、その他の位置について、免震装置31を配置する。
また、図4(b)に示すように、平面視で長方形の一部が切り欠かれた免震建物1bの場合には、他の隅部C,C,Cに加えて、切りかかれた部分に面する2箇所の出隅(隅部)C’,C’について免震装置31を省略する(絶縁空間を設ける)構成とし、ロッキング振動に伴なう浮き上がりや沈み込みを許容すればよい。なお、建物本体10の平面形状に応じて、2つの出隅C’ ,C’うちのいずれか一方に免震装置31を配置してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 免震建物
10 建物本体
11 柱
12 梁
13 下端梁
20 基礎
21 基礎梁
22 基礎杭
30 免震層
31 免震装置
32 仮設支保部材
C 隅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時入力を低減する免震層が所定の階層に設けられた免震建物であって、
前記免震層では、当該免震層の直上階の平面の少なくとも四つの隅部に位置する柱の下方に絶縁空間が設けられているとともに、それ以外の柱の下方には免震装置が設置されていることを特徴とする、免震建物。
【請求項2】
平面の少なくとも四つの隅部に立設される柱の位置に対応して仮設支保部材を配置するとともに、それ以外の柱の位置に対応して免震装置を配置して免震層を形成する工程と、
前記仮設支保部材および前記免震装置により柱を支持した状態で前記免震層より上の躯体の施工を行う工程と、
前記躯体の施工が所定の高さまで進んだ後に前記仮設支保部材を撤去して、前記隅部に立設された柱の下方に絶縁空間を設ける工程と、を備えることを特徴とする、免震建物の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−188817(P2012−188817A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51288(P2011−51288)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】